マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法
【課題】遮蔽体を利用して容易に膜厚分布の制御が可能なマグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法を提供する。
【解決手段】本発明のマグネトロンスパッタ装置は、基板保持部11と、基板保持部11に対向して設けられる板状のターゲット12の被スパッタ面12aの反対面に対向しつつ回転可能に設けられ、その回転中心C1に対して偏心した位置に中心C2を有する電子の周回軌道20を被スパッタ面12aの近傍に生じさせるマグネット13と、ターゲット12と基板10との間に設けられ、基板10側からターゲット12を見た平面視で電子の周回軌道20の一部を遮蔽しつつ電子の周回軌道20との相対位置は変えずに、マグネット13と同期して回転する遮蔽体14と、を備えている。
【解決手段】本発明のマグネトロンスパッタ装置は、基板保持部11と、基板保持部11に対向して設けられる板状のターゲット12の被スパッタ面12aの反対面に対向しつつ回転可能に設けられ、その回転中心C1に対して偏心した位置に中心C2を有する電子の周回軌道20を被スパッタ面12aの近傍に生じさせるマグネット13と、ターゲット12と基板10との間に設けられ、基板10側からターゲット12を見た平面視で電子の周回軌道20の一部を遮蔽しつつ電子の周回軌道20との相対位置は変えずに、マグネット13と同期して回転する遮蔽体14と、を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタ成膜における成膜レートの改善を図るものとしてマグネトロンスパッタ技術が広く利用されている。そのマグネトロンスパッタにおいて、例えば特許文献1には、マグネットプレートの中心を通る法線を軸にして、マグネットプレートと、遮蔽板を含むスパッタリングトラップとをターゲットに対して相対的に回転させながらスパッタリングを行うことが開示されている。
【特許文献1】特開2008−163384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1におけるスパッタリングトラップは、マグネットに対応した寸法の開口が設けられた遮蔽板を含んでおり、その開口は常にマグネットに対応した位置にある。そして、広角側に進行する反跳イオンや電子などの荷電粒子は遮蔽板によって遮られ、基板へ入射することはないとの開示があり、この特許文献1における遮蔽板の役割は、基板に到達させたくない粒子を遮ることにとどまり、基板上における成膜される部分の膜厚分布を遮蔽板によって積極的にコントロールするものではない。
【0004】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、遮蔽体を利用して容易に膜厚分布の制御が可能なマグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、基板を保持可能な基板保持部と、前記基板保持部に対向して設けられる板状のターゲットの被スパッタ面の反対面に対向しつつ回転可能に設けられ、その回転中心に対して偏心した位置に中心を有する電子の周回軌道を前記被スパッタ面の近傍に生じさせるマグネットと、前記ターゲットと前記基板との間に設けられ、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽しつつ前記電子の周回軌道との相対位置は変えずに、前記マグネットと同期して回転する遮蔽体と、を備えたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置が提供される。
また、本発明の他の一態様によれば、基板を保持可能な基板保持部と、前記基板保持部に対向して設けられる筒状のターゲットの中心軸のまわりに回転可能に前記ターゲットの内周側に設けられ、前記ターゲットの外周面の近傍に電子の周回軌道を生じさせるマグネットと、前記ターゲットと前記基板との間に設けられ、前記基板側から前記ターゲットの外周面を見た側面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽しつつ前記電子の周回との相対位置は変えずに、前記マグネットと同期して回転する遮蔽体と、を備えたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置が提供される。
また、本発明のさらに他の一態様によれば、基板を保持可能な基板保持部と、前記基板保持部に対向して設けられる板状のターゲットの被スパッタ面の反対面に対向しつつ直線移動可能に設けられ、前記被スパッタ面の近傍に電子の周回軌道を生じさせるマグネットと、前記ターゲットと前記基板との間に設けられ、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽しつつ前記電子の周回軌道との相対位置は変えずに、前記マグネットと同期して直線移動する遮蔽体と、を備えたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置が提供される。
また、本発明のさらに他の一態様によれば、板状のターゲットの被スパッタ面に基板を対向させ、前記ターゲットにおける前記被スパッタ面の反対面にマグネットを対向させて前記被スパッタ面の近傍に電子の周回軌道を生じさせ、前記ターゲットと前記基板との間に、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽する遮蔽体を設け、前記マグネットと前記遮蔽体とを、前記電子の周回軌道の中心に対して偏心した回転中心のまわりに同期させて回転させることで、前記遮蔽体を、前記電子の周回軌道の一部を遮蔽した状態のまま且つ前記電子の周回軌道に対する相対位置は変えずに回転させることを特徴とするマグネトロンスパッタ方法が提供される。
また、本発明のさらに他の一態様によれば、筒状のターゲットの外周面に基板を対向させ、前記筒状のターゲットの内周側に設けたマグネットによって前記ターゲットの外周面の近傍に電子の周回軌道を生じさせ、前記ターゲットと前記基板との間に、前記基板側から前記ターゲットの外周面を見た側面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽する遮蔽体を設け、前記マグネットと前記遮蔽体とを、前記ターゲットの中心軸のまわりに同期させて回転させることで、前記遮蔽体を、前記電子の周回軌道の一部を遮蔽した状態のまま且つ前記電子の周回軌道に対する相対位置は変えずに回転させることを特徴とするマグネトロンスパッタ方法が提供される。
また、本発明のさらに他の一態様によれば、板状のターゲットの被スパッタ面に基板を対向させ、前記ターゲットにおける前記被スパッタ面の反対面にマグネットを対向させて前記被スパッタ面の近傍に電子の周回軌道を生じさせ、前記ターゲットと前記基板との間に、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽する遮蔽体を設け、前記マグネットと前記遮蔽体とを同期させて直線移動させることで、前記遮蔽体を、前記電子の周回軌道の一部を遮蔽した状態のまま且つ前記電子の周回軌道に対する相対位置は変えずに直線移動させることを特徴とするマグネトロンスパッタ方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、遮蔽体を利用して容易に膜厚分布の制御が可能なマグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
【0008】
[第1実施形態]
本実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置は、ガス導入系を介して各種ガスを導入可能であり、また排気系を介して真空排気可能である処理室を有し、それらガス導入量と排気量の制御により、その処理室内を所望のガスによる所望の圧力下にすることが可能である。
【0009】
図1(b)に示すように、処理室50内には、基板10とターゲット12とが対向配置される。図1(a)は、図1(b)において基板10側から遮蔽体14及びターゲット12を平面視した図を示す。また、図2に、マグネット13とターゲット12との平面位置関係を示す。
【0010】
成膜対象物である基板10は、例えば、半導体ウェーハ、ディスク状記録媒体、磁気ディスク(ハードディスク)、ミラー、表示パネル、太陽電池パネルなどであり、例えば静電チャック機構を備えた基板保持部11上に保持される。
【0011】
ターゲット12は、基板10への成膜物質を含む材料から構成され例えば円形板状に形成されている。ターゲット12は、その被スパッタ面12aが基板10の被成膜面と対向した状態で、図示しないバッキングプレートに保持される。
【0012】
ターゲット12の被スパッタ面12aの反対面(裏面)側には、マグネット13がターゲット12の裏面に対向して設けられている。マグネット13は、図2に示すように、リング状の内側マグネット15と、その内側マグネット15を囲むように配置された同じくリング状の外側マグネット16とが、非磁性材料からなる保持部材71によって保持された構造を有する。
【0013】
