説明

一次元ナノ構造体の製造方法、一次元ナノ構造体の製造装置及び電子デバイスの製造方法並びにこの方法によって製造された電子デバイス

【課題】短時間化、低コスト化が可能な一次元ナノ構造体の製造方法、一次元ナノ構造体の製造装置及び電子デバイスの製造方法並びにこの方法によって製造された電子デバイスを提供すること。
【解決手段】厚さが500nm以下のアモルファス酸化バナジウム薄膜を基板上に形成し、酸素、窒素、希ガスの単独又は混合ガスを用い、減圧又は常圧の雰囲気において、室温で薄膜にエネルギー密度が1J/cm2以下のパルスレーザを照射して二酸化バナジウムを母材とし単斜晶型又はルチル型の結晶構造を有する一次元ナノ構造体としてナノワイヤを形成し、基板をエッチング処理して基板にナノワイヤを残存させる。一次元ナノ構造体の製造方法は、二酸化バナジウムの金属−絶縁体相転移を利用した各種の電子デバイスの製造に適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次元ナノ構造体の製造方法、一次元ナノ構造体の製造装置及び電子デバイスの製造方法並びにこの方法によって製造された電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化バナジウムは、室温において単斜晶型結晶であるが、68℃付近にて金属―絶縁体相転移を示し、ルチル型結晶へと相転移する。このとき、電気抵抗値が3桁以上変化することが広く知られている。二酸化バナジウムは、電気抵抗の温度変化率が大きいことから、ボロメータ型赤外線温度センサに用いられている(例えば、後記する特許文献1を参照。
【0003】
この他に、二酸化バナジウムには、金属−絶縁体相転移を示さない異結晶構造のVO2(B)と呼ばれる結晶相が存在するため、単斜晶型−ルチル型の相転移構造を有する二酸化バナジウムは、VO2(M)(単斜晶型)又はVO2(R)(ルチル型)と一般的に表記されている。以下の記述においては、相転移構造を有する二酸化バナジウムをVO2(M)と記すこととする。
【0004】
また、VO2(M)からなる薄膜は、電場によって金属―絶縁体相転移することが報告されており、電界効果トランジスタ、スイッチング素子、メモリ素子としての可能性が知られている(例えば、後記する特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、非特許文献1、非特許文献2を参照。)
これまで、スパッタリング法等によるVO2(M)薄膜の結晶化が報告されている(例えば、後記する特許文献3、特許文献4を参照。)
しかしながら、このVO2(M)薄膜は多結晶構造であるために、単位面積当りの結晶粒数や結晶配向面、結晶粒寸法が異なり、均一な相転移が困難である。
【0005】
この問題を解決するために、VO2(M)単結晶構造体を形成する手法がある(例えば、後記する非特許文献1を参照。)。しかしながら、VO2(M)単結晶構造体は作製することが非常に難しく、その報告例は数件のみである(例えば、後記する非特許文献3を参照。)。一方、VO2(B)は比較的簡単に形成でき、これに関する報告例がほとんどである。
【0006】
特に、単結晶VO2(M)からなるナノワイヤの作製方法については、2件の報告例のみが確認されている(例えば、後記する非特許文献1、非特許文献3を参照。)。これらの作製方法は、VO2(M)結晶粉末を用いた加熱蒸着法(VS(Vapor-Solid)法)である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したVO2結晶粉末を用いたVS法は、単結晶VO2(M)のナノワイヤを作製することができるが、ナノワイヤの成長速度は、600℃以上、1100℃以下(非特許文献1においては900℃〜1000℃、非特許文献4においては600℃〜700℃となり、高温成長が必須であり、またその成長時間も2〜5時間と長時間を必要とする。しかも、VO2結晶粉末を用いたVS法は、VO2(M)結晶を作製する上でのノウハウ、及びナノワイヤを形成する上でのノウハウが占める役割が非常に大きいので、再現性が乏しいだけでなく、大量生産にも向かない技術であり、実用化への大きな障壁となっている。
【0008】
特に、半導体Siを用いた半導体デバイスの製造プロセスにおいて、Siデバイスとの混載化やガラス基板上へのナノワイヤの形成を行うには、低温且つ高速の製造法は不可欠である。
【0009】
特に、半導体Siプロセスへの混載化や、ガラス基板上へのナノワイヤ形成に対して、低温且つ高速な製造法は不可欠である。
【0010】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、短時間化、低コスト化が可能な一次元ナノ構造体の製造方法、一次元ナノ構造体の製造装置及び電子デバイスの製造方法並びにこの方法によって製造された電子デバイスを提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、バナジウムを含む薄膜(例えば、後述の実施の形態におけるアモルファスバナジウム酸化物薄膜12)を基板(例えば、後述の実施の形態における基板10)上に形成する第1工程と、前記薄膜にレーザを照射して二酸化バナジウムを母材とする一次元ナノ構造体(例えば、後述の実施の形態における二酸化バナジウムナノワイヤ14)を形成する第2工程とを有する、一次元ナノ構造体の製造方法に係るものである。
【0012】
また、本発明は、上記一次元ナノ構造体の製造方法が適用され、熱、電場、赤外線、可視光、圧力又は振動による電気抵抗変化、或いは、赤外線又は可視光の透過率若しくは反射率変化を利用する電子デバイスの製造方法に係るものである。
【0013】
また、本発明は、上記電子デバイスの製造方法によって製造された電子デバイスに係るものである。
【0014】
