説明

チョップド繊維束、成形材料、および繊維強化プラスチックの製造方法

【課題】本発明は、マトリックス樹脂とコンパウンドされた成形材料として用いた場合、良好な流動性、成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性を発現するチョップド繊維束の製造方法を提供せんとするものである。
【解決手段】本発明のチョップド繊維束の製造方法は、強化繊維を実質的に一方向に引き揃えてなるチョップド繊維束の製造方法において、連続した複数の繊維束を連続的に走行させ、走行途中の箇所に配された拡幅手段で、拡幅前の繊維束の幅W1と拡幅後の繊維束の幅W2との比率(W2/W1)が1.1〜20の範囲内となるように該繊維束を拡幅した後、拡幅した状態の複数の繊維束を同時に切断することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス樹脂とコンパウンドされた成形材料として用いた場合、良好な流動性、成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性を発現するチョップド繊維束の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチックは、比強度、比弾性率が高く、力学特性に優れること、耐候性、耐薬品性などの高機能特性を有することなどから産業用途においても注目され、その需要は年々高まりつつある。
【0003】
高機能特性を有する繊維強化プラスチックの成形方法としては、プリプレグと称される連続した強化繊維にマトリックス樹脂を含浸せしめた半硬化状態の中間基材を積層し、高温高圧釜で加熱加圧することによりマトリックス樹脂を硬化させ繊維強化プラスチックを成形するオートクレーブ成形が最も一般的に行われている。また、近年では生産効率の向上を目的として、あらかじめ部材形状に賦形した連続繊維基材にマトリックス樹脂を含浸および硬化させるRTM(レジントランスファーモールディング)成形等も行われている。これらの成形法により得られた繊維強化プラスチックは、連続繊維である所以優れた力学特性を有する。また、連続繊維は規則的な配列であるため、基材の配置により必要とする力学特性に設計することが可能であり、力学特性のバラツキも小さい。しかしながら、一方で連続繊維である所以3次元形状等の複雑な形状を形成することは難しく、主として平面形状に近い部材に限られる。
【0004】
3次元形状等の複雑な形状に適した成形方法として、SMC(シートモールディングコンパウンド)やスタンパブルシートを用いた成形等がある。SMC成形品は、例えば25mm程度に切断したチョップド繊維束に熱硬化性樹脂であるマトリックス樹脂を含浸せしめ半硬化状態としたシート状基材(SMC)を、加熱型プレス機を用いて加熱加圧することにより得られる。スタンパブルシート成形品は、例えば25mm程度に切断したチョップド繊維束や連続の強化繊維よりなる不織布マット等に熱可塑性樹脂を含浸させたシート状基材(スタンパブルシート)を一度赤外線ヒーターで熱可塑性樹脂の融点以上に加熱し、所定の温度の金型に積層して冷却加圧することにより得られる。多くの場合、加圧前にSMCやスタンパブルシートを成形体の形状より小さく切断して成形型上に配置し、加圧により成形体の形状に引き伸ばして(流動させて)成形を行う。そのため、その流動により3次元形状等の複雑な形状にも追従可能となる。しかしながら、SMCやスタンパブルシートはそのシート化工程において、チョップド繊維束や不織布マットの分布ムラ、配向ムラが必然的に生じてしまうため、力学特性が低下し、あるいはその値のバラツキが大きくなってしまう。さらには、その分布ムラ、配向ムラにより、特に薄物の部材ではソリ、ヒケ等が発生しやすくなる。
【0005】
上述のような材料の欠点を埋めるべく、SMCなどに強化繊維の集束数を減らしたチョップド繊維束を適用し、チョップド繊維束間の絡みを増加して緻密化しクラック発生・進展を抑制するとされる基材が開示されている(例えば特許文献1)。しかしながら、一般的に強化繊維の集束数を減らすのはプロセス上コスト高とならざるを得ず、また分布ムラ、配向ムラにより容易に力学特性が低下する、という問題があった。
【特許文献1】特開平01−163218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、高コストの要因となる強化繊維の集束数を減らすことを必要とせず、マトリックス樹脂とコンパウンドされた成形材料として用いた場合には、良好な流動性を有し、繊維強化プラスチックとした場合には、優れた力学特性を発現する、チョップド繊維束を効率良く製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)強化繊維を実質的に一方向に引き揃えてなるチョップド繊維束の製造方法において、連続した複数の繊維束を連続的に走行させ、走行途中の箇所に配された拡幅手段で、拡幅前の繊維束の幅W1と拡幅後の繊維束の幅W2との比率(W2/W1)が1.1〜20の範囲内となるように該繊維束を拡幅した後、拡幅した状態の複数の繊維束を同時に切断する、チョップド繊維束の製造方法。
【0008】
(2)さらに、拡幅前の繊維束の幅W1と厚みt1との比率(W1/t1)が10〜200の範囲内、拡幅後の繊維束の幅W2と厚みt2との比率(W2/t2)が70〜1000の範囲内である、(1)に記載のチョップド繊維束の製造方法。
【0009】
(3)強化繊維にサイジング剤が付着されており、該サイジング付着量が強化繊維100重量部に対して、0.3〜3重量部である、(1)または(2)に記載のチョップド繊維束の製造方法。
【0010】
