説明

ナビゲーション装置

【課題】加速度センサのオフセット誤差が存在する場合であっても精度良く位置を求めることが可能なナビゲーション装置を提供する。
【解決手段】加速度センサから得られる加速度と所定の閾値とを比較する加速度判定手段と、加速度判定手段により加速度の絶対値が前記閾値より大きいと判定された場合は、該加速度と記憶手段に記憶されている過去の位置および移動速度とに基づいて現在の位置を算出し、加速度判定手段により加速度の絶対値が前記閾値より小さいと判定された場合は、等速運動であるとみなして方位センサによる計測に基づく方位と記憶手段に記憶されている過去の位置および移動速度とに基づいて現在の位置を算出する位置算出手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現在位置の案内を行うナビゲーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の位置を計測し走行案内を行うナビゲーション装置には、車内に配線等を行って設置する据え置き型のものと、PND(Personal Navigation Device)と呼ばれる持ち運び自在の携帯型のものとがある。近年、据え置き型のナビゲーション装置(例えば、特許文献1参照)では、GPS信号に基づき取得される位置情報の他、内蔵するジャイロセンサまたは地磁気センサより得られる方位や車両が備える車速計より得られる車速の情報も併用することによって、車両の現在位置を高精度に求める機能を搭載したものが実用化されている。このような機能は、特に、GPS信号が取得できないか、又はGPS信号の精度が良くない場合に有用となる。
【0003】
一方、携帯型のナビゲーション装置では、車速の情報を車両の計器盤等の内部に設置された車速計から得ることが簡単でないため、GPS信号が取得できない等の場合のための補助的手段として、従来、内蔵する加速度センサを用いて計測した加速度を積分することにより車速を得、これにより位置を求めるという方法が採用されている。
【特許文献1】特開平9−42979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、加速度センサは一般にオフセット誤差を有するため、位置の計測において十分に良好な精度が得られないという重大な問題がある。ここで、オフセット誤差とは、本来加速度運動による加速度がゼロであるにもかかわらずある有限の加速度値が加速度センサから出力されてしまう誤差のことである。こうしたオフセット誤差は、例えば、加速度センサが車両に対して水平に取り付けられていない場合や、車両が坂道など水平面から傾いた場所を走行する場合等に、重力加速度を車両に加えられた加速度と誤認してしまうことによって生じ得る。特にこの後者の場合は、たとえ加速度センサが車両に対して水平に取り付けてあったとしてもオフセット誤差の発生が避けられないため、大きな問題となる。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、加速度センサのオフセット誤差が存在する場合であっても精度良く位置を求めることが可能なナビゲーション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、現在位置を求め位置案内を行うナビゲーション装置において、加速度センサから得られる加速度と所定の閾値とを比較する加速度判定手段と、前記加速度判定手段により加速度の絶対値が前記閾値より大きいと判定された場合は、該加速度と記憶手段に記憶されている過去の位置および移動速度とに基づいて現在の位置を算出し、前記加速度判定手段により加速度の絶対値が前記閾値より小さいと判定された場合は、等速運動であるとみなして方位センサによる計測に基づく方位と記憶手段に記憶されている過去の位置および移動速度とに基づいて現在の位置を算出する位置算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、測定された加速度の絶対値が所定の閾値より小さい場合は、その加速度は車両が傾いている(例えば坂道を走行している等)ことに起因するものであると想定して加速度をゼロとみなし、車両の動きを等速運動として現在の位置を求めるようにした。したがって、車両が傾くことにより加速度センサにオフセット誤差が生じていても、精度良く位置を求めることができる。
【0008】
