説明

フッ素化非晶質炭素膜及びその形成方法

【課題】水素の含有量を1原子%以下とすることで400度における十分な耐熱性を付与された、ケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜及びその形成方法を提供する。
【解決手段】式CxFy(式中x, yは2以上の整数)で表される不飽和フッ化炭素ガスと式SiaFb(式中a, bは1以上の整数)で表されるフッ化ケイ素ガスを原料ガスとして用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素化非晶質炭素膜及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセス技術のめざましい進歩により、半導体素子や金属配線の微細化及び高集積化が図られている。これに伴って金属配線における信号の遅延が半導体集積回路の動作速度に大きな影響を及ぼすようになってきているが、金属配線の間にある層間絶縁膜と呼ばれる絶縁膜については、比誘電率の低いものが要求されている。
【0003】
層間絶縁膜として従来用いられてきたSiO2膜やSiOF膜などの比誘電率は3.5〜3.8程度であるが、フッ素化非晶質炭素膜の比誘電率は3.0以下と低いため、フッ素化非晶質炭素膜を層間絶縁膜として用いることにより、金属配線における信号遅延を低減させることが可能である。しかしながらフッ素化非晶質炭素膜は有機膜であるために高温下における脱ガス発生等、耐熱性に欠点がある。そこで層間絶縁膜として要求される400℃での耐熱性を有するフッ素化非晶質炭素膜の開発が進められている。
【0004】
従来から層間絶縁膜として要求される耐熱性を有するフッ素化非晶質炭素膜としてケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜が提案されている。例えば特許文献1、特許文献2にはケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜が記載されているが、原料ガスに水素ガス又は炭化水素ガスを含むことを必須とする。原料ガス中に水素を含むために脱ガスの原因となる水素が膜中に取り込まれしまう。このようにして形成されたケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜は、強固なケイ素‐炭素結合を有するが、水素が膜中に取り込まれるために十分な耐熱性を有していない。
【0005】
【特許文献1】特許第2748879号公報
【特許文献2】特開平11‐162961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような従来技術の状況に鑑みてなされたものであり、水素の含有量を1原子%以下とすることで400度における十分な耐熱性を付与された、ケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜及びその形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、プラズマCVDにより被処理物上にケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜を形成する方法において、様々な原料ガスを使用して鋭意検討を行なった。その結果、式CxFy(式中x, yは2以上の整数)で表される不飽和フッ化炭素ガスと式SiaFb(式中a, bは1以上の整数)で表されるフッ化ケイ素ガスを原料ガスとして用いることにより、400度における十分な耐熱性を付与されたケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜を形成できること及び該フッ素化非晶質炭素膜は水素の含有量は1原子%以下であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明の第1によれば、水素の含有量が1原子%以下であることを特徴とする膜中にケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜が提供される。さらに前記ケイ素の含有量は1〜20原子%であるフッ素化非晶質炭素膜が好ましい。
【0009】
本発明の第2によれば、式CxFy(式中x, yは2以上の整数)で表される不飽和フッ化炭素ガスと式SiaFb(式中a, bは1以上の整数)で表されるフッ化ケイ素ガスを原料ガスとして、プラズマCVDを用いて成膜することを特徴とするフッ素化非晶質炭素膜の形成方法が提供される。さらに前記不飽和フッ化炭素ガスはパーフルオロ‐2‐ペンチン、パーフルオロシクロペンテン、パーフルオロ‐1、3‐ブタジエン、パーフルオロ‐2‐ブチンの少なくとも1つであることが好ましい。さらに前記原料ガスに添加ガスとして、水素を含まない低分子量ガスを添加しても良い。さらに前記原料ガスをAr、Xe又はKrで希釈して用いても良い。
【0010】
本発明の第3によれば、式CxFy(式中x, yは2以上の整数)で表される不飽和フッ化炭素ガスと式SiaFb(式中a, bは1以上の整数)で表されるフッ化ケイ素ガスを原料ガスとして、プラズマCVDを用いて成膜することを特徴とするフッ素化非晶質炭素膜の形成方法である。
【0011】
