説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】ハイブリッド車両の燃費の向上を図る。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置は、ハイブリッド車両がEV走行モードで走行している場合において、要求駆動力が所定の閾値になったときに、内燃機関をクランキングするように第1回転電機を制御する始動手段と、内燃機関の停止中にクランク位置を検出するクランク位置検出手段と、内燃機関がクランキングされる前に、検出されたクランク位置に基づいて、クランク位置が目標クランク位置となるように第1回転電機を制御するクランク位置制御手段とを備える。更に、検出されたクランク位置に基づいて内燃機関の始動に要する始動時間を推定し、該推定した始動時間に応じて、内燃機関の始動完了時にバッテリから第1及び第2回転電機に供給される電力がバッテリの出力制限に近づくように、所定の閾値を変更する閾値変更手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のハイブリッド車両は、動力源としてエンジン及びモータを備え、走行モードとして、モータからの動力のみにより走行するEV(Electric Vehicle)走行モードと、エンジン及びモータの両方の動力により走行するHV(Hybrid Vehicle)走行モードとを有する(例えば特許文献1参照)。
【0003】
例えば特許文献1には、ハイブリッド車両の目標駆動トルク(或いは要求駆動力)がクランキング要求判定閾値より大きくなったら、エンジンのクランキングを行い、かつ、クランキング後に目標駆動トルクがエンジン始動要求判定値より大きくなったら、エンジンを始動させることが開示されている。更に、特許文献1には、アクセル開度の変化量が小さいほど、エンジン始動要求判定値を大きくすることが開示されている。また、例えば特許文献2には、ハイブリッド車両において、エンジンの始動時間を計測し、この計測された始動時間が所定のしきい値以上であったときに、エンジンの停止を禁止することが開示されている。更に、特許文献2には、エンジン水温やトルコン油温に基づいてフリクションを推定し、この推定されたフリクションの大きさに応じて所定のしきい値を変更することが開示されている。
【0004】
他方、この種のハイブリッド車両では、エンジンの始動時に発生する振動を低減するために、エンジンのクランキングを行う前に、エンジンのクランクシャフトのクランク位置(即ち、クランク角)が、振動を低減可能な目標クランク位置となるようにクランクシャフトを制御するクランク位置制御が行われる場合がある。
【0005】
このようなクランク位置制御では、クランク位置制御を行う前のクランク位置(以下「始動前クランク位置」と適宜称する)と目標クランク位置との差によって、クランク位置を目標クランク位置とするのに要する時間が異なる。よって、エンジンの始動に要するエンジン始動時間は、始動前クランク位置によって異なる。このため、要求駆動力が所定の閾値(例えば前述したクランキング要求判定閾値)よりも大きくなったらエンジンを始動させる制御を行う場合、所定の閾値は、例えば、EV走行用のモータやクランキング用のモータに電力を供給するバッテリの出力電力が出力制限を超えないように、エンジン始動時間が最も長くなる始動クランク位置に応じた一定の値に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−149783号公報
【特許文献2】特開2001−159347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述したような、所定の閾値が、エンジン始動時間が最も長くなる始動クランク位置に応じた一定の値に設定される場合、始動クランク位置によっては、エンジン始動時間が短いため、バッテリの余剰電力が比較的大きい状態で、エンジンの始動が完了してしまうおそれがある。この結果、EV走行モードからHV走行モードへの切り替えが早期に行われてしまい、燃費の向上を図ることが困難になってしまうという技術的問題点がある。
【0008】
本発明は、例えば前述した問題点に鑑みなされたものであり、燃費の向上を図ることが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は上記課題を解決するために、内燃機関と、前記内燃機関をクランキング可能な第1回転電機と、第2回転電機と、前記第1及び第2回転電機に電力を供給するバッテリとを備え、走行モードとして、前記内燃機関が停止した状態で前記第2回転電機からの動力により走行するEV走行モードと、前記内燃機関及び前記第2回転電機からの動力により走行するHV走行モードとを有するハイブリッド車両を制御するハイブリッド車両の制御装置であって、前記ハイブリッド車両が前記EV走行モードで走行している場合において、前記ハイブリッド車両に要求される要求駆動力が所定の