説明

プラズマ処理装置

【課題】安定してストリーマ放電を生成して均一なプラズマを生成することができ、しかも装置の大型化や高コスト化を抑制することができるプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】対向する一対の電極1、1間に形成される対向領域2にプラズマ生成ガスGを供給する。大気圧又はその近傍の圧力下で上記電極1、1間に電圧を印加することにより対向領域2にストリーマ放電Sを形成すると共にこのストリーマ放電Sにより対向領域2でプラズマPを生成する。このプラズマPを被処理物Hに供給するプラズマ処理装置に関する。不均一な電界強度分布を対向領域2に発生させることにより上記ストリーマ放電Sを形成するためのストリーマ放電形成手段と、このストリーマ放電Sを対向領域2で分散させるためのストリーマ放電分散手段と、被処理物Hを上記対向領域2で搬送するための搬送手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物の表面に存在する有機物等の異物のクリーニング、レジストの剥離やエッチング、有機フィルムの密着性の改善、金属酸化物の還元、成膜、めっき前処理、コーティング前処理、各種材料・部品の表面改質などのプラズマ処理に利用されるプラズマ処理装置に関するものであり、特に、幅広の被処理物(ワーク)の表面の改質に好適に応用されるものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、筒状容器内にプラズマ生成用ガスを導入し、筒状容器の外部に配設された電極により電圧を印加することにより、プラズマ生成用ガスのガス流れと同じ方向にストリーマ放電を形成すると共にこのストリーマ放電により筒状容器内にプラズマを生成し、このプラズマを筒状容器から吹き出して被処理物に供給することによって、被処理物にプラズマ処理を施すことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ロール電極の周面に対向して複数個の固定電極を並設し、ロール電極と固定電極の間に電圧を印加して不均一なプラズマ状態を形成し、この不均一なプラズマ状態の中を通して被処理物を搬送することにより被処理物にプラズマ処理を施すことも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−93768号公報
【特許文献2】特開2006−299000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のプラズマ処理装置では、ストリーマ放電を生成するためのストリーマ放電形成手段がなく、単に電極間に電圧の印加により発生するストリーマ放電を利用しているため、ストリーマ放電を安定して持続させるのが難しい場合があった。また、幅広の被処理物をプラズマ処理するためには、幅広の筒状容器を必要とするが、ガラス等で形成される筒状容器の強度を確保するのは困難なため、筒状容器の変形によりプラズマを均一に吹き出すことが難しく、被処理物のプラズマ処理にバラツキが生じるおそれがあった。
【0005】
一方、特許文献2に記載のプラズマ処理装置では、強制的に不均一な電界強度分布を形成しているが、一組の電極ではプラズマ処理が不均一になるために、被処理物への均一なプラズマ処理効果を発揮するためには、ロール電極の周りに多数個の固定電極を配設して不均一なプラズマを重ね合わせなければならず、装置の大型化や高コスト化になるという問題があった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、安定してストリーマ放電を生成して均一なプラズマを生成することができ、しかも装置の大型化や高コスト化を抑制することができるプラズマ処理装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係るプラズマ処理装置は、対向する一対の電極1、1間に形成される対向領域2にプラズマ生成ガスGを供給し、大気圧又はその近傍の圧力下で上記電極1、1間に電圧を印加することにより対向領域2にストリーマ放電Sを形成すると共にこのストリーマ放電Sにより対向領域2でプラズマPを生成し、このプラズマPを被処理物Hに供給するプラズマ処理装置において、不均一な電界強度分布を対向領域2に発生させることにより上記ストリーマ放電Sを形成するためのストリーマ放電形成手段と、このストリーマ放電Sを対向領域2で分散させるためのストリーマ放電分散手段と、被処理物Hを上記対向領域2で搬送するための搬送手段とを備えて成ることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項2に係るプラズマ処理装置は、請求項1において、ストリーマ放電形成手段は、被処理物Hの搬送