説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】内燃機関のHCCI運転からSI運転への切換中、内燃機関の安定した燃焼状態を維持することができるとともに、内燃機関の出力の変動を抑制しながら、要求出力に見合った出力を確保することができるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】このハイブリッド車両Vの制御装置1は、内燃機関3のHCCI運転からSI運転への切換中、筒内燃料射弁12から噴射される燃料量QINJDを一定に維持した状態で、ポート燃料噴射弁11から噴射される燃料量QINJPを値0まで漸減させることによって、内燃機関3の出力TRQ_ENGを漸減させる。また、SI運転への切換中、算出された要求出力TRQ_ALLと低減された内燃機関3の出力との差分を、回転機の出力TRQ_MOTとして設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関および回転機を動力源とするハイブリッド車両の制御装置に関し、特に、内燃機関のHCCI運転からSI運転への切換中に内燃機関および回転機の出力を制御するハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この制御装置では、車速およびアクセル開度に基づいて、内燃機関およびモータの双方から発生すべきトルクの和を駆動トルクとして算出する。また、内燃機関のHCCI運転からSI運転への切換中には、駆動トルクに応じて、内燃機関およびモータを以下のように制御する。まず、燃料噴射を行うことによって、内燃機関を運転するとともに、モータによって内燃機関の回転数を一定に制御する。このときに内燃機関から発生するエンジントルクを検出し、このエンジントルクのうち、駆動トルクとして寄与するトルク分を算出する。そして、駆動トルクからこのトルク分を減算した値をモータから発生すべきモータトルクとして設定し、このモータトルクに基づいてモータを制御する。以上により、SI運転への切換中には、駆動トルクに対するエンジントルクの不足分がモータトルクによって補われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3931744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、従来の制御装置では、SI運転への切換中、内燃機関に燃料が噴射される。このため、SI運転への切換中に駆動トルクが急激に変化した場合、燃料量が多いと、それに伴って燃焼状態も大きく変化することがあり、その場合、エンジントルク、ひいては駆動トルクが大きく変動してしまう。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、内燃機関のHCCI運転からSI運転への切換中、内燃機関の安定した燃焼状態を維持することができるとともに、内燃機関の出力の変動を抑制しながら、要求出力に見合った出力を確保することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、混合気を圧縮着火によって燃焼させるHCCI運転と混合気を火花点火によって燃焼させるSI運転に切り換えて運転される内燃機関3と、回転機(実施形態における(以下、本項において同じ)電気モータ4)とを動力源として備えたハイブリッド車両Vの制御装置1であって、内燃機関3の気筒C内に直接、燃料を噴射するための筒内燃料噴射弁12と、吸気通路9に燃料を噴射するためのポート燃料噴射弁11と、ハイブリッド車両Vに要求されている要求出力(全要求トルクTRQ_ALL)を算出する要求出力算出手段(ECU2、図3のステップ1)と、内燃機関3のHCCI運転からSI運転への切換中、筒内燃料射弁12から噴射される燃料量(筒内燃料噴射量QINJD)を一定に維持した状態で、ポート燃料噴射弁11から噴射される燃料量(ポート燃料噴射量QINJP)を値0まで漸減させることによって、内燃機関3の出力(エンジントルクTRQ_ENG)を漸減させる機関出力漸減手段(ECU2、図7のステップ41〜45)と、SI運転への切換中、算出された要求出力と機関出力漸減手段によって低減された内燃機関3の出力との差分を、回転機の出力(モータトルクTRQ_MOT)として設定する回転機出力設定手段(ECU2、図7のステップ48,49)と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このハイブリッド車両の制御装置によれば、内燃機関のHCCI運転からSI運転への切換中、筒内燃料噴射弁から噴射される燃料量(以下「筒内燃料噴射量」という)を一定に維持した状態で、ポート燃料噴射弁から噴射される燃料量(以下「ポート燃料噴射量」という)を漸減させる。