閾値になったときに、前記内燃機関をクランキングするように前記第1回転電機を制御することにより前記内燃機関を始動させる始動手段と、前記内燃機関の停止中に前記内燃機関のクランク位置を検出するクランク位置検出手段と、前記内燃機関がクランキングされる前に、前記検出されたクランク位置に基づいて、前記内燃機関のクランク位置が目標クランク位置となるように前記第1回転電機を制御するクランク位置制御手段と、前記検出されたクランク位置に基づいて前記内燃機関の始動に要する始動時間を推定し、該推定した始動時間に応じて、前記内燃機関の始動完了時に前記バッテリから前記第1及び第2回転電機に供給される電力が前記バッテリの出力制限に近づくように、前記所定の閾値を変更する閾値変更手段とを備える。
【0010】
本発明に係るハイブリッド車両は、走行モードとして、内燃機関が停止した状態で第2回転電機からの動力により走行するEV走行モードと、内燃機関及び第2回転電機からの動力により走行するHV走行モードとを有している。本発明に係るハイブリッド車両では、内燃機関を始動させる際、第1回転電機により内燃機関のクランキングが行われる。バッテリは、例えば二次電池(蓄電池)であり、第1及び第2回転電機に電力を供給する。
【0011】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、始動手段は、ハイブリッド車両がEV走行モードで走行している場合において、例えばハイブリッド車両の加速時に、ハイブリッド車両に要求される要求駆動力が所定の閾値になったときに、内燃機関をクランキングするように第1回転電機を制御することにより内燃機関を始動させる。本発明に係る「所定の閾値」は、内燃機関の始動を開始すべき要求駆動力の値として、例えば第2回転電機が出力可能な動力、バッテリの出力制限などを考慮して設定される。尚、後述するように、本発明では特に、所定の閾値は閾値変更手段によって変更される。
【0012】
本発明では、内燃機関の停止中に内燃機関のクランク位置(即ち、内燃機関のクランクシャフトのクランク角)がクランク位置検出手段によって検出される。ここで、本発明に係る「内燃機関の停止中」とは、内燃機関が動力を出力しておらず、内燃機関のクランクシャフトの回転が停止された状態を意味する。
【0013】
更に、本発明では、内燃機関がクランキングされる前に、クランク位置検出手段によって検出されたクランク位置に基づいて、内燃機関のクランク位置が目標クランク位置となるように第1回転電機がクランク位置制御手段によって制御される。ここで、本発明に係る「目標クランク位置」とは、内燃機関のクランキング時の振動を低減可能なクランク位置であり、例えば内燃機関の回転数が共振帯を通過する際に発生するフロア振動を抑制可能なクランク位置として予め実験などに基づいて設定される。本発明に係る「目標クランク位置」は、振動を低減可能な一のクランク位置として設定されてもよいし、振動を低減可能なクランク位置の範囲として設定されてもよい。また、本発明に係る「内燃機関がクランキングされる前」とは、内燃機関をクランキングするように第1回転電機が始動手段により制御される前の期間を意味し、典型的には、停止中の内燃機関が第1回転電機によりクランキングされる直前の期間を意味する。
【0014】
即ち、本発明では、ハイブリッド車両がEV走行モードで走行している場合において、例えばハイブリッド車両の加速時に、要求駆動力が所定の閾値になったときには、先ず、内燃機関のクランク位置が目標クランク位置となるように第1回転電機がクランク位置制御手段によって制御され、次に、始動手段によって、内燃機関をクランキングするように第1回転電機が制御され、内燃機関の始動が開始される。
【0015】
本発明では特に、前述した所定の閾値は閾値変更手段によって変更される。閾値変更手段は、クランク位置検出手段によって検出されたクランク位置に基づいて内燃機関の始動に要する始動時間を推定し、該推定した始動時間に応じて、内燃機関の始動完了時にバッテリから第1及び第2回転電機に供給される電力がバッテリの出力制限に近づくように、所定の閾値を変更する。本発明に係る「始動時間」は、要求駆動力が所定の閾値になった時点から内燃機関の始動が完了する時点(即ち、内燃機関が自立して連続回転可能な完爆状態になる時点)までの時間を意味し、クランク位置が目標クランク位置となるように第1回転電機がクランク位置検出手段によって制御される時間、及び内燃機関をクランキングするように第1回転電機が始動手段によって制御される時間を含む。要求駆動力が所定の閾値になってから内燃機関の始動が完了するまでの始動期間中には、クランク位置制御手段及び始動手段の各々によって第1回転電機を動作させるため、バッテリからは第2回転電機に加えて第1回転電機に電力が供給される。また、始動期間中に要求駆動力が増大すると、バッテリから第2回転電機に供給される電力が増大する。
【0016】
