説明

プラズマ表面処理装置および表面処理筒型基材の製造方法

【課題】筒型基材のプラズマ表面処理において、より均質性に優れたプラズマ処理を可能とする装置および表面処理筒型基材の製造方法を提供する。
【解決手段】同軸上に配置された筒型基材3の外側の電極1と、該外側の電極1と筒型基材3を介して対向するように配置された内側の電極2とを有する同軸型のプラズマ表面処理装置において、プラズマ表面処理側の電極に、軸方向にガスが流動できる溝を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
筒型基材のプラズマ表面処理装置および該処理装置を用いた表面処理筒型基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマにより基材の表面処理を施す方法は多数知られている。
例えば、接地側電極と高圧側電極が同軸中心の状態で間にプラスチックチューブを介して対向するかたちで配置されている大気圧グロー放電プラズマによりプラスチックチューブ内面を処理する装置が開示されている(特許文献1)。しかし、この装置では均一な放電プラズマが形成できず、表面処理の均質性に劣るという問題がある。
【0003】
また、内側(処理面側)の電極の外周部に、スペーサがガスの流れを確保出来る状態で取り付けられているプラスチックチューブの内面を処理する同軸型の大気圧グロー放電発生装置が開示されている(特許文献2)。しかしこの技術は、プラスチックチューブとプラスチックチューブ安定部材とを隔てるスペーサを設けることで、プラスチックチューブの揺れを防ぎしかもプラズマ発生領域、ガスの流れを確保しようとするものであって、放電プラズマを均一にしようとするものではない。この装置は、スペーサが非導電性の素材(好適にはフッ素樹脂)である為、電極(金属)表面に異種の素材(スペーサ)を取り付ける為の接着処理等の加工が必要であり簡便ではなく、特にチューブの直径が小さい場合には電極の加工が困難である。さらにはガスの流れは良好となるが、プラズマ電界の均質性に劣り、結果として処理の均質性も不十分であるという問題がある。
【0004】
一方、電極に溝部を設けることでグロー放電を均質に安定化させることが知られており、処理側電極の裏面に溝を設けた大気圧プラズマ反応装置が開示されているが(特許文献3)、この装置は、板状の基体を処理するものであり筒型基材の表面処理の均質性を向上できるものではない。
【特許文献1】特開2002−60521号公報
【特許文献2】特開2002−86580号公報
【特許文献3】特開平2−15171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、筒型基材のプラズマ表面処理において、より均質性に優れたプラズマ処理を可能とする装置を簡便に提供すること、および該処理装置を用いた均質に処理された表面処理筒型基材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決する為に、鋭意検討した結果、特定の構造の溝を設けた電極を用いることで上記課題を解決できることを見出し本発明を完成した。
すなわち本発明は、同軸上に配置された筒型基材の外側の電極と、該外側の電極と筒型基材を介して対向するように配置された内側の電極とを有する同軸型のプラズマ表面処理装置において、プラズマ表面処理側の電極に、軸方向にガスが流動できる溝を設けたことを特徴とする筒型基材のプラズマ表面処理装置である。本発明はまた、上記プラズマ表面処理装置を用いて表面処理を行うことを特徴とする表面処理筒型基材の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、筒型基材のプラズマ表面処理において、従来よりも表面処理の均質性に優れた装置をより簡便な構造で提供することが可能となり、さらには該装置で表面処理して得られた筒型基材はより均質な処理面を有する為、工業的に極めて価値がある。
また、特に電極の構造が単純である為、内径の小さい筒型基材への適用が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔プラズマ表面処理装置−内面放電タイプ〕
