説明

レーザーアブレーション装置及び方法、試料分析装置及び方法

【課題】 試料の表面状態の変化にかかわらず、試料の分析精度を向上させることを可能にするレーザーアブレーション装置及び方法、試料分析装置及び方法を提供する。
【解決手段】 試料分析装置1は、試料室5内の試料台6に支持される試料2にレーザー光を照射して、試料2の一部を微粒子化させるレーザーアブレーション・ユニット3と、試料室5内で微粒子化された試料2を導入し、試料2に含まれる構成元素を検出する元素検出ユニット4と、コントローラ37とを備えている。試料室5の上方には、試料2の表面形状を検出するためのレーザー変位計18が設けられている。コントローラ37は、レーザー変位計18の測定値に基づいて、試料2の表面に対してレーザー光のフォーカスを合わせるように試料台駆動部7を制御するレーザー制御部と、元素検出ユニット4の検出値を入力し、所定の分析処理を行う分析部とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の元素分析などに使用されるレーザーアブレーション装置及び方法、試料分析装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザーアブレーション装置としては、例えば特許文献1に記載されているように、高周波誘導結合型プラズマ質量分析装置(ICP−MS)に試料を供給することを目的としたものが知られている。この文献に記載のレーザーアブレーション装置は、試料室内に配置された試料の表面にレーザー光を照射して、試料の一部を気化させて微粒子を生成し、その微粒子をキャリアガスによってICP−MSに供給するものである。
【特許文献1】特開平11−201945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術においては、以下の問題点が存在する。即ち、試料の表面性や表面形状が変わると、レーザー光の照射による試料の切削量が変動し、これに伴ってICP−MSへの試料微粒子の導入量も変動するため、試料の質量分析を精度良く行うことができなかった。
【0004】
本発明の目的は、試料の表面状態の変化にかかわらず、試料の分析精度を向上させることを可能にするレーザーアブレーション装置及び方法、試料分析装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、試料室内に配置された支持部材を有し、支持部材に支持される試料の表面にレーザー光を照射して、試料の一部を微粒子化させるレーザーアブレーション装置であって、支持部材を昇降させる駆動部と、試料の表面形状を検出する試料形状検出手段と、試料形状検出手段により検出された試料の表面形状に基づいて、試料の表面に対してレーザー光のフォーカスが合うように駆動部を制御するフォーカス調整手段とを備えることを特徴とするものである。
【0006】
このようなレーザーアブレーション装置を用いて、例えば試料の元素分析を行う場合には、試料室内の支持部材に試料を支持した状態で、試料の表面にレーザー光を照射して試料の一部を微粒子化させる。そして、その微粒子化された試料に含まれる構成元素を検出し、この検出値を用いて元素分析を行う。このとき、レーザー光のフォーカスが試料の表面に対してずれてしまうと、レーザー光の照射による試料の切削量が変わってしまうため、試料の元素分析に大きな影響を与えてしまう。そこで、試料の表面形状を検出し、その検出データに基づき、試料の表面に対してレーザー光のフォーカスが合うように支持部材の高さ位置を調整することにより、例えば同一の試料を複数回分析する際に、試料の表面形状等が変わっても、レーザー光のフォーカスが試料の表面に対して合った状態で、レーザー光が試料の表面に照射されるようになる。このため、試料の表面形状等の変化による試料の切削量変動が低減されるので、試料に含まれる構成元素の検出値変動が低減される。これにより、試料の分析精度を向上させることができる。
【0007】
好ましくは、試料形状検出手段は、試料の表面にレーザーを照射して、試料の表面に対する変位量を測定するレーザー変位計と、レーザー変位計の測定値から試料の表面形状を求める手段とを有する。このようにレーザー変位計を用いることにより、試料形状検出手段を簡単な構成で実現することができる。
【0008】
