説明

マイクロ波照射処理装置

【課題】マイクロ波の照射を処理物の上下面のみならず側面からも照射可能にし、処理物の乾燥ムラまたは加熱ムラを確実に防ぐマイクロ波照射処理装置を提供する。
【解決手段】処理槽10内に処理物1を搬入して上下面の両方から導波管16を介してマイクロ波発生器12a、13aで発生させたマイクロ波を導入及び照射して乾燥または温度を上げるマイクロ波照射処理装置であって、処理物1を前面から後面に搬送して処理するコンベア11の処理槽10を備え、この処理槽10にマイクロ波を上下面の両方から照射可能な第1照射手段12と、この第1照射手段12に加えて処理物1両方の側面からも照射可能な第2照射手段13とを備える。ここで、マイクロ波発生器12a、13aには、処理槽10に導波管16を介して各方向からそれぞれ同時または別々にマイクロ波を照射可能に制御する制御手段19を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波照射処理装置に係り、より詳細には、例えば、民生用の調理以外で工業用分野に用いられ、電子部品、鋳物、セラミック、食品、化学合成などの処置物に、マイクロ波を照射して温度を上げたり(加熱)、乾燥、殺菌、或いは化学反応を促進させたりするマイクロ波照射処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマイクロ波照射処理装置は、例えば、民生用の調理以外で工業用分野に用いられて電子部品、鋳物、セラミック、食品、化学合成物などの処理物に、マイクロ波を照射して温度を上げたり(加熱)、乾燥や殺菌、或いは化学反応を促進させたりするための装置であって、処理槽内に搬入した処理物の上下いずれか一方或いは両方からマイクロ波発生器で発生したマイクロ波を導入及び照射して処理する装置がよく知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【特許文献1】特開2003−145521号公報(第7頁、第9図)
【特許文献2】特開2002−283331号公報
【特許文献3】特開平6−165660号公報
【0003】
前者の方法による例を、図10にて説明する。図10は、従来のマイクロ波照射処理装置の一実施形態を示す構成図である。図10に示すように、従来のマイクロ波照射処理装置の一実施形態は、電子部品、鋳物、セラミック、食品、化学合成物などの処理物1をコンベア31により前面から搬入して後面に搬出する搬送中に処理することが可能なコンベア式の処理槽30を備え、この処理槽30内にコンベア31で搬入した処理物1を上下面いずれか一方或いは両方(図10では両方)から導波管36を介してマイクロ波発生器32により発生させたマイクロ波を導入及び照射して乾燥または温度を上げることを可能にしている。
【0004】
このような構成からなる従来のマイクロ波照射処理装置の一実施形態は、まず、他の製造工程から搬送した処理物1をコンベア31に移し変えることで、複数の処理物1を順次処理槽30内に搬入する。そして、処理槽30内では、マイクロ波発生器32で発生したマイクロ波が導波管36を介してコンベア31により搬入した処理物1に向かって上下面から照射されることで、処理物1の乾燥または加熱などの処理を実行する。その後、処理槽30内から搬出された処理物1は、乾燥または加熱などの処理を終えた製品としてコンベア31により搬出されて次工程に搬送される。
【0005】
このように従来のマイクロ波照射処理装置は、コンベア31により処理槽30内に搬入した処理物1の上下面からマイクロ波を照射する方式を採用することで、処理物1の内外を同時に乾燥または加熱可能に設けていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のマイクロ波照射処理装置では、搬送する処理物1の上下部だけにマイクロ波を照射する方式がとられているため、処理物1全体における均一な温度上昇及び処理物1全体の温度分布にムラが発生しやすく、処理後の処理物1に乾燥ムラ、加熱ムラが生じてしまうという不具合があった。
【0007】
