説明

低炭素マルテンサイトステンレス鋼製のプラスチック射出成形金型

【解決手段】フラットスクリーンTV等の電子表示画面のパネル又はフレームといった1つ以上の物品のプラスチック射出成形用に構成された金型キャビティを有する型板は、C:約0.05〜0.07重量%、Mn:約1.15〜1.45重量%、P:最大0.025重量%、S:最大0.008重量%、Si:約0.3〜0.6重量%、Cr:約12.15〜12.65重量%、Ni:0〜0.5重量%、Cu:約0.45〜0.65重量%、V:約0.02〜0.08重量%、N:約0.04〜0.08重量%、を含み、残部がFe及び微量の通常存在する元素である、低炭素マルテンサイトステンレス鋼合金から形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック射出成形金型に使用する低炭素マルテンサイトステンレス鋼、その製造方法、及び金型を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック射出成形に使用する金型は、互いに整合させて成形表面を形成する鋼板群を備える場合がある。こうした板は、正確な寸法及び表面仕上げを有するように6面板から機械加工される。
【発明の概要】
【0003】
フラットスクリーンテレビ、コンピュータモニタ、ラップトップ等の電子表示画面のパネル及びフレーム用、或いは高度に研磨された金型表面を必要とする他の用途向けに成形された、高度に研磨された金型表面を有した型板を備えるプラスチック射出成形用の金型を開示する。金型は、重量%で、C:約0.05〜0.07%、Mn:約1.15〜1.45%、P:約0〜0.025%、S:約0〜0.008%、Si:約0.3〜0.6%、Cr:約12.15〜12.65%、Ni:約0〜0.5%、Cu:約0.45〜0.65%、V:約0.02〜0.08%、N:約0.04〜0.08%を含み、残部がFe及び微量の不純物である、低炭素マルテンサイトステンレス鋼合金から形成される。
【0004】
更に、プラスチック射出成形用の金型を製造する処理方法を開示する。処理方法は、Mn:約1.15〜1.45重量%、P:最大0.025重量%、Si:約0.3〜0.6重量%、Cr:約12.15〜12.65重量%、Ni:最大0.5重量%、Cu:約0.45〜0.65重量%、V:約0.02〜0.08重量%、N:約0.04〜0.08重量%、S:最大0.008重量%、C:約0.05〜0.07重量%を含み、残部がFe及び残留不純物である合金鋼を、2800°Fを上回る温度で鋳造するステップと、約1700〜2250°Fの温度範囲で合金鋼を熱間加工するステップと、約38〜42HRCの硬度を有する板にするために熱処理を行って又は行わずに、合金鋼を熱間矯正し、自由空気冷却により室温まで冷却するステップと、板に金型キャビティを機械加工するステップと、金型表面を研磨して鏡面仕上げにするステップとを備える。金型表面は、フラットスクリーンテレビ、コンピュータモニタ、ラップトップ等の電子表示画面のパネル及びフレーム等の物品、或いは高度研磨面を必要とする他の物品を成型するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】一対の金型表面を含むプラスチック射出用具を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
プラスチック射出成形では、金型を使用して、プラスチック射出成形品の大量生産を可能にする。金型は、通常、2枚以上の型板群である。型板の製造には、平行な主表面(複数)と、平行な上面及び底面と、平行な左面及び右面とを有する6面板を機械加工することが含まれる。材料の無駄を最小にするため、必要な6面の機械加工の量が最小となる板材料から型板を作成することが望ましい。更に、良好な研磨性を示し、重加工後に寸法安定性を維持する材料から型板を作成することが望ましい。
【0007】
金型キャビティ14を画成する一対の型板とマニホルド16とを有するプラスチック射出成形金型10を図1に示す。マニホルド16は、マニホルド16をプラスチック射出成形金型10において使用し得るように、湯口18又は湯道20を含み得る。型板は、低炭素マルテンサイトステンレス鋼製である。矩形の金型キャビティを図示したが、型板は、任意の所望の形状である1つ以上の金型キャビティを有することができる。
