説明

マスクブランクスの製造方法及び転写マスクの製造方法

【課題】表面が清浄な状態となされたマスクブランクス、または、転写マスクを製造することができるマスクブランクスの製造方法及び転写マスクの製造方法を提供し、また、ArFエキシマレーザ光以上の量子エネルギを有する露光光を用いる場合において好適なマスクブランクス、または、転写マスクを製造することができるマスクブランクスの製造方法及び転写マスクの製造方法を提供する。さらに、化学増幅型レジスト膜が成膜されたマスクブランクスの好適な製造方法を提供する。
【解決手段】基板1上の薄膜2,3をスパッタリング法により成膜した後、この薄膜2,3の表面に電磁波を照射することによりこの薄膜2,3の表面に付着した有機物質を分解し、薄膜2,3の表面に純水を供給して湿式洗浄を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス等を製造するための転写マスクの製造方法及びこの転写マスクの製造に用いるマスクブランクスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子や液晶表示装置などの電子デバイスの回路パターンは、いわゆるIT産業の発達に伴って、一層の高集積化が求められている。
【0003】
これら電子デバイスの回路パターンは、通常、回路パターンの原盤となるマスクパターンが形成された転写マスク(例えば、フォトマスク)を用いて製造されている。すなわち、これら電子デバイスの回路パターンは、露光用光源から発せられる電磁波(例えばレーザ光など)を、転写マスクを透過させてウエハ上に露光することにより、転写マスクに形成されているマスクパターンがウエハ上に転写されて製造される。
【0004】
そして、このような転写マスクは、マスクブランクスを用いて製造される。このマスクブランクスは、基板上に、前記マスクパターンを形成するための遮光性膜、または、位相シフト膜などの薄膜が成膜されたものである。転写マスクは、マスクブランクスの薄膜上にさらにレジスト膜を成膜し、電子線描画などのリソグラフィ技術を用いて該薄膜にマスクパターンを形成することにより製造される。
【0005】
ところで、転写マスクの表面に異物等が付着していると、この転写マスクを用いた露光によりマスクパターンが転写されて製造された電子デバイスの回路パターンに欠陥が生じることになる。したがって、転写マスクの表面は、極めて清浄な状態にしておく必要がある。
【0006】
転写マスクの製造に用いるマスクブランクスの表面が清浄な状態でないと、転写マスクの表面を清浄な状態とすることが困難となる。したがって、転写マスクの表面を清浄な状態にするには、この転写マスクの製造に用いるマスクブランクスの表面を清浄な状態としておく必要がある。
【0007】
マスクブランクスの表面を清浄な状態とすることについては、例えば、下記特許文献1及び特許文献2に記載されているように、マスクブランクスの製造工程における洗浄方法が提案されている。
【0008】
すなわち、特許文献1においては、マスクブランクスにおいて遮光薄膜として用いられる薄膜の洗浄方法が開示されている。この洗浄方法は、次亜塩素酸ナトリウム等の次亜ハロゲン酸などを含む水溶液を用いて、薄膜を処理する方法であり、この薄膜におけるピンホール欠陥を防止することができる。
【0009】
また、特許文献2においては、マスクブランクスにおいて位相シフトマスクとして用いられる薄膜の洗浄方法が開示されている。この洗浄方法は、硫酸過酸化水素水等の薬液に薄膜を浸漬させた後、オゾン水で表面処理を行う方法であり、この位相シフト膜における位相差や透過率の変化を防止することができる。
【0010】
これら各特許文献に記載されているように、マスクブランクスの洗浄工程においては、強い酸性系、または、強い塩基性系の洗浄液を用いて薄膜の表面を洗浄することが行われている。このような洗浄液としては、例えば、硫酸系、塩酸系、フッ酸系、または、水酸化アンモニウム系の洗浄液が挙げられる。また、洗浄液に酸化性を付与するために、過酸化水素水を添加した洗浄液を用いる場合もある。このような洗浄液としては、例えば、硫酸過酸化水素水やアンモニア過酸化水素水を含む洗浄液が挙げられる。
【0011】
従来のマスクブランクスの製造方法においては、このような強い酸性、または、強い塩基性の洗浄液を用いて薄膜の表面の洗浄を行うことにより、マスクブランクスの表面から確実に異物等を除去するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平3−168748号公報
【特許文献2】特開2003−50453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、近年においては、電子デバイスの回路パターンの一段の高集積化、微細化の要求に応えるために、転写マスクを用いた露光に用いる露光光の短波長化が図られている。従来は、露光光源としてKrFエキシマレーザ光(発振波長:248nm、量子エネルギ:5.0eV)が用いられてきたが、近年においては、より短波長のArFエキシマレーザ光(発振波長:193nm、量子エネルギ:6.4eV)が用いられるようになってきた。
【0014】
そのため、近年においては、ArFエキシマレーザ光を用いることを前提とした転写マスクの開発が盛んに行われている。また、Fレーザ光(発振波長:157nm、量子エネルギ:7.9eV)やEUV光(発振波長:13.5nm、量子エネルギ:92eV)を用いることを前提とした転写マスクの開発も行われている。
【0015】
転写マスクが短波長光による露光を前提とするものに移行するにつれて、マスクブランクスとしても、KrFエキシマレーザ光を用いることを前提としたマスクブランクから、ArFエキシマレーザ光を用いることを前提としたもの、あるいは、さらに短波長のFレーザ光やEUV光を用いることを前提としたものに移行してゆく必要がある。
