説明

トルク伝達装置

【課題】電磁ブレーキの制動時の「鳴き」と称される騒音の発生を抑制すると共に装置強度を確保し得るようにしたトルク伝達装置を新たに提供する。
【解決手段】ディスク3とアーマチュア2、ディスク3とサイドプレート4を相対的に接離可能に対向させ、接近時にディスク3とアーマチュア2の間、及び、ディスク3とサイドプレート4の間を摩擦材13a、13bを介し圧接してトルク伝達を実現する場合において、ディスク3は、複数の面板30、31を同軸上に互いの位置関係が一定となるように配置して構成されており、各面板30、31の間には、これら面板30、31の振動を減衰させるコルク7を設けることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する面板同士を摩擦下に接触させる構造を備えたトルク伝達装置に関し、特に制動時の「鳴き」と称される騒音の発生を抑制すると共に装置強度を確保し得るようにしたトルク伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のトルク伝達装置ないし電磁連結装置を利用したものとして、例えば特許文献1に示されるような無励磁作動形の電磁ブレーキが知られている。
【0003】
この電磁ブレーキは、ヨーク端面とディスクとの間でアーマチュアを移動可能に配置し、ディスクの外方端側にはサイドプレートを配置して、アーマチュアに、ヨークを励磁した際にヨーク端面に密着させてディスクを解放させ、消磁によりヨーク端面とアーマチュアとの間に弾接した圧縮バネの付勢力でアーマチュアをヨーク端面から離反させて、ディスクを当該アーマチュアとサイドプレートとの間に圧接する状態をとらせるようにしている。
【0004】
ディスクは回転軸とともに一体回転可能であり、アーマチュア及びサイドプレートは回転しない状態にあって、摺接面には摩擦材が介在されて、ディスクのトルクをアーマチュアとサイドプレートに伝達し、制動を加えるようにしている。
【0005】
制動を加える際は、ディスクに設けられた摩擦材がアーマチュアとサイドプレートとに接触して摺動するため、これら部材が振動して「鳴き」と呼ばれる騒音が発生することがあるが、ディスクと摩擦材との間にコルクを介在させて部材の振動を減衰させることにより「鳴き」の発生を低減ないし防止している。
【特許文献1】実登3024489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に示されるような電磁ブレーキは、摩擦材およびコルクを介してディスクからのトルクを伝達しているため、強いトルクがコルクに作用した際にはコルクが耐えきれずに、一部が割れるなどして破損してしまい、制動機能が失われるおそれがある。
【0007】
以上の不都合は、電磁クラッチを構成するクラッチ板同士の接続時にコルクに過剰なトルクが作用してコルクが破壊された場合も同様に起こり得るものである。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、電磁ブレーキや電磁クラッチ等の電磁連結装置に見られるようなトルク伝達に際し、制動時の「鳴き」と称される騒音の発生を抑制すると共に装置強度を確保し得るようにしたトルク伝達装置を新たに提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0010】
すなわち、本発明のトルク伝達装置は、相対的に接離可能で対向面を有する第1のトルク伝達体および第2のトルク伝達体と、前記両対向面の間に設けられた摩擦材と、前記両対向面を接離させる接離手段とを備えており、前記摩擦材を介して前記接離手段により前記両対向面を圧接させて前記トルク伝達体間のトルク伝達を実現するトルク伝達装置であって、前記両トルク伝達体の少なくともいずれか一方のトルク伝達体は、複数の面板を同軸上に互いの円周方向の位相関係がほぼ一定となるように配置して構成されており、各面板の間には、当該面板の振動を減衰させる制振材が設けられていることを特徴とする。
【0011】
ここで、互いの円周方向の位相関係がほぼ一定であるとは、同軸上に同期回転可能に取り付けられる場合のほか、回転方向の位相に多少のガタつきや位置ずれを許容した状態で一体回転可能に取り付けられる場合などが含まれる。面板の軸への取り付けには、スプライン結合その他の適宜の係合構造を採用することができ、更には、同軸上にあって円周方向の位相関係がほぼ一定に保たれるのであれば、各面板は物理的に異なる軸にそれぞれ取り付けられていても構わない。
【0012】
