説明

伸張歪ゲルマニウム薄膜の作製方法、伸張歪ゲルマニウム薄膜、及び多層膜構造体

【課題】 ゲルマニウム錫混晶層の歪緩和を促進し、より大きな面内伸張歪を持つ伸張歪ゲルマニウム層を形成することができる多層膜構造体を提供する。
【解決手段】半導体装置に好適な多層膜構造体10の形成方法として、シリコン基板11の上方にゲルマニウム層12を形成する工程と、その上方にゲルマニウム錫混晶層13を形成する工程と、その上方に伸張歪ゲルマニウム層14を形成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、特に歪ゲルマニウムチャネルを有する電界効果トランジスタの作製において好適に用いることのできる、伸張歪ゲルマニウム膜の作製方法、伸張歪ゲルマニウム膜、ならびに多層膜構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の高度情報処理産業の根幹をなす、シリコン超大規模集積回路(Si Ultra Large Scale Integrated Circuit:Si−ULSI)の性能向上は、その基本素子であるSi−MOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field Effect Transistor)の性能向上と高集積化によって支えられてきた。また、その個々の素子の性能向上は、トランジスタ構造の比例縮小(スケーリング)によってなされてきた。スケーリング則とは、ゲート絶縁膜に印加される電界を一定として、チャネル長の縮小化やゲート絶縁膜の薄膜化により電流駆動能力を向上させるものである。しかし、このスケーリング則に応じた素子性能向上は、ショートチャネル効果やゲート絶縁膜の薄膜化に伴うトンネルリーク電流の増大等によって、困難になってきている。
【0003】
このような状況下において、デバイスのさらなる高速化および高機能化を達成するために、素子微細化に依存しない技術に注目が集まっている。その一つに、MOSFETのチャネル部分に高移動度の非Si材料を用いる技術がある。なかでも、Siと同じIV族元素であるゲルマニウム(Ge)に注目が集まっている。その理由として、Geが電子および正孔移動度の両方においてSiよりも高い移動度を有していることが挙げられる。近年、GeをチャネルとしたMOSFETに関する報告が増加してきている(例えば、非特許文献1、2、3)。Ge−pMOSFETに関しては、2006年のIEDM(International Electron Devices Meeting)においてIMECから、ゲート長を125nmまで微細化した高電流駆動力のGe−pMOSFET(ゲート絶縁膜にハフニウム酸化膜(HfO2)を使用)が発表され(例えば、非特許文献4)、長チャネル素子で正孔移動度は、バルクSi−pMOSFET(ゲート絶縁膜にHfO2を使用)の約3倍の移動度を持つこと、ゲート長125nmにおいても同程度の移動度を有することが報告された。一方、Ge−nMOSFETに関しても多数の報告がされており(例えば、非特許文献5、6)、2006年にMITのグループが、ゲート長20μmのGe−nMOSFETでバルクSi−nMOSFETの約2.5倍の移動度を持つことを報告した(非特許文献7)。
【0004】
一方で、チャネル中の結晶に歪を印加しバンド構造を変化させ、キャリア移動度を向上させる技術も注目されている。Siに面内2軸歪を加えた歪Siチャネルに関しては、これまで様々な研究がなされてきており、電子および正孔移動度について、理論的にも実験的にも検証されている(例えば、非特許文献8〜12)。2003年のIEDMでIBMは、Silicon−on−Inslator(SOI)基板上に作製された歪(伸張歪量ε〜1.45%)Si−MOSFETにおいて、バルクSi−MOSFETと比較して、電子移動度で約2倍、正孔移動度で約1.4倍の性能向上を得たと報告している(非特許文献13)。
【0005】
一方、Geに対して歪を印加した場合においても、Siと同様に、バンド構造の変化によってキャリア移動度の向上が期待できることを、Fischettiらは理論計算によって指摘した(非特許文献14)。Ge(001)面内に歪が印加された場合、圧縮歪に対して電子移動度は、歪量0.986で急激に減少する。また、伸張歪に対して電子移動度は、歪量1.013以下では、緩やかに増加し、歪量1.013以上では、急激に増加する。一方、正孔移動度は、圧縮および伸張歪で増加する。その増加割合は、圧縮歪に対してのほうが大きい。
【0006】
実験的には、歪緩和Si0.3Ge0.7バッファ層上に形成された面内に圧縮歪(圧縮歪量ε〜1.20%)を有するGeチャネルp型MOSFETで、従来のSiチャネルp型MOSFETと比較して、正孔移動度が約20倍になったという報告がある(非特許文献15)。
【0007】
しかし、伸張歪Ge−nMOSFETの電子および正孔移動度に関する報告例はほとんど無いのが現状である。その理由の一つとして、大きな伸張歪を有するGe層の形成手法が、確立されていないことが挙げられる。
【0008】
以上のように、(001)面内に伸張歪を有するGeチャネルデバイスは、電子および正孔双方に対する高いキャリア移動度が期待できる点から、非常に魅力的なデバイスである。Siおよび歪Siデバイスに変わる、新しい世代の超高速デバイスに向けて、伸張歪Geチャネルの実現が非常に重要な課題である。
【0009】
<従来の伸張歪ゲルマニウム膜の形成方法>
対象を電子デバイスに限らなければ、面内に伸張歪を有するGe層の形成に関しては、幾つかの報告がある。米国・Massachusetts工科大学のKimerlingらのグループからは、光デバイス応用を目的として、0.20%前後の伸張歪が印加されたGe層の成長報告がなされている(非特許文献16〜19)。彼らは、UHV−CVD(Ultra High Vacuum Chemical Vapor Deposition)法によって、Si(001)基板上にseed−Ge層を350℃で30nm成長後、成長温度を600℃まで上げて、Ge層を1μm成長させる。その後、Ge層内の貫通転位を減少させるために、700℃〜900℃のサイクル熱処理を10回行い室温に戻す。GeはSiより熱膨張係数が大きいので、室温へ降温する際、Ge層は伸張歪を受ける。Ge層に印加される伸張歪量は、降温開始温度と室温との差で制御でき、X線回折法による評価から、その制御幅は、0.15%から最大0.21%であるとしている。
【0010】
また、彼らはSi基板の裏面にC54−TiSi2を形成することで最大0.25%までGe層へ伸張歪を印加できることも報告している(非特許文献20)。
【0011】
Kimerlingらの結果は、Si基板上に伸張歪Ge層を用いたIV族半導体光学デバイスの実現において、非常に有益なものである。しかし、超高速デバイスへ応用することを考えた場合、Fischettiらの理論計算を考慮すると、この歪量は、バルクGeの移動度を電子に対して1.02倍、正孔に対して1.05倍にする程度でまだまだ小さいと言える。また、この歪量を得るためには、1μmの厚いGe層およびSi基板の裏面に3.8μmの厚いC54−TiSi2層を必要とするため、MOSFET作製プロセスの観点から見れば、非現実的であり、コスト的にも問題がある。大きな伸張歪を持ち、かつ、極薄膜のGe層を形成するためには、やはりバルクGeより大きな格子定数を持つ歪緩和バッファ層が必要となる。さらに、伸張歪Ge層に所望の歪を加えるためには、下地となるバッファ層の格子定数制御が非常に重要になってくる。
【0012】
<従来のゲルマニウム錫層の形成方法>
そこで我々は、Geよりも格子定数の大きな錫(Sn)を加えたGe1-xSnx層に注目した。SnはSiおよびGeと同じIV族系半導体であり、また、α−Sn相はSi、Geと同じダイヤモンド構造をとることから、GeにSnを固溶させたGe1-xSnx層の形成によって、Geよりも大きな格子定数をもつ、Geに面内伸張歪を印加するためのバッファ層の実現が可能となる。特に、本発明では上述のような観点から、Si基板上における高品質Ge1-xSnx層のヘテロエピタキシャル成長およびその上への面内伸張歪Geの実現に向けた技術を開発した。
【0013】
しかし、Si基板上への高品質Ge1-xSnx層のヘテロエピタキシャル成長には以下に示すような困難が予想される。α−Sn相の格子定数は0.64892nmで、Geの格子定数0.56579nmとの差が14.7%と非常に大きい。また、Snの融点は232℃であり、13.2℃でα−Sn相からβ−Sn相への相転移が起こる。さらに、熱平衡状態において、Ge中へのSnの固溶度は、約1.0at.%(Ge層に印加できる伸張歪量0.15%)と非常に低い。したがって、Si基板上に高いSn組成を有する歪緩和Ge1-xSnx層の成長を試みる場合、Ge1-xSnx層中において、Snが結晶格子位置に置換されずに析出してしまったり、Ge1-xSnx層の低い融点から表面および界面の平坦性が保てない、などの問題が生じることが容易に予測される。すなわち、Si基板上の高Sn組成歪緩和Ge1-xSnx層のエピタキシャル成長には、多くの技術的課題があると考えられる。
【0014】
ここで、これまでのGe1-xSnxに関する報告を述べる。1980年代後半から、Si(001)およびGe(001)基板上Ge1-xSnx層の光学デバイスへの応用が検討され始め、様々な成長方法によって、高Sn組成(0.10<x<0.40)の単結晶Ge1-xSnxの成長が試されている(例えば、非特許文献21〜23)。しかし、どの成長方法においてもGe1-xSnx層成長途中に多結晶化、アモルファス化およびβ−Sn相の析出が、観察されている。
【0015】
1990年後半以降、アリゾナ州立大学のKouvetakisらのグループは、UHV−CVD法によるSi(001)基板上Ge1-xSnx層の成長を報告している(非特許文献24、25)。彼らのグループの特徴は、SnのCVD原料に(Ph)SnD3およびSnD4ガスを用いている点である。SnH4は、Sn−Hの結合エネルギーが低く室温で非常に不安定であるのに対し、重水素を用いた(Ph)SnD3およびSnD4ガスは、Sn−D結合がSn−H結合と比較して、熱的に安定であるため(非特許文献26)、室温で分解されずに、成長温度付近の250℃~350℃で分解される。これらの原料ガスを用いて成長させたSi(001)基板上Ge1-xSnx層は、断面透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)観察により、Ge1-xSnx/Si(001)基板界面に刃状転位を形成することが確認されている。また、Sn組成2.0%で膜厚500nmの試料では、積層欠陥および貫通転位が多数観察されているがSnの析出は無い。しかし、詳細な転位構造および歪緩和機構などの解明はされておらず、高Sn組成の試料に関しても詳細な考察がなされていない。
【0016】