また、本発明は、チャンバーと、このチャンバー内を排気して内部の圧力を調整する排気部(例えば、後述の実施の形態における油回転ポンプ31、ターボ分子ポンプ32)と、酸素、窒素、希ガスの単独又は混合ガスを前記チャンバー内に導入するためのガス導入部(例えば、後述の実施の形態におけるガス導入管28)と、前記チャンバー内に保持されバナジウムを含むターゲットと、前記チャンバー内に保持された基板と、前記基板に付着させる粒子を前記ターゲットから飛散させるための飛散手段(例えば、後述の実施の形態における透明レンズ22a、レーザ光25a、レンズ26a)と、前記基板への前記粒子の付着によって形成された薄膜に照射する第1のレーザ(例えば、後述の実施の形態におけるレーザ光25b)を発する第1のレーザ光源と、前記薄膜に対して前記第1のレーザを照射するための第1の光学系(例えば、後述の実施の形態におけるレンズ26b)とを有し、二酸化バナジウムを母材とし単斜晶型又はルチル型の結晶構造を有する一次元ナノ構造体としてナノワイヤを形成する、一次元ナノ構造体の製造装置に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バナジウムを含む薄膜を基板上に形成する第1工程と、前記薄膜にレーザを照射して二酸化バナジウムを母材とする一次元ナノ構造体を形成する第2工程とを有するので、前記基板を加熱せず、短時間、低コストで一次元ナノ構造体を製造することができる。
【0016】
また、本発明によれば、上記一次元ナノ構造体の製造方法が適用され、熱、電場、赤外線、可視光、圧力又は振動による電気抵抗変化、或いは、赤外線又は可視光の透過率若しくは反射率変化を利用する電子デバイスの製造工程で、これら変化を検知するための上記一次元ナノ構造体を、短時間、低コストで製造することができる。
【0017】
また、本発明によれば、上記電子デバイスの製造方法によって製造されるので、低コストの電子デバイスを提供することができる。
【0018】
また、本発明によれば、前記チャンバーと、前記チャンバー内を排気して内部の圧力を調整する排気部と、酸素、窒素、希ガスの単独又は混合ガスを前記チャンバー内に導入するためのガス導入部と、前記チャンバー内に保持されバナジウムを含むターゲットと、前記チャンバー内に保持された基板と、前記基板に付着させる粒子を前記ターゲットから飛散させるための飛散手段と、前記基板への前記粒子の付着によって形成された薄膜に照射する第1のレーザを発する第1のレーザ光源と、前記薄膜に対して前記第1のレーザを照射するための第1の光学系とを有しているので、同一の前記チャンバーの内部で、前記基板を前記チャンバーの内部にセットして、前記基板に前記薄膜を形成した後、この基板を同一の前記チャンバーの内部においたままで、前記一次元ナノ構造体を形成することができる。このため、前記チャンバーに対して前記基板を前記チャンバーの内部にセットした後は、前記基板の出し入れを行う必要がなく、不純物の混入が少なく純度の高い前記一次元ナノ構造体を形成することができる一次元ナノ構造体の製造装置を提供することができ、二酸化バナジウムを母材とし単斜晶型又はルチル型の結晶構造を有する一次元ナノ構造体としてナノワイヤを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態における、基板上への二酸化バナジウムナノワイヤの製造工程を説明する図である。
【図2】同上、二酸化バナジウムナノワイヤの製造装置の概略構成を説明する図である。
【図3】同上、二酸化バナジウムナノワイヤを使用したメモリ素子の概略構成を説明する断面図である。
【図4】同上、二酸化バナジウムナノワイヤを使用した電界効果型トランジスタの概略構成を説明する断面図である。
【図5】同上、二酸化バナジウムナノワイヤを使用した温度又は光検知センサ素子の概略構成を説明する断面図である。
【図6】本発明の実施例における、二酸化バナジウムナノワイヤの表面SEM像である。
【図7】同上、二酸化バナジウムナノワイヤのランマンスペクトルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一次元ナノ構造体の製造方法では、前記薄膜の膜厚が500ナノメートル以下である構成とするのがよい。前記薄膜の膜厚が500ナノメートル以下であるので、二酸化バナジウムを母材とし単斜晶型又はルチル型の結晶構造を有する一次元ナノ構造体としてナノワイヤを形成することができる。
【0021】
また、前記薄膜がアモルファス酸化バナジウム膜又は五酸化二バナジウム膜である構成とするのがよい。前記薄膜がアモルファス酸化バナジウム膜又は五酸化二バナジウム膜であるので、前記薄膜に前記レーザを照射することによって、二酸化バナジウム結晶からなる一次元ナノ構造体を形成することができる。
【0022】
また、前記一次元ナノ構造体が単斜晶型又はルチル(正方晶)型の結晶構造を有する構成とするのがよい。アモルファス酸化バナジウム又は五酸化二バナジウムからなる前記薄膜に前記レーザを照射することによって形成された前記一次元ナノ構造体が単斜晶型又はルチル(正方晶)型の結晶構造を有するので、70℃近傍に金属−絶縁体層転移温度を有する一次元ナノ構造体を形成することができる。
【0023】
また、前記一次元ナノ構造体としてナノワイヤを形成する構成とするのがよい。前記一次元ナノ構造体としてナノワイヤを形成するので、バルクの二酸化バナジウムとは異なる特性を有する一次元ナノ構造体を形成することができる。
【0024】
また、前記基板をエッチング処理して、前記基板に前記一次元ナノ構造体を残存させる第3工程を有する構成とするのがよい。前記基板をエッチング処理して、前記基板に前記一次元ナノ構造体を残存させる第3工程を有するので、不純物からなる相が除去され、純度の高い一次元ナノ構造体を形成することができる。アモルファス酸化バナジウム又は五酸化二バナジウムは、弱酸又は水に可溶であり、VO2(M)は弱酸又は水に対して不溶であるのでエッチング処理による除去により、VO2(M)のみの一次元ナノ構造体を形成することができる。
【0025】
また、前記レーザがパルスレーザである構成とするのがよい。前記レーザがパルスレーザであるので、前記レーザの照射による前記薄膜のアブレーションを生じ難く、一次元ナノ構造体を高い密度で形成することができる。