このような構成によると、トルク伝達体が、複数の面板を同軸上に互いの円周方向の位相関係がほぼ一定となるように配置して構成されているから、各面板の間に設けられた制振材に殆どトルクが作用することがないため、耐え難いトルクが制振材に作用して制振材が破損することを防止することができるとともに、制振材が面板の振動を減衰させるため、騒音の発生を低減ないし抑制することができる。
面板の曲げ剛性が小さい場合に、制振材の機能を適切に担保するためには、複数の面板は、軸心方向に隙間を隔てて配置され、制振材の振動に伴って軸心方向に相対移動可能とされていることが望ましい。
【0013】
面板の曲げ剛性が大きい場合に、制振材の機能を適切に担保するためには、複数の面板は、一部が一体的に設けられ、または一部が当接若しくは極接近して配置されて、他の一部同士が軸心方向に隙間を隔てて対向され、制振材の振動に伴って面板が軸心方向に弾性変形して前記他の一部同士が接離可能とされていることが望ましい。
【0014】
上記何れの態様においても、面板の材料や制動時の振幅に応じて制振材を各面板の間に適切に設けるためには、各面板の間に設けられている前記制振材は、両面接着または片面接着で当該面板に接着されていることが好適である。
【0015】
上記何れの態様においても、制振効果を担保しつつ、制振材の熱を逃がす放熱効果を向上させるためには、前記制振材は板状に形成されており、板厚方向に貫通する切欠部を一部に設けられていることが望ましい。
【0016】
この場合、制振材の外周に向かって放熱効果を高めるためには、前記切欠部は外周側に開口していることが有効である。
【0017】
上記何れの態様においても、放熱効果を奏する本発明の具体的な一構成として、前記制振材は、前記軸方向から見て、円環状、放射状、らせん状、又は複数孔あき円盤状に形成されていることが挙げられる。
【0018】
本発明の具体的な一態様としては、前記第1のトルク伝達体が、複数の面板が共通の回転軸に同期回転可能に配置されて、回転軸方向における外側の両面が前記対向面となるように構成されており、前記摩擦材は、前記第1のトルク伝達体の前記対向面に設けられ、前記接離手段は、電磁力により前記両対向面を接離させる電磁駆動接離手段であり、前記第2のトルク伝達体は、前記第1のトルク伝達体の両側に対をなして位置し、圧接時に前記第1のトルク伝達体を挟み込む位置に相対移動して、前記摩擦材を介して前記対向面が圧接されるように構成されていることが挙げられる。
【0019】
上記何れの態様においても、前記制振材として採用し得る具体例としては、制振性を有するコルク、プラスチック、ゴム、フェルトもしくは繊維状マット又はこれらの複合から成ることが挙げられる。
【0020】
上記何れの態様においても、制振効果をさらに高めるためには、前記面板は、制振性を有するプラスチック、繊維強化プラスチックから成る構成が有効である。
【0021】
上記何れの態様においても、トルク伝達装置は、前記トルク伝達体の面板自体を摩擦材で形成することができる。
【0022】
本発明のトルク伝達装置は、以上の構成であるから、エレベータまたはエスカレータに適用して無励磁作動型のブレーキやクラッチとしての有効利用が可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、以上説明した構成であるから、トルク伝達体を、制振材にトルクが作用しない構成にすることによって、過大なトルクが制振材に作用して制振材が破壊されることを阻止することができるとともに、制振材がトルク伝達体の振動を減衰させるため、騒音の発生を低減ないし抑制することができる。したがって、制動時の異音の発生を抑制して静寂なトルク伝達装置を実現すると共に、装置の信頼性や耐久性を有効に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0025】
この実施形態の電磁連結装置は、図1のスプリングクローズ式の無励磁作動形電磁ブレーキBに適用される。
【0026】
この電磁ブレーキBは、回転軸1上において、回転軸1とともに一体回転可能な第1のトルク伝達体であるディスク3に対し、回転軸1を遊嵌させる第2のトルク伝達体であるアーマチュア2及びサイドプレート4を回転軸心m方向に相対距離が可変となるように対向させるとともに、アーマチュア2を電磁駆動接離手段6によって軸心m方向に付勢して、接近時にディスク3とアーマチュア2との間、及びディスク3とサイドプレート4との間を摩擦材13a、13bを介し圧接して、トルク(ブレーキトルク)の伝達を実現するものである。
【0027】
ヨーク5は、鉄等の強磁性体からなり、軸心m回りに励磁コイル61が巻回されている。電磁駆動手段6は、励磁コイル61と、ヨーク5に基端を支持され先端をアーマチュア2に弾接させた圧縮バネ62とを備える。
【0028】
