説明

デルタドープ構造の形成方法

【課題】シリコンなどの結晶層の中に、ボロンのデルタドープ層が容易に形成できるようにする。
【解決手段】励起光を、第1半導体層の表面に照射した状態で(ステップS101)、第1半導体層の上にボロン原子を含む第1ソースガスを導入してボロン導入層を形成し(ステップS102)、引き続き、励起光が照射されているボロン導入層の上に第2ソースガスを導入して第2半導体層を形成する(ステップS103)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン、ゲルマニウム、あるいはシリコンゲルマニウム混晶の半導体の層にボロンを浅くドーピングしたデルタドープ構造の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体デバイスの高密度集積化により、ドーピング技術の重要性が増している。例えば、よく知られたCMOSデバイスにおいて、不純物のドーピング層を薄くして浅い接合を形成することで、CMOS素子を基板の厚さ方向(縦方向)に積層して形成することができるようになる。このように、CMOS素子を積層することで、例えば、よりいっそうの集積度向上が図れる。
【0003】
このような浅い接合を形成することを目的とし、最近では、高精度なドーピング法の開発が行われている。代表的なものとして、プラズマドーピングがある。ボロンによるp型ドーピングに話を限るとすれば、B26やBF3などの水素化ボロンガスをプラズマで励起し、比較的低いエネルギーで基板表面へ照射すると、浅いドーピングが可能となる。またクラスターイオンビームをボロン源に用いて電場で加速すると、1核種あたりの運動エネルギーは小さくなるので、基板中への侵入深さは小さく、浅いドーピングが得られる。
【0004】
このような表面から浅い場所へ行うドーピング技術の他に、デルタドーピングと呼ばれる技術がある。デルタドーピングは、数原子層の厚みで高濃度にドーピングを行い、ドーピングした数原子層の領域に多数のキャリアを閉じ込めることを目的とするものである。これこそ究極の局所ドーピング法であって、前述したCMOSデバイスを縦方向へ積層する場合には、デルタドーピングによる局所ドーピングは、必須の技術となる。また、デルタドーピングは、量子デバイスなどへの応用も考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Tatsumi,et al. , "Activation efficiency of a B√3×√3/Si(111) structure covered with molecular beam deposited amorphous SI or SiOx", Appl. Phys. Lett. , vol.57, no.1, pp.73-75, 1990.
【非特許文献2】Z.Zhang et al. , "B/Si(100) surface: Atomic structure and epitaxial Si overgrowth", J. Vac. Sci. Technol. B, vol.14, no.4, pp.2684-2689, 1996.
【非特許文献3】T.Tatsumi et al. , "Surface Segregation at Boron Planar Doping in Silicon Molecular Beam Epitaxy", Japanese Journal of Applied Physics, vol.27, no.6, pp.L945-L956, 1988.
【非特許文献4】H. Jorke and H. Kibbel, "Boron delta doping in Si and Si0.8Ge0.2 layers", Appl. Phys. Lett. , vol.57, no.17, pp.1763-1765, 1990.
