説明

ハイブリッド車両の運行制御システム

【課題】追従走行機能を有するハイブリッド車両において、燃費をさらに向上させることである。
【解決手段】ハイブリッド車両が追従走行条件のもとで走行していると判断されると、前方車車速Vspdfが取得され、エンジン停止設定車速Vspdpと比較され、さらに、Vspdf+αとVspdpとが比較される(S10−S18)。Vspdf<Vspdpのときは、エンジン始動開始条件を引き上げてエンジン始動開始を遅らせ、エンジン停止のままモータで走行する期間を増やし、燃費改善を図る(S20)。Vspdf+α>Vspdpであると判断されない場合には、自車の車速VspdrをVspdpに設定し、エンジン始動開始を遅らせ、エンジン停止のままモータで走行する期間を増やし、燃費改善を図る(S22)。Vspdf+α>Vspdpのときは、通常のクルーズ制御が行われる(S24)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド車両の運行制御システムに係り、特に、前方車両の走行に自動的に追従して自車の走行を制御する追従走行機能を有するハイブリッド車両の運行制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
前方に走行車両がいる場合に、その前方車両の走行に合わせて自車の走行を行うことは、一定の車両間隔をとることができるので安全運転に寄与し、また、道路の局所的な輻輳をなくして車両の流れを順調なものにし、あるいは複数台の車両がグループとなって目的地に行く場合も他の車両と離れることを防ぐことができる。このような前方車両の走行に自車の走行を追従させる機能のことは、追従走行機能、あるいはクルーズ機能と呼ばれる。前方の車両が安定して走行しているような場合、クルーズ機能を利用して走行する後続車両は、急停止や急発進が少なく、定速走行に近い運行走行となるので、燃費のよい走行を行うことができる。
【0003】
また、車両には、エンジンとモータの両方を搭載するハイブリッド車があるが、ハイブリッド車両についてもクルーズ機能が搭載されている。
【0004】
例えば特許文献1には、車速が予め設定された電動機走行許可車速以下の時にエンジンを停止した状態で電動機のみによる動力で走行する電動機走行モード(モータクルーズモード)を有する車両において、車速度とSOCとによって、モータクルーズする時間を定めることが開示されている。ここでは、SOCが所定値以上の場合に、電動機走行許可車速を引き上げ、これによりバッテリを消費させ、それによってSOCが減少し、所定のヒステリシス範囲を越えて低下すると充電モードに入る。したがって、SOCはこのヒステリシス分確実に減少させることができ、SOCが高いときにバッテリの保護のために回生量を絞らなくてもよくなることが述べられている。
【0005】
特許文献2には、エンジンとモータの両方を搭載するハイブリッド車において、定速走行制御をエンジンで行っているときに、先行車両が検出されると減速要求が出されて車間距離を所定のものに維持する制御に移行する定速走行装置が述べられている。そして、先行車両がなくなる等で追従制御が不要となって減速要求条件が解除され、定速走行制御が再開される場合、所定時間だけモータによるトルクアシストを行うことで、速やかな加速が得られることが述べられる。
【0006】
特許文献3には、隊列を組んで複数の車両が連携走行する場合に、SOCを常に高く維持する必要がある自車両のみで単独走行する場合とは異なる制御が行われることが開示されている。すなわち、連携車両間で電力を融通し、各車両で均一なSOCとなるようにし、また、充電はSOCが十分下がってからでよいことが述べられている。
【0007】
特許文献4には、車両の走行速度と車間距離の少なくとも一方を自動的に一定に保持する自動速度制御装置(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を備えた車両において、燃料カットを伴うモータ走行中には、自動走行の有無によってスロットル開度を制御することが開示されている。すなわち、燃料カットを伴うモータ走行中にはクランクシャフトが連れ回りしてポンプ損失を招くが、自動走行中は急激な加速を要求される可能性は低いので、スロットル開度を開くことで燃費を向上させ、自動走行でないときはスロットル開度を絞って応答性を向上させることができることが述べられている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−23959号公報
【特許文献2】特開2000−295714号公報
【特許文献3】特開2000−308208号公報