(4)繊維束の繊維長が10〜100mmの範囲内で、かつ、その水分率が強化繊維100重量部に対して0〜5重量部である、(1)〜(3)のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造方法。
【0011】
(5)拡幅後の繊維束の幅W2に対して(1.1〜30)×W2の切断端部長さで切断する、(1)〜(4)のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造方法。
【0012】
(6)連続した繊維束の走行方向に対して2〜30°の角度で、該繊維束を直線状に切断する、(1)〜(5)のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造方法。
【0013】
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法により得られたチョップド繊維束を、散布してシート状に一体化する、成形材料の製造方法。
【0014】
(8)チョップド繊維束をシート状のマトリックス樹脂の上に散布した後、別のシート状のマトリックス樹脂で挟み込み、前記チョップド繊維束とマトリックス樹脂とをシート状に一体化する、(7)に記載の成形材料の製造方法。
【0015】
(9)成形材料におけるチョップド繊維束が、幅W3と厚みt3との比率(W3/t3)が70〜1000の範囲内である、(7)または(8)に記載の成形材料の製造方法。
【0016】
(10)(7)〜(9)のいずれかに記載の製造方法により得られた成形材料を、成形型のキャビティの投影面積よりも小さく、かつ、キャビティ厚よりも厚い状態でキャビティ内に配置し、成形型を型締めして該成形材料を加圧することにより前記成形材料を伸張させ、キャビティ内に成形材料を充填する、繊維強化プラスチックの製造方法。
【0017】
(11)加圧前の成形材料におけるチョップド繊維束の幅W3と厚みt3との比率(W3/t3)が70〜1000の範囲内、加圧後の成形材料におけるチョップド繊維束の幅W4と厚みt4との比率(W4/t4)が75〜1500の範囲内であり、かつ、W4がW3よりも大きい、(10)に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マトリックス樹脂とコンパウンドされた成形材料として用いた場合には、良好な流動性を有し、繊維強化プラスチックとした場合には、優れた力学特性を発現する、チョップド繊維束を効率良く得ることができる。さらに、本発明では連続した繊維束を拡幅した状態でチョップド繊維束を得るため、得られるチョップド繊維束の厚みは小さくなり、その結果、該チョップド繊維束を用いた成形材料は流動性に優れ、繊維強化プラスチックは力学特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明者らは、前記課題、すなわち3次元形状等の複雑な形状にも追従可能であり、かつ優れた力学特性を有し、力学特性のバラツキも小さい繊維強化プラスチックを得るための製造方法について鋭意検討した結果、特定の製造方法により得られたチョップド繊維束を繊維強化プラスチックの強化繊維とすることにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したのである。なお、本明細書では、特に断らない限り、繊維あるいは繊維を含む用語(例えば“繊維方向”等)において、繊維とは強化繊維を表すものとする。また、本明細書では連続した繊維束とは100mm以上の繊維長さを持つ強化繊維が複数本束ねられた繊維束を指す。
【0020】
本発明のチョップド繊維束の製造方法は、強化繊維を実質的に一方向に引き揃えてなるチョップド繊維束の製造方法において、連続した複数の繊維束を連続的に走行させ、走行途中の箇所に配された拡幅手段で、拡幅前の繊維束の幅W1と拡幅後の繊維束の幅W2との比率(W2/W1)が1.1〜20の範囲内となるように該繊維束を拡幅した後、拡幅した状態の複数の繊維束を同時に切断するものである。なお、ここで言う、「実質的に一方向」とは、繊維束のある一部に注目した際、半径5mm以内に存在する単繊維の90%以上が、該繊維束のある一部の繊維の配向方向から±10°以内に配向していることを意味する。
【0021】
本発明では、まず、連続した複数の繊維束を連続的に走行させることが必要である。連続的に走行させるとは、連続した繊維束を張力などにより一定方向に移動させることを意味し、連続生産のために必要な動作である。さらに、複数の繊維束を、同時に連続的に走行させることにより、より生産性が向上する。連続的に走行させるためには、連続した繊維束をボビンに巻き付けるなどして、糸が繰り出せるようにクリールスタンド等に複数セットしておき、同時に連続した繊維束の片側をローラー状の拡幅冶具、ダンサーローラーやニップローラーなどにより張力を与えたり、摩擦を有するチャックなどで繊維束に引張駆動力を作用させて移動させたりする必要がある。
【0022】
次に、走行途中の箇所に配された拡幅手段で切断工程前の連続した繊維束を、拡幅前の繊維束の幅W1と拡幅後の繊維束の幅W2との比率(W2/W1)が1.1〜20の範囲内となるように拡幅する。中でも、1.5〜10の範囲内がプロセス性の面から好ましい。拡幅手段としては特に制限はなく、ローラーや振動、あるいはエアーといった公知の手法を用いることが出来る。中でも最も好ましい拡幅手段は、回転可能な円筒ローラーである。ローラーの凸面に張力の作用する連続した繊維束が接触すると、繊維束の厚み方向に力が作用して、繊維束は水平方向に広がる(潰れる)と同時に、ローラーが回転可能であるため、ローラーの局所摩耗もなくなり、長時間の連続運転が可能となるからである。また、糸切れも抑制できる。
【0023】
