説明

モータの診断方法

【課題】 オイルの劣化状態等を容易に計測することができ、減速機の故障を防止できるかまたはモータの冷却効果を高く維持することができ、また車両のメンテナンスを促すことができる電気自動車用駆動モータの診断装置および診断方法を提供する。
【解決手段】 車両の電源が投入されている非走行時に、オイルの汚染度合い、劣化度合い、およびオイル量の少なくともいずれか1つの検出項目の検出を行うオイル劣化等検出手段37を設ける。オイル劣化等検出手段37で検出される検出値が設定範囲から外れるとき、オイル供給システムの異常を出力するか、またはモータ6の回転始動を許可しない異常時制御手段40を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車用駆動モータの診断装置および診断方法に関し、減速機の潤滑またはモータの冷却に用いられるオイルを供給するオイル供給システムの自己診断機能に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車では、車両駆動のためのモータおよびこれを制御するコントローラの故障は、走行性、安全性に大きく影響する。特に、電気自動車において、インホイールモータ駆動装置を用いた場合、同装置のコンパクト化を図る結果、この構成部品である車輪用軸受、減速機、およびモータは、高速回転化を伴うため、これらの信頼性確保が重要な課題となる。
従来、インホイールモータ駆動装置において、車両の走行時、信頼性確保のために、車輪用軸受、減速機、およびモータ等の温度を測定して過負荷を監視し、温度測定値に応じてモータの駆動電流の制限や、モータ回転数を低下させるものが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−168790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インホイールモータ型の電気自動車では、各輪独立に応答性の高いモータが取り付けられている。特に、電気自動車の駆動源であるモータの駆動トルクを、高い減速比を有する減速機を介してホイールにトルク伝達する場合、モータ制御の不安定化を原因としたモータのトルクは、拡大されてホイールにトルク伝達される。このため、このモータ、減速機の故障時には、安定した車両姿勢を保つことができるように、その状況に応じた対応が必要となる。
【0005】
モータは、そのロータおよびステータを直接オイルで冷却し、またこのオイルで減速機の潤滑および冷却を行っている。減速機の故障を防ぐためには、前記オイルの汚染状態、劣化状態、またはオイル量を把握し、規定値から外れたとき警告を発し、車両のメンテナンスを促す必要があった。しかしながらオイルは、減速機の回転中には空気が混入し、オイルの劣化状態等を計測することが難しい。
上記のように、インホイールモータ駆動装置において、車両走行時、モータの温度を測定して過負荷を監視し、モータを駆動制限することは行われている。この場合にも、車両走行時、減速機が回転してオイルが泡立ちオイル内に空気が混入するため、オイルの劣化状態等を計測することが難しい。
【0006】
この発明の目的は、オイルの劣化状態等を容易に計測することができ、減速機の故障を防止できるかまたはモータの冷却効果を高く維持することができ、また車両のメンテナンスを促すことができる電気自動車用駆動モータの診断装置および診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の電気自動車用モータの診断装置は、車輪2を駆動するモータ6と、このモータ6の回転を減速する減速機7と、これら減速機7の潤滑およびモータ6の冷却のいずれか一方または両方に用いられるオイルを供給するオイル供給システムとを備えた電気自動車の前記モータ6を診断する診断装置であって、車両の電源が投入されている非走行時に、前記オイルの汚染度合い、劣化度合い、およびオイル量の少なくともいずれか1つの検出項目の検出を行うオイル劣化等検出手段37を設け、このオイル劣化等検出手段37で検出される検出値が設定範囲から外れるとき、オイル供給システムの異常を出力するか、またはモータ6の回転始動を許可しない異常時制御手段40を設けたことを特徴とする。
【0008】
前記「車両の電源が投入されている非走行時」とは、ドライバが車両に乗った後、走行を開始するまでの間である始動時等のように、キー等で車両の全体を制御するECU21等の制御手段に電源が投入されているが、まだモータ6への電力供給を行っていないときや、走行停止のためにモータ6への電力供給は行っていないが、前記車両の全体を制御する手段の電源は投入状態を維持しているときを言う。
【0009】
この構成によると、車両の電源が投入されている非走行時に、オイル劣化等検出手段37は、オイルの汚染度合い、劣化度合い、およびオイル量の少なくともいずれか1つの検出項目を検出する。例えばキー、スタートボタン等の始動手段が、モータ6への電力供給前の「アクセサリ電源」の位置にあるとき、車両の電源が投入されている非走行時であると判断される。また前記始動手段が「オン」の位置にあるとき、電流検出手段35からのモータ電流、または回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報、車載の各センサの情報等からモータ6への電力供給は行っていないと判定されるとき、車両の電源が投入されている非走行時であると判断される。
【0010】
このような車両の電源が投入されている非走行時には、減速機7の回転を停止させてオイルの泡立ちを低減することが可能となり、オイルの劣化状態等を容易に且つ正確に計測することができる。異常時制御手段40は、計測された検出値が設定範囲から外れるとき、オイル供給システムの異常を出力するか、またはモータ6の回転始動を許可しない制御を行う。このように車両を走行させる前段階などで、例えば車両全体の異常チェック時の一つのチェック項目として、または走行開始後の停止時に、オイル供給システムの異常を診断することができる。オイル供給システムの異常と出力された場合、またはモータ6の回転始動が不許可となっている場合、オイル供給システム等の修理に向かうか、この車両の救援を要請することができる。