【0026】
また、前記薄膜に照射する前記レーザのエネルギー密度が1J/cm2以下である構成とするのがよい。前記薄膜に照射する前記レーザのエネルギー密度が1J/cm2以下であるので、前記レーザの照射による前記薄膜のアブレーションを生じ難く、一次元ナノ構造体を前記基板面に高い密度で一次元ナノ構造体を形成することができる。前記レーザのエネルギー密度が1J/cm2を超えて高くなると、前記レーザの照射による前記薄膜のアブレーションを生じるため、一次元ナノ構造体を前記基板面に高い密度で前記薄膜を形成することができないので、好ましくない。前記レーザのエネルギー密度が0.1J/cm2以下であれば、前記レーザの照射による前記薄膜のアブレーションを生じることが殆んどなく、一次元ナノ構造体を前記基板面により高い密度で一次元ナノ構造体を形成することができるので、より好ましい。
【0027】
また、室温において、前記レーザを前記薄膜に照射する構成とするのがよい。室温において、前記レーザを前記薄膜に照射するので、前記基板の加熱機構、前記基板の昇温に要する時間、前記基板の降温に要する時間を必要とせず、簡略化された工程によって、短時間、低コストで一次元ナノ構造体を形成することができる。
【0028】
また、酸素、窒素、希ガスの単独又は混合ガスを用い、減圧又は常圧の雰囲気において、前記レーザを前記薄膜に照射する構成とするのがよい。酸素、窒素、希ガスの単独又は混合ガスを用い、減圧又は常圧の雰囲気において、前記レーザを前記薄膜に照射するので、前記レーザを前記薄膜に照射する際の前記混合ガスの組成、及び、前記雰囲気の圧の条件によって、二酸化バナジウム以外の相が生じるのを抑え、二酸化バナジウムを母材とする一次元ナノ構造体が前記基板面に形成される密度を制御することができる。
【0029】
また、Arガスの圧力が0.1Pa以上、10Pa以下である減圧状態の雰囲気において、前記レーザを前記薄膜に照射する構成とするのがよい。Arガスの圧力が0.1Pa以上、10Pa以下である減圧状態の雰囲気において、前記レーザを前記薄膜に照射するので、前記レーザの照射による前記薄膜のアブレーションを生じ難く、一次元ナノ構造体を前記基板面に高い密度で一次元ナノ構造体を形成することができる。Arガスの圧力が10Paを超えて高くなる状態の雰囲気において、前記レーザを前記薄膜に照射すると、前記レーザの照射による前記薄膜のアブレーションを生じるため、一次元ナノ構造体を前記基板面に高い密度で前記薄膜を形成することができないので、好ましくない。Arガスの圧力が0.1Pa未満である減圧状態の雰囲気において、前記レーザを前記薄膜に照射すると、二酸化バナジウム以外の相を生じやすくなるので、前記基板面に形成される一次元ナノ構造体の密度が低下してしまうので、好ましくない。Arガスの圧力が0.1Pa以上、2Pa以下である減圧状態の雰囲気において、前記レーザを前記薄膜に照射するのが、二酸化バナジウム以外の相が生じるのを抑えると共に、前記レーザの照射による前記薄膜のアブレーションを抑え、前記基板面に形成される一次元ナノ構造体の密度を高くする点からより好ましい。
【0030】
また、前記二酸化バナジウムが、3d遷移金属元素、希土類元素、Ta、Wの少なくとも1つを添加元素として含有する構成とするのがよい。前記二酸化バナジウムが、3d遷移金属元素、希土類元素、Ta、Wの少なくとも1つを添加元素として含有するので、一次元ナノ構造体の金属−絶縁体相転移材料における相転移温度、及び、同材料の温度−電気抵抗、温度−光透過率等の変化曲線におけるヒステレシス特性等を変化させることができる。なお、3d遷移金属元素はTi、Mn、Cr、Zn等の元素、希土類元素はEr、Nb、Yb等の元素である。
【0031】
また、前記添加元素を5%(原子分率)以下で含有する構成とするのがよい。前記添加元素を5%(原子分率)以下で含有するので、一次元ナノ構造体は母体としての二酸化バナジウムの基本的な特性を有しながら、金属−絶縁体相転移温度、上記ヒステレシス特性等を変化させることができる。なお、前記第1工程において前記添加元素を濃度%(at%、原子分率)以下で含有する前記薄膜が形成されるか、或いは、前記一次元ナノ構造体に前記添加元素を濃度5%(at%、原子分率)以下で添加(ドープ)される第3工程を有し、前記添加元素を5%(at%、原子分率)以下で含有する一次元ナノ構造体が製造される。
【0032】
本発明の電子デバイスの製造方法では、前記電子デバイスが、温度検知センサ素子、光検知センサ素子、電界効果トランジスタ素子、不揮発メモリ素子、光電変換素子、光スイッチング素子、熱線変調素子、光変調素子、スイッチング回路素子、光トランジスタ素子又は光メモリ素子である構成とするのがよい。これら電子デバイスの製造工程で、これら電子デバイスの検知部を構成するための上記一次元ナノ構造体を、短時間、低コストで製造することができる。
【0033】
本発明の電子デバイスの製造装置では、前記飛散手段は、前記ターゲットから前記粒子を飛散させるために前記ターゲットに照射される第2のレーザを発する第2のレーザ光源と、前記ターゲットに対して前記第2のレーザを照射するための第2の光学系を含む構成とするのがよい。前記飛散手段は、前記ターゲットから前記粒子を飛散させるために前記ターゲットに照射される第2のレーザを発する第2のレーザ光源と、前記ターゲットに対して前記第2のレーザを照射するための第2の光学系を含むので、前記チャンバーの圧力を10Pa以下として、前記ターゲットに前記第2のレーザを照射することによって、レーザアブレーションを生じさせて、前記基板上に前記薄膜を形成することができる。
【0034】
二酸化バナジウム(VO2)は、金属−絶縁体相転移を示し、相転移温度より高い高温相は金属相であり、正方晶系(Tetragonal)の結晶構造をとり、相転移温度より低い低温相は絶縁体相であり、単斜晶系(Monoclinic)の結晶構造をとる。高温相では可視光透過率が低下し着色し、低温相では透明に近く、Fe、Co、Ni、Mo、Nb、WがドープされたVO2では相転移温度が低下することが知られている。
