説明

プラズマ状態変化検出装置およびこれを備えるプラズマ処理装置

【課題】 真空状態にある容器の内部で、直流放電によりプラズマを発生させた場合であっても、プラズマの状態変化を、精度良くかつ高い自由度で検出できる技術を提供する。
【解決手段】 アノード12およびカソード13の間となるプラズマ処理容器11の側壁の外面に、磁気センサ21を設け、プラズマ処理容器11のプラズマ生成空間に生成したプラズマPの流れの周囲に発生する磁界を計測する。磁界変化量生成部は、磁気センサ21で計測された磁界の初期値と当該初期値から変化した変化値との差分である、電磁界の変化量を生成し、プラズマ変化情報としてプラズマ処理制御部17に出力する。プラズマ処理制御部17は、取得したプラズマ変化情報に基づいて、例えば、プラズマ生成用電源14の印加電圧を変化させる等の制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ状態変化検出装置およびこれを備えるプラズマ処理装置に関し、特に、プラズマの状態変化を電流密度の分布の変化として検出するプラズマ状態変化検出装置と、これを備えることにより、プラズマ処理に有用な情報としてプラズマの状態変化を取得するプラズマ処理装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理装置は、互いに対向する電極であるアノード(陽極)およびカソード(陰極)と、内部にこれら電極を備えるプラズマ処理容器と、を備えている。そして、プラズマ処理を行うときには、この容器の内部に基板等の被処理体を収容してから真空状態とし、前記電極に電力を印加することでプラズマが生成する。生成した前記プラズマは、前記被処理体の表面に対して、エッチング、膜形成、クリーニング等といった各種の処理に用いられる。
【0003】
前記プラズマ処理装置においては、容器中で生成されるプラズマの状態は、各種のプラズマ処理に影響を与える。そこで、従来から、容器の内部で発生させたプラズマの状態の変化を検出する技術が種々提案されている。具体的には、 (i)導体をプローブとして容器の内部に差し込み、当該プローブに生じる電圧の変化をプラズマの状態変化として計測する技術(例えば、特許文献1等)、(ii)プラズマにより放射される光のスペクトル強度を計測する技術(例えば、特許文献2等)、 (iii)容器内のプラズマに晒される部位に絶縁された導体部材を備えている構成において、当該導体部材に生じるに流れる電子による電位の変化を、プラズマの状態変化として検出する技術(特許文献3)、 (iv)対向電極を複数のセグメント電極に分割し、各セグメント電極の近傍においてプラズマの状態の指標となるパラメータを個々に検出することによって、リアルタイムでプラズマ状態を常に最適化する技術(特許文献4)、 (v)被処理体を保持するステージに供給する高周波電圧、高周波電流並びに前記電圧および電流間の位相差を検出し、この位相差をもとにプラズマの電子密度および電子温度を演算する技術(特許文献5)、あるいは、(vi)容器の外周に誘導結合方式の高周波放電用電極を螺旋コイル状に巻回させ、このコイル状の放電用電極に高周波電力を印加して容器内にプラズマを発生させる構成において、前記コイル状放電用電極を巻回している領域、または、前記コイル状放電用電極の外側近傍個所にピックアップコイルを配置し、このピックアップコイルで検出した電圧により、プラズマ発生状態を検知する技術(特許文献6)等が挙げられる。
【特許文献1】特開2000−349032号公報
【特許文献2】特開平06−243991号公報
【特許文献3】特開平07−192896号公報
【特許文献4】特開2002−359232号公報
【特許文献5】特許第3665265号公報
【特許文献6】特開2005−285397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の技術のうち、前記(i)および(ii)の技術では、内部のプラズマから状態変化の指標となる検出値を直接検出するため、容器に別途加工が必要となるとともに、検出の自由度が制限されるおそれがある。また、これら技術の構成上、検出の精度が低下する等の問題も生じる。
【0005】
すなわち、前記 (i)の技術では、プローブをプラズマ中に差し込むために、容器に前記プローブを差し込むための差込孔を形成しなければならない。そのため、複数の部位でプラズマの状態変化を検出したい場合には、複数の差込孔を形成する必要が生じる。また、容器またはプローブの構成、あるいは検出位置等によっては、プローブの差込みがプラズマ場を乱すことも知られている。プラズマの中に導体および絶縁体を存在させることになるため、プローブの挿入そのものがプラズマ場を乱すことがある。さらに、プラズマが反応性を有している場合には、プローブの表面のコーティングや汚れ等を原因として、プラズマの状態変化が検出できないこともある。
【0006】
また、前記(ii)の技術では、光のスペクトル強度を測定するために、容器の外壁に観測窓を形成しなければならず、前記 (i)の技術と同様の問題が生じるおそれがある。また、観測窓の内側がプラズマに曝されることにより、当該内側の面に損傷が生じたり生成物が付着したりすることによって、観測窓が曇ることがある。このような曇りの発生は、正確な状態変化の検出の妨げとなるだけでなく、曇りを防止するための機構を別途設ける必要も生じる。
【0007】
次に、前記 (iii)および(iv)の技術は、それぞれの具体的な構成は異なるものの、容器の内部に存在する部材等を利用してプラズマの状態変化を検出している。また、前記 (v)および(vi)の技術も、それぞれ具体的な構成は異なるものの、容器内部のプラズマから、状態変化のパラメータを直接検出する構成とはなっていない。したがって、これら技術を用いれば、容器に別途加工を施す必要もなく、検出精度の低下といった問題も回避することができる。ただし、これら (iii)〜(vi)の技術はいずれも、プラズマの生成に高周波電力を用いることが前提となっている。したがって、直流放電によりプラズマを生成させる場合には適用することはできない。
【0008】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであって、真空状態にある容器の内部で、直流放電によりプラズマを発生させた場合であっても、プラズマの状態変化を、精度良くかつ高い自由度で検出できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るプラズマ状態変化検出装置は、前記の課題を解決するために、互いに対向するアノードおよびカソードが内部に設けられているプラズマ処理容器の側壁の外面に設けられ、当該プラズマ処理容器の内部で生成したプラズマの流れの周囲に発生する電磁界を計測する電磁界計測器と、前記電磁界計測器で計測された電磁界の初期値と当該初期値から変化した変化値との差分である、電磁界の変化量を生成する電磁界変化量生成器と、を備えている。
【0010】