サイドプレート4は、ヨーク端面5aから所定距離隔てた位置にボルト40、ナット41等の定着手段によって配置される。ボルト41の挿通箇所は円周方向の適宜箇所である。
【0029】
アーマチュア2は、鉄等の強磁性体からなるもので、その一部に設けた貫通孔21に前記ボルト40を貫通させた状態で、ヨーク端面5aとサイドプレート4の盤面4aとの間隙に配置される。このアーマチュア2は、内周2bに回転軸1が遊嵌状態で挿通されるとともに、前述した圧縮バネ62よって常時、ヨーク端面5aから離反する方向に弾性力の作用を受けている。
【0030】
ディスク3は、アーマチュア2の盤面2aとサイドプレート4の盤面4aとの間に介在されるもので、基端に設けた孔3xを軸心部に配したハブ11にスプライン結合部Sを介して係合される。ハブ11の軸孔11aには回転軸1が一体回転可能に挿通され、止め輪12によって回転軸1とハブ11とが抜脱し得ない状態で連結される。このディスク3には、左右の盤面30a、31aに摩擦材13a、13bが形成してあり、一方の摩擦材13aをアーマチュア2に対面させ、他方の摩擦材13bをサイドプレート4に対面させている。これらの摩擦材13a、13bはフェーシングと通称される。
【0031】
アーマチュア2は、前記ボルト41に沿ってヨーク5に対し軸心m方向に移動可能とされる。ヨーク5とアーマチュア2との間には、励磁コイル61への通電時に図示しない磁路が形成され、アーマチュア2を圧縮バネ62の弾性力に抗してヨーク端面5aに吸着する方向の磁気吸引力を発生する。励磁コイル61への通電が断たれると、アーマチュア2は圧縮バネ62に弾性付勢されて、ヨーク5から離れる方向に移動する。
【0032】
すなわち、アーマチュア2は、図1の状態から励磁されることによってヨーク5側に移動して当該ヨーク端面5aに密着することによりディスク3を開放し、消磁された際に圧縮バネ62によりサイドプレート4方向に移動する結果、再び図1の状態に戻ってアーマチュア2とサイドプレート4との間にディスク3を挟み込み、これにより摩擦材13a、13bにおける摺動摩擦を通じて、ディスク3にブレーキトルクを作用させ、ディスク3を介して回転軸1に制動を掛ける。
【0033】
このような構成において、ブレーキ作動時、すなわち回転中のディスク3に対してアーマチュア2及びサイドプレート4が摩擦材13a、13bを介して圧接された状態では、アーマチュア2及びサイドプレート4と摩擦材13a、13bとの摺動により、「鳴き」と呼ばれる騒音ないし異音が発生するおそれがある。
【0034】
そこで、本実施形態は、第1のトルク伝達体としての金属ディスク3を面板1つから成る従来の構成から、2つの面板30、31から成る構成とし、これら金属面板30、31の間に制振材としてのコルク7を設けている。すなわち、第1の面板30の基端3aに設けた孔3xを軸心部に配したハブ11にスプライン結合部Sを介して係合され、第2の面板31を同様にハブ11にスプライン結合部Sを介して係合されており、第2の面板31は第1の面板30のサイドプレート4側に隣接した状態で配置されている。この場合、面板30,31の基端間に最も狭い隙間δが存する。面板30と面板31とは、回転軸1とのスプライン結合により軸心方向に相対移動可能とされ、かつ共通の回転軸1に同期回転可能に配置されて、両面板30、31の互いの位相関係がほぼ一定に保たれるようにしている。
【0035】
そして、面板30のアーマチュア2側の盤面30aに摩擦材13aが設けられ、面板31のサイドプレート4側の盤面31aに摩擦材13bが設けられており、摩擦材13aがアーマチュア2に対面し、摩擦材13bがサイドプレート4に対面している。
【0036】
制振材としてのコルク7は、板状に形成されており、面板30、31の振動を減衰させるものであるが、所定の大きさのトルクが作用すると破断してしまう材質である。コルク7を軸方向から視た形状は、図2(a)に示すように、面板30、31の回転軸を中心とし、面板30、31の外周ないし外周の近傍までを径とする円板のその中心部に板厚方向に貫通する切欠部71が形成された円環状をなすものである。
【0037】
また、コルク7は、その両面がそれぞれ面板30,31の最寄の面に両面接着されている。もちろん、コルク7と面板30、31との接着は、両面接着だけでなく片面接着、すなわち面板30,31の何れかに接着された状態とする態様も選択可能である。
【0038】
