説明

テーブル位置決め装置

【課題】高精度位置決めを迅速かつ安定して行なえるようにする。
【解決手段】 ボールねじ軸(リード1mm)を利用した全域回転駆動型でかつテーブルを最小1nmずつ移動可能で、3つの光学格子(明・暗線が2μm)を用い信号分割数を2000として1nm/1パルスの移動変位量検出信号を生成でき、オープンループ制御による高速回転とクローズドループ制御による中速回転および低速回転をこの順序で切換えて位置決めでき、低速回転中にインポジション範囲内であることを確認して迅速停止可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーブル移動機構部と動力付与部と移動変位量検出部と位置決め制御回路部とを具備し、テーブルを迅速かつ高精度で位置決めするためのテーブル位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上位概念的には対象物を高精度で位置決めするための技術的手段として共通するも、具体的(下位概念的)には、例えばレザー光線を利用した半導体露光装置(大型・高価)と、例えば光ファイバーの試験研究用の位置決め装置(小型・廉価)とは、技術的に相容れない事項が多い。
【0003】
本出願人らは、後者に関して、まず、産業上の利用性の確立および普及拡大のために、大幅な小型軽量化,低コスト化および取扱い容易化を達成するための移動変位検出器つまり光学的変位検出装置(特許文献1を参照)を提案した。この装置は、3つの光学格子を用いたスリーグレーチング方式で、高精度化および検出高速化も達成できる。
【0004】
次に、かかる光学的変位検出装置を、ステージ内(ベースとテーブルとの間)に収容させてテーブルの移動変位量検出部として利用するとともに、テーブル移動機構部を粗動用マイクロヘッドおよび微動用ピエゾアクチュエータを直列配設した手動式の位置決め装置(特許文献2)を提案した。
【0005】
さらに、粗動用をモータ駆動型ねじ軸としかつ微動用のピエゾアクチュエータとねじ軸とをテーブルの移動方向に直列配設した自動式位置決め装置(特許文献3)を提案した。引続き、応動変位許容手段等を設けることで、一段の高精度化等を企図した自動式位置決め装置(特許文献4)を提案した。さらにまた、構成要素ごとの改善も図った。例えば、回路(逓倍回路および分割回路)を含む移動変位量検出部(特許文献5)を提案した。かくして、全体として超薄型(小型・軽量)で、テーブルを高精度(例えば、0.1μm)で位置決めすることができた。
【0006】
さらに、これらの技術的積み重ねの上に、ピエゾアクチュエータ駆動型の不利(不連続性、長時間駆動性)を解消(連続化、短時間駆動化)するものとして、ピエゾアクチュエータを排した全域(テーブル移動範囲)を1つのねじ軸で駆動可能に形成したいわゆる全域ねじ駆動型のテーブル位置決め装置(特許文献6)を提案した。この提案装置によれば、連続駆動により比較的短時間で高精度位置決めすることができる。
【特許文献1】特開平7−286816号公報
【特許文献2】特開平8−185238号公報
【特許文献3】特開平9−192956号公報
【特許文献4】特開平10−58267号公報
【特許文献5】特開2000−235417号公報
【特許文献6】特開2004−101320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、普及拡大に伴い具体的な運用態様が多様化している。例えば、電子細線の測定・位置決めにおいては連続性が求められ、光ファイバーの調芯に際しては高精度域でのストローク(テーブルの移動範囲)の拡大が求められる。また、近接場に対するプローブ(下向き荷重)の位置決めに際しピエゾアクチュエータでその荷重(負荷)を引上げ駆動することはその構造・特性上から至難である。すなわち、ねじ軸駆動とピエゾアクチュエータ駆動の組合せ方式は、これらの位置決め態様の場合は不適当である。
【0008】
かかる位置決め態様には、全域ねじ軸駆動型が望ましい。しかし、先提案の位置決め装置(特許文献6)は、位置決め時間の短縮を図れるものの位置決め精度は0.01μm(10nm)程度であり、一段の高精度[例えば、0.001μm(1nm)以下]の位置決め精度を保証することはできない。
【0009】
ここにおいて、位置決め精度を一段と向上させるためには、構成要素(例えば、ねじ軸のリード、モータのステップ角度、スケールピッチ、移動変位量検出信号の分割数等々)をできるだけ小さくあるいは多くすることが必要である。また、機械的誤差(ガタ)を生じ易い減速機等を排除することが望ましい。しかし、個々の構成要素を独立して小数化あるいは大数化を図っても、それらの組合せに機械的、光学的・電気・電子的な整合性がなければ、何の意味もない。つまり、製作コストを含む経済的負担が増大する割には実用性に欠ける。
【0010】
かくして、各構成要素の適正化を慎重に吟味・実験し、丁度遺伝子組換え等の如く幾多の構成要素とそれらのランク別値の中から整合性あるものを選択しかつそれらの組合せをもって構築しなければならない。しかも、多くの検証を行なわなければならずかつ膨大な時間・労力を必要とする。特に、装置構築上、机上設計的に幾ら高精度でも実用において安定動作を担保できなければ意味がない。以上の諸問題から未だ1nm以下の高精度位置決めを行なえる小型で安価な位置決め装置は出現していない。
【0011】
本発明の目的は、1nm以下の高精度位置決めを迅速かつ安定して行なえる全域ねじ駆動型のテーブル位置決め装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、駆動系並びに検出系および制御系を1nm以下の位置決め精度を確立可能な整合性ある特定の構成要素の組合せから構成し、さらに、かかる構成に内在する不安定要因を捉えかつこれを自動的に解消できるように構築したものである。
【0013】