【0011】
前記オイル劣化等検出手段37は、オイル内の混入空気がオイル外に開放されるまでの時間以上経過した後、前記オイルの検出項目の検出を行うものであっても良い。例えば、走行開始後の停止直後においては、オイル内に空気が混入した状態となっている。このため、オイル内の混入空気がオイル外に開放されるまでの時間以上経過した後、前記オイルの検出項目を検出する。この時間は、実験等により設定される。
【0012】
前記オイル供給システムは、オイルを貯留するタンク46を有し、このタンク46内にオイル劣化等検出手段37の検出部を設けても良い。前記タンク46は、モータ6および減速機7に一体に設けても良いし、別体に設けても良い。オイル劣化等検出手段37の検出部をタンク46内に設けることで、この検出部を容易に設置することができる。タンク46内にオイルを貯留しておくことができるため、始動時、走行停止時のいずれの場合であっても、オイル供給システムの異常診断を安定して行うことができる。
【0013】
前記オイル劣化等検出手段37のうち、オイルの汚染度合いを検出する汚染度合い検出部37aは、オイル内の光透過率の測定手段を有するものであっても良い。オイル内の光透過率は、オイルの汚染度合いに比例する。これらの関係はテーブル等に記憶されている。光ファイバー44により光源43から出射された光をオイル内に導き、例えば、測定手段である受光部45によりオイル内の光透過率を測定する。測定された光透過率を前記テーブル等に照らしてオイルの汚染度合いを容易に検出し得る。
【0014】
前記オイル劣化等検出手段37のうち、オイルの劣化度合いを検出する劣化度合い検出部37bは、オイル内で間隔を空けて設けられる2枚の電極49,49と、これら電極49,49間に交流電圧を印加する検出用電源50と、この検出用電源50により2枚の電極49,49間に交流電圧を印加したときのオイルの誘電率を求める誘電率算出手段51とを有するものであっても良い。検出用電源50により2枚の電極49,49間に交流電圧を印加する。2枚の電極49,49の間隔および平面の面積が既知であるため、誘電率算出手段51は、電極49,49間に介在するオイルの静電容量、電極49,49間の抵抗等からオイルの誘電率を求め得る。このオイルの誘電率に基づき、オイルの劣化度合いを検出することができる。
【0015】
前記オイル劣化等検出手段37は、オイルの温度を検出するオイル温度検出部47と、このオイル温度検出部47で検出されるオイルの温度に基づいてオイルの粘度を求める粘度検出部48とを有するものとしても良い。粘度検出部48にて求められるオイルの粘度が、設定範囲から外れるとき、オイルの劣化や汚染が進行していると考えられ、オイル供給システムに異常ありと推定される。
前記オイル劣化等検出手段37で検出される検出値をローパスフィルタ38aを介して処理した値が、設定範囲から外れるか否かを判定する判定部39を設けたものとしても良い。
【0016】
前記モータ6が、駆動輪である各車輪2毎にそれぞれ設けられるものであっても良い。
前記モータ6は、一部または全体が車輪2内に配置されて前記モータ6と車輪用軸受4と減速機7とを含むインホイールモータ駆動装置8を構成するものであっても良い。インホイールモータ駆動装置8の場合、コンパクト化を図る結果、車輪用軸受4、減速機7、およびモータ6は、高速回転化を伴うため、これらの信頼性確保が重要な課題となる。車両の電源が投入されている非走行時に、オイル劣化等検出手段により前記いずれかの検出項目を検出することで、オイル供給システムの異常を検出できるため、モータおよび減速機の信頼性をより高めることが可能となる。
【0017】
前記減速機7は、モータ6の回転を減速するサイクロイド減速機であっても良い。減速機7をサイクロイド減速機として減速比を例えば1/6以上に高くした場合、モータ6の小型化を図り、装置のコンパクト化を図ることができる。モータ6の駆動トルクを、前記のように高い減速比を有する減速機7を介してホイールにトルク伝達するとき、前記駆動トルクは拡大されてホイールにトルク伝達されるため、モータ6の発熱等に起因するモータ異常の影響、減速機7の潤滑不良の影響が大きくなるが、車両の非走行時において、オイル劣化等検出手段で検出される検出値が設定範囲から外れるとき、オイル供給システムの異常を出力するか、またはモータ6の回転始動を許可しないようにすることで、車両を走行させる前段階で異常を認識することができ、この異常への対処を早期に図ることができる。
【0018】
この発明の電気自動車は、前記いずれかのモータ6により駆動可能に構成されるものである。
【0019】
この発明の電気自動車用駆動モータの診断方法は、車輪2を駆動するモータ6と、このモータ6の回転を減速する減速機7と、これら減速機7の潤滑およびモータ6の冷却のいずれか一方または両方に用いられるオイルを供給するオイル供給システムとを備えた電気自動車の前記モータ6を診断する診断方法であって、車両の電源が投入されている非走行時に、前記オイルの汚染度合い、劣化度合い、およびオイル量の少なくともいずれか1つの検出項目の検出を行う検出過程と、前記検出過程で検出される検出値が設定範囲から外れるとき、オイル供給システムの異常を出力するか、またはモータ6の回転始動を許可しない異常時制御過程とを含む。
【0020】
この構成によると、検出過程では、車両の電源が投入されている非走行時におけるオイルの汚染度合い、劣化度合い、およびオイル量の少なくともいずれか1つの検出項目を検出する。異常時制御過程では、検出値が設定範囲から外れるとき、オイル供給システムの異常を出力するか、またはモータ6の回転始動を許可しない。このように車両を走行させる前段階などで、例えば車両全体の異常チェック時の一つのチェック項目として、または走行開始後の停止時に、オイル供給システムの異常を診断することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明の電気自動車用モータの診断装置は、車輪を駆動するモータと、このモータの回転を減速する減速機と、これら減速機の潤滑およびモータの冷却のいずれか一方または両方に用いられるオイルを供給するオイル供給システムとを備えた電気自動車の前記モータを診断する診断装置において、車両の電源が投入されている非走行時に、前記オイルの汚染度合い、劣化度合い、およびオイル量の少なくともいずれか1つの検出項目を検出するオイル劣化等検出手段を設け、このオイル劣化等検出手段で検出される検出値が設定範囲から外れるとき、オイル供給システムの異常を出力するか、またはモータの回転始動を許可しない異常時制御手段を設けたため、オイルの劣化状態等を容易に計測することができ、減速機の故障を防止できるかまたはモータの冷却効果を高く維持することができ、また車両のメンテナンスを促すことができる。