【0035】
本発明の一次元ナノ構造体の製造方法では、基板に形成された、バナジウム元素を含む500nm以下のアモルファス薄膜にレーザ照射することにより、基板加熱を必要とせず、レーザ加熱による結晶化によって基板上に二酸化バナジウムを母体とするナノワイヤを短時間で形成することができる。
【0036】
例えば、アモルファス酸化バナジウム薄膜は、TiO2、Al23、Si等の基板に、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、パルスレーザデポジション法によって形成することができる。パルスレーザデポジション(PLD(Pulsed Laser Deposition))法は、真空容器内でターゲットにパルスレーザを照射し、ターゲットのプラズマ化によって放出されるフラグメント(原子、分子、イオン、クラスター等)を基板上に堆積させる方法である。プラズマ化したターゲット物質はプルームと呼ばれる。
【0037】
PLD法によって形成されるバナジウム元素を含むアモルファス薄膜の特性(元素組成、膜厚等)は、基板の種類と基板の温度、ターゲット物質、基板とターゲット間の距離、雰囲気ガスの種類とガス圧、レーザの波長、照射エネルギー(密度)、パルス発振周波数、パルス幅、照射時間等によって決定される。
【0038】
本発明による二酸化バナジウムナノナノワイヤの製造方法では、膜厚が500ナノメートル以下のアモルファス酸化バナジウム薄膜を基板上に形成する。アモルファス酸化バナジウムは、VO(酸化バナジウム(I)、一酸化バナジウム)、V23(酸化バナジウム(III)、三酸化バナジウム、三酸化二バナジウム)、VO2(酸化バナジウム(IV)、二酸化バナジウム)、V25(酸化バナジウム(V)、五酸化バナジウム、五酸化二バナジウム)等の種々の組成をとり得る。次に、希ガスを用い減圧の雰囲気において、室温でアモルファス酸化バナジウム薄膜にエネルギー密度が1J/cm2以下のパルスレーザを照射して、二酸化バナジウムを母材とし単斜晶型又はルチル(正方晶)型の結晶構造を有するナノワイヤを形成する。最後に、エッチング処理によって基板にナノワイヤを残存させる。このナノワイヤの製造方法は、短時間化、低コスト化が可能であり、二酸化バナジウムの相転移を利用した各種の電子デバイスの製造に適用される。
【0039】
本発明による二酸化バナジウムナノナノワイヤの製造装置は、チャンバー、このチャンバー内を排気して内部の圧力を調整する排気部、酸素、窒素、希ガスの単独又は混合ガスをチャンバー内に導入するためのガス導入部、バナジウムを含むターゲットを保持するターゲット支持台、基板を保持する支持台、ターゲットから粒子を飛散させこれを基板に付着させ薄膜を形成するための飛散手段、この形成された薄膜に照射して、二酸化バナジウムを母材とし単斜晶型又はルチル型の結晶構造を有する一次元ナノ構造体としてナノワイヤを形成するための第1のレーザを発する第1のレーザ光源を有しており、次のようにして、二酸化バナジウムを母材とし単斜晶型又はルチル型の結晶構造を有する一次元ナノ構造体としてナノワイヤを形成することができる。
【0040】
排気部によって排気されたチャンバー内にバナジウムを含むターゲットと基板が保持されており、飛散手段は、例えば、第2のレーザ光源を含み、この光源から発する第2のレーザを室温でターゲットに照射して、レーザアブレーションによって生じた粒子を基板上に付着させて、バナジウムを含む膜厚500nm以下の薄膜を、パルスレーザデポジション法によって形成することができる。
【0041】
次に、同一チャンバーを所望の条件の混合ガスによる雰囲気として、第1のレーザを所望の条件で室温において上記薄膜に照射して、二酸化バナジウムを母材とし単斜晶型又はルチル型の結晶構造を有する一次元ナノ構造体としてナノワイヤを形成することができる。
【0042】
以上のようにして、途中で大気圧条件下に置くことなく同一チャンバー内で一次元ナノ構造体を形成することができるので、不純物の混入が少なく、室温下で短時間に高純度なナノワイヤを形成することができる。
【0043】
なお、上記薄膜は、パルスレーザデポジション法以外の方法、例えば、蒸着法、スパッタリング法によって形成することができる。蒸着法、例えば、電子ビーム(EB)蒸着法における飛散手段は、ターゲットに当て直接加熱して粒子を飛散させるための電子ビームを発生させる電子銃を含む。スパッタリング法における飛散手段は、高速イオンを発生させるプラズマの発生のための、例えば、直流電源、高周波電源、マグネトロンの何れか1つを少なくとも含む。
【0044】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0045】
<実施の形態>
図1は、本発明の実施の形態における、基板上への二酸化バナジウムナノワイヤの製造工程を説明する平面図及びX−X断面図である。
【0046】
[アモルファスバナジウム酸化物薄膜の形成]
先ず、(A)基板10の面にアモルファスバナジウム酸化物薄膜12を形成する。基板10として、例えば、Si基板、サファイア基板等を使用する。アモルファスバナジウム酸化物薄膜12は、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、パルスレーザデポジション法によって形成することができる。一般に、パルスレーザデポジション法を除けば、大面積のアモルファスバナジウム酸化物薄膜12を形成することができる。アモルファスバナジウム酸化物薄膜12におけるバナジウムの酸化状態は、成膜方法とその条件によって、決定される。例えば、スパッタリング法では、ターゲットの種類、基板の加熱温度、雰囲気ガスの種類とガス圧等によって決定される。
【0047】
[二酸化バナジウムナノワイヤの形成]
次に、(B)アモルファスバナジウム酸化物薄膜12の所望の領域の面へレーザを照射して、二酸化バナジウムナノワイヤ(VO2)14を形成する。
【0048】
