説明

チタン酸バリウム粉末の製造方法、チタン酸バリウム粉末及び電子部品

本発明の目的は、酸化チタン粉末と有機溶媒とを用いた水熱合成法により、チタン酸バリウム粉末の粒子径を微細としつつ、有機溶媒の体積比率を調整し、且つ、水熱合成の温度条件を適正化することで、チタン酸バリウム粉末中の空孔数を低減し、結晶性に優れるチタン酸バリウム粉末の製造方法、及びチタン酸バリウム粉末を提供することである。また、このチタン酸バリウム粉末により、小型、高容量で、寿命の長い積層セラミック電子部品を提供することである。
【解決手段】
本発明に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法は、少なくとも酸化チタン粉末と、水溶性バリウム塩と、有機溶媒とを含ませて酸化チタン粉末混合溶液とし、有機溶媒の体積比率が50%以上100%未満に調整する溶液調整工程と、混合溶液を80℃以上で水熱反応させてチタン酸バリウム粉末を得る水熱反応工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸バリウム粉末の製造方法及びチタン酸バリウム粉末、及びこれを用いて作製する積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IC及びLSI等の電子部品の発達により、電子機器の小型化が急速に進んでいる。それに伴い、電子部品であるコンデンサについても小型化が進んでおり、積層コンデンサの需要が急激に伸びている。積層コンデンサとしては、例えば、誘電体層と内部電極とを交互に積層したコンデンサ素体に端子電極を形成したものが知られている。このような積層コンデンサでは、誘電体層の薄層化の要求に伴い、誘電体材料であるチタン酸バリウム粉末の微粒化が要求される。
【0003】
この誘電体材料であるチタン酸バリウム粉末の製造方法としては、例えば固相法、しゅう酸塩法、共沈法、アルコキシド法あるいは水熱合成法などが知られている。(例えば特許文献1を参照。)。これらの製造方法には、それぞれ一長一短がある。従来、主流であった炭酸バリウムと酸化チタンによる固相法は1000℃以上の高温焼成が必要となり、微粒子に対する均一性という観点から大きな障害となった。また、しゅう酸塩法は今後の微粒化の要求を満たすには不安な面がある。
【0004】
一方、水熱合成法は、非常に小さな前駆体を核として結晶化させるという観点から有効な微粉末の製造方法であり、その粒度分布もシャープなものである。水熱合成法によれば、近時のコンデンサの小型大容量化に伴う、粒子径の小さいチタン酸バリウム粉末の要求を満足することができる。水熱合成法とは、ある溶液に熱と圧力を加えた時に起こる化学反応を利用して、目的の結晶を生成する方法である。しかし、水熱合成法で合成されたチタン酸バリウム粉末は、結晶の酸素の位置に水酸基が混入し、チタン酸バリウム中のバリウム又はチタンの結晶格子に空格子が生成されてしまうとの報告がなされている(例えば非特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開2002−80275号公報
【非特許文献1】Jounal of the Korean Physical Society Vol.32Feb 1998 ppS260−264、Jounal of the European Ceramic Society 9(1992)41−46
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、粒子径の小さいチタン酸バリウムを得るために水熱合成法は有効であるが、前記のようにチタン酸バリウムに欠陥が生じてしまい、このチタン酸バリウムを熱処理すると、水酸基は粒子外に排出されるが、バリウム欠陥が1箇所に集合して、空孔が形成される。この空孔は、コンデンサの寿命を低下させるので、できるだけ少なくする必要がある。
【0006】
また熱処理の過程で粒子同士が焼結して粒成長する。この過程を図1に示す。図1(1)は、水熱合成法による合成(以降、水熱合成という。)後のチタン酸バリウム水熱合成粒子1を示す。水熱合成粒子1の結晶構造には、水酸基を含む。図1(2)は、チタン酸バリウム水熱合成粒子1を熱処理した後のチタン酸バリウム粉末2を示す。熱処理により内部に空孔3が生成される。図1(3)は、熱処理後のチタン酸バリウム粉末2を、さらに焼成し、粒成長したチタン酸バリウム粉末4を示す。粒成長したチタン酸バリウム粉末4は複数のチタン酸バリウム粉末2が合体し、コア部分5と、コア部分5を包むように形成される被覆部分6とで構成される粒子の構造となる。この合体の際、コア部分5は空孔3を保持したままの状態であり、結晶性が低い。被覆部分6の空孔は合体の際、排除されるため、結晶性が良いものとなる。したがって粒成長したチタン酸バリウム粉末4としては、コア部分5には空孔が残存し、結晶性が低いため、誘電率が低いものとなってしまう。この空孔が残存するチタン酸バリウム粉末を誘電体材料として誘電体層に使用したコンデンサの信頼性は悪化し、電気容量を低下させる。
【0007】
さらに、空孔が残存するチタン酸バリウム粉末を用いた場合、絶縁抵抗の高温負荷寿命、いわゆるIR加速寿命が短くなることが知られている。
【0008】
また、チタン原料に酸化チタン粉末を使用し、水を溶媒として水熱合成法でチタン酸バリウムを得る場合、水熱合成時に水から分解される水酸基を液相中に多く含むことになるため、チタン酸バリウム水熱合成粒子に混入する水酸基の量が増えてしまう。その結果、熱処理後のチタン酸バリウム粉末には空孔が多く存在してしまう。ここで、チタン原料を酸化チタン粉末以外のものに置き換えることも考えられるが、酸化チタン粉末は他のチタン原料に比べ、不純物が少なく、低コストであり、チタン原料としては好適なものであるため、酸化チタン粉末を使用することが望まれる。
