説明

モータ用接触子材料およびその製造方法

【課題】接点障害が発生しにくいモータ用接触子材料およびその製造方法提供する。
【解決手段】本発明のモータ用接触子材料は、基体1の上に、中間層2、最表層3が設けられて、最表層3は基体1の表面の一部に配置されている。基体1としては、銅(無酸素銅、タフピッチ銅)またはその合金(黄銅、りん青銅、洋白、コルソン合金など)、鉄またはその合金(SUS、42アロイなど)が好適に用いられる。中間層2としては、ニッケルまたはニッケル合金、コバルトまたはコバルト合金、銅またはその合金が好適に用いられる。最表層3としては、銀またはその合金、パラジウムまたはその合金、ロジウムまたはその合金、金またはその合金が好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ用接触子材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ用接触子材料として、貴金属材料が用いられることがある。近年では、モータ用接触子材料の低コスト化が検討されるようになり、貴金属またはその合金で構成される接触子材料のほか、貴金属が表面に設けられた接触子材料の検討が進められている。
【0003】
例えば、モータ用接触子材料をクラッド材により提供することが知られている(特許文献1参照)。貴金属をめっきにより設けることが提案されている(特許文献2参照)。特許文献2においては、貴金属としてパラジウム(Pd)めっきを0.2〜5.0μm施すこと好ましいとされている
【0004】
【特許文献1】特許第3299282号公報
【特許文献2】特開2005−051987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、貴金属をクラッドにより設けると、貴金属層が厚くなり、また、材料表面全体に貴金属を配置することになるため、コスト高になりやすい。
【0006】
また、特許文献2の技術では、表層にPdをめっき法で形成すると、耐食性が悪化するという問題点がある。特にPdめっき厚が2.0μm以下の場合、ピンホールが生成されやすいため、そのこと自体で耐食性に難があることが明らかとなった。また、表層にPdをめっき法で形成すると、Pd析出とともに水素を吸蔵し、Pd表面が大変硬くなる。この材料を所定の形状とするためにプレス加工を行うと、Pdめっきが割れて亀裂を生じ、下地や基材にまでその亀裂が達することで、耐食性が悪化することがわかってきた。また、Pd層に吸蔵された水素に対する処置を行わないと、プレスした際に亀裂が発生し、通電とともに腐食生成物の影響で接触抵抗が上昇、導通不良となってしまうことがあった。
さらに、特許文献2にはめっき皮膜中にカーボンを含有させことが記載されているが、Pdめっき表面に、カーボン(ブラウンパウダーやブラックパウダー)が付着することにより接触抵抗の増加が発生し、接点障害が生じるおそれが高まる。
【0007】
そこで本発明では、接点障害が発生しにくいモータ用接触子材料およびその製造方法提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の解決手段を提供する。
(1)基体上にニッケルまたはその合金、コバルトまたはその合金、銅またはその合金のいずれかからなる中間層が形成され、その上層にパラジウムまたはその合金、ロジウムまたはその合金、ルテニウムまたはその合金、銀またはその合金、金またはその合金、のいずれかからなる最表層が形成されているモータ用接触子材料であって、前記最表層が前記基体の表面の一部に形成された後、冷間圧延加工が施されていることを特徴とするモータ用接触子材料。
(2)前記最表層がストライプ状あるいはスポット状に形成されていることを特徴とする、前記(1)に記載のモータ用接触子材料。
(3)前記最表層の形成時の厚さをA(単位:μm)としたとき、冷間圧延加工後の最表層の厚さB(単位:μm)がA/5〜A/2であることを特徴とする、前記(1)または前記(2)に記載のモータ用接触子材料。
(4)前記最表層が銀またはその合金からなり、前記最表層の形成時の厚さAが0.5〜10μmであることを特徴とする、前記(3)に記載のモータ用接触子材料。
(5)前記最表層がパラジウムまたはその合金、ロジウムまたはその合金、ルテニウムまたはその合金、金またはその合金いずれかからなり、前記最表層の形成時の厚さAが0.2〜3.0μmであることを特徴とする、前記(3)に記載のモータ用接触子材料。
(6)前記形成後の最表層中の水素吸蔵量が1質量%以下となされた状態で冷間圧延加工が施されて前記最表層中の水素吸蔵量が0.2質量%以下となされている、前記(4)または前記(5)に記載のモータ用接触子材料。
(7)前記中間層の形成および前記最表層の形成が、めっきで行われていることを特徴とする、前記(1)〜前記(6)のいずれか1項に記載のモータ用接触子材料。
(8)前記(1)〜前記(7)のいずれか1項に記載のモータ用接触子材料を製造する方法であって、前記最表層を形成した後、100℃〜300℃の温度範囲で1秒〜60秒の熱処理を施すことにより、前記形成後の最表層中の水素吸蔵量を1質量%以下とし、その後、冷間圧延加工を施すことを特徴とする、モータ用接触子材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、最表層が基体の表面の一部に形成された後、冷間圧延加工が施されているため、最表層中のピンホールが消滅し、耐食性および耐摩耗性に優れたモータ用接触子材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一つの実施態様を示す断面図である。図1において、1は基体、2は中間層、3は最表層である。図1(a)は最表層3の形成時の状態を示し、図1(b)は最表層3の冷間圧延加工後の状態を示す。
