説明

パワートレーンの制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体

【課題】ハイブリッド車の発進時においてエンジン回転数が急増しないようにする。
【解決手段】ECUは、シフトレバーがPポジションにあると(S100にてYES)、動力分割機構におけるサンギヤに連結された第1MGを駆動するようにキャリアに連結されたエンジンを制御するとともに、リングギヤが停止するように第2MGを制御するステップ(S120)と、ブレーキ操作がなされると(S110にてYES)、シフト操作がなされることを予想するステップ(S140)と、第1MGを駆動するようにエンジンを制御するとともに、リングギヤが停止するように第2MGを制御することを中止するステップ(S160)とを含む、プログラムを実行する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワートレーンの制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体に関し、特に、エンジンおよび回転電機を動力源として有するパワートレーンを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関および回転電機を駆動源に有するハイブリッド車が知られている。このようなハイブリッド車においては、車両の走行状態に応じて内燃機関および回転電機が使い分けられる。たとえば、高速走行時などにおいては主に内燃機関を用いて走行し、中低速走行時などにおいては主に回転電機を用いて走行する。このようなハイブリッド車の一つに、回転電機を用いて無段変速機として機能する差動機構を備えたものがある。
【0003】
特開2005−337491号公報(特許文献1)は、エンジンに連結された第1要素、第1電動機(回転電機)に連結された第2要素、および第2電動機に連結された第3要素から構成される差動機構を有し電気的な無段変速機として機能する無段変速部と、無段変速部と車輪との間に設けられた変速部(変速機構)とを備えた車両用駆動装置の制御装置を開示する。特許文献1に記載の制御装置は、変速部の変速の際には、無段変速部と変速部とで形成される変速比を連続させるように、変速に同期して無段変速部の変速を実行する無段変速制御部を含む。
【0004】
この公報に記載の制御装置によれば、無段変速部と変速部とで形成される変速比すなわち無段変速部の変速比と変速部の変速比とに基づいて形成される変速比である総合変速比が連続的に変化される。これにより、変速部の変速前後でエンジン回転速度(回転数)を連続的に変化させて変速ショックが低減される。
【特許文献1】特開2005−337491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特開2005−337491号公報に記載の車両用駆動装置のように、2つの回転電機を備えたパワートレーンを有するハイブリッド車においては、たとえばシフトレバーがP(パーキング)ポジションにある場合において、一方の回転電機をエンジンにより駆動して発電する場合がある。この場合、特開2005−337491号公報に記載の車両用駆動装置のように、エンジンと2つの回転電機とが差動機構を介して連結される無段変速部と車輪との間に有段変速機が設けられた車両において、P(パーキング)レンジ等に有段変速機がニュートラル状態になる場合には、エンジンの駆動力を発電機として用いる回転電機に効率よく伝達するために、発電しない回転電機に連結された回転要素を停止させることが望ましい。そこで、一方の回転電機を用いて発電する際には、他方の回転電機に連結された回転要素が停止するように他方の回転電機が制御される。しかしながら、回転要素が停止するように回転電機を制御していると、車両の発進時に、車両の駆動源として回転電機を作動させる制御に移行するために回転電機のトルクを一旦「0」にする必要がある。このとき、停止されていた回転要素が自由に回転可能になるため、エンジンの負荷が急減し、エンジン回転数が急増し得る。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、エンジン回転数が急増することがないようにすることができるパワートレーンの制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係るパワートレーンの制御装置は、第1の回転電機に連結される第1の回転要素、第2の回転電機に連結される第2の回転要素およびエンジンに連結される第3の回転要素を有する差動機構と、第2の回転要素に連結され、第2の回転要素から入力されるトルクを車輪に伝達する変速機構とを備えるパワートレーンの制御装置である。この制御装置は、第1の回転電機を駆動するようにエンジンを制御するとともに第2の回転要素が停止するように第2の回転電機を制御するための制御手段と、運転者のシフト操作を予想するための予想手段と、シフト操作が予想される場合、第1の回転電機を駆動するようにエンジンを制御するとともに第2の回転要素が停止するように第2の回転電機を制御することを中止するための手段とを含む。第4の発明に係るパワートレーンの制御方法は、第1の発明に係るパワートレーンの制御装置と同様の要件を備える。
