説明

低線熱膨張係数を有するポリエステルイミドおよびその前駆体、ならびにこれらの製造方法

【課題】本発明は低線熱膨張係数、高ガラス転移温度、低吸水率、各種用途に十分な膜靭性、およびエッチング特性を有する、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜等として有益な、ポリエステルイミドとその前駆体およびこれらの製造方法を提供するものである。
【解決手段】式(2):


(式中、XおよびYは、それぞれ式(1)と同じである)で表される反復単位からなる、ポリエステルイミド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低線熱膨張係数を有するポリエステルイミドおよびその前駆体、ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、フレキシブルプリント配線回路用基板、テープオートメーションボンディング用基材、半導体素子の保護膜、集積回路の層間絶縁膜等、様々な電子デバイスに現在広く利用されている。ポリイミドはまた製造方法の簡便さ、高い膜純度、物性改良のしやすさの点で、非常に有用な材料であり、近年様々な用途毎に適した機能性ポリイミドの材料設計がなされている。
【0003】
多くのポリイミドは有機溶媒に不溶で、ガラス転移温度以上でも溶融しないため、ポリイミドそのものを成形加工することは通常容易ではない。そのためポリイミドは一般に、無水ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンとをN,N−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性有機溶媒中で等モル反応させて、先ず高重合度のポリイミド前駆体を重合し、この溶液を膜などに成形し250℃ないし350℃で加熱脱水閉環(イミド化)して製膜される。
【0004】
ポリイミド/金属基板積層体をイミド化温度から室温へ冷却する過程で発生する熱応力は、しばしばカーリング、膜の剥離、割れ等の深刻な問題を引き起こす。最近では電子回路の高密度化に伴い、多層配線基板が採用されるようになってきたが、たとえ膜の剥離や割れにまで至らなくても多層基板における応力の残留はデバイスの信頼性を著しく低下させる。
【0005】
熱応力低減の方策として、絶縁膜であるポリイミド自身を低熱膨張化することが有効である。殆どのポリイミドでは線熱膨張係数が50〜100ppm/Kの範囲にあり、金属基板、例えば銅の線熱膨張係数17ppm/Kよりもはるかに大きいため、銅の値に近い、およそ20ppm/K以下を示す低熱膨張性ポリイミドの研究開発が行われている。
【0006】
ポリイミドの低熱膨張化には一般に、その主鎖構造が直線的でしかも内部回転が束縛され、剛直であることが必要条件であると報告されている(例えば、非特許文献1参照)。無水ピロメリット酸と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルより得られるポリイミドは主鎖中に存在するエーテル結合により高い膜靭性を示すが、線熱膨張係数は40〜50ppm/Kと高く、低熱膨張特性を示さない。
【0007】
現在実用的な低熱膨張性ポリイミド材料としては3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンから形成されるポリイミドが最もよく知られている。このポリイミド膜は、膜厚や作製条件にもよるが、5〜10ppm/Kと非常に低い線熱膨張係数を示すことが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、低線熱膨張係数を示すポリイミドは例外なく剛直で直線的な主鎖構造を有しているため、その殆どが有機溶媒に不溶である。従ってポリイミド膜形成には、溶媒に可溶なポリイミド前駆体の段階で製膜した後、高温での加熱硬化工程を必要とする。
【0009】
一方、ポリイミドが有機溶媒に可溶である場合、ポリイミド膜形成には、金属基板上にポリイミドの有機溶媒溶液(ワニス)を塗布後、熱イミド化温度よりずっと低い温度で溶媒を蒸発・乾燥するだけでよいため、金属基板/絶縁膜積層体における熱応力を低減することが可能である。
【0010】
加えて、ポリイミドは一般に吸水率が高いことが知られている。絶縁層における吸水は絶縁膜の寸法変化や電気特性の低下等の深刻な問題を引き起こす。低吸水率を実現するための分子設計として、ポリイミド骨格へのエステル結合の導入が有効であると報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0011】
また近年、特にマイクロプロセッサーの演算速度の高速化やクロック信号の立ち上がり時間の短縮化が情報処理・通信分野で重要な課題になってきているが、そのためには絶縁膜として使用されるポリイミド膜の誘電率を下げることが必要となる。また電気配線長の短縮のための高密度配線および多層基板化にとっても、絶縁膜の誘電率が低いほど絶縁層を薄くできる等の点で有利である。
【0012】
しかし、例えば先に述べた3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンから得られる上記のポリイミドは優れた低熱膨張特性を示すが、誘電率は3.5と高く、誘電率の点では不十分である。
【0013】
ポリイミドの低誘電率化および低吸水率化には、一般に骨格中へのフッ素置換基の導入が有効である(例えば、非特許文献4参照)。しかしながらフッ素化モノマーの使用はコストの点で不利である。また芳香族単位を脂環式単位に置き換えてπ電子を減少することも低誘電率化に有効な手段である(例えば、非特許文献5参照)。
【0014】
しかしながら、脂環式モノマーの使用は、しばしば重合時に重大な問題を引き起こす。脂環式ジアミンを用いた場合、重合初期に塩形成が起こり、重合反応の再現性を低下させるばかりか、極端な場合、重合が全く進行しない。実用上十分高い重合反応性を有する脂環式テトラカルボン酸二無水物は、その種類が非常に限られている。
【0015】
このように、低線熱膨張係数(20ppm/K)、低吸水性(1.0%以下)、且つ低誘電率(3.2以下)を保持しているポリイミドを得ることは分子設計上容易ではなく、コスト面で不利なフッ素化ポリイミドを除いて、このような要求特性を満足する実用的な材料は今のところ殆ど知られていない。ポリイミド以外の低誘電率高分子材料や無機材料も検討されているが、誘電率、耐熱性および靭性の点で要求特性が十分に満たされていないのが現状である。
【0016】
さらに近年、絶縁層としてのポリイミドにスルーホール形成や微細加工を施す目的で、ポリイミドあるいはその前駆体自身に感光性能を付与した感光性ポリイミドシステムが盛んに研究されている。一方、塩基を用いてポリイミドそのものにエッチングを施し、スルーホール形成等も行われている。しかしながら後者ではアルカリによるポリイミド膜のエッチング速度が通常遅いために、エッチング液はエタノールアミン等特殊な塩基に限られており、エタノールアミンを用いても全てのポリイミドに適用できるわけではない。
【0017】
したがって上記要求特性に加えて、水酸化カリウム水溶液等の汎用の塩基により容易にエッチングできれば、上記産業分野において極めて有益な材料を提供しうるが、そのような材料は知られていないのが現状である。
【0018】
【非特許文献1】Polymer, 28,228 (1987)
【非特許文献2】Macromolecules, 29, 7897(1996)
【非特許文献3】高分子討論会予稿集,53, 4115(2004)
【非特許文献4】Macromolecules, 24, 5001(1991)
【非特許文献5】Macromolecules, 32, 4933(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、低線熱膨張係数、高ガラス転移温度、低吸水率、各種用途に十分な膜靭性、およびエッチング特性を有する、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜、ならびにフレキシブルプリント配線基板、ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、および感光材料等として有益な、ポリエステルイミドとその前駆体およびこれらの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以上の問題を鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、本発明の式(2)で表される反復単位からなるポリエステルイミドおよびその前駆体が、上記産業分野において有益な材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
即ち本発明は以下に示すものである。
1.式(1):
【0022】
【化5】

