説明

フロア昇降装置

【課題】運転者による操作ペダルの踏み込み量が故障時等に不十分になるのを有効に回避することが可能なフロア昇降装置を提供する。
【解決手段】乗員用シート1の前方に配置され、上記乗員用シート1に着座した運転者が操作ペダルを踏み込む際に足の踵部が載置される可動フロア部5を昇降駆動するフロア昇降装置6は、上記可動フロア部5に入力される下向きの荷重を受け持ちつつこれを昇降可能に支持するフロア支持部材12,13と、上記可動フロア部5を下向きに付勢する付勢手段26と、この付勢手段26の付勢力に抗して上記可動フロア部5を上昇させるフロア駆動機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転席からなる乗員用シートの前方に配置され、上記乗員用シートに着座した運転者が操作ペダルを踏み込む際に足の踵部が載置される可動フロア部を昇降駆動するフロア昇降装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1に示されるように、運転者の着座姿勢を調整する着座姿勢調整装置の一部として、運転席の前方に位置する昇降可能な可動フロアを設けるとともに、この可動フロアの下方に、揺動自在な揺動アームやその先端部に取り付けられた駆動ローラ等からなるフロア昇降装置(駆動部)を設け、このフロア昇降装置で上記可動フロアを下から駆動することにより、上記可動フロアを昇降変位させることが行われている。
【0003】
この特許文献1に開示された技術によれば、上記フロア昇降装置により可動フロアを昇降駆動することにより、運転席に着座した運転者がアクセルペダル等の操作ペダルを容易かつ適正に踏み込み得るように、上記可動フロアの設置高さを調整できるという利点がある。
【特許文献1】特開2006−248447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のように、揺動アーム等の揺動変位に応じて上記可動フロアを下から押し上げるように構成されたフロア昇降装置では、上記可動フロアが上昇位置に変位した状態で装置が故障したような場合に、可動フロアが上昇位置に変位したまま保持されて、特に体格の大きい乗員(高身長者)が操作ペダルを適正に踏み込めなくなるおそれがある。
【0005】
すなわち、高身長者が操作ペダルを踏み込み操作する場合、足裏長さが長い傾向にある高身長者は、低身長者よりも足の踵部の高さを低くして操作ペダルを踏み込む必要があるが、上記のように可動フロアが上昇位置に保持されている状態では、この可動フロア部に載置される踵部の位置が必要以上に高くなるため、操作ペダルを踏み込む際の踏み込み量を十分に確保できなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、運転者による操作ペダルの踏み込み量が故障時等に不十分になるのを有効に回避することが可能なフロア昇降装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、運転席からなる乗員用シートの前方に配置され、上記乗員用シートに着座した運転者が操作ペダルを踏み込む際に足の踵部が載置される可動フロア部を昇降駆動するフロア昇降装置であって、上記可動フロア部に入力される下向きの荷重を受け持ちつつこれを昇降可能に支持するフロア支持部材と、上記可動フロア部を下向きに付勢する付勢手段と、この付勢手段の付勢力に抗して上記可動フロア部を上昇させるフロア駆動機構とを備えることを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、運転者の踵部が載置される可動フロア部が、付勢手段の下向きの付勢力に抗してフロア駆動機構により上昇駆動されるように構成されているため、例えば可動フロア部が上昇位置に変位した状態で上記フロア駆動機構が故障したような場合でも、可動フロア部を上記付勢手段の付勢力により強制的に下方に変位させることができる。したがって、上記のような故障が発生したときに、足裏長さの長い高身長者が操作ペダルを踏み込み操作する際に、その踵部の高さが必要以上に高くなってしまい、上記操作ペダルの踏み込み量が不十分になる事態を有効に回避することができる。
【0009】
上記可動フロア部は、車幅方向に延びるスライド軸を有し、上記フロア支持部材は、上記可動フロア部の左右に位置して上方に起立する縦壁部を有し、このフロア支持部材の縦壁部には、上記スライド軸の左右両端部を摺動自在に支持する前上がりまたは後上がりに傾斜したガイド溝が設けられ、上記フロア駆動機構は、上記可動フロア部を所定方向に牽引することにより、この可動フロア部を上記ガイド溝に沿って上昇させるプルケーブルを有することが好ましい(請求項2)。
【0010】
この構成によれば、一方向に牽引可能なプルケーブルを設けるだけの簡単な構成で、フロア支持部材に設けられたガイド溝に沿って上記可動フロア部をスムーズに昇降駆動できる等の利点がある。
【0011】
上記付勢手段は、一端部が上記可動フロア部に係止されかつ他端部が車体フロアに係止されたバネ部材からなり、上記可動フロア部を上記プルケーブルの牽引方向とは略反対方向に引き寄せることにより、上記ガイド溝に沿って下降する方向に上記可動フロア部を付勢するように構成されていることが好ましい(請求項3)。
【0012】
この構成によれば、上記付勢手段から可動フロア部を介してフロア支持部材に入力される付勢力と、上記プルケーブルから可動フロア部を介してフロア支持部材に入力される付勢力とをバランスさせることができるため、車体フロアに対する上記フロア支持部材の固定部に片寄った付勢力が作用することに起因してこのフロア支持部材の取付状態が不安定になるのを効果的に防止できるという利点がある。
【0013】
上記付勢手段は、上記ガイド溝の延設方向と略一致する方向に傾斜して延びるように設置されることが好ましい(請求項4)。
【0014】
この構成によれば、上記ガイド溝の周壁に上記可動フロア部のスライド軸を押し付けるような分力が発生しないため、このスライド軸を上記ガイド溝に沿ってよりスムーズに摺動させることができるという利点がある。
【0015】
上記フロア駆動機構は、上記フロア支持部材の上部に回転可能に支持された案内プーリを備え、上記プルケーブルは、上記案内プーリに巻回されることにより、上記ガイド溝の上端部から下方へと案内されて上記スライド軸の端部に接続されるように配索されることが好ましい(請求項5)。
【0016】