また、本発明は、試料室内に配置された支持部材を有し、支持部材に支持される試料の表面にレーザー光を照射して、試料の一部を微粒子化させるレーザーアブレーション・ユニットと、試料室内で微粒子化された試料を導入し、当該試料に含まれる構成元素を検出する元素検出ユニットとを備える試料分析装置であって、支持部材を昇降させる駆動部と、試料の表面形状を検出する試料形状検出手段と、試料形状検出手段により検出された試料の表面形状に基づいて、試料の表面に対してレーザー光のフォーカスが合うように駆動部を制御するフォーカス調整手段と、元素検出ユニットの検出値を用いて試料の元素分析を行う分析処理手段とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
このような試料分析装置においては、試料の表面形状を検出し、その検出データに基づき、試料の表面に対してレーザー光のフォーカスが合うように支持部材の高さ位置を調整することにより、例えば同一の試料を複数回分析する際に、試料の表面形状等が変わっても、レーザー光のフォーカスが試料の表面に対して合った状態で、レーザー光が試料の表面に照射されるようになる。このため、試料の元素分析を行う場合に、試料の表面形状等の変化による試料の切削量変動が低減され、これに伴って元素検出ユニットへの試料の導入量変動が低減されるため、元素検出ユニットの検出値変動が低減される。これにより、試料の分析精度を向上させることができる。
【0010】
好ましくは、分析処理手段は、試料形状検出手段により検出された試料の表面形状に基づいて、レーザー光の照射による試料の切削量を求める手段と、元素検出ユニットの検出値に基づいて試料の構成元素量を求める手段と、試料の切削量と試料の構成元素量とから、試料に含まれる構成元素の濃度を算出する手段とを有する。このように試料の表面形状から試料の切削量を求め、この切削量データを元素検出ユニットの検出結果にフィードバックして、試料に含まれる構成元素の濃度を算出することにより、例えば同一の試料を複数回分析する際に、分析回数毎に元素検出ユニットの検出値が多少変動しても、構成元素の濃度を正確に求めることができる。これにより、試料の分析精度をより一層向上させることが可能となる。
【0011】
このとき、試料の切削量を求める手段は、レーザー光を試料に照射する前の試料形状検出手段の検出データとレーザー光を試料に照射した後の試料形状検出手段の検出データとを用いて、レーザー光の照射による試料の切削体積を求め、試料の密度と試料の切削体積とから試料の切削量を算出することが好ましい。これにより、試料の表面形状のデータを用いて、レーザー光の照射による試料の切削量を簡単かつ確実に求めることができる。
【0012】
さらに、本発明は、試料室内に配置された支持部材に支持される試料の表面にレーザー光を照射して、試料の一部を微粒子化させるレーザーアブレーション方法であって、試料の表面形状を検出する第1工程と、試料の表面形状に基づいて、試料の表面に対してレーザー光のフォーカスが合うように支持部材の高さ位置を調整する第2工程とを含み、第2工程を実施した後に、試料の表面にレーザー光を照射することを特徴とするものである。
【0013】
これにより、レーザー光の照射によって微粒子化された試料を用いて、例えば同一試料の分析を複数回行う場合に、上述したように、試料の表面形状等の変化による試料の切削量変動が低減されるため、試料の分析精度を向上させることができる。
【0014】
また、本発明は、試料室内に配置された支持部材に支持される試料の表面にレーザー光を照射して、試料の一部を微粒子化させ、微粒子化された試料に含まれる構成元素を検出し、試料の元素分析を行う試料分析方法であって、試料の表面形状を検出する第1工程と、試料の表面形状に基づいて、試料の表面に対してレーザー光のフォーカスが合うように支持部材の高さ位置を調整する第2工程とを含み、第2工程を実施した後に、試料の表面にレーザー光を照射し、試料の元素分析を行うことを特徴とするものである。
【0015】