【0022】
この発明の電気自動車用モータの診断方法は、車輪を駆動するモータと、このモータの回転を減速する減速機と、これら減速機の潤滑およびモータの冷却のいずれか一方または両方に用いられるオイルを供給するオイル供給システムとを備えた電気自動車の前記モータを診断する診断方法において、車両の電源が投入されている非走行時に、前記オイルの汚染度合い、劣化度合い、およびオイル量の少なくともいずれか1つの検出項目を検出する検出過程と、前記検出過程で検出される検出値が設定範囲から外れるとき、オイル供給システムの異常を出力するか、またはモータの回転始動を許可しない異常時制御過程とを含むため、オイルの劣化状態等を容易に計測することができ、減速機の故障を防止できるかまたはモータの冷却効果を高く維持することができ、また車両のメンテナンスを促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。
【図2】同電気自動車用駆動モータの診断装置の概念構成のブロック図である。
【図3】同診断装置の汚染度合い検出部等のブロック図である。
【図4】オイルを透過する光の透過距離と透過光強度との関係を示す図である。
【図5】オイルの温度と粘度との関係を示す図である。
【図6】同診断装置の劣化度合い検出部等のブロック図である。
【図7】同診断装置の要部のブロック図である。
【図8】同電気自動車におけるインホイールモータ駆動装置の破断正面図である。
【図9】図8のIX-IX 線断面となる減速機部分の断面図である。
【図10】図8の要部を部分的に拡大して示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の第1の実施形態に係る電気自動車用駆動モータの診断装置およびその診断方法を図1ないし図10と共に説明する。この駆動モータの診断装置は、電気自動車に搭載されている。この電気自動車は、図1に示すように、車体1の左右の後輪となる車輪2が駆動輪とされ、左右の前輪となる車輪3が従動輪の操舵輪とされた4輪の自動車である。駆動輪および従動輪となる車輪2,3は、いずれもタイヤを有し、それぞれ車輪用軸受4,5を介して車体1に支持されている。車輪用軸受4,5は、図1ではハブベアリングの略称「H/B」を付してある。駆動輪となる左右の車輪2,2は、それぞれ独立の走行用のモータ6,6により駆動される。モータ6の回転は、減速機7および車輪用軸受4を介して車輪2に伝達される。これらモータ6、減速機7、および車輪用軸受4は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ駆動装置8を構成しており、インホイールモータ駆動装置8は、一部または全体が車輪2内に配置される。インホイールモータ駆動装置8は、インホイールモータユニットとも称される。各車輪2,3には、電動式のブレーキ9,10が設けられている。
【0025】
左右の前輪となる操舵輪である車輪3,3は、転舵機構11を介して転舵可能であり、操舵機構12により操舵される。転舵機構11は、タイロッド11aを左右移動させることで、車輪用軸受5を保持した左右のナックルアーム11bの角度を変える機構であり、操舵機構12の指令によりEPS(電動パワーステアリング)モータ13を駆動させ、回転・直線運動変換機構(図示せず)を介して左右移動させられる。操舵角は操舵角センサ15で検出し、このセンサ出力はECU21に出力され、その情報は左右輪の加速・減速指令等に使用される。
【0026】
制御系を説明する。図1に示すように、制御装置U1は、自動車全般の制御を行う電気制御ユニットであるECU21と、このECU21の指令に従って走行用のモータ6の制御を行うインバータ装置22とを有する。前記ECU21と、インバータ装置22と、ブレーキコントローラ23とが、車体1に搭載されている。ECU21は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。
【0027】
ECU21は、機能別に大別すると駆動制御部21aと一般制御部21bとに分けられる。駆動制御部21aは、アクセル操作部16の出力する加速指令と、ブレーキ操作部17の出力する減速指令と、操舵角センサ15の出力する旋回指令とから、左右輪の走行用モータ6,6に与える加速・減速指令を生成し、インバータ装置22へ出力する。駆動制御部21aは、上記の他に、出力する加速・減速指令を、各車輪2,3の車輪用軸受4,5に設けられた回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報や、車載の各センサの情報を用いて補正する機能を有していても良い。アクセル操作部16は、アクセルペダルとその踏み込み量を検出して前記加速指令を出力するセンサ16aとでなる。ブレーキ操作部17は、ブレーキペダルとその踏み込み量を検出して前記減速指令を出力するセンサ17aとでなる。
【0028】
ECU21の一般制御部21bは、前記ブレーキ操作部17の出力する減速指令をブレーキコントローラ23へ出力する機能、各種の補機システム25を制御する機能、コンソールの操作パネル26からの入力指令を処理する機能、表示手段27に表示を行う機能などを有する。前記補機システム25は、例えば、エアコン、ライト、ワイパー、GPS、エアバッグ等であり、ここでは代表して一つのブロックとして示す。
【0029】