【0008】
第1または第4の発明によると、たとえば第1の回転電機を用いて発電する際、第1の回転電機を駆動するようにエンジンが制御されるとともに第2の回転要素が停止するように第2の回転電機が制御される。これにより、第2の回転要素において反力を受け止めて、エンジンから出力された駆動力を第1の回転電機に効率よく伝達することができる。シフト操作が予想される場合、第1の回転電機を駆動するようにエンジンを制御するとともに第2の回転要素が停止するように第2の回転電機を制御することが中止される。これにより、実際にシフト操作が行なわれる前において、第1の回転電機を駆動するようにエンジンを制御するとともに第2の回転要素が停止するように第2の回転電機を制御することを中止することができる。そのため、エンジンの出力を低下させるとともに、前もって車両の駆動源として第2の回転電機を作動させる制御に移行することができる。その結果、エンジン回転数が急増することがないようにすることができるパワートレーンの制御装置または制御方法を提供することができる。
【0009】
第2の発明に係るパワートレーンの制御装置においては、第1の発明の構成に加え、予想手段は、運転者によるブレーキ操作が行なわれた場合、シフト操作を予想するための手段を含む。第5の発明に係るパワートレーンの制御方法は、第2の発明に係るパワートレーンの制御装置と同様の要件を備える。
【0010】
第2または第5の発明によると、たとえばシフトレバーをP(パーキング)ポジションから他のポジションに移動させる際には、ブレーキ操作が行なわれるため、運転者によるブレーキ操作が行なわれた場合、シフト操作が予想される。これにより、シフト操作を確実に予想することができる。
【0011】
第3の発明に係るパワートレーンの制御装置においては、第1または2の発明の構成に加え、制御手段は、第1の回転電機を用いて発電する際、第1の回転電機を駆動するようにエンジンを制御するとともに第2の回転要素が停止するように第2の回転電機を制御するための手段を含む。第6の発明に係るパワートレーンの制御方法は、第3の発明に係るパワートレーンの制御装置と同様の要件を備える。
【0012】
第3または第6の発明によると、第1の回転電機を用いて発電する際、第1の回転電機を駆動するようにエンジンが制御されるとともに第2の回転要素が停止するように第2の回転電機が制御される。これにより、第1の回転電機を用いて発電する際、エンジンから出力された駆動力を第1の回転電機に効率よく伝達することができる。そのため、発電効率を向上することができる。
【0013】
第7の発明に係るプログラムは、第4〜6のいずれかの発明に係る制御方法をコンピュータに実現させるプログラムであって、第8の発明に係る記録媒体は、第4〜6のいずれかの発明に係る制御方法をコンピュータに実現させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0014】
第7または第8の発明によると、コンピュータ(汎用でも専用でもよい)を用いて、第4〜6のいずれかの発明に係るパワートレーンの制御方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0016】
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る制御装置を搭載したハイブリッド車について説明する。このハイブリッド車は、FR(Front engine Rear drive)車両である。なお、FR以外の車両であってもよい。
【0017】
ハイブリッド車は、エンジン100と、トランスミッション200と、プロペラシャフト500と、デファレンシャルギヤ600と、後輪700と、ECU(Electronic Control Unit)800とを含む。本実施の形態に係る制御装置は、たとえばECU800のROM(Read Only Memory)802に記録されたプログラムを実行することにより実現される。本発明の実施の形態に係る制御装置であるECU800により制御されるパワートレーン1000は、エンジン100と、トランスミッション200とを含む。
【0018】
エンジン100は、インジェクタ102から噴射された燃料と空気との混合気を、シリンダの燃焼室内で燃焼させる内燃機関である。燃焼によりシリンダ内のピストンが押し下げられて、クランクシャフトが回転させられる。
【0019】
トランスミッション200は、エンジン100に連結される。トランスミッション200は、後述するように、第1変速部300と、第2変速部400とを含む。トランスミッション200から出力されたトルクは、プロペラシャフト500およびデファレンシャルギヤ600を介して、左右の後輪700に伝達される。
【0020】
ECU800には、シフトレバー804のポジションスイッチ806と、アクセルペダル808のアクセル開度センサ810と、ブレーキペダル812のブレーキスイッチ814と、電子スロットルバルブ816のスロットル開度センサ818と、エンジン回転数センサ820と、入力軸回転数センサ822と、出力軸回転数センサ824と、油温センサ826と、水温センサ828とがハーネスなどを介して接続されている。