【特許文献4】特開2004−270512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、クルーズ機能を有するハイブリッド車両が知られているが、通常のクルーズ機能、すなわち前方車両に対する追従機能は、前方車両の車速に自車の車速を維持することに重点がおかれている。ハイブリッド車両においては、車両の走行が一定条件になれば、エンジンを停止し、モータで走行することで燃費を改善することができるが、従来技術では、必ずしも燃費改善の観点が考慮されていない。
【0010】
本発明の目的は、追従走行機能を有するハイブリッド車両において、燃費をさらに向上させることを可能にするハイブリッド車両の運行制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るハイブリッド車両の運行制御システムは、前方車両の走行に自動的に追従して自車の走行を制御する追従走行機能と、予め定められたエンジン停止設定速度以下の速度のときはエンジンを停止してモータで走行するモータ走行モードと、を有するハイブリッド車両の運行制御システムであって、前方車両の車速である前方車車速を取得する前方車車速取得手段と、エンジン停止設定速度に所定の余裕速度を加えた第2設定速度と、前方車車速とを比較する比較手段と、前方車車速がエンジン停止設定速度より速く、第2設定速度より遅い場合に、自車の追従速度をエンジン停止設定速度に設定して燃費向上を優先する燃費優先手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るハイブリッド車両の運行制御システムにおいて、自車と前方車両との関係が所定の追従走行条件を満たすか否かに応じ、エンジン停止設定速度の設定を変更するエンジン停止設定変更手段を備えることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係るハイブリッド車両の運行制御システムにおいて、所定の余裕速度は、エンジン停止設定速度の数%以上十数%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るハイブリッド車両の運行制御システムは、前方車両の走行に自動的に追従して自車の走行を制御する追従走行機能と、予め定められたエンジン停止設定速度以下の速度であって、予め定められたエンジン始動設定パワー以下のときはエンジンを停止してモータで走行するモータ走行モードと、を有するハイブリッド車両の運行制御システムであって、前方車両の車速である前方車車速を取得する前方車車速取得手段と、エンジン停止設定速度と、前方車車速とを比較する比較手段と、前方車車速がエンジン停止設定速度より遅い場合に、エンジン始動設定パワーに所定の余裕パワーを加えた第2設定パワーにエンジン始動開始条件を引き上げて燃費向上を優先する燃費優先手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るハイブリッド車両の運行制御システムにおいて、所定のエンジン始動設定パワーは、車両の停止モードも含む任意のパターン走行の下で設定される標準始動設定パワーであることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係るハイブリッド車両の運行制御システムにおいて、自車と前方車両との関係が所定の追従走行条件を満たすか否かに応じ、エンジン停止設定速度の設定およびエンジン停止設定パワーを変更するエンジン停止設定変更手段を備えることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係るハイブリッド車両の運行制御システムにおいて、所定の余裕パワーは、エンジン移動設定パワーの数%以上十数%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
上記構成の少なくとも1つにより、エンジン停止設定速度に所定の余裕速度を加えた第2設定速度を設ける。そして、前方車車速がエンジン停止設定速度より速く、第2設定速度より遅い場合に、自車の追従速度をエンジン停止設定速度に設定して燃費向上を優先する。つまり、追従走行は、前方車車速に自車の車速を合わせるものであるが、エンジン停止設定速度の近辺では、追従がある程度安定し、自車の速度も安定してきていることが多い。そこで、所定の範囲で、前方車車速に対する自車の車速を合わせることを緩和し、エンジンを停止したまま走行する。これにより、すぐ回復できる範囲内で追従走行性を犠牲にし、燃費を向上させることができる。
【0019】
