説明

ハイブリッド自動車

【課題】エンジンを始動する際の振動を抑制する。
【解決手段】エンジンを始動する際、始動開始時クランク角CRKiniがクランク角範囲A((−90°+nπ)以上(0°+nπ)以下の範囲)内にあるときにはエンジンのモータリングが開始された後にクランク角と所定クランク角とが一致するタイミングでのエンジンの回転数をトルク引き下げ開始回転数Nengに設定し、始動開始時クランク角CRKiniがクランク角範囲A外にあるときには始動開始時クランク角CKRiniがクランク角範囲A内であるときのトルク引き下げ開始回転数Nengより高く且つエンジンのモータリングを開始した後にクランク角と所定クランク角とが一致するタイミングでのエンジンの回転数をトルク引き下げ開始回転数Nengに設定し、トルク引き下げ開始回転数Nengで第1モータからのトルクが小さくなるよう第1モータを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド自動車としては、内燃機関の出力軸と第1電動発電機の駆動軸と車軸に接続された第2電動発電機の駆動軸とに遊星歯車機構が連結されたハイブリッド自動車において、内燃機関の始動時には第1電動発電機にて内燃機関をクランキングして始動するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この自動車では、内燃機関に対して迅速な始動が要求されると共に始動直後から大きなトルクの出力が内燃機関に要求されているときには、迅速な始動が要求されていないときや大きなトルクの出力が内燃機関に要求されていないときに比して第1電動発電機から出力される電動機出力トルクの立ち上がり速度や電動機出力トルクの最大値を大きくすることにより、始動時の要求に適正に対応している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−42047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したハイブリッド自動車では、第1電動発電機により内燃機関をクランキングして内燃機関を始動しているが、内燃機関が吸気、圧縮、膨張、排気の4行程を繰り返すため燃料噴射制御と点火制御とを行なわない状態でも内燃機関の出力軸が回転するとクランク角に対して正弦波状のトルク脈動が生じ、こうしたトルク脈動で車両に振動が生じる場合がある。例えば、内燃機関の出力軸がダンパなどのねじれ要素を介して遊星歯車機構に接続されているハイブリッド自動車では、内燃機関のクランキングに伴うトルク脈動とねじれ要素のねじれとにより振動が生じ、ねじれ要素のねじれが大きくなるタイミングに第1電動発電機からのトルクが変化するとこうした振動がより大きくなってしまう。そのため、内燃機関をクランキングする際に、内燃機関の回転数を迅速に増加させるトルクを第1電動発電機から出力して内燃機関のモータリングして内燃機関の回転数を迅速に増加させ、その後、内燃機関の回転数が所定回転数に達したときに第1電動発電機から出力するトルクを小さくして内燃機関の回転数を内燃機関の運転を開始できる回転数まで安定して増加させる制御を実行する場合、第1電動発電機から出力するトルクを小さくするタイミングによっては、ねじれ要素のねじれによる振動がより大きくなってしまう場合がある。したがって、より適正なタイミングで第1電動発電機から出力されるトルクを小さくして、内燃機関を始動する際の振動を抑制することが望まれている。
【0005】
本発明のハイブリッド自動車は、エンジンを始動する際の振動を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド自動車は、
エンジンと、動力を入出力可能な第1モータと、車軸に接続された駆動軸と前記エンジンの出力軸にねじれ要素を介して接続された接続軸と前記第1モータの回転軸とに3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、前記駆動軸に動力を入出力可能な第2モータと、前記第1モータおよび前記第2モータと電力のやりとりが可能なバッテリと、前記エンジンの回転数を検出する回転数センサと、前記エンジンの始動指示がなされたときには、前記検出されたエンジンの回転数がトルク引き下げ開始回転数に至るまでは前記エンジンの回転数を迅速に増加させるトルクである第1トルクを前記第1モータから出力して前記エンジンをモータリングしながら走行に要求される要求トルクにより走行するよう前記エンジンと前記第1モータと前記第2モータとを制御し、前記検出されたエンジンの回転数が前記トルク引き下げ開始回転数に至ったときには前記検出されたエンジンの回転数が前記トルク引き下げ開始回転数より高く前記エンジンの運転を開始する回転数として予め定められた運転開始回転数に至るまで前記第1トルクより小さい第2トルクを前記第1モータから出力して前記エンジンをモータリングしながら前記要求トルクにより走行するよう前記エンジンと前記第1モータと前記第2モータとを制御し、前記検出されたエンジンの回転数が前記運転開始回転数に至ったときには前記エンジンの運転が開始されると共に前記要求トルクにより走行するよう前記エンジンと前記第1モータと前記第2モータとを制御する制御手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