【非特許文献5】D.J.Godbey and M.G.Ancona, "Ge segregation during the growth of a SiGe buried layer by molecular beam epitaxy", J.Vac.Sci.Technol. B, vol.11, no.3 ,pp1120-1123, 1993.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、シリコン系の素子において、上述したデルタドーピングの構造を形成するためには、表面からある一定の深さへイオンを打ち込んで分布させ、これをアニールすることで形成できる。例えば、3価の原子であるボロンによりシリコン層にデルタドーピング構造を形成することで、p型の浅い接合が形成できる。しかしながら、イオンの持つエネルギーが高いため、打ち込まれたボロンイオンの分布は、深さ方向にかなりの空間的拡がりを有することになる。さらに、イオン打ち込みによりダメージを受けたシリコン層の結晶性を回復するためには、ポストアニール工程が不可欠であり、この加熱の際に相当な量のボロン原子が上下に拡散してしまう。
【0007】
上述したイオン打ち込みの他に、ボロンをシリコン基板表面上へ導入し、この上にシリコン層を形成することで、形成したシリコン層の下にボロンのデルタドーピング構造を形成する技術がある。この技術では、ボロン導入層(ボロンデルタドープ層)およびシリコン層の形成(成長)に、主に固体ソースMBE(Molecular Beam Epitaxy)が使われてきた。この固体ソースMBEによるデルタドープ構造の形成では、ボロン層の上のシリコン層の形成をどのように行うかが重要である。
【0008】
例えば、ボロンデルタドープ層を形成した後のシリコン層形成を低温で行い、このシリコン層を非晶質のままとする技術が報告されている(非特許文献1参照)。また、ボロンデルタドープ層の上に形成した非晶質のシリコン層を、アニールにより結晶化させる技術も報告されている(非特許文献2参照)。また、ボロンデルタドープ層を形成した後、基板温度を700℃以上としてシリコン層を結晶成長させる技術も報告されている(非特許文献3参照)。
【0009】
しかしながら、ボロン原子を固体ソースから制御性良く定量的に供給するのは困難であり、生産には向いていない。また、シリコン層を結晶とするために基板温度を高くすると、かなりの量のボロン原子が拡散することが報告されている。多くのボロン原子が拡散した状態では、デルタドープ構造とはならない。
【0010】
上述したことにより、ボロンデルタドープ層およびこの上のシリコン層の形成に、ガスソースを用いる方法が考えられる。また、このガスソースを有効に分解するためには、プラズマを用いることが一般的である。しかしながら、プラズマを用いたCVDでは、ガス分子が分解したときに発生する水素原子が膜中に取り込まれ、非晶質の膜しか得られない場合が多い。この場合においても、水素原子が脱離する温度にまで基板温度を上げれば水素を除くことができるが、このような高温ではボロン原子が拡散してしまい、やはりデルタドープ構造が得られない。
【0011】
上述したように、従来では、シリコンなどの結晶層の中に、ボロンのデルタドープ層を形成することが容易ではないという問題があった。
【0012】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、シリコンなどの結晶層の中に、ボロンのデルタドープ層が容易に形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るデルタドープ構造の形成方法は、紫外光,真空紫外光,および軟X線より選択した励起光を、シリコン,ゲルマニウム,およびシリコンゲルマニウム混晶より選択した半導体からなる第1半導体層の表面に照射した状態で、第1半導体層の上にボロン原子を含む第1ソースガスを導入し、第1半導体層の上にボロン導入層を形成する第1工程と、第1ソースガスの導入に引き続き、励起光が照射されているボロン導入層の上に第1半導体層を構成する原子を含む第2ソースガスを導入し、ボロン導入層の上に第2半導体層を形成する第2工程とを少なくとも備える。
【0014】
上記デルタドープ構造の形成方法において、第2工程の後で、ボロン導入層のボロンを電気的に活性化させる加熱処理を行うようにしてもよい。
【0015】
