説明

ドライエッチング方法

【課題】フォトレジストマスクに対する窒化ガリウム層の選択比を向上することができるドライエッチング方法を提供する。
【解決手段】フォトレジストマスクが積層された窒化ガリウム層のドライエッチング方法であって、ヨウ化水素ガス及びBClガスを含むエッチングガスのプラズマを生成し、該プラズマによって前記窒化ガリウム層をエッチングするとともに、前記エッチングガスのうち前記ヨウ化水素ガスの体積比率は、60%以上80%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム層を処理対象とするドライエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体の中で、窒化ガリウム(GaN)は、LEDのような発光素子等の材料として用いられている。GaN層をドライエッチングする際、Cl、BCl、SiCl、CHCl等といった塩素系ガス、又はそれら塩素系ガスを希ガス等で希釈したガスのみをエッチングガスとして用いることが一般的であった。例えば、特許文献1では、RIE(反応性エッチング装置)、又はICP(誘導結合プラズマ)装置等により、エッチングガスとして塩素系ガスを用いて、GaN層のエッチングを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−234912号公報、第5頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記した塩素系ガスのみをエッチングガスとして用いた場合、有機材料や無機有機ハイブリット材料からなるフォトレジストマスクのエッチングレートは、GaN層に対するエッチングレートと同程度であった。このため、フォトレジストマスクに対するGaN層の選択比(GaN層のエッチングレート/フォトレジストマスクのエッチングレート)としては、約0.5以上1.5以下といった低い値しか得られなかった。従って、従来のように塩素系ガスを用いてエッチングする場合には、フォトレジストマスクの膜厚を大きくする必要があるが、フォトレジストマスクの膜厚を大きくすると、フォトリソグラフィ工程の際に用いられるレジストの膜厚が大きくなるため、フォトレジストマスクを高精度にパターニングすることが難しくなる。
【0005】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フォトレジストマスクに対する窒化ガリウム層の選択比を向上することができるドライエッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、フォトレジストマスクが積層された窒化ガリウム層のドライエッチング方法であって、ヨウ化水素ガス及びBClガスを含むエッチングガスのプラズマを生成し、該プラズマによって前記窒化ガリウム層をエッチングするとともに、前記エッチングガスのうち前記ヨウ化水素ガスの体積比率は、60%以上80%以下であることを要旨とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、窒化ガリウム層のエッチングガスとして、体積比率60%以上80%以下を占めるヨウ化水素ガスと、BClガスとを含むエッチングガスを用いるので、塩素系ガスのみをエッチングガスとして用いるよりも、フォトレジストマスクのエッチングレートに対する窒化ガリウム層のエッチングレートの比である選択比を向上することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のドライエッチング方法において、前記エッチングガスのプラズマは、その密度が1×1010cm−3以上2×1011cm−3以下であることを要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、密度が1×1010cm−3以上2×1011cm−3以下プラズマによって窒化ガリウム層のエッチングを行う。即ち、上記範囲を超えた高密度なプラズマである場合には、窒化ガリウム層のエッチングレートも向上するが、フォトレジストマスクのエッチングレートも大きくなる。従って、プラズマ密度を上記範囲にすることにより、フォトレジストマスクに対する窒化ガリウム層の選択比を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のドライエッチング方法に係る誘導結合型エッチング装置の概略図。
【図2】GaN層及びフォトレジストマスク層の断面図であって、(a)はエッチング前、(b)はエッチング後の状態を示す。