これにより、筒内燃料噴射量およびポート燃料噴射量の急激な変化による燃焼状態の急激な変化を回避することができ、内燃機関の安定した燃焼状態を維持することができる。また、ポート燃料噴射量を漸減させることによって、内燃機関が実際に発生する出力も漸減される。このように、内燃機関のSI運転への切換中、内燃機関の出力を小さくすることによって、切換の終了時における内燃機関の出力の変動を抑制することができる。
【0008】
また、SI運転への切換中、ポート燃料噴射量を値0まで漸減させるので、切換の終了時にはポート燃料噴射量が値0になり、燃料は、筒内燃料噴射弁のみから噴射される。一般に、筒内燃料噴射弁から燃料が噴射された場合の燃焼温度は、ポート燃料噴射弁から噴射された場合よりも高い。このため、筒内燃料噴射弁からの燃料の燃焼によって比較的高い気筒内の温度を確保できるので、SI運転の開始時から、高い燃焼効率を得ることができる。また、例えば筒内燃料噴射量を小さな値に設定することによって、SI運転への切換中の燃焼状態の変化を抑制することができる結果、内燃機関の出力の変動を最小限に留めることができる。
【0009】
さらに、SI運転への切換中には、ハイブリッド車両に要求されている要求出力と、そのときの内燃機関の出力との差分を回転機の出力として設定するので、内燃機関の出力の低減による不足分を回転機の出力によって過不足なく補うことができる。これにより、要求出力に見合った出力を確保でき、良好なドライバビリティを維持することができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のハイブリッド車両Vの制御装置1において、内燃機関3がSI運転に切り換えられた後、要求出力が増加したときに、ポート燃料噴射弁11から噴射される燃料量を漸増させることによって、内燃機関3の出力を漸増させる機関出力漸増手段(ECU2、図8のステップ52)と、をさらに備え、回転機出力設定手段は、内燃機関3がSI運転に切り換えられた後、要求出力と機関出力漸増手段によって増加された内燃機関3の出力との差分を、回転機の出力として設定することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、内燃機関がHCCI運転からSI運転に切り換えられた後、要求出力が増加したときに、ポート燃料噴射量を漸増させることによって、内燃機関の出力を漸増させる。また、ハイブリッド車両に要求されている要求出力と、そのときの内燃機関の出力との差分を回転機の出力として設定する。これにより、内燃機関の出力が徐々に増加するのに伴って、回転機の出力が徐々に減少されるので、要求出力に見合った出力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用したハイブリッド車両の構成を概略的に示す図である。
【図2】図1の内燃機関の構成を概略的に示す図である。
【図3】トルク制御処理を示すフローチャートである。
【図4】車両に要求される全要求トルクの算出処理を示すサブルーチンである。
【図5】切換状態フラグの設定処理を示すサブルーチンである。
【図6】図5の処理で用いられるマップの一例を示す図である。
【図7】切換中のトルク制御処理を示すサブルーチンである。
【図8】切換後のトルク制御処理を示すサブルーチンである。
【図9】図3の処理によって得られる動作の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態の制御装置1が適用されたハイブリッド車両(以下「車両」という)Vは、動力源として、内燃機関(以下「エンジン」という)3および電気モータ4を備えている。制御装置1は、これらのエンジン3および電気モータ4の出力、すなわちトルクを制御するものであり、ECU2を備えている。
【0014】