方向と略平行な方向において不均一な電界強度分布を発生するものであることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項3に係るプラズマ処理装置は、請求項1又は2において、ストリーマ放電形成手段は、対向する電極1、1の間隔を不均一にして形成して成ることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項4に係るプラズマ処理装置は、請求項1乃至3のいずれか一項において、ストリーマ放電形成手段は、対向する電極1、1の少なくとも一つの対向面20を誘電体3で被覆すると共にこの誘電体3の誘電率を部分的に異ならせることにより形成して成ることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項5に係るプラズマ処理装置は、請求項1乃至4のいずれか一項において、ストリーマ放電形成手段は、対向する電極1、1の少なくとも一方の対向面20を誘電体3で被覆すると共にこの誘電体3の厚みを部分的に異ならせることにより形成して成ることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項6に係るプラズマ処理装置は、請求項1乃至5のいずれか一項において、ストリーマ放電形成手段は、対向する電極1、1の少なくとも一方を他方に対して変位自在に形成して成ることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項7に係るプラズマ処理装置は、請求項1乃至6のいずれか一項において、プラズマ生成用ガスGを対向領域2に供給するためのガス供給手段4を対向領域2に隣接して設けて成ることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項8に係るプラズマ処理装置は、請求項7において、ガス供給手段4をストリーマ放電分散手段として兼用して成ることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の請求項9に係るプラズマ処理装置は、請求項1乃至8のいずれか一項において、少なくとも対向する電極1、1とストリーマ放電形成手段とストリーマ放電分散手段とを収容するチャンバー6を具備して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明では、プラズマ生成効率のよいストリーマ放電Sをストリーマ放電形成手段で安定して形成することができると共に局所的な放電形態となりやすいストリーマ放電Sをストリーマ放電分散手段で対向領域2で均一に分散させることができ、安定してストリーマ放電Sを生成して均一なプラズマを生成することができるものであり、しかも、ストリーマ放電Sをストリーマ放電分散手段で分散させるために、ストリーマ放電Sを発生させるための多数の電極を備える必要が無く、装置の大型化や高コスト化を抑制することができるものである。
【0017】
請求項2の発明では、搬送方向と略平行方向に電界強度分布をつけることにより、同一方向にストリーマ放電を分布させることができる。このようにストリーマ放電の分布方向を被処理物の幅方向と同一方向に形成することにより、被処理物が処理空間を通過する間に、ストリーマ放電が重ね合わさることになるため、被処理物表面のプラズマ処理強度のばらつきを抑制することができる。
【0018】
請求項3の発明では、電極1、1の対向する対向面20を傾斜面としたり、平板と曲面等にしたりすることにより、不均一な電界強度分布を発生させるストリーマ放電形成手段を容易に形成することができるものである。
【0019】
請求項4の発明では、誘電体の材質を変えることにより、対向面20を平滑な状態のままで電界強度分布を不均一にすることができ、ストリーマ放電形成手段を有する電極1、1であってもその間隔調整を容易に行うことができて安定してストリーマ放電を形成することができるものである。
【0020】
請求項5の発明では、誘電体の厚みを変えることにより、対向面20に凹凸加工や傾斜加工をすることがなくても電界強度分布を不均一にすることができ、ストリーマ放電形成手段を容易に形成することができるものである。
【0021】
請求項6の発明では、一方の電極1を他方の電極1に対して変位させることにより、対向領域2でプラズマ生成用ガスGに乱流成分を付与することができ、ストリーマ放電Sを効率よく分散することができるものである。
【0022】
請求項7の発明では、対向領域2に効率よくプラズマ生成用ガスを供給することができ、プラズマ生成用ガスの使用効率を高めることができるものである。
【0023】
請求項8の発明は、ガス供給手段から供給されるプラズマ生成用ガスのガス流を利用することによりストリーマ放電を分散することとができ、部材の兼用により装置の小型化や簡素化及び低コスト化を図ることができるものである。