マグネット13はターゲット12の中心C1を回転中心に回転可能に設けられている。図2に示すように、マグネット13の平面方向の中心(重心)C2は回転中心C1に対して偏心している。したがって、図1を参照して以下に説明するように、処理室50内にプラズマが生起された状態で、マグネット13からの磁界により、被スパッタ面12aの近傍には、ターゲット12の中心(マグネット13の回転中心)C1に対して偏心した位置に中心C2を有するレーストラック状の電子の周回軌道20が生じる。
【0014】
すなわち、マグネット13が発生する磁界によって図1(b)に示すようにターゲット12を貫く磁力線が形成され、これは内側マグネット15及び外側マグネット16の平面形状に合わせてレーストラック状の磁力線トンネルとなる。ターゲット12の被スパッタ面12aの近傍には、その被スパッタ面12aに対して略平行な磁界Bが生じ、その磁界中で電子は磁力線の周りを回転するLarmor運動をする。また、スパッタ成膜時には、ターゲット12側をカソード、基板10側をアノードとした電界が印加され、被スパッタ面12a近傍には電界Eも作用している。したがって、被スパッタ面12a近傍には互いに直交するEとBがあり、この直交するEとBの中で電子はLarmor運動を行いつつE×Bドリフト運動を行い、被スパッタ面12a近傍をレーストラック状に周回する。図1(a)に、その電子の周回軌道20を模式的に示す。
【0015】
これにより、電子が被スパッタ面12a近傍で周回軌道20に拘束されるため、その周回軌道20でイオン化が促進され、被スパッタ面12a近傍における高密度プラズマ状態を持続させ、スパッタレート(成膜レート)の向上が図れる。スパッタに実質寄与する十分な密度のプラズマは電子の周回軌道20およびその近傍でのみ生じ、したがって、被スパッタ面12aにおいては電子の周回軌道(高密度プラズマ領域)20に対向する部分で構成物質がスパッタされる(叩き出される)。
【0016】
スパッタ成膜時、マグネット13は回転するため、これに伴い電子の周回軌道20も回転する。ここで、図1(a)を参照して前述したように、電子周回軌道20の中心C2は回転中心(ターゲット12の中心)C1に対して偏心しているため、電子周回軌道20は被スパッタ面12aにおける同じ箇所に常時対向するのではなく、電子周回軌道20の回転に伴って、被スパッタ面12aに対する高密度プラズマ領域の対向位置が刻々と変化していく。
【0017】
図1(b)に示すように、ターゲット12と基板10との間には遮蔽体14が設けられている。基板10側からターゲット12を見た平面視で、図1(a)に示すように、遮蔽体14は基板10に対して電子周回軌道20の一部を遮蔽している。遮蔽体14は例えば扇状の板状に形成され、図1(a)に示す例では、ターゲット中心C1に対して電子周回軌道20の偏心方向とは反対側に広がって位置しており、その内周側の部分で電子周回軌道20における中心寄りの一部を遮蔽している。そして、電子周回軌道20の一部を遮蔽した遮蔽体14は、その状態のまま電子周回軌道20との相対位置は変えずにマグネット13と同期して、ターゲット中心C1のまわりに回転する。
【0018】
マグネット13と遮蔽体14との同期回転を実現する構成の一例を図1(b)に示す。この具体例では、マグネット13の回転軸17がターゲット12の中心を貫通して処理室50内に延在し、その回転軸17の下端部に遮蔽体14が取り付けられている。回転軸17は処理室50の外部で図示しない回転駆動機構に連結されている。マグネット13と遮蔽体14は、互いの位置関係(周方向、径方向および上下方向の位置関係)を変えずに、同期して(一体となって)回転される。
【0019】
あるいは、図10に示すように、遮蔽体14を、連結部材19を介して、基板保持部11の軸部11aのまわりに回転可能に設けてもよい。基板保持部11の軸部11aは、マグネット13の回転中心線上に位置している。基板保持部11は回転せず、静止しているその軸部11aのまわりに遮蔽体14が回転する。マグネット13の回転軸17はターゲット12を貫通せず、上方に延在して図示しない回転駆動機構と連結されている。遮蔽体14の連結部材は、マグネット13の回転駆動機構とは別に処理室50の外部に設けられた回転駆動機構に連結されている。この場合でも、マグネット13と遮蔽体14とは、それぞれの回転駆動機構の制御により同期して回転される。
【0020】
次に、本実施形態に係るマグネトロンスパッタ方法について説明する。
【0021】
処理室50内を所望のガスによる所望の圧力雰囲気にした状態で、ターゲット12側をカソード、基板10側をアノードとした放電を処理室20内に起こしてプラズマを生起し、これにより生じたイオンがターゲット12と基板10との間の電界によりターゲット12に向けて加速されてターゲット12の被スパッタ面12aに衝突することで、ターゲット材料の粒子がターゲット12からたたき出されて基板10の被成膜面に付着堆積する。このスパッタ成膜時、基板10およびターゲット12は回転せず、静止している。
【0022】
そして、本実施形態では、スパッタ成膜時、基板10からターゲット12を見た平面視で、遮蔽体14が電子周回軌道(高密度プラズマ領域)20の一部を遮蔽している。遮蔽体14はマグネット13との相対位置は変えずにマグネット13と同期して回転するため、遮蔽体14と電子周回軌道20との相対位置は回転中も変わらない。したがって、遮蔽体14は、回転中、電子周回軌道20における同じ部分を常に遮蔽している。
【0023】
マグネット13(電子周回軌道20)および遮蔽体14を、図1の状態から中心C1のまわりに180°回転した状態を、図3に示す。電子周回軌道20における遮蔽体14によって遮蔽された部分が、遮蔽体14及び電子周回軌道20の同期回転に伴って回転中心C1のまわりに描く移動軌跡を図3(a)において2点鎖線で模式的に示す。
【0024】
基板10とターゲット12との間における上記2点鎖線領域に対応する部分は常に遮蔽体14で遮蔽されているため、基板10において2点鎖線領域の下に位置する部分にはターゲット12から叩き出された粒子が到達し難く、その部分の成膜レートは他の部分に比べて相対的に低くなる。なお、基板10において2点鎖線領域の下に位置する部分にはまったくターゲット材粒子が飛来しないというわけではなく、2点鎖線領域以外の他の部分から斜め方向に飛来してくる粒子の到達は可能である。
【0025】
ここで、比較例として、マグネット13すなわち電子周回軌道20のみが回転し、遮蔽体14が回転しない場合を考えると、基板10において遮蔽体14の下に位置する部分での成膜レートが低くなる。すなわち、基板10の被成膜面において遮蔽体14に対向している周方向の一部分の膜厚が局所的に薄くなり、周方向に見て膜厚分布のばらつきが生じる。
【0026】
これに対して本実施形態では、遮蔽体14は電子周回軌道20の一部を遮蔽しつつ電子周回軌道20と同期して回転するため、前述した図3(a)における2点鎖線で示すように、ターゲット中心(回転中心)C1からある直径の部分が周方向の全周にわたって常に遮蔽された状態となる。遮蔽体14と電子周回軌道20とは、図1、3に示す相対位置関係のまま回転して周方向に移動していくため、電子周回軌道20において遮蔽体14で遮蔽されていない部分が遮蔽体14に重なることはなく、電子周回軌道20の遮蔽されていない部分の移動軌跡は全周にわたって基板10の被成膜面に対して露出された状態にある。したがって、本実施形態では、遮蔽体14の存在によって、周方向に膜厚ばらつきは生じない。
【0027】
径方向については、上記2点鎖線領域と、それ以外の領域とで成膜レートのばらつきが生じるが、例えばガス分布の条件などの他の要因で、元々径方向に膜厚のばらつきが生じる傾向がある場合には、膜厚が相対的に厚くなりがちな成膜レートが高い部分に対応する電子周回軌道20の一部を遮蔽することで、結果として、成膜レートの径方向のばらつきを補正して、径方向の膜厚分布の均一化を図ることができる。
【0028】
例えば、本実施形態を適用しない状態において基板中心付近の成膜レートが高くなりがちな場合には、図1、3に示すように、基板中心付近に対応する電子周回軌道20の一部を遮蔽することで基板中心付近の成膜レートを抑えて、結果として、径方向における膜厚分布の均一化を実現することが可能である。なお、膜厚の均一化を図る目的だけではなく、意図的に径方向で膜厚差を生じさせたい場合にも、本実施形態は適用可能である。
【0029】
遮蔽体14と電子周回軌道20との相対位置は変更可能であり、径方向のどの部分の成膜レートを抑えるかは、遮蔽体14によって電子周回軌道20のどの部分を遮蔽するかによって制御可能である。
【0030】
例えば、図4、およびその図4の状態から中心C1のまわりに遮蔽体14及び電子周回軌道20を180°回転させた図5に示すように、電子周回軌道20において、中心C1から比較的遠い外周側の部分が遮蔽されるように遮蔽体14の周方向位置を調整した場合には、基板外周側における成膜レートを比較的低く、それ以外の部分における成膜レートを比較的高くすることによる膜厚分布制御が可能となる。
【0031】
前述したように遮蔽体14がマグネット13の回転軸17に取り付けられた構成においては、その回転軸17を中心として遮蔽体14を周方向に移動させることで、簡単に遮蔽体14と電子周回軌道20との相対位置を変えることができる。
【0032】
