説明

ブレーキ制御用電磁弁

【課題】 電磁弁の上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できるようにするために複雑な加工を行わなくても済む構造の電磁弁を提供する。
【解決手段】 増圧制御弁3について、プランジャ38とガイド32の間のギャップGの大きさが0.2mm以上、オリフィス341aの径doとシート径dsの比(do/ds)が0.9以下とする。プランジャ38とガイド32の間のギャップGの大きさを0.2mm以上とすることで、弁体331のストロークSに対する電磁力の変化を小さくすることができる。また、オリフィス341aの径doとシート径dsの比(do/ds)を0.9以下とすれば、弁体331のストロークSに対する流体力の変化を大きくすることができる。したがって、電磁力と抵抗力との関係を、上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できるようにするために要求される関係にし易くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置における液圧制御用のアクチュエータに備えられる電磁弁であって、上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できるブレーキ制御用電磁弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ブレーキ装置における液圧制御用のアクチュエータに備えられる電磁弁において、電磁弁の上下流間に発生させる差圧量を可変とすることが考えられている。その一手法として、電磁弁のソレノイドに流す電流のオンオフをデュティ制御し、デュティ比に応じた差圧量とするものがある。
【0003】
しかしながら、このようなデュティ制御によると、ブレーキ液圧の脈動により作動音が発生するという問題がある。このため、電磁弁の上下流間に発生させる差圧量を電磁弁に加える電磁力に応じてリニアに制御できるようにすることが試みられている。
【0004】
電磁弁の上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できるようにするには、プランジャを吸引するための電磁力と、この電磁力に抗する力(以下、対抗力という)として弁体に作用する流体力およびプランジャを付勢するためのスプリングのバネ力との和(以下、流体力+バネ力(または対抗力)という)が以下の関係になっていることが必要となる。
【0005】
図9は、電磁力と流体力+バネ力の関係を示した特性図であり、図10は、図9の関係を説明するための弁体の様子を示した模式図である。
【0006】
図10(a)に示されるように、弁体が弁座から所定距離離れて釣り合っていると想定した場合に、電磁力と流体力+バネ力が一致することになる。このとき、電磁力に応じた差圧力を発生するリニア制御弁としては、何らかの外乱、例えば流体力の変動や車両振動などに起因して電磁力と流体力+バネ力との釣り合いがずれたとしても、また元通りの釣り合い位置に弁体が戻るようにしなければならない。
【0007】
このため、図9に示されるように、電磁力と流体力+バネ力が一致する釣り合い点を基準として、弁体が弁座からより離れる方向(弁が開く方向)に移動させられた場合には、弁体を弁座側に引き戻せるように電磁力の方が流体力+バネ力よりも大きくなり、逆に、弁体が弁座に近づく方向(弁が閉じる方向)に移動させられた場合には、弁体を弁座から引き離せるように電磁力よりも流体力+バネ力の方が大きくなるような関係となる必要がある。つまり、図10(b)、(c)の矢印で示したような力関係とならなければならない。
【0008】
このような関係にするために、特許文献1に記載の電磁弁では、固定鉄心を構成するガイドの先端面、つまり吸引面を凹形状に加工している。これにより、可動鉄心を構成するプランジャの先端が吸引面に近づいたときに磁気が広範囲に逃げるようにでき、弁体のストロークに対する吸引力の変化(吸引力勾配)が流体力+バネ力の勾配よりも緩やかになって、上記の関係が満たされる。
【0009】
また、特許文献2に記載の電磁弁では、プランジャの先端に備えられる円筒状の弁体の先端を球欠形状とすることで半球形としている。これにより、流体力勾配が大きくなり、上記の関係が満たされる。
【特許文献1】特公昭61−41123号公報
【特許文献2】特表2000−512585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に示される電磁弁では、固定鉄心を構成するガイドの吸引面を加工が複雑な凹形状にしなければならない。また、特許文献2に示される電磁弁では、プランジャの先端に備えられる円筒状の弁体の先端を加工が複雑な球欠形状にしなければならない。このため、特許文献1、2のいずれの電磁弁に関しても、上記の関係を満たすために行う加工が複雑であるという問題がある。
【0011】