ブレーキコントローラ23は、ECU21から出力される減速指令に従って、各車輪2,3のブレーキ9,10に制動指令を与える手段である。ECU21から出力される制動指令には、ブレーキ操作部17の出力する減速指令によって生成される指令の他に、ECU21の持つ安全性向上のための手段によって生成される指令がある。ブレーキコントローラ23は、この他にアンチロックブレーキシステムを備える。ブレーキコントローラ23は、電子回路やマイコン等により構成される。
【0030】
インバータ装置22は、各モータ6に対して設けられたパワー回路部28と、このパワー回路部28を制御するモータコントール部29とで構成される。モータコントール部29は、各パワー回路部28に対して共通して設けられていても、別々に設けられていても良いが、共通して設けられた場合であっても、各パワー回路部28を、例えば互いにモータトルクが異なるように独立して制御可能なものとされる。モータコントール部29は、このモータコントール部29が持つインホイールモータ8に関する各検出値や制御値等の各情報(「IWMシステム情報」と称す)をECU21に出力する機能を有する。
【0031】
図2は、この電気自動車用駆動モータの診断装置の概念構成のブロック図である。パワー回路部28は、バッテリ19の直流電力をモータ6の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ31と、このインバータ31を制御するPWMドライバ32とで構成される。モータ6は3相の同期モータ等からなる。インバータ31は、複数の半導体スイッチング素子(図示せず)で構成され、PWMドライバ32は、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0032】
モータコントール部29は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成され、その基本となる制御部としてモータ駆動制御部33を有している。モータ駆動制御部33は、上位制御手段であるECUから与えられるトルク指令等による加速・減速指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部28のPWMドライバ32に電流指令を与える手段である。モータ駆動制御部33は、インバータ31からモータ6に流すモータ電流値を電流検出手段35から得て、電流フィードバック制御を行う。また、モータ駆動制御部33は、モータ6のロータの回転角を角度センサ36から得て、ベクトル制御等の回転角に応じた制御を行う。
【0033】
モータ6の診断装置について説明する。
この実施形態では、図2に示すように、上記構成のモータコントロール部29に、次のオイル劣化等検出手段37、ローパスフィルタ38a,検出回路38b、判定部39、異常時制御手段40、および異常報告手段41を設け、ECU21に異常表示手段42を設けている。この実施形態におけるモータ6の診断装置は、これらオイル劣化等検出手段37、ローパスフィルタ38a,検出回路38b、判定部39、異常時制御手段40、異常報告手段41、および異常表示手段42を有する。前記電気自動車は、この例では減速機7の潤滑およびモータ6の冷却の両方に用いられるオイルを供給するオイル供給システム(図8乃至図10と共に後述する)を備えている。
【0034】
オイル劣化等検出手段37は、車両の電源が投入されている非走行時に、減速機7を潤滑しモータ6を冷却するオイルの汚染度合い、劣化度合い、およびオイル量の少なくともいずれか1つの検出項目を検出する。前記「車両の電源が投入されている非走行時」とは、この電気自動車のECU21に電源が投入されていて、車両が完全に停止している状態を言い、例えば、(1)ドライバ等がキー、スタートボタン等の始動手段を、「オフ」からモータ6への電力供給前の「アクセサリ電源」の位置に操作してECU21がオンとなったときや、(2)ECU21がオンの状態で前記始動手段を「オン」の位置に操作しているが、ECU21がモータ6への加速指令を生成していない場合、および、回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報、車載の各センサの情報等から車両が走行停止状態にあると判定されるときを言い、ECU21に微小電流が流れてオンになっているが、車両にドライバ等が乗車せずに車両のセキュリティがオンとなったロック状態にあるときは含まない。
またオイル劣化等検出手段37は、オイル内の混入空気がオイル外に開放されるまでの時間以上経過した後、前記オイルの検出項目を検出する。例えば、走行開始後の停止直後においては、オイル内に空気が混入した状態となっている。このため、オイル内の混入空気がオイル外に開放されるまでの時間以上経過した後、前記オイルの検出項目を検出する。この時間は、実験等により設定される。
【0035】
前記始動手段が「アクセサリ電源」または「オン」の位置にあるとき、ECU21がオンになっていると判定される。ECU21がオンと判定され、且つ、電流検出手段35からのモータ電流、または回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報、車載の各センサの情報等からモータ6への電力供給は行っていないと判定されるとき、車両の電源が投入されている非走行時であると判断される。
オイル劣化等検出手段37は、この例では、オイルの汚染度合いを検出する汚染度合い検出部37aと、オイルの劣化度合いを検出する劣化度合い検出部37bと、オイル量を検出するオイル量検出部37cとを含む。各検出部37a,37b,37cにて検出される検出値が設定範囲から外れるか否かを判定する判定部39がそれぞれ設けられている。前記異常時制御手段40は、各判定部39にて検出値が設定範囲から外れたと判定したとき、オイル供給システムの異常を出力すると共にモータ6の回転始動を許可しない制御を行う。
【0036】
図3は、診断装置の汚染度合い検出部等を示すブロック図である。同図に示すように、汚染度合い検出部37aは、光源43と、この光源43から出射された光をオイル内に導き、さらに受光部45へ導く光ファイバー44,44と、この光ファイバー44,44で導かれた光の前記オイル内の光透過率を測定する測定手段である受光部45とを有する。光源43として、例えば、発光ダイオード、白熱電球、半導体レーザダイオード、エレクトロルミネッセンス;略称EL、有機EL、蛍光管等を用いることができる。受光部45として、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスタ、太陽電池、光電子増倍管等を用いることができる。