基板10として単結晶基板を使用すると、単結晶基板の結晶の種類、結晶面等によって、単結晶(基板)とVO2結晶との間の格子整合性が異なるので、単結晶基板の選択によって、二酸化バナジウムナノワイヤ14の成長における配向が決定される。従って、単結晶基板の選択によって、二酸化バナジウムナノワイヤ14の成長方向、即ち、一方向に配向した並行配列、60°配列等の種々の成長方向の制御が可能となる。例えば、単結晶面の選択によって、図1に示すように一方向に配向した一次元ナノワイヤが生成する。
【0049】
なお、二酸化バナジウムナノワイヤ14を形成するために使用する装置に関しては、後述する(図2を参照。)。
【0050】
[二酸化バナジウムナノワイヤ以外の相の除去]
最後に、(C)二酸化バナジウムナノワイヤ14を以外の相を、選択エッチングによって除去して、二酸化バナジウムナノワイヤ14だけが基板10の面に残るようにする。例えば、アモルファスバナジウム酸化物薄膜12として、五酸化バナジウム(V25)薄膜を形成し、レーザ照射によって、二酸化バナジウムナノワイヤ14を形成させた場合には、形成された二酸化バナジウムナノワイヤ14以外のアモルファス酸化バナジウム薄膜及び五酸化バナジウム薄膜を、弱酸性水溶液を使用してエッチング除去する。
【0051】
図2は、本発明の実施の形態における、二酸化バナジウムナノワイヤの製造装置の概略構成を説明する図である。
【0052】
図2に示す二酸化バナジウムナノワイヤ14を形成するために使用する装置の例では、先ず、パルスレーザデポジション法によってアモルファス酸化バナジウム薄膜を形成する。次に、同一装置内で、アモルファス酸化バナジウム薄膜にレーザを照射して、二酸化バナジウムナノワイヤの形成を行う。パルスレーザデポジション法以外の方法によってアモルファス酸化バナジウム薄膜を形成し、次に、図2に示す装置を使用して、アモルファス酸化バナジウム薄膜にレーザを照射して、二酸化バナジウムナノワイヤの形成を行うこともできる。
【0053】
図2に示すように、真空容器(チャンバー)21の内部に、基板支持台27に保持された基板10に対向して、ターゲット支持台23にターゲット(例えば、二酸化バナジウム)24が保持され、雰囲気ガスを導入するためのガス導入管28が設けられている。雰囲気ガスは、例えば、Ar、He、Ne、Kr、Xe等の希ガス、或いは、酸素等の酸化性ガスである。
【0054】
真空容器21は、油回転ポンプ31、ターボ分子ポンプ32によって高真空に排気されると共に、ガス導入管28から導入される雰囲気ガスの圧力を一定に保持するように制御される。
【0055】
更に、真空容器21には、パルスレーザ光源、例えば、ArFエキシマレーザからのレーザがレンズ26aによって集光され、透明窓22aから真空容器21の内部に導かれ、レーザ光25aがターゲット24に照射され、パルスレーザデポジション法によって、基板10の面にアモルファス酸化バナジウム薄膜が形成される。
【0056】
また、真空容器21には、パルスレーザ光源、例えば、ArFエキシマレーザからのレーザがレンズ26bによって集光され、透明窓22bから真空容器21の内部に導かれ、レーザ光25bが基板10の面に形成されたアモルファス酸化バナジウム薄膜に照射され、基板10の面に二酸化バナジウムナノワイヤの形成が形成される。
【0057】
なお、真空容器21に、電子銃とスクリーンが設けられ、電子銃からの電子線を基板10の面に入射させ、基板10の面で成長する薄膜によって生じる反射電子線回折像を、スクリーンで観察できるようにしてもよい。
【0058】
パルスレーザデポジション法では、圧力が10Pa以下、例えば、1Paとなるように雰囲気ガスを導入して、高密度プルーム29aから低密度プルーム29bが発散して、ターゲット24のプラズマ化によって放出されるフラグメント(原子、分子、イオン、クラスター等)が、基板10の面に届くようにすれば、基板10の面にVO2薄膜を形成することができる。
【0059】
図3は、本発明の実施の形態における、二酸化バナジウムナノワイヤを使用したメモリ素子の概略構成を説明する断面図である。
【0060】
図3(A)に示す例では、メモリ素子は、金属−絶縁体相転移する二酸化バナジウムナノワイヤ42aが形成された電気絶縁性の結晶性基板40aと、二酸化バナジウムナノワイヤ42aに接触して形成された導電性金属からなる第1電極44、第2電極46から構成される。なお、基板40aとして、二酸化バナジウムナノワイヤ42aが第1電極44と第2電極46を結ぶ方向に配向するような結晶面を有する基板が使用されている。
【0061】
図3(B)に示す例では、電気絶縁性の非結晶性基板40bと、基板40bに形成された導電性金属からなる第1電極44、第2電極46と、第1電極44、第2電極46に接触し両電極を結ぶ方向に配向して配置された金属−絶縁体相転移する二酸化バナジウムナノワイヤ42bから構成されている。二酸化バナジウムナノワイヤ42bは、後述する方法によって、第1電極44、第2電極46を結ぶ方向に配向させて配置されている。
【0062】
二酸化バナジウムナノワイヤ42は、電圧の印加によって金属−絶縁体相転移を示すので、電気抵抗が変化し、電圧−電流特性に抵抗スイッチング効果、即ち、メモリ機能を生じ、高低の電気抵抗値に対応するオンオフの状態を安定して有する抵抗変化型のメモリ素子とすることができる。
【0063】
図4は、本発明の実施の形態における、二酸化バナジウムナノワイヤを使用した電界効果型トランジスタ(FET)の概略構成を説明する断面図であり、図4(A)はトップゲート型FET、図4(B)はボトムゲート型FETをそれぞれ示す図である。
【0064】
図4(A)に示すトップゲート型FETは、シリコン、サファイア等の基板50aの面に形成されチャネルとして機能する二酸化バナジウムナノワイヤ52aと、このナノワイヤ52aに接触して形成された導電性金属からなるソース電極54a及びドレイン電極56aと、二酸化バナジウムナノワイヤ52aに積層され形成されたゲート絶縁膜57aと、このゲート絶縁膜57aに積層され形成された導電性金属からなるゲート電極58aから構成される。