前記構成によれば、プラズマ処理容器の外部に電磁界計測器を設け、これから得られる電磁界の変化をプラズマの状態変化の情報(プラズマ変化情報)として利用することができる。それゆえ、プラズマ処理容器に差込孔や観測窓等を形成する加工を施す必要がなくなる。また、プラズマ処理容器の側壁の外面であれば、どの場所に電磁界計測器を設けてもよいので、プラズマの状態変化を検出する自由度が向上する。また、生成したプラズマ中に検出用プローブを差し込まないので、プラズマ場を乱すことがなく、さらには、検出用プローブ表面の汚れや観測窓の曇り等を考慮する必要がないので、簡素な構成でプラズマの状態変化を適切に検出することができる。加えて、生成したプラズマの電磁界の変化をプラズマ処理容器の外部から計測する構成であるため、プラズマ生成用電源が高周波電源であっても直流電源であっても適用することができる。
【0011】
前記プラズマ状態変化検出装置においては、前記電磁界計測器としては、磁界の変化を計測する磁気センサ、および、電界の変化を計測する電界プローブの少なくともいずれかを挙げることができる。また、前記電磁界計測器は、前記側壁の前記外面に少なくとも1個設けられていればよいが、より精細にプラズマの状態変化を検出したい場合には、複数設けられていることが好ましい。
【0012】
また、前記アノードが、複数の部分電極から構成されている場合には、前記プラズマ状態変化検出装置は、前記部分電極のそれぞれに設けられ、当該部分電極に流れる電流を計測する部分電極電流計を、さらに備える構成を挙げることができる。
【0013】
前記構成によれば、電磁界計測器により、プラズマ生成空間の側方からプラズマの状態変化を検出するとともに、複数の部分電極それぞれに流れる電流を計測することにより、プラズマの流れの下流側(アノード側)からプラズマの状態変化を検出する。それゆえ、異なる方向からプラズマの状態変化を検出することになり、より精細にプラズマの状態変化を把握することができる。
【0014】
本発明に係るプラズマ処理装置は、前記のプラズマ状態変化検出装置を備えており、具体的には、前記プラズマ処理容器と、前記アノードおよび前記カソードと、前記アノードおよび前記カソードに電力を印加するプラズマ生成用電源と、を備え、前記プラズマ生成用電源が直流電源である構成を挙げることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明では、真空状態にある容器の内部で、直流放電によりプラズマを発生させた場合であっても、プラズマの状態変化を、精度良くかつ高い自由度で検出することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0017】
(実施の形態1)
[プラズマ処理装置の要部構成]
まず、本実施の形態に係るプラズマ状態変化検出装置を備えるプラズマ処理装置の基本構成の一例について、図1を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係るプラズマ処理装置の要部構成を示す模式図である。
【0018】
図1に示すように、プラズマ処理装置10aは、プラズマ処理容器11、アノード(陽極)12、カソード(陰極)13、プラズマ生成用電源14、真空ポンプ15、プラズマ用ガス供給部16、およびプラズマ処理制御部17を少なくとも備え、さらに、プラズマ状態変化検出装置20aを備えている。
【0019】
プラズマ処理容器11は、内部にプラズマ処理空間を含み、真空ポンプ15により内部が吸引されることにより、プラズマ処理が可能なレベルの真空度にまで減圧される。プラズマ処理容器11内には、アノード12およびカソード13が互いに対向するよう設けられ、これら電極の間がプラズマ生成空間となっている。図1では、プラズマ処理容器11、アノード12およびカソード13はいずれも模式的に示されており、略長方形状の断面を有するプラズマ処理容器11の長手方向の両端に、アノード12およびカソード13が配置されている。
【0020】
アノード12およびカソード13は、それぞれプラズマ生成用電源14の正極および負極に接続されている。プラズマ生成用電源14は、直流電源であり、本実施の形態では、印加する電圧を変化できるよう構成されている。また、プラズマ処理容器11には、プラズマ用ガス供給部16により、例えばアルゴン(Ar)等のプラズマ用ガスが供給される。プラズマ生成用電源14からアノード12およびカソード13に直流電圧が印加されると、プラズマ用ガスの存在により各電極間にグロー放電が発生し、これにより、カソード13からプラズマ放電誘発用熱電子が放出され、カソード13からアノード12に向けてプラズマPが生成する。なお、グロー放電における電流をさらに増加させてアーク放電とする構成となっていてもよい。
【0021】
アノード12およびカソード13の具体的構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。本実施の形態では、図1に示すように、アノード12およびカソード13のいずれも、互いに対向する平板状の電極となっているが、これに限定されず、例えば、プラズマ処理装置10aがシートプラズマ処理装置であれば、カソード13は、平板状でなく、円筒状の補助陰極および円環状の主陰極からなる構成を挙げることができる。
【0022】
プラズマ状態変化検出装置20aは、プラズマPの生成に伴い生じる磁界を計測し、当該磁界の変化量をプラズマの状態変化の情報(プラズマ変化情報)としてプラズマ処理制御部17に出力する(図中破線)。その具体的構成および動作については後述する。プラズマ処理制御部17は、例えば、マイクロコンピュータのCPUで構成されている。プラズマ処理制御部17は、プラズマ状態変化検出装置20aから取得したプラズマ変化情報に基づいて、例えば、プラズマ生成用電源14の印加電圧を変化させたり、電圧の印加時間を変化させたりする等、プラズマ処理に関する制御を行う。
【0023】
図1では、プラズマ処理容器11は模式的に示されているが、その具体的形状は特に限定されず、プラズマ処理装置10aの種類や構成等に応じて適切な形状となっていればよい。例えば、プラズマ処理容器11は、気密な容器であればよく、円柱状または角柱状の単一の容器からなっていてもよいし、複数の容器がつながったものであってもよい。同様に、アノード12およびカソード13も図1では模式的に示されており、その具体的形状やプラズマ処理容器11内部の位置も特に限定されない。図1では、アノード12およびカソード13は、水平方向に長さを有するプラズマ処理容器11内で、当該プラズマ処理容器11の長手方向の両端部に位置して、水平方向に対向しているが、上下方向に対向する構成であってもよい。
【0024】
[プラズマ状態変化検出装置の構成および動作]
次に、前記プラズマ状態変化検出装置20aの基本構成と動作の一例について、図1および図2を参照して説明する。図2は、本実施の形態に係るプラズマ状態変化検出装置20aの動作制御を示すフローチャートである。
【0025】
本実施の形態に係るプラズマ状態変化検出装置20aは、図1に示すように、磁気センサ21、磁界変化量生成部22、および記憶部23を備えている。磁気センサ21は、磁気(磁界)を検出できるものであれば特に限定されず、例えば、ホール効果によるホール素子、ホール素子およびアンプ回路を内蔵したホールIC、磁気抵抗効果による磁気抵抗素子、あるいは、磁気変調型磁気センサ等、公知の構成を好適に用いることができる。なお、磁気センサ21により磁界を計測する場合、地球磁場は一定とみなして計測値からバックグラウンドとして差し引けばよい。