【0009】
したがって、本発明では、より粒子径の小さいチタン酸バリウム粉末が得られる水熱合成法で製造することを前提としつつ、チタン原料を酸化チタン粉末としながら、空孔を有する結晶粒子の存在率が少ないチタン酸バリウム粉末の製造方法を提供すること、及び、この製造方法により得られるチタン酸バリウム粉末を提供すること、さらにこのチタン酸バリウム粉末を用いて作製する積層セラミック電子部品を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、酸化チタン粉末を用いた水熱合成法においも、溶媒に水可溶性の有機溶媒を含ませることで、チタン酸バリウム水熱合成粒子に水酸基が混入する量を低減でき、熱処理後のチタン酸バリウム粉末に、空孔を有する結晶粒子の存在率が少ないチタン酸バリウム粉末が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
以下、本発明を説明するに当たり、用語を次のように定義する。酸化チタン粉末混合溶液とは、固相である酸化チタン粉末と液相との固液混合物のことである。溶液とは、酸化チタン粉末混合溶液から酸化チタン粉末を除いたもののことをいう。有機溶媒体積比率とは、酸化チタン粉末混合溶液中の水と水可溶性の有機溶媒の合計体積に占める水可溶性の有機溶媒の体積比率のことをいう。
【0012】
本発明に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法は、少なくとも、酸化チタン粉末と、水溶性バリウム塩と、水可溶性の有機溶媒とを含ませて酸化チタン粉末混合溶液とし、この酸化チタン粉末混合溶液中の水と水可溶性の有機溶媒の合計体積に占める水可溶性の有機溶媒の体積比率を50%以上100%未満に調整する溶液調整工程と、前記酸化チタン粉末混合溶液を80℃以上で水熱反応させてチタン酸バリウム粉末を得る水熱反応工程とを有することを特徴とする。水熱合成法の利点であるチタン酸バリウム水熱合成粒子の粒径を微細としつつ、チタン酸バリウム水熱合成粒子に混入する水酸基の量を低減し、熱処理後の空孔を有する結晶粒子の存在率が少なく、結晶性の良いチタン酸バリウム粉末を得ることができる。
【0013】
本発明に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法は、前記水熱反応工程が、オートクレーブ中での条件を150℃以上として、水熱反応により得られる工程であることが好ましい。オートクレーブ中の条件を150℃以上とすることでチタン酸バリウム粉末中の空孔をさらに少なくすることができ、結晶性が向上する。
【0014】
また本発明に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法において、前記酸化チタン粉末混合溶液に、アルカリ性化合物を添加して、酸化チタン粉末混合溶液をアルカリ性に調節するpH調整工程をさらに含む。酸化チタン粉末とバリウム原料を合成する場合、酸化チタン粉末混合溶液のpHがアルカリ性であることが必要であり、バリウム原料の選択次第ではアルカリ性化合物が必要となるためである。
【0015】
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトンからなる群のうちの少なくとも1つを含有することが好ましい。
【0016】
前記水溶性バリウム塩は、結晶水を含むバリウム化合物であり、且つ、前記水可溶性の有機溶媒の体積比率を87%以上とすることが好ましい。水熱反応を進めるためには、溶媒として水が必要であるが、結晶水を含むバリウム化合物を使用すると、結晶水が溶液中で遊離する。遊離した結晶水は溶媒として働くため、溶媒に水を含む必要がなく、有機溶媒体積比率を高くすることができる。
【0017】
また、チタン酸バリウム粉末を得るためには、前記水熱反応工程により得られたチタン酸バリウム水熱合成粒子を650℃〜1000℃に加熱する熱処理工程をさらに有することが好ましい。
【0018】
本発明に係るチタン酸バリウム粉末は、上記の工程により製造されることを特徴とする。ここで熱処理工程を経た本発明に係るチタン酸バリウム粉末は、水熱合成法により得られ、熱処理後の結晶構造が正方晶であり、結晶格子に沿った多面体形状に空孔を有する結晶粒子の存在率が粒子数比で28%以下であることを特徴とする。水熱合成法により合成するため、チタン酸バリウムの水熱合成粒子は、20nm〜100nmと極めて小さい粒子とすることができる。また、空孔の存在率が28%以下であるため、チタン酸バリウム粉末の結晶性が高く、誘電率も高くすることができる。
【0019】
本発明に係る積層セラミック電子部品は、前記チタン酸バリウム粉末を含有する誘電体材料を焼成して形成した誘電体層を備えたことを特徴とする。空孔の少ない、つまり結晶性の高いチタン酸バリウム粉末を含有する誘電体材料を焼成して誘電体層に使用することで、積層セラミック電子部品、例えば積層コンデンサの寿命低下を防止できる。また、粒子径の小さいチタン酸バリウム粉末を含有することで、積層コンデンサの小型化、高容量化が可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、より粒子径の小さいチタン酸バリウム粉末が得られる水熱合成法で製造することを前提としつつ、低コストで、不純物が少ないチタン原料である酸化チタン粉末を使用しながらも、溶媒に水可溶性の有機溶媒を用い、この有機溶媒の体積比率を調製し、また、80℃以上で水熱反応させることで、生成されるチタン酸バリウムの水熱合成粒子に水酸基が混入することを防止することができる。その結果、空孔を有する結晶粒子の存在率が少なく、結晶性の良いチタン酸バリウム粉末の製造方法、及びチタン酸バリウム粉末を提供できる。したがって、積層セラミック電子部品としたときもコンデンサの小型大容量化に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を示して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。