【0037】
オイルの汚染の要因として、オイル内に摩耗粉等の混入物が増えることがある。オイル内に混入物が増えると、光の透過率が変化するため、オイル内の光透過率を測定することで、オイルの汚染度合いを検出する。オイルを透過する光の強度は、透過した距離によって大きく減衰する。これら透過光強度と透過距離との間には、図4に示す関係がある。この関係は、透過光強度つまり透過光量をI、透過距離をx、オイルへの入射光量をIinとすると、αを定数として、
I=Iin・exp(−αx) …(1)
となる。前記式(1)における定数αの値は、オイルの状態によって変化する。例えば、減速機7の回転に伴い摩耗粉等の異物がオイル内に混入した場合、その異物の混入量が増加するに従い前記定数αが大きくなる。また、オイルが劣化すると酸化、変色が進行するので、その劣化状態が進行するにつれて前記定数αが大きくなる。したがって試験により、光源43からの入射光量、透過距離を適宜設定して、前記オイル供給システムにおけるオイルを交換した直後の透過光強度を記憶しておき、この基準となる透過光強度Iと、検出された透過光強度Iとの比(検出された透過光強度I/基準となる透過光強度I)を求めることで、光透過率を測定し得る。
【0038】
図3に示すように、オイル供給システムは、減速機7の潤滑用およびモータ6の冷却用のオイルを貯留するタンク46を有する。このタンク46内に、光ファイバー44,44の各一端を対向状に離隔し前記透過距離xを確保するように設けている。光ファイバー44,44の一端間にオイルが介在するように、光ファイバー44,44をタンク46に設けている。光源43から出射された光が一方の光ファイバー44を通ってタンク46内に存在する前記オイルを透過し、他方側の光ファイバー44を経由して受光部45で検出される。この受光部45において、検出された透過光強度Iと基準となる透過光強度Iとの比I/Iが求められ光透過率が測定される。測定された光透過率は光電変換されて電気信号である検出値が、後述の判定部39による判定に供される。
なお、検出対象となるオイルの両側の光ファイバー44,44は、それぞれ端面がライン状または平面状に並ぶように複数対向させて設けても良い。この場合、受光側において十分な受光面積を確保できるので、受光部45で十分な受光強度を得ることができる。したがって、受光部45にて光透過率を安定して測定することができる。
【0039】
図3に示すように、汚染度合い検出部37aは、オイルの温度を検出するオイル温度検出部47と、このオイル温度検出部47で検出されるオイルの温度に基づいてオイルの粘度を求める粘度検出部48とを有する。ここで図5は、オイルの温度と粘度との関係を示す図である。一般的にオイルの温度が高くなるに従って、オイルの粘度は低くなる。また、オイル交換後一定時間経過した後のオイル粘度は、オイルを交換した直後のオイル粘度よりも粘度が低くなる。オイル交換後一定時間経過した後のオイルは、オイルの劣化、汚染が進行したとみなすことができる。このため図5に示す、一定時間経過毎のオイルの温度と粘度との関係をテーブル等として記憶しておき、粘度検出部48は、オイル温度検出部47で検出されるオイルの温度と、検出時における経過時間とを前記テーブル等に照らしてオイル粘度を求め得る。したがって、求めたオイル粘度によって、オイルの汚染度合いを検出することができる。なおECU21は、水晶発振器や発振回路等のクロック源21cを有し、このクロック源21cはオイル交換後の経過時間を計測する。オペレータは、例えば、コンピュータ等を用いてECU21にアクセスして、オイル交換毎に前記経過時間をリセットすることができる。
【0040】
オイルに例えば水分が混入することに起因してオイルが劣化すると、オイルの電気的特性のうち誘電率が大きく変化する。
図6に示すように、劣化度合い検出部37bは、オイル内で間隔を空けて設けられる2枚の電極49,49と、これら電極49,49間に交流電圧を印加する検出用電源50と、この検出用電源50により2枚の電極49,49間に交流電圧を印加したときのオイルの誘電率を求める誘電率算出手段51とを有する。ここで、2枚の電極49,49および電極49,49間に介在するオイルの等価回路として、静電容量Cと抵抗Rとが並列接続された並列回路を仮定する。前記静電容量Cは、電極49,49間に介在するオイルの静電容量値に相当する。2枚の電極49,49の間隔および平面の面積が既知であるため、誘電率算出手段51は、電極49,49間に介在するオイルの静電容量Cおよび電極49,49間の抵抗Rからオイルの誘電率εを求め得る。電極49,49間の抵抗Rは、印加した交流電圧を計測する電圧センサ52と、電極49,49間に交流電圧を印加したときに流れる電流を計測する電流センサ53とにより求めることができる。
【0041】
誘電率算出手段51により求めたオイルの誘電率εに基づき、オイルの劣化度合いを検出することが可能となる。なお劣化度合い検出部37bは、前述のオイル温度検出部47と粘度検出部48とを有する構成としても良い。
また図2に示すように、オイル量検出部37cは、液体の水位制御に用いられる磁気式、光学式、電極式、超音波式の液面レベルセンサから成る。この液面レベルセンサがタンク46(図6)内に設けられ、車両の電源が投入されていない非走行時に、前記タンク46内で定められた上限値と下限値の間に液面レベルが収まっているか否かを判定部39にて判定する。
【0042】
図7は、この診断装置の要部のブロック図である。この診断装置は、ローパスフィルタ38aおよび検出回路38bを有する。同図に示すように、前述の汚染度合い検出部37a、劣化度合い検出部37b、およびオイル量検出部37cで検出された各検出値は、前記ローパスフィルタ38aを介して処理され、このローパスフィルタ38aを通過した信号を検出回路にて検出する。ローパスフィルタ38aのカット周波数は、インホイールモータ駆動装置8等の構成に応じて適宜設定され、例えば数10Hz等とされる。