その他の拡幅手段としては、拡幅冶具を振動させながら1本の繊維束の幅を拡げる技術(例えば、特開平01−280040号公報)や、水力や空気力を利用した、ウォータージェットやエアーで1本の繊維束の幅を拡げる技術(例えば、特開平01−321944号公報)を適用することが出来る。ただし、ウォータージェットやエアーでは、張力を緩めて繊維束の幅を拡げるため、繊維束中の一部の繊維が破断して、毛羽が発生したり、切断した繊維がローラーに巻き付いたりするので、連続運転のためには、毛羽等に空気を吹き付けるなどして除去する対策をすることが好ましい。拡幅冶具の好ましい材質は、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属製、あるいはテフロン(登録商標)製などで、冶具の表面は、摩擦による劣化を抑制するためにニッケルやフッ素コーティングを施したり、ラバーやプラスチックフィルムなどの保護カバーを装着させてあっても差し支えない。
【0024】
拡幅前の繊維束の幅W1と拡幅後の繊維束の幅W2との比率に関して、比率(W2/W1)が1より小さいとは、W2がW1よりも大きいことを表し、すなわち拡幅冶具により繊維束の幅が狭められていることを表すので、本発明の範囲からは除外される。また、1.1より小さい場合も後述する拡幅による扁平化の効果が小さくなる場合が多く好ましくない。通常、繊維束はサイジング剤等の拘束力によりその形態を保持しているが、比率(W2/W1)が20より大きいと、拡幅の過程でサイジング剤等による結束力が弱まり、切断工程を経てチョップド繊維束とした場合にチョップド繊維束がばらばらになってしまうことがあり好ましくない。
【0025】
上記の手法により拡幅された繊維束を、拡幅した状態で切断することにより、得られるチョップド繊維束も拡幅した状態となる。本発明の拡幅工程を経て得られたチョップド繊維束は、従来のチョップド繊維束に比べ、拡幅されているためチョップド繊維束の厚みも小さくなり、繊維強化プラスチックとした場合に強度ばらつきも含めて安定した強度を発現することが出来る。
【0026】
さらに詳しく説明すると、チョップド繊維束を用いた繊維強化プラスチックでは、チョップド繊維束端部で応力集中を引き起こしている。そして、該繊維強化プラスチックは、チョップド繊維束端部から発生した剥離が連結することにより破壊に至る。したがって、強度向上のためには、チョップド繊維束端部の応力集中を減少させ、剥離発生応力を低下させることが重要である。本発明では、拡幅前の繊維束の幅W1と拡幅後の繊維束の幅W2との比率(W2/W1)が1.1〜20の範囲内となるように該繊維束を拡幅することで、チョップド繊維束端部の応力集中低下を実現したのである。
【0027】
連続した繊維束を切断する手法としては、公知のカッターを用いて切断することが出来る。例えば、ロービングカッター等のロータリー式カッターに繊維束を斜めに挿入して切断したり、連続した繊維束の走行方向に対して切断刃が斜めに設置されたギロチンカッターにより切断したりする他、連続した繊維束の走行方向に対して斜めとなる螺旋状の切断刃が設けられたロータリー式カッター(例えば、図1−b,5)なども用いることが出来る。中でも生産性が高いという観点からは、ロータリー式カッターが好ましい。
【0028】
本発明のチョップド繊維束の製造方法では、拡幅前の繊維束の幅W1と厚みt1との比率(W1/t1)が10〜200の範囲内、拡幅後の繊維束の幅W2と厚みt2との比率(W2/t2)が70〜1000の範囲内であることが好ましい。幅Wと厚みtとの比率(W/t)は扁平率と称されるもので、扁平率が大きいほど得られたチョップド繊維束は扁平であり、繊維強化プラスチックとした場合の強度向上効果が見込める。しかしながらその一方で、扁平率が大きくなるにつれてチョップド繊維束はその形態を保つことが困難となることがあり、繊維強化プラスチックとした場合の強度向上効果が得られなくなることがある。より好ましい扁平率の範囲は、W1/t1は30〜100、W2/t2は120〜600である。
【0029】
拡幅前の扁平率(W1/t1)が10未満の場合、拡幅しても目的の扁平率まで拡幅できないことがある。一方、拡幅前の繊維束は通常ボビン等に巻かれているため、扁平率(W1/t1)が200より大きいと取扱い性に劣る場合がある。拡幅後の扁平率(W2/t2)が70未満の場合、繊維強化プラスチックとした際のチョップド繊維束同士の重なり部に空間ができやすくなり、その空間にマトリックス樹脂が溜まるため、その樹脂溜まりが熱応力によるクラック発生源となる他、樹脂溜まり中にボイドが発生しやすくなる場合がある。一方、拡幅後の扁平率(W2/t2)が1000より大きい場合、上述したように繊維強化プラスチックとした場合の強度向上効果が得られなくなる場合がある。
【0030】
本発明のチョップド繊維束の製造方法では、強化繊維にサイジング剤が付着されており、該サイジング付着量が強化繊維100重量部に対して、0.3〜3重量部であることが好ましい。より好ましくは、0.3〜2重量部である。本発明の目的は、繊維強化プラスチックの強化繊維として適した特定のチョップド繊維束を得るためであり、サイジング付着量が0.3重量部未満の場合、連続した繊維束を切断した後にチョップド繊維束がばらばらになってしまいチョップド繊維束としての形態を保つことが出来ず、本発明の目的を達することが出来ない場合がある。そこで、サイジング付着量を0.3重量部以上とすることにより、強化繊維同士を密着させ、ある程度の拘束力を持って、チョップド繊維束として一体化していることが重要である。一方、サイジング付着量が3重量部を超えると、チョップド繊維束の集束性が強いため、繊維強化プラスチックとする際にチョップド繊維束内へのマトリックス樹脂含浸が阻害され、ボイドあるいは樹脂含浸不良の要因となり、得られた繊維強化プラスチックでは高い力学特性が発現しない可能性がある。
