説明

モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置

【課題】通電不良の発生に伴う二相駆動時のモータ回転を円滑化して安定的に高い出力性能を確保することのできるモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】マイコンは、所定のサンプリング周期で取得した各電流センサの出力信号に基づいて、モータの各相電流値を検出する。そして、今回の検出値とともに少なくとも前回の検出値が保持される。そして、当該二相駆動時には、今回の電流検出時における回転角と前回の電流検出時における回転角との間に漸近線に対応する所定の回転角を挟む場合には、その保持された今回の検出値及び前回の検出値について、その絶対値がより大きな値となるように補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(EPS)等に用いられるモータ制御装置の多くには、電力供給線の断線や駆動回路の接点故障等によってモータの何れかの相(U,V,Wの何れか)に通電不良が生じた場合に、該異常の発生を検出可能な異常検出手段が設けられている。そして、当該異常の発生を検出した場合には、速やかにモータ制御を停止してフェールセーフを図る構成が一般的となっている。
【0003】
ところが、EPSにおいては、こうしたモータ制御の停止に伴い、そのステアリング特性が大きく変化する。即ち、運転者が的確なステアリング操作を行うためには、より大きな操舵力が要求されることになる。この点を踏まえ、従来、上記のように通電不良相の発生を検出した場合であっても、当該通電不良発生相以外の二相を通電相としてモータ制御を継続するモータ制御装置がある(例えば、特許文献1)。そして、これにより、操舵系に対するアシスト力の付与を継続して、フェールセーフに伴う運転者の負担の増大を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−26020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来例のように、通電不良相の発生時、当該通電不良発生相以外の二相を通電相としてモータ制御を継続する場合に、図16に示すような該各通電相に対して正弦波通電を行う構成(同図に示される例は、U相異常、V,W相通電時)では、トルクリップルの発生に起因する操舵フィーリングの悪化が避けられない。
【0006】
即ち、図17に示すように、従来の二相駆動時におけるモータ電流の推移をd/q座標系で表した場合、モータトルクの制御目標値であるq軸電流指令値が一定であるにも関わらず、実際のq軸電流値は、正弦波状に変化する。つまり、要求トルクに対応したモータ電流が発生しないために本来の出力性能を引き出せない状態でモータ駆動が継続されることにより、そのアシスト力が大きく変動するという問題があり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、通電不良の発生に伴う二相駆動時のモータ回転を円滑化して安定的に高い出力性能を確保することのできるモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに三相の駆動電力を供給する駆動回路と、前記モータの各相に生じた通電不良を検出可能な異常検出手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記モータの回転角に基づく電流制御の実行により前記モータ制御信号を生成するとともに、前記通電不良の発生時には、その通電不良発生相以外の二相を通電相として前記モータ制御信号の出力を実行するモータ制御装置において、前記モータ制御信号出力手段は、前記通電不良の発生時には、前記各通電相に対し、前記通電不良発生相に応じた所定の回転角を漸近線として正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流を通電すべく前記電流制御を実行するとともに、各相の電流値は、電流検出手段により所定のサンプリング周期で検出されて、その今回の検出値とともに少なくとも前回の検出値が保持されるものであって、前記電流検出手段は、今回の電流検出時における回転角と前回の電流検出時における回転角との間に前記漸近線に対応する所定の回転角を挟む場合には、その保持された今回の検出値及び前回の検出値について、その絶対値がより大きな値となるように補正すること、を要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに三相の駆動電力を供給する駆動回路と、前記モータの各相に生じた通電不良を検出可能な異常検出手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記モータの回転角に基づく電流制御の実行により前記モータ制御信号を生成するとともに、前記通電不良の発生時には、その通電不良発生相以外の二相を通電相として前記モータ制御信号の出力を実行するモータ制御装置において、前記モータ制御信号出力手段は、前記通電不良の発生時には、前記各通電相に対し、前記通電不良発生相に応じた所定の回転角を漸近線として正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流を通電すべく前記電流制御を実行するとともに、各相の電流値は、電流検出手段により所定のサンプリング周期で検出されるものであって、前記電流検出手段は、今回の電流検出時における回転角と前回の電流検出時における回転角との間に前記漸近線に対応する所定の回転角を挟む場合には、今回検出された電流値について、その絶対値がより大きな値となるように補正すること、を要旨とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに三相の駆動電力を供給する駆動回路と、前記モータの各相に生じた通電不良を検出可能な異常検出手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記モータの回転角に基づく電流制御の実行により前記モータ制御信号を生成するとともに、前記通電不良の発生時には、その通電不良発生相以外の二相を通電相として前記モータ制御信号の出力を実行するモータ制御装置において、前記モータ制御信号出力手段は、前記通電不良の発生時には、前記各通電相に対し、前記通電不良発生相に応じた所定の回転角を漸近線として正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流を通電すべく前記電流制御を実行するとともに、各相の電流値は、電流検出手段により所定のサンプリング周期で検出されるものであって、次回の電流検出時における回転角を推定する推定手段を備え、前記電流検出手段は、今回の電流検出時における回転角と次回の電流検出時における回転角との間に前記漸近線に対応する所定の回転角を挟むと推定される場合には、今回検出された電流値について、その絶対値がより大きな値となるように補正すること、を要旨とする。
【0011】
上記各構成によれば、漸近線に対応する所定の回転角(各相に通電される相電流値に制限のある場合には、所定の回転角近傍の電流制限範囲)を除いて、要求トルクに対応したモータ電流を発生させることができる。その結果、通電不良相発生時においても、大きなトルクリップルの発生を招くことなく、高い出力性能を確保した状態で、そのモータ駆動を継続することができる。
【0012】
また、一定のサンプリング周期下では、回転角速度の上昇に伴い、そのサンプリングの角度間隔(電流センサの出力信号を取得する角度間隔)が拡大する。そして、60°間隔で各相電流値のピーク(絶対値)が分散する通常の三相正弦波駆動時と比較した場合、上記のような二相駆動時は、各相電流値のピークが漸近線に対応する所定の回転角に集中し且つその立ち上がりが急峻であることから、そのサンプリング角度間隔の拡大が、当該電流検出の精度に大きな影響を与えることになる。
【0013】