彼らはまた、2007年にSi基板上に直接形成されたGe1-xSnx層を歪印加層として、伸張歪Geを実現したことを報告している。しかし、この報告におけるGe1-xSnx層中のSn組成は2.5%と低いものである。そのため、彼らの方法では、十分に大きな格子定数を持つ高品質な歪緩和Ge1-xSnx層を形成できておらず、この上に形成された歪Ge層の歪量は0.25%と小さいという問題があった(非特許文献27)。
【0017】
また、イリノイ大学のGreeneらのグループは、低温MBE法によるGe(001)基板上歪Ge1-xSnx層の成長を報告している(非特許文献28,29)。彼らは、ある成長温度、Sn組成に対して、歪Ge1-xSnx層のエピタキシャル成長できる膜厚が、変化すること報告している。しかし、彼らはGe1-xSnx層上における歪Ge層の形成に関しては言及していない。
【非特許文献1】International Electron Devices Meeting 2002、p.437(2002)
【非特許文献2】International Electron Devices Meeting 2003、p.433(2003)
【非特許文献3】Semiconductors Science and Technologeies22、p.221 (2007)
【非特許文献4】International Electron Devices Meeting 2006、講演番号26.1 (2006)
【非特許文献5】IEEE Electron Device Letters、25(3)、p.135(2004)
【非特許文献6】IEEE Electron Device Letters、27、(9)、p.728(2006)
【非特許文献7】IEEE Electron Device Letters、27(3)、p.175(2006)
【非特許文献8】Journal of Applied Physics 80、p.2234(1996)
【非特許文献9】Journal of Applied Physics、80、p.1567(1996)
【非特許文献10】Applied Phyics Letters、75、p.2948(1999)
【非特許文献11】Journal of Applied Physics 81、 p.1259(1997)
【非特許文献12】Journal of Applied Physics、94、 p.2590 (2003)
【非特許文献13】International Electron Devices Meeting、講演番号3.1(2003)
【非特許文献14】Journal of Applied Phyisics 80、 p.2234(1996)
【非特許文献15】Applied Physics Letters 81、p.847(2002)
【非特許文献16】Applied Physics Letters、82、p.2044(2003)
【非特許文献17】Applied Physics Letters、84、660 (2004)
【非特許文献18】Applied Physics Letters、84、p.906(2004)
【非特許文献19】Physical Review B、70、p.155309(2004)
【非特許文献20】Physical Review B、70、155309(2004)
【非特許文献21】Journal of Crystal Growth、p.83、3(1987)
【非特許文献22】Applied Physcis Letters、p.68、2791(1990)
【非特許文献23】Journal Applied Physcis、75、p.1987(1994)
【非特許文献24】Applied Physics Letters、78、p.3607(2001)
【非特許文献25】Applied Physics Letters、81、p.2992(2002)
【非特許文献26】Chmical Materials、11、p.547(1999)
【非特許文献27】Applied Physics Letters、90、p.061915、(2007)
【非特許文献28】Journal of Applied Physics、83、p.162(1998)
【非特許文献29】Journal of Applied Physics、97、p.044904(2005)
【非特許文献30】Physical Review Letters、65、p.1227(1990)
【非特許文献31】Applied Physics Letters、58、p.2276(1991)
【非特許文献32】Physical Review B、67、124322(2003)
【非特許文献33】Journal of Applied Physics、83、p.162(1998)
【非特許文献34】Physical Review Letters、84、p.947(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
<ゲルマニウム錫膜形成に好適な基板技術>
歪Ge1-xSnx層のようにSiに比べても非常に大きな格子定数を持つ材料を、高い結晶性を有するバッファ層として形成するためには、可能な限りバッファ層とする結晶に対して、格子定数差の小さい基板を用いることが重要と考えられる。この観点からはSi基板に代わりGe基板を用いることは有望である。しかし、地球表面に存在する物質中で、Siは酸素についで二番目に多く存在し、その割合は約28%であるのに対して、Geは1.5ppmと非常に僅かしか存在しない。さらに、Geは、密度が高く、割れやすいため、従来広く用いられているSiに比べて、基板としての取り扱いには注意が必要となる。また、GeはSiに比べ、熱伝導率も低いため、電子デバイスの基板材料としては不適とされている。以上の理由から、LSI産業上、従来のSi基板に代えてGe基板を用いることは、製品コストおよびプロセス搬送系の観点から非常に大きな問題となることが予測される。従って、LSI製造上、使い慣れたSi基板上に、Geを用いた超高速デバイスを作製する技術が希求される。今後、成熟したSiテクノロジーをプラットフォームとした、伸張歪Geなどの高移動度材料を用いた超高速デバイス実現のためには、下地となるバッファ層の格子定数を精密に制御し、かつ、高品質なヘテロエピタキシャル膜を形成することが、最も大きな課題となる。
【0019】
さらに付け加えれば、このように大きな格子定数を有するヘテロエピタキシャル層をSi基板上に実現する技術は、この上に他III−V族系の化合物半導体材料を成長する観点からも魅力的である。III−V族化合物半導体は、他の多くの半導体に比べて電子移動度が極めて高く、特に、InSbに至っては、その電子移動度がバルク材料で約80000cm2-1sec-1という魅力的な特性を有している。そのため、Ge同様に次世代のMOSFET用チャネル材料として、近年、注目が高まりつつある。しかし、それらの格子定数はSiに比べてかなり大きく、Siとの格子不整合歪はGaAsではGeと同程度の4.2%、InAsでは11.6%、InSbでは19.3%にも達する。結晶学的に高品質なIII−V族系化合物半導体層の形成に向けて、化合物半導体材料とSi間の膨大な格子不整合性を克服するために、Si基板上に比較的格子定数の大きなヘテロエピタキシャル層を形成することは有効な手段と考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
Si基板上にヘテロエピタキシャル成長させて歪緩和させたGe層(これを『仮想Ge基板』と呼ぶ)として用い、この上にGe1-xSnx層、Ge層と形成することによって、従来の報告を超えた大きな歪量を持つ伸張歪Ge層を形成することができた。具体的には、Si(001)基板上に歪緩和したエピタキシャルGe層を形成後、この上層に歪緩和したエピタキシャルGe1-xSnx層を形成し、さらに上層にGe1-xSnx層と同じ面内格子定数を持つエピタキシャル歪Ge層を形成した。仮想Ge基板を用いることで、Ge層中にある貫通転位に起因する効果的な歪緩和の促進が起こるため、大きなSn組成を持ち、高い歪緩和率を有するGe1-xSnx層の形成が可能となった。
【発明の効果】
【0021】
仮想Ge基板の採用によって、Ge1-xSnx層の歪緩和を促進し、より大きな面内伸張歪を持つGe1-xSnx層を形成することができた。これによって、従来のどの報告よりも大きな歪量をもつ、(110)方向の面内格子定数0.4015nm、歪量0.35%を有する伸張歪Geの形成に成功した。
【0022】
ここでは、下地の基板に仮想Ge基板を用いて、その基板上に歪緩和Ge1-xSnx層を成長させることを試みた結果を示す。仮想Ge基板とは、Si基板上に形成された、非常に表面が平坦で100%歪緩和したGe薄膜のことを言う。仮想Ge基板を用いる利点を、以下に挙げる。前述のように、LSI産業上、Geをバルク基板として用いることはコスト面およびハンドリング面で多大な問題が生ずる。それに対して、仮想Ge基板は、既存のLSI産業の中核をなすSi基板上に薄いGe層をヘテロエピタキシャル成長した仮想的な基板であるため、従来プロセスへの適用性に優れ、実用化に際して、非常に有利になると考えられる。
【0023】
以下に、基板の清浄化法、仮想Ge基板の作製方法、仮想Ge基板上Ge1-xSnx層の成長、および歪緩和Ge1-xSnx層の転位構造と歪緩和機構について詳細に調べた結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1および図2は本発明のGe/GeSn/Ge/Si構造の作製方法を説明するための図である。
【実施例1】
【0025】
まず、はじめに図1に沿って、仮想Ge基板上への歪Ge/歪緩和Ge1-xSnx層多層構造の作製法についての述べる。
【0026】
<仮想Ge基板の作製>
単結晶基板としてSiの単結晶基板たるSi(001)基板よりなるSi基板11を用意した。このSi基板を化学洗浄した後、図示しない超高真空装置内に導入し、1×10-6Pa以下の真空中にてクヌーセンセル(Kセル)などの一般的な蒸着装置を用いて、基板温度を200℃に保ち、膜厚40nmのGe層をエピタキシャル成長させた。その後、試料を大気中に取り出し、窒素雰囲気で700℃、1分間の熱処理を施すことにより、Ge層内の歪を緩和させ、歪緩和Ge層12を形成した。この段階の試料を仮想Ge基板と呼ぶ。
【0027】
<歪緩和GeSn層の作製>
仮想Ge基板を化学洗浄した後、前記超高真空装置内に導入し、1×10-6Pa以下の真空中にて、450℃、30分間の熱処理による表面清浄化を行った。その後、基板温度を200℃に保ち、Kセルおよびアークプラズマガン(APG)にてそれぞれGeおよびSnを同時に蒸着することで、Ge1-xSnx層をエピタキシャル成長させた。この時、Sn組成xは例えば8.0%とした。その後、試料を大気中に取り出し、窒素雰囲気で600℃、10分間の熱処理を施すことにより、Ge1-xSnx層内の歪を緩和させ、歪緩和Ge1-xSnx層13を形成した。