図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマ表面処理装置の概略断面図である。本実施形態に係るプラズマ表面処理装置は、筒型基材として円筒型基材の内側表面(内周面)を処理するためのものである。
【0009】
図1に示すように、本実施形態に係るプラズマ表面処理装置は、処理対象としての円筒型基材3の外側に配置される外電極1と、円筒型基材3の内側に配置される内電極2と、外電極1、内電極2および円筒型基材3を固定する固定具71,72とを備えている。
【0010】
外電極1は円筒の形状である。外電極の断面の形状は、本実施形態では穴と同軸の円形としているが、発明の趣旨から明らかなように、処理しようとする基材に従って決めればよく特に限定されない。外電極1の内側同軸上に配置された円筒型基材3が外電極1の内側に嵌合するように、外電極1の内径は、円筒型基材3の外径よりも0〜0.2mm程度大きいことが好ましい。
【0011】
外電極1の厚さは、特に制限はないが、形状を保持する点からは通常0.5mm以上である。
【0012】
外電極1の材質は、導電性を有するものであればよく、具体的には、銅、アルミニウムなどの金属単体や、ステンレス鋼、真鍮等の合金や金属間化合物などから選ばれる。
【0013】
外電極1は、図1に示すように、所望により整合器4を介して電源5に電気的に接続されている。
【0014】
内電極2は、本実施形態では全体として略円柱状の形状を有しているが、外電極同様に処理しようとする基材に従って決めればよく、形状については、制限はない。内電極2の外側同軸上に配置された円筒型基材3に対向する部分には、螺旋状の溝2aが形成されている。この螺旋状の溝2aは、軸方向にガスが流動できる溝であり、本実施形態では、軸にそって電極の一方の端から他方の端に一定の方向に連続した(ガスの流れを停滞させない)構造、特に周期的な螺旋構造となっている。ここで電極の端とは、有効な電極の端という意味であり、金属電極としての物理的な端を意味するものではない。また、軸にそって電極の一方の端から他方の端に一定の方向とは、溝の方向が常に一方の端から他方の端に向かっており逆方向に向かうようなことがないことを意味しており、軸に対する傾斜等が一定であることを必ずしも意味するものではない。
【0015】
溝間の間隔(溝の中心と溝の中心との距離;以下「p」で表す場合がある。)は、表面処理の均質性の点から、好ましくは0.1〜3.0mm、より好ましくは0.1〜2.0mm、特に好ましくは0.1〜1.5mmである。
【0016】
溝の断面形状は、図1ではV字状になっているが、これに限定されることはなく、例えば、台形状、矩形状、半円状等であってもよい。表面処理の均質性の点から、溝の深さは、0.1×p〜1.0×p(mm)であることが好ましく、溝の幅は、0.5×p〜1.0×p(mm)であることが好ましい。ここで、溝の幅とは、溝の最上部の幅を指す。
【0017】
本実施形態において、内電極2に形成された溝は螺旋状であるが、これに限定されるものではなく、軸方向にガスが流動できる溝であればよい。例えば、図4および図6に示すように直線状であってもよい。図4および図6に示す例では、内電極2の円筒型基材3に対向する部分に、軸に平行に複数の直線状の溝が形成されている。溝間の間隔、断面形状、溝の深さおよび溝の幅は、螺旋状の溝の場合と同様である。
【0018】
内電極2の外径は、内電極2と同軸上に配置された円筒型基材3が内電極2の外側に嵌合するように、円筒型基材3の内径よりも0〜0.2mm程度小さいことが好ましい。
【0019】
内電極2の材質は、導電性を有するものであればよく、具体的には、銅、アルミニウムなどの金属単体や、ステンレス鋼、真鍮等の合金や金属間化合物などから選ばれる。
【0020】
内電極2は、図1に示すように、電気的に接地されている。また、接地する側の電極は、外電極1でもよく、この場合、内電極2は所望により整合器4を介して電源5に電気的に接続される。
【0021】