即ち、その電流検出を行なう回転角が、連続して上記漸近線に対応する所定の回転角から外れるような状態になった場合、その連続する検出値は、何れも当該相のピーク値を示していないことになる。そして、例えば、これらの検出値を用いてモータ温度の推定を実行した場合、その温度推定は、モータへの通電量が最も増大する上記所定の回転角近傍の値を切り捨てるかたちでその演算が実行されることになり、その結果、推定されるモータ温度が実際の温度よりも低い値となってしまうおそれがある。
【0014】
しかしながら、上記各構成によれば、上記所定の回転角近傍の通電量、即ちその値が最も増大する範囲の切り捨てを軽減することができる。その結果、例えば、より正確にモータ温度の推定ができる等、大きな利点を享受することができるようになる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記電流値の補正は、その検出値と通電可能な最大値との平均値を演算することにより行なわれること、を要旨とする。
上記構成によれば、その演算負荷を抑えて、効率的に且つ精度よく補正演算を実行することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4の何れか一項に記載のモータ制御装置を備えた電動パワーステアリング装置であることを要旨とする。
上記構成によれば、その精度の良い電流検出によって、正確なモータ温度の推定を実現して、その過熱の抑制、及び過熱時における速やかなフェールセーフ制御の実行を可能とする等、より安定的に、そのパワーアシスト制御を実行することができるようになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、通電不良の発生に伴う二相駆動時のモータ回転を円滑化して安定的に高い出力性能を確保することが可能なモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】EPSの電気的構成を示すブロック図。
【図3】マイコン(モータ制御信号生成部)の制御ブロック図。
【図4】通電不良相検出の処理手順を示すフローチャート。
【図5】二相駆動時(U相通電不良時)における各相電流の推移を示す説明図。
【図6】二相駆動時(U相通電不良時)におけるq軸電流の推移を示す説明図。
【図7】異常判定及び制御モードの切り替えの処理手順を示すフローチャート。
【図8】二相駆動時におけるモータ制御信号生成の処理手順を示すフローチャート。
【図9】第1の実施形態における二相駆動時の電流検出の態様を示すフローチャート。
【図10】第2の実施形態における電流検出及びモータ温度推定の態様を示すフローチャート。
【図11】回転角速度上昇時に検出される相電流値及び相電流検出値補正演算の態様を示す説明図。
【図12】相電流検出値補正演算の処理手順を示すフローチャート。
【図13】別例のサンプリング周期短縮化の態様を示す説明図。
【図14】別例の相電流検出値補正演算の処理手順を示すフローチャート。
【図15】別例の二相駆動時(U相通電不良時)におけるd軸電流及びq軸電流の推移を示す説明図。
【図16】従来の通電不良発生相以外の二相を通電相とする二相駆動の態様を示す説明図。
【図17】従来の二相駆動時におけるd軸電流及びq軸電流の推移を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、本発明を電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した第1の実施形態を図面に従って説明する。なお、第1の実施形態は、参考例として記載するものである。
【0020】
図1は、本実施形態のEPS1の概略構成図である。同図に示すように、ステアリングホイール(ステアリング)2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック5に連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック5の往復直線運動に変換される。そして、このラック5の往復直線運動により転舵輪6の舵角が変更されるようになっている。
【0021】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0022】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、その駆動源であるモータ12がラック5と同軸に配置された所謂ラック型のEPSアクチュエータであり、モータ12が発生するアシストトルクは、ボールねじ機構(図示略)を介してラック5に伝達される。尚、本実施形態のモータ12は、ブラシレスモータであり、ECU11から三相(U,V,W)の駆動電力の供給を受けることにより回転する。そして、モータ制御装置としてのECU11は、このモータ12が発生するアシストトルクを制御することにより、操舵系に付与するアシスト力を制御する(パワーアシスト制御)。
【0023】
本実施形態では、ECU11には、トルクセンサ14及び車速センサ15が接続されている。そして、ECU11は、これらトルクセンサ14及び車速センサ15によりそれぞれ検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、EPSアクチュエータ10の作動、即ちパワーアシスト制御を実行する。
【0024】
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。同図に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段としてのマイコン17と、モータ制御信号に基づいてモータ12に三相の駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
【0025】
尚、本実施形態の駆動回路18は、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(アーム)として各相に対応する3つのアームを並列接続してなる周知のPWMインバータであり、マイコン17の出力するモータ制御信号は、駆動回路18を構成する各スイッチング素子のオンduty比を規定するものとなっている。そして、モータ制御信号が各スイッチング素子のゲート端子に印加され、同モータ制御信号に応答して各スイッチング素子がオン/オフすることにより、車載電源(図示略)の直流電圧が三相(U,V,W)の駆動電力に変換されてモータ12に供給されるようになっている。
【0026】
詳述すると、ECU11には、モータ12に通電される各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ19u,19v,19w、及びモータ12の回転角(電気角)θを検出するための回転角センサ20が接続されている。本実施形態のマイコン17は、電流検出部21及び回転角検出部22を備えており、所定のサンプリング周期で取得した各電流センサ19u,19v,19wの出力信号Su,Sv,Sw、及び回転角センサ20の出力信号Saに基づいて、各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θを検出する。そして、マイコン17は、その検出された各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θ、並びに上記操舵トルクτ及び車速Vに基づいて駆動回路18にモータ制御信号を出力する。
【0027】
さらに詳述すると、本実施形態のマイコン17は、上記操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、操舵系に付与すべきアシスト力(目標アシスト力)を決定し、当該アシスト力をモータ12に発生させるべく、上記検出された各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θに基づく電流制御を実行することにより上記モータ制御信号を生成する。
【0028】
