説明

ナビゲーション装置

【課題】センサフュージョンに利用するセンサが増えた場合であっても、現在地の推定に必要な計算量が低く抑えられたナビゲーション装置を提供する。
【解決手段】ROM34には、種々の状況において各センサに与えられる重みが設定された特性テーブルが記憶されている。CPU31は、現在地の推定処理を行った後、推定された現在地、地図データ、および実行中の処理などの情報を特性テーブルに当てはめ、各々のセンサの重みを算出する。4つのセンサ22a〜22dのうち、重みが所定のしきい値よりも小さいセンサは、CPU31が制御するスイッチ群32により遮断され、CPU31への検出値の出力が行われなくなる。その結果、CPU31はこのセンサを現在地の推定に利用しなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現在地を推定する機能を有するナビゲーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のナビゲーション装置には、速度センサや加速度センサ、GPSセンサなどの種々のセンサが搭載されている。ナビゲーション装置は、これらのセンサのうち特定のセンサが出力する情報に基づいて現在地の推定を行う。複数のセンサを搭載しているのは、特定のセンサが機能しない状況下であっても、別のセンサから取得した情報で現在地を推定できるようにするためである。例えば特許文献1には、通常はGPSによる測位を行い、GPSによる測位が不良となったときに他のセンサを用いて測位を行うナビゲーション装置が開示されている。
【0003】
一方で、特許文献1に開示されたナビゲーション装置とは異なり、複数のセンサを同時に利用するセンサフュージョンという技術が存在する。この技術は、複数のセンサが出力する情報を組み合わせることで、推定される現在地の精度を高めるというものである。センサフュージョンにおいては、より多くのセンサを利用すれば、より高い精度の現在地推定が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−55480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
センサフュージョンに利用するセンサを増やせば、それだけ現在地の推定に必要な計算量が増加してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、複数のセンサからそれぞれ出力される複数の検出値を入力する入力手段と、前記複数のセンサの各々に対応する評価値を算出する評価手段と、前記評価手段が算出した前記評価値に基づいて、前記複数のセンサから1つ以上のセンサを選択する選択手段と、前記選択手段が選択した前記1つ以上のセンサに対応する検出値に基づいて、現在地を推定する現在地推定手段と、を備えることを特徴とするナビゲーション装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、多様なセンサの中から、現在の状況下において効果的に働かないセンサを選定して遮断することにより、推定される現在地の高い精度を保ったまま、計算量を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施の形態におけるナビゲーション装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】制御回路11の詳細な構成を示す図である。
【図3】CPU31が現在地の推定に用いるセンサを決定するための特性テーブルを示す図である。
【図4】現在地推定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
――第1の実施の形態――
図1は、本実施形態におけるナビゲーション装置の全体構成を示すブロック図である。
【0010】
ナビゲーション装置1は、制御回路11、記憶装置12、表示モニタ13、入力装置14、タッチパネルコントロール部15、タッチパネル16、振動ジャイロ22a、速度センサ22b、加速度センサ22cおよびGPSセンサ22dを有している。
【0011】
制御回路11は、マイクロプロセッサ及びその周辺回路からなり、制御プログラムを実行して各種の制御を行う。記憶装置12は地図データが格納されたHDDなどである。制御回路11が記憶装置12に記憶された地図データに基づいて所定の経路探索処理を行うと、その処理結果が推奨経路として表示モニタ13に表示される。
【0012】
記憶装置12に格納される地図データは、地図表示用データ、経路探索用データなどを含む。地図表示用データおよび経路探索用データには、地図データに格納されている道路のリンク情報およびノード情報が含まれている。リンク情報には、各リンクの旅行時間(以下、リンク旅行時間)の情報が含まれている。地図表示用データは、広域から詳細まで複数の縮尺の地図データを有し、ユーザの要求にしたがって、表示地図の縮尺を変更することができる。なお、地図データが格納される記憶装置12は、HDD以外の他の記録メディア、例えばDVD−ROMやCD−ROMであってもよい。
