説明

ベルト式無段変速機における油圧制御装置

【課題】エンジン始動直後の油の温度が低い状態でも、気中に配置されたオイルポンプの潤滑を確実に行うことができるベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供する。
【解決手段】油温が極低温状態である−20℃未満の場合には、セカンダリ圧設定値を高い油圧(2MPa)となるように制御する。これにより、オイルポンプの吐出圧が上昇するとともに軸受けへと供給される油量が増加するので、エンジンの回転数がオイルポンプの焼き付き限界回転数まで上昇した場合でも、オイルポンプの軸受けが十分に潤滑されて焼き付きの発生を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される自動変速機としてVベルトを用いたベルト式無段変速機がある。ベルト式無段変速機では、溝幅を油圧に基づいて可変制御されるプライマリプーリとセカンダリプーリでVベルトを挟持し、その接触摩擦力によって動力の伝達を行っている。
このようなベルト式無段変速機は、入力トルクと変速比に応じてプーリの推力を求め、この推力をセカンダリプーリおよびプライマリプーリの受圧面積などの所定値に基づいて油圧に換算し、この油圧をプライマリ圧およびセカンダリ圧の目標値として変速機構に指示するものである。
【0003】
またベルト式無段変速機にはオイルパンが備えられ、オイルパン内の油をオイルポンプで吸い上げて加圧することで、プライマリ圧およびセカンダリ圧の基圧となるライン圧を生成している。
このようなベルト式無段変速機として、たとえば特許文献1に記載されたものがある。
【0004】
またオイルポンプが自動変速機内の気中に配置されたものがある。
このようなオイルポンプは、オイルパンから吸い上げた油を加圧し、加圧した油の一部を自身に備えられた回転軸を支持する軸受けに供給することによって、回転軸の焼き付きを防止している。
また、自身が吐出する油圧が高くなるにしたがって、軸受けに潤滑油として供給する油量が多くなるオイルポンプがある。
このようなオイルポンプとして例えば特許文献2に記載されたものがある。
【特許文献1】特開平11−37237号公報
【特許文献2】特開2005−61391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エンジンの始動直後はエンジンや自動変速機が温まっていないため自動変速機内の油の温度が低く油の粘度が高くなっており、気中に配置されたオイルポンプの軸受けの潤滑を十分に行うことができず、潤滑油量の不足によって不具合が生じる恐れがあるといった問題があった。
【0006】
そこで本発明はこのような問題点に鑑み、エンジン始動直後の油の温度が低い状態でも、気中に配置されたオイルポンプの軸受けの潤滑を確実に行うことができるベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ベルトを挟持するプライマリプーリおよびセカンダリプーリと、油圧を生成するとともに、自身の回転軸を支持する軸受けに自身が吐出する油の一部を潤滑油として供給し、吐出圧の増加に伴って潤滑油の量が増加するオイルポンプと、プライマリプーリに供給するプライマリ圧およびセカンダリプーリに供給するセカンダリ圧の基圧としてオイルポンプの吐出圧より生成されるライン圧の設定値を算出し、さらに、プライマリ圧の設定値およびセカンダリ圧の設定値を算出するCVTコントロールユニットとを備え、該CVTコントロールユニットは、変速比が所定変速比となるまでは、セカンダリ圧の設定値よりライン圧の設定値を算出するベルト式無段変速機における油圧制御装置において、オイルポンプが吸い込む油の温度を検出する油温センサと、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサとを備え、CVTコントロールユニットは、油温センサによって油温が第1の所定温度未満の極低温であることが検出されている場合に、エンジンの始動後、オイルポンプの軸受けの潤滑が不十分な場合に焼き付が生じる限界回転数となるまでは、エンジンの回転数に応じた所定の変化率でセカンダリ圧設定値を上昇させ、セカンダリ圧設定値が極低温設定圧となった後は、セカンダリ圧設定値を極低温設定圧で維持し、油温が第1の所定温度よりも高い第2の所定温度以上の常温となったときに、セカンダリ圧設定値を油温が常温状態の場合におけるセカンダリ圧設定値とするものとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油温が極低温の場合にはセカンダリ圧設定値を油温が常温状態の時よりも高い値である極低温設定圧に設定するものとしたので、セカンダリ圧設定値に基づいて算出されるライン圧設定値が高い値となってオイルポンプの吐出圧が増加し、油温が低く油の粘度が高い場合であっても軸受けに供給する油量を確保して潤滑を確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明の実施の形態を実施例により説明する。