固定具71,72は、電気絶縁性を有し、所望の表面処理ができるように外電極1、内電極2および円筒型基材3を支持・固定し得るものであれば特に限定されない。また、固定できれば一方だけでも良い。本実施形態では、固定具71,72には、円柱状の中空部が形成されており、内電極2は、一方の固定具71の中空部を貫通し、他方の固定具72には至らないように設けられている。プラズマ表面処理を行うためのガスは、表面処理側の電極と、基材の表面処理側の間を、電極の一方の端から他方の端へ流れる様にすれば、その導入方法に特に限定されない。例えば、71または72のいずれか一方の固定具と内電極2との間から導入され、内電極2の螺旋状の溝を通って他方の固定具の中空部から排出される(図1では固定具71側から導入されている)。なお、ガスは、例えば図1に示すように、バルブ11を備えたガス配管10から供給される。
【0022】
表面処理の対象となる円筒型基材3の大きさは、特に限定されるものではないが、本発明は、内径が1〜10mm、厚みが0.1〜5mmであるような径の小さい筒型基材の表面処理を行う場合に特に有効である。
【0023】
円筒型基材3(筒型基材)の材質としては、電気絶縁性を有するプラスチック(樹脂)、ガラス、セラミックス等が挙げられる。プラスチックの種類としては特に制限はなく、成型材料、特に筒状に成型できる電気的に絶縁性のものであればどのようなものでもよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、シリコーン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン等が挙げられる。
【0024】
〔プラズマ表面処理装置−外面放電タイプ〕
図2は、本発明の他の実施形態に係るプラズマ表面処理装置の概略断面図である。本実施形態に係るプラズマ表面処理装置は、円筒型基材の外側表面(外周面)を処理するためのものである。
【0025】
図2に示すように、本実施形態に係るプラズマ表面処理装置は、処理対象としての円筒型基材3の外側に配置される外電極1と、円筒型基材3の内側に配置される内電極2と、外電極1、内電極2および円筒型基材3を固定する固定具71,72とを備えている。
【0026】
外電極1は円筒の形状である。外電極の断面の形状は、本実施形態では円形としているが、内面放電タイプと同様、特に限定されない。その周壁に螺旋状の溝1aが形成されている。螺旋状の溝1aの構成は、上記内面放電タイプの内電極2に形成されている螺旋状の溝2aの構成と同様である。また、螺旋状の溝の替わりに、前述したような直線状の溝が形成されていてもよい。外電極1の内径、厚さ、材料等は、上記内面放電タイプの外電極1と同様である。
【0027】
内電極2は、溝が形成されていない以外、基本的には上記内面放電タイプの内電極2と同様の構成を有する。図2では、内電極2の一端部は縮径しているが、これに限定されるものではない。内電極2の外径(円筒型基材3と嵌合する部分)、材料等は、上記内面放電タイプの内電極2と同様である。
【0028】
固定具71,72は、電気絶縁性を有し、所望の表面処理ができるように外電極1、内電極2および円筒型基材3を支持・固定し得るものであれば特に限定されない。また、固定できれば一方だけでも良い。本実施形態では、固定具71,72には空隙部が設けられており、プラズマ表面処理を行うためのガスは、表面処理側の電極と、基材の表面処理側の間を、電極の一方の端から他方の端へ流れる様にすれば、その導入方法に特に限定されない。例えば、71または72のいずれか一方の固定具と内電極2との間から導入され、内電極2の螺旋状の溝を通って他方の固定具の中空部から排出される(図1では固定具71側から導入されている)。なお、ガスは、例えば図2に示すように、バルブ11を備えたガス配管10から供給される。
【0029】
表面処理の対象となる円筒型基材3の大きさや材質は、上記内面放電タイプの円筒型基材3の大きさや材質と同様である。
【0030】
上記プラズマ表面処理装置(内面放電タイプ/外面放電タイプ)によれば、均質性に優れた表面処理を行うことができる。特に、上記プラズマ表面処理装置は、スペーサ等の部材を必要とすることなく、簡便な構造で構成することができるとともに、電極の構造が単純であるため、内径の小さい円筒基材への適用が容易であるという利点を有する。
【0031】
〔表面処理筒型基材の製造方法〕
