説明

レジスト現像剤、レジストパターンの形成方法及びモールドの製造方法

【課題】所定の組成を有するレジスト層に対して所望の解像度をもたらしつつも、レジストパターンを形成する際の必要露光量を低減させる。
【解決手段】α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層にエネルギービームを照射して露光して、現像を行う際に用いられるレジスト現像剤であって、フルオロカーボンを含む溶媒Aと、前記溶媒Aよりも前記レジスト層に対する溶解度が高いアルコール溶媒Bと、酢酸−n−アミル又は酢酸エチル又はそれらの混合物からなる溶媒Cとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト現像剤、レジストパターンの形成方法及びモールドの製造方法に関し、特に、レジストにパターンを形成する際の現像剤と現像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク等で用いられる磁気メディアにおいては、磁性粒子を微細化し、磁気ヘッド幅を極小化し、情報が記録されるデータトラック間を狭めて高記録密度化を図るという手法が用いられてきた。その一方で、高記録密度化の要求はますます進み、この磁気メディアでは隣接トラック間の磁気的影響が無視できなくなっている。そのため、従来手法だと高記録密度化に限界がきている。
【0003】
近年、磁気メディアのデータトラックを磁気的に分離して形成するパターンドメディアという、新しいタイプのメディアが提案されている。このパターンドメディアとは、記録に不要な部分の磁性材料を除去して信号品質を改善し、より高い記録密度を達成しようとするものである。
【0004】
最近、このパターンドメディアとして、磁気ディスクのデータトラックを磁気的に分離して形成するディスクリートトラック型メディア(Discrete Track Recording Media;以降、DTRメディアと言う。)という、タイプのメディアが提案されている。
【0005】
その一方、このDTRメディアをさらに高密度化して発展させた、「ビットパターンドメディア」(信号をビットパターン(ドットパターン)として記録する磁気メディア Bit Patterned Media;以降、BPMと言う。))という新しいタイプのメディアも提唱されてきている。
【0006】
このパターンドメディアを量産する技術として、マスターモールド、又は、マスターモールドを元型モールドとして、一回又は複数回転写して複製したワーキングレプリカが有するパターンを被転写体(ここでは磁気メディア)に転写することによりパターンドメディアを作製するというインプリント技術が知られている。以降、マスターモールド、ワーキングレプリカをまとめて単にモールドともいう。また、このインプリント技術はナノオーダーで用いられることが多いため、ナノインプリント技術とも呼ばれている。
【0007】
このインプリント用モールドの製造のためのレジストパターン形成方法としては、例えば特許文献1には、石英基板上に、レジストとしてZEP520A(日本ゼオン株式会社製)(α−メチルスチレンとα−クロロアクリル酸メチルの共重合体)を塗布してレジスト層を形成し、このレジスト層に電子線描画による露光を行い、そしてレジストの現像剤を酢酸−n−アミルとする技術が記載されている。
【0008】
また関連技術であるが、半導体製造に用いられる技術として、ZEP520Aの現像剤にメチルイソブチルケトン及びイソプロパノールの混合液を用いた技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
また関連技術であるが、パターンドメディア製造に用いられる技術として、ZEP520の現像剤にイソプロパノールを用いた技術が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0010】
同じく関連技術であるが、光画像形成、特に半導体製造に用いられる技術として、部分フッ素化二環式コモノマーからなるレジストの現像剤にフルオロカーボンであるバートレルXF(登録商標 三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)を用いた技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−226762号公報
【特許文献2】特開2000−039717号公報
【特許文献3】特表2002−525683号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】XiaoMin Yang et.al.J.Vac.Sci.Technol.B 25(6),Nov/Dec 2007 p.2202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、ZEP520A(α−メチルスチレンとα−クロロアクリル酸メチルの共重合体からなるレジスト)に対して、酢酸−n−アミルからなる現像剤により現像処理を行う場合、電子線描画した部位(以降、レジスト溶解部と言う。)と電子線描画していない部位(以降、レジスト非溶解部と言う。)との幅比を1対2としたライン・アンド・スペースの微細パターンをレジスト層に形成しようとしても、レジスト層におけるレジスト溶解部の線幅としては約26nmが実用的に使用する上での限界となる値であった。以降、この値を解像度と言う。その際、当該レジスト溶解部の幅を形成するのに必要な電子線描画による露光量(以降、必要露光量と言う。)は約120μC/cm(加速電圧100kV)であった。
なお、レジスト溶解部とレジスト非溶解部で形成されたレジスト層の構造をレジストパターンと言う。
【0014】