具体的には、マイコン17は、操舵系に付与するアシスト力、即ちモータトルクの制御目標値として電流指令値を演算する電流指令値演算手段としての電流指令値演算部23と、電流指令値演算部23により算出された電流指令値に基づいてモータ制御信号を生成するモータ制御信号生成手段としてのモータ制御信号生成部24とを備えている。
【0029】
電流指令値演算部23は、上記トルクセンサ14及び車速センサ15により検出された操舵トルクτ及び車速Vに基づき、モータトルクの制御目標値に対応する電流指令値として、d/q座標系のq軸電流指令値Iq*を演算し、モータ制御信号生成部24に出力する。一方、モータ制御信号生成部24には、電流指令値演算部23の出力するq軸電流指令値Iq*とともに、各電流センサ19u,19v,19wにより検出された各相電流値Iu,Iv,Iw、及び回転角センサ20により検出された回転角θが入力される。そして、モータ制御信号生成部24は、これら各相電流値Iu,Iv,Iw、及び回転角θ(電気角)に基づいて、d/q座標系における電流フィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を生成する。
【0030】
さらに詳述すると、本実施形態のモータ制御信号生成部24は、d/q座標系における電流フィードバック制御(d/q軸電流F/B)の実行により三相の相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する第1電流制御部24aを備えている。そして、通常時には、この第1電流制御部24aにより演算される各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、モータ制御信号を生成する。
【0031】
図3に示すように、第1電流制御部24aに入力された各相電流値Iu,Iv,Iwは、回転角θとともに3相/2相変換部25に入力され、同3相/2相変換部25によりd/q座標系のd軸電流値Id及びq軸電流値Iqに変換される。そして、q軸電流値Iqは、電流指令値演算部23から入力されたq軸電流指令値Iq*とともに減算器26qに入力され、d軸電流値Idは、d軸電流指令値Id*(Id*=0)とともに減算器26dに入力される。
【0032】
各減算器26d,26qにおいて演算されたd軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqは、それぞれ対応するF/B制御部27d,27qに入力される。そして、これら各F/B制御部27d,27qにおいて、電流指令値演算部23が出力するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に実電流値であるd軸電流値Id及びq軸電流値Iqを追従させるべくフィードバック制御が行われる。
【0033】
即ち、F/B制御部27d,27qは、入力されたd軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqに所定のF/Bゲイン(PIゲイン)を乗ずることにより、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を演算する。演算されたこれらd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は、回転角θとともに2相/3相変換部28に入力され、同2相/3相変換部28において三相の相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換される。そして、第1電流制御部24aは、その各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をPWM変換部30へと出力する。
【0034】
PWM変換部30は、入力された各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づきduty指令値αu,αv,αwを生成し、更に、これら各duty指令値αu,αv,αwに示されるオンduty比を有するモータ制御信号を生成する。そして、図2に示すように、マイコン17は、このモータ制御信号生成部24において生成されたモータ制御信号を、駆動回路18を構成する各スイッチング素子(のゲート端子)に出力することにより、同駆動回路18の作動、即ちモータ12への駆動電力の供給を制御する構成となっている。
【0035】
[異常発生時の制御態様]
図2に示すように、本実施形態のECU11では、マイコン17には、EPS1に何らかの異常が生じた場合に、該異常の態様を特定するための異常判定部31が設けられている。そして、ECU11(マイコン17)は、この異常判定部31により特定(判定)された異常の態様に応じて、モータ12の制御モードを変更する。
【0036】
詳述すると、異常判定部31には、EPSアクチュエータ10の機械系統の異常を検出するための異常信号S_trが入力されるようになっており、同異常判定部31は、この入力される異常信号S_trに基づいて、EPS1における機械系統の異常を検出する。また、異常判定部31には、検出された各相電流値Iu,Iv,Iw、回転角速度ω、及び上記モータ制御信号生成部24(第1電流制御部24a)において演算されたq軸電流偏差ΔIq、並びに各相のduty指令値αu,αv,αw等が入力される。そして、異常判定部31は、これら各状態量に基づいて、制御系における異常の発生を検出する。
【0037】
具体的には、本実施形態の異常判定部31は、トルクセンサ14の故障や駆動回路18の故障等、制御系全般に関する異常の発生を検出するために、q軸電流偏差ΔIqを監視する。即ち、q軸電流偏差ΔIqと所定の閾値とを比較し、q軸電流偏差ΔIqが(所定時間以上継続して)当該閾値以上となった場合には、制御系に異常が発生したものと判定する。
【0038】
また、異常判定部31は、各相電流値Iu,Iv,Iw、回転角速度ω、及び各相のduty指令値αu,αv,αwに基づいて、動力線(モータコイルを含む)の断線や駆動回路18の接点不良等に起因する通電不良相の発生等を検出する。この通電不良相発生の検出は、X相(X=U,V,W)の相電流値Ixが所定値Ith以下(|Ix|≦Ith)、且つ回転角速度ωが断線判定の対象範囲内(|ω|≦ω0)である場合に、該相に対応するduty指令値αxが所定値Ith及び判定対象範囲を規定する閾値ω0に対応する所定範囲(αLo≦αx≦αHi)にない状態が継続するか否かにより行われる。
【0039】
尚、この場合において、上記相電流値Ixの閾値となる所定値Ithは「0」近傍の値に設定され、回転角速度ωの閾値ω0は、モータの最高回転数に相当する値に設定される。そして、duty指令値αxに関する閾値(αLo,αHi)は、それぞれ通常制御においてduty指令値αxが取り得る下限値よりも小さな値、及び上限値よりも大きな値に設定されている。
【0040】
即ち、図4のフローチャートに示すように、異常判定部31は、検出される相電流値Ix(の絶対値)が所定値Ith以下であるか否かを判定し(ステップ101)、所定値Ith以下である場合(|Ix|≦Ith、ステップ101:YES)には、続いて回転角速度ω(の絶対値)が所定の閾値ω0以下であるか否かを判定する(ステップ102)。そして、回転角速度ωが所定の閾値ω0以下である場合(|ω|≦ω0、ステップ102:YES)には、duty指令値αxが上記の所定範囲(αLo≦αx≦αHi)内にあるか否かを判定し(ステップ103)、所定範囲内にない場合(ステップ103:NO)には、該X相に通電不良が生じているものと判定する(ステップ104)。
【0041】
そして、相電流値Ixが所定値Ithよりも大きい場合(|Ix|>Ith、ステップ101:NO)、回転角速度ωが閾値ω0よりも大きい場合(|ω|>ω0、ステップ102:NO)、又はduty指令値αxが上記所定範囲内にある場合(αLo≦αx≦αHi、ステップ103:YES)には、X相に通電不良が生じていないと判定する(X相正常、ステップ105)。
【0042】
