説明

ハイブリッド車両の制御装置および制御方法

【課題】 内燃機関および電動機が同時に運転されるアシスト走行モードや充電走行モードにおいて、出力すべき駆動力を内燃機関および電動機に適切に配分し、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができるハイブリッド車両の制御装置および制御方法を提供する。
【解決手段】 本発明によれば、車速VPおよび変速段から、内燃機関3の目標トルクTRECMDを燃料消費率が最小になるBSFCボトムトルクに設定し(ステップ3)、設定された目標トルクTRECMDを、電動機4の効率に応じて、BSFCボトムトルクから移動し(ステップ6〜7)、移動された目標トルクTRECMDが得られるように、内燃機関3の動作を制御し(ステップ9)、要求トルクTRQとシフトされた目標トルクTRECMDとの差分を、電動機4による力行/回生によって補充/吸収するように、電動機4の動作を制御する(ステップ10)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源として内燃機関および発電可能な電動機を有するハイブリッド車両の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド車両の制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このハイブリッド車両の走行モードには、動力源として、内燃機関のみを用いるENG走行モードと、電動機のみを用いるEV走行モードと、内燃機関および電動機の両方を用いるHEV走行モードが含まれる。また、ハイブリッド車両は、1速段、3速段および5速段の変速段を有する第1変速機構と、2速段、4速段および6速段の変速段を有する第2変速機構を備えている。内燃機関の動力(以下「エンジン動力」という)は、第1または第2変速機構により1速段〜6速段のうちの1つの変速段で変速され、駆動輪に伝達されるとともに、電動機の動力(以下「モータ動力」という)は、第2変速機構により2速段、4速段および6速段のうちの1つで変速され、駆動輪に伝達される。
【0003】
この制御装置では、ハイブリッド車両の車速が所定値以下のときには、電動機およびバッテリによる回生を併用するENG走行モードが選択され、エンジン動力の変速段として2速段または1速段が選択されるとともに、モータ動力の変速段として2速段が選択される。また、選択されたエンジン動力の変速段と駆動輪の回転数で定まる内燃機関の回転数に基づき、内燃機関の燃料消費率が最も低くなる最小燃費トルクを、内燃機関の目標トルクとして設定する。そして、算出された目標トルクが得られるように内燃機関を運転するとともに、要求トルクに対する目標トルクの余剰分を用いて、電動機による発電が行われ、発電した電力がバッテリに充電される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−173196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、この従来の制御装置では、車速が所定値以下のときに、内燃機関の目標トルクを最小燃費トルクに設定し、要求トルクに対する目標トルクの余剰分を電動機による回生に振り分ける。この余剰トルクは、電動機による発電・バッテリへの充電などを経て、電気エネルギとして回生されるとともに、その後のEV走行モードやHEV走行モードにおいて、バッテリからの放電や電動機での機械エネルギへの変換を経て、ハイブリッド車両の駆動力として用いられる。このため、これらの過程における効率(以下「電動機側効率」という)が低ければ、ハイブリッド車両全体としての燃料消費量が増大し、燃費の悪化を招く。また、内燃機関に、燃料消費率が最も低くなる最小燃費トルクが存在するのと同様に、電動機にも、電動機側効率が最大になる最大効率トルクが存在する。このため、電動機に振り分けられたトルクが最大効率トルクに対して大きくずれると、高い電動機側効率は得られない。
【0006】
したがって、従来の制御装置のように、内燃機関の目標トルクを最小燃費トルクに設定し、要求トルクに対する目標トルクの余剰分を電動機に振り分けるだけでは、内燃機関の燃料消費率は最小になるものの、電動機側効率が低下する結果、ハイブリッド車両全体としての効率が必ずしも最大にならず、最良の燃費が得られないおそれがある。このような不具合は、内燃機関の目標トルクに対する余剰分のトルクの比率が高いときに、特に現れやすい。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、内燃機関および電動機が同時に運転されるアシスト走行モードや充電走行モードにおいて、出力すべき駆動力を内燃機関および電動機に適切に配分することで、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができるハイブリッド車両の制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、動力源としての内燃機関3および発電可能な電動機4と、電動機4との間で電力の授受が可能な蓄電器(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ52)と、入力された動力を変速した状態で駆動輪DW、DWに伝達可能な変速機構71とを有するハイブリッド車両の制御装置において、ハイブリッド車両V’の速度(車速VP)および変速機構71の変速段から、内燃機関3の目標駆動力(目標トルクTRECMD)を内燃機関3の燃料消費が最小になる最適点(BSFCボトムトルク)に設定する目標駆動力設定手段(ECU2、図3のステップ3)と、内燃機関3の目標駆動力を、電動機4の効率に応じて、最適点から移動する目標駆動力移動手段(ECU2、ステップ6〜7)と、移動された内燃機関3の目標駆動力が得られるように、内燃機関3の動作を制御する内燃機関制御手段(ECU2、ステップ9)と、駆動輪DW、DWに要求される要求駆動力(要求トルクTRQ)と移動された内燃機関3の目標駆動力との差分を、電動機4による力行/回生によって補充/吸収するように、電動機4の動作を制御する電動機制御手段(ECU2、ステップ10)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、内燃機関の動力や電動機の動力は、変速機構により変速された状態で駆動輪に伝達される。また、ハイブリッド車両の速度および変速段から、内燃機関の目標駆動力が、内燃機関の燃料消費が最小になる最適点に設定される。この内燃機関の目標駆動力は、電動機の効率に応じて、最適点から移動される。
【0010】
そして、移動された内燃機関の目標駆動力が得られるように、内燃機関の動作が制御されるとともに、駆動輪に要求される要求駆動力と移動された内燃機関の目標駆動力との差分を、電動機による力行/回生によって補充/吸収するように、電動機の動作が制御される。すなわち、要求駆動力に対して目標駆動力が不足する場合には、その不足分を補うように、蓄電器の電力を用いて電動機の駆動力を発生させ、要求駆動力に対して目標駆動力が余剰な場合には、その余剰分を用いて電動機で発電を行い、蓄電器に充電する。
【0011】
以上のように、本発明によれば、内燃機関の目標駆動力を、内燃機関の燃料消費率が最小になる最適点に単純に設定するのではなく、この最適点から、電動機の効率に応じて移動するとともに、要求駆動力と設定された内燃機関の目標駆動力との差分を、電動機および蓄電器による力行/回生によって補充/吸収する。このように、出力すべき駆動力を内燃機関および電動機に適切に配分することにより、内燃機関の燃料消費を抑制しながら、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができる。
【0012】
前記目的を達成するために、請求項2に係る発明は、内燃機関3と、発電可能な電動機4と、電動機4との間で電力の授受が可能な蓄電器(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ52)と、内燃機関3の機関出力軸(クランク軸3a)からの動力を第1入力軸13で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第1変速機構11と、機関出力軸からの動力を第2入力軸32で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第2変速機構31と、機関出力軸と第1変速機構11との間を係合可能な第1クラッチC1と、機関出力軸と第2変速機構31との間を係合可能な第2クラッチC2とを有するハイブリッド車両の制御装置において、ハイブリッド車両Vの速度(車速VP)および変速段から、内燃機関3の目標駆動力(目標トルクTRECMD)を内燃機関3の燃料消費が最小になる最適点(BSFCボトムトルク)に設定する目標駆動力設定手段(ECU2、図3のステップ3)と、内燃機関3の目標駆動力を、電動機4の効率に応じて、最適点から移動する目標駆動力移動手段(ECU2、ステップ6〜7)と、移動された内燃機関3の目標駆動力が得られるように、内燃機関3の動作を制御する内燃機関制御手段(ECU2、ステップ9)と、駆動輪DWに要求される要求駆動力(要求トルクTRQ)と移動された内燃機関3の目標駆動力との差分を電動機4による力行/回生によって補充/吸収するように、電動機4の動作を制御する電動機制御手段(ECU2、ステップ10)と、を備えることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、内燃機関の機関出力軸と第1変速機構の第1入力軸が第1クラッチによって互いに係合するとともに、機関出力軸と第2変速機構の第2入力軸との係合が第2クラッチで解放されているときには、内燃機関の動力は、第1変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。また、機関出力軸と第1入力軸との係合が第1クラッチで解放されるとともに、機関出力軸と第2入力軸が第2クラッチによって互いに係合しているときには、内燃機関の動力は、第2変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。電動機の動力は、第1変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。