この構成によれば、プルケーブルによる上記スライド軸の牽引方向が、上記ガイド溝の延設方向と略一致する状態で上記スライド軸を牽引することができるため、上記プルケーブルの牽引力を上記スライド軸に効率よく伝達して可動フロア部をよりスムーズに引き上げられるという利点がある。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、運転者による操作ペダルの踏み込み量が故障時等に不十分になるのを有効に回避することが可能なフロア昇降装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明に係るフロア昇降装置の実施形態を示している。本図に示すように、車体フロア4上には運転席からなる乗員用シート1が設置されており、その前方には、上記乗員用シート1に着座した運転者の足元部に位置する車体フロア4の上面を覆うように設置された可動フロア部5と、この可動フロア部5を昇降駆動するフロア昇降装置6とが配設されている。上記可動フロア部5の前部上方には、アクセルペダルまたはブレーキペダル等からなる操作ペダル3が配設され、上記乗員用シート1に着座した運転者がこの操作ペダル3を踏み込む際に、その運転者の足の踵部が上記可動フロア部5の上面に載置されるようになっている。また、上記乗員用シート1には、そのシートクッション部1aを前後方向に駆動するシート位置調整機構2が設けられており、このシート位置調整機構2により、車体フロア4上での上記乗員用シート1の前後位置が調整されるようになっている。
【0019】
上記車体フロア4は、エンジンルームと車室とを区画するダッシュパネル7の下端部から後下がりの傾斜状態で車体の後方側に延びるキックアップ部8と、その後端部に連続して車体の後方側に延びる略平坦なフロア底部9とを有している。上記車体フロア4の上面には、遮音および断熱機能等を有するフェルト材またはグラスウール等からなるインシュレータと、その上面を被覆するカーペット材等からなる表層材とを備えた従来周知のフロアトリム材(図示せず)が設置されている。
【0020】
図2に示すように、上記車体フロア4の車幅方向中央部には、車体の前後方向に延びるフロアトンネル部10が形成されている。このフロアトンネル部10と、車室の側辺部に沿って前後方向に延びるように設置されたサイドシル(図示せず)と、上記乗員用シート1の前端部を支持するために車幅方向に延びるように設置されたクロスメンバ11と、上記車体フロア4のキックアップ部8とにより区画されたフロア底部9上には、上記可動フロア部5の左右両側辺部を支持する左右一対のフロア支持部材12,13が設置されている。そして、このフロア支持部材12,13と、後述する第1プルケーブル28,30等からなるフロア駆動機構とにより、上記フロア昇降装置6が構成されている。
【0021】
上記フロア支持部材12,13は、上記フロア底部9の左右両側辺部から略鉛直に起立する縦壁部12b,13bを備え、この縦壁部12b,13bの前後端部には、それぞれ同一角度、例えば上記キックアップ部8の傾斜角度に対応した角度で前上がりに傾斜したガイド溝14が形成されている。上記フロア支持部材12,13の内側面部には、ガイド溝14に対応する切欠きを有する補強板15が取り付けられるとともに、その外側面部には、上記ガイド溝14に対応した切欠きが底部に形成された断面コ字状のチャンネル材からなるガイド部材16が取り付けられている。また、上記フロア支持部材12,13の後端部には、上記クロスメンバ11の上面等に固定される固定ブラケット12a,13aが一体に設けられている。
【0022】
上記可動フロア部5は、図3および図4に示すように、乗員の踵部が載置される載置面を構成する平板状のボード部材18と、このボード部材18を昇降可能に支持するベース部材19とにより構成されている。このベース部材19は、棒状体がコ字状に折曲げられることにより形成された外周フレーム材20と、その左右両側辺部を互いに連結する前後一対のプレート材からなる連結部材22a,22bと、上記外周フレーム材20上に設置されて固定される外枠体23とを有し、この外枠体23および連結部材22a,22b上に上記ボード部材18が載置されてビス止め等の手段で係止されている。
【0023】
また、上記外周フレーム材20には、その前部下面に沿って車幅方向に延びるスライド軸24が溶接等により固定されるとともに、外周フレーム材20の後端部同士を連結するように車幅方向に延びるスライド軸25が溶接等により固定されている。このスライド軸24,25は、その左右両端部が上記外周フレーム材20の側方に突出し、この突出部が上記フロア支持部材12,13のガイド溝14に挿通されてそれぞれスライド自在に支持されるようになっている。そして、このようにしてスライド軸24,25両端の突出部がガイド溝14に挿通されることにより、上記可動フロア部5の昇降変位時にその軌跡がガイド溝14によって案内されるとともに、上記可動フロア部5に対し運転者の踵部等から下向きの荷重が入力された場合に、その荷重の一部が、上記スライド軸24,25を介してガイド溝14の下辺部により支持されるように構成されている。
【0024】
上記両スライド軸24,25のうち車体の前方側に位置するスライド軸24の左右には、前後方向に延びるバネ部材(引張バネ)からなる付勢手段26の前端部が係止されているとともに、この付勢手段26の後端部がフロア底部9に設けられた係止用突片9a等からなる車体側部材に係止されている。この付勢手段26は、上記スライド軸24を斜め下方に引っ張ることにより、上記ガイド溝14に沿って下降する方向にスライド軸24を付勢するように構成されている。具体的に、この付勢手段26は、後述するプルケーブル28によるスライド軸25の牽引方向とは略反対側にあたる、車体後方側の斜め下方に上記スライド軸24を付勢するように構成されている。また、上記付勢手段26には、伸縮時における騒音の発生を抑制するための合成樹脂製チューブ材27が外周部を覆うように装着されている。
【0025】
上記両スライド軸24,25のうち車体の後方側に位置するスライド軸25の一端部(当実施形態では車幅方向の外方側に位置する端部)には、図5および図6に示すように、上記シート位置調整機構2によりシートクッション部1aを車体の前方側に移動させる際に、その駆動力を上記スライド軸25の一端部に引張力として伝達する第1プルケーブル28の先端部に設けられたケーブル端リング29と、上記第1プルケーブル28からスライド軸25の一端部に伝達された駆動力をその他端部(当実施形態では車幅方向に中央部側に位置する端部)に伝達する第2プルケーブル30の基端部に設けられたケーブル端リング31とが、それぞれ鍔付きねじ等からなる係止部材32およびスペーサ33を介して係止されるように構成されている。
【0026】
上記第1および第2のプルケーブル28,30は、可撓性を有するチューブ材からなるアウタケーシング28a,30aと、このアウタケーシング28a,30aの内部に摺動自在に保持されたインナワイヤ28b,30bとを有している。そして、上記シート位置調整機構2から入力された駆動力に応じ、上記第1プルケーブル28のインナワイヤ28bが、アウタケーシング28aに沿って摺動することにより、このインナワイヤ28bを介してスライド軸25の一端部に上記駆動力が伝達されるとともに、上記インナワイヤ28bを介してスライド軸25の一端部に伝達された駆動力に応じ、上記第2プルケーブル30のインナワイヤ30bがアウタケーシング30aに沿って摺動することにより、このインナワイヤ30bを介して上記駆動力がスライド軸25の他端部に伝達されるようになっている。
【0027】