上記デルタドープ構造の形成方法において、第1工程では、分光エリプソメータにより測定される第1半導体層の表面へのボロン原子の導入量の変化よりボロン膜が成長し始める時点を予想し、予測した時点の前に第1ソースガスの導入を停止すればよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、励起光を、第1半導体層の表面に照射した状態で、第1半導体層の上にボロン原子を含む第1ソースガスを導入してボロン導入層を形成し、引き続き、励起光が照射されているボロン導入層の上に第2ソースガスを導入して第2半導体層を形成するようにしたので、シリコンなどの結晶層の中に、ボロンのデルタドープ層が容易に形成できるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態におけるデルタドープ構造の形成方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】図2は、ジボランガスの光励起分解によるボロン膜成長のΨ−Δ軌跡を、光エネルギー毎に示す特性図である。
【図3】図3は、図2に示す光エネルギー2.3eVおよび3.4eVにおける成長初期のΨ−Δ軌跡を拡大して示す特性図である。
【図4】図4は、成長温度300℃において、ジボランガスの導入とジシランガスの光励起分解によるシリコン上層の成長を連続して行ったときのΨ−Δ軌跡を、光エネルギー毎に示す特性図である。
【図5】図5は、図4を用いて説明したデルタドープ構造について、シリコンバッファ層(点線)と、Si/B/Siデルタドープ構造(実線)の室温における擬誘電応答関数を示す特性図である。
【図6】図6は、成長温度250℃でジボランガスを導入してしてボロン導入層を形成した後、成長温度420℃でシリコン上層を成長した時のΨ−Δ軌跡を、光エネルギー毎に示す特性図である。
【図7】図7は、図6を用いて説明したデルタドープ構造について、シリコンバッファ層(点線)と、Si/B/Siデルタドープ構造(実線)の室温における擬誘電応答関数を示す特性図である。
【図8】図8は、成長温度250℃でジボランガスを導入してしてボロン導入層を形成した後、成長温度390℃でシリコン上層を成長した時のΨ−Δ軌跡を、光エネルギー毎に示す特性図である。
【図9】図9は、図8を用いて説明したデルタドープ構造について、シリコンバッファ層(点線)と、Si/B/Siデルタドープ構造(実線)の室温における擬誘電応答関数を示す特性図である。
【図10】図10は、図6および図8を用いて説明したボロン導入層からのボロン原子の拡散の様子を、二次イオン質量分析法(SIMS)により調べた結果を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるデルタドープ構造の形成方法を説明するためのフローチャートである。このデルタドープ構造の形成方法は、まず、ステップS101で、紫外光,真空紫外光,および軟X線より選択した励起光を、シリコン,ゲルマニウム,およびシリコンゲルマニウム混晶より選択した半導体からなる第1半導体層の表面に照射する。
【0019】
次に、ステップS102で、励起光が照射されている第1半導体層の上にボロン原子を含む第1ソースガスを導入し、第1半導体層の上にボロン導入層(ボロンデルタドープ層)を形成する。
【0020】
次に、ステップS103で、第1ソースガスの導入に引き続き、励起光が照射されているボロン導入層の上に第1半導体層を構成する原子を含む第2ソースガスを導入し、ボロン導入層の上に第2半導体層を形成する。例えば、第1ソースガスを所定の導入量で所定時間導入したら、第1ソースガスの導入を停止し、引き続いて第2ソースガスの導入を開始すればよい。
【0021】
ここで、ボロン原子を含む第1ソースガスとしては、ボロンの水素化物であるジボラン(B26)が代表的なものであるが、デカボラン(B1014)も利用できる。また、第1半導体層を構成する原子を含む第2ソースガスとしては、例えば、第1半導体層がシリコンの場合、これを構成する原子はシリコンであり、シリコンの水素化物であるシラン(SiH4)、ジシラン(Si26)、トリシラン(Si37)などが利用できる。
【0022】