本発明は上記点に鑑みて、電磁弁の上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できるようにするために複雑な加工を行わなくても済む構造の電磁弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、コップ形状で構成されたスリーブ(37)内に、コイル(40)への通電により摺動動作するプランジャ(38)を備ええ、このプランジャ(38)の摺動動作に伴って移動する球形状の弁体(331)が備えられたシャフト(33)を備える。また、シャフト(33)を摺動自在に保持するガイド穴(324)を備えていると共に、プランジャ(38)の先端面と対向する吸引面(322a)が備えられたガイド(32)の吸引面(322a)をスリーブ(37)に嵌入させる。さらに、弁体(331)が接離する弁座(342)を有すると共に、弁体(331)が弁座(342)に接離することによって開閉される連通路(341)を有してなるシート(34)を備える。このような構成において、弁体(331)が弁座(342)に着座したときに、プランジャ(38)の先端面とガイド(32)の吸引面(322a)の間が0.2mm以上空くようにする。そして、弁体(331)の弁座(342)からのストローク(S)が0から最大値までの範囲にわたって、ストローク−吸引力特性ラインは、ストローク−対抗力特性ラインより勾配がなだらかであり、かつ、与えられる電磁力に応じて上下に移動し、さらに、電磁力最小値でのストローク−吸引力特性ラインは、ストローク−対抗力特性ラインの対向力最小点(A)より下方に位置し、電磁力最大値でのストローク−吸引力特性ラインは、ストローク−対抗力特性ラインの対抗力最大点(B)より上方に位置していることを特徴としている。
【0013】
このように、プランジャ(38)の先端面とガイド(32)の吸引面(322a)の間が0.2mm以上空くようにすれば、コイル(40)への通電時にプランジャ(38)を摺動させる電磁力の変化を小さくすることが可能となる。
【0014】
これにより、弁体(331)の弁座(342)からのストローク(S)が0から最大値までの範囲にわたって、ストローク−吸引力特性ラインが、ストローク−対抗力特性ラインより勾配がなだらかとなるようにし、かつ、与えられる電磁力に応じて上下に移動させ、さらに、電磁力最小値でのストローク−吸引力特性ラインをストローク−対抗力特性ラインの対向力最小点(A)より下方に位置させ、電磁力最大値でのストローク−吸引力特性ラインをストローク−対抗力特性ラインの対抗力最大点(B)より上方に位置させるようにすれば、上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できるように電磁弁を構成することを容易化することが可能である。
【0015】
このようにすれば、弁体(331)を球形状という非常に製造し易い形状で構成し、かつ、ガイド(32)の吸引面(322a)もフラットで加工が難しい凹部が無い構成としつつ、電磁弁の上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できる。したがって、上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御するために、複雑な加工を行わなくても済む構造の電磁弁にできる。
【0016】
請求項2に記載の発明では、シート(34)における連通路(341)には、通路断面の面積が該連通路(341)の他の部位よりも小さくされたオリフィス(341a)が形成されており、弁体(331)が弁座(342)に着座したときに、弁体(331)と弁座(342)の接触部位によって構成される円形状の径をシート径(ds)とすると、シート径(ds)に対するオリフィス(341a)の径(do)の比(do/ds)を0.9以下とすることを特徴としている。
【0017】
このように、シート径(ds)に対するオリフィス(341a)の径(do)の比(do/ds)を0.9以下にすれば、弁体(331)のストローク(S)に対する流体力の変化を大きくすることが可能となる。
【0018】
これにより、弁体(331)の弁座(342)からのストローク(S)が0から最大値までの範囲にわたって、ストローク−吸引力特性ラインが、ストローク−対抗力特性ラインより勾配がなだらかとなるようにし、かつ、与えられる電磁力に応じて上下に移動させ、さらに、電磁力最小値でのストローク−吸引力特性ラインをストローク−対抗力特性ラインの対向力最小点(A)より下方に位置させ、電磁力最大値でのストローク−吸引力特性ラインをストローク−対抗力特性ラインの対抗力最大点(B)より上方に位置させるようにすれば、上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できるように電磁弁を構成することを容易化することが可能である。
【0019】