前記エンジンのクランク角を検出するクランク角センサと、
前記エンジンの始動指示がなされたとき、前記エンジンの始動指示がなされたときの前記検出されたクランク角である開始時クランク角が前記エンジンの回転に伴うトルク脈動が前記エンジンの回転を抑制する方向になるクランク角範囲として予め定められた所定クランク角範囲内にあるときには前記エンジンのモータリングを開始した後に前記所定クランク角範囲外のクランク角として予め定められた所定クランク角と前記クランク角とが一致するタイミングでの前記エンジンの回転数として予め定められた第1回転数を前記トルク引き下げ開始回転数に設定し、前記開始時クランク角が前記所定クランク角範囲外にあるときには前記第1回転数より高い回転数であり且つ前記エンジンのモータリングを開始した後に前記所定クランク角と前記クランク角とが一致するタイミングでの前記エンジンの回転数として予め定められた第2回転数を前記トルク引き下げ開始回転数に設定するトルク引き下げ回転数設定手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明のハイブリッド自動車では、エンジンの始動指示がなされたときには、エンジンの回転数がトルク引き下げ開始回転数に至るまではエンジンの回転数を迅速に増加させるトルクである第1トルクを第1モータから出力してエンジンをモータリングしながら走行に要求される要求トルクにより走行するようエンジンと第1モータと第2モータとを制御し、エンジンの回転数がトルク引き下げ開始回転数に至ったときにはエンジンの回転数がトルク引き下げ開始回転数より高くエンジンの運転を開始する回転数として予め定められた運転開始回転数に至るまで第1トルクより小さい第2トルクを第1モータから出力してエンジンをモータリングしながら要求トルクにより走行するようエンジンと第1モータと第2モータとを制御し、エンジンの回転数が運転開始回転数に至ったときにはエンジンの運転が開始されると共に要求トルクにより走行するようエンジンと第1モータと第2モータとを制御する。これにより、第1モータによりエンジンをモータリングして、エンジンを始動させることができる。そして、エンジンの始動指示がなされたとき、エンジンの始動指示がなされたときのクランク角である開始時クランク角がエンジンの回転に伴うトルク脈動がエンジンの回転を抑制する方向になるクランク角範囲として予め定められた所定クランク角範囲内にあるときにはエンジンのモータリングを開始した後に所定クランク角範囲外のクランク角として予め定められた所定クランク角とクランク角とが一致するタイミングでのエンジンの回転数として予め定められた第1回転数をトルク引き下げ開始回転数に設定し、開始時クランク角が所定クランク角範囲外にあるときには第1回転数より高い回転数であり且つエンジンのモータリングを開始した後に所定クランク角とクランク角とが一致するタイミングでのエンジンの回転数として予め定められた第2回転数をトルク引き下げ開始回転数に設定する。第1モータによりエンジンをモータリングする際に、第1モータから出力されるトルクを第1トルクから第2トルクに小さくするタイミングにおけるクランク角が所定クランク角範囲内にあるときには、ねじれ要素のねじれがより大きくなるため、第1モータからのトルクが変化するとねじれ要素のねじれによる振動がより大きくなると考えられる。したがって、エンジンの始動指示がなされたとき、開始時クランク角が所定クランク角範囲内にあるときには第1回転数をトルク引き下げ開始回転数に設定し、開始時クランク角が所定クランク角範囲外にあるときには第2回転数をトルク引き下げ開始回転数に設定し、エンジンの回転数がトルク引き下げ開始回転数に至ったときには運転開始回転数に至るまで第1トルクより小さい第2トルクを第1モータから出力してエンジンをモータリングしながら要求トルクにより走行するようエンジンと第1モータと第2モータとを制御することにより、より適正なタイミングで第1モータから出力されるトルクを小さくすることができ、エンジンを始動する際の振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】エンジン始動制御においてモータ41のトルク指令Tm1*を設定するためのモータトルク設定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】始動開始時クランク角CRKiniと始動開始時クランク角CRKiniに基づいてトルク引き下げ開始回転数Nengとの関係の一例を示す説明図である。