上述したソースガスは、紫外光,真空紫外光,および軟X線より選択した励起光により、効率的に分解できる。紫外光による光分解は、価電子励起であり、真空紫外光および軟X線による光分解は、内殻励起によるものとなる。これらの中で、内殻励起による分解の方が反応の量子収率は高く、また第1半導体層を励起したときに放出される2次電子による励起により、ソースガスから堆積させる領域を光の照射部だけに限定することができる利点がある。また、上述した励起光の照射により、照射している層の表面の各物質も励起される、従って、励起光が照射されている層においては、前述した各ソースガスの分解生成物である水素も励起されるので、この水素が照射されている層に取り込まれることが抑制されるようになる。
【0023】
ところで、例えば、シリコンからなる第1半導体層の上へのボロンの気相成長においては、成長初期の第1半導体層表面が完全にボロン層で蔽われていない段階では、ボロン原子の堆積速度は低い。ボロンの量が一定値を超えたところから急速に堆積速度が増大し、一気にボロン膜の形成へと向かう。このようなボロン膜の成長において、堆積するボロン原子が一定の厚みのボロン膜になってしまうと、このボロン膜の上にシリコンのエピタキシャル層を形成することができない。
【0024】
このため、導入するボロン原子の量を制御するために、第1半導体層上に導入するボロンソースガスの量(導入時間)を精密に制御することが重要となる。このようなボロンソースガス(第1ソースガス)の導入量制御では、ボロンの気相成長中の表面の状態を、分光エリプソメトリーにより測定(監視)すればよい。
【0025】
光学的に測定を行う分光エリプソメトリーは、非破壊、非侵食、非接触で測定が可能という利点を有している。分光エリプソメトリーの測定データから、連続的にボロン膜が成長し始める時点を予想し、この時点の前にボロンソースガスの導入を停止することで、表面へ導入されるボロン原子の量を一定以下に抑えることができ、必要以上の厚さのボロン導入層の形成が抑制できる。
【0026】
次に、第2半導体層を成長するにあたり、すでに第1半導体層の表面は高密度のボロン原子により覆われている(ボロン導入層が形成されている)ため、エピタキシャル成長をさせるには厳しい環境にあることは間違いない。例えば、第2半導体層の成長温度が低いと、ボロン導入層に阻まれて第1半導体層(シリコン結晶)表面の結晶状態の情報が伝わらず、第2半導体層の結晶性は多結晶もしくは非晶質層となる。
【0027】
一方、成長温度を高くすることで結晶が成長するようになるが、このような高温状態では、ボロン導入層のボロン原子が熱的に拡散し、デルタドープ構造を形成することができない。例えば、第2半導体層の成長をガスソースMBEにより行うためには、成長温度を600℃程度にまで上げる必要があるが、このような高温を長時間継続すると、ボロン原子は容易に拡散してしまう。
【0028】
上述した問題を解消するために、ボロン導入層の形成と同様に、紫外光,真空紫外光,および軟X線より選択した励起光を用い、第1半導体層を構成する原子を含む第2ソースガスの光励起分解により、低温状態で第2半導体層を成長(気相成長)する。ただし、光励起分解による第2半導体層の形成においても、成長温度が低すぎるとエピタキシャル成長にならず、逆に高すぎるとボロンの拡散が顕著になる。従って、光励起分解による第2半導体層の形成においては、エピタキシャル成長が可能な最低温度、あるいは最低温度よりやや上の温度に成長温度を設定するのが望ましい。また、第2半導体層を成長してデルタドープ構造を作製した後で、短時間アニールするプロセスを入れれば、ボロンの拡散を抑制した状態で、ボロンドープ層を電気的に十分活性化させることができる。
【0029】
[実施例]
以下、実施例を用いて、より詳細に説明する。以下では、半導体としてシリコンの場合について説明し、第1半導体層はシリコン基板とする。また、ボロン原子の紫外域における光吸収は小さいので、真空紫外から軟X線領域に渡る、エネルギーが10−1000eVの白色光を励起源(励起光)として用いた。到達真空度が10-8Pa台の超高真空チャンバ内で成長を行った。ボロン原子の導入には、ヘリウムガスで1%に希釈したジボランを用いた。シリコン源としては、ジシランを使用した。
【0030】
まずシリコン基板を希弗酸で処理して表面の酸化物層を除去することにより、水素終端した。このように処理したシリコン基板を真空チャンバ内へ搬入し、所定の温度まで基板温度を上げ、ジシランガスを導入してガスソースMBEによりシリコンバッファ層を成長した。このプロセスの目的は、最初のシリコン基板よりも表面が平坦で清浄なエピタキシャル基板を準備することである。シリコンバッファ層が、第1半導体層とも言える。
【0031】