本発明の第4によれば、前記不飽和フッ化炭素ガスはパーフルオロ‐2‐ペンチン、パーフルオロシクロペンテン、パーフルオロ‐1、3‐ブタジエン、パーフルオロ‐2‐ブチンの少なくとも1つであることを特徴とするフッ素化非晶質炭素膜の形成方法である。
【0012】
本発明の第5によれば、原料ガスに添加ガスとして、水素を含まない低分子量ガスを添加することを特徴とするフッ素化非晶質炭素膜の形成方法である。
【0013】
本発明の第6によれば、原料ガスをAr、Xe又はKrで希釈して用いることを特徴とするフッ素化非晶質炭素膜の形成方法である。
【0014】
本発明の第7によれば、前記のフッ素化非晶質炭素膜を有することを特徴とする半導体装置である。
【0015】
本発明の第8によれば、前記のいずれかの方法により製造されるフッ素化非晶質炭素膜を有することを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、式CxFy(式中x, yは2以上の整数)で表される不飽和フッ化炭素ガスと式SiaFb(式中a,bは1以上の整数)で表されるフッ化ケイ素ガスを原料ガスとして、プラズマCVDを用いて成膜することにより、膜中の水素の含有量を1原子%以下にして、400度における十分な耐熱性を付与されたケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜の形成が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の膜中にケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜は水素の含有量が1原子%以下であることを特徴とする。水素の含有量を1原子%以下にすることで400度における十分な耐熱性を付与することができる。
【0018】
また本発明のケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜の形成方法は式CxFy(式中x, yは2以上の整数)で表される不飽和フッ化炭素ガスと式SiaFb(式中a, bは1以上の整数)で表されるフッ化ケイ素ガスを原料ガスとして、プラズマCVDを用いて成膜することを特徴とする。水素を含まない原料ガスを用いることで、ケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜の水素の含有量を1原子%以下にすることができる。
【0019】
本発明に用いられるプラズマCVDの装置としては特に制約されないが、例えば、平行平板型CVD装置、マイクロ波CVD装置、プラズマ分離型マイクロ波CVD装置、ECR-CVD装置、多極石英型プラズマCVD装置、同軸円筒型プラズマCVD装置、高密度プラズマCVD装置(プラズマ源としてECRやヘリコン波を使用)などが挙げられる。
【0020】
本発明においてフッ素化非晶質炭素膜の形成する過程は明確ではないが、プラズマ放電分解の条件下において、原料ガスが分解するとともに、付加して重合して生成した堆積種が被処理物上に強固に固着することで形成されるものと考えられる。
【0021】
本発明のフッ素化非晶質炭素膜を形成する被処理物としては、プラズマCVDによりその表面にフッ素化非晶質炭素膜を形成し得るものであれば、その材質、大きさ、厚み、形状などに特に制限されない。被処理物としては、例えば、半導体装置の製造中間体である基板、表面に光学素子が形成された基板などが挙げられる。
【0022】
本発明に用いられる原料ガスは、放電解離条件下でプラズマ化し、プラズマ中で励起された堆積種が被処理物表面に堆積することで、フッ素化非晶質炭素膜を形成するガスである。本発明に用いられるフッ化炭素ガスは式CxFy(式中x, yは2以上の整数)で表される不飽和フッ化炭素ガスであれば特に限定されない。
【0023】
その中でもパーフルオロ‐2‐ペンチン、パーフルオロシクロペンテン、パーフルオロ‐1、3‐ブタジエン、パーフルオロ‐2‐ブチンの少なくとも1つであることが好ましい。
【0024】
不飽和フッ化炭素ガスは単独のガスを使用しても数種のガスを混合して使用しても良い。
【0025】
本発明に用いられる原料ガスは形成されるフッ素化非晶質炭素膜の特性を高めるために添加ガスを混入することができる。原料ガスに添加するガスとしては水素を含まない低分子量ガスであれば特に限定されず、例えば窒素ガス、酸素ガス、一酸化炭素ガス、フッ素ガス、三フッ化窒素ガスなどが上げられる。添加量は特に限定されない。
【0026】
本発明に用いられる原料ガスはAr、Xe又はKrで希釈して用いても良い。希釈量は特に限定されないが、原料ガスの反応性を制御し、操作性を高めることができる。
【0027】
本発明の膜中にケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜の厚みは特に制限されないが、通常10nm〜10μmの範囲である。本発明で形成されるフッ素化非晶質炭素膜の比誘電率は2.5であり、配線間隔(上下及び左右)の狭い配線層の間に用いることにより、金属配線における信号遅延を低減させることが可能である。また強固なケイ素‐炭素結合を有することにより、層間絶縁膜として要求され、フッ素化非晶質炭素膜の欠点である400℃での耐熱性を有する。したがって本発明で形成されるケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜は層間絶縁膜として半導体デバイスに用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