また、本発明は、上記のナビゲーション装置において、GPSにより位置を求めるとともに該求めた異なる時刻における複数の位置から移動速度を求める計測手段と、前記計測手段により求められた位置および移動速度と、前記位置算出手段により求められた位置および該位置に基づき計算される移動速度と、をカルマンフィルタに入力して現在の最も確からしい位置に関する最良値を推定する最良値推定手段と、前記最良値推定手段によって推定された最良値に基づき、前記位置算出手段により求められた位置の誤差が前記加速度センサのオフセット誤差に起因したものであるとして該オフセット誤差の分だけ加速度を補正するための加速度オフセット値を算出する加速度オフセット算出手段と、を更に備え、前記加速度判定手段は、前記加速度センサから得られる加速度を前記加速度オフセット算出手段により算出された加速度オフセット値を用いて補正し、該補正された加速度と前記閾値とを比較することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、加速度オフセット値を求めて加速度センサから得られる加速度を補正するようにしたので、オフセット誤差が補正され、更に精度良く位置を求めることができる。
【0010】
また、本発明は、上記のナビゲーション装置において、前記加速度センサから得られる加速度の所定時間における変化が予め定められた値以下である場合に、前記加速度センサから得られた加速度の値に応じて加速度オフセット値を算出する加速度オフセット算出手段を更に備え、前記加速度判定手段は、前記加速度センサから得られる加速度を前記加速度オフセット算出手段により算出された加速度オフセット値を用いて補正し、該補正された加速度と前記閾値とを比較することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、加速度センサから得られた加速度の変化から加速度オフセット値を求めて加速度センサから得られる加速度を補正するようにしたので、GPS信号を取得できない、もしくはGPS信号の信頼性が十分でない場合においてもオフセット誤差が補正され、更に精度良く位置を求めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加速度センサのオフセット誤差が存在する場合であっても精度良く位置を求めることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態によるナビゲーション装置1の構成図である。ナビゲーション装置1は、CPU10と、GPS部11と、加速度センサ12と、磁気センサ13と、メモリ14と、外部記憶装置15と、通信部16と、表示装置17と、音声出力装置18と、を含んで構成され、各部はバスライン19によって接続されている。ナビゲーション装置1のこれら各部は一つの筐体内に収容されており、ナビゲーション装置1が携帯可能であるとともに車両内の任意の位置に取付け可能になっている。以降、ナビゲーション装置1は車両内に取り付けられているものとする。
【0014】
CPU(中央処理装置)10は、メモリ14に格納されたプログラムを読み込み、該読み込んだプログラムに従って、ナビゲーション装置1の各部を統括し制御するとともに、GPS部11や加速度センサ12、磁気センサ13より取得されるデータから現在の位置を算出する後述(図2〜図4)の演算処理や、ユーザに現在位置を案内するナビゲーション機能を実現する情報処理を実行する。
【0015】
GPS部11は、GPS(全地球測位システム)方式によって車両の位置(緯度経度)を測位するとともに、測位された最新の位置とその直前の位置とに基づいて車両の速度および進行方向を算出し、得られた位置、速度、進行方向を表す各情報をCPU10へ出力する。GPS方式では、GPS衛星からのGPS信号を受信し、該GPS信号を受信した受信時刻(図示しない計時手段により計時される)のデータを用いた演算処理によって、位置を測位する。
【0016】
加速度センサ12は、車両(即ちナビゲーション装置1)の加速度を測定し、その測定結果を表す加速度情報をCPU10へ出力する。測定される加速度は、車両が加速運動を行ったことによる加速度以外に、車両が坂道などで傾いたことによる重力加速度も含んでいる。加速度センサ12としては、互いに直角な異なる二方向の加速度成分を検出する2軸加速度センサを用いるものとし、本実施形態においては、加速度センサ12は、その一方の軸(これをy軸とし、他方をx軸とする)が次に説明する磁気センサ13の基準軸の向きと一致するようにして配置するものとする。CPU10へ出力される加速度情報は、各軸方向の(即ち、磁気センサ13の基準軸を基準としたxy座標系における)加速度成分である。各成分には、重力加速度が測定されてしまうことに起因するオフセット誤差が含まれている。
【0017】
磁気センサ13は、車両(即ちナビゲーション装置1)における地磁気を測定し、磁気センサ13に定められた所定の基準軸が向けられている方位を算出してその方位を表す方位情報をCPU10へ出力する。本実施形態において、磁気センサ13は、この基準軸が車両正面方向に対してある角度だけずれた方向(これは、携帯可能なナビゲーション装置1を車内に置いたときにその置き方が任意であることに基づく)を向くようにして配置される。磁気センサ13としては、互いに直角な異なる二方向の磁気成分を検出する2軸磁気センサ、または互いに直角な異なる三方向の磁気成分を検出する3軸磁気センサ、のいずれかを用いるものとする。例えば2軸磁気センサの場合には、磁気の大きさを検出する2つの素子(磁気抵抗素子)が異なる二方向を向いて配置されており、それぞれの素子が検出する地磁気の大きさに基づいて上記基準軸の方位を算出する。