上記左右一対のフロア支持部材12,13のうち車体の外側方部側に位置するフロア支持部材12には、上記第1プルケーブル28のアウタケーシング28aの先端部(前端部)が係止される係止部34が、上記フロア支持部材12の上部後方に設けられるとともに、上記アウタケーシング28aの先端部から導出されたインナワイヤ28bが巻回される案内プーリ35が、上記ガイド部材16の上部前方側に設けられた支持軸35aにより回転自在に支持されている。そして、上記第1プルケーブル28のインナワイヤ28bが、案内プーリ35の下方から上部後方側に導出されるとともに、180°以上に亘って案内プーリ35に巻回されることにより、上記ガイド部材16の上端部から下方に向けてインナワイヤ28bの先端部(ケーブル端リング29)が案内されるようになっている。また、上記ガイド部材16の下端部には、第2プルケーブル30のアウタケーシング30aの基端部が係止される係止部36が設けられている。
【0028】
上記左右一対のフロア支持部材12,13のうち車幅方向の中央部側に位置するフロア支持部材13には、上記第2プルケーブル30のアウタケーシング30aの先端部が係止される係止部39が、上記フロア支持部材13の上部後方に設けられるとともに、上記アウタケーシング30aの先端部から導出されたインナワイヤ30bが巻回される案内プーリ38が、上記ガイド部材16の上部前方側に設けられた支持軸38aにより回転自在に支持されている。そして、上記第2プルケーブル30のインナワイヤ30bが、案内プーリ38の下方から上部後方側に導出されるとともに、180°以上に亘って案内プーリ38に巻回されることにより、上記ガイド部材16の上端部から下方に向けてインナワイヤ30bの先端部(ケーブル端リング31)が案内されるようになっている。
【0029】
なお、上記ガイド部材16と案内プーリ35,38との間には、ガイド部材16と交差して案内プーリ35,38の下方部に案内された上記第1プルケーブル28および第2プルケーブル30のインナワイヤ28b,30bの設置位置を規制することにより、このインナワイヤ28b,30bの設置高さを、案内プーリ35,38の設置高さに一致させるための規制部99が設けられている。
【0030】
上記構成において、乗員用シート1のシートクッション部1aが車体の最後方部に位置した状態では、上記スライド軸24を下方に付勢する上記付勢手段26の付勢力および可動フロア部5の自重等に応じ、図7に示すように、可動フロア部5が最下方位置に係止されている。この状態から、後述するように乗員用シート1のシートクッション部1aを車体の前方側に移動させる操作が行われると、その駆動力が上記第1プルケーブル28の牽引力として取り出され、この第1プルケーブル28および案内プーリ35を介してスライド軸25の一端部に上記駆動力が伝達されるとともに、さらに第2プルケーブル30および案内プーリ38を介してスライド軸25の他端部に伝達される。これにより、上記スライド軸25が、上記付勢手段26の付勢力に抗して、図4に示すようにフロア支持部材12,13のガイド溝14に沿って斜め上方に引き上げられるとともに、これに対応して上記可動フロア部5が前進しつつ上昇することになる。すなわち、可動フロア部5を上記付勢手段26の付勢力に抗して上昇させるフロア駆動機構が、上記第1および第2のプルケーブル28,30、および案内プーリ35,38により構成されている。
【0031】
一方、シートクッション部1aが上記前進位置から再び後退すると、上記第1プルケーブル28の牽引力が解除されるため、上記スライド軸24を下方に付勢する付勢手段26の付勢力等に応じて、図7に示すように、可動フロア部5が下方に引き下げられることになる。
【0032】
上記乗員用シート1の設置部に位置する車体フロア4および上記クロスメンバ11上には、図8〜図10に示すように、シートクッション部1aを前後移動可能に支持する左右一対のシートスライドロアレール41が設置されるとともに、このシートスライドロアレール41に沿ってシートスライドアッパレール42がスライド変位可能に支持されている。上記シートスライドロアレール41は、上面が開口したC型鋼等からなり、その前後両端部には、取付ブラケット43,44が溶接される等により一体に接合されている。そして、上記取付ブラケット43,44が、クロスメンバ11の上面等に締結ボルト等を介して固定されることにより、上記シートスライドロアレール41がやや前上がりに傾斜した状態でフロア底部9上に設置されている。
【0033】
上記左右のシートスライドロアレール41内には、図10に示すように、ねじ軸からなる回転軸45が回転自在に設置されるとともに、上記左右のシートスライドアッパレール42の前端部間には、駆動モータ46により回転駆動される駆動軸47およびこれを回転可能に支持する支持部材48が車幅方向に延びるように設置されている。また、上記駆動軸47の左右両端部には、その駆動力を上記回転軸45に伝達するベベルギア機構またはウォームホイールギア等からなる動力伝達部49が設けられている。
【0034】
そして、上記シートスライドロアレール41、シートスライドアッパレール42、回転軸45、駆動モータ46、駆動軸47および動力伝達部49と、シートスライドロアレール41の底部に固定されて上記回転軸45が螺合するナットブロック41aとにより、上記シートスライドアッパレール42をシートスライドロアレール41に沿ってスライド変位させるとともに、上記乗員用シート1のシートクッション部1aを前後移動させてその前後位置を調整するシート位置調整機構2が構成されている。
【0035】
すなわち、図外の前進スイッチが操作されることにより、上記駆動モータ46を正転させる制御信号が出力され、この制御信号に応じて駆動モータ46が正回転すると、上記シートクッション部1aを前進させる方向の駆動力が上記駆動軸47、動力伝達部49および回転軸45に伝達される。この回転軸45は、上記シートスライドロアレール41の底部に固定されたナットブロック41aによって支持された状態で、上記動力伝達部49から入力された駆動力により回転駆動されて車体の前方側に螺進することにより、上記シートスライドアッパレール42とともに乗員用シート1のシートクッション部1aが車体の前方側に駆動される。
【0036】
一方、図外の後退スイッチが操作されることにより、上記駆動モータ46を逆回転させる制御信号が出力され、この制御信号に応じて駆動モータ46が逆転すると、上記シートクッション部1aを後退させる方向の駆動力が上記駆動軸47、動力伝達部49および回転軸45に伝達され、この回転軸45が逆転駆動されて車体の後方側に螺進することにより、上記シートスライドアッパレール42および乗員用シート1のシートクッション部1aが車体の後方側に駆動されるようになっている。
【0037】
また、上記シートスライドアッパレール42には、乗員用シート1のシートクッション部1aを昇降変位させるシート昇降機構50が設けられている。このシート昇降機構50は、図8および図9に示すように、シートクッション部1aの左右両側辺部に設けられたクッションフレーム51と、シートスライドアッパレール42の前部上面に設置されて上記クッションフレーム51の前端部を支持する前部ブラケット52および前部リンク53と、シートスライドアッパレール42の後部上面に設置されて上記クッションフレーム51の後方部を支持する後部ブラケット54および三角形状の後部リンク55と、左右の後部リンク55の後端部同士および上記両クッションフレーム51の後方下端部同士を連結する連結軸56と、シートスライドアッパレール42の中央部上面に設置されて上記後部リンク55に駆動力を伝達する中央リンク57およびこれを支持する中央ブラケット58と、上記中央リンク57の上部を上記後部リンク55の前端部に連結する連結リンク59と、下記駆動軸60、駆動レバー61および昇降駆動部62とを有している。