【0022】
本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法は、酸化チタン粉末と、水溶性バリウム塩と、水可溶性の有機溶媒とを含ませて酸化チタン粉末混合溶液とし、この酸化チタン粉末混合溶液中の水と水可溶性の有機溶媒の合計体積に占める水可溶性の有機溶媒の体積比率を調整する溶液調整工程と、前記酸化チタン粉末混合溶液を80℃以上で水熱反応させてチタン酸バリウム粉末を得る水熱反応工程を有する。溶媒に有機溶媒を含ませることで、チタン酸バリウムの水熱合成粒子に水酸基が混入し、結晶格子に空格子が生成され、バリウム欠陥となることを防ぐことができ、チタン酸バリウム水熱合成粒子を熱処理すると形成される空孔を有する結晶粒子の存在率を低減できる。また、水熱反応工程を80℃以上とすることで、結晶性の高いチタン酸バリウム粉末を得ることができる。
【0023】
チタン原料としては、酸化チタン粉末を用いる。チタン酸バリウムを得るためのチタン原料としては、4塩化チタンもあるが、4塩化チタンは、塩素を不純物として混入し、電子部品材料としては適していない。そこでこの欠点のない酸化チタン粉末を用いる。
【0024】
水溶性バリウム塩は、以下を用いる。水酸化バリウム無水物、水酸化バリウム2水和物、水酸化バリウム8水和物、塩化バリウム、塩化バリウム2水和物、硝酸バリウム、カルボン酸バリウム(カルボン酸には次のものがある。蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、しゅう酸、マロン酸、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アクリル酸、プロピオール酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、オレイン酸、フマル酸、マレイン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフトエ酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、桂皮酸、フランカルボン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、イソニコチン酸)。この中で、水酸化バリウム無水物、水酸化バリウム2水和物、水酸化バリウム8水和物が塩化物イオン等の不純物を含まないため、好ましい。さらに水酸化バリウム2水和物、水酸化バリウム8水和物であることが好ましい。水酸化バリウム2水和物、水酸化バリウム8水和物は、結晶水が溶液中で遊離し、溶媒として働くため、溶媒に水を別途加える必要がなく、チタン酸バリウムの水熱合成粒子に水酸基が混入することを防ぐことができる。
【0025】
有機溶媒としては、C〜Cアルカノール、好ましくはC〜Cアルカノール、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール又はtert−ブタノール、アセトンであり、特にメタノール、エタノール、プロパノール、アセトンからなる群のうち、少なくとも1つを含有することが好ましい。主たる溶媒をアルコール、アセトンにすることで、チタン酸バリウムの水熱合成粒子に水酸基が混入することを防ぐことができ、チタン酸バリウムのバリウム欠陥が少なくなり、熱処理後のチタン酸バリウム粉末の空孔を低減できる。
【0026】
酸化チタン粉末混合溶液は、その後の水熱反応を進めるために、アルカリ性にする必要があり、好ましくはpH12以上に調整することが好ましい。そこで本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法では、酸化チタン粉末と、水溶性バリウム塩と、有機溶媒とを含ませて酸化チタン粉末混合溶液とし、有機溶媒の体積比率を調整する溶液調整工程と、酸化チタン粉末混合溶液を80℃以上で水熱反応させてチタン酸バリウム粉末を得る水熱反応工程に加えて、さらに、溶液にアルカリ性化合物を添加して、酸化チタン粉末混合溶液をアルカリ性に調節するpH調整工程を含んでも良い。アルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又はアンモニア水が例として挙げられる。但し、水溶性バリウム塩として、水酸化バリウム2水和物又は水酸化バリウム8水和物を採用すると、水に溶解したときにアルカリ性を呈することから、アルカリ性化合物を添加する必要はない。もちろんこの場合においてもアルカリ性化合物を添加することを妨げない。
【0027】
酸化チタン粉末混合溶液は、少なくとも、酸化チタン粉末と、水溶性バリウム塩と、水可溶性の有機溶媒を混合して得られる固液混合物である。ここで、チタンに対するバリウムの組成比(Ba/Ti)は、本発明において特に限定はしないが、チタン酸バリウム粉末としたときに、チタンに対するバリウムの組成比(Ba/Ti)が1よりも大きく1.03よりも小さくなるように水溶性バリウム塩を混合することが好ましい。組成比(Ba/Ti)を1よりも大きくすれば、耐還元性を向上させることができるからであり、組成比(Ba/Ti)を1.03以上とすると、異相の析出により結晶性が低下してしまうからである。
【0028】