これにより、例えば同一試料の分析を複数回行う場合に、上述したように、試料の表面形状等の変化による試料の切削量変動が低減されるため、試料の分析精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試料の表面にレーザー光を照射することで発生した試料の微粒子を用いて、試料の元素分析を行う場合に、試料の表面性や表面形状等が変化しても、試料を精度良く分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係わるレーザーアブレーション装置及び方法、試料分析装置及び方法の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係わる試料分析装置の一実施形態を示す概略構成図である。同図において、本実施形態の試料分析装置1は、分析対象の試料2にレーザー光を照射することにより、試料2の一部(微小部分)をアブレートして微粒子化させるレーザーアブレーション・ユニット(以下、LAユニット)3と、このLAユニット3によって微粒子化された試料2を導入し、試料2に含まれる構成元素を検出する高周波誘導結合型プラズマ(ICP)式の元素検出ユニット4とを備えている。
【0019】
LAユニット3は試料室5を有し、この試料室5の内部には、試料2を支持する試料台6が配置されている。試料台6は、例えばXYZステージで構成され、駆動モータ等からなる試料台駆動部7により3方向(XYZ方向)に移動可能である。試料室5は、光を透過させる石英ガラス等で形成された蓋5aを有している。
【0020】
また、LAユニット3は、所定波長のアブレーション用レーザー光を発生させるレーザー(例えばNd−YAGレーザー)を含むレーザー部8を有している。レーザー発生部8から出射されたレーザー光は、ミラー9,10で反射されて波長変換素子11に入射される。波長変換素子11は、レーザー発生部8から出射されたレーザー光の波長を半減させる素子である。この波長変換素子11で波長変換されたレーザー光は、波長変換素子12に入射される。波長変換素子12は、波長変換素子11を通過したレーザー光の波長を更に半減させる素子である。この波長変換素子12で波長変換されたレーザー光は、ミラー13〜15で反射された後、レンズ16を通り、更にビームスプリッタ17で反射されて、試料室5内の試料台6上に置かれた試料2に向かうようになる。
【0021】
なお、レーザー部8は、例えば波長1064nmのレーザー光を発生させる。そして、波長変換素子11は、波長1064nmのレーザー光を波長532nm(2次高調波)のレーザー光に変換し、波長変換素子12は、波長532nmのレーザー光を波長266nm(3次高調波)のレーザー光に変換する。このようにレーザー光を短波長に変換することにより、レーザー光のエネルギーが高まり、より多くの物質に対してアブレーションを行うことが可能となる。
【0022】
試料室5の上方には、試料2の表面に検出用レーザーを照射して、試料2の表面に対する変位量を測定するレーザー変位計18が設けられている。このレーザー変位計18は、試料2の表面形状を検出する為のものである(後述)。レーザー変位計18から出射されたレーザーは、ビームスプリッタ17を透過して、試料室5内の試料台6上に置かれた試料2へと向かう。レーザー変位計18は、当該レーザー変位計18から出射されたレーザーの光軸とレーザー部8から出射されてビームスプリッタ17で反射されたレーザー光の光軸とが同軸となるように配置されているのが好ましい。なお、レーザー変位計18には、試料2の表面を観察するための例えばCCDカメラが内蔵されている。
【0023】
試料室5には、アルゴンガス等のキャリアガスを試料室5内に導入するためのガス導入管19と、キャリアガスを試料室5外に導出するためのガス供給管20とが接続されている。ガス導入管19から試料室5内に導入されたキャリアガスは、レーザー光の照射によって蒸発・気化されて微粒子化(微粉体化を含む)された試料2と一緒にガス供給管20から導出される。
【0024】
このようなLAユニット3と元素検出ユニット4とはガス供給管20を介して繋がっている。元素検出ユニット4は、プラズマトーチ21と、このプラズマトーチ21に隣接して配置された検出部22とを有している。
【0025】
プラズマトーチ21は、ガス供給管20を介してキャリアガスと共に導入された試料2をイオン化するためのプラズマを発生させる。プラズマトーチ21は、導入管23〜25と接続された3重管構造をなしている。導入管23は、ガス供給管20と接続されている。そして、プラズマトーチ21には、キャリアガス及び試料2の微粒子が導入管23を介して導入される。また、プラズマトーチ21には、プラズマ形成用のプラズマガスが導入管24を介して導入されると共に、プラズマトーチ21の壁面を冷却するためのクーラントガスが導入管25を介して導入される。なお、プラズマガス及びクーラントガスとしては、例えばキャリアガスと同様にアルゴンガス等が用いられる。