具体的には、請求項1の発明に係るテーブル位置決め装置は、ステージを構成するテーブルをベースに対して移動可能なテーブル移動機構部と、このテーブル移動機構部に移動用動力を付与する動力付与部と、テーブルの移動変位量を検出する移動変位量検出部と、テーブルを目標位置に位置決めするためのモータ回転制御信号を動力付与部へ生成出力する位置決め制御回路部とを具備するテーブル位置決め装置において、前記テーブル移動機構部が、ねじ軸を利用したねじ回転駆動型とされかつねじリードが1mm以下に選択され、前記動力付与部が、ステッピングモータおよびモータドライバを含むモータ回転駆動型とされかつ該ステッピングモータをねじ軸に直結するとともに前記位置決め制御回路部から生成出力されたモータ回転制御信号に基づきねじ軸を回転駆動して前記テーブルを最小で1nmずつ移動可能に形成され、前記移動変位量検出部が、3つの光学格子および信号分割回路を含み各光学格子の明線および暗線がそれぞれ2μmとされかつ信号分割回路の信号分割数が2000とされるとともに1パルス当たり1nmの移動変位量検出信号を生成出力可能に形成され、前記位置決め制御回路部が、オープンループ制御による高速回転用,クローズドループ制御による中速回転用および低速回転用のモータ回転制御信号をこの順序で切換え出力可能であるとともに高速回転速度を最大回転速度としかつ低速回転速度をオーバーラン発生防止可能な最小回転速度として回転制御可能に形成され、低速回転中に入力された前記目標位置である指令信号と前記移動変位量検出信号との差分を求めかつその差分が予め設定されたインポジション範囲内の値であることを条件に推定位置決め完了信号を出力する推定位置決め完了信号出力手段と、推定位置決め完了信号が出力される度に予め設定された時間長の制御終了確認信号を繰返し発生可能な制御終了確認信号発生手段と、最後に出力された制御終了確認信号が当該時間長だけ継続発生されていたことを条件にかつ当該時間長経過時に確定位置決め完了信号を出力する確定位置決め完了信号出力手段とを設けた、ことを特徴とする。
【0014】
また、請求項2の発明は、前記インポジション範囲の値が±1カウントに設定されかつ前記設定時間長が20〜30mSecの中から選択された値に設定されている、ことを特徴とする。
【0015】
請求項3の発明は、基本的な構成が請求項1の発明の場合と同様とされるが、テーブルを最小で0.5nmずつ移動可能に形成するとともに信号分割回路の信号分割数が4000とされかつ1パルス当たり0.5nmの移動変位量検出信号を生成出力可能に形成されている、テーブル位置決め装置。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、ピエゾアクチュエータ駆動型の不利(不連続性、長時間駆動性、引張り負荷の不適合性)の解消(連続化、短時間駆動化、引張り負荷の適合化)を担保しつつ1nmの高精度位置決めを迅速かつ安定して行なえるとともに、小型軽量なテーブル位置決め装置を提供できる。
【0017】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果と同じ効果を奏することができる。さらに、設置環境や使用状態に対する適応性が広い。
【0018】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明の場合と同様な効果を奏することができかつ0.5nmの超高精度位置決めができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
本テーブル位置決め装置は、図1〜図6、図9に示す如く、ステージ10とテーブル移動機構部40と動力付与部50と移動変位量検出部60と位置決め制御回路部90とを具備し、テーブル移動機構部40が全域ねじ軸回転駆動型され、動力付与部50がモータ回転駆動型されかつ位置決め制御回路部90から出力されたモータ回転制御信号(位置決め制御信号)Pdに基づきテーブル31を最小で1nmずつ移動可能とされ、移動変位量検出部60が3つの光学格子(61F、63S,63T)を含み1パルス当たり1nmの移動変位量検出信号Psdを生成出力可能で、位置決め制御回路部90をオープンループ制御による高速回転用,クローズドループ制御による中速回転用および低速回転用のモータ回転制御信号(Pdh,Pdm,Pdl)をこの順序で切換え出力可能に形成し、さらに推定位置決め完了信号出力手段(100)と制御終了確認信号発生手段(105)と確定位置決め完了信号出力手段(107)とを設け、確定位置決め完了信号S3が図11に示すように出力(L→Hレベル)された場合に低速回転制御を終了させるように形成されている。
【0021】
図1〜図5において、ステージ10は、ベース11とテーブル31とを含み、テーブル31は左右のクロスローラガイド21を介して基軸線(Z)方向に摺動(移動)可能に装着されている。ベース11およびテーブル31は、アルミニュウム合金製で軽量化され、テーブル31は平面四角(120mm×120mm)の薄平板形状で、平均板厚は12mmである。テーブル31の質量は、無負荷(テーブルのみの質量)時が0.5kgで、最大負荷(ワーク等の荷重を含む質量)時は10kgである。しかも、この実施の形態では、テーブル31とベース11とを基軸線(Z)を中心として幅方向に左右対称形状とすることで、加工容易化および低コスト化を促進している。
【0022】
なお、テーブル31は、図2に2点鎖線で示した右側の後進限位置(31R)と左側の前進限位置(31L)との間(全域…テーブルの移動可能範囲:50mm)を往復移動できる。前進限位置(31L)および後進限位置(31R)は、図3に示すリミットセンサ29(29R,29L)で検出される。限位置検出信号lt(ltr,ltl)は、図6に示すように位置決め制御回路部90に送られ、緊急停止用信号として使用される。
【0023】
テーブル移動機構部40は、図4に示す如く、ベース11側に装着されたねじ軸41と,テーブル31側に装着されかつねじ軸41に螺合したナット部材45とを含み、モータ(ステッピングモータ51)から付与される移動用動力を用いてねじ軸41を回転駆動することで、ベース11に対してテーブル31をZ方向に移動(往復相対移動)可能な全域モータ駆動型である。この実施の形態では、ねじ軸41はバックラッシュ等が少ない精巧なボールねじ軸とされかつナット部材45はこれに対応する構造としてある。
【0024】
ボールねじ軸(41)の右端側はベアリング23を介してベース11に回転自在に支持され、ハニカム方式のカップリング24を介してモータ51の出力軸に連結されている。
【0025】
この実施の形態では、信号分割や制御上の取扱い容易化および現今での装置経済優位化の観点から、ボールねじ軸(41)のねじリードを1mmとしている。ただし、1mm以下のねじリード(例えば、0.5mm)として構築しても実施することができる。ステッピングモータ51は、つまみ28で手動回転させることもできる。
【0026】
動力付与部50は、モータ(ステッピングモータ51)およびモータドライバ93を含み、位置決め制御回路部90から出力されたモータ回転制御信号である回転駆動パルス信号Pd(高速回転駆動パルス信号Pdh,中速回転駆動パルス信号Pdm,低速回転駆動パルス信号Pdl)に基づき、ねじ軸41を回転駆動してテーブル31を最小で1nmずつZ方向に移動可能である。
【0027】
図6に示すモータドライバ(DRV)93は、マイクロステップドライブ型であって、1パルス当りのモータ回転角度をドライブ分割数(この実施形態では、“2000”)に応じて細分する機能を持つ。この実施形態におけるモータ51のステップ角度が0.72度(=360度×1/500)であるので、1パルス(1パルス:モータ回転制御信号Pd)当りのモータ回転角度は、0.00036度[=0.72度×(1/2000)]になる。すなわち、動力付与部50は、位置決め制御回路部90から出力されたモータ回転制御信号(回転駆動パルス信号Pd)に基づきボールねじ軸(41)を回転駆動してテーブル31をZ方向に最小で1nm[=リード(1mm)×ステップ角度(1/500)×ドライバ分割数(1/2000)]ずつ移動可能であると理解することができる。