【0014】
また、ハイブリッド車両の速度および変速段から、内燃機関の目標駆動力が、内燃機関の燃料消費が最小になる最適点に設定される。さらに、この内燃機関の目標駆動力は、電動機の効率に応じて、最適点から移動される。そして、移動された内燃機関の目標駆動力が得られるように、内燃機関の動作が制御されるとともに、要求駆動力と移動された内燃機関の目標駆動力との差分を、電動機による力行/回生によって補充/吸収するように、電動機の動作が制御される。したがって、本発明においても、請求項1の場合と同様、出力すべき駆動力を内燃機関および電動機に適切に配分することにより、内燃機関の燃料消費を抑制しながら、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、電動機4の効率は、電動機4単体の効率および蓄電器の充放電効率を用いて算出されることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、電動機の効率を、電動機単体の効率および蓄電器の充放電効率を用いて算出する。したがって、これらの構成要素における損失を反映させながら、電動機の効率を精度良く算出でき、それに応じて、内燃機関の目標駆動力の移動を適切に行えることで、ハイブリッド車両の燃費をさらに向上させることができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、内燃機関3の動力が第2変速機構31によって変速されているときに、電動機4の動力の変速段として、第1変速機構11の変速段のうち、最も高い電動機側効率が得られる変速段を選択することを特徴とする。
【0018】
請求項2に係る発明のハイブリッド車両では、内燃機関の動力が第2変速機構で変速されている場合、第1変速機構における電動機の動力の変速段として、内燃機関の動力の変速段と異なる変速段を選択することが可能である。電動機側効率は、電動機により力行を行う場合には、蓄電器の放電効率、電動機の駆動効率および第1変速機構の動力伝達効率を含み、電動機により回生を行う場合には、第1変速機構の動力伝達効率、電動機の発電効率および蓄電器の充電効率を含むものである。また、第1変速機構における電動機の動力の変速段が異なると、それに応じて電動機の回転数が変化するため、電動機の効率も変化する。本発明によれば、内燃機関の動力が第2変速機構で変速されているときに、電動機の動力の変速段として、第1変速機構の変速段のうち、最も高い電動機側効率が得られる変速段を選択する。したがって、電動機側効率が最も高い状態で、電動機による力行または回生をより効率良く行うことができる。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、電動機4および蓄電器の少なくとも一方の温度(バッテリ温度TB)が、電動機4および蓄電器の少なくとも一方に対して設定された所定温度以上のときに、電動機4の出力が制限されることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、電動機および蓄電器の少なくとも一方の温度が、電動機および蓄電器の少なくとも一方に対して設定された所定温度以上のときに、すなわち、当該少なくとも一方が比較的高温状態にあるときに、電動機の出力が制限される。したがって、当該少なくとも一方の温度上昇を抑制することができる。
【0021】
請求項6に係る発明は、請求項4または5に記載のハイブリッド車両の制御装置において、蓄電器の充電状態(充電状態SOC)が所定値以下のときに、電動機4による回生量を増大させるように電動機4の動作を制御することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、蓄電器の充電状態が所定値以下で、比較的小さいときに、電動機による回生量を増大させるように電動機の動作を制御するので、低下した蓄電器の充電状態を確実に回復させることができる。
【0023】
請求項7に係る発明は、請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、ハイブリッド車両Vには、ハイブリッド車両Vが走行している周辺の道路情報を表すデータを記憶するカーナビゲーションシステム66が設けられており、カーナビゲーションシステム66に記憶されたデータに基づき、ハイブリッド車両Vの走行状況を予測する予測手段(ECU2)をさらに備え、予測されたハイブリッド車両V、V’の走行状況に応じて、変速段の選択を行うことを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、ハイブリッド車両の走行状況が、ハイブリッド車両が走行している周辺の道路情報を表すデータに基づき、予測手段によって予測されるとともに、予測されたハイブリッド車両の走行状況に応じて、変速段の選択が行われる。これにより、ハイブリッド車両の走行状況に適した変速段をあらかじめ選択することができる。
【0025】
また、前記目的を達成するために、請求項8に係る発明は、内燃機関3と、発電可能な電動機4と、電動機4との間で電力の授受が可能な蓄電器(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ52)と、内燃機関3の機関出力軸(クランク軸3a)および電動機4からの動力を第1入力軸13で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第1変速機構11と、機関出力軸からの動力を第2入力軸32で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第2変速機構31と、機関出力軸と第1変速機構11との間を係合可能な第1クラッチC1と、機関出力軸と第2変速機構31との間を係合可能な第2クラッチC2とを有するハイブリッド車両の制御方法において、ハイブリッド車両Vの速度(車速VP)および変速段から、内燃機関3の目標駆動力(目標トルクTRECMD)を内燃機関3の燃料消費が最小になる最適点(BSFCボトムトルク)に設定し(図3のステップ3)、電動機4単体の効率および蓄電器の充放電効率を用いて、電動機4の効率を算出し、内燃機関3の目標駆動力を、算出された電動機4の効率に応じて、最適点から移動し(ステップ6〜7)、移動された内燃機関3の目標駆動力が得られるように、内燃機関3の動作を制御し(ステップ9)、駆動輪DWに要求される要求駆動力(要求トルクTRQ)と移動された内燃機関3の目標駆動力との差分を電動機4による力行/回生によって補充/吸収するように、電動機4の動作を制御する(ステップ10)ことを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、前述した請求項3に係る発明と同様の作用を得ることができる。すなわち、内燃機関の目標駆動力を、内燃機関の燃料消費が最小になる最適点から、電動機の効率に応じて移動するとともに、要求駆動力と設定された内燃機関の目標駆動力との差分を、電動機による力行/回生によって補充/吸収することによって、内燃機関の燃料消費を抑制しながら、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができる。また、電動機の効率を、電動機単体の効率、および蓄電器の充放電効率を用いて、適切に算出でき、ハイブリッド車両の燃費をさらに向上させることができる。
【0027】