このようにすれば、弁体(331)を球形状という非常に製造し易い形状で構成し、かつ、ガイド(32)の吸引面(322a)もフラットで加工が難しい凹部が無い構成としつつ、電磁弁の上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できる。したがって、上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御するために、複雑な加工を行わなくても済む構造の電磁弁にできる。
【0020】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0022】
(第1実施形態)
図1に、本発明の一実施形態であるブレーキ制御用電磁弁が備えられるブレーキ装置の配管構成を示す。
【0023】
図1に示すように、マスタシリンダ(以下、M/Cという)1とホイールシリンダ(以下、W/Cという)2との間は管路Aによって接続されている。この管路Aを通じて、M/C1側からW/C2側にブレーキ液が流動できるようになっている。この管路Aには増圧制御弁3が備えられており、この増圧制御弁3によって管路Aの連通・差圧状態を制御する。なお、この増圧制御弁3にはW/C2側からM/C1側へのブレーキ液の流動のみを許容する逆止弁31が含まれる。この増圧制御弁3が本発明のブレーキ制御用電磁弁に相当するものであり、その詳細については後述する。
【0024】
管路Aのうち、増圧制御弁3よりもW/C2側(下流側)には、リザーバ4につながる管路Bが接続されている。この管路Bには減圧制御弁5が備えられており、この減圧制御弁5が管路Bの連通・遮断状態を制御する。この減圧制御弁5は、通常ブレーキ時には遮断状態とされており、ABS制御中の減圧タイミング時に連通状態にされて管路A内のブレーキ液をリザーバ4に逃がし、W/C圧の減圧を行うように作動する。
【0025】
さらに、管路Aのうち増圧制御弁3よりもM/C1側(上流側)と、リザーバ4との間が管路Cによって接続されている。この管路Cにはポンプ6が備えられており、リザーバ4に逃がされたブレーキ液の吸入吐出を行い、管路Aにブレーキ液を返流できるようになっている。
【0026】
なお、このように構成されるブレーキ装置のうち、リザーバ4、ポンプ6、増圧制御弁3および減圧制御弁5がアルミニウム製のハウジング7(図2参照)に固定されることで、ハウジング7に穴空け形成された管路A〜Cの所望部位に接続され、これらが一体となってABSアクチュエータが構成される。そして、ハウジング7に形成された図示しないポートを介して、ABSアクチュエータとM/C1およびW/C2が接続されることで、図1に示されたブレーキ装置が構成されている。
【0027】
図2は、ABSアクチュエータのハウジング7に増圧制御弁3を配置したときの断面構成を示す。以下、図2に基づき増圧制御弁3の基本構成を説明する。
【0028】
図2において、ハウジング7には増圧制御弁3の組み付けに利用される凹部71が形成されている。この凹部71は、ハウジング7に備えられた管路Aに連通するように形成されており、増圧制御弁3よりも上流側の管路A1がM/C1に接続され、下流側の管路A2がW/C2に接続される構成となっている。
【0029】
増圧制御弁3は、磁性体にて形成された磁路部材をなすガイド32を備えている。このガイド32は段付円柱状に形成され、ガイド32の大径部321側がハウジング7の凹部71内に嵌入されている。また、ガイド32の大径部321の一部および小径部322は凹部71の外に突出している。そして、凹部71の開口端部711をかしめることによって、ハウジング7の一部を大径部321外周面の窪み323に入り込ませ、これによりガイド32をハウジング7に固定するようになっている。
【0030】
ガイド32には、小径部322側に位置してシャフト33を摺動自在に保持するガイド穴324、大径部321側に位置してシート34が圧入されるシート挿入穴325、さらには、シート34とシート挿入穴325とで囲まれた空間326を管路A2に連通させる連通穴327が形成されている。
【0031】
円柱状のシャフト33は、非磁性体金属(例えばステンレス)で形成され、シート34側の端部がガイド32のガイド穴324から突き出て空間326に延びており、その先端に球状の弁体331が溶接されている。弁体331の径は、例えば1.5±0.001mmとされている。
【0032】
円筒状のシート34には、その径方向中心部にガイド32内の空間326と管路A1とを連通させる第1連通路341が形成されている。この第1連通路341には、その途中で通路断面の面積が小さくされたオリフィス341aが形成されている。この第1連通路341における空間326側の端部に、シャフト33の弁体331が接離するテーパ状の第1弁座342が形成されている。この第1弁座342のテーパ角度(第1弁座342により構成される円錐の先端部分の投影角度)は、例えば113±1〜2°としてある。また、第1弁座342の最大径は、1.05mmとしてある。
【0033】
また、シート34には、ガイド32内の空間326と管路A1とを連通させる第2連通路343が第1連通路341と並列に形成され、この第2連通路343における管路A1側の端部に、球状の逆止弁31が接離するテーパ状の第2弁座344が形成されている。