【0043】
判定部39は、各検出値に応じて設定範囲を定める範囲設定手段39aと、比較手段39bとを有する。比較手段39bは、検出回路38bの出力する検出値と設定範囲とを比較し、前記検出値が設定範囲を超えたか否かを判定する。受光部45にて測定された光透過率が光電変換された電気信号E1は、ローパスフィルタ38aおよび検出回路38bを介して出力される。前記比較手段39bは、この出力された検出値と設定範囲とを比較する。この場合の設定範囲は、実験、シミュレーション等により適宜定める。例えば、モータ6を規定の回転数で一定時間回転させ走行停止した後、オイル温度検出部47で検出されるオイルの温度が、所望の温度以下に低下しない場合の電気信号をローパスフィルタ38aおよび検出回路38bを介して出力した値を、設定範囲とする。誘電率算出手段51にて算出されたオイルの誘電率εは、ローパスフィルタ38aおよび検出回路38bを介して出力され、この出力された検出値と設定範囲とを比較手段39bで比較する。この場合の設定範囲も、前記と同様に、実験、シミュレーション等により適宜定める。例えば、モータ6を規定の回転数で一定時間回転させ走行停止した後、オイル温度検出部47で検出されるオイルの温度が、所望の温度以下に低下しない場合の誘電率εに比例する電気信号をローパスフィルタ38aおよび検出回路38bを介して出力した値を、設定範囲とする。オイル量やオイル粘度を比較する場合の設定範囲についても同様に定められる。
【0044】
異常時制御手段40は、比較手段39bが設定範囲を超えたことを示す信号の出力に応答して、オイル供給システムの異常を出力するか、またはモータ6の回転始動を許可しない制御を行う。図2に示すように、異常報告手段41は、オイル供給システムの異常を表す信号を異常時制御手段40から受け、ECU21に異常発生情報を出力する。モータ駆動制御部33は、前記信号の出力に応答して、インバータ装置22の出力するモータトルク指令またはモータ電流を制限することで、モータ6の回転始動を不許可とする。
【0045】
作用効果について説明する。
車両の電源が投入された非走行時、具体的には、ドライバ等がキー、スタートボタン等の始動手段を、「オフ」から、補機システム25、例えば、ライト、ワイパー等を駆動可能な「アクセサリ電源」の位置に操作してECU21がオンとなったとき、オイル劣化等検出手段37は、オイルの汚染度合い、劣化度合い、およびオイル量の少なくともいずれか1つの検出項目を検出する。このような車両の電源が投入されている非走行時には、減速機7の回転を停止させてオイルの泡立ちを低減することが可能となり、オイルの汚染度合い、劣化度合い、およびオイル粘度を容易に且つ正確に計測することができる。
【0046】
しかも、オイル劣化等検出手段37は、オイル内の混入空気がオイル外に開放されるまでの時間以上経過した後、前記オイルの検出項目を検出するため、例えば、走行開始後の停止直後のオイル内に空気が混入した状態での誤検出を防ぐことができる。したがって、オイルの汚染度合い、劣化度合い、およびオイル粘度をより正確に計測し得る。また、前記非走行時には、減速機7の回転を停止させると共に、オイル供給システムの回転ポンプ54(図8)も回転停止させるため、オイルの循環が停止されてタンク46内のオイル液面を波立たせることなく安定させることが可能となる。このため、オイル量検出部37cによりタンク46内のオイル量を正確に検出することができる。
【0047】
異常時制御手段40は、計測された検出値が設定範囲から外れるとき、オイル供給システムの異常を出力すると共にモータ6の回転始動を許可しない制御を行う。このように車両を走行させる前段階などで、例えば車両全体の異常チェック時の一つのチェック項目として、または走行開始後の停止時に、オイル供給システムの異常を診断することができる。オイル供給システムの異常と出力された場合、またはモータ6の回転始動が不許可となっている場合、オイル供給システム等の修理に向かうか、この車両の救援を要請することができる。
【0048】
図3に示すように、タンク46内に光ファイバー44,44の各一端を設けたり、図6に示すようにタンク46内に電極49,49を設けている。このようにタンク46内に検出部を容易に設置することができる。タンク46内にオイルを貯留しておくことができるため、始動時、走行停止時のいずれの場合であっても、オイル供給システムの異常診断を安定して行うことができる。
【0049】
図8は、この電気自動車におけるインホイールモータ駆動装置8の破断正面図である。同図に示すように、インホイールモータ駆動装置8は、車輪用軸受4とモータ6との間に減速機7を介在させ、車輪用軸受4で支持される駆動輪である車輪2(図2)のハブとモータ6(図8)のモータ側回転部材54とを同軸心上で連結してある。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0050】
モータ6は、筒状のモータハウジング55に固定したモータステータ56と、モータ側回転部材54に取り付けたモータロータ57との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のIPMモータ(すなわち埋込磁石型同期モータ)である。ロータ57は、ロータ部57aと、円筒状の中空部57bとを有する。ロータ57の内側には、このロータ57に連結されて同ロータ57と一体回転するモータ側回転部材54が設けられている。このモータ側回転部材54はモータ6の駆動力を減速機7に伝達するものである。モータハウジング55には、軸方向に離隔して軸受58a,58bが設けられ、これら軸受58a,58bに前記中空部57bが嵌合されている。これによりロータ57は、モータハウジング55に回転自在に支持される。
【0051】
モータ側回転部材54は、モータ6から減速機7にわたって配置され、減速機7内に偏心部59a,59bを有する。モータ側回転部材54は、モータ6側の一端がロータ57の中空部57bに嵌合され、減速機7側の他端が軸受58cによって支持される。偏心部59a,59bは、偏心運動による遠心力が互いに打ち消されるように180°位相をずらして設けられている。