【0013】
表示モニタ13は、地図データなどの各種情報に基づいて、自車位置付近の道路地図などの各種情報を画面表示としてユーザに提供する。入力装置14は、ユーザが各種コマンドを設定するための入力スイッチを有し、操作パネルやリモコンなどによって実現される。ユーザは、表示モニタ13の表示画面の指示にしたがって入力装置14を操作することにより、目的地を設定する。
【0014】
タッチパネル16は、表示モニタ13の表面に積層される透明のタッチスイッチであり、表示モニタ13に表示される画像はタッチパネル16を通して表示される。タッチパネル16は、タッチパネル16上の操作位置に応じた信号をタッチパネルコントロール部15に送出する。そして、タッチパネルコントロール部15はタッチパネル16の押圧位置を算出する。
【0015】
センサ22a〜22dは、車両の現在地を推定するために用いられる各種のセンサである。制御回路11はこれらのセンサから得られる検出値に基づいてセンサフュージョンを行い、現在地を推定する。そして、推定された現在地に基づいて、地図の表示範囲や経路探索開始点などを決定するとともに、地図上にその現在地を表示する。
【0016】
制御回路11が用いるセンサは、振動ジャイロ22a、速度センサ22b、加速度センサ22cおよびGPS(Global Positioning System)センサ22dである。なお、制御回路11は現在地を推定するために、これら以外のセンサを用いてもよい。制御回路11は、所定時間が経過するか、あるいは所定距離を走行する度に、これらのセンサが検出した最新の検出値を取得し、所定のアルゴリズムに基づいて現在地の推定を行う。
【0017】
振動ジャイロ22aは車両の進行方向を、速度センサ22bは車両の速度を、加速度センサ22cは車両の加速度をそれぞれ取得するためのセンサである。GPSセンサ22dは、GPS衛星からのGPS信号を検出する。
【0018】
図2は、制御回路11の詳細な構成を示す図である。以下、この図を用いて、制御回路11の動作を説明する。
【0019】
制御回路11は、CPU31と、スイッチ群32と、RAM33と、ROM34とを有する。CPU31は、ROM34に記憶されている制御プログラムを実行し、現在地の推定や経路案内などの各種の制御を行う。RAM33は、これらの制御を行う際の作業領域として使用される。現在地の推定に用いるセンサ22a〜22dは、スイッチ群32を通してCPU31に接続されている。CPU31は、スイッチ群32を通じて入力される各センサの検出値に基づいて、現在地の推定を行う。
【0020】
現在地の推定を行った後にCPU31は、推定された現在地と、地図データと、CPU31が実行中の処理とに基づいて、4つのセンサ22a〜22dから次回の現在地の推定に用いるセンサを選択する。CPU31により選択されなかったセンサはスイッチ群32により遮断され、CPU31への検出値の出力が行われなくなる。その結果、CPU31はこのセンサを現在地の推定に利用しなくなる。
【0021】
次に、CPU31による、現在地の推定に用いるセンサを決定する手順について説明する。ROM34には、種々の状況において各センサに与えられる重みが設定された特性テーブルが記憶されている。CPU31は、推定された現在地、地図データ、および実行中の処理などの情報を特性テーブルに当てはめ、各々のセンサの重みを算出する。CPU31は、算出された重みが所定のしきい値よりも小さいセンサを遮断し、現在地の推定に用いられないようにする。
【0022】
図3は、CPU31が現在地の推定に用いるセンサを決定するための特性テーブルを示す図である。特性テーブルの各列にはセンサ22a〜22dが、各行には種々の状況が割り当てられている。図3では、「都市部」、「トンネル」、「音楽再生中」、「マップマッチング未実行」という5つの状況が設定されている。
【0023】
行41は、現在地が「都市部」に該当した場合に、各々のセンサに与えられる重みを表している。都市部では周囲の構造物の影響によりGPS信号の強度が低下するので、GPSセンサ22dには他のセンサより低い重みが与えられている。現在地が「都市部」であるかどうかは、現在地と地図データとから判定される。
【0024】
行42は、行41と同様に、現在地が「トンネル」に該当した場合に、各々のセンサに与えられる重みを表している。トンネルではGPS信号が受信できないので、GPSセンサ22dが利用されなくなるよう、重みが0に設定されている。
【0025】
行43は、音楽再生処理が実行されている場合の、各々のセンサの重みを表している。音楽再生処理を実行中はCPU31の演算負荷が高くなるため、現在地の推定に必要な計算量をできるだけ減らすことが望ましい。そこで、音楽再生中は、各々のセンサに対して通常よりも低い重みが設定される。
【0026】