【0034】
逆止弁31は、ガイド32のシート挿入穴325の端部側に圧入されたフィルタ35にて、第2弁座344と対向する位置に保持されている。また、ガイド32の大径部321の外周にも、連通穴327を囲むようにしてフィルタ36が配置されている。これらのフィルタ35、36により、ブレーキ液に混入した異物が増圧制御弁3内に入り込むのを防止するようになっている。
【0035】
ガイド32の小径部322の先端を凹部の無いフラットな吸引面322aとして、この吸引面322aが嵌入されるように、小径部322の外周側にはスリーブ37が嵌め込まれている。このスリーブ37は、非磁性体金属(例えばステンレス)で形成され、一端が開口したコップ形状を成しており、コップ底面が略球形状を成している。
【0036】
そして、スリーブ37の底面側に磁性体製の略円柱状のプランジャ38が配置され、このプランジャ38はスリーブ37内を摺動可能になっている。なお、プランジャ38はスリーブ37の底面に接するようになっており、プランジャ38がスリーブ37の底面に接すると、プランジャ38の紙面上方向への摺動が規制されるようになっている。
【0037】
シャフト33は、シャフト33とシート34との間に配置されたスプリング39によってプランジャ38側に付勢されており、シャフト33とプランジャ38は常時当接して一体的に作動するようになっている。なお、これらのシャフト33とプランジャ38は、後述するコイルへの通電の有無に対応して移動する可動部材をなすものである。
【0038】
スリーブ37の周囲には、通電時に磁界を形成するコイル40が収納された円筒状のスプール41が配置されている。樹脂(例えばナイロン)よりなるこのスプール41は、一次成型後にコイル40を装着し、さらに二次成型を行って形成される。
【0039】
コイル40からはターミナル42が引き出されており、このターミナル42を通じて外部からコイル40への通電が行えるようになっている。
【0040】
さらに、スプール41の外周には磁性体製のヨーク43が配置されている。このヨーク43は、外側円筒部431、この外側円筒部431におけるハウジング7とは反対側の端部から径内方側に延びる鍔部432、およびこの鍔部432の内周部からハウジング7側に向かって軸方向に延びる内側円筒部433を有する略コップ形状を成している。そして、外側円筒部431におけるハウジング7側の開口部からスプール41やスリーブ37等が収容できるようになっている。
【0041】
外側円筒部431におけるハウジング7側の開口部内周面には、磁性体製のリング部材44が圧入されている。また、リング部材44はガイド32の大径部321を囲むようにして配置されている。
【0042】
スプール41はヨーク43に対して嵌合されており、また、スプール41、ヨーク43、およびリング部材44は、ガイド32およびスリーブ37に対して嵌合されている。なお、コイル40、スプール41、ヨーク43、およびリング部材44によって、コイル部が構成されている。
【0043】
このような基本構成を有する増圧制御弁3において、電磁力(吸引力)と流体力+バネ力、つまり対抗力が上記の関係となるように、増圧制御弁3を構成する各部の寸法などが規定されている。これについて、以下に説明する。
【0044】
図3(a)は、図2に示した増圧制御弁3における弁体331の近傍を拡大した図であり、図3(b)は、シート34における第1連通路341を通じて弁体331と第1弁座342の間の隙間を通過する間の回路模式図を示したものである。なお、図3(a)は、断面図であるため、本来であれば断面指示のためのハッチングを示すべきであるが、ここでは図を見やすくするために、断面指示のためのハッチングは省略してある。
【0045】
図3(a)に示されるように、第1連通路341にはオリフィス341aが形成されている。このオリフィス341aの断面積は一定のものとなっているため、オリフィス341aは固定絞りとして機能する。一方、弁体331と第1弁座342の隙間もオリフィスの役割を果たす。そして、弁体331と第1弁座342の間の断面は、弁体331が第1弁座342に接している状態からどれだけ移動したかというストロークSに応じて変化することから、そのオリフィスは可変絞りとして機能する。したがって、図3(b)に示されるように、固定絞りとして機能するオリフィス341aと弁体331と第1弁座342の隙間に構成される可変絞りとして機能するオリフィス45とが直列的に並んだ状態となる。
【0046】
このような構成の場合、管路A1を通じて第1連通路341から流動してくる流体が弁体331に対して付与する力、つまり流体力は、両オリフィス341a、45による総合的な絞り効果と、総合的な絞り効果に対するオリフィス45による絞り効果の度合いによって決まる。
【0047】