【0028】
移動変位量検出部60は、3つの光学格子(61F、63Sおよび63T)および信号分割回路95を含み、(1nm/1パルス)の移動変位量検出信号Psdを生成出力可能に形成されている。
【0029】
詳しくは、移動変位量検出部60は、図4に示すテーブル31(ベース11側としてもよい。)に取付けられたメインスケール61(61F)と,ベース11(テーブル31側としてもよい。)に取付けられたインデックススケール63(63S,63T)と,図6に示す検出器(発光器,受光器,アンプ,演算増幅器等を含む。)65と,信号分割回路95とからなり、ベース11に対するテーブル31の移動変位量を検出可能であるとともに、検出移動変位量Psdを位置決め制御回路部90にフィードバック可能かつCPU81に出力可能に形成されている。
【0030】
テーブル31側に、図4に示すねじ軸収容空間部35を設けるとともにナット部材45とメインスケール61とを取付ける。また、ベース11側に設けられた上下に貫通する図4,図5の検出器収容空間部69内に基板68(インデックススケール63,検出器65が取付られている。)を外部から平面的姿勢変更可能に取付けてある。つまり、ベース11の下面側から、インデックススケール63の平面的姿勢を変更しつつ行なうモアレ調整および移動変位量検出部60(検出器65等)の点検調整を実行可能に構成されている。したがって、小型・軽量,低コストかつ取扱い容易で、検出可能有効長の拡大と自動位置決めが容易になる。
【0031】
さて、メインスケール61には、図4に示す第1光学格子61Fが設けられている。このスケール61は、全体としてガラス製平板形状を成しかつ幅方向形状が左右対称とされている。加工歪の左右バランスをとることで、一層の高精度検出ができる。テーブル31には光学格子面を下向き状態として取付けられている。
【0032】
インデックススケール63には、図3に示す第2光学格子63Sと第3光学格子63Tとが接近配設され、寸法短縮化と第1光学格子61Fに対する平行度の確立を容易化してある。このインデックススケール63も全体としてガラス製平板形状を成しかつ基板68に上向き状態で取付けられている。
【0033】
この基板68には、第3光学格子63Tの下方側に位置する図5に示し受光部66Jと、この手前側でかつ第2光学格子63Sの下方側に位置する発光部66Hとが取付けられている。
【0034】
発光部66Hは、図示しないLEDと集光レンズとからなり、所定傾斜角を持って基板68に取付けられている。拡散光の有効利用度を高めることができる。両スケール61,63間のギャップ(図4で上下方向間隔)を大きくすることができる。また、受光部66Jは、1チップの受光素子を図3に示した4つの第3光学格子63Tに対応させて4分割した受光素子からなる。したがって、温度特性等のバラツキを最小限に抑えられ、同一平面上の配設を自動的に保障できる。
【0035】
かかる移動変位量検出部60では、発光素子(LED)からの拡散光はそのレンズで集光されインデックススケール63上の第2光学格子63Sを透過し、メインスケール61上の第1光学格子61Fに光効率良く入射される。この際、光絶縁手段(図示省略)が設けられているので、各受光素子に拡散光が直接入射されることはない。
【0036】
メインスケール61側の第1光学格子61Fから反射された検出光は、インデックススケール63上の1箇所に集められかつ第2光学格子63Sに接近配設された4つの第3光学格子63Tを透過して、各受光素子(66J)に入射される。
【0037】
かくして、インデックススケール63とメインスケール61とを相対変位させれば、検出器65は、各受光素子からの光電変換信号(出力信号)を解析しつつ図8に示すスケール信号φA,φBを出力することができる。
【0038】
第2光学格子63Sおよび各第3光学格子63Tが、インデックススケール63の長手(Z)方向に接近配設されているので、第2光学格子63Sおよび各第3光学格子63Tを含む平面と第1光学格子61Fを含む平面との平行度を比較的に簡単に調整できる。取扱いが容易で、装置の小型化および低コスト化も図れる。
【0039】
メインスケール61の第1光学格子61F並びにインデックススケール63の第2光学格子63Sおよび第3光学格子63Tの各明線(幅)および暗線(幅)は、それぞれ2μmとされている。つまり、第1光学格子61F,第2光学格子63Sおよび第3光学格子63Tの各明暗目盛ピッチを電子線描画後に転写複製可能でコスト低減効果が大きな4μmとしてある。
【0040】
図8において、検出器65から出力されるスケール信号φA,φBの各1周期は2μmで、中心電圧Vrが2.5Vで、振幅電圧Vppが2Vである。信号分割回路95は、スケール信号(正弦波で90度の位相差を持つφA相およびφB相の検出信号)を2000分割した分割後検出パルス信号(移動変位量検出信号)Psdを生成出力(図6を参照)する。つまり、移動変位量検出部60の最小検出分解能を1nmとすることができる。
【0041】
ここに、位置決め制御回路部90は、図示しない偏差カウンタ,信号切換素子等を含み、オープンループ制御による高速回転用のモータ回転制御信号(Pdh),クローズドループ制御による中速回転用のモータ回転制御信号(Pdm)および低速回転用のモータ回転制御信号(Pdl)を、この順序で切換えてモータドライバ93へ出力可能に形成されている。
【0042】
クローズドループ制御は、位置決め制御回路(偏差カウンタ等)90を働かせ、運転制御部80(パルス信号制御部85)から入力される指令値(指令パルス信号Psz)を目標位置信号(指令信号)としかつ移動変位量検出部60(信号分割回路95)から入力される移動変位量検出信号(分割後パルス信号Psd)をフィードバック信号として駆動パルス信号(PdmまたはPdl)を生成出力させる、ことで実行される。
【0043】
オープンループ制御は、運転制御部80(パルス信号制御部85)から入力される指令値(指令パルス信号Psz)を素通り状態でそのまま駆動パルス信号(Pdh)として生成出力させる、ことで実行される。
【0044】
高速回転用駆動パルス信号(モータ回転制御信号)Pdhに基づくモータ51の高速回転速度は、ステッピングモータ51の許容最大速度[f=500KHz]と同じ値つまり最大回転速度(fh=500KHz…0.500mm/s)に選択されている。そして、高速回転用のモータ回転制御信号は、高速回転用周波数fh(500KHz)の駆動パルス信号Pdhとして出力される。
【0045】