【0021】
シフトレバー804の位置(ポジション)は、ポジションスイッチ806により検出され、検出結果を表す信号がECU800に送信される。シフトレバー804の位置に対応して、トランスミッション200における変速が自動で行なわれる。
【0022】
アクセル開度センサ810は、アクセルペダル808の開度を検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。ブレーキスイッチ814は、ブレーキ操作(運転者によるブレーキペダル812の操作)を検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。
【0023】
スロットル開度センサ818は、アクチュエータにより開度が調整される電子スロットルバルブ816の開度を検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。電子スロットルバルブ816により、エンジン100に吸入される空気量(エンジン100の出力)が調整される。
【0024】
なお、電子スロットルバルブ816の代わりにもしくは加えて、吸気バルブ(図示せず)や排気バルブ(図示せず)のリフト量や開閉する位相を変更することにより、エンジン100に吸入される空気量を調整するようにしてもよい。
【0025】
エンジン回転数センサ820は、エンジン100の出力軸(クランクシャフト)の回転数を検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。入力軸回転数センサ822は、第2変速部400の入力軸回転数NIを検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。出力軸回転数センサ824は、トランスミッション200(第2変速部400)の出力軸回転数NOを検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。
【0026】
油温センサ826は、トランスミッション200の作動や潤滑に用いられるオイル(ATF:Automatic Transmission Fluid)の温度(油温)を検出し、検出結果を表す信号をECU800に送信する。
【0027】
水温センサ828は、エンジン100の冷却水の温度(水温)を検出し、検出結果を表わす信号をECU800に送信する。
【0028】
ECU800は、ポジションスイッチ806、アクセル開度センサ810、ブレーキスイッチ814、スロットル開度センサ818、エンジン回転数センサ820、入力軸回転数センサ822、出力軸回転数センサ824、油温センサ826、水温センサ828などから送られてきた信号、ROM802に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両が所望の走行状態となるように、機器類を制御する。
【0029】
図2を参照して、トランスミッション200についてさらに説明する。トランスミッション200は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース202内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸204と、この入力軸204に直接もしくはダンパー(図示せず)を介して連結された第1変速部300と、第1変速部300と後輪700との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)206を介して直列に連結される第2変速部400と、第2変速部400に連結されている出力回転部材としての出力軸208とを含む。
【0030】
トランスミッション200はその軸心に対して対称的に構成されているため、図2のトランスミッション200を表す部分においてはその下側が省略されている。以下の各実施の形態についても同じである。
【0031】
第1変速部300は、動力分割機構310と、第1MG(Motor Generator)311と、第2MG312とを含む。第1変速部300は、さらに、C0クラッチ314およびB0ブレーキ316の二つの摩擦係合要素を含む。
【0032】
動力分割機構310は、入力軸204に入力されたエンジン100の出力を第1MG311および伝達部材206に分割する。動力分割機構310は、プラネタリギヤ320から構成される。
【0033】
プラネタリギヤ320は、サンギヤ322、ピニオンギヤ324、ピニオンギヤ324を自転および公転可能に支持するキャリア326、ピニオンギヤ324を介してサンギヤ322と噛み合うリングギヤ328を含む。
【0034】
動力分割機構310において、キャリア326は入力軸204すなわちエンジン100に連結される。サンギヤ322は第1MG311に連結される。リングギヤ328は伝達部材206を介して第2MG312に連結される。
【0035】