上記プラズマ表面処理装置(内面放電タイプ/外面放電タイプ)を使用して表面処理筒型基材を製造するには、以下のようにして円筒型基材3に対してプラズマ表面処理を行えばよい。なお、円筒型基材3は、例えば図1または図2に示すように、固定具71,72によってプラズマ表面処理装置にセットする。
【0032】
プラズマ表面処理時の圧力は、装置コスト、処理コストを考慮すれば、真空ポンプ等を要さない大気圧近傍が好ましい。具体的には0.01〜0.12MPaである。
【0033】
電源5としては、例えば交流電源装置を使用することができ、単一周波数であってもよいし、周期的なパルス状の電圧を発生するものであってもよく、プラスチックの成型物等、基材をプラズマ処理する際に利用される通常の装置が利用でき特に制限はない。
【0034】
周波数が高い電源装置、例えば0.1MHz以上の高周波電源装置を使用すると、周波数の増加に伴いプラズマ密度を高くすることができる。ただし、高周波化に伴い筒型基材および/または電極の温度上昇が問題となるために、高周波電力を時間変調する機能を備えている高周波電源装置を使用することが望ましい。
【0035】
外電極1と内電極2との間に印加される周期的なパルス状の電圧は、電極間にプラズマが発生するのに必要な電界強度を有するように適宜調整される。アーク放電の発生の防止と放電プラズマの安定形成を考慮すると、電界強度は1〜100kV/cmの範囲にすることが好ましい。
【0036】
また、パルスの立ち上がり時間は、できるだけ速いことが好ましく、具体的には100μs以下にすることが好ましい。立ち上がり時間を速くすることで、電極間に存在するガスの電離が効率よく行える。一方、パルスの立ち下がり時間も、立ち上がり時間と同様、できるだけ速いことが好ましく、100μs以下にすることが好ましい。
【0037】
パルス幅(パルスの継続時間)は、放電プラズマの安定形成とアーク放電の発生の防止を考慮すると、0.1〜1000μsの範囲にすることが好ましい。パルスの繰り返し周波数は、表面処理の時間とアーク放電の発生防止を考慮すると、好ましくは0.1〜100kHzの範囲で選ばれる。パルス波形は、インパルスや方形波の他に、正弦波を除いた、三角波やノゴギリ波等であってもよく、上記の条件を満たしていれば特に限定されない。
【0038】
ガスの導入手段としては、例えば、バルブ、チューブ、継手等の配管部材、マスフローコントローラ、気化器等から構成される。
【0039】
ガスとしては、放電プラズマ形成に必須な不活性ガス単独の場合と、必要に応じて少量の反応性ガスを不活性ガスに加えた混合ガスが用いられる場合とがある。ここで不活性ガスとは、ヘリウム、アルゴン等の希ガスおよび窒素ガスの中から選ばれる1種類以上の単独あるいは混合ガスを指す。また、窒素ガス等、不活性ガスを反応性ガスに用いても良い。
【0040】
反応性ガスを不活性ガスに少量添加する場合、反応性ガスとしては、基材をプラズマ処理する際に上記のような不活性ガスに混合するガスとして、周知のものが利用できる。例えば、メタン、四フッ化メタン、エチレン、プロピレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、二酸化炭素、酸素、亜酸化窒素、三フッ化窒素、シラン、ジシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、アンモニア等が挙げられる。その添加量についても周知の好ましい範囲とすればよく、通常、不活性ガスに対して0.001〜5.0体積%が好ましい。
【0041】
上記プラズマ表面処理装置では、円筒型基材3の処理面と、溝が形成された内電極2または外電極1とは、近接して設置されているため、上記のようにしてプラズマ表面処理を行うと、ガスの大部分は、内電極2または外電極1に形成された溝を通じて流れ、放電プラズマが形成される空間も、内電極2または外電極1の溝の中が主体となると考えられる。電極に形成されたガスの流動が可能な溝により、放電プラズマは非常に狭い空間に閉じ込める事ができるようになるため、放電空間には、より高エネルギーの活性種が励起される。これにより、高密度の安定した放電プラズマを円筒型基材3の処理面の極近傍に、且つ処理面の全体を覆うように形成する事ができ、均質性に優れた表面処理を行うことが可能となるものと思われる。