また、図11に示すように、複数枚(図11では例えば2枚)の遮蔽体14を回転軸17に取り付け、それら遮蔽体14を回転軸17を中心として周方向に移動させることで相互の重なり面積を調整して、結果として複数枚の遮蔽体14全体の面積を可変して、電子周回軌道20における遮蔽部の面積の調整を行える。なお、電子周回軌道20における遮蔽する部分は1箇所に限らず、同時に複数箇所を部分的に遮蔽してもよい。電子周回軌道20における遮蔽する部分の位置、数、面積などは、どのような膜厚分布を得たいかに応じて適宜設定される。
【0033】
本実施形態によれば、マグネット13の設計変更、ガス分布制御などを行わずに、遮蔽体14と、電子周回軌道20すなわちマグネット13との周方向の相対位置の調整だけで容易に膜厚分布の制御を行える。また、マグネット13に対する遮蔽体14の相対位置を変更するにあたっては、例えば処理室外部からの電気的制御により遮蔽体14を回転軸17まわりに周方向移動させて、電子周回軌道20に対する周方向の位置を変えることも可能であり、その場合には、装置の停止や大気開放を必要とせずに、処理中にリアルタイムで膜厚分布の制御を行える。さらにその場合、処理中に膜厚を測定する膜厚測定機構を設け、その膜厚測定機構からの膜厚測定結果(信号)を、遮蔽体14の周方向位置を調整する機構にフィードバックさせて、処理中にリアルタイムで遮蔽体14の電子周回軌道20に対する相対位置を調整して、所望の膜厚分布に制御することも可能となる。
【0034】
[第2実施形態]
次に、図6は本発明の第2実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置における処理室内に設けられたターゲット31、基板34および遮蔽体32の配置関係を示す模式図である。
【0035】
本実施形態では、ターゲット31は円筒状に形成されている。このターゲット31の外周面が被スパッタ面となる。ターゲット31の周囲には基板保持部33が配置されている。基板34はその被成膜面をターゲット31の被スパッタ面(外周面)に対向させて基板保持部33に保持される。
【0036】
図8に示すように、円筒状のターゲット31の内側には、マグネット35と回転体36が設けられている。回転体36は、ターゲット31の中心軸Cのまわりに回転可能に設けられ、その回転体36の外周面にマグネット35が設けられている。回転体36の回転に伴って、マグネット35もターゲット31の中心軸Cのまわりに回転する。
【0037】
マグネット35の磁極は、ターゲット31の軸方向に延在し、ターゲット31の内周面に対向している。処理室内におけるターゲット31と基板34との間の放電空間にプラズマが生起された状態で、マグネット35からの磁界により、被スパッタ面であるターゲット31の外周面の近傍には、図6に示すようにターゲット31の軸方向に延在するレーストラック状の電子の周回軌道30が生じる。
【0038】
本実施形態においても、前述した実施形態と同様、ターゲット31の被スパッタ面近傍には互いに直交する電界Eと磁界Bがあり、この直交するEとBの中で電子は、Larmor運動を行いつつE×Bドリフト運動を行い、被スパッタ面近傍の電子周回軌道30をレーストラック状に周回する。
【0039】
電子が被スパッタ面近傍で周回軌道30に拘束されるため、その周回軌道30でイオン化が促進され、被スパッタ面近傍における高密度プラズマ状態を持続させ、スパッタに実質寄与する十分な密度のプラズマは電子の周回軌道30およびその近傍でのみ生じ、よって、被スパッタ面においては電子の周回軌道(高密度プラズマ領域)30に対向する部分で構成物質がスパッタされる。
【0040】
スパッタ成膜時、マグネット35はターゲット31の中心軸Cのまわりに回転するため、これに伴い電子の周回軌道30も回転する。
【0041】
ターゲット31の外周面(被スパッタ面)と基板34との間には遮蔽体32が設けられている。基板34側からターゲット31の外周面を見た側面視で、図6に示すように、遮蔽体32は電子周回軌道30の一部を遮蔽している。
【0042】
遮蔽体32において、ターゲット回転方向に見た一端部(図6において左端部)はターゲット軸方向の略中央に位置している。遮蔽体32は上記一端部から他端部にかけて、ターゲット軸方向に広がるように二股状に形成され、その二股に分かれた部分によって、図6に示す例では電子周回軌道30におけるターゲット軸方向の両端部付近が遮蔽されている。
【0043】
遮蔽体32は、処理室の外部に設けられた回転駆動機構と連結され、電子周回軌道30の一部を遮蔽した状態のまま電子周回軌道30との相対位置は変えずにマグネット35と同期して、ターゲット中心軸Cのまわりに回転する。すなわち、マグネット35と遮蔽体32は、互いの位置関係(周方向、径方向および上下方向の位置関係)を変えずに、同期して回転される。
【0044】
次に、本実施形態に係るマグネトロンスパッタ方法について説明する。
【0045】
処理室内を所望のガスによる所望の圧力雰囲気にした状態で、ターゲット31側をカソード、基板34側をアノードとした放電をそれら両者間に起こしてプラズマを生起し、これにより生じたイオンがターゲット31と基板34との間の電界によりターゲット31に向けて加速されてターゲット31の外周面(被スパッタ面)に衝突することで、ターゲット材料の粒子がターゲット31からたたき出されて基板34の被成膜面に付着堆積する。このスパッタ成膜時、基板34及びターゲット31は回転せず、静止している。
【0046】
そして、本実施形態では、スパッタ成膜時、遮蔽体32が電子周回軌道(高密度プラズマ領域)30の一部を遮蔽している。遮蔽体32はマグネット35との相対位置は変えずにマグネット35と同期して回転するため、遮蔽体32と電子周回軌道30との相対位置は回転中も変わらない。したがって、遮蔽体32は、回転中、電子周回軌道30における同じ部分を常に遮蔽している。
【0047】
したがって、基板34において、上記電子周回軌道30が常に遮蔽されている部分に対向する部分にはターゲット31から叩き出された粒子が到達し難く、その部分の成膜レートは他の部分に比べて相対的に低くなる。
【0048】
例えば、他の条件等によって基板34においてターゲット軸方向の両端部側の成膜レートが高くなりがちな場合には、図6に示すように、電子周回軌道30におけるターゲット軸方向の両端部付近を遮蔽することでターゲット軸方向両端部側の成膜レートを抑えて、結果として、基板34におけるターゲット軸方向の膜厚分布の均一化を実現することが可能である。なお、膜厚の均一化を図る目的だけではなく、意図的に軸方向で膜厚差を生じさせたい場合にも、本実施形態は適用可能である。
【0049】
本実施形態においても、遮蔽体32と、マグネット35すなわち電子周回軌道30との相対位置は変更可能であり、どの部分の成膜レートを抑えるかを、遮蔽体32によって電子周回軌道30のどの部分を遮蔽するかによって制御可能である。
【0050】
例えば、図7に示すように、電子周回軌道30において、ターゲット軸方向の中央付近が遮蔽されるように遮蔽体32の位置を調整した場合には、基板34におけるターゲット軸方向の中央付近の成膜レートを比較的低く、それ以外の部分の成膜レートを比較的高くすることによる膜厚分布制御が可能となる。
【0051】
本実施形態においても、マグネット35の設計変更、ガス分布制御などを行わずに、遮蔽体32と、電子周回軌道30すなわちマグネット35との周方向の相対位置の調整だけで容易に膜厚分布の制御を行える。
【0052】
[第3実施形態]
次に、図9(a)は、本発明の第3実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置におけるターゲット41とマグネット42との平面配置関係を示す模式図であり、図9(b)は、同マグネトロンスパッタ装置におけるターゲット41と電子周回軌道40と遮蔽体45との平面配置関係を示す模式図である。
【0053】
本実施形態では、ターゲット41は、例えば矩形の板状に形成されている。図9(b)はターゲット41の被スパッタ面41a側を示し、その被スパッタ面に対向して図示しない基板が処理室内に配置される。
【0054】
ターゲット41における被スパッタ面41aの反対面には、図9(a)に示すように、マグネット42が対向配置されている。マグネット42は、内側マグネット43と、その内側マグネット43の周囲を囲むように配置されたリング状の外側マグネット44とが、非磁性体によって保持された構造を有する。マグネット42は、静止しているターゲット41に対して直線移動可能に設けられている。
【0055】
処理室内におけるターゲット41と基板との間の放電空間にプラズマが生起された状態で、マグネット42からの磁界により、ターゲット41の被スパッタ面41aの近傍には、マグネット42の形状に合わせて、図9(b)に示すようなレーストラック状の電子の周回軌道40が生じる。
【0056】
本実施形態においても、前述した実施形態と同様、被スパッタ面41a近傍には互いに直交する電界Eと磁界Bがあり、この直交するEとBの中で電子は、Larmor運動を行いつつE×Bドリフト運動を行い、被スパッタ面41a近傍の電子周回軌道40をレーストラック状に周回する。
【0057】
スパッタ成膜時、マグネット42は、例えば矩形状のターゲット41の長手方向に直線移動するため、これに伴い電子周回軌道40もターゲット41の長手方向に直線移動する。
【0058】
ターゲット41の被スパッタ面41aと基板との間には、図9(b)に示すような遮蔽体45が設けられている。基板側からターゲット41の被スパッタ面41aを見た平面視で、図9(b)に示すように、遮蔽体45は電子周回軌道40の一部を遮蔽している。