動力分割機構310は、サンギヤ322、キャリア326、リングギヤ328が相対的に回転することにより差動装置として機能する。動力分割機構310の差動機能により、エンジン100の出力が第1MG311と伝達部材206とに分配される。
【0036】
分配されたエンジン100の出力の一部を用いて第1MG311が発電したり、第1MG311が発電した電力を用いて第2MG312が回転駆動したりすることにより、動力分割機構310は、無段変速機として機能する。
【0037】
第1MG311および第2MG312は、三相交流回転電機である。第1MG311は、動力分割機構310のサンギヤ322に連結される。第2MG312は、ロータが伝達部材206と一体的に回転するように設けられる。
【0038】
第1MG311および第2MG312は、たとえばアクセル開度および車速などから算出されるトランスミッション200の目標出力トルクを満足し、かつエンジン100において最適な燃費を実現するように制御される。
【0039】
C0クラッチ314は、サンギヤ322とキャリア326とを連結するように設けられる。B0ブレーキ316は、サンギヤ322をケース202に連結するように設けられる。
【0040】
第2変速部400は、シングルピニオン型の3つのプラネタリギヤ411〜413と、C1クラッチ421、C2クラッチ422、B1ブレーキ431、B2ブレーキ432およびB3ブレーキ433の5つの摩擦係合要素を含む。
【0041】
第1変速部300および第2変速部400の摩擦係合要素を図3に示す作動表に示す組み合わせで係合することにより、トランスミッション200において、1速ギヤ段〜5速ギヤ段の5つの前進ギヤ段が形成される。
【0042】
C0クラッチ314およびB0ブレーキ316が解放状態である場合、サンギヤ322、キャリア326およびリングギヤ328の相対的な回転が許容される。この状態では、動力分割機構310は無段変速機として機能する。すなわち、トランスミッション200が無段変速状態になる。
【0043】
C0クラッチ314が係合状態である場合、サンギヤ322、キャリア326およびリングギヤ328の相対的な回転が禁止される。この状態では、動力分割機構310は無段変速機として機能しない。すなわち、トランスミッション200においてステップ的に変速比が変化する有段変速状態になる。
【0044】
B0ブレーキ316が係合状態である場合、サンギヤ322がケース202に固定される。この状態では、動力分割機構310は無段変速機として機能しない。すなわち、トランスミッション200が有段変速状態になる。
【0045】
図3に示すように、シフトレバー804がPポジションにある場合およびN(ニュートラル)ポジションにある場合、全ての摩擦係合要素が解放状態にされる。そのため、トランスミッション200はトルクを車輪に伝達し得ない状態になる。この状態においては、リングギヤ328において、エンジン100から出力された駆動力の反力を受け止めることができない。
【0046】
トランスミッション200における変速(無段変速状態と有段変速状態との切換えを含む)は、たとえば図4に示す変速線図に基づいて制御される。本実施の形態における変速線図は、アクセル開度および車速などから算出される目標出力トルクと、車速とをパラメータとして定められる。なお、変速線図のパラメータはこれらに限らない。
【0047】
図4における実線がアップシフト線であって、破線がダウンシフト線である。図4において太い実線で囲まれる領域は、エンジン100の駆動力を用いずに、第2MG312の駆動力のみを用いて走行する領域を示す。図4における一点鎖線は、無段変速状態から有段変速状態に切換える切換線である。図4における二点鎖線は、有段変速状態から無段変速状態に切換える切換線である。
【0048】
変速を行なう際、C0クラッチ314、B0ブレーキ316、C1クラッチ421、C2クラッチ422、B1ブレーキ431、B2ブレーキ432およびB3ブレーキ433は、油圧により作動する。本実施の形態において、ハイブリッド車には、図5に示すように、各摩擦係合要素に対して油圧を給排してその係合・解放の制御を行なう油圧制御装置900が設けられる。
【0049】
この油圧制御装置900は、機械式オイルポンプ910と電動オイルポンプ920と、これらのオイルポンプ910,920で発生させた油圧をライン圧に調圧するとともに、そのライン圧を元圧として調圧した油圧を各摩擦係合要素に対して給排し、かつ適宜の箇所に潤滑のためのオイルを供給する油圧回路930とを含む。
【0050】
機械式オイルポンプ910は、エンジン100によって駆動されて油圧を発生するポンプである。機械式オイルポンプ910は、キャリア326と同軸上に配置され、エンジン100からトルクを受けて動作するようになっている。すなわち、キャリア326が回転することにより機械式オイルポンプ910が駆動せしめられて、油圧が発生する。
【0051】
これに対して電動オイルポンプ920は、モータ(図示せず)によって駆動されるポンプである。電動オイルポンプ920は、ケース202の外部などの適宜の箇所に取り付けられる。電動オイルポンプ920は、所望の油圧を発生するように、ECU800により制御される。たとえば、電動オイルポンプ920の回転数等がフィードバック制御される。