【0018】
メモリ14は、ROM(読出し専用メモリ)とRAM(随時書込み読出しメモリ)からなる。ROMには、CPU10で実行されるプログラムが記憶されている。RAMは、プログラム実行時に一時データを記憶する記憶領域として使用される。
外部記憶装置15は、例えばハードディスクドライブなどの大容量記憶装置であり、ナビゲーションに必要な地図情報等を記憶している。
通信部16は、例えば無線通信等によってインターネットと接続し、最新の地図情報等をインターネットを介して取得する。取得した地図情報等は、外部記憶装置15に記憶される。
【0019】
表示装置17は、CPU10によって実現するナビゲーション機能による走行案内を、例えば地図上に車両の現在位置と方位が分かるような形でグラフィカルに表示する。
音声出力装置18は、必要なタイミングで例えば交差点を曲がる等の音声案内用の音声を発生してスピーカから音声案内を行う。
【0020】
次に、ナビゲーション装置1がGPS部11、加速度センサ12、および磁気センサ13より取得されるデータから現在の位置を算出する処理について説明する。図2は、ナビゲーション装置1の当該処理にかかる機能ブロックを示す図であり、当該処理は、INS系位置算出部101(加速度センサ12と磁気センサ13をINS(Inertial Navigation System)系と称する)と、最良値推定部102と、位置補正部103と、加速度オフセット算出部104と、加速度判定部105とによって実現される。なお、これら各部の機能は、前述したように、メモリ14に格納されたプログラムをCPU10が読み出して実行することにより実現される。
【0021】
INS系位置算出部101へは、加速度センサ12からオフセット誤差を含んだ加速度a=(ax,ay)が入力され(axはx軸成分、ayはy軸成分)、磁気センサ13から上記基準軸の示す方位θが入力され、GPS部11から車両の進行方向φが入力される。更に、INS系測位部101へは、加速度オフセット算出部104から、加速度センサ12からの加速度aに含まれるオフセット誤差を補正するための加速度オフセット値b=(bx,by)が入力される(bxはx軸成分、byはy軸成分)。
INS系位置算出部101は、加速度判定部105からの指示に応じて、上記の入力された各データに基づき、車両の位置PINSおよび速度VINSを計算する。また、その計算結果を最良値推定部102と位置補正部103へ出力する。
【0022】
具体的に、INS系位置算出部101は、加速度判定部105において加速度a+bの絶対値が所定の閾値以上であると判定された場合は、位置PINSおよび速度VINSを次式に従って計算する。
aN=−(ax+bx)・sinθ+(ay+by)・cosθ ……(1A)
aE= (ax+bx)・cosθ+(ay+by)・sinθ ……(1B)
VNINS=VN0INS+aN・Δt ……(1C)
VEINS=VE0INS+aE・Δt ……(1D)
PNINS=PN0INS+sin−1[(VNINS×Δt)/R] ……(1E)
PEINS=PE0INS+sin−1[(VEINS×Δt)/{R×cos(PN0INS)}] ……(1F)
但し、aN,aEはそれぞれ加速度a+bの緯度および経度方向成分、VNINS,VEINSはそれぞれ速度VINSの緯度および経度方向成分、PNINS,PEINSはそれぞれ位置PINSの緯度および経度成分である。また、VN0INS,VE0INS,PN0INS,PE0INSはそれぞれ前回計算されたVNINS,VEINS,PNINS,PEINSの値、Δtは前回の計算から今回の計算までの経過時間、Rは地球の半径である。
【0023】
一方、INS系位置算出部101は、加速度判定部105において加速度a+bの絶対値が上記所定の閾値より小さいと判定された場合は、位置PINSおよび速度VINSを次式に従って計算する(PNINSとPEINSの式は上記と共通)。
V=√(VN0INS+VE0INS) ……(2A)
VNINS=V×cosθ’ ……(2B)
VEINS=V×sinθ’ ……(2C)
PNINS=PN0INS+sin−1[(VNINS×Δt)/R ……(2D)
PEINS=PE0INS+sin−1[(VEINS×Δt)/{R×cos(PN0INS)}] ……(2E)
但し、θ’は磁気センサ13が車両正面方向からずれていることを考慮し方位θを後述(図4のフローチャートのステップS52を参照)のようにして補正した値である。