次に、所定の温度にまで基板温度を下げ、基板上に放射光(励起光)を照射した状態でジボランガスを所定時間だけ基板の上に導入した。放射光で導入されているジボランが分解し、シリコン基板(シリコンバッファ層)上に高濃度ボラン層(ボロン導入層)が堆積する。基板温度が高いと、ジボランの熱分解が急激に促進されるので、基板温度を300℃以下に保つ必要がある。
【0032】
図2は一例であるが、基板温度300℃におけるジボランガスの導入を開始後から、系の光学的応答の時間発展をエリプソ角(Ψ,Δ)の変化として、Ψ−Δ平面上の軌跡として表したものである。ジボランガス分圧は3.1×10-3Paであった。ここで(Ψ,Δ)角は、p偏光とs偏光の光の複素反射率RpとRsの比として、Rp/Rs=tanΨexp(iΔ)で与えられる。光エネルギー「1.5eV」、「2.3eV」、「3.4eV」、「4.3eV」において、同時に(Ψ,Δ)角をモニターした。
【0033】
図2に示すように、シリコンとボロンでは、光学定数が大きく異なることを反映し、成長に伴い、(Ψ,Δ)角の点である(Ψ,Δ)点は、軌跡O→A→B→C→D→Eのように、開始点Oから離れていく。
【0034】
成長初期の移り変わりを2.3eVと3.4eVについて拡大し、プロットしたのが図3である。図3において、データ点は10秒間隔で取得している。まず、ジボランガスの導入を開始した時点で、(Ψ,Δ)点は軌跡O→Aに沿って左へシフトしている。これは、基板温度が低い状態では、ジボランが表面に物理吸着した状態がまず形成されることを反映している。表面に堆積したボロン原子がまだ1原子層以下のうちは、(Ψ,Δ)点は非常にゆっくりと低Δ角方向へ動いている。
【0035】
また、約300秒後のB点に対応し、シリコン表面が完全にボロン原子に覆われると、今度はボロン原子で覆われている層の上でジボランの分解が低い活性化エネルギーのもとで進行するようになるので、加速度的にボロンの堆積速度が増大し、軌跡は急速に低Δ角方向へ伸びている。従って、これらの結果より、(Ψ,Δ)点がわずかに原点からシフトしたぐらいの時点でジボランガスの導入を停止すればよいことが分かる。
【0036】
次に、ジボランガスの導入とジシランガスの光励起分解によるシリコン上層(第2半導体層)の成長とを、同一の基板温度において、途中でガスの切り替えだけで行った例について説明する。図4は、ガスの切り替えだけでボロン導入層の上にシリコン上層を形成した場合の(Ψ,Δ)角のモニター結果を示す特性図である。
【0037】
本例において、基板温度は300℃であり、分圧1.5×10-3Paのジボランガスを240秒間導入した際のボロンの堆積は、軌跡O→A→Bに対応している。B点とC点の間でジボランガスの導入を停止し、引き続いて、分圧0.16Paのジシランガスを導入している。3.4eV、4.3eVにおいては、C点からループを描くように、軌跡C→D→Eが上方へ向かっている。3.4eV、4.3eVは各々シリコン結晶のE1、E2バンド間遷移に対応するエネルギーであり、(Ψ,Δ)点がC点から開始点Oの近傍へ戻って来ることは、シリコン上層がエピタキシャル層になっていることを意味している。
【0038】
一方、1.5eV、2.3eVは、バンド端よりも長波長側で、光の侵入深さが大きいため、Si/B/Siと多層構造となっていることを反映し、シリコン上層の成長に従って、単調に低Δ角側へ軌跡が描かれている。
【0039】
このようにして得られたSi/B/Siデルタドープ構造の室温における擬誘電応答関数(<ε>=<ε1>+i<ε2>)を、シリコンバッファ層を形成した段階のものと比較して図5に示す。両者にそれ程大きな差はなく、シリコン上層の誘電応答関数はシリコンバッファ層(第1シリコン層)のものとほぼ同じで、シリコン上層はエピタキシャル層であることを示している。
【0040】
ジシランの供給(導入)速度が高くなると、成長の様子がガスソースMBEからCVDに近くなり、水素の脱離よりも水素化シリコンの供給が勝り、シリコン上層の結晶性が悪くなる。これを確認するために、ジボランガスの導入時の基板温度は250℃にしてボロン導入層を形成した後、基板温度を420℃あるいは390℃に上げて、圧力0.31Paでジシランを導入することによる光励起分化によるシリコン上層の形成を行う。なお、この確認では、図4を用いて説明した場合に比較して、ボロン導入層をより厚く形成している。従って、以下の例では、図4を用いて説明した場合に比較して、シリコン上層がより結晶成長(エピタキシャル成長)しにくい条件となっている。