【0042】
以上説明したプラズマ表面処理装置または表面処理筒型基材の製造方法によれば、様々な筒型基材の表面処理を提供することができる。例えば、(a)筒型基材の表面に親水性を付与する処理(親水化処理)、(b)筒型基材の表面に疎水性を付与する処理(疎水化処理)、(c)モノマーを含有したガスを用いて筒型基材の表面に重合膜を形成する処理、(d)モノマー溶液を筒型基材の表面にコーティングしその後該筒型基材の表面にプラズマ処理を行うことで重合膜を形成する処理、(e)筒型基材の表面にプラズマ処理を行った後該筒型基材の内面に重合性モノマーを供給して重合膜を形成する処理、(f)金属水素化合物等の金属成分を含んだ化合物を含有したガスを用いて筒型基材の表面に金属酸化物などのセラミックス膜を形成する処理、(g)筒型基材の表面をエッチングする処理等を挙げることができる。上記プラズマ表面処理装置または表面処理筒型基材の製造方法は、特に、窒素による親水化処理に好適である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
(親水化処理の評価方法)
親水性は、水滴接触角により評価した。筒型基材の内面及び外表面の接触角の測定方法を図3に示す。
【0044】
測定試料に1〜2μlの水滴を基材に滴下した後、10秒間待って、図3に定めた定義に従い、水滴接触角を測定した。測定には、協和表面科学(株)製の接触角計(CA−X型)を用いた。この場合、液滴の観察画像から、画像解析により接触角を求める。具体的には、液滴と基材の形状は、円の一部として近似できるものとし、液滴の底面の両端と上端の3点を指定して接触角を算出する。この方法では、図3に示すΘ、Θを求める事ができる。同一の観察画像に対するΘ、Θの測定結果より、筒型基材の水滴接触角を算出した。
【0045】
水滴接触角は、実施例の各サンプル毎に、筒型基材を幅4mmに5等分し、それぞれを半分に割った計10個の測定試料につき、処理面側を一箇所づつ測定し、計10点の測定結果より、次の通り判断した。
【0046】
平均値:10点の平均値で25°以下であると特に良好と言える。
【0047】
バラツキ:10点の測定値の最大値と最小値の差。10°以下であると特に良好と言える。
【0048】
〔実施例1〕
実施例1で用いたプラズマ表面処理装置を図1に示す。電極の部分は断面図の形式で示した。この放電プラズマ処理装置は、外径が6.0mm、内径が4.0mm、長さが20mmの筒型型プラスチック基材3の内面処理を行うために設計されたものである。
【0049】
内径が6.2mm、幅が16mmの銅製のリングを外電極1とし、M4ネジ溝(JIS B0205−1:2001)を有するステンレス製の棒を内電極2とした。内電極2の外径(最大部分)は、3.98mmである。この場合、内電極2には螺旋状の溝が形成されており、溝間の間隔は0.7mm、溝の深さは約0.4mm、溝の幅は約0.6mmである。両電極は、同軸上で対向するように配置されている。内電極に螺旋状の溝を形成した事により、電極溝に沿ってガスのフローが可能であり、電極自体にガスの流路が確保されている。
【0050】
高密度ポリエチレン(HDPE)製の筒型基材3を外電極1に挿入し、電気絶縁性の固定具71,72で固定するとともに、内電極2を挿入した。電気絶縁性の固定具71側から、バルブ11、ガス導入配管10を介してガスを内電極2と筒型基材3の間に導入した。外電極1と内電極2の間に、時間変調可能な13.56MHzの高周波電源5を、整合器4を介して接続し、内電極2を電気的に接地した。 ガスは窒素ガスを用い、その流量は、0.5l/mmin.とした。高周波電源の時間変調の条件を変調周波数600Hz、デューティ比(変調周期の中で高周波電力が印加されている期間の割合)0.01、高周波電力が印加されている期間の投入電力を30Wとし、300秒間放電プラズマ処理を行った。処理時の圧力は0.10MPaとした。尚、時間平均した投入電力は、高周波電力が印加されている期間の投入電力にデューティ比をかけた0.3Wとなる。結果を表1に示す。
【0051】
接触角の平均値は17.4degと十分に親水化されていた。処理バラツキは、6.1degと小さく、均質な処理がされていた。
【0052】