本発明はこのような課題を解決し、マイクロ波の照射を処理物の上下面のみならず側面からも照射可能にし、処理物の乾燥ムラまたは加熱ムラを確実に防ぐマイクロ波照射処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上述の課題を解決するために、処理槽内に処理物を搬入して上下面のいずれか一方或いは両方から導波管を介してマイクロ波発生器で発生させたマイクロ波を導入及び照射して乾燥または温度を上げるマイクロ波照射処理装置であって、処理物を前面から後面に搬送して処理するコンベア式の処理槽を備え、この処理槽にマイクロ波を上下面いずれか一方或いは両方から照射可能な第1照射手段と、この第1照射手段に加えて処理物の左右どちらか一方或いは両方の側面からも照射可能な第2照射手段とを備える。
【0009】
また、本発明の他の実施形態として、処理槽内に処理物を搬入して上下面のいずれか一方或いは両方から導波管を介してマイクロ波発生器で発生させたマイクロ波を導入及び照射して乾燥または温度を上げるマイクロ波照射処理装置であって、処理物を密閉された中空内に前面から出し入れして処理するバッチ式の処理槽を備え、この処理槽にマイクロ波を上下面いずれか一方或いは両方から照射可能な第1照射手段を有し、この第1照射手段に加えて処理物の左右どちらか一方或いは両方の側面から照射可能な第2照射手段と、処理物を出し入れする前面と対向する後面から照射可能な第3照射手段とのいずれか一方または両方を備える。
【0010】
ここで、第1照射手段、第2照射手段、及び第3照射手段は、処理槽に導波管を介して各々接続されてこの各方向にそれぞれ、マイクロ波を発生させるマイクロ波発生器と、導波管から反射する電力を吸収してマイクロ波発振器を保護するアイソレータと、処理槽のインピーダンス整合をとりマイクロ波電力を有効利用する整合器とを各々備えることが好ましい。このマイクロ波発生器には、処理槽に導波管を介して各方向からそれぞれ同時または別々にマイクロ波を照射可能に制御する制御手段を接続することが好ましい。また、制御手段は、処理槽にマイクロ波照射中の処理物の温度を測定するサーモパイル式またはサーミスタ式の赤外温度計を少なくとも1つ以上設置して接続するとともに、この温度計の温度データに応じてマイクロ波発生器の出力を制御して処理物の温度状態を監視可能にすることが好ましい。また、導波管は、処理槽に各方向からマイクロ波を導入する際にテーパを有して徐々に広がるホーン型に形成した照射口を設け、この照射口が処理槽の外部から内部に至る間で広がるように延在させることが好ましい。また、導波管は、ホーン型の照射口を処理槽内の処理物近傍まで近接するように延在させたことが好ましい。また、導波管は、ホーン型に広がって延長するテーパ長がマイクロ波の波長の長さに設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
以上詳細に説明したように、本発明によるマイクロ波照射処理装置によれば、マイクロ波の照射を処理物の上下面のみならず側面からも照射可能にしているため、処理物全体における温度上昇及び処理物全体の温度分布にムラが無くなり、処理後の処理物における乾燥ムラまたは加熱ムラを確実に防いで均一に処理することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、添付図面を参照して本発明によるマイクロ波照射処理装置の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明によるマイクロ波照射処理装置の第1実施形態を示す構成図である。また、図2は、図1に示した第1実施形態と従来技術とによる加熱状態の対比を示す図であり、図2(a)は従来技術の加熱状態を、図2(b)は本発明の加熱状態を各々示している。また、図3は、図1に示した導波管16の他の実施例を示す図である。また、図4は、図3に示した矢印A方向から見た内部構造を示す図である。また、図5は、図4に示した照射口16aの他の実施例を示す図であり、図5(a)は処理槽10の内部に設けた照射口16aを、図5(b)は処理槽10の外部に照射口16aを各々示している。また、図6は、図3に示したホーン型の照射口16aの有無による加熱状態の対比を示す図であり、図6(a)は照射口無しの導波管による加熱状態を、図6(b)は照射口有りの導波管による加熱状態を各々示している。また、図7は、本発明によるマイクロ波照射処理装置の第2実施形態を示す構成図である。また、図8は、本発明によるマイクロ波照射処理装置の第3実施形態を示す構成図である。また、図9は、本発明によるマイクロ波照射処理装置の第4実施形態を示す構成図である。
【実施例1】
【0013】