【0041】
まず、図6に示す基板温度420℃の場合、各光エネルギーについての(Ψ,Δ)点の軌跡O→Aは、ジボラン導入時に対応している。ジボランガスの供給を止めて、基板温度を420℃まで上げたところで系の誘電応答が変化し、軌跡A→Bに沿って変化した。次にジシランを導入すると、導入初期段階では、軌跡B→C→Dとループを描き、ほぼ同じ(Ψ,Δ)角の大きさの領域に留まっている。これは、シリコンがエピタキシャル成長していることを示している。開始点OとD点が異なるのは、基板温度が異なるからである。しかしさらにシリコン上層の成長を継続していくと、結晶性が少しばかり悪化し、ゆっくりではあるが軌跡D→Eに沿って(Ψ,Δ)点がシフトした。
【0042】
次に、成長後の擬誘電応答関数を図7に示す。図5を用いて説明した場合と同様に、シリコン上層の誘電応答関数はシリコン結晶のものに他ならず、ボロン導入層が間に挟まれてはいるが、エピタキシャル成長したことを示している。しかし図5に比べると<ε2>スペクトルにおけるE2遷移ピークの高さが僅かに低いので、シリコン上層の結晶性は、図5を用いて説明した条件の場合に比べると若干劣っている。
【0043】
図8は、シリコン上層の成長の温度を390℃と低く設定した結果である。他の条件は、図6を用いて説明した条件と同様である。この場合、シリコン上層の成長初期におけるループ型軌跡の後で、かなり急速に低Δ角側へ軌跡D→Eが伸びている。さらに、E点から軌跡の方向が変わり、軌跡E→Fに沿って、さらに低Δ角領域まで変化が継続している。軌跡D→Eは、微結晶シリコンの形成、軌跡E→Fはアモルファスシリコンの形成に対応すると考えられる。この結果は、成長温度を390℃と低くすると、シリコン上層の結晶性が成長に従い悪化し、微結晶からアモルファス状態へと変化したことを意味している。この結果は、ボロン導入層の上に成長することで、界面の状態が良くない上に光励起分解による低温成長をしたことが原因である。成長後の擬誘電応答関数を図9に示す。擬誘電応答関数はシリコン基板のものとは大きく異なっており、これは微結晶シリコンの形成を表している。
【0044】
次に、得られたデルタドーピング層(ボロン導入層)からのボロン原子の拡散の様子を、二次イオン質量分析法(SIMS)により調べた結果について図10を用いて説明する。図10の(a)は、図6を用いて説明したボロン導入層のボロン原子の深さ分布を示し、図10の(b)は、図8を用いて説明したボロン導入層のボロン原子の深さ分布を示している。両者ともに、濃度ピークを形成している場所は、シリコン上層の表面(S)、ボロン導入層内(M)、シリコンバッファ層とシリコン基板の界面(I)である。
【0045】
まず、シリコン上層の表面(S)のピークについて説明すると、これは、「Surface peak」と呼ばれている(非特許文献5参照)。このように、表面にドーパントが偏析することは、よく知られている。
【0046】
次に、界面(I)のピークについて説明する。シリコンバッファ層とシリコン基板の界面は、わずかな結晶性の乱れが生じやすく、このような欠陥に選択的にボロン原子がトラップされる。このようにトラップされた状態が、界面(I)のピークとして現れている。しかし、欠陥部分でのボロン原子濃度はそれほど高くない。
【0047】
次に、ボロン導入層内(M)のピークについて説明する。ボロン導入層におけるボロンの濃度分布は、シリコンバッファ層(シリコン基板)側に濃度が低下しているが、これは「Leading edge」と呼ばれている状態である(非特許文献5参照)。この濃度低下は、ボロン原子を堆積している間に、シリコン基板の側に一部のボロンが拡散したものと考えられる。このボロン原子の拡散は、放射光励起により促進されていると考えられる。
【0048】
またシリコン上層側への裾引きは、「Trailing edge」と呼ばれている(非特許文献5参照)。図10の(b)の基板温度390℃の場合には、ボロン導入層とシリコン上層の界面でボロンの分布は急峻に切れて落ちている。シリコン上層は、ソースガスの光励起分解により形成しているため、水素原子の「Surfactant」効果により、ボロン原子の拡散が抑制され、この場合においては「Trailing edge」がほとんど見られないという結果に繋がっているものと考えられる。
【0049】