ここで仮に、バッテリから第1及び第2回転電機に供給される電力がバッテリの出力制限を超えないように、始動時間が最も長くなる場合(即ち、内燃機関の始動完了時に第1及び第2回転電機を動作させる電力が最も多く必要となる場合)を基準として、所定の閾値を一定の値に設定する場合には、始動時間が短いときに、バッテリの余剰電力が比較的大きい状態で内燃機関の始動が完了してしまう。
【0017】
しかるに本発明では特に、前述したように、閾値変更手段は、クランク位置検出手段によって検出されたクランク位置に基づいて始動時間を推定し、該推定した始動時間に応じて、内燃機関の始動完了時にバッテリから第1及び第2回転電機に供給される電力がバッテリの出力制限に近づくように、所定の閾値を変更する。よって、内燃機関の始動期間中にバッテリから第1及び第2回転電機に供給される電力がバッテリの出力制限を超えないようにしつつ、所定の閾値を、始動時間が比較的短い場合には、比較的大きな値として設定し、始動時間が比較的長い場合には、比較的小さな値として設定することができる。従って、例えば、前述したように所定の閾値を一定の値に設定する場合と比較して、内燃機関から動力を出力させる時間(即ち、ハイブリッド車両がHV走行モードで走行する時間)を短くすることができる、言い換えれば、ハイブリッド車両がEV走行モードで走行する時間を長くすることができる。この結果、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができる。
【0018】
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができる。
【0019】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係るハイブリッド車両の構成を概念的に示す概略構成図である。
【図2】第1実施形態に係るエンジンの一断面構成を例示する模式図である。
【図3】第1実施形態に係る走行モード切り替え時のエンジン始動制御の概略を説明するためのグラフである。
【図4】第1実施形態に係る走行モード切り替え時のエンジン始動制御の流れを示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態に係る、エンジン始動要求パワーを決定するためのマップの一例を概念的に示す図である。
【図6】第1実施形態に係るマップが規定する始動前クランク角とエンジン始動要求パワーとの関係を説明するためのグラフ(その1)である。
【図7】第1実施形態に係るマップが規定する始動前クランク角とエンジン始動要求パワーとの関係を説明するためのグラフ(その2)である。
【図8】比較例に係る走行モード切り替え時のエンジン始動制御を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0022】
<第1実施形態>
第1実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置について、図1から図7を参照して説明する。
【0023】
先ず、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置が適用されたハイブリッド車両の全体構成について、図1を参照して説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係るハイブリッド車両の構成を概念的に示す概略構成図である。
【0025】
図1において、本実施形態に係るハイブリッド車両10は、ECU(Electronic Control Unit)100、エンジン200、モータジェネレータMG1、モータジェネレータMG2、動力分割機構300、PCU(Power Control Unit)400、バッテリ500、車速センサ12、アクセル開度センサ13、減速機構30、車軸40及び車輪50を備えている。
【0026】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、ハイブリッド車両10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットである。ECU100は、例えばROM等に格納された制御プログラムに従って、ハイブリッド車両10における各種制御を実行可能に構成されている。ECU100は、本発明に係る「ハイブリッド車両の制御装置」の一例として機能する。具体的には、ECU100は、本発明に係る「始動手段」、「クランク位置制御手段」及び「閾値変更手段」の各々の一例として機能する。
【0027】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例としてのガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両10の動力源として機能するように構成されている。ここで、図2を参照して、エンジン200の詳細な構成について説明する。
【0028】