【図4】エンジン32を始動する際のエンジン32の回転数Ne,クランク角CRK,モータ41のトルク指令Tm1*の時間変化の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とする4気筒のエンジン32と、エンジン32のクランク角位置を検出するクランク角センサ33からのクランク角CRKなどの種々の検出値や制御値を入力してエンジン32を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット36と、エンジン32のクランクシャフト34にねじれ要素であるダンパ34aを介して接続された接続軸35にキャリアが接続されると共に駆動輪26a,26bにデファレンシャルギヤ24を介して連結された駆動軸22にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ38と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ38のサンギヤに接続されたモータ41と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸22に接続されたモータ42と、モータ41,42を駆動するためのインバータ43,44と、インバータ43,44の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータ41,42を駆動制御するモータ用電子制御ユニット46と、インバータ43,44を介してモータ41,42と電力をやりとりするバッテリ48と、バッテリ48の温度を検出する温度センサ49からのバッテリ温度やシフトレバーのポジションを検出するシフトポジションセンサ52からのシフトポジション,アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ54からのアクセル開度,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ56からのブレーキポジション,車速センサ58からの車速Vを入力すると共にエンジン用電子制御ユニット36やモータ用電子制御ユニット46と通信して車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット50と、を備える。
【0012】
実施例のハイブリッド自動車20は、基本的には、ハイブリッド用電子制御ユニット50とエンジン用電子制御ユニット36とモータ用電子制御ユニット46とによって実行される以下に説明する通常の駆動制御によって走行する。ハイブリッド用電子制御ユニット50では、まず、アクセルペダルポジションセンサ54からのアクセル開度と車速センサ58からの車速Vとに応じて走行のために駆動軸22に要求される要求トルクTr*を設定し、要求トルクTr*に駆動軸22の回転数(例えば、モータ42の回転数や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーを計算すると共に計算した走行用パワーからバッテリ48の充電容量の割合(SOC)に応じて得られるバッテリ48を充放電するための補正パワー(バッテリ48から放電するときが正の値)を減じてエンジン32から出力すべきパワーとしてのエンジン指令パワーPe*を設定する。そして、エンジン指令パワーPe*を効率よくエンジン32から出力することができるエンジン32の回転数とトルクとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン32の目標回転数と目標トルクとを設定し、バッテリ48を充放電することができる最大電力としての入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン32の回転数が目標回転数となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータ41から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共に、要求トルクからモータ41をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ38を介して駆動軸22に作用するトルクを減じて得られるトルクをモータ42のトルク指令Tm2*として設定する。そして、設定したエンジン32の目標回転数と目標トルクとをエンジン用電子制御ユニット36に送信すると共に設定したトルク指令Tm1*,Tm2*とをモータ用電子制御ユニット46に送信する。エンジン32の目標回転数と目標トルクとを受信したエンジン用電子制御ユニット36は、エンジン32の目標回転数と目標トルクとによってエンジン32が運転されるようエンジン32の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを実行する。そして、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータ用電子制御ユニット46は、モータ41,42が設定したトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ43,44をスイッチング制御する。実施例のハイブリッド自動車20は、こうした制御により、バッテリ48の入出力制限Win,Woutの範囲内でバッテリを充放電しながらアクセル開度に応じた要求トルクTr*を駆動軸22に出力して走行する。なお、バッテリ48の入出力制限Win,Woutは、温度センサ49により検出されたバッテリ温度や、バッテリ48の充電容量の割合(SOC)に基づいて設定されるものとした。
【0013】