図1は、本発明をベルト式無段変速機に適用した概略構成を示す。
図1において、前後進切り替え機構4を備えた変速機構部5、およびロックアップクラッチを備えたトルクコンバータ2より構成されるベルト式無段変速機3がエンジン1に連結される。変速機構部5は一対の可変プーリとして入力軸側のプライマリプーリ10、出力軸13に連結されたセカンダリプーリ11を備え、これら一対の可変プーリ10、11はVベルト12によって連結されている。なお、出力軸13はアイドラギア14を介してディファレンシャル6に連結される。
【0010】
変速機構部5の変速比やVベルト12の接触摩擦力は、CVTコントロールユニット20からの指令に応じて作動する油圧コントロールユニット100によって制御される。またCVTコントロールユニット20はエンジン1を制御するエンジンコントロールユニット(以下、ECU)21に接続され、互いに情報交換を行っている。CVTコントロールユニット20はECU21からの入力トルク情報、スロットル開度センサ24からのスロットル開度(TVO)、エンジン回転数などから変速比や接触摩擦力を決定する。
【0011】
またベルト式無段変速機3の下方位置には、変速機内の油を溜める図示しないオイルパンが取り付けられ、オイルパン内の油の温度を検出する油温センサ25が備えられている。油温センサ25による検出結果はCVTコントロールユニット20に入力される。
さらに、エンジン1を冷却するための冷却水の温度を検出する水温センサ28を備え、水温センサ28による検出結果がCVTコントロールユニット20に入力される。
シフトレバーの操作位置を検出するインヒビタースイッチ23を備え、インヒビタースイッチ23によって検出されたシフトレバーの操作位置情報(以下、レンジ信号とも呼ぶ)がCVTコントロールユニット20に入力される。
【0012】
変速機構部5のプライマリプーリ10は、入力軸と一体となって回転する固定円錐板10bと、固定円錐板10bとの対向位置に配置されてV字状のプーリ溝を形成するとともに、プライマリプーリシリンダ室10cへ作用する油圧(以下、プライマリ圧と呼ぶ)に応じて軸方向へ変位可能な可動円錐板10aから構成されている。
セカンダリプーリ11は、出力軸13と一体となって回転する固定円錐板11bと、固定円錐板11bとの対向位置に配置されてV字状のプーリ溝を形成するとともに、セカンダリプーリシリンダ室11cへ作用する油圧(以下、セカンダリ圧と呼ぶ)に応じて軸方向に変位可能な可動円錐板11aから構成される。
【0013】
エンジン1から入力された入力トルクは、トルクコンバータ2、前後進切り替え機構4を介して変速機構部5に入力され、プライマリプーリ10からVベルト12を介してセカンダリプーリ11へ伝達される。プライマリプーリ10の可動円錐板10aおよびセカンダリプーリ11の可動円錐板11aを軸方向へ変位させて、Vベルト12と各プーリ10、11との接触半径を変化させることにより、プライマリプーリ10とセカンダリプーリ11との変速比を連続的に変化させることができる。
【0014】
また、トルクコンバータ2のポンプインペラー2Aに動力取り出しギヤ71が取り付けられている。
動力取り出しギヤ71の径方向外側位置に、ポンプ入力ギヤ73を備えたオイルポンプ7が配置されている。
オイルポンプ7は、自動変速機内の気中に配置されている。
動力取り出しギヤ71とポンプ入力ギヤ73との間にチェーン72が掛け渡され、エンジン1の回転がポンプインペラー2A、動力取り出しギヤ71、チェーン72を介してオイルポンプ7に入力される。
【0015】
オイルポンプ7は、エンジンの動力によって駆動され、オイルパンより油を吸い込んで加圧した後、油圧コントロールユニット100へ供給する。
特にオイルポンプ7は、オイルパンから吸い込んだ油を、自身の構成要素である回転軸を支持する軸受け75に供給して、軸受け75の潤滑を行う。