【0011】
基体1としては、銅(無酸素銅、タフピッチ銅)またはその合金(黄銅、りん青銅、洋白、コルソン合金など)、鉄またはその合金(SUS、42アロイなど)が好適に用いられる。
【0012】
中間層2としては、ニッケルまたはニッケル合金、コバルトまたはコバルト合金、銅またはその合金が好適に用いられる。
【0013】
最表層3としては、銀またはその合金、パラジウムまたはその合金、ロジウムまたはその合金、金またはその合金が好適に用いられる。
【0014】
最表層3をA(μm)の厚さに形成し、その後冷間圧延加工によって厚さB=A/5〜A/2(μm)とすることが好ましい。最表層3の冷間圧延加工によりその厚さBがA/2(μm)以下の厚さとなることで、最表層3がめっきで形成されている場合でもピンホールを埋める効果が発揮され、導電性基材1などの腐食を効果的に抑制する。また、A/5(μm)以上の厚さとすることで、めっき上がりの状態より耐磨耗性が向上し、かつ長期動作による磨耗により基材金属が露出するおそれが少なくなり、接触抵抗の増大や導通不良などのおそれが少なくなる。
また、最表層3の金属は、中間層2の金属よりも柔らかく、かつ加工を直に受けるため、圧延率は目標とした膜厚を圧下する割合で設定することで、最表層3のめっき層のみ薄くすることが可能となる。
【0015】
最表層3は、全面よりもストライプやスポット状のように部分的に設けられるほうが、より低コスト化が達成できる。
【0016】
最表層3が銀またはその合金の場合、厚さが0.5〜10μmであることが好ましく、パラジウムまたはその合金、ロジウムまたはその合金、もしくは金またはその合金いずれかからなる場合は、厚さが0.2〜3.0μmであることが好ましい。
【0017】
最表層3がパラジウムまたはその合金、ロジウムまたはその合金、もしくは金またはその合金いずれかからなる場合は、温度100〜300℃の雰囲気中で1〜60秒熱処理することで、水素吸蔵量を1質量%以下にすることが好ましい。
【0018】
中間層2の厚さに関しては特に規制は無いが、厚すぎると曲げた時に割れやすくなり、逆に薄すぎると最表層のバリア効果が薄くなるため、好ましくは0.1〜2.0μm、さらに好ましくは0.15〜1.0μmとする。また、中間層2はめっきで形成することができる。
【0019】
また、図2に本発明の他の実施態様を示す。図2(a)は金属材料の長手方向にストライプ状に最表層3が設けられた状態を示し、図2(b)はスポット状に最表層3が設けられている状態を示す。図2の最表層3が設けられている部分は接触子として使用される部分であり、プレス工程で接触部分となるように加工される。図2は最表層3が1列のストライプあるいはスポット状となった状態を示すが、最表層3は多列のストライプあるいはスポット状であったもよく、スポット状に形成される場合は列をなしていなくてもよい。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0021】
ここでは、モータのブラシ側材料と整流子側材料を準備し、ブラシ側材料を本発明の実施例(本発明例および比較例)の材料とする。
【0022】
[ブラシ側材料]
基材:C7701R−H 厚さ0.05mm×幅22mm
工程:脱脂→酸洗→全面中間層めっき1.0μm→最表層めっき→(熱処理)→圧延
[整流子側材料]
基材:古河電気工業(株)製銅合金 EFTEC−3−1/2H 厚さ0.3mm×幅18mm
工程:脱脂→酸洗→全面Niめっき0.5μm→最表層Agめっき4.0μm(圧延なし)
【0023】
(前処理条件)
[電解脱脂]
脱脂液:NaOH 60g/リットル
脱脂条件:電流密度 2.5A/dm、温度60℃、脱脂時間60秒
[酸洗]
酸洗液:10%硫酸
酸洗条件:30秒浸漬、室温(25℃)
【0024】
(中間層めっき条件)
[Niめっき]
めっき液:Ni(NHSOH) 500g/リットル、NiCl 30g/リットル、HBO 30g/リットル
めっき条件:電流密度 15A/dm、温度 50℃
[Coめっき]
めっき液:CoSO 400g/リットル、NaCl 20g/リットル、HBO 40g/リットル
めっき条件:電流密度 5A/dm、温度 30℃
[Cuめっき]
めっき液:CuSO・5HO 250g/リットル、HSO 50g/リットル、NaCl 0.1g/リットル
めっき条件:電流密度 6A/dm、温度 40℃
【0025】
(最表層めっき条件)
[Agストライクめっき]
めっき液:AgCN 5g/リットル、KCN 60g/リットル、KCO 30g/リットル
めっき条件:電流密度 2A/dm、温度 30℃
[Agめっき]
めっき液:AgCN 50g/リットル、KCN 100g/リットル、KCO 30g/リットル
めっき条件:電流密度 0.5〜3A/dm、温度 30℃
[光沢Agめっき]
めっき液:AgCN 5g/リットル、KCN 100g/リットル、KCO 30g/リットル、NaS 1.58g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
[Pd−Ni合金めっき:Pd/Ni(%)80/20]
めっき液:Pd(NHCl 40g/リットル、NiSO 45g/リットル、NHOH 90ミリリットル/リットル、(NHSO 50g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
[Pdめっき]