【0008】
好適な実施形態において、ステンレス鋼は、LCD及びプラズマTV等のフラットスクリーンテレビ(TV)、コンピュータモニタ、ラップトップといった、電子表示画面のパネル及びフレームを製造するためのプラスチック射出成形金型の製造を対象としたものである。こうしたパネルに必要な金型のサイズは、厚さ200mmまで、幅1.5m以上までの範囲とすることができる。本明細書に記載のステンレス鋼は、フラットスクリーンTVのパネル又はフレーム等の1つ以上の物品を成形するための形状としたキャビティを有する金型表面を形成するために使用することができる。
【0009】
ステンレス鋼は、後述するように、硬度、延性、表面品質(即ち、良好な研磨性及び一貫した表面仕上げ)、被削性、耐食性、高度な寸法安定性、熱間加工性、及び/又は時効硬化性等、様々な特性をもたらす組成を有することが好ましい。
【0010】
1実施形態において、電子表示画面のパネル及びフレーム等の物品のプラスチック射出成形用の型板は、鋳造し加工を施すことにより、フェライト相が10%未満であるマルテンサイト微細構造と表1に示したような化学組成とを有する板形状にすることが可能な、低炭素合金鋼から作成される。合金は、好ましくは、電気炉で溶解され、更にAOD(アルゴン酸素脱炭法)、VOD、或いは低炭素ステンレス鋼を製造するのに適した他の処理により処理される。合金の組成は、好ましくは、硫黄含有量が低くなるように調節され、組成範囲は下の表1に全て重量%で示す。
【0011】
【表1】

【0012】
表1において、「N/A」は、添加されないことを意味し、「LAP」は、可能な限り低くの意味である。しかしながら、表2に全て重量%で記載したように、合金には様々な付加的元素が存在可能である。
【0013】
【表2】

【0014】
合金の残部は、80重量%以上のFe、及び材料の溶解中に不可避的に含まれる不純物及びトランプ元素である。分析における意図的に含めた元素のそれぞれの機能は次の通りである。
【0015】
炭素:最大0.07%
炭素は、クロムと結合して炭化物として析出し、耐食性に悪影響を与えるクロムの実効レベルを激減させる。炭素レベルは、達成可能な硬度を劇的に制御する。グレードの炭素レベルを可能な限り低く維持しつつも、設計硬度レベルを達成することで、最低限のクロムの添加により耐食性の改善が促進される。0.07%以下の炭素含有量は、グレードの腐食特性を低下させることなく、十分な焼入性をもたらすため、このように指定される。好適な炭素含有量は、約0.06%である。
【0016】
マンガン:1.15〜1.45%
マンガンは、補強剤、脱酸素剤として機能すると共に、オーステナイト安定剤としても機能してフェライトの形成を防止する。マンガンの上限1.45%は、過剰なマンガンによる脆化効果を抑制するために指定される。1.15〜1.45%の指定範囲は、グレードの特性に全く悪影響を与えることなく所望の効果を全てもたらす。
【0017】
リン:最大0.025%
リンは鋼の焼入性を増加させるが、リンの意図的に添加されない。しかしながら、リンは、0.025%までの量で許容される。
【0018】
硫黄:最大0.008%
硫黄は、被削性の改善を促進するために鋼に対して最も広範に使用される添加物だが、合金では、硫黄は最小限に抑え、鋼の表面特性を改善することにより、金型表面により作成された射出成形プラスチック部品に所望の表面仕上げを提供する。硫黄は、ASTM E 45−05,Method Aにより検出可能な硫化物を回避する上で十分な低さにすることが好ましい。
【0019】
クロム:12.15〜12.65%
クロムは、焼入性を高める役割を果たし、空気冷却により厚い断面において所望のマルテンサイト組織へ容易に転換する材料を可能にする。最小12.15%のクロム含有量は、グレードにおける所望の耐食性を与えるために提供される。クロムのレベルを増加させると、特に、炭素含有量が低いこのグレードでは、望ましくないフェライト相の形成が促進される。そのため、クロムは、最小12.15%〜最大12.65%の範囲で制御される。