【0016】
ところが、KrFエキシマレーザ光を用いることを前提とした転写マスクから、ArFエキシマレーザ光を用いることを前提とした転写マスクへの移行に伴って、原因不明のパターン欠陥が電子デバイスの回路パターン上に生じる場合がある。
【0017】
このようなパターン欠陥については、露光時において転写マスク上に生成する異物が、このパターン欠陥の原因の一つであると考えられる。すなわち、露光前には異物の存在が確認されず清浄と判定された転写マスクであるにも拘わらず、露光時においてこの転写マスク上に異物が生成されてしまうために、転写マスクのマスクパターンが正常にウエハ上に転写されず、電子デバイスの回路パターンにおける欠陥が発生していると考察される。例えば、ArFエキシマレーザ光を転写マスク上に照射する前において21個であった欠陥個所が、ArFエキシマレーザ光を照射した後においては70個に増加してしまうという結果が得られている。また、ArFエキシマレーザ光をマスクブランクス上に照射する前において22個であった欠陥個所が、ArFエキシマレーザ光を照射した後においては651個に増加してしまうという結果が得られている。
【0018】
このような、露光時に生成されてしまう異物による欠陥は、KrFエキシマレーザ光を用いることを前提とした転写マスクにおいては、ほとんど見られることがなく、事実上、障害として認識されることがなかった。
【0019】
このように露光時に生成される異物を光学式検査やラマン分光分析に基づいて分析した結果によれば、この異物は、結晶化したイオン物質、例えば、酸性系コンタミや塩基性系コンタミであった。特に、硫酸塩やアンモニウム塩が、このような異物の主成分であった。
【0020】
ArFエキシマレーザ光(量子エネルギ:6.4eV)はKrFエキシマレーザ光(量子エネルギ:5.0eV)に比較して量子エネルギが高いことから、このような量子エネルギの高い露光光の作用によって、イオン物質の結晶生成が促進され、異物として生成されてしまうと考えられる。
【0021】
ところで、最近のマスクブランクスにおいては、より高精細なマスクパターンが得られるようにするために、遮光性膜、または、位相シフト膜などのマスクパターンを形成するための薄膜上に、化学増幅レジスト膜を成膜することが行われている。化学増幅型レジスト膜は、感度やコントラストなどの特性が、従来のフォトレジスト膜に比較して優れているため、マスクパターンの微細化には特に好ましいという利点があるからである。このような化学増幅型レジスト膜としては、例えば、特開2000−66380号公報に記載されたレジスト膜が知られている。そして、マスクブランクスにおいては、化学増幅型レジスト膜としては、主に有機レジスト膜が用いられている。
【0022】
化学増幅型レジスト膜には、レジスト作用を備える高分子の有機化合物(例えば、フェノール類等)と、触媒性物質とが含有されている。このような化学増幅型レジスト膜においては、電子線照射法などを用いて描画が行われると、含有している触媒性物質が感光して酸触媒(酸性物質)が生成される。そして、この酸触媒は、加熱処理などが行われることにより、有機化合物をエッチング液などに対して可溶化、あるいは、不溶化させる変質作用を発揮する。したがって、描画後のレジスト膜をエッチング処理することにより、このレジスト膜において、描画パターンに対応した精緻なレジストパターンを形成することができる。
【0023】
このようにして、遮光性膜、または、位相シフト膜などであるマスクブランクスの薄膜上に成膜されたレジスト膜にレジストパターンを形成し、このレジストパターンを利用することにより、マスクブランクスの薄膜において、マスクパターンを形成することができる。
【0024】
このような化学増幅型レジスト膜においては、この化学増幅型レジスト膜の化学増幅反応のメカニズム上、レジスト膜が塩基性汚染物質(塩基性コンタミ)で汚染された場合には、酸触媒の生成が阻害される場合がある。また、レジスト膜が塩基性汚染物質で汚染された場合には、酸触媒の酸触媒作用が失われたり、減じられたりしてしまう場合がある。このような現象は、酸触媒の失活現象と呼称されている。例えば失活現象によって、本来は取り除かれるべきレジスト膜の一部が残ってしまうという障害が発生する。このような酸触媒の失活現象が発生すると、精密なレジストパターンの形成が阻害されてしまうので、マスクパターンが好ましく形成できなくなるという問題がある。
【0025】
また、化学増幅型レジスト膜が酸性汚染物質(酸性コンタミ)で汚染された場合には、所望以上に化学増幅反応が進行してしまう結果、精密なレジストパターン形成が阻害されてしまうので、やはりマスクパターンが好ましく形成できなくなるという問題がある。
【0026】
したがって、遮光性膜、または、位相シフト膜などであるマスクブランクスの薄膜上に化学増幅型レジスト膜を成膜する場合においては、この化学増幅型レジスト膜を成膜する表面及びこの化学増幅型レジスト膜の表面は、極めて清浄な状態としておく必要がある。この化学増幅型レジスト膜の表面に塩基性コンタミや酸性コンタミが僅かでも残留していると、所望の化学増幅反応が阻害されてしまい、レジストパターンが乱され、ひいてはマスクパターンが乱されてしまうからである。
【0027】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたものであって、その第1の目的は、表面が清浄な状態となされたマスクブランクス、または、転写マスクを製造することができるマスクブランクスの製造方法及び転写マスクの製造方法を提供することにある。
【0028】
また、本発明の第2の目的は、ArFエキシマレーザ光以上の量子エネルギを有する露光光を用いる場合において好適なマスクブランクス、または、転写マスクを製造することができるマスクブランクスの製造方法及び転写マスクの製造方法を提供することにある。
【0029】