【0024】
請求項9の発明では、チャンバー6によりプラズマ生成用ガスGの拡散を少なくすることができ、対向領域2でのガス雰囲気の制御を容易に行うことができると共に環境への負荷を小さくすることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0026】
(実施の形態1)
図1に示すプラズマ処理装置は、一対の電極1、1を上下に対向配置して備えるものであり、対向する電極1、1間の空間は対向領域2として形成されている。電極1は銅、アルミニウム、チタニウム合金、真鍮、耐食性の高いステンレス鋼(SUS304など)などの導電性の金属材料で形成することができる。また、上側の電極1は円筒状のロール電極1aとして形成されており、下側の電極は上面が平坦な平板電極1bとして形成されている。図1のものではロール電極1aと平板電極1bは紙面に直交する方向に長尺に形成されている。また、ロール電極1aの両端面には軸部40が突設されており、ロール電極1aは軸部40を中心として回転駆動自在に形成されている。
【0027】
ロール電極1aの周面は曲面であるため、ロール電極1aの下面と平板電極1bの上面との間隔は、軸部40の真下が最も狭く、平板電極1bの両方の長辺に向かうに従って徐々に広がるように形成されている。すなわち、ロール電極1aの下面における周面の接線方向と平行な方向(平板電極1bの短手方向と平行な方向)において、対向領域2の間隔がその中央部から両側に向かって徐々に広がるように形成されている。このように電極1、1の間隔を上下方向で不均一にすることによって、ストリーマ放電形成手段を形成することができる。すなわち、ロール電極1aと平板電極1bとの間隔は平板電極1bの短手方向(図面の紙面と平行な水平方向)における対向領域2の両端になるほど広くなるため、対向領域2の中央部に比べて電界強度が低くなる。従って、対向領域2の中央部から両端に向かって電界強度が徐々に小さくなるように不均一な電界強度分布が生じることになる。ここで、対向領域2の中央部における電界強度は20kV/mm、対向領域2の両端における電界強度は18kV/mmとすることができるが、これに限定されるものではない。上記の対向領域2は被処理物HにプラズマPを供給してプラズマ処理するための処理空間5として形成されている。
【0028】
また、下側の平板電極1bには電源21が接続されて高圧電極として形成されていると共に上側のロール電極1aは軸部40において接地されて接地電極として形成されている。また、平板電極1bには冷却水循環用の流通孔30が長尺方向の略全長にわたって形成されている。さらに、ロール電極1aの周面及び平板電極1bの上面の対向面20を含む全面はアーク放電の防止のために誘電体3により被覆されている。誘電体3としては、例えば、石英ガラス、アルミナ、チタン酸バリウム、イットリア、ジルコニウムなどのガラス質材料やセラミック材料などの高融点の絶縁材料で形成することができ、比誘電率が5以上であることが好ましい。また、誘電体3の被膜の厚みは全体にわたって一定であり、例えば、0.5〜5mmとする。
【0029】
プラズマ処理装置はガス供給手段4としてガスノズル22を備えている。ガスノズル22は平板電極1bの側方に配置して対向領域2に隣接させている。また、ガスノズル22は平板電極1bの長尺方向の略全長にわたって配設されている。ガスノズル22には先絞り形状のガス噴出路23が形成されており、ガス噴出路23から対向領域2に側方からプラズマ生成用ガスGを噴出するものである。この実施の形態1では、ガスノズル22によってガス供給手段4とストリーマ放電分散手段とを兼用するものである。
【0030】
また、上記の電極1、ガスノズル22及び処理空間5は箱状のチャンバー6内に収容されている。チャンバー6の上面には搬入口26と搬出口27が設けられている。このプラズマ処理装置において、被処理物Hを搬送するための搬送手段はロール電極1aであり、ロール電極1aを回転駆動しながらその周面にフィルムなどの被処理物Hを沿わせて搬送することができる。
【0031】