【0038】
上記中央リンク57は、その下端部が車幅方向に延びる駆動軸60に固定されるとともに、この駆動軸60を介して上記中央ブラケット58に回動自在に支持されている。上記駆動軸60には、この駆動軸60を回動変位させる駆動レバー61が固定されている。また、左右一対のシートスライドアッパレール42の一方(車幅方向に外方側)に設けられた上記中央ブラケット58には、駆動軸60に固定された上記駆動レバー61を駆動する昇降駆動部62が設けられている。
【0039】
上記昇降駆動部62は、図11および図12に示すように、前端部が連結ピン63を介して上記駆動レバー61の先端部(下端部)に連結されたねじ軸64と、このねじ軸64を回転駆動する駆動モータ65およびギア機構66と、このギア機構66の前面に固着されたガイドブラケット67とを有し、このガイドブラケット67の基端部が支持ブラケット68を介して上記中央ブラケット58に支持されている。また、上記ギア機構66には、駆動モータ65の出力軸65aに固着されたウォームギア69と、このウォームギア69により回転駆動されるウォームナット70とが配設され、このウォームナット70には、上記ねじ軸64に螺合するねじ孔が形成されている。
【0040】
そして、上記駆動モータ65からウォームギア69を介して入力される駆動力により上記ウォームナット70が回転駆動されるのに応じ、このウォームナット70に螺合した上記ねじ軸64が回転してねじ送りされるようになっている。このねじ軸64がねじ送りされるのに応じ、その先端部に設けられた上記連結ピン63が、ガイドブラケット67に形成された支持溝71に沿って前後移動し、その駆動力が連結ピン63を介して上記駆動レバー61に伝達されることにより、この駆動レバー61が揺動変位して上記駆動軸60が回動駆動される。
【0041】
また、上記駆動軸60が回転駆動されるのに応じて上記中央リンク57が揺動変位するとともに、その駆動力が連結リンク59を介して上記後部リンク55に伝達され、この後部リンク55が揺動変位するとともに、これに対応して前部リンク53が揺動変位することにより、シートクッション部1aが昇降駆動されるように構成されている。すなわち、乗員用シート1のシートクッション部1aが車体の後方側に位置した状態では、図8に示すように、上記前部リンク53および中央リンク57が後傾した状態となるとともに、後部リンク55の後端部に設けられた連結軸56が下方に位置した状態となることにより、シートクッション部1aの座面が下方に位置した状態に保持されている。
【0042】
上記構成において、車体の後方部に位置する乗員用シート1のシートクッション部1aがシート位置調整機構2により車体の前方側に駆動されると、これに対応して上記シート昇降機構50の駆動モータ65を正転駆動する制御信号が図外の制御手段から出力され、この駆動モータ65の正転駆動力が上記ギア機構66、ねじ軸64、連結ピン63、駆動レバー61および駆動軸60を介して中央リンク57に伝達され、この中央リンク57が、上記後傾状態から図13に示すように起立状態に移行する。そして、上記中央リンク57が起立状態に移行するのに応じ、その駆動力が連結リンク59を介して後部リンク55に伝達され、この後部リンク55の前端部が車体の前方側に引っ張られることにより、後部リンク55の後端部に設けられた上記連結軸56が上昇するとともに、これに応じてシートクッション部1aの後端部が押し上げられるように駆動される。
【0043】
また、上記後部リンク55の揺動変位に連動して前部リンク53が後傾状態から起立状態に移行するため、これに応じてシートクッション部1aの前端部が押し上げられつつ前方に移動するように駆動され、このシートクッション部1aが上記下方位置から図13に示す上方位置に変位する。さらに、この実施形態では、上記シートクッション部1aの前端部の上方移動量に比べて後端部の上方移動量が大きく設定されることにより、上記シートクッション部1aの上方移動に応じてその座面の傾斜角度が次第に小さくなるように構成されている。
【0044】
上記乗員用シート1のシートスライドロアレール41には、図14〜図16に示すように、上記シート位置調整機構2により乗員用シート1のシートクッション部1aを車体の前方側へ移動させる際に、その駆動力を、上記可動フロア部5の側方からクロスメンバ11を経てその後方側に導出される上記第1プルケーブル28の牽引力として取り出すケーブル牽引機構72が設けられるとともに、このケーブル牽引機構72には、上記プルケーブル28の牽引ストロークを低減して上記可動フロア部5のスライド軸25に伝達する後述の減速機構と、上記プルケーブル28の弛みを除去して所定のテンションをインナワイヤ28bに付与するとともに上記可動フロア部5の設置高さを手動操作で微調整する後述の調整機構89とが設けられている。
【0045】
上記ケーブル牽引機構72は、シートスライドロアレール41の外側面部に固定された前後一対の取付ブラケット73と、この取付ブラケット73に前後両端部が固定されてシートスライドロアレール41の側方部に立設された支持プレート74と、この支持プレート74の後端部に突設された支持軸75と、この支持軸75によって回転可能に枢支された大径プーリ76と、この大径プーリ76と一体に回転するように連結された小径プーリ77とを有し、上記支持プレート74の前端部には、上記第1プルケーブル28のアウタケーシング28aの基端部(後端部)が係止される係止部78が設けられている。この係止部78に係止されたアウタケーシング28aの基端部から車体の後方側に向けてインナワイヤ28bが導出されるとともに、このインナワイヤ28bが上記小径プーリ77に巻回され、かつ上記インナワイヤ28bの基端部に設けられたT型エンド金具28cが上記小径プーリ77の外周部に係止されるようになっている。
【0046】
また、上記大径プーリ76には、駆動ワイヤ79が巻回されるとともに、その一端部に設けられたT型エンド金具79aが大径プーリ76の外周部に係止されている。上記駆動ワイヤ79の他端部は、支持プレート74の上面に取り付けられた断面C形鋼等からなるガイド部材80内に導入されることにより、車体の前方側に延びるように設置されている。上記ガイド部材80内には、スライドブロック81が配設されてスライド自在に支持されている。このスライドブロック81には、上記シートスライドアッパレール42の上面に取り付けられた上記中央ブラケット58から側方に向けて突設された駆動ピン83が嵌入される係合孔81aが形成されるとともに、上記駆動ワイヤ79の他端部に設けられたT型エンド金具79bが係止される係止孔が形成されている。
【0047】