【0023】
(式中、Xは、2価の芳香族基または脂環式基を表し、2価の基の結合位置関係は、パラ位またはそれに相当する関係にあり、Yは、炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはアルコキシ基を表し、Zは、水素原子、シリル基または炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表す)で表される反復単位からなる、ポリエステルイミド前駆体。
2.固有粘度が0.1〜8.0dL/gの範囲である、式(1)で表される反復単位からなる、ポリエステルイミド前駆体。
3.Xが、場合により1つ以上の炭素数1〜4個のアルキルで置換されている、1,4−フェニレン基である、式(1)で表される反復単位からなる、ポリエステルイミド前駆体。
4.式(2):
【0024】
【化6】

【0025】
(式中、XおよびYは、それぞれ式(1)と同じである)で表される反復単位からなる、ポリエステルイミド。
5.Xが、場合により1つ以上の炭素数1〜4個のアルキルで置換されている、1,4−フェニレン基である、式(2)で表される反復単位からなる、ポリエステルイミド。
6.式(1)のポリエステルイミド前駆体を、加熱あるいは脱水試薬を用いて環化反応(イミド化)させることを特徴とする、式(2)のポリエステルイミドの製造方法。
7.ポリエステルイミド前駆体の原料である、式(3):
【0026】
【化7】