この車両Vでは、エンジン3のクランクシャフト3aが電気モータ4の回転軸に直結されるとともに、電気モータ4が、クラッチ5、自動変速機6および差動ギヤ機構7などを介して、左右の駆動輪8,8に連結されている。クラッチ5は、電磁クラッチタイプのものであり、その締結・遮断状態は、ECU2からの制御信号によって制御される。
【0015】
また、自動変速機6は、ベルト式の無段変速機で構成されており、ECU2に接続されたCVTアクチュエータ(図示せず)を備えている。自動変速機6の変速比は、ECU2からの制御信号によってCVTアクチュエータが駆動されることにより、制御される。以上の構成により、クラッチ5が締結されている場合、エンジン3や電気モータ4の出力が自動変速機6を介して駆動輪8,8に伝達される。
【0016】
エンジン3は、ガソリンエンジンであり、例えば4つの気筒C(図2に1つのみ図示)を有している。図2に示すように、エンジン3のシリンダヘッド3bには、吸気通路9および排気通路10が接続されるとともに、筒内燃料噴射弁12および点火プラグ13(図1参照)が、燃焼室3cに臨むように取り付けられている。筒内燃料噴射弁12は、燃焼室3c内に燃料を直接、噴射する。筒内燃料噴射弁12から噴射される燃料噴射量(以下「筒内燃料噴射量」という)QINJDは、ECU2からの制御信号によって制御される。点火プラグ13の点火時期もまた、ECU2からの制御信号によって制御される。
【0017】
また、エンジン3には、気筒Cごとに筒内燃料噴射弁12に加え、ポート燃料噴射弁11が設けられている。各ポート燃料噴射弁11は、吸気通路9に臨むように設けられ、吸気ポート(図示せず)に向かって燃料を噴射する。このポート燃料噴射弁11から噴射される燃料量(以下「ポート燃料噴射量」という)QINJPもまた、ECU2からの制御信号によって制御される。
【0018】
エンジン3は、ポート燃料噴射弁11および筒内燃料噴射弁12から噴射された燃料を含む混合気を、圧縮着火によって燃焼させるHCCI運転と、点火プラグ13による火花点火によって燃焼させるSI運転に切り換えて運転され、その切換は、ECU2によって制御される。
【0019】
電気モータ4は、ブラシレスDCモータで構成されており、PDU15を介して、ECU2およびバッテリ16に接続されている。PDU15は、インバータなどを含む電気回路で構成されている。ECU2は、PDU15を介して、電気モータ4とバッテリ16との間の電力の授受を制御する。具体的には、車両Vの加速走行中などに、電気モータ4の出力を制御するとともに、車両Vの減速走行中などに、電気モータ4による電力回生を制御する。
【0020】
エンジン3のクランクシャフト3aには、クランク角センサ21が設けられている。クランク角センサ21は、クランクシャフト3aの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
【0021】
CRK信号は、所定クランク角(例えば30°)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、いずれかの気筒Cにおいてピストン3dが吸気行程の開始時の上死点よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、本実施形態のようにエンジン3が4気筒の場合には、クランク角180゜ごとに出力される。
【0022】
エンジン3の本体には、水温センサ22が設けられている。水温センサ22は、エンジン3のシリンダブロック(図示せず)内を循環する冷却水の温度(以下「エンジン水温」という)TWを検出し、それを表す検出信号をECU2に出力する。
【0023】
また、ECU2には、アクセル開度センサ23から、車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が、車速センサ24から車速VPを表す検出信号が、それぞれ出力される。
【0024】
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、前述した各種のセンサ21〜24の検出信号などに応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、判別した運転状態に応じて、車両Vのトルク制御処理などの各種の制御処理を実行する。なお、本実施形態では、ECU2が、要求出力算出手段、機関出力漸減手段、回転機出力設定手段および機関出力漸増手段に相当する。