まず、弁体331のストロークSがゼロのときには、両オリフィス341a、45による総合的な絞り効果にかかわらず、管路A1内の流体の圧力がそのまま弁体331に付与されることになるため、一定の流体力となる。そして、弁体331のストロークSを変化させて、オリフィス45による絞り効果の大きさを変化させると、両オリフィス341a、45による総合的な絞り効果に対するオリフィス45による絞り効果の度合いによって、流体力の変化が異なったものとなる。
【0048】
そして、この流体力は、弁体331と第1弁座342の隙間に構成されるオリフィス45が狭い(絞り効果が大きい)場合、つまり弁体331のストロークSがゼロの場合に最も大きく、オリフィス45が広がる(絞り効果が小さくなる)に連れて、つまり弁体331のストロークSが大きくなるに連れて小さくなる。
【0049】
また、流体力が作用するのは、弁体331のうち第1弁座342と接する部分の内側と考えられる。そして、弁体331が第1弁座342に接する部分が円形状(図中のハッチング部分参照)になるため、その部分の径をシート径dsと定義すると、オリフィス341aの径doとシート径dsの関係から、弁体331に作用する基本的な流体力が決まってくる。
【0050】
このため、オリフィス341aの径doとシート径dsの比(do/ds)を変化させて弁体331のストロークSに対する流体力の変化をシミュレーション解析したところ、図4の結果が得られた。例えば、ここでは上記比(do/ds)が0.87の場合と0.40の場合とを示してあるが、ここから判るように、比(do/ds)がが大きさに応じて弁体331のストロークSに応じた流体力の変化が異なったものとなる。具体的には、、上記比(do/ds)が大きくなる程、ストロークSに対する流体力の変化が小さく、比(do/ds)が小さくなる程、ストロークSに対する流体力の変化が大きくなるという結果であった。
【0051】
そして、オリフィス341aの径doとシート径dsの比(do/ds)を変化させて弁体331のストロークSに対する流体力の変化を実験を行って調べたところ、上記シミュレーション解析と同様の結果となった。
【0052】
なお、第1弁座342の最大径に関しては、シート径dsに対する第1弁座342の最大径の比を1.3以下としている。これにより、弁体331に流体力が作用し難くなる作用がある。
【0053】
したがって、流体力+バネ力に相当する対向力は、例えば図5のように示され、結局、上記比(do/ds)が大きくなる程、ストロークSに対する流体力の変化が小さく、比(do/ds)が小さくなる程、ストロークSに対する流体力の変化が大きくなるという結果となる。
【0054】
一方、電磁力(吸引力)は、図2に示した可動鉄心を構成するプランジャ38と固定鉄心を構成するガイド32との間の隙間となるギャップGの大きさと、コイル40への通電量に応じて変化する。この電磁力の変化について調べたところ、図6のような結果が得られた。
【0055】
電磁力は、コイル40への通電量に対しては、通電量が大きくなるに従って大きくなるという正比例の関係で変化する。そして、基本的には、プランジャ38とガイド32の間のギャップGの大きさが大きくなる程、電磁力は徐々に小さくなる。しかしながら、この図からわかるように、プランジャ38とガイド32の間のギャップGの大きさがある値以上のときには緩やかに変化するが、ある値未満になると急激に大きくなる。
【0056】
ここで、増圧制御弁3の上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できるようにするためには、上述した関係を満たさなければならない。すなわち、電磁力と流体力+バネ力が一致する釣り合い点を基準として、弁体が弁座からより離れる方向(弁が開く方向)に移動させられた場合には、弁体を弁座側に引き戻せるように電磁力の方が流体力+バネ力よりも大きくなり、逆に、弁体が弁座に近づく方向(弁が閉じる方向)に移動させられた場合には、弁体を弁座から引き離せるように電磁力よりも流体力+バネ力の方が大きくなるような関係となる必要がある。
【0057】
これを満たすためには、弁体331のストロークSがゼロから最大値となるまでの間において、電磁力の変化と比べて対抗力(流体力+バネ力)の変化の方が急となる関係、つまり、図9で示したような関係となれば良い。
【0058】
これらのことを前提として、図6に示した電磁力と図4に示した流体力およびバネ力(=対抗力)の関係が、弁体331のストロークSがゼロから最大値となるまでの間において、電磁力の変化と比べて対抗力(流体力+バネ力)の変化の方が急となる関係となるように、増圧制御弁3の各部の寸法等を決めている。
【0059】
具体的には、弁体331のストロークSに対する流体力の変化が大きくなるようにするためには、オリフィス341aの径doとシート径dsの比(do/ds)が0.9以下となるようにすると良い。例えば、シート径dsを0.833mmとする場合、オリフィス341aの径doは、0.30〜0.75mmとすると良い。オリフィス穴径の加工性を確保するため、オリフィス341aの径doとシート径dsの比の下限は0.36が望ましい。
【0060】