また、特許文献2のメチルイソブチルケトンとイソプロパノールとの混合液であって、メチルイソブチルケトン対イソプロパノールが56対44(体積混合比)の混合液を現像剤に用いた場合、前記解像度は20nmであった。そして、当該レジスト溶解部の幅を形成するための必要露光量は約350μC/cm(加速電圧100kV)であった。
【0015】
即ち、上記の2種類の現像剤では、比較的少ない電子線露光量でレジストパターンは形成されるが、解像度は20nm程度に留まっていた。
【0016】
そのような現状に対し、パターンドメディアの一つであるDTRメディアで実用化を目指す磁気記録密度は、一般に、1TeraBit/inchであって、それに必要なトラックピッチは50nm程度とされている。この場合、幅比1対2のライン・アンド・スペース・パターンにおいて要求される解像度は、おおよそ17nmとなっている。更に、BPMで実用化を目指す磁気記録密度はDTRメディアと同等又はそれを上回るものであり、要求される解像度についても自ずとそれ以上になる。
【0017】
一方、非特許文献1のイソプロパノールを現像剤に用いた場合、前記解像度は14nmにまで改善されている。しかしながら、当該レジスト溶解部の幅を形成するための必要露光量は約1150μC/cm(加速電圧100kV)となっている。つまり、現像剤をイソプロパノールとした場合、上記のような所望の解像度(17nm)は達成できるものの、レジスト溶解部を形成するための必要露光量は、前記解像度に拘わらずに酢酸−n−アミルを現像剤とした場合(120μC/cm、加速電圧100kV)と比較して、9.6倍(約1150μC/cm)と、相当に増加してしまう。
【0018】
なお、本発明者らが想到した知見を基にした例であり、未だ公知となっていない技術を基にした例である参考例として、以下のデータをあげることができる。即ち、α−メチルスチレンとα−クロロアクリル酸エステルの共重合体からなるレジストに対し、バートレルXFのみを現像剤に用いた場合、前記解像度は11nmにまで改善された。しかし、当該レジスト溶解部の幅を形成するための必要露光量は約1800μC/cm(加速電圧100kV)となっている。つまり、現像剤をバートレルXFとした場合、前記所望の解像度(17nm)は達成できるものの、レジスト溶解部を形成するための必要露光量は、前記解像度に拘わらずに酢酸−n−アミルを現像剤とした場合(120μC/cm、加速電圧100kV)と比較して、15倍(約1800μC/cm)と、相当に増加してしまう。
【0019】
その結果、電子線描画処理に相当の時間を要することになり、マスターモールド作製効率が低下してしまう。
【0020】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、所定の組成を有するレジスト層に対して所望の解像度をもたらしつつも、レジストパターンを形成する際の必要露光量を低減させるレジスト現像剤、レジストパターンの形成方法及びモールドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、所定の組成を有するレジスト層(本実施形態においてはα−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層)に対して所望の解像度をもたらしつつも、必要露光量を低減させるための手段について種々検討した。
【0022】
その結果、上記のレジスト層に対する溶解速度が極めて低い貧溶媒と、レジスト層に対する溶解速度がこの貧溶媒よりも高いけれども必要露光量を相当に低減可能な溶媒とを混合させたものを現像剤として使用することを見出した。つまり、上記の溶媒を混合して現像剤として使用することにより、貧溶媒にて主として解像度を向上させるとともに、その他の溶媒にて必要露光量を相当に低減でき、本実施形態における溶媒同士の相乗効果により、所望の解像度を得つつも必要露光量を相当に低減できるという知見が得られた。
本発明者らは、以上の知見を元にして、上述の課題が解決可能となる手段を想到した。
【0023】
この知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層にエネルギービームを照射して露光して、現像を行う際に用いられるレジスト現像剤であって、
フルオロカーボンを含む溶媒Aと、前記溶媒Aよりも前記レジスト層に対する溶解度が高いアルコール溶媒Bと、酢酸−n−アミル又は酢酸エチル又はそれらの混合物からなる溶媒Cとを含むことを特徴とするレジスト現像剤である。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記溶媒Aは、末端の一つあるいは両端にCF基を、その他に(CFX)基(XはF又はH)を有することを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の発明において、
前記溶媒Aは、CF−(CFX)−CF(XはF又はH、かつnは自然数)であることを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第1ないし第3のいずれかの態様に記載の発明において、
前記溶媒Bは、イソプロパノールであることを特徴とする。
本発明の第5の態様は、
α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層に対して電子線露光を行った後に現像を行う際に用いられるレジスト現像剤であって、
CF−(CFX)−CF(XはF又はH、かつnは自然数)である溶媒Aと、イソプロピルアルコールからなる溶媒Bと、酢酸−n−アミル又は酢酸エチル又はそれらの混合物からなる溶媒Cとを含むことを特徴とするレジスト現像剤である。
本発明の第6の態様は、
基板上に、α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層を形成する工程と、
前記レジスト層にエネルギービームを照射することにより、所定のパターンの露光を行う工程と、