行44は、マップマッチが実行されていない場合の、各々のセンサの重みを表している。現在地が不確かな場合、ナビゲーション装置1はいわゆるフリー状態となり、マップマッチが行われなくなる。この場合、速やかに正確な現在地の推定を行い、マップマッチを実行可能な状態に復帰することが望ましい。そこで、フリー状態の場合には、全てのセンサに対して通常よりも高い重みを設定している。これによりCPU31は、より多くのセンサを用いて可能な限り正確な現在地を推定しようとする。
【0027】
現在の状況が、特性テーブルの複数の行に該当する場合には、各々の行に設定されている重みを乗算し、各センサの重みとする。例えば、音楽再生中にトンネルに入った場合、行42および行43が該当する。この場合、速度センサの重みは、行42の「1」と、行43の「0.8」とを乗算した「0.8」となる。
【0028】
なお、特性テーブルに設定される「状況」は、上述したものに限らない。地図データに基づく状況としては、例えば道路の曲率や、高速道路や一般道などの道路種別、交差点の数などが挙げられる。また、CPUの処理負荷に基づく状況としては、例えば拡大地図の表示中である、道路の3D表示を行っている、などが挙げられる。
【0029】
図4は、現在地推定処理のフローチャートである。まずステップS11では、センサ22a〜22dより検出値を取得する。このとき、スイッチ群32により遮断されているセンサからは検出値を取得しない。ステップS12では、図3に示した特性テーブルを用いて、各々のセンサに対応する重みを算出する。ステップS13では、ステップS12で算出した重みに基づいてスイッチ群32の切替を行い、各々のセンサが現在地の推定に用いられるか否かを決定する。ステップS14では、各センサから取得した検出値に基づき、現在地の推定を行う。
【0030】
上述した第1の実施の形態によるナビゲーション装置によれば、次の作用効果が得られる。
(1)CPU31は、複数のセンサ22a〜22dからそれぞれ出力される複数の検出値を取得する。そして、各々のセンサの評価値である重みを算出し、この重みに基づいて、現在地の推定に用いるセンサを1つ以上選択する。その後、現在地の推定に用いないセンサをスイッチ群32により遮断し、選択したセンサが出力した検出値に基づいて現在地の推定を行う。これにより、種々のセンサの中から適切なセンサのみが現在地の推定に用いられ、現在地の推定に必要な計算量が削減される。
【0031】
(2)CPU31は、記憶装置12に記憶されている地図データと、CPU31が実行中の処理と、ナビゲーション装置1の状態とに基づいて重みを算出する。これにより、多様な状況に対してセンサの選択を柔軟に行うことができる。
【0032】
(3)CPU31は、所定状況下におけるセンサごとの重みが格納された特性テーブルに基づいて各センサの重みを算出する。これにより、複数の条件が重なった複雑な状況下においても、各センサを使用すべきか否かを総合的に判断することができる。
【0033】
(4)各センサの重みを算出する処理は、特定のセンサに特化した内容が一切含まれない、汎用的な処理となっている。これにより、別種のセンサをさらに追加する場合であっても容易に対応することができる。
【0034】
(5)各センサの重みを算出するために必要な情報は、すべて特性テーブルに納められている。これにより、特性テーブルを参照するだけで、どのセンサがどのような状況で優先的に使用されるのかを容易に把握することができる。
【0035】
上述した第1の実施の形態では、センサの利用可否の判断に特性テーブルを用いていた。以下に詳述する第2の実施の形態では、特性テーブルの代わりに特性関数を用いる。
【0036】
――第2の実施の形態――
始めに、特性関数で使用する変数を以下のように定める。
Ct:現在地周辺の100m矩形内における、建物ポリゴンの面積比率
R:自車が現在マップマッチしている道路の、前方500m先までの曲率
CR:現在地周辺の100m矩形内における交差点数
Rp:自車が現在マップマッチしている道路の道路種別に対応する数値
CL:現在地およびナビゲーション装置の状態に応じた数値
Fr:フリー状態なら100、フリー状態でなければ0
E:蓄積誤差の大きさ(例えば、誤差eを走行距離lで積分したものの絶対値)
Cam:現在時刻に応じた数値
【0037】
ここでRpは、例えば高速道路であれば1、一般道路であれば3、トンネル内であれば5というように、センサの検出値が信用できる道路であるほど小さな数値とする。またCLは、ナビゲーション装置が拡大地図の表示中であれば90、高速道路を走行中であり3D表示が行われていれば70、都市部を走行中であれば50など、CPUの計算量が多いほど大きな数値とする。また、Camは時間帯毎に設定された数値のうち、現在時刻がどの時間帯に対応するかを表す数値であり、例えば6:00〜12:00には20、12:00〜17:00には40、17:00〜6:00には100が設定される。
【0038】
次に、これらの変数を含む変数Map、Cpu、CarStをそれぞれ次式(1)のように定義する。
【0039】
【数1】

【0040】