【0031】
本発明のチョップド繊維束の製造方法では、チョップド繊維束の繊維長が10〜100mmの範囲内で、かつ、その水分率が強化繊維100重量部に対して0〜5重量部であることが好ましい。さらに好ましくは、繊維長は10〜60mm、水分率は0〜3重量部である。繊維長が上記の範囲内であれば、繊維強化プラスチックとした場合の繊維による補強効果が十分に得られ、かつ、繊維強化プラスチックを製造する際の複雑な形状への成形追従性にも優れる。水分率が上記の範囲内であれば、後述するように得られたチョップド繊維束用いて成形材料を製造する際に、チョップド繊維束を乾燥することなく成形材料を製造することが出来る。一方、繊維長が5mm程度である射出成形用途のチョップド繊維束の製造方法(例えば、特開2001−271230号公報)においては、チョップド繊維束の集束性を保つために繊維束を濡らした状態で切断している。しかしながら、本発明では射出成形用途とは異なり繊維長が十分に長いため、繊維束を濡らさずともチョップド繊維束の形態を保ったまま切断することが可能となる。繊維長および水分率を上記の範囲内に制御する手段としては、繊維長に関しては切断のタイミングを調整することなどが例示され、また、水分率に関してはサイジング剤付与後の乾燥工程により調整することなどが例示される。
【0032】
なお、ここで言う、「繊維長」とは、チョップド繊維束中の単繊維の長さを表す。チョップド繊維束から単繊維を抜き出し、その長さを測ることは難儀であるが、本発明では繊維束中の強化繊維は実質的に一方向に引き揃えられているため、図2に示すようにチョップド繊維束の繊維配向方向への長さLを繊維長と見なすことが出来る。
【0033】
本発明のチョップド繊維束の製造方法では、拡幅後の繊維束の幅W2に対して(1.1〜30)×W2の切断端部長さで切断することが好ましい。さらに好ましくは、(2〜10)×W2の切断端部長さで切断することである。ここで、切断端部長さとは図2に示すように、チョップド繊維束端部の辺長を指す。すなわち、従来のように連続した繊維束の走行方向に対して90°の角度で、該繊維束を直線状に切断した場合、該繊維束の幅と切断端部長さは同一となる。図3に本発明により得られるチョップド繊維束の形状の一例を示すが、いずれの場合もチョップド繊維束端部の辺長は繊維束の幅W2に対して(1.1〜30)×W2の領域内に存在する。チョップド繊維束をこのような形状とすることにより、繊維強化プラスチックとした際にチョップド繊維束の中央部で最大であるチョップド繊維束の受け持つ荷重を、徐々に解放することが可能となるため、チョップド繊維束端部での応力集中が起きにくくなる。そのため、従来のチョップド繊維束を用いた場合に比べ、繊維強化プラスチックの強度が桁違いに向上する。それだけではなく、応力集中が起きにくいため、初期の損傷が発生せず、破壊直前までクラックが発生しない。繊維強化プラスチックの用途によっては、初期の損傷により音鳴りが起き不安を誘うため適用できない用途も存在し、そのような用途にも繊維強化プラスチックの適用が可能となる。また、初期の損傷は疲労強度に大きく影響するが、本発明で得られたチョップド繊維束の場合、初期の損傷が少ないため、静的強度のみならず疲労強度も大きく向上する。
【0034】
本発明のチョップド繊維束の製造方法では、連続した繊維束の走行方向、すなわち繊維配向方向に対して2〜30°の角度で、該繊維束を直線状に切断することが好ましい。従来のチョップド繊維束は、繊維配向方向に対して直交方向に切断し製造していたところを、繊維配向方向に対して2〜30°の角度で切断することにより、繊維強化プラスチックとした際に高強度となるチョップド繊維束を得ることが出来る。チョップド繊維束の端部は繊維配向方向に対して小さい角度であればあるほど繊維強化プラスチックとした際に高強度化が期待され、特に30°以下でその効果が著しいが、チョップド繊維束自体の取り扱い性が低下すること、切断プロセスにおいて、繊維配向方向と切断する刃との角度が小さければ小さいほど安定性を欠くため、2°以上の角度が好ましい。中でも繊維強化プラスチックとしての高強度化とプロセス性との兼ね合いから繊維配向方向に対して5〜25°の角度が特に好ましい。
【0035】
さらに本発明は、上記の製造方法により得られたチョップド繊維束を、散布してシート状に一体化することにより成形材料を製造するものである。例えば、チョップド繊維束をシート状のマトリックス樹脂の上に散布した後、別のシート状のマトリックス樹脂で挟み込み、前記チョップド繊維束とマトリックス樹脂とをシート状に一体化し、SMCやスタンパブルシートと呼ばれるような成形材料とするのが良い。また、チョップド繊維束をシート状に散布して一体化しても良い。チョップド繊維束にあらかじめマトリックス樹脂を含浸させておけば、改めて樹脂を含浸することなく一体化することも出来る。一方、チョップド繊維束にマトリックス樹脂が含浸していなくても、チョップド繊維束を一体化したシート状の成形材料に後からマトリックス樹脂を注入するRTM(レジントランスファーモールディング)成形などを実施し、繊維強化プラスチックとしても良い。
【0036】
また、成形材料におけるチョップド繊維束が、幅W3と厚みt3との比率(W3/t3)が70〜1000の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、120〜600の範囲内であることである。すなわち、上記の製造方法により得られたチョップド繊維束をその扁平率を保ったままで前記成形材料を製造することが出来る。なお、前記成形材料においてシート状に散布されたチョップド繊維束は、その9割以上のチョップド繊維束がシートの平面方向に扁平となる。さらに、一部のチョップド繊維束は散布時に繊維束の割れを生じたり、折り畳まれることにより扁平率が変動するが、8割以上のチョップド繊維束の扁平率が上記の範囲内であれば、本発明の効果は十分に得ることが出来る。