【0016】
次に、CVTコントロールユニット20が油圧コントロールユニット100を用いて行うプライマリ圧およびセカンダリ圧の油圧制御について説明する。
CVTコントロールユニット20は、エンジンからの入力トルク情報等に基づいて、所定の変速比を維持するために必要なプライマリ圧およびセカンダリ圧を算出する。
またCVTコントロールユニット20は、算出したセカンダリ圧をライン圧とする。
油圧コントロールユニット100内には、オイルポンプ7より出力された油圧を調圧する調圧弁が備えられ、油圧コントロールユニット100はCVTコントロールユニット20によって算出されたライン圧となるように、オイルポンプ7より出力された油圧を調圧してライン圧を生成する。
油圧コントロールユニット100は、ライン圧を調圧することによってプライマリ圧およびセカンダリ圧を生成する。
【0017】
ここで、ベルト式無段変速機3はセカンダリ圧のほうがプライマリ圧よりも高い圧力が必要となる。
そこでCVTコントロールユニット20は、まずエンジントルクからの入力トルク等より必要なセカンダリ圧を算出し、セカンダリ圧に基づいてライン圧を算出した後、算出したライン圧となるようにオイルポンプ7から出力された油圧を制御する。
【0018】
次に、エンジンが始動された後、CVTコントロールユニット20がセカンダリ圧を制御する手順について説明する。
なおエンジン始動直後はセカンダリ圧に基づいてライン圧が算出されるため、CVTコントロールユニット20によってセカンダリ圧を決定し、油圧コントロールユニット100によってセカンダリ圧の油圧を制御することによって、結果的にオイルポンプ7の吐出圧を制御することとなる。
【0019】
図2に、CVTコントロールユニット20が行うセカンダリ圧の制御手順を示す。
図2のステップ100においてCVTコントロールユニット20は、低温始動時判定が成立したかどうかを判断する。
具体的には、油温センサ25によって検出された油温が所定値未満または水温センサ28によって検出された水温が所定値未満である場合、エンジン1の回転速度が所定値未満である場合、インヒビタースイッチ23によって検出されたシフトレバーの操作位置がP(駐車)レンジまたはN(中立)レンジである場合、油温センサ25および水温センサ28が故障でない場合、のすべての条件が成立したときに、低温始動時判定が成立したものとして判定する。
低温始動時判定が成立するとステップ101へ進む。低温始動時判定が成立しない場合は、ステップ109へ進み、油温が常温時の場合におけるセカンダリ圧制御を行う。
【0020】
ステップ101においてCVTコントロールユニット20は、油温センサ25によって検出された油温が−20℃(第1の所定温度)未満の極低温であるかどうかを判断する。
油温が−20℃未満である場合にはステップ102へ進み、そうでない場合にはステップ104へ進む。
ステップ102において、セカンダリ圧の極低温始動時制御を開始する。
なお極低温始動時制御は、図2に示す制御と平行して行われるものであり、極低温始動時制御中においても図2のステップ103の分岐判断が行われ、ステップ103の判断結果にもとづいて極低温始動時制御が終了、または継続されるものである。
【0021】
ここで、極低温始動時制御の詳細について説明する。
図3に、CVTコントロールユニット20が油圧コントロールユニット100に対して指示するセカンダリ圧設定値の変化を油温状態ごとに分けて示す。また図4に極低温始動時制御の処理の流れを示す。
CVTコントロールユニット20はステップ200において、車両のイグニッションがオン(図3の時刻t1)となってから、エンジンが正常に始動したと判定できる回転数(以下、始動判定回転数と呼ぶ)となったかどうかを判断する。
エンジン回転数が始動判定回転数以上となった場合(時刻t2)にはステップ201へ進み、そうでない場合にはステップ204へ進む。
【0022】
ステップ204において、油圧コントロールユニット100に対して指示するセカンダリ圧(以下、セカンダリ圧設定値と呼ぶ)をゼロとしてステップ200へ戻る。
これによってエンジンの始動時に、オイルポンプ7が油圧を発生させる必要がなくなり、ポンプの負荷が減り、エンジンを効率よくクランキングさせることができる。
【0023】
エンジン回転数が始動判定回転数以上となった後(時刻t2)、ステップ201においてCVTコントロールユニット20はエンジン回転数に応じてセカンダリ圧設定値の制御を行う。