【0059】
図9(b)に例示される遮蔽体45においては、マグネット移動方向に見た一端部(図9(b)において左端部)はターゲット短手方向の略中央に位置している。遮蔽体45は上記一端部から他端部にかけて、ターゲット短手方向に広がるように二股状に形成され、その二股に分かれた部分によって、図9(b)に示す例では電子周回軌道40におけるターゲット短手方向の両端部付近が遮蔽されている。
【0060】
遮蔽体45は、処理室の外部に設けられた駆動機構と連結され、電子周回軌道40の一部を遮蔽した状態のまま電子周回軌道40との相対位置は変えずにマグネット42と同期して、ターゲット長手方向に直線移動する。すなわち、マグネット42と遮蔽体45は、相対位置関係を変えずに、同期して直線移動される。
【0061】
次に、本実施形態に係るマグネトロンスパッタ方法について説明する。
【0062】
処理室内を所望のガスによる所望の圧力雰囲気にした状態で、ターゲット41側をカソード、基板側をアノードとした放電をそれら両者間に起こしてプラズマを生起し、これにより生じたイオンがターゲット41と基板との間の電界によりターゲット41に向けて加速されてターゲット41の被スパッタ面41aに衝突することで、ターゲット材料の粒子がターゲット41からたたき出されて基板の被成膜面に付着堆積する。このスパッタ成膜時、基板及びターゲット41は静止している。
【0063】
そして、本実施形態では、スパッタ成膜時、遮蔽体45が電子周回軌道(高密度プラズマ領域)40の一部を遮蔽している。遮蔽体45はマグネット42との相対位置は変えずにマグネット42と同期して直線移動するため、遮蔽体45と電子周回軌道40との相対位置は移動中も変わらない。したがって、遮蔽体45は、移動中、電子周回軌道40における同じ部分を常に遮蔽している。
【0064】
したがって、基板において、上記電子周回軌道40が常に遮蔽されている部分に対向する部分にはターゲット41から叩き出された粒子が到達し難く、その部分の成膜レートは他の部分に比べて相対的に低くなる。
【0065】
例えば、他の条件等によって基板においてターゲット短手方向の両端部側の成膜レートが高くなりがちな場合には、図9(b)に示すように、電子周回軌道40におけるターゲット短手方向の両端部付近を遮蔽することでターゲット短手方向両端部側の成膜レートを抑えて、結果として、基板におけるターゲット短手方向の膜厚分布の均一化を実現することが可能である。なお、膜厚の均一化を図る目的だけではなく、意図的に径方向で膜厚差を生じさせたい場合にも、本実施形態は適用可能である。
【0066】
本実施形態においても、遮蔽体45と、マグネット42すなわち電子周回軌道40との相対位置は変更可能であり、どの部分の成膜レートを抑えるかを、遮蔽体45によって電子周回軌道40のどの部分を遮蔽するかによって制御可能である。
【0067】
本実施形態においても、マグネット42の設計変更、ガス分布制御などを行わずに、遮蔽体45と、電子周回軌道40すなわちマグネット42との相対位置の調整だけで容易に膜厚分布の制御を行える。
【0068】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、それらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0069】
電子周回軌道の形状は、前述した実施形態のようにレーストラック状あるいは楕円状に限らず、マグネットの平面形状に応じて種々の形状が取り得る。また、遮蔽体の形状も、任意に選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置における主要要素の配置関係を示す模式図。
【図2】同マグネトロンスパッタ装置におけるマグネットとターゲットとの平面配置関係を示す模式図。
【図3】図1に示す状態から、遮蔽体及びマグネット(電子周回軌道)が回転中心C1のまわりに180°回転した状態を示す模式図。
【図4】遮蔽体とマグネット(電子周回軌道)との周方向の相対位置が図1とは異なる状態の図1と同様な模式図。
【図5】図4に示す状態から、遮蔽体及びマグネット(電子周回軌道)が回転中心C1のまわりに180°回転した状態を示す模式図。
【図6】本発明の第2実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置における主要要素の配置関係を示す模式図。
【図7】遮蔽体とマグネット(電子周回軌道)との周方向の相対位置が図6とは異なる状態の図1と同様な模式図。
【図8】同第2実施形態におけるマグネットとターゲットとの位置関係を示す模式図。
【図9】本発明の第3実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置における主要要素の配置関係を示す模式図。
【図10】第1実施形態において、マグネットと遮蔽体の回転駆動機構が別々である形態の一例を示す模式図。
【図11】第1実施形態において、遮蔽体の面積を可変する構成の一例を示す模式図。
【符号の説明】
【0071】
10,34…基板、11,33…基板保持部、12,31,41…ターゲット、12a…被スパッタ面、13,35,42…マグネット、14,32,45…遮蔽体、20,30,40…電子の周回軌道、50…処理室
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタ成膜における成膜レートの改善を図るものとしてマグネトロンスパッタ技術が広く利用されている。そのマグネトロンスパッタにおいて、例えば特許文献1には、マグネットプレートの中心を通る法線を軸にして、マグネットプレートと、遮蔽板を含むスパッタリングトラップとをターゲットに対して相対的に回転させながらスパッタリングを行うことが開示されている。
【特許文献1】特開2008−163384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1におけるスパッタリングトラップは、マグネットに対応した寸法の開口が設けられた遮蔽板を含んでおり、その開口は常にマグネットに対応した位置にある。そして、広角側に進行する反跳イオンや電子などの荷電粒子は遮蔽板によって遮られ、基板へ入射することはないとの開示があり、この特許文献1における遮蔽板の役割は、基板に到達させたくない粒子を遮ることにとどまり、基板上における成膜される部分の膜厚分布を遮蔽板によって積極的にコントロールするものではない。
【0004】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、遮蔽体を利用して容易に膜厚分布の制御が可能なマグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、基板を保持可能な基板保持部と、前記基板保持部に対向して設けられる板状のターゲットの被スパッタ面の反対面に対向しつつ回転可能に設けられ、その回転中心に対して偏心した位置に中心を有する電子の周回軌道を前記被スパッタ面の近傍に生じさせるマグネットと、前記ターゲットと前記基板との間に設けられ、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽しつつ前記電子の周回軌道との相対位置は変えずに、前記マグネットと同期して回転する遮蔽体と、を備えたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置が提供される。
また、本発明の他の一態様によれば、基板を保持可能な基板保持部と、前記基板保持部に対向して設けられる筒状のターゲットの中心軸のまわりに回転可能に前記ターゲットの内周側に設けられ、前記ターゲットの外周面の近傍に電子の周回軌道を生じさせるマグネットと、前記ターゲットと前記基板との間に設けられ、前記基板側から前記ターゲットの外周面を見た側面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽しつつ前記電子の周回との相対位置は変えずに、前記マグネットと同期して回転する遮蔽体と、を備えたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置が提供される。
また、本発明のさらに他の一態様によれば、基板を保持可能な基板保持部と、前記基板保持部に対向して設けられる板状のターゲットの被スパッタ面の反対面に対向しつつ直線移動可能に設けられ、前記被スパッタ面の近傍に電子の周回軌道を生じさせるマグネットと、前記ターゲットと前記基板との間に設けられ、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽しつつ前記電子の周回軌道との相対位置は変えずに、前記マグネットと同期して直線移動する遮蔽体と、を備えたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置が提供される。