【0025】
図3は、上述したトルク制御処理を示すフローチャートである。本処理は、TDC信号の発生に同期して実行される。本処理では、まずステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、車両Vに要求される全要求トルクTRQ_ALLを算出する。
【0026】
図4は、この全要求トルクTRQ_ALLの算出処理のサブルーチンを示している。本処理では、まずステップ11において、運転者から要求されているトルクである運転者要求トルクTRQ_DRVを算出する。この運転者要求トルクTRQ_DRVの算出は、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、行われる。
【0027】
次に、エアコン(図示せず)などの補機の運転状態に応じ、補機を駆動するのに必要な補機要求トルクTRQ_ACSYを算出する(ステップ12)。そして、運転者要求トルクTRQ_DRVに補機要求トルクTRQ_ACSYを加算する(=TRQ_DRV+TRQ_ACSY)ことによって、全要求トルクTRQ_ALLを算出し(ステップ13)、本処理を終了する。
【0028】
図3に戻り、前記ステップ1に続くステップ2および3では、切換状態フラグF_STSがそれぞれ「1」および「2」であるか否かを判別する。
【0029】
この切換状態フラグF_STSは、エンジン3が、SI運転への切換中、この切換の終了直後、またはそれ以外のいずれかの状態にあるかを表すものであり、図5に示す設定処理によって設定される。本処理では、まずステップ21において、SI運転フラグF_SIが「1」であるか否かを判別する。このSI運転フラグF_SIは、SI運転の実行条件が成立しているときに「1」にセットされるものである。この実行条件は、エンジン水温TWが所定温度以上で、かつエンジン回転数NEおよびエンジン3から発生するエンジントルクTRQ_ENGが、図6に示すSI運転領域にあるときに、成立しているとみなされる。
【0030】
このステップ21の判別結果がNOで、エンジン3のSI運転の実行条件が成立していないときには、切換状態フラグF_STSを「0」にセットした(ステップ22)後、本処理を終了する。
【0031】
一方、ステップ21の判別結果がYESのときには、前記ステップ13で算出した全要求トルクTRQ_ALLが所定の第1トルクTRQREF1以下であるか否かを判別する(ステップ23)。
【0032】
この判別結果がYESのときには、SI運転への切換中であるとして、そのことを表すために、切換状態フラグを「1」にセットし(ステップ24)、本処理を終了する。
【0033】
一方、ステップ23の判別結果がNOのときには、全要求トルクTRQ_ALLが第1トルクTRQREF1よりも大きな所定の第2トルクTRQREF2以下であるか否かを判別する(ステップ25)。この判別結果がYESで、TRQREF1<TRQ_ALL≦TRQREF2のときには、SI運転への切換が終了し、その直後であるとして、そのことを表すために、切換状態フラグF_STSを「2」にセットし(ステップ26)、本処理を終了する。
【0034】
また、前記ステップ25の判別結果がNOのときには、SI運転への切換が完全に終了したとして、前記ステップ22に進み、切換状態フラグF_STSを「0」にセットし、本処理を終了する。
【0035】
以上のように、切換状態フラグF_STSは、全要求トルクTRQ_ALLに応じて、SI運転への切換中に「1」にセットされ、SI運転への切換直後に「2」にセットされ、それ以外のときに「0」にセットされる。
【0036】
図3に戻り、前記ステップ2および3の判別結果がいずれもNOで、切換状態フラグF_STSが「1」および「2」のいずれでもないときには、通常のトルク制御を実行し(ステップ4)、本処理を終了する。
【0037】
この通常のトルク制御は、以下のようにして行われる。まず、エンジン回転数NE、アクセル開度APおよび車速VPに応じて、トルク分配係数を算出する。次に、全要求トルクTRQ_ALLにトルク分配係数を乗算することによって、エンジントルクTRQ_ENGを算出し、このエンジントルクTRQ_ENGおよびエンジン回転数NEに応じて、燃料噴射量を算出する。この燃料噴射量に基づいて、ポート燃料噴射弁11および筒内燃料噴射弁12からそれぞれ噴射すべきポート燃料噴射量QINJPおよび筒内燃料噴射量QINJDを制御する。