【0026】
プラズマトーチ21における検出部22側の部位の周囲には、高周波電源(図示せず)に接続された高周波コイル26が配置されている。この高周波コイル26に所定の電圧を印加することで、プラズマトーチ21内にプラズマPが生成される。
【0027】
検出部22は筐体27を有し、この筐体27のプラズマトーチ21側の端面には、プラズマトーチ21内に発生したプラズマPからのイオンを導入するためのイオン導入部28が設けられている。筐体27の内部は、仕切り29によってイオン導入部28側の低真空室30と高真空室31とに区画されている。低真空室30及び高真空室31は、各々真空ポンプ32,33により所定の真空度となるように減圧される。低真空室30には、プラズマからの光とイオンとを分離してイオンのみを通過させるイオンレンズ34が配置されている。高真空室31には、イオンレンズ34を通過したイオンのうち特定のイオンのみを取り出す質量多重極部35と、この質量多重極部35により取り出されたイオンを検出するイオン検出器36とを有している。
【0028】
さらに、試料分析装置1は、コントローラ37と、このコントローラ37と接続された表示部38とを備えている。
【0029】
コントローラ37は、図2に示すように、レーザー制御部39と、分析部40とを有している。レーザー制御部39は、レーザー部8及びレーザー変位計18を制御すると共に、レーザー変位計18の測定値に基づいて、レーザー部8から出射されるアブレーション用レーザー光のフォーカスを試料2の表面に対して合わせるように試料台駆動部7を制御する。分析部40は、イオン検出器36の検出値を入力し、所定の分析処理を行い、その分析結果を表示部38に表示させる。
【0030】
図3は、レーザー制御部39の処理手順の詳細を示すフローチャートである。同図において、まず試料2の表面に検出用レーザーを照射するようにレーザー変位計18を制御する。このとき、レーザー変位計18からのレーザーを試料2の表面全体に走査して照射させるべく、試料台駆動部7を制御して試料台6を水平方向(XY方向)に移動させる。そして、この時にレーザー変位計18により測定した変位量を入力し、その測定値から試料2の表面形状を検出し、この検出データをアブレート前形状データとしてメモリ41(図2参照)に記憶させる(手順51)。なお、試料2の表面形状は、所定の位置(例えばレーザー変位計18の光入射位置)を原点とした3次元(XYZ)座標を用いて求める。
【0031】
続いて、手順51で得られたアブレート前形状データに基づいて、レーザー部8から出射されるアブレーション用レーザー光のフォーカスが試料2の表面に対して合うように、試料台駆動部7を制御して試料台6の高さ方向(Z方向)の位置を調整する(手順52)。そして、試料2の表面にアブレーション用レーザー光を照射するようにレーザー部8を制御する(手順53)。なお、手順52,53の処理は、例えば予め試料2の表面に設定された分析範囲ごとに実行する。
【0032】
続いて、試料2の全分析範囲に対してレーザー光の照射が終了したかどうかを判断し(手順54)、当該レーザー光の照射が全て終了していないときは、手順52,53を再度実行する。
【0033】
図4は、分析部40の処理手順の詳細を示すフローチャートである。なお、本処理では、一例として感度係数を用いた半定量法による分析を採用している。同図において、まずイオン検出器36の検出値に基づいて、試料2の構成元素量、具体的には試料2に含まれる各構成元素の単位時間当たりに検出される質量数をカウントする(手順61)。
【0034】
続いて、アブレートされた試料2の表面に検出用レーザーを照射するようにレーザー変位計18を制御する。このとき、図3の手順51と同様に、レーザー変位計18から出射されたレーザーを試料2の表面全体に走査して照射させるべく、試料台駆動部7を制御して試料台6を水平方向に移動させる。そして、この時にレーザー変位計18により測定した変位量を入力し、その測定値から試料2の表面形状を検出し、この検出データをアブレート後形状データとする(手順62)。
【0035】