図1に示すように、本発明によるマイクロ波照射処理装置の第1実施形態は、図10に示した従来技術と同様に、民生用の調理以外で工業用分野に採用されて化学反応の促進、加熱、乾燥、殺菌などの熱処理に用いられており、例えば、電子部品、鋳物、セラミック、食品、化学合成物などの処理物1を、コンベア11により前面から後面に開口して搬送処理することが可能なコンベア式の処理槽10を備え、この処理槽10内に処理物1をコンベア11で搬入して上下面のいずれか一方或いは両方(図1では両方)から導波管16を介してマイクロ波発生器(図2参照)を備えた第1照射手段12によりマイクロ波を発生させて導入及び照射することで乾燥または温度を上げるように設けている。また、この第1実施形態は、図10に示した従来技術とは異なり、処理槽10にマイクロ波を上下面の両方から照射する第1照射手段12に加えて処理物1の左右どちらか一方或いは両方(図1では両方)の側面からも照射可能な第2照射手段13を備えている。即ち、第1実施形態では、処理槽10内の処理物1に上下面からマイクロ波を照射する第1照射手段12のみならず、左右両側面からもマイクロ波を照射できる第2照射手段13を設けることで、処理物1を全体的に均一に加熱または乾燥でき、処理後の処理物1における乾燥ムラまたは加熱ムラを確実に防いで処理可能にしたものである。
【0014】
ここで、処理槽10は、処理物1を搬送する前後方向に開口(貫通)して上下左右を囲む周壁を備え、この周壁の上下左右各面に第1照射手段12及び第2照射手段13を各々設置するとともに、開口した前後方向に所定の間隔で複数のローラを配列させて回転可能に支持したコンベア11を配置している。この際、処理槽10では、第1照射手段12による下方向からの照射において、コンベア11が処理物1の底面を遮断しないように複数設けたローラ間の隙間を介してマイクロ波を照射できるように設けている。また、この処理槽10内では、上下左右の4面に第1照射手段12及び第2照射手段13を各々設置する実施例を説明したが、これに限定されるものではなく、上下いずれか1面、或いは左右いずれか1面のみの照射に適宜削減することも可能である。例えば、下面からの第1照射手段12を削減した場合、搬送する処理物1の底面を遮断してもよくなり、図1に示したローラ式では無くベルト式のコンベア(図示せず)を採用することも可能になる。
【0015】
また、第1照射手段12及び第2照射手段13は、図1に示したように、処理槽10の外周面に垂直な導波管16を介して上下左右方向から各々接続してこの各方向にそれぞれ、マイクロ波を発生させるマイクロ波発生器12a、13aを備えるとともに、図11に示した従来技術とは異なり導波管16から反射する電力を吸収してマイクロ波発振器12a、13aを保護するアイソレータ12b、13bと、処理槽10のインピーダンス整合をとりマイクロ波電力を有効利用する整合器12c、13cとを各々備えている。より詳しく説明すると、本実施の形態では、民生用のような水分を含む処理物(食品)にマイクロ波を照射する調理ではなく、電子部品、鋳物、セラミックなどの水分を含まない処理物1にマイクロ波を照射するため、この水分を含まない処理物1はマイクロ波吸収率が低く反射して導波管16を介してマイクロ波発振器12a、13aまで達して破壊してしまう恐れがある。そこで、本実施の形態では、図10に示した従来技術とは異なり、第1照射手段12及び第2照射手段13に、導波管16から反射する電力を吸収してマイクロ波発振器12a、13aを保護するアイソレータ12b、13bを備えている。
【0016】
そして、この第1照射手段12及び第2照射手段13のマイクロ波発振器12a、13aには、導波管16を介して各方向から処理槽10にそれぞれ同時または別々にマイクロ波を照射可能に制御する制御手段19を接続している。この制御手段19には、処理槽10内でマイクロ波照射中の処理物1から放射される赤外線を検出して温度を測定するサーモパイル式またはサーミスタ式の赤外温度計18を少なくとも1つ以上(図2では2つ)設けて接続しており、この温度計18により測定した温度データ(信号)に応じてマイクロ波発生器12a、13aの出力を制御して処理物1の温度状態を監視できるように設けている。ここで、例えば、温度計18としてサーミスタ式赤外温度計を使う理由は、薄膜サーミスタのために検知した赤外線を電圧として出力できる(電圧から温度に換算し易い)ことや小型化が可能であり、受光部の面積をマイクロ波の波長よりも小型にすることで、マイクロ波の影響(電磁波ノイズ)を受け難くすることが可能だからである。