つまり、X相(U,V,W相の何れか)に通電不良(断線)が生じた場合、当該相の相電流値Ixは「0」となる。ここで、X相の相電流値Ixが「0」又は「0に近い値」となる場合には、このような断線発生時以外にも以下の二つのケースがありうる。
【0043】
− モータの回転角速度が最高回転数に達した場合
− 電流指令自体が略「0」である場合
この点を踏まえ、本実施形態では、先ず、判定対象であるX相の相電流値Ixを所定値Ithと比較することにより、当該相電流値Ixが「0」であるか否かを判定する。そして、断線時以外に相電流値Ixが「0」若しくは「0に近い値」をとる上記二つのケースに該当するか否かを判定し、当該二つのケースに該当しない場合には、X相に断線が発生したものと判定する。
【0044】
即ち、相電流値Ixが「0」近傍の所定値Ith以下となるほどの回転角速度ωではないにも関わらず、極端なduty指令値αxが出力されている場合には、当該X相に通電不良が生じているものと判定することができる。そして、本実施形態では、U,V,Wの各相について、順次、上記判定を実行することにより、通電不良が発生した相を特定する構成となっている。
【0045】
尚、説明の便宜のため図4のフローチャートでは省略したが、上記判定は、電源電圧がモータ12を駆動するために必要な規定電圧以上である場合を前提として行われる。そして、最終的な異常検出の判断は、所定ステップ104において通電不良が生じているものと判定される状態が所定時間以上継続したか否かにより行われる。
【0046】
本実施形態では、ECU11(マイコン17)は、この異常判定部31における異常判定の結果に基づいて、モータ12の制御モードを切り替える。具体的には、異常判定部31は、上記のような通電不良検出を含む異常判定の結果を異常検出信号S_tmとして出力し、電流指令値演算部23及びモータ制御信号生成部24は、その入力される異常検出信号S_tmに応じた電流指令値の演算、及びモータ制御信号の生成を実行する。そして、これにより、マイコン17におけるモータ12の制御モードが切り替えられるようになっている。
【0047】
さらに詳述すると、本実施形態のECU11は、通常時の制御モードである「通常制御モード」、及びモータ12の駆動を停止すべき異常が発生している場合の制御モードである「アシスト停止モード」、並びにモータ12の各相の何れかに通電不良が生じた場合の制御モードである「二相駆動モード」、以上の大別して3つの制御モードを有している。そして、異常判定部31の出力する異常検出信号S_tmが「通常制御モード」に対応するものである場合には、電流指令値演算部23及びモータ制御信号生成部24は、それぞれ、上記通常時における電流指令値の演算、及びモータ制御信号の生成を実行する。
【0048】
一方、異常判定部31の出力する異常検出信号S_tmが「アシスト停止モード」である場合には、電流指令値演算部23及びモータ制御信号生成部24は、モータ12の駆動を停止すべく、それぞれ電流指令値の演算、及びモータ制御信号の生成を実行する。尚、「アシスト停止モード」が選択される場合としては、機械系統の異常やトルクセンサ14に異常が発生した場合のほか、電力供給系統における異常発生時については、過電流が生じた場合等が挙げられる。また、「アシスト停止モード」には、直ちにモータ12の駆動を停止する場合のほか、モータ12の出力を徐々に低減する、即ちアシスト力を徐々に低減した後に停止させる場合があり、この場合、モータ制御信号生成部24は、その電流指令値として出力するq軸電流指令値Iq*の値(絶対値)を徐々に低減する。そして、マイコン17は、モータ12の停止後、駆動回路18を構成する各スイッチング素子を開状態とし、図示しない電源リレーを開放する構成となっている。
【0049】
また、「二相駆動モード」に対応する異常検出信号S_tmには、通電不良発生相を特定する情報が含まれている。そして、異常判定部31の出力する異常検出信号S_tmがこの「二相駆動モード」に対応するものである場合、モータ制御信号生成部24は、当該通電不良発生相以外の二相を通電相としてモータ駆動を継続すべく、そのモータ制御信号の生成を実行する。
【0050】
詳述すると、図2に示すように、本実施形態のモータ制御信号生成部24は、上記d/q座標系における電流フィードバック制御の実行により各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する第1電流制御部24aに加え、相電流フィードバック制御の実行により各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する第2電流制御部24bを備えている。そして、異常判定部31から入力される異常検出信号S_tmが上記「二相駆動モード」に対応するものである場合には、この第2電流制御部24bにより演算される各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいてモータ制御信号の出力を実行する。
【0051】
さらに詳述すると、図3に示すように、本実施形態の第2電流制御部24bは、検出された通電不良発生相以外の残る二相のうちの一相を制御相として選択する制御相選択部32と、当該制御相として選択される相についての相電流指令値Ix*(X=U,V,Wの何れか)を演算する相電流指令値演算部33とを備えている。そして、当該制御相として選択された相電流値Ixとその相電流指令値Ix*(Ix**)との偏差に基づく相電流フィードバック制御の実行により、通電不良発生相以外の二相を通電相としたモータ駆動を実行すべく各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する。
【0052】
具体的には、相電流指令値演算部33が出力する相電流指令値Ix*は、ガード処理部34に入力される。そして、ガード処理が施された後の相電流指令値Ix**は、制御相選択部32において制御相として選択された相の相電流値Ixとともに、減算器35に入力される。減算器35は、相電流指令値Ix*から相電流値Ixを減算することにより相電流偏差ΔIxを演算し、その演算された相電流偏差ΔIxをF/B制御部36に出力する。そして、F/B制御部36は、入力された相電流偏差ΔIxにF/Bゲインを乗ずることにより、当該制御相についての相電圧指令値Vx*を演算する。
【0053】
F/B制御部36において演算された相電圧指令値Vx*は、相電圧指令値演算部37に入力される。そして、相電圧指令値演算部37は、その制御相についての相電圧指令値Vx*に基づいて各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する。
【0054】
即ち、通電不良発生相は通電不能であり、また二相駆動時の各通電相の位相はπ/2(180°)ずれることになる。従って、通電不良発生相の相電圧指令値は「0」、残る他方の通電相の相電圧指令値は、上記制御相に関する相電圧指令値Vx*の符号を反転することにより演算可能である。そして、本実施形態の第2電流制御部24bは、このようにして演算された各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw **を上記PWM変換部30へと出力する構成となっている。
【0055】
ここで、本実施形態の相電流指令値演算部33は、二相駆動時、その通電不良発生相に対応する所定の回転角を除いて、要求トルク、即ちモータトルクの制御目標値(q軸電流指令値Iq*)に対応するモータ電流(q軸電流値Iq)が発生するような相電流指令値Ix*を演算する。
【0056】
具体的には、相電流指令値演算部33は、その通電不良発生相に応じて、以下の(1)〜(3)式に基づいて、残る二相のうちの一相の相電流指令値Ix*を演算する。
【0057】
【数1】

即ち、上記(1)〜(3)式により、通電不良発生相に対応する所定の回転角θA,θBを漸近線として、正割曲線(cosθの逆数(セカント:secθ))、又は余割曲線(sinθの逆数(コセカント:cosecθ))状に変化する相電流指令値Ix*が演算される(図5参照)。そして、このような正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流指令値Ix*に基づき相電流フィードバック制御を実行することにより、理論上、その漸近線に相当する所定の回転角θA,θBを除いて、要求トルク(q軸電流指令値Iq*)に対応したモータ電流(q軸電流値Iq)を発生させることができる(図6参照)。