【0024】
このように、加速度の絶対値が所定の閾値以上の場合には、加速度aN,aEを用い車両の運動を加速度運動として速度VINSを求めてこれにより位置PINSを算出し、加速度の絶対値が所定の閾値より小さい場合には、前回の速度VN0INS,VE0INSを用い車両の運動を等速運動とみなして速度VINSを求めてこれにより位置PINSを算出する。したがって、車両が実際には等速運動を行っているが走行している場所が坂道などであるために加速度センサ12が出力する加速度aにオフセット誤差が含まれてしまう場合でも、INS系位置算出部101は後者の方式により、即ち等速運動であるとして位置を算出するので、オフセット誤差の影響を受けることなく精度良く位置を求めることができる。
【0025】
なお、等速運動とみなして位置PINSを算出する処理は、GPS部11によりGPS信号を取得できない、もしくはGPS信号の信頼性が十分でない場合にのみ、行うようにしてもよい。GPS信号を取得できている間は後述する最良値推定部102および加速度オフセット算出部104が有効に機能して加速度オフセット値bを算出でき、これにより加速度センサ12のオフセット誤差が補正されるから、加速度aN,aEの値が小さくてもそれを信頼して上記の式(1A)〜(1F)により正しく位置PINSを求めることができる。これに対し、例えばトンネル内のようにGPS信号が取得できなくなると、最良値推定部102および加速度オフセット算出部104が有効に機能しないから加速度センサ12のオフセット誤差を補正できず、加速度aN,aEの値の信頼性がなくなる。このような場合に、加速度の絶対値が小さいとオフセット誤差の影響が大きく出てしまうので、等速運動とみなして位置PINSを算出する上記の式(2A)〜(2E)による処理に切り替えることの大きな意味がある。
【0026】
最良値推定部102へは、INS系位置算出部101から上記計算された位置PINSおよび速度VINSが入力されるとともに、GPS部11から位置PGPSおよび速度VGPSが入力される。INS系位置算出部101によって計算される位置PINSおよび速度VINSと、GPS部11から得られる位置PGPSおよび速度VGPSとは、それぞれの測定原理が違うので互いの値には差があり、また各値は固有の誤差を持っている。最良値推定部102はこのような入力値から最も確からしい値を推定するために用いられる。
【0027】
最良値推定部102は、GPS部11からの入力がある度に、入力された位置の差分δP’=PGPS−PINSと入力された速度の差分δV’=VGPS−VINSを計算し、この差分δP’およびδV’に基づいてそれらの最も確からしい値(最良値)であるδPとδVを推定する。このδPとδVの推定は、カルマンフィルタを用いた演算によって行うものとする。演算の詳細については後述する。最良値推定部102は、推定により得られた最良値δPとδVを位置補正部103および加速度オフセット算出部104へ出力する。
【0028】
位置補正部103は、INS系位置算出部101から入力される車両の位置PINSと最良値推定部102から入力される位置の差分の最良値δPとに基づいて、次式
P=PINS+δP
に従って位置PINSを補正することにより現在の最も確からしい位置Pを計算し、得られた位置Pをナビゲーションソフト(CPU10)への出力とする。
【0029】
加速度オフセット算出部104は、最良値推定部102から入力される位置の差分の最良値δPに基づいて、加速度センサ12から出力される加速度aに含まれるオフセット誤差を補正するための補正値である加速度オフセット値bを算出し、算出した加速度オフセット値bをINS系位置算出部101へ出力する。ここで、位置の差分の最良値δPから加速度オフセット値bを求めるための算出式は、次のような仮定に基づいて定めることとする。
【0030】
即ち、INS系位置算出部101において前回、加速度センサ12からの加速度aが完全に(つまりオフセット誤差がなくなるように)補正されていたとすれば、最良値推定部102によって得られる位置の差分の最良値δPはゼロになるはずである。一方、加速度aの補正が不完全である(つまりオフセット誤差が残っている)ならば、その不完全な分の加速度(これをb’とする)によってINS系位置算出部101で計算される位置PINSに誤差が生じ、この誤差に対応する値を持った位置の差分の最良値δPが最良値推定部102から得られることになるはずである。故に、最良値推定部102の出力δPは、加速度b’での等加速度運動によって生じる位置の誤差であり、次式
δP=(1/2)・b’・ΔT
が成り立つ。
【0031】
したがって、加速度オフセット算出部104が加速度オフセット値bを算出するための算出式を
b=b0+2・δPxy/ΔT