めっき液:Pd(NHCl 45g/リットル、NHOH 90ミリリットル/リットル、(NHSO 50g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
[Auめっき]
めっき液:KAu(CN) 14.6g/リットル、C 150g/リットル、K 180g/リットル、EDTA−Co(II) 3g/リットル、ピペラジン 2g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 40℃
[Ruめっき]
めっき液:RuNOCl・5HO 10g/リットル、NHSOH 15g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 50℃
【0026】
(熱処理条件)
管状炉、窒素雰囲気、100℃〜300℃、1秒〜60秒
【0027】
(特性評価)
[モータ寿命測定:耐摩耗性評価]
得られた材料を整流子片およびブラシ材形状にプレス加工し、小型モータに組み込んで評価を行った。
印加電圧2.5V、負荷電流0.1A、負荷時回転数2000回転/分の条件でモータ試験を行い、モータ停止時間を測定した。停止時間は、測定開始より300日後(7200時間)でも回転し続けているものは、その時点で装置を停止し、十分特性を満足しているものとした。
[耐食性評価・最表層の割れ有無確認]
得られた材料を長さ100mmに切断後、評価を実施。
混合ガス試験:HS=100ppb、Cl=20ppb、NO=200ppbを混合し、温度40℃、湿度80%RHの空気雰囲気の24時間試験機に投入した。その後、4端子法にて接触抵抗を測定(AgプローブR=4mm、荷重100mN、測定数n=10とし、平均値を算出)した。接触抵抗値が高いものほど耐食性が悪いことを示し、一般的に接触子としては10mΩ以下の抵抗値が実用レベルである。
また、得られた材料の最表層について、マイクロスコープ(キーエンス製)を用いて450倍で観察を実施、割れの有無について確認した。ブラシ側材料の各層の厚さと熱処理有無を表1に、表1の各材料の評価結果を表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
表2に示されるとおり、本発明の実施例(本発明例1〜21)の材料は、いずれも優れた耐食性および耐摩耗性を示すが、比較例および従来例の各材料は、耐食性または耐摩耗性の少なくとも一方に劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一つの実施態様を示す断面図であって、(a)は最表層3の形成時の状態を示し、(b)は最表層3の冷間圧延加工後の状態を示す。
【図2】本発明の他の実施態様を示す断面図であって、(a)は金属材料の長手方向にストライプ状に最表層3が設けられた状態を示し、(b)はスポット状に最表層3が設けられている状態を示す。
【符号の説明】
【0032】
1 基体
2 中間層
3 最表層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上にニッケルまたはその合金、コバルトまたはその合金、銅またはその合金のいずれかからなる中間層が形成され、その上層にパラジウムまたはその合金、ロジウムまたはその合金、ルテニウムまたはその合金、銀またはその合金、金またはその合金、のいずれかからなる最表層が形成されているモータ用接触子材料であって、前記最表層が前記基体の表面の一部に形成された後、冷間圧延加工が施されていることを特徴とするモータ用接触子材料。
【請求項2】
前記最表層がストライプ状あるいはスポット状に形成されていることを特徴とする、請求項1記載のモータ用接触子材料。
【請求項3】
前記最表層の形成時の厚さをA(単位:μm)としたとき、冷間圧延加工後の最表層の厚さB(単位:μm)がA/5〜A/2であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のモータ用接触子材料。
【請求項4】
前記最表層が銀またはその合金からなり、前記最表層の形成時の厚さAが0.5〜10μmであることを特徴とする、請求項3記載のモータ用接触子材料。
【請求項5】
前記最表層がパラジウムまたはその合金、ロジウムまたはその合金、ルテニウムまたはその合金、金またはその合金いずれかからなり、前記最表層の形成時の厚さAが0.2〜3.0μmであることを特徴とする、請求項3記載のモータ用接触子材料。
【請求項6】
前記形成後の最表層中の水素吸蔵量が1質量%以下となされた状態で冷間圧延加工が施されて前記最表層中の水素吸蔵量が0.2質量%以下となされている、請求項4または請求項5に記載のモータ用接触子材料。
【請求項7】
前記中間層の形成および前記最表層の形成が、めっきで行われていることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のモータ用接触子材料。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のモータ用接触子材料を製造する方法であって、前記最表層を形成した後、100℃〜300℃の温度範囲で1秒〜60秒の熱処理を施すことにより、前記形成後の最表層中の水素吸蔵量を1質量%以下とし、その後、冷間圧延加工を施すことを特徴とする、モータ用接触子材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−146925(P2010−146925A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324793(P2008−324793)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】