図2は、エンジン200の一断面構成を例示する模式図である。尚、本発明に係る「内燃機関」とは、例えば2サイクル又は4サイクルレシプロエンジン等を含み、少なくとも一の気筒を有し、当該気筒内部の燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランクシャフト等の物理的又は機械的な伝達手段を適宜介して駆動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念である。係る概念を満たす限りにおいて、本発明に係る「内燃機関」の構成は、エンジン200のものに限定されず各種の態様を有してよい。
【0029】
図2において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介して、クランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0030】
クランクシャフト205の近傍には、本発明に係る「クランク位置検出手段」の一例としてのクランクポジションセンサ206が設けられている。クランクポジションセンサ206は、クランクシャフト205の回転位置、即ち、クランク角を検出可能に構成されたセンサである。このクランクポジションセンサ206は、ECU100(図1参照)と電気的に接続されており、検出されたクランク角は、ECU100によって一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
【0031】
尚、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図2においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。また、本発明に係る「内燃機関」における気筒数及び各気筒の配列形態は、前述した概念を満たす範囲でエンジン200のものに限定されず多様な態様を採り得、例えば、6気筒、8気筒或いは12気筒エンジンであってもよいし、V型、水平対向型等であってもよい。
【0032】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210を介して吸気バルブ211の開弁時に気筒201内部へ導かれる。一方、吸気ポート210には、インジェクタ212の燃料噴射弁が露出しており、吸気ポート210に対し燃料を噴射することが可能な構成となっている。インジェクタ212から噴射された燃料は、吸気バルブ211の開弁時期に前後して吸入空気と混合され、前述した混合気となる。
【0033】
燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に供給される構成となっている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
【0034】
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節可能なスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルペダルの開度(以下「アクセル開度」と適宜称する)に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバ(運転者)の意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0035】
排気管215には、三元触媒216が設置されている。三元触媒216は、エンジン200から排出される排気中のNOx(窒素酸化物)を還元すると同時に、排気中のCO(一酸化炭素)及びHC(炭化水素)を酸化可能に構成された触媒装置である。尚、触媒装置の採り得る形態は、このような三元触媒に限定されず、例えば三元触媒に代えて或いは加えて、NSR触媒(NOx吸蔵還元触媒)或いは酸化触媒の各種触媒が設置されていてもよい。
【0036】
排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ217が設置されている。更に、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ218が配設されている。これら空燃比センサ217及び水温センサ218は、夫々ECU100と電気的に接続されており、検出された空燃比及び冷却水温は、夫々ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
【0037】
図1に戻り、モータジェネレータMG1は、本発明に係る「第1回転電機」の一例としての電動発電機であり、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを有している。モータジェネレータMG1は、バッテリ500を充電するための発電機或いはモータジェネレータMG2に電力を供給するための発電機、及びエンジン200をクランキングするための電動機として機能するように構成されている。