【0028】
<伸張歪Ge層の作製>
前記試料を化学洗浄した後、前記超高真空装置内に導入し、1×10-6Pa以下の真空中にて、450℃、30分間の熱処理による表面清浄化を行った。その後、基板温度を300℃に保ち、KセルによってGeを蒸着することで、Ge層をエピタキシャル成長させた。これによって、伸張歪Ge層14を形成し、多層膜構造体10を作製した。
【実施例2】
【0029】
次に図2に沿って、仮想Ge基板上への歪Ge/Sn組成傾斜多段階Ge1-xSnx層からなる多層膜構造体の作製法について述べる。
【0030】
<仮想Ge基板の作製>
単結晶基板としてSiの単結晶基板たるSi(001)基板よりなるSi基板21を用意した。このSi基板を化学洗浄した後、図示しない超高真空装置内に導入し、1×10-6Pa以下の真空中にてクヌーセンセル(Kセル)などの一般的な蒸着装置を用いて、基板温度を200℃に保ち、膜厚40nmのGe層をエピタキシャル成長させた。その後、試料を大気中に取り出し、窒素雰囲気で700℃、1分間の熱処理を施すことにより、Ge層内の歪を緩和させ、先述同様の歪緩和Ge層22を形成した。この段階の試料を仮想Ge基板と呼ぶ。
【0031】
<Sn組成傾斜多段階Ge1-xSnx層の作製>
仮想Ge基板を化学洗浄した後、前記超高真空装置内に導入し、1×10-6Pa以下の真空中にて、450℃、30分間の熱処理による表面清浄化を行った。その後、基板温度を200℃に保ち、KセルおよびAPGにてそれぞれGeおよびSnを同時に蒸着することで、第一段階のGe1-xSnx層として、基板温度200℃において、膜厚60nmのGe0.990Sn0.010層を形成した。その後、試料を大気中に取り出し、窒素雰囲気で600℃、10分間の熱処理を施すことにより、Ge1-xSnx層内の歪を緩和させ、歪緩和Ge1-xSnx層23を形成した。
【0032】
その後、試料を大気中に取り出し、窒素雰囲気中で700℃、10分間の後熱処理(PDA:Post Deposition Annealing)処理を施した。再度、試料を化学洗浄した後、前記超高真空装置内に導入し、1×10-6Pa以下の真空中にて、450℃、30分間の熱処理による表面清浄化を行った。第二段階のGe1-xSnx層として、基板温度を200℃に保ち、膜厚70nmのGe0.970Sn0.030層を成長した。その後、試料を大気中に取り出し、窒素雰囲気中で700℃、10分間の熱処理を施すことにより、Ge1-xSnx層内の歪を緩和させ、第二段階歪緩和Ge1-xSnx層24を形成した。
【0033】
その後、試料を試料を大気中に取り出し、窒素雰囲気中で700℃、10分間のPDA処理を施した。再度、試料を化学洗浄した後、前記超高真空装置内に導入し、1×10-6Pa以下の真空中にて、450℃、30分間の熱処理による表面清浄化を行った。第三段階のGe1-xSnx層として、基板温度200℃において、膜厚50nmのGe0.933Sn0.067層を成長した。その後、試料を大気中に取り出し、窒素雰囲気中で700℃、10分間の熱処理を施すことにより、Ge1-xSnx層内の歪を緩和させ、第三段階歪緩和Ge1-xSnx層25を形成した。
【0034】
<伸張歪Ge層の作製>
前記試料を化学洗浄した後、前記超高真空装置内に導入し、1×10-6Pa以下の真空中にて、450℃、30分間の熱処理による表面清浄化を行った。その後、基板温度を250℃に保ち、KセルによってGeを蒸着することで、Ge層をエピタキシャル成長させた。これによって、伸張歪Ge層26を形成し、多層膜構造体20を作製した。
【0035】
なお、ここではSn組成傾斜多段階Ge1-xSnx層を三段階としたが、Sn組成を向上させるため、および適切な歪緩和を生じさせるために、四段階以上の傾斜多段階Ge1-xSnx層を形成することも当然可能である。
【0036】
<試料の洗浄方法>
Si、Geおよび仮想Ge基板上に所望の結晶層をエピタキシャル成長させるためには、予め基板表面を清浄化しておく必要がある。本実施例で行った基板清浄化方法を以下に詳しく述べる。
【0037】
ここでまず、基板の清浄化方法について述べる。Si基板を、40℃に加熱したアンモニア溶液(NH4OH:H22:H2O=1:6:20)中で10分間煮沸洗浄後、超純水中で10分間のオーバーフローを行い、窒素ブローで基板を乾燥させる。その後、基板を超高真空装置の試料交換室へ導入し、さらに超高真空状態の成長室へ搬送する。成長室において、予め基板温度を600℃で10分間間プレアニールすることで基板および基板ホルダーに含まれている水分などのガスを出す。室温まで温度を下げ、基板表面に約1nmのアモルファスSi層を堆積させる。その後、基板を850℃で15分間加熱する。これによって、清浄表面が形成される。その際、反射高速電子線回折(RHEED:Reflection High Energy Electron Diffraction)法によって、Si(001)清浄表面特有の2×1表面再構成構造を確認した。
【0038】
次にGeおよび仮想Ge基板の清浄化方法について述べる。超純水中で10分間のオーバーフロー後、室温にて、アンモニア溶液(NH4OH:H2O=1:4)中で5分間の洗浄を行う。これによって、Geおよび仮想Ge基板上の自然酸化膜がエッチングされ、また表面に存在する重金属が取り除かれる。超純水中で10分間のオーバーフロー後、室温にて、硫酸溶液(H2SO4:H2O=1:7)中で2分間の洗浄を行う。これによって、表面の金属および炭素等の汚染を除去する。次に超純水中で10分間のオーバーフロー後、室温にて、H22溶液中にGe基板を30秒、仮想Ge基板を5秒間浸す。これによって、Geおよび仮想Ge基板上に保護酸化膜を形成する。その直後、窒素ブローで基板を乾燥させる。仮想Ge基板の場合、この工程を素早く行わないとH22溶液によって、Ge層がすべて酸化されてしまうので注意が必要である。その後、試料交換室へ導入し成長室へ搬送する。成長室において、超高真空中450℃で30分間の熱処理を行った。これによって、清浄表面が形成される。その際、RHEEDによって、Ge(001)表面特有の2×1表面再構成構造を確認した。なお、上記洗浄法は一例であり、他の化学洗浄法や物理的エッチングによる洗浄法などの一般的な洗浄法によって、清浄表面を構成する方法を用いてもかまわない。
【0039】
(比較例)
<SiおよびGe基板上に形成されたGe1-xSnx層>
SiまたはGe基板を前述の方法に従って洗浄し、表面を清浄化した。表面清浄化後、バルクSi(001)基板上には基板温度600℃で電子ビーム蒸着により蒸着速度0.1Å/sで膜厚50nmのSiバッファ層を、およびバルクGe(001)基板上には基板温度400℃でクヌーセンセル(セル温度1200℃)により蒸着速度0.28Å/sで膜厚100nmのGeバッファ層を成長させた。表面清浄化後およびバッファ層成長後、RHEEDによって2×1表面再構成構造を確認した。各基板上に、基板温度200℃でGe1-xSnx層をエピタキシャル成長させた。基板温度を200℃と低温にした理由は、Ge1-xSnx層成長中にβ−Snが析出するのを抑制するためである。GeおよびSnの蒸着にはそれぞれクヌーセンセルおよびアークプラズマガンを用いた。Ge1-xSnx層の成長後、幾つかの試料は、大気中に取り出し、窒素雰囲気中、600℃で10分間のPDAを行った。
【0040】
<Si(001)基板上Ge1-xSnx層の成長と結晶構造評価>
まず、バルクSi(001)基板上のGe0.98Sn0.02層の結晶性および転位構造について述べる。以下、Ge1-xSnx層と記述した時のSn組成xはラザフォード後方散乱法(RBS: Rutherford Backscattering Spectrometry)によって評価された値である。図3(a)は、バルクSi(001)基板上に基板温度200℃でGe0.98Sn0.02層を240nm成長させた試料の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)である。Ge0.98Sn0.02層内に多数の貫通転位が観察され、貫通転位密度は、1012cm-2以上と見積もられた。また四角で示すように、表面近傍に回折コントラストがほとんど見られない領域が存在することがわかる。図3(a)中の四角で囲った部分の高分解能TEM像および制限視野回折パターンを図3(b)および図3(c)に示す。エピタキシャル成長したGe1-xSnx層上にアモルファスGe1-xSnx相が、形成されていることがわかる。また、制限視野回折パターンにもハローパターンが観察され、アモルファスGe1-xSnx相の形成が確認できる。
【0041】
低温MBE法による成長においては、ホモおよびヘテロエピタキシャル成長にかかわらず、成長過程で、エピタキシャル成長からアモルファス成長へ遷移する膜厚hepiいる(非特許文献31)。Gurdalらは、Ge(001)基板上に成長温度100℃でGe1-xSnxをした場合、Sn組成9%以上で歪に起因したhepiの減少が顕著になると報告している(非特許文献33)。我々の実験においても低温成長で、なおかつ、4.5%の大きな格子不整合を有するために成長途中でGe0.98Sn0.02層はエピタキシャル成長からアモルファス成長に遷移したと考えられる。今回の場合、図3(a)では、積層欠陥を確認できなかったが、多数の貫通転位群がアモルファス化の原因になっていると考えられる。
【0042】
この試料に対して、図4にGe1-xSnx(224)ピーク付近のX線回折2次元逆格子マッピング(XRD−2DRSM:X ray Diffraction 2 Dimentional Reciprocal Space Mapping)測定した結果を示す。Ge1-xSnx層の回折ピークが明瞭に観察され、Vegard則より、Sn組成は約1.0%と見積もられた。これはRBSより見積もられたSn組成の半分程度であり、本来導入されたSn原子のうち約半分がGe1-xSnx結晶の格子位置に置換されず、また、アモルファス相中などに含まれていることを示唆している。
【0043】
図4において、[110]方向に沿う非常にブロードなGe1-xSnx回折プロファイルが観察された。このプロファイルの[110]方向の半値幅(FWHM:Full Width Half Maximum)Δθ(rad)から面内における結晶ドメインサイズLは次式で表せる。
L=λ/2ΔθsinθB (1)
ここで、λはX線の波長、θBは基板の(004)面反射におけるBragg角である。式(1)より、結晶のドメインサイズは約30nmと見積もられた。この微小な結晶ドメイン化は膜内の貫通転位によるものと推測される。これらの結果は、バルクSi(001)基板上へのGe1-xSnx層の直接成長は2%程度のSn組成でさえ困難であることを示している。
【0044】
<Ge(001)基板上Ge1-xSnx層の成長と転位構造評価>