また、処理槽10に温度計18を複数設置する理由としては、1つに比べて複数設置することで処理物1の温度をより正確に測定するためである。そして、この制御手段19には、処理槽10の温度計18に接続して処理物1の温度を計測した温度データ(アナログ信号)を受信及び処理する処理部19aと、このアナログ信号に基づいてマイクロ波発振器12a、13aのマイクロ波出力を調節して処理物1が所定の設定温度になるように制御する制御部19bとを各々備えて信号処理している。従って、第1の実施形態では、サーモパイル式またはサーミスタ式の赤外線温度計18を複数設置して処理物1の温度を正確に計測し、この温度データに基づいて制御手段19によりマイクロ波発振器12a、13aの出力を制御して処理物1の温度調整を可能にするため、処理物1の乾燥及び加熱ムラを確実に防ぐことができる。
【0017】
このように形成された本発明によるマイクロ波照射処理装置の第1実施形態を用いて乾燥または加熱する場合、図1に示したように、コンベア11により自動的に複数の処理物1を処理槽10内に順次搬送することで、上下左右の4方向からマイクロ波を照射して乾燥または加熱などの熱処理を実行する。この際、処理槽10では、図1に示した温度計18が予め動作するように制御手段19を駆動させるとともに、この制御手段19の制御部19bにより第1照射手段12及び第2照射手段13のマイクロ波発振器12a、13aを制御して各方向から同時または個別のどちらかで照射するかを設定する。その後、処理物1がコンベア11により処理槽10内に搬送されると、温度計18により処理物1の温度を自動的に監視するとともに、この監視した温度に応じてマイクロ波発振器12a、13aが駆動して処理物1の上下部のみではなく側面からも同時または個別にマイクロ波を照射する。この照射中には、温度計18により常に処理物1の温度を監視しているため、例えば、処理物1の温度が低下した場合、制御手段19の処理部19aが温度データを受信して制御部19bに送信することで、この制御部19bがマイクロ波発振器12a、13aの照射量を調整して所望の温度に調整する。これにより処理槽10内では、マイクロ波の照射方向を処理物1の上部と下部のみではなく側面からも同時または個別に照射することが可能になるため、図10に示した従来技術に比べて処理後の処理物1の乾燥ムラ、加熱ムラを確実に防ぐことができる。
【0018】
ここで、本実施の形態と従来技術との加熱または乾燥効果における差異を、より詳しく説明するため、図2を参照して具体的に対比する。本出願人は、上述した実施の形態に基づき、その効果を電磁界強度解析ソフト:HFSS(米国:ANSOFT社)を用いて確認した。図2(a)には上面の第1照射手段12のみにより照射した従来技術を、図3(b)には上面の第1照射手段12及び左右側面の第2照射手段13から同時に照射した本実施の形態を各々示している。尚、図3(a)に示した解析モデルには、左右両側面の第2照射手段のマイクロ波導入口が見えるが、この解析では側面の照射口による照射はしていない。上面の第1照射手段12からのみ照射している。また、図3(b)に示した本実施の形態では、前述した第1の実施形態とは異なり、左右両側面の第2照射手段13におけるマイクロ波導入口は互いに干渉を裂ける為に90°向きを変えている。また、解析条件として、図3(a)及び図3(b)に示した処理槽10の大きさをW700×H880×L1000mmとし、処理物1の大きさをφ300×H380mmとするとともに、誘電率を15tanδ0.001とすることで解析した。
【0019】
このような条件下による解析結果としては、まず、図3(a)に示した従来技術(上面照射のみ)において、図示した表示では判別し難いが(原図はカラー)、電磁界の強度が低い(温度が低い)ほど青く分布が表示され、高い(温度が高い)ほど赤く表示されており、この上面のみの照射による従来技術では電磁界強度が低く、且つ、処理物1の下部では電磁界分布が良くないことが判別できた。
一方、図3(b)に示した本実施の形態(上面及び両側面照射)における解析結果では、上面及び左右両側面からの照射により電磁界強度と処理物1の温度とが全体的に均一で高く、且つ、処理物1の下部でも電磁界分布が良いことが判別できた。
【0020】
