説明

プラズマ処理装置

【課題】 スルーホール挿入型である個別半導体(LED等)のリードフレーム部材のチップ実装部を効率よく洗浄処理する。
【解決手段】 処理室17内に配置されたプラズマ生成用の下部電極19に、略平板状のリードフレーム部材を多数、起立保持するための櫛歯形状の溝19aを形成し、その溝19aの両側部は開口とする。複数の未処理のリードフレーム部材は、処理対象であるチップ実装部が上向きになるように下部電極19の各溝19a内に起立状態で収容される。処理室17が閉鎖された状態で、上部電極18と下部電極19との間に発生されるプラズマの作用により、多数のリードフレーム部材の実装部は一度に処理される。このため、処理効率が良く装置も小型化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品が実装される金属基板等の部材の表面をプラズマを用いて処理するプラズマ処理装置に関し、更に詳しくは、例えばトランジスタ、LED等のスルーホール挿入型の電子部品のリードフレームにあって半導体チップを搭載する実装部を処理するのに好適なプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子を代表とする電子部品の製造過程では、プラズマクリーニングを始めとする各種のプラズマ処理が利用されている。ここではプラズマクリーニングに関して説明するが、プラズマを使用した他の処理、例えばプラズマエッチング、プラズマCVD等でも同様である。
【0003】
従来、電子部品が実装される基板の表面をクリーニングするための装置として特許文献1などに記載のプラズマクリーニング装置が知られている。この特許文献1に記載のプラズマクリーニング装置では、プラズマ処理を行うための処理室のベースには下部電極が設けられ、そのベースを被覆する蓋体内側には対向して上部電極が設けられる。また、ベースには処理対象物を下部電極上に案内するための一対のガイドが取り付けられ、その一対のガイドの間に処理対象物が保持される。蓋体が閉鎖されると、処理対象物は上部電極と下部電極との間の空間に位置することとなり、処理室内部に生成されたプラズマによって表面がクリーニングされる。
【0004】
ところで、スルーホール挿入型のLEDやトランジスタ等の個別半導体では、金属製のリードフレームの頂部に形成された実装部に半導体チップがチップボンディングされるため、そのチップボンディング工程の前に実装部をクリーニングする必要がある。製造工程においては各素子に対応するリードフレームが多数連結された略平板状の部材(以下リードフレーム部材と呼ぶ)としてリードフレームメーカーから供給される。
【0005】
図5はLEDのリードフレーム部材の概略形状を示す平面図である。図5において、1個のLEDに対応するリードフレームWrは連結部Wcによって多数連結されており、全体としては略平板形状となっている。リードフレームWrにおいて、Wtは半導体チップを貼り付ける凹部形状の実装部であり、WfはこのLED素子のスルーホール挿入用の端子となる部分(以下、脚部と呼ぶ)である。
【0006】
上記従来のプラズマクリーニング装置によってこうしたリードフレーム部材を処理する際には、下部電極上にリードフレーム部材を横向きに寝かして載置した状態で処理を行うことになる。しかしながら、そうした載置状態では、実際にクリーニングしたい部分(実装部Wt)は上部電極に対向しておらず、しかも実装部Wtは若干窪んでいるため、比較的プラズマが届きにくい。そのため、実装部Wtを確実にむらなくクリーニングするためには、リードフレーム部材を裏返して再度処理を行う必要がある。このように上記従来のプラズマクリーニング装置を用いてスルーホール挿入型電子部品のリードフレーム部材を処理する場合には、同一のリードフレーム部材に対して2回の処理を行う必要があるために処理時間が掛かり、処理コストが嵩む。
【0007】
また、下部電極上で1枚のリードフレーム部材が占める面積は大きいため、1回当たりに処理できる枚数もかなり限られる。一度に処理できる枚数を増やすためには上部電極及び下部電極を大きくする必要があるが、そうすると、電極に供給されるRF電力が分散してしまって処理効率が低下し、また処理の均一性も損なわれる。さらに、こうした構成では装置が大型になり、装置の価格も高くなる。
【0008】
【特許文献1】特許第3397203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、例えば上述したような電子部品を製造する際に使用するリードフレーム部材のチップ実装面を効率良くプラズマ処理することができるプラズマ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係るプラズマ処理装置は、略直線状の縁端部を処理対象領域として有する略平板状の処理対象物をプラズマを用いて処理するプラズマ処理装置において、