さらに、本発明の第3の目的は、化学増幅型レジスト膜が成膜されたマスクブランクスの好適な製造方法を提供し、このマスクブランクスを用いた転写マスクの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明者は、前述の課題を解決すべく、前述したようなイオン系コンタミ、例えば、酸性コンタミや塩基性コンタミの発生原因について究明を行った。これらコンタミの発生原因となると考えられる酸性イオン系物質や塩基性イオン物質の発生源はマスクブランクスや転写マスクの製造工程において無数に存在しているので、主原因を特定することは困難を極めたが、最終的には、マスクブランクスの洗浄工程に原因があることを突き止めた。
【0031】
すなわち、マスクブランクスの洗浄工程において用いられる強い酸性系、または、強い塩基性系の洗浄液がマスクブランクスの表面上に僅かに残留することが、後工程において、パターンの微細化を阻害するように作用していることを発見した。このような洗浄液の残滓が、転写マスクを用いた露光を行うときに、露光に用いられる電磁波(例えば、ArFエキシマレーザ光)のエネルギによって結晶性の異物として生成したり、あるいは、化学増幅型レジスト膜の所望の化学増幅反応を阻害してしまうことが突き止められた。
【0032】
従来の技術水準において標準的に用いられていたマスクブランクスの洗浄工程は、本発明の目的に鑑みれば、むしろ汚染源の一つとなっていることが判明したのである。
【0033】
本発明者は、このような知見に基づいて、薄膜上の汚染を引き起こすことなく、かつ、マスクブランクスとして障害なく用いることができる優れたマスクブランクスを製造できる製造方法を発明した。すなわち、本発明は、以下の構成を有する発明である。
【0034】
〔構成1〕
本発明に係るマスクブランクスの製造方法は、基板と、この基板上に成膜されたマスクパターンを形成するための薄膜とを有するマスクブランクスの製造方法であって、マスクブランクスは、ArFエキシマレーザ光以上の量子エネルギを有する露光光で使用される転写マスクの製造に用いられるものであり、薄膜をスパッタリング法により成膜する工程と、薄膜の表面にArFエキシマレーザ光以上の量子エネルギを有するエキシマ光を直接照射する工程と、薄膜の表面に純水を供給して湿式洗浄を行う工程とをこの順に行うことを特徴とするものである。
【0035】
〔構成2〕
本発明に係るマスクブランクスの製造方法は、構成1に記載のマスクブランクスの製造方法であって、湿式洗浄を行う工程を行った後に、薄膜上に化学増幅型レジスト膜を成膜する工程を備えることを特徴とするものである。
【0036】
〔構成3〕
本発明に係るマスクブランクスの製造方法は、構成1、または、構成2に記載のマスクブランクスの製造方法であって、エキシマ光は、波長が193nm以下、かつ量子エネルギが6.4eV以上であることを特徴とするものである。
【0037】
〔構成4〕
本発明に係るマスクブランクスの製造方法は、構成1乃至構成3の何れか一に記載のマスクブランクスの製造方法であって、純水は、逆浸透膜処理水または限外濾過膜処理水に対し、さらにイオン交換処理を行った水であることを特徴とするものである。
【0038】
〔構成5〕
本発明に係るマスクブランクスの製造方法は、構成4に記載のマスクブランクスの製造方法であって、エキシマ光を直接照射する工程は、酸化性のガスを含有する雰囲気中において行うことを特徴とするものである。
【0039】
〔構成6〕
本発明に係るマスクブランクスの製造方法は、構成1乃至構成5の何れか一に記載のマスクブランクスの製造方法であって、エキシマ光を直接照射する工程は、NHイオンが2μg/m以下、かつSO2−イオンが2μg/m以下の雰囲気中において行うことを特徴とするものである。
【0040】
〔構成7〕
本発明に係るマスクブランクスの製造方法は、構成1乃至構成6の何れか一に記載のマスクブランクスの製造方法であって、薄膜は、酸素または窒素を含有する金属遮光膜または金属位相シフト膜であることを特徴とするものである。
【0041】
〔構成8〕
そして、本発明に係る転写マスクの製造方法は、構成1乃至構成7の何れか一に記載のマスクブランクスの製造方法により製造されたマスクブランクスを用い、このマスクブランクスの薄膜に、所定のマスクパターンを形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、基板とこの基板上に成膜されたマスクパターンを形成するための薄膜とを有するマスクブランクスの製造方法において、薄膜をスパッタリング法により成膜する工程、電磁波のエネルギを利用して薄膜の表面に付着した有機物質を分解する工程、薄膜の表面に純水を供給して湿式洗浄する工程を備えているので、表面が清浄な状態のマスクブランクス及び転写マスクが得られるとともに、ArFエキシマレーザ光(量子エネルギ:6.4eV)以上の量子エネルギを有する露光光で露光するための好適なマスクブランクス及び転写マスクを得ることができる。
【0043】
また、薄膜上に、さらに、化学増幅型レジスト膜を成膜する場合においては、薄膜をスパッタリング法により成膜する工程、電磁波のエネルギを利用して薄膜の表面に付着した有機物質を分解する工程、薄膜の表面に純水を供給して湿式洗浄する工程、化学増幅型レジスト膜を成膜する工程を備えているので、精緻なマスクパターンを形成することができるマスクブランクス及び精緻なマスクパターンを備える転写マスクを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明により製造されるマスクブランクスの構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明により製造されるレジスト膜付きマスクブランクスの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照しながら説明する。