しかし、図10の(a)の基板温度420℃の条件で、シリコン上層がエピタキシャル成長になっている場合には、シリコン上層側への裾引き分布が見られると同時に、深さ230nm付近に膨らんだこぶのような構造が存在し、拡散を示唆している。しかし、この状態はさほど顕著なものではなく、シリコン上層がエピタキシャルであることと、ボロン原子が高濃度にボロン導入層内に閉じ込められていることとが、両立した結果になっている。このことから、本例で作製したボロン導入層(層厚約50nm)の上では、基板温度420℃以上において光励起分化によるプロセスを行えば、結晶性に優れたシリコン上層が形成できることが明らかである。
【0050】
なお、図4を用いて説明した例では、成長温度300℃でシリコン上層を結晶成長させることができているが、これは、ボロン導入層がより薄い(ボロンの堆積量が少ない)場合である。これに対し、より厚いボロン導入層(層厚約50nm)を形成した場合、上述したように、成長温度を420℃まで高くすることで、シリコン上層をエピタキシャル成長層とすることができる。
【0051】
以上に説明したように、本発明によれば、同じ装置内で、ボロン導入層の形成に引き続き、ソースガスの切り替えで第2半導体層を形成しているので、大気に曝すことなく、良好な界面特性を有するボロン導入層を連続的に形成することができる。また、ソースガスを励起光で分解する堆積により、ボロン導入層および第2半導体層を形成しているので、ボロン原子の熱拡散を抑制できる低温プロセスが可能であると同時に、水素原子の「Surfactant」効果によって、ボロン原子の拡散を抑制することができる。
【0052】
さらに分光エリプソメトリーにより、ボロン導入層の形成状態を監視することで、ボロン原子の第1半導体層表面への導入量を成長中に知ることができる。このように監視することで、生業温度およびガス圧などの条件が変化したとしても、作製しているデルタドープ構造毎に、第1ソースガスの導入を停止すべき時点を決めることが可能となる。
【0053】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述した実施の形態では、主に、半導体としてシリコンを用いる場合について説明したが、これに限るものではなく、ゲルマニウム、またはシリコンゲルマニウム混晶であっても同様である。ゲルマニウムのためのソースガスとしては、ゲルマン(GeH4)を用いれば、全く同様なプロセスが可能となる。但し、ボロン原子が拡散し始める温度、あるいはゲルマニウムやシリコンゲルマニウムを堆積する温度は異なる。一般にシリコンゲルマニウム混晶においては、ゲルマニウムの濃度が高くなるに従い、結晶化温度は低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光,真空紫外光,および軟X線より選択した励起光を、シリコン,ゲルマニウム,およびシリコンゲルマニウム混晶より選択した半導体からなる第1半導体層の表面に照射した状態で、前記第1半導体層の上にボロン原子を含む第1ソースガスを導入し、前記第1半導体層の上にボロン導入層を形成する第1工程と、
前記第1ソースガスの導入に引き続き、前記励起光が照射されている前記ボロン導入層の上に前記第1半導体層を構成する原子を含む第2ソースガスを導入し、前記ボロン導入層の上に第2半導体層を形成する第2工程と
を少なくとも備えることを特徴とするデルタドープ構造の形成方法。
【請求項2】
請求項1記載のデルタドープ構造の形成方法において、
前記第2工程の後で、前記ボロン導入層のボロンを電気的に活性化させる加熱処理を行うことを特徴とするデルタドープ構造の形成方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のデルタドープ構造の形成方法において、
前記第1工程では、分光エリプソメータにより測定される前記第1半導体層の表面へのボロン原子の導入量の変化よりボロン膜が成長し始める時点を予想し、予測した時点の前に前記第1ソースガスの導入を停止することを特徴とするデルタドープ構造の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−174962(P2012−174962A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36852(P2011−36852)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】