【0037】
さらに本発明は、上記の製造方法により得られた成形材料を、成形型のキャビティの投影面積よりも小さく、かつ、キャビティ厚よりも厚い状態でキャビティ内に配置し、成形型を型締めして該成形材料を加圧することにより前記成形材料を伸張させ、キャビティ内に成形材料を充填することにより繊維強化プラスチックを製造するものである。上記のように繊維強化プラスチックを製造することにより、成形材料に内在する気泡(ボイド)を成形材料の伸張とともに型外に押し出すことが可能となり、高品質で、かつ、力学特性に優れた繊維強化プラスチックを得ることが出来る。成形手段としては特に制限はないが、例えば、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であれば、加熱型プレス機を用いて加熱加圧することにより得られ、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂であれば、成形材料を赤外線ヒーターで樹脂の融点以上に加熱した後、所定の温度に調整されたプレス機を用いて冷却加圧することにより得ることが出来る。
【0038】
本発明の繊維強化プラスチックの製造方法では、加圧前の成形材料におけるチョップド繊維束の幅W3と厚みt3との比率(W3/t3)が70〜1000の範囲内、加圧後の成形材料におけるチョップド繊維束の幅W4と厚みt4との比率(W4/t4)が75〜1500の範囲内であり、かつ、W4がW3よりも大きいことが好ましい。すなわち、前記成形材料を加圧して繊維強化プラスチックを製造する過程で、チョップド繊維束の扁平率を大きくしながら製造することが出来る。製造時に成形材料を厚み方向に加圧することにより、成形材料中の(シートの平面方向に扁平となった)チョップド繊維束も厚み方向に加圧され、扁平率が大きくなるのである。前述したように、扁平率が大きいほど、繊維強化プラスチックとした場合の強度向上効果が見込めるため好ましい。より好ましい加圧後の成形材料におけるチョップド繊維束の扁平率の範囲は、150〜800である。
【0039】
本発明に用いられる強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩(バサルト)繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変成した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが挙げられる。その中でも特に炭素繊維は、これら強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品生にも優れていることから、軽量化が望まれる自動車パネルなどの部材に好適である。炭素繊維の中でも、高強度の炭素繊維が得られやすいPAN系炭素繊維が好ましい。炭素繊維単糸の直径は5〜10μm程度であり、炭素繊維の製造方法にもよるが低コストで高強度化を図ることが出来る強化繊維本数は1,000〜700,000本である。好ましくは3,000〜100,000本、さらに高強度かつ低コストに炭素繊維を製造するには6,000〜50,000本がよい。
【0040】
また、本発明により得られたチョップド繊維束を強化繊維とした繊維強化プラスチックの用途としては、強度、剛性、軽量性が要求される、自転車用品、ゴルフ等のスポーツ部材のシャフトやヘッド、航空機内装材、ドアやシートフレームなどの自動車部材、ロボットアームなどの機械部品がある。中でも、強度、軽量に加え、複雑な形状の成形追従性が要求されるシートパネルやシートフレーム等の自動車部品に好ましく適用できる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の発明に限定されるというものではない。
【0042】
<扁平率測定方法>
繊維束の扁平率、すなわち繊維束の幅および厚みは、幅に関しては金尺(ものさし)を用いて1/10mmの精度で測定し、厚みに関してはノギスを用いて1/100mmの精度で測定した。なお、サンプルの状態としては、それぞれのサンプル(繊維束)を各工程から取り出して、平らな場所に静置し無張力の状態で測定を行った。測定本数はそれぞれ10本ずつとし、平均値を用いてそれぞれの値とした。
【0043】
なお、成形材料中および繊維強化プラスチック中のチョップド繊維束の幅および厚みは、成形材料および繊維強化プラスチックを電気炉中で加熱することにより、マトリックス樹脂を分解させ、残ったチョップド繊維束を取り出して同様に測定した。加熱条件は強化繊維およびマトリックス樹脂の種類によって選択し、本実施例においては、500℃×2時間とした。
【0044】
<力学特性評価方法>
各実施例に記載の手法で得られた平板状の繊維強化プラスチックより、長さ250±1mm、幅25±0.2mmの引張強度試験片を切り出した。JIS K−7073(1998)に規定する試験方法に従い、標点間距離を150mmとし、クロスヘッド速度2.0mm/分で引張強度を測定した。なお、本実施例においては、試験機としてインストロン(登録商標)万能試験機4208型を用いた。測定した試験片の数はn=5とし、平均値を引張強度とした。
【0045】
<水分率の測定方法>
予め繊維束を入れるガラス瓶と蓋を合わせた重量w1(g)を測定し、これに繊維束を入れ、蓋をして重量w2(g)を測定した。次に、繊維束をガラス瓶に入れたまま、蓋を開けて130℃の温度で7,200秒間乾燥機の中で乾燥させた後、乾燥機内でガラス瓶に蓋をした。乾燥機からガラス瓶を取り出し、乾燥用デシケータ内で2,400秒間冷却した後、重量w3(g)を測定した。次式により水分率 を求めた。