【0046】
本発明に係るマスクブランクスの製造方法は、基板とこの基板上に成膜されたマスクパターンを形成するための薄膜とを有するマスクブランクスの製造方法である。
【0047】
〔基板上に薄膜を成膜する工程〕
このマスクブランクスの製造方法においては、まず、基板上に、スパッタリング法により、薄膜を成膜する。
【0048】
ここで、基板としては、このマスクブランクスを、例えば、転写マスクとして使用する場合に、露光光に対して透光性を有する材料からなる基板を選択することができる。このような基板としては、例えば、ガラス基板を挙げることができる。特に、優れた透光性能を有し、表面形状が平滑な基板が得られる石英ガラス材料からなる基板を選択することが好ましい。
【0049】
そして、マスクブランクスにおけるマスクパターンを形成するための薄膜としては、遮光性膜、または、位相シフト膜などとなる薄膜を挙げることができる。本発明において、このような薄膜をなす材料としては金属薄膜を好ましく挙げることができる。例えば、遮光性膜についてCr系金属材料や、位相シフト膜についてMoSi系金属材料等の金属材料を好ましく挙げることができる。本発明にいう位相シフト膜としては、ハーフトーン型の位相シフト膜を好適に例示できる。
【0050】
この薄膜は、スパッタリング法により、基板上に乾式に成膜する。スパッタリング法によって成膜することにより、有機系、あるいは、イオン系の異物が薄膜の表面に付着することを最小限に抑制することができるからである。また、ArFエキシマレーザー光以上の量子エネルギーを備える電磁波での露光に用いるマスクパターンを好適に形成せしめることができるからである。そして、スパッタリング法としては、DCマグネトロンスパッタリング法が好適である。
【0051】
また、この薄膜は、反応性スパッタリング法を用いて成膜することにより、酸化膜や窒化膜として成膜することができる。反応性スパッタリング法としては、例えば、希ガスに窒素ガス及び/又は酸素ガスを含有させた混合ガスをプラズマ化させた雰囲気を利用して、スパッタリングを行う方法が挙げられる。例えば、アルゴンガスに窒素ガス及び/又は酸素ガスを含有せしめた混合ガスをプラズマ化させた雰囲気を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法によって乾式成膜する方法を挙げることができる。
【0052】
〔薄膜表面の有機物質を分解する工程〕
次に、成膜された薄膜の表面に電磁波を照射することにより、この薄膜の表面に付着した汚染物質である有機物質を分解する処理を行う。
【0053】
この工程において照射する電磁波としては、このマスクブランクスを転写マスクとして用いるときに露光に用いる露光光以上の量子エネルギを備える電磁波を選択することができる。例えば、この電磁波としては、ArFエキシマレーザ光以上の量子エネルギを有する電磁波が好適である。すなわち、波長としては193nm以下、量子エネルギとしては6.4eV以上の電磁波が好適である。
【0054】
有機物質を分解するこの工程は、乾式処理として行う。この工程における雰囲気は、クリーンルーム雰囲気とし、その清浄度は、日本工業規格(JIS)B9920に定めるクラス6以上の清浄度の雰囲気とすることが好ましい。
【0055】
また、この雰囲気は、ケミカルフィルタにより清浄化された雰囲気とすることが好ましい。化学的な清浄度としては、NHイオンが2μg/m以下、特に好ましくは1.5μg/m以下の清浄度の雰囲気を選択すると、本発明にとって好適である。また、SO2−イオンが2μg/m以下、特に好ましくは1.5μg/m以下の清浄度の雰囲気を選択すると本発明にとって好適である。雰囲気中のNHイオン及びSO2−イオン濃度が上記範囲内の雰囲気を選択し本発明と組み合せると、本発明の効果をいっそう確実なものとすることができるので好適である。NHイオンの雰囲気中濃度が2μg/mを超え、また、SO2−イオンが2μg/mを超えると、本発明の効果が減じられてしまう場合があるので好ましくない。なお、雰囲気中の化学物質は、雰囲気を所定量採取し、採取した雰囲気を超純水にバブリング法などで溶解せしめた試料水を作製し、該試料水をIC(イオンクロマトグラフィー)法により測定することにより定量できる。
【0056】
有機物質の分解作用を促進することを目的として、処理雰囲気を酸化性ガスを含有する雰囲気とすることが好ましい。このような雰囲気としては、例えば、オゾンガスを含有する雰囲気を挙げることができる。この場合、雰囲気中の酸化性ガス(オゾンガス)の含有量は、10ppm乃至200ppmの範囲内で、適宜調節することが好ましい。
【0057】
すなわち、有機物質を〔C〕として示すと、この有機物質は、まず、電磁波の照射によって光子エネルギにより分子結合が切断され、〔C、H、O〕として示される状態となる。ここに、酸化性ガスより酸素原子が供給されることにより、これら炭素原子、水素原子及び酸素原子に、酸素原子が結合して、〔CO、CO、HO〕として示される状態となり、これらは、気化し、または、後の洗浄工程において除去される。
【0058】
また、酸化性ガスとしてオゾンガスを使用する場合においては、このオゾンガスは、空気中に含まれる酸素が紫外線である電磁波の照射によって分解されて生成されたものを使用することができる。すなわち、空気中の酸素分子(O)に紫外線が照射されると、この酸素分子は、酸素原子(O)に分解され、さらに、この酸素原子(O)が酸素分子(O)に反応してオゾンガス(O)となる。このオゾンガス(O)は、酸素原子(O)を有機物質に供給して酸素分子(O)に戻る酸化性ガスである。
【0059】
このように空気中の酸素を利用する場合においては、雰囲気中に、特に酸素ガスやオゾンガスを供給する必要はなく、クリーンルーム内の通常の空気を利用することができる。
【0060】