また、本発明のさらに他の一態様によれば、板状のターゲットの被スパッタ面に基板を対向させ、前記ターゲットにおける前記被スパッタ面の反対面にマグネットを対向させて前記被スパッタ面の近傍に電子の周回軌道を生じさせ、前記ターゲットと前記基板との間に、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽する遮蔽体を設け、前記マグネットと前記遮蔽体とを、前記電子の周回軌道の中心に対して偏心した回転中心のまわりに同期させて回転させることで、前記遮蔽体を、前記電子の周回軌道の一部を遮蔽した状態のまま且つ前記電子の周回軌道に対する相対位置は変えずに回転させることを特徴とするマグネトロンスパッタ方法が提供される。
また、本発明のさらに他の一態様によれば、筒状のターゲットの外周面に基板を対向させ、前記筒状のターゲットの内周側に設けたマグネットによって前記ターゲットの外周面の近傍に電子の周回軌道を生じさせ、前記ターゲットと前記基板との間に、前記基板側から前記ターゲットの外周面を見た側面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽する遮蔽体を設け、前記マグネットと前記遮蔽体とを、前記ターゲットの中心軸のまわりに同期させて回転させることで、前記遮蔽体を、前記電子の周回軌道の一部を遮蔽した状態のまま且つ前記電子の周回軌道に対する相対位置は変えずに回転させることを特徴とするマグネトロンスパッタ方法が提供される。
また、本発明のさらに他の一態様によれば、板状のターゲットの被スパッタ面に基板を対向させ、前記ターゲットにおける前記被スパッタ面の反対面にマグネットを対向させて前記被スパッタ面の近傍に電子の周回軌道を生じさせ、前記ターゲットと前記基板との間に、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽する遮蔽体を設け、前記マグネットと前記遮蔽体とを同期させて直線移動させることで、前記遮蔽体を、前記電子の周回軌道の一部を遮蔽した状態のまま且つ前記電子の周回軌道に対する相対位置は変えずに直線移動させることを特徴とするマグネトロンスパッタ方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、遮蔽体を利用して容易に膜厚分布の制御が可能なマグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
【0008】
[第1実施形態]
本実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置は、ガス導入系を介して各種ガスを導入可能であり、また排気系を介して真空排気可能である処理室を有し、それらガス導入量と排気量の制御により、その処理室内を所望のガスによる所望の圧力下にすることが可能である。
【0009】
図1(b)に示すように、処理室50内には、基板10とターゲット12とが対向配置される。図1(a)は、図1(b)において基板10側から遮蔽体14及びターゲット12を平面視した図を示す。また、図2に、マグネット13とターゲット12との平面位置関係を示す。
【0010】
成膜対象物である基板10は、例えば、半導体ウェーハ、ディスク状記録媒体、磁気ディスク(ハードディスク)、ミラー、表示パネル、太陽電池パネルなどであり、例えば静電チャック機構を備えた基板保持部11上に保持される。
【0011】
ターゲット12は、基板10への成膜物質を含む材料から構成され例えば円形板状に形成されている。ターゲット12は、その被スパッタ面12aが基板10の被成膜面と対向した状態で、図示しないバッキングプレートに保持される。
【0012】
ターゲット12の被スパッタ面12aの反対面(裏面)側には、マグネット13がターゲット12の裏面に対向して設けられている。マグネット13は、図2に示すように、リング状の内側マグネット15と、その内側マグネット15を囲むように配置された同じくリング状の外側マグネット16とが、非磁性材料からなる保持部材71によって保持された構造を有する。
【0013】
マグネット13はターゲット12の中心C1を回転中心に回転可能に設けられている。図2に示すように、マグネット13の平面方向の中心(重心)C2は回転中心C1に対して偏心している。したがって、図1を参照して以下に説明するように、処理室50内にプラズマが生起された状態で、マグネット13からの磁界により、被スパッタ面12aの近傍には、ターゲット12の中心(マグネット13の回転中心)C1に対して偏心した位置に中心C2を有するレーストラック状の電子の周回軌道20が生じる。
【0014】
すなわち、マグネット13が発生する磁界によって図1(b)に示すようにターゲット12を貫く磁力線が形成され、これは内側マグネット15及び外側マグネット16の平面形状に合わせてレーストラック状の磁力線トンネルとなる。ターゲット12の被スパッタ面12aの近傍には、その被スパッタ面12aに対して略平行な磁界Bが生じ、その磁界中で電子は磁力線の周りを回転するLarmor運動をする。また、スパッタ成膜時には、ターゲット12側をカソード、基板10側をアノードとした電界が印加され、被スパッタ面12a近傍には電界Eも作用している。したがって、被スパッタ面12a近傍には互いに直交するEとBがあり、この直交するEとBの中で電子はLarmor運動を行いつつE×Bドリフト運動を行い、被スパッタ面12a近傍をレーストラック状に周回する。図1(a)に、その電子の周回軌道20を模式的に示す。
【0015】
これにより、電子が被スパッタ面12a近傍で周回軌道20に拘束されるため、その周回軌道20でイオン化が促進され、被スパッタ面12a近傍における高密度プラズマ状態を持続させ、スパッタレート(成膜レート)の向上が図れる。スパッタに実質寄与する十分な密度のプラズマは電子の周回軌道20およびその近傍でのみ生じ、したがって、被スパッタ面12aにおいては電子の周回軌道(高密度プラズマ領域)20に対向する部分で構成物質がスパッタされる(叩き出される)。
【0016】
スパッタ成膜時、マグネット13は回転するため、これに伴い電子の周回軌道20も回転する。ここで、図1(a)を参照して前述したように、電子周回軌道20の中心C2は回転中心(ターゲット12の中心)C1に対して偏心しているため、電子周回軌道20は被スパッタ面12aにおける同じ箇所に常時対向するのではなく、電子周回軌道20の回転に伴って、被スパッタ面12aに対する高密度プラズマ領域の対向位置が刻々と変化していく。
【0017】
図1(b)に示すように、ターゲット12と基板10との間には遮蔽体14が設けられている。基板10側からターゲット12を見た平面視で、図1(a)に示すように、遮蔽体14は基板10に対して電子周回軌道20の一部を遮蔽している。遮蔽体14は例えば扇状の板状に形成され、図1(a)に示す例では、ターゲット中心C1に対して電子周回軌道20の偏心方向とは反対側に広がって位置しており、その内周側の部分で電子周回軌道20における中心寄りの一部を遮蔽している。そして、電子周回軌道20の一部を遮蔽した遮蔽体14は、その状態のまま電子周回軌道20との相対位置は変えずにマグネット13と同期して、ターゲット中心C1のまわりに回転する。
【0018】
マグネット13と遮蔽体14との同期回転を実現する構成の一例を図1(b)に示す。この具体例では、マグネット13の回転軸17がターゲット12の中心を貫通して処理室50内に延在し、その回転軸17の下端部に遮蔽体14が取り付けられている。回転軸17は処理室50の外部で図示しない回転駆動機構に連結されている。マグネット13と遮蔽体14は、互いの位置関係(周方向、径方向および上下方向の位置関係)を変えずに、同期して(一体となって)回転される。
【0019】
あるいは、図10に示すように、遮蔽体14を、連結部材19を介して、基板保持部11の軸部11aのまわりに回転可能に設けてもよい。基板保持部11の軸部11aは、マグネット13の回転中心線上に位置している。基板保持部11は回転せず、静止しているその軸部11aのまわりに遮蔽体14が回転する。マグネット13の回転軸17はターゲット12を貫通せず、上方に延在して図示しない回転駆動機構と連結されている。遮蔽体14の連結部材は、マグネット13の回転駆動機構とは別に処理室50の外部に設けられた回転駆動機構に連結されている。この場合でも、マグネット13と遮蔽体14とは、それぞれの回転駆動機構の制御により同期して回転される。
【0020】
次に、本実施形態に係るマグネトロンスパッタ方法について説明する。
【0021】
処理室50内を所望のガスによる所望の圧力雰囲気にした状態で、ターゲット12側をカソード、基板10側をアノードとした放電を処理室20内に起こしてプラズマを生起し、これにより生じたイオンがターゲット12と基板10との間の電界によりターゲット12に向けて加速されてターゲット12の被スパッタ面12aに衝突することで、ターゲット材料の粒子がターゲット12からたたき出されて基板10の被成膜面に付着堆積する。このスパッタ成膜時、基板10およびターゲット12は回転せず、静止している。
【0022】
そして、本実施形態では、スパッタ成膜時、基板10からターゲット12を見た平面視で、遮蔽体14が電子周回軌道(高密度プラズマ領域)20の一部を遮蔽している。遮蔽体14はマグネット13との相対位置は変えずにマグネット13と同期して回転するため、遮蔽体14と電子周回軌道20との相対位置は回転中も変わらない。したがって、遮蔽体14は、回転中、電子周回軌道20における同じ部分を常に遮蔽している。
【0023】