酸化チタン粉末と、水溶性バリウム塩と、有機溶媒とを含ませて酸化チタン粉末混合溶液とし、有機溶媒体積比率を調整する溶液調整工程において、有機溶媒体積比率を50%以上100%未満とする。ここで必要に応じて溶媒として水を添加させる。溶媒中の水の量を低減し、代わりに有機溶媒を使用することでチタン酸バリウムの水熱合成粒子に水酸基が混入することを防ぐことができる。溶媒中には、水熱合成に必要な最低限の水を含む必要があるため、有機溶媒体積比率は100%未満とする。一方、有機溶媒体積比率が50%未満であると、本実施形態の製造方法により得られるチタン酸バリウム粉末の空孔の減少がはかれない。有機溶媒体積比率は、60%以上が好ましく、87%以上にすることがより好ましい。この体積比率は、酸化チタン粉末と、水溶性バリウム塩に例えば水酸化バリウム8水和物を使用し、また、有機溶媒にモレキュラーシーブスを用いて脱水したエタノールを使用し、水熱合成に必要となる水を水酸化バリウム8水和物の結晶水から遊離したものを使用する場合に達成しうる。
【0029】
本発明に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法は、酸化チタン粉末混合溶液を水熱合成する工程を有する。この工程において、水熱合成温度は、好ましくは80℃以上、より好ましくは、オートクレーブ中での条件で150℃以上とする。80℃未満で水熱反応を行うと、得られるチタン酸バリウム水熱合成粒子以外の異物も生成される。例えば、80℃未満で酸化チタン粉末と、水酸化バリウム8水和物を水熱合成する。この水熱合成により得られた反応物のスラリーを濾過し、これを乾燥させて得た乾燥粉末をX線回折測定すると、チタン酸バリウムの生成は認められる。しかし、未反応の酸化チタンや水酸化バリウムが分解して生成された炭酸バリウムが混在する。一方、80℃以上の水熱合成では、チタン酸バリウムのみの生成が認められ、反応が完結する。80℃以上の温度で水熱反応を行うことで、異物の混在しない結晶性の良い立方晶のチタン酸バリウム水熱合成粒子が得られる。結晶性を向上させる目的で、150℃以上の高温高圧条件下で水熱反応をさせることが好ましい。オートクレーブとは、高圧高温化で化学反応あるいは抽出、晶折などを行わせる耐熱耐圧の容器のことである。
【0030】
水熱合成法によって得られるチタン酸バリウム水熱合成粒子は、水酸基不純物を含んでいる。水酸基がチタン酸バリウム水熱合成粒子の内部に入ると、バリウム欠陥が同時に生じる。そのため、このような状態のチタン酸バリウムは、結晶性が悪く、比誘電率が低い。したがって、電子材料としては適さない。そこで熱処理することで粒成長させ、水酸基不純物を除去し、結晶性を向上させる。すなわち、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法では、水熱反応工程により得られたチタン酸バリウム水熱合成粒子を650〜1000℃に加熱する熱処理工程をさらに含むことが好ましい。この熱処理を行ったときの粒成長のメカニズムを、図1を用いて説明する。図1は、チタン酸バリウム水熱合成粒子の熱処理による粒成長の過程を示す概念図であり、(1)は水熱合成粒子1、(2)は水酸基不純物が除去され、残されたバリウム欠陥が集合し、空孔3が生成したチタン酸バリウム粉末2、(3)は2以上の粒子が合体し、結晶性の低いコア部分5とそれを覆う被覆部分6からなるチタン酸バリウム粉末4を示す。溶液調整工程を経ることで、図1(1)のチタン酸バリウム水熱合成粒子中の水酸基量は少なくなっている。図1(2)に示すように合成されたチタン酸バリウム水熱合成粒子1を熱処理すると、水酸基は粒子外に排出されるが、バリウム欠陥が1箇所に集合して、空孔3が形成される。この空孔3はコンデンサの寿命を低下させるので、できるだけ少なくすることが好ましい。また、図1(3)に示すように熱処理の過程で粒子同士が焼結して粒成長を起こす。コア部分5が残存し、結晶性が低く、誘電率が低い。一方、被覆部分6は空孔3が外部に排出されて結晶性が高く、誘電率が高い。したがって、所望の粒子径より小さな粒子を水熱合成し、後に熱処理することで所望の大きさになるように粒成長させる。これにより、結晶性の向上がはかれる。十分な熱処理を施して粒子を成長させるために熱処理工程の温度は650℃〜1000℃とすることが好ましい。650℃未満の熱処理では、粒成長が十分に進まず、逆に1000℃を超えると焼結が生じ、粒子同士の凝結が起こる。
【0031】
本発明に係るチタン酸バリウム粉末は、上記の工程により製造される。
【0032】
また、本発明に係るチタン酸バリウム粉末は、水熱合成法により得る。そのため、使用する酸化チタン粉末の粒子径を5〜50nmの微細なものとすることで、チタン酸バリウムの水熱合成粒子は、20nm〜70nmと極めて小さい粒子とすることもできる。固相法で合成するチタン酸バリウム粒子の平均粒子径は300nm程度であり、水熱合成法で得られる粒子径が、小型、薄型化する積層コンデンサに好適であるといえる。また、水熱合成法で合成するチタン酸バリウム粉末は、内部に空孔を含んでいるため、結晶構造に大きな歪が生じて正方晶となる。しかし、本発明に係るチタン酸バリウム粉末は、酸化チタン粉末と水溶性バリウム塩を溶媒に添加する工程において、溶媒に水可溶性の有機溶媒を使用する工程とするため、水熱合成粒子に混入する水酸基の量の低減がはかられ、チタン酸バリウム粉末の空孔を少なくすることができる。空孔を有する結晶粒子の存在率が粒子数比で28%以下であることが好ましく、16%以下であることがより好ましい。空孔の低減により、空孔の内包による結晶構造の歪を低減できる。
【0033】