【0027】
(式中、Xは、式(1)と同じである)
で表されるテトラカルボン酸二無水物と、式(4):
【0028】
【化8】

【0029】
(式中、Yは、式(1)と同じである)
で表されるジアミンとを、溶媒中、高温下で重縮合反応することを特徴とする、式(2)のポリエステルイミドの製造方法。
8.式(1)で表される反復単位からなるポリエステルイミド前駆体と、ジアゾナフトキノン系感光剤を含む、感光性樹脂組成物。
9.式(1)で表される反復単位からなるポリエステルイミド前駆体が、フッ素および/またはイミド基を含むジアミンから誘導される構成単位を含む、前記感光性樹脂組成物。
10.ポジ型感光性樹脂を用いたパターン形成方法であって、
(a)前記の感光性樹脂組成物の溶液を、基板に塗布し、乾燥させて感光性フィルムを得る工程
(b)前記(a)で得られたフィルムをフォトマスクを介して露光し、アルカリ水溶液で現像し、パターンを形成する工程、および
(c)得られたパターンを加熱あるいは脱水環化試薬を用いてイミド化する工程
を含むことを特徴とする、方法。
【発明の効果】
【0030】
一般に、ポリマーフィルムが十分な膜靭性を示すためには、ポリマー鎖同士の絡み合いが必要であり、絡み合いの程度はポリマーの重合度の増加と共に増加する。また、いくら高分子量であっても主鎖中に内部回転可能な屈曲結合を一切含んでいない場合、ポリマー鎖は絡み合うことができず、膜は脆弱になってしまう。ポリイミド骨格へのエーテル結合の過度の導入は膜靭性の向上に大きく寄与するが、その一方で、主鎖の剛直性や直線性の低下を招き、低熱膨張特性発現を妨げる恐れが生じる。
【0031】
本発明によれば、低線熱膨張係数、低吸水率、高ガラス転移温度、十分な膜靭性およびアルカリエッチング特性を有する樹脂を提供することができる。低熱膨張特性と膜靭性を両立させるため、本発明ではパラ−エステル結合に着目した。パラ−エステル結合はエーテル結合に比べて内部回転障壁が高く、コンホーメンション変化が比較的妨げられており、且つ主鎖にある程度の柔軟さも付与し、可撓性のフィルムを与えると考えられる。
【0032】
またエステル結合は、アミド結合やイミド結合よりも単位体積当たりの分極率が低いため、ポリイミドへのエステル結合の導入は低誘電率化にも有利である。一般にポリエステルが、ポリイミドやポリアミドに比べて低い吸水率を示す事実から考えて、エステル基導入は誘電率を大きく左右する吸着水量(吸水率)の低下にも寄与すると考えられる。
【0033】
また本発明のポリエステルイミドは、その反復単位にフッ素基を含有しないため、比較的高いガラス転移温度を維持することができる。一方、本発明のポリエステルイミド中のエステル結合は、スルーホール形成等の微細加工が必要な場合、加水分解によるアルカリエッチングを可能にする。
【0034】
本発明の式(2)で表される反復単位からなるポリエステルイミドにおいて、パラエステル結合は、テトラカルボン酸二無水物構造単位中のみならず、ジアミン構造単位中にも含まれるため、ポリマーとした際にパラエステル基が高濃度に含有されることになり、上記のようなパラエステル基導入の効果が高まることが期待される。
【0035】
本発明のポリエステルイミド前駆体重合の際、前記式(4)で表されるジアミンが用いられるが、該ジアミンの特徴は、式中、Yで表される置換基の存在である。この置換基が存在しない場合(Y=水素原子)、剛直な構造のテトラカルボン酸二無水物と組み合わせて重合反応を行うと、得られるポリイミド前駆体は極めて剛直な骨格となるがゆえに、重合溶液中でリオトロピック液晶性を発現し、重合溶液の不均一化、ゲル化、ポリイミド前駆体の沈殿等により、高重合体が得られない恐れがある。置換基Yの存在により、ポリイミド前駆体鎖同士の凝集が適度に弱められ、上記のような深刻な問題を回避できると考えられる。
【0036】
また置換基Yの結合位置も重要である。もし置換基Yがアミノ基に対してオルト位(3位)に存在する場合、立体障害により重合反応性の低下を招く恐れがある。本発明に係る式(4)で表されるジアミンでは、アミノ基に対してメタ位(2位)に置換基Yが存在しているため、立体障害による重合反応性低下の問題は生じない。
【0037】
更に嵩高い置換基Yの存在により、単位体積あたりの分極率が低下し、ポリイミドフィルムの低誘電率化に寄与すると考えられる。また置換基Yがポリイミド鎖同士のパッキングを乱し、ポリイミドの結晶化に伴う膜の白濁化・脆弱化を防ぐのに寄与するとも考えられる。
【0038】
また、本発明のポリエステルイミド前駆体重合の際、前記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物またはその誘導体が用いられる。本発明のポリエステルイミドはパラエステル基を高濃度に含有しているため、パラ結合から構成される全芳香族ポリエステルに類似な構造を有しているが、製膜加工性が大きく異なる。通常、パラ結合から構成される全芳香族ポリエステルは不溶・不融であり、成形加工性が極めて乏しいが、本発明のポリエステルイミドではその前駆体が有機溶媒に溶解し、しかもワニスの貯蔵安定性が高いため製膜加工性が良好である。
【0039】
このように、本発明は、産業上極めて有用なポリエステルイミドを提供することができる。その原料中のパラエステル基の剛直性、低分極性、疎水性、アルカリ加水分解性、および置換基の立体的嵩高さという構造上の特徴から、ポリマーとした際に低線熱膨張係数、低吸水率、高ガラス転移温度、低誘電率およびエッチング特性という従来の材料では得ることのできなかった物性を有する材料とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、これらは本発明の実施形態の一例であり、これらの内容に限定されない。
【0041】
<ポリエステルイミド前駆体の製造方法>
本発明のポリエステルイミド前駆体を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。より具体的には、以下の方法により得られる。まず式(4)で表されるジアミンを脱水した重合溶媒に溶解し、これに実質的に等モルの式(3)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、室温で0.5〜100時間攪拌する。この際モノマー濃度は5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。
【0042】
この際に用いられるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物は、式(3):
【0043】
【化9】

【0044】
で表される。式中、Xは、2価の芳香族基または脂環式基を表し、2価の基の結合位置関係は、パラ位またはそれに相当する関係にある。
【0045】
本発明において「パラ位またはそれに相当する関係」とは、一方の結合位置に対して、他方の結合位置が点対称または線対称にあるような関係を意味する。例えばベンゼン、シクロヘキサンのような6員環の場合は、1,4−を意味し、例えばナフタレン環のような10員環の場合は、2,6−、1,5−もしくは1,4−を意味する。(なお、置換位置を表す数字は、命名法上の優先順位に応じて場合により変動するが、両者の関係性は数字とは無関係に保持される。)本発明では、2価の基Xの結合位置関係が、パラ位またはそれに相当する関係にあることにより、直線的で剛直な構造を付与している。
【0046】
二価の芳香属基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数6〜24個の単環式、縮合多環式の炭化水素基であり、これらは場合により、直接または架橋員により相互に連結されていてもよい。架橋員とは、原子数1〜6個のスペーサー基であって、例えばアルキレン、−O−、−NH−、カルボニル、スルフィニル、スルホニルまたはこれらの組み合わせであってよい。さらにこれらは場合により、1つ以上のハロゲン、ヒドロキシル、または炭素数1〜4個のアルキル、ハロゲン化アルキルもしくはアルコキシで置換されていてもよい。
【0047】
二価の芳香属基の好ましい具体例としては、場合により1つ以上の炭素数1〜4個のアルキルで置換されている、1,4−フェニレン基および2,6−ナフチレン基等が挙げられる。特に好ましい具体例は、場合により1つ以上の炭素数1〜4個のアルキルで置換されている、1,4−フェニレン基である。
【0048】
二価の脂環式基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数6〜24個の単環式、多環式の炭化水素基であり、これらは場合により、直接または架橋員により相互に連結されていてもよい。架橋員とは、原子数1〜6個のスペーサー基であって、例えばアルキレン、−O−、−NH−、カルボニル、スルフィニル、スルホニルまたはこれらの組み合わせであってよい。さらにこれらは場合により、1つ以上のハロゲン、ヒドロキシル、または炭素数1〜4個のアルキル、ハロゲン化アルキルもしくはアルコキシで置換されていてもよく、および/または1つ以上の−O−、−NH−、カルボニル、スルフィニル、またはスルホニルで中断されていてもよい。
【0049】
二価の脂環式基の好ましい具体例としては、1,4−シクロヘキシレン、4,4’−ビシクロヘキシレン基等が挙げられる。
【0050】
本発明では、製造コストおよびモノマー純度の観点から、式(5)または式(6):
【0051】
【化10】