そして、上記スライドブロック81の係合孔81aにシートスライドアッパレール42の駆動ピン83が嵌入されることにより、上記第1プルケーブル28の基端部が、上記駆動ワイヤ79、駆動ピン83およびシートスライドアッパレール42等を介してシートクッション部1aに連結されている。そして、このシートクッション部1aの前方移動時に、その駆動力が、上記第1プルケーブル28のインナワイヤ28bを車体の後方側に引っ張る牽引力として取り出されるとともに、その牽引ストロークが上記大径プーリ76および小径プーリ77を備えた減速機構により低減されて上記可動フロア部5のスライド軸25に伝達されるように構成されている。
【0048】
すなわち、上記シート位置調整機構2によりシートクッション部1aが車体の前方側に駆動されると、これに対応して上記スライドブロック81がガイド部材80に沿って車体の前方側に移動するとともに、上記駆動ワイヤ79の他端部(T型エンド金具79b)が車体の前方側に引っ張られて上記大径プーリ76が図14の反時計方向(矢印α方向)に回転駆動される。この大径プーリ76が回転すると、上記小径プーリ77も同角度だけ回転するため、両プーリ76,77の径比に応じた減速率で上記駆動ワイヤ79の牽引ストロークが低減されて上記第1プルケーブル28のインナワイヤ28bに伝達される。これにより、上記プルケーブル28のアウタケーシング28aからインナワイヤ28bを車体の後方側に引き出す方向(矢印β方向)の牽引力が作用し、この牽引力が上記可動フロア部5のスライド軸25に伝達され、これに応じてスライド軸24,25が上記ガイド溝14に沿って斜め上方にスライド変位することにより、可動フロア部5が上昇駆動されるようになっている。
【0049】
以上のように、上記構成では、シート位置調整機構2によりシートクッション部1aが前方側に駆動されると、これに連動してケーブル牽引機構72がプルケーブル28を後方側に牽引し、その駆動力により可動フロア部5が上昇駆動されるようになっている。そして、このようにシートクッション部1aの移動に連動して牽引力が付与されるプルケーブル28等により可動フロア部5を昇降駆動するフロア昇降装置6を備えた車両では、運転者の着座姿勢がその体格に応じて適正に調整されるという利点がある。
【0050】
すなわち、運転席からなる乗員用シート1に背の高い運転者が着座した場合には、図1に示すように、乗員用シート1のシートクッション部1aを車体の後方側に位置させることにより、上記乗員用シート1に着座した乗員の視線を適正ラインに一致させるとともに、図7に示すように、上記可動フロア部5を下方に位置させることにより、運転者の踵部の高さを、上記乗員用シート1の前方に配設された操作ペダル3を適正に踏み込み操作し得るような高さに設定することができる。一方、この状態から、上記乗員用シート1に着座する運転者が高身長者から女性ドライバー等からなる低身長者に乗り代わることにより、上記シート位置調整機構2を使用して乗員用シート1を車体の前方側に移動させた場合には、その駆動力が上記ケーブル牽引機構72を介して第1プルケーブル28に伝達されるとともに、このプルケーブル28等からなるフロア駆動機構により、上記可動フロア部5のスライド軸25が上記ガイド溝14に沿って斜め上方に引き上げられ、これに応じて可動フロア部5が所定量上昇する。これにより、高身長者に比べて足裏長さが短い傾向にある低身長者が、上記操作ペダル3に足を載せてこれを適正に踏み込むことができるようになる。
【0051】
図14〜図16に示すように、上記可動フロア部5の高さを手動操作で微調整する上記調整機構89は、支持プレート74の内壁面部に設けられたラチェット装置等からなる保持手段84と、この保持手段84の駆動部に嵌着される駆動軸85aを有する操作レバー85と、この操作レバー85の駆動軸85aに着脱可能に係止される揺動アーム86と、この揺動アーム86の先端部に支持されたダンサープーリ87と、上記揺動アーム86等の設置部を覆う保護カバー88とを有している。
【0052】
このような調整機構89を含むケーブル牽引機構72を、上記シート位置調整機構2やフロア昇降装置6等とともに車体に組み付ける際には、上記保護カバー88に、第1プルケーブル28のインナワイヤ28b、操作レバー85および揺動アーム86等が一体に組み込まれた状態で、これらがシート位置調整機構2とともに車室内に搬入され、このシート位置調整機構2および上記フロア昇降装置6の設置後に、操作レバー85の駆動軸85aが上記保持手段84の駆動部に嵌着される。また、上記ダンサープーリ87を介して車体の後方側に導出されたインナワイヤ28bの基端部に設けられたT型エンド金具28cが上記小径プーリ77の外周部に係止され、かつ上記保護カバー88が支持プレート74の外壁面にビス止めされる等により、上記第1プルケーブル28および駆動ワイヤ79と、上記大径プーリ76および小径プーリ77を備えたケーブル牽引機構72とを介して、可動フロア部5のスライド軸25が上記シートクッション部1aに接続されるようになっている。
【0053】
上記調整機構89を使用して第1プルケーブル28の弛みを除去することにより所定のテンションをインナワイヤ28bに付与する際には、図14および図15の矢印γに示すように、上記操作レバー85の先端部を下降させる方向に揺動操作して上記ダンサープーリ87を上昇させる方向に揺動アーム86を揺動変位させるとともに、この操作レバー85の揺動角度を上記ラチェット装置等からなる保持手段84によって保持する。これにより上記ダンサープーリ87を介して第1プルケーブル28のインナワイヤ28bが所定位置に押し上げられた状態に保持され、この押上力に応じたテンションが上記インナワイヤ28bに付与されることになる。
【0054】
さらに、上記ダンサープーリ87を上昇させる方向に操作レバー85を揺動操作すると、上記アウタケーシング28aの後端部からインナワイヤ28bを車体の後方側に引き出す方向の駆動力が作用し、この駆動力が、上記可動フロア部5のスライド軸25に伝達されることにより、可動フロア部5が上昇駆動されてその設置高さが手動操作で微調整される。すなわち、上記第1プルケーブル28のインナワイヤ28bから上記スライド軸25に入力された駆動力に応じ、このスライド軸25が上記ガイド溝14に沿って引き上げられることにより、上記可動フロア部5が斜め上方に移動してその設置高さが微調整されるようになっている。
【0055】
なお、上記調整機構89を介して第1プルケーブル28に付与されたテンションを低減し、あるいは可動フロア部5を下降させる方向にその設置高さを手動操作で微調整する際には、図外の保持解除レバーを操作して上記保持手段84による揺動アーム86の保持力を解除する。これにより、上記ダンサープーリ87によるインナワイヤ28bの押上力が解放されてインナワイヤ28bに付与されるテンションが低減されることになる。また、上記操作レバー85の先端部を上昇させる方向に揺動操作して上記ダンサープーリ87を下降させる方向に揺動アーム86を揺動変位させることにより、上記インナワイヤ28bに付与されるテンションを、さらに低減させると、上記可動フロア部5のスライド軸25に伝達される引張力が0になるため、上記付勢手段26の付勢力に応じ、スライド軸24が上記ガイド溝14に沿って引き下げられて上記可動フロア部5が下降するようにその設置高さが微調整される。
【0056】