これは、エンジン回転数の上昇に合わせて所定値から徐々に大きくなるセカンダリ圧の値を油圧コントロールユニット100に対して指示するものである。
このセカンダリ圧設定値の上昇勾配は、油圧上昇に伴うオイルポンプ7の負荷によってエンジン1がストールを起こさないように設定されている。
【0024】
ここでオイルポンプ7は、自身が発生させる油圧が大きくなるにしたがって、潤滑油として軸受け75に供給される油量が増加するものである。
またオイルポンプ7は、ポンプの吐出圧が低い場合、かつ、油温が−20℃未満の時には油の粘度が高いため、十分な量の油を自身に備えられた回転軸を支持する軸受け75に供給することができない。さらにオイルポンプ7は、軸受け75の潤滑が不十分な状態でエンジン1の回転数が1800rpm以上となったときに、軸受け部分での焼き付きが発生するものとする。
【0025】
また油温が−20℃未満の油の粘度が高い状態でもオイルポンプ7の軸受け75に十分な量の油を潤滑油として供給するためには、オイルポンプ7は通常時よりも高い所定の吐出圧を出力する必要がある。
この所定の吐出圧は、本実施例におけるベルト式無段変速機3においては、たとえばセカンダリ圧として2MPaの油圧を生成するために必要な油圧をオイルポンプ7が吐出する場合の圧力となっている。
したがって、油温が−20℃未満の場合、エンジン回転数が1800rpmとなるときに、セカンダリ圧として2MPaの油圧を生成するために必要な油圧をオイルポンプ7が吐出している場合には、オイルポンプ7の軸受け75が焼き付くといった不具合が発生しない。
【0026】
したがってステップ201のセカンダリ圧制御において、図3の時刻t2以降におけるセカンダリ圧設定値の上昇勾配は、エンジン回転数が1800rpmとなったときにセカンダリ圧設定値が2MPaに到達するように設定されている。
ステップ202において、セカンダリ圧設定値が2MPaとなったかどうかを判断し、セカンダリ圧設定値が2MPaとなった場合にはステップ203へ進み、2MPaとなっていない場合にはステップ201におけるエンジン回転数に応じたセカンダリ圧設定値の制御を続ける。
CVTコントロールユニット20は、セカンダリ圧設定値を2MPaまで上昇させた後、ステップ203において図3の時刻t4以降、セカンダリ圧設定値として2MPaの値を指示する。
この極低温始動時制御は、図2のステップ103において油温が−20℃未満でなくなったと判断されるまで続けられる。
【0027】
図2に戻りステップ103において、油温が−20℃未満でなくなったかどうかを判断する。
油温が−20℃未満でなくなった場合には極低温始動時制御を終了してステップ105へ進む。一方、油温が−20℃未満である場合にはステップ102へ戻り、極低温始動時制御を続ける。
【0028】
ステップ101において油温が−20℃未満でないと判断された場合、ステップ104においてCVTコントロールユニット20は、油温が0℃(第2の所定温度)未満の低温であるかどうかを判断する。
油温が0℃未満である場合にはステップ105へ進み、油温が0℃以上の常温である場合にはステップ109へ進む。
ステップ105において、セカンダリ圧の低温始動時制御を開始する。
なお低温始動時制御は、図2に示す制御と平行して行われるものであり、低温始動時制御中においても図2のステップ106〜108の分岐判断が行われ、ステップ106〜108の判断結果にもとづいて低温始動時制御が終了、または継続されるものである。
【0029】
ここで、低温始動時制御の詳細について説明する。
図5に、低温始動時制御の処理の流れを示す。
ステップ300、301、305における処理は、図4のステップ200、201、204における処理と同じであり、説明を省略する。
なおステップ301の制御においてエンジン回転数に応じて上昇させるセカンダリ圧設定値の上昇勾配は、ステップ201におけるセカンダリ圧設定値の上昇勾配と同じ上昇勾配を用いるものとする。
ステップ302において、セカンダリ圧設定値が1.3MPaとなったかどうかを判断し、セカンダリ圧設定値が1.3MPaとなった場合にはステップ303へ進み、1.3MPaとなっていない場合にはステップ301における処理を繰り返す。
CVTコントロールユニット20は、セカンダリ圧設定値を1.3MPaまで上昇させた後、ステップ303において図3の時刻t3以降、セカンダリ圧設定値として1.3MPaの値を指示する。