また、実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン32が運転している最中にエンジン指令パワーPe*がエンジン32を比較的効率よく運転することができるパワー領域の下限値近傍の値である閾値Pstop未満になると共に車速Vが所定車速Vpr以下となったときには、ハイブリッド用電子制御ユニット50とエンジン用電子制御ユニット36とモータ用電子制御ユニット46とによって実行される以下に説明するエンジン停止制御によって走行する。まず、ハイブリッド用電子制御ユニット50では、燃料噴射停止指令をエンジン用電子制御ユニット36に送信して、通常の駆動制御と同様の処理で要求トルクTr*を設定し、トルク指令Tm1*を値0に設定すると共に入出力制限Win,Woutの範囲内で設定した要求トルクTr*をモータ42のトルク指令Tm2*として設定して、設定したトルク指令Tm1*,Tm2*をモータ用電子制御ユニット46に送信する。燃料噴射停止指令を受信したエンジン用電子制御ユニット36は、エンジン32が運転されているときにはエンジン32の燃料噴射を停止するよう燃料噴射制御や点火制御を停止する処理を実行する。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータ用電子制御ユニット46は、モータ41,42が設定したトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ43,44をスイッチング制御する。実施例のハイブリッド自動車20は、こうした制御により、エンジン32の運転を停止した状態でモータ42から要求トルクTr*に基づくトルクを駆動軸22に出力して走行することができる。
【0014】
そして、実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン32が運転を停止している最中にエンジン指令パワーPe*が閾値Pstopより若干高いエンジン32を始動するための閾値Pstart以上となったときには、ハイブリッド用電子制御ユニット50とエンジン用電子制御ユニット36とモータ用電子制御ユニット46とによって実行される以下に説明するエンジン始動制御によってエンジン32を始動して走行する。図2は、エンジン始動制御においてモータ41のトルク指令Tm1*を設定するためのモータトルク設定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。まず、ハイブリッド用電子制御ユニット50では、通常の駆動制御と同様の処理で、要求トルクTr*を設定し、図2のモータトルク設定処理ルーチンによりモータ41のトルク指令Tm1*を設定し、入出力制限Win,Woutの範囲内で設定した要求トルクTr*からモータ41をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ38を介して駆動軸22に作用するトルクを減じて得られるトルクをモータ42のトルク指令Tm2*に設定して、設定したトルク指令Tm2*をモータ用電子制御ユニット46に送信する。ここで、モータトルク設定処理について説明する。
【0015】
モータトルク設定処理ルーチンでは、最初に、エンジン32の始動制御が実行された直後であるか否かを判定する(ステップS100)。エンジン始動制御が実行された直後であるときには、エンジン始動制御の実行が開始されたときのクランク角センサ33からのクランク角CRKを始動開始時クランク角CRKiniに設定して(ステップS110)、エンジン32の回転数Neと始動開始時クランク角CRKiniに基づいて設定されるトルク引き下げ開始回転数Nengとを比較し(ステップS120)、エンジン始動制御が実行された直後でないときには、始動開始時クランク角CRKiniを設定することなくエンジン32の回転数Neとトルク引き下げ開始回転数Nengとを比較する(ステップS120)。エンジン32の回転数Neは、エンジン32のクランク角CRKに基づいてエンジン用電子制御ユニット36で演算したものを通信により入力するものとした。トルク引き下げ開始回転数Nengの設定については後述する。そして、エンジン32の回転数Neがトルク引き下げ開始回転数Nengに至っていないときには、エンジン32の回転数Neを迅速に増加させる比較的大きなトルクT1をトルク指令Tm1*に設定して(ステップS140)、モータ用電子制御ユニット46に送信し(ステップS150)、エンジン32の回転数Neがトルク引き下げ開始回転数Nengに至ったときには、トルク指令Tm1*をトルク立ち下げ要求をモータ用電子制御ユニット46に送信し(ステップS130)、エンジン32の回転数Neがトルク引き下げ回転数Nengより高い回転数である運転開始回転数Nref(例えば、800rpm,900rpm,1000rpmなど)に至っていないときにはトルクT1より小さくエンジン32を安定して運転開始回転数Nref以上にモータリングすることができるトルクT2をトルク指令Tm1*に設定して(ステップS140)、エンジン32の回転数Neが運転開始回転数Nrefに至ったときには値0をトルク指令Tm1*に設定して(ステップS140)、モータ用電子制御ユニット46に送信し(ステップS150)、モータトルク設定処理ルーチンを終了する。以上、モータトルク設定処理について説明した。
【0016】