この節では、3つの条件で成長したバルクGe(001)基板上のGe1-xSnx層の成長と結晶性について議論する。図5にGe1-xSnx層の試料構造を示す。(Sn組成、Ge1-xSnx層膜厚)は(0.023、40nm)、(0.025、220nm)および(0.081、30nm)の成長条件で試料を作製した。図6(a)にバルクGe(001)基板上にGe0.977Sn0.023層を40nm成長させた場合の断面TEM明野像(回折波ベクトルg004)を示す。転位を形成することなくPseudomorphicなGe0.977Sn0.023層が成長している。また、Si基板上の場合に観察されたようなアモルファス相は観察されなかった。図6(b)に同試料を600℃で10分間のPDA処理した後のGe0.977Sn0.023層の断面TEM明野像(回折波ベクトルg004)を示す。PDA処理後も転位は観察されなかった。
【0045】
次に、図7(a)にバルクGe(001)基板上にGe0.975Sn0.025層を220nm成長させた直後の断面TEM明野像(回折波ベクトルg004)を示す。PseudomorphicにGe0.975Sn0.025層が成長している。膜厚を増大させても転位が導入されない理由は、低温成長しているため、膜が非平衡状態にあり、歪を内包しながら成長しているからである。また、Ge0.98Sn0.02/Si系と比較して、Ge0.975Sn0.025/Ge系において、アモルファス相が観察されない理由は、成長温度が200℃と同じ条件であるから、格子不整合度の違いに起因するところが大きいといえる。さらに、貫通転位が存在しないため、欠陥により誘発される表面近傍のアモルファス化は起こらないと考えられる。
【0046】
図7(b)に同試料を600(Cで10分間のPDA処理したGe0.975Sn0.025層の断面暗視野像(回折波ベクトルg004)を示す。 ミスフィット転位がGe0.975Sn0.025/バルクGe(001)基板界面に導入されている。回折波ベクトルg004およびg220で観察できることから、これらの転位は60o転位であることがわかった。また、矢印で示すように、その一部はバルクGe(001)基板に向かって伝播していることも観察された。
【0047】
図8に図7(b)で示した試料の平面TEM像を示す。Ge0.975Sn0.025/バルクGe(001)基板界面で2つの<110>方向に伝播する60o転位が観察された。転位は膜表面からハーフループ状に導入され、基板界面に到達した後、ミスフィット成分は界面に残留し、貫通成分は膜外に抜けたと考えられる。貫通転位密度は106 cm-2以下と見積もられた。また、丸印で示すように、図7(b)中の、転位の一部が基板に向かって伝播している転位形態に対応すると見られる構造が平面TEM像においても観察された。図8中の丸印部分の拡大像を図9に示す。60o転位の転位線が交わらないことが確認できる。
【0048】
このような転位形態は、交差する2本の60o転位の転位線が、大きさが同じでお互いが平行なバーガースベクトルを有する時に起こる反応の結果形成されると考えられる。それぞれの転位が交差する点で転位の分裂反応(消滅反応)が起き、新たな転位線ができる。この分裂反応は、平行なバーガースベクトル持つ2本の転位が、転位同士の相互作用を避け、交差点で上下に分裂し転位線の長さを減少させることによってエネルギー的に安定な転位構造をとる反応である(非特許文献34)。
【0049】
次に、図10(a)にバルクGe(001)基板上にGe0.919Sn0.081層を30nm成長させた試料の断面TEM明野像を示す。8.1%の高Sn組成にもかかわらずSnは析出することなく、PseudomorphicなGe0.919Sn0.081層が成長している。図10(b)に同試料を600℃で10分間のPDA処理したGe0.919Sn0.081層の断面明視野像を示す。Ge0.919Sn0.081/バルクGe(001)基板界面近傍に多数のドット状の析出物が観察できる。この析出物を高分解能TEMで観察した格子像と回折パターンを図11(a)および図11(b)に示す。格子像からモアレ縞が観察される。モアレ縞の間隔が2.70nmであることと回折パターンから、このモアレ縞はGeの111とβ−Snの200面の干渉により形成されており、Ge0.919Sn0.081/バルクGe(001)基板界面近傍にβ−Sn相が析出していることがわかる。
【0050】
これらの結果は以下のことを示す。低Sn組成の場合、ある膜厚以下では、PDA処理をしてもGe1-xSnx層内に転位は導入されず、一定の膜厚以上では、PDA処理後、Ge1-xSnx/Ge基板界面にミスフィット転位が導入される。しかし、ある程度の膜厚以上であっても、高Sn組成の場合には、PDA処理後、β−Sn相が界面付近に析出し膜内の歪が緩和されると考えられる。基板温度200℃での低温MBE法により、Sn組成8.1%までバルクGe基板上にPseudomorphicにGe1-xSnx層を成長できることがわかった。
【0051】
<Ge(001)基板上Ge1-xSnx層の歪緩和率測定結果>
図12にバルクGe(001)基板上にGe0.975Sn0.025層を成長した直後のGeSn(224)回折ピーク付近のX線回折2次元逆格子マッピング(XRD−2DRSM)測定結果を示す。Ge(224)回折ピークの直下にGeSn(224)回折ピークが観測されることから、断面TEMで観察されたようにPseudomorphicにGe0.975Sn0.025層が成長していることがわかる。
【0052】
次に、GeSn(224)回折ピーク付近のXRD−2DRSMからバルクGe(001)基板上のGe0.977Sn0.023層、Ge0.975Sn0.025層およびGe0.919Sn0.081層の[110]方向の歪緩和率を評価した。図13にXRD−2DRSMから得たGe1-xSnx(224)回折ピークの逆格子点を示す。図中の点線は、結晶を等方的な弾性体と考え、Poisson比に従って変形した場合の理想線である。図14に[110]方向の歪緩和率とVegarD則から求めた成長直後およびPDA処理後のGe1-xSnx層中のSn組成を示す。[110]方向の歪緩和率に関して、低Sn組成で臨界膜厚以下の試料においては、PDA処理前後で[110]方向の歪緩和率に変化は無い。低Sn組成で臨界膜厚以上の試料では、PDA処理前後で[110]方向の歪緩和率に変化は見られるが、非常に小さな値(1%から5%)である。これは、発生および増殖するミスフィット転位の数が制限されているためであると考えられる。また、低Sn組成の試料では、PDA処理前後でSnの組成に変化がないことから、Ge1-xSnx層内でのβ−Sn相の析出が無いことを示している。しかしながら、高Sn組成の試料ではSn組成が8.1%(成長直後)から2.4%(PDA処理後)に変化していた。これはTEM像で観察されたように膜内の歪を緩和するうえでβ−Sn相が界面に析出したためと考えられる。
【0053】
<仮想Ge基板の作製>
ここからは、仮想Ge基板の作製法について述べる。Si(001)基板を前述の方法で清浄化後、そのまま超高真空装置内において、基板温度を200℃に保ちながら、クヌーセンセルを用いた分子線エピタキシー法によりGe層を40nm成長させた。その後、同真空装置内において試料を700℃、10分間熱処理を施した。また、一部の試料はGe層成長後、そのまま大気中に取り出し、700℃、1分間の熱処理を窒素雰囲気中で行った。
【0054】
図15および図16にSi(001)基板上に基板温度200 ℃ でGe層を40nm成長させ、その後、熱処理を施した試料のTEM像を示す。図15(a)および図15(b)は、それぞれ超高真空装置内で熱処理温度700℃、10分間の熱処理した場合の、断面暗視野TEM像(回折波ベクトルg220)および平面TEM像である。図16(a)および図16(b)はGe層を成長後、大気中に取り出し、窒素雰囲気中で700℃、1分間の急速熱処理をした場合の、断面暗視野TEM像(回折波ベクトルg220)および平面TEM像である。
【0055】
両試料ともに断面TEM像からGe/Si界面に周期的に配列した転位が観察される。さらに平面TEM像から2つの<110>方向に伸びた転位のネットワーク構造がはっきりと観察できる。これは、断面TEM像で観察されたGe/Si界面の転位に相当し、その転位間隔は約10nmと見積もられた。SiとGeの格子不整合度が4.2%であること、および刃状転位のバーガースベクトルを用いて、完全歪緩和した場合を仮定すると理論的に計算される転位間隔は9.5nmである。それゆえ、Ge/Siの歪緩和は刃状転位によって支配的に行われていると見積もることができる。XRD−2DRSM測定によって見積もられた熱処理後のGe層の[110]方向および[001]方向の歪緩和率は、超高真空熱処理および窒素雰囲気中急速熱処理の場合、共に100%および100%であった。TEM像の観察結果も考慮するとバルクSi(001)基板上に[110]および[001]方向ともにGeの格子定数を持ったGe層が形成されていることが確認された。
【0056】
結晶性に関して、両試料を比較すると、図15(b)および図16(b)の平面TEM像から見積もられた貫通転位密度は、108~109cm-2、および1010~1011cm-2であった。超高真空中で熱処理した試料は、熱処理時間が10分間と長いため、窒素雰囲気中で1分間急速熱処理した試料に比べて貫通転位が少ない。しかし、断面TEM像から、図15(a)超高真空熱処理後の表面はラフニングが生じているのに対して、図16(a)窒素雰囲気中急速熱処理後の表面は平坦である。
【0057】
図17(a)および図17(b)に、超高真空熱処理後および窒素雰囲気中急速熱処理後の試料表面の原子間力顕微鏡像(AFM:Atomic Force Microscopy)像を示す。表面の平均二乗粗さ(RMS:Root Mean Square)は、超真空熱処理の場合、9.0nmと大きな値を示すが、窒素雰囲気中急速熱処理の場合、1.0nm程度と非常に小さな値を示す。この結果は、大気圧窒素雰囲気中で急速熱処理を行うことで、Ge表面原子の泳動によるラフニングが抑制できることを示している。以上の結果を踏まえると、仮想Ge基板に向けた歪緩和Ge層の作製には、窒素雰囲気中での急速熱処理による方法が適していることがわかる。以下の実施例においては、急速熱処理法によって歪緩和させる方法を用いて作製した仮想Ge基板を用いた。
【0058】
<仮想Ge基板上へのGe1-xSnx層の成長と転位構造評価>
以下に、仮想Ge基板上におけるGe1-xSnx層の成長について述べる。仮想Ge基板を前述の方法に従って洗浄し、表面を清浄化した。表面清浄化後、RHEEDによって2×1表面再構成構造を確認した。仮想Ge基板上に、基板温度170~200℃でGe1-xSnx層をエピタキシャル成長させた。Geの蒸着にはクヌーセンセルを用い、Snの蒸着にはアークプラズマガンを用いた。Ge1-xSnx層の成長後、幾つかの試料は、大気に取り出し、窒素雰囲気中、400~600℃で1~10分間のPDA処理を行った。作製した試料の構造を図18に示す。また、作製した試料の成長条件を図19に示す。