このように、空気中の酸素を分解する電磁波の波長としては、172nmが好適である。したがって、この工程において好ましく用いることができる電磁波としては、例えば、Xe光(波長:172nm)を挙げることができる。
【0061】
なお、薄膜上の有機物質を分解するための電磁波と、雰囲気である空気中の酸素を分解してオゾンガスを生成させるための電磁波とで、異なる波長の電磁波を併用するようにしてもよい。
【0062】
このようにして、この工程においては、薄膜上の汚染物質である有機物質を除去することができる。
【0063】
〔薄膜表面を湿式洗浄する工程〕
次に、薄膜の表面に純水を供給して湿式洗浄を行う。
【0064】
この工程は、有機物質を分解する前工程で除去しきれなかった有機物質を確実に除去するための洗浄工程である。すなわち、この工程においては、薄膜上に純水を供給し、湿式の洗浄処理を行う。また、この工程においては、非有機物質である異物(イオン系異物など)も薄膜上から除去される。
【0065】
この工程において使用する純水としては、例えば、逆浸透膜処理水(Reverse osmotic membrane water、以下「RO水」と称する。)や、限外濾過膜処理水(ultra filtration membrane water、以下「UF水」と称する。)などの処理水を用いることができる。また、これらの処理に併せてイオン交換処理を行った脱イオン化処理水(de ionized water、以下「DI水」と称する。)を用いることが、特に好ましい。すなわち、RO水とDI水とでは、主たる除去対象の物質やイオンに補完関係があるので、RO処理水をさらに脱イオン化処理した純水(RO/DI水)とするのが最適である。
【0066】
そして、このような純水を薄膜上に供給するにあたっては、ノズルから純水の水流を放水(圧送)する方法や、基板ごと純水中に浸漬する方法などを用いることができる。純水中において基板に対して超音波を照射してもよい。また、薄膜上に純水を供給しながらスクラブ洗浄を行ってもよい。
【0067】
なお、本発明の作用効果を減じない範囲であれば、純水に対して、洗剤などの界面活性剤を添加してもよい。
【0068】
前工程及びこの工程においては、薄膜が反応性スパッタリングにより成膜されていることにより、特に好ましい作用効果を得ることができる。すなわち、反応性スパッタリングにより成膜された薄膜の表面は、活性が高く、イオン系の異物が付着しやすい傾向にある。したがって、反応性スパッタリングにより成膜された薄膜の表面は、本発明により解決すべき課題が顕著に発生しやすい表面と言えるが、本発明を適用することにより、この課題を良好に解決することができ、本発明を適用することの有用性が高いと言える。例えば、反応性スパッタリング法により、酸素及び又は窒素を含有せしめた金属遮光膜又は金属位相シフト膜表面に対して本発明は特に好適に用いることができる。
【0069】
本発明においては、上述のように、電磁波により有機物質を分解する処理工程を実施し、次に、純水により洗浄する工程を実施することにより、確実に、薄膜の表面を清浄化できるので、従来の洗浄方法において使用されていた強い塩基性、または、強い酸性のイオン含有洗浄液を用いることなく、清浄で好適なマスクブランクス及び転写マスクを製造することが可能となる。
【0070】
また、本発明においては、電磁波により有機物質を分解する処理工程により、薄膜の表面の「濡れ性」を向上させる効果が得られるため、次の純水により洗浄する工程における洗浄効果を向上させることができている。
【0071】
本発明によるマスクブランクスの上記洗浄作用を、他の洗浄方法による洗浄作用と比較した。結果、MoSi系金属薄膜からなるハーフトン型の位相シフト膜表面に対して、酸化性ガス(オゾンガス)を含む雰囲気中で電磁波(Xe光(波長:172nm))による有機物質の分解処理を行った後に純水(RO/DI水)で洗浄した場合には、異物検出個数が2個であったが、オゾン水(RO/DI水)で処理した後に、純水(RO/DI水)で洗浄した場合、異物検出個数は6個であった。本発明によれば、洗浄後における欠陥個所の個数を1/3まで減少させることができている。また、何らの前処理を行わずに純水(RO/DI水)洗浄した場合には、洗浄後における異物検出個数は10個であり、洗浄前(8個)に比較してむしろ増加したことが確認された。
【0072】
ここまで述べたように、本発明においては、例えば、ArFエキシマレーザ光のような、KrFエキシマレーザ光よりも量子エネルギの大きな露光光を用いて露光を行っても、この露光中に異物(イオン系コンタミ)が生成してしまうという問題を解決することができる。したがって、上述したような薄膜の洗浄工程の後に、この薄膜上に化学増幅型レジスト膜を成膜することにより、この化学増幅型レジスト膜における所望の化学増幅効果を確実に得ることが可能となる。
【0073】
すなわち、本発明においては、上述のように、電磁波により有機物質を分解する処理工程を実施し、次に、純水により洗浄する工程を実施し、さらに、薄膜上に有機レジスト膜を成膜する工程を実施することにより、化学増幅型レジストを含む有機レジスト膜を好適に成膜できるという利点も得られる。
【0074】
これは、電磁波により有機物質を分解する処理工程において、有機物質が分解されるとともに、薄膜の表面の親水性を向上させる作用が得られるので、この工程に続く純水により洗浄する工程の作用が確実なものとなされるからであると考えられる。すなわち、薄膜の表面の有機物質が確実に除去されているため、この薄膜上に有機レジスト膜を均一に湿式成膜することが可能となっているものと考えられる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0076】
〔実施例1〕
図1は、本発明により製造されるマスクブランクス10の模式的断面図である。
【0077】