【0052】
【化11】

【0053】
で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(X=1,4−フェニレン基または2−メチル−1,4−フェニレン基)を使用することが望ましい
【0054】
なお、式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物モノマーの合成は、常法により行うことができる。例えば、対応するXを与える所望のジオールを、脱水済みのテトラヒドロフランやN,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒に溶解し、これに脱酸剤としてピリジンやトリエチルアミン等の3級アミンを添加する。この溶液へ、用いたジオールに対して2倍モルのトリメリット酸無水物クロリドの溶液を氷で冷却しながら徐々に滴下し、室温で24時間攪拌することにより、式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物モノマーを得ることができる。
【0055】
一方、該ポリエステルイミド前駆体の製造の際に用いられるエステル基含有ジアミンは、式(4):
【0056】
【化12】

【0057】
で表される。式中、Yは、炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはアルコキシ基を表す。これらの例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、またはアルキル基部分が前記直鎖状もしくは分岐状アルキル基であるアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ドデシルオキシ基等が挙げられる。
【0058】
置換基Yの好ましい具体例は、炭素原子数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはアルコキシ基であり、特にメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の直鎖状もしくは分岐状アルキル基の他に、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基が挙げられる。本発明では、製造コストやモノマー純度の観点から、好ましくは式(7):
【0059】
【化13】

【0060】
で表されるエステル基含有ジアミン(Y=メチル基)が用いられる。
【0061】
本発明のポリエステルイミド前駆体は、式(3)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の誘導体であるテトラカルボン酸ジアルキルエステルジクロリドと、式(4)で表されるジアミンより公知の方法に従って低温溶液重縮合することも可能である(High Performance Polymers, 10, 11(1998))。具体的には、まず式(4)で表されるエステル基含有ジアミンを、重合溶媒に溶解した後、この溶液に脱酸剤として適当量のピリジン又はトリエチルアミン等の3級アミン類を添加する。次にこの溶液へ、ジアミンと実質的に等モル量のテトラカルボン酸ジアルキルエステルジクロリドを徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、氷浴中ないし室温で0.5〜72時間攪拌する。この際モノマー濃度は5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。
【0062】
同様な重合反応は界面重縮合法でも行うことが可能である。即ち、脱酸剤として塩基を溶解した水溶液に該ジアミンを溶解する。一方、トルエンやシクロヘキサン等の水に溶解しない無極性有機溶媒にテトラカルボン酸ジエステルジクロリドを溶解する。次いでこれら2つの溶液を混合し、メカニカルスターラーで激しく撹拌することで、本発明のポリエステルイミド前駆体を得ることも可能である。この際ジアミンとテトラカルボン酸ジエステルジクロリドの仕込量は等モルでなくても支障はない。
【0063】
本発明のポリエステルイミド前駆体は、テトラカルボン酸ジアルキルエステルと等モルのジアミンより、ピリジンの存在下、縮合剤としてジアミンと等モルの亜リン酸トリフェニルを用いて、直接重縮合することも可能である。また、縮合剤としてN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドを用いても同様に直接重縮合可能である。
【0064】
また、本発明のポリエステルイミド前駆体は、公知の方法(高分子討論会予稿集,49,1917(2000))に従ってジアミンのジシリル化物とテトラカルボン酸二無水物あるいはテトラカルボン酸ジアルキルエステルジクロリドを上記と同様に低温溶液重縮合するも可能である。
【0065】
このように公知の方法を適用することにより、好適には前述のいずれかの方法を適用することにより、本発明の式(1):
【0066】
【化14】