【0038】
モータジェネレータMG2は、本発明に係る「第2回転電機」の一例としての電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能と有している。モータジェネレータMG2は、主としてエンジン200の出力をアシスト(補助)する電動機として機能するように構成され、デファレンシャル等各種減速ギア装置を含む減速機構30を介して車軸40に動力を伝達することができるように構成されている。車軸40は、ハイブリッド車両10の駆動輪である車輪50に連結されている。
【0039】
尚、前述したモータジェネレータMG1及びMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有するが、他の構成を有していてもよい。
【0040】
PCU400は、バッテリ500から取り出した直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータMG1及びMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ500に供給することが可能に構成されたインバータ等を含み、バッテリ500と各モータジェネレータとの間の電力の入出力を個別に制御することが可能に構成された制御ユニットである。PCU400は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0041】
バッテリ500は、モータジェネレータMG1及びMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な蓄電池である。
【0042】
動力分割機構300は、エンジン200の出力をモータジェネレータMG1及び車軸40に分配することが可能に構成されたプラネタリギア(遊星歯車機構)である。例えば、動力分割機構300は、中心部に設けられた、サンギアと、サンギアの外周に同心円状に設けられたリングギアと、サンギアとリングギアとの間に配置されてサンギアの外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギアと、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するキャリアとを備えている。サンギアは、モータジェネレータMG1のロータに、その回転軸を共有する形で連結されて、その回転数はモータジェネレータMG1の回転数と等価となる。また、リングギアは、減速機構11を介して車軸40に連結され、その回転数は、車軸40の回転数と等価となる。更に、キャリアは、エンジン200のクランクシャフト205に連結され、その回転数は、エンジン200の回転数と等価となる。この場合、動力分割機構300は、相互に差動関係にある複数の回転要素を備えた回転二自由度の遊星歯車機構であり、サンギア、キャリア及びリングギアのうち二要素の回転数が定まった場合に、残余の一回転要素の回転数が必然的に定まる。
【0043】
車速センサ12は、ハイブリッド車両10の車速を検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ12は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速は、ECU100によって一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
【0044】
アクセル開度センサ13、ハイブリッド車両10に備わる不図示のアクセルペダルのアクセル開度を検出可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度は、ECU100により一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
【0045】
次に、ECU100により実行される、走行モード切り替え時のエンジン始動制御の概略について、図3を参照して説明する。
【0046】
図3は、走行モード切り替え時のエンジン始動制御の概略を説明するためのグラフである。
【0047】
図3において、ハイブリッド車両10は、走行モードとして、EV走行モードとHV走行モードとを有している。EV走行モードは、エンジン200が停止した状態でモータジェネレータMG2からの動力により走行する走行モードである。HV走行モードは、エンジン200及びモータジェネレータMG2からの動力により走行する走行モードである。ECU100は、ハイブリッド車両10に要求される要求駆動力(即ち、車軸40に出力すべき駆動力)が比較的低い場合には、走行モードをEV走行モードに設定し、要求駆動力が比較的高い場合には、走行モードをHV走行モードに設定する。図3には、ハイブリッド車両10が停止した状態から加速する際に要求駆動力が経時的に増大し、走行モードがEV走行モードからHV走行モードに切り替えられる例が示されている。ECU100は、アクセル開度センサ13によって検出されるアクセル開度、及び車速センサ12によって検出される車速に基づいて要求駆動力を特定する。