すなわち、テーブル移動時間の短縮化のために、ボールねじ軸(構造)41の累積代表リード誤差E[=(累積代表リード)−(累積基準リード)=800nm]に至る以前の行程(距離)については、許容最大速度で移動させるわけである。なお、“累積代表リード”とは、累積実リードの傾斜を代表する直線で、ボールねじ(41)の有効移動量(または、ねじ部有効長さ)に対する累積実リードを示す曲線から、最小二乗法(または、それに類する近似法)により求められる。“累積実リード”とは、連続測定による累積リード線図からその平均的傾向を求めたものである。また、“累積基準リード”とは、基準リードに従って任意の回転数で回転させたときの累積リードである。
【0046】
また、低速回転用駆動パルス信号(モータ回転制御信号)Pdlに基づくモータ51の低速回転速度は、オーバーランの発生を防止することのできる回転速度つまり最小速度(0.0002m/Sec)に選択されている。低速回転用モータ回転制御信号は、低速回転用周波数fl(200Hz)の駆動パルス信号Pdlとして出力される。
【0047】
そして、中速回転用駆動パルス信号(モータ回転制御信号)Pdmに基づくモータ51の中速用回転速度は、それらの中間の値とする。すなわち、高速制御用の偏差許容値Eh(=Max.800nm)を解消するためのテーブル移動動作を迅速に行い、その時間短縮を図ることを目的として選択される。中速回転用周波数fmは、低速回転用周波数f1(200Hz)の値の10倍以上の値(2KHz)に選択するのが好ましい。なお、中速回転駆動工程は複数(例えば、2段階)としても実施することができる。
【0048】
また、中速回転駆動範囲を、テーブル移動機構部(ボールねじ軸構造等)40の特性上の誤差E[相当距離(800nm)]の7.9%に相当する中距離範囲(Max.63nm)に選択し、低速回転駆動範囲を移動変位量検出部60の検出最小分解能(1nm)に相当する距離(1nm)の±100%に相当する小距離範囲(±1nm)に選択してある。この小距離範囲が後記のインポジション範囲の値である。
【0049】
かくして、図8に示すように、中速回転駆動時間(約0.37秒)と低速回転駆動時間(約0.31秒)の和である短時間(0.68秒)で最終位置決めすることができる。因みに、中速回転駆動を行なわずかつ低速回転駆動のみで誤差E(Max.800nm)を解消する場合は、10倍(=4.00秒=800nm/200Hz)の時間が掛かる。
【0050】
図6において、位置決め駆動制御ユニット70には、運転制御部80(CPU81,ROM82およびRAM83)とパルス信号制御部85と位置決め制御回路部90と動力付与部50の一部を構成するモータドライバ93と移動変位量検出部60の一部を構成する信号分割回路95とが組込まれている。
【0051】
CPU81は、ROM82に格納された設定記憶制御プログラムに基づき設定部(PNL)71等を用いて設定入力された情報を受信しかつデータ処理するとともに、受信した記憶対象情報についてはRAM83のワークエリアに記憶する。
【0052】
なお、記憶対象情報ごとに複数の設定値を予めセットしておき、その中の1つを例えばディップスイッチを用いて選択してワークエリアに記憶するように構築してもよい。また、記憶対象情報(例えば、目標位置)は、ROM82に格納された固定値(例えば、低速回転用偏差許容値)を読み込みかつその値をそのままワークエリアに記憶するようにしてもよい。
【0053】
ワークエリアへの記憶対象情報としては、この実施の形態では、高・中・低速回転用周波数fh(500KHz)・fm(2KHz)・fl(200Hz)と、高・中・低速回転用目標位置と、移動変位量(目標位置…10mm)等の各設定値である。なお、高・中低速回転速度制御用の目標位置は、高・中低速用偏差許容値Eh(Max.800nm)・Em(Max.63nm)以内の値にそれぞれ設定記憶しておけばよいが、以下ではオープンループ制御による高速回転用目標位置を800nm、クローズドループ制御用目標位置を[(63−α)]nmとして設定記憶した場合について説明する。αは、例えば6nmとする。もとより、クローズドループ制御に関する低速用目標位置つまり最終的な目標位置は低速回転用偏差許容値Elと等しい±1nmとして設定する。
【0054】
なお、固定値つまりモータドライバ93およびステッピングモータ51の特性で決まる最大回転用周波数fmax.(=500KHz=fh)や偏差許容値Eh(Max.800nm)等は、予めROM62に格納(記憶)されている。
【0055】
また、CPU81は、ROM82に格納された表示制御プログラムに基づき各種の表示対象情報を表示部(IND)72に送信して表示させる。表示対象情報としては、目標位置(設定移動変位量),現在位置(テーブルの実際移動変位量および現在偏差)等である。また、各種の設定値を選択的に表示することもできる。
【0056】
次に、パルス信号制御部85は、発振器等を含み運転制御部80(CPU81)からの指令に従って当該指令に対応する周波数(fh,fmまたはfl)のパルス信号(指令信号)Pszを位置決め制御回路部90に生成出力可能に形成されている。
【0057】
ここに、運転制御部80(CPU81)は、指令に従いRAM83から位置決め指令量(目標位置)を読込み[図7のST10でYES(Yと記してある。),ST11]、引続き高速オープンループ制御用の出力すべきパルス数および周波数の指定を含む位置決め指令信号OPNを出力する。この指令信号OPNを受信したパルス信号制御部85は、指令パルス信号Psz[高速回転用周波数fhおよび高速回転用目標位置(800nm)に対応する数の高速駆動パルス信号Pdh]を生成出力する。
【0058】
すると、位置決め制御回路部90が、オープンループ制御に切換えたままの状態で高速駆動パルス信号Pdhをモータドライバ93に送り(素通りさせ)、モータ51を高速回転させる(ST12)。テーブル31は、図8に示す高速(0.500mm/Sec)で図4のZ方向(例えば、右方向)に高速移動する。
【0059】
この高速回転中に、CPU81は移動変位量Psdを現在位置として読込み(ST13)、RAM83に記憶された高速回転用偏差許容値(Eh=Max.800nm)に相当するものとして設定記憶された高速回転用目標位置(800nm)に到達したか否かを判別する(ST14)。この場合の運転制御部80(CPU81,ROM82)は、移動変位量読込み制御手段,偏差判別手段として働く。
【0060】
そして、運転制御部80(CPU81,ROM82)は、テーブル31の移動変位量が(10mm−800nm)に至っていない場合つまり高速回転用目標位置(800nm)に到達していないと判別[図7のST14でNO(Nと記してある。)]した場合は、高速回転を続行させる。高速回転用目標位置(800nm)に到達していると判別(ST14でYES)できた場合には、オープンループ制御からクローズドループ制御への切換指令、中速クローズドループ制御用のパルス数および周波数の指定を含む位置決め指令信号CLSDを出力する。この指令信号CLSDを受信したパルス信号制御部85は、中速回転用周波数fmの指令パルス信号Pszを生成出力する。