この低温始動時制御は、図2のステップ106〜108において、詳しくは後述するがPレンジ(またはNレンジ)からD(前進)レンジへの切り替わりがあった、または、油温が0℃以上となったと判断されるまで続けられる。
【0030】
図2に戻り、ステップ106においてCVTコントロールユニット20は、インヒビタースイッチ23からの信号より、運転者がPレンジ(またはNレンジ)からDレンジへの切り替えがあったかどうかを判断する。
シフトレンジの切り替えが合った場合にはステップ109へ進み、切り替えがない場合にはステップ107へ進む。
シフトレンジの切り替えがあると低温始動時制御を終了し、詳しくは後述するがステップ109においてセカンダリ圧設定値を、油温が常温状態のときに指示するセカンダリ圧設定値(0.7MPa)とする。
したがって図3において、シフトレンジの切り替えが発生した時刻t5以降において、セカンダリ圧設定値として0.7MPaを指示する。
【0031】
ステップ107において油温が−20℃未満であるかどうかを判断し、−20℃未満である場合にはステップ102に戻り極低温始動時制御を行う。一方、油温が−20℃未満でない場合にはステップ108へ進む。
ステップ108において油温が0℃未満であるかどうかを判断し、油温が0℃未満である場合にはステップ105へ戻り、低温始動時制御を続ける。一方、油温が0℃未満でない場合にはステップ109へ進み、油温が常温状態の時におけるセカンダリ圧制御を行う。
【0032】
油温が常温状態の時におけるセカンダリ圧制御とは、エンジン1の回転数が始動判定回転数以上となった後は、セカンダリ圧設定値として0.7MPaを指示するものである。
常温時のセカンダリ圧制御中にアクセルが踏み込まれた場合には、CVTコントロールユニット20は、エンジンのトルク等に応じてセカンダリ圧設定値を上昇させる。
【0033】
このように、油温が−20℃未満の場合にはステップ102における極低温始動時制御を行い、油温が−20℃以上0℃未満の場合にはステップ105における低温始動時制御を行い、さらに油温が0℃以上である場合には常温時におけるセカンダリ圧制御を行うものである。
また低温始動時制御中にPレンジからDレンジへのシフト切り替えがあった場合には、常温時のセカンダリ圧制御に切り替わる。さらに、極低温始動時制御中は、油温が−20度未満でなくなったときに低温始動時制御に移行するものである。
【0034】
本実施例は以上のように構成され、油温が極低温状態である−20℃未満の場合には、セカンダリ圧設定値を高い油圧(2MPa)となるように制御することにより、オイルポンプ7の吐出圧の上昇とともに軸受け75へと供給される油量が増加するので、エンジンの回転数がオイルポンプ7の焼き付き限界回転数まで上昇した場合でも、オイルポンプ7の軸受け75が十分に潤滑されて焼き付きの発生を防止することができる。
また、油温が−20℃以上0℃未満の場合には、セカンダリ圧設定値を1.3MPaとし、油温が極低温状態、低温状態、常温状態の3パターンに分けてセカンダリ圧設定値を変化させることにより、油温の状態に応じてオイルポンプ7の吐出圧の増加量を適切なものとして、オイルポンプ7の軸受け75の潤滑を確実に行うことができる。
【0035】
油温が低温時には、油温が極低温時の場合と比較して油の粘度が低くオイルポンプ7の潤滑を行い易いため、PレンジまたはNレンジからDレンジへとシフト切り替えがあったときに低温始動時制御を終了してセカンダリ圧設定値を油温が常温状態の場合のセカンダリ圧設定値(0.7MPa)を指示することにより、オイルポンプ7の負荷を抑えてエンジン1の始動効率や燃費性能を向上させることができる。
またイグニッションがオンとなった後(図3の時刻t1)、エンジン回転数が始動判定回転数となるまではセカンダリ圧設定値を上昇させないものとしたので、エンジン1の始動時にオイルポンプ7の駆動負荷がなくなり、エンジン1の始動性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ベルト式無段変速機の概略構成を示す図である。
【図2】セカンダリ圧の制御手順を示す図である。
【図3】各油温状態におけるセカンダリ圧設定値の変化を示す図である。
【図4】極低温始動時制御の処理の流れを示す図である。
【図5】低温始動時制御の処理の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 エンジン