【0020】
ケイ素:0.3〜0.6%
ケイ素は、溶融金属内で主脱酸素剤として機能することから必要となる。しかしながら、ケイ素のレベルを高めることで、フェライト及び望ましくないスラグの含有が促進される。適切な脱酸素作用は、最小0.3%〜最大0.6%の範囲で存在するケイ素により生じるため、合金内ではこの含有量に制限される。
【0021】
銅:0.45〜0.65%
銅は、固溶体として金属母材中で完全に溶解可能である。銅の存在は、耐食性及び伝導性を向上させる。加えて、銅により、合金は、明らかな歪み又は亀裂の問題なく、機械加工前後の何れかに、材料の強度レベルを高めるために使用可能な低温時効処理に反応可能となる。銅のレベルが指定より低いと、所望の効果が減少し、銅のレベルが高い場合には、熱間加工の問題が助長される。0.45〜0.65%の範囲は、悪影響なく所望の結果をもたらすことが分かっていることから、このように指定されている。
【0022】
窒素:0.04〜0.08%
窒素は、材料の耐食性に寄与すると共に、オーステナイト相を安定化させて、焼入性を向上させ、フェライト相の発生を減少させる機能を果たす。窒素は、時効及び焼き戻し中にクロムを多く含む窒化物粒子を形成する傾向にある。こうした粒子は、耐食性の観点からクロムの有効性を減少させる。そのため、添加する窒素の量は、指定の0.04〜0.08%以内で適度に維持される。
【0023】
バナジウム:0.02〜0.08%
バナジウムは、許容不可能な低延性を助長する結晶粒粗大化なしに材料を生成する上で必要となる粒成長の制御において非常に効果的な、安定した析出炭化物を形成する。フェライト相の形成を増加させる傾向から、更に、材料内の低炭素レベルを考慮して、バナジウムのレベルは、0.02〜0.08%の指定範囲において十分且つ有用となる。
【0024】
硬度
ステンレス鋼合金は、鋳造、熱間加工、空気冷却、及び時効硬化を施すことにより、約38〜42HRCの範囲のロックウェルC硬さを有するプリハードンステンレス鋼を提供することができる。硬度を高めるために、延性、靱性、平坦性、及び被削性を結果的に喪失させる焼入れ及び焼戻しによる熱処理が必要となる鋼と比較して、プリハードンステンレス鋼は、熱間加工後、所望の硬度で、空気冷却及び時効硬化状態において提供することができるため、焼きならし、焼入れ、焼戻し熱処理及び平坦化等の追加処理工程の必要性が回避される。
【0025】
表面仕上げ
鋼内の硫黄を低減又は除去して、フラットスクリーンTV等の電子表示画面の射出成形パネル又はフレームといった物品の成形に使用される金型表面の表面仕上げを改善することが望ましい。こうしたパネル及びフレーム用に使用する金型表面では、黒色又は銀色の高光沢仕上げのパネル又はフレームを射出成形することが望ましい。こうした仕上げを達成するために、金型表面を研磨して鏡面仕上げにする必要がある。そのため、硫化物、酸化物ストリンガ、ケイ酸塩、及び球状酸化物の形成を最小化することが望ましい。
【0026】
鋼の非金属介在物含有量は、一般に、50視野の平均を使用する標準化法ASTM E 45−05,Method Aにより測定される。しかしながら、高度研磨面を有する金型部品へと処理されるべき鋼の全てのヒートで所望の研磨性を提供するために、非金属介在物含有量は、ASTM E 45−05,Method Aの評価体系に従って、下の表3の限度を満たすように慎重に制御される。
【0027】
【表3】

【0028】
表3に記載した介在物のサイズは、試験される任意の鋼板からの任意の1試料において許容可能な最大値である。1個の大きなスラグ介在物は、高度に研磨された金型表面上に目に見えるピットマークを生じる恐れがあるため特に有害となる。
【0029】
特定の実施形態において、鋼は、表4に記載したものを最大値とする介在物サイズを達成するように処理される。
【0030】
【表4】

【0031】
製造の詳細
型板は、装入材料の調製により開始される処理において、合金鋼から形成し得る。装入材料は、上述した元素を使用して、指定した化学組成の範囲において調製し得る。装入材料は、合金鋼の製造中の酸化の結果としての溶解損失を埋めるために、特定の元素について追加量を含んでもよい。