【0061】
すると、位置決め制御回路部90は、移動変位量検出部60(95)から読込んだ移動変位量(分割後検出パルス信号Psd)をフィードバック信号とするクローズドループ制御に切換えかつ生成した中速駆動パルス信号Pdmをモータドライバ93に送り、モータ51を中速回転させる(ST15)。テーブル31は、図8に示す中速(0.002mm/s)で移動され、中速回転用の目標位置に向けて位置決めされる。
【0062】
この中速回転中に、CPU81は移動変位量Psdを連続読込み(ST16)しつつ、中速回転用の偏差許容値(Em=±63nm)に相応するものとしてRAM83に設定記憶されている目標位置(63−α)nm以内に到達しているか否かを判別する(ST17)。この場合も、運転制御部80(CPU81,ROM82)は、移動変位量読込み制御手段,偏差判別手段として働く。
【0063】
そして、目標位置(63−α)nmに到達していないと判別(ST17でNO)した場合は、中速回転を続行させる。到達していると判別(ST17でYES)できた場合、運転制御部80(81)は低速クローズドループ制御用のパルス数および周波数の指定を含む位置決め指令信号CLSD2を出力する。この指令信号CLSD2を受信したパルス信号制御部85は、低速回転用周波数flの指令パルス信号Pszを生成出力する。
【0064】
すると、位置決め制御回路部90は、移動変位量検出部60(95)から読込んだ移動変位量(分割後検出パルス信号Psd)をフィードバック信号とするクローズドループ制御に切換えたままの状態で低速駆動パルス信号Pdlをモータドライバ93に送り、モータ51を低速回転させる(ST18)。テーブル31は、図8に示す低速(0.0002mm/s)で移動され、低速回転用つまり最終の目標位置(±1nm)に向けて位置決め制御される。
【0065】
上述の通り、低速回転用周波数flの値を、オーバーラン発生を防止することができる低速度(0.0002mm/s)つまり200Hzに選択してあるから、低速回転駆動終了時には確実に移動変位量検出部60の最小分解能(1nm)および駆動パルス信号Pdlの移動量(1nm/1パルス)に相当する高精度(1nm)で位置決め停止できている筈である。
【0066】
しかし、この従来の考え方は、位置決め精度が10nm程度の位置決め装置[例えば、先提案(特許文献6)の装置]を確立する場合に有効(適合)であるが、特に1nm以下の高精度位置決めを保証する装置の場合は適合外と言える。
【0067】
すなわち、本発明を創生するに先立つ試験研究によれば、高精度(1nm以下)であるが故の固有的外乱の侵入に係る不安定要因が存在することが認められた。つまり、最終位置決め精度(1nm以下)を安定かつ確実に保証できない事態が生じている。つまり、例えば図10に示した場合のように、位置決め精度(±1nm以下)を中心にハンチングが生じ最終位置決めができない事態、結果として±1nmを超える精度で位置決め完了となる事態や、一旦位置決め完了した後に最終位置決め精度(±1nm)を中心として変動してしまう事態等である。
【0068】
この原因は、クローズドループ制御による低速回転駆動終了時点において、微妙な機械的振動が発生する場合があり、高分解能(1nm)の移動変位量検出部60がその振動を変位量(偏差)として検出しかつ位置決め制御回路部(偏差カウンタ)90が偏差打消用の低速回転駆動パルス信号Pdlを生成出力することにある。この偏差打消用の低速回転駆動パルス信号Pdlは、本来的制御内容から外れた見掛け発生信号(Pdz)であって、位置決め制御上、無用であるばかりか有害なものである。
【0069】
かくして、低速回転駆動終了時点に機械的振動が発生しない構造を具現化すべく検討した。例えば、ステージ10の要所に重厚な防振ゴムを装着する。ステージ10(11,31等)の機械的な剛性を高くする等である。しかし、いずれも構造複雑化および装置大型化やコスト高を招来する欠点がある。これら欠点を忍受することとしあるいは例えば低速回転用速度を一段と低い値に設定したとしても、機械的振動を完全に払拭することは至難であった。
【0070】
しかしながら、この固有かつ特殊な問題を解消しなければ、現実的な装置の普及拡大は到底できない。そこで、心ならずも低速回転駆動終了時における機械的振動の発生を前提に詳細検証した結果、位置決め制御終了時に発生する機械的振動は最終位置決め精度(乃至移動変位量検出精度)との関係で決まる一定の時間(期間)内に低速位置決め完了と看做しても支障の無い程度の値に収斂することを検証できた。
【0071】
具体的には、この実施形態に係るステージ10の構造(特に、テーブル31の大きさ…質量0.5kg)では、Z方向の振幅wzが±1nm内に減衰するまでの期間(時間長)は12〜14mSecであった。最大荷重は上記した10kgである。これを中心としたステージ10(テーブル31)の大型化(例えば、テーブル31の平面形状を200mm×200mmとする。)あるいは小型化(例えば、100mm×100mmとする。)しても、この程度の大きさ(構造)の違いでは、やはり±1nmを越える振幅は認められなかった。テーブル質量の増減量が最大荷重10kgに対して非常に小さいからと思われる。因みに、この実施形態(装置…ボールねじ軸)の共振周波数は、約470Hzである。
【0072】
ところで、軸のラジアル方向の振動(振幅)は対数減衰特性に従い減衰しかつゼロに収斂する。しかし、実際にはねじ軸41の弾性変形(Z方向の圧縮か引張りかで振幅方向のズレの大きさが異なる。)が重畳されるので、収斂(減衰)に必要な時間が長引く。このために上記の12〜14mSecでは、収斂し得ない場合がある。かくして、使用状態等を勘案しかつ振幅が±(1〜0.5)nm以下に減衰するまでの時間は、弾性変形の影響分(6〜8mSec)を加味した20mSecが妥当あると確信する。振幅が±1nm以下に減衰するまでの時間としては十二分であるといえる。
【0073】
一方において、はねじ軸41の弾性変形による振幅方向のズレの程度によっては、まだ十分に減衰されていない場合でも、極短時間(例えば、10mSec以下)だけインポジション範囲(±1nm以下)内の値になるケースが見受けられる。図10(A)において、スケール信号φAによる評価によれば、極短時間(約10mSec)経過後はアウトポジションになる。他方、スケール信号φAの周波数(例えば、25Hz)が同じでも、図10(B)の場合は弾性変形による影響が少ないので20mSecだけインポジション範囲に入っている。図10(C)に示す如く、弾性変形による振幅方向が逆として影響する場合は、20mSec以上の時間(例えば、30mSec)だけインポジション範囲に入っている。したがって、低速回転制御を終了させるための時期(時点)を決定することは、難しいが極めて重要な問題である。