【0067】
(式中、Xは、2価の芳香族基または脂環式基を表し、2価の基の結合位置関係は、パラ位またはそれに相当する関係にあり、Yは、炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはアルコキシ基を表し、Zは、水素原子、シリル基または炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表す)で表される反復単位からなる、ポリエステルイミド前駆体を得ることができる。
【0068】
なお、式中、Zが、適用するポリエステルイミド前駆体の製造方法に応じて、それぞれ選択される出発原料に依存するものであることは、理解されるであろう。例えば、式(3)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物と、式(4)で表されるジアミンより出発した場合、得られる式(1)で表される反復単位からなるポリエステルイミド前駆体において、Zは水素原子である。また、例えば、式(3)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の誘導体であるテトラカルボン酸ジアルキルエステルジクロリドと、式(4)で表されるジアミンより出発した場合、得られる式(1)で表される反復単位からなるポリエステルイミド前駆体において、Zはアルキルである。
【0069】
以下、好ましい具体例として、式(3)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物と式(4)で表されるエステル基含有ジアミンを反応させて、ポリエステルイミド前駆体であるポリエステルアミド酸を製造する方法について述べる。まず該ジアミンを重合溶媒に溶解し、これにテトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、0〜100℃、好ましくは5〜60℃、最も好ましくは室温で、0.5〜100時間、好ましくは1〜50時間攪拌する。この際モノマー濃度は5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度のポリエステルイミド前駆体溶液を得ることができる。ポリエステルイミドの膜靭性の観点からポリエステルイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましい。上記モノマー濃度範囲よりも低濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の重合度が十分高くならず、最終的に得られるポリイミド膜が脆弱になる恐れがあり、好ましくない。また、高濃度で重合を行うと、モノマーや生成するポリマーの溶解が不十分となる恐れがある。
【0070】
本発明の式(1)で表される反復単位からなるポリエステルイミド前駆体、および式(2)で表される反復単位からなるポリエステルイミドとは、式(1)で表される反復単位のみからなるポリエステルイミド前駆体、および式(2)で表される反復単位のみからなるポリエステルイミドのみを意味するものではなく、それぞれかかる反復単位を主要構成単位として含むものも包含することを意味する。したがって、本発明のポリエステルイミドの要求特性およびポリエステルイミド前駆体の重合反応性を損なわない範囲で、ポリエステルイミド前駆体重合の際に、式(3)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物を、部分的に使用することができる。
【0071】
そのような部分的に使用可能なテトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。共重合成分としてこれらを単独あるいは2種類以上用いてもよい。
【0072】
本発明のポリエステルイミドの要求特性を満足するために、テトラカルボン酸二無水物成分中、式(3)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物は60mol%以上使用することが好ましく、70mol%以上使用することがより好ましい。
【0073】
同様に、本発明に係るポリエステルイミドの要求特性およびポリエステルイミド前駆体の重合反応性を損なわない範囲で、該ポリエステルイミド前駆体重合の際に、式(4)で表されるジアミン以外のジアミンを、部分的に使用することができる。そのような部分的に使用可能な芳香族ジアミンとして、特に限定されないが、例えば、3,3’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ビストリフルオロメチル−5,5’−ジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニル、ビス(フッ素化アルキル)−4,4’−ジアミノジフェニル、ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニル、ジブロモ−4,4’−ジアミノジフェニル、ビス(フッ素化アルコキシ)−4,4’−ジアミノジフェニル、ジフェニル−4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ビナフチルアミン、o−、m−もしくはp−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、ジアミノジュレン、ジアミノイソジュレン、ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニル、ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニル、ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]へキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]へキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノー2−トリフルオロメチルフェノキシ]フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)へキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリド等が例示でき、これらを2種以上併用することもできる。
【0074】
同様に、部分的に使用可能な脂肪族ジアミンとして、特に限定されないが、例えば、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0075】
例えば、後述するように、本発明のポリエステルイミド前駆体を感光剤と併用する場合には、共重合成分として、アルカリ溶解抑制効果を有する構造単位として知られている、フッ素および/またはイミド基等を含むジアミンを使用するのが好ましい。そのような成分は、公知文献(例えば、Masatoshi Hasegawa, Azumi Tominaga, Photopolymer Science and Technology, Vol.18, 307-312 (2005))などに報告されており、例えば下記式(8):
【0076】
【化15】

【0077】
の化合物を挙げることができる。
【0078】
ポリエステルイミドの要求特性を満足するために、ジアミン成分中、式(4)で表されるエステル基含有ジアミンは60mol%以上使用することが好ましく、70mol%以上使用することがより好ましい。
【0079】
重合反応の際使用される溶媒としてはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリエステルイミド前駆体が溶解すれば問題はなく特にその構造には限定されない。具体的に例示するならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロロベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども添加して使用できる。
【0080】
本発明のポリエステルイミド前駆体は、その重合溶液を、ワニスとしてそのまま用いてもよい。また所望により、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下することにより、析出したポリエステルイミド前駆体を、濾過・乾燥し、粉末として単離することもできる。このようにして得られたポリエステルイミド前駆体の粉末を、上記重合溶媒に再溶解してポリエステルイミド前駆体のワニスとすることもできる。
【0081】
本発明のポリエステルイミド前駆体は、N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃、0.5重量%の濃度で測定した固有粘度が0.1〜8.0dL/gの範囲であり、ポリイミドの所望の用途に応じて、0.3〜6.0dL/gの範囲であるのが好ましい。
【0082】
<ポリエステルイミドの製造方法>
本発明のポリエステルイミドは、上記の方法で得られたポリエステルイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。この際ポリエステルイミドの使用可能な形態は、フィルム、粉末、成形体および溶液である。
【0083】
まずポリエステルイミドフィルムを製造する方法について述べる。ポリエステルイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をガラス、銅、アルミニウム、シリコン等の基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。得られたポリエステルイミド前駆体フィルムを基板上で真空中か、あるいは窒素等の不活性ガス中、または空気中、200〜430℃、好ましくは250〜400℃で加熱することで、本発明のポリエステルイミドフィルムを製造することができる。加熱温度は、これ以下だとイミド化の閉環反応が不完全であったりするため好ましくなく、また高すぎると生成したポリエステルイミドフィルムが一部熱分解したりする可能性があるため好ましくない。またイミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行っても、差し支えない。
【0084】
またイミド化反応は、熱処理に代えて、ポリエステルイミド前駆体フィルムをピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水試薬を含有する溶液に浸漬することによって行うことも可能である。
【0085】
またポリエステルイミド前駆体の重合溶液をそのまま、あるいは同一の溶媒で適度に希釈した後、150〜200℃に加熱することで、ポリエステルイミドを得ることもできる。
【0086】
さらに本発明のポリエステルイミドは、本発明のポリエステルイミド前駆体の原料である、式(3):
【0087】
【化16】