マグネット13(電子周回軌道20)および遮蔽体14を、図1の状態から中心C1のまわりに180°回転した状態を、図3に示す。電子周回軌道20における遮蔽体14によって遮蔽された部分が、遮蔽体14及び電子周回軌道20の同期回転に伴って回転中心C1のまわりに描く移動軌跡を図3(a)において2点鎖線で模式的に示す。
【0024】
基板10とターゲット12との間における上記2点鎖線領域に対応する部分は常に遮蔽体14で遮蔽されているため、基板10において2点鎖線領域の下に位置する部分にはターゲット12から叩き出された粒子が到達し難く、その部分の成膜レートは他の部分に比べて相対的に低くなる。なお、基板10において2点鎖線領域の下に位置する部分にはまったくターゲット材粒子が飛来しないというわけではなく、2点鎖線領域以外の他の部分から斜め方向に飛来してくる粒子の到達は可能である。
【0025】
ここで、比較例として、マグネット13すなわち電子周回軌道20のみが回転し、遮蔽体14が回転しない場合を考えると、基板10において遮蔽体14の下に位置する部分での成膜レートが低くなる。すなわち、基板10の被成膜面において遮蔽体14に対向している周方向の一部分の膜厚が局所的に薄くなり、周方向に見て膜厚分布のばらつきが生じる。
【0026】
これに対して本実施形態では、遮蔽体14は電子周回軌道20の一部を遮蔽しつつ電子周回軌道20と同期して回転するため、前述した図3(a)における2点鎖線で示すように、ターゲット中心(回転中心)C1からある直径の部分が周方向の全周にわたって常に遮蔽された状態となる。遮蔽体14と電子周回軌道20とは、図1、3に示す相対位置関係のまま回転して周方向に移動していくため、電子周回軌道20において遮蔽体14で遮蔽されていない部分が遮蔽体14に重なることはなく、電子周回軌道20の遮蔽されていない部分の移動軌跡は全周にわたって基板10の被成膜面に対して露出された状態にある。したがって、本実施形態では、遮蔽体14の存在によって、周方向に膜厚ばらつきは生じない。
【0027】
径方向については、上記2点鎖線領域と、それ以外の領域とで成膜レートのばらつきが生じるが、例えばガス分布の条件などの他の要因で、元々径方向に膜厚のばらつきが生じる傾向がある場合には、膜厚が相対的に厚くなりがちな成膜レートが高い部分に対応する電子周回軌道20の一部を遮蔽することで、結果として、成膜レートの径方向のばらつきを補正して、径方向の膜厚分布の均一化を図ることができる。
【0028】
例えば、本実施形態を適用しない状態において基板中心付近の成膜レートが高くなりがちな場合には、図1、3に示すように、基板中心付近に対応する電子周回軌道20の一部を遮蔽することで基板中心付近の成膜レートを抑えて、結果として、径方向における膜厚分布の均一化を実現することが可能である。なお、膜厚の均一化を図る目的だけではなく、意図的に径方向で膜厚差を生じさせたい場合にも、本実施形態は適用可能である。
【0029】
遮蔽体14と電子周回軌道20との相対位置は変更可能であり、径方向のどの部分の成膜レートを抑えるかは、遮蔽体14によって電子周回軌道20のどの部分を遮蔽するかによって制御可能である。
【0030】
例えば、図4、およびその図4の状態から中心C1のまわりに遮蔽体14及び電子周回軌道20を180°回転させた図5に示すように、電子周回軌道20において、中心C1から比較的遠い外周側の部分が遮蔽されるように遮蔽体14の周方向位置を調整した場合には、基板外周側における成膜レートを比較的低く、それ以外の部分における成膜レートを比較的高くすることによる膜厚分布制御が可能となる。
【0031】
前述したように遮蔽体14がマグネット13の回転軸17に取り付けられた構成においては、その回転軸17を中心として遮蔽体14を周方向に移動させることで、簡単に遮蔽体14と電子周回軌道20との相対位置を変えることができる。
【0032】
また、図11に示すように、複数枚(図11では例えば2枚)の遮蔽体14を回転軸17に取り付け、それら遮蔽体14を回転軸17を中心として周方向に移動させることで相互の重なり面積を調整して、結果として複数枚の遮蔽体14全体の面積を可変して、電子周回軌道20における遮蔽部の面積の調整を行える。なお、電子周回軌道20における遮蔽する部分は1箇所に限らず、同時に複数箇所を部分的に遮蔽してもよい。電子周回軌道20における遮蔽する部分の位置、数、面積などは、どのような膜厚分布を得たいかに応じて適宜設定される。
【0033】
本実施形態によれば、マグネット13の設計変更、ガス分布制御などを行わずに、遮蔽体14と、電子周回軌道20すなわちマグネット13との周方向の相対位置の調整だけで容易に膜厚分布の制御を行える。また、マグネット13に対する遮蔽体14の相対位置を変更するにあたっては、例えば処理室外部からの電気的制御により遮蔽体14を回転軸17まわりに周方向移動させて、電子周回軌道20に対する周方向の位置を変えることも可能であり、その場合には、装置の停止や大気開放を必要とせずに、処理中にリアルタイムで膜厚分布の制御を行える。さらにその場合、処理中に膜厚を測定する膜厚測定機構を設け、その膜厚測定機構からの膜厚測定結果(信号)を、遮蔽体14の周方向位置を調整する機構にフィードバックさせて、処理中にリアルタイムで遮蔽体14の電子周回軌道20に対する相対位置を調整して、所望の膜厚分布に制御することも可能となる。
【0034】
[第2実施形態]
次に、図6は本発明の第2実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置における処理室内に設けられたターゲット31、基板34および遮蔽体32の配置関係を示す模式図である。
【0035】
本実施形態では、ターゲット31は円筒状に形成されている。このターゲット31の外周面が被スパッタ面となる。ターゲット31の周囲には基板保持部33が配置されている。基板34はその被成膜面をターゲット31の被スパッタ面(外周面)に対向させて基板保持部33に保持される。
【0036】
図8に示すように、円筒状のターゲット31の内側には、マグネット35と回転体36が設けられている。回転体36は、ターゲット31の中心軸Cのまわりに回転可能に設けられ、その回転体36の外周面にマグネット35が設けられている。回転体36の回転に伴って、マグネット35もターゲット31の中心軸Cのまわりに回転する。
【0037】
マグネット35の磁極は、ターゲット31の軸方向に延在し、ターゲット31の内周面に対向している。処理室内におけるターゲット31と基板34との間の放電空間にプラズマが生起された状態で、マグネット35からの磁界により、被スパッタ面であるターゲット31の外周面の近傍には、図6に示すようにターゲット31の軸方向に延在するレーストラック状の電子の周回軌道30が生じる。
【0038】
本実施形態においても、前述した実施形態と同様、ターゲット31の被スパッタ面近傍には互いに直交する電界Eと磁界Bがあり、この直交するEとBの中で電子は、Larmor運動を行いつつE×Bドリフト運動を行い、被スパッタ面近傍の電子周回軌道30をレーストラック状に周回する。
【0039】
電子が被スパッタ面近傍で周回軌道30に拘束されるため、その周回軌道30でイオン化が促進され、被スパッタ面近傍における高密度プラズマ状態を持続させ、スパッタに実質寄与する十分な密度のプラズマは電子の周回軌道30およびその近傍でのみ生じ、よって、被スパッタ面においては電子の周回軌道(高密度プラズマ領域)30に対向する部分で構成物質がスパッタされる。
【0040】
スパッタ成膜時、マグネット35はターゲット31の中心軸Cのまわりに回転するため、これに伴い電子の周回軌道30も回転する。
【0041】
ターゲット31の外周面(被スパッタ面)と基板34との間には遮蔽体32が設けられている。基板34側からターゲット31の外周面を見た側面視で、図6に示すように、遮蔽体32は電子周回軌道30の一部を遮蔽している。
【0042】
遮蔽体32において、ターゲット回転方向に見た一端部(図6において左端部)はターゲット軸方向の略中央に位置している。遮蔽体32は上記一端部から他端部にかけて、ターゲット軸方向に広がるように二股状に形成され、その二股に分かれた部分によって、図6に示す例では電子周回軌道30におけるターゲット軸方向の両端部付近が遮蔽されている。
【0043】
遮蔽体32は、処理室の外部に設けられた回転駆動機構と連結され、電子周回軌道30の一部を遮蔽した状態のまま電子周回軌道30との相対位置は変えずにマグネット35と同期して、ターゲット中心軸Cのまわりに回転する。すなわち、マグネット35と遮蔽体32は、互いの位置関係(周方向、径方向および上下方向の位置関係)を変えずに、同期して回転される。
【0044】
次に、本実施形態に係るマグネトロンスパッタ方法について説明する。
【0045】
処理室内を所望のガスによる所望の圧力雰囲気にした状態で、ターゲット31側をカソード、基板34側をアノードとした放電をそれら両者間に起こしてプラズマを生起し、これにより生じたイオンがターゲット31と基板34との間の電界によりターゲット31に向けて加速されてターゲット31の外周面(被スパッタ面)に衝突することで、ターゲット材料の粒子がターゲット31からたたき出されて基板34の被成膜面に付着堆積する。このスパッタ成膜時、基板34及びターゲット31は回転せず、静止している。
【0046】
そして、本実施形態では、スパッタ成膜時、遮蔽体32が電子周回軌道(高密度プラズマ領域)30の一部を遮蔽している。遮蔽体32はマグネット35との相対位置は変えずにマグネット35と同期して回転するため、遮蔽体32と電子周回軌道30との相対位置は回転中も変わらない。したがって、遮蔽体32は、回転中、電子周回軌道30における同じ部分を常に遮蔽している。