また、処理時に基材と電極の間から見られる放電プラズマの状態観察からは、電極周囲に沿って均質な光が観察された。
【0053】
〔実施例2〕
外径が3.95mmで、溝間の間隔が0.7mmで軸方向に平行な直線状の溝を形成した電極棒を内電極2として使用した(図4参照)以外は、実施例1と同様にして、HDPE製の基材内面の放電プラズマ処理を試みた。電極に形成した溝の深さは約0.25mm、溝の幅は約0.5mmであり、内電極には計18本の溝が形成されている。この場合、内電極に軸方向に平行な溝を形成した事により、電極溝に沿ってガスのフローが可能であり、電極自体にガスの流路が確保されている。結果を表1に示す。
【0054】
接触角の平均値は14.7degと十分に親水化されていた。処理バラツキは、2.8degと小さく、均質な処理がされていた。
【0055】
また、処理時に基材と電極の間から見られる放電プラズマの目視状態観察からは、電極周囲に沿って均質な光が観察された。
【0056】
〔実施例3〕
外径が3.95mmで、溝間の間隔が1.0mmで軸方向に平行な直線状の溝を形成した電極棒を内電極2として使用した(図4参照)以外は、実施例1と同様にして、HDPE製の基材内面の放電プラズマ処理を試みた。電極に形成した溝の深さは約0.4mm、溝の幅は約0.8mmであり、内電極には計12本の溝が形成されている。この場合、内電極に軸方向に平行な溝を形成した事により、電極溝に沿ってガスのフローが可能であり、電極自体にガスの流路が確保されている。結果を表1に示す。
【0057】
接触角の平均値は20.2degと十分に親水化されていた。処理バラツキは、5.8degと小さく、均質な処理がされていた。
【0058】
また、処理時に基材と電極の間から見られる放電プラズマの目視状態観察からは、電極周囲に沿って均質な光が観察された。
【0059】
〔比較例1〕
外径が3.18mmで、表面がフラットな電極棒を内電極2として使用した(図5参照)以外は、実施例1と同様にして、HDPE製の基材内面の放電プラズマ処理を試みた。この場合、ガスのフローは可能であるが、表面がフラットなため電極自体にガスの流路は確保されていない。結果を表1に示す。この場合、放電プラズマを形成させる事ができなかった。
【0060】
〔実施例4〕
外径が3.95mmで、溝間の間隔が4.0mmで軸方向に平行な直線状の溝を形成した電極棒を内電極2として使用した(図6参照)以外は、実施例1と同様にして、HDPE製の基材内面の放電プラズマ処理を試みた。電極に形成した溝の深さは約0.5mm、溝の幅は約1.0mmであり、内電極には計3本の溝が形成されている。この場合、内電極に軸方向に平行な溝を形成した事により、電極溝に沿ってガスのフローが可能であり、電極自体にガスの流路が確保されている。結果を表1に示す。
【0061】
〔比較例2〕
外径が3.95mmで、溝間の間隔が1.0mmで周方向に溝を形成した電極棒を内電極2として使用した(図7参照)以外は、実施例1と同様にして、HDPE製の基材内面の放電プラズマ処理を試みた。電極に形成した溝の深さは約0.5mm、溝の幅は約0.8mmであり、内電極には計20本の溝が周方向に形成されている。この場合、基材3の内径と内電極2の外径が非常に近く、電極自体にガスの流路は確保されていないため、圧力損失が高くガスをフローする事が容易ではない。結果を表1に示す。この場合、比較例1と同様、放電プラズマを形成させる事ができなかった。
【0062】
〔比較例3〕
外径が3.18mmで、表面がフラットな電極棒に、非導電性スペーサ4として厚みが0.32mm、幅1mmのポリイミド樹脂を軸方向と平行にスペーサ間の間隔3.3mmで取り付けたものを内電極2として使用した(図8参照)以外は、実施例1と同様にして、HDPE製の基材内面の放電プラズマ処理を試みた。この場合、ガスのフローは可能であるが、電極表面がフラットなため電極自体にガスの流路は確保されていない。結果を表1に示す。この場合、放電プラズマを形成させる事ができなかった。
【0063】
【表1】

【0064】
(考察)