【0088】
(式中、Xは、式(1)と同じである)
で表されるテトラカルボン酸二無水物と、式(4):
【0089】
【化17】

【0090】
(式中、Yは、式(1)と同じである)
で表されるジアミンとを、前記重合溶媒中、100〜250℃、好ましくは150〜200℃の高温下で、重縮合反応することにより、直接的に製造することもできる。
【0091】
これらの反応において、生成したポリエステルイミド自体が用いた溶媒に可溶な場合、その溶液を、本発明のポリエステルイミドのワニスとしてそのまま用いてもよい。また得られた溶液を、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下し、濾過・乾燥することにより、粉末としてポリエステルイミドを単離することもできる。このようにして得られたポリエステルイミド粉末を、上記重合溶媒に再溶解してポリエステルイミドのワニスとすることもできる。一方、溶媒に不溶な場合は、結晶性のポリエステルイミド粉末を沈殿物として得ることができる。この際、イミド化の副生成物である水等を共沸留去するために、ベンゼン、トルエンまたはキシレン等を添加しても差し支えない。また触媒としてγ―ピコリン等の塩基を添加することができる。
【0092】
上記ポリエステルイミドのワニスを基板上に塗布し、40〜400℃、好ましくは100〜250℃で乾燥するによってもポリエステルイミドフィルムを形成することができる。
【0093】
上記のように得られたポリエステルイミド粉末を200〜450℃、好ましくは250〜430℃で加熱圧縮することでポリエステルイミドの成形体を作製することができる。
【0094】
さらに、ポリエステルイミド前駆体溶液中にN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドやトリフルオロ無水酢酸等の脱水試薬を添加・撹拌して0〜100℃、好ましくは0〜60℃で反応させることにより、ポリエステルイミドの異性体であるポリイソイミドが生成する。イソイミド化反応は上記脱水試薬を含有する溶液中にポリエステルイミド前駆体フィルムを浸漬することでも可能である。ポリイソイミドワニスを上記と同様な手順で製膜した後、250〜450℃、好ましくは270〜400℃で熱処理することにより、ポリエステルイミドへ容易に変換することができる。
【0095】
本発明のポリエステルイミドおよびその前駆体中に、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤および増感剤等の添加物を加えることができる。
【0096】
したがって、本発明はまた、式(1)で表される反復単位からなる、ポリエステルイミド前駆体と、ジアゾナフトキノン系感光剤を含む、感光性樹脂組成物に関する。かかる感光性樹脂組成物は、前述のポリエステルイミド前駆体のワニスにジアゾナフトキノン系感光剤を添加、溶解することにより調製することができる。
【0097】
ジアゾナフトキノン系感光剤の具体例としては、1,2-ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸と、低分子ヒドロキシ化合物のエステル、例えば2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、2−または4−メチル−フェノール、4,4’−ヒドロキシ−プロパン等の低分子ヒドロキシ化合物とのエステル、代表的には、2,3,4−トリス(1−オキソ−2−ジアゾナフトキノン−5−スルホキシ)ベンゾフェノンを挙げることができる。本発明の感光性樹脂組成物における、ジアゾナフトキノン系感光剤の配合割合は、ポリエステルイミド前駆体に対して、10〜40重量%、より好ましくは20〜30重量%である。少なすぎる場合には、露光部と未露光部の溶解度差が小さすぎて、現像によりパターン形成不能となり、多すぎる場合にはポリエステルイミドの膜物性(靭性、線熱膨張係数、ガラス転移温度、耐熱性等)に悪影響を及ぼす恐れがある他、イミド化後の膜減が大きいといった重大な問題が生じる。
【0098】
このワニスをスピンコーターまたはバーコーター等を用いて、銅、シリコンまたはガラス等の基板上に塗布し、好ましくは遮光下40〜120℃で、0.1〜3時間温風乾燥して、膜厚1〜10μmの感光性フィルムを得ることができる。本発明のポリエステルイミド前駆体は、元来、アルカリに可溶であるが、ジアゾナフトキノン系感光剤を含む状態でフィルム化されたものは、ジアゾナフトキノン系感光剤が溶解抑制剤として作用し、フィルム自体がアルカリ不溶性となる。一方、このフィルムにフォトマスクを介して露光、例えば紫外線を照射すると、露光部におけるジアゾナフトキノン系感光剤が光反応によりアルカリ可溶なインデンカルボン酸に変化するので、露光部のみがアルカリ水溶液に可溶となる。よって、ポジ型パターン形成が可能となる。
【0099】
上記感光性フィルムの形成工程は、120℃以下で行うことが好ましい。この温度以上ではジアゾナフトキノン系感光剤が熱分解し始める恐れがある。一方、低温、例えば60℃でフィルム化した場合、多量の溶媒が残留する場合がある。そのような場合、露光操作に先立ち80〜120℃で1〜30分間プリベイクしてもよいが、フィルムを1〜5分間水中に浸漬することも効果的である。残留溶媒は現像時の膜の膨潤やパターンの崩れを招く恐れがあり、鮮明なパターンを得るためには残留溶媒を十分除去しておくことが好ましい。
【0100】
上記感光性フィルムに、フォトマスクを介して露光、例えば高圧水銀灯のi線を室温で10秒〜1時間照射し、次いでアルカリ水溶液、例えば0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて室温で10秒〜10分間現像し、更に純水ですすぐことにより鮮明なポジ型の微細パターンを得ることができる。
【0101】
アルカリ水溶液で現像する際、露光部と未露光部の溶解度差が不十分な場合、鮮明なレリーフパターンが得られにくいことがある。この場合、本発明のポリエステルイミド前駆体を構成するモノマー以外に、適当なモノマーを用いて、共重合体を合成することで、アルカリ水溶液に対する溶解度を制御することが可能である。この際使用可能なモノマーとしては特に限定されないが、アルカリ溶解抑制効果を有する構造単位として知られているフッ素基やイミド基等の特定の官能基を含有するモノマーが好適に用いられ、上記式(8)の化合物が特に好適に用いられる。すなわち、前述した本発明のジアゾナフトキノン系感光剤を含む感光性樹脂組成物の場合、本発明のポリエステルイミド前駆体が、フッ素および/またはイミド基を含むジアミンから誘導される構成単位、特に式(8)の化合物から誘導される構成単位を含むことが好ましい。
【0102】
基板上に形成されたポリイミド前駆体の微細パターンを空気中か、または窒素等の不活性ガス雰囲気中あるいは真空中、200℃〜430℃、好ましくは250℃〜400℃の温度で熱処理することで鮮明なポリイミド膜のパターンが得られる。イミド化は脱水環化試薬を用いて化学的に行うこともできる。即ちピリジンあるいはトリエチルアミンの如き塩基性触媒を含む無水酢酸中に、基板上に形成されたイミド基含有ポリイミド前駆体膜を室温で1分〜数時間浸漬する方法によってもポリイミド膜を得ることができる。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0104】