また、前記目的を達成するために、請求項9に係る発明は、内燃機関3と、発電可能な電動機4と、電動機4との間で電力の授受が可能な蓄電器(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ52)と、内燃機関3の機関出力軸(クランク軸3a)および電動機4からの動力を第1入力軸13で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第1変速機構11と、機関出力軸からの動力を第2入力軸32で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第2変速機構31と、機関出力軸と第1変速機構11との間を係合可能な第1クラッチC1と、機関出力軸と第2変速機構31との間を係合可能な第2クラッチC2とを有するハイブリッド車両の制御装置において、ハイブリッド車両Vの速度(車速VP)および内燃機関3の変速段から、内燃機関3の目標駆動力(目標トルクTRECMD)を内燃機関3の燃料消費が最小になる最適点(BSFCボトムトルク)に設定する内燃機関目標駆動力設定手段(ECU2、図7のステップ13)と、ハイブリッド車両Vの速度および電動機4の変速段から、電動機4の目標駆動力(目標トルクTRMCMD)を電動機4の効率が最大になる最適点(最大効率モータトルクTRMMAX)に設定する電動機目標駆動力設定手段(ECU2、ステップ14〜15)と、内燃機関3の目標駆動力を、駆動輪DWに要求される要求駆動力(要求トルクTRQ)および設定された電動機4の目標駆動力に基づいて、最適点から移動する目標駆動力移動手段(ECU2、ステップ16)と、移動された内燃機関3の目標駆動力が得られるように、内燃機関3の動作を制御する内燃機関制御手段(ECU2、ステップ17)と、電動機4の目標駆動力を力行/回生によって補充/吸収するように、電動機4の動作を制御する電動機制御手段(ECU2、ステップ18)と、を備えることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、請求項2に係る発明のハイブリッド車両と同様、内燃機関の機関出力軸と第1変速機構の第1入力軸が第1クラッチによって互いに係合し、機関出力軸と第2変速機構の第2入力軸との係合が第2クラッチで解放されているときには、内燃機関の動力は、第1変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。また、出力軸と第1入力軸との係合が第1クラッチで解放され、出力軸と第2入力軸が第2クラッチによって互いに係合しているときには、内燃機関の動力は、第2変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。電動機の動力は、第1変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。
【0029】
また、本発明によれば、ハイブリッド車両の速度および内燃機関の変速段から、内燃機関の目標駆動力が、内燃機関の燃料消費が最小になる最適点に設定される。さらに、ハイブリッド車両の速度および電動機の変速段から、電動機の目標駆動力が、電動機の効率が最大になる最適点に設定される。また、内燃機関の目標駆動力は、駆動輪に要求される要求駆動力および設定された電動機の目標駆動力に基づいて、最適点から移動される。そして、移動された内燃機関の目標駆動力が得られるように、内燃機関の動作が制御されるとともに、電動機の目標駆動力を力行/回生によって補充/吸収するように、電動機の動作が制御される。
【0030】
以上のように、本発明によれば、電動機の目標駆動力を電動機の効率が最大になるように設定するとともに、内燃機関の目標駆動力を、要求駆動力および設定された電動機の目標駆動力に基づいて、最適点から移動する。したがって、内燃機関の燃料消費だけでなく、電動機の効率を反映させながら、内燃機関および電動機の目標駆動力を適切に配分することができる。その結果、内燃機関の燃料消費および電動機の損失を抑制しながら、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができる。
【0031】
また、前記目的を達成するために、請求項10に係る発明は、内燃機関3と、発電可能な電動機4と、電動機4との間で電力の授受が可能な蓄電器(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ52)と、内燃機関3の機関出力軸(クランク軸3a)および電動機4からの動力を第1入力軸13で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第1変速機構11と、機関出力軸からの動力を第2入力軸32で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第2変速機構31と、機関出力軸と第1変速機構11との間を係合可能な第1クラッチC1と、機関出力軸と第2変速機構31との間を係合可能な第2クラッチC2とを有するハイブリッド車両の制御方法において、ハイブリッド車両Vの速度(車速VP)および内燃機関3の変速段から、内燃機関3の目標駆動力(目標トルクTRECMD)を内燃機関3の燃料消費率が最小になる最適点(BSFCボトムトルク)に設定し(図7のステップ13)、ハイブリッド車両Vの速度および電動機4の変速段から、電動機4の目標駆動力(目標トルクTRMCMD)を電動機4の効率が最大になる最適点(最大効率モータトルクTRMMAX)に設定し(ステップ14〜15)、内燃機関3の目標駆動力を、駆動輪DWに要求される要求駆動力(要求トルクTRQ)および設定された電動機4の目標駆動力に基づいて、最適点から移動し(ステップ16)、移動された内燃機関3の目標駆動力が得られるように、内燃機関3の動作を制御し(ステップ17)、電動機4の目標駆動力を力行/回生によって補充/吸収するように、電動機4の動作を制御する(ステップ18)ことを特徴とする。
【0032】
本発明によれば、前述した請求項9に係る発明と同様の作用を得ることができる。すなわち、内燃機関の燃料消費だけでなく、電動機の効率を反映させながら、内燃機関および電動機の目標駆動力を適切に配分でき、それにより、内燃機関の燃料消費および電動機の損失を抑制しながら、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態による制御装置を適用したハイブリッド車両を概略的に示す図である。
【図2】本実施形態による制御装置のECUなどを示すブロック図である。
【図3】第1実施形態による内燃機関および電動機の制御処理を示すフローチャートである。
【図4】燃料消費率マップの一例である。
【図5】最大効率エンジントルクの算出手法を説明するための図である。
【図6】モータ側効率マップの一例である。
【図7】第2実施形態による内燃機関および電動機の制御処理を示すフローチャートである。
【図8】モータ効率マップの一例である。
【図9】本発明による制御装置を適用した、図1とは異なるハイブリッド車両を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。なお、本発明は、この実施形態により限定されるものではない。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが、含まれる。図1に示すハイブリッド車両Vは、一対の駆動輪DW(一方のみ図示)および一対の従動輪(図示せず)などから成る四輪車両であり、動力源としての内燃機関(以下「エンジン」という)3および発電可能な電動機(以下「モータ」という)4を備えている。エンジン3は、複数の気筒を有するガソリンエンジンであり、クランク軸3aを有している。エンジン3の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期などは、図2に示す制御装置1のECU2によって制御される。
【0035】
モータ4は、いわゆるモータジェネレータである、一般的な1ロータタイプのブラシレスDCモータであり、固定されたステータ4aと、回転自在のロータ4bを有している。このステータ4aは、回転磁界を発生させるためのものであり、鉄心や三相コイルで構成されている。また、ステータ4aは、ハイブリッド車両Vに固定されたケーシングCAに取り付けられるとともに、パワードライブユニット(以下「PDU」という)51を介して、充電および放電可能なバッテリ52に電気的に接続されている。このPDU51は、インバータなどの電気回路によって構成されており、ECU2に電気的に接続されている(図2参照)。上記のロータ4bは、磁石などで構成されており、ステータ4aに対向するように配置されている。
【0036】
以上の構成のモータ4では、ECU2によるPDU51の制御によって、バッテリ52からPDU51を介してステータ4aに電力が供給されると、回転磁界が発生し、それに伴い、この電力が動力に変換され、ロータ4bが回転する。この場合、ステータ4aに供給される電力が制御されることによって、ロータ4bの動力が制御される。
【0037】
また、ステータ4aへの電力供給を停止した状態で、動力の入力によりロータ4bが回転しているときに、ECU2によるPDU51の制御によって、回転磁界が発生し、それに伴い、ロータ4bに入力された動力が電力に変換され、発電が行われる。この場合、ステータ4aで発電される電力が制御されることによって、ロータ4bに伝達される動力が制御される。
【0038】
さらに、ハイブリッド車両Vは、エンジン3およびモータ4の動力を車両の駆動輪DWに伝達するための駆動力伝達装置を備えており、この駆動力伝達装置は、第1変速機構11および第2変速機構31などから成るデュアルクラッチトランスミッションを有している。
【0039】
第1変速機構11は、入力された動力を、1速段、3速段、5速段および7速段のうちの1つにより変速して駆動輪DWに伝達するものである。これらの1速段〜7速段の変速比は、その段数が大きいほど、より高速側に設定されている。具体的には、第1変速機構11は、エンジン3のクランク軸3aと同軸状に配置された第1クラッチC1、遊星歯車装置12、第1入力軸13、3速ギヤ14、5速ギヤ15、および7速ギヤ16を有している。
【0040】
第1クラッチC1は、乾式多板クラッチであり、クランク軸3aに一体に取り付けられたアウターC1aと、第1入力軸13の一端部に一体に取り付けられたインナーC1bなどで構成されている。第1クラッチC1は、ECU2によって制御され、締結状態では、クランク軸3aに第1入力軸13を係合させる一方、解放状態ではこの係合を解除し、両者13、3aの間を遮断する。
【0041】
遊星歯車装置12は、シングルプラネタリ式のものであり、サンギヤ12aと、このサンギヤ12aの外周に回転自在に設けられた、サンギヤ12aよりも歯数の多いリングギヤ12bと、両ギヤ12a、12bに噛み合う複数(例えば3つ)のプラネタリギヤ12c(2つのみ図示)と、プラネタリギヤ12cを回転自在に支持する回転自在のキャリア12dとを有している。