このように構成すると、面板30、31はスプライン結合部Sを介して回転軸1に同期回転し、制動時に摩擦材13a、13bを介してアーマチュア2及びサイドプレート4から圧接されても、面板30、31は互いの位置関係が一定となるように配置されているから、換言すると両者の相対的な位相関係が円周方向(回転方向)にほぼ一定となるように構成されているから、コルク7に強力なトルクが作用してコルク7が破損することを防止することができるとともに、コルク7が面板30、31の振動を減衰させて騒音の発生を低減ないし抑制することができる。
【0039】
この場合、コルク7は剛体ではないため、制振作用を営む際には振動し、圧縮力が作用すれば肉厚が若干変化するが、面板30,31の基端は隙間δを隔てて配置されている上に、コルク7の変位や変形に応じて面板30,31が回転軸1に対し上記スプライン結合部Sでスライドしながら、隙間δを変更することができる。したがって、コルク7の制振作用は如何なく発揮されることとなる。
【0040】
また、各面板30、31の間に設けられる制振材であるコルク7は、両面接着で面板30、31に接着されているため、両面板30,31の振動を共通のコルク7で確実に制振することができる。もちろん、コルク7と面板30、31の材質による接着のし易さや、制動時の面板30、31の振幅の大小、製造条件に応じて、コルク7を各面板30、31の何れかにのみ接着させてより大きな効果を追求することもできる。
【0041】
具体的な形態として、制振材であるコルク7は円板状に形成されており、板厚方向に貫通する切欠部71がその一部に設けられていて、コルク7の表面積が増加するとともに板厚方向へも貫通していることから、面板30,31に発生する摩擦熱に対する放熱効果の向上と制振効果の向上との両立が可能になる。
【0042】
特にこの実施形態において、第1のトルク伝達体であるディスク3は、複数の面板30、31が共通の回転軸1に同期回転可能に配置され、回転軸1の軸方向における外側の両面30a、31aが対向面となるように構成されており、摩擦材13a、13bは、第1のトルク伝達体であるディスク3の対向面にそれぞれ設けられ、接離手段は、電磁力により両対向面を接離させる電磁駆動接離手段6であり、第2のトルク伝達体であるアーマチュア2及びサイドプレート4は、第1のトルク伝達体であるディスク3の両側に対をなして位置し、圧接時に第1のトルク伝達体であるディスク3を挟み込む位置に相対移動して、摩擦材13a、13bを介して対向面が圧接されるように構成されているから、コルク7の破損防止、装置の信頼性および耐久性の向上、装置の静音機能の担保をことごとく両立させることを可能にしている。
【0043】
本発明のトルク伝達装置は、以上のような構成であるから、可及的な静音性が求められるエレベータ用またはエスカレータ用の無励磁作動型のブレーキやクラッチへの利用が好適である。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0045】
例えば、制振材であるコルク7の形態としては、図2(b)に示すように、軸方向から見て円環を同心上に複数設けた形状であってもよく、図2(c)に示すように、軸方向から見て軸心部から外周側へ向かう放射状であってもよい。また、図2(d)に示すように、軸方向から見て軸心部から外周側へ向かうらせん形状であってもよく、図2(e)に示すように、軸方向から見て複数の貫通孔を有する複数孔あき円板形状であってもよい。これらの形状によると、コルク7の表面積が広くなり、かつ、板厚方向に貫通する切欠部を有するため、上記実施形態と同様に放熱効果と制振効果との両立が可能になる。これらにおいて、図2(b)では円環でない部位が本発明の切欠部72とされ、図2(c)では放射状の突起間が本発明の切欠部73とされ、図2(d)ではらせんを形成するために抉られた部位が本発明の切欠部74とされ、図2(e)では貫通孔の内周等が本発明の切欠部75とされる。これらの図に示されるように、制振材は接着して分布させることができるものであることから、必ずしも単一の一体物である必要はないし、切欠部も、全体として形態的に肉厚が欠損していれば、必ずしも切り欠く作業によって作られるもののみを意味するものではない。
【0046】
さらに、図2(c)、同図(d)に示すような放射状、らせん状は、その切欠部73、74が外周側に開口しているため、制振材であるコルク7の外周に向かって放熱効果、冷却効果を更に高めることができる。
【0047】
また、本実施形態において制振材はコルク7であるが、制振性を有するコルク、プラスチック、ゴム、フェルトもしくは繊維状マット又はこれらの複合から成る材質を用いてもよい。
【0048】