【0032】
調製後、装入材料は、鉄及び非鉄金属を製造する際に使用するタイプの従来型電気炉等の電気炉に導入することが好ましい。装入材料の溶融は、炉内部へエネルギを供給することにより達成し得る。電気エネルギは、炉内部へ黒鉛電極を介して供給し得る。装入材料の溶融に続いて、溶融材料は、取鍋精錬により精錬し得る。こうした取鍋精錬は、不純物を除去し、溶融材料を均質化する役割を果たす。加えて、取鍋精錬により、最終製品の組成における精度の向上を通して、最終製品の化学的及び機械的特性を比較的厳格に制御可能となる。加えて、取鍋精錬は、介在物の形態に対する制御により比較的高度な清浄度を可能とする。エレクトロスラグ再溶解(ESR)、真空アーク再溶融(VAR)等による再溶融を用いて、所望の清浄度及び研磨性を達成することもできる。
【0033】
取鍋精錬処理中、取鍋は、溶融又は融解材料を電気炉から精錬又は鋳込みステーションへ移送するために使用される。取鍋精錬は、取鍋を熱源と共に使用して、電気炉から出湯させた溶融材料を正確な温度まで加熱することを含む。取鍋製錬工程は、元素が上述した範囲で存在するように、合金鋼の組成を所望の化学組成に精錬する機会を提供する。
【0034】
取鍋精錬工程中には、不純物を除去するために、溶融材料に化学物質を添加してよい。必要に応じて、合金鋼の機械的特性を高めるために、合金元素を添加してよい。加えて、取鍋精錬は、材料の均一な特徴又は性質を達成するために、溶融材料の温度及び組成の均質化を支援し得る撹拌動作を含んでもよい。スラグを更に取鍋精錬処理において溶融材料から除去してもよい。
【0035】
溶融材料は、ガスを除去するために真空脱ガス処理することが好ましい。真空脱ガス処理中、溶融材料は、溶融材料中の一酸化炭素、二酸化炭素、及び窒素ガスの残留レベルを低減又は除去するために真空状態とする脱ガス真空チャンバ内に配置される。加えて、真空脱ガス処理により、溶融材料から水素が拡散及び分離し、完成した合金鋼において水素誘起欠陥が防止される。酸素、水素、及び窒素含有ガスは、合金鋼の機械的特性を改善するために鋼を脱ガス装置の真空チャンバに連続的に循環させる際に、真空脱ガス装置から放出される。
【0036】
真空脱ガス処理に続いて、溶融材料は、アルゴンガスシールドを使用して鋳型へ連続的な鋳込み又は下注を行い、固体鋳塊を形成することができる(例えば、5〜16メトリックトンの鋳塊)。溶融材料の注入中は、アルゴンガスを使用して、溶融材料を空気汚染から遮蔽し、溶融材料を鋳型へ注入し得る非酸化環境を形成する。連続鋳造は、厚さ4インチ以下の板等の軽量板にとって特に有用となる経済的な処理である。鋳造スラブ又は鋳塊は、その後、熱間加工のために再加熱し、所望の形状にする。熱間圧延及び/又は鍛造を、初期温度1700〜2250°F及び仕上温度1560〜1700°Fで実施することができる。例えば、鋳塊は、Quatro(4段)圧延機において所望の厚さ及び幅の板へ熱間圧延することが可能であり、材料は、幅1525mmで90mm又は120mmのゲージへ熱間圧延し得る。90mmゲージ板は、5:1の圧下率を用いて、120mmゲージ板は、4:1の圧下率を用いて、最終的に型板を製造し得る板構成での熱間圧延が可能となる。
【0037】
高温のうちに板を平坦にするため、加工直後に板を熱間矯正することが好ましい。熱間圧延機又は熱間鍛造機上にあるうちに、板を熱間矯正することが好ましい。熱間加工した板は、熱間矯正を実施する時には、1500°Fを上回る温度に維持することが好ましい。熱間矯正により生じる材料の優れた平坦性により、平坦且つ平行な機械加工面を製造するために表面から除去する必要がある材料の量が最小化される。例えば、熱間圧延した板は、上4/下5のレベラローラにて矯正することができる。
【0038】
