説明

マルチチャンバー型真空処理装置

【課題】 真空排気系が簡素化された、しかもコストの安いマルチチャンバー型真空処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】 被処理物1を搬入・搬出するロードロック室3と前記ロードロック室3及び所定の処理をするプロセス室4と、該プロセス室4に隣接して、前記被処理物1を前記プロセス室4との間で搬送するセパレーション室5を備えたマルチチャンバー型真空処理装置であって、真空排気装置として、前記プロセス室4には粗排気装置だけを備え、前記セパレーション室5には高真空排気装置と粗排気装置を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCVD法やPVD法等種々の方法により被処理物品に膜形成、エッチング等の所定の処理を連続的に行う、ロードロック室、処理物を搬送するチャンバー、及び所定のプロセス室を有するマルチチャンバー型真空処置装置であって、該真空処理装置内を真空排気する真空排気装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマCVD法、スパッタリング等のPVD法、エッチング処理などによる所定の処理ができるプロセス室とロードロック室及び被処理物を搬送するチャンバーからなり、それらの室がゲートバルブによって仕切られたマルチチャンバー型真空処理装置は、例えば、特開平5−98435号公報や特開平7−321047号公報に記載されている。
【0003】
このような従来のマルチチャンバー型真空処理装置で、プロセス室が一つの場合についての概略構成図を図1に示す。
【0004】
図1において、2は搬送アームであり、1は該搬送アーム2に載置された被処理物、3は被処理物1を搬入又は搬出するためのロードロック室、4は被処理物1に種々の処理をするプロセス室、5は被処理物1をプロセス室4に搬送するためのセパレーション室(搬送室)(特開平5−98435号公報における従来技術のように、セパレーション室に隣接してプロセス室が複数ある場合はそれぞれのプロセス室で所定の処理をするのに各プロセス室に被処理物を搬送する室であるが、本願ではプロセス室が一つの場合もセパレーション室と呼ぶことにする。)である。
【0005】
また、該セパレーション室5はプロセス室4で所定の処理が終了し、被処理物1をセパレーション室5を通ってロードロック室3に搬送し、被処理物1を搬出する。
6、7はそれぞれセパレーション室5とロードロック室3及びプロセス室4とを真空分離するためのゲートバルブ(GV1)及びゲートバルブ(GV2)である。
【0006】
8はドライポンプであり、ロードロック室3を粗排気するための粗排気装置9である。
10、10´、11、11´はそれぞれメカニカルブースターポンプとドライポンプであり、セパレーション室5及びプロセス室4を粗排気するための粗排気装置12、12´を構成している。
【0007】
13はロードロック室3を粗排気したり、粗排気装置9と真空分離するための粗排気バルブであり。14はセパレーション室5を粗排気したり、粗排気装置12と真空分離するための粗排気バルブである。
【0008】
15は、プロセス室4を高真空にした後、23のガス導入バルブを開いて必要に応じて処理ガスを導入し、プロセス室4を所定の処理圧力に調整するためのコンダクタンス調整用バルブ(CCV1)である。
【0009】
また、16、17はそれぞれセパレーション室5とプロセス室4を高真空引きするための高真空排気ポンプであり、高真空排気ポンプ16及び17は前記メカニカルブースターポンプ10、10´及びドライポンプ11、11´とともに、プロセス室4とセパレーション室5を高真空排気する高真空排気装置18、18´を構成している。19、20は、それぞれ、開閉して、高真空排気装置18、18´によってセパレーション室5及びプロセス室4を高真空排気したり、高真空排気装置18、18´とセパレーション室5及びプロセス室4を真空分離するための主排気バルブ(MV1)、(MV2)である。
この例では、高真空排気ポンプ16,17はターボ分子ポンプで構成されている。
22、22´は粗排気と高真空排気を分離するためのフォアラインバルブである。
【0010】
以上のように、従来のこの種の装置ではセパレーション室5及びプロセス室4が高真空を必要とする場合、高真空引きするためにそれぞれ粗排気装置とともに高真空排気装置が設けられているのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−98435号公報
【特許文献2】特開平7−321047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、高真空排気装置として、例えばドライポンプはセパレーション室とプロセス室は共用できるが、高価な高真空ポンプ(例えばターボ分子ポンプ、クライオポンプ等)がプロセス室毎に必要なため、装置の簡素化ができず、また多大のコストを要していた。特に、高真空プロセス室が多いマルチチャンバー型真空処理装置では著しく高コスト装置となっていた。
【0013】