熱処理工程を経て得られた本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末は、コンデンサを製造するため、副成分を添加して混合粉末としても良い。副成分としては、例示すると次の通りである。酸化マグネシウム、並びに酸化イットリウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウムから選ばれる少なくとも1種以上とを含有し、更に他の副成分として酸化バリウム、酸化ストロンチウム又は酸化カルシウムから選択される少なくとも1種以上と、酸化ケイ素と、酸化マンガン又は酸化クロムから選択される少なくとも1種以上と、酸化バナジウム、酸化モリブデン又は酸化タングステンから選択される少なくとも1種以上とを含有する。そして、チタン酸バリウムをBaTiOに、酸化マグネシウムをMgOに、酸化イットリウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウムから選ばれる少なくとも1種以上をReに、酸化バリウムをBaOに、酸化ストロンチウムをSrOに、酸化カルシウムをCaOに、酸化ケイ素をSiOに、酸化マンガンをMnOに、酸化クロムをCrに、酸化バナジウムをVに、酸化モリブデンをMoOに、酸化タングステンをWOに、それぞれ換算したとき、BaTiO100molに対する比率が、MgO:0.1〜2.5mol以下、Re:6mol以下、MO(MはMg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種)、LiO及びBの少なくとも一種:6mol以下、SiO:6mol以下、(但し、MOは、SiO1molに対して、1molの割合で添加することが好ましい)、MnO又はCrから選択される少なくとも一種:0.5mol以下、V、MoO又はWOから選択される少なくとも一種:0.3mol以下とすることが好ましい。
【0034】
本発明に係る積層セラミック電子部品は、前記の空孔が少なく、結晶性の高いチタン酸バリウムを含有する誘電体材料を焼成して形成した誘電体層を備える。したがって、例えば積層コンデンサの寿命低下を防止できる。また、粒子径の小さいチタン酸バリウム粉末により、小型、高容量の積層コンデンサとすることができる。
【0035】
以下、積層コンデンサの製造方法について具体的に記載する。積層コンデンサは、例えば、複数の誘電体層と複数の内部電極とを交互に積層したコンデンサ素体を備えている。内部電極は電気的に接続された端子電極が設けられている。端子電極の外側には、必要に応じてめっき層が設けられている。コンデンサ素体の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよいが、通常、(0.6mm〜5.6mm)×(0.3mm〜5.0mm)×(0.3mm〜1.9mm)程度である。
【0036】
誘電体層は本実施の形態に係るチタン酸バリウム粉末を含有する誘電体材料を含有しており、空孔の存在率が低くなっている。これにより、この積層コンデンサではIR加速寿命が改善されると共に、高温における容量温度特性が平坦化されるようになっている。誘電体層の一層当たりの厚さは、通常0.5μm〜40μm程度であり、30μm以下であれば好ましい。誘電体層の積層数は、通常2〜300程度である。
【0037】
内部電極は、導電材料を含有している。導電材料は特に限定されないが、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)あるいはそれらの合金が好ましい。なお、本実施の形態では誘電体層の構成材料が耐還元性を有しており、導電材料に安価な卑金属を用いることもできるので、導電材料としてはニッケルあるいはニッケル合金が特に好ましい。ニッケル合金としては、マンガン、クロム、コバルト(Co)およびアルミニウムなどから選択される1種以上の元素とニッケルとの合金が好ましく、合金中におけるニッケルの含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、内部電極は、それらの他にリン(P)などの各種微量成分を0.1重量%程度以下含有していても良い。内部電極の厚さは用途に応じて適宜決定されるが、例えば、0.5μm〜5μm程度であることが好ましく、0.5μm〜2.5μm程度であればより好ましい。
【0038】
端子電極は、例えば、端子電極ペーストを焼き付けることにより形成されたものである。この端子電極ペーストは、例えば、導電材料と、ガラスフリットと、ビヒクルとを含有している。導電材料は、例えば、銀(Ag)、金(Au)、銅、ニッケル、パラジウム(Pd)および白金(Pt)からなる群のうちの少なくとも1種を含んでいる。端子電極の厚さは用途等に応じて適宜決定されるが、通常10μm〜50μm程度である。めっき層は、例えば、ニッケルあるいはスズの単層構造、またはニッケルおよびスズを用いた積層構造となっている。
【0039】
このような構成を有する積層コンデンサは、例えば、次のようにして製造することができる。
【0040】
まず、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末を用意する。チタン酸バリウム粉末には、平均粒子径が0.1μm以下のものを用いることが好ましい。電気容量温度特性を保持しつつIR加速寿命を改善することができるからである。なお、平均粒子径は、例えば、BET(Brunauer Emmett Teller)法のほか、SEM写真、TEM写真、或いはレーザ回折法によって求めても良い。
【0041】
チタン酸バリウム粉末には、更に、チタンに対するバリウムの組成比(Ba/Ti)が1よりも大きく1.03よりも小さいものを用いることが好ましい。組成比(Ba/Ti)を1よりも大きくすれば、チタン酸バリウム粉末の平均粒子径を上述した範囲内まで小さくすることができると共に、耐還元性を向上させることができるからであり、組成比(Ba/Ti)を1.03以上とすると、異相の析出により結晶性が低下してしまうからである。
【0042】