a)開閉自在に構成された処理室と、
b)該処理室内部に配置され、前記処理対象領域が上向き状態となるように前記処理対象物を起立状態で保持する溝が櫛歯形状に形成された電極と、
を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るプラズマ処理装置では、処理室内にあって処理対象物を保持する機能と処理室内にプラズマを生成するための(又はプラズマを処理対象物に作用させるための)機能とを併せ持つ電極が、略平板形状である複数の処理対象物を起立保持可能であるようにその横断面が櫛歯形状となった複数条の溝を有している。その各溝によって処理対象物の下部をその両面から保持し、且つその姿勢で以て処理対象領域は上を向いて処理室内空間に広く面する。したがって、処理室内にプラズマが生成されると、プラズマは処理対象物の処理対象領域に確実に作用し、クリーニング等の所定のプラズマ処理が行われる。
【0012】
このように、本発明に係るプラズマ処理装置では、プラズマが処理対象領域に満遍なく作用するため、一度の処理で以て処理対象領域が均一に処理される。そのため、従来の装置のように1枚の処理対象物に対して2回の処理を行う必要がなく、処理効率を向上させることができる。また、各溝にそれぞれ処理対象物を収容して同時に処理することができるので、1枚の処理対象物当たりの処理コストを従来に比べて大きく引き下げることができる。さらまた、電極は処理対象物を起立保持するので、多数の処理対象物を処理するにも拘わらず電極の面積をそれほど大きくする必要がない。それによって、装置の小型化に有利である。
【0013】
また、本発明に係るプラズマ処理装置において、前記溝は、その両端部が側方に向けて開放した構成とするとよい。この構成によれば、上方から各溝に処理対象物を挿入する方法以外に、側方の開口部から滑り込ますようにして各溝に処理対象物を収容する、又はその逆に側方の開口部から押し出すようにして各溝から処理対象物を取り出すことができる。これによって、電極に形成された各溝への処理対象物の出し入れを自動化することが容易になり、しかも処理対象物の搬送のためのスペースを電極の上方に確保する必要がないので装置の小型化に適する。具体的には、例えば特開平7−172512号公報に開示されたリードフレーム搬送機構のような機構を用いることにより、各溝への処理対象物の出し入れを自動化することができる。
【0014】
本発明に係るプラズマ処理装置において、処理対象領域に対する処理の均一性を高めるには処理対象領域がプラズマ雰囲気中に存在することが望ましいが、条件によっては処理対象領域と処理室容器(通常は接地電位)との間で異常放電が発生し易くなる。こうした異常放電を防止するには、処理対象物が溝に挿入された状態で、その処理対象領域の電極上面からの突出量を該電極上方に形成されるプラズマのイオンシース領域の高さ以下とすることが好ましい。
【0015】
このイオンシース領域とは、プラズマ発生時に電極上面から所定高さの範囲に形成される、イオン密度が電子密度よりも大きな領域のことであり、その領域の高さはプラズマ発生条件(印加電圧、ガス圧、電極間距離等)に依存する。例えば標準的なプラズマ発生条件ではイオンシース領域の高さは10mm程度であるから、処理対象領域の高さを8mm程度以下とするとよく、イオンシース領域の中でも特にイオン密度の大きな範囲に配置するためには3mm程度以下とするとよい。こうしたイオンシース領域内では放電に必要な電子が殆ど存在しないか、或いは存在してもその密度は低いため、異常放電を防止しつつ、良好にプラズマ処理を達成することができる。
【0016】
また、本発明に係るプラズマ処理装置において、特に処理室内のガス圧を比較的低く(真空度を高く)した場合には、溝幅方向に隣接した2つの溝に収容されている処理対象物の間での放電が問題となることがある。こうした放電は、隣接した処理対象物の間でイオンが行き来し、それに伴って二次電子等が発生することで生じ易くなる。ガス分子の密度が相対的に高くイオンの平均自由行程が短い場合には、隣接した処理対象物の間でのイオンの移動も制約を受け、上記のような放電は起きにくい。
【0017】
そこで、本発明に係るプラズマ処理装置では、処理室内のガス圧やガス種類などの条件を考慮した上で、前記溝の幅を、前記処理室内のガス中におけるイオンの平均自由行程以下とすることが好ましい。これによって、特にガス圧が低いような条件の下でも、隣接する処理対象物間での放電を起こりにくくすることができる。
【0018】
