説明

プラズマ発生装置及びプラズマ生成方法

【課題】安定で制御可能なプラズマを得ること。
【解決手段】プラズマを生成するプラズマ生成部と、独立して制御可能な第1電力と第2電力をプラズマ生成部に付与する電源と、を備え、第1電力は、プラズマを始動する高電圧小電流であり、第2電力は、プラズマを維持する低電圧大電流である、プラズマ生成装置、及び、プラズマガスに高電圧小電流の第1電力を付与してプラズマガスを始動状態にし、プラズマガスの始動状態に低電圧大電流の第2電力を付与してプラズマ状態を維持する、プラズマ生成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを生成するプラズマ発生装置とプラズマ生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パルス放電プラズマを生成するためには、放電空間に満たされている気体の絶縁破壊電圧以上の高電圧を印加している。しかし、放電開始電圧が高いために、一気に電流が流れてしまい、放電電流波形は容易に制御できなかった。特に、プラズマが発生し消滅する1サイクル毎に電圧と電流を制御することは難しい。さらに、ばらつきのある初期放電の状態によって、その後の放電電流が毎回変化するため、放電ごとに異なった電流波形となっていた。このため、例えばパルス放電を用いた微量元素の発光分析装置では、放電ごとの発光強度が異なるため、精度の高い分析が困難であった。
【0003】
また、放電を生成しにくいガスについては、初期電圧が高くなるため、放電開始ができても、放電維持の際に流れる大電流で放電部が損傷するなどの問題が生じ、実質的には、放電の安定性が困難であり、産業応用への問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(1)本発明は、安定なプラズマを生成することにある。
(2)また、本発明は、制御可能なプラズマを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明の実施の形態は、プラズマを生成するプラズマ生成部と、独立して制御可能な第1電力と第2電力をプラズマ生成部に付与する電源と、を備え、第1電力は、プラズマを始動する高電圧小電流であり、第2電力は、プラズマを維持する低電圧大電流である、第2電力は第1電力付与後に付与してある、プラズマ生成装置にある。
(2)また、本発明の実施の形態は、プラズマガスに高電圧小電流の第1電力を付与してプラズマガスを始動状態にし、プラズマガスの始動状態において低電圧大電流の第2電力を付与してプラズマ状態を維持する、プラズマ生成方法にある。
【発明の効果】
【0006】
(1)本発明は、安定なプラズマを生成することができる。
(2)また、本発明は、制御可能なプラズマを得ることができる。
(3)また、本発明は、プラズマ発生後に手動あるいは機械的な機構を用いて電圧あるいは電流を調整する必要がなく、プラズマを生成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本実施の形態のプラズマ発生装置と発生方法は、プラズマを始動する高電圧小電流の第1電力と、プラズマを維持する低電圧大電流の第2電力を用いて安定で制御可能なプラズマを生成する。このプラズマ発生装置と発生方法は、例えば、初期のプラズマ生成用の高電圧放電パルスと、それとは独立にプラズマ維持用の低電圧放電パルスを制御して、初期用と維持用の電圧の役割を分離し、安定な制御可能なパルス放電プラズマを生成する。それにより、プラズマ発生装置と発生方法は、プラズマを確実に発生させることができ、放電の安定度を向上し、プラズマ発生装置の寿命を長くし、メンテナンス頻度を低減し、放電困難なガスの放電を可能にし、又は、放電プラズマの特性の制御性を向上することができる。なお、プラズマを始動するとは、プラズマガスがプラズマ状態に達するようにすることを言う。高電圧と低電圧、又は、小電流と大電流とは、相対的であり、プラズマガスの種類、プラズマの状態、プラズマの発生領域の大きさや状態などにより、それらの値が決まるものである。又は、プラズマとは、大部分が電離している状態でも、大部分が中性粒子で一部が電離状態でも、又は、励起状態でもよい。
【0008】
このプラズマ発生装置と発生方法は、第1電力として高電圧をかけて物質を無理やり電離し、電気の流れ道を作ってから、第2電力として主となるメインの電流を流すので、高電圧に頼らず、大電流でのプラズマ生成ができ、安定なプラズマを生成し維持できる。そのため、プラズマ発生装置と発生方法に用いるプラズマガスは、アルゴン、ヘリウムなど希ガスのようにプラズマの発生の容易なものの他に、酸素、水素、窒素、メタン、フロン、空気、水蒸気など各種の気体若しくはこれらの混合物など、電離し難いものにも適用できる。よって、プラズマ発生装置と発生方法は、DLC薄膜生成、プラズマプロセシング、プラズマCVD、微量元素分析、ナノ粒子生成、プラズマ光源、プラズマ加工、ガス処理、プラズマ殺菌など広範囲の分野に応用できる。