【0074】
ここにおいて、推定位置決め完了信号出力手段(100)と制御終了確認信号発生手段(105)と確定位置決め完了信号出力手段(107)と低速回転制御終了手段(81、82)とを設け、確定位置決め完了信号S3が出力(L→Hレベル)された場合に低速回転制御を強制終了させるように形成してある。
【0075】
推定位置決め完了信号出力手段は、低速回転中に入力された指令信号(目標位置)Pszと移動変位量検出信号Psdとの差分を求めかつその差分が予め設定されたインポジション範囲(±1nm=±1カウント)内の値であることを条件に推定位置決め完了信号S1を出力する。この実施の形態では、図9に示す偏差カウンタ100から形成されている。なお、偏差カウンタ100は、位置決め制御回路部90内の偏差カウンタ等を兼用する構造としてもよい。
【0076】
すなわち、偏差カウンタ100は、指令パルス信号(Psz)をプラスカウントしかつ検出パルス信号Psdをマイナスカウントする。カウント値(偏差)は両パルス信号の差分である。この差分が設定インポジション範囲(±1カウント)内の値であることを条件に、図9、図11(A)に示す推定位置決め完了信号S1を出力(Hレベル)する。インポジション範囲の値(±1カウント)は、この偏差カウンタ100に付帯されたスイッチ(インポジション範囲設定手段)101を用いて設定されている。
【0077】
次に、制御終了確認信号発生手段は、推定位置決め完了信号S1が出力される度に予め設定された時間長の制御終了確認信号S2を繰返し発生可能な図9のパルス発生器105から形成されている。つまり、図11(A)、(B)に示す如く、推定位置決め完了信号S1が出力(Hレベル)される度にそれを符号(↑)で示したトリガ信号(L→Hレベル)として制御終了確認信号S2をその都度に発生(Hレベル)する。この実施の形態では図11(B)に示すように、再トリガ信号S1(L→Hレベル)で制御終了確認信号S2(Hレベル)を延長する形式としている。もとより、最後に出力された制御終了確認信号S2の出力時点は分かる。
【0078】
この制御終了確認信号S2の時間長(例えば、20mSec)は、内蔵する時間長設定器106で設定される。但し、時間長が20mSec以上ならよいといって長時間(例えば、30mSecを超えるような時間)に設定すると無駄時間を費やすことになり、迅速位置決めを阻害する虞がある。つまり、30mSecを超える時間長を設定することは不利であり、迅速位置決めを阻害する。
【0079】
確定位置決め完了信号出力手段(図9の完了信号発生器107)は、最後に出力された制御終了確認信号S2が設定時間長(20mSec)だけ継続発生(Hレベル)されていたことを条件にかつ当該時間長経過時に確定位置決め完了信号S3を出力(Hレベル)する。この実施の形態では、図11(B)に示すように20mSec経過時(H→Lレベル)に確定位置決め完了信号S3を出力(L→Hレベル)する。なお、完了信号発生器107は、リセット信号(例えば、指令パルス信号Psz)でリセットされる。リセット信号としては、この信号(Psz)に限定されない。
【0080】
低速回転制御完了手段は、図6に示す低速回転制御完了プログラムを格納させたROM82とこのプログラムを実行するCPU81とから形成され、確定位置決め完了信号S3が出力された場合(図7のST20でYES)に、低速回転制御を強制終了(ST21)させる手段である。この実施の形態では、位置決め制御回路部90から出力され得る機械的振動等に起因する見掛けのモータ回転制御信号(Pdz)をモータドライバ93側に出力できないように構築してある。したがって、ハンチングを防止することができる。
【0081】
確定位置決め完了信号S3が出力されない場合(ST20でNO)は、低速回転制御が続行される(ST18)。まだ、機械的振動が収斂しきれていないので、インポジション範囲内に維持するための制御を続行させる。この制御は、図12に示すフィードバック制御エリアAPsd内で行われる。分割後検出パルス信号Psdによるフィードバック位置決め制御である。なお、指令位置決め制御エリアAPz内は、指令パルス信号Pszによる指令位置決め制御である。
【0082】
以上では、推定位置決め完了信号出力手段(100)、制御終了確認信号発生手段(105)および確定位置決め完了信号出力手段(107)をハードウエア(ロジック回路等)から形成した場合について説明したが、これらは低速回転制御終了手段(81,82)の場合と同様にハードウエアおよびソフトウエアにより構築してもよい。また、インポジション範囲設定手段(101)および時間長設定器(106)も他の構造(設定部71、CPU81,ROM82,RAM83等)から形成してもよい。
【0083】
この実施の形態に係る位置決め装置では、図7,図8を参照して、オープンループ制御によりテーブル31はZ方向に当該装置(51等)の許容最高と同じ値の高速(0.500mm/s)で移動される。最小分解能が1nmである移動変位量検出部60を用いて検出したテーブル現在位置が偏差許容値(800nm)相当の設定目標位置内に入ると、クローズドループ制御に切換えら、中速(0.002mm/s)で移動される。引続き、現在値が偏差許容値(±63nm)相当の設定目標位置[(63−α)nm]内に入ると、クローズドループ制御のまま、オーバーランの心配がない低速(0.0002mm/s)で移動される。
【0084】
したがって、テーブル移動機構部40の誤差E(800nm)を打消して±1nmの高精度位置決めを終了するまでの時間を大幅に短縮(0.68秒=0.37+0.31)することができる。誤差打消工程を低速回転駆動のみで行なう場合の必要時間は4.00秒(=800/200)である。
【0085】
低速回転駆動(制御)中、図9に示す偏差カウンタ100は、指令信号(目標位置)Pszと移動変位量検出信号Psdとの差分が予め設定されたインポジション範囲(±1nm=±1カウント)内の値であることを条件に推定位置決め完了信号S1を出力する[図10(B),(C)、図11(A)]。
【0086】
図9のパルス発生器105は、推定位置決め完了信号S1が出力されると設定時間長(20mSec)の制御終了確認信号S2を発生[図11(A)]する。推定位置決め完了信号S1が出力される度に繰返し発生[図11(B)]されている。
【0087】
図9の完了信号発生器107は、最後に発生された制御終了確認信号S2が設定時間長(20mSec)だけ継続発生(Hレベル)されていたことを条件にかつ20mSec経過時(H→Lレベル)に確定位置決め完了信号S3を出力(L→Hレベル)する[図11(A)]。機械的振動の周波数の高低に拘わらずに正確な減衰期間管理を行なえる。
【0088】