【0059】
<低Sn組成(3.0%以下)Ge1-xSnx層の転位構造および表面形態>
図20(a)から図20(h)に、仮℃想Ge基板上に成長温度170℃で、Ge0.99Sn0.01層を1300nm成長させる過程におけるRHEEDパターンを示す。Ge0.99Sn0.01層の成長開始と共にRHEEDパターンがストリーク状からスポット状に変化していくことがわかる。また、図20(e)に示した膜厚400nmの時点において、矢印で示すように多結晶リングパターンが観察され始めた。これは、単結晶成長から多結晶成長への遷移を示している。さらに成長を続けていくにつれて、多結晶リングパターンがよりはっきりと観察された。
【0060】
図21(a)に、図21(h)で示した試料の成長直後の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)、および図21(b)に、図中の丸印の制限視野回折パターンを示す。制限視野回折パターンからも多結晶成長に起因したリングパターンが観察された。図21(a)の断面TEM像中に白い矢印で示すような、Si基板上の試料でも観察された均一なコントラストを持つアモルファス相が、膜厚200nm付近でも観察された。また、貫通転位の周辺に黒い矢印で示すように積層欠陥が存在していることも観察された。しかし、RHEED観察の結果は、膜厚200nmにおいて、エピタキシャル成長を示しており、TEMとRHEEDにおける観察結果で相違がある。これは、膜厚400nm成長時にGe0.99Sn0.01層表面近傍で起きたエピタキシャル層から多結晶およびアモルファス相への遷移が欠陥を介してGe0.99Sn0.01層深部にまでおよぶ事を示唆している。いずれにせよ、Ge1-xSnx/仮想Ge基板系においても、Si基板上の場合と同様にエピタキシャル成長できる臨界膜厚が存在することがわかる。これ以降は、多結晶およびアモルファス成長が起こらないような薄い膜厚で実験を行った。
【0061】
図22(a)および図22(b)に成長温度200℃において、仮想Ge基板上Ge0.99Sn0.01層を40nm成長させた直後、および600℃で10分間のPDA処理を施した試料の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)をそれぞれ示す。図23(a)および図23(b)に成長温度200℃において、仮想Ge基板上Ge0.973Sn0.027層を40nm成長させた直後および600℃で10分間のPDA処理を施した試料の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)をそれぞれ示す。図24(a)および図24(b)には、仮想Ge基板上にGe0.978Sn0.022層を210nm成長させた直後および600℃で10分間のPDA処理を施した試料の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)をそれぞれ示す。図22(a)、図23(a)および図24(a)より、成長直後のGe1-xSnx層では、表面までエピタキシャル層が形成され、Si(001)バルク基板上の試料で観察されたようなアモルファス相が形成されていないことが観察された。また、Ge1-xSnx層中に多数の貫通転位が観察されるが、これらは、仮想Ge基板中に存在する貫通転位がGe1-xSnx/仮想Ge基板界面を介してGe1-xSnx層中に引き継がれたものである。
【0062】
図25に、図24(a)で示した同試料の同領域を回折ベクトルg220で観察した成長直後の断面TEM像を示す。回折ベクトルg220の観察においても、回折ベクトルg004で観察した場合と同様に、貫通転位が結像されている。この結果は、回折ベクトルとバーガースベクトルの関係より、仮想Ge基板およびGe1-xSnx層中に存在する貫通転位は、60o転位の特徴を持つことを示している。
【0063】
図26(a)に図24(a)に示したのと同じ、Ge0.978Sn0.022層成長直後の試料の平面TEM像を示す。Ge層/バルクSi(001)基板界面に形成されている2つの[110]方向に直線状に伸びる刃状転位ネットワークと共に、矢印で示したようなGe層からGe0.978Sn0.022層に伸びる貫通転位を示す短い転位が観察された。これらの貫通転位はSn組成1.0%、および2.7%の試料においても観察された。
【0064】
図22(b)に示した、600℃、10分間のPDA後のGe0.99Sn0.01試料においては、転位の挙動に大きな変化は観察されなかったが、図23(a)および図24(a)で観察された貫通転位は、PDA処理後に劇的に変化している。図中の矢印で示すように、Ge1-xSnx/仮想Ge基板界面にみられるミスフィット転位とGe1-xSnx層内に曲がった転位群が観察される。
【0065】
図26(b)に仮想Ge基板上にGe0.978Sn0.022層を210nm成長させた直後および600℃で10分間のPDA処理を施した試料の平面TEM像を示す。また、図27(a)および図27(b)に、仮想Ge基板上に膜厚40nmのGe0.99Sn0.01層を成長後、および膜厚40nmのGe0.973Sn0.027層を成長後、600℃で10分間のPDA処理を施した試料の平面TEM像をそれぞれ示す。これらPDA処理後の平面TEM像より、成長直後に観察された貫通転位を示す短い転位が減少していることが分かる。貫通転位密度は約1010cm-2と見積もられ、成長直後より一桁減少した。これらの結果は、PDA処理がGe1-xSnx/仮想Ge基板界面での貫通転位の横方向の伝播を促進し、膜中の貫通転位密度の減少に繋がることを示している。
【0066】
次に、これら3種類のGe1-xSnx試料の表面形態をAFMで観察した結果を示す。図28(a)および図28(b)に、仮想Ge基板上Ge0.99Sn0.01層およびGe0.973Sn0.027層を40nm成長させ、600℃で10分間のPDA処理を施した試料表面のAFM像を示す。また、図28(c)に仮想Ge基板上にGe0.978Sn0.022層を210nm成長させ、600℃で10分間のPDA処理を施した試料のAFM像を示す。これらのRMS値は、それぞれ1.9nm、0.6nmおよび1.0nmであった。どの試料においても、PDA処理後も下地の仮想Ge基板の平坦性を維持していた。
【0067】
<高Sn組成(5.0%以上)Ge1-xSnx層の転位構造および表面形態>
次にSn組成が5.8%および8.5%の試料をTEM観察した結果を示す。図29(a)および図29(b)に成長温度200℃において、仮想Ge基板上にGe0.942Sn0.058層を膜厚40nm、Ge0.915Sn0.085層を膜厚15nm成長し、600℃で10分間のPDA処理した試料の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)を示す。図30(a)および図30(b)に同試料における図29(a)および図29(b)と同視野の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg220)を示す。成長直後の断面TEM観察結果は前述のSn組成2.5%の試料の転位構造と同様であった。図29(a)および図29(b)より、Ge1-xSnx/仮想Ge基板界面に、貫通転位が横方向に伝播していること、および界面に60°転位のコントラストが観察できる。また、図30(a)および図30(b)から、Ge1-xSnx/仮想Ge基板界面に、直径約10nmの球状の析出物が観察された。これらは、PDA処理後のGe0.919Sn0.081/バルクGe基板界面で観察されたように、β−Sn相の析出物であると考えられる。断面TEM像より、その数密度は、Sn組成Sn5.8%および8.5%の時、それぞれ3.0×109cm-2および2.0×1010cm-2と見積もられた。高Sn組成になるほどSnの析出が生じ易い傾向にあるといえる。
【0068】
次に、これら2種類のGe1-xSnx層の表面形態をAFMで観察した結果を示す。図31(a)および図31(b)に、仮想Ge基板上Ge0.942Sn0.058層を40nmおよびGe0.915Sn0.085層を15nm成長させ、600℃で10分間のPDA処理を施した試料のAFM像を示す。これらのRMS値は、それぞれ0.6nmおよび1.2nmであった。どの試料においても、PDA処理後も下地の仮想Ge基板の平坦性を維持していた。
【0069】
次に、高Sn組成で膜厚が厚い試料についての結果を示す。図32(a)および図32(b)に、成長温度170℃において、仮想Ge基板上にGe0.937Sn0.063層を300nm成長させた直後および600℃で10分間のPDA処理を施した試料の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)を示す。PDA処理後、貫通転位の横方向への伝播が観察された。一方、成長直後の膜表面は、非常に平坦であったのに対して、PDA処理後、表面のラフニングが顕著に起こっていることが観察された。
【0070】
図33(a)および図33(b)に、仮想Ge基板上にGe0.937Sn0.063層を300nm成長させた試料のPDA処理後の表面を、AFMおよび走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)を用いて観察した結果をそれぞれ示す。図33(a)および図33(b)から、表面ラフニングが観察され、図33(a)のAFM像から見積もられたRMSは、22nmと非常に大きな値を示した。また、表面に数密度が6.4×107cm-2の析出物が観察された。析出物と判断した理由は、図33(b)のSEM像のコントラストの違いからである。これらの析出物は、400℃および500℃のPDA処理後においても観察された。
【0071】
図34(a)、図34(b)、および図34(c)に、仮想Ge基板上Ge0.937Sn0.063層を500℃で10分間PDA処理した後のSEM像、断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)および制限視野回折パターンをそれぞれ示す。図34(a)より、600℃で10分間PDA処理した後の表面形態と、同様の表面形態が得られていることが確認できる。また、同SEM像よりGe0.937Sn0.063層表面に析出物が観察された。図34(b)の断面TEM像から析出物を観察し、図34(c)の回折パターンからβ−Sn相に起因した{200}、{004}および{301}面の回折スポットが得られた。これにより、表面の析出物は、β−Snであることが明らかとなった。貫通転位に関して、断面TEM観察より、400℃および500℃の熱処理においても、Ge1-xSnx/仮想Ge基板界面で横方向にすべり60o転位を界面に残しているのが観察された。
【0072】