本発明に係るプラズマ処理装置において、具体的な一態様として、前記処理対象物は、頂部に処理対象領域としてのチップ実装部を有するリードフレームが多数連結されたリードフレーム部材であるものとすることができる。また、プラズマを用いた処理の一態様としては、プラズマクリーニングとすることができる。すなわち、リードフレーム部材では連結された各リードフレームのチップ実装部のみを処理すればよいから、本発明に係るプラズマ処理装置によれば、チップ実装部を効率よく良好に処理、例えばクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るプラズマ処理装置の一実施例として、図5に示したリードフレーム部材Wの実装部Wtを洗浄するプラズマクリーニング装置を挙げて説明する。
【0020】
図1は本実施例によるプラズマクリーニング装置の概略構成図である。このプラズマクリーニング装置1は、蓋体17a及び基部17bから成る処理室17を有し、蓋体17aは図示しない昇降機構により上下動可能であって、最も降下した位置では蓋体17aの下端が基部17b上面に当接して略密閉状態の処理室が形成される。基部17bにはRF電源20に接続された下部電極19が設置され、これに対向して蓋体17aの下面には接地された上部電極18が設けられている。また、図示しないものの基部17bには真空ポンプが配設された排気管が接続されており、この真空ポンプの動作によって略密閉された処理室17内部が真空排気されるようになっている。
【0021】
処理対象物であるリードフレーム部材Wは後述するように下部電極19にセットされた状態で処理されるが、未処理のリードフレーム部材を下部電極19にセットするため、及び処理済みのリードフレーム部材を下部電極19から取り出すために、例えば作業者が手でリードフレームを出し入れしたり、或いは、前述した公知のリードフレーム搬送機構又はこれに相当する装置により自動的にリードフレームを出し入れしたりする。
【0022】
図3(a)は図1中の下部電極19の形状を示す正面図(但し、図1の状態を正面とする)、図3(b)は下部電極19の形状を示す左側面図、図4(a)は下部電極19に形成された一条の溝の拡大図、図4(b)はこの溝にリードフレーム部材Wを装填した状態を示す図である。
【0023】
図3(b)に示すように、下部電極19にはリードフレーム部材Wを起立状態で保持するための多数の溝19aが同一間隔dで櫛歯形状に形成されており、その溝19aは入口側側面(図3(a)で左側)及び出口側側面(図3(a)で右側)でいずれも開口している。各溝19aは深い部分(つまり下部)が幅狭部19bとなっており、その上部は幅広部19cとなっている。すなわち、図4(b)に示すように、溝19a内にリードフレーム部材Wを装填したとき、幅狭部19bは非常に狭い間隙で以て各リードフレームWrの脚部Wfを両面から保持し、幅広部19cでは下部電極19との間隙が相対的に広くなる。そのため、この間隙にはプラズマの侵入が可能である。
【0024】
また、処理対象領域である実装部Wtは下部電極19の上面から距離tだけ突出している。この距離tが大きいと、後述のプラズマ処理の際に実装部Wtと処理室17の壁面との間で異常放電が発生し易くなる。こうした異常放電を防止するには、プラズマ発生時に下部電極19の上方近傍に形成される、電子密度の低いイオンシース領域内に実装部Wt(実際にはリードフレームWrの上端部)が存在するようにすることが好ましい。
【0025】
この実施例では、下部電極19の上面から約10mmの高さ以下の範囲がイオンシース領域となるため距離tを約8mmとしているが、異常放電を防止するという観点からは電子が殆ど存在しない範囲に収まるようにさらに距離tを小さく(約3mm以下)するとよい。なお、イオンシース領域の高さはプラズマ発生条件に依存するから、実際には予備的な実験に基づいてイオンシース領域の高さを推測し、それに応じて距離tを定めることができる。
【0026】
さらに、この実施例では、櫛歯形状の各溝19aの間隔dを約2mmと定めている。すなわち、こうした構造の各溝にリードフレーム部材Wを起立状態で保持すると、溝幅方向に隣接する二枚のリードフレーム部材Wの突出領域の間で放電が起きることがある。これは、主として、プラズマ処理の際にその二枚のリードフレーム部材間でイオンが行き来する途中でガス分子等に衝突して二次電子等が発生することに起因する。こうした衝突を回避できれば放電の発生の可能性は低くなり、そのためには隣接する二枚のリードフレーム部材間の距離をイオンの平均自由行程以下にすればよい。
【0027】
イオンの平均自由行程はガス圧やガスの種類に依存するが、これらは既知であるから、イオンの平均自由行程は予め計算により求めることができる。例えば、10Paのガス圧の下ではイオンの平均自由行程は1mm程度である。この実施例では、プラズマ生成条件からイオンの平均自由行程を推算し、溝19aの間隔を約2mmと定めている。これによって、プラズマ発生時に、隣接する二枚のリードフレーム部材間での異常放電も抑制することができる。
【0028】
次に、複数の未処理のリードフレーム部材W1が下部電極19の各溝19a内に収容された状態で、本実施例のプラズマクリーニング装置1により実行されるプラズマ処理の動作について説明する。