被処理物として8インチサイズのウェハーを用い、プラズマCVD装置としてマイクロ波プラズマCVD装置を用いて、下記の条件にてプラズマCVDにより、膜厚が約200nmのフッ素化非晶質炭素膜を形成する。形成したフッ素化非晶質炭素膜の比誘電率、水素含有量、ケイ素含有量、脱ガス量を表1に示す。
【0030】
(1)原料ガス
パーフルオロ‐2‐ペンチンの流量:100sccm
四フッ化ケイ素の流量:10sccm
(2)希釈ガス
アルゴンの流量:250sccm
(3)放電解離条件
圧力:100mTorr
マイクロ波出力(周波数:2.45GHz):2kW
基板温度:350℃
【0031】
(比誘電率測定)
(1)サンプル
低抵抗率(0.02Ωcm以下)のウェハー上に形成された膜厚200nmのフッ素化非晶質炭素膜
(2)測定法
水銀プローブ法(1MHz)
(3)測定装置
Four Dimensions, Inc. CVmap92A
【0032】
(水素含有量測定)
(1)サンプル
ウェハー上に形成された膜厚200nmのフッ素化非晶質炭素膜
(2)測定法
水素前方散乱分析(HFS)
(3)測定装置
日新ハイボルテージ(株)製 後方散乱測定装置 AN-2500
【0033】
(ケイ素含有量測定)
(1)サンプル
ウェハー上に形成された膜厚200nmのフッ素化非晶質炭素膜
(2)測定法
X線光電子分光法
(3)測定装置
KRATOS ANARYTICAL Ltd.製 AXIS-ULTRA DLD
【0034】
(脱ガス量測定)
(1)サンプル
ウェハー上に形成された膜厚200nmのフッ素化非晶質炭素膜
(2)測定法
50℃から400℃まで5℃/分の昇温した時に脱離してくるガスを測定し、フッ素化非晶質炭素膜由来の脱ガス量をウェハー100mgあたりの検出面積に換算する。
(3)測定装置
電子科学株式会社製 WA1000S
【0035】
(実施例2)
原料ガスのパーフルオロ‐2‐ペンチンの代わりにパーフルオロシクロペンテンを用いた以外は実施例1と同様の方法でフッ素化非晶質炭素膜を形成する。
【0036】
(比較例1)
原料ガスのパーフルオロ‐2‐ペンチンの代わりにパーフルオロシクロブタンを用いた以外は実施例1と同様の方法でフッ素化非晶質膜を形成する。
【0037】
(比較例2)
原料ガスのパーフルオロ‐2‐ペンチンの代わりにパーフルオロシクロブタンを用い、さらに水素ガス50sccmを用いた以外は実施例1と同様の方法でフッ素化非晶質膜を形成する。
【0038】
【表1】

【0039】
不飽和結合を有さないパーフルオロシクロブタン及び四フッ化ケイ素を原料ガスとして用いた場合(比較例1)にはフッ素化非晶質炭素膜が形成されない。不飽和結合を有さないパーフルオロシクロブタン、四フッ化ケイ素及び水素ガスを原料ガスとして用いた場合(比較例2)には水素の含有量が1原子%以上で脱ガス量が多いフッ素化非晶質膜が形成される。
一方、パーフルオロ‐2‐ペンチン又はパーフルオロシクロブテンと四フッ化ケイ素を用いた場合(実施例1及び2)には水素の含有量が1原子%以下で脱ガス量の少ないフッ素化非晶質炭素膜が形成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の含有量が1原子%以下であることを特徴とする膜中にケイ素を含有するフッ素化非晶質炭素膜。
【請求項2】
前記ケイ素の含有量は1〜20原子%であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素化非晶質炭素膜。
【請求項3】
式CxFy(式中x, yは2以上の整数)で表される不飽和フッ化炭素ガスと式SiaFb(式中a, bは1以上の整数)で表されるフッ化ケイ素ガスを原料ガスとして、プラズマCVDを用いて成膜することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフッ素化非晶質炭素膜の形成方法。
【請求項4】
前記不飽和フッ化炭素ガスはパーフルオロ‐2‐ペンチン、パーフルオロシクロペンテン、パーフルオロ‐1、3‐ブタジエン、パーフルオロ‐2‐ブチンの少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載のフッ素化非晶質炭素膜の形成方法。
【請求項5】
前記原料ガスに添加ガスとして、水素を含まない低分子量ガスを添加することを特徴とする請求項3または4に記載のフッ素化非晶質炭素膜の形成方法。
【請求項6】
前記原料ガスをAr、Xe又はKrで希釈して用いることを特徴とする請求項3、4または5に記載のフッ素化非晶質炭素膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1または2記載のフッ素化非晶質炭素膜を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項3〜6記載のいずれかの方法により製造されるフッ素化非晶質炭素膜を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。

【公開番号】特開2008−294011(P2008−294011A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134883(P2007−134883)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】