高Sn組成で膜厚が薄い場合、PDA処理後にGe1-xSnx/仮想Ge基板界面に直径約10nmの球状のβ−Sn相が析出するが、表面の平坦性は維持される。しかし、膜厚が厚い場合、PDA処理後に数百nmのβ−Sn相の析出物が形成され、Ge1-xSnx層表面の平坦性は非常に悪化することがわかった。これらの結果は、高Sn組成Ge1-xSnx層の場合は、膜厚を薄くして適切なPDA処理条件を選択すれば、Snの析出を抑制しながら転位のみを動かし、歪緩和を促進することができることを示唆している。
【0073】
<仮想Ge基板上Ge1-xSnx層の結晶性評価>
GeSn(224)回折ピーク付近のXRD−2DRSMの形状から仮想Ge基板上のGe0.978Sn0.022層の結晶性を評価した。図35(a)および35(b)にそれぞれ成長直後および600℃で10分間のPDA処理後のXRD−2DRSM測定結果を示す。図35(a)より、[110]方向に拡がる非常にブロードな回折プロファイルと矢印で示すような[001]方向に伸びるテイルを得た。このような回折プロファイルは、図35(b)で示すようにPDAを行うことで非常に鋭い、また、対称的な回折プロファイルに変化した。[110]方向のFWHMより、面内の結晶ドメインサイズを見積もるとPDA処理前後で50nmから73nmに変化することがわかった。
【0074】
図36に、Ge1-xSnx成長直後およびPDA処理後の試料について、XRD−2DRSMの結果から評価したドメインサイズ変化を示す。Snの析出が顕著に観察されなかった試料では、PDA処理後、ドメインサイズが増加していた。これはPDA処理を行うことでGe1-xSnx層内の貫通転位が減少したことを示しており、TEM観察結果と一致する。また、図35(b)の結果では、PDA処理後に仮想Ge基板に起因するピークが消失している。これは図24(f)でみられたようにPDA処理後、貫通転位同士の反応によりGe層にハーフループ状の転位が導入されるからである。
【0075】
<仮想Ge基板上Ge1-xSnx層の歪緩和率測定結果>
図37に、XRD−2DRSM法によって評価された、仮想Ge基板上にエピタキシャル成長したすべてのGe1-xSnx試料の成長直後およびPDA処理後のGeSn(224)回折ピーク位置を示す。図中の点線は、結晶を等方的な弾性体と考え、Poisson比に従って変形した場合の理想線である。すべての試料に対して、膜の歪緩和が起こっていることがわかる。しかし、図37より、Sn組成2.7%、5.8%および8.5%の試料に対して、PDA処理後、Poisson比に従って歪緩和する理論線より内側にピーク位置が観測された。これは、Snの析出が原因であると考えられる。
【0076】
図38に図37に示したGeSn(224)回折ピーク位置の変化より見積もられたPDA処理前後のGe1-xSnx層の[110]方向に対する歪緩和率を示す。成長直後のSn組成がPDA処理後に理論線より低Sn組成側に観測されたSn組成2.7%、5.8%および8.5%の試料に対しては、PDA処理後のピーク位置上にくるSn組成から歪緩和率を求めている。
【0077】
比較のために従来のバルクGe基板上に形成したGe1-xSnx層の[110]方向歪緩和率も示す。仮想Ge基板を用いた場合、いずれの試料でも一定量の歪緩和が起こっていることがわかる。また、バルクGe基板上の試料ではその[110]方向歪緩和率は非常に小さいが、仮想Ge基板上の試料の場合、[110]方向歪緩和率は非常に高い値であった。この結果は、TEM観察した時に見られるGe1-xSnx/Ge基板界面のミスフィット転位の存在からも明らかである。バルクGe基板上の試料と比較して、熱処理条件は同じであるがその歪緩和率は基板の違いに決定的に依存している。これらの結果は仮想Ge基板上に成長したGe1-xSnx層中に存在する貫通転位が効果的に歪緩和に寄与していることを示している。また、図39に、PDA処理後の(110)面間隔とGeに対して印加できる歪量を示す。PDA処理後の(110)面間隔はいずれもGeの(110)面間隔以上の値を示しており、伸張歪Ge層を成長させるためのバッファ層となり得る可能性を持っている。
【0078】
<伸張歪Ge層の成長>
以下では、実際に、歪緩和Ge1-xSnx層上に伸張歪Ge層を成長させた結果を示す。図40に作製した試料の断面構造を示す。歪緩和させたGe1-xSnx層は、仮想Ge基板と同様の洗浄を行い、再び成長チャンバーに搬送した後、仮想Ge基板と同様の清浄化熱処理を行った。歪Ge層となるGe層は、成長温度300℃で行った。成長直後のSn組成の設計値は、8.0%とした。
【0079】
図41(a)にGe(24nm)/Ge0.922Sn0.078(24nm)/仮想Ge基板の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg220)を示す。Ge0.922Sn0.078(24nm)/仮想Ge基板界面にβ−Sn相の析出が観察された。図41(b)に同試料の同観察領域における断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)を示す。また、図41(c)に別領域の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)を示す。図41(b)および図41(c)で観察されるように、Ge0.922Sn0.078(24nm)/仮想Ge基板界面に60o転位に起因するコントラストが観察され、転位による膜内の歪緩和が起こっていることがわかる。一方、Ge/ Ge0.922Sn0.078界面には横方向に滑った転位のコントラストはまったく観察されない。これは、下地のGe1-xSnx層に対してGe層がPseudomorphic成長していることを示唆している(β−Sn相が析出しているのでSn組成はxとした)。つまり、バルクGeに比べてより大きな(110)面間隔を持つ伸張歪を有するGe層が形成されていることを示している。
【0080】
図42は、図41に示したものと同一試料のGeSn(224)ピークおよび歪Ge(224)ピーク付近のXRD−2DRSM測定結果である。仮想Geピークとオーバーラップしているものの歪Geに起因するピークが観測できる。エピタキシャルGe層が歪緩和Ge0.955Sn0.045バッファ層にPseudomorphicに成長した場合、(110)面間隔が歪緩和ゲルマニウム錫(Ge0.955Sn0.045)バッファ層に整合し、Poisson比に従って(001)面間隔が小さくなる。そのため、2次元逆格子マップ上では、仮想Ge基板ピークからPoisson比に従った直線上で、かつ歪緩和Ge0.955Sn0.045バッファ層の真上に歪Ge層の回折ピークが現れることが期待される。一方で、図35(b)に関して先に説明したように、仮想Ge基板に起因するピークは、Ge1-xSnx層のPDA処理後、ハーフループ状の転位が仮想Ge基板中に導入されるため、ピーク強度が減少する。しかし、仮想Ge基板作製後のGe(224)ピーク、およびGe1-xSnx層成長直後の仮想Ge基板(224)ピーク位置は、必ず理論計算から得られるGe(224)ピーク位置に測定された。つまり、仮想Ge基板の格子定数は、Ge1-xSnx層成長直後においても全く変化しない。それゆえ、歪Ge(224)ピークを求める場合において、仮想Ge(224)ピーク位置は、理論計算から得られるGe(224)ピーク位置にあると仮定して評価を行った。図42に示したXRD−2DRSMの結果から、Ge0.922Sn0.078バッファ層のSn組成と歪Ge層のピーク位置と歪量を評価した。GeSn(224)ピーク位置から、Sn組成は4.5%と見積もることができた。[110]方向歪緩和率は、58%であった。
【0081】
図42中に点線で示した位置の回折プロファイルを図43に示す。図43には、得られた回折プロファイルに対してピーク分離を行った、仮想Ge基板および歪Ge層それぞれのプロファイルも示してある。仮想Ge基板および歪Ge層ピーク位置から確かに[110]方向に伸張歪を有する歪Ge層が、歪緩和Ge0.955Sn0.045バッファ層上に形成されていることが確認された。
【0082】
図42、および図43から、歪緩和Ge0.955Sn0.045バッファ層および歪Ge層の(110)面間隔を算出した。歪緩和Ge0.955Sn0.045バッファ層および歪Ge層の(110)面間隔の値は、それぞれ0.4016nmおよび0.4015nmであった。歪Ge層は歪緩和Ge0.955Sn0.045バッファ層に対して、Pseudomorphic成長していることを示している。これは、図41に示した断面TEM観察による結果と一致する。また、歪Ge層は、バルクGeに対して0.35%の伸張歪を有している。
【0083】
<Sn組成傾斜多段階Ge1-xSnx層および歪Ge層の形成>
次に、伸張歪Ge層へ印加する歪量の増大を目的に、Sn組成に傾斜をつけて多段階にGe1-xSnx層を成長する方法を検討した。この時、Sn組成を増大させるためにはGe1-xSnx層からのSnの析出を抑制することが必要である。前述までの実験から、図37に示したように、Sn組成2.7%のGe1-xSnx層を熱処理した場合、Snの析出が起こり、Sn組成が2.5%に減少することが明らかになった。一方、Sn組成が2.5%以下の場合には、Snの析出は起こらないといえる。この結果は、Sn組成の増大によって、下地のGe層に対するGe1-xSnx層のミスフィット歪の量が大きくなると、Snの析出が促進されることを示唆している。Sn組成2.5%の場合のGe1-xSnx層におけるGe層に対するミスフィット量を求めると格子定数比で0.37%となる。そこで、下地となる仮想Ge層あるいはGe1-ySny層に対して、成長するGe1-xSnx層のミスフィット量が格子定数比で0.37%よりも小さくなるように、各段階におけるGe1-xSnx層のSn組成の設定を行った。
【0084】
以下、試料作製方法について述べる。図44に作製した試料の断面構造を示す。先述の方法で作製した仮想Ge基板表面を先述のアンモニア溶液によって洗浄した後、第一段階のGe1-xSnx層として、基板温度200℃において、膜厚60nmのGe0.990Sn0.010層を成長した。その後、試料を大気中に取り出し、窒素雰囲気中で700℃、10分間のPDA処理を施した。再度、試料をアンモニア溶液で洗浄後、超高真空装置に導入し、450℃、30分間の熱処理を施し、表面を清浄化した。第二段階のGe1-xSnx層として、基板温度200℃において、膜厚70nmのGe0.970Sn0.030層を成長した。その後、試料を大気中に取り出し、窒素雰囲気中で700℃、10分間のPDA処理を施した。再度、試料をアンモニア溶液で洗浄後、超高真空装置に導入し、450℃、30分間の熱処理を施し、表面を清浄化した。第三段階のGe1-xSnx層として、基板温度200℃において、膜厚50nmのGe0.933Sn0.067層を成長した。その後、試料を大気中に取り出し、窒素雰囲気中で700℃、10分間のPDA処理を施した。再度、試料をアンモニア溶液で洗浄後、超高真空装置に導入し、450℃、30分間の熱処理を施し、表面を清浄化した。最後に歪Ge層として、基板温度250℃で、膜厚20nmのGe層を成長した。