【0038】
より具体的には、HCCI運転時には、筒内燃料噴射量QINJDを所定量に設定し、上記の燃料噴射量から筒内燃料噴射量QINJDを減算した値をポート燃料噴射量QINJPとして設定する。一方、SI運転時には、燃料噴射量をポート燃料噴射量QINJPとして設定する。そして、全要求トルクTRQ_ALLからエンジントルクTRQ_ENGを減算した値を、電気モータ4が発生すべきトルクであるモータトルクTRQ_MOTとして算出し、このモータトルクTRQ_MOTが得られるように電気モータ4を制御する。以上により、エンジントルクTRQ_ENGとモータトルクTRQ_MOTとの和が全要求トルクTRQ_ALLになるように制御される。
【0039】
一方、前記ステップ2の判別結果がYESで、切換状態フラグF_STS=1のときには、切換中のトルク制御を実行した(ステップ5)後、本処理を終了する。この切換中のトルク制御処理については後述する。
【0040】
また、ステップ3の判別結果がYESで、切換状態フラグF_STS=2のときには、切換後のトルク制御を実行した(ステップ6)後、本処理を終了する。この切換後のトルク制御処理については後述する。
【0041】
図7は、切換中のトルク制御処理のサブルーチンである。本処理では、まずステップ41において、筒内燃料噴射量QINJDを基準量QREFに設定する。次に、この筒内燃料噴射量QINJDに基づいて、筒内燃料噴射弁12を駆動する(ステップ42)ことにより、筒内燃料噴射量QINJDに相当する量の燃料を気筒C内に噴射する。なお、上記基準量QREFは、気筒C内での燃焼を確保することが可能な一定の最小値に設定されており、その燃焼によるエンジントルクはほとんど生じない。
【0042】
また、前回までのポート燃料噴射量QINJPから第1所定量Q1を減算した値を、今回のポート燃料噴射量QINJPとして設定する(ステップ43)。次に、このポート燃料噴射量QINJPが値0よりも大きいか否かを判別する(ステップ44)。この判別結果がYESのときには、ステップ43で算出したポート燃料噴射量QINJPに基づいて、ポート燃料噴射弁11を駆動し(ステップ45)、ステップ48に進む。
【0043】
一方、ステップ44の判別結果がNOで、QINJP≦0のときには、ポート燃料噴射量QINJPを値0に設定し(ステップ46)、ポート燃料噴射弁11による燃料噴射を停止した(ステップ47)後、ステップ48に進む。
【0044】
このステップ48では、エンジン回転数NE、筒内燃料噴射量QINJDおよびポート燃料噴射量QINJPに応じて、エンジントルクTRQ_ENGを算出する。
【0045】
次に、全要求トルクTRQ_ALLとエンジントルクTRQ_ENGとの差分(=TRQ_ALL−TRQ_ENG)を、モータトルクTRQ_MOTとして設定し(ステップ49)、このモータトルクTRQ_MOTに基づいて、電気モータ4を駆動した(ステップ50)後、本処理を終了する。
【0046】
図8は、前述した切換後のトルク制御処理のサブルーチンである。本処理では、まずステップ51において、筒内燃料噴射弁12による燃料噴射を停止する。
【0047】
次に、前回までのポート燃料噴射量QINJPに第2所定量Q2を加算した値を、今回のポート燃料噴射量QINJPとして設定する(ステップ52)。次いで、このポート燃料噴射量QINJPに基づいて、ポート燃料噴射弁11を駆動する(ステップ53)。
【0048】
また、エンジン回転数NEおよびポート燃料噴射量QINJPに応じて、エンジントルクTRQ_ENGを算出する(ステップ54)。
【0049】
次に、全要求トルクTRQ_ALLとエンジントルクTRQ_ENGとの差分(=TRQ_ALL−TRQ_ENG)を、モータトルクTRQ_MOTとして設定し(ステップ55)、このモータトルクTRQ_MOTに基づいて、電気モータ4を駆動し(ステップ56)、本処理を終了する。
【0050】