【0009】
図1は、マイクロプラズマを生成するプラズマ生成装置10の一例を示している。プラズマ生成装置10は、プラズマ生成部20と、プラズマ生成部20に電力を付与する電極材24と、電極材24に電力を供給する電源30とを備えている。マイクロプラズマのプラズマ生成部20は、多層体22の孔の部分に形成される。多層体22は、一例として、絶縁体26の両面に一対の電極材24が配置された3層の構造を有している。孔部は3層を貫通している。電源30は、少なくとも、2種類の電力を発生できるものであり、第1電力発生部32と第2電力発生部34を備えている。第1電力発生部32は、第1電力を発生し、第2電力発生部34は、第2電力を発生する。第1電力発生部32と第2電力発生部34は、一体の電源でも、又は、複数の電源として別体で形成されていても良い。なお、図1(A)は多層体22の側面を示し、図1(B)は多層体22の平面を示している。
【0010】
マイクロプラズマを生成するプラズマ生成装置10は、例えば、多層体22の孔部の直径を300μm程度にし、絶縁体26の厚さを1mm程度にする。この構造を用いて、プラズマガスとしてヘリウムを使用する場合、第1電力は約850Vの高電圧で数μAの低電流であり、第2電力は約350V程度の低電圧で数Aの大電流である。また、アルゴンを使用する場合、第1電力は約950Vの高電圧で数μAの低電流であり、第2電力は約400V程度の低電圧で数Aの大電流である。また、ネオンを使用する場合、第1電力は約900Vの高電圧で数μAの低電流であり、第2電力は約300V程度の低電圧であり数Aの大電流である。また、窒素を使用する場合、第1電力は約3000Vの高電圧で数μAの低電流であり、第2電力は約600V程度の低電圧で数Aの大電流である。また、酸素を使用する場合、第1電力は約3000Vの高電圧で数μAの低電流であり、第2電力は約600V程度の低電圧で数Aの大電流である。また、二酸化炭素を使用する場合、第1電力は約1200Vの高電圧で数μAの低電流であり、第2電力は約600V程度の低電圧で数Aの大電流である。また、空気を使用する場合、第1電力は約3000Vの高電圧で数μAの低電流であり、第2電力は約600V程度の低電圧で数Aの大電流である。
【0011】
図2は、トーチ型のプラズマ生成装置10の一例を示している。プラズマ発生装置19は、プラズマ44を発生するプラズマ生成部20を備えている。プラズマ生成部20の周囲に配置されたコイルなどの誘導電極36により、プラズマガス28をプラズマ状態に形成する。誘導電極36には、第1電力発生部32と第2電力発生部34を備えた電源30に接続されている。プラズマ発生部20は、冷却ガス48により冷却される。プラズマ発生部20には、配管を介して、プラズマガス28、又は、サポートガス46が導入される。
【0012】
噴射装置40は、ネブライザとして作用する。噴射装置40は、例えば、プラズマ中に液体の試料42を導入する液体噴射装置を使用できる。液体噴射装置は、微量な粒状の試料42を間欠的に噴射することができ、また、プラズマ44の所定の個所に噴出できるので、僅かな試料42でも、分析や検査を行うことができる。液体噴射装置は、図1のマイクロプラズマを生成するプラズマ生成装置10に配置し、プラズマ生成部20に微量な試料42を間欠的に噴射することができる。また、プラズマ生成部20にはプラズマガス28と試料42を供給することもできる。
【0013】
プラズマ生成部20は、密室、開放空間、水中、水中の気泡中、又は、固体中でもよい。プラズマ生成装置10の電極材24は、一対の電極材、1本の電極材(地中に対して)、誘導コイルなど電力を空間に発生できる電極材など、プラズマを発生できるものであれば、どのような電極材でもよい。電圧の波形は、種々の形状のパルス波形、バースト波、変調した高周波など、が利用できる。
【0014】
図3と図4は、第1電力と第2電力の電圧の時間に対する波形の一例を示し、電離し難いプラズマガスをプラズマ状態にする波形の例を示している。第1電力は、プラズマ生成部の空間を瞬間的に例えば3000Vの高電圧にし、電気が流れない空間に電気を無理に流し、イオンなどを発生し、プラズマ生成の状態に持っていくものである。第2電力は、第1電力の付与の後に付与し、例えば10秒程度で数100Vの低電圧にし、プラズマ状態を維持するものであり、例えば、ひとたびプラズマが発生し、イオンが空間を満していれば、そのイオンの道筋に電気が流れるので、低電圧でプラズマ状態を維持することができる。なお、プラズマ状態を維持するとは、プラズマ状態を増幅などにより、状態を変えて維持することも含まれる。また、第2電力は、少なくとも第1電力の付与の後に付与されていれば良く、例えば第1電力の付与と同時に付与されていてもよい。