【0052】
減速機7は、減速比が1/6以上のものであるのが良い。この減速機7は、曲線板60a,60bと、複数の外ピン61と、運動変換機構と、カウンタウェイト62,62とを有する。曲線板60a,60bは、前記偏心部59a,59bにそれぞれ回転自在に設けられる。モータハウジング55には、複数の外ピン61が支持され、曲線板60a,60bの外周に転接するようになっている。前記運動変換機構は、曲線板60a,60bの自転運動をインボード側材63に伝達する機構である。つまり運動変換機構は、図8および図9に示すように、インボード側材63に設けられた複数の内ピン64と、曲線板60a,60bに設けられた貫通孔65とを有する。内ピン64は、インボード側材63の回転軸心を中心として円周方向に等間隔に配設されている。各内ピン64の軸方向一端部がインボード側材63に螺着されて固定されている。モータ側回転部材54における、偏心部59a,59bに隣接する軸方向位置に、それぞれカウンタウェイト62,62が設けられている。
【0053】
車輪用軸受4は、内周に複列の転走面66を形成した外方部材67と、これら各転走面66に対向する転走面68を外周に形成した内方部材69と、これら外方部材67および内方部材69の転走面66,68間に介在した複列の転動体70とで構成される。内方部材69は、駆動輪を取り付けるハブを兼用する。この車輪用軸受4は、複列のアンギュラ玉軸受とされていて、転動体70はボールからなり、各列毎に保持器71で保持されている。上記転走面66,68は断面円弧状であり、各転走面66,68は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材67と内方部材69との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材72でシールされている。
【0054】
外方部材67は静止側軌道輪となるものであって、減速機7のアウトボード側のハウジングに取り付けるフランジ67aを有し、全体が一体の部品とされている。フランジ67aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔が設けられている。また、前記ハウジングには,ボルト挿通孔に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔が設けられている。ボルト挿通孔に挿通した取付ボルトをボルト螺着孔に螺着させることにより、外方部材67が前記ハウジングに取り付けられる。
【0055】
内方部材69は回転側軌道輪となるものであって、車輪取付用のハブフランジ73aを有するアウトボード側材73と、このアウトボード側材73の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材73に一体化されたインボード側材63とでなる。これらアウトボード側材73およびインボード側材63に、前記各列の転走面68が形成されている。インボード側材63の中心には貫通孔63aが設けられている。ハブフランジ73aには、周方向複数箇所にハブボルト74の圧入孔が設けられている。アウトボード側材73のハブフランジ73aの根元部付近には、駆動輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部がアウトボード側に突出している。このパイロット部の内周には、前記貫通孔63aのアウトボード側端を塞ぐキャップ75が取り付けられている。
【0056】
オイル供給システムについて説明する。
図8および図10に示すように、オイル供給システムは、油路76と、オイル供給口77と、オイル排出口78と、タンク46と、回転ポンプ54と、循環油路79と、冷却手段80とを有する。油路76は、モータ側回転部材54の内部における、インボード側端からアウトボード側に軸方向に延びる。オイル供給口77は、図10に示すように、油路76のうち偏心部59a,59bが設けられる軸方向位置から、モータ側回転部材54の外径面に向かってそれぞれ半径方向外方に延びている。
【0057】
図9に示すように、モータハウジング55のうち減速機7が設けられる軸方向位置には、オイル排出口78が少なくとも一箇所設けられている。このオイル排出口78は、減速機内部のオイルを排出するものである。図8に示すように、前記循環油路79は、オイル排出口78から排出されたオイルを油路76に還流させる油路である。
前記回転ポンプ54は、オイル排出口78と循環油路79との間の油路途中に設けられ、オイルを強制的に循環させている。回転ポンプ54は、例えば、インボード側材63の回転により回転するインナーロータ54aと、このインナーロータ54aの回転に伴って従動回転するアウターロータ54bと、図示外のポンプ室と、オイル排出口78に連通する吸入口と、循環油路79に連通する吐出口とを有するサイクロイドポンプである。
【0058】
インナーロータ54aがインボード側材63の回転により回転すると、アウターロータ54bは従動回転する。このときインナーロータ54aおよびアウターロータ54bはそれぞれ異なる回転中心を中心として回転することで、前記ポンプ室の容積が連続的に変化する。これにより、前記吸入口から流入したオイルが前記吐出口から循環油路79に圧送される。
【0059】
オイル排出口78と回転ポンプ54との間の油路途中に、オイルを一時的に貯留するタンク46が設けられている。高速回転時において、回転ポンプ54によって排出しきれないオイルを、前記タンク46に貯留しておくことで、減速機7のトルク損失の増加を防止し得る。低速回転時においては、オイル排出口78に到達するオイルが少なくなっても、タンク46に貯留されているオイルを、油路79に還流するため、減速機7に安定してオイルを供給し得る。モータハウジング55のうち減速機7が設けられる軸方向位置に、タンク46が取り付けられている。減速機7内部を潤滑するオイルは、遠心力および重力によって径方向外方で且つ下方に移動する。したがってタンク46は、この例では、インホイールモータ駆動装置8の下部に位置するように取り付けられている。