【0026】
磁気センサ21を設ける位置は、アノード12およびカソード13の間に面するプラズマ処理容器11の側壁の外部であれば特に限定されない。つまり、磁気センサ21は、プラズマ生成空間に生成したプラズマPの流れの周囲に発生する磁界を計測できるようになっていればよい。また、磁気センサ21は、プラズマ処理容器11の側壁の外面に直接取り付けるかたちで設けてもよいし、外面から一定の間隔をおいて設けてもよい。一定の間隔をおいて磁気センサ21を設ける方法は特に限定されず、例えば、絶縁体を介して外面に取り付ける方法等を挙げることができる。
【0027】
磁界変化量生成部22は、磁気センサ21から磁界の計測値を取得し、記憶部23に記憶させるとともに、当該記憶部23に記憶させた計測値を取得して、後述する磁界の変化量を生成し、プラズマ処理制御部17に出力するよう構成されている。記憶部23は、磁界変化量生成部22から出力される磁界の計測値を少なくとも記憶する。なお、磁界変化量生成部22は、公知のスイッチング素子、減算器、比較器等による論理回路等として構成されてもよいし、プラズマ処理制御部17の機能構成であってもよい。つまり、プラズマ処理制御部17としてのCPUが、図示されない記憶装置等に格納されるプログラムに従って動作することにより実現される構成であってもよい。同様に、記憶部23は、マイクロコンピュータの内部メモリとして構成されてもよいし、独立したメモリとして構成されてもよい。また、記憶部23は、単一である必要はなく、複数の記憶装置(例えば、内部メモリと外付け型のハードディスクドライブ)として構成されてもよい。
【0028】
磁界変化量生成部22による磁界の変化量の生成および出力の制御の一例について、図2を参照して説明する。まず、磁界変化量生成部22は、磁気センサ21で計測された最初の磁界の計測値を、初期値として取得し、記憶部23に記憶させる(ステップS101)。次に、磁界の計測値の監視を継続するか否か判定する(ステップS102)。プラズマの生成動作が継続しており、磁界の計測値の監視も継続する必要があれば(ステップS102でYES)、磁気センサ21を介して磁界の計測値の監視を行う(ステップS103)。一方、プラズマの生成動作が終了すれば、磁界の計測値の監視も不要となる(ステップS102でNO)ので、制御を終了する。
【0029】
前記磁気センサ21を介して磁界を監視(ステップS103)する方法は特に限定されず、定期的に磁気センサ21から磁界の計測値を取得する方法であってもよいし、磁気センサ21から常時計測値が出力される方法であってもよい。そして、磁界変化量生成部22は、取得した磁界の計測値と、記憶部23に記憶させた初期値とを比較し、計測値が初期値から変化しているか否かを判定する(ステップS104)。このとき、記憶部23には、計測値が初期値と同じであると判定するための許容範囲が別途記憶されていてもよい。
【0030】
計測値が初期値と同じであれば(ステップS104でNO)、計測値の監視を継続する(ステップS103に戻る)。一方、計測値が初期値と異なっていれば(ステップS104でYES)、当該計測値と初期値との差分を、磁界の変化量として生成し(ステップS105)、この変化量を、プラズマ変化情報としてプラズマ処理制御部17に出力し(ステップS106)、その後、制御を終了する。
【0031】
このように、本実施の形態に係るプラズマ状態変化検出装置20aは、プラズマ処理容器11の外部に磁気センサ21を設け、この磁気センサ21で計測する磁界の変化をプラズマ変化情報として利用している。それゆえ、プラズマ処理容器11に検出用プローブを差し込むための差込孔を形成したり、光のスペクトル強度を測定するためにプラズマ処理容器11の外壁に観測窓を形成したりする必要がなく、プラズマ処理容器11に別途加工を施さなくてもよい。したがって、プラズマの状態変化を検出する機構を備えていないプラズマ処理装置に、プラズマ状態変化検出装置20aを後から取り付けることもできる。
【0032】
しかも、プラズマ処理容器11の側壁の外面で、かつ、アノード12およびカソード13の間であれば、どの場所に磁気センサ21を設けてもよいので、プラズマの状態変化を検出する自由度が向上する。また、生成したプラズマ中に検出用プローブを差し込まないので、プラズマ場を乱すことがなく、さらには、検出用プローブ表面の汚れや観測窓の曇り等を考慮する必要がないので、簡素な構成でプラズマの状態変化を適切に検出することができる。
【0033】
[磁気センサの個数および配置]
本実施の形態に係るプラズマ状態変化検出装置20aでは、プラズマ処理容器11の側壁の外面に設ける磁気センサ21の個数は1個以上であればよい。プラズマは、電離によって生じた荷電粒子群であるので、プラズマ処理容器11の内部で生成したプラズマPの流れは「電気の流れ(電流)」とみなすことができる。したがって、プラズマPの流れの周囲には磁界が発生する。ここで、プラズマ処理装置10aは、生成したプラズマPを利用して薄膜を形成したりエッチングを行ったりするので、プラズマPの状態の変化は、薄膜形成やエッチング等の処理に影響を与えることになる。そこで、本実施の形態では、プラズマ処理容器11の外部に磁気センサ21を少なくとも1個設けることで、磁界の変化を計測する。磁界の変化は、プラズマPの流れにおける電流密度の分布の変化に対応したものであるため、磁界の変化をプラズマPの状態変化の情報として、プラズマ処理装置10aの動作制御に利用することができる。
【0034】
また、本実施の形態では、プラズマ処理容器11の外部に磁気センサ21を設けているので、プラズマ処理容器11の内部にプローブを直接導入することなくプラズマPの状態変化を検出することができる。したがって、プラズマ処理容器11に差込孔を形成する必要がなくなることに加え、プラズマ場が乱れることや、プローブ表面の汚れ等により正確な計測ができない等の問題も回避することができる。
【0035】
なお、磁気センサ21の個数は、前記のとおり最低1個であればよいが、プラズマ処理装置10aの種類等に応じて、複数個設けることが好ましい場合がある。プラズマ生成空間で生成したプラズマPに状態変化が生じれば、その状態変化は部分的なものではなく、常にプラズマP全体に変化が及ぶ。したがって、プラズマ生成空間に面する側壁の外面、より具体的には、プラズマ処理容器11の側壁のうち、アノード12およびカソード13の間の空間に対応する位置の外面に、磁気センサ21を少なくとも1個設ければ、プラズマPの状態変化を検出することができる。ただし、プラズマPの状態変化は、部分的に変化量が異なる場合がある。それゆえ、部分的な変化量を検出したい場合には、磁気センサ21の個数を多くすればよい。
【0036】
磁気センサ21の個数を多くした構成について、図3および図4を参照して説明する。図3は、本実施の形態に係るプラズマ処理装置10aにおいて、磁気センサ21を上下3個ずつ等間隔に配置した構成を示す模式図であり、図4は、本実施の形態に係るプラズマ処理装置10aにおいて、磁気センサ21を、上下3個ずつ間隔を変えて配置した構成を示す模式図である。