そして、上記のプラズマ処理装置を用いて合成樹脂フィルムなどの可撓性の長尺の被処理物Hをプラズマ処理するにあたって次のようにして行う。まず、大気圧又はその近傍の圧力下(90〜107kPa)において、プラズマ生成用ガスGを対向領域2にその側面開口から導入しながらロール電極1a、平板電極1bの間に電圧を印加することによって対向領域2に多数本のストリーマ放電Sを発生させる。ここで、プラズマ生成用ガスGはガスノズル22のガス噴出路23を通じて対向領域2に導入されるため、高速で対向領域2に噴射されることになり、この噴射によりプラズマ生成用ガスGの乱流が生じてストリーマ放電Sが対向領域2内で拡散されて分散される。従って、不均一な電界強度分布により局所的にストリーマ放電Sを形成しても、それを対向領域2の全体にわたって分散させることができる。この後、分散されたストリーマ放電Sにより対向領域2の全体にわたって略均一にプラズマPが生成される。尚、ロール電極1aと平板電極1b間に印加される電圧の波形は正弦波などの連続波形とすることができ、その周波数は1kHz〜200MHzに設定するのが好ましい。連続波形の電圧を用いると、ロール電極1aと平板電極1b間への電力の供給を大きくすることができ、高密度のプラズマを生成することができる。また、ロール電極1aと平板電極1b間に印加される電圧の波形はパルス波形とすることができ、この場合、周波数は0.5kHz〜200MHzに設定するのが好ましい。パルス波形の電圧を用いることにより、対向領域2の温度上昇を抑制することができ、耐熱性の低い被処理物Hであってもプラズマ処理をすることができる。電極1、1間に印加される電圧は電極1、1間の距離やプラズマ生成用ガスGの組成等によって異なるが、電界強度が1kV〜30kV/mmの範囲になるように設定するのが好ましい。
【0032】
一方、被処理物Hは搬入口26からチャンバー6内に搬入され、処理空間5である対向領域2を通過した後、搬出口27からチャンバー6外に搬出される。ここで、このプラズマ処理装置では被処理物Hが対向領域2を通過する際には略水平に搬送されるため、対向領域2における被処理物Hの搬送方向と略平行な水平方向において不均一な電界強度分布をストリーマ放電形成手段により発生させている。
【0033】
そして、対向領域2を通過する際に被処理物Hの下面(ロール電極1aの誘電体3に接触しない方の面)に上記プラズマPを曝露して供給することによって、被処理物Hの表面改質処理などのプラズマ処理を行うことができる。ここで、被処理物Hを搬送しながらプラズマPを供給することにより、被処理物Hの搬送方向の全長にわたってプラズマ処理をすることができる。また、被処理物Hの幅方向(搬送方向と水平面内で直交する方向)においても、電極1の長尺方向の全長にわたってプラズマ処理をすることができる。尚、被処理物Hの搬送速度は0.05〜30m/分とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0034】
(実施の形態2)
図2に示すプラズマ処理装置は、図1のものにおいて、平板電極1bの上面の対向面20を凹凸面として形成されている。この凹凸面は複数の突起29や突条を対向面20に設けることにより形成することできる。対向面20の粗度は最大高さRmaxで10〜2000μmとすることができるが、これに限定されるものではない。このようにしてロール電極1aの周面と平板電極1bの上面の対向面20との間隔を平板電極1bの長尺方向と短尺方向で部分的に不均一にすることによって、ストリーマ放電形成手段を形成することができる。すなわち、電極1、1の間隔が広い部分では狭い部分に比べて電界強度が低くなる。従って、対向領域2の全体に不均一な電界強度分布が生じることになる。また、ロール電極1aの周面及び平板電極1bの全面は上記と同様の誘電体3により被覆されている。誘電体3の被膜の厚みは上記と同様に全体にわたって一定であるため、対向面20を被覆する部分では誘電体3の被膜の上面に対向面20の凹凸が表出することになる。そして、このプラズマ処理装置では、この誘電体3の上面の凹凸がストリーマ放電分散手段として形成されている。従って、このプラズマ処理装置にはガス供給手段4としてガス導入孔33を備えたカバー32が設けられているが、プラズマ生成用ガスGを対向領域2に噴出するような上記と同様のガスノズル22は備えられていない。その他の構成は上記プラズマ処理装置と同様である。
【0035】
そして、このプラズマ処理装置を用いて合成樹脂フィルムなどの可撓性で長尺な被処理物Hをプラズマ処理するにあたって、上記と同様にして行うことができる。すなわち、大気圧又はその近傍の圧力下において、カバー32のガス導入孔33を通じてプラズマ生成用ガスGを対向領域2にその側面開口から導入しながらロール電極1aと平板電極1bの間に電圧を印加することによって対向領域2に多数本のストリーマ放電Sを発生させる。このとき、対向領域2に面する誘電体3の被膜の上面は凹凸面に形成されているので、対向領域2でプラズマ生成用ガスGの乱流が生じることになり、この乱流でストリーマ放電Sが対向領域2で拡散されて分散される。従って、不均一な電界強度分布により局所的にストリーマ放電Sを形成しても、それを対向領域2の全体にわたって分散させることができる。この後、上記と同様に、分散されたストリーマ放電Sにより対向領域2の全体にわたって略均一にプラズマPが生成される。そして、上記と同様にして、被処理物Hをチャンバー6内に搬入した後、対向領域2(処理空間5)を通過する際に被処理物Hの下面に上記プラズマPを曝露して供給することによって、被処理物Hの表面改質処理などのプラズマ処理を行うことができる。