【0058】
尚、図5及び図6は、U相が通電不良相、V,W相の二相が通電相となった場合の例であり、上記の各漸近線に相当する二つの回転角のうち、電気角0°〜360°の範囲において、その値の小さい方を回転角θA、大きい方を回転角θBとすると、この場合、該各回転角θA,θBは、それぞれ「90°」「270°」となる。そして、V相が通電不良発生相である場合の所定の回転角θA,θBは、それぞれ「30°」「210°」となり、W相が通電不良発生相である場合の所定の回転角θA,θBは、それぞれ「150°」「330°」となる(図示略)。
【0059】
また、実際には、各相のモータコイル12u,12v,12wに通電可能な電流(の絶対値)には上限があるため、本実施形態では、上記ガード処理部34において、相電流指令値演算部33から出力された相電流指令値Ix*を所定範囲内(−Ix_max≦Ix*≦Ix_max)に制限するガード処理が実行される。尚、「Ix_max」は、X相(U,V,W相)に通電可能な電流値の最大値であり、この最大値は、駆動回路18を構成する各スイッチング素子の定格電流等により規定される。このため、そのガード処理が行われる範囲(電流制限範囲:θ1<θ<θ2,θ3<θ<θ4)において、当該ガード処理後の相電流指令値Ix**は、その通電可能な上限値(Ix_max)又は下限値(−Ix_max)で一定となる。
【0060】
つまり、本実施形態のマイコン17は、二相駆動時、各通電相に対して正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流を通電すべく、相電流フィードバック制御を実行することにより、その漸近線に相当する所定の回転角θA,θB近傍に設定された電流制限範囲(θ1<θ<θ2,θ3<θ<θ4)を除き、要求トルクに対応するモータ電流を発生させる。そして、これにより、通電不良相の発生時においても、大きなトルクリップルの発生を招くことなく、良好な操舵フィーリングを維持したまま、アシスト力付与を継続する構成となっている。
【0061】
次に、マイコンによる上記異常判定及び制御モードの切り替え、並びに二相駆動時におけるモータ制御信号生成の処理手順について説明する。
図7のフローチャートに示すように、マイコン17は、先ず何らかの異常が発生したか否かを判定し(ステップ201)、異常が発生したと判定した場合(ステップ201:YES)には、続いてその異常が制御系の異常であるか否かを判定する(ステップ202)。次に、ステップ202において、制御の異常が発生したと判定した場合(ステップ202:YES)、現在の制御モードが二相駆動モードであるか否かを判定し(ステップ203)、二相駆動モードではない場合(ステップ203:NO)には、当該制御系の異常が、通電不良相の発生であるか否かを判定する(ステップ204)。そして、通電不良相が発生したと判定した場合(ステップ204:YES)には、当該通電不良相以外の残る二相を通電相とするモータ制御信号の出力を実行する(二相駆動モード、ステップ205)。
【0062】
上述のように、この二相駆動モードにおけるモータ制御信号の出力は、通電不良発生相に応じた所定の回転角θA,θBを漸近線として正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流指令値を演算し、その相電流指令値に基づく相電流フィードバック制御を実行することにより行われる。
【0063】
即ち、図8のフローチャートに示すように、マイコン17は、先ず、通電不良発生相がU相であるか否かを判定し(ステップ301)、U相であるである場合(ステップ301:YES)には、上記(1)式に基づいて、V相についての相電流指令値Iv*を演算する(ステップ302)。次に、マイコン17は、その相電流指令値Iv*についてガード処理演算を実行し、当該ガード処理後の相電流指令値Iv**を所定範囲内に制限する(ステップ303)。そして、そのガード処理後の相電流指令値Iv**に基づく相電流フィードバック制御の実行によりV相についての相電圧指令値Vv*を演算し(ステップ304)、当該相電圧指令値Vv*に基づいて、各相の相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する(Vu**=0,Vv**=Vv*,Vw**=-Vv*、ステップ305)。
【0064】
一方、上記ステップ301において、通電不良発生相がU相ではないと判定した場合(ステップ301:NO)、マイコン17は、通電不良発生相がV相であるかを判定し(ステップ306)、通電不良発生相がV相である場合(ステップ306:YES)には、上記(2)式に基づいて、U相についての相電流指令値Iu*を演算する(ステップ307)。次に、マイコン17は、その相電流指令値Iu*についてガード処理演算を実行し、当該ガード処理後の相電流指令値Iu**を所定範囲内に制限する(ステップ308)。そして、そのガード処理後の相電流指令値Iv**に基づく相電流フィードバック制御を実行し(ステップ309)、該相電流フィードバック制御の実行により演算された相電圧指令値Vu*に基づいて、各相の相電圧指令値Vu* *,Vv**,Vw**を演算する(Vu**=Vu*,Vv**=0,Vw**=-Vu*、ステップ310)。
【0065】
また、上記ステップ306において、通電不良発生相がV相ではないと判定した場合(ステップ306:NO)、マイコン17は、上記(3)式に基づいて、V相についての相電流指令値Iv*を演算し(ステップ311)、続いてガード処理演算を実行することにより、当該ガード処理後の相電流指令値Iv**を所定範囲内に制限する(ステップ312)。そして、そのガード処理後の相電流指令値Iv**に基づく相電流フィードバック制御を実行し(ステップ313)、該相電流フィードバック制御の実行により演算された相電圧指令値Vv*に基づいて、残る二相(V,W相)の相電圧指令値Vu**,Vw**を演算する(Vu**=-Vv*,Vv**=Vv*,Vw**=0、ステップ314)。
【0066】
そして、マイコン17は、上記ステップ305、ステップ310、又はステップ314において演算された各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づくモータ制御信号を生成
し、駆動回路18に出力する(ステップ315)。
【0067】
尚、上記ステップ201において、特に異常はないと判定した場合(ステップ201:NO)には、マイコン17は、上述のように、d/q座標系での電流フィードバック制御の実行によりモータ制御信号の出力を実行する(通常制御モード、ステップ206)。また、上記ステップ202において、制御系以外の異常が発生したと判定した場合(ステップ202:NO)、ステップ203において、既に二相駆動モードであると判定した場合(ステップ203:YES)、又は上記ステップ203において、通電不良相の発生以外の異常が発生したと判定した場合(ステップ203:NO)には、マイコン17は、アシスト停止モードへと移行する(ステップ207)。そして、モータ12の駆動を停止するためのモータ制御信号の出力、及び電源リレーの開放等を実行する。
【0068】
[二相駆動時の電流検出]
次に、本実施形態における二相駆動時の電流検出の態様について説明する。
上述のように、本実施形態のマイコン17は、所定のサンプリング周期で取得した各電流センサ19u,19v,19wの出力信号Su,Sv,Sw、及び回転角センサ20の出力信号Saに基づいて、モータ12の各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θを検出する。そして、マイコン17は、その検出された各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θに基づいてモータ12の回転を制御し、及び上記異常判定等を実行する。