図9は、これまでに説明したトルク制御処理によって得られる動作例を示している。この例では、タイミングt1以前では、エンジン3がHCCI運転で運転されている。この状態から、SI運転の実行条件が成立すると(t1)、このときの全要求トルクTRQ_ALLが第1トルクTRQREF1以下のときには、SI運転への切換中であるとして、切換状態フラグF_STSが「1」にセットされる。SI運転への切換中には、筒内燃料噴射量QINJDが基準量QREFに維持される(ステップ41)とともに、ポート燃料噴射量QINJPが第1所定量Q1ずつ漸減される(ステップ43)。このポート燃料噴射量QINJPの漸減に伴って、エンジントルクTRQ_ENGも徐々に減少する。また、全要求トルクTRQ_ALLとそのときのエンジントルクTRQ_ENGとの差分がモータトルクTRQ_MOTとして算出され(ステップ49)、このモータトルクTRQ_MOTに基づいて、電気モータ4を駆動する。これにより、モータトルクTRQ_MOTが徐々に増加し、エンジントルクTRQ_ENGとモータトルクTRQMOTとの和が全要求トルクTRQ_ALLになるように制御される。以上のように、SI運転への切換中には、全要求トルクTRQ_ALLに対するエンジントルクTRQ_ENGの不足分がモータトルクTRQ_MOTによって補われる。
【0051】
ポート燃料噴射量QINJPが減少し、値0になると(t2、ステップ44,46)、ポート燃料噴射弁11からの燃料噴射が停止され、燃料は、筒内燃料噴射弁12のみから噴射され、エンジントルクTRQ_ENGは一定に維持される。また、全要求トルクTRQ_ALLの増加に伴うエンジントルクTRQ_ENGの不足分は、モータトルクTRQ_MOTが増加することによって、補われる。
【0052】
全要求トルクTRQ_ALLが増加し、第1トルクTRQREF1を超えると(t3)、SI運転への切換が終了し、その直後であるとして、切換状態フラグF_STSが「2」にセットされる。これにより、ステップ3の判別結果がYESになり、筒内燃料噴射弁12からの燃料噴射が停止され、燃料は、ポート燃料噴射弁11のみから噴射される。ポート燃料噴射量QINJPは、第2所定量Q2ずつ漸増され(ステップ52)、それに伴ってエンジントルクTRQ_ENGも徐々に増加する。また、全要求トルクTRQ_ALLとそのときのエンジントルクTRQ_ENGとの差分をモータトルクTRQ_MOTとして算出し、それに基づいて電気モータ4を駆動する。これにより、エンジントルクTRQ_ENGの漸増に伴って、モータトルクTRQ_MOTが漸減される。
【0053】
その後、全要求トルクTRQ_ALLがさらに増加し、第2トルクTRQREF2を超えると(t4)、SI運転への切換が完全に終了したとして、切換状態フラグF_STSが「0」にリセットされることによって、通常制御が行われる。
【0054】
以上のように、本実施形態によれば、エンジン3のHCCI運転からSI運転への切換中、筒内燃料噴射量QINJDを一定に維持した状態で、ポート燃料噴射量QINJPを漸減させる。このため、筒内燃料噴射量QINJDおよびポート燃料噴射量QINJPの急激な変化による燃焼状態の急激な変化を回避することができ、エンジン3の安定した燃焼状態を維持することができる。また、ポート燃料噴射量QINJPを漸減させることによって、エンジントルクTRQ_ENGを小さくすることができ、切換の終了時におけるエンジントルクTRQ_ENGの変動を抑制することができる。
【0055】
また、SI運転への切換中、ポート燃料噴射量QINJPを値0まで漸減させるので、筒内燃料噴射弁12からの燃料の燃焼によって比較的高い気筒C内の温度を確保でき、SI運転の開始時から、高い燃焼効率を得ることができる。また、筒内燃料噴射量QINJDを小さな基準量QREFに設定するので、SI運転への切換中の燃焼状態の変化を抑制することができる結果、エンジントルクTRQ_ENGの変動を最小限に留めることができる。
【0056】
さらに、SI運転への切換中には、全要求トルクTRQ_ALLとそのときのエンジントルクTRQ_ENGとの差分をモータトルクTRQ_MOTとして設定するので、エンジントルクTRQ_ENGの低減による不足分をモータトルクTRQ_MOTによって過不足なく補うことができる。その結果、全要求トルクTRQ_ALLに見合ったトルクを確保でき、それにより、良好なドライバビリティを維持することができる。
【0057】