【0037】
図3では、プラズマ処理容器11の上方側と下方側とにそれぞれ3個ずつ磁気センサ21を設けている構成を例示している。各磁気センサ21は等間隔に設けているので、プラズマPに生じた状態変化について、部分的な変化量の相違をより適切に検出することができる。ここで、複数の磁気センサ21を設ける場合、磁気センサ21同士の間隔は特に限定されず、図3に示すように磁気センサ21を等間隔に配置する構成であってもよいし、図4に示すように、アノード12側では間隔を狭く、カソード13側では間隔を広くして配置する構成であってもよい。すなわち、プラズマPの状態変化を特に精細に検出した位置では、磁気センサ21同士の間隔を狭くし、それ以外は広くしてもよい。また、全体的により精細に検出したい場合は、磁気センサ21の個数を多くして間隔も狭くすればよい。
【0038】
さらに、図3に示す構成例では、上方側に3個、下方側に3個の磁気センサ21を設けており、上下それぞれの磁気センサ21はプラズマ生成空間を挟んで対になっているが、もちろんこのような配置に限定されず、例えば、図4のカソード13側における磁気センサ21の配置のように、上下の磁気センサ21の位置はずれていてもよい。あるいは、磁気センサ21は、プラズマ処理容器11の上下ではなく上方のみ、または下方のみに設けてもよいし、上下ではなく両横側に設けても良いし、斜め下方や斜め上方に設けても良い。いずれにしても、磁気センサ21の個数や配置は、プラズマ処理装置10aの種類や具体的な構成、あるいは、状態変化の変化量をより精細に検出したい位置等に応じて、適宜設定することができる。
【0039】
[変形例]
本実施の形態では、磁界変化量生成部22は、磁気センサ21により磁界の計測値を常時監視する構成となっているが、本発明はこれに限定されず、例えば、プラズマ処理装置10aの図示しない操作部によって、オペレーターの操作によって磁界の計測値を監視する構成となっていてもよい。また、本実施の形態では、プラズマ生成用電源14は直流電源であるが、本発明はこれに限定されず、プラズマ生成用電源14が高周波電源であってもよい。
【0040】
(実施の形態2)
前記実施の形態1では、生成したプラズマPの流れの周囲に発生する磁界を計測する電磁界計測器として、磁気センサ21を用いた構成を説明したが、本実施の形態では、磁気センサ21に代えて、電界プローブを用いる構成について、図5および図6を参照して説明する。図5は、本実施の形態に係るプラズマ処理装置10bおよびプラズマ状態変化検出装置20bの要部構成を示す模式図であり、図6は、本実施の形態に係るプラズマ処理装置10bにおいて、電界プローブを上下3個ずつ等間隔に配置した構成を示す模式図である。
【0041】
図5に示すように、プラズマ処理装置10bは、磁気センサ21に代えて電界プローブ24を備え、磁界変化量生成部22に代えて電界変化量生成部25を備えている以外は、前記実施の形態1で説明したプラズマ処理装置10aと同様の構成となっている。電界プローブ24の配置は、基本的に前記実施の形態1における磁気センサ21と同様であるが、当該電界プローブ24の方向は、プラズマPの流れに伴い生じる磁界に対して垂直の方向となっている。このように、磁気センサ21に代えて電界プローブ24を用いることで、磁界の変化に伴う電界の変化を計測することができるため、プラズマPの状態変化を検出することができる。電界プローブ24の具体的構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。
【0042】
また、電界プローブ24の個数や配置も特に限定されず、前記実施の形態1で説明した磁気センサ21と同様に、プラズマ処理容器11の側壁のうち、アノード12およびカソード13の間の空間に対応する位置の外面に、電界プローブ24を少なくとも1個設ければよいが、プラズマPの状態変化をより精細に検出したい場合には、複数個設ければよい。例えば、図6に示すように、電界プローブ24をプラズマ処理容器11の上下に3個ずつ等間隔で設けてもよいし、図4と同様に、アノード12側で電界プローブ24同士の間隔を狭く、カソード13側で間隔を広く、かつ、カソード側13では、上下の電界プローブ24の位置がずれていてもよい。さらに、電界プローブ24の配置は、プラズマ処理容器11の上下のみならず両横側、斜め上下、上下または両横側の一方等であってもよい。
【0043】
(実施の形態3)
前記実施の形態1に係るプラズマ状態変化検出装置20aは、電磁界計測器として磁気センサ21を備え、前記実施の形態2に係るプラズマ状態変化検出装置20bは、電磁界計測器として電界プローブ24を備えているが、本発明はこれらに限定されず、電磁界計測器として、磁気センサ21および電界プローブ24の双方を用いてもよい。図7は、本実施の形態に係るプラズマ処理装置10cの要部構成を示す模式図であり、磁気センサ21および電界プローブ24をそれぞれ3個ずつ設けた構成を示している。
【0044】
図7に示すように、例えば、プラズマ処理容器11の上下に、磁気センサ21および電界プローブ24を交互に等間隔で設けることによって、プラズマPの状態変化を、磁界の変化および電界の変化の双方として検出することになる。プラズマPの状態変化を検出する場合には、相対的に見れば、電界の変化を検出する電界プローブ24よりも、磁界の変化を検出する磁気センサ21の方が感度に優れているが、異なるパラメータでプラズマPの状態変化を検出することで、いずれか一方を設ける構成と比較して、部分的な変化量の違いをより精細に検出することが可能となる。
【0045】
なお、磁気センサ21および電界プローブ24の間隔や配置は特に限定されず、前記実施の形態1および2と同様に、プラズマ処理容器11の上下ではなく、両横側、斜め上下、上下または両横側の一方等であってもよいし、等間隔ではなく、間隔が異なっていてもよい。
【0046】
(実施の形態4)
前記実施の形態1〜3に係るプラズマ状態変化検出装置は、電磁界計測器をプラズマ処理容器の側壁の外面に設けることにより、プラズマ生成空間の側方からプラズマの状態変化を検出する構成となっていたが、本実施の形態に係るプラズマ状態変化検出装置は、プラズマ処理装置のアノードが複数の部分電極からなり、各部分電極に流れる電流を測定することで、プラズマ生成空間におけるプラズマの流れの下流からプラズマの状態変化を検出する構成をさらに備えている。図8は、本実施の形態に係るプラズマ処理装置10dおよびプラズマ状態変化検出装置20dの要部構成を示す模式図であり、図9は、本実施の形態に係るプラズマ状態変化検出装置20dに含まれるアレイ状アノードによるプラズマPの状態変化の検出を説明する模式図である。
【0047】
図8に示すように、本実施の形態に係るプラズマ処理装置10dは、基本的には、前記実施の形態1で説明したプラズマ処理装置10aと同様で、電磁界計測器として磁気センサ21を用い、当該磁気センサ21を含むプラズマ状態変化検出装置20dを備えているが、プラズマ処理装置10dのアノードは、単一の電極である前記アノード12に代えて、複数の部分電極18aからなるアレイ状アノード18となっている。また、プラズマ状態変化検出装置20dは、磁気センサ21、磁界変化量生成部22、記憶部23に加えて、さらに、部分電極電流計26、A/D変換部27を備えている。