とする。但し、ここでb0はINS系位置算出部101での前回の加速度の補正に用いられた加速度オフセット値、ΔTは前回の加速度の補正から今回までの経過時間である。また、δPxyは、最良値推定部102から得られる緯度経度で表された最良値δPを車両に固定された上記のxy座標系に変換(方位θの回転)したものである。
【0032】
こうして算出された加速度オフセット値bがINS系位置算出部101へ入力され、上述の式(1A),(1B)に示されるように加速度aと加算されることによって、加速度センサ12から得られる加速度aの補正が行われる。
なお、ナビゲーション装置1が加速度オフセット算出部104により加速度オフセット値bを算出し、この加速度オフセット値bを用いてINS系位置算出部101において加速度aを補正する処理は、必要に応じて行えばよく、省略することも可能である(省略する場合、次に述べる加速度判定部105が判定する加速度はa+bではなくaとなる)。但し、当該処理を行うと、加速度センサ12からのオフセット誤差を含んだ加速度が補正された上で更にその補正された加速度が上述した閾値より小さい場合に、等速運動として位置が算出されることになるので、より一層精度良く位置を求めることが可能である。
【0033】
次に、ナビゲーション装置1の動作の具体例を説明する。図3は、ナビゲーション装置1の動作例を示すフローチャートである。
【0034】
まず、CPU10は、GPS部11から車両の位置PGPSと速度VGPSと進行方向φとを取得してメモリ14に格納し(ステップS1)、更に、加速度センサ12からオフセット誤差を含んだ加速度aを取得するとともに磁気センサ13から基準軸の示す方位θを取得して、それぞれをメモリ14に格納する(ステップS2)。次いでCPU10は、上記取得した加速度aとメモリ14に保持している加速度オフセット値bとの和a+bを計算し、その絶対値が所定の閾値以上であるか否かを判断する(ステップS3)。加速度オフセット値bは、ステップS3の初回実行時は初期値b=(0,0)であり、以下説明するステップS14を実行した後は当該ステップS14で算出された値であり、適宜、メモリ14にこれらが記憶されている。
【0035】
和a+bの絶対値が所定の閾値以上である場合、INS系位置算出部101は、上述の式(1A)〜(1F)に従って車両の位置PINSおよび速度VINSを計算する(ステップS4)。和a+bの絶対値が所定の閾値より小さい場合、INS系位置算出部101は、上述の式(2A)〜(2E)に従って車両の位置PINSおよび速度VINSを計算する(ステップS5)。
なお、上記のステップS3の前に、GPS部11による計測の精度を判断するステップを設け、例えばGPS信号を取得できない場合やGPS信号を取得したがその精度が良好でない場合にのみステップS3を実行し、精度が十分に良好である場合にはステップS4により位置PINSおよび速度VINSを計算するようにしてもよい。これは、GPS部11からの計測結果の精度が良好であれば、以下のステップS14で加速度オフセット値bが算出され、この加速度オフセット値bにより補正された加速度を用いて上記の式(1A)〜(1F)から計算される位置PINSは、比較的信頼性が高いと期待できるからである。
【0036】
次に、CPU10は、位置PGPSと速度VGPSが更新されたか否かを判断する(ステップS6)。後述するように上記ステップS1は時間ΔtGPS間隔で繰り返され、上記ステップS2は時間ΔtINS(<ΔtGPS)間隔で繰り返されるが、まだ時間ΔtGPSが経過していない時は位置PGPSと速度VGPSは更新されないので、ステップS6の判断はNOとなる。
【0037】
この場合、位置補正部103は、ステップS4またはステップS5で計算された位置PINSをメモリ14に保持している最新の最良値δPを用いて補正することにより現在の最も確からしい車両の位置Pを計算する(ステップS7)。なお、最良値δPは、以下説明するステップS13の前回の実行時に算出されてメモリ14に記憶されている。こうして、位置補正部103から、INS系位置算出部101で計算された位置PINSを補正した位置Pがナビゲーションソフトへ出力される(ステップS8)。
【0038】
続いて、CPU10は、時間ΔtGPSが経過したか否かを判断し(ステップS9)、時間ΔtGPSが経過すると再びステップS1からの処理を繰り返す。時間ΔtGPSがまだ経過していなければ、CPU10は、次に時間ΔtINSが経過したか否かを判断し(ステップS10)、時間ΔtINSが経過すると再びステップS2からの処理を繰り返す。このようにして、GPS部11からのデータは時間ΔtGPS間隔で更新されるとともに、INS系のデータは時間ΔtINS間隔で更新されていく。なお、一例として、ΔtGPS=1秒、ΔtINS=0.2秒とする。
【0039】