ここで所定の余裕速度は、エンジン停止設定速度の数%以上十数%以下とする。例えば3%以上10%以下とする。この範囲は、追従走行性をすぐ回復できるように、車両の走行状態に合わせて設定することがよい。
【0020】
また、自車と前方車両との関係が所定の追従走行条件を満たすか否かに応じ、エンジン停止設定速度の設定を変更するので、一般走行状態と追従走行状態とを区別して、モータ走行モードへ移る閾値を変更でき、追従走行状態において燃費をさらに向上させることができる。
【0021】
また、上記構成の少なくとも1つにより、エンジン始動設定パワーに所定の余裕パワーを加えた第2設定パワーの基準を設ける。そして、前方車車速がエンジン停止設定速度より遅い場合に、自車のエンジン始動設定を第2設定パワーとして、燃費向上を優先する。ここで、エンジン始動設定パワーは、バッテリの充放電の収支で定めるため、一般的には車両の加減速をモデル化した所定の走行モード等に基づいて設定される。しかし、追従走行の場合は、加減速の変化があまりなく、バッテリの充放電に大きな変化がない。そこで設定されたエンジン始動設定パワーになったらエンジンを始動させる決めごとを所定の範囲内で緩和し、エンジンを停止したまま走行する。これにより、燃費を向上させることができる。
【0022】
また、所定のエンジン始動設定パワーは、車両の停止モードも含む任意のパターン走行の下で設定される標準始動設定パワーであるので、追従走行のように、車両の停止がない場合には、この標準始動設定パワーを引き上げた第2設定パワーとしても、バッテリの収支に大きな支障がない。
【0023】
ここで所定の余裕パワーは、エンジン移動設定パワーの数%以上十数%以下とする。例えば3%以上10%以下とする。この範囲は、バッテリの収支がとれるように、車両の走行状態に合わせて設定することがよい。
【0024】
また、自車と前方車両との関係が所定の追従走行条件を満たすか否かに応じ、エンジン停止設定速度の設定およびエンジン停止設定パワーを変更するので、一般走行状態と追従走行状態とを区別して、モータ走行モードへ移る閾値を変更でき、追従走行状態で燃費をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。図1は、ハイブリッド車両の運行制御システム10の構成を示す。ハイブリッド車両の運行制御システム10は、運行制御部12と、前方車両との間の距離等を検出する距離センサ14と、自車の車速を検出する車速センサ16と、加速を行うためのアクセル18等を含んで構成される。
【0026】
距離センサ14は、前方車両と自車との間の車間距離を検出あるいは算出する機能を有する。例えば、前方車両に対し、電波等を放射し、その反射を検出して車両間隔を検出することができる。この車両間隔の時間変化と、自車の車速とから、前方車の車速を算出することができる。あるいは、ドップラ効果を用いて前方車両の車速を検出するものとすることもできる。なお、その他の原理、例えばナビゲーション機能を用いて車間距離を求め、また前方車両の車速を求めることができる。
【0027】
車速センサ16は、自車の車速を検出あるいは算出する機能を有し、例えば車軸の回転速度から車両速度を求めることができる。エンジンのみによって車両を駆動しているときには、エンジン回転数と変速状態等から車速を求めることもできる。
【0028】
アクセル18は、運転者が車両に対して加速を行うことを指令する機能を有するもので、具体的にはアクセルペダル等である。アクセルペダルの踏み込み量、すなわちアクセル開度情報によって、エンジンのスロットル開度や車両駆動モータが制御される。例えばアクセルペダルの踏み込み量が大きいときは車両に対し急加速を行うことを要求し、アクセルペダルを踏み込まずに開放すると、車両に対し加速を行わないことを要求できる。
【0029】
運行制御部12はハイブリッド車両の走行についての制御全般を行う機能を有し、具体的にはいくつかの車両要素制御部の集合である。例えば、車速センサ16等の車両状態に関するセンサや、アクセル18等の車両駆動に関する入力部等の情報に従ってエンジン及び車両駆動モータを制御するハイブリッド制御部、距離センサ14等の情報に従って前方車両の走行に自車の走行を追従させるクルーズ制御部、車両の運行に合わせバッテリの充放電を制御するバッテリ制御部等で、運行制御部12を構成することができる。もちろんこれらの制御部を1つのコントローラにまとめ、あるいは他の機能の車両用制御部と組み合わせてもよい。図1における運行制御部12は、主にクルーズ機能と燃費改善機能について図示されている。
【0030】