電極に軸方向の溝を設けると均一な放電プラズマが発生し親水化処理ができる。特に実施例1〜3のように、表面に溝間の間隔の小さい微細な溝を形成すると、親水化処理は十分で、バラツキも少ないことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、従来よりも表面処理の均質性に優れた装置をより簡便な構造で提供することが可能となり、さらには該装置で表面処理して得られた筒型基材は、より均質な処理面を有する為、工業的に極めて価値がある。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態に係るプラズマ表面処理装置(実施例1で使用)の概略断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係るプラズマ表面処理装置の概略断面図である。
【図3】円筒型基材の水滴接触角の特定方法を説明する図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るプラズマ表面処理装置の電極部分(実施例2,3で使用)の概略図である。
【図5】比較例1で使用したプラズマ表面処理装置の電極部分の概略図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るプラズマ表面処理装置の電極部分(実施例4で使用)の概略図である。
【図7】比較例2で使用したプラズマ表面処理装置の電極部分の概略図である。
【図8】比較例3で使用したプラズマ表面処理装置の電極部分の概略図である。
【符号の説明】
【0067】
1…外電極
1a…外電極の内面に形成された螺旋状の溝
2…内電極
2a…内電極の表面に形成された螺旋状の溝
3…円筒型基材
4…整合器
5…電源
6…非導電性スペーサ
71,72…固定具
10…ガス配管
11…バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に配置された筒型基材の外側の電極と、該外側の電極と筒型基材を介して対向するように配置された内側の電極とを有する同軸型のプラズマ表面処理装置において、プラズマ表面処理側の電極に、軸方向にガスが流動できる溝を設けたことを特徴とする筒型基材のプラズマ表面処理装置。
【請求項2】
溝間の間隔[p(mm)]が0.1〜3.0mmの間隔である請求項1記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項3】
溝の深さが0.1×p〜1.0×p(mm)、幅が0.5×p〜1.0×p(mm)である請求項1記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項4】
プラズマ表面処理側の電極が内側の電極である請求項1記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項5】
筒型基材の内径が1〜10mm、厚みが0.1〜5mmである請求項1記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項6】
溝の構造が軸にそって電極の一方の端から他方の端に一定の方向に連続した構造である請求項1記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項7】
請求項1〜6のプラズマ表面処理装置を用いて表面処理を行うことを特徴とする表面処理筒型基材の製造方法。
【請求項8】
プラズマ表面処理が0.01〜0.12MPaの圧力下での処理である請求項7記載の表面処理筒型基材の製造方法。
【請求項9】
筒型基材が樹脂である請求項7記載の表面処理筒型基材の製造方法。
【請求項10】
プラズマ処理が窒素による親水化処理である請求項9記載の表面処理筒型基材の製造方法。
【請求項11】
筒型基材の内径が1〜10mm、厚みが0.1〜5mmである請求項7記載の表面処理筒型基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−134056(P2007−134056A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323139(P2005−323139)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】