GPS部11からのデータが更新されると、ステップS6の判断はYESとなる。この場合、CPU10は、GPS部11による計測の精度が十分に良好であるか否かを判定する(ステップS11)。例えば、GPS部11から得られる車両の速度VGPSが所定値以上であれば精度が十分に良好であると判定するようにする。精度が十分に良好であると判定された場合、CPU10は、ステップS1で取得した進行方向φとステップS2で取得した磁気センサ13の基準軸の方位θの差分δ=θ−φを計算し、得られた差分δの値を配列Aに追加する(ステップS12)。この差分δは、磁気センサ13から得られる方位θが車両の進行方向φからどれだけずれているかを表している。
【0040】
次いで、最良値推定部102は、ステップS1,S4,S5で得られた位置および速度から計算される差分δP’=PGPS−PINSとδV’=VGPS−VINSに基づいて、それらの最良値δPとδVを推定する(ステップS13)。この推定結果はメモリ14に記憶される。加速度オフセット算出部104は、上記得られた最良値δPから加速度オフセット値bを算出する(ステップS14)。算出された加速度オフセット値bは、メモリ14に記憶されステップS3において加速度a+bの閾値判定のために使用される。ステップS14の後、位置補正部103はステップS13で推定された最良値δPを用いて現在の最も確からしい車両の位置Pを計算する(上記ステップS7)。
【0041】
一方、ステップS11においてGPS部11による計測の精度が十分に良好でないと判定された場合には、ステップS13における最良値δPとδVの推定およびステップS14における加速度オフセット値bの算出を行うことなく、ステップS7へ処理を移す。これは、GPS部11からの精度の悪いデータに基づいて精度の悪い最良値δPが推定されてしまう結果、位置補正部103が出力する位置Pや加速度オフセット算出部104が出力する加速度オフセット値bの精度が悪くなってしまうことがないようにするためである。
【0042】
次に、上述したステップS5の具体的な処理を説明する。図4は、加速度a+bの絶対値が所定の閾値より小さい場合にINS系位置算出部101が位置および速度を算出する処理の例を示すフローチャートである。
INS系位置算出部101は、ステップS12で差分δの値が格納された配列A内の各差分δ(異なる時刻に対応する複数の差分δ)の平均δaveを計算し(ステップS51)、この平均値δaveを用いて、ステップS2で取得された磁気センサ13からの方位θを次式
θ’=θ−δave
に従って補正する(ステップS52)。これにより、方位θは車両の進行方向を表すθ’に補正され、磁気センサ13の出力θから車両の進行方向が求まることになる。この補正後の方位θ’を用いて、INS系位置算出部101は上述の式(2B)および(2C)に従って速度VINSを計算し(ステップS53)、更に式(2D)および(2E)に従って位置PINSを計算する(ステップS54)。
【0043】
次に、最良値推定部102が最良値δPとδVを推定する演算処理の詳細について説明する。
最良値推定部102の演算処理にはカルマンフィルタを適用し、本実施形態では、カルマンフィルタへの入力となる測定ベクトルz、その出力である状態ベクトルx、状態ベクトルxの時間変化を表す状態方程式を次のように定義する。
【0044】
【数1】

【0045】
ここで、PNGPS,PEGPSはそれぞれGPS部11から得られる位置PGPSの緯度および経度成分、VNGPS,VEGPSはそれぞれGPS部11から得られる速度VGPSの緯度および経度方向成分である。また、δPN,δPEはそれぞれ最良値δPの緯度および経度成分、δVN,δVEはそれぞれ最良値δVの緯度および経度方向成分である。なお添字INSの変数はINS系のものである(既述)。
【0046】
このような定義の下、カルマンフィルタの出力である状態ベクトルxは、次式のように表される。但し、k(=1,2,…)は最良値の推定がk回目であることを示す添字であり、時間に対応している。
【0047】
【数2】

【0048】
ここで、Kはカルマンゲインであり、次式で計算される。
【0049】
【数3】

【0050】
但し、Δtは前回(k−1回目)推定した最良値δPに基づき算出される加速度オフセット値bによって加速度の補正を行ってから今回(k回目)までの経過時間であり、各行列R,P,Qの初期値は次のとおりとする。
【0051】
【数4】

【0052】
最良値推定部102は、これらの式に従って測定ベクトルzから状態ベクトルxを計算する。この計算により求められる状態ベクトルxが、最良値δP(の緯度および経度成分)とδV(の緯度および経度方向成分)である。
【0053】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、本発明は携帯型のナビゲーション装置に用いて好適であるが、据え置き型のナビゲーション装置にも同様に適用可能である。また、上記実施形態において、車両とは自動車、自動二輪車、自転車等を含むものであるとする。