【0042】
サンギヤ12aは、第1入力軸13の他端部に一体に取り付けられている。第1入力軸13の他端部にはさらに、前述したモータ4のロータ4bが一体に取り付けられており、第1入力軸13は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されている。以上の構成により、第1入力軸13、サンギヤ12aおよびロータ4bは、互いに一体に回転する。
【0043】
また、リングギヤ12bには、ロック機構BRが設けられている。このロック機構BRは、電磁式のものであり、ECU2によりON/OFFされ、ON状態のときに、リングギヤ12bを回転不能に保持するとともに、OFF状態のときに、リングギヤ12bの回転を許容する。なお、ロック機構BRとして、シンクロクラッチを用いてもよい。
【0044】
キャリア12dは、中空の回転軸17に一体に取り付けられている。回転軸17は、第1入力軸13の外側に相対的に回転自在に配置されるとともに、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されている。
【0045】
3速ギヤ14は、回転軸17に一体に取り付けられており、回転軸17およびキャリア12dと一体に回転自在である。また、5速ギヤ15および7速ギヤ16は、第1入力軸13に回転自在に設けられている。さらに、これらの3速ギヤ14、7速ギヤ16、および5速ギヤ15は、遊星歯車装置12と第1クラッチC1の間に、この順で並んでいる。
【0046】
また、第1入力軸13には、第1シンクロクラッチS1および第2シンクロクラッチS2が設けられている。第1シンクロクラッチS1は、スリーブS1a、シフトフォークおよびアクチュエータ(いずれも図示せず)を有している。第1シンクロクラッチS1は、ECU2による制御により、スリーブS1aを第1入力軸13の軸線方向に移動させることによって、3速ギヤ14または7速ギヤ16を、第1入力軸13に選択的に係合させる。
【0047】
第2シンクロクラッチS2は、第1シンクロクラッチS1と同様に構成されており、ECU2による制御により、スリーブS2aを第1入力軸13の軸線方向に移動させることによって、5速ギヤ15を第1入力軸13に係合させる。
【0048】
また、3速ギヤ14、5速ギヤ15、および7速ギヤ16には、第1受動ギヤ18、第2受動ギヤ19および第3受動ギヤ20がそれぞれ噛み合っており、これらの第1〜第3受動ギヤ18〜20は、出力軸21に一体に取り付けられている。出力軸21は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されており、第1入力軸13と平行に配置されている。また、出力軸21には、ギヤ21aが一体に取り付けられており、このギヤ21aは、差動装置を有するファイナルギヤFGのギヤに噛み合っている。出力軸21は、これらのギヤ21aやファイナルギヤFGを介して、駆動輪DWに連結されている。
【0049】
以上の構成の第1変速機構11では、遊星歯車装置12、3速ギヤ14および第1受動ギヤ18によって1速段および3速段のギヤ段が構成され、5速ギヤ15および第2受動ギヤ19によって5速段のギヤ段が、7速ギヤ16および第3受動ギヤ20によって7速段のギヤ段が、それぞれ構成されている。また、第1入力軸13に入力された動力は、これらの1速段、3速段、5速段および7速段のうちの1つによって変速され、出力軸21、ギヤ21aおよびファイナルギヤFGを介して駆動輪DWに伝達される。
【0050】
前述した第2変速機構31は、入力された動力を、2速段、4速段および6速段のうちの1つにより変速して駆動輪DWに伝達するものである。これらの2速段〜6速段の変速比は、その段数が大きいほど、より高速側に設定されている。具体的には、第2変速機構31は、第2クラッチC2、第2入力軸32、第2入力中間軸33、2速ギヤ34、4速ギヤ35、および6速ギヤ36を有しており、第2クラッチC2および第2入力軸32は、クランク軸3aと同軸状に配置されている。
【0051】
第2クラッチC2は、第1クラッチC1と同様、乾式多板クラッチであり、クランク軸3aに一体に取り付けられたアウターC2aと、第2入力軸32の一端部に一体に取り付けられたインナーC2bで構成されている。第2クラッチC2は、ECU2によって制御され、締結状態では、クランク軸3aに第2入力軸32を係合させる一方、解放状態ではこの係合を解除し、両者32と3aとの間を遮断する。
【0052】
第2入力軸32は、中空状に形成され、第1入力軸13の外側に相対的に回転自在に配置されるとともに、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されている。また、第2入力軸32の他端部には、ギヤ32aが一体に取り付けられている。
【0053】
第2入力中間軸33は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されており、第2入力軸32および前述した出力軸21と平行に配置されている。第2入力中間軸33には、ギヤ33aが一体に取り付けられており、ギヤ33aには、アイドラギヤ37が噛み合っている。アイドラギヤ37は、第2入力軸32のギヤ32aに噛み合っている。なお、図1では、図示の便宜上、アイドラギヤ37は、ギヤ32aから離れた位置に描かれている。第2入力中間軸33は、これらのギヤ33a、アイドラギヤ37およびギヤ32aを介して、第2入力軸32に連結されている。
【0054】
2速ギヤ34、6速ギヤ36、および4速ギヤ35は、第2入力中間軸33に回転自在に設けられ、この順で並んでおり、前述した第1受動ギヤ18、第3受動ギヤ20および第2受動ギヤ19にそれぞれ噛み合っている。さらに、第2入力中間軸33には、第3シンクロクラッチS3および第4シンクロクラッチS4が設けられている。両シンクロクラッチS3およびS4は、第1シンクロクラッチS1と同様に構成されている。
【0055】
第3シンクロクラッチS3は、ECU2による制御により、そのスリーブS3aを第2入力中間軸33の軸線方向に移動させることによって、2速ギヤ34または6速ギヤ36を、第2入力中間軸33に選択的に係合させる。第4シンクロクラッチS4は、ECU2による制御により、そのスリーブS4aを第2入力中間軸33の軸線方向に移動させることによって、4速ギヤ35を第2入力中間軸33に係合させる。
【0056】
以上の構成の第2変速機構31では、2速ギヤ34および第1受動ギヤ18によって2速段のギヤ段が構成され、4速ギヤ35および第2受動ギヤ19によって4速段のギヤ段が、6速ギヤ36および第3受動ギヤ20によって6速段のギヤ段が、それぞれ構成されている。また、第2入力軸32に入力された動力は、ギヤ32a、アイドラギヤ37およびギヤ33aを介して第2入力中間軸33に伝達され、第2入力中間軸33に伝達された動力は、これらの2速段、4速段および6速段のうちの1つによって変速され、出力軸21、ギヤ21aおよびファイナルギヤFGを介して駆動輪DWに伝達される。
【0057】
以上のように、第1および第2変速機構11、31では、変速された動力を駆動輪DWに伝達するための出力軸21が共用化されている。
【0058】
また、駆動力伝達装置には、リバース機構41が設けられており、リバース機構41は、リバース軸42と、リバースギヤ43と、スリーブS5aを有する第5シンクロクラッチS5を備えている。ハイブリッド車両Vを後進させる場合には、ECU2による制御により、スリーブS5aをリバース軸42の軸線方向に移動させることによって、リバースギヤ43をリバース軸42に係合させる。
【0059】
さらに、図2に示すように、ECU2には、モータ回転数センサ60から、モータ4の回転数(以下「モータ回転数」という)NMOTを表す検出信号が入力される。また、ECU2には、クランク角センサ61からCRK信号が入力される。このCRK信号は、エンジン3のクランク軸3aの回転に伴い、所定のクランク角ごとに出力されるパルス信号である。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン回転数NEを算出する。また、ECU2には、電流電圧センサ62から、バッテリ52に入出力される電流・電圧値を表す検出信号が、入力される。ECU2は、この検出信号に基づいて、バッテリ52の充電状態SOCを算出する。
【0060】
さらに、ECU2には、バッテリ温度センサ63から、バッテリ52の温度(以下「バッテリ温度」という)TBを表す検出信号が入力される。また、ECU2には、アクセル開度センサ64からハイブリッド車両Vのアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量であるアクセル開度APを表す検出信号が、車速センサ65から車速VPを表す検出信号が、入力される。また、ECU2には、カーナビゲーションシステム66に記憶された、ハイブリッド車両Vが走行している周辺の道路情報を表すデータが適宜、入力される。
【0061】
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどから成るマイクロコンピュータで構成されており、上述した各種のセンサ60〜65からの検出信号や、カーナビゲーションシステム66からのデータに応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、ハイブリッド車両Vの動作を制御する。なお、実施形態では、ECU2が、目標駆動力設定手段、目標駆動力移動手段、内燃機関制御手段、電動機制御手段、予測手段、内燃機関目標駆動力設定手段、および電動機目標駆動力設定手段に相当する。