【0036】
(実施の形態3)
図3に示すプラズマ処理装置は、図2のものと同様に、電極1、1の対向面20が凹凸面として形成されているが、これを被覆する誘電体3の厚みを不均一にして部分的に異ならせるようにし、対向領域2に面する誘電体3の被膜の上面を平坦面に形成している。従って、図2のプラズマ処理装置のように、誘電体3の被膜の上面の凹凸をストリーマ放電分散手段とせずに、その代わりに、図1のプラズマ処理装置のように、ガスノズル25でガス供給手段4とストリーマ放電分散手段とを兼用するようにしている。その他の構成は上記プラズマ処理装置と同様である。
【0037】
そして、このプラズマ処理装置を用いて上記のような可撓性の長尺の被処理物Hをプラズマ処理するにあたって、上記と同様にして行うことができる。すなわち、大気圧又はその近傍の圧力下において、ガスノズル22のガス噴出路23を通じてプラズマ生成用ガスGを対向領域2にその側面開口から導入しながら電極1、1の間に電圧を印加することによって対向領域2に多数本のストリーマ放電Sを発生させる。このとき、ストリーマ放電形成手段は平板電極1bの上面の対向面20の凹凸及び部分的に厚みの異なる誘電体3の被膜である。この後、上記と同様に、ストリーマ放電分散手段によりストリーマ放電Sが対向領域2内で拡散されて分散し、分散されたストリーマ放電Sにより対向領域2の全体にわたって略均一にプラズマPが生成される。そして、上記と同様にして、被処理物Hをチャンバー6内に搬入した後、対向領域2(処理空間5)を通過する際に被処理物Hの下面に上記プラズマPを曝露して供給することによって、被処理物Hの表面改質処理などのプラズマ処理を行うことができる。
【0038】
(実施の形態4)
図4に示すプラズマ処理装置では、ストリーマ放電形成手段は、対向する電極1、1の対向面20を被覆する誘電体3の誘電率を部分的に異ならせることにより形成している。すなわち、図4(b)に示すように、対向面20を被覆する誘電体3を誘電率が異なる複数種の誘電体3a、3bで形成し、タイル状の誘電体3a、3bを例えば市松模様などに並べて対向面20に設けている。これにより、誘電体3aの部分と誘電体3bの部分とで電界強度が異なり、上下方向に不均一な電界強度分布を対向領域2内に形成することができる。誘電体3aと誘電体3bの比誘電率の差は1〜1600であることが好ましいが、これに限定されるものではない。また、図1のプラズマ処理装置のように、ガスノズル22でガス供給手段4とストリーマ放電分散手段とを兼用するようにしている。その他の構成は上記プラズマ処理装置と同様である。
【0039】
そして、このプラズマ処理装置を用いて上記のような可撓性を有する長尺の被処理物Hをプラズマ処理するにあたって、上記と同様にして行うことができる。すなわち、大気圧又はその近傍の圧力下において、ガスノズル22のガス噴射路23を通じてプラズマ生成用ガスGを対向領域2にその側面開口から導入しながらロール電極1aと平板電極1bの間に電圧を印加することによって対向領域2に多数本のストリーマ放電Sを発生させる。この後、上記と同様に、ストリーマ放電分散手段によりストリーマ放電Sが対向領域2内で拡散されて分散し、分散されたストリーマ放電Sにより対向領域2の全体にわたって略均一にプラズマPが生成される。そして、上記と同様にして、被処理物Hをチャンバー6内に搬入した後、対向領域2(処理空間5)を通過する際に被処理物Hの下面に上記プラズマPを曝露して供給することによって、被処理物Hの表面改質処理などのプラズマ処理を行うことができる。
【0040】
(実施の形態5)
図5に示すプラズマ処理装置では、平板電極1bをロール電極1aに対して平板電極1bの長尺方向で略水平に駆動して変位させることによって、ストリーマ放電分散手段が形成されている。従って、図1のようなガスノズル22は具備せず、ガス導入孔33を有するカバー32でガス供給手段4が形成されている。平板電極1を変位させるにあたっては、平板電極1の下面に土台39の上で転動する車輪等の転動部材35を設けると共に平板電極1の一端にリンク部材36を突設し、このリンク部材36をモータなどを内蔵する揺動装置37に連結するものである。そして、リンク部材36を介して揺動装置37の駆動を平板電極1bに伝達させることによって、平板電極1bを長尺方向で略水平に往復移動させて振動させることができる。このように平板電極1bをロール電極1aに対して変位させることで、対向領域2内のプラズマ生成ガスGに乱流成分を付与することができ、局所的に発生するストリーマ放電Sを分散することができる。ここで、対向領域2内のプラズマ生成ガスGに乱流成分を付与するためには、平板電極1bを例えば1秒当たり0.1〜200mmで振動させることができる。その他の構成は上記プラズマ処理装置と同様である。