この実施例において、マスクブランクスのサイズは、縦6インチ(152.4mm)、横6インチ(152.4mm)、厚さ0.25インチ(6.35mm)である。このマスクブランクスは、ArFエキシマレーザ光を用いて露光することを前提とした転写マスクとして用いるマスクブランクスである。
【0078】
このマスクブランクスは、基板1上に、位相シフト膜2、遮光膜3が、順次成膜されて構成されている。
【0079】
基板1は、ArFエキシマレーザの露光光に対して透光性を有する合成石英のガラス基板である。この基板1の表面は、精密に鏡面研磨されている。
【0080】
位相シフト膜2は、マスクパターンを形成するための薄膜であり、転写マスクとして使用されるときに、透過する露光光の位相を実質的に反転させる特性を有するように成膜されている。この位相シフト膜2は、スパッタリング法により、乾式成膜された金属薄膜である。
【0081】
そして、この位相シフト膜2上には、遮光膜3が、スパッタリング法により、乾式成膜されている。この遮光膜3も、マスクパターンを形成するための金属薄膜であり、転写マスクとして使用されるときに、露光光を実質的に遮光するように成膜されている。
【0082】
次に、本実施例におけるマスクブランクスの製造方法について説明する。
【0083】
(基板製造工程)
まず、合成石英からなるガラス素板の表面を、酸化セリウム、コロイダルシリカ研磨剤を用いて精密に研磨することにより、その表面を鏡面状に仕上げた。
【0084】
次いで、このガラス素板を精密洗浄することによって、合成石英からなるガラス基板1を得た。このガラス基板1の表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)による測定の結果としては、Rqで、0.2nmの鏡面であった。
【0085】
(薄膜成膜工程)
得られたガラス基板1の表面上に、マスクパターンを形成するための薄膜として、ハーフトーン型の位相シフト膜2を、DCマグネトロンスパッタリング法によって乾式成膜した。この位相シフト膜としては、ハーフトーン材料膜を用いた。具体的には、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)を主成分とする金属のMoSi膜を選定した。
【0086】
この位相シフト膜2は、モリブデンとシリコンとが混合されたスパッタリングターゲットを用いて、アルゴンガスと窒素ガスとの混合ガス雰囲気中において、DCマグネトロン反応性スパッタリングを行うことにより、ガラス基板1上に、窒化膜(MoSiN)として乾式成膜した。
【0087】
さらに、位相シフト膜2上に、遮光膜3を、DCマグネトロンスパッタリング法によって乾式成膜した。この遮光膜3としては、金属のクロム(CrO)膜を選定した。
【0088】
この遮光膜3は、クロム(Cr)のスパッタリングターゲットを用いて、アルゴンガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気中において、DCマグネトロン反応性スパッタリングを行うことにより、位相シフト膜2上に、酸化膜(CrO)として乾式成膜した。
【0089】
(有機物質分解処理工程)
次に、位相シフト膜2(MoSiN)と遮光膜3(CrO)の積層膜からなるマスクパターンを形成するための薄膜の表面上に付着している有機物質を、電磁波を照射することにより分解して除去する乾式処理を施した。
【0090】
具体的には、ArFエキシマレーザ光よりも量子エネルギの大きなキセノン(Xe)光(波長172nm)を用い薄膜上に照射することにより、このエネルギを利用して、薄膜上に付着している有機物質を乾式で分解除去した。
【0091】
このときの雰囲気は、クリーンルーム雰囲気とし、ケミカルフィルターを用いて雰囲気中の化学物質を除去するように努めた。雰囲気の清浄度は、日本工業規格(JIS)B9920の規定で、クラス5とした。また、雰囲気中の化学的清浄度は、ケミカルフィルターを調整することにより、NHイオンが1.2μg/m以下、SO2−イオンが0.2μg/m以下となるように制御した。
【0092】
なお、有機物質の分解除去を促進するため、雰囲気に酸素ガスを含有させた。この酸素ガスは、前述したように、キセノン(Xe)光(波長172nm)によりオゾンガスに転換され、このオゾンガスが有機物質の分解を促進することとなる。また、このとき、酸素ガスが分解されて励起酸素原子も生成されるが、この励起酸素原子も、有機物質の分解を促進することとなる。オゾンガスの濃度は、100ppmとなるようにした。
【0093】
(純水による洗浄処理工程)
次に、純水を用いて、薄膜の表面を湿式洗浄した。純水としてはRO処理されたDI処理水(RO/DI水)を用いた。この純水を、薄膜の表面にノズルを用いて水流として供給した。また超音波を印加した。
【0094】
この純水による洗浄処理工程において、前工程において分解除去されなかった有機物質(異物)の残渣や、非有機物質(イオン系物質など)の異物を確実に除去した。
【0095】
そして、スピンドライ法により、薄膜の表面を乾燥させた。
【0096】
以上の工程により、レジスト膜が成膜されていないマスクブランクス10が製造された。
【0097】
(マスクブランクスの評価)
このようにして製造されたマスクブランクス10の表面について評価を行った。
【0098】
マスクブランクス表面の濡れ性を表面張力試験試薬を用いて分析した。結果は〔表1〕に示す、レジスト液を塗布成膜するのに十分な濡れ性を確保していることが確認できた、特に、化学増幅型レジストなどの、有機レジスト剤に対する濡れ性を向上せしめることができていた。なお、〔表1〕では、全く問題がないレベルを◎、問題がないレベルを○、問題はあるが場合によっては使用可能なレベルを△、全く使用できないレベルを×として表記している。
【0099】
マスクブランクス10の表面について光学式検査を行ったところ、下記の〔表1〕に示すように、実用上問題となる異物や欠陥は感知されなかった。なお、実用上問題とはならない欠陥や異物を含めた総検出数は、マスクブランクス1面当たり、2個であった。