【0069】
また、本実施形態のマイコン17は、その異常検出の一環として、各相電流値Iu,Iv,Iwに基づくモータ12の温度推定を実行する。即ち、モータ12の温度は、当該モータ12に通電する電流量に応じて上昇することが知られている。そして、本実施形態では、各相電流値の二乗和を演算することにより温度推定を実行し、常時、モータ12の温度を監視することにより、その過熱の抑制、及び過熱時における速やかなフェールセーフ制御の実行を図る構成となっている。
【0070】
ここで、本実施形態のマイコン17は、二相駆動時には、各通電相に対して正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流を通電する。従って、その各相電流値Ixは、上記漸近線に相当する所定の回転角θA,θB近傍においてその通電可能な上限値(Ix_max)又は下限値(−Ix_max)まで増大することになる(図5参照)。つまり、二相駆動時には、その通常制御時よりも過熱が生じやすい状態でモータ12が運転される。そのため、上記のようなモータ温度の監視、即ちモータ温度の正確な推定が極めて重要となる。
【0071】
しかしながら、このような二相駆動時には、各相電流値Ixの変動が極めて大きく、且つその絶対値のピークは、各通電相ともに上記漸近線に相当する所定の回転角θA,θBとなる。このため、モータ12の回転角速度ωが上昇した場合には、その検出される各相電流値Ixに基づき推定されるモータ温度が実際の温度よりも低くなりやすく、これにより、その過熱抑制制御の開始タイミングに遅延が生ずるおそれがある。
【0072】
即ち、一定のサンプリング周期下では、回転角速度ωの上昇に伴いマイコン17が各電流センサ19u,19v,19wの出力信号Su,Sv,Swを取得する角度間隔(電気角)が拡大する。そして、60°間隔で各相電流値Iu,Iv,Iwのピーク(絶対値)が分散する通常の三相正弦波駆動時と比較した場合、二相駆動時は、各相電流値Ixのピークが所定の回転角θA,θBに集中し且つその立ち上がりが急峻であることから、こうした各出力信号Su,Sv,Swの取得角度間隔の拡大が、その電流検出の精度に大きな影響を与えることになる。
【0073】
つまり、本実施形態の二相駆動時には、各相電流値Ixのピーク値(若しくはそれに近い値)を取得可能な回転角(電気角)の範囲が狭いため、上記回転角速度ωの上昇に伴う上記各出力信号Su,Sv,Swの取得角度間隔の拡大により、当該ピーク値の検出頻度が減少することになる。このため、各電流センサ19u,19v,19wの出力信号Su,Sv,Swに基づき演算されるモータ12への通電電流量(各相電流値Ixの二乗和がこれに相当する)は、実際の通電電流量よりも小さなものとなり、その結果、実際よりも低いモータ温度が推定されてしまう可能性がある。
【0074】
ここで、このような回転角速度ωの上昇に伴う上記取得角度間隔の拡大に対応すべく、その各電流センサ19u,19v,19wの出力信号Su,Sv,Swのサンプリング周期を短縮化することが考えられる。しかしながら、この場合には、その背反として、高速サンプリングの実行に伴う演算負荷の増大に応えるためのマイコン17の高性能化、及びそれに伴うコストの上昇が不可避となる。
【0075】
この点を踏まえ、本実施形態では、電流検出手段としてのマイコン17は、検出される回転角速度ωに応じて、そのサンプリング周期を短縮化する。具体的には、図9に示すように、マイコン17は、その検出される回転角速度ω(の絶対値)が所定の閾値ω0を超えるか否かを判定し(ステップ401)、回転角速度ωが所定の閾値ω0を超える場合(|ω|>ω0、ステップ401:YES)には、サンプリング周期を短縮した高速サンプリングを実行する(ステップ402)。そして、その回転角速度ωが所定の閾値ω0以下である場合(|ω|≦ω0、ステップ401:NO)には、通常のサンプリング周期で各電流センサ19u,19v,19wの出力信号Su,Sv,Swを取得する(ステップ403)。
【0076】
即ち、本実施形態のマイコン17は、検出される回転角速度ωが、その各相電流値Ixの二乗和に基づく温度推定に影響を与えるような高速回転領域においてのみ、その各電流センサ19u,19v,19wの出力信号Su,Sv,Swのサンプリング周期を短縮した高速サンプリングを実行する。そして、これにより、その演算負荷の上昇を抑えつつ、高精度の温度推定を可能とする構成となっている。
【0077】
(第2の実施形態)
以下、本発明を電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した第2の実施形態を図面に従って説明する。
【0078】
尚、本実施形態と上記第1の実施形態との主たる相違点は、二相駆動時における電流検出の態様についてのみである。このため、説明の便宜上、第1の実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。
【0079】
上述のように、モータ12の温度は、当該モータ12に通電する電流量に応じて上昇することが知られている。そして、本実施形態においてもまた、マイコン17は、この関係を利用して各相電流値の二乗和を演算することによりモータ12の温度推定を実行する。
【0080】
具体的には、本実施形態では、マイコン17により連続的に検出される各相電流値Ixは、その直近の4回分の検出値(直近の4値)までが図示しないメモリに記憶される構成となっている。そして、マイコン17は、随時、メモリに記憶(保持)された直近の4値を読み出し、その二乗和に所定のゲインを乗ずることにより、モータ12の温度推定を実行する。
【0081】
即ち、図10のフローチャートに示すように、マイコン17は、各相電流値Ixを検出すると(ステップ501)、その検出された値(検出値)をメモリに記憶する(ステップ502)。尚、本実施形態では、その検出値の記憶により、メモリ内に記憶された最も古い値を更新することで、当該相について、その直近の4値を保持する構成となっている。
【0082】
次に、本実施形態のマイコン17は、そのメモリに記憶された検出値について後述する相電流検出値補正演算を実行する(ステップ503)。そして、当該メモリに記憶された各相の直近の4値を読み出し(ステップ504)、その二乗和を演算することにより、モータ12の温度推定を実行する(ステップ505)。
【0083】
さて、上述のように、二相駆動時には、回転角速度ωの上昇に伴いマイコン17が各電流センサ19u,19v,19wの出力信号Su,Sv,Swを取得する角度間隔(電気角)が拡大することにより、各相電流値Ixのピーク値(若しくはそれに近い値)の検出頻度が減少する。このため、各相電流値Ixの二乗和が示すモータ12への通電電流量は、実際の通電電流量よりも小さなものとなり、その結果、実際よりも低いモータ温度が推定されてしまうという問題がある。
【0084】
即ち、例えば、図11に示すように、電気角360°内に4回の電流検出が行なわれた場合に、その4回の検出時における各回転角θp1,θp2,θp3,θp4の全てが上記漸近線に対応する所定の回転角θA,θBから外れているならば、メモリに記憶される直近の4回分の検出値I1,I2,I3,I4は、何れも当該相のピーク値を示していないことになる。つまり、これらの検出値I1,I2,I3,I4に基づくモータ温度の推定は、その上記所定の回転角θA,θB近傍の値、モータ12への通電量が最も増大する部分を切り捨てるかたちでその演算が実行されることになる。そして、これにより、推定されるモータ温度が実際の温度よりも低い値となってしまうおそれがある。
【0085】
この点を踏まえ、本実施形態のマイコン17は、このような場合、相電流検出値補正演算の実行により、メモリへの記憶により保持された直近の4回分の検出値のうち、直近の二回分の検出値を補正する。
【0086】
具体的には、マイコン17は、最新の相電流値Ixを検出した際、その今回検出時における回転角(電気角)θcuと前回検出時における回転角θbfとの間に、上記漸近線に対応する所定の回転角θA,θBを挟む場合、メモリに記憶された今回の検出値Icu及び前回の検出値Ibfについて、その絶対値がより大きな値となるように補正する。