【0048】
ECU100は、ハイブリッド車両10の加速時に要求駆動力が増大し、エンジン始動要求パワーに達した時点t1で、エンジン200を始動させるためのエンジン始動制御を開始する。ここで、エンジン始動要求パワーは、本発明に係る「所定の閾値」の一例であり、エンジン始動制御を開始すべき要求駆動力の値として、例えばモータジェネレータMG2が出力可能な動力、バッテリ500の出力制限Wout(即ち、バッテリ500の放電が許容される電力の最大値)などを考慮してEUC100によって設定される。尚、後述するように、エンジン始動要求パワーは、エンジン200の停止中にクランクポジションセンサ206によって検出されるクランク角と、図5に示すマップMとに基づいてECU100によって決定される。
【0049】
ECU100は、エンジン始動制御として、エンジン200をクランキングするようにモータジェネレータMG1を制御するクランキング制御を行う。更に、本実施形態では、ECU100は、クランキング制御を行う前に、クランクポジションセンサ206によって検出されたクランク角に基づいて、クランクシャフト205のクランク角が目標クランク角となるようにモータジェネレータMG1を制御するクランク角位置合わせ制御を行う。ここで、目標クランク角は、本発明に係る「目標クランク位置」の一例であり、エンジン200の回転数が共振帯を通過する際に発生するフロア振動を抑制可能なクランク角として予め実験などに基づいて設定されている。よって、クランキング制御を行う前に、クランク角位置合わせ制御を行うことにより、エンジン200のクランキング時の振動を低減することができる。
【0050】
即ち、ECU100は、要求駆動力が増大してエンジン始動要求パワーになったときには、エンジン始動制御として、先ず、クランク角位置合わせ制御を行い、次に、クランキング制御を行う。尚、ECU100は、エンジン始動制御として、クランク角位置合わせ制御及びクランキング制御に加えて、燃料噴射制御や点火時期制御も行う。
【0051】
エンジン始動制御によりエンジン200の始動が完了した時点(即ち、エンジン200が自立して連続回転可能な完爆状態となった時点)t2で、ECU100は、走行モードをEV走行モードからHV走行モードに切り替える。
【0052】
前述したように、ECU100は、エンジン始動制御として、クランク角位置合わせ制御及びクランキング制御を行うので、要求駆動力がエンジン始動要求パワーに達した時点t1からエンジン200の始動が完了する時点t2までの時間であるエンジン始動時間には、クランク角位置合わせ制御を行う時間及びクランキング制御を行う時間が含まれる。
【0053】
次に、ECU100により実行される、走行モード切り替え時のエンジン始動制御について、図4から図7を参照して詳細に説明する。尚、以下では、ハイブリッド車両10が停止した状態から加速する際に要求駆動力が経時的に増大し、走行モードがEV走行モードからHV走行モードに切り替えられる場合について説明する。
【0054】
図4は、走行モード切り替え時のエンジン始動制御の流れを示すフローチャートである。
【0055】
図4において、ハイブリッド車両10がEV走行モードで走行中に、先ず、クランク角が検出される(ステップS110)。具体的には、ECU100は、エンジン200の停止中にクランクポジションセンサ206によって検出されたクランクシャフト205のクランク角(以下「始動前クランク角」と適宜称する)を、クランクポジションセンサ206から取得する。
【0056】
次に、ECU100は、図5に示すようなマップMを参照してエンジン始動要求パワーを決定する(ステップS120)。
【0057】
図5は、エンジン始動要求パワーを決定するためのマップの一例を概念的に示す図である。
【0058】
図5において、マップMは、始動前クランク角とエンジン始動要求パワーとの関係を規定するマップである。
【0059】
マップMでは、始動前クランク角が目標クランク角に近いほどエンジン始動要求パワーが大きくなるように(言い換えれば、始動前クランク角が目標クランク角から遠いほどエンジン始動要求パワーが小さくなるように)、始動前クランク角とエンジン始動要求パワーとの関係が規定されている。尚、図5の例では、目標クランク角は、0°ATDC及び180°ATDC(=−180°ATDC)に設定されている。
【0060】
よって、ECU100は、始動前クランク角が目標クランク角に近いほどエンジン始動要求パワーを大きな値として決定し、始動前クランク角が目標クランク角から遠いほどエンジン始動要求パワーを小さな値として決定する。
【0061】
ここで、マップMが規定する始動前クランク角とエンジン始動要求パワーとの関係について、図6及び図7を参照して詳細に説明する。
【0062】