続いて、メモリ41に保存されているアブレート前形状データと手順62で得られたアブレート後形状データとの差分をとることで、レーザー光の照射による試料2の切削体積を求める(手順63)。そして、その試料2の切削体積と試料2の密度とから、試料2の切削量(切削重量)を算出する(手順64)。なお、試料2の密度は、処理情報として予めメモリ41に保存されている。
【0036】
続いて、各構成元素の感度係数を用いて、手順61で得られた各構成元素の質量数のカウント値(各構成元素量)と手順64で得られた試料2の切削重量とから、各構成元素の濃度を算出する(手順65)。ここで、「感度係数」とは、同じ濃度であっても各構成元素によって元素検出ユニット4で検出される値(手順61のカウント値)が異なるために、その構成元素ごとの感度の違いを補正するものである。ここで用いる感度係数は、カウント値(cps)を重量(μg)に換算する係数であり、具体的には1μg当たり検出されるカウント値である(図5参照)。なお、各構成元素の感度係数は、処理情報として予めメモリ41に保存されている。
【0037】
続いて、手順65で得られた試料2の各構成元素の濃度データを表示部38に表示させる(手順66)。そして、1つの試料2に対する質量分析処理を所定回数だけ実施されたかどうかを判断し(手順67)、所定回数の質量分析処理が実施されていないときは、手順61〜66を繰り返し実行する。
【0038】
なお、上記の処理では、試料2の全体に対して一括して手順61〜66を実行したが、予め設定された試料2の分析範囲ごとに手順61〜66を実行しても良い。
【0039】
以上において、レーザー変位計18、レーザー制御部39の手順51、分析部40の手順62は、試料2の表面形状を検出する試料形状検出手段を構成する。レーザー制御部39の手順52は、試料形状検出手段により検出された試料2の表面形状に基づいて、試料2の表面に対してレーザー光のフォーカスが合うように駆動部7を制御するフォーカス調整手段を構成する。分析部40の手順61,63〜65は、元素検出ユニット4の検出値を用いて試料2の元素分析を行う分析処理手段を構成する。
【0040】
次に、上述した試料分析装置1を使用して、試料の質量分析を行う方法について説明する。ここでは、分析対象の試料2として、図5に示すように、Mn、Co、Yを含んだものを用いる。Mn、Co、Yの測定質量(m/z)及び感度係数(cps/μg)は、図5に示す通りである。また、このような1つの試料2に対して同じ質量分析を2回行うものとする。
【0041】
まず、試料室5内に配置された試料台6に試料2をセットする。そして、試料室5の蓋5aを閉じた状態で、ガス導入管19より試料室5内にアルゴンガス等のキャリアガスを導入し、試料室5内をパージする。
【0042】
次いで、レーザー変位計18により試料2の表面に検出用レーザーを照射して、試料2の表面全体の形状を検出し、この検出データ(アブレート前形状データ)をコントローラ37のメモリ41に保存する。次いで、そのアブレート前形状データに基づき、試料台6の高さ位置を調整することで、レーザー部8から出射されるアブレーション用レーザー光のフォーカスを試料2の表面に対して合わせ、その状態でアブレーション用レーザー光を試料2の表面に照射する。
【0043】
すると、試料2の表面が局所的に高温になるため、試料2の一部が切削されて蒸発・気化し微粒子化する。その試料2の微粒子は、キャリアガスと一緒にガス供給配管20を通って、元素検出ユニット4のプラズマトーチ21に送られる。そして、プラズマトーチ21において、試料2の微粒子及びキャリアガスがプラズマPによってイオン化される。このイオン化した試料2は検出部22に送られ、検出部22において、試料2に含まれる各構成元素(Mn、Co、Y)のイオンが検出される。この各構成元素イオンの検出は、試料2の表面の分析範囲全てについて行われる。検出部22の検出値はコントローラ37の分析部40に送られ、この分析部40において各構成元素の単位時間当たりに検出される質量数(各構成元素量)のカウント値が求められる。各構成元素量のカウント値は、例えば図5(a)に示す通りである。
【0044】