【0062】
以上の構成のハイブリッド車両Vの走行モードには、ENG走行モード、EV走行モード、アシスト走行モード、充電走行モード、減速回生モードおよびENG始動モードが含まれる。各走行モードにおけるハイブリッド車両Vの動作は、ECU2によって制御される。以下、これらの走行モードについて順に説明する。
【0063】
[ENG走行モード]
ENG走行モードは、エンジン3のみを動力源として用いる走行モードである。ENG走行モードでは、エンジン3の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期を制御することによって、エンジン3の動力(以下「エンジン動力」という)が制御される。また、エンジン動力は、第1または第2変速機構11、31により変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0064】
まず、第1変速機構11により1速段、3速段、5速段および7速段のうちの1つでエンジン動力を変速する場合の動作について、順に説明する。この場合、上記のいずれの変速段においても、第1クラッチC1を締結状態に制御することによって、第1入力軸13をクランク軸3aに係合させるとともに、第2クラッチC2を解放状態に制御することによって、クランク軸3aへの第2入力軸33の係合を解除する。また、第5シンクロクラッチS5の制御によって、リバース軸42に対するリバースギヤ43の係合を解除する。
【0065】
1速段の場合には、ロック機構BRをON状態に制御することによって、リングギヤ12bを回転不能に保持するとともに、第1および第2シンクロクラッチS1、S2によって、第1入力軸13に対する3速ギヤ14、5速ギヤ15および7速ギヤ16の係合を解除する。
【0066】
以上により、エンジン動力は、第1クラッチC1、第1入力軸13、サンギヤ12a、プラネタリギヤ12c、キャリア12d、回転軸17、3速ギヤ14および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達され、さらにギヤ21aおよびファイナルギヤFGを介して、駆動輪DWに伝達される。その際、上記のようにリングギヤ12bが回転不能に保持されているため、第1入力軸13に伝達されたエンジン動力は、サンギヤ12aとリングギヤ12bとの歯数比に応じた変速比で減速された後、キャリア12dに伝達され、さらに、3速ギヤ14と第1受動ギヤ18との歯数比に応じた変速比で減速された後、出力軸21に伝達される。その結果、エンジン動力は、上記の2つの変速比によって定まる1速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0067】
3速段の場合には、ロック機構BRをOFF状態に制御することによって、リングギヤ12bの回転を許容するとともに、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、3速ギヤ14のみを第1入力軸13に係合させる。
【0068】
以上により、エンジン動力は、第1入力軸13から3速ギヤ14および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達される。この場合、上記のように3速ギヤ14が第1入力軸13に係合しているため、サンギヤ12a、キャリア12dおよびリングギヤ12bは一体に空転する。このため、3速段の場合には、1速段の場合と異なり、エンジン動力は、遊星歯車装置12で減速されることなく、3速ギヤ14と第1受動ギヤ18との歯数比によって定まる3速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0069】
以下、同様に、5速段の場合には、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、5速ギヤ15のみを第1入力軸13に係合させる。これにより、エンジン動力は、第1入力軸13から5速ギヤ15および第2受動ギヤ19を介して、出力軸21に伝達され、両ギヤ15、19の歯数比によって定まる5速段の変速比で変速される。
【0070】
7速段の場合には、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、7速ギヤ16のみを第1入力軸13に係合させる。これにより、エンジン動力は、第1入力軸13から7速ギヤ16および第3受動ギヤ20を介して、出力軸21に伝達され、両ギヤ16、20の歯数比によって定まる7速段の変速比で変速される。
【0071】
次に、エンジン動力を第2変速機構31により2速段、4速段および6速段のうちの1つで変速する場合の動作について、順に説明する。この場合、これらのいずれの変速段においても、第1クラッチC1を解放状態に制御することによって、クランク軸3aへの第1入力軸13の係合を解除するとともに、第2クラッチC2を締結状態に制御することによって、第2入力軸32をクランク軸3aに係合させる。また、第5シンクロクラッチS5の制御によって、リバース軸42に対するリバースギヤ43の係合を解除する。
【0072】
2速段の場合には、第3および第4シンクロクラッチS3、S4の制御によって、2速ギヤ34のみを第2入力中間軸33に係合させる。これにより、エンジン動力は、第2クラッチC2、第2入力軸32、ギヤ32a、アイドラギヤ37、ギヤ33a、第2入力中間軸33、2速ギヤ34および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達され、さらにギヤ21aおよびファイナルギヤFGを介して、駆動輪DWに伝達される。その際、エンジン動力は、2速ギヤ34と第1受動ギヤ18との歯数比によって定まる2速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0073】
以下、同様に、4速段の場合には、第3および第4シンクロクラッチS3、S4の制御によって、4速ギヤ35のみを第2入力中間軸33に係合させる。これにより、エンジン動力は、第2入力中間軸33から4速ギヤ35および第2受動ギヤ19を介して、出力軸21に伝達され、両ギヤ35、19の歯数比によって定まる4速段の変速比で変速される。
【0074】
6速段の場合には、第3および第4シンクロクラッチS3、S4の制御によって、6速ギヤ36のみを第2入力中間軸33に係合させる。これにより、エンジン動力は、第2入力中間軸33から6速ギヤ36および第3受動ギヤ20を介して、出力軸21に伝達され、両ギヤ36、20の歯数比によって定まる6速段の変速比で変速される。
【0075】
[EV走行モード]
EV走行モードは、モータ4のみを動力源として用いる走行モードである。EV走行モードでは、バッテリ51からモータ4に供給される電力を制御することによって、モータ4の動力(以下「モータ動力」という)が制御される。また、モータ動力が、第1変速機構11により1速段、3速段、5速段および7速段のうちの1つで変速され、駆動輪DWに伝達される。この場合、これらのいずれの変速段においても、第1および第2クラッチC1、C2を解放状態に制御することによって、クランク軸3aに対する第1および第2入力軸13、32の係合を解除する。これにより、モータ4および駆動輪DWとエンジン3との間が遮断されるので、モータ動力がエンジン3に無駄に伝達されることがない。また、第5シンクロクラッチS5の制御によって、リバース軸42に対するリバースギヤ43の係合を解除する。
【0076】
1速段の場合には、ENG走行モードの場合と同様、ロック機構BRをON状態に制御することによって、リングギヤ12bを回転不能に保持するとともに、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、第1入力軸13に対する3速ギヤ14、5速ギヤ15および7速ギヤ16の係合を解除する。
【0077】
以上により、モータ動力は、第1入力軸、サンギヤ12a、プラネタリギヤ12c、キャリア12d、回転軸17、3速ギヤ14および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達される。その結果、モータ動力は、ENG走行モードの場合と同様、1速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0078】
3速段の場合には、ENG走行モードの場合と同様、ロック機構BRをOFF状態に制御することによって、リングギヤ12bの回転を許容するとともに、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、3速ギヤ14のみを第1入力軸13に係合させる。これにより、モータ動力は、第1入力軸13から、3速ギヤ14および第1ギヤ18を介して、出力軸21に伝達される。その結果、モータ動力は、ENG走行モードの場合と同様、3速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0079】
5速段または7速段の場合には、ENG走行モードの場合と同様にして、ロック機構BR、第1および第2シンクロクラッチS1、S2を制御する。これにより、モータ動力は、5速段または7速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達されるなお、EV走行モード中、第1変速機構11の変速段は、モータ4の高い駆動効率が得られるように、設定される。
【0080】
[アシスト走行モード]