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR5300)を用い、透過法にてポリエステルイミド前駆体およびポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定し、KBr法にてエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の赤外線吸収スペクトルを測定した。
H−NMRスペクトル>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用いて、重水素化ジメチルスルホキシド中でエステル基含有テトラカルボン酸二無水物のH−NMRスペクトルを測定した。
<示差走査熱量分析(融点および融解曲線)>
エステル基含有テトラカルボン酸二無水物の融点および融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度2℃/分で測定した。融点が高く融解ピークがシャープであるほど、化合物は高純度であることを示す。
<固有粘度>
0.5重量%のポリエステルイミド前駆体のN,N−ジメチルアセトアミド溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
<ガラス転移温度:Tg>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからポリエステルイミドフィルムのガラス転移温度を求めた。
<線熱膨張係数:CTE>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値としてポリエステルイミドフィルムの線熱膨張係数を求めた。
<5%重量減少温度:T
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリエステルイミドフィルムの初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
<光透過率(透明性)>
日本分光社製紫外可視分光光度計(V−530)を用いて、365、400、435nmにおける光透過率を測定した。透過率が高い程、膜の透明性が良好であることを意味する。
<カットオフ波長(透明性)>
日本分光社製紫外可視分光光度計(V−530)を用いて、200nmから900nmの可視・紫外線透過率を測定した。透過率が0.5%以下となる波長(カットオフ波長)を透明性の指標とした。カットオフ波長が短い程、膜の透明性が良好であることを意味する。
<複屈折>
ポリエステルイミドフィルムに平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率をアッベ屈折計(アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)、ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。
<誘電率>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)を用いてポリエステルイミドフィルムの平均屈折率〔nav=(2nin+nout)/3〕に基づいて次式:εcal=1.1×navにより1MHzにおけるポリエステルイミドフィルムの誘電率(εcal)を算出した。
<吸水率>
50℃で24時間真空乾燥したポリエステルイミド(膜厚20〜30μm)を25℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分を拭き取り、重量増加分から吸水率(%)を求めた。
<弾性率、破断伸び>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて、ポリエステルイミドフィルムの試験片(3mm×30mm)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を、膜が破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほど膜の靭性が高いことを意味する。
【0105】
(合成例1)
<エステル基含有テトラカルボン酸二無水物の合成>
よく乾燥した攪拌機付三口フラスコ中、ヒドロキノン40mmolを無水テトラヒドロフラン20mLと無水ピリジン16mLの混合溶媒に溶解し、反応容器をセプタムキャップでシールした。氷浴中で冷却しながらこの溶液に、トリメリット酸無水物クロリド80mmolの無水テトラヒドロフラン(76mL)溶液をシリンジにて徐々に滴下し、滴下終了後0℃で2時間攪拌し、更に室温で20時間攪拌した。反応終了後、目的の生成物および副生成物である白色のピリジン塩酸塩の混合物を濾別した。水溶性のピリジン塩酸塩を除去するため、これを水で洗浄し、1%硝酸銀溶液用いて洗浄液中の塩素成分が確認できなくなるまで洗浄を行った。この操作により、目的の生成物は一部加水分解を受けて開環するので、閉環するために得られた粗生成物を200℃で24時間真空乾燥後、無水1,4−ジオキサンより再結晶した。濾別した結晶を更に200℃で24時間真空乾燥した。赤外吸収スペクトル(図1)、H−NMRスペクトル(図2)、および示差走査熱量分析(融解曲線、図3)より高純度のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(式(5)の化合物)が得られたことが確認された。
【0106】
(合成例2)
よく乾燥した攪拌機付三口フラスコ中、メチルヒドロキノン40mmolを無水テトラヒドロフランと20mLと無水ピリジン16mLの混合溶媒に溶解し、反応容器をセプタムキャップでシールした。氷浴中で冷却しながら、この溶液に、トリメリット酸無水物クロリド80mmolの無水テトラヒドロフラン(76mL)溶液をシリンジにて徐々に滴下し、滴下終了後0℃で2時間攪拌し、更に室温で20時間攪拌した。反応終了後、目的の生成物および副生成物である白色のピリジン塩酸塩の混合物を濾別した。水溶性のピリジン塩酸塩を除去するため、これを水で洗浄し、1%硝酸銀溶液用いて洗浄液中の塩素成分が確認できなくなるまで洗浄を行った。この操作により、目的の生成物は一部加水分解を受けて開環するので、閉環するために得られた粗生成物を200℃で24時間真空乾燥後、無水1,4−ジオキサンより再結晶した。濾別した結晶を更に200℃で24時間真空乾燥した。赤外吸収スペクトル(図4)、H−NMRスペクトル(図5)、および示差走査熱量分析(融解曲線、図6)より高純度のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(式(6)の化合物)が得られたことが確認された。
【0107】
(実施例1)
<ポリエステルイミド前駆体の重合、イミド化およびポリエステルイミド膜特性の評価>