次いで、レーザー変位計18により試料2の表面に検出用レーザーを照射して、アブレート後における試料2の表面全体の形状を検出することにより、分析部40においてアブレート後形状データを得る。そして、メモリ41に保存されたアブレート前形状データとアブレート後形状データとから試料2の切削体積を求め、更に試料2の切削体積及び密度から試料2の切削量を求める。試料2の切削量は、例えば図5(a)に示す通りである。そして、各構成元素量のカウント値と試料2の切削量と各構成元素の感度係数とを用いて、各構成元素の濃度を算出する。このとき、各構成元素の濃度は、図5(a)に示すようになる。
【0045】
次いで、同じ試料2について、レーザー変位計18によるアブレート前形状データの取得から各構成元素の濃度の算出までの工程を、上記の同様にして再度行う。この時に得られる各構成元素量のカウント値、試料2の切削量及び各構成元素の濃度は、例えば図5(b)に示す通りである。1回目の分析と2回目の分析とでは、各構成元素量のカウント値が異なっているが、その変動分が試料2の切削量によって補正されるため、各構成元素の濃度は同じ値となる。
【0046】
以上のように本実施形態にあっては、レーザー変位計18により試料2の表面形状を検出し、その検出情報に基づいて、レーザー部8から出射されるレーザー光のフォーカスが試料2の表面に対して合うように試料台6の高さ位置を調整し、その状態で当該レーザー光を試料2の表面に照射させるようにする。これにより、同じ試料2に対して質量分析を複数回行う場合に、試料2の表面形状や表面性が変化しても、レーザー光のフォーカスは試料2の表面に対して常にほぼ合致するようになる。このため、試料2の表面形状等が変化することによる試料2の切削量の変動が抑えられ、これに伴って元素検出ユニット4への試料2の導入量の変動も抑えられる。従って、試料2の表面形状等の変化に起因する構成元素量のカウント値の変動が低減される。
【0047】
また、レーザー変位計18で検出した試料2の表面形状から試料2の切削量を求め、この切削量と各構成元素量のカウント値と予め決められた各構成元素の感度係数とを用いて、各構成元素の濃度を算出するので、試料2の表面形状等が変わることで各構成元素量のカウント値が多少変動しても、各構成元素の濃度を正確に求めることができる。従って、試料2に含まれる各構成元素の組成分析を高精度に行うことが可能となる。なお、同じ試料2の質量分析を1回のみ行う場合であっても、試料2の表面形状の検出による分析精度の向上が得られることは言うまでもない。
【0048】
さらに、レーザー変位計18の測定結果に応じて、試料2の表面に対するレーザー光のフォーカス合わせを自動的に行うようにしたので、例えば作業者がいちいちCCDカメラ等の映像を見ながら、試料2の表面に対するレーザー光のフォーカス合わせを行う必要がなくなる。これにより、作業者の負担を大幅に軽減できると共に、レーザー光のフォーカス合わせに要する時間を大幅に短縮できる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、レーザー変位計18を用いて試料2の表面形状を検出するものとしたが、試料2の表面形状を検出する手段としては、特にこれに限られず、例えばCCDカメラの撮像画像等を利用しても良い。
【0050】
また、上記実施形態は、レーザーアブレーション・ユニット(レーザーアブレーション装置)3を、試料2に含まれる構成元素の質量を分析する質量分析装置に適用したものであるが、本発明のレーザーアブレーション装置は、質量分析装置の他に、発光分析装置や原子吸光分析装置等にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係わる試料分析装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1に示したコントローラの機能ブロック図である。
【図3】図2に示したレーザー制御部の処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図4】図2に示した分析部の処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図5】図1に示した試料分析装置を用いて試料の質量分析を行ったときのデータ例を示す表である。
【符号の説明】
【0052】