また、弁体331のストロークSに対する電磁力の変化が小さくなるようにするためには、図6で示した電磁力が急に大きくなる部分を除いた領域、つまりプランジャ38とガイド32の間のギャップGの大きさがある値以上となるようにすれば良い。具体的には、図6から分かるように、ギャップGが0.2mm以上となるようにすると良い。
【0061】
さらに、ばね定数に関しては、弁体331のストロークSが小さいときには、対抗力が電磁力を上回っていれば良いため、ばね定数に制限は無いが、ストロークSが大きくなると、流体力も小さくなるため、バネ力の影響が大きくなる。これを考慮すると、ばね定数は3N/mm以上とすると良い。
【0062】
図7に、増圧制御弁3の各部の寸法等が上記関係とされた場合において、電磁力(吸引力)を変化させ、電磁力と対抗力の関係について調べた結果を示す。この図に示されるように、電磁力を変化させることで電磁力と対抗力の釣り合い点の位置が変わることになる。
【0063】
このとき、図7から分かるように、電磁力を変化させても、各釣り合い点を基準として、釣り合い点より弁体331が弁座342からより離れる方向(弁が開く方向)については、電磁力の方が対抗力よりも大きくなり、逆に、弁体331が弁座342に近づく方向(弁が閉じる方向)については、電磁力よりも対抗力の方が大きくなるような関係となる。
【0064】
より詳しくは、弁体331のストロークSが0からMAX値までの範囲にわたってストローク−吸引力特性ラインは、ストローク−対抗力特性ラインより勾配がなだらかである。また、ストローク−吸引力特性ラインは、与えられる電磁力に応じて上下に移動する。
【0065】
電磁力MINでのストローク−吸引力特性ラインは、ストローク−対抗力特性ラインの対向力MIN点A(ストローク=MAX)より下方に位置し、電磁力MAXでのストローク−吸引力特性ラインは、ストローク−対抗力特性ラインの対抗力MAX点B(ストローク=0)より上方に位置する。
【0066】
電磁力がMINからMAXへと変わるに従い、ストローク−吸引力特性ラインは、図の左肩がより上がるように左肩上がりのラインとして描かれる。
【0067】
電磁力MAXから次第に電磁弁に印加する電磁力を減少させると、上から2番目のストローク−対抗力特性ラインとストローク−吸引力特性ラインと交差し、ストロークS=0.04の点で釣り合って弁体331が安定することで所定の差圧が得られる。
【0068】
また、電磁力を減少させると、上から3番目のストローク−対抗力特性ラインとストローク−吸引力特性ラインと交差し、S=0.07の点で釣り合って弁体331が安定することで所定の差圧が得られる。
【0069】
さらに、電磁力を減少させると、上から4番目のストローク−対抗力特性ラインとストローク−吸引力特性ラインと交差し、S=0.135の点で釣り合って弁体331が安定することで所定の差圧が得られる。
【0070】
電磁力を0にすると、ストロークMAX点までシャフト33、プランジャ38は移動し、釣り合うことなくスリーブ37の底面まで付勢させて停止する。
【0071】
したがって、このように構成される増圧制御弁3により、増圧制御弁3の上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御することが可能となる。
【0072】
次に、増圧制御弁3の作動を図1、図2および図8に基づいて説明する。図2は、通常ブレーキ時、つまりコイル非通電時における増圧制御弁3の作動状態を示している。また、図8は、コイル通電によって増圧制御弁3が閉弁状態となったときの様子を示している。
【0073】
コイル非通電時においては、スプリング39によりシャフト33およびプランジャ38がスリーブ37の底面側に向かって付勢され、プランジャ38がスリーブ37の底面に接している。そして、シャフト33の弁体331がシート34の第1弁座342から離れた状態となり、管路A1と管路A2間は、シート34の第1連通路341、ガイド32内の空間326、およびガイド32の連通穴327を介して連通状態となる。
【0074】
したがって、通常ブレーキ時にはブレーキペダルの操作に応じてM/C1とW/C2間でブレーキ液が流動される。
【0075】
一方、ABS制御中の減圧タイミング時および保持タイミング時、つまり増圧制御弁3を閉弁する時には、コイル40に通電される。コイル通電時にはコイル40が磁界を形成し、ガイド32、プランジャ38、ヨーク43、およびリング部材44により磁路が形成される。そして、電磁力(吸引力)によりプランジャ38がガイド32側に吸引され、シャフト33およびプランジャ38がスプリング39に抗してシート34側に向かって移動され、シャフト33の弁体331がシート34の第1弁座342に当接する。これにより、増圧制御弁3が閉弁し、管路A1から管路A2へのブレーキ液の流動が絶たれる。
【0076】
なお、このように閉弁状態となったときに、プランジャ38が最もガイド32側に移動しても、プランジャ38とガイド32の対向し合う面同士の間に0.2mm以上の隙間が空くことになる。
【0077】