フルオロカーボンを含む溶媒Aと、前記溶媒Aよりも前記レジスト層に対する溶解度が高いアルコール溶媒Bと、酢酸−n−アミル又は酢酸エチル又はそれらの混合物からなる溶媒Cとを含む現像剤によって、前記露光されたレジスト層を現像する工程と、
を含むことを特徴とするレジストパターンの形成方法である。
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載の発明において、
前記露光工程は電子線描画を行う工程であり、
前記レジスト層は電子線に感度をもつレジストであることを特徴とする。
本発明の第8の態様は、第6又は第7の態様に記載の発明において、
前記現像工程後に、レジスト層に対して前記溶媒Aによるリンス処理工程を設けることを特徴とする。
本発明の第9の態様は、
基板上に、α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層を形成する工程と、
前記レジスト層にエネルギービームを照射することにより、所定のパターン形状の露光を行う工程と、
フルオロカーボンを含む溶媒Aと前記溶媒Aよりも前記レジスト層に対する溶解度が高いアルコール溶媒Bと、酢酸−n−アミル又は酢酸エチル又はそれらの混合物からなる溶媒Cとを含む現像剤によって、前記露光されたレジスト層を現像する工程と、
を含むことを特徴とするモールドの製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、所定の組成を有するレジスト層に対して所望の解像度をもたらしつつも、レジストパターンを形成する際の必要露光量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態に係るモールドの製造工程を説明するための断面概略図である。
【図2】実施例、参考例及び比較例における電子線描画部のレジスト溶解に、即ち、レジストパターン形成に必要な露光量と解像度との関係を記載した図である。
【図3】実施例、参考例及び比較例における試料(モールド)の作製途中であるレジストパターンを、走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本実施形態においては、初めに図1を用い、次の順序で説明を行う。
1.マスターモールドの製造方法
a)基板の準備
b)基板へのハードマスクの形成
c)レジスト層の形成
d)パターン描画
e)現像
f)リンス・乾燥
g)レジスト層における残膜層の除去
h)ハードマスクへのエッチング(第1のエッチング)
i)基板へのエッチング(第2のエッチング)
j)レジストパターンの除去
k)ハードマスクの除去
l)洗浄・乾燥
2.実施の形態による効果
3.変形例
【0027】
<1.マスターモールドの製造方法>
a)基板の準備
本実施形態において、図1(a)の基板1は、複数のトラックを有する磁気記録媒体を製造するため、又は複数のトラックを有する磁気記録媒体の製造に用いられるワーキングモールドをインプリントにより製造する際に用いられるマスターモールド20となる基板である。つまり、DTRメディアやBPMをインプリント法で作成するためのインプリント用モールドとなる基板である。
本実施形態においては、ウエハ形状の石英からなる基板1を用いて説明する。以降、このウエハ形状の石英からなる基板を単に基板1という。
【0028】
b)基板へのハードマスクの形成
まず、必要に応じて適宜研磨し洗浄した基板1(図1(a))をスパッタリング装置に導入する。そして本実施形態においては、クロム(Cr)からなるターゲットをアルゴンガスと窒素ガスでスパッタリングし、窒化クロムからなるハードマスク2を形成する(図1(b))。
【0029】
ここで、ハードマスク2は、α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層3との密着性が良好であるものが好ましい。また、ハードマスク2は、α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層3とのエッチング選択性が良好であるものが好ましい。また、この時のハードマスク2の膜厚は、基板1に対するエッチングが完了するまで残存する厚さであることが好ましい。
【0030】
なお、ここでいう「ハードマスク」とは、単一又は複数の層からなり、基板上へのエッチングに用いられる層状のもののことを指すものとする。
上記「複数の層」の一例を挙げるとすると、このハードマスクは導電層や酸化防止層、そして密着補助層等を含んでいても良い。なお、ハードマスクにおける酸化防止層は、導電層を兼ねても良い。その場合、導電層は省略可能である。
【0031】
c)レジスト層の形成
上記ハードマスク2を形成した基板1に対して、適宜洗浄し、密着性向上のために必要に応じてレジスト塗布前の脱水ベーク処理あるいは上記密着補助層等の形成を行う。
その後、本実施形態においては、図1(c)に示すように、ハードマスク2を形成した基板1に対して、α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジストを塗布し、レジスト層3を形成する。
なお、このα−クロロアクリル酸エステルとしては、一般的なアクリル酸エステル構造(α−クロロアクリル酸メチルやα−クロロアクリル酸エチル等)を有するものを用いて良い。具体例として、ZEP520A−7(日本ゼオン株式会社製)に用いられているα−クロロアクリル酸メチルが挙げられる。本実施形態においては、α−クロロアクリル酸メチルを用いた例について挙げる。
【0032】
本実施形態においては、レジスト層3の形成の際の塗布にはスピンコート法を用いる。具体的に言うと、ハードマスク2を形成した基板1の主表面に上記レジストの溶液を滴下した後、所定の回転数にて基板1を回転させレジスト層3を形成する。次いで、レジスト層3がスピンコートされた基板1をホットプレートにて所定の温度と時間でベーク処理する。その後、例えば室温(22.5℃)に保たれた冷却プレート上に移載して冷却処理し、乾燥して、レジスト層3を形成する。