さらにまた、トルク伝達体の他の実施形態については、図3(a)に示すように、図1で示したディスク3の面板30,31に相当する部位を摩擦材とし、アーマチュア2やサイドプレート4に対面する摩擦材13a、13bとともに一体化した面板113a、113bから成るディスク103にしてもよい。また、図3(b)に示すように、同図(a)で示したディスク103のコルク7に替えて面板113a、113bの間に内周側軸心部にまで形成されたコルク207を有するディスク203にしてもよい。さらに、図3(c)に示されるように、軸心部303aから階段状に肉厚の変化する2つの面板330、331を対面させ、これらの面板330、331の両外側に摩擦材313a、313bを形成して、両面板330、331の間に制振材であるコルク307を設けたディスク303にしてもよい。これらの図において、符号103x、203x、303x、403xで示すものはディスク103,203,303の孔であり、符号Sで示すものはスプライン結合部である。
【0049】
勿論、上記のように一対の面板(30、31)、(113a、113b)、(330、331)は、曲げ剛性が比較的大きいものであるとの前提の下に、コルク7,207,307の変形を妨げないために隙間δを確保したものであるが、面板の曲げ剛性が小さく面板自体の軸心方向への弾性変形が期待できる場合には、図3(d)に示すように、共通の軸心部403aに2つの面板430、431の基端側を一体的に連設し、その基端間に設けたスリット403yにおける変形によって対向隙間が可変となるように配置するとともに、これらの面板430、431の両外側に摩擦材413a、413bを形成し、両面板430、431の間に制振材であるコルク407を設けたディスク403にしてもよい。このようにすると、コルク407が制振作用を営む際の変位や厚み変化に伴って面板430,431が軸心方向に弾性により撓み変形することでその間の対向隙間の変化を許容して制振効果を妨げないようにすることができ、しかも2枚の面板430,431を基端側で一体とすることによって取り扱いの便の向上およびスプライン結合部Sにおける強度の向上を図ることができる。面板430、431自体が更に柔軟であれば、スリット403yを無くすこともできる。
【0050】
同様に、面板の曲げ剛性が小さく面板自体の弾性変形が期待できる場合の他の構成として、図1に対応する図4に示すように、一対の面板30,31を、分割されてはいるが基端3a、3a同士を当接もしくは極接近して隣接配置した構造にすることもできる。この場合にも、先端側の面板30,31間には軸方向の隙間が形成され、制振材であるコルク7の変位や変形によってその隙間が変化する構造になっている。図3に対応する図5においても同様で、同図(a)に示す面板113a、113bの基端103a、103a同士、同図(b)に示す面板113a、113bの基端203a、203a同士、同図(c)に示す面板330,331の基端303a、303a同士が当接もしくは極接近して隣接配置され、先端側の面板113a、113b間、330,331間には軸方向の隙間が形成されて、制振材であるコルク7,207,307の変位や変形によってその隙間が変化する構造になっている。
【0051】
さらに、トルク伝達体のさらに別の実施形態としては、面板30、31自体が、制振性を有するプラスチック、繊維強化プラスチックから形成されていると、静音性をより向上させることが可能になる。勿論、他の面板においても同様である。
【0052】
なお、本発明においてトルク伝達体は、2つの面板から成るものを挙げて説明したが3つ以上であってもよい。複数層に構成すると、振動の減衰効果をより向上させることができる。
【0053】
以上、種々に述べた制振のための構成は、図6に示すような電磁クラッチCにおいても適用が可能である。この電磁クラッチCは、第1のトルク伝達体であるアーマチュア501と第2のトルク伝達体であるロータ502との間が摩擦材503を介して接離可能に対向され、コイル500aへの通電によってヨーク500bからロータ502にわたって磁路が形成された際は対向位置にあるアーマチュア501を板バネ500cに抗して吸引することによりアーマチュア501とロータ502の間を摩擦材503を介して接続するとともに、コイル500aへの通電停止により消磁された際には板バネ500cの復元力によってアーマチュア501とロータ502の間が遮断されるように構成されたものである。このような構造において、例えばロータ502を所要の間隙で回転軸にスプライン結合するなどして同期回転可能に配置された2枚の面板502a、502bから構成し、その面板502a、502bの間に制振材504を介在させれば、トルク伝達時に制振材504への多大なトルク伝達による当該制振材504の破損を回避しつつ、アーマチュア501と摩擦材503との摺動による異音の発生を有効に抑制してロータ502とアーマチュア501との間のトルク伝達を実現することができる。
【0054】