【0065】
基板50aは、二酸化バナジウムナノワイヤ52aが、ソース電極54aとドレイン電極56aを結ぶ方向に配向するような結晶面を有しており、この基板50aの面に二酸化バナジウムナノワイヤ52aが形成されている。なお、サファイア等の基板50aの代わりに電気絶縁性の非結晶性基板を使用することもでき、この場合には、二酸化バナジウムナノワイヤ52aは、後述する方法によって、ソース電極54aとドレイン電極56aを結ぶ方向に配向させて配置されている。
【0066】
図4(B)に示すトップゲート型FETは、電気絶縁性の非結晶性基板50bの面に形成されたゲート電極58bと、このゲート電極58bに接触し基板50bの面に形成されたゲート絶縁膜57bと、このゲート絶縁膜57bの面に形成されチャネルとして機能する二酸化バナジウムナノワイヤ52bと、ゲート絶縁膜57bと二酸化バナジウムナノワイヤ52bに積層されたソース電極54b及びドレイン電極56bとから構成される。なお、二酸化バナジウムナノワイヤ52bは、後述する方法によって、ソース電極54aとドレイン電極56aを結ぶ方向に配向させて配置されている。
【0067】
図4(A)、図4(B)において、ソース電極54a、54b、ドレイン電極56a、56b、ゲート電極58a、58bは、例えば、Au/Cr電極であり、ゲート絶縁膜57a、57bは、例えば、Si34、SiO2、Ta23のような誘電体膜である。
【0068】
図4(A)、図4(B)に示すソース電極54a、54bとドレイン電極56a、56bの間に定電圧を印加し、加えて、ゲート電極58a、58bにゲート電圧(Vg)を印加する。これによって、ゲート絶縁膜57a、57bにより誘起されたホール(帯電キャリア)が、二酸化バナジウムナノワイヤ52a、52bに注入される。この結果、二酸化バナジウムナノワイヤ52a、52bに金属−絶縁体相転移に基づく導電性チャネルが形成され、ソース電極54a、54bとドレイン電極56a、56bの間に電流が流れる。
【0069】
図5は、本発明の実施の形態における、二酸化バナジウムナノワイヤを使用した温度又は光検知センサ素子の概略構成を説明する断面図である。
【0070】
二酸化バナジウムナノワイヤは、熱、光による金属−絶縁体相転移に基づいて、電気抵抗や光透過率が変化するので、2つの電極を結ぶ方向に配向して形成された二酸化バナジウムナノワイヤを2つの電極間に配置することによって、温度検知センサ素子又は光検知センサ素子を構成することができる。
【0071】
図5(A)に示す温度又は光検知センサ素子の例では、金属−絶縁体相転移する二酸化バナジウムナノワイヤ62aが第1電極64と第2電極66を結ぶ方向に配向するように形成された電気絶縁性のシリコン、サファイア等の結晶性基板60aと、二酸化バナジウムナノワイヤ62aに接触して形成された導電性金属からなる第1電極64、第2電極66から構成される。温度又は光検知は、温度又は光による第1電極54と第2電極56の間の電流変化を検出して行うことができる。なお、基板62aとして、二酸化バナジウムナノワイヤ62aが第1電極64と第2電極66を結ぶ方向に配向するような結晶面を有する基板が使用されている。
【0072】
図5(B)に示す例では、電気絶縁性の非結晶性基板60bと、基板60bに形成された導電性金属からなる第1電極64、第2電極66と、第1電極64、第2電極66に接触し両電極を結ぶ方向に配向して配置された金属−絶縁体相転移する二酸化バナジウムナノワイヤ62bから構成されている。二酸化バナジウムナノワイヤ62bは、後述する方法によって、第1電極64、第2電極66を結ぶ方向に配向させて配置されている。
【0073】
なお、図5に示す構成では、第1電極54と第2電極56の間に印加する電圧によって、二酸化バナジウムナノワイヤ52の光透過率が変化するので、高低の光透過率をオンオフの状態に対応させて、光通信用の光ICに応用することもできる。
【0074】
[二酸化バナジウムナノワイヤを配向させて配置する方法]
次に、図3、図4、図5に示す例において、二酸化バナジウムナノワイヤを、対向する2つの電極を結ぶ方向に配向させて配置する方法について説明する。
【0075】
二酸化バナジウムナノワイヤはメタノール、エタノール、アセトン等の有機溶媒や水中で超音波を印加することによって基板10から遊離させ、遠心分離によって長さの揃った二酸化バナジウムナノワイヤを選別することができる。長さが選別された二酸化バナジウムナノワイヤをメタノール、エタノール等の有機溶媒に分散させた分散液を調製し、この分散液を2つの電極の間に滴下し、高周波電源によって1〜10V、1kHz〜1MHz程度の高周波電界を2つの電極の間に印加し、誘電泳動法により、2つの電極の間を結ぶように配向し両電極を架橋するように二酸化バナジウムナノワイヤを配置させることができる。
【0076】
両電極を架橋するように配向、配置される二酸化バナジウムの数は、分散液中の二酸化バナジウムの濃度、印加する高周波電界の条件、誘電泳動の時間等によって、決定することができ、両電極の間の電気抵抗値の変化によってモニタすることができ、目的とする数の二酸化バナジウムナノワイヤを両電極の間に配置させることができる。
【0077】
<実施例>
[バナジウム酸化物薄膜の形成]
雰囲気ガスを酸素として、圧力を1×10-5Pa以下の真空状態とした薄膜形成装置内に、ターゲットとして五酸化二バナジウム(V25)、基板としてサファイア(a面)をセットし、ターゲットと基板間の距離を50mmとした。室温において、波長248nm、レーザエネルギー0.1J/cm2、レーザ周波数5Hz、1ショットのパルス幅30nsのレーザをターゲットに3000ショット照射して、面積1cm×5cm、膜厚100nmのアモルファス酸化バナジウム薄膜を作製した。この薄膜作製では、基板の加熱機構を必要としないため、温度の上昇降下の時間を必要としない。
【0078】
[二酸化バナジウムナノワイヤの形成]