水分率(重量部)={(w2−w3)/(w3−w1)}×100。
【0046】
(実施例1)
本発明により得られたチョップド繊維束を用いて、成形材料としてSMCシートを作製し、成形を行って平板物性を取得した。
【0047】
実質的に無撚りの未サイジングの炭素繊維からなる連続した繊維束(繊維単糸径7μm、12,000フィラメント、引張強度4.9GPa、引張弾性率235GPa)を、樹脂成分が2.0重量%になるようにポリグリセリンポリグリシジルエーテルをジメチルホルムアミド(DMF)で希釈したサイジング剤母液に連続的に浸漬させて炭素繊維にサイジング剤を付与し、乾燥張力600g/dtexのもと、150℃のホットローラーと200℃の乾燥炉で乾燥し水分を除去した。サイジング剤付着量は1.2重量部、繊維束の平均幅W1は6.3mm、扁平率(W1/t1)は56であり、水分率は0.1重量部であった。
【0048】
一方、マトリックス樹脂としてビニルエステル樹脂(ダウ・ケミカル(株)製、デラケン790)を100重量部、硬化剤としてtert−ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂(株)製、パーブチルZ)を1重量部、内部離型剤としてステアリン酸亜鉛(堺化学工業(株)製、SZ−2000)を2重量部、増粘剤として酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製、MgO#40)を4重量部用いて、それらを十分に混合撹拌し、樹脂ペーストを得た。樹脂ペーストを、ドクターブレードを用いて、ポリプロピレン製の離型フィルム上に塗布した。
【0049】
次に、上記の炭素繊維50ボビンをクリールスタンドにセットし、図1−aに示すような工程において、拡幅冶具にて繊維束の平均幅W2を15.2mm(W2/W1は2.4)、扁平率(W2/t2)を315となるように拡幅した後、拡幅した状態の繊維束を、周方向に25mm間隔、90°の角度で切断刃が設置されているロータリー式カッターで切断することによりチョップド繊維束を作製した。得られたチョップド繊維束は図2b)のようにチョップド繊維束の端部がチョップド繊維束の繊維配向方向と0°の角度で直線状の形態を有しており、強化繊維の繊維長Lは同じチョップド繊維束内で1%程度のばらつきはあるものの、25mmであった。チョップド繊維束端部の辺長、すなわち切断端部長さは15.2mm(1×W2)であった。
【0050】
ロータリー式カッターの下には、上記の樹脂ペーストを塗布したポリプロピレンフィルムが配置されており、フィルムの上にチョップド繊維束を単位面積あたりの重量が500g/mになるよう均一に落下、散布した。その上から、樹脂ペーストを塗布したもう一方のポリプロピレンフィルムとで樹脂ペースト側を内にして挟み込み、シートを得た。シート(チョップド繊維束および樹脂ペースト分)に対する炭素繊維の体積含有量は40%とした。得られたシートを40℃にて24時間静置することにより、樹脂ペーストを十分に増粘化させて、図4のような成形材料であるSMCシートを得た。こうして得られた成形材料中のチョップド繊維束の扁平率(W3/t3)は320であった。
【0051】
このSMCシートを250×250mmに切り出し、4枚重ねた後、300×300mmのキャビティを有する平板金型上の概中央部に配置(チャージ率にして70%相当)した後、加熱型プレス成形機により、6MPaの加圧のもと、150℃×5分間の条件により硬化せしめ、300×300mmの平板状の繊維強化プラスチックを得た。
【0052】
金型キャビティ内に繊維強化プラスチックが充填されており、成形材料の流動性は良好であった。繊維強化プラスチックを平らな試験台上に置いただけで成形体が試験台と全面で接触しており、ソリはない、と判断された。繊維強化プラスチックの厚みは2.8mmであった。引張試験の結果によると、引張弾性率は29GPaと高く、また、引張強度に関しても260MPaと高い値が発現した。比較例1と比較しても弾性率で20%以上、強度で70%以上の力学特性を発現していた。また、得られた繊維強化プラスチックを切り出し、切り出し面を観察すると、図5のように切り出し面に並行に走るチョップド繊維束の厚みは一定であり、チョップド繊維束の端部で厚み方向に垂直に切れており、該端部の先に樹脂溜りが発生していた。しかしながら、チョップド繊維束の厚みが十分に薄く、前記樹脂溜まりは非常に小さいために、引張特性への影響はほとんどなく、チョップド繊維束の扁平化による優れた引張特性向上効果が得られたものと推測された。また、繊維強化プラスチック中のチョップド繊維束の扁平率(W4/t4)は535であった。
【0053】
(実施例2)
実施例1と同様の連続な繊維束を実施例1と同様の拡幅を行った後、裁断してチョップド繊維束を得るにあたり、周方向に25mm間隔、20°の角度で切断刃が設置されているロータリー式カッターで切断することによりチョップド繊維束を作製した。得られたチョップド繊維束は図2a)のようにチョップド繊維束の端部がチョップド繊維束の繊維配向方向と20°の角度で直線状の形態を有しており、強化繊維の繊維長Lは同じチョップド繊維束内で1%程度のばらつきはあるものの、25mmであった。チョップド繊維束端部の辺長、すなわち切断端部長さは44mm(2.9×W2)であった。
【0054】
こうして得られたチョップド繊維束を、実施例1と同様に、成形材料としてSMCシートを作製した後、繊維強化プラスチックを成形した。なお、成形材料中のチョップド繊維束の扁平率(W3/t3)は340であった。金型キャビティ内に繊維強化プラスチックが充填されており、成形材料の流動性は良好であった。繊維強化プラスチックを平らな試験台上に置いただけで成形体が試験台と全面で接触しており、ソリはない、と判断された。繊維強化プラスチックの厚みは2.8mmであった。