【0029】
処理動作が開始されると、まず図2に示すように、図示せぬ昇降機構により蓋体17aが基部17bに当接するまで下降され、処理室17は内部に未処理のリードフレーム部材W1が収容された状態で略密閉される。その状態で図示せぬ真空ポンプにより処理室17内部は真空排気され、必要に応じて所定のガスが処理室17内に導入され、RF電源20から下部電極19へとRF電力が供給されることで処理室17内の両電極18、19間にプラズマが発生する。このプラズマの作用により、複数のリードフレーム部材W1の各リードフレームWrの実装部Wtはクリーニングされる。全ての実装部Wtは上部電極18に対向しており、しかも前述のように各溝19aに幅広部19cが形成されていることによってプラズマがむらなく実装部Wtに作用するので、クリーニング処理を迅速に且つ均一に行うことができる。また、実装部Wtがプラズマ中のイオンシース領域に配置されていることによって異常放電も発生しない。
【0030】
上記処理が終了したならば、真空状態を解除した後に蓋体17aを再び上昇させて処理室17を開放する。そして、作業者の手作業によって、又は前述の搬送機構により自動的に、処理済みのリードフレーム部材W1は下部電極19から取り出され、次の工程へと搬送される。リードフレーム部材W1の搬送を自動的に行う場合には、空になった下部電極19に次の未処理のリードフレーム部材が搬入されるようにすれば、多数のリードフレーム部材を効率良く処理することができる。
【0031】
なお、上記実施例では本発明をプラズマクリーニング装置に適用した場合について説明したが、同様の形状であって同様の部分をプラズマ処理する必要のある他の装置にも本発明を適用し得ることは容易に推測できる。また、上記実施例は本発明の一例であって、本発明に係るプラズマ処理装置の実際の形態は上記記載の構成に限定されるものではない。すなわち、本発明の趣旨の範囲で適宜に変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例であるプラズマクリーニング装置の概略構成図。
【図2】プラズマクリーニング処理時の状態を示す概略構成図。
【図3】下部電極の形状を示す正面図(a)及び左側面図(b)。
【図4】下部電極に形成された一条の溝の拡大図(a)、及び溝にリードフレーム部材を装填した状態を示す図(b)。
【図5】リードフレーム部材の外観を示す平面図。
【符号の説明】
【0033】
1…プラズマクリーニング装置
17…処理室
17a…蓋体
17b…基部
18…上部電極
19…下部電極
19a…溝
19b…幅狭部
19c…幅広部
20…RF電源
W、W1…リードフレーム部材
Wc…連結部
Wf…脚部
Wr…リードフレーム
Wt…実装部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略直線状の縁端部を処理対象領域として有する略平板状の処理対象物をプラズマを用いて処理するプラズマ処理装置において、
a)開閉自在に構成された処理室と、
b)該処理室内部に配置され、前記処理対象領域が上向き状態となるように前記処理対象物を起立状態で保持する溝が櫛歯形状に形成された電極と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記溝は、その両端部が側方に向けて開放してなることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記処理対象物が前記溝に挿入された状態で、前記処理対象領域の電極上面からの突出量を該電極上方に形成されるプラズマのイオンシース領域の高さ以下としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記溝の幅は、前記処理室内のガス中におけるイオンの平均自由行程以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記処理対象物は、頂部に処理対象領域としてのチップ実装部を有するリードフレームが多数連結されたリードフレーム部材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
プラズマを用いた処理はプラズマクリーニングであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−332397(P2006−332397A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154904(P2005−154904)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(392022570)サムコ株式会社 (36)
【Fターム(参考)】