【0033】
また、この時のレジスト層3の厚さは、基板1に形成したハードマスク2へのエッチングが完了するまでレジスト層が残存する程度の厚さであることが好ましい。ハードマスク2へのエッチングにより、レジスト層3に形成されるレジスト溶解部に対応する部位のみならず、レジスト非溶解部のレジスト層3も少なからず除去されるためである。
【0034】
d)パターン描画
次に、電子線描画装置を用いて、レジスト層3に所望のパターンを描画する。
前記塗布工程の後、電子線露光(描画)装置を用いて、レジスト層3に所望のパターンを描画する。そして、後述のe)現像を行うことにより、所望のレジストパターンを形成することができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、レジスト層3にはポジ型レジストを用いる。そのため、電子線描画した部位がレジスト溶解部となる。
【0036】
この電子線描画の形状は特に限定されないが、DTRメディアを作製する場合、ライン・アンド・スペースを形成するため線状となる。そして、BPMの場合はドット状となる。もちろん、データパターンやサーボパターンを形成するために、線状とドット状とを混在させた電子線描画を行っても良い。
なお、本実施形態においては電子線描画による露光の場合について説明するが、本実施形態はそれ以外の露光についても適用可能である。以降、電子線描画による露光を単に「露光」とも言う。
【0037】
e)現像
所望の微細パターンを電子線描画した後、図1(d)に示すように、レジスト層3を所定の現像剤で現像し、レジスト層3において電子線描画された部分(レジスト溶解部)を除去し、所望の微細パターンに対応するレジストパターン4を形成する。
【0038】
ここで本実施形態においては、現像剤として、フルオロカーボンを含む溶媒A、この溶媒Aよりもレジスト層3に対する溶解度が高いアルコール溶媒B、そしてこの溶媒Bよりも必要露光量が少なくて済む酢酸−n−アミル又は酢酸エチル又はそれらの混合物からなる溶媒C、という3種の溶媒を含む現像剤によって、レジスト溶解部のレジスト層を溶解除去し、露光済みのレジスト層3を現像処理する。
【0039】
本実施形態においては、CF−CFH−CFH−CF−CF(バートレルXF(登録商標 三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)、以降、化合物Yともいう)を溶媒Aとして、イソプロパノールを溶媒Bとして、酢酸−n−アミル(ZED−N50(日本ゼオン社製))を溶媒Cとする。そして、これらの溶媒Aと溶媒Bと溶媒Cの混合液を現像剤に用いた場合について、以下、説明する。
【0040】
レジスト溶解に必要な露光量と解像度との関係を記載した図2に示すように、上述の溶媒Aと溶媒Bと溶媒Cを用いることにより、化合物Yのみ又はイソプロパノールのみを現像剤に用いた場合、更には溶媒Aと溶媒Bのみを用いた場合よりも、所望の解像度を維持しつつ、必要露光量を相当に低減させることができるという顕著な効果を奏することができる。
【0041】
必要露光量が低減することにより、電子線の描画時間を短くすることができ、電子線描画の生産性を大きく向上させることが可能となり、あるいはまた、電子線の出力(電流値)を低下させることが可能となり、より精緻なパターンを描画することも可能となる。
【0042】
なお、化合物Y又はイソプロパノール単独を現像剤とした場合、更には化合物Yとイソプロパノールとを混合させた場合よりも、本実施形態の現像剤の方が、解像度を維持し且つ必要露光量の低減に成功している理由については鋭意検討中である。ただ、化合物Yの表面張力と粘度、並びにイソプロパノール及び酢酸−n−アミルとの相溶性が影響しているものと推測される。
【0043】
このレジスト層3に対する現像処理の具体的方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
即ち、ハードマスク2とレジスト層3が設けられ、所望のパターンを電子線描画された基板1を所定の回転数で回転させる。そして、この基板1の上方から、前記溶媒Aと前記溶媒Bと前記溶媒Cとの混合液からなる現像剤を滴下供給する。この際、この現像剤は室温であっても良いし、所定の温度に維持されていても良い。この現像剤の滴下が行われている最中に現像剤によるレジスト溶解部の溶解が起こる。
また、このレジスト溶解部の溶解が終了した後も、基板1を回転させながら現像液を過剰に滴下し続けることで、レジスト溶解物を含んだ現像剤は、基板1の回転による遠心力により、基板外縁部から流れ落ちる。また、基板1を回転させながら、さらに現像液を過剰に滴下し続けることで、レジスト溶解物を含んだ現像剤はレジスト溶解物を含まない現像剤に置換され、清浄なレジストパターンが形成される。
【0044】
また、ここで挙げた溶媒Aは、表面張力を低下させることを考えると、以下の1.〜3.のいずれか又はこれらの組み合わせが好ましい。
1.CF−(CX)−CF(XはF又はHが混在、かつnは自然数 即ちフルオロカーボン)
2.CF−(CX)−CF(XはF、かつnは自然数 即ち、パーフルオロカーボン)
3.CF−(CX)−O−(CX)−CX(XはF又はHあるいはFとHが混在、かつm、nは整数 即ち、フルオロエーテル)
【0045】