次いで、チタン酸バリウム粉末に副成分を混合したのち、この原料混合粉末に有機ビヒクルまたは水系ビヒクルを加えて混練し、誘電体ペーストを作成する。有機ビヒクルはバインダを有機溶媒中に溶解させたものである。バインダは特に限定されず、エチルセルロースあるいはポリビニルブチラールなどの各種バインダから選択して用いる。有機溶媒も特に限定されず、成形方法に応じて選択する。例えば、印刷法あるいはシート法などにより成形する場合には、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトンあるいはトルエンなどを選択して用いる。また、水系ビヒクルは水に水溶性バインダおよび分散剤などを溶解させたものである。水溶性バインダも特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂あるいはエマルションなどから選択して用いる。
【0043】
誘電体ペーストにおけるビヒクルの含有量は特に限定されず、通常はバインダが1〜5重量%程度、溶剤が10〜50重量%程度となるように調整する。また、誘電体ペーストには、必要に応じて分散剤または可塑剤などの添加物を添加してもよい。その添加量は、合計で10重量%以下とすることが好ましい。
【0044】
続いて、誘電体ペーストを成形し、例えば180℃〜400℃に加熱して脱バインダ処理を行ったのち、例えば1100℃〜1400℃で焼成する。これにより、誘電体磁器が得られる。
【0045】
このような誘電体磁器は、例えば、積層コンデンサを形成する材料として好ましく用いられる。
【0046】
次いで、内部電極を構成する導電材料または焼成後に導電材料となる各種酸化物、有機金属化合物あるいはレジネートなどを、誘電体ペーストと同様のビヒクルと混練して内部電極ペーストを作製する。内部電極ペーストにおけるビヒクルの含有量は誘電体ペーストと同様に調整する。また、内部電極ペーストには、必要に応じて分散剤、可塑剤、誘電体材料、絶縁体材料などの添加物を添加してもよい。その添加量は、合計で10重量%以下とすることが好ましい。
【0047】
続いて、これら誘電体ペーストと内部電極ペーストとを用い、例えば、印刷法あるいはシート法により、コンデンサ素体の前駆体であるグリーンチップを作製する。例えば、印刷法を用いる場合には、誘電体ペーストおよび内部電極ペーストをポリエチレンテレフタレート製の基板(以下、PET基板と言う)などの上に交互に印刷し、熱圧着したのち、所定形状に切断し、基板から剥離してグリーンチップとする。また、シート法を用いる場合には、誘電体ペーストを用いて誘電体ペースト層(グリーンシート)を形成し、この誘電体ペースト層の上に内部電極ペースト層を印刷したのち、これらを積層して圧着し、所定形状に切断してグリーンチップとする。
【0048】
グリーンチップを作製したのち、脱バインダ処理を行う。脱バインダ処理条件は通常のもので良く、例えば、内部電極にニッケルあるいはニッケル合金などの卑金属を用いる場合には、下記のように調整することが好ましい。

【0049】
脱バインダ処理を行ったのち、焼成を行いコンデンサ素体を形成する。焼成時の雰囲気は内部電極の構成材料に応じて適宜選択すれば良いが、内部電極にニッケルあるいはニッケル合金などの卑金属を用いる場合には、還元性雰囲気とすることが好ましい。例えば、雰囲気ガスとしては窒素ガスに水素ガスを1〜10容量%混合して加湿したものが好ましく、酸素分圧は1×10−3Pa〜1×10−7Paとすることが好ましい。酸素分圧がこの範囲未満であると、内部電極が異常焼結して途切れてしまうことがあるからであり、酸素分圧がこの範囲を超えると、内部電極が酸化してしまう傾向があるからである。
【0050】
焼成時の保持温度は1100℃〜1400℃とすることが好ましく、1200℃〜1360℃とすればより好ましく、1200℃〜1320℃とすれば更に好ましい。保持温度がこの範囲未満であると緻密化が不十分であり、この範囲を超えると内部電極が途切れたり、または内部電極の構成元素が拡散して容量温度特性が低下してしまうからである。
【0051】
その他の焼成条件は、例えば下記のようにすることが好ましい。

【0052】
なお、焼成を還元雰囲気で行った場合には、焼成ののちにアニールを施すことが好ましい。アニールは誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命が著しく延長され、信頼性が向上する。アニール時の雰囲気ガスには加湿した窒素ガスを用いることが好ましく、その酸素分圧は0.1Pa以上、特に1Pa〜10Paとすることが好ましい。酸素分圧がこの範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、この範囲を超えると内部電極が酸化してしまうからである。アニールの保持温度は1100℃以下、特に500℃〜1100℃とすることが好ましい。保持温度がこの範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となり、絶縁抵抗が低下し、IR寿命が短くなってしまうからである。一方、この範囲を超えると、内部電極が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極が誘電体層と反応し、容量温度特性の悪化、絶縁抵抗の低下、およびIR寿命の低下を生じてしまうからである。
【0053】
その他の焼成条件は、例えば下記のようにすることが好ましい。

なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよく、保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。ちなみに、上述した脱バインダ処理工程、焼成工程およびアニール工程において、雰囲気ガスを加湿する場合には、例えば、ウエッターなどを使用すればよい。その場合の水温は0℃〜75℃程度とすることが好ましい。
【0054】