ここに、低速回転制御完了手段(81,82)は、確定位置決め完了信号S3が出力された場合(図7のST20でYES)に、低速回転制御を強制終了(ST21)させる。図6の位置決め制御回路部90から出力され得るモータ回転制御信号(Pdl)をモータドライバ93側に出力できない。
【0089】
すなわち、推定位置決め完了信号S1が出力された以降は、図12(A)に示す如く、指令位置決め制御エリアAPz内での指令パルス信号Pszによる指令位置決め制御と、これに引き続くフィードバック制御エリアAPsd内での分割後検出パルス信号Psdによるフィードバック位置決め制御とが行われる。フィードバック位置決め制御終了後の機械的振動の減衰期間中に、極短時間の推定位置決め完了信号S1tが再出力された場合、制御終了確認信号S2は再出力される(延長)が確定位置決め完了信号S3は出力されない。再出力された制御終了確認信号S2が20mSecだけ継続されていた場合に、確定位置決め完了信号S3が出力される。
【0090】
この通常的で実際的なケースの下に、比較便宜のためにテーブル31を介してねじ軸41に人為的な軽い外力(片手で一瞬叩いてみた。)を強制的に加えた場合を、図12(B)に示す。同図において、フィードバック位置決め制御終了後に加えた外力に起因する機械的振動が発生すると、短時間内に多数の推定位置決め完了信号S1mが繰り返し出力される。しかし、各推定位置決め完了信号S1mはいずれも20mSec以内で消失してしまう。つまり、最後に出力され制御終了確認信号S2が20mSecだけ継続されていないから、確定位置決め完了信号S3は出力されない。つまり、インポジション範囲内に確実に追い込める。すなわち、安定した位置決め制御を確実に担保できかつ何時でも何処で使用しても高精度(±1nm)位置決めを保障できる。
【0091】
この低速回転駆動・制御を含む全域をモータ連続駆動により制御するので、粗動(ねじ軸駆動)および微動(ピエゾアクチュエータ駆動)の切換構造の欠点を一掃することができる。つまり、移動変位量を大きくでき、連続駆動による移動時間の短縮ができ、ボールねじ軸41を傾斜状態や垂直状態としても使用でき、垂直状態でかつ負荷を引上げる態様でも使用できる。
【0092】
しかして、この実施の形態によれば、テーブル移動機構部40をリード1mm以下のねじ軸41を利用した全域ねじ回転駆動型とし、動力付与部50をステッピングモータ51等を含むモータ回転駆動型としかつ位置決め制御回路部90から生成出力されたモータ回転制御信号(Pd)に基づきテーブル31を最小で1nmずつ移動可能に形成し、移動変位量検出部60を明・暗線が2μmの3つの光学格子61f,63S,63Tおよび信号分割数が2000の信号分割回路95を含み1パルス当たり1nmの移動変位量検出信号(Psd)を生成出力可能に形成し、位置決め制御回路部90をオープンループ制御による高速回転,クローズドループ制御による中速および低速回転をこの順序で切換え出力可能かつ高速回転速度を最大回転速度としかつ低速回転速度をオーバーラン発生防止可能な最小回転速度として回転制御可能に形成し、さらに推定位置決め完了信号出力手段(100)と制御終了確認信号発生手段(105)と確定位置決め完了信号出力手段(107)とを設け、低速回転中に設定時間(20mSec)継続してインポジション範囲内にある場合に低速回転制御を終了させる構成であるから、1nmの高精度位置決めを迅速かつ安定して行なえる全域ねじ駆動型の小型軽量なテーブル位置決め装置を提供することができる。
【0093】
また、インポジション範囲の値が±1カウントに設定されかつ設定時間長が20〜30mSecの中から任意の値に選択設定できるから、設置環境や使用状態に対する適応性が広い。
【0094】
推定位置決め完了信号出力手段、制御終了確認信号発生手段および確定位置決め完了信号出力手段が、ハードウエア(100、105、107)から形成されているので、迅速処理できる。CPU81等のデータ処理負担も軽減できる。
【0095】
また、移動変位量検出部60がステージ10内に収容されているので、テーブル31をベース11から分解取外ししなくても、モアレ調整等を外部から簡単に行なえるとともに、使用中は密閉状態となるから塵芥の侵入や付着を防止できる。
【0096】
また、各第3光学格子63Tが1箇所に集められかつインデックススケール63の長さ方向に接近配設されているので、Z方向の装置寸法をより小型化できるとともに、第1光学格子61Fを含む平面に対する平行度をより簡単かつ迅速に確立できる。
【0097】
(第2の実施の形態)
この実施の形態は、基本的構成(10、40、50、60、90,100、105、107等)およびこれらの機能が第1の実施形態の場合(図1〜図12)と同様とされているが、以下の点が異なる。
【0098】
すなわち、テーブル31を最小で0.5nmずつ移動可能に形成し、信号分割回路95の信号分割数が4000とされかつ1パルス当たり0.5nmの移動変位量検出信号Psdを生成出力可能に形成されている。また、ドライブ分割数は、“4000”とされている。したがって、動力付与部50は、位置決め制御回路部90から出力されたモータ回転制御信号(回転駆動パルス信号Pd)に基づきボールねじ軸(41)を回転駆動してテーブル31をZ方向に最小で0.5nm[=リード(1nm)×ステップ角度(1/500)×ドライバ分割数(1/4000)]ずつ移動可能である。
【0099】
したがって、この実施の形態によれば、第1の実施形態の場合と同様な効果を奏することができかつ0.5nmの超高精度位置決めを迅速に行なえる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、テーブルを高精度(±1nm以下)で迅速に位置決めできかつ安定動作を担保できる。特に、ナノテク試験研究(例えば、光ファイバーの調芯,微細近接場での測定等)で必要とするテーブル位置決めに極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るステージを説明するための平面図である。
【図2】同じく、ステージを説明するための側面図である。
【図3】同じく、テーブルを取外した状態のステージを説明するための示す平面図である。
【図4】同じく、図3の矢視線A−Aに基づく側断面図である。
【図5】同じく、図4の矢視線B−Bに基づく横断面図である。
【図6】同じく、位置決め駆動制御ユニットを説明するためのブロック図である。
【図7】同じく、位置決め駆動制御動作を説明するためのフローチャートである。
【図8】同じく、位置決め駆動制御動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図9】同じく、推定位置決め完了信号出力手段、制御終了確認信号発生手段および確定位置決め完了信号出力手段を説明するためのブロック図である。