【0041】
そして、このプラズマ処理装置を用いて上記のような可撓性を有する長尺の被処理物Hをプラズマ処理するにあたって、上記と同様にして行うことができる。すなわち、大気圧又はその近傍の圧力下において、一対のカバー32のガス導入孔33を通じてプラズマ生成用ガスGを対向領域2にその側面開口から導入しながらロール電極1aと平板電極1bの間に電圧を印加することによって対向領域2に多数本のストリーマ放電Sを発生させる。この後、平板電極1bの往復移動によるストリーマ放電分散手段でストリーマ放電Sが対向領域2内で拡散されて分散し、分散されたストリーマ放電Sにより対向領域2の全体にわたって略均一にプラズマPが生成される。そして、上記と同様にして、被処理物Hをチャンバー6内に搬入した後、対向領域2(処理空間5)を通過する際に被処理物Hの下面に上記プラズマPを曝露して供給することによって、被処理物Hの表面改質処理などのプラズマ処理を行うことができる。
【実施例】
【0042】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0043】
(実施例1)
図1に示すプラズマ処理装置を形成した。ロール電極1aはステンレス鋼製であって、直径300mmの円筒状に形成されている。平板電極1bはチタン合金製で長尺方向の寸法が200mm、短尺方向の寸法が30mm、高さ25mmに形成されている。また、平板電極1bの断面は長方形に形成されている。従って、対向領域2における被処理物Hの搬送方向と略平行な水平方向において不均一な電界強度分布をストリーマ放電形成手段により発生させている。ロール電極1aの周面と平板電極1bの全面には溶射法により1mm厚の誘電体(アルミナ)3の被膜を形成した。また、平板電極1bの流通孔30に冷却水を流して循環させた。ロール電極1aと平板電極1bは未放電時において最も短い箇所での間隔が0.8mmとなるように対向配置した。ガス供給手段4としては先絞り形状のガス噴出路23を備えたガスノズル22を用い、ストリーマ放電分散手段と兼用するようにした。
【0044】
(実施例2)
図2に示すプラズマ処理装置を形成した。平板電極1bの上面の対向面20には多数の突起29を設けて凹凸面(最大高さRmax500μm)に形成されている。また、ロール電極1aの周面と平板電極1bの全面には溶射法により1mm厚の誘電体(アルミナ)3の被膜を形成し、対向面20を被覆する誘電体3の被膜の表面も凹凸面に形成されている。これら以外は実施例1と同様にしてプラズマ処理装置を形成した。
【0045】
(実施例3)
図3に示すプラズマ処理装置を形成した。平板電極1bとしては実施例2と同様のものを用い、また、ロール電極1aの周面と平板電極1bの全面には溶射法により最も薄い部分の厚みが1mmとなる誘電体(アルミナ)3の被膜を形成した。対向面20を被覆する誘電体3の被膜の表面は平坦面に形成した。これら以外は実施例1と同様にしてプラズマ処理装置を形成した。
【0046】
(実施例4)
図4に示すプラズマ処理装置を形成した。平板電極1bの断面は長方形とし、その対向面20は平坦面とした。また、平板電極1bの対向面20以外の表面には溶射法により厚み1mmとなる誘電体(アルミナ)3の被膜を形成した。対向面20を被覆する誘電体3の被膜はアルミナからなる誘電体3aとチタン酸バリウムからなる誘電体3bを用いた。二種類の誘電体3a、3bの被膜は大きさ5mm×10mmのタイル状で、これを市松模様に並べて配置した。また、誘電体3の被膜の上面は平坦面に形成した。これら以外は実施例1と同様にしてプラズマ処理装置を形成した。
【0047】
(実施例5)
図5に示すプラズマ処理装置を形成した。平板電極1bは、その長尺方向と平行な方向で振幅2mmで1秒当たり1回振動させることによりロール電極1aに対して変位させた。また、ガスノズル22の代わりにガス導入孔33を有するカバー32を用いた。これら以外は実施例1と同様にしてプラズマ処理装置を形成した。
【0048】
(比較例1)
平板電極1bの対向面20をロール電極1aの周面と平行な曲面としたものを用いると共にガス導入孔33を有するカバー32を用いた。これら以外は実施例1と同様にしてプラズマ処理装置を形成した。従って、これはストリーマ放電形成手段及びストリーマ放電分散手段を具備しないものである。
【0049】
<プラズマ処理能力の評価>
大気圧下で窒素10リットル/分、酸素0.01リットル/分のプラズマ生成用ガスGを対向領域2に導入し、電源21により電極1、1間に正弦波の波形を有する30Hz、12kVの電圧を印加した。これにより、対向領域2内に実施例1〜5及び比較例1ではストリーマ放電Sを、比較例2ではグロー状の放電を生じさせると共にプラズマPを生成し、このプラズマPを処理空間5に吹き出した。