ここで、変数Mapには地図データに関する変数が、CpuにはCPU負荷率に関する変数が、CarStには自車状態に関する変数がそれぞれ含まれている。これら3つの変数を標準化した行列をそれぞれM、CP、CSとすると、特性関数Jは次式(2)により定義される。
【0041】
【数2】

【0042】
ここで、Q1〜Q3は、各センサ毎に予め定められた係数行列である。本実施形態におけるナビゲーション装置は、特性関数Jを用いて各センサ毎の重みを算出し、この重みに基づいて各センサの使用可否を決定する。
【0043】
上述した第2の実施の形態によるナビゲーション装置によれば、第1の実施の形態によるナビゲーション装置で得られる作用効果に加えて、次の作用効果が得られる。
(1)CPU31は、センサ毎に定められた係数行列を含む特性関数Jに基づいてセンサ毎の重みを算出する。これにより、特性テーブルを使用する場合に比べ、算出される重みをより細かに調整することができる。
【0044】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(1)各センサ毎に算出した重みにより、各センサの検出値の使用可否を決定するのではなく、各センサの検出値が現在地推定に与える影響の大きさを決定するようにしてもよい。例えば、算出した重みが所定値以下の場合にのみ検出値が無視されるようにしてもよいし、算出した重みを検出値に乗算した値を現在地の推定に用いるようにしてもよい。あるいは、センサの検出値を取得する周期が重みにより変化するようにしてもよい。
【0045】
(2)各センサの使用可否を決定する手段は、テーブルや関数に限定されない。例えば、振動ジャイロや加速度センサなどの相対センサについては、蓄積誤差が少ない物を優先するようにしてもよいし、速度センサと車速パルスセンサなど類似するセンサは走行状態により一方のみを使用するようにしてもよい。上記のように類似するセンサについては、センサ毎に優先度を設定しておき、CPU負荷の大きさに応じて優先度の低いセンサを遮断するようにしてもよい。現在地の推定の際に、推定された現在地と各センサの検出値とを比較し、差が小さいセンサを優先的に使用するようにしてもよい。
【0046】
(3)CPUの負荷を、特定の処理を実行中か否かにより判断するのではなく、CPU自身やモニタリング回路により計測されたCPU負荷率を直接使用するようにしてもよい。この場合、特性テーブルでは例えば「CPU負荷率が80%以上の場合」などの状況における各センサの重みを設定すればよい。また、特性関数ではCPU負荷率を表す変数を導入し、適切な係数行列を設定すればよい。
【0047】
(4)本発明の対象とするセンサは、実施例で提示したものに限らない。現在地の推定に用いることができるセンサであれば、例えば車速パルスセンサやカメラセンサなどを扱うことも可能である。
【0048】
本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1 ナビゲーション装置
11 制御回路
22a 振動ジャイロ
22b 速度センサ
22c 加速度センサ
22d GPSセンサ
31 CPU
32 スイッチ群




【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセンサからそれぞれ出力される複数の検出値を入力する入力手段と、
前記複数のセンサの各々に対応する評価値を算出する評価手段と、
前記評価手段が算出した前記評価値に基づいて、前記複数のセンサから1つ以上のセンサを選択する選択手段と、
前記選択手段が選択した前記1つ以上のセンサに対応する検出値に基づいて、現在地を推定する現在地推定手段と、
を備えることを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項2】
請求項1に記載のナビゲーション装置において、
前記評価手段は、地図データと、前記ナビゲーション装置の負荷状態と、前記現在地推定手段により推定された現在地と、前記1つ以上のセンサに対応する検出値と、のいずれか少なくとも1つに基づいて前記評価値を算出することを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のナビゲーション装置において、
前記評価手段は、所定状況下における前記複数のセンサごとの評価値を有する特性テーブルに基づいて前記評価値を算出することを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のナビゲーション装置において、
前記評価手段は、前記複数のセンサごとに定められた係数を含む特性関数に基づいて前記評価値を算出することを特徴とするナビゲーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−2356(P2011−2356A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146203(P2009−146203)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】