説明

ハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときの車両駆動源制御方法

【課題】ハイブリッド車両の変速ギヤ段スイッチが故障したときの車両駆動源の制御方法を提供する。
【解決手段】変速機出力端の速度が0rpmであるかを確認する段階、ハイブリッド制御機でP/N段を検出する段階、P/N段として検出された場合にはエンジンおよびモータの速度を制御する段階を含み、前記P/N段の検出段階は、APSを作動させる段階、変速機入力端の速度と出力端の速度を比較する段階、前記変速機入力端の速度と出力端の速度の差が予め設定された値以上であり、所定時間を維持するか確認する段階を含み、前記P/N段の検出段階は、TCU側からギヤ段スイッチ故障信号がハイブリッド制御機に受信される段階をさらに含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときの車両駆動源制御方法に係り、より詳細には、変速ギヤ段が故障したときに過度なトルク印加を防ぐためのハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときの車両駆動源制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両は、エンジンだけでなくモータ駆動源を補助動力源として採用し、排気ガス低減および燃費向上を図ることができる未来型車両である。ハイブリッド車両のシステムは、図1に示すように、エンジン10、モータ30、自動変速機40が一軸上に直結しており、エンジン10およびモータ30間にはクラッチ20が配列されており、クラッチ20とエンジン10の間にはトーションダンパ50が連結している。
また、始動時にエンジン10に回転力を提供するための構成として統合型始動発電機、すなわち、ISG(Integrated Starter Generator)70がベルトプーリ75によってエンジン10のクランクプーリと直結されている。
ハイブリッド車両では、車両の初期出発時や低速走行時にはモータ30を利用して駆動力を得る。これは、初期出発時にはエンジン10の効率がモータ30の効率よりも低いためである。しかし、車両の出発後にはISG70がエンジン10を始動し、エンジン出力とモータ出力を同時に利用できるようになっている。
【0003】
上述したように、ハイブリッド車両は、モータ30の回転力のみを利用する電気自動車モードであるEV(Electric Vehicle)モードや、エンジン10の回転力を主動力としながらモータ30の回転力を補助動力として利用するHEV(Hybrid Electric Vehicle)モードなどの運転モードで走行し、ISG70によってEVモードからHEVモードへの変換が行われる。
すなわち、ハイブリッド車両では、燃費または動力性能を向上させるために、2つ以上のモータ30とクラッチ20などの結合装置を利用しており、最終動力源は変速機40を介して車両の駆動軸60に伝達される。
このとき、変速機40のギヤ情報を検出するために、変速レバーとミッション内部のマニュアルバルブとがケーブルによって連結されており、このような物理的なギヤ情報は、変速レバーに取り付けられたギヤ段スイッチによってTCU(transmission control unit)に送られる。
【0004】
TCUの変速ギヤ段スイッチによって現在の運転手の走行意志を判断して変速制御が決定されるが、電気的な信号によってTCUに送られる変速ギヤ段情報がない場合や、多様ギヤ段の情報信号が得られる場合には、TCUは故障検出ロジックを作動させて故障を検出し、これに基づいて制御を行う。
例えば、変速ギヤ段スイッチが故障した場合、変速機側では、物理的なギヤ段がR段であればR段、D段であれば3速維持、P/N段であればP/N段に基づく制御を行う。また、エンジン側では、P/N段でAPSがonされたときには、エンジンは速度制限により、初期には4500rpm以上を維持し、特定時間が経過すればエンジン過熱を防ぐためのロジックを作動させて3000rpm以下に維持する制御を行う。
しかし、実際にP/N段でAPSが作動するときには、モータ/エンジン速度が制限速度まで上昇する場合があり、これが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−097693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ハイブリッド車両で変速ギヤ段が故障したとき、変速機入力端の動力源を制御して
エンジンとモータの速度制御方法を提供し、
変速機P/N段検出ロジックを用いてP/N段であるかを確認した後、入力トルクを制限することによって急発進などを防ぐ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、変速機出力端の速度が0rpmであるかを確認する段階、ハイブリッド制御機でP/N段を検出する段階、P/N段として検出された場合にはエンジンおよびモータの速度を制御する段階を含むことを特徴とする。
【0008】
前記P/N段の検出段階は、APSを作動させる段階、変速機入力端の速度と出力端の速度を比較する段階、前記変速機入力端の速度と出力端の速度の差が予め設定された値以上であり、所定時間を維持するか確認する段階を含むことを特徴とする。
【0009】
前記P/N段の検出段階は、TCU側からギヤ段スイッチ故障信号がハイブリッド制御機に受信される段階をさらに含むことを特徴とする。
【0010】
前記変速ギヤ段がP/N段として検出された場合には、エンジンによる動力源を除去することを特徴とする。
【0011】
前記エンジンによる動力源の除去は、エンジンの起動を停止させ、エンジンクラッチを解除することによって行われることを特徴とする。
【0012】
前記モータの速度制御は、変速機入力端と出力端の速度の差が所定範囲を逸脱した場合には、速度制限ロジックによってモータ速度を制限することを特徴とする。
【0013】