【0048】
本実施の形態では、アレイ状アノード18は、図8および図9に示すように、複数の部分電極18aがアレイ状に同一面に配列されて構成されており、各部分電極18aそれぞれに部分電極電流計26が設けられている。そして、アレイ状アノード18とカソード13との間にプラズマが生成すると、各部分電極18aには、その近傍におけるプラズマPの密度に応じた電流が流入する。それゆえ、図9の上方に示すように、プラズマPの密度が濃い場合には、より大きな電流が部分電極18aに流入し、図9の下方に示すように、プラズマPの密度が薄い場合には、より小さな電流が部分電極18aに流入する。
【0049】
各部分電極18aに流れる電流は、部分電極電流計26により計測され、A/D変換部27を介してデジタル化されてプラズマ処理制御部17に入力される。プラズマ処理制御部17は、入力された各部分電極18aの電流値を、アレイ状アノード18近傍におけるプラズマPの状態変化の情報として利用することができる。つまり、本実施の形態によれば、磁気センサ21により、プラズマ生成空間の側方からプラズマPの状態変化を検出できるとともに、アレイ状アノード18に流れる電流を計測することにより、プラズマPの流れの下流側からプラズマPの状態変化を検出できるので、より精細にプラズマPの状態変化を把握することができる。
【0050】
本実施の形態におけるアレイ状アノード18の具体的な構成は特に限定されず、例えば、部分電極18aとして、そのカソード13への対向面が正方形状であり、これがタイル状に規則的に並べられることにより、一つのアレイ状アノード18を構成してもよいし、部分電極18aの対向面が長方形状であり、各部分電極18aが長手方向で平行に並べられることにより、一つのアレイ状アノード18を構成してもよい。部分電極18aの対向面の形状は方形状でなく、その他の形状であってもよいし、個々の部分電極18aの対向面の形状が異なっていてもよい。また、アレイ状アノード18を構成する部分電極18aの個数や大きさも特に限定されず、例えば、プラズマPの状態変化をより精細に検出したい場合には、部分電極18aの対向面の大きさを小さくして個数を多くすればよい。
【0051】
(実施の形態5)
本発明に係るプラズマ状態変化検出装置を備えるプラズマ処理装置の具体的構成は特に限定されないが、例えば、シートプラズマ処理装置に好適に用いることができる。そこで、本実施の形態では、プラズマ処理装置がシートプラズマ処理装置である場合について、図10を参照して説明する。図10は、本実施の形態に係るシートプラズマ処理装置100の概略構成を示す模式図である。
【0052】
[シートプラズマ処理装置の構成]
図10に示すように、本実施の形態に係るシートプラズマ処理装置100は、プラズマガン60と、シートプラズマ成形室71と、プラズマ処理室72と、プラズマ生成用電源14と、プラズマ処理制御部17と、前記実施の形態1で説明したプラズマ状態変化検出装置20aとを備えている。プラズマガン60、シートプラズマ成形室71およびプラズマ処理室72は、カソード13からアノード12に向かう方向(所定方向)に沿って、この順で配置し、かつ、互いに気密に接続されている。なお、前記所定方向とはプラズマの輸送方向に相当し、カソード13側が上流、アノード12側が下流となる。また、プラズマガン60、シートプラズマ成形室71およびプラズマ処理室72によって、気密かつ減圧可能な一つのプラズマ処理容器11が構成される。
【0053】
プラズマガン60は、円筒状の第一筒部材61とその一端を閉鎖するフランジ62とを備えている。フランジ62は、プラズマガン60の一端で内壁面を構成し、このフランジ62の内壁面から突出するようにカソード13が設けられている。プラズマガン60の他端はシートプラズマ成形室71の一端に接続され、シートプラズマ成形室71の他端はボトルネック部73を介してプラズマ処理室72の一端に接続されている。プラズマ処理室72の他端には、プラズマ通過用の通路74が接続されており、当該通路74の末端にはアノード12が設けられている。そして、プラズマガン60、シートプラズマ成形室71およびプラズマ処理室72、並びにアノード12へつながる通路74は、それぞれ気密で連通している。
【0054】
プラズマ状態変化検出装置20aは、前記実施の形態1で説明したとおり、磁気センサ21、磁界変化量生成部22、および記憶部23を備えており、磁気センサ21で計測した磁界の変化の計測値から磁気変化量生成部22により磁界の変化量が生成され、これをプラズマ変化情報としてプラズマ処理制御部17に出力する。プラズマ処理制御部17は、取得したプラズマ変化情報に基づいてプラズマ生成用電源14等を制御する。
【0055】
[プラズマガン]
プラズマガン60は、前記第一筒部材61およびフランジ62に加え、カソード部63、第一中間電極64、第二中間電極65を備えており、カソード部63に前記カソード13が含まれる。第一筒部材61は、プラズマガン60の本体となり、その内部は放電空間となっている。第一筒部材61の一端には、前記のとおり放電空間を塞ぐようにフランジ62が配置されている。フランジ62には、カソード部63が当該フランジ62の中心部を貫通して取り付けられている。カソード部63は、一次元方向に長さを有し、プラズマガン60内部(第一筒部材61内部)の気密を維持するように、当該フランジ62の中心部を貫通し、フランジ62の内側面(プラズマガン60の内壁面)から前記所定方向に向かって延伸するように配置されている。
【0056】
カソード部63は、図10では詳細に図示されないが、カソード13および保護容器を備えている。本実施の形態では、カソード13は、円筒状の補助陰極および円環状の主陰極から構成され、保護容器は、円筒状の保護部材および窓部材から構成されている。補助陰極は例えばタンタル(Ta)で形成され、その一方の端部(後端)はフランジ62に気密を維持するよう固定されるとともに、図示されないアルゴン(Ar)ガスタンクと配管により接続されている。これにより、補助陰極の他方の端部(先端)から気密の放電空間内にArガスが供給される。主陰極は、補助陰極の先端近傍の外周面に配置され(もしくは位置し)、例えば六ホウ化ランタン(LaB6 )で形成される。
【0057】
前記補助陰極の外周には、当該補助陰極および先端近傍の主陰極を覆うように保護部材が配置されている。保護部材の形状は、補助陰極と同軸で、かつ、補助陰極よりも径の大きい円筒形状となっている。保護部材は、例えばモリブデン(Mo)またはタングステン(W)により形成される。保護部材の後端はフランジ62に対して気密を維持するよう固定され、その先端には円環状の窓部材が設けられている。カソード13は、プラズマ生成用電源14の負極と電気的に接続されている。
【0058】
第一中間電極64および第二中間電極65はいずれも円環状であり、カソード部63の先端側に前記所定方向に沿ってこの順で配置されている。第一中間電極64および第二中間電極65はそれぞれ前記主電源と電気的に接続され、所定の正の電圧が印加される。これにより、カソード13で発生したアーク放電が維持され、放電空間内には荷電粒子(本実施の形態ではAr+ および電子)の集合体としてのプラズマが形成される。なお、本実施の形態では、プラズマガン60は、第一中間電極64および第二中間電極65の2つの中間電極を備えているが、中間電極は少なくとも1つ備えていればよい。