また、脱バインダ処理工程、焼成工程およびアニール工程は連続して行うようにしてもよく、互いに独立して行うようにしてもよい。これらを連続して行う場合には、脱バインダ処理後、冷却せず雰囲気を変更して焼成の保持温度まで昇温して焼成を行い、次いでアニール工程の保持温度まで冷却し、雰囲気を変更してアニールを行うことが好ましい。これらを独立して行う場合には、焼成工程において、脱バインダ処理時の保持温度までは窒素ガスまたは加湿した窒素ガス雰囲気下で昇温し、そののち焼成時の雰囲気に変更して昇温を続けることが好ましく、アニール時の保持温度まで冷却した後は、再び窒素ガスあるいは加湿した窒素ガス雰囲気に変更して冷却を続けることが好ましい。また、アニールに際しては、窒素ガス雰囲気下で保持温度まで昇温したのちに雰囲気を変更してもよく、アニールの全工程を加湿した窒素ガス雰囲気としても良い。
【0055】
コンデンサ素体を形成したのち、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、内部電極ペーストと同様にして作製した端子電極ペーストを印刷または転写して焼き付け、端子電極を形成する。その際、雰囲気は例えば加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス中とし、焼き付け温度は600℃〜800℃、保持温度は10分間〜1時間程度とすることが好ましい。端子電極を形成したのち、必要に応じて端子電極の上にめっき層を形成する。これにより積層コンデンサが得られる。
【0056】
なお、この積層コンデンサは、はんだ付けなどによりプリント基板上などに実装され、各種電子機器に用いられる。
【0057】
このように本実施の形態によれば、空孔を有する結晶粒子の存在率を粒子数比で28%以下とするようにしたので、結晶性に優れた誘電体材料を提供できる。よって、この誘電体材料を用いて積層コンデンサを形成すれば、IR加速寿命を向上させ、ひいては高温における信頼性を向上させることができると共に、薄層化が可能となり、小型化および大容量化を図ることができる。また、高温における容量温度特性を平坦化することができるので、例えば、−55℃〜125℃の範囲内における容量変化率を基準温度25℃として±15%以内とする米国電子工業会規格(EIA規格)のX7R規格を容易に満たすことができる。従って、高温での使用を可能とすることができる。
【実施例】
【0058】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0059】
(実施例1)
チタン原料として平均粒子径7nmの酸化チタン粉末1モルと、水溶性バリウム塩として水酸化バリウム8水和物1.01モルとを、モレキュラーシーブスを用いて脱水した有機溶媒であるエタノールに添加した。モレキュラーシーブスとは、均一な細孔径を有する無機多孔性物質であり、分子の吸着剤として使用するものである。この際、添加した水は0であるが、溶液中で水酸化バリウム8水和物の結晶水が遊離するため、有機溶媒体積比率は87%となる。この酸化チタン粉末混合溶液をオートクレーブを用いて300℃で1時間、水熱反応させた。これにより得られた反応物のスラリーを濾過し、乾燥粉末を得た。乾燥粉末のX線回折測定(リガク株式会社製装置名RINT2000)により、この粉末は立方晶のチタン酸バリウムであることを確認した。この後、粉末を900℃で熱処理し、透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)日本電子株式会社製装置名JEM−2000FXIIにより観察した。空孔は、例えば結晶格子に沿った多面体形状を有しており、顕微鏡写真では、ほぼ正方形、ほぼ長方形あるいはほぼ六角形などの形状に見える。この空孔は回折条件(すなわち電子線と試料との傾き)を変えても消失することがなく、高分解能像で観察すると空孔の境界には連続した格子縞が見られる。空孔の少なくとも一辺の長さは、5nm以上50nm以下程度である。観察の結果、結晶格子に沿った多面体形状に空孔を有する結晶粒子の存在率が粒子数比で16%であり、空孔が低減されていることが確認された。このチタン酸バリウム粉末を用いて実施形態で説明した方法によりコンデンサを作製し、アジレントテクノロジー社製装置名4284Aによって比誘電率を測定した。また恒温槽を用いて電気容量の温度変化を測定し、−55℃、及び125℃における電気容量の温度係数(%)を測定した。この結果、比誘電率2009であり、−55℃における電気容量の温度係数が−12%、125℃における電気容量の温度係数が−10%であり、X7R規格を満足していることを確認した。
【0060】
(実施例2、実施例3、比較例1、比較例2)
実施例2と実施例3及び比較例1と比較例2の水熱合成方法、反応物から乾燥粉末を得る方法、乾燥粉末の回折測定、空孔数の観察方法、コンデンサの作製方法、及びコンデンサの電気的特性測定方法は、実施例1と同じである。ただし、溶媒の脱水は実施例1においてのみ行った。以下、各実施例、比較例を表1にまとめて示す。各実施例、比較例のチタン原料、バリウム原料、溶媒種類、及び有機溶媒体積比率を表1のように調整した。表1に示す条件で作製した粉末の組成結果(以降、合成粉末組成という。)、結晶格子に沿った多面体形状に空孔を有する結晶粒子の粒子数存在率(以降、空孔の割合という。)、コンデンサの比誘電率、及び電気容量温度特性を表2に示す。

【表1】


【表2】


【0061】
(有機溶媒体積比率と空孔の割合についての検討)
比較例1と比較例2及び実施例1〜実施例3の溶媒中の有機溶媒体積比率と空孔の割合の関係を図2に示す。図2に示されるように有機溶媒体積比率が大きいほど、空孔の割合が少ないという関係がわかる。つまり、溶媒中の有機溶媒の体積比率を増加させ水の体積比率を減少させることで、溶媒中に含まれる水酸基の量を減らすことが空孔の割合の低減につながるということがいえる。また、有機溶媒体積比率が35%から65%の間(概ね50%程度)で急激に空孔の割合が少なくなることがわかる。また、有機溶媒体積比率が87%を超えると空孔の割合が16%と極めて小さくなる。したがって、空孔の割合を低減するためには、有機溶媒体積比率が50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに87%以上であることがより好ましい。有機溶媒体積比率が50%未満である比較例1と比較例2は空孔の割合が28%を超える。