次に、上記で形成されたアモルファス酸化バナジウム薄膜に対して、レーザ照射を行った。Ar雰囲気で薄膜形成装置内の圧力を2Paとし、波長248nm、レーザエネルギー0.1J/cm2、レーザ周波数1Hz、1ショットのパルス幅30nsのパルスレーザを3ショット(3発)照射した。パルスレーザの照射によって形成されたナノワイヤ以外のアモルファス薄膜及びV25 は、弱酸水溶液にてエッチング除去した。この結果、パルスレーザの照射によって形成されたナノワイヤ(単斜晶系)のみが、基板の面に残された。
【0079】
図6は、本発明の実施例において、サファイア(a面)上に形成された二酸化バナジウムナノワイヤの表面SEM像(倍率4000倍)である。
【0080】
図6に示すように、サファイア(a面)上には、レーザ照射によって形成されたナノ結晶子が成長し一方向に配向した二酸化バナジウムナノワイヤ、及び、ドット状結晶の二酸化バナジウムを含む一次元ナノ構造体が形成されている。
【0081】
図7は、本発明の実施例において、サファイア(a面)上に形成された二酸化バナジウムナノワイヤのランマンスペクトルを説明する図である。
【0082】
図7において、「V」は二酸化バナジウムナノワイヤに由来するランマンピーク、「S」はサファイア基板に由来するランマンピークを示している。ランマンスペクトルには、495cm-1、及び、615cm-1付近にVO2(M)に特徴的なピークが観測されていることから、形成されたナノワイヤは、VO2(M)構造であることがわかる。
【0083】
なお、上述したように、アモルファス酸化バナジウム薄膜にレーザを照射する時に、減圧下にて不活性ガスを用いると、二酸化バナジウムナノワイヤが形成されるが、アモルファス酸化バナジウム薄膜にレーザを照射する時に、酸素ガスを圧力が2Paとなるように導入すると、V25ナノワイヤが形成されることが確認された。
【0084】
以上説明した本発明では、次に示す事項等の特徴を有する。
【0085】
(1)PLD法による成膜は、1平方センチメートル程度に限られるが、スパッタリング法、EB蒸着法、その他の方法等によって、アモルファス酸化バナジウム薄膜を大面積で形成することができる。形成されたアモルファス酸化バナジウム薄膜にレーザを照射することによってナノワイヤを形成する際、照射するレーザは、0.1J/cm2のエネルギー密度で十分であるため、集光する必要がなく、大面積に照射することが可能であり、ナノワイヤを大面積で形成することができる。
【0086】
(2)アモルファス酸化バナジウム薄膜に照射するレーザを集光することによって、局所的に照射することができるため、選択された局所的箇所にのみナノワイヤを形成することができる。
【0087】
(3)アモルファス酸化バナジウム薄膜に照射するレーザを極微に集光することによって、ナノ結晶ドットを形成することができる。
【0088】
(4)アモルファス酸化バナジウム薄膜や異結晶相であるV25は、pHが7以下酸性条件にて、エッチングできるため、二酸化バナジウムナノワイヤのみを選択的に基板上に残すことができる。
【0089】
(5)基板を加熱するための機構を必要としないため、加熱のための昇温時間、及び、冷却のための降温時間を必要とせず、プロセスを簡略化、短時間化、低コスト化することができる。
【0090】
以上、本発明を実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明による一次元ナノ構造体の製造方法は、電子デバイスの製造方法に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
10…基板、12…アモルファスバナジウム酸化物薄膜、
13二酸化バナジウムナノワイヤ、21…真空容器、22a、22b…透明窓、
23…ターゲット支持台、24…ターゲット、25a、25b…レーザ光、
26a、26b…レンズ、27…基板支持台、28…ガス導入管、
29a…高密度プルーム、29b…低密度プルーム、31…油回転ポンプ、
32…ターボ分子ポンプ、40a、40b、50a、50b、60a、60b…基板、
42a、42b、52a、52b、62a、62b…二酸化バナジウムナノワイヤ、
44、64…第1電極、46、66…第2電極、54a、54b…ソース電極、
56a、56b…ドレイン電極、57a、57b…ゲート絶縁膜、
58a、58b…ゲート電極
【先行技術文献】
【特許文献】
【0093】
【特許文献1】特開2007−225532号公報(段落0036〜0041、図1)
【特許文献2】特表2006−526273号公報(段落0025〜0028、図3〜図5)
【特許文献3】特開2007−224390号公報(段落0026〜0039、段落0077〜0080、図1、図11〜図13)
【特許文献4】特表2007−515055号公報(段落0007〜0022、図1、図2)
【特許文献5】特開2008−205140号公報(段落0049、段落0058〜0065、図4、図6〜図9)
【非特許文献】
【0094】
【非特許文献1】B. Guiton et al.,“Single-Crystalline Vanadium Dioxide Nanowire with Rectangular Cross Sections”, JACS, 127, 498-499(2005)(第498頁左欄第22行〜同欄第36行、第499頁右欄第12行〜同欄第15行)
【非特許文献2】H-T. Kim, et al.,“Raman study of electro-field-induced first-order metal-insulator transition VO2 -based devices”, Applied Physics Letters, 86, 242101 (2005)(242101-2 左欄、図1)
【非特許文献3】M. Luo et al.,“The effect stoichimetry of VO2 nano-grain ceramics on their thermal and electrical properties”, Materials Chemistry and Physics, 104, 258-260 (2007)(2. Experimental)