運行制御部12は、CPU20と、距離センサ14とのインタフェースである前方車距離センサI/F22、車速センサ16とのインタフェースである自車車速センサI/F24、アクセル18とのインタフェースであるアクセル開度I/F26、記憶装置28等を含んで構成される。各要素は、内部バスによって相互に接続される。かかる運行制御部12は、車両用コンピュータ等によって構成することができる。
【0031】
CPU12は、追従走行条件が成立したか否かを判断する追従走行条件成立判断モジュール30、前方車車速Vspdfを取得する前方車車速取得モジュール32、Vspdfとエンジン停止設定車速Vspdpとを比較するエンジン停止設定車速比較モジュール34と、その比較結果に応じ、クルーズ制御の仕方を区分するクルーズ制御区分モジュール36と、通常クルーズ制御を行う通常クルーズ制御モジュール38と、燃費改善を優先する2種類の制御を行う第1燃費優先クルーズ制御モジュール40及び第2燃費優先クルーズ制御モジュール42を含んで構成される。これらの機能はソフトウェアによって実現でき、具体的には、対応するクルーズ制御プログラムを実行することで実現される。
【0032】
かかる構成のハイブリッド車両用運行制御システム10の作用を図2のフローチャート及び関連する図面を用いて詳細に説明する。図2は、ハイブリッド車両において燃費を考慮したクルーズ制御の手順を示すフローチャートで、これらの手順は、対応するクルーズ制御プログラムの各処理手順に該当する。
【0033】
ハイブリッド車両が走行をしているときは、その車両、すなわち自車と、前方車両との間に追従走行条件が成立するか否かが判断される(S10)。追従走行条件とは、前方車両の走行に自車の走行を追従させることが適切であるための条件である。追従走行条件は、自車と前方車両との間の間隔、すなわち車両間隔が所定の距離内に入るほど接近したかどうか等の基準で定めることができる。追従走行条件は、自車及び前方車両のそれぞれの車速を考慮するものとしてもよく、また、車両間隔の時間変化を考慮に加えてもよい。いずれにせよ、前方車両及び自車と間の走行に関する状況を車両各種センサから取得し、記憶装置28に予め記憶されている設定条件と比較して、追従走行条件が成立するか否かが判断される。この機能は、CPU20の追従走行条件成立判断モジュール30によって実行される。
【0034】
図3は、追従走行の概念を説明する図である。ここでは自車50の走行する前方に車間距離xnを置いて前方車両52が走行している。ここで現在の車間距離xnが、前方車両52に追従する場合に予め定めてある所定の車間距離xrと適当な範囲で異なる場合に、追従走行が行われる。例えばxnがxrよりも長い場合、自車50を加速し、自車50の車速Vspdrを前方車両52の車速Vspdfより上げて、車両間隔をつめxrに近づける。逆に、xnがxrよりも短い場合、自車50を減速し、自車50の車速Vspdrを前方車両52の車速Vspdfより下げて、車両間隔を広げxrに近づける。xnがxrになれば、自車50の車速Vspdrを前方車両52の車速Vspdfと同じにして、車両間隔をxrに維持する。このようにして、車両間隔をxrに維持するために、自車50の車速Vspdrを前方車両52の車速Vspdfに自動的に追従させる追従走行が行われる。
【0035】
図2に戻り、追従走行条件が成立するか否かは適当なサンプリングタイミングで繰り返し監視し、追従走行条件が成立すると判断されると、S12に進んで前方車両52の車速である前方車車速Vspdfを取得する。この機能は、前方車車速取得モジュール32の機能により実行される。すなわち、距離センサ14より前方者距離センサI/F22を介し、所定のサンプリングタイミングで前方車両52と自車50との間の車間距離xnを検出し、そのデータを取り込み、1サンプリング間隔の前後での車間距離xnの変化と、自車50の車速Vspdrとに基づいて前方車両52の車速Vspdfを算出しこれを次の工程のためのデータとして取得する。あるいは上記に述べたように、ドップラ効果を用いて前方車車速を求める装置がある場合や、ナビゲーション装置を使用できるときは、これらから前方車車速を取得するものとしてもよい。
【0036】
次に、取得したVspdfを、エンジン停止設定車速Vspdpと比較する(S14)。この機能はエンジン停止設定車速比較モジュール34の機能により実行される。具体的には、Vspdf≧Vspdpの比較演算が行われ(S16)、Vspdf≧VspdpのときにはさらにVspdf+α>Vspdpの比較演算が行われる(S18)。そして、この比較結果によって、クルーズ制御の方法を3つに区分し、きめ細かく燃費節約を図る。クルーズ制御の方法の区分に関する機能は、クルーズ制御区分モジュール36によって実行される。
【0037】