【0059】
プラズマガン60におけるシートプラズマ成形室71側の周囲には、プラズマを円柱状に成形する第一コイル75が設けられている。この第一コイル75は、磁力の強さをコントロールできる環状の電磁コイルであり、これに電流を流すことにより磁場が形成される。以下、このようにコイルにより形成される磁場をコイル磁場と呼ぶ。このコイル磁場と第一中間電極64および第二中間電極65による電界により、プラズマガン60の放電空間内において、前記所定方向に沿って磁束密度の勾配が形成される。プラズマを構成する荷電粒子は、前記磁束密度の勾配により前記所定方向に向かって運動するように、磁力線の回りを旋回しながら前記所定方向に進む。その結果、荷電粒子が円柱形状に略等密度分布してなるソースプラズマ(以下、円柱プラズマという。)CPとして、図示されない通路を介してプラズマガン60からシートプラズマ成形室71へ引き出される。
【0060】
[シートプラズマ成形室]
シートプラズマ成形室71は、プラズマガン60の本体となる第一筒部材61と同一の軸を中心とする円筒状の第二筒部材81を備えており、この第二筒部材81がシートプラズマ成形室71の本体となる。第一筒部材61と第二筒部材81とは、気密を維持して接続されている。第二筒部材81は、導電性材料、半導体材料、絶縁性材料のいずれで形成されてもよいが、強度等を考慮すると導電性金属材料で形成されることが好ましい。第二筒部材81の内部すなわちシートプラズマ成形室71の内部は、プラズマの輸送空間となる。
【0061】
第二筒部材81の適所には、図示されない真空ポンプ接続口が設けられている。当該真空ポンプ接続口はバルブにより開閉可能であり、図示されない真空ポンプ(例えば、ターボポンプ)が接続されている。この真空ポンプによりシートプラズマ成形室71内部を吸引することで、輸送空間内は、円柱プラズマCPを輸送可能なレベルの真空度まで減圧される。
【0062】
シートプラズマ成形室71の周囲には、プラズマガン60側(すなわちカソード13側)に第二コイル76が設けられ、第二コイル76の下流側(すなわちプラズマ処理室72側またはアノード12側)に一対の永久磁石77a,77bが設けられる。第二コイル76は、第二筒部材81の周囲に巻き回される円環状の電磁コイル(空心コイル)であり、カソード13側をS極、アノード12側をN極とする方向に電流が通電される。永久磁石77a(図中上方)および永久磁石77b(図中下方)は、それぞれ角型棒状の永久磁石であり、第二筒部材81(正確には輸送空間)を挟んで互いに同極が対向するように配置されている。各永久磁石77a,77bは、その幅方向(長手方向に直交する方向)に磁化されている。
【0063】
つまり、各永久磁石77a,77bは、その両端部の面がN極およびS極となっているのではなく、角型棒状の一側面がN極、他の側面がS極となるように磁化されている。そして、各永久磁石77a,77bは、その長手方向がシートプラズマ処理装置100の横方向(図5では紙面に対する垂直方向)となり、かつ、互いに同極側が対向するように、シートプラズマ成形室71(第二筒部材81)の上下にそれぞれ配置される。本実施の形態では、永久磁石77a,77bは、互いにN極側が対向するように配置されている。
【0064】
シートプラズマ成形室71では、第二コイル76に電流を流すことにより輸送空間にコイル磁場が形成され、かつ、第二コイル76の下流側に位置する永久磁石77a,77bにより磁石磁場が形成される。これら磁場の相互作用により、前記所定方向へ円柱プラズマCPが移動するとともに、円柱プラズマCPがシートプラズマ処理装置100の横方向に広がる均一なシート状のプラズマ(以下、シートプラズマという。)SPに成形される。成形されたシートプラズマSPはボトルネック部73を通ってプラズマ処理室72へ引き出される。
【0065】
ボトルネック部73は、シートプラズマ成形室71とプラズマ処理室72との間に設けられ、内部にシートプラズマSPを通過させるスリット状の通路が形成されている。スリット状の通路の形状(すなわちボトルネック部73の形状)は、シートプラズマSPを適切に通過させるように設計されればよい。ボトルネック部73を設けることにより、シートプラズマ形成室71の内部(輸送空間)において、シートプラズマSPを形成しない余分なアルゴンイオン(Ar+ )と電子とがプラズマ処理室72に流入することを回避することができる。そのため、プラズマ処理室72内では、シートプラズマSPの密度を高い状態で保持することができる。
【0066】
[プラズマ処理室]
プラズマ処理室72は、シートプラズマ処理装置100の上下方向に沿った軸を中心とした第三筒部材82を備えており、この第三筒部材82がプラズマ処理室72の本体となる。つまり、第三筒部材82の中心軸と第一筒部材61および第二筒部材81の中心軸とは互いに直交している。第三筒部材82の側壁の適所には、スリット穴が形成されており、このスリット穴に前記ボトルネック部73が接続される。これにより、第三筒部材82と第二筒部材81の他端とは前記ボトルネック部73を介して気密を維持するよう接続される。第三筒部材82の側壁で、スリット穴に対向する位置にはアノード12が配置される。第三筒部材は、例えばアルミニウム、ステンレス等の導電性材料で形成されている。
【0067】
第三筒部材82の両端部は蓋部材83,84により気密を維持するよう閉鎖されている。また、蓋部材84の適所には、図示されないバルブにより開閉可能な図示されない真空ポンプ接続口が設けられている。真空ポンプ接続口には、図示されない真空ポンプ(例えばターボポンプ)が接続されている。この真空ポンプにより第三筒部材82内部(プラズマ処理室72内部)を吸引することにより、第三筒部材82の内部空間は、スパッタリングプロセス可能なレベルの真空度にまで減圧される。なお、真空ポンプ接続口は蓋部材83に設けられてもよい。
【0068】
第三筒部材82の内部には、それぞれ平板状のターゲット電極85および基板支持電極86が設けられる。ターゲット電極85および基板支持電極86は、シートプラズマ成形室71から引き出されたシートプラズマSPが移動する空間を挟んで、それぞれの表側面が対向するように、第三筒部材82の両端部にそれぞれ位置している。
【0069】
ターゲット電極85は、図10では詳細に図示されないが、膜の材料からなるターゲット52をその表側面で固定するバッキングプレートと、バッキングプレートを前記軸方向に沿って移動可能に支持するプレート支持機構とを備えている。バッキングプレートは、ターゲット電極85の本体であり、その表側面にターゲット52を溶接又はボルト等の固定部材により固定することで、当該ターゲット52を保持するとともに、その背面に給電極が取り付けられている。プレート支持機構は、蓋部材33とは絶縁されている。
【0070】