熱間矯正に引き続き、熱間矯正した板の持ち上げ又は移動を行う前に、鋼冷却床等の剛体の水平冷却テーブル上において、600°Fを下回る温度まで、板を自由空気冷却することが好ましい。板は、微細構造の実質的に完全な変態が生じるまで空気冷却する。好ましくは、空気冷却した板は、空気冷却工程後、機械的に平坦化しない。例えば、ローラ矯正した板は、レベラローラ機械の出力位置にあるランアウトテーブル上で空気冷却することができる。熱間矯正と自由空気冷却との組み合わせにより、自然に平坦となり波形又は皺のない材料が生成される。加えて、熱間矯正及び空気冷却により、板製品に通常施される低温矯正及び平坦化動作に一般的に伴う残留曲げ応力の形成が除去される。
【0039】
熱間加工のまま空気冷却した鋼は、プラスチック射出成形金型に必要なものより僅かに硬くなり得るため、応力除去熱処理又は焼戻しにより硬度を調整してもよい。例えば、450〜460°Fの低温応力除去処理により、圧延したままの硬度を変化させることなく、延性を改善することができる。こうした任意の焼戻しは、金属表面での重度のスケーリングの形成につながる(焼きならし及び焼き入れのような)高温を必要としないという利点を有する。更に、焼戻し工程では、最初の熱間加工処理から材料に残る場合がある残留冷却応力も緩和又は除去される。必要に応じて、鋼には、700〜1025°Fでの時効処理、又は1200〜1300°Fでの過剰焼戻し処理を施すことができる。熱処理では、高温での加熱及び焼き入れの必要性が回避される。したがって、熱間加工状態の板は、熱間加工(圧延及び/又は鍛造)後の応力除去(焼戻し)熱処理の有無にかかわらず、約38〜約42HRCの硬度を与えることが可能な非焼入れ鋼となる。
【0040】
合金鋼は、熱間加工板の全方向において10%を超えて変化しない均一な硬度を有することが好ましく、より好ましくは、硬度は5%を超えて変化しない。例えば、40HRCの板が望ましい場合、熱間加工及び焼戻しを施した板の全ての部分は、38〜42HRC、好ましくは39〜41HRCの硬度を有する。こうした均一な硬度により、板の機械加工中に高い工具速度及び/又は高い工具送り量を使用する際に有害となるハード及びソフトスポットが回避される。
【0041】
所望の表面品質を確保するために、板を目視検査すると共に、超音波試験により内部の品質を判定する。表面及び内部の品質の問題が見つからない場合、板を鋸により切り取り、上部、底部、及び側部の不要部分を除去する。板は、時効硬化処理を板に施して、或いは施すことなく、型板へ処理することができる。
【0042】
図1を参照すると、マニホルド16に接続される嵌合型板12を有するプラスチック射出成形金型10の例を示している。図1において確認できるように、型板12のそれぞれは、半分のキャビティ14を含む。嵌合時、型板12は、フラットスクリーンTV等の電子ディスプレイのパネル又はフレームといった所望の物品の形状である金型キャビティを形成する。プラスチック製品の成形を準備する際には、型板12を嵌合させ、マニホルド16を、嵌合させたそれぞれの型板12に固定する。マニホルド16に形成した湯口18及び湯道20により、溶融プラスチックを金型キャビティ内へ注入することが可能となる。型板12を嵌合させ、嵌合させたそれぞれの型板12にマニホルド16を固定している間、及びプラスチック射出成形金型10の使用中には、表面22が撓むことなく、常に平行状態を維持することが不可欠となる。合金鋼から型板を製造する上述した処理は、大量の材料除去の後でも材料の撓み又は歪みが最小化されるような、良好な寸法安定性を示す型板をもたらすという利点を有する。
【0043】
合金鋼の化学組成及び製造方法は、超音波検査承認基準を満たすことが可能な材料をもたらす。こうした超音波検査は、合金鋼材料の表面及び表面下の欠陥を検出するために使用し得る。こうした欠陥には、亀裂、収縮、空洞、薄片、細孔、剥離、及び多孔性が含まれる場合がある。上述した合金鋼は、5/64”平底穴について超音波検査承認基準を実質的に満たすことが可能である。
【0044】
処理体系の1例において、合金の熱間加工条件は、1700〜2250°Fまでの加熱と、断面へ「浸透」させるのに十分な長さの保持と、その後の圧延又は鍛造とを含む。圧延又は鍛造は、材料温度が1700°Fまで加工したときに中断する。
【0045】