前記速度制限ロジックは、変速機入力速度が所定の速度以上である場合には、変速機入力速度を制限して所定の回転速度を超過しないようにすることを特徴とする。
【0014】
前記速度制限ロジックは、変速機入力端と出力端の速度差に対してPI制御を行うことを特徴とする。
【0015】
P/N段として検出されない場合には、変速機入力端に伝達されるトルク指令を許可することを特徴とする。
【0016】
前記変速機入力端速度と出力端速度が同期化した場合には、D/R段として正常運行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ハイブリッド車両の変速ギヤ段のスイッチが故障したとき、車両駆動源から伝達される変速機入力トルクを制限することによって車両の安全性を高めるとともに急発進または予想もしなかった現象から車両と運転手に安全を保障することができる。
また、ハイブリッド車両の他に、電気自動車にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一般的なハイブリッド車両の構成を説明する概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る変速機入力速度制限ロジックを示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態に係る車両駆動源の速度を制御する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明は、ハイブリッド車両の変速ギヤ段のスイッチが故障したとき、車両駆動源であるエンジンとモータの速度を制御する方法に関するものであり、特に、P/N段でAPSがオン(on)されたとき、モータ30とエンジン10が制限速度まで上昇することを防ぐ方法に関するものであるため、D/R段である場合には別の制御は行わない。
このために、本発明の実施形態では、まず、変速機出力端の速度が0rpmであるかを確認しなければならない。これは、本発明の実施形態がAPSがon状態である場合に適用されるためである。
このためには、まず、P/N段であるかを検出しなければならない。本発明の実施形態によれば、車両駆動源がモータ30とエンジン10の2つ以上であるため、変速機入力端の速度と変速機出力端の速度を比較することによってハイブリッド制御機がP/N段を検出する方法であることによる。
【0020】
P/N段であるかを検出するためにP/N段検出ロジックを用いる。これは、変速機出力端42の速度が0rpmであるか、APSが0%であるか、変速機入力端41と変速機出力端42の速度の差が特定回転速度(rpm)以上であり、一定時間を維持するか確認することによって行われる。また、TCU(transmission control unit)からギヤ段スイッチ故障信号がハイブリッド制御機(Hybrid Control Unit:HCU)に受信されるか確認することにより、P/N段であるか検出する。前記ハイブリッド制御機は、変速機制御機であるTCUを含む上位制御機であって、ハイブリッド車両のトルク制御を総括する。
【0021】
本発明の実施形態では、変速ギヤ段スイッチが故障した場合、特にP/N段の場合に、モータの過度な入力トルクを制限することを主な目的とする。すなわち、一般的なP/N段の場合にはエンジン10のみを駆動するが、本発明の実施形態によれば、変速ギヤ段スイッチが故障したときにはモータ30のみを作動させて制御する。
したがって、P/N段であるかを確認するために、APSが作動するようにアクセルペダルを踏む。
もし、(1)変速機出力端42の速度が0rpmであり、(2)APSが作動してAPSが0%ではなく、(3)変速機入出力端41、42の速度の差が一定値以上でありながら一定時間を維持すれば、TCUは変速ギヤ段スイッチが故障したという信号を受ける、(4)この信号を前記ハイブリッド制御機に送り、前記ハイブリッド制御機でギヤ段スイッチ故障という信号が受信されて、ハイブリッド制御機ではP/N段として認識する。
【0022】
上記の通り、ハイブリッド制御機がTCUから変速ギヤ段スイッチが故障したという情報および現在の変速ギヤ段がP/N段であると認識した場合には、次のように車両駆動源の速度を制御する。
このようなP/N段の検出ロジックによってハイブリッド制御機でP/N段であると認識されれば、変速機入力端41に伝達されるエンジン10のトルクは除去される。すなわち、エンジン10の起動を停止してエンジンクラッチを解除することにより、エンジン10による動力源を除去する。
また、変速機入力端41と出力端42の速度の差が所定範囲を逸脱した状態であれば、エンジンの動力なく変速機入力側に印加されるトルク、すなわち、モータトルクは速度制限ロジックによってモータ速度を制限する。
上記において、速度制限ロジックとは、モータ30が所定の速度以上である場合には、モータトルクを制限し、予め設定されたrpmを超過しないようにトルクを制御することを意味する。変速機入出力端41、42の速度の差が所定の範囲以内であれば、正常作動を行う。
【0023】
図2は、本発明の実施形態に係る変速機入力速度制限ロジックを示すグラフである。図2に示す通り、変速機入力速度が変速機入力速度制限値を超過する場合には、入力速度制限ロジックを適用することによって変速機入出力端41、42の誤差に対してPI制御を行い、変速機入力速度が変速機入力速度制限値を超過しないように制御する。すなわち、図2において、変速機入力速度が変速機入力速度制限値よりも大きい場合には変速機入力速度を制限し、変速機入力速度が変速機入力速度制限値よりも小さい場合には変速機入力速度を許容することにより、モータの過度な入力トルクを制限する。
P/N段検出が解除された場合、すなわち、P/N段でない場合には、変速機入力端に伝達されるトルク指令がそのまま受容されるようにする。すなわち、エンジン10のトルクも正常に伝達され、モータ30のトルクも要求トルクがそのまま伝達される。
【0024】