【0054】
また、加速度オフセット算出部104が加速度オフセット値bを算出するための算出式は、次式
b=b0+2・δPxy/ΔT・r
のようにしてもよい。ここで、rは加速度オフセット値を前回の値b0から更新する際の変更の度合を調節するための係数であり、例えばr=0.03のように適宜設定する。
また、加速度オフセット算出部104が加速度オフセット値bを算出するための算出式は、最良値推定部102から得られる速度の最良値δVを用いて、次式
b=b0+δVxy/ΔT
のようにしてもよい。但し、δVxyは緯度経度で表された最良値δVを車両に固定された上記のxy座標系に変換(方位θの回転)したものである。
【0055】
また、最良値推定部102は、位置および速度の差分δP’=PGPS−PINS,δV’=VGPS−VINSを計算することなく、これらの位置PGPSおよびPINSと速度VGPSおよびVINSから直接、位置の最良値Pと速度の最良値Vを推定するようにしてもよい。この場合、推定を行うためのカルマンフィルタの演算において、入力となる測定ベクトルzおよび出力である状態ベクトルxを適宜修正するとともに、計算された状態ベクトルxにより与えられる最良値Pをそのままナビゲーションソフト(CPU10)への出力とすればよい。
また、磁気センサ13に代えてジャイロセンサなどの他の方位センサを用いてもよい。
【0056】
また、GPS部11がGPS信号を取得できない、もしくはGPS信号の信頼性が十分でない場合は、図5および図6に示す方法によって加速度オフセット値を算出することも可能である。
すなわち、車両の加速や減速は通常ある短い期間(例えば、数秒間)で完結するため、それによる加速度は短い期間で急激に変化するのに対し、道路の傾斜は急激に変わらないため、それによる加速度は、長い期間ほぼ一定値を示すことに着目すると、加速度センサから出力される加速度が、車両の加速や減速によるものか、道路の傾斜等によるものかを判断することができるので、その判断結果に基づいて加速度オフセット値を算出することができる。
【0057】
以下、具体的に車両の加速や減速と道路の傾斜を区別する方法を説明する。図5は、車両の走行によって得られる加速度センサの出力例を示したグラフである。図5において、加速度波形a1は車両の加速や減速による加速度センサ12の出力の変化を表しており、この加速度波形a1では、期間t1において加速度がaからbまで大きく変化している。また、加速度波形a2は道路の傾斜による加速度センサ12の出力の変化を表しており、この加速度波形a2では、期間t2において加速度がcからdまでほとんど変化していない。このように、ある期間内の加速度の変化量は、車両の加速や減速の場合と、道路の傾斜の場合とで異なっている。そこで、加速度の最大値と最小値の差(変化量)が予め定められた所定値より大きければ車両の加速や減速と判断し、予め定められた所定値よりも小さければ道路の傾斜と判断することで、両者を区別することができる。
【0058】
次に、加速度センサから出力される加速度に従って、上記方法を利用して加速度オフセット値を算出する具体例を説明する。図6は、加速度センサの出力から加速度オフセット値を算出する方法の例を示したグラフである。まず、加速度センサ12から図6(A)に示す加速度波形A1のような加速度が出力された場合、低域通過フィルタを用いることよって車両の振動成分を示す短周期のノイズを抑圧し、図6(B)に示すフィルタ出力波形B1を得る。
【0059】
次に、加速度オフセット算出部104は、図6(B)のフィルタ出力波形B1から、予め定められた所定の期間内における平均値と、該期間内の最大値および最小値とを算出する。加速度オフセット算出部104は、算出した最大値と最小値との差が予め定められた所定の値以上である場合は、車両の加速や減速と判断し、算出した最大値と最小値との差が予め定められた所定の値以下である場合は、車両が加速や減速を行っていない、すなわち、道路の傾斜等による加速度であると判断する。図6(B)のフィルタ出力波形B1においては、期間aと期間cの期間が加速または減速をしていると判断され、期間bが道路の傾斜と判断される。
【0060】
加速度オフセット算出部104は、加速または減速を行っていないと判断した期間(期間b)は、算出した平均値を加速度センサ12のオフセット値とする。また、加速度オフセット算出部104は、加速または減速をしていると判断した期間(期間aと期間c)のオフセット値は、直前の値を維持して変化させない。つまり、時刻“0”ではまだオフセット値が求まっていないため、期間aではオフセット値=“0”を維持し、期間cでは期間bの最後のオフセット値を維持する。加速度オフセット算出部104は、このようにして算出した加速度オフセット値をINS系位置算出部101へ出力する。この加速度オフセット算出部104が算出した加速度オフセット値をグラフに表したものが、図6(C)のオフセット波形C1である。このように、GPS部11がGPS信号を取得できない、もしくはGPS信号の信頼性が十分でない場合には、GPS信号を用いることなく、加速度オフセット値を算出することが可能となる。