【非特許文献4】J. Sohn et al.,“Direct Observation of the Structural Component of the Metal-Insulator Phase Transition and Growth Habits of Epitaxially Grown VO2 Nanowire”, Nano Lett., 7, 1570-1574 (2007)(第1571頁左欄第32行〜同欄第47行)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウムを含む薄膜を基板上に形成する第1工程と、
前記薄膜にレーザを照射して二酸化バナジウムを母材とする一次元ナノ構造体を形成
する第2工程と
を有する、一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項2】
前記薄膜の膜厚が500ナノメートル以下である、請求項1に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項3】
前記薄膜がアモルファス酸化バナジウム膜又は五酸化二バナジウム膜である、請求項1に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項4】
一次元ナノ構造体が単斜晶型又はルチル型の結晶構造を有する、請求項3に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項5】
前記一次元ナノ構造体としてナノワイヤを形成する、請求項4に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項6】
前記基板をエッチング処理して、前記基板に前記一次元ナノ構造体を残存させる第3工程を有する、請求項1に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項7】
前記レーザがパルスレーザである、請求項1に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項8】
前記薄膜に照射する前記レーザのエネルギー密度が1J/cm2以下である、請求項7に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項9】
室温において、前記レーザを前記薄膜に照射する、請求項1に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項10】
酸素、窒素、希ガスの単独又は混合ガスを用い、減圧又は常圧の雰囲気において、前記レーザを前記薄膜に照射する、請求項1に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項11】
Arガスの圧力が0.1Pa以上、10Pa以下である減圧状態の雰囲気において、前記レーザを前記薄膜に照射する、請求項1に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項12】
前記二酸化バナジウムが、3d遷移金属元素、希土類元素、Ta、Wの少なくとも1つを添加元素として含有する、請求項1に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項13】
前記添加元素を5%(原子分率)以下で含有する、請求項12に記載の一次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項14】
請求項1から請求項13の何れか1項に記載の一次元ナノ構造体の製造方法が適用され、熱、電場、赤外線、可視光、圧力又は振動による電気抵抗変化、或いは、赤外線又は可視光の透過率若しくは反射率変化を利用する電子デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記電子デバイスが、温度検知センサ素子、光検知センサ素子、電界効果トランジスタ素子、不揮発メモリ素子、光電変換素子、光スイッチング素子、熱線変調素子、光変調素子、スイッチング回路素子、光トランジスタ素子又は光メモリ素子である、請求項14に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項16】
請求項14又は請求項15に記載の電子デバイスの製造方法によって製造された電子デバイス。
【請求項17】
チャンバーと、
このチャンバー内を排気して内部の圧力を調整する排気部と、
酸素、窒素、希ガスの単独又は混合ガスを前記チャンバー内に導入するためのガス導
入部と、
前記チャンバー内に保持されバナジウムを含むターゲットと、
前記チャンバー内に保持された基板と、
前記基板に付着させる粒子を前記ターゲットから飛散させるための飛散手段と、
前記基板への前記粒子の付着によって形成された薄膜に照射する第1のレーザを発す る第1のレーザ光源と、
前記薄膜に対して前記第1のレーザを照射するための第1の光学系と
を有し、二酸化バナジウムを母材とし単斜晶型又はルチル型の結晶構造を有する一次元ナノ構造体としてナノワイヤを形成する、一次元ナノ構造体の製造装置。
【請求項18】
前記飛散手段は、前記ターゲットから前記粒子を飛散させるために前記ターゲットに照射される第2のレーザを発する第2のレーザ光源と、前記ターゲットに対して前記第2のレーザを照射するための第2の光学系を含む、請求項17に記載の一次元ナノ構造体の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−195629(P2010−195629A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42380(P2009−42380)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】