【図3】ヨウ化水素の比率を変更した際の窒化ガリウム層及びフォトレジストマスク層のエッチングレートと、選択比を示すグラフ。
【図4】プラズマ密度を変更した際の窒化ガリウム層及びフォトレジストマスク層のエッチングレートと、選択比を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のドライエッチング方法を具体化した一実施形態を図1及び図2にしたがって説明する。
図1に示すように、本実施形態ではドライエッチング装置として、誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)源を有する装置を用いる。このドライエッチング装置は、略筒状に形成された真空槽11を有している。真空槽11はアルミニウム等の金属製であって、その内部に基板Sbを収容する処理室12を有している。処理室12は、エッチングガスのプラズマが生成される空間であって、その上部開口は、石英、サファイア等の誘電体から形成された誘電体窓13によって密閉されている。
【0012】
真空槽11には、処理室12に連通する搬送口が設けられ、該搬送口にはゲートバルブが接続されている(いずれも図示略)。エッチングの処理対象となる基板Sbは、搬送口を介して隣室から処理室12内へ搬入されるとともに、処理室12から他の処理室へ搬送される。さらに、真空槽11には、真空槽11内のエッチングガスや大気等の流体を排気する排出口11aが設けられ、該排出口11aには図示しない排気装置が接続されている。また、真空槽11には、処理室12に連通するガス供給部14が設けられている。このガス供給部14には、処理室12にエッチングガスを供給するガス供給系15が接続されている。
【0013】
ガス供給系15は、ヨウ化水素(HI)ガスを供給する第1ガス供給源16と、BClガスを供給する第2ガス供給源17とを備えている。HI及びBClガスは、第1ガス供給源16及び第2ガス供給源17から各マスフローコントローラ19によって流量を調節されながら真空槽11へ送出された後、混合された状態で処理室12へ供給される。
【0014】
真空槽11の下部には、基板電極ステージ20が設けられている。基板電極ステージ20は、その上面が平坦に形成され、基板Sbを載置可能となっている。また、基板電極ステージ20は、マッチングボックス21を介して、バイアス用高周波電源22に電気的に接続されている。マッチングボックス21は、処理室12内のプラズマ生成領域とバイアス用高周波電源22から基板Sbまでの伝送路とのインピーダンスの整合を図る整合回路とブロッキングコンデンサとを含んでいる。
【0015】
基板電極ステージ20と真空槽11の底壁部11bとの間には、板状の絶縁板23が設けられ、基板電極ステージ20と真空槽11の底壁部11bとを絶縁するようになっている。また、基板電極ステージ20の周囲には、筒状に形成された絶縁リング24が設けられ、基板電極ステージ20等と真空槽11の側面とを絶縁するようになっている。
【0016】
さらに基板電極ステージ20上には、基板Sbを吸着する静電チャック25が設けられている。静電チャック25は、一対のESC電極25a,25bと、略円盤状の誘電体からなる静電チャックプレート25cとを備えている。ESC電極25a,25bは、静電チャックプレート25c内に配設されている。これらのESC電極25a,25bは、図示しない電源装置に接続されており、一方のESC電極25aには所定のプラス電圧が印加され、他方のESC電極25bには、所定のマイナス電圧が印加される。そして電源装置からESC電極25a、25bに所定の電圧が印加されると、静電チャックプレート25cの表面に電荷が誘起され、基板Sbをその表面に静電吸着するようになっている。
【0017】
また、誘電体窓13の上方には、誘導結合プラズマ源を構成する高周波アンテナ30が、異なる面上であって、真空槽11の中心軸の回りを周回するように積み重ねられている。本実施形態では、高周波アンテナ30は、平面視において渦巻き形状をなしている。高周波アンテナ30から突出する入力端子(図示略)には、誘導結合プラズマ源を構成する高周波電源31とマッチングボックス32等が、入力側コンデンサ35を介して並列に接続されている。
【0018】
高周波電源31は、処理室12にプラズマを生成するための高周波電力、例えば13.56MHzの高周波電力を出力する。マッチングボックス32は、負荷となる上記処理室12内のガスと、高周波アンテナ30を含む高周波電源31から真空槽11までの伝送路とのインピーダンスの整合を図る。入力側コンデンサ35は、容量の変更が可能ないわゆる可変コンデンサであって、例えば10pF〜100pFの範囲で任意に静電容量を変更する。