上記のように運転席からなる乗員用シート1の前方に配置され、上記乗員用シート1に着座した運転者が操作ペダル3を踏み込む際に足の踵部が載置される可動フロア部5を昇降駆動するフロア昇降装置6を、上記可動フロア部5に入力される下向きの荷重を受け持ちつつこれを昇降可能に支持するフロア支持部材12,13と、上記可動フロア部5を下向きに付勢する付勢手段26と、この付勢手段26の付勢力に抗して上記可動フロア部5を上昇させるプルケーブル28等からなるフロア駆動機構とを有するように構成した上記実施形態によれば、運転者による操作ペダル3の踏み込み量が故障時等に不十分になるのを有効に回避できるという利点がある。
【0057】
すなわち、上記構成によれば、運転者の踵部が載置される可動フロア部5が、付勢手段26の下向きの付勢力に抗してフロア駆動機構(プルケーブル28や案内プーリ35等)により上昇駆動されるように構成されているため、例えば上記可動フロア部5が上昇位置に変位した状態で、プルケーブル28が切断される等により上記フロア駆動機構が故障したような場合でも、上記可動フロア部5を付勢手段26の付勢力により強制的に下方に変位させることができる。したがって、上記のような故障が発生したときに、足裏長さの長い高身長者が、上記可動フロア部5の前部上方にある操作ペダル3を踏み込み操作する際に、その踵部の高さが必要以上に高くなってしまい、アクセルペダルやブレーキペダル等からなる上記操作ペダル3の踏み込み量が不十分になる事態を有効に回避することができる。これにより、運転者は、上記のような故障にかかわらず、車両を適正に運転操作することができ、最寄りのサービス工場等まで車両を安全に移動させて必要な修理を受けることができる。
【0058】
また、上記可動フロア部5を下向きに付勢する付勢手段26を設けたことで、上記シートクッション部1aの後方移動時に、可動フロア部5を速やかに下方位置へ変位させることができるとともに、上記付勢手段26の付勢力に応じて可動フロア部5を下方位置に保持することにより、そのがたつきを効果的に防止できるという利点がある。
【0059】
また、上記実施形態では、可動フロア部5に設けられた車幅方向に延びるスライド軸24,25の両端部を、上記フロア支持部材12,13の縦壁部12b,13bに設けられたガイド溝14によって摺動自在に支持するとともに、上記フロア駆動機構の一部としてのプルケーブル28で上記スライド軸25を牽引することにより、上記可動フロア部5を上昇させるようにしたため、一方向に牽引可能なプルケーブル28を設けるだけの簡単な構成で上記可動フロア部5を昇降駆動できるという利点がある。
【0060】
すなわち、上記構成では、乗員用シート1の前方移動に連動して牽引力を得るプルケーブル28により、可動フロア部5のスライド軸25が所定方向に牽引され、これに応じて可動フロア部5が上記付勢手段26の付勢力に抗して上昇する一方、乗員用シート1の後方移動時には、上記プルケーブル28の牽引力が解除されることにより、上記付勢手段26の付勢力に応じ上記可動フロア部5が下降するようになっているため、上記可動フロア部5を下降させるために、上記プルケーブル28とは反対方向に可動フロア部5を牽引するプルケーブルを別途設ける必要がなく、上記可動フロア部5を駆動するフロア駆動機構の構造を簡素化することができる。
【0061】
また、上記構成によれば、ガイド溝14に支持されたスライド軸25をプルケーブル28で牽引するだけの簡単な構成で、上記可動フロア部5をガイド溝14に沿って案内しながらスムーズに昇降変位させることができる。しかも、上記プルケーブル28に牽引力を付与する駆動源(具体的にはケーブル牽引機構72)を、上記フロア昇降装置6のフロア支持部材12,13から離れた場所に配置することができるため、このフロア支持部材12,13の外側面部に配置される上記フロア駆動機構をよりコンパクトに構成することが可能である。
【0062】
さらに、上記実施形態に示すように、可動フロア部5のスライド軸24,25の左右両端部を、フロア支持部材13に設けられた前上がりのガイド溝14に沿って摺動可能に支持した場合には、上記可動フロア部5に作用する下向きの荷重、つまり乗員の足が載置される等により可動フロア部5に作用する荷重の一部を上記ガイド溝14の下辺部に負担させることができるため、上記プルケーブル28,30に過大な荷重が作用するのを防止することにより、上記可動フロア部5を安定して支持しつつ、この可動フロア部5を上記ガイド溝14に沿って軽い力でスムーズに昇降変位させることができるという利点がある。すなわち、可動フロア部5のスライド軸24,25をガイド溝14によって支持しつつ、上記プルケーブル28,30のインナワイヤ28b,30bから上記スライド軸25に入力された駆動力に応じ、このスライド軸25を上記ガイド溝14に沿って引き上げることにより、上記可動フロア部5をスムーズに昇降変位させることができる。
【0063】
なお、上記ガイド溝14を前上がりに傾斜させてなる上記実施形態に代え、このガイド溝を後上がりに傾斜させた構造とすることもできる。しかし、上記のようにガイド溝14を前上がりに傾斜させるとともに、その傾斜角度を、車室の前部下方に設けられたダッシュパネル7の傾斜角度に対応した値に設定した場合には、上記可動フロア部5のスライド軸24,25をガイド溝14に沿って摺動変位させることにより、上記可動フロア部5を図4に示す上方位置から図5に示す下方位置に昇降変位させる際に、上記ダッシュパネル7と可動フロア部5の前端部との間隔を一定に維持できるため、この間隔が必要以上に大きくなって乗員が違和感を受けるのを防止できるという利点がある。
【0064】
また、上記実施形態では、上記プルケーブル28(第1プルケーブル28)のインナワイヤ28bを、案内プーリ35により上記ガイド溝14の上端部から下方に案内してスライド軸25の一端部に係止するとともに、このスライド軸25の一端部と、その他端部とを接続する第2プルケーブル30を設け、上記インナワイヤ28bを介して伝達された駆動力を上記第2プルケーブル30によりスライド軸25の他端部に伝達するように構成したため、簡単な構成で上記スライド軸25の左右両端部を同時に駆動して上記可動フロア部5をスムーズに昇降変位させることができる。
【0065】
また、上記実施形態では、可動フロア部5を下向きに付勢する付勢手段26が、一端部が上記可動フロア部5のスライド軸24に係止されかつ他端部がフロア底部9の係止用突片9aに係止されたバネ部材によって構成されているとともに、このバネ部材からなる付勢手段26の付勢力により、上記スライド軸24が、上記プルケーブル28によるスライド軸25の牽引方向とは略反対方向にあたる車体後方側に付勢されるように構成されているため、上記付勢手段26からスライド軸24を介してフロア支持部材12,13に入力される車体後方側への付勢力と、上記プルケーブル28からスライド軸25を介してフロア支持部材12,13に入力される車体前方側への付勢力とをバランスさせることができ、上記フロア底部9に対するフロア支持部材12,13の固定部に片寄った付勢力が作用することに起因してこのフロア支持部材12,13の取付状態が不安定になるのを効果的に防止できるという利点がある。
【0066】