或いは、図7に示すように、第1のトルク伝達体及び第2のトルク伝達体である一対のクラッチ板1001,1002の間が摩擦材1003を介して連結される構造である場合に、被励磁側のクラッチ板1002を先端側が面板1002a、1002bに分かれた二重面板構造に形成し、それらの面板1002a、1002bの間に制振材1004を介在させれば、トルク伝達時において、制振材1004への多大なトルク伝達による制振材1004の破損を回避しつつ、クラッチ板1001と摩擦材1003との摺動による異音の発生を有効に抑制することができる。
【0055】
これらにおいて、図6に示す面板502a等の曲げ剛性が比較的小さい場合には面板502a、502bの基端同士を一体的に構成することができ、図7に示すクラッチ板1002を構成する面板1002a、1002bの曲げ剛性が比較的大きい場合には面板1002a、1002b同士を分割して所要の間隙の下に同期回転可能に配置することができる。
【0056】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態に係るトルク伝達装置を適用した電磁ブレーキを示す縦断面図。
【図2】図1のA−A矢印断面図および本発明の変形例を示す断面図。
【図3】本発明の変形例を示す図。
【図4】本発明の他の変形例を示す図1に対応した図。
【図5】本発明のさらに他の変形例を示す図3に対応した図。
【図6】本発明の他の適用例に係る電磁クラッチを示す図。
【図7】本発明の他の適用例に係る電磁クラッチの別異の構成を示す図。
【符号の説明】
【0058】
1…回転軸
2…第2のトルク伝達体(アーマチュア)
3…第1のトルク伝達体(ディスク)
3a…基端部
3b、20、40…盤面
4…第2のトルク伝達体(サイドプレート)
6…電磁駆動接離手段(励磁コイル、圧縮バネ)
7、207,307、1004…制振材(コルク)
13a、13b、113a、113b、313a、313b、1003…摩擦材
30、31、113a、113b、330、331…面板
61…励磁コイル
62…圧縮バネ
71、72、73、74、75…切欠部
1001…第2のトルク伝達体(クラッチ板)
1002…第1のトルク伝達体(クラッチ板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に接離可能で対向面を有する第1のトルク伝達体および第2のトルク伝達体と、前記両対向面の間に設けられた摩擦材と、前記両対向面を接離させる接離手段とを備えており、前記摩擦材を介して前記接離手段により前記両対向面を圧接させて前記トルク伝達体間のトルク伝達を実現するトルク伝達装置であって、
前記両トルク伝達体の少なくともいずれか一方のトルク伝達体は、複数の面板を同軸上に互いの円周方向の位相関係がほぼ一定となるように配置して構成されており、
各面板の間には、当該面板の振動を減衰させる制振材が設けられていることを特徴とするトルク伝達装置。
【請求項2】
複数の面板は、軸心方向に隙間を隔てて配置され、制振材の振動に伴って軸心方向に相対移動可能とされている請求項1記載のトルク伝達装置。
【請求項3】
複数の面板は、一部が一体的に設けられ、または一部が当接若しくは極接近して配置されて、他の一部同士が軸心方向に隙間を隔てて対向され、制振材の振動に伴って面板が軸心方向に弾性変形して前記他の一部同士が接離可能とされている請求項1記載のトルク伝達装置。
【請求項4】
前記第1のトルク伝達体は、複数の面板が共通の回転軸に同期回転可能に配置され、回転軸方向における外側の両面が前記対向面となるように構成されており、
前記摩擦材は、前記第1のトルク伝達体の前記対向面に設けられ、
前記接離手段は、電磁力により前記両対向面を接離させる電磁駆動接離手段であり、
前記第2のトルク伝達体は、前記第1のトルク伝達体の両側に対をなして位置し、圧接時に前記第1のトルク伝達体を挟み込む位置に相対移動して、前記摩擦材を介して前記対向面が圧接されるように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のトルク伝達装置。
【請求項5】
エレベータまたはエスカレータに適用して無励磁作動型のブレーキ又はクラッチとして機能する請求項1〜4のいずれかに記載のトルク伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−127314(P2010−127314A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299810(P2008−299810)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】