すなわち、通常の追従走行においては、自車の車速Vspdr=Vspdfとして追従する。そして従来のハイブリッド車両においては、自車の車速Vspdrがエンジン停止設定速度Vspdp以下になるとエンジンを停止しモータで走行し、燃費を節約する。この追従走行の概念と、エンジン停止燃費節約の概念とは、従来独立のものであった。ここでは、追従走行においては、急停止や急発進が少なく、定速走行に近い安定した運行走行であり、若干追従性を緩和しても回復が容易であることに着目し、エンジンを停止しモータで走行する期間を増やし、燃費を節約する。
【0038】
第1に、S16において、Vspdf≧Vspdpであると判断されない場合、すなわち、Vspdf<Vspdpのときは、エンジン始動開始条件を引き上げてエンジン始動開始を遅らせ、エンジン停止のままモータで走行する期間を増やし、燃費改善を図る(S20)。この機能は、第1燃費優先クルーズ制御モジュール40によって実行される。ここで、エンジン始動開始条件とは、ハイブリッド車両の場合、パワーで設定される。パワーは、モータにおいてはkWで表され、トルク×回転数で表される。そして、車両の走行条件によって要求されるパワーが所定の閾値以上のときはエンジンを始動させ、閾値未満のときはエンジンを停止させたままモータで走行する。その閾値がエンジン始動条件に相当する。
【0039】
従来では、Vspdf<Vspdpの場合、自車の車速Vspdr=Vspdfとして追従するが、その際要求されるパワーが所定の閾値以上であるときは、エンジンを始動させることになる。ここで、エンジンを始動する閾値パワーであるエンジン始動設定パワーは、バッテリの充放電の収支で定められるため、一般的には車両の加減速をモデル化した所定の走行モード等に基づいて設定される。しかし、追従走行の場合は、加減速の変化があまりなく、バッテリの充放電に大きな変化がない。そこで設定されたエンジン始動設定パワーになったらエンジンを始動させる決めごとを所定の範囲内で緩和し、エンジンを停止したまま走行する。これにより、燃費を向上させることができる。
【0040】
その様子を図4に示す。図4は、横軸に車速、縦軸にパワーをとり、破線で、アクセル開度を変化させたときの車速−パワーの関係が示されている。ここで、車速は、自車の車速であるので、Vspdrで示されている。そして、太い実線によって通常の場合のエンジン始動の閾値線が示されている。図4においては、車速の低いところでは閾値パワーP1未満でエンジンが停止し、P1以上でエンジンが始動される。車速の速いところでは、ほぼエンジン停止設定車速Vspdpのところがエンジンの停止と始動の境界で、エンジン停止設定車速Vspdp未満でエンジンが停止し、Vspdp以上でエンジンが始動される。このエンジン始動の閾値線は説明のための一例であり、車両の燃費設計の概念によって様々なエンジン始動閾値線が設定されるが、ハイブリッド車両においては、エンジンを始動するパワーの閾値で、エンジンの始動と停止の境界を設定することができる。エンジンを停止しモータで走行する領域は、このエンジン始動パワー閾値線で囲まれた領域であって、図4では左上から右下に向かう斜線で示された領域である。
【0041】
上記のように、追従走行の場合は、加減速の変化があまりなく、バッテリの充放電に大きな変化がない。そこで設定されたエンジン始動設定パワーになったらエンジンを始動させる決めごとを所定の範囲内で緩和することができる。図4において、細い実線で、緩和されたエンジン始動パワー閾値線を示す。ここでは、速度の遅いところでパワーP1より余裕を持たせた第2のパワーP2として示され、速度の速いところでは、従来の閾値線とほとんど重なって示されている。したがって、エンジン始動パワー閾値線で囲まれる領域、すなわちエンジンを停止しモータで走行する領域が拡大される。図4では、左上から右下に向かう斜線と、右上から左下に向かう斜線とを交差させて示した領域が、拡大された領域で、この領域の分だけ、エンジンを停止して走行する期間が増え、燃費を改善できる。
【0042】
すなわち、エンジン始動設定パワーに所定の余裕パワーを加えた第2設定パワーの基準を設け、そして、前方車車速がエンジン停止設定速度より遅い場合に、自車のエンジン始動設定を第2設定パワーとして、燃費向上を優先することができる。余裕パワー、例えば図4におけるP2とP1との差は、エンジン始動設定パワーP1の数%以上十数%以下とする。例えば3%以上10%以下とすることができる。より好ましくは、余裕パワーは、エンジン始動設定パワーの約5%程度が好ましい。この程度であれば、バッテリの収支に大きな影響を与えずに、また追従走行性を損なうことを少なくして、燃費改善を図ることができる。また、これらは電池の出力性能に依存する。