【0087】
例えば、上記図11に示す例では、最新の相電流値Ixとして「I2」が検出される場合、その今回検出時における回転角θcu、即ち回転角θp2(120°)と、その相電流値Ixの前回値として「I1」が検出された前回検出時における回転角θbf、即ち回転角θp1(0°)との間には、漸近線に対応する所定の回転角θA(90°)を挟む。同様に、最新の相電流値Ixとして「I4」が検出される場合、その今回検出時における回転角θcu、即ち回転角θp4(360°)と、その相電流値Ixとして「I3」が検出された前回検出時における回転角θbf、即ち回転角θp3(240°)との間には、漸近線に対応する所定の回転角θBを挟む。
【0088】
このような場合、本実施形態のマイコン17は、そのメモリに記憶(保持)された今回の検出値Icu及び前回の検出値Ibfのそれぞれについて、その通電可能な最大値Imax(上記ガード処理における上限値(Ix_max)又は下限値(−Ix_max))との間の平均値を演算する。そして、その平均値を新たな検出値Icu´,Ibf´とすることにより、その絶対値を増大する補正を実行する構成となっている。
【0089】
即ち、図12のフローチャートに示すように、本実施形態のマイコン17は、先ず今回検出時における回転角θcuと前回検出時における回転角θbfとの間に、上記漸近線に対応する所定の回転角θA,θBを挟むか否かを判定する(ステップ601)。
【0090】
このステップ601において、当該所定の回転角θA,θBを挟むと判定した場合(ステップ601:YES)、マイコン17は、次に、今回の検出値Icuと通電可能な最大値Imaxとの平均値を演算し、メモリに記憶された今回の検出値Icuを更新することにより当該今回の検出値Icuの補正を実行する(Icu´=(Icu+Imax)/2、ステップ602)。そして、更に前回の検出値Ibfと通電可能な最大値Imaxとの平均値を演算し、メモリに記憶された前回の検出値Ibfを更新することにより当該前記の検出値Ibfの補正を実行する(Ibf´=(Ibf+Imax)/2、ステップ602)。
【0091】
つまり、今回検出時における回転角θcuと前回検出時における回転角θbfとの間に、上記所定の回転角θA,θBを挟む場合、今回の検出値Icu及び前回の検出値Ibfについて、その絶対値がより大きな値となるように補正することで、上記所定の回転角θA,θB近傍の通電量、即ちその値が最も増大する範囲の切り捨てを軽減することができる。また、本実施形態では、その補正演算の実行による演算負荷を考慮し、補正対象となる各検出値Icu,Ibfと通電可能な最大値Imaxとの平均値を用いることで、効率的に且つ精度よく、相電流検出値補正演算を実行する。そして、相電流検出値補正演算により補正された後の直近の4回分の検出値(図11参照、I1´,I2´,I3´,I4´)を用いることにより、より正確にモータ温度を推定することが可能な構成となっている。
【0092】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態では、モータ制御装置としてのECU11は、大別して、「通常制御モード」、「アシスト停止モード」、及び「二相駆動モード」の3つの制御モードを有することとした。しかし、異常発生時におけるモータ制御の形態は、これらのモードに限るものではない。つまり、通電不良相発生時に該通電不良発生相以外の二相を通電相としてモータ制御を実行する構成であれば、どのようなものに適用してもよい。また、異常検出(判定)の方法についても、本実施形態の構成に限るものではない。
【0093】
・上記各実施形態では、電流指令値演算部23は、二相駆動時、通電不良発生相以外の二相のうちの一相についての相電流指令値を出力し、モータ制御信号生成部24は、当該相についての相電圧指令値を演算した後に、これに基づいて他相の相電圧指令値を演算することとした。しかし、これに限らず、電流指令値演算部23が、通電不良発生相以外の二相の両方についての相電流指令値を出力する構成としてもよい。
【0094】
・また、上記各実施形態では、上記(1)〜(3)式に基づいて、U相又はW相の異常時には、V相の相電流指令値Iv*を演算し、V相の異常時には、U相の相電流指令値Iu*を演算することとした。しかし、これに限らず、U相又はV相の異常時には、W相の相電流指令値(Iw*)を演算し、W相の異常時には、U相の相電流指令値(Iu*)を演算する等の構成としてもよい。尚、この場合における各相電流指令値は、上記(1)〜(3)式の符号を逆にすることで演算可能である。
【0095】
・更に、通電不良発生時における相電流指令値は、必ずしも上記(1)〜(3)式により演算した場合と完全には同一でなくともよい。即ち、所定の回転角を漸近線として略正割曲線又は略余割曲線状に変化する、或いはこれに近似して変化するような相電流指令値を演算しても、上記各実施形態に近い効果を得ることができる。但し、上記(1)〜(3)式に基づき相電流指令値を演算した場合が、最も要求トルクに近いモータ電流を発生させることが可能であり、該各式に基づき演算される相電流指令値に近い値が演算される方法ほど、より顕著な効果が得られることはいうまでもない。
【0096】
・上記第1の実施形態では、マイコン17は、検出される回転角速度ω(の絶対値)が所定の閾値ω0を超える場合には、そのサンプリング周期を短縮した高速サンプリングを実行することとした(図9参照)。しかし、これに限らず、例えばマップ演算を実行する等によって、図13に示すような回転角速度ωの上昇に応じて連続的にサンプリング周期を短縮化する構成としてもよい。また、回転角速度ωに基づき複数段階でサンプリング周期を短縮化する構成としてもよい。
【0097】
・上記第2の実施形態では、検出される各相電流値Ixは、その直近の4回分の検出値(直近の4値)までが保持(メモリに記憶)され、マイコン17は、その保持された直近の4値を随時読み出すことによりモータ温度の推定を実行することとした。しかし、これに限らず、今回の検出値Icuとともに少なくとも前回の検出値Ibfが保持される構成であれば、本発明を適用することが可能である。また、その保持された各検出値の用途は、必ずしも温度推定に限るものではない。
【0098】
・更に、上記第2の実施形態では、メモリに記憶された検出値を読み出してモータ温度の推定に用いることとした。しかし、これに限らず、検出される各相電流値Ixを随時使用する構成についても、その検出値Idtの絶対値を増大させるような相電流検出値補正演算を実行しても良い。
【0099】
具体的には、以下の二つの補正演算の何れか又は双方を実行するとよい。
− 今回の電流検出時における回転角と前回の電流検出時における回転角との間に上記漸近線に対応する所定の回転角を挟む場合には、今回検出された電流値について、その絶対値がより大きな値となるように補正する。
【0100】
− 次回の電流検出時における回転角を推定する。そして、今回の電流検出時における回転角と次回の電流検出時における回転角との間に上記漸近線に対応する所定の回転角を挟むと推定される場合には、今回検出された電流値について、その絶対値がより大きな値となるように補正する。尚、次回の電流検出時における回転角の推定は、モータの回転角速度ω、或いは過去の電流検出時における回転角の推移等により行なうとよい。
【0101】
より具体的には、例えば、図14のフローチャートに示すように、先ず、今回検出時における回転角と前回検出時における回転角との間に、上記漸近線に対応する所定の回転角θA,θBを挟むか否かを判定する(ステップ701)。そして、このステップ701において、当該所定の回転角θA,θBを挟むと判定した場合(ステップ701:YES)、その検出される相電流値Ix(検出値Idt)と上記通電可能な最大値Imaxとの平均値を演算することにより、その検出値Idtを補正する(Idt´=(Idt+Imax)/2、ステップ702)。
【0102】