つまり、溶媒Aは、フルオロカーボン、パーフルオロカーボン、又は、フルオロエーテルのいずれか、あるいは、これらの混合液であっても良い。当該溶媒Aを用いることにより、以下の効果が期待できる。フルオロカーボン、パーフルオロカーボン、又は、フルオロエーテルのいずれか、あるいは、これらの混合液からなる溶媒Aは、α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層に対する溶解速度が極めて低い貧溶媒である。貧溶媒とすることにより、現像剤全体としてのレジスト層3の溶解速度を下げることができる。こうすることにより溶解速度が過度に高いことに起因するレジスト非溶解部の不必要な溶解を抑止することができ、ひいては解像度を向上することができる。また、フルオロカーボン、パーフルオロカーボン、又は、フルオロエーテルのいずれか、あるいは、これらの混合液からなる溶媒Aは、表面張力と粘度が比較的低い。従って、極微細な間隙に進入しやすく、電子線描画部(レジスト溶解部)が極微細であってもレジスト層3を溶解しながら掘り進むことができ、ナノオーダーの極微細なレジストパターン4を形成できる。
【0046】
また、もう1つの溶媒Bは、イソプロパノールでなくとも、前記レジスト層3の溶解速度が前記溶媒Aよりも高い溶媒であって、前記溶媒Aとの混合液として現像剤とした場合に、前記溶媒Bを単独で現像剤とした場合より、レジストパターン4を形成するのに(レジスト溶解部を溶解させるのに)必要な露光量が小さければ良い。
【0047】
更に、本実施形態においては溶媒Cを用いる。この溶媒Cは酢酸−n−アミル以外であっても良いが、溶媒Bよりも必要露光量が小さいものであることが好ましい。そのため、酢酸−n−アミルではなく酢酸エチルでも代用できるし、酢酸−n−アミル及び酢酸エチルの2種の溶媒を混合したものを溶媒Cとして用いても良い。もちろん、これら以外の化合物においても溶媒Cとして適用できる可能性はあるが現在検討中である。
【0048】
なお、本実施形態においては溶媒Aと溶媒Bと溶媒Cの3種類の溶媒のみを用いたが、これらの溶媒以外にも他の溶媒を混合しても良い。例えば、溶媒Bよりもレジスト層3に対して貧溶媒となる化合物、かつ溶媒Aと溶媒Bと溶媒Cとの親和性が高い化合物を混合しても良い。その際、溶媒Bよりも必要露光量が低いものであれば好ましく、それに加え溶媒Cよりも必要露光量が低いものであれば更に好ましい。
【0049】
f)リンス・乾燥
その後、前記現像剤の滴下供給を止めた直後に、基板1を回転させながら基板1の上方から、前記現像剤を洗い流すためにリンス剤を滴下供給する。
なお、このリンス剤の滴下供給は、現像剤の滴下供給を止める前に行うのが好ましい。こうすることにより、現像剤が瞬時にリンス剤に置換され、基板上に滞留している現像剤中に残存するレジスト溶解物が再度析出して汚れとなることを防止できる。
なお、このリンス剤には現像剤の溶媒Aと同物質を用いるのが好ましい。表面張力の小さな溶媒Aをリンス剤に用いることで、以下にて述べる乾燥工程におけるパターン倒壊を防止あるいは低減できる。
【0050】
そして、上記のリンス処理を行った基板1に対して乾燥処理を行う。この乾燥処理は、リンス処理を行った後にリンス剤の滴下供給を止めた後、所定の回転数にて基板1を回転させることによって行う。これにより、リンス剤が遠心力により基板外縁部から流れ落ちる、又は、蒸発する。こうして、所望のレジスト溶解部とレジスト非溶解部からなるレジストパターン4が形成されたハードマスク2付きの基板1が得られる。
なお、形成されたレジストパターン4の中に残存している現像剤あるいはリンス剤の除去と、レジストパターン4とハードマスク2との密着性を向上させることを目的に、必要に応じて、乾燥工程に次いでベーク処理を行っても良い。
【0051】
g)レジスト層における残膜層の除去
その後、レジストパターン4が形成されたハードマスク2付きの基板1を、ドライエッチング装置に導入する。そして、酸素ガスとアルゴン(Ar)ガスの混合ガスによる処理を行い、レジスト溶解部の残渣(スカム)を除去する。ここで、酸素ガスに代えて、例えばCH等のフッ素系ガスを用いても良い。また、ヘリウム(He)が添加されても良い。
【0052】
h)ハードマスクへのエッチング(第1のエッチング)
続いて、レジスト層における残膜層の除去で用いたガスを排気した後、塩素ガスと酸素ガスからなる混合ガスにより、第1のエッチングを行う。これにより、上記の現像処理と上記残膜層の除去により露出した部分のハードマスク2を除去する。
こうして図1(e)に示すように、レジストパターン4に対応するエッチングが基板1上のハードマスク2に施される。
なお、この時のエッチング終点は、例えば反射光学式の終点検出器又はプラズマモニター等を用いることで判別する。
【0053】
i)基板へのエッチング(第2のエッチング)
続いて、第1のエッチングで用いたガスを排気した後、フッ素系ガスを用いた第2のエッチングを基板1に対して行う。そして、図1(f)に示すように、レジストパターン4に対応するエッチングが基板1に施され、エッチングされた部分以外が残存したハードマスク2及びレジストパターン4が除去される前のモールド10が作製される。
【0054】
なお、ここで用いるフッ素系ガスとしては、CxFy(例えば、CF、C、C)、CHF、これらの混合ガス又はこれらに添加ガスとして希ガス(He、Ar、Xeなど)を含むもの等が挙げられる。
【0055】
j)レジストパターンの除去
続いて、硫酸と過酸化水素水の混合液からなるレジスト剥離剤によって、残存したレジストパターン4を除去する。
具体的には、基板1を前記レジスト剥離剤に所定の時間浸漬し、その後、リンス剤(ここでは、常温または加熱された純水)によりレジスト剥離剤を洗い流す。次いで前記乾燥処理と同様な手法で、基板1を乾燥させる。
【0056】
なお、ここで用いるレジスト剥離剤としては、前記の硫酸と過酸化水素水の混合液の他、有機溶剤(α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジストの場合、アニソール又はN,N−ジメチルアセトアミド(ZDMAC(日本ゼオン株式会社製))、オゾン水等が挙げられる。レジストを膨潤溶解又は化学的に分解して剥離除去できる化合物であれば良い。また、これらのレジスト剥離剤は、加熱して、レジスト剥離除去能力を高めても良い。さらには、酸素プラズマを用いた灰化処理であって良い。