以上のように、通常マイクロ波照射処理装置は、従来技術のように処理物1の上面のみにマイクロ波を照射する方式では処理物1を誘電加熱するには不十分であり、本実施の形態のように処理物1の側面から照射することが最も有効になることが分かる。尚、この従来技術において、処理物1の上面に加えて下面からもマイクロ波を照射する方式も検討したが、解析の結果、処理物1の側面部で加熱が不十分になることが分かった。
従って、一搬的に電磁界強度の高い部分にマイクロ波のエネルギ−が集中して処理物1の誘電加熱が起こるため、本実施形態のように上下面に加えて左右側面の四方向から照射して処理物1全体における電磁界分布を一様にするほど、均一な加熱がなされ、ムラの無い乾燥または加熱が可能になるということが確認できた。
【0021】
ところで、図1に示したマイクロ波照射処理装置の第1実施形態において、導波管16をホーン型に形成することで処理物1全体に照射するマイクロ波の電磁場をより均一に供給することが可能になる。このようにホーン型に形成した導波管の他の実施例は、図3に示すように、処理槽10に第1照射手段12による上下方向と第2照射手段13による左右方向との四方向からコンベア11により搬送した処理物1に向かってマイクロ波を導入する際、テーパを有して徐々に広がるホーン型に形成した照射口16aを各々設け、この照射口16aを処理槽10の外部から内部に至るまでの間で広がるように延在させて設けている。このホーン型の導波管16は、図4に示すように、照射口16aが処理槽10の外側でホーン型に広がり始めて上下左右の周壁を貫通し、さらに処理槽10内でホーン型の照射口16aが、コンベア11により搬送する処理物1の近傍まで近接して周囲を囲むように延在している。
【0022】
この際、導波管16は、照射口16aのホーン型に広がって延在する図4に示したテーパ長Bをマイクロ波の波長の長さに設けている。この波長の長さは、例えば、マイクロ波の周波数が2450Mhzであれば、図4に示したテーパ長Bを122mmとすることで、処理物1全体に照射するマイクロ波の電磁場を均一に供給でき、処理物1の均一な乾燥及び加熱が可能となり、ひいては乾燥ムラ、加熱ムラを防ぐことが可能となる。また、導波管16は、図4に示したようにホーン型の照射口16aを処理槽10の外部から広がり周壁を貫通して内部まで延在させることに限定するものではなく、例えば、図5(a)に示すように、処理槽10の内部にホーン型に広がる照射口16aを内在することも可能である。このように処理槽10内に内在した照射口16aによると、処理物1の周囲に近づけてより近接させることが可能になるため、処理物1に照射したマイクロ波の電磁場が全体的に供給され、均一な乾燥及び加熱が可能となる。一方、これとは異なり、処理槽10の外側にホーン型の照射口16aを設けることも可能である。この処理槽10の外側に設けた照射口16aは、図5(b)に示すように、処理槽10の外側上下左右の周壁にホーン型に広がる端部を直接接続させて設けている。従って、このような照射口16aによると、処理槽10の外側に延在させて内在しないため、処理槽10全体の構造が簡単になり処理槽10内部の小型化を容易にでき装置全体の製造コストも低減できる。
【0023】
ここで、導波管16にホーン型の照射口16aを設ける有無によって生ずる加熱効果における差異をより詳しく説明するため、図6を参照して具体的に対比する。尚、図6に示した解析結果は、前述した電磁界強度解析ソフトにより解析しており、図6(a)にマイクロ波を処理槽10の側壁面に対して垂直方向からストレートに導く導波管を用いた場合を、図6(b)に処理槽10内でホ−ン型に広がる導波管を用いた場合を各々示し、それぞれ電磁界の強度分布を解析表示したものである。この際、解析条件として、マイクロ波の周波数が2450KHzであるのに対し、図6(b)に示したホ−ン型導波管のテ−パ長(図4に示したテーパ長B)を、波長の長さに対応させて122mmとしている。
【0024】
このような条件下でマイクロ波を照射した場合、まず、図6(a)に示すストレート型の導波管では、マイクロ波を処理槽10の側面から導入して中央付近で、電磁界の強度が徐々に弱くなり領域分布が減少していることが確認できる。これは処理物の加熱または乾燥処理において、前述した電磁界強度の領域分布が減少する部分、即ちマイクロ波を照射した前方側にムラが多く発生してしまうことを示している。
一方、ホ−ン型に広がる導波管の他の実施例では、図6(b)に示すようにホ−ン型の方が、図6(a)に示したストレート型の導波管に比べて、全体的な電磁界強度が高くその領域も処理槽10内にほぼ均一に広く分布していることが確認できる。これは処理物の加熱または乾燥処理において、電磁界強度の領域分布が均一であり、ムラの無い処理が可能であることを示している。