【0055】
次に実施例1と同様に引張試験を実施した。引張弾性率は34GPaと非常に高く、引張強度に関しても350MPaと高い値が発現した。比較例1と比較しても弾性率で40%以上、強度で2倍以上の力学特性向上を発現していた。また、得られた繊維強化プラスチックを切り出し、切り出し面を観察すると、図6のように切り出し面に並行に走るチョップド繊維束は、実施例1とは異なり中央部から端部に向かうにつれ細くなり、繊維本数が減少しており、かつ、チョップド繊維束の厚みは非常に薄いことがわかった。したがって、チョップド繊維束の扁平化による優れた引張特性向上効果、およびチョップド繊維束端部での荷重の伝達効率が向上した分、引張強度のみならず、弾性率も向上するという著しい効果が得られたものと推測された。また、繊維強化プラスチック中のチョップド繊維束の扁平率(W4/t4)は705であった。
【0056】
(実施例3)
サイジング剤乾燥工程でホットローラーを省いた以外は、実施例1と同様の炭素繊維束を得た。サイジング剤付着量は1.4重量部、繊維束の平均幅W1は2.0mm、扁平率(W1/t1)は7であり、水分率は0.2重量部であった。続いて、実施例1と同様の工程により、拡幅冶具にて繊維束の平均幅W2を9.2mm(W2/W1は4.6)、扁平率(W2/t2)を115となるように拡幅した後、チョップド繊維束を作製した。得られたチョップド繊維束は図2b)のようにチョップド繊維束の端部がチョップド繊維束の繊維配向方向と90°の角度で直線状の形態を有しており、強化繊維の繊維長Lは同じチョップド繊維束内で2%程度のばらつきはあるものの、25mmであった。チョップド繊維束端部の辺長、すなわち切断端部長さは9.2mm(1×W2)であった。
【0057】
こうして得られたチョップド繊維束を、実施例1と同様に、成形材料としてSMCシートを作製した後、繊維強化プラスチックを成形した。なお、成形材料中のチョップド繊維束の扁平率(W3/t3)は115であった。金型キャビティ内に繊維強化プラスチックが充填されており、成形材料の流動性は良好であった。繊維強化プラスチックを平らな試験台上に置いただけで成形体が試験台と全面で接触しており、ソリはない、と判断された。繊維強化プラスチックの厚みは2.8mmであった。
【0058】
次に実施例1と同様に引張試験を実施した。引張弾性率は27GPaと高く、引張強度に関しても230MPaと高い値が発現した。比較例1と比較しても弾性率で10%以上、強度で50%以上の力学特性向上を発現していた。また、得られた繊維強化プラスチックを切り出し、切り出し面を観察すると、図5のように切り出し面に並行に走るチョップド繊維束の厚みは一定であり、チョップド繊維束の端部で厚み方向に垂直に切れており、該端部の先に樹脂溜りが発生していた。しかしながら、チョップド繊維束の厚みが十分に薄く、前記樹脂溜まりは非常に小さいために、引張特性への影響はほとんどなく、チョップド繊維束の扁平化による優れた引張特性向上効果が得られたものと推測された。また、繊維強化プラスチック中のチョップド繊維束の扁平率(W4/t4)は140であった。
【0059】
(比較例1)
拡幅工程を経ずに裁断したチョップド繊維束を用いたSMCの力学特性を取得し、比較例とする。
【0060】
拡幅冶具を省いた以外は、実施例1と同様の工程によりチョップド繊維束を作製した。得られたチョップド繊維束は図2b)のようにチョップド繊維束の端部がチョップド繊維束の繊維配向方向と90°の角度で直線状の形態を有しており、強化繊維の繊維長は同じチョップド繊維束内で3%程度のばらつきはあるものの、25mmであった。チョップド繊維束端部の辺長、すなわち切断端部長さは6.3mm(1×W2)であった。
【0061】
実施例1と同様にSMCシートを作製した後、繊維強化プラスチックを成形した。なお、成形材料中のチョップド繊維束の扁平率(W3/t3)は62であった。
【0062】
金型キャビティ内に繊維強化プラスチックが充填されており、成形材料の流動性は良好であった。ソリはなく、繊維強化プラスチックの厚みは2.8mmであった。
【0063】
引張試験の結果によると、引張弾性率は24GPa、引張強度は150MPaであった。また、得られた繊維強化プラスチックを切り出し、切り出し面を観察すると、図5のように切り出し面に並行に走るチョップド繊維束の厚みは一定であり、チョップド繊維束の端部で厚み方向に垂直に切れており、該端部の先に樹脂溜りが発生していた。さらに、チョップド繊維束同士の重なり部にも多数の樹脂溜まりが発生していた。これら樹脂溜りのいくつかにはボイドが存在しており、該樹脂溜まりにより低い引張特性となったと考えられる。また、繊維強化プラスチック中のチョップド繊維束の扁平率(W4/t4)は65であった。
【0064】
(比較例2)
拡幅冶具を省いた以外は、実施例3と同様の工程によりチョップド繊維束を作製した。得られたチョップド繊維束は図2b)のようにチョップド繊維束の端部がチョップド繊維束の繊維配向方向と90°の角度で直線状の形態を有しており、強化繊維の繊維長Lは同じチョップド繊維束内で1%程度のばらつきはあるものの、25mmであった。チョップド繊維束端部の辺長、すなわち切断端部長さは2mm(1×W2)であった。
【0065】
実施例1と同様にSMCシートを作製した後、繊維強化プラスチックを成形した。なお、成形材料中のチョップド繊維束の扁平率(W3/t3)は7であった。
【0066】
金型キャビティ内に繊維強化プラスチックが充填されており、成形材料の流動性は良好であった。ソリはなく、繊維強化プラスチックの厚みは2.8mmであった。