そして、ABS制御中の増圧タイミングになると、コイル40への通電量が調整されて増圧制御弁3の上下流間に発生させられる差圧量がリニアに調整される。これにより、コイル40への通電量に応じてW/C圧が制御される。
【0078】
このとき、何らかの外乱、例えば流体力の変動や車両振動などに起因して電磁力と対抗力(=流体力+バネ力)との釣り合いがずれたとしても、上記のように増圧制御弁3の各部の寸法等が調整されているため、また元通りの釣り合い位置に弁体331が戻り、確実に増圧制御弁3の上下流間の差圧量を保持することができる。
【0079】
また、ABS制御の減圧タイミング或いは保持タイミング中、つまり増圧制御弁3の閉弁時に、ブレーキペダルの踏み込みが中止されると、M/C1側とW/C2側との圧力差により逆止弁31がシート34の第2弁座344から離れた状態となり、管路A1と管路A2間は、シート34の第2連通路343、ガイド32内の空間326、およびガイド32の連通穴327を介して連通状態となる。したがって、W/C2側からM/C1側に向かってブレーキ液が流動される。
【0080】
以上説明したように、本実施形態のブレーキ装置において、増圧制御弁3の各部の寸法等に基づき、増圧制御弁3の上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できるようにしている。そして、弁体331を球形状という非常に製造し易い形状で構成し、ガイド32の吸引面322aもフラットで加工が難しい凹部が無い構成としている。
【0081】
したがって、上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御するために、複雑な加工を行わなくても済む構造の電磁弁で増圧制御弁3を構成することが可能となる。
【0082】
(他の実施形態)
上記実施形態では、プランジャ38とガイド32の間のギャップGの大きさが0.2mm以上、オリフィス341aの径doとシート径dsの比(do/ds)が0.9以下を共に満たす増圧制御弁3を例に挙げて説明している。しかしながら、これらのうちの少なくとも一方を採用すれば、上記のように上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できるように電磁弁を構成することを容易化することが可能である。
【0083】
これは、プランジャ38とガイド32の間のギャップGの大きさを0.2mm以上とすれば、弁体331のストロークSに対する電磁力の変化を小さくすることができ、電磁力と抵抗力との関係を、上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御できるようにするために要求される関係にし易くなるためである。
【0084】
また、オリフィス341aの径doとシート径dsの比(do/ds)を0.9以下とすれば、弁体331のストロークSに対する流体力の変化を大きくすることができ、同様のことが言える。
【0085】
上記実施形態では、上下流間に発生させる差圧量をリニアに制御する電磁弁として、増圧制御弁3を例に挙げて説明したが、減圧制御弁5に対して同様の構成を採用しても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1実施形態におけるブレーキ制御用電磁弁を備えたブレーキ装置のブロック成を示す図である。
【図2】ABSアクチュエータのハウジング7に増圧制御弁3を配置したときの断面構成である。
【図3】(a)は、図2に示した増圧制御弁3における弁体331の近傍を拡大した図であり、(b)は、シート34における第1連通路341を通じて弁体331と第1弁座342の間の隙間を通過する間の回路模式図である。
【図4】弁体331のストロークSに対する流体力の変化をシミュレーション解析した結果を示した図である。
【図5】弁体331のストロークSに応じた対向力の変化を示した図である。
【図6】コイル40への通電量に応じた電磁力の変化を示した図である。
【図7】第1実施形態の増圧制御弁3について、電磁力(吸引力)を変化させ、電磁力と対抗力の関係について調べた結果を示した図である。
【図8】コイル通電によって増圧制御弁3が閉弁状態となったときの様子を示しす断面図である。
【図9】電磁力と流体力+バネ力の関係を示した特性図である。
【図10】図9の関係を説明するための弁体の様子を示した模式図である。
【符号の説明】
【0087】
1…M/C、2…W/C、3…増圧制御弁、4…リザーバ、5…減圧制御弁、6…ポンプ、7…ハウジング、32…ガイド、33…シャフト、34…シート、37…スリーブ、38…プランジャ、39…スプリング、40…コイル、45…オリフィス、322a…吸引面、324…ガイド穴、331…弁体、341…第1連通路、341a…オリフィス、342…第1弁座。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部及び底面を有し、一端側が開口部となったコップ形状で構成されたスリーブ(37)と、
前記スリーブ(37)の外周に備えられたコイル(40)と、