エンジン32の始動制御が実行された直後には、エンジン32のクランク角CRKを始動開始時クランク角CRKiniに設定して(ステップS100,S110)、エンジン32の回転数Neがトルク引き下げ開始回転数Nengに至るまでエンジン32の回転数Neを迅速に増加させる比較的大きなトルクT1をトルク指令Tm1*に設定してモータ用電子制御ユニット46に送信する(ステップS120,S140,S150)。トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータ用電子制御ユニット46は、モータ41,42が設定したトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ43,44をスイッチング制御する。これにより、エンジン32の回転数Neを迅速に増加させながら要求トルクTr*に基づくトルクを駆動軸22に出力して走行することができる。
【0017】
こうしてエンジン32の回転数Neが増加してトルク引き下げ開始回転数Nengに至ったときには、トルクT1より小さくエンジン32を安定して運転開始回転数Nref以上にモータリングすることができるトルクT2をトルク指令Tm1*に設定してモータ用電子制御ユニット46に送信する(ステップS100,S120〜S150)と共に入出力制限Win,Woutの範囲内で設定した要求トルクTr*からモータ41をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ38を介して駆動軸22に作用するトルクを減じて得られるトルクをモータ42のトルク指令Tm2*に設定して、設定してトルク指令Tm1*,Tm2*をモータ用電子制御ユニット46に送信する。トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータ用電子制御ユニット46は、モータ41,42が設定したトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ43,44をスイッチング制御する。これにより、電力消費や駆動軸22における反力を小さくした状態でエンジン32の回転数Neを安定して増加させながら要求トルクTr*に基づくトルクを駆動軸22に出力して走行することができる。
【0018】
そして、エンジン32の回転数Neが運転開始回転数Nrefに至ったときには、エンジン32の完爆が判定されるまで、エンジン32の運転開始指示信号をエンジン用電子制御ユニット36に送信し、値0をトルク指令Tm1*に設定してモータ用電子制御ユニット46に送信し(ステップS100,S120〜S150)、入出力制限Win,Woutの範囲内で設定した要求トルクTr*からモータ41をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ38を介して駆動軸22に作用するトルクを減じて得られるトルクをモータ42のトルク指令Tm2*に設定してモータ用電子制御ユニット46に送信する。運転開始指示信号を受信したエンジン用電子制御ユニット36は、エンジン32における燃料噴射制御処理や点火制御を実行する処理を実行する。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータ用電子制御ユニット46は、モータ41,42が設定したトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ43,44をスイッチング制御する。なお、エンジン32の完爆が判定された後は、通常の駆動制御を実行する。こうした制御により、エンジン32を運転を開始して要求トルクTr*に基づくトルクを駆動軸22に出力して走行することができる。
【0019】
ここで、トルク引き下げ開始回転数Nengの設定について説明する。始動開始時クランク角CRKiniと始動開始時クランク角CRKiniに基づいて設定されるトルク引き下げ開始回転数Nengとの関係の一例を図3に示す。トルク引き下げ開始回転数Nengは、エンジン32のモータリングが開始された後のクランク角CRKとエンジン32の回転に伴うトルク脈動がエンジン32の回転を抑制する方向になるクランク角範囲A(例えば、(−90°+nπ)以上(0°+nπ)以下の範囲)外の所定クランク角CRKref(例えば、−60°など)とが一致するタイミングでのエンジン32の回転数として設定されており、図示するように、始動開始時クランク角CRKiniがクランク角範囲Aの範囲外であるときのトルク引き下げ回転数Nengを、始動開始時クランク角CRKiniがクランク角範囲A内にあるときのトルク引き下げ開始回転数Neng(例えば、230〜300rpm)より高くなるよう設定するものとした。ここで、エンジン32の気筒のうち予め定めた一気筒の圧縮行程の上死点におけるクランク角を0°とし、nは値0以上の整数であるものとした。なお、図3では、nが値0のときの始動開始時クランク角CRKiniとトルク引き下げ開始回転数Nengとの関係を示している。このようにトルク引き下げ開始回転数Nengを設定するのは、以下の理由に基づく。
【0020】