一方、上記ステップ701において、今回検出時における回転角と前回検出時における回転角との間には、上記所定の回転角θA,θBを挟んでいないと判定した場合(ステップ701:NO)、続いて、次回検出時における回転角を推定する(ステップ703)。そして、今回検出時における回転角と次回検出時における回転角との間に、上記漸近線に対応する所定の回転角θA,θBを挟むと推定されるか否かを判定し(ステップ704)、当該所定の回転角θA,θBを挟むと推定される場合(ステップ704:YES)には、上記ステップ702の実行によりその検出値Idtを補正する。
【0103】
このように、上記ステップ701〜ステップ704を実行することで、上記第2の実施形態と同様の効果を得ることができるようになる。尚、次回検出時における回転角の推定を実行する推定手段については、マイコン17であってもよく、マイコン17以外がこれを構成する形態であってもよい。
【0104】
・更に、電流制御の形態としては、必ずしも、上記各実施形態のような三相交流座標(U,V,W)における相電流フィードバック制御でなくともよい。例えば、以下に示す(4)〜(6)式により、通電不良発生相に応じた所定の回転角θA,θBを漸近線として、正接曲線(タンジェント)状に変化するd軸電流指令値Id*を演算する。そして、該d軸電流指令値Id*に基づくd/q座標系の電流フィードバック制御の実行によりモータ制御信号を生成する構成に適用してもよい(図15参照、同図はU相通電不良時の例)。尚、この場合におけるF/Bゲイン可変制御については、そのd/q座標系における電流フィードバック制御において行なうこととすればよい。
【0105】
【数2】

・上記各実施形態では、本発明をラックアシスト型のEPSに具体化したが、所謂コラムアシスト型等、その他型式のEPSに適用してもよい。また、EPS以外の用途に用いられるモータ制御装置に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0106】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、10…EPSアクチュエータ、11…ECU、12…モータ、12u,12v,12w…モータコイル、17…マイコン、18…駆動回路、19u,19v,19w…電流センサ、21…電流検出部、23…電流指令値演算部、24…モータ制御信号生成部、24a…第1電流制御部、24b…第2電流制御部、31…異常判定部、33…相電流指令値演算部、34…ガード処理部、36…F/B制御部、37…相電圧指令値演算部、Ix*,Iu*,Iv*,Iw*…相電流指令値、Ix,Iu,Iv,Iw…相電流値、I1,I1´,I2,I2´,I3,I3´,I4,I4´,Icu,Icu´,Ibf,Ibf´,Idt,Idt´…検出値、Imax…最大値、Vx*,Vu*,Vv*,Vw*,Vu**,Vv**,Vw**…相電圧指令値、Id…d軸電流値、Iq…q軸電流値、Id*…d軸電流指令値、Iq*…q軸電流指令値、θ,θA,θB,θp1,θp2,θp3,θp4,θcu,θbf…回転角、ω…回転角速度、ω0…閾値、Su,Sv,Sw…出力信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに三相の駆動電力を供給する駆動回路と、前記モータの各相に生じた通電不良を検出可能な異常検出手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記モータの回転角に基づく電流制御の実行により前記モータ制御信号を生成するとともに、前記通電不良の発生時には、その通電不良発生相以外の二相を通電相として前記モータ制御信号の出力を実行するモータ制御装置において、
前記モータ制御信号出力手段は、前記通電不良の発生時には、前記各通電相に対し、前記通電不良発生相に応じた所定の回転角を漸近線として正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流を通電すべく前記電流制御を実行するとともに、
各相の電流値は、電流検出手段により所定のサンプリング周期で検出されて、その今回の検出値とともに少なくとも前回の検出値が保持されるものであって、
前記電流検出手段は、今回の電流検出時における回転角と前回の電流検出時における回転角との間に前記漸近線に対応する所定の回転角を挟む場合には、その保持された今回の検出値及び前回の検出値について、その絶対値がより大きな値となるように補正すること、を特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに三相の駆動電力を供給する駆動回路と、前記モータの各相に生じた通電不良を検出可能な異常検出手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記モータの回転角に基づく電流制御の実行により前記モータ制御信号を生成するとともに、前記通電不良の発生時には、その通電不良発生相以外の二相を通電相として前記モータ制御信号の出力を実行するモータ制御装置において、
前記モータ制御信号出力手段は、前記通電不良の発生時には、前記各通電相に対し、前記通電不良発生相に応じた所定の回転角を漸近線として正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流を通電すべく前記電流制御を実行するとともに、
各相の電流値は、電流検出手段により所定のサンプリング周期で検出されるものであって、
前記電流検出手段は、今回の電流検出時における回転角と前回の電流検出時における回転角との間に前記漸近線に対応する所定の回転角を挟む場合には、今回検出された電流値について、その絶対値がより大きな値となるように補正すること、
を特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに三相の駆動電力を供給する駆動回路と、前記モータの各相に生じた通電不良を検出可能な異常検出手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記モータの回転角に基づく電流制御の実行により前記モータ制御信号を生成するとともに、前記通電不良の発生時には、その通電不良発生相以外の二相を通電相として前記モータ制御信号の出力を実行するモータ制御装置において、
前記モータ制御信号出力手段は、前記通電不良の発生時には、前記各通電相に対し、前記通電不良発生相に応じた所定の回転角を漸近線として正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流を通電すべく前記電流制御を実行するとともに、
各相の電流値は、電流検出手段により所定のサンプリング周期で検出されるものであって、
次回の電流検出時における回転角を推定する推定手段を備え、
前記電流検出手段は、今回の電流検出時における回転角と次回の電流検出時における回転角との間に前記漸近線に対応する所定の回転角を挟むと推定される場合には、今回検出された電流値について、その絶対値がより大きな値となるように補正すること、
を特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のモータ制御装置において、
前記電流値の補正は、その検出値と通電可能な最大値との平均値を演算することにより行なわれること、を特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載のモータ制御装置を備えた電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−63018(P2013−63018A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−245114(P2012−245114)
【出願日】平成24年11月7日(2012.11.7)
【分割の表示】特願2008−110352(P2008−110352)の分割
【原出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】