【0047】
したがって、基板34において、上記電子周回軌道30が常に遮蔽されている部分に対向する部分にはターゲット31から叩き出された粒子が到達し難く、その部分の成膜レートは他の部分に比べて相対的に低くなる。
【0048】
例えば、他の条件等によって基板34においてターゲット軸方向の両端部側の成膜レートが高くなりがちな場合には、図6に示すように、電子周回軌道30におけるターゲット軸方向の両端部付近を遮蔽することでターゲット軸方向両端部側の成膜レートを抑えて、結果として、基板34におけるターゲット軸方向の膜厚分布の均一化を実現することが可能である。なお、膜厚の均一化を図る目的だけではなく、意図的に軸方向で膜厚差を生じさせたい場合にも、本実施形態は適用可能である。
【0049】
本実施形態においても、遮蔽体32と、マグネット35すなわち電子周回軌道30との相対位置は変更可能であり、どの部分の成膜レートを抑えるかを、遮蔽体32によって電子周回軌道30のどの部分を遮蔽するかによって制御可能である。
【0050】
例えば、図7に示すように、電子周回軌道30において、ターゲット軸方向の中央付近が遮蔽されるように遮蔽体32の位置を調整した場合には、基板34におけるターゲット軸方向の中央付近の成膜レートを比較的低く、それ以外の部分の成膜レートを比較的高くすることによる膜厚分布制御が可能となる。
【0051】
本実施形態においても、マグネット35の設計変更、ガス分布制御などを行わずに、遮蔽体32と、電子周回軌道30すなわちマグネット35との周方向の相対位置の調整だけで容易に膜厚分布の制御を行える。
【0052】
[第3実施形態]
次に、図9(a)は、本発明の第3実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置におけるターゲット41とマグネット42との平面配置関係を示す模式図であり、図9(b)は、同マグネトロンスパッタ装置におけるターゲット41と電子周回軌道40と遮蔽体45との平面配置関係を示す模式図である。
【0053】
本実施形態では、ターゲット41は、例えば矩形の板状に形成されている。図9(b)はターゲット41の被スパッタ面41a側を示し、その被スパッタ面に対向して図示しない基板が処理室内に配置される。
【0054】
ターゲット41における被スパッタ面41aの反対面には、図9(a)に示すように、マグネット42が対向配置されている。マグネット42は、内側マグネット43と、その内側マグネット43の周囲を囲むように配置されたリング状の外側マグネット44とが、非磁性体によって保持された構造を有する。マグネット42は、静止しているターゲット41に対して直線移動可能に設けられている。
【0055】
処理室内におけるターゲット41と基板との間の放電空間にプラズマが生起された状態で、マグネット42からの磁界により、ターゲット41の被スパッタ面41aの近傍には、マグネット42の形状に合わせて、図9(b)に示すようなレーストラック状の電子の周回軌道40が生じる。
【0056】
本実施形態においても、前述した実施形態と同様、被スパッタ面41a近傍には互いに直交する電界Eと磁界Bがあり、この直交するEとBの中で電子は、Larmor運動を行いつつE×Bドリフト運動を行い、被スパッタ面41a近傍の電子周回軌道40をレーストラック状に周回する。
【0057】
スパッタ成膜時、マグネット42は、例えば矩形状のターゲット41の長手方向に直線移動するため、これに伴い電子周回軌道40もターゲット41の長手方向に直線移動する。
【0058】
ターゲット41の被スパッタ面41aと基板との間には、図9(b)に示すような遮蔽体45が設けられている。基板側からターゲット41の被スパッタ面41aを見た平面視で、図9(b)に示すように、遮蔽体45は電子周回軌道40の一部を遮蔽している。
【0059】
図9(b)に例示される遮蔽体45においては、マグネット移動方向に見た一端部(図9(b)において左端部)はターゲット短手方向の略中央に位置している。遮蔽体45は上記一端部から他端部にかけて、ターゲット短手方向に広がるように二股状に形成され、その二股に分かれた部分によって、図9(b)に示す例では電子周回軌道40におけるターゲット短手方向の両端部付近が遮蔽されている。
【0060】
遮蔽体45は、処理室の外部に設けられた駆動機構と連結され、電子周回軌道40の一部を遮蔽した状態のまま電子周回軌道40との相対位置は変えずにマグネット42と同期して、ターゲット長手方向に直線移動する。すなわち、マグネット42と遮蔽体45は、相対位置関係を変えずに、同期して直線移動される。
【0061】
次に、本実施形態に係るマグネトロンスパッタ方法について説明する。
【0062】
処理室内を所望のガスによる所望の圧力雰囲気にした状態で、ターゲット41側をカソード、基板側をアノードとした放電をそれら両者間に起こしてプラズマを生起し、これにより生じたイオンがターゲット41と基板との間の電界によりターゲット41に向けて加速されてターゲット41の被スパッタ面41aに衝突することで、ターゲット材料の粒子がターゲット41からたたき出されて基板の被成膜面に付着堆積する。このスパッタ成膜時、基板及びターゲット41は静止している。
【0063】
そして、本実施形態では、スパッタ成膜時、遮蔽体45が電子周回軌道(高密度プラズマ領域)40の一部を遮蔽している。遮蔽体45はマグネット42との相対位置は変えずにマグネット42と同期して直線移動するため、遮蔽体45と電子周回軌道40との相対位置は移動中も変わらない。したがって、遮蔽体45は、移動中、電子周回軌道40における同じ部分を常に遮蔽している。
【0064】
したがって、基板において、上記電子周回軌道40が常に遮蔽されている部分に対向する部分にはターゲット41から叩き出された粒子が到達し難く、その部分の成膜レートは他の部分に比べて相対的に低くなる。
【0065】
例えば、他の条件等によって基板においてターゲット短手方向の両端部側の成膜レートが高くなりがちな場合には、図9(b)に示すように、電子周回軌道40におけるターゲット短手方向の両端部付近を遮蔽することでターゲット短手方向両端部側の成膜レートを抑えて、結果として、基板におけるターゲット短手方向の膜厚分布の均一化を実現することが可能である。なお、膜厚の均一化を図る目的だけではなく、意図的に径方向で膜厚差を生じさせたい場合にも、本実施形態は適用可能である。
【0066】
本実施形態においても、遮蔽体45と、マグネット42すなわち電子周回軌道40との相対位置は変更可能であり、どの部分の成膜レートを抑えるかを、遮蔽体45によって電子周回軌道40のどの部分を遮蔽するかによって制御可能である。
【0067】
本実施形態においても、マグネット42の設計変更、ガス分布制御などを行わずに、遮蔽体45と、電子周回軌道40すなわちマグネット42との相対位置の調整だけで容易に膜厚分布の制御を行える。
【0068】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、それらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0069】
電子周回軌道の形状は、前述した実施形態のようにレーストラック状あるいは楕円状に限らず、マグネットの平面形状に応じて種々の形状が取り得る。また、遮蔽体の形状も、任意に選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置における主要要素の配置関係を示す模式図。
【図2】同マグネトロンスパッタ装置におけるマグネットとターゲットとの平面配置関係を示す模式図。
【図3】図1に示す状態から、遮蔽体及びマグネット(電子周回軌道)が回転中心C1のまわりに180°回転した状態を示す模式図。
【図4】遮蔽体とマグネット(電子周回軌道)との周方向の相対位置が図1とは異なる状態の図1と同様な模式図。
【図5】図4に示す状態から、遮蔽体及びマグネット(電子周回軌道)が回転中心C1のまわりに180°回転した状態を示す模式図。
【図6】本発明の第2実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置における主要要素の配置関係を示す模式図。
【図7】遮蔽体とマグネット(電子周回軌道)との周方向の相対位置が図6とは異なる状態の図1と同様な模式図。
【図8】同第2実施形態におけるマグネットとターゲットとの位置関係を示す模式図。
【図9】本発明の第3実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置における主要要素の配置関係を示す模式図。
【図10】第1実施形態において、マグネットと遮蔽体の回転駆動機構が別々である形態の一例を示す模式図。
【図11】第1実施形態において、遮蔽体の面積を可変する構成の一例を示す模式図。
【符号の説明】
【0071】
10,34…基板、11,33…基板保持部、12,31,41…ターゲット、12a…被スパッタ面、13,35,42…マグネット、14,32,45…遮蔽体、20,30,40…電子の周回軌道、50…処理室
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持可能な基板保持部と、