【0052】
電動オイルポンプ920は、DC/DCコンバータ940を介してバッテリ942から供給される電力により作動する。バッテリ942の電力は、電動オイルポンプ920の他、第1MG311および第2MG312に供給される。
【0053】
油圧回路930は、複数のソレノイドバルブや切換バルブあるいは調圧バルブ(それぞれ図示せず)を備え、調圧や油圧の給排を電気的に制御できるように構成されている。その制御は、ECU800により行なわれる。
【0054】
なお、各オイルポンプ910,920の吐出側には、それぞれのオイルポンプ910,920の吐出圧で開き、これとは反対方向には閉じる逆止弁912,922が設けられ、かつ油圧回路930に対してこれらのオイルポンプ910,920は互いに並列に接続されている。また、ライン圧を調圧するバルブ(図示せず)は、吐出量を増大させてライン圧を高くし、これとは反対に吐出量を減じてライン圧を低くする二つの状態にライン圧を制御するように構成されている。
【0055】
図6を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU800の機能について説明する。なお、以下に説明するECU800の機能はハードウェアにより実現するようにしてもよく、ソフトウェアにより実現するようにしてもよい。
【0056】
ECU800は、発電制御部840と、シフト操作予想部850と、中止部860とを含む。発電制御部840は、走行レンジがPレンジである場合において第1MG311を用いて発電する際、第1MG311を駆動するようにエンジン100を制御するとともに、動力分割機構310におけるリングギヤ328が停止するように、第2MG312を制御する。たとえば、第2MG312のd軸のみに通電することにより、動力分割機構310におけるリングギヤ328が停止するように、第2MG312が制御される。
【0057】
シフト操作予想部850は、運転者によるブレーキ操作がなされた場合、シフト操作がなされることを予想する。中止部860は、シフト操作が予想される場合、第1MG311を駆動するようにエンジン100を制御するとともに、リングギヤ328が停止するように、第2MG312を制御することを中止する。
【0058】
図7を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU800が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、以下に説明するプログラムは予め定められた周期で繰り返し実行される。
【0059】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、ECU800は、ポジションスイッチ806から送信された信号に基づいて、シフトレバー804がPポジションであるか否かを判断する。シフトレバー804がPポジションにあると(S100にてYES)、処理はS110に移される。もしそうでないと(S100にてNO)、この処理は終了する。
【0060】
S110にて、ECU800は、ブレーキスイッチ814から送信された信号に基づいて、ブレーキ操作がなされたか否かを判断する。ブレーキ操作がなされると(S110にてYES)、処理はS140に移される。もしそうでないと(S110にてNO)、処理はS120に移される。
【0061】
S120にて、ECU800は、第1MG311を駆動するようにエンジン100を制御するとともに、動力分割機構310におけるリングギヤ328が停止するように第2MG312を制御する。S130にて、ECU800は、第1MG311が発電機として作動するように第1MG311を制御する。
【0062】
S140にて、ECU800は、シフト操作がなされることを予想する。S150にて、ECU800は、第1MG311を用いて発電するために第1MG311を駆動するようにエンジン100が制御されるとともに、リングギヤ328が停止するように第2MG312が制御された状態であるか否かを判断する。第1MG311を駆動するようにエンジン100が制御されるとともに、リングギヤ328が停止するように第2MG312が制御された状態であると(S150にてYES)、処理はS160に移される。もしそうでないと(S150にてNO)、この処理は終了する。
【0063】
S160にて、ECU800は、第1MG311を駆動するようにエンジン100を制御するとともに、リングギヤ328が停止するように第2MG312を制御することを中止する。
【0064】
S170にて、ECU800は、第2MG312が車両の駆動源として作動するように制御する。たとえば、第2MG312のd軸およびq軸に通電することにより、第2MG312が車両の駆動源として作動するように制御される。
【0065】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるECU800の動作について説明する。
【0066】