【0061】
また、車両の走行においては、カーブを走行中の遠心力によっても加速度センサ12から出力される加速度が変化する。このカーブによる加速度を考慮して車両の加速や減速による正しい加速度を求めるため、上述したステップS52によって求められた車両の進行方向θ’に基づき、加速度センサ12から出力される加速度のθ’方向の成分と、θ’に垂直な方向の成分を求め、前者を車両の加速や減速と判断し、後者をカーブにおける遠心力と判断する。そして、進行方向θ’の成分のみを車両の加速や減速による加速度の値として使用することも可能である。このことにより、より精度良く車両の加速度を求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態によるナビゲーション装置の構成図である。
【図2】ナビゲーション装置の機能ブロックを示す図である。
【図3】ナビゲーション装置の動作例を示すフローチャートである。
【図4】加速度の絶対値が所定の閾値より小さい場合に位置および速度を算出する処理の例を示すフローチャートである。
【図5】車両の走行によって得られる加速度センサの出力例を示したグラフである。
【図6】加速度センサの出力から加速度オフセット値を算出する方法の例を示したグラフである。
【符号の説明】
【0063】
10…CPU 11…GPS部 12…加速度センサ 13…磁気センサ 14…メモリ 15…外部記憶装置 16…通信部 17…表示装置 18…音声出力装置 19…バスライン 101…INS系位置算出部 102…最良値推定部 103…位置補正部 104…加速度オフセット算出部 105…加速度判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現在位置を求め位置案内を行うナビゲーション装置において、
加速度センサから得られる加速度と所定の閾値とを比較する加速度判定手段と、
前記加速度判定手段により加速度の絶対値が前記閾値より大きいと判定された場合は、該加速度と記憶手段に記憶されている過去の位置および移動速度とに基づいて現在の位置を算出し、前記加速度判定手段により加速度の絶対値が前記閾値より小さいと判定された場合は、等速運動であるとみなして方位センサによる計測に基づく方位と記憶手段に記憶されている過去の位置および移動速度とに基づいて現在の位置を算出する位置算出手段と、
を備えることを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項2】
GPSにより位置を求めるとともに該求めた異なる時刻における複数の位置から移動速度を求める計測手段と、
前記計測手段により求められた位置および移動速度と、前記位置算出手段により求められた位置および該位置に基づき計算される移動速度と、をカルマンフィルタに入力して現在の最も確からしい位置に関する最良値を推定する最良値推定手段と、
前記最良値推定手段によって推定された最良値に基づき、前記位置算出手段により求められた位置の誤差が前記加速度センサのオフセット誤差に起因したものであるとして該オフセット誤差の分だけ加速度を補正するための加速度オフセット値を算出する加速度オフセット算出手段と、
を更に備え、
前記加速度判定手段は、前記加速度センサから得られる加速度を前記加速度オフセット算出手段により算出された加速度オフセット値を用いて補正し、該補正された加速度と前記閾値とを比較する
ことを特徴とする請求項1に記載のナビゲーション装置。
【請求項3】
前記加速度センサから得られる加速度の所定時間における変化が予め定められた値以下である場合に、前記加速度センサから得られた加速度の値に応じて加速度オフセット値を算出する加速度オフセット算出手段を更に備え、
前記加速度判定手段は、前記加速度センサから得られる加速度を前記加速度オフセット算出手段により算出された加速度オフセット値を用いて補正し、該補正された加速度と前記閾値とを比較する
ことを特徴とする請求項1に記載のナビゲーション装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−98127(P2009−98127A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218126(P2008−218126)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】