以下、本発明の一実施形態について、図3を参照しながら説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る変速ギヤ段スイッチが故障したとき、車両駆動源の速度を制御するためのフローチャートである。
まず、ハイブリッド制御機を準備(S110)し、変速機ギヤ段スイッチの情報が正常であるかを判断(S120)する。変速機ギヤ段スイッチが正常であれば、別の制御をせずに正常作動させる。
変速ギヤ段スイッチ情報がない場合や、多様なギヤ段の情報信号が得られるなど正常でない場合には、P/N段であるか確認する必要がある。
P/N段を検出するためにアクセルペダルを踏み、変速機入力側が停止状態ではなくAPSが0%でないようにし(S130)、変速機入出力速度が同期化するかを判断(S140)し、同期化した場合はD/R段と判断する(S160)。D/R段と判断されれば、それ以上の制御は行わない。
【0025】
しかし、変速機入出力速度が同期化されておらず、変速機入力端41と変速機出力端42の速度が相違する場合は、変速機入出力速度の差が所定の制御値を超過するか、または所定時間を維持するかを判断(S150)し、変速機入出力の速度の差が所定の制御値を超過して所定時間を維持すれば、TCUでP/N段として検出される(S170)。
これは、TCUからハイブリッド制御機に送られ、ハイブリッド制御機でP/N段であると判定(S180)される。前記ハイブリッド制御機でP/N段であると判断されれば、エンジンの起動を停止させ、モータトルクを速度制限ロジックによって制限(S190)することにより、変速ギヤ段スイッチが故障したとき、変速機入力端の動力源から過度なトーク印加による車両の商品価値低下および運転者の違和感をきたさないようにする。P/N段でなければ、正常走行する(S200)。
【0026】
以上、本発明に関する好ましい実施形態を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の属する技術分野を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0027】
10:エンジン
20:クラッチ
30:モータ
40:変速機
41:変速機入力端
42:変速機出力端
50:トーションダンパ(torsion damper)
60:駆動軸
70:ISG
75:ベルトプーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機出力端の速度が0rpmであるか確認する段階、
ハイブリッド制御機でP/N段を検出する段階、
P/N段として検出された場合には、エンジンおよびモータの速度を制御する段階、
を含むことを特徴とするハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときの車両駆動源制御方法。
【請求項2】
前記P/N段の検出段階は、
APSを作動させる段階、
変速機入力端の速度と出力端の速度を比較する段階、
前記変速機入力端の速度と出力端の速度の差が予め設定された値以上であり、所定時間を維持するか確認する段階、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときの車両駆動源制御方法。
【請求項3】
前記P/N段の検出段階は、
TCU側からギヤ段スイッチ故障信号がハイブリッド制御機に受信される段階をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときの車両駆動源制御方法。
【請求項4】
前記変速ギヤ段がP/N段として検出された場合には、エンジンによる動力源を除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときの車両駆動源制御方法。
【請求項5】
前記エンジンによる動力源の除去は、エンジンの起動を停止させ、エンジンクラッチを解除することによって行われることを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときの車両駆動源制御方法。
【請求項6】
前記モータの速度制御は、
変速機入力端と出力端の速度の差が所定範囲を逸脱した場合には、速度制限ロジックによってモータ速度を制限することを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときのの車両駆動源制御方法。
【請求項7】
前記速度制限ロジックは、変速機入力速度が所定の速度以上である場合には、変速機入力速度を制限して所定の回転速度を超過しないようにすることを特徴とする請求項6に記載のハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときの車両駆動源制御方法。
【請求項8】
前記速度制限ロジックは、変速機入力端と出力端の速度差に対してPI制御を行うことを特徴とする請求項7に記載のハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときの車両駆動源制御方法。
【請求項9】
P/N段として検出されない場合には、変速機入力端に伝達されるトルク指令を許可することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときの車両駆動源制御方法。
【請求項10】
前記変速機入力端速度と出力端速度が同期化した場合には、D/R段として正常運行することを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の変速ギヤ段が故障したときの車両駆動源制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−250700(P2012−250700A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257373(P2011−257373)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【出願人】(500518050)起亞自動車株式会社 (449)
【Fターム(参考)】