車両システムの起動中、ポジションスイッチ806から送信された信号に基づいて、シフトレバー804がPポジションであるか否かが判断される。シフトレバー804がPポジションであると(S100にてYES)、バッテリ942の残存容量が低ければ、第1MG311を発電機として作動させて、バッテリ942を充電する必要がある。
【0067】
第1MG311を発電機として作動させるには、エンジン100の駆動力を用いて第1MG311を駆動する必要がある。ところが、前述したように、シフトレバー804がPポジションにある場合、全ての摩擦係合要素が解放状態にされ、動力分割機構310のリングギヤ328において、エンジン100から出力された駆動力の反力を受け止めることができない状態になる。
【0068】
そこで、ブレーキ操作がなされていないと(S110にてNO)、第1MG311を駆動するようにエンジン100が制御されるとともに、リングギヤ328が停止するように第2MG312が制御される(S120)。この状態で、第1MG311が発電機として作動するように第1MG311が制御される(S130)。
【0069】
これにより、反力をリングギヤ328により受け止めて、エンジン100から出力された駆動力を第1MG311に効率よく伝達することができる。そのため、第1MG311における発電効率を向上することができる。
【0070】
ところで、シフトレバー804をPポジションからたとえばD(ドライブ)ポジションもしくはR(リバース)ポジションに移動させて車両を発進させる場合には、第2MG312を駆動源として作動させる制御に移行する必要がある。
【0071】
しかしながら、リングギヤ328が停止するように第2MG312が制御されている状態から第2MG312を駆動源として作動させる制御に移行する場合には、第2MG312のトルクが一旦「0」になる。このとき、リングギヤ328において、エンジン100から出力された駆動力の反力を受け止めることができない状態になり、エンジン回転数が急増し得る。
【0072】
そこで、シフトレバー804をPポジションからばDポジションもしくはRポジションに移動させるようにシフト操作を行なう場合には、ブレーキ操作がなされることから、運転者によるブレーキ操作がなされていると(S110にてYES)、シフト操作がなされることが予想される(S140)。
【0073】
このとき、第1MG311を駆動するようにエンジン100が制御されるとともに、リングギヤ328が停止するように第2MG312が制御された状態であると(S150にてYES)、第1MG311を駆動するようにエンジン100を制御するとともに、リングギヤ328が停止するように第2MG312を制御することが中止される(S160)。第2MG312は、車両の駆動源として作動するように制御される(S170)。
【0074】
これにより、実際にシフト操作がなされる前において、エンジン回転数を増加させずに、第2MG311によりリングギヤ328を停止する制御から、第2MG312を車両の駆動源として用いるための制御に移行することができる。そのため、シフト操作がなされる車両の発進時にエンジン回転数が急増しないようにすることができる。
【0075】
以上のように、本実施の形態に係る制御装置であるECUによれば、シフトレバーがPポジションにあり、かつブレーキ操作がなされていないと、第1MGを用いて発電するために、第1MGを駆動するようにエンジンが制御されるとともに、リングギヤが停止するように第2MGが制御される。シフトレバーをPポジションからたとえばDポジションもしくはRポジションに移動させるようにシフト操作を行なう場合には、ブレーキ操作がなされることから、運転者によるブレーキ操作がなされていると、シフト操作がなされることが予想される。シフト操作がなされることが予想されると、第1MGを駆動するようにエンジンを制御するとともに、リングギヤが停止するように第2MGを制御することが中止される。これにより、実際にシフト操作がなされる前において、エンジン回転数を増加させずに、第2MGによりリングギヤを停止する制御から第2MGを車両の駆動源として用いるための制御に移行することができる。そのため、シフト操作がなされる車両の発進時にエンジン回転数が急増しないようにすることができる。
【0076】
なお、トランスミッション200において5つの前進ギヤ段を形成可能にする代わりに、1速ギヤ段〜4速ギヤ段の4つの前進ギヤ段を形成可能であるようにしてもよい。4つの前進ギヤ段を形成可能であるようにトランスミッション200を構成する場合、図8に示すように、第2変速部400は、シングルピニオン型の2つのプラネタリギヤ441,442と、C1クラッチ451、C2クラッチ452、B1ブレーキ461およびB2ブレーキ462の4つの摩擦係合要素とを含む。図9に示す作動表に示す組み合わせで摩擦係合要素を係合することにより、1速ギヤ段〜4速ギヤ段の4つの前進ギヤ段が形成される。
【0077】
また、変速線図において定められる切換線に基づいて無段変速状態と有段変速状態とを切換える代わりに、図10に示すように、エンジン100の出力トルクとエンジン回転数NEとをパラメータに持つマップに基づいて無段変速状態と有段変速状態とを切換えるようにしてもよい。