【図10】同じく、移動変位量検出量の変動による偏差とインポジション範囲との関係を説明するためのタイミングチャートで、(A)はインポジション状態が20mSec以下の場合、(B)はインポジション状態が20mSecの場合、(C)はインポジション状態が20mSec以上の場合を示す。
【図11】同じく、位置決め完了信号等の関係を説明するためのタイミングチャートで、(A)は推定位置決め完了信号が単発的に出力された場合、(B)は推定位置決め完了信号が繰り返し出力された場合を示す。
【図12】同じく、位置決め完了信号等の関係を説明するためのタイミングで、(A)機械的振動の影響が無い場合、(B)は人為的に与えた外力による機械的振動の影響がある場合を示す。
【符号の説明】
【0102】
10 ステージ
11 ベース
31 テーブル
40 テーブル移動機構部
41 ねじ軸(ボールねじ軸)
45 ナット部材
50 動力付与部
51 ステッピングモータ
55 モータドライバ
60 移動変位量検出部
61 メインスケール
63 インデックススケール
70 位置決め駆動制御ユニット
80 運転制御部
90 位置決め制御回路部(偏差カウンタ等を含む)
93 モータドライバ
95 信号分割回路
100 偏差カウンタ(推定位置決め完了信号出力手段)
105 パルス発生器(制御終了確認信号発生手段)
107 完了信号発生器(確定位置決め完了信号出力手段)
Z 基軸線
Pd 駆動パルス信号(モータ回転制御信号)
Pdh 高速駆動パルス信号(高速回転用モータ回転制御信号)
Pdm 中速回転駆動パルス信号(中速回転用モータ回転制御信号)
Pdl 低速駆動パルス信号(低速回転用モータ回転制御信号)
Pdz 機械的振動に起因する見掛け駆動パルス信号
Psd 分割後検出パルス信号(移動変位量検出信号)
S1 推定位置決め完了信号(トリガ信号)
S2 制御終了確認信号
S3 確定位置決め完了信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージを構成するテーブルをベースに対して移動可能なテーブル移動機構部と、このテーブル移動機構部に移動用動力を付与する動力付与部と、テーブルの移動変位量を検出する移動変位量検出部と、テーブルを目標位置に位置決めするためのモータ回転制御信号を動力付与部へ生成出力する位置決め制御回路部とを具備するテーブル位置決め装置において、
前記テーブル移動機構部が、ねじ軸を利用したねじ回転駆動型とされかつねじリードが1mm以下に選択され、
前記動力付与部が、ステッピングモータおよびモータドライバを含むモータ回転駆動型とされかつ該ステッピングモータをねじ軸に直結するとともに前記位置決め制御回路部から生成出力されたモータ回転制御信号に基づきねじ軸を回転駆動して前記テーブルを最小で1nmずつ移動可能に形成され、
前記移動変位量検出部が、3つの光学格子および信号分割回路を含み各光学格子の明線および暗線がそれぞれ2μmとされかつ信号分割回路の信号分割数が2000とされるとともに1パルス当たり1nmの移動変位量検出信号を生成出力可能に形成され、
前記位置決め制御回路部が、オープンループ制御による高速回転用,クローズドループ制御による中速回転用および低速回転用のモータ回転制御信号をこの順序で切換え出力可能であるとともに高速回転速度を最大回転速度としかつ低速回転速度をオーバーラン発生防止可能な最小回転速度として回転制御可能に形成され、
低速回転中に入力された前記目標位置である指令信号と前記移動変位量検出信号との差分を求めかつその差分が予め設定されたインポジション範囲内の値であることを条件に推定位置決め完了信号を出力する推定位置決め完了信号出力手段と、推定位置決め完了信号が出力される度に予め設定された時間長の制御終了確認信号を繰返し発生可能な制御終了確認信号発生手段と、最後に出力された制御終了確認信号が当該時間長だけ継続発生されていたことを条件にかつ当該時間長経過時に確定位置決め完了信号を出力する確定位置決め完了信号出力手段とを設け、
確定位置決め完了信号が出力された場合に該低速回転制御を終了させるように形成されている、テーブル位置決め装置。
【請求項2】
請求項1のテーブル位置決め装置において、
前記インポジション範囲の値が±1カウントに設定されかつ前記設定時間長が20〜30mSecの中から選択された値に設定されている、テーブル位置決め装置。
【請求項3】
ステージを構成するテーブルをベースに対して移動可能なテーブル移動機構部と、このテーブル移動機構部に移動用動力を付与する動力付与部と、テーブルの移動変位量を検出する移動変位量検出部と、テーブルを目標位置に位置決めするためのモータ回転制御信号を動力付与部へ生成出力する位置決め制御回路部とを具備するテーブル位置決め装置において、
前記テーブル移動機構部が、ねじ軸を利用したねじ回転駆動型とされかつねじリードが1mm以下に選択され、
前記動力付与部が、ステッピングモータおよびモータドライバを含むモータ回転駆動型とされかつ該ステッピングモータをねじ軸に直結するとともに前記位置決め制御回路部から生成出力されたモータ回転制御信号に基づきねじ軸を回転駆動して前記テーブルを最小で0.5nmずつ移動可能に形成され、
前記移動変位量検出部が、3つの光学格子および信号分割回路を含み各光学格子の明線および暗線がそれぞれ2μmとされかつ信号分割回路の信号分割数が4000とされるとともに1パルス当たり0.5nmの移動変位量検出信号を生成出力可能に形成され、
前記位置決め制御回路部が、オープンループ制御による高速回転用,クローズドループ制御による中速回転用および低速回転用のモータ回転制御信号をこの順序で切換え出力可能であるとともに高速回転速度を最大回転速度としかつ低速回転速度をオーバーラン発生防止可能な最小回転速度として回転制御可能に形成され、
低速回転中に入力された前記目標位置である指令信号と前記移動変位量検出信号との差分が予め設定されたインポジション範囲内の値であることを条件に推定位置決め完了信号を出力可能で、推定位置決め完了信号が出力される度に予め設定された時間長の制御終了確認信号を繰返し発生可能であるとともに最後に出力された制御終了確認信号が当該時間長だけ継続発生されていたことを条件にかつ当該時間長経過時に確定位置決め完了信号を出力可能に形成し、この確定位置決め完了信号が出力された場合に該低速回転制御を終了させるように形成されている、テーブル位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−26094(P2009−26094A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188955(P2007−188955)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(394022967)シグマテック株式会社 (3)
【Fターム(参考)】