合金の板は、圧延状態及び熱間矯正による平坦性を示す(この熱間矯正は、圧延機でのインライン工程であり、圧延機の最終減速パスでの数分間以内に行われる)。板は、亀裂の危険性なく冷却させることが可能であるため、持ち上げる前にそのまま剛体となるまで冷却され(弛み及び曲げを防止し)、12フィートの範囲で1/4”より良好な平坦性を示す。板は、ホットミルレベラでの矯正に対して殆ど抵抗を示さず、波形及び波紋を効果的に除去することができる。
【0046】
被削性を評価する試験では、フルサイズの板を、標準のCNCプログラム及びプレートサイズを使用して機械加工し、フライス加工、ポケット加工、穴加工、及びタップ加工時の評価を行った。材料は十分に機械加工され、標準の工具に対する問題は存在しなかった。加えて、115mm×115mmの断面を有する試験ブロックの研削、ラッピング、及び研磨を行い、SP1 A2仕上げを達成する材料の能力を評価した。達成された仕上げは、SP1 A2と同等以上となった。
【0047】
機械的試験を実施して、合金組成の例の硬度、引張、及び衝撃特性を判定した。合金は、少なくとも115ksiの2%降伏強度と、少なくとも145ksiの引張強度と、少なくとも10%の2インチ伸び率(elongation in two inches)と、少なくとも30%の断面減少率とを示すことが好ましい。表1に記載した組成を有する板の機械的試験の結果を下の表5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
合金の熱伝導性は、対象とする用途にとって十分である。
【0050】
好適な実施形態は、単に例示的なものであり、決して限定的と見なされるべきではない。本発明の範囲は、上述した説明ではなく、添付特許請求の範囲に記載されており、特許請求の範囲に含まれる全ての変形及び等価物は、本発明の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子表示画面のフレーム又はパネル等の物品用に成形された、高度に研磨された金型表面を有した少なくとも2枚の型板を備えるプラスチック射出成形用の金型であって、前記型板のそれぞれは、重量%で、
C:約0.05〜0.07%、
Mn:約1.15〜1.45%、
P:約0〜0.025%、
S:約0〜0.008%、
Si:約0.3〜0.6%、
Cr:約12.15〜12.65%、
Ni:約0〜0.5%、
Cu:約0.45〜0.65%、
V:約0.02〜0.08%、及び、
N:約0.04〜0.08%を含み、
残部がFe及び微量の不純物である、低炭素マルテンサイトステンレス鋼合金から形成される、金型。
【請求項2】
請求項1記載の型板であって、
前記合金は、少なくとも115ksiの2%降伏強度及び少なくとも145ksiの最大抗張力を有する、型板。
【請求項3】
請求項1記載の型板であって、
前記合金は、少なくとも10%の2インチ伸び率(elongation in two inches)及び少なくとも30%の断面減少率を有する、型板。
【請求項4】
請求項1記載の型板であって、
前記合金は、38〜42HRCの範囲内の硬度を有する、型板。
【請求項5】
請求項1記載の型板であって、
前記合金は、0.25%以下のMoと、0.05%以下のCbと、0.05%以下のTiと、0.20%以下のCoと、0.05%以下のAlと、0.03%以下のSnと、0.15%以下のWとを有する、型板。
【請求項6】
請求項1記載の型板であって、
前記合金は、最大10重量%のフェライト相を含む、型板。
【請求項7】
請求項1記載の型板であって、
前記合金は、重量%で0.010%までの酸素を含む、型板。
【請求項8】
請求項1記載の型板であって、
前記型板のそれぞれは、金型フレーム及び金型キャビティの組み合わせである、型板。
【請求項9】
プラスチック射出成形型板の製造における使用に適した、圧延のまま空気冷却し、任意に時効硬化させた状態にある低炭素マルテンサイトステンレス鋼合金であって、前記合金は、Mn:約1.15〜1.45重量%、P:最大0.025重量%、Si:約0.3〜0.6重量%、Cr:約12.15〜12.65重量%、Ni:最大0.5重量%、Cu:約0.45〜0.65重量%、V:約0.02〜0.08重量%、N:約0.04〜0.08重量%、S:最大0.008重量%、C:0.05〜0.07重量%を含み、残部がFe及び残留不純物であり、38〜42HRCの硬度を有する、合金。