【0043】
再び図2に戻り、燃費改善の第2として、S18においてVspdf+α>Vspdpであると判断されない場合には、自車の車速VspdrをVspdpに設定し、エンジン始動開始を遅らせ、エンジン停止のままモータで走行する期間を増やし、燃費改善を図る(S22)。この機能は、第2燃費優先クルーズ制御モジュール42によって実行される。従来では、Vspdf≧Vspdpの場合、自車の車速Vspdr=Vspdfとして追従し、その速度がエンジン停止設定車速Vspdpより速いので、エンジンを始動させることになる。しかし、追従走行とは、前方車車速に自車の車速を合わせるものであるが、エンジン停止設定速度の近辺では、追従がある程度安定し、自車の速度も安定してきていることが多い。そこで、所定の範囲で、前方車車速に対する自車の車速を合わせることを緩和し、エンジンを停止したまま走行する。これにより、燃費を向上させることができる。
【0044】
その様子を図5に示す。図5は、横軸に前方車両の車速Vspdf、縦軸に自車の車速Vspdrをとり、太い実線で、追従走行の場合の自車の車速Vspdrの変化が示されている。図5においては、前方車両の車速Vspdfが通常のエンジン停止設定速度Vspdpより低速のところではVspdr=Vspdfの関係で追従し、また、前方車両の車速VspdfがV2=Vspdp+αより高速のところでもVspdr=Vspdfの関係で追従することが示されている。つまり、VspdfがVspdp以上Vspdp+α未満の領域を除いて、自車は前方車両の車速と同じ車速で追従走行を行っている。そして、VspdfがVspdp以上Vspdp+α未満の領域においては、自車の車速Vspdrが、エンジン停止設定車速Vspdpのままに固定され、前方車両の車速Vspdfに追従していない。
【0045】
つまり、VspdfがVspdp以上Vspdp+α未満の領域では、前方車両の車速Vspdfに追従せずに、エンジンを停止しモータで走行し、燃費改善を優先する。図5において、エンジン停止の領域を2種類の斜線領域で示してある。1つは、前方車両の車速Vspdfが通常のエンジン停止設定速度Vspdpより低速の領域で、左上から右下に向かう斜線でその領域が示されている。もう1つは、VspdfがVspdp以上Vspdp+α未満の領域で、左上から右下に向かう斜線と、右上から左下に向かう斜線とを交差させて示した領域で示される。後者の領域が、エンジンを停止しモータで走行する領域の拡大部分で、この拡大された分だけ、エンジンを停止して走行する期間が増え、燃費を改善できる。
【0046】
すなわち、エンジン停止設定速度に所定の余裕速度を加えた第2設定速度を設ける。そして、前方車車速がエンジン停止設定速度より速く、第2設定速度より遅い場合に、自車の追従速度をエンジン停止設定速度に設定して燃費向上を優先することができる。第2設定速度とエンジン停止設定速度との差は余裕速度で、例えば図5におけるV2とVspdpとの差であるが、この余裕速度は、エンジン停止設定速度Vspdpの数%以上十数%以下とする。例えば3%以上10%以下とすることができる。より好ましくは、エンジン停止設定速度Vspdpの約5%とすることがよい。この範囲は、追従走行性をすぐ回復できるように、車両の走行状態に合わせて設定することがよい。
【0047】
なお、S18において、Vspdf+α>Vspdpであると判断されるときは、図3に関連して説明した通常のクルーズ制御が行われ(S24)、一般的には、自車の車速Vspdr=前方車両の車速Vspdfとして追従が行われる。この機能は、通常クルーズ制御モジュール38によって実行される。ここでは、燃費改善は、エンジン停止設定車速Vspdp及びエンジン始動設定パワーP1等に従って行われることになる。
【0048】
また、上記において、エンジンを停止してモータ走行モードへ移る閾値であるエンジン停止設定車速Vspdpとエンジン始動閾値パワーP1は、通常走行のときに設定されているものを用いるものとした。このモータ走行モードへ移る閾値を、走行状態が追従走行条件を満たすか否かによって変更するものとしてもよい。すなわち追従走行条件の下では、このモータ走行条件へ移る閾値を高くして、さらに、燃費向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る実施の形態におけるハイブリッド車両の運行制御システムの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、燃費を考慮したクルーズ制御の手順を示すフローチャートである。