このようにホーン型に形成した導波管の他の実施例によると、図1に示したストレート型の導波管に比べて、処理槽10内でマイクロ波を均一に照射して処理物1をムラなく乾燥または加熱処理することが可能になる。
【0025】
以上、詳細に説明したように、本発明によるマイクロ波照射処理装置の第1実施形態によると、マイクロ波の照射を処理物1の上下面のみならず側面からも照射可能にしているため、処理物1全体における温度上昇及び処理物全体の温度分布にムラが無くなり、処理後の処理物1における乾燥ムラまたは加熱ムラを確実に防いで均一に処理することが可能となる。また、本実施の形態によると、図1に示したように、第1照射手段12及び第2照射手段13のマイクロ波発振器12a、13aが温度計18を有した制御手段19により制御されて処理物1の温度調整を行うため、処理物1の乾燥または加熱ムラを確実に防ぐことができる。また、本実施の形態によると、図3に示したように、導波管16にテーパ(ホーン)型の照射口16aを設けているため、処理槽10内でマイクロ波を均一に照射して処理物1をムラなく乾燥または加熱処理することが可能となる。
【0026】
ところで、本実施の形態は、図1に示した処理槽10の前面から後面にコンベア11を介在するコンベア式のマイクロ波照射処理装置に限定されるものではなく、例えば、処理物1を密閉された中空内に前面から出し入れして処理するバッチ式のマイクロ波照射処理装置に設けることも可能である。このバッチ式のマイクロ波照射処理装置では、図7乃至9に示したように、箱状で中空に形成して前面を開口したバッチ式の処理槽20を設け、この処理槽20の上下からマイクロ波を照射する第1照射手段12を備え、この第1照射手段12に加えて左右に第2照射手段13を設けた第2の実施形態(図7参照)、または第1照射手段12に加えて後部の第3照射手段14を設けた第3の実施形態(図8参照)、或いは第1照射手段12に加えて左右後部全ての壁面に第2照射手段13及び第3照射手段14を設けた第4の実施形態(図10参照)など種々の照射方法を選択できる。即ち、処理槽の前後方向を開口(貫通)したコンベア式の第1実施形態(図1参照)では側面のみに照射手段を設ける構造であるのに対し、バッチ式では処理槽20の左右と後の各壁面に照射手段を設けることができ、その組み合わせにより種々の照射方法が選択できる。尚、図7乃至9に示した第1照射手段12及び第2照射手段14は、図1に示した第1の実施形態と同様の構成要素であり、同じ構成要素には同一の符号を記載するとともに、重複する説明は省略する。
【実施例2】
【0027】
まず、本発明によるマイクロ波照射処理装置の第2実施形態は、図7に示すように、バッチ式の処理槽20で上下の第1照射手段12に加えて左右に第2照射手段13を設けた構造であり、処理物1を密閉された中空内に前面から出し入れして処理するバッチ式の処理槽20を備え、この処理槽20にマイクロ波を上下両方から照射可能な第1照射手段12を有し、この第1照射手段12に加えて処理物1の左右両方の側面から照射可能な第2照射手段14を備えている。ここで、処理槽20は、前面が開口しており、この開口した開口面を蓋部材(図示せず)により密閉して処理できるように設けている。また、処理槽20には、第1照射手段12の内部底面からマイクロ波を照射する際、この底面の照射口を処理物1が覆って塞がないように設置する置台22を設けている。ここで、第1照射手段12及び第2照射手段14は、処理槽20の上下または左右のように対向して一対に設ける必要はなく、左右のいずれか一方、または上下のいずれか一方だけ設けることも可能であり、例えば、第1照射手段12の下部を削減した場合、前述した置台22が不要になる。また、第1照射手段12及び第2照射手段14は、図1に示した第1の実施形態と同様に、処理槽20に導波管を介して接続し、マイクロ波発生器、アイソレータ、整合器を内臓して、制御手段により制御されて動作するように設けている。
このような本発明によるマイクロ波照射処理装置の第2の実施形態によると、処理槽20上下の第1照射手段12に加えて左右の第2照射手段14からもマイクロ波を照射できるため、第1の実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、加熱または乾燥処理時に処理槽20内を密閉することができるため、マイクロ波が槽外に放出せず、効果的に処理(照射)することが可能になる。