【0062】
(空孔の割合と比誘電率についての検討)
比較例1と比較例2及び実施例1〜実施例3の空孔の割合とコンデンサの比誘電率の関係を図3に示す。図3より、溶媒中の有機溶媒の体積比率を増加させ水の体積比率を減少させても、コンデンサの比誘電率に大きな影響を与えるものではないことがいえる。したがって、本発明で得られるチタン酸バリウム粉末を小型、薄型化の進む積層コンデンサに使用することができる。
【0063】
(空孔の割合と電気容量の温度係数についての検討)
比較例1と比較例2及び実施例1〜実施例3の空孔の割合と電気容量の温度係数の関係を図4(−55℃時)、図5(125℃時)に示す。図4、図5に示されるように実施例2、実施例3の−55℃における電気容量の温度係数、及び125℃における電気容量の温度係数が±15%以内であり、X7R規格を満足していることを確認した。一方、比較例1、比較例2では、X7R規格を満たしていない。また、図4、図5に示されるように空孔の割合の低減に伴い、電気容量の温度係数の絶対値は小さくなる。また、空孔の割合が少ないと、−55℃の温度係数と125℃の温度係数との差が小さくなる傾向にある。したがって、温度の影響を受けにくいコンデンサを作製するには、空孔の割合が少ないことが好ましく、空孔の割合が28%以下であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】チタン酸バリウム水熱合成粒子の熱処理による粒成長の過程を示す概念図であり、(1)は水熱合成粒子、(2)は水酸基不純物が除去され、残されたバリウム欠陥が集合し、空孔が生成した粒子、(3)は2以上の粒子が合体し、結晶性の低いコア部分とそれを覆う被覆部分からなる粒子を示す。
【図2】溶媒中の有機溶媒体積比率と、空孔の割合の関係を示すグラフである。
【図3】空孔の割合と、コンデンサの比誘電率の関係を示すグラフである。
【図4】空孔の割合と、−55℃時の電気容量の温度係数の関係を示すグラフである。
【図5】空孔の割合と、125℃時の電気容量の温度係数の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
1,チタン酸バリウム水熱合成粒子
2,熱処理後のチタン酸バリウム粉末
3,空孔
4,結晶性の低いコア部分とそれを覆う結晶性の高い被覆部分とを有するチタン酸バリウム粒子
5,コア部分
6,被覆部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、酸化チタン粉末と、水溶性バリウム塩と、水可溶性の有機溶媒とを含ませて酸化チタン粉末混合溶液とし、該酸化チタン粉末混合溶液中の水と水可溶性の有機溶媒の合計体積に占める水可溶性の有機溶媒の体積比率を50%以上100%未満に調整する溶液調整工程と、前記酸化チタン粉末混合溶液を80℃以上で水熱反応させてチタン酸バリウム粉末を得る水熱反応工程とを有することを特徴とするチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項2】
前記水熱反応工程が、オートクレーブ中での条件を150℃以上として、水熱反応により得られる工程であることを特徴とする請求項1記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項3】
前記酸化チタン粉末混合溶液に、アルカリ性化合物を添加して、該酸化チタン粉末混合溶液をアルカリ性に調節するpH調整工程をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項4】
前記水可溶性の有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトンからなる群のうちの少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性バリウム塩が、結晶水を含むバリウム化合物であり、且つ、前記水可溶性の有機溶媒の体積比率を87%以上とすること特徴とする請求項1、2、3又は4記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項6】
前記水熱反応工程により得られたチタン酸バリウム水熱合成粒子を650℃〜1000℃に加熱する熱処理工程をさらに有することを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項7】
前記請求項1、2、3、4、5又は6記載の製造方法により製造されることを特徴とするチタン酸バリウム粉末。
【請求項8】
水熱合成法により得られ、熱処理後の結晶構造が正方晶であり、結晶格子に沿った多面体形状に空孔を有する結晶粒子の存在率が粒子数比で28%以下であることを特徴とするチタン酸バリウム粉末。
【請求項9】
前記請求項7又は8記載のチタン酸バリウム粉末を含有する誘電体材料を焼成して形成した誘電体層を備えたことを特徴とする積層セラミック電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−36603(P2006−36603A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220811(P2004−220811)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】