前記スリーブ(37)内に収容され、前記コイル(40)への通電により、前記スリーブ(37)内を摺動動作するプランジャ(38)と、
前記プランジャ(38)の摺動動作に伴って移動する球形状の弁体(331)が備えられたシャフト(33)と、
磁性体にて形成され、前記シャフト(33)を摺動自在に保持するガイド穴(324)を備えていると共に、前記プランジャ(38)の先端面と対向する吸引面(322a)が備えられ、該吸引面(322a)が前記スリーブ(37)に嵌入されるように構成されたガイド(32)と、
前記弁体(331)が接離する弁座(342)を有すると共に、前記弁体(331)が前記弁座(342)に接離することによって開閉される連通路(341)を有してなるシート(34)とを備えてなり、
前記弁体(331)が前記弁座(342)に着座したときに、前記プランジャ(38)の先端面と前記ガイド(32)の前記吸引面(322a)の間が0.2mm以上空くように構成されており、
前記弁体(331)の前記弁座(342)からのストローク(S)が0から最大値までの範囲にわたって、ストローク−吸引力特性ラインは、ストローク−対抗力特性ラインより勾配がなだらかであり、かつ、与えられる電磁力に応じて上下に移動し、
さらに、電磁力最小値でのストローク−吸引力特性ラインは、ストローク−対抗力特性ラインの対向力最小点(A)より下方に位置し、電磁力最大値でのストローク−吸引力特性ラインは、ストローク−対抗力特性ラインの対抗力最大点(B)より上方に位置していることを特徴とするリニア制御のブレーキ制御用電磁弁。
【請求項2】
筒状部及び底面を有し、一端側が開口部となったコップ形状で構成されたスリーブ(37)と、
前記スリーブ(37)の外周に備えられたコイル(40)と、
前記スリーブ(37)内に収容され、前記コイル(40)への通電により、前記スリーブ(37)内を摺動動作するプランジャ(38)と、
前記プランジャ(38)の摺動動作に伴って移動する球形状の弁体(331)が備えられたシャフト(33)と、
磁性体にて形成され、前記シャフト(33)を摺動自在に保持するガイド穴(324)を備えていると共に、前記プランジャ(38)の先端面と対向する吸引面(322a)が備えられ、該吸引面(322a)が前記スリーブ(37)に嵌入されるように構成されたガイド(32)と、
前記弁体(331)が接離する弁座(342)を有すると共に、前記弁体(331)が前記弁座(342)に接離することによって開閉される連通路(341)を有してなるシート(34)とを備えてなり、
前記シート(34)における前記連通路(341)には、通路断面の面積が該連通路(341)の他の部位よりも小さくされたオリフィス(341a)が形成されており、
前記弁体(331)が前記弁座(342)に着座したときに、前記弁体(331)と前記弁座(342)の接触部位によって構成される円形状の径をシート径(ds)とすると、
前記シート径(ds)に対する前記オリフィス(341a)の径(do)の比(do/ds)が0.9以下となっており、
前記弁体(331)の前記弁座(342)からのストローク(S)が0から最大値までの範囲にわたって、ストローク−吸引力特性ラインは、ストローク−対抗力特性ラインより勾配がなだらかであり、かつ、与えられる電磁力に応じて上下に移動し、
さらに、電磁力最小値でのストローク−吸引力特性ラインは、ストローク−対抗力特性ラインの対向力最小点(A)より下方に位置し、電磁力最大値でのストローク−吸引力特性ラインは、ストローク−対抗力特性ラインの対抗力最大点(B)より上方に位置していることを特徴とするリニア制御のブレーキ制御用電磁弁。
【請求項3】
前記弁座(342)は、前記シート(34)に形成された前記連通路(341)における前記プランジャ(38)側の端部をテーパ状とすることで構成され、
前記シート径(ds)に対する前記弁座(342)の最大径の比が1.3以下となっていることを特徴とする請求項2に記載のリニア制御のブレーキ制御用電磁弁。
【請求項4】
前記弁体(331)が前記弁座(342)に着座したときに、前記プランジャ(38)の先端面と前記ガイド(32)の前記吸引面(322a)の間が0.2mm以上空くように構成されていることを特徴とする請求項2または3に記載のリニア制御のブレーキ制御用電磁弁。
【請求項5】
前記弁体(331)を前記弁座(342)から離す方向に付勢するスプリング(39)を有し、該スプリング(39)のばね定数が3N/mm以上となっていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載のリニア制御のブレーキ制御用電磁弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−55521(P2007−55521A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245418(P2005−245418)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】