【0100】
【表1】

【0101】
さらに、このマスクブランクス10の表面における有機物質(異物)、無機物質(異物)の付着量を精密に分析するために、TOF−SIMS法(time of flight secondary ion mass spectroscopy法:飛行時間型二次イオン質量分析法)による表面分析を行った。
具体的には、一次イオンとして69Gaイオンを所定の入射角でマスクブランクス10の表面に向けて照射し、この表面に存在する元素をイオン化して二次イオンとして引き出し、質量分析を行った。このTOF−SIMS法による表面分析の結果も、〔表1〕に示す。
【0102】
この〔表1〕において、TOF−SIMS法による分析結果は、有機物質の分解処理工程を行う前のマスクブランクス10の表面に存在する元素の検出量に対しての、製造されたマスクブランクス10の表面に存在する元素の検出量の比率として示している。
【0103】
すなわち、この実施例1におけるマスクブランクス10表面におけるCは、分解処理によって13%に減少し、Cは、分解処理によって10%に減少し、Cは、分解処理によって15%に減少したことが確認された。
【0104】
この検出結果より、本発明における有機物質の分解処理工程により、この工程の実施前に対して、有機物質の付着量が10%乃至15%程度にまで減少し、清浄化されていることが判る。この工程による有機物質の除去率としては、85%乃至90%が除去されていることになる。
【0105】
次に無機物質(異物)の量について測定したところ、特に問題は確認されなかった。
【0106】
次に、このマスクブランクス10を転写マスクとして用いて露光を行ったときの異物生成の程度を予め評価するために、得られたマスクブランクス10上に、露光光と同一のArFエキシマレーザ光を照射し、検査する実験を行った。
【0107】
この実験の結果を〔表1〕に示す。
【0108】
〔表1〕では、全く問題がないレベルを◎、問題がないレベルを○、問題はあるが場合によっては使用可能なレベルを△、全く使用できないレベルを×として表記している。
【0109】
(有機レジスト膜成膜工程)
そして、上述のようなレジスト膜が成膜されていないマスクブランクス10上に、さらに、有機レジスト膜4を湿式成膜し、図2に示すように、レジスト膜付きマスクブランクス20を製造した。
【0110】
図2は、本発明により製造されるレジスト膜付きマスクブランクス20の模式的断面図である。
【0111】
具体的には、純水による洗浄処理工程の後、スピンドライ法により乾燥されたマスクブランクス10の遮光膜3上に、高分子有機物質からなる化学増幅型レジスト液からなるレジスト膜を、スピンコート法によって湿式成膜した。
【0112】
このレジスト膜は、均一な膜として形成することができた。これは、本発明における洗浄工程により、マスクブランクス10の表面の有機物質(異物)が十分に除去されているので、マスクブランクス10の表面と有機レジスト液との親和性が高くなされているためであると考えられる。
【0113】
以上のようにして、レジスト膜付きマスクブランクス20を製造した。
【0114】
なお、本発明者は、有機物質分解処理工程と、純水による洗浄処理工程との順序を入れ替えた工程によりマスクブランクスを製造し、同様に、このマスクブランクスの表面上に高分子有機物質からなる化学増幅型レジスト液をスピンコート法によって湿式成膜することを試みた。この場合においては、均一なレジスト膜を成膜することはできなかった。均一なレジスト膜が成膜できないと、精密なマスクパターン形成が阻害されてしまうこととなるので、有機物質分解処理工程と、純水による洗浄処理工程との順序を入れ替えることは好ましくない。
【0115】
〔実施例2〕
この実施例2においては、前述の実施例1において得られたレジスト膜付きマスクブランクス20に所定のリソグラフィー技術を適用し、レジストパターンを形成し、このレジストパターンを利用してマスクパターンを形成して、転写マスクを製造した。
【0116】
この転写マスクを用いてArFエキシマレーザ光によって露光を行い、マスクパターンをウエハ上に転写した。転写は正常に行われ、所定のマスクパターンを転写することができた。すなわち、転写マスク上に異物が生成することは無く、欠陥は発生しなかった。
【0117】
〔実施例3〕
次に、実施例1のマスクブランクスの製造工程において、位相シフト膜2に対して、本発明の洗浄方法(実施例1の有機物質分解処理工程と純水による洗浄処理工と同様の工程)を実施し、この後に、遮光膜3を成膜し、この遮光膜3に対しても本発明の洗浄方法(実施例1の有機物質分解処理工程と純水による洗浄処理工と同様の工程)を実施したマスクブランクスを製造した。位相シフト膜2と遮光膜3の両方に本発明の洗浄を行った点以外については実施例1と同様である。結果は〔表1〕に掲げる。〔表1〕に掲げない結果については、実施例1の結果と同様であった。
【0118】
〔表1〕の結果によれば、窒化膜(位相シフト膜2)に対しても、酸化膜(遮光膜3)に対しても本発明の作用効果が発揮されることを示している。
【0119】
また、マスクパターンを形成するための薄膜が複数(2層以上)あるマスクブランクスでは、最表面の膜にのみ本発明の洗浄を実施してもよいが、少なくとも2層以上の膜に本発明の洗浄を実施すると、本発明の作用効果がいっそう顕著になるので好ましいといえる。
【0120】
〔比較例1〕
この比較例1においては、実施例1における有機物質分解処理工程に代えて、硫酸と過酸化水素水とを混合した硫酸過酸化水素水を洗浄液として用いて湿式洗浄処理を行った。硫酸と過酸化水素水とを4:1の比率で混合して洗浄液とし、洗浄を行った。この工程以外は、実施例1と同様に、マスクブランクスを製造した。結果は〔表1〕に示す。
【0121】
この比較例1においては、実施例1と比較して、有機物質の除去程度は同等であった。