【請求項10】
請求項9記載の合金であって、
前記合金は、0.25%以下のMoと、0.05%以下のCbと、0.05%以下のTiと、0.20%以下のCoと、0.05%以下のAlと、0.03%以下のSnと、0.15%以下のWとを有する、合金。
【請求項11】
請求項9記載の合金であって、
前記合金は、最大10重量%のフェライト相を含む、合金。
【請求項12】
プラスチック射出成形用の型板を製造する処理方法であって、
Mn:約1.15〜1.45重量%、P:最大0.025重量%、Si:約0.3〜0.6重量%、Cr:約12.15〜12.65重量%、Ni:最大0.5重量%、Cu:約0.45〜0.65重量%、V:約0.02〜0.08重量%、N:約0.04〜0.08重量%、S:最大0.008重量%、C:約0.05〜0.07重量%を含み、残部がFe及び残留不純物である合金鋼を、2800°F以上の温度で鋳造するステップと、
約1700〜2250°Fの温度範囲内で前記合金鋼を熱間加工するステップと、
約38〜42HRCの硬度を有する板にするために、前記合金鋼を自由空気冷却により室温まで冷却するステップと、
1つ以上の物品のプラスチック射出成形用に構成された金型キャビティを前記板に機械加工するステップと、
前記金型キャビティ表面を研磨して鏡面仕上げにするステップと、を備える処理方法。
【請求項13】
請求項12記載の処理方法であって、
前記合金鋼を熱間加工する前記ステップは、前記合金鋼を圧延又は鍛造するステップを含む、処理方法。
【請求項14】
請求項13記載の処理方法であって、
更に、前記圧延又は鍛造終了後に、前記合金鋼を熱間矯正することを備える、処理方法。
【請求項15】
請求項12記載の処理方法であって、
更に、前記板を時効硬化させることを備える、処理方法。
【請求項16】
請求項12記載の処理方法であって、
装入材料を調製することと、前記装入材料を電気炉内で溶融させることと、不純物を除去し、前記溶融材料を均質化するために前記溶融材料の取鍋精錬を行うことと、真空脱ガス処理により前記溶融材料からガスを除去することと、前記溶融材料の鋳型へのアルゴンシールド注入を行い、アルゴンシールドを使用して熱間圧延又は熱間鍛造機において前記鋳造合金鋼を成形することと、圧延又は鍛造後に前記合金鋼を熱間矯正することと、前記合金鋼を自由空気冷却により約600°F未満の温度まで冷却することと、を備える、処理方法。
【請求項17】
請求項12記載の処理方法であって、
更に、硬度を少なくとも2HRC低下させるために、前記板の焼戻しを行うことを備える、処理方法。
【請求項18】
請求項12記載の処理方法であって、
前記合金鋼は、前記焼戻し及び空気冷却した板を切削加工することにより平行な上面及び底面と、平行な左面及び右面と、平行な前面及び後面とを有する板として形成され、前記切削加工した板は、ポケット、ピン、及び/又は整合穴を有する完成型板として形成される、処理方法。
【請求項19】
請求項1の型板を使用してプラスチック射出成形品を形成する方法であって、前記型板を嵌合して金型キャビティを形成することと、前記金型キャビティに溶融プラスチックを注入することと、を備える方法。
【請求項20】
請求項19記載の方法であって、
前記金型キャビティからフラットスクリーンテレビのフロントフレームが取り出される、方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−528943(P2012−528943A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513938(P2012−513938)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/001628
【国際公開番号】WO2010/141095
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(507305956)エドロ・スペシャルティ・スティールズ・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】