【0085】
図45(a)および図45(b)に作製した作製したSn組成傾斜多段階Ge1-xSnx層および歪Ge層試料の断面TEM像、およびその歪Ge/GeSn界面を拡大した原子分解能TEM像をそれぞれ示す。仮想Ge基板と各段階のGe1-xSnx層との界面においては、ミスフィット転位に起因する、線状のコントラストが観察できる。これはミスフィット転位の伝播によって、Ge1-xSnx層が歪緩和していることを示している。また、Ge1-xSnx層中には残留した貫通転位も観察できる。
【0086】
一方、図45(a)に示すように表面の歪Ge/Ge1-xSnx層界面においては、そのようなミスフィット転位が観察されない。図45(b)に示したような原子分解能の観察においても、矢印で示した歪Ge/Ge1-xSnx層界面に転位が導入されている様子は観察されず、[110]方向に原子が整列している様子が観察できる。これは、Ge層がGe1-xSnx層上にpseudomorphicに成長していることを示しており、Ge層に歪が印加されていることを示唆している。
【0087】
図46(a)および図46(b)に第三段階のGe1-xSnx層成長直後の試料、およびSn組成傾斜多段階Ge1-xSnx層上にGe層を成長した試料のGe(224)逆格子点近傍のXRD−2DRSM観察結果をそれぞれ示す。図46(a)から仮想Ge基板および各Ge1-xSnx層が混ざり合うことなく形成されていることがわかる。また、図46(a)と図46(b)との比較から、第三段階のGe1-xSnx層成長後の熱処理によって、最上部のGe1-xSnx層の歪緩和が進んでいることがわかる。また、図46(b)においては、仮想Ge基板とは異なる位置にGe(224)回折ピークが観察され、歪Ge層が形成されていることがわかる。
【0088】
図47(a)および図47(b)にXRD−2DRSM法によって評価された歪Ge/Sn組成傾斜多段階Ge1-xSnx試料の各段階、各層の(224)回折ピーク位置、および記号の説明と評価された各段階における各Ge1-xSnx層の歪緩和率をそれぞれ示す。図47(a)より工程が進むにしたがって、Ge1-xSnx層の歪緩和が促進される様子がわかる。また、第一段階、第二段階のGe1-xSnx層においては歪Ge成長後もSn組成が維持されており、Snの析出が抑制されていることがわかる。第三段階のGe1-xSnx層においては歪Ge成長後もSn組成が若干低下しているが、Sn組成5.5%と高い値を保っていることがわかる。また、図47(b)から歪Ge層成長後に80%を超える大きな歪緩和率が達成されていることもわかる。図47(a)に示した歪Ge(224)ピークの位置から、歪Ge層の(110)面間隔および歪量は、それぞれ0.4028nm、および0.68%と評価され、本手法によって作製された歪Ge層が従来にない大きな歪量を有していることがわかる。
【0089】
Fischettiらの理論計算に従えば、上記で作製したこれらの歪Ge層は、バルクGeのキャリア移動度と比較して、電子で1.1倍以上、正孔で1.3倍以上のキャリア移動度を有すると予測される。また、先述のKimerlingらやアリゾナ州立大学のグループが報告している歪Ge層の最大の伸張歪量は0.25%であり、これらの値と比較しても、今回、我々が作製した伸張歪Ge層の歪量は大きな値であるといえる。
以下、付記を記載する。
(付記1)
半導体素子用の多層膜構造体の形成方法であって、シリコン基板11の上方にゲルマニウム層12を形成する工程と、その上方にゲルマニウム錫混晶層13を形成する工程と、その上方に伸張歪ゲルマニウム層14を形成する工程を含むこと特徴とする多層膜構造体10の形成方法。
(付記2)
前記ゲルマニウム錫混晶層13の錫組成が4.5%以上であることを特徴とする付記1に記載の多層膜構造体10の形成方法。
(付記3)
前記伸張歪ゲルマニウム層14の基板面内方向の(110)面の格子定数が0.4015nm以上の値を有することを特徴とする、付記1または2に記載の多層膜構造体10の形成方法。
(付記4)
前記ゲルマニウム層12から前記ゲルマニウム錫混晶層13へ連続する貫通転位を、それらの界面で伝播させて、ミスフィット転位を形成することで、前記ゲルマニウム錫混晶層13内の歪緩和を促進することを特徴とする付記1乃至3のいずれか一に記載の多層膜構造体10の形成方法。
(付記5)
半導体素子用の多層膜構造体の形成方法であって、シリコン基板21の上方にゲルマニウム層22を形成する工程と、その上方に錫組成の異なる複数のゲルマニウム錫混晶層23乃至25からなる多層構造を順次形成する工程と、その上方に伸張歪ゲルマニウム層26を形成する工程を含むことを特徴とする多層膜構造体20の形成方法。
(付記6)
上記ゲルマニウム層22およびゲルマニウム錫混晶層23乃至25からなる多層構造における各層の間で生じる結晶格子のミスフィット量が、0.37%よりも小さいことを特徴とする、付記5に記載の多層膜構造体20の形成方法。
(付記7)
前記ゲルマニウム錫混晶層25の錫組成が4.5%以上であることを特徴とする付記5または6に記載の多層膜構造体20の形成方法。
(付記8)
前記伸張歪ゲルマニウム層26の基板面内方向の(110)面の格子定数が0.4015nm以上の値を有することを特徴とする、付記5乃至7のいずれか一に記載の多層膜構造体20の形成方法。
(付記9)
前記ゲルマニウム層22から前記ゲルマニウム錫混晶層23乃至25へ連続する貫通転位を、それらの界面で伝播させて、ミスフィット転位を形成することで、前記ゲルマニウム錫混晶層23乃至25内の歪緩和を促進することを特徴とする付記5乃至8のいずれか一に記載の多層膜構造体20の形成方法。
(付記10)
半導体素子用の多層膜構造体であって、シリコン基板11の上方に形成されたゲルマニウム層12と、その上方に形成されたゲルマニウム錫混晶層13と、その上方に形成された伸張歪ゲルマニウム層14を含むことを特徴とする多層膜構造体10。
(付記11)
前記ゲルマニウム錫混晶層13中の錫組成が4.5%以上であることを特徴とする付記10に記載の多層膜構造体10。
(付記12)
前記伸張歪ゲルマニウム層14の基板面内方向の(110)面の格子定数が0.4015nm以上の値を有することを特徴とする、付記10または11に記載の多層膜構造体10。
(付記13)
半導体素子用の多層膜構造体であって、シリコン基板21の上方に形成されたゲルマニウム層22と、その上方に形成された錫組成の異なる複数のゲルマニウム錫混晶層23乃至25からなる多層構造と、その上方に形成された伸張歪ゲルマニウム層26とを備えることを特徴とする多層膜構造体20。
(付記14)
上記ゲルマニウム層22およびゲルマニウム錫混晶層23乃至25からなる多層構造における各層の間で生じる結晶格子のミスフィット量が、0.37%よりも小さいことを特徴とする、付記13に記載の多層膜構造体20。
(付記15)
前記ゲルマニウム錫混晶層25の錫組成が4.5%以上であることを特徴とする付記13または14に記載の多層膜構造体20。
(付記16)
前記伸張歪ゲルマニウム層26の基板面内方向の(110)面の格子定数が0.4015nm以上の値を有することを特徴とする、付記13乃至15のいずれか一に記載の多層膜構造体20。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の歪Ge層を有する多層膜構造体を説明するための図。
【図2】本発明の歪Ge層を有する多層膜構造体を説明するための図。
【図3】Si(001)基板上Ge0.98Sn0.02層の(a)成長直後の断面TEM像。(b)表面近傍の高分解能TEM像。(c)制限視野回折パターン。
【図4】Si(001)基板上に成長したGe0.98Sn0.02層Ge1-xSnx(224)ピーク付近のXRD−2DRSM測定結果。
【図5】Ge(001)基板上に成長したGe1-xSnx層の試料構造。
【図6】バルクGe(001)基板上のGe0.977Sn0.023層(a)成長直後の試料、および(b)600℃、10分間のPDA処理後の断面TEM像。
【図7】バルクGe(001)基板上のGe0.975Sn0.025層(a)成長直後の試料、および(b)600℃、10分間のPDA処理後の断面TEM像。
【図8】バルクGe(001)基板上に成長したGe0.975Sn0.025層の平面TEM像。
【図9】図8中の丸印部分の拡大像。
【図10】バルクGe(001)基板上のGe0.919Sn0.081層の(a)成長直後、および(b)600℃、10分間のPDA処理後の断面TEM像。
【図11】図10(b)中の析出物を高分解能TEMで観察した(a)格子像と(b)回折パターン。
【図12】バルクGe(001)基板上にGe0.975Sn0.025層を成長した直後の試料のGeSn(224)回折ピーク付近のXRD−2DRSM測定結果。
【図13】バルクGe(001)基板上のGe1-xSnx層成長試料におけるXRD−2DRSMにより評価したGeSn(224)回折ピークの逆格子点位置のまとめ。
【図14】バルクGe(001)基板上のGe1-xSnx層成長試料におけるGeSn(224)回折ピークの逆格子点から得られた[110]方向の歪緩和率のまとめ。
【図15】Si(001)基板上にGe層を成長後、超高真空装置内で熱処理温度700℃、10分間の熱処理した試料の、(a)断面暗視野TEM像および(b)平面TEM像。
【図16】Si(001)基板上にGe層を成長後、窒素雰囲気中で700℃、1分間の急速熱処理をした試料の、(a)断面暗視野TEM像および(b)平面TEM像。
【図17】Si(001)基板上にGe層を成長後、(a)超高真空熱処理後および(b)窒素雰囲気中急速熱処理した試料表面のAFM像。
【図18】仮想Ge基板上に成長したGe1-xSnx層の試料断面構造。
【図19】仮想Ge基板上に成長したGe1-xSnx層の成長条件。
【図20】仮想Ge基板上へGe0.99Sn0.01層を1300nm成長させる過程におけるRHEEDパターン。(a)Si基板清浄表面、(b)Ge層成長直後、(c)仮想Ge基板清浄表面、(D)Ge0.99Sn0.01層200nm、(e)400nm、(f)600nm、(g)800nm、(h)1300nm成長後。
【図21】仮想Ge基板上へのGe0.99Sn0.01層1300nm成長直後の(a)断面TEM暗視野像、および(b)図21(a)中の丸印内の制限視野回折パターン。
【図22】仮想Ge基板上へ膜厚40nmのGe0.99Sn0.01層を成長させた(a)直後および(b)600℃、10分間のPDA処理を施した試料の断面TEM暗視野像。
【図23】仮想Ge基板上へ膜厚40nmのGe0.973Sn0.027層を成長させた(a)直後および(b)600℃、10分間のPDA処理を施した試料の断面TEM暗視野像。
【図24】仮想Ge基板上に膜厚210nmのGe0.978Sn0.022層を成長させた(a)直後および(b)600℃で10分間のPDA処理を施した試料の断面TEM暗視野像。