そこで、本発明では、簡素化された、しかもコストが安く、作業スペースの増床が見込めるマルチチャンバー型真空処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明では、プロセス室に高真空排気装置を配置するのではなく、セパレーション室を高真空に引く高真空排気装置を用いて、プロセス室をも高真空排気するようにした。
【0015】
すなわち、本発明は、被処理物を搬入・搬出するロードロック室と前記ロードロック室及び所定の処理をするプロセス室と、該プロセス室に隣接して、前記被処理物を前記プロセス室との間で搬送するセパレーション室を備えたマルチチャンバー型真空処理装置であって、前記セパレーション室には高真空排気装置と粗排気装置を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
プロセス室に高真空排気装置を配置するのではなく、セパレーション室に備えられた高真空排気装置を用いて、プロセス室をも高真空排気するようにしたので、高価な高真空排気装置の使用台数を大幅に削減出来、それだけ装置も簡素化し、作業スペースも増床し、コストの安いマルチチャンバー型真空処理装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来のマルチチャンバー型真空処理装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態のマルチチャンバー型真空処理装置の概略構成図である。
【図3】本発明の他の実施形態のマルチチャンバー型真空処理装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態を表す装置の概略図を図2に示す。
従来技術として示した図1と同一部分については同一符号で示している。
【0019】
本発明は、図2に示すようにプロセス室4を粗排気装置12´だけとし、プロセス室4を高真空排気するために、セパレーション室5(搬送室)を高真空排気する高真空排気装置18を使用することにある。
【0020】
以上のように構成された本発明のマルチチャンバー型真空処理装置について、以下、被処理物に所定の処理をする場合の動作について説明する。
【0021】
図2において、被処理物1をロードロック室3に搬入される前の本発明真空装置の動作段階から、被処理物1がロードロック室3に搬入され、所定の処理を行い、処理終了後被処理物1がロードロック室3から搬出するまでの各種バルブや真空排気装置の操作手順の概略を順序立てて以下に記載する。
【0022】
(1)セパレーション室5は、予め高真空排気装置18で高真空に排気しておく。
(2)プロセス室4は粗排気装置12´で真空排気しておく。
(3)ロードロック室3に被処理物1を大気圧状態で搬入する。
(4)ロードロック室3を粗排気装置9で粗排気を行い、設定圧力まで粗排気ができたら、粗排気バルブ13を閉じて粗排気を停止させる。
(5)ゲートバルブ(GV1)6を開にし、高真空排気装置18でロードロック室3とセパレーション室5を排気しながら、被処理物1を搬送アーム2を使ってロードロック室3からセパレーション室5に搬入する。
(6)セパレーション室5への搬入が完了した後ゲートバルブ(GV1)6を閉じる。
(7)ゲートバルブ(GV1)6が閉じたことを確認した後、更にプロセス室4が所定の圧力であることを確認した後、コンダクタンス調整用バルブ15を閉じ、その後、ゲートバルブ(GV2)7を開く。
(8)その後、セパレーション室5及びプロセス室4を高真空排気装置18で高真空排気しながら、被処理物1をプロセス室4に搬入する。
(9)被処理物1を搬入し、搬送アームがセパレーション室5に戻ったことを確認した後ゲートバルブ(GV2)7を閉じる。
(10)ガス導入バルブ23を開け、所定の流量で処理に必要なガスを導入する、と同時にコンダクタンス調整用バルブ15で圧力調整を行い、必要な処理圧力に圧力設定する。
(11)プロセス室4内で所定の処理が完了した後、ガス導入バルブ23を閉じ、ガス供給を停止させる。同時にコンダクタンス調整用バルブ15を全開し、所定の圧力まで真空排気する。
(12)その後、コンダクタンス調整用バルブ15を閉じる。
(13)次にゲートバルブ(GV2)7を開け、プロセス室4及びセパレーション室5を高真空排気装置18で高真空排気しながら、搬送アーム2で被処理物1をプロセス室4からセパレーション室5に搬出する。
(14)被処理物1がプロセス室4からセパレーション室5に搬出されたことを確認後、ゲートバルブ(GV2)7を閉じる。このとき、プロセス室4の圧力が粗排気装置による到達真空度より十分高真空である場合、ゲートバルブ(GV2)7を閉じた場合でも、コンダクタンス調整用バルブ15を開けて粗排気装置12´による真空排気を行う必要はない。
(15)また、被処理物1がプロセス室4からセパレーション室5に搬出された際に、既に次の被処理物1´(図示しないが、1´とする。)がセパレーション室5内に搬入されている場合は、被処理物1のプロセス室4から搬出に続いて次の被処理物1をプロセス室4に搬入し、次の被処理物1´を搬入した搬送アーム5がセパレーション室5に戻ったことを確認した後、ゲートバルブ(GV2)7を閉じ、プロセス室4で次に処理を行ってもよい。