基板支持電極86は、図10では詳細に図示されないが、プラズマ処理の対象である基板51をその表側面で支持する平板状の基板ホルダと、基板51を基板ホルダ表面に固定する静電チャックと、基板ホルダを第三筒部材82の軸方向(すなわちシートプラズマ処理装置の上下方向)に沿って移動可能に支持するホルダ支持機構とを備えている。基板ホルダは、基板支持電極86の本体であり、図示されない基板用バイアス電源の負極と配線によって電気的に接続され、基板用バイアス電源はプラズマ処理プロセス中に基板支持電極86(正確には、基板ホルダ)に対して負のバイアス電圧を印加する。静電チャックは、例えばアルミナ等で形成される2つの誘電体層の間に導電性の電極層を挟んだ構成であり、この電極層に高圧直流電圧を印加して誘電体層表面に生じるクーロン力を利用して基盤を静電吸着して固定する。ホルダ支持機構は、蓋部材84とは絶縁されている。
【0071】
ターゲット電極85は、図示されないターゲット側プラズマ処理用電源と配線によって電気的に接続され、基板支持電極86は、図示されない基板側プラズマ処理用電源に接続されているため、プラズマ処理のプロセス中には、ターゲット電極85および基板支持電極86にはバイアス電圧が印加される。このように、ターゲット電極85および基板支持電極86の間に形成される空間は、シートプラズマSPが輸送される輸送空間であり、かつ、処理対象基板51にプラズマ処理を施すプラズマ処理空間となる。
【0072】
第三筒部材82の外部には、その外周面を囲む位置に第三コイル78および第四コイル79が設けられる。第三コイル78および第四コイル79は、いずれも磁力の強さを調節できる電磁コイル(空心コイル)であり、互いに異なる極同士が対向する(例えば、第三コイル78がN極、第四コイル79がS極)ように対をなして配置される。これら第三コイル78および第四コイル79に電流を流すことによりコイル磁場が形成される。このコイル磁場は、シートプラズマSPの幅方向(シートプラズマ処理装置100の横方向)の拡散を抑える磁場となる。すなわち、シートプラズマSPがシートプラズマ成形室71からプラズマ処理室72に引き出され、アノード12に向かって処理空間内を移動する間、前記コイル磁場は、シートプラズマSPの幅方向にプラズマが拡散しないように形状を成形する。
【0073】
アノード12は、第三筒部材82の側壁のうちスリット穴に対向する位置に配置される。アノード12と側壁との間には、前述のとおりプラズマ通過用の通路74が設けられている。この通路74は、前記ボトルネック部73と同様に、シートプラズマSPを適切に通過させるように設計されればよい。アノード12は、プラズマ生成用電源14の正極と配線により電気的に接続されており、このプラズマ生成用電源14は、アノード12とカソード13との間に正の電圧(例えば100V)を印加する。これにより、カソード13およびアノード12の間に直流のアーク放電が発生し、当該アーク放電が、シートプラズマSP中の荷電粒子(特に電子)を回収する。
【0074】
アノード12の裏側面(カソード13の対向面の反対側となる面)には、永久磁石87が設けられる。この永久磁石87は、アノード12側をS極、大気側をN極とするように配置されている。この永久磁石87のN極からS極に向かって形成される磁力線より、アノード12に向かうシートプラズマSPの幅方向の拡散を抑えることができる。これにより、シートプラズマSPは幅方向に収束されるため、アノード12はシートプラズマSPの荷電粒子をより適切に回収することができる。なお、この永久磁石87は必ずしも設けなくてよい。
【0075】
なお、プラズマガン60、シートプラズマ成形室72、ボトルネック部73、通路74、アノード12、永久磁石77a,77b、第一コイル75、第二コイル76、第三コイル77、第四コイル78、および永久磁石87がシートプラズマ形成機構を構成している。
【0076】
前記のとおり、本実施の形態では、シートプラズマ処理装置100を構成するプラズマガン60およびシートプラズマ成形室71は、前記所定方向に沿った軸を同じくする円筒形状であるため、その断面も円形であるが、本発明はこれに限定されず、多角形等の形状であってもよい。同様に、プラズマ処理室72も前記所定方向に直行する方向に沿った軸を有する円筒形状であるため、その断面も円形であるが、多角形等の形状であってもよい。また、前述した各部の配置は、本発明の範囲内で適宜変更することができ、また各部や各部材等の具体的構成は、公知の構成に置き換えることができる。
【0077】
[磁気センサの配置]
ここで、前記各実施の形態で説明したとおり、磁気センサ21(または電界プローブ24等の電磁界計測器)は、アノード12およびカソード13の間の側壁に相当する位置であり、プラズマの状態変化を精細に検出したい位置であれば、プラズマ処理容器11のいずれの箇所に配置してもよい。本実施の形態では、シートプラズマSPによるプラズマ処理は、プラズマ処理室72で行われるので、このプラズマ処理室72の近傍におけるプラズマの状態変化を特に検出することが好ましい。そこで、例えば、図10に示すように、プラズマ処理室72とアノード12との間に磁気センサ21を配置する構成を挙げることができる。
【0078】
より具体的には、磁気センサ21は通路74の側壁に配置してもよいし、よりアノード12に近い側に配置してもよい。また、前記実施の形態4で説明したように、単一の平板状のアノード12ではなく、アレイ状アノード18であってもよい。さらに、前記実施の形態3で説明したように、磁気センサ21と電界プローブ24とを併用してもよいし、前記実施の形態2で説明したように電界プローブ24のみでもよい。
【0079】
あるいは、円柱プラズマCPについての状態変化を検出したい場合には、プラズマガン60もしくはシートプラズマ成形室71のプラズマガン60側の側壁に磁気センサ21や電界プローブ24を配置してもよい。また、円柱プラズマCPからシートプラズマSPを成形するときの状態変化を検出したい場合には、シートプラズマ成形室71のプラズマ処理室73側、もしくはボトルネック部73の側壁に磁気センサ21や電界プローブ24を配置してもよい。
【0080】
[シートプラズマ処理装置の動作]
次に、本実施の形態に係るシートプラズマ処理装置100の動作について説明する。なお、本実施の形態では、プラズマ処理の一例として、処理対象基板51の表面にターゲット52の膜を形成する成膜処理を挙げる。まず、シートプラズマ処理室72内に、処理対象基板51およびターゲット52が搬入される。そして、図示されない真空ポンプの吸引により、プラズマ処理容器11内部、すなわち、それぞれ気密に連通されるプラズマガン60、シートプラズマ成形室71、およびプラズマ処理室72内のそれぞれが真空状態となる。
【0081】
次に、図示されないターゲット側プラズマ処理用電源をターゲット電極85に電気的に接続するとともに、プラズマ生成用電源14をアノード12に電気的に接続する。次に、プラズマガン60では、カソード13を構成する補助陰極の先端からアルゴン(Ar)ガスが放電空間内に供給され、当該補助陰極でグロー放電が行われる。このグロー放電により補助陰極の先端部分の温度が上昇すると、この熱でカソード13を構成する主陰極が加熱されて高温になり、アーク放電が行われる。
【0082】