エンジン32を始動する際のエンジン32の回転数Ne,クランク角CRK,モータ41のトルク指令Tm1*の時間変化の一例を図4に示す。図中、実線は始動開始時クランク角CRKiniがクランク角範囲A内にある場合、破線は始動開始時クランク角CRKiniがクランク角範囲A外にある場合の回転数Ne,クランク角CRK,モータ41のトルク指令Tm1*の時間変化をそれぞれ示している。図示するように、エンジン32の回転数Neがある回転数に達するタイミングでのクランク角CRKは、始動開始時クランク角CRKiniによって異なるものとなる。ところで、エンジン32は、吸気、圧縮、膨張、排気の4行程を繰り返すため、燃料噴射制御と点火制御とを行なわない状態でもエンジン32が回転するとクランク角CRKに対して正弦波状のトルク脈動が生じる。4気筒のエンジン32では、トルク脈動は、クランク角CRKに対して周期πの正弦波状のトルク脈動になり、クランク角CRKがクランク角範囲A内にあるときにはエンジン32の回転を抑制する方向のトルクとなり、クランク角CRKがクランク角範囲A外にあるときにはエンジン32の回転を抑制しない方向のトルクとなる。エンジン32のクランクシャフト34aは、ダンパ34a,接続軸35,プラネタリギヤ38を介してモータ41に接続されているため、エンジン32のトルク脈動とダンパ34aのねじれとにより振動が生じるが、この振動は、ダンパ34aのねじれが大きくなるタイミングでモータ41から出力されるトルクを変化させるとより大きくなると考えられる。実施例では、ダンパ34aのねじれがクランク角CRKがクランク角範囲A外にあるときよりクランク角CRKがクランク角範囲A内にあるときのほうが大きいから、クランク角CRKがクランク角範囲A外にあるときにモータ41から出力されるトルクをトルクT1からトルクT2に小さくするほうが振動を抑制する観点からは望ましいと考えられる。したがって、図3に例示するように、始動開始時クランク角CRKiniがクランク角範囲A内にあるときにはエンジン32のモータリングが開始された後にクランク角CRKと所定クランク角CRKrefとが一致するタイミングにおけるエンジン32の回転数をトルク引き下げ開始回転数Nengに設定し、始動開始時クランク角CRKiniがクランク角範囲A外にあるときには始動開始時クランク角CKRiniがクランク角範囲A内のときのトルク引き下げ開始回転数Nengより高く且つエンジン32のモータリングを開始した後にクランク角CRKと所定クランク角CRKrefとが一致するタイミングでのエンジン32の回転数をトルク引き下げ開始回転数Nengに設定することにより、エンジン32を始動する際に、エンジン32のクランク角CRKがクランク角範囲A外であるときにモータ41から出力されるトルクをトルクT1からトルクT2に小さくすることができ、振動を抑制することができる。
【0021】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、始動開始時クランク角CRKiniがクランク角範囲A内にあるときにはエンジン32のモータリングが開始された後にクランク角CRKと所定クランク角CRKrefとが一致するタイミングでのエンジン32の回転数をトルク引き下げ開始回転数Nengに設定し、始動開始時クランク角CRKiniがクランク角範囲A外にあるときには始動開始時クランク角CKRiniがクランク角範囲A内のときのトルク引き下げ開始回転数Nengより高く且つエンジン32のモータリングを開始した後にクランク角CRKと所定クランク角CRKrefとが一致するタイミングでのエンジン32の回転数をトルク引き下げ開始回転数Nengに設定することにより、エンジン32を始動する際の振動を抑制することができる。
【0022】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン32が「エンジン」に相当し、モータ41が「第1モータ」に相当し、プラネタリギヤ38が「遊星歯車機構」に相当し、モータ42が「第2モータ」に相当し、バッテリ48が「バッテリ」に相当し、エンジン32のクランク角CRKに基づいてエンジン32の回転数Neを演算するエンジン用電子制御ユニット36が「回転数センサ」に相当し、エンジン32の始動指示がなされたときには、エンジン回転数Neがトルク引き下げ開始回転数Nengに至るまではトルクT1をモータ41のトルク指令Tm1*に設定すると共に要求トルクTr*により走行するようモータ42のトルク指令Tm2*を設定してモータ用電子制御ユニット46に送信したり、エンジン32の回転数Neがトルク引き下げ開始回転数Nengに至ったときにはエンジン32の回転数Neが運転開始回転数Nrefに至るまでトルクT2をトルク指令Tm1*に設定すると共に要求トルクTr*により走行するようモータ42のトルク指令Tm2*を設定してモータ用電子制御ユニット46に送信したり、エンジン32の回転数Neが運転開始回転数Nrefに至ったとき以降はエンジン32の運転開始指令をエンジン用電子制御ユニット36に送信すると共に要求トルクTr*により走行するようモータ41,42のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定してモータ用電子制御ユニット46に送信する処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット50と、エンジン32の運転開始指令を受信してエンジン32における燃料噴射制御や点火制御を実行するエンジン用電子制御ユニット36と、トルク指令Tm1*,Tm2*でモータ41,42が駆動するようインバータ43,44をスイッチング