また、当該レジストパターン4の除去は、前記第1のエッチング処理の後、前記第2のエッチング処理の前に実施しても良い。
【0057】
k)ハードマスクの除去
引き続いて、残存ハードマスク除去前モールド10上に残存するハードマスク2を、第1のエッチングと同様の手法で剥離除去する工程が行われる。なお、ハードマスク2溶解除去できる薬液が存在する場合、薬液を用いてハードマスク2の除去を行っても良い。
【0058】
l)洗浄・乾燥
以上の工程を経た後、必要があれば基板1の洗浄・乾燥等を行う。このようにして、図1(g)に示すようなマスターモールド20を完成させる。
【0059】
<2.実施の形態による効果>
以上のような本実施形態においては、以下の効果を得ることができる。
即ち、上記のレジスト層に対する溶解速度が極めて低い貧溶媒(溶媒A)と、レジスト層に対する溶解速度がこの貧溶媒よりも高いけれども必要露光量を相当に低減可能な溶媒(溶媒B、C)を混合させたものを現像剤として使用することにより、解像度を向上させるとともに、必要露光量を相当に低減できる。
【0060】
必要露光量が低減することにより、電子線の描画時間を短くすることができ、電子線描画の生産性を大きく向上させることが可能となり、あるいはまた、電子線の出力(電流値)を低下させることが可能となり、より精緻なパターンを描画することも可能となる。
【0061】
<3.変形例>
なお、本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
以下、上記以外の変形例について列挙する。
【0062】
まず、基板1の形状であるが、基板1はウエハ形状以外であっても良く、平面(上面)から見たときに矩形、多角形、半円形状、あるいは、側面から見たときに矩形あるいは台形形状等に加工された基板であって、インプリント装置にモールドとして精度良く安定して固定しやすい形状であれば良い。また、モ−ルド主表面のパターン形成領域に対しその周縁部の高さをやや低くした台地形(メサ(mesa)構造、あるいは台座)を主表面に持っていても良い。
【0063】
基板1の透明性について言えば、上述のワーキングレプリカ作製の際の容易性を考えて、透明又は半透明基板であるのが好ましい。また、基板1の材質について言えば、石英、サファイヤ、又はSi等の金属、プラスチック、セラミック等からなり、あるいはそれらの組み合わせからなり、マスターモールド20として用いることができるのならば材質あるいは構造は問わない。
【0064】
また、本実施形態におけるレジストは、ポジ型レジストのみならずネガ型レジストを用いても良く、エネルギービームを照射して露光したときに反応性を有するものであれば良い。具体的には、現像剤による現像処理を行う必要のあるレジストであれば良く、紫外線、X線、電子線、イオンビーム、プロトンビーム等に感度を持つレジストであっても良い。
【0065】
なお、本実施形態においては基板にハードマスクを設けたが、ハードマスク2を必要とせずにレジストパターン4をマスク材として基板1をエッチングできる場合、基板1に直接レジスト層3を形成しても良い。またこの場合、基板1に対して脱水ベーク処理あるいは密着補助層の形成を行った後、その上にレジスト層3を設けても良い。
【0066】
また、本実施形態におけるエッチングでは、一部のエッチングのみをウェットエッチングとし、他のエッチングにおいてはドライエッチングを行っても良いし、全てのエッチングにおいてウェットエッチング又はドライエッチングを行っても良い。また、パターンサイズがミクロンオーダーである場合など、ミクロンオーダー段階ではウェットエッチングを行い、ナノオーダー段階ではドライエッチングを行うというように、パターンサイズに応じてウェットエッチングを導入しても良い。
【0067】
なお、本実施形態においては、α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジストに焦点を当てて説明したが、本発明の技術的思想はこの種のレジストに限られないと推測される。即ち、レジストの種類に応じて、そのレジストへの現像剤を構成する溶媒A、溶媒B及び溶媒Cをその都度設定できるものと推測される。また、本実施形態で挙げたフルオロカーボンを用いずとも、別種の化合物を溶媒Aに用い、この溶媒Aよりもレジスト溶解度が高い化合物を溶媒Bや溶媒Cに用いた場合であれば、本実施形態に記載の効果を奏する可能性がある。さらに、リンス液においても本実施形態で挙げたフルオロカーボンを用いずとも、別種の化合物をリンス液として用いることも可能であると推測される。
以上、本発明の技術的思想については、現在発明者により鋭意研究中である。
【0068】
また、本実施形態における現像剤、レジストパターン形成方法、モールド作製方法は、モールド作製以外にも、以下の用途に好適に適用でき、例えば、半導体装置用フォトマスク、半導体製造、マイクロ電気機械システム(MEMS)、センサ素子、光ディスク、回折格子や偏光素子等の光学部品、ナノデバイス、有機トランジスタ、カラーフィルター、マイクロレンズアレイ、免疫分析チップ、DNA分離チップ、マイクロリアクター、ナノバイオデバイス、光導波路、光学フィルター、フォトニック結晶等の作製にも幅広く適用できる。
【実施例】
【0069】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろんこの発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
<実施例1>
本実施例においては、基板1としてウエハ形状の合成石英基板(外径150mm、厚み0.7mm)を用いた(図1(a))。