アシスト走行モードは、エンジン3をモータ4でアシストする走行モードである。アシスト走行モードでは、基本的に、エンジン3の良好な燃費が得られるように、エンジン3のトルク(以下「エンジントルク」という)を制御する。また、運転者から駆動輪DWに要求されるトルク(以下「要求トルク」という)TRQに対するエンジントルクの不足分が、モータ4のトルク(以下「モータトルク」という)によって補われる。要求トルクTRQは、検出されたアクセル開度APに応じて算出される。
【0081】
アシスト走行モード中、エンジン動力を第1変速機構11によって変速しているとき(奇数段のとき)には、モータ動力の変速比は、第1変速機構11で設定されている変速段の変速比と同じになる。一方、エンジン動力を第2変速機構31によって変速しているとき(偶数段のとき)には、モータ動力の変速比として、第1変速機構11の1速段、3速段、5速段または7速段のいずれかの変速比を選択することが可能である。
【0082】
[充電走行モード]
充電走行モードは、エンジン動力の一部をモータ4で電力に変換し、発電を行うとともに、発電した電力をバッテリ52に充電する走行モードである。充電走行モードでは、基本的に、エンジン3の良好な燃費が得られるように、エンジントルクを制御する。また、要求トルクTRQに対するエンジントルクの余剰分を用いて、モータ4で発電が行われ、発電した電力がバッテリ52に充電される(回生)。
【0083】
アシスト走行モードの場合と同様、充電走行モード中、エンジン動力を第1変速機構11によって変速しているとき(奇数段のとき)には、モータ動力の変速比は、第1変速機構11の変速段の変速比と同じになる。また、エンジン動力を第2変速機構12によって変速しているとき(偶数段のとき)には、モータ動力の変速比として、第1変速機構11の1速段、3速段、5速段または7速段のいずれかの変速比を選択することが可能である。
【0084】
前述したENG走行モード、アシスト走行モードまたは充電走行モードの選択は、次のようにして行われる。ENG走行モードでは、エンジントルクは、BSFCボトムトルクになるように制御される。図4は、エンジン回転数NEおよびエンジン要求トルクTREに対して、エンジン3の燃料消費率を規定した燃料消費率マップである。同図に示すように、BSFCボトムトルクは、エンジン3の変速段と車速VPによって定まるエンジン回転数NEに対して、エンジン3の最小の燃料消費率が得られるトルクである。
【0085】
このため、走行モードの選択は、基本的には、BSFCボトムトルクと要求トルクTRQとの大小関係に応じて行われ、両者がほぼ一致しているときには、ENG走行モードが選択される。また、BSFCボトムトルクが要求トルクTRQよりも小さいときには、エンジントルクの不足分を補うために、アシスト走行モードが選択され、BSFCボトムトルクが要求トルクTRQがよりも大きいときには、エンジントルクの余剰分を回生するために、充電走行モードが選択される。
【0086】
次に、図3を参照しながら、本発明の第1実施形態によるエンジン3およびモータ4の制御処理について説明する。本処理は、走行モードとしてアシスト走行モードまたは充電走行モードが選択されているときに、ECU2により、所定時間ごとに実行される。
【0087】
本処理ではまず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、アクセル開度APに応じて要求トルクTRQを算出する。次に、エンジン回転数NEに応じ、図4の燃料消費率マップを検索することによって、BSFCボトムトルクを算出する(ステップ2)。次いで、エンジン3の目標トルクTRECMDを、算出されたBSFCボトムトルク(最適点)に設定する(ステップ3)。
【0088】
次に、選択された走行モード、車速VP、エンジン3の変速段、および算出されたBSFCボトムトルクなどに応じて、エンジン3の効率、モータ4の効率、第1および第2変速機11、31の効率、およびバッテリ52の効率をそれぞれ算出する(ステップ4)。次に、算出されたこれらの効率を用い、所定の式によって、ハイブリッド車両Vの総合効率TEを算出する(ステップ5)。
【0089】
この総合効率TEは、ハイブリッド車両Vにおけるエネルギ源としての燃料が、最終的にハイブリッド車両Vの走行エネルギに変換されるまでの総合的な効率に相当する。なお、充電走行モードのときには、総合効率TEを算出する際の要素として、EV予測効率が加えられる。このEV予測効率は、充電走行モードにおいて充電された電力を将来のアシスト走行モードなどにおいて使用するときのモータ4の駆動効率、バッテリ52の放電効率と、第1および第2変速機構11、31の動力伝達効率を互いに乗算した予測値である。
【0090】
次に、総合効率TEが最大になる最大効率エンジントルクTREMAXを算出する(ステップ6)。その算出は、例えば次のようにして行われる。まず、図5に示すように、エンジントルクをBSFCボトムトルクから上下方向にずらしながら、他の条件が同じであるときの複数の総合効率TEを、上述したようにしてそれぞれ算出する。そして、算出された複数の総合効率TEの変化状態から、例えば勾配法を用いて、総合効率TEのピーク位置を求め、さらにこのピーク位置に相当するエンジントルクを、最大効率エンジントルクTREMAXとして求める。
【0091】
次に、エンジン3の目標トルクTRECMDを、算出された最大効率エンジントルクTREMAXに設定し(ステップ7)、BSFCボトムトルクから移動する。次に、ステップ1で算出された要求トルクTRQとエンジン3の目標トルクTRECMDとの差分を、モータ4の目標トルクTRMCMDとして設定する(ステップ8)。
【0092】
次いで、ステップ7で設定されたエンジン3の目標トルクTRECMDが得られるように、エンジン3の動作を制御する(ステップ9)。また、モータ4の目標トルクTRMCMDに基づき、モータ4の動作を制御し(ステップ10)、本処理を終了する。この場合、アシスト走行モードのときには、要求トルクTRQに対するエンジントルクの不足分を吸収するように、モータ4による力行が行われ、充電走行モードのときには、要求トルクTRQに対するエンジントルクの余剰分を吸収するように、モータ4による回生が行われる。
【0093】
なお、上述したモータ4の動作を制御する場合において、エンジン動力が第2変速機構31によって変速されているときには、車速VPおよび要求トルクTRQに応じ、図6に示すモータ側効率マップを検索することによって、モータ動力の変速段を選択する。このモータ側効率は、アシスト走行モードにおいてモータ4により力行を行う場合には、バッテリ52の放電効率、モータ4の駆動効率および第1変速機構11の動力伝達効率を含み、充電走行モードにおいてモータ4により回生を行う場合には、第1変速機構11の動力伝達効率、モータ4の発電効率およびバッテリ52の充電効率を含む。図6の上側がアシスト走行モード(力行)の領域、下側が充電走行モード(回生)の領域である。
【0094】
このモータ側効率マップは、次のようにして設定される。まず、第1変速機構11の変速段ごとに、車速VPおよび要求トルクTRQに対してモータ側効率を規定した基本マップ(図示せず)をそれぞれ作成する。次に、これらの基本マップをすべて重ね合わせ、それらのうち、最大のモータ側効率を示す部分を残すとともに、変速段間を境界線で区分することによって、モータ側効率マップが設定される。
【0095】
したがって、このモータ側効率マップを検索し、車速VPと要求トルクTRQとの組み合わせに相当する変速段を求めることによって、第1変速機構11の変速段のうち、モータ動力の変速段として、最も高いモータ側効率が得られる変速段を選択することができる。
【0096】
また、ECU2は、検出されたバッテリ52の充電状態SOCが所定値以下のときには、充電状態SOCを回復させるために、充電走行モードにおいて、モータ4による回生量を増大させるようにモータ4の動作を制御する。この場合、回生量の増大分を補うように、エンジントルクを増大させる。
【0097】
さらに、アシスト走行モード中、検出されたバッテリ温度TBが所定温度以上になったときには、モータ4の出力を制限し、モータ4によるエンジン3のアシストを制限する。この場合、アシストの制限分を補うように、エンジントルクを増大させる。
【0098】
また、ECU2は、前述したカーナビゲーションシステム66から入力された、ハイブリッド車両Vが走行している周辺の道路情報に基づいて、ハイブリッド車両Vの走行状況を予測する。そして、予測されたハイブリッド車両Vの走行状況に応じて、変速段の選択を行う。
【0099】
以上のように、本実施形態によれば、車速VPおよびエンジン動力の変速段に応じてBSFCボトムトルクを算出する(図3のステップ2)とともに、エンジン3の目標トルクTRECMDをBSFCボトムトルクに設定する(ステップ3)。また、ハイブリッド車両の総合効率TEが最大になる最大効率エンジントルクTREMAXを算出し、エンジン3の目標トルクTRECMDを、BSFCボトムトルクから、最大効率エンジントルクTREMAXに移動する(ステップ7)。
【0100】
そして、移動された目標トルクTRECMDが得られるように、エンジン3の動作を制御するとともに、要求トルクTRQと移動されたエンジン3の目標トルクTRECMDとの差分(=モータ4の目標トルクTRMCMD)を、モータ4による力行または回生によって補充または吸収するように、モータ4の動作を制御する。このように、エンジン3の目標トルクTRECMDおよびモータ4の目標トルクTRMCMDを適切に配分することにより、エンジン3の燃料消費率を抑制しながら、ハイブリッド車両V全体としての効率を最大に制御でき、ハイブリッド車両Vの燃費を最大限、向上させることができる。