制御する処理を実行するモータ用電子制御ユニット46とが「制御手段」に相当し、クランク角センサ33が「クランク角センサ」に相当し、図3のマップを用いて始動開始時クランク角CRKiniがクランク角範囲A内にあるときにはエンジン32のモータリングが開始された後にクランク角CRKと所定クランク角CRKrefとが一致するタイミングでのエンジン32の回転数をトルク引き下げ開始回転数Nengに設定し、始動開始時クランク角CRKiniがクランク角範囲A外にあるときには始動開始時クランク角CKRiniがクランク角範囲A内のときのトルク引き下げ開始回転数Nengより高く且つエンジン32のモータリングを開始した後にクランク角CRKと所定クランク角CRKrefとが一致するタイミングでのエンジン32の回転数をトルク引き下げ開始回転数Nengに設定する処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット50が「トルク引き下げ回転数設定手段」に相当する。
【0023】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0024】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、ハイブリッド自動車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0026】
20 ハイブリッド自動車、22 駆動軸、24 デファレンシャルギヤ、26a,26b 駆動輪、32 エンジン、33 クランク角センサ、34 クランクシャフト、34a ダンパ、35 接続軸、36 エンジン用電子制御ユニット、38 プラネタリギヤ、41,42 モータ、43,44 インバータ、46 モータ用電子制御ユニット、48 バッテリ、49 温度センサ、50 ハイブリッド用電子制御ユニット、52 シフトポジションセンサ、54 アクセルペダルポジションセンサ、56 ブレーキペダルポジションセンサ、58 車速センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、動力を入出力可能な第1モータと、車軸に接続された駆動軸と前記エンジンの出力軸にねじれ要素を介して接続された接続軸と前記第1モータの回転軸とに3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、前記駆動軸に動力を入出力可能な第2モータと、前記第1モータおよび前記第2モータと電力のやりとりが可能なバッテリと、前記エンジンの回転数を検出する回転数センサと、前記エンジンの始動指示がなされたときには、前記検出されたエンジンの回転数がトルク引き下げ開始回転数に至るまでは前記エンジンの回転数を迅速に増加させるトルクである第1トルクを前記第1モータから出力して前記エンジンをモータリングしながら走行に要求される要求トルクにより走行するよう前記エンジンと前記第1モータと前記第2モータとを制御し、前記検出されたエンジンの回転数が前記トルク引き下げ開始回転数に至ったときには前記検出されたエンジンの回転数が前記トルク引き下げ開始回転数より高く前記エンジンの運転を開始する回転数として予め定められた運転開始回転数に至るまで前記第1トルクより小さい第2トルクを前記第1モータから出力して前記エンジンをモータリングしながら前記要求トルクにより走行するよう前記エンジンと前記第1モータと前記第2モータとを制御し、前記検出されたエンジンの回転数が前記運転開始回転数に至ったときには前記エンジンの運転が開始されると共に前記要求トルクにより走行するよう前記エンジンと前記第1モータと前記第2モータとを制御する制御手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
前記エンジンのクランク角を検出するクランク角センサと、
前記エンジンの始動指示がなされたとき、前記エンジンの始動指示がなされたときの前記検出されたクランク角である開始時クランク角が前記エンジンの回転に伴うトルク脈動が前記エンジンの回転を抑制する方向になるクランク角範囲として予め定められた所定クランク角範囲内にあるときには前記エンジンのモータリングを開始した後に前記所定クランク角範囲外のクランク角として予め定められた所定クランク角と前記クランク角とが一致するタイミングでの前記エンジンの回転数として予め定められた第1回転数を前記トルク引き下げ開始回転数に設定し、前記開始時クランク角が前記所定クランク角範囲外にあるときには前記第1回転数より高い回転数であり且つ前記エンジンのモータリングを開始した後に前記所定クランク角と前記クランク角とが一致するタイミングでの前記エンジンの回転数として予め定められた第2回転数を前記トルク引き下げ開始回転数に設定するトルク引き下げ回転数設定手段と、
を備えるハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−106598(P2012−106598A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256621(P2010−256621)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】