【図25】Ge0.978Sn0.022層を210nm成長させた直後試料の図24(a)で示したものと同じ領域を回折ベクトルg220で観察した断面TEM像。
【図26】仮想Ge基板上へ膜厚210nmのGe0.978Sn0.022層を成長させた(a)直後および(b)PDA処理後の試料の平面TEM像。
【図27】(a)仮想Ge基板上に膜厚40nmのGe0.99Sn0.01層を成長後、600℃で10分間のPDA処理を施した試料、および(b)仮想Ge基板上に膜厚40nmのGe0.973Sn0.027層を成長後、600℃で10分間のPDA処理を施した試料の平面TEM像。
【図28】仮想Ge基板上に膜厚40nmの(a)Ge0.99Sn0.01層および(b)Ge0.973Sn0.027層、および(c)膜厚210nmのGe0.978Sn0.022層を成長後、600℃、10分間のPDA処理を施した試料表面のAFM像
【図29】仮想Ge基板上に(a)膜厚40nmのGe0.942Sn0.058層、および(b)膜厚15nmのGe0.915Sn0.085層を成長後、600℃、10分間のPDA処理を施した試料の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)。
【図30】仮想Ge基板上に(a)膜厚40nmのGe0.942Sn0.058層、および(b)膜厚15nmのGe0.915Sn0.085層を成長後、600℃、10分間のPDA処理を施した試料の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg220)。
【図31】仮想Ge基板上に(a)膜厚40nmのGe0.942Sn0.058層、および(b)膜厚15nmのGe0.915Sn0.085層を成長後、600℃、10分間のPDA処理を施した試料のAFM像。
【図32】仮想Ge基板上に膜厚300nmのGe0.937Sn0.063層を300nm成長させた(a)直後、および(b)600℃、10分間のPDA処理を施した試料の断面TEM暗視野像
【図33】仮想Ge基板上に膜厚300nmのGe0.937Sn0.063層を300nm成長後、600℃、10分間のPDA処理を施した試料表面の(a)AFM像、および(b)SEM像。
【図34】仮想Ge基板上に膜厚300nmのGe0.937Sn0.063層を成長後、500℃、10分間PDA処理した試料の(a)SEM像、(b)断面TEM暗視野像、および(c)制限視野回折パターン。
【図35】仮想Ge基板上のGe0.978Sn0.022層の(a)成長直後および(b)600℃で10分間のPDA処理後のXRD−2DRSM測定結果。
【図36】仮想Ge基板上へ成長したGe1-xSnx層の成長直後、およびPDA処理後のドメインサイズ変化。
【図37】XRD−2DRSM法によって評価された、仮想Ge基板上にエピタキシャル成長したGe1-xSnx試料の成長直後およびPDA処理後のGeSn(224)回折ピーク位置。
【図38】仮想Ge基板およびバルクGe基板上へ成長したGe1-xSnx層の、成長直後およびPDA処理前後のGe1-xSnx層の[110]方向に対する歪緩和率。
【図39】仮想Ge基板上に成長したGe1-xSnx層の600℃、10分間PDA処理後の(110)面間隔およびGeに対して印加できる歪量。
【図40】仮想Ge基板上に作製した、歪Ge/歪緩和Ge1-xSnx層の試料構造。
【図41】(a)Ge(24nm)/Ge0.922Sn0.078(24nm)/仮想Ge基板試料の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg220)。(b)同試料の同観察領域における断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)。(c)同試料の別領域の断面TEM暗視野像(回折波ベクトルg004)。
【図42】Ge(24nm)/Ge0.922Sn0.078(24nm)/仮想Ge基板試料のXRD−2DRSM測定結果。
【図43】図42中の点線上の回折プロファイル。図中の点線はピーク分離により評価した仮想Ge基板領域および歪Ge層に起因するプロファイルを示す。
【図44】仮想Ge基板上に形成したSn組成傾斜多段階Ge1-xSnx層および歪Ge層試料の断面構造。
【図45】(a)作製したSn組成傾斜多段階Ge1-xSnx層および歪Ge層試料の断面TEM像、および(b)その歪Ge/GeSn界面を拡大した原子分解能TEM像。
【図46】(a)第三段階のGe1-xSnx層成長直後の試料、および(b)Sn組成傾斜多段階Ge1-xSnx層上にGe層を成長した試料のGe(224)逆格子点近傍のXRD−2DRSM観察結果。
【図47】XRD−2DRSM法によって評価された歪Ge/Sn組成傾斜多段階Ge1-xSnx試料の(a)各段階の(224)回折ピーク位置、および(b)記号の説明および各Ge1-xSnxの各段階における歪緩和率。
【符号の説明】
【0091】
10:多層膜構造体
11:Si基板
12:歪緩和Ge層
13:歪緩和Ge1-xSnx
14:伸張歪Ge層
20:多層膜構造体
21:Si基板
22:歪緩和Ge層
23:歪緩和Ge1-xSnx層(Sn組成1.0%)
24:歪緩和Ge1-xSnx層(Sn組成3.0%)
25:歪緩和Ge1-xSnx層(Sn組成6.7%)
26:伸張歪Ge層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子用の多層膜構造体の形成方法であって、
シリコン基板の上方にゲルマニウム層を形成する工程と、
その上方にゲルマニウム錫混晶層を形成する工程と、
その上方に伸張歪ゲルマニウム層を形成する工程を含むこと特徴とする多層膜構造体の形成方法。
【請求項2】
前記ゲルマニウム錫混晶層の錫組成が4.5%以上であることを特徴とする請求項1に記載の多層膜構造体の形成方法。
【請求項3】
前記伸張歪ゲルマニウム層の基板面内方向の(110)面の格子定数が0.4015nm以上の値を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の多層膜構造体の形成方法。
【請求項4】
前記ゲルマニウム層から前記ゲルマニウム錫混晶層へ連続する貫通転位を、それらの界面で伝播させて、ミスフィット転位を形成することで、前記ゲルマニウム錫混晶層内の歪緩和を促進することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の多層膜構造体の形成方法。
【請求項5】
半導体素子用の多層膜構造体の形成方法であって、
シリコン基板の上方にゲルマニウム層を形成する工程と、
その上方に錫組成の異なる複数のゲルマニウム錫混晶層からなる多層構造を順次形成する工程と、
その上方に伸張歪ゲルマニウム層を形成する工程を含むことを特徴とする多層膜構造体の形成方法。
【請求項6】
上記ゲルマニウム層およびゲルマニウム錫混晶層からなる多層構造における各層の間で生じる結晶格子のミスフィット量が、0.37%よりも小さいことを特徴とする、請求項5に記載の多層膜構造体の形成方法。
【請求項7】
前記ゲルマニウム錫混晶層の錫組成が4.5%以上であることを特徴とする請求項5または6に記載の多層膜構造体の形成方法。
【請求項8】
前記伸張歪ゲルマニウム層の基板面内方向の(110)面の格子定数が0.4015nm以上の値を有することを特徴とする、請求項5乃至7のいずれか一に記載の多層膜構造体の形成方法。
【請求項9】
前記ゲルマニウム層から前記ゲルマニウム錫混晶層へ連続する貫通転位を、それらの界面で伝播させて、ミスフィット転位を形成することで、前記ゲルマニウム錫混晶層内の歪緩和を促進することを特徴とする請求項5乃至8のいずれか一に記載の多層膜構造体の形成方法。
【請求項10】
半導体素子用の多層膜構造体であって、
シリコン基板の上方に形成されたゲルマニウム層と、
その上方に形成されたゲルマニウム錫混晶層と、
その上方に形成された伸張歪ゲルマニウム層を含むことを特徴とする多層膜構造体。
【請求項11】
前記ゲルマニウム錫混晶層中の錫組成が4.5%以上であることを特徴とする請求項10に記載の多層膜構造体。
【請求項12】
前記伸張歪ゲルマニウム層の基板面内方向の(110)面の格子定数が0.4015nm以上の値を有することを特徴とする、請求項10または11に記載の多層膜構造体。
【請求項13】
半導体素子用の多層膜構造体であって、
シリコン基板の上方に形成されたゲルマニウム層と、
その上方に形成された錫組成の異なる複数のゲルマニウム錫混晶層からなる多層構造と、
その上方に形成された伸張歪ゲルマニウム層とを備えることを特徴とする多層膜構造体。
【請求項14】
上記ゲルマニウム層およびゲルマニウム錫混晶層からなる多層構造における各層の間で生じる結晶格子のミスフィット量が、0.37%よりも小さいことを特徴とする、請求項13に記載の多層膜構造体。
【請求項15】
前記ゲルマニウム錫混晶層の錫組成が4.5%以上であることを特徴とする請求項13または14に記載の多層膜構造体。
【請求項16】
前記伸張歪ゲルマニウム層の基板面内方向の(110)面の格子定数が0.4015nm以上の値を有することを特徴とする、請求項13乃至15のいずれか一に記載の多層膜構造体。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図14】
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【図18】
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【図19】
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【図36】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図43】
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【図44】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図37】
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【図41】
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【図42】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【公開番号】特開2008−288395(P2008−288395A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132189(P2007−132189)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】