1…試料分析装置、2…試料、3…レーザーアブレーション・ユニット(レーザーアブレーション装置)、4…元素検出ユニット、5…試料室、6…試料台(支持部材)、7…試料台駆動部、8…レーザー部、18…レーザー変位計(試料形状検出手段)、37…コントローラ、39…レーザー制御部(試料形状検出手段、フォーカス調整手段)、40…分析部(試料形状検出手段、分析処理手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料室内に配置された支持部材を有し、前記支持部材に支持される試料の表面にレーザー光を照射して、前記試料の一部を微粒子化させるレーザーアブレーション装置であって、
前記支持部材を昇降させる駆動部と、
前記試料の表面形状を検出する試料形状検出手段と、
前記試料形状検出手段により検出された前記試料の表面形状に基づいて、前記試料の表面に対して前記レーザー光のフォーカスが合うように前記駆動部を制御するフォーカス調整手段とを備えることを特徴とするレーザーアブレーション装置。
【請求項2】
前記試料形状検出手段は、前記試料の表面にレーザーを照射して、前記試料の表面に対する変位量を測定するレーザー変位計と、前記レーザー変位計の測定値から前記試料の表面形状を求める手段とを有することを特徴とする請求項1記載のレーザーアブレーション装置。
【請求項3】
試料室内に配置された支持部材を有し、前記支持部材に支持される試料の表面にレーザー光を照射して、前記試料の一部を微粒子化させるレーザーアブレーション・ユニットと、前記試料室内で微粒子化された試料を導入し、当該試料に含まれる構成元素を検出する元素検出ユニットとを備える試料分析装置であって、
前記支持部材を昇降させる駆動部と、
前記試料の表面形状を検出する試料形状検出手段と、
前記試料形状検出手段により検出された前記試料の表面形状に基づいて、前記試料の表面に対して前記レーザー光のフォーカスが合うように前記駆動部を制御するフォーカス調整手段と、
前記元素検出ユニットの検出値を用いて前記試料の元素分析を行う分析処理手段とを備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項4】
前記分析処理手段は、前記試料形状検出手段により検出された前記試料の表面形状に基づいて、前記レーザー光の照射による前記試料の切削量を求める手段と、前記元素検出ユニットの検出値に基づいて前記試料の構成元素量を求める手段と、前記試料の切削量と前記試料の構成元素量とから、前記試料に含まれる構成元素の濃度を算出する手段とを有することを特徴とする請求項3記載の試料分析装置。
【請求項5】
前記試料の切削量を求める手段は、前記レーザー光を前記試料に照射する前の前記試料形状検出手段の検出データと前記レーザー光を前記試料に照射した後の前記試料形状検出手段の検出データとを用いて、前記レーザー光の照射による前記試料の切削体積を求め、前記試料の密度と前記試料の切削体積とから前記試料の切削量を算出することを特徴とする請求項4記載の試料分析装置。
【請求項6】
試料室内に配置された支持部材に支持される試料の表面にレーザー光を照射して、前記試料の一部を微粒子化させるレーザーアブレーション方法であって、
前記試料の表面形状を検出する第1工程と、
前記試料の表面形状に基づいて、前記試料の表面に対して前記レーザー光のフォーカスが合うように前記支持部材の高さ位置を調整する第2工程とを含み、
前記第2工程を実施した後に、前記試料の表面にレーザー光を照射することを特徴とするレーザーアブレーション方法。
【請求項7】
試料室内に配置された支持部材に支持される試料の表面にレーザー光を照射して、前記試料の一部を微粒子化させ、前記微粒子化された試料に含まれる構成元素を検出し、前記試料の元素分析を行う試料分析方法であって、
前記試料の表面形状を検出する第1工程と、
前記試料の表面形状に基づいて、前記試料の表面に対して前記レーザー光のフォーカスが合うように前記支持部材の高さ位置を調整する第2工程とを含み、
前記第2工程を実施した後に、前記試料の表面にレーザー光を照射し、前記試料の元素分析を行うことを特徴とする試料分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−153660(P2006−153660A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344694(P2004−344694)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】