【0101】
また、第1および第2変速機構11、31の動力伝達効率が互いに異なる場合においても、そのような動力伝達効率の相違がハイブリッド車両Vの総合効率TEに反映されるので、上述した効果を有効に得ることができる。
【0102】
さらに、ハイブリッド車両Vの総合効率TEを算出する際の効率として、エンジン3、第1および第2変速機構11、31、モータ4およびバッテリ52の各効率を含むので、これらの構成要素における損失を反映させながら、総合効率TEを精度良く算出でき、それに応じて、内燃機関の目標駆動力の移動を適切に行えることで、ハイブリッド車両の燃費をさらに向上させることができる。
【0103】
また、アシスト走行モードまたは充電走行モードにおいてモータ4の動作を制御する場合、エンジン動力が第2変速機構31によって変速されているときには、図6のモータ側効率マップを検索することにより、第1変速機構11の変速段のうち、モータ動力の変速段として、最も高いモータ側効率が得られる変速段を選択する。したがって、モータ側効率が最も高い状態で、モータ4による力行または回生をより効率良く行うことができる。
【0104】
さらに、バッテリ52の充電状態SOCが所定値以下のときに、充電走行モードにおいて、モータ4による回生量を増大させるようにモータ4の動作を制御するので、低下したバッテリ52の充電状態SOCを確実に回復させることができる。また、バッテリ温度TBが所定温度以上のときに、モータ4の出力を制限するので、バッテリ温度TBの上昇を抑制することができる。
【0105】
さらに、カーナビゲーションシステム66からのデータに基づいて、ハイブリッド車両Vの走行状況を予測し、その結果に応じて変速段を選択するので、予測されるハイブリッド車両の走行状況に適した変速段をあらかじめ選択することができる。例えば、ハイブリッド車両Vが下り坂を走行すると予測されるときには、モータ4の高い発電効率が得られるような変速段を選択し、上り坂を走行すると予測されるときには、より大きなトルクを出力することが可能な低速側の変速段を選択することができる。
【0106】
次に、図7を参照しながら、本発明の第2実施形態によるエンジン3およびモータ4の制御処理について説明する。本処理は、図3の制御処理と同様、走行モードとして、アシスト走行モードまたは充電走行モードが選択されているときに、ECU2により、所定時間ごとに実行される。
【0107】
本処理ではまず、図3のステップ1〜3と同様にして、ステップ11〜13を実行し、要求トルクTRQおよびBSFCボトムトルクを算出するとともに、エンジン3の目標トルクTRECMDをBSFCボトムトルク(最適点)に設定する。
【0108】
次に、検出されたモータ回転数NMOTに応じ、図8に示すモータ効率マップを検索することによって、最大効率モータトルクTRMMAXを算出する(ステップ14)。このモータ効率マップは、モータ回転数NMOTおよびモータ要求トルクTREに対して、モータ4の効率を規定したものである。また、最大効率モータトルクTRMMAXは、モータ回転数NMOTに対し、モータ4の最大効率が得られるトルク(最適点)であり、エンジン3におけるBSFCボトムトルクに対応する。モータ効率マップの上側がアシスト走行モード(力行)の領域、下側が充電走行モード(回生)の領域である。
【0109】
次いで、モータ4の目標トルクTRMCMDを、算出された最大効率モータトルクTRMMAXに設定する(ステップ15)。また、エンジン3の目標トルクTRECMDを、ステップ11で算出された要求トルクTRQと最大効率モータトルクTRMMAXとの差(=TRQ−TRMMAX)に設定し(ステップ16)、BSFCボトムトルクから移動する。
【0110】
次に、ステップ16で設定されたエンジン3の目標トルクTRECMDが得られるように、エンジン3の動作を制御する(ステップ17)とともに、モータ4の目標トルクTRMCMDに基づき、モータ4の動作を制御し(ステップ18)、本処理を終了する。
【0111】
以上のように、本実施形態によれば、モータ回転数NMOTに応じて最大効率モータトルクTRMMAXを算出する(ステップ14)とともに、モータ4の目標トルクTRMCMDを最大効率モータトルクTRMMAXに設定する(ステップ15)。また、エンジン3の目標トルクTRECMDを、要求トルクTRQとモータ4の目標トルクTRMCMとの差に設定し(ステップ16)、BSFCボトムトルクから移動する。
【0112】
したがって、エンジン3の燃料消費率だけでなく、モータ4の効率を反映させながら、エンジン3の目標トルクTQECMDおよびモータ4の目標トルクTRMCMDを適切に配分することができる。その結果、エンジン3の燃料消費率およびモータ4における損失を抑制しながら、ハイブリッド車両Vの燃費を向上させることができる。
【0113】
なお、上述した例では、モータ4の目標トルクTRMCMDを最大効率モータトルクTRMMAX(最適点)に優先的に設定し、その結果に応じて、エンジン3の目標トルクTRECMDをBSFCボトムトルク(最適点)から移動しているが、これに限らず、エンジン3およびモータ4に対してトルクの重み付けをあらかじめ行い、その重み付けに従って、両目標トルクTRECMDおよびTRMCMDを、それぞれの最適点から移動するようにしてもよい。
【0114】
また、本発明は、図9に示すハイブリッド車両V’にも適用可能である。同図において、図1に示すハイブリッド車両Vと同じ構成要素については、同じ符号を付している。このハイブリッド車両V’は、ハイブリッド車両Vと比較して、前述した第1および第2変速機構11、31に代えて、変速機構71を備える点が主に異なる。
【0115】
この変速機構71は、有段式の自動変速機であり、入力軸72および出力軸73を有している。入力軸72は、クラッチCを介してクランク軸3aに連結されており、入力軸72には、モータ4のロータ4bが一体に取り付けられている。クラッチCは、第1および第2クラッチC1、C2と同様の乾式多板クラッチである。
【0116】
また、出力軸73には、ギヤ73aが一体に取り付けられており、このギヤ73aは、前述したファイナルギヤFGのギヤに噛み合っている。出力軸73は、これらのギヤ73aやファイナルギヤFGを介して駆動輪DW、DWに連結されている。以上の構成の変速機構71では、入力軸72には、エンジン動力およびモータ動力が入力されるとともに、入力された動力は、複数の変速段(例えば1速段〜7速段)の1つで変速され、駆動輪DW、DWに伝達される。また、変速機構71の動作は、ECU2によって制御される。
【0117】
このハイブリッド車両V’に本発明による制御装置を適用した場合にも、走行モードや変速段の選択が、上述した制御装置1の場合と同様にして行われるので、その詳細な説明については省略する。これにより、上述した実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0118】
なお、変速機構71を、エンジン動力およびモータ動力の双方を変速した状態で駆動輪DWに伝達するように構成しているが、エンジン動力のみを変速した状態で駆動輪DWに伝達するように構成してもよい。あるいは、エンジン動力を変速した状態で駆動輪DWに伝達する変速機構と、モータ動力を変速した状態で駆動輪DWに伝達する変速機構を、それぞれ別個に設けてもよい。
【0119】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、移動前のエンジン3の目標トルクTRECMDを、BSFCボトムトルク、すなわちエンジン3の最小の燃料消費率が得られるトルクに設定しているが、これに限らず、エンジン3の最小の燃料消費量が得られるトルクに設定してもよい。また、モータ4の出力の制限を、バッテリ温度TBが所定温度以上のときに行っているが、これに代えて、または、これとともに、センサなどで検出されたモータ4の温度がそれに対する所定温度以上のときに行ってもよい。それにより、モータ4の温度の上昇を抑制することができる。
【0120】
また、実施形態では、第1および第2変速機構11、31のそれぞれの複数の変速段を、奇数段および偶数段に設定しているが、これとは逆に、偶数段および奇数段に設定してもよい。さらに、実施形態では、第1および第2変速機構11、31として、変速された動力を駆動輪DWに伝達するための出力軸21が共用化されたタイプのものを用いているが、出力軸が別個に設けられたタイプのものを用いてもよい。また、実施形態では、クラッチC、第1および第2クラッチC1、C2は、乾式多板クラッチであるが、湿式多板クラッチや、電磁クラッチでもよい。
【0121】
さらに、実施形態では、本発明における電動機として、ブラシレスDCモータであるモータ4を用いているが、発電可能な他の適当な電動機、例えばACモータを用いてもよい。また、実施形態では、本発明における蓄電器は、バッテリ52であるが、充電および放電可能な他の適当な蓄電器、例えばキャパシタでもよい。さらに、実施形態では、本発明における内燃機関として、ガソリンエンジンであるエンジン3を用いているが、ディーゼルエンジンや、LPGエンジンを用いてもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0122】
V ハイブリッド車両
V’ ハイブリッド車両
1 制御装置
2 ECU(目標駆動力設定手段、目標駆動力移動手段、内燃機関制御手段、電 動機制御手段、予測手段、内燃機関目標駆動力設定手段、電動機目標駆動力設 定手段)
3 エンジン(内燃機関)
3a クランク軸(出力軸)
4 モータ(電動機)
DW 駆動輪
11 第1変速機構
13 第1入力軸
31 第2変速機構
32 第2入力軸