これにより、カソード13からプラズマ放電誘発用熱電子が放出され、プラズマが発生する。発生したプラズマは、第一中間電極64および第二中間電極65による電界と第一コイル75によるコイル磁場により、カソード13からアノード12側に引き出され、円柱プラズマCPに成形される。円柱プラズマCPは、第一コイル75によって形成されるコイル磁場の磁力線に沿ってシートプラズマ成形室71に導入される。
【0083】
シートプラズマ成形室71に導入された円柱プラズマCPは、永久磁石77a,77bと第二コイル76から発生する磁場によってシート状に広がり、シートプラズマSPに成形される。シートプラズマSPは、ボトルネック部73(およびスリット穴)を通過してプラズマ処理室72に導入される。
【0084】
プラズマ処理室72に導入されたシートプラズマSPは、第三コイル78および第四コイル79によるコイル磁場によって、幅方向の形状が整えられ、処理対象基板51とターゲット52と間の空間(プラズマ処理空間)に導入される。ターゲット52には、バッキングプレートを介して、シートプラズマSPに対してバイアス電圧が印加される。処理対象基板51には、基板ベースを介して、シートプラズマSPに対してバイアス電圧が印加される。これにより、シートプラズマSP中のアルゴンイオン(Ar+ )がターゲット52に向かって引き付けられ、ターゲット52に衝突する。このときアルゴンイオンとターゲット52との衝突エネルギーにより、ターゲット52を構成する材料の原子(ターゲット原子)が、処理対象基板51に向かってはじき出され、スパッタが生じる。
【0085】
スパッタによりはじき出されたターゲット原子は、直進してシートプラズマSP中を通過する。このとき、ターゲット原子はシートプラズマSPにより電子を剥ぎ取られて電離され、陽イオンにイオン化する。処理対象基板51は負の電圧にバイアスされているため、この陽イオンの進行速度は処理対象基板51に向かって加速する。この加速により、陽イオンは、処理対象基板51表面に対して付着強度を高めて堆積し、堆積に伴って電子を受け取ることで処理対象基板51の表面にターゲット52の材料からなる膜を形成する。その後、シートプラズマSPは、永久磁石49の磁力線により幅方向に収束され、アノード12がシートプラズマSPの荷電粒子を回収する。
【0086】
本実施の形態では、前記シートプラズマ処理におけるプラズマの状態変化を、プラズマ状態変化検出装置により検出し、プラズマ生成の動作制御に利用する。これによって、より適切なプラズマ処理が可能となる。
【0087】
また、本発明が適用可能なプラズマ処理装置は、前記シートプラズマ処理装置にかかわらず、他のプラズマ処理装置や同様の構成を有する処理装置にも適用することができる。例えば、プラズマガンや電子銃にも適用することができる。
【0088】
なお、本発明は上記の実施形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、プラズマを利用した各種処理装置の分野に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施の形態1に係るプラズマ処理装置およびプラズマ状態変化検出装置の要部構成を示す模式図である。
【図2】図1に示すプラズマ状態変化検出装置の動作制御の一例を示すフローチャートである。
【図3】図1に示すプラズマ処理装置において、磁気センサを上下3個ずつ等間隔に配置した構成を示す模式図である。
【図4】図1に示すプラズマ処理装置において、磁気センサを上下3個ずつ間隔を変えて配置した構成を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係るプラズマ処理装置およびプラズマ状態変化検出装置の要部構成を示す模式図である。
【図6】図5に示すプラズマ処理装置において、電界プローブを上下3個ずつ等間隔に配置した構成を示す模式図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係るプラズマ処理装置の要部構成を示す模式図である。
【図8】本発明の実施の形態4に係るプラズマ処理装置およびプラズマ状態変化検出装置の要部構成を示す模式図である。
【図9】図8に示すプラズマ状態変化検出装置に含まれるアレイ状アノードによるプラズマの状態変化の検出を説明する模式図である。
【図10】本発明の実施の形態5に係るシートプラズマ処理装置の概略構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0091】
10a プラズマ処理装置
10b プラズマ処理装置
10c プラズマ処理装置
10d プラズマ処理装置
11 プラズマ処理容器
12 アノード
13 カソード
14 プラズマ生成用電源
18 アレイ状アノード
18a 部分電極
20a プラズマ状態変化検出装置
20b プラズマ状態変化検出装置
20d プラズマ状態変化検出装置
21 磁気センサ(電磁界計測器)
22 磁界変化量生成部(電磁界変化量生成器)
24 電界プローブ(電磁界計測器)
25 電界変化量生成部(電磁界変化量生成器)
26 部分電極電流計
100 シートプラズマ処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向するアノードおよびカソードが内部に設けられているプラズマ処理容器の側壁の外面に設けられ、当該プラズマ処理容器の内部で生成したプラズマの流れの周囲に発生する電磁界を計測する電磁界計測器と、
前記電磁界計測器で計測された電磁界の初期値と当該初期値から変化した変化値との差分である、電磁界の変化量を生成する電磁界変化量生成器と、を備えている、プラズマ状態変化検出装置。
【請求項2】
前記電磁界計測器は、磁界の変化を計測する磁気センサ、および、電界の変化を計測する電界プローブの少なくともいずれかである、請求項1に記載のプラズマ状態変化検出装置。
【請求項3】
前記電磁界計測器は、前記側壁の前記外面に複数設けられている、請求項1または2に記載のプラズマ状態変化検出装置。
【請求項4】
前記アノードが、複数の部分電極から構成されている場合には、前記プラズマ状態変化検出装置は、前記部分電極のそれぞれに設けられ、当該部分電極に流れる電流を計測する部分電極電流計を、さらに備えている、請求項1から3のいずれか1項に記載のプラズマ状態変化検出装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のプラズマ状態変化検出装置を備える、プラズマ処理装置。
【請求項6】
前記プラズマ処理容器と、前記アノードおよび前記カソードと、前記アノードおよび前記カソードに電力を印加するプラズマ生成用電源と、を備え、
前記プラズマ生成用電源が直流電源である、請求項5に記載にプラズマ処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−123269(P2010−123269A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293089(P2008−293089)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】