【0122】
次に無機物質(異物)の量について測定したところ、実施例1に比べて3倍以上のSO2−イオンが検出された。
【0123】
また、ArFエキシマレーザ光を照射すると、多数の異物状欠陥が生成されることが確認された。異物の主成分をラマン分光分析法とSEM/EDS(走査型電子顕微鏡/エネルギ分散型X線検出器)で分析したところ、硫酸アンモニウムの結晶であることが判明した。
【0124】
なお、比較例1におけるマスクブランクスの表面にKrFエキシマレーザ光を照射したところ、照射後に検出された欠陥の数は、実施例1のマスクブランクス表面にArFエキシマレーザ光を照射した場合と同等であった。
【0125】
また、比較例1におけるマスクブランクスにおいて、化学増幅型レジスト膜を成膜し、所定のレジストパターンを形成しようとしたところ、所望のレジストパターンを形成することができなかった。ここでは、主に、失活現象に起因すると考えられるフッティング(footing)型のレジストパターン障害が生成されていた。
【0126】
さらに、比較例1におけるマスクブランクスを用いて、実施例1と同様に、転写マスクを製造し、ArFエキシマレーザ光で露光を行ったところ、転写マスク上には、硫酸アンモニウムを主成分とする異物が生成されてしまい、正常なパターン転写を行うことができなかった。
【0127】
〔比較例2〕
この比較例2においては、実施例1における有機物質分解処理工程に代えて、オゾン水を洗浄液として用いて湿式洗浄処理を行った。この点以外は、実施例1と同様にマスクブランクスを製造した。結果は〔表1〕に示す。
【0128】
比較例2におけるマスクブランクスは、実施例1と比較して、表面の異物欠陥が多く、マスクブランクスとしての所定規格を満足することができなかった。TOF−SIMSの分析結果から、オゾン水による洗浄処理後において有機物質系の異物が55%乃至70%残留しており、主に、有機物質系の異物を十分に除去することができていないことが原因であると考えられえる。
【0129】
なお、洗浄液としてオゾン水を用いる場合には、このオゾン水の扱いが困難であるという問題もある。
【0130】
マスクブランクス表面の濡れ性を表面張力試験試薬を用いて分析したところ、レジスト液を塗布成膜するのに十分な濡れ性が確保されていなかった。特に、化学増幅型レジストなどの、有機レジスト剤に対する濡れ性は不十分であった。
【0131】
そして、比較例2におけるマスクブランクスにおいて、実施例1と同様に、化学増幅型の有機レジスト膜を湿式成膜しようとしたところ、均一に成膜することができなかった。これは、マスクブランクスの表面の有機物質(異物)が十分に除去されていないために、マスクブランクスの表面が有機レジスト液をはじき易くなっているためであると考えられる。
【符号の説明】
【0132】
1 基板、2 位相シフト膜、3 遮光膜、4 レジスト膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、この基板上に成膜されたマスクパターンを形成するための薄膜とを有するマスクブランクスの製造方法であって、
前記マスクブランクスは、ArFエキシマレーザ光以上の量子エネルギを有する露光光で使用される転写マスクの製造に用いられるものであり、
前記薄膜をスパッタリング法により成膜する工程と、
前記薄膜の表面にArFエキシマレーザ光以上の量子エネルギを有するエキシマ光を直接照射する工程と、
前記薄膜の表面に純水を供給して湿式洗浄を行う工程と、
をこの順に行うことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記湿式洗浄を行う工程を行った後に、前記薄膜上に化学増幅型レジスト膜を成膜する工程を備えることを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記エキシマ光は、波長が193nm以下、かつ量子エネルギが6.4eV以上であることを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記純水は、逆浸透膜処理水または限外濾過膜処理水に対し、さらにイオン交換処理を行った水であることを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記エキシマ光を直接照射する工程は、酸化性のガスを含有する雰囲気中において行うことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記エキシマ光を直接照射する工程は、NHイオンが2μg/m以下、かつSO2−イオンが2μg/m以下の雰囲気中において行うことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記薄膜は、酸素または窒素を含有する金属遮光膜または金属位相シフト膜であることを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のマスクブランクスの製造方法により製造されたマスクブランクスを用い、このマスクブランクスの前記薄膜に、所定のマスクパターンを形成することを特徴とする転写マスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−244075(P2010−244075A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154196(P2010−154196)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【分割の表示】特願2003−384179(P2003−384179)の分割
【原出願日】平成15年11月13日(2003.11.13)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】