また、エンジン3がHCCI運転からSI運転に切り換えられた後、全要求トルクTRQ_ALLが増加したときに、ポート燃料噴射量QINJPを漸増させることによって、エンジントルクTRQ_ENGを漸増させる。また、全要求トルクTRQ_ALLそのときのエンジントルクTRQ_ENGとの差分をモータトルクTRQ_MOTとして設定する。これにより、エンジントルクTRQ_ENGが徐々に増加するのに伴って、モータトルクTRQ_MOTが徐々に減少されるので、全要求トルクTRQ_ALLに見合ったトルクを確保することができる。
【0058】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、SI運転への切換中、筒内燃料噴射量QINJDを所定の基準量QREFに設定しているが、切換中にエンジントルクTRQ_ENGが一定に維持されていればよく、例えば筒内燃料噴射量を、SI運転の実行条件が成立したときのエンジン回転数などに応じて設定してもよい。
【0059】
また、実施形態は、回転機としてブラシレスDCモータタイプの電気モータ4を用いた例であるが、本発明の回転機はこれに限らず、力行制御および電力回生制御の双方を実行できるものであればよい。例えば、回転機として、ブラシ付きのDCモータを用いてもよい。
【0060】
さらに、実施形態は、本発明を車両に搭載されたガソリンエンジンに適用した例であるが、本発明は、これに限らず、ガソリンエンジン以外のディーゼルエンジンなどの各種のエンジンに適用してもよく、また、車両用以外のエンジン、例えば、クランク軸を鉛直に配置した船外機などのような船舶推進機用エンジンにも適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 制御装置
2 ECU(要求出力算出手段、機関出力漸減手段、回転機出力設定手段および機関出
力漸減手段)
3 エンジン
4 電気モータ(回転機)
9 吸気通路
11 ポート燃料噴射弁
12 筒内燃料噴射弁
C 気筒
V ハイブリッド車両
TRQ_ALL 全要求トルク(要求出力)
TRQ_ENG エンジントルク(内燃機関の出力)
TRQ_MOT モータトルク(回転機の出力)
QINJD 筒内燃料噴射量(筒内燃料噴射弁から噴射される燃料量)
QINJP ポート燃料噴射量(ポート燃料噴射弁から噴射される燃料量)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合気を圧縮着火によって燃焼させるHCCI運転と混合気を火花点火によって燃焼させるSI運転に切り換えて運転される内燃機関と、回転機とを動力源として備えたハイブリッド車両の制御装置であって、
前記内燃機関の気筒内に直接、燃料を噴射するための筒内燃料噴射弁と、
吸気通路に燃料を噴射するためのポート燃料噴射弁と、
前記ハイブリッド車両に要求されている要求出力を算出する要求出力算出手段と、
前記内燃機関の前記HCCI運転から前記SI運転への切換中、前記筒内燃料射弁から噴射される燃料量を一定に維持した状態で、前記ポート燃料噴射弁から噴射される燃料量を値0まで漸減させることによって、前記内燃機関の出力を漸減させる機関出力漸減手段と、
前記SI運転への切換中、前記算出された要求出力と前記機関出力漸減手段によって低減された前記内燃機関の出力との差分を、前記回転機の出力として設定する回転機出力設定手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関が前記SI運転に切り換えられた後、前記要求出力が増加したときに、前記ポート燃料噴射弁から噴射される燃料量を漸増させることによって、前記内燃機関の出力を漸増させる機関出力漸増手段と、をさらに備え、
前記回転機出力設定手段は、前記内燃機関が前記SI運転に切り換えられた後、前記要求出力と前記機関出力漸増手段によって増加された前記内燃機関の出力との差分を、前記回転機の出力として設定することを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−189813(P2011−189813A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56760(P2010−56760)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】