【0015】
このように、第1電力と第2電力を用いることにより、放電の安定度を向上し、プラズマ発生装置の寿命を長くし、メンテナンス頻度を低減し、放電困難なガスの放電を可能にし、又は、放電プラズマの特性の制御性を向上することができる。図3は、第1電力と第2電力を対にして繰り返すことにより、プラズマを必要な時に生成して、プラズマを用いた検査や測定などにおいて検査や測定と同期を取ることができ、又は、不必要なときに消して、電極への熱負荷を抑えることができる。これにより、プラズマ温度の上昇を抑えてプラズマ発生装置の寿命を長くし、メンテナンス頻度を低減することができる。
【0016】
図4(A)は、第1電力の終了後に時間間隔を開けて、第2電力を付与する例を示している。第2電力の時間幅は、短く又は長くして、プラズマ状態の維持の時間間隔を調整することができる。図4(B)は、第2電力の波形を矩形状ではなく、山形状、サイン状にした例を示している。第2電力の波形は、プラズマを維持する、又は、増幅するエネルギーを供給するためのものであり、特定の形状に限定されるものではない。第2電力の時間幅は、短く又は長くして、プラズマ状態の維持の時間間隔を調整することができる。
【0017】
図5は、電源の回路の一例を示し、少なくとも、第1電力発生部32と第2電力発生部34を備えている。この電源30は、直流電源38、第1電力発生部32、第2電力発生部34を備え、種々の電子回路で組むことが可能である。電源30の出力端子は、プラズマ生成装置10に接続され、プラズマ生成装置10に第1電力と第2電力を供給する。
【0018】
図5は、ヘリウムの発光スペクトル(He(I)587.56nm)の放射強度(a.u.)と供給電力(W)との関係を示している。プラズマの放射強度は、1000倍以上に上昇している。その場合、第1電力は、3kV−100nsec程度の高電圧短時間パルス、第2電力は、500V−10マイクロsec程度の大電流長時間パルスを印加する。従来の技術では、直流で電力を供給しているため、10W程度が限界であり、電圧を上げると高温になり、また、下げるとプラズマが消えていた。本発明の実施の形態では、第1電力を一瞬だけで供給するので、直流の値に換算すると40kW程度を投入したことと同じになるが、温度の上昇を抑えることができる。
【0019】
本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】プラズマ生成装置の説明図
【図2】他のプラズマ生成装置の説明図
【図3】第1電力と第2電力の関係を示す説明図
【図4】第1電力と第2電力の関係を示す他の説明図
【図5】プラズマ生成装置の電源例の説明図
【図6】プラズマの発生強度の説明図
【符号の説明】
【0021】
10 プラズマ生成装置
20 プラズマ生成部
22 多層体
24 電極材
26 絶縁体
28 プラズマガス
30 電源
32 第1電力部
34 第2電力部
36 誘導電極
38 直流電源
40 噴射装置
42 試料
44 プラズマ
46 サポートガス
48 冷却ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを生成するプラズマ生成部と、
独立して制御可能な第1電力と第2電力をプラズマ生成部に付与する電源と、を備え、
第1電力は、プラズマを始動する高電圧小電流であり、第2電力は、プラズマを維持する低電圧大電流であり、第2電力は第1電力付与後に付与してある、プラズマ生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ生成装置において、
第1電力と第2電力は、対を成して、1回のみ又は周期的に電力をプラズマ生成部に付与する、プラズマ生成装置。
【請求項3】
請求項1に記載のプラズマ生成装置において、
プラズマ生成部は、絶縁材と両面に配置された一対の電極材とからなる多層体に形成された孔部であり、
孔部にプラズマガス、試料、又は、プラズマガスと試料を供給する噴射装置を備え、
一対の電極材に時間差をおいて第1電力と第2電力を付与し、孔部にマイクロプラズマを発生し、維持する、プラズマ発生装置。
【請求項4】
プラズマガスに高電圧小電流の第1電力を付与してプラズマガスを始動状態にし、
プラズマガスの始動状態において低電圧大電流の第2電力を付与してプラズマ状態を維持する、プラズマ生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−289432(P2009−289432A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137727(P2008−137727)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】