C1 第1クラッチ
C2 第2クラッチ
52 バッテリ(蓄電器)
66 カーナビゲーションシステム
71 変速機構
VP 車速(ハイブリッド車両の速度)
TRECMD エンジンの目標トルク(内燃機関の目標駆動力)
TE ハイブリッド車両の総合効率
TREMAX 最大効率エンジントルク(総合効率が最大になる内燃機関の駆動力)
TRQ 要求トルク(要求駆動力)
TB バッテリ温度(蓄電器の温度)
SOC バッテリの充電状態(蓄電器の充電状態)
TRMCMD モータの目標トルク(電動機の目標駆動力)
TRMMAX 最大効率モータトルク(最適点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としての内燃機関および発電可能な電動機と、当該電動機との間で電力の授受が可能な蓄電器と、入力された動力を変速した状態で駆動輪に伝達可能な変速機構とを有するハイブリッド車両の制御装置において、
前記ハイブリッド車両の速度および前記変速機構の変速段から、前記内燃機関の目標駆動力を当該内燃機関の燃料消費が最小になる最適点に設定する目標駆動力設定手段と、
前記内燃機関の目標駆動力を、前記電動機の効率に応じて、前記最適点から移動する目標駆動力移動手段と、
当該移動された内燃機関の目標駆動力が得られるように、前記内燃機関の動作を制御する内燃機関制御手段と、
前記駆動輪に要求される要求駆動力と前記移動された前記内燃機関の目標駆動力との差分を、前記電動機による力行/回生によって補充/吸収するように、前記電動機の動作を制御する電動機制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
内燃機関と、発電可能な電動機と、当該電動機との間で電力の授受が可能な蓄電器と、前記内燃機関の機関出力軸および前記電動機からの動力を第1入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な第1変速機構と、前記機関出力軸からの動力を第2入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で前記駆動輪に伝達可能な第2変速機構と、前記機関出力軸と前記第1変速機構との間を係合可能な第1クラッチと、前記機関出力軸と前記第2変速機構との間を係合可能な第2クラッチとを有するハイブリッド車両の制御装置において、
前記ハイブリッド車両の速度および前記変速段から、前記内燃機関の目標駆動力を当該内燃機関の燃料消費が最小になる最適点に設定する目標駆動力設定手段と、
前記内燃機関の目標駆動力を、前記電動機の効率に応じて、前記最適点から移動する目標駆動力移動手段と、
当該移動された内燃機関の目標駆動力が得られるように、前記内燃機関の動作を制御する内燃機関制御手段と、
前記駆動輪に要求される要求駆動力と前記移動された前記内燃機関の目標駆動力との差分を、前記電動機による力行/回生によって補充/吸収するように、前記電動機の動作を制御する電動機制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記電動機の効率は、当該電動機単体の効率および前記蓄電器の充放電効率を用いて算出されることを特徴とする、請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関の動力が前記第2変速機構によって変速されているときに、前記電動機の動力の変速段として、前記第1変速機構の変速段のうち、最も高い電動機側効率が得られる変速段を選択することを特徴とする、請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記電動機および前記蓄電器の少なくとも一方の温度が、当該少なくとも一方に対して設定された所定温度以上のときに、前記電動機の出力が制限されることを特徴とする、請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記蓄電器の充電状態が所定値以下のときに、前記電動機による回生量を増大させるように前記電動機の動作を制御することを特徴とする、請求項4または5に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記ハイブリッド車両には、当該ハイブリッド車両が走行している周辺の道路情報を表すデータを記憶するカーナビゲーションシステムが設けられており、
当該カーナビゲーションシステムに記憶されたデータに基づき、前記ハイブリッド車両の走行状況を予測する予測手段をさらに備え、
当該予測されたハイブリッド車両の走行状況に応じて、前記変速段の選択を行うことを特徴とする、請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項8】
内燃機関と、発電可能な電動機と、当該電動機との間で電力の授受が可能な蓄電器と、前記内燃機関の機関出力軸および前記電動機からの動力を第1入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な第1変速機構と、前記機関出力軸からの動力を第2入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で前記駆動輪に伝達可能な第2変速機構と、前記機関出力軸と前記第1変速機構との間を係合可能な第1クラッチと、前記機関出力軸と前記第2変速機構との間を係合可能な第2クラッチとを有するハイブリッド車両の制御方法において、
前記ハイブリッド車両の速度および前記変速段から、前記内燃機関の目標駆動力を当該内燃機関の燃料消費が最小になる最適点に設定し、
前記電動機単体の効率および前記蓄電器の充放電効率を用いて、前記電動機の効率を算出し、
前記内燃機関の目標駆動力を、前記算出された前記電動機の効率に応じて、前記最適点から移動し、
当該移動された内燃機関の目標駆動力が得られるように、前記内燃機関の動作を制御し、
前記駆動輪に要求される要求駆動力と前記移動された前記内燃機関の目標駆動力との差分を前記電動機による力行/回生によって補充/吸収するように、前記電動機の動作を制御することを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。
【請求項9】
内燃機関と、発電可能な電動機と、当該電動機との間で電力の授受が可能な蓄電器と、前記内燃機関の機関出力軸および前記電動機からの動力を第1入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な第1変速機構と、前記機関出力軸からの動力を第2入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で前記駆動輪に伝達可能な第2変速機構と、前記機関出力軸と前記第1変速機構との間を係合可能な第1クラッチと、前記機関出力軸と前記第2変速機構との間を係合可能な第2クラッチとを有するハイブリッド車両の制御装置において、
前記ハイブリッド車両の速度および前記内燃機関の変速段から、当該内燃機関の目標駆動力を当該内燃機関の燃料消費が最小になる最適点に設定する内燃機関目標駆動力設定手段と、
前記ハイブリッド車両の速度および前記電動機の変速段から、当該電動機の目標駆動力を当該電動機の効率が最大になる最適点に設定する電動機目標駆動力設定手段と、
前記内燃機関の目標駆動力を、前記駆動輪に要求される要求駆動力および前記設定された電動機の目標駆動力に基づいて、前記最適点から移動する目標駆動力移動手段と、
当該移動された内燃機関の目標駆動力が得られるように、前記内燃機関の動作を制御する内燃機関制御手段と、
前記電動機の目標駆動力を力行/回生によって補充/吸収するように、前記電動機の動作を制御する電動機制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項10】
内燃機関と、発電可能な電動機と、当該電動機との間で電力の授受が可能な蓄電器と、前記内燃機関の機関出力軸および前記電動機からの動力を第1入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な第1変速機構と、前記機関出力軸からの動力を第2入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で前記駆動輪に伝達可能な第2変速機構と、前記機関出力軸と前記第1変速機構との間を係合可能な第1クラッチと、前記機関出力軸と前記第2変速機構との間を係合可能な第2クラッチとを有するハイブリッド車両の制御方法において、
前記ハイブリッド車両の速度および前記内燃機関の変速段から、当該内燃機関の目標駆動力を当該内燃機関の燃料消費が最小になる最適点に設定し、
前記ハイブリッド車両の速度および前記電動機の変速段から、前記電動機の目標駆動力を当該電動機の効率が最大になる最適点に設定し、
前記内燃機関の目標駆動力を、前記駆動輪に要求される要求駆動力および前記設定された電動機の目標駆動力に基づいて、前記最適点から移動し、
当該移動された内燃機関の目標駆動力が得られるように、前記内燃機関の動作を制御し、
前記電動機の目標駆動力を力行/回生によって補充/吸収するように、前記電動機の動作を制御することを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−52801(P2013−52801A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193022(P2011−193022)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】