2 トルクコンバータ
3 ベルト式無段変速機
4 前後進切り替え機構
5 変速機構部
7 オイルポンプ
10 プライマリプーリ
11 セカンダリプーリ
12 Vベルト
20 CVTコントロールユニット
21 エンジンコントロールユニット(ECU)
23 インヒビタースイッチ
24 スロットル開度センサ
25 油温センサ
28 水温センサ
71 動力取り出しギヤ
72 チェーン
73 ポンプ入力ギヤ
75 軸受け
100 油圧コントロールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトを挟持するプライマリプーリおよびセカンダリプーリと、
油圧を生成するとともに、自身の回転軸を支持する軸受けに自身が吐出する油の一部を潤滑油として供給し、吐出圧の増加に伴って前記潤滑油の量が増加するオイルポンプと、
前記プライマリプーリに供給するプライマリ圧および前記セカンダリプーリに供給するセカンダリ圧の基圧として前記オイルポンプの吐出圧より生成されるライン圧の設定値を算出し、さらに、前記プライマリ圧の設定値および前記セカンダリ圧の設定値を算出するCVTコントロールユニットとを備え、
該CVTコントロールユニットは、変速比が所定変速比となるまでは、前記セカンダリ圧の設定値より前記ライン圧の設定値を算出するベルト式無段変速機における油圧制御装置において、
前記オイルポンプが吸い込む油の温度を検出する油温センサと、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサとを備え、
前記CVTコントロールユニットは、
前記油温センサによって油温が第1の所定温度未満の極低温であることが検出されている場合に、
前記エンジンの始動後、前記オイルポンプの軸受けの潤滑が不十分な場合に焼き付が生じる限界回転数となるまでは、
前記エンジンの回転数に応じた所定の変化率で前記セカンダリ圧設定値を上昇させ、
前記セカンダリ圧設定値が前記極低温設定圧となった後は、前記セカンダリ圧設定値を前記極低温設定圧で維持し、
前記油温が前記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度以上の常温となったときに、前記セカンダリ圧設定値を油温が常温状態の場合におけるセカンダリ圧設定値とすることを特徴とするベルト式無段変速機における油圧制御装置。
【請求項2】
前記CVTコントロールユニットは、
前記油温センサによって油温が、前記第2の所定温度未満であり、かつ、前記第1の所定温度以上の低温であることが検出されている場合に、
前記エンジンの始動後、前記油温が常温状態の場合におけるセカンダリ圧設定値よりも高く、かつ、前記極低温設定圧よりも低い低温設定圧となるように、前記エンジンの回転数に応じた所定の変化率で前記セカンダリ圧設定値を上昇させ、前記セカンダリ圧設定値が前記低温設定圧となった後は、前記セカンダリ圧設定値を前記低温設定圧で維持することを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機における油圧制御装置。
【請求項3】
変速機のレンジ位置を検出するインヒビタースイッチを備え、
前記CVTコントロールユニットが、前記セカンダリ圧設定値として低温設定圧を設定している場合に、
前記インヒビタースイッチによって駐車レンジから前進レンジへのシフト切り替えが検出された場合、または中立レンジから前進レンジへのシフト切り替えが検出された場合に、
前記セカンダリ圧設定値を、前記油温が常温状態の場合におけるセカンダリ圧設定値とすることを特徴とする請求項2に記載のベルト式無段変速機における油圧制御装置。
【請求項4】
前記CVTコントロールユニットは、
前記エンジン回転数が所定回転数以上となった後から、前記セカンダリ圧設定値を所定の変化率で上昇させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載のベルト式無段変速機における油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−39117(P2008−39117A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216066(P2006−216066)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】