【図3】追従走行の概念を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、エンジン始動設定パワーを緩和する様子を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、エンジン停止設定速度を緩和する様子を説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
10 ハイブリッド車両用運行制御システム、12 運行制御部、14 距離センサ、16 車速センサ、18 アクセル、20 CPU、22 前方車距離センサI/F、24 自車車速センサI/F、26 アクセル開度I/F、28 記憶装置、30 追従走行条件成立判断モジュール、32 前方車車速取得モジュール、34 エンジン停止設定車速比較モジュール、36 クルーズ制御区分モジュール、38 通常クルーズ制御モジュール、40 第1燃費優先クルーズ制御モジュール、42 第2燃費優先クルーズ制御モジュール、50 自車、52 前方車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方車両の走行に自動的に追従して自車の走行を制御する追従走行機能と、
予め定められたエンジン停止設定速度以下の速度のときはエンジンを停止してモータで走行するモータ走行モードと、
を有するハイブリッド車両の運行制御システムであって、
前方車両の車速である前方車車速を取得する前方車車速取得手段と、
エンジン停止設定速度に所定の余裕速度を加えた第2設定速度と、前方車車速とを比較する比較手段と、
前方車車速がエンジン停止設定速度より速く、第2設定速度より遅い場合に、自車の追従速度をエンジン停止設定速度に設定して燃費向上を優先する燃費優先手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の運行制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の運行制御システムにおいて、
自車と前方車両との関係が所定の追従走行条件を満たすか否かに応じ、エンジン停止設定速度の設定を変更するエンジン停止設定変更手段を備えることを特徴とするハイブリッド車両の運行制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載のハイブリッド車両の運行制御システムにおいて、
所定の余裕速度は、エンジン停止設定速度の数%以上十数%以下であることを特徴とするハイブリッド車両の運行制御システム。
【請求項4】
前方車両の走行に自動的に追従して自車の走行を制御する追従走行機能と、
予め定められたエンジン停止設定速度以下の速度であって、予め定められたエンジン始動設定パワー以下のときはエンジンを停止してモータで走行するモータ走行モードと、
を有するハイブリッド車両の運行制御システムであって、
前方車両の車速である前方車車速を取得する前方車車速取得手段と、
エンジン停止設定速度と、前方車車速とを比較する比較手段と、
前方車車速がエンジン停止設定速度より遅い場合に、エンジン始動設定パワーに所定の余裕パワーを加えた第2設定パワーにエンジン始動開始条件を引き上げて燃費向上を優先する燃費優先手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の運行制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載のハイブリッド車両の運行制御システムにおいて、
所定のエンジン始動設定パワーは、車両の停止モードも含む任意のパターン走行の下で設定される標準始動設定パワーであることを特徴とするハイブリッド車両の運行制御システム。
【請求項6】
請求項4に記載のハイブリッド車両の運行制御システムにおいて、
自車と前方車両との関係が所定の追従走行条件を満たすか否かに応じ、エンジン停止設定速度の設定およびエンジン停止設定パワーを変更するエンジン停止設定変更手段を備えることを特徴とするハイブリッド車両の運行制御システム。
【請求項7】
請求項4に記載のハイブリッド車両の運行制御システムにおいて、
所定の余裕パワーは、エンジン始動設定パワーの数%以上十数%以下であることを特徴とするハイブリッド車両の運行制御システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−186069(P2007−186069A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5456(P2006−5456)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】