【実施例3】
【0028】
次に、本発明によるマイクロ波照射処理装置の第3実施形態は、図8に示すように、バッチ式の処理槽20で上下の第1照射手段12に加えて後面に第3照射手段14を設けた構造であり、処理物1を密閉された中空内に前面から出し入れして処理するバッチ式の処理槽20を備え、この処理槽20にマイクロ波を上下両方から照射可能な第1照射手段12を有し、この第1照射手段12に加えて処理物1を出し入れする前面と対向する後面から照射可能な第3照射手段14を備えている。ここで、処理槽20には、第2の実施形態と同様に、処理物1を設置する置台22を設けている。即ち、第3の実施形態は、第2の実施形態において処理槽20の左右両側からマイクロ波を照射する第2照射手段の代わりに、処理槽20の後部からマイクロ波を照射可能な第3照射手段14を設けたものであり、その他の構成は第2の実施形態と同様に形成している。
従って、本発明によるマイクロ波照射処理装置の第3の実施形態によると、処理槽20上下の第1照射手段12に加えて後面の第3照射手段14からもマイクロ波を照射できるため、第1の実施形態とほぼ同様の効果が得られるとともに、処理槽20の左右両側に第2照射手段を設けていないことで工場内に他の装置と並べて設置する際に少ない設置面積で設置することができる。
【実施例4】
【0029】
さらに、本発明によるマイクロ波照射処理装置の第4実施形態は、図9に示すように、バッチ式の処理槽20で上下の第1照射手段12に加えて左右後面の壁面全てに第2照射手段13及び第3照射手段14を設けた構造であり、処理物1を密閉された中空内に前面から出し入れして処理するバッチ式の処理槽20を備え、この処理槽20にマイクロ波を上下両方から照射可能な第1照射手段12を有し、この第1照射手段12に加えて処理物1の左右両側面から照射可能な第2照射手段13と、処理物1を出し入れする前面と対向する後面から照射可能な第3照射手段14との両方を備えている。即ち、第4実施形態は、処理槽20上下の第1照射手段12に加え、第2実施形態での第2照射手段13と、第3実施形態での第3照射手段14との両方を全て取り付けた構造であって、処理物1を出し入れする前面以外の全ての壁面からマイクロ波を照射可能にしており、その他の構成は第2及び第3の実施形態と同様に形成している。
従って、本発明によるマイクロ波照射処理装置の第4の実施形態によると、処理槽20上下の第1照射手段12に加えて左右後面の第2照射手段13及び第3照射手段14からもマイクロ波を照射できるため、第1の実施形態と同様の効果が得られるとともに、この第1照射手段12に加えて第2照射手段13及び第3照射手段14を備えて上下左右後面の全ての壁面から照射することにより、第1〜第3の実施形態に比べてより効果的に種々の角度からマイクロ波を照射することができる。
【0030】
以上、本発明によるマイクロ波照射処理装置の実施の形態を詳細に説明したが、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、図4に示した導波管に傾斜したホーン型の照射口を設けたコンベア式の第1実施形態を詳細に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、図7乃至9に示したバッチ式の第2、第3、及び第4の実施形態にも傾斜したホーン型の照射口を各々設けることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明によるマイクロ波照射処理装置の第1実施形態を示す構成図。(実施例1)
【図2】図1に示した第1実施形態と従来技術とによる加熱状態の対比を示す図。
【図3】図1に示した導波管の他の実施例を示す図。
【図4】図3に示した矢印A方向から見た内部構造を示す図。
【図5】図4に示した照射口の他の実施例を示す図。
【図6】図3に示したホーン型の照射口の有無による加熱状態の対比を示す図。
【図7】本発明によるマイクロ波照射処理装置の第2実施形態を示す構成図。(実施例2)
【図8】本発明によるマイクロ波照射処理装置の第3実施形態を示す構成図。(実施例3)
【図9】本発明によるマイクロ波照射処理装置の第4実施形態を示す構成図。(実施例4)
【図10】従来のマイクロ波照射処理装置の一実施形態を示す構成図。
【符号の説明】
【0032】
1 処理物
10 処理槽
11 コンベア
12 第1照射手段