そしてまず、前記基板1をスパッタリング装置に導入し、クロム(Cr)からなるターゲットをアルゴンガスと窒素ガスでスパッタリングし、厚さ2nmの窒化クロムからなるハードマスク2を形成した(図1(b))。このハードマスクを形成した基板1に対して、ホットプレートにて200℃で10分間ベークを行い、脱水ベーク処理を行った。その後、基板1を室温(22.5℃)に保たれた冷却プレート上に載置して、基板1を冷却した。
【0071】
次に、ハードマスクを形成した基板1をレジストコーターにセットした。そして、α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体であるZEP520A−7(日本ゼオン株式会社製)を、ZEP520A−7用の溶剤かつアニソールであるZEP−A(日本ゼオン株式会社製)で、ZEP520A−7対ZEP−Aが体積混合比1対3となるように希釈し、レジスト溶液を予め用意した。このレジスト溶液を基板1上に3ml程滴下し、次いで、4000rpmで45秒間基板1を回転させた。
【0072】
レジスト液のスピンコート後、この基板1に対して、ホットプレートにて200℃で15分間ベーク(塗布後ベーク)を行い、形成されたレジスト層における不要な残存溶媒を除去して、厚さ30nmのZEP520Aからなるレジスト層を得た。
【0073】
そして、加速電圧100kVのポイントビーム型電子線描画機を用い、電子線描画部(レジスト溶解部)と電子線未描画部(レジスト非溶解部)との幅比を1対2としたライン・アンド・スペース・パターンを描画した。このとき、レジスト溶解部の寸法が8〜30nmの範囲で3nmごとにレジスト溶解部に対応する部位の幅を変化させて電子線描画した。
【0074】
その後、この基板1のレジスト層を、本実施例に係る現像剤にて現像した。本実施例に係る現像剤は、溶媒AにCF−CFH−CFH−CF−CF(バートレルXF(登録商標 三井・デュポンフロロケミカル株式会社製))を用い、溶媒Bにイソプロパノールを用い、溶媒Cに酢酸−n−アミルからなるZED−N50(日本ゼオン株式会社製)を用いた。このとき、溶媒Aと溶媒Bと溶媒Cとの体積混合比は1:4:15とした。
【0075】
この現像処理の際には、基板1を250rpmで回転させ続けた。そして、この基板1の上方から、現像剤を30秒間滴下供給した。この際、この現像剤は室温(22.5℃)に保った。
【0076】
そして、基板1を回転させ続け、現像処理後の現像剤をリンス液に置換する処理を行った。即ち、基板1の上方からリンス剤(バートレルXF)を滴下供給した。このリンス液は室温(22.5℃)に保った。このリンス液の滴下供給は、現像剤の滴下供給を止める10秒前に行った。その後、基板1を回転させ続けながら、現像剤の滴下供給を止めた後、リンス剤を30秒間滴下供給し、その後、リンス剤の滴下供給も止めた。そして、基板1を1500rpmで適宜回転させて乾燥処理を行った。こうして実施例に係る試料を作製した。
【0077】
この時、本来レジスト溶解部である箇所に著しい残渣がなく、また、隣り合ったレジスト非溶解部のくっつきがなく、さらには、所定の描画パターン部から大きく逸脱したパターンの湾曲又は蛇行がなく、かつ、電子線描画部(レジスト溶解部)と電子線未描画部(レジスト非溶解部)との幅比がほぼ1対2である、正常に解像しているレジスト溶解部の線幅を測定し、この線幅を実用的に使用する上での限界となる解像度と定めた。また、この実用的に使用する上での限界となる解像度を得たときの露光量を必要露光量と定めた。
【0078】
<参考例1〜2>
なお、実施例の効果が顕著であることを示すものとして、本発明者らが想到した知見を基にした例であって、未だ公知となっていない参考例について、以下のような試料を作製した。即ち、実施例では現像剤がバートレルXF(溶媒A)とイソプロパノール(溶媒B)と酢酸−n−アミル(溶媒C)の混合液であった代わりに、参考例1においては現像剤をバートレルXF(溶媒A)のみとし、参考例2においてはバートレルXF(溶媒A)とイソプロパノール(溶媒B)の混合液とした以外は、実施例1と同様に試料を作製した。
【0079】
<比較例1〜3>
実施例では現像剤がバートレルXFとイソプロパノールとZED−N50であったかわりに、比較例1においては現像剤を酢酸−n−アミルからなるZED−N50(日本ゼオン株式会社製)のみとし、比較例2においては現像剤をメチルイソブチルケトンとイソプロパノールの混合液(体積混合比は56対44)からなるZMD−C(日本ゼオン株式会社製)とし、比較例3においては現像剤をイソプロパノールのみにした以外は、実施例1と同様に試料を作製した。
【0080】
<評価>
実施例、参考例及び比較例により得られた試料(レジストパターン付き石英基板(石英基板直上にハードマスクとして窒化クロム膜を形成し、その上に、α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体であるZEP520Aからなるレジストパターンを形成したもの))について評価した。その結果を図2〜図3に示す。
図2は、実施例1、参考例1〜2及び比較例1〜3における実用的に使用する上での限界となる解像度とレジスト溶解に必要な露光量との関係を記載した図である。
図3は、実施例1、参考例1〜2及び比較例1〜3における試料(モールド)の作製途中であるレジストパターンを、走査型電子顕微鏡を用いて上面観察した写真である。
【0081】
実施例1においては、図2及び図3(a)に示す通り、15nmという良好な解像度であり、比較例1及び2の場合に比べて良好な解像度のレジストパターンが得られた。
そして、必要露光量についてであるが、ZMD−Cのみの場合(比較例2)やイソプロパノールのみの場合(比較例3)に比べると、220μC/cmという相当に低減された値となっていた。また、必要露光量が低いはずの酢酸−n−アミルのみの場合(比較例1)と比べても、遜色ない値となっていた。
結果、実施例1では、比較例や参考例に対して遜色ない解像度を維持しつつも、比較例1〜3より必要露光量を低減させることができた。
【0082】