【0050】
被処理物Hとしてはポリイミドフィルムを用い、20m/分で対向領域2を通過するように搬送した。そして、この条件で実施例1〜5及び比較例1で被処理物Hにプラズマ処理を施し、プラズマ処理前後での水の接触角を測定した。プラズマ処理後の水の接触角は被処理物Hの上面に20点の測定点を10mm間隔で設定して測定した。プラズマ処理前の水の接触角は72°であった。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1から判るように、実施例1〜5は比較例1よりもプラズマ処理後の水の接触角が低下した。比較例1は水の接触角の変化が小さいものであった。従って、不均一な電界強度分布を生じさせるストリーマ放電形成手段を具備し、且つストリーマ放電Sを分散させるストリーマ放電分散手段を具備する実施例1〜5のプラズマ処理能力が高いと言える。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態1を示す概略の断面図である。
【図2】同上の実施の形態2を示す概略の断面図である。
【図3】同上の実施の形態3を示す概略の断面図である。
【図4】(a)は同上の実施の形態4を示す概略の側面図、(b)は電極を示す概略図、(c)は概略の断面図である。
【図5】(a)は同上の実施の形態4を示す概略の側面図、(b)は概略の断面図である。
【図6】比較例1を示す概略の断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 電極
2 対向領域
3 誘電体
4 ガス供給手段
5 処理空間
6 チャンバー
S ストリーマ放電
G プラズマ生成用ガス
H 被処理物
P プラズマ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の電極間に形成される対向領域にプラズマ生成ガスを供給し、大気圧又はその近傍の圧力下で上記電極間に電圧を印加することにより対向領域にストリーマ放電を形成すると共にこのストリーマ放電により対向領域でプラズマを生成し、このプラズマを被処理物に供給するプラズマ処理装置において、不均一な電界強度分布を対向領域に発生させることにより上記ストリーマ放電を形成するためのストリーマ放電形成手段と、このストリーマ放電を対向領域で分散させるためのストリーマ放電分散手段と、被処理物を上記対向領域で搬送するための搬送手段とを備えて成ることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
ストリーマ放電形成手段は、被処理物の搬送方向と略平行な方向において不均一な電界強度分布を発生するものであることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
ストリーマ放電形成手段は、対向する電極の間隔を不均一にして形成して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
ストリーマ放電形成手段は、対向する電極の少なくとも一つの対向面を誘電体で被覆すると共にこの誘電体の誘電率を部分的に異ならせることにより形成して成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
ストリーマ放電形成手段は、対向する電極の少なくとも一つの対向面を誘電体で被覆すると共にこの誘電体の厚みを部分的に異ならせることにより形成して成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
ストリーマ放電分散手段は、対向する電極の少なくとも一方を他方に対して変位自在に形成して成ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
プラズマ生成用ガスを対向領域に供給するためのガス供給手段を対向領域に隣接して設けて成ることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
ガス供給手段をストリーマ放電分散手段として兼用して成ることを特徴とする請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
少なくとも対向する電極とストリーマ放電形成手段とストリーマ放電分散手段とを収容するチャンバーを具備して成ることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−9892(P2010−9892A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166597(P2008−166597)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】