12a マイクロ波発生器
12b アイソレータ
12c 整合器
13 第2照射手段
13a マイクロ波発生器
13b アイソレータ
13c 整合器
16 導波管
18 温度計
19 制御手段
19a 処理部
19b 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽内に処理物を搬入して上下面のいずれか一方或いは両方から導波管を介してマイクロ波発生器で発生させたマイクロ波を導入及び照射して乾燥または温度を上げるマイクロ波照射処理装置において、
前記処理物を前面から後面に搬送して処理するコンベア式の処理槽を備え、この処理槽にマイクロ波を前記上下面いずれか一方或いは両方から照射可能な第1照射手段と、この第1照射手段に加えて前記処理物の左右どちらか一方或いは両方の側面からも照射可能な第2照射手段とを備えたことを特徴とするマイクロ波照射処理装置。
【請求項2】
処理槽内に処理物を搬入して上下面のいずれか一方或いは両方から導波管を介してマイクロ波発生器で発生させたマイクロ波を導入及び照射して乾燥または温度を上げるマイクロ波照射処理装置において、
前記処理物を密閉された中空内に前面から出し入れして処理するバッチ式の処理槽を備え、この処理槽にマイクロ波を前記上下面いずれか一方或いは両方から照射可能な第1照射手段を有し、この第1照射手段に加えて前記処理物の左右どちらか一方或いは両方の側面から照射可能な第2照射手段と、前記処理物を出し入れする前面と対向する後面から照射可能な第3照射手段とのいずれか一方または両方を備えたことを特徴とするマイクロ波照射処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマイクロ波照射処理装置において、
前記第1照射手段、第2照射手段、及び第3照射手段は、前記処理槽に導波管を介して各々接続されてこの各方向にそれぞれ、マイクロ波を発生させるマイクロ波発生器と、前記導波管から反射する電力を吸収して前記マイクロ波発振器を保護するアイソレータと、前記処理槽のインピーダンス整合をとりマイクロ波電力を有効利用する整合器とを各々備えたことを特徴とするマイクロ波照射処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロ波照射処理装置において、
前記マイクロ波発生器には、前記処理槽に前記導波管を介して各方向からそれぞれ同時または別々に前記マイクロ波を照射可能に制御する制御手段を接続していることを特徴とするマイクロ波照射処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載のマイクロ波照射処理装置において、
前記制御手段は、前記処理槽にマイクロ波照射中の前記処理物の温度を測定するサーモパイル式またはサーミスタ式の赤外温度計を少なくとも1つ以上設置して接続するとともに、この温度計の温度データに応じて前記マイクロ波発生器の出力を制御して前記処理物の温度状態を監視可能にすることを特徴とするマイクロ波照射処理装置。
【請求項6】
請求項3に記載のマイクロ波照射処理装置において、
前記導波管は、前記処理槽に各方向からマイクロ波を導入する際にテーパを有して徐々に広がるホーン型に形成した照射口を設け、この照射口が前記処理槽の外部から内部に至る間で広がるように延在したことを特徴とするマイクロ波照射処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載のマイクロ波照射処理装置において、
前記導波管は、前記ホーン型の照射口を前記処理槽内の処理物近傍まで近接するように延在したことを特徴とするマイクロ波照射処理装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載のマイクロ波照射処理装置において、
前記導波管は、前記ホーン型に広がって延長するテーパ長が前記マイクロ波の波長の長さに設けたことを特徴とするマイクロ波照射処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−12605(P2006−12605A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188139(P2004−188139)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【Fターム(参考)】