すなわち、上記付勢手段26の後端部をフロア支持部材12,13に係止した状態とすることも可能であるが、この場合には、付勢手段26からスライド軸24を介して入力された車体の後方側への付勢力がフロア支持部材12,13の固定部に作用することがなく、上記プルケーブル28からスライド軸25を介して入力された車体の前方側への付勢力だけがフロア支持部材12,13の固定部に作用することになる。これに対して上記実施形態に示すように、付勢手段26の後端部をフロア底部9からなる車体側部材に係止した場合には、この付勢手段26の付勢力と、プルケーブル28の付勢力とが互いに打ち消し合うように作用するため、フロア底部9に対するフロア支持部材12,13の固定部に片寄った付勢力が作用するのを防止することができる。
【0067】
なお、上記実施形態では、図4等に示すように、フロア支持部材12,13のガイド溝14が所定の角度で前上がりに傾斜するように設けられ、このガイド溝14とは若干異なった緩やかな傾斜角度で延びるように設置されたバネ部材からなる付勢手段26により、上記スライド軸24とフロア底部9とが連結されているが、上記付勢手段26を、上記ガイド溝14の延設方向と略一致する方向に傾斜して延びるように設置してもよい。このようにすれば、上記スライド軸24がガイド溝14に沿って摺動する方向と略同一方向にスライド軸24が付勢されるため、上記スライド軸24をガイド溝14の周壁に押し付けるような分力が発生せず、上記スライド軸24をガイド溝14に沿ってよりスムーズに摺動させることができるという利点がある。
【0068】
また、上記実施形態のように、上記フロア支持部材12,13の上部に案内プーリ35,38を回転可能に設け、この案内プーリ35,38に巻回される上記プルケーブル28,30が、上記ガイド溝14の上端部から下方へと案内されて上記スライド軸25の左右両端部に係止(接続)されるように、上記プルケーブル28,30を配索するようにした場合には、これらプルケーブル28,30による上記スライド軸25の牽引方向が、上記ガイド溝14の延設方向と略一致する状態で上記スライド軸25を牽引することができるため、上記プルケーブル28,30の牽引力を上記スライド軸25に効率よく伝達することができ、上記可動フロア部5をよりスムーズに引き上げられるという利点がある。
【0069】
また、上記実施形態では、左右一対のシートスライドロアレール41およびシートスライドアッパレール42からなるシートレールに沿って前後方向に移動可能な乗員用シート1に、この乗員用シート1が前方側に移動する際の駆動力を上記第1プルケーブル28の牽引力として取り出すケーブル牽引機構72を設けたため、上記乗員用シート1の前進時の駆動力を、その前方側に配設された上記可動フロア部5に上記第1プルケーブル28を介して引張力として直接的に伝達することができ、上記乗員用シート1の前進に伴い上記可動フロア部5を容易かつ適正に上昇駆動できるという利点がある。
【0070】
特に、上記実施形態のように、上記第1プルケーブル28が、アウタケーシング28aの内部にインナワイヤ28bが摺動自在に保持されたプルケーブルにより構成されている場合には、外筒体により回転可能に支持された軸心体の回転に応じて駆動トルクを伝達するトルクケーブルのような欠点、つまりこのトルクケーブル大きく屈曲させた場合に、軸心体の回転が阻害されることに起因してトルクの伝達が困難になるという欠点がなく、限られたスペース内で大きく屈曲させても駆動力をスムーズに伝達することができるため、レイアウトの自由度を充分に確保して任意に配設できるという利点がある。しかも、上記プルケーブル28のアウタケーシング28aに沿ってインナワイヤ28bを摺動させることにより、その駆動力を可動フロア部5のスライド軸25に直接的に伝達することができるため、上記トルクケーブルを使用した場合のように、外筒体内に配設された軸心体がねじれ変形することに起因した位相の伝達遅れが生じることがなく、上記乗員の足裏長さに応じて可動フロア部5の設置高さを迅速かつ適正に調整できるという利点がある。このことは、上記プルケーブル28により可動フロア部5のスライド軸25の一端部に伝達された駆動力を反対側の端部に伝達する上記第2プルケーブル30についても、同様である。
【0071】
また、上記実施形態に示すように、駆動ワイヤ79によって回転駆動される大径プーリ76と、この大径プーリ76と一体に回転してプルケーブル28を巻回する小径プーリ77とを備えた減速機構を上記ケーブル牽引機構72に設け、乗員用シート1のシートクッション部1aの前方移動時に、上記プルケーブル28を介して可動フロア部5のスライド軸25に伝達される牽引ストロークを、上記大径プーリ76および小径プーリ77の径比に応じ低減するように構成した場合には、この大径プーリ76と小径プーリ77との径比を種々変更することにより、上記牽引ストロークの低減率を任意に設定することができるため、上記シート位置調整機構2の駆動源である駆動モータ46を小型化しつつ、可動フロア部5をスムーズに昇降変位させることができるとともに、シートクッション部1aの前後ストロークと可動フロア部5の昇降ストロークとを適正に一致させることができる。
【0072】
例えば、上記大径プーリ76と小径プーリ77との径比を2対1に設定した場合には、シートクッション部1aの前後ストロークが1/2に低減されるとともに、引張駆動力が2倍に増大されて可動フロア部5のスライド軸25に伝達される。また、上記ガイド溝14の傾斜が45°に設定されている場合には、上記プルケーブル28の牽引ストロークが、さらに約1/1.41に低減されて可動フロア部5の昇降ストロークに変換されるため、シートクッション部1aの前後ストロークが200mmに設定された場合において、上記シートクッション部1aの前後移動に応じ、上記可動フロア部5が、高身長者と低身長者の足裏長さの差に対応した値である70mm程度だけ昇降変位し、これによってシートクッション部1aの前後ストロークを、可動フロア部5の昇降ストロークを適正に対応させることができる。
【0073】
なお、上記大径プーリ76および小径プーリ77を備えた減速機構を乗員用シート1の設置部、具体的にはシートスライドロアレール41に設けてなる上記実施形態に代え、上記ケーブル牽引機構72に単一の回転プーリ(図示せず)を設けてこの回転プーリに上記プルケーブル28インナワイヤ28bを巻回すとともに、図17〜図19に示すように、可動フロア部5の下方に位置するプルケーブル28の配策経路に、固定プーリ91と移動プーリ92とを備えた減速機構90を配設した構造としてもよい。
【0074】
上記減速機構90は、車室内の前方部においてフロア底部9に立設された支持軸91aにより回転自在に支持された固定プーリ91と、可動フロア部5の裏面に突設された支持軸92aにより回転自在に支持された移動プーリ92と、フロア底部9に固定されてプルケーブル28のアウタケーシング28aの先端部を係止する係止部93と、このアウタケーシング28aの先端部から導出されて上記固定プーリ91に巻掛けられたインナワイヤ28bの設置高さを規制する第1,第2規制部94,95と、上記移動プーリ92に巻掛けられたインナワイヤ28bの設置高さを規制する第3規制部96と、上記移動プーリ92から車体の前方側に導出されたインナワイヤ28bの先端部を係止する係止部97とを備えている。そして、この係止部97により一端部が車体側に係止されたプルケーブル28のインナワイヤ28bが、上記移動プーリ92および固定プーリ91の順に巻掛けられて上記ケーブル牽引機構72の設置部に導出されるように配策されている。