【0067】
引張試験の結果によると、引張弾性率は21GPa、引張強度は120MPaであった。また、得られた繊維強化プラスチックを切り出し、切り出し面を観察すると、図5のように切り出し面に並行に走るチョップド繊維束の厚みは一定であり、チョップド繊維束の端部で厚み方向に垂直に切れており、該端部の先、およびチョップド繊維束同士の重なり部には、比較例1よりもさらに大きな樹脂溜りが発生していた。さらに、該樹脂溜まりは複数のボイドを含んでいた。また、繊維強化プラスチック中のチョップド繊維束の扁平率(W4/t4)は15であった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1−a】本発明のチョップド繊維束を製造する工程の一例を示す概略図である。
【図1−b】本発明のチョップド繊維束を製造する工程の一部の例を示す斜視図である。
【図2】本発明におけるチョップド繊維束の一例を示す平面図である。
【図3】本発明におけるチョップド繊維束の数例を示す平面図である。
【図4】本発明における成形材料一例を示す平面図である。
【図5】本発明における繊維強化プラスチックの一例を示す断面図である。
【図6】本発明における繊維強化プラスチックの別の形態の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1:クリールスタンド
2:連続した繊維束
3:ローラー
4:拡幅冶具
5:切断装置
6:チョップド繊維束
7:樹脂シート
8:成形材料
9:繊維配向方向
10:強化繊維(単糸)
11:チョップド繊維束端部
12:チョップド繊維束端部の辺長(切断端部長さ)
13:チョップド繊維束の切り出し断面
13a:切り出し面に並行に走るチョップド繊維束の切り出し断面
14:繊維強化プラスチック厚み方向
15:樹脂溜まり
L:繊維長
W:繊維束の幅
t:繊維束の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維を実質的に一方向に引き揃えてなるチョップド繊維束の製造方法において、連続した複数の繊維束を連続的に走行させ、走行途中の箇所に配された拡幅手段で、拡幅前の繊維束の幅W1と拡幅後の繊維束の幅W2との比率(W2/W1)が1.1〜20の範囲内となるように該繊維束を拡幅した後、拡幅した状態の複数の繊維束を同時に切断する、チョップド繊維束の製造方法。
【請求項2】
さらに、拡幅前の繊維束の幅W1と厚みt1との比率(W1/t1)が10〜200の範囲内、拡幅後の繊維束の幅W2と厚みt2との比率(W2/t2)が70〜1000の範囲内である、請求項1に記載のチョップド繊維束の製造方法。
【請求項3】
強化繊維にサイジング剤が付着されており、該サイジング付着量が強化繊維100重量部に対して、0.3〜3重量部である、請求項1または2に記載のチョップド繊維束の製造方法。
【請求項4】
繊維束の繊維長が10〜100mmの範囲内で、かつ、その水分率が強化繊維100重量部に対して0〜5重量部である、請求項1〜3のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造方法。
【請求項5】
拡幅後の繊維束の幅W2に対して(1.1〜30)×W2の切断端部長さで切断する、請求項1〜4のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造方法。
【請求項6】
連続した繊維束の走行方向に対して2〜30°の角度で、該繊維束を直線状に切断する、請求項1〜5のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られたチョップド繊維束を、散布してシート状に一体化する、成形材料の製造方法。
【請求項8】
チョップド繊維束をシート状のマトリックス樹脂の上に散布した後、別のシート状のマトリックス樹脂で挟み込み、前記チョップド繊維束とマトリックス樹脂とをシート状に一体化する、請求項7に記載の成形材料の製造方法。
【請求項9】
成形材料におけるチョップド繊維束が、幅W3と厚みt3との比率(W3/t3)が70〜1000の範囲内である、請求項7または8に記載の成形材料の製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法により得られた成形材料を、成形型のキャビティの投影面積よりも小さく、かつ、キャビティ厚よりも厚い状態でキャビティ内に配置し、成形型を型締めして該成形材料を加圧することにより前記成形材料を伸張させ、キャビティ内に成形材料を充填する、繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項11】
加圧前の成形材料におけるチョップド繊維束の幅W3と厚みt3との比率(W3/t3)が70〜1000の範囲内、加圧後の成形材料におけるチョップド繊維束の幅W4と厚みt4との比率(W4/t4)が75〜1500の範囲内であり、かつ、W4がW3よりも大きい、請求項10に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。

【図1−a】
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【図1−b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−62648(P2009−62648A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232353(P2007−232353)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】