【0019】
図2(a)に示すように、基板Sbは、基材Sに、GaN層Sb1と、GaN層Sb1上に積層されたフォトレジストマスクSb2とを備えている。基材Sは、サファイヤ基板やSiC基板、或いはシリコン基板と他の半導体層とからなる多層構造体等であって、その材料や構造は特に限定されない。
【0020】
フォトレジストマスクSb2は、開口部を有する所定のパターンを有し、有機材料あるいは無機有機ハイブリット材料から形成されている。フォトレジストマスクSb2は、GaN層Sb1にフォトレジストを塗布し、所定のパターンを有する光学的マスクを介して露光し、露光したフォトレジストを現像すること等により形成される。GaN層Sb1は、このフォトレジストマスクSb2の開口部を介して露出されている。
【0021】
次に、このエッチング装置の動作について説明する。
この基板Sbを真空槽11内であって、基板電極ステージ20上に載置すると、排出口11aから処理室12内の気体が排気され、真空槽11内が所定圧力にまで減圧される。また、ガス供給部14から各種エッチングガスが供給される。
【0022】
真空槽11内に供給されるエッチングガスは、上記したようにHIガスの体積比率が60%以上80%以下となるように調整されている。例えば、HIガスの流量は、25sccm以上60sccm以下、BClガス及びの流量は、5sccm以上30sccm以下が好ましい。
【0023】
エッチングガスを真空槽11内に供給すると、高周波電源31から、周波数13.56Mhzの高周波電力が高周波アンテナ30に供給され、真空槽11内のエッチングガスがプラズマ化される。また、基板電極ステージ20に高周波電力が供給されることによってプラズマ中の活性種は、基板Sbに引き込まれ、フォトレジストマスクSb2を介して露出されたGaN層Sb1をエッチングする。
【0024】
この際、HIガスの活性種は、GaNと反応して、GaI等の蒸気圧の高いヨウ化物を生成し、GaN層Sb1に対するエッチングレートを高める。また、その活性種は、有機系材料あるいは無機有機ハイブリット材料からなるフォトレジストマスクSb2と反応して、OHや、CH等の炭化水素、ヨウ素(I)を生成する。このうち、炭化水素、ヨウ素といった化合物は、その蒸気圧が低く、いわゆるデポ性を有する。それゆえに、HIガスの活性種とフォトレジストマスクSb2とが反応したとしても、それらの化合物の殆どは、フォトレジストマスクSb2に堆積して保護膜として機能するために、GaN層Sb1の選択的なエッチングが実施される。
【0025】
また、BClガスの活性種は、GaNと反応して、GaCl等の蒸気圧の高い塩化物を生成する。さらにBClガスの活性種は、フォトレジストマスクSb2と反応して、CCl等の塩化炭素系化合物や、BC等のホウ化炭素化合物を生成する。このうち、ホウ化炭素化合物は、その蒸気圧が低く、いわゆるデポ性を有するため、その殆どは、フォトレジストマスクSb2に堆積して保護膜として機能するが、塩化炭素系化合物は、蒸気圧が高く、保護膜を形成しない。
【0026】
即ち、HIガスのみを単独でエッチングガスとして用いても、エッチングレート及び選択比を向上することができるものの、エッチング形状、表面荒れ抑制等、実用性を向上するためにBClガス等の塩素系ガスを添加することが好ましい。しかし、BClガスの活性種は、フォトレジストマスクSb2との反応によって、上述したように蒸気圧の高い塩化炭素系化合物等を生成し、フォトレジストマスクSb2に対するエッチングレートを高める。それゆえ、こうしたBClガスを量を問わず添加するという方法では、フォトレジストマスクSb2に対するGaN層Sb1の選択比が、結局のところ、BClガスのみを用いたエッチングと同程度になってしまう虞があるため、BClガスの体積比率を制限することが必要となる。
【0027】
図3中、エッチングレートL3は、エッチングガス全体に対するHIガスに対する体積比率を変えた場合のフォトレジストマスクSb2に対するエッチングレートを示す。また、エッチングレートL1は、GaN層Sb1に対するエッチングレートを示し、選択比L2は、フォトレジストマスクSb2に対するGaN層Sb1の選択比を示す。フォトレジストマスクSb2に対するエッチングレートL3は、HIガスの体積比率が70%となる付近で極小となり、選択比L2は、そのHIガスの体積比率が70%となる付近で大きくなる。
【0028】