【0075】
上記構成おいて、シート位置調整機構2により運転席からなる乗員用シート1のシートクッション部1aを車体の前方側に移動させる際に、上記プルケーブル28のアウタケーシング28aから前方に導出されたインナワイヤ28bを車体の後方側に引っ張る牽引力が入力されると、この駆動力が上記固定プーリ91を介して移動プーリ92を車体の前方側に移動させる方向に変換される。これにより、図示を省略した付勢手段の付勢力に抗して上記スライド軸24,25をガイド溝14に沿って上昇させる方向の駆動力を作用させ、上記シートクッション部1aの前方移動に応じて可動フロア部5を上昇させることができる。すなわち、可動フロア部5を上記付勢手段の付勢力に抗して上昇させるフロア駆動機構が、上記プルケーブル28、固定プーリ91、および移動プーリ92により構成されている。
【0076】
また、上記構成によれば、可動フロア部5を上昇させる際に、上記移動プーリ92が動滑車の役目を果たすことにより、上記プルケーブル28の牽引ストロークを2分の1に低減するとともに、この牽引力を2倍に増大して可動フロア部に伝達することができる。したがって、上記シート位置調整機構2の駆動源として大型のものを用いることなく、その駆動力を上記プルケーブル28に伝達することにより、可動フロア部5をスムーズに昇降変位させることができるとともに、上記シートクッション部1aの前後ストロークと、可動フロア部5の昇降ストロークとを、上記大径プーリ76および小径プーリ77の径比および上記ガイド溝14の傾斜角度に応じて適正に対応させることができる。しかも、上記固定プーリ91および移動プーリ92等からなる減速機構90を可動フロア部5の下方に配設して隠蔽できるため、上記減速機構が車室内に露出して美観が損なわれるのを防止できるという利点がある。
【0077】
また、上記実施形態では、乗員用シート1のシートクッション部1aを前後移動させるシート位置調整機構2に駆動モータ46を設けることにより、上記シートクッション部1aを電気的に前後移動させるように構成した例について説明したが、駆動レバー等を用いた手動操作により、または乗員用シート1に着座した乗員がその体を前後移動させることにより、シートクッション部1aをシートスライドロアレール41に沿って前後移動させるとともに、プルケーブル28を介して可動フロア部5のスライド軸25に上記駆動力を伝達するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係るフロア昇降装置の実施形態を示す説明図である。
【図2】フロア昇降装置の具体的構成を示す斜視図である。
【図3】可動フロア部の具体的構成を示す斜視図である。
【図4】フロア昇降装置の具体的構成を示す側面断面図である。
【図5】フロア昇降装置の具体的構成を示す分解斜視図である。
【図6】図4のA−A線断面図である。
【図7】可動フロアが下降した状態を示す図4相当図である。
【図8】シート位置調整機構の具体的構成を示す側面図である。
【図9】シート位置調整機構の具体的構成を示す斜視図である。
【図10】図8のB−B線断面図である。
【図11】シートクッション部の昇降駆動部の具体的構成を示す側面断面図である。
【図12】上記昇降駆動部の具体的構成を示す側面断面図である。
【図13】シートクッション部を車体の前方側に移動させた状態を示す図8相当図である。
【図14】ケーブル牽引機構等の具体的構成を示す側面断面図である。
【図15】ケーブル牽引機構等の具体的構成を示す分解斜視図である。
【図16】図14のC−C線断面図である。
【図17】フロア昇降装置の別の具体例を示す側面断面図である。
【図18】上記フロア昇降装置の構成を示す平面断面図である。
【図19】上記フロア昇降装置により可動フロア部を前部上方に移動させた状態を示す図18相当図である。
【符号の説明】
【0079】
1 乗員用シート
3 操作ペダル
4 車体フロア
5 可動フロア部
6 フロア昇降装置
12,13 フロア支持部材
12b,13b 縦壁部
14 ガイド溝
24,25 スライド軸
26 付勢手段
28 第1プルケーブル(プルケーブル)
30 第2プルケーブル(プルケーブル)
35,38 案内プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席からなる乗員用シートの前方に配置され、上記乗員用シートに着座した運転者が操作ペダルを踏み込む際に足の踵部が載置される可動フロア部を昇降駆動するフロア昇降装置であって、
上記可動フロア部に入力される下向きの荷重を受け持ちつつこれを昇降可能に支持するフロア支持部材と、
上記可動フロア部を下向きに付勢する付勢手段と、
この付勢手段の付勢力に抗して上記可動フロア部を上昇させるフロア駆動機構とを備えることを特徴とするフロア昇降装置。
【請求項2】
上記可動フロア部は、車幅方向に延びるスライド軸を有し、
上記フロア支持部材は、上記可動フロア部の左右に位置して上方に起立する縦壁部を有し、
このフロア支持部材の縦壁部には、上記スライド軸の左右両端部を摺動自在に支持する前上がりまたは後上がりに傾斜したガイド溝が設けられ、
上記フロア駆動機構は、上記可動フロア部を所定方向に牽引することにより、この可動フロア部を上記ガイド溝に沿って上昇させるプルケーブルを有することを特徴とする請求項1に記載のフロア昇降装置。
【請求項3】
上記付勢手段は、一端部が上記可動フロア部に係止されかつ他端部が車体フロアに係止されたバネ部材からなり、上記可動フロア部を上記プルケーブルの牽引方向とは略反対方向に引き寄せることにより、上記ガイド溝に沿って下降する方向に上記可動フロア部を付勢するように構成されたことを特徴とする請求項2に記載のフロア昇降装置。
【請求項4】
上記付勢手段が、上記ガイド溝の延設方向と略一致する方向に傾斜して延びるように設置されたことを特徴とする請求項3に記載のフロア昇降装置。
【請求項5】
上記フロア駆動機構は、上記フロア支持部材の上部に回転可能に支持された案内プーリを備え、
上記プルケーブルは、上記案内プーリに巻回されることにより、上記ガイド溝の上端部から下方へと案内されて上記スライド軸の端部に接続されるように配索されたことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のフロア昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−12589(P2009−12589A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175927(P2007−175927)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(000109738)デルタ工業株式会社 (150)
【出願人】(000151760)株式会社東洋シート (142)
【Fターム(参考)】