なお、参考例1の溶媒A(バートレルXF)100%を現像剤とした場合、必要露光量が約1800μC/cmで11nmの解像度が得られた(図3(b))。また、参考例2の溶媒A(バートレルXF)62.5%及び溶媒B(イソプロパノール)37.5%を現像剤とした場合、約725μC/cm(約40%)の低い露光量で11nmという高い解像性のレジストパターンが得られた(図3(c))。
ところが実施例1だと、上述のように、15nmという良好な解像度を維持しつつも、必要露光量を220μC/cmへと低減することに成功した。
【0083】
なお比較例についてであるが、図2及び図3(d)〜(f)に示す通り、比較例1においては解像度26nmかつ必要露光量120μC/cmであり、必要露光量は低く済むものの、実施例1に比べて実用的に使用する上での限界となる解像度は低かった(図2(比較例1)、図3(d))。
比較例2においては、解像度20nmかつ必要露光量350μC/cmであり、比較例1と同じく、必要露光量は低く済むものの、実用的に使用する上での限界となる解像度は実施例1に比べて劣っていた(図2(比較例2)、図3(e))。
上述の通り、磁気記録密度「1TeraBit/inch」を達成するに必要なDTRMでのトラックピッチである50nm程度に対して必要となる解像度17nm(幅比1対2のライン・アンド・スペース・パターン)は、比較例1及び比較例2では得られない。
次に、比較例3においては解像度14nmかつ必要露光量は1150μC/cmで、上記所望の解像度17nmは満たすものの、解像度、必要露光量ともに実施例1に劣っていた(図2(比較例3)、図3(f))。
【0084】
以下、本実施形態において好ましい形態を付記する。
[付記1]
前記溶媒Aは、末端の一つあるいは両端にCF基を、その他に(CFX)基(XはF又はH)を有することを特徴とするレジストパターンの形成方法。
[付記2]
前記溶媒Aは、CF−(CFX)−CF(XはF又はH、かつnは自然数)であることを特徴とするレジストパターンの形成方法。
[付記3]
前記溶媒Bは、イソプロパノールであることを特徴とするレジストパターンの形成方法。
【符号の説明】
【0085】
1 基板
2 ハードマスク
3 レジスト層
4 レジストパターン
10 残存ハードマスク及びレジスト層除去前モールド
20 モールド(マスターモールド)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層にエネルギービームを照射して露光して、現像を行う際に用いられるレジスト現像剤であって、
フルオロカーボンを含む溶媒Aと、前記溶媒Aよりも前記レジスト層に対する溶解度が高いアルコール溶媒Bと、酢酸−n−アミル又は酢酸エチル又はそれらの混合物からなる溶媒Cとを含むことを特徴とするレジスト現像剤。
【請求項2】
前記溶媒Aは、末端の一つあるいは両端にCF基を、その他に(CFX)基(XはF又はH)を有することを特徴とする請求項1に記載のレジスト現像剤。
【請求項3】
前記溶媒Aは、CF−(CFX)−CF(XはF又はH、かつnは自然数)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のレジスト現像剤。
【請求項4】
前記溶媒Bは、イソプロパノールであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のレジスト現像剤。
【請求項5】
α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層に対して電子線露光を行った後に現像を行う際に用いられるレジスト現像剤であって、
CF−(CFX)−CF(XはF又はH、かつnは自然数)である溶媒Aと、イソプロピルアルコールからなる溶媒Bと、酢酸−n−アミル又は酢酸エチル又はそれらの混合物からなる溶媒Cとを含むことを特徴とするレジスト現像剤。
【請求項6】
基板上に、α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層を形成する工程と、
前記レジスト層にエネルギービームを照射することにより、所定のパターンの露光を行う工程と、
フルオロカーボンを含む溶媒Aと、前記溶媒Aよりも前記レジスト層に対する溶解度が高いアルコール溶媒Bと、酢酸−n−アミル又は酢酸エチル又はそれらの混合物からなる溶媒Cとを含む現像剤によって、前記露光されたレジスト層を現像する工程と、
を含むことを特徴とするレジストパターンの形成方法。
【請求項7】
前記露光工程は電子線描画を行う工程であり、
前記レジスト層は電子線に感度をもつレジストであることを特徴とする請求項6に記載のレジストパターンの形成方法。
【請求項8】
前記現像工程後に、レジスト層に対して前記溶媒Aによるリンス処理工程を設けることを特徴とする請求項6又は7に記載のレジストパターンの形成方法。
【請求項9】
基板上に、α−クロロアクリル酸エステルとα−メチルスチレンとの重合体を含むレジスト層を形成する工程と、
前記レジスト層にエネルギービームを照射することにより、所定のパターン形状の露光を行う工程と、
フルオロカーボンを含む溶媒Aと前記溶媒Aよりも前記レジスト層に対する溶解度が高いアルコール溶媒Bと、酢酸−n−アミル又は酢酸エチル又はそれらの混合物からなる溶媒Cとを含む現像剤によって、前記露光されたレジスト層を現像する工程と、
を含むことを特徴とするモールドの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−150443(P2012−150443A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−265076(P2011−265076)
【出願日】平成23年12月2日(2011.12.2)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】