図6及び図7は、マップMが規定する始動前クランク角とエンジン始動要求パワーとの関係を説明するためのグラフである。図6には、始動前クランク角が目標クランク角に比較的近く、エンジン始動時間が比較的短い場合のエンジン始動要求パワーが示されている。図7には、始動前クランク角が目標クランク角から比較的遠く、エンジン始動時間が比較的長い場合のエンジン始動要求パワーが示されている。
【0063】
図5に示したマップMは、図6及び図7に示すように、エンジン200の始動完了時にバッテリ500からモータジェネレータMG1及びMG2に供給される電力(即ち、モータジェネレータMG1がエンジン200をクランキングするのに要する電力であるエンジン始動パワーとモータジェネレータMG2が要求駆動力を出力するのに要する電力との和)がバッテリ500の出力制限Woutに殆ど一致するように、エンジン始動要求パワーを規定している。尚、図6では、エンジン始動時間が時間T1であり、エンジン始動要求パワーが値P1であり、要求駆動力がエンジン始動要求パワーに達する時点が時点t11であり、エンジン200の始動が完了する時点が時点12である。図7では、エンジン始動時間が時間T2(但し、時間T1よりも長い時間)であり、エンジン始動要求パワーが値P2(但し、値P1よりも小さい)であり、要求駆動力がエンジン始動要求パワーに達する時点が時点t21であり、エンジン200の始動が完了する時点が時点22である。
【0064】
より具体的には、マップMは、以下のようにして予め作成され、ECU100のROM内に記憶されている。
【0065】
先ず、始動前クランク角毎にエンジン始動時間を例えば実験等に基づいて推定する。エンジン始動時間は、始動前クランク角と目標クランク角との差が大きいほど、クランク角位置合わせ制御に要する時間が長くなるため長くなり、始動前クランク角と目標クランク角との差が小さいほどクランク角位置合わせ制御に要する時間が短くなるため短くなる。この推定したエンジン始動時間毎に、エンジン200の始動完了時にバッテリ500からモータジェネレータMG1及びMG2に供給される電力がバッテリ500の出力制限Woutに殆ど一致するようなエンジン始動要求パワーを求める。このように、始動前クランク角毎に、エンジン始動時間を推定し、この推定したエンジン始動時間に応じてエンジン始動要求パワーを予め求めることでマップMが作成されている。
【0066】
図4に戻り、マップMを参照してエンジン始動要求パワーを決定した(ステップS120)後には、始動要求があるか否かが判定される(ステップS130)。即ち、ECU100は、エンジン始動要求パワーを決定した後、要求駆動力が、決定したエンジン始動要求パワーに達したか否かを判定する。
【0067】
始動要求があると判定された場合、即ち、要求駆動力がエンジン始動要求パワーに達したと判定された場合には(ステップS130:Yes)、ECU100は、クランク角位置合わせ制御を行う(ステップS140)。即ち、ECU100は、始動前クランク角に基づいて、クランクシャフト205のクランク角が目標クランク角となるようにモータジェネレータMG1を制御する。
【0068】
次に、ECU100は、クランキング制御を行うことによりエンジン200を始動させる(S150)。エンジン200が始動すると、走行モードがEV走行からHV走行モードに切り替えられて、ハイブリッド車両10はHV走行モードで走行する。
【0069】
他方、始動要求がないと判定された場合、即ち、要求駆動力がエンジン始動要求パワーにまだ達していないと判定された場合には(ステップS130:No)、ECU100は、エンジン始動制御を行わない。これにより、エンジン200は停止された状態のまま維持され、ハイブリッド車両10はEV走行モードで走行する。
【0070】
次に、本実施形態における走行モード切り替え時のエンジン始動制御による効果について、図6及び図7を参照して説明を加える。
【0071】
図6及び図7において、本実施形態では特に、ECU100は、前述したように、始動前クランク角が目標クランク角に近いほど(即ち、推定されるエンジン始動時間が短いほど)エンジン始動要求パワーを大きな値として決定し、始動前クランク角が目標クランク角から遠いほど(即ち、推定されるエンジン始動時間が長いほど)エンジン始動要求パワーを小さな値として決定する。ここで、更に、ECU100は、前述したように、エンジン200の始動完了時にバッテリ500からモータジェネレータMG1及びMG2に供給される電力がバッテリ500の出力制限Woutに殆ど一致するように決定する。
【0072】
即ち、ECU100は、始動クランク角に基づいて推定されるエンジン始動時間の長さに応じて、エンジン始動完了時のバッテリ500の余剰バッテリパワー(即ち、バッテリ500からモータジェネレータMG1及びMG2に供給される電力と出力制限Woutと差)が殆どゼロとなるようにエンジン始動要求パワーを変更する。
【0073】