(16)ゲートバルブ(GV2)7を閉じたことを確認した後、ロードロック室3が所定の圧力に真空排気されていることを確認した後、ゲートバルブ(GV1)6を開ける。
(17)ロードロック室3とセパレーション室5を高真空排気装置18で高真空排気しながら、被処理物1をセパレーション室5からロードロック室3に搬出する。
(18)被処理物1がロードロック室3に搬出され、搬送アーム2がセパレーション室5に戻ったことを確認した後、ゲートバルブ(GV1)6を閉じる。
(19)ゲートバルブ6が閉じたことを確認した後、図示しないベント用ガス導入ラインからベント用ガスをロードロック室3に導入し、ロードロック室3を大気圧にする。
(20)大気圧に戻ったロードロック室3から図示しない大気側搬送アームにより処理された被処理物1を搬出する。
(21)なお、処理された被処理物1をセパレーション室5からロードロック室3に搬出する際に、既に次の被処理物1´´(図示しないが、1´´とする。)が粗排気されたロードロック室3内にある場合は、処理済被処理物1をロードロック室3に搬出する前に図示しない別の搬送アーム2´で被処理物1´´をセパレーション室5に搬入した後、被処理物1をロードロック室3に搬出してもよい。
【0023】
次に、他の実施形態として、プロセス室がセパレーション室(搬送室)に隣接して複数ある場合の概略図を図3に示す。この実施形態では4つのプロセス室4、4a、4b、4cがある場合を示している。
【0024】
これらのプロセス室はゲートバルブ(GV2)7、7a、7b、7cを介してセパレーション室5に連接し、コンダクタンス調整用バルブ15、15a、15b、15cを介して粗排気装置12´、12´a、12´b、12´cを有している。
セパレーション室5は粗排気装置12及び高真空排気装置18により、ゲートバルブ(GV2)7、7a、7b、7cを開いて4つのプロセス室とともに高真空排気される。
【0025】
この4つのプロセス室4、4a、4b、4cは、種々の所定の処理、すなわち、プラズマCVD法、MOCVD法、スパッタリング等のPVD法による成膜 、種々の被膜の積層膜の成膜、あるいはエッチング処理等をするプロセス室を例示できる。
【0026】
一つのプロセス室で所定の処理をした後は前記実施形態で示したような各種バルブ操作や真空排気動作を繰り返して行い、連続的に搬送アーム2で被処理物1を次々に他のプロセス室へ搬送して、所望の処理を行う。
【0027】
なお、以上のような実施形態では高真空排気装置として、ターボ分子ポンプを示したが、これに限らずクライオポンプ等を用いてもよい、また、セパレーション室に別に主排気バルブを設けて、クライオポンプ等を配設して、ターボ分子ポンプとともに並行して用いてもよい。
【0028】
また、セパレーション室に隣接して、ロードロック室及びプロセス室が多角形的に配置されたマルチチャンバー型真空処理装置(クラスター型真空処理装置)でもよいことは勿論のことである。
【0029】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらはあくまで1,2の実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
プラズマCVD法、スパッタリング等のPVD法、エッチング処理等による任意の処理が生産性よくできるマルチチャンバー型装置として利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 被処理物
2 搬送アーム
3 ロードロック室
4、4a、4b、4c プロセス室
5 セパレーション室
6 ゲートバルブ(GV1)
7、7a、7b、7c ゲートバルブ(GV2)
8 ロードロック室を粗排気するドライポンプ
9 ロードロック室を粗排気する粗排気装置
10、10´、10a、10b、10c メカニカルブースターポンプ
11、11´、11a、11b、11c ドライポンプ
12、12´12´a、12´b、12´c 粗排気装置
13,14 粗排気バルブ
15、15a、15b、15c コンダクタンス調整用バルブ(CCV1)
16、17 高真空排気ポンプ(ターボ分子ポンプ)
18、18´ 高真空排気装置
19 主排気バルブ(MV1)
20 主排気バルブ(MV2)
21、22、22´ フォアラインバルブ
23、23a、23b、23c ガス導入バルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を搬入・搬出するロードロック室と所定の処理をするプロセス室と、
該プロセス室に隣接して、前記被処理物を前記ロードロック室及び前記プロセスとの間で搬送するセパレーション室を備えたマルチチャンバー型真空処理装置であって、
前記セパレーション室には粗排気装置と高真空排気装置とを備え、
前記プロセス室には粗排気装置を備えていることを特徴とするマルチチャンバー型真空処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−209321(P2012−209321A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72115(P2011−72115)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】