即ち、HIガスの体積比率が70%よりも小さい範囲では、塩素系化合物の活性種が多くなり、塩素とフォトレジストマスクSb2中の炭素が反応して生成されたCClといった揮発性の塩化炭素系化合物等が多くなると考えられる。一方、HIガスの体積比率が70%を超える範囲では、GaI等の揮発性のヨウ化化合物等が多く生成されると考えられる。そして、HIの体積比率が70%付近である場合には、揮発性の塩化炭素系化合物及びヨウ化化合物以外にも、I等の不揮発性の化合物が比較的多く生成され、フォトレジストマスクSb2に堆積して保護層として機能すると想定される。このため、HIガスの体積比率が70%付近では、フォトレジストマスクSb2に対するGaN層Sb1の選択比が向上される。また、良好な選択比である「5」以上となるHIガスの体積比率は、上記した60%以上80%以下の範囲である。
【0029】
また、プラズマ密度は、1×1010cm−3以上2×1011cm−3以下となるように、基板電極ステージ20に印加する高周波電圧、真空槽11内の圧力、ガス流量等を制御することが好ましい。図4に、プラズマ密度を変化させた場合のGaN層Sb1のエッチングレートL1と、フォトレジストマスクSb2のエッチングレートL3と、フォトレジストマスクSb2に対するGaN層Sb1の選択比L2とを示す。プラズマ密度が2×1011cm−3を超える場合では、GaN層Sb1のエッチングレートも大きくなるが、フォトレジストマスクSb2のエッチングレートも大きくなるため、選択比が5を下回る。また、図示はしていないが、プラズマ密度が、1×1010cm−3未満となる場合には、GaN層Sb1のエッチングレートが下がり、生産性が低下する。このため、良好な生産性を維持しつつ、選択比を高めるためには、プラズマ密度を上記範囲とすることが好ましい。
【0030】
このようにエッチングを実施すると、フォトレジストマスクSb2に対するGaN層Sb1の選択比が大きくなり、結果として図2(b)に示すように、GaN層Sb1には、100nm程度の幅を有して、アスペクト比が5〜10程度のホール33が形成される。
【0031】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、GaN層Sb1をエッチングするエッチングガスを、HIガス及びBClガスから構成し、HIガスの体積比率を60%以上80%以下とした。この体積比率の範囲内では、エッチングが実施されることにより、フォトレジストマスクSb2の保護膜として機能する生成物の量と、GaN層Sb1のエッチングレートとのバランスが取れるため、その選択比を大きくすることができる。
【0032】
(2)上記実施形態では、エッチングガスのプラズマの密度を1×1010cm−3以上2×1011cm−3以下とした。即ち、上記範囲を超えた高密度なプラズマである場合には、GaNの選択的なエッチングに寄与するHIガスの活性種の割合が少なくなる等の理由で、選択比が低下する。従って、プラズマ密度を上記範囲にすることにより、フォトレジストマスクSb2に対するGaN層Sb1の選択比を向上することができる。
【0033】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・誘導結合型のドライエッチング装置は、図1に示した平面型以外に、円筒形の真空槽の外周にアンテナが巻回された構成であってもよい。また、誘導結合型以外にも、容量結合型のドライエッチング装置であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
11…真空槽、11a…排気口、12…処理室、14…ガス供給部、20…基板電極ステージ、22…バイアス用高周波電源、30…高周波アンテナ、31…高周波電源、Sb1…GaN層、Sb2…フォトレジストマスク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトレジストマスクが積層された窒化ガリウム層のドライエッチング方法であって、
ヨウ化水素ガス及びBClガスを含むエッチングガスのプラズマを生成し、該プラズマによって前記窒化ガリウム層をエッチングするとともに、
前記エッチングガスのうち前記ヨウ化水素ガスの体積比率は、60%以上80%以下であることを特徴とするドライエッチング方法。
【請求項2】
前記エッチングガスのプラズマは、その密度が1×1010cm−3以上2×1011cm−3以下である請求項1に記載のドライエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−26609(P2013−26609A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163288(P2011−163288)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】