冷却手段80は、循環油路79を通過するオイルおよびモータ6を冷却する手段であり、モータハウジング55に形成された冷却水路80aと、モータハウジング55に取り付けられたヒートシンク80bとを含む。
【0060】
他の実施形態について説明する。
図2に示す異常時制御手段40は、異常報告手段41への異常出力と共に、モータ6の回転始動を許可しない制御を行っているが、いずれか一方のみを行うようにしても良い。
図2に示すオイル劣化等検出手段37は、汚染度合い検出部37aと、劣化度合い検出部37bと、オイル量検出部37cとを含む構成となっているが、必ずしもこの構成に限定されるものではない。汚染度合い検出部37a、劣化度合い検出部37b、およびオイル量検出部37cの3つの構成要素のうちいずれか1つを含む構成としても良いし、いずれか2つの構成要素を含む構成としても良い。
図8に示すオイル供給システムのタンク46を、モータハウジング55と別体に配管接続して設けても良い。
図8のオイル供給システムを、減速機7の潤滑のみに用いるようにしても良いし、モータ6の冷却のみに用いるようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0061】
2…車輪
6…モータ
7…減速機
8…インホイールモータ駆動装置
21…ECU
24…回転センサ
35…電流検出手段
37…オイル劣化等検出手段
37a…汚染度合い検出部
37b…劣化度合い検出部
38a…ローパスフィルタ
39…判定部
40…異常時制御手段
43…光源
44…光ファイバー
45…受光部
46…タンク
47…オイル温度検出部
48…粘度検出部
49…電極
50…検出用電源
51…誘電率算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動するモータと、このモータの回転を減速する減速機と、これら減速機の潤滑およびモータの冷却のいずれか一方または両方に用いられるオイルを供給するオイル供給システムとを備えた電気自動車の前記モータを診断する診断装置であって、
車両の電源が投入されている非走行時に、前記オイルの「汚染度合い」、「劣化度合い」、および「オイル量」の少なくともいずれか1つの検出項目の検出を行うオイル劣化等検出手段を設け、このオイル劣化等検出手段で検出される検出値が設定範囲から外れるとき、オイル供給システムの異常を出力するか、またはモータの回転始動を許可しない異常時制御手段を設けたことを特徴とする電気自動車用モータの診断装置。
【請求項2】
請求項1において、前記オイル劣化等検出手段は、オイル内の混入空気がオイル外に開放されるまでの時間以上経過した後、前記オイルの検出項目の検出を行うものである電気自動車用モータの診断装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記オイル供給システムは、オイルを貯留するタンクを有し、このタンク内にオイル劣化等検出手段の検出部を設けた電気自動車用モータの診断装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記オイル劣化等検出手段のうち、オイルの汚染度合いを検出する汚染度合い検出部は、オイル内の光透過率の測定手段を有する電気自動車用モータの診断装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記オイル劣化等検出手段のうち、オイルの劣化度合いを検出する劣化度合い検出部は、オイル内で間隔を空けて設けられる2枚の電極と、これら電極間に交流電圧を印加する検出用電源と、この検出用電源により2枚の電極間に交流電圧を印加したときのオイルの誘電率を求める誘電率算出手段とを有する電気自動車用モータの診断装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記オイル劣化等検出手段は、オイルの温度を検出するオイル温度検出部と、このオイル温度検出部で検出されるオイルの温度に基づいてオイルの粘度を求める粘度検出部とを有する電気自動車用モータの診断装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記オイル劣化等検出手段で検出される検出値をローパスフィルタを介して処理した値が、設定範囲から外れるか否かを判定する判定部を設けた電気自動車用モータの診断装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記モータが、駆動輪である各車輪毎にそれぞれ設けられる電気自動車用駆動モータの診断装置。
【請求項9】
請求項8において、前記モータは、一部または全体が車輪内に配置されて前記モータと車輪用軸受と減速機とを含むインホイールモータ駆動装置を構成する電気自動車用駆動モータの診断装置。
【請求項10】
請求項9において、前記減速機は、モータの回転を減速するサイクロイド減速機である電気自動車用駆動モータの診断装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項のモータにより駆動可能に構成される電気自動車。
【請求項12】
車輪を駆動するモータと、このモータの回転を減速する減速機と、これら減速機の潤滑およびモータの冷却のいずれか一方または両方に用いられるオイルを供給するオイル供給システムとを備えた電気自動車の前記モータを診断する診断方法であって、
車両の電源が投入されている非走行時に、前記オイルの汚染度合い、劣化度合い、およびオイル量の少なくともいずれか1つの検出項目を検出する検出過程と、
前記検出過程で検出される検出値が設定範囲から外れるとき、オイル供給システムの異常を出力するか、またはモータの回転始動を許可しない異常時制御過程とを含む電気自動車用モータの診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−189095(P2012−189095A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51383(P2011−51383)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】