【0078】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施の形態に係る制御装置を搭載したハイブリッド車を示す概略構成図である。
【図2】トランスミッションを示す図(その1)である。
【図3】作動表を示す図(その1)である。
【図4】変速線図を示す図である。
【図5】油圧制御装置を示す図である。
【図6】ECUの機能ブロック図である。
【図7】ECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図8】トランスミッションを示す図(その2)である。
【図9】作動表を示す図(その2)である。
【図10】無段変速状態および有段変速状態の制御領域を示す図である。
【符号の説明】
【0080】
100 エンジン、200 トランスミッション、300 第1変速部、310 動力分割機構、311 第1MG、312 第2MG、314 C0クラッチ、316 B0ブレーキ、320 プラネタリギヤ、322 サンギヤ、324 ピニオンギヤ、326 キャリア、328 リングギヤ、400 第2変速部、500 プロペラシャフト、600 デファレンシャルギヤ、700 後輪、800 ECU、802 ROM、804 シフトレバー、806 ポジションスイッチ、812 ブレーキペダル、814 ブレーキスイッチ、840 発電制御部、850 シフト操作予想部、860 中止部、1000 パワートレーン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回転電機に連結される第1の回転要素、第2の回転電機に連結される第2の回転要素およびエンジンに連結される第3の回転要素を有する差動機構と、前記第2の回転要素に連結され、前記第2の回転要素から入力されるトルクを車輪に伝達する変速機構とを備えるパワートレーンの制御装置であって、
前記第1の回転電機を駆動するように前記エンジンを制御するとともに前記第2の回転要素が停止するように前記第2の回転電機を制御するための制御手段と、
運転者のシフト操作を予想するための予想手段と、
前記シフト操作が予想される場合、前記第1の回転電機を駆動するように前記エンジンを制御するとともに前記第2の回転要素が停止するように前記第2の回転電機を制御することを中止するための手段とを含む、パワートレーンの制御装置。
【請求項2】
前記予想手段は、運転者によるブレーキ操作が行なわれた場合、前記シフト操作を予想するための手段を含む、請求項1に記載のパワートレーンの制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第1の回転電機を用いて発電する際、前記第1の回転電機を駆動するように前記エンジンを制御するとともに前記第2の回転要素が停止するように前記第2の回転電機を制御するため手段を含む、請求項1または2に記載のパワートレーンの制御装置。
【請求項4】
第1の回転電機に連結される第1の回転要素、第2の回転電機に連結される第2の回転要素およびエンジンに連結される第3の回転要素を有する差動機構と、前記第2の回転要素に連結され、前記第2の回転要素から入力されるトルクを車輪に伝達する変速機構とを備えるパワートレーンの制御方法であって、
前記第1の回転電機を駆動するように前記エンジンを制御するとともに前記第2の回転要素が停止するように前記第2の回転電機を制御するステップと、
運転者のシフト操作を予想するステップと、
前記シフト操作が予想される場合、前記第1の回転電機を駆動するように前記エンジンを制御するとともに前記第2の回転要素が停止するように前記第2の回転電機を制御することを中止するステップとを含む、パワートレーンの制御方法。
【請求項5】
前記シフト操作を予想するステップは、運転者によるブレーキ操作が行なわれた場合、前記シフト操作を予想するステップを含む、請求項4に記載のパワートレーンの制御方法。
【請求項6】
前記第1の回転電機を駆動するように前記エンジンを制御するとともに前記第2の回転要素が停止するように前記第2の回転電機を制御するステップは、前記第1の回転電機を用いて発電する際、前記第1の回転電機を駆動するように前記エンジンを制御するとともに前記第2の回転要素が停止するように前記第2の回転電機を制御するステップを含む、請求項4または5に記載のパワートレーンの制御方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の制御方法をコンピュータに実現させるプログラム。
【請求項8】
請求項4〜6のいずれかに記載の制御方法をコンピュータに実現させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−149886(P2008−149886A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339784(P2006−339784)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】