前記基板保持部に対向して設けられる板状のターゲットの被スパッタ面の反対面に対向しつつ回転可能に設けられ、その回転中心に対して偏心した位置に中心を有する電子の周回軌道を前記被スパッタ面の近傍に生じさせるマグネットと、
前記ターゲットと前記基板との間に設けられ、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽しつつ前記電子の周回軌道との相対位置は変えずに、前記マグネットと同期して回転する遮蔽体と、
を備えたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項2】
基板を保持可能な基板保持部と、
前記基板保持部に対向して設けられる筒状のターゲットの中心軸のまわりに回転可能に前記ターゲットの内周側に設けられ、前記ターゲットの外周面の近傍に電子の周回軌道を生じさせるマグネットと、
前記ターゲットと前記基板との間に設けられ、前記基板側から前記ターゲットの外周面を見た側面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽しつつ前記電子の周回との相対位置は変えずに、前記マグネットと同期して回転する遮蔽体と、
を備えたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項3】
基板を保持可能な基板保持部と、
前記基板保持部に対向して設けられる板状のターゲットの被スパッタ面の反対面に対向しつつ直線移動可能に設けられ、前記被スパッタ面の近傍に電子の周回軌道を生じさせるマグネットと、
前記ターゲットと前記基板との間に設けられ、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽しつつ前記電子の周回軌道との相対位置は変えずに、前記マグネットと同期して直線移動する遮蔽体と、
を備えたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項4】
前記遮蔽体は、前記電子の周回軌道との相対位置を変更可能に設けられ、
前記電子の周回軌道における前記遮蔽体によって遮蔽される箇所及び面積の少なくとも一方を変更可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項5】
板状のターゲットの被スパッタ面に基板を対向させ、
前記ターゲットにおける前記被スパッタ面の反対面にマグネットを対向させて前記被スパッタ面の近傍に電子の周回軌道を生じさせ、
前記ターゲットと前記基板との間に、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽する遮蔽体を設け、
前記マグネットと前記遮蔽体とを、前記電子の周回軌道の中心に対して偏心した回転中心のまわりに同期させて回転させることで、前記遮蔽体を、前記電子の周回軌道の一部を遮蔽した状態のまま且つ前記電子の周回軌道に対する相対位置は変えずに回転させることを特徴とするマグネトロンスパッタ方法。
【請求項6】
筒状のターゲットの外周面に基板を対向させ、
前記筒状のターゲットの内周側に設けたマグネットによって前記ターゲットの外周面の近傍に電子の周回軌道を生じさせ、
前記ターゲットと前記基板との間に、前記基板側から前記ターゲットの外周面を見た側面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽する遮蔽体を設け、
前記マグネットと前記遮蔽体とを、前記ターゲットの中心軸のまわりに同期させて回転させることで、前記遮蔽体を、前記電子の周回軌道の一部を遮蔽した状態のまま且つ前記電子の周回軌道に対する相対位置は変えずに回転させることを特徴とするマグネトロンスパッタ方法。
【請求項7】
板状のターゲットの被スパッタ面に基板を対向させ、
前記ターゲットにおける前記被スパッタ面の反対面にマグネットを対向させて前記被スパッタ面の近傍に電子の周回軌道を生じさせ、
前記ターゲットと前記基板との間に、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽する遮蔽体を設け、
前記マグネットと前記遮蔽体とを同期させて直線移動させることで、前記遮蔽体を、前記電子の周回軌道の一部を遮蔽した状態のまま且つ前記電子の周回軌道に対する相対位置は変えずに直線移動させることを特徴とするマグネトロンスパッタ方法。
【請求項1】
基板を保持可能な基板保持部と、
前記基板保持部に対向して設けられる板状のターゲットの被スパッタ面の反対面に対向しつつ回転可能に設けられ、その回転中心に対して偏心した位置に中心を有する電子の周回軌道を前記被スパッタ面の近傍に生じさせるマグネットと、
前記ターゲットと前記基板との間に設けられ、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽しつつ前記電子の周回軌道との相対位置は変えずに、前記マグネットと同期して回転する遮蔽体と、
を備えたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項2】
基板を保持可能な基板保持部と、
前記基板保持部に対向して設けられる筒状のターゲットの中心軸のまわりに回転可能に前記ターゲットの内周側に設けられ、前記ターゲットの外周面の近傍に電子の周回軌道を生じさせるマグネットと、
前記ターゲットと前記基板との間に設けられ、前記基板側から前記ターゲットの外周面を見た側面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽しつつ前記電子の周回との相対位置は変えずに、前記マグネットと同期して回転する遮蔽体と、
を備えたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項3】
基板を保持可能な基板保持部と、
前記基板保持部に対向して設けられる板状のターゲットの被スパッタ面の反対面に対向しつつ直線移動可能に設けられ、前記被スパッタ面の近傍に電子の周回軌道を生じさせるマグネットと、
前記ターゲットと前記基板との間に設けられ、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽しつつ前記電子の周回軌道との相対位置は変えずに、前記マグネットと同期して直線移動する遮蔽体と、
を備えたことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項4】
前記遮蔽体は、前記電子の周回軌道との相対位置を変更可能に設けられ、
前記電子の周回軌道における前記遮蔽体によって遮蔽される箇所及び面積の少なくとも一方を変更可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項5】
板状のターゲットの被スパッタ面に基板を対向させ、
前記ターゲットにおける前記被スパッタ面の反対面にマグネットを対向させて前記被スパッタ面の近傍に電子の周回軌道を生じさせ、
前記ターゲットと前記基板との間に、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽する遮蔽体を設け、
前記マグネットと前記遮蔽体とを、前記電子の周回軌道の中心に対して偏心した回転中心のまわりに同期させて回転させることで、前記遮蔽体を、前記電子の周回軌道の一部を遮蔽した状態のまま且つ前記電子の周回軌道に対する相対位置は変えずに回転させることを特徴とするマグネトロンスパッタ方法。
【請求項6】
筒状のターゲットの外周面に基板を対向させ、
前記筒状のターゲットの内周側に設けたマグネットによって前記ターゲットの外周面の近傍に電子の周回軌道を生じさせ、
前記ターゲットと前記基板との間に、前記基板側から前記ターゲットの外周面を見た側面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽する遮蔽体を設け、
前記マグネットと前記遮蔽体とを、前記ターゲットの中心軸のまわりに同期させて回転させることで、前記遮蔽体を、前記電子の周回軌道の一部を遮蔽した状態のまま且つ前記電子の周回軌道に対する相対位置は変えずに回転させることを特徴とするマグネトロンスパッタ方法。
【請求項7】
板状のターゲットの被スパッタ面に基板を対向させ、
前記ターゲットにおける前記被スパッタ面の反対面にマグネットを対向させて前記被スパッタ面の近傍に電子の周回軌道を生じさせ、
前記ターゲットと前記基板との間に、前記基板側から前記ターゲットを見た平面視で前記電子の周回軌道の一部を遮蔽する遮蔽体を設け、
前記マグネットと前記遮蔽体とを同期させて直線移動させることで、前記遮蔽体を、前記電子の周回軌道の一部を遮蔽した状態のまま且つ前記電子の周回軌道に対する相対位置は変えずに直線移動させることを特徴とするマグネトロンスパッタ方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−138423(P2010−138423A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313082(P2008−313082)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】
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