よって、例えばエンジン始動要求パワーを一定の値に設定する場合(即ち、エンジン始動要求パワーを、固定された固定値として設定して変更しない場合)と比較して、エンジン200から動力を出力させる時間(即ち、ハイブリッド車両10がHV走行モードで走行する時間)を短くすることができる、言い換えれば、ハイブリッド車両10がEV走行モードで走行する時間を長くすることができる。この結果、ハイブリッド車両10の燃費を向上させることができる。
【0074】
図8は、比較例に係る走行モード切り替え時のエンジン始動制御を説明するためのグラフである。
【0075】
図8に示す比較例では、エンジン始動要求パワーが一定の値に設定されている。この場合には、要求駆動力がエンジン始動要求パワーに達する時点(言い換えれば、エンジン始動制御が開始される時点)は、エンジン始動時間が異なっても同じであり、エンジンの始動が完了する時点は、エンジン始動時間が短いほど早くなる。図8には、エンジン始動時間が時間T3である場合とエンジン始動時間が時間T4である場合とが示されている。時間T4は、始動前クランク角に基づいて推定されるエンジン始動時間のうち最長の時間である。時間T3は時間T4よりも短い。要求駆動力がエンジン始動要求パワーに達する時点は、エンジン始動時間が時間T3である場合と時間T4である場合のいずれの場合も時点t31である。エンジン始動時間が時間T3である場合には、エンジンの始動が完了する時点は時点t32であり、エンジン始動時間が時間T4である場合には、エンジンの始動が完了する時点は、時点t32によりも遅い時点t33である。また、この比較例では、エンジン始動時間が時間T4である場合においてエンジンの始動が完了する時点で余剰バッテリパワーがゼロとなるようにエンジン始動要求パワーが設定されている。
【0076】
このような比較例によれば、エンジン始動要求パワーが一定の値に設定されているので、エンジン始動時間が比較的短い場合には、余剰バッテリパワーが比較的大きい状態でエンジンの始動が完了してしまう。このため、ハイブリッド車両がEV走行モードで走行する時間が短くなってしまい、燃費が悪化してしまうおそれがある。
【0077】
しかるに本実施形態では特に、前述したように、エンジン200の始動完了時にバッテリ500からモータジェネレータMG1及びMG2に供給される電力がバッテリ500の出力制限Woutに近づくように、エンジン始動要求パワーを変更するので、ハイブリッド車両10がEV走行モードで走行する時間を長くすることができ、燃費を向上させることができる。
【0078】
以上説明したように、本実施形態によれば、ハイブリッド車両10の燃費を向上させることができる。
【0079】
本発明は、前述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0080】
10…ハイブリッド車両、30…減速機構、40…車軸、50…車輪、100…ECU、200…エンジン、205…クランクシャフト、206…クランクポジションセンサ、300…動力分割機構、400…PCU、MG1、MG2…モータジェネレータ、500…バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関をクランキング可能な第1回転電機と、第2回転電機と、前記第1及び第2回転電機に電力を供給するバッテリとを備え、走行モードとして、前記内燃機関が停止した状態で前記第2回転電機からの動力により走行するEV走行モードと、前記内燃機関及び前記第2回転電機からの動力により走行するHV走行モードとを有するハイブリッド車両を制御するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記ハイブリッド車両が前記EV走行モードで走行している場合において、前記ハイブリッド車両に要求される要求駆動力が所定の閾値になったときに、前記内燃機関をクランキングするように前記第1回転電機を制御することにより前記内燃機関を始動させる始動手段と、
前記内燃機関の停止中に前記内燃機関のクランク位置を検出するクランク位置検出手段と、
前記内燃機関がクランキングされる前に、前記検出されたクランク位置に基づいて、前記内燃機関のクランク位置が目標クランク位置となるように前記第1回転電機を制御するクランク位置制御手段と、
前記検出されたクランク位置に基づいて前記内燃機関の始動に要する始動時間を推定し、該推定した始動時間に応じて、前記内燃機関の始動完了時に前記バッテリから前記第1及び第2回転電機に供給される電力が前記バッテリの出力制限に近づくように、前記所定の閾値を変更する閾値変更手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−86685(P2012−86685A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235430(P2010−235430)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】