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に式(7)で表されるエステル基含有ジアミン(4−アミノ−2−メチルフェニル 4’−アミノベンゾエート)5mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したN,N−ジメチルアセトアミド7mLに溶解した後、この溶液に式(5)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物粉末5mmolを徐々に加えた。10分後、溶液粘度が急激に増加したため、溶媒を徐々に加えて希釈し、最終的に合計18mLの溶媒を加えた。更に室温で24時間撹拌し、透明、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。このポリエステルイミド前駆体溶液は、室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定を示した。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミド前駆体の固有粘度は2.06dL/gであった。
【0108】
このポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で乾燥して得たポリイミド前駆体膜を、基板上、減圧下250℃で2時間熱イミド化を行った後、残留応力を除去するために基板から剥がして更に300℃で1時間、熱処理を行い、膜厚20μmの透明なポリイミド膜を得た。このポリイミド膜は180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。また如何なる有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。このポリイミド膜について動的粘弾性測定を行った結果、明瞭なガラス転移点(動的粘弾性曲線における損失ピークより決定)は観測されなかったが、380℃付近にガラス転移らしきブロードな損失ピークが見られたが、全く熱可塑性を示さなかった。これよりこのポリイミド膜が極めて高い寸法安定性を有していることを示している。また線熱膨張係数(100℃から200℃の間の平均値)は6.8ppm/Kと極めて低い線熱膨張係数を示した。これは、非常に大きな複屈折値(Δn=0.181)から判断して、ポリイミド鎖の高度な面内配向によるものと考えられる。平均屈折率より見積もった誘電率は3.17であり、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンからなる代表的な全芳香族低熱膨張ポリイミドの誘電率(3.5)より低い値であった。この結果はポリイミド骨格中にエステル基を導入した効果である。また5%重量減少温度は窒素中で472℃、空気中で449℃と高い熱安定性を示した。また、吸水率は0.6%と極めて低い値であった。これはパラエステル基導入の効果である。機械的特性は、引張弾性率(ヤング率)7.03GPa、破断強度0.256GPaと高強度・高弾性であり、破断伸びは10%と高弾性率フィルムとしてはある程度の靭性を示した。このようにこのポリエステルイミドは極めて低い線熱膨張係数、低吸水率、優れた寸法安定性、高い熱安定性、比較的低い誘電率および十分な膜靭性を示した。表1に物性値をまとめた。得られたポリエステルイミド前駆体薄膜およびポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを図7、図8にそれぞれ示す。
【0109】
(実施例2)
4−アミノ−2−メチルフェニル 4’−アミノベンゾエートに加えて、他の共重合ジアミン成分として4,4’−オキシジアニリンを用いた以外は実施例1に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、熱イミド化、および熱処理して、膜厚20μmのポリエステルイミド膜を作製し、同様に物性評価した。共重合組成は4−アミノ−2−メチルフェニル 4’−アミノベンゾエート:4,4’−オキシジアニリン=70:30である。物性値を表1に示す。銅に近い線熱膨張係数、低吸水率、優れた寸法安定性、高い熱安定性、比較的低い誘電率を示した。特に実施例1のポリエステルイミドに比べはるかに高い膜靭性(破断伸び)が得られた。これは主鎖中に屈曲性のエーテル結合を導入したためである。
【0110】
(実施例3)
テトラカルボン酸二無水物成分として式(5)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の代わりに式(6)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を用いる以外は実施例1に記載した方法と同様にポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、熱イミド化、および熱処理して、膜厚20μmのポリエステルイミド膜を作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。極めて低い線熱膨張係数、低吸水率、優れた寸法安定性、高い熱安定性、比較的低い誘電率を示した。
【0111】
(実施例4)
テトラカルボン酸二無水物成分として式(5)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の代わりに式(6)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を用いる以外は実施例2に記載した方法と同様にポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、熱イミド化、および熱処理して、膜厚20μmのポリエステルイミド共重合体膜を作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。銅に近い線熱膨張係数、低吸水率、優れた寸法安定性、高い熱安定性、比較的低い誘電率を示した。特に実施例3のポリエステルイミドに比べはるかに高い膜靭性(破断伸び)が得られた。これは主鎖中に屈曲性のエーテル結合を導入したためである。
【0112】
(実施例5)
ポジ型パターン形成
4−アミノ−2−メチルフェニル 4’−アミノベンゾエート(14mmol)と他の共重合成分として上記式(8)で表されるジアミン(3mmol)、および式(5)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物粉末(17mmol)より、実施例1に記載した方法に従ってポリエステルイミド前駆体を重合した。固有粘度は0.617dL/gであった。このポリエステルイミド前駆体膜(膜厚30μm)の光透過率は365nmで9.2%、400nmで78.2%、435nmで86.6%であり、カットオフ波長は354nmであった。
【0113】
上記の重合溶液に、ジアゾナフトキノン系感光剤として2,3,4−トリス(1−オキソ−2−ジアゾナフトキノン−5−スルホキシ)ベンゾフェノンを、上記ポリエステルイミド前駆体の質量に対して30重量%になるように添加し、溶解させた。これをシランカップリング剤で表面処理したガラス基板上に塗布し、60℃で2時間、熱風乾燥器中で乾燥させて、膜厚8μmの感光性フィルムを得た。この膜を100℃で10分間プリベイク後、フォトマスクを介し、落射式高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製トスキュア251)のi線(365nm、照射光強度=約150mW/cm2)を5秒間照射した。これをテトラメチルアンモニウムヒドロキシド2.38重量%水溶液にて20℃で5分間現像を行い、水でリンス後、60℃で数分乾燥した。真空中250℃で1時間、更に300℃で1時間、段階的に昇温して熱イミド化を行い、線幅20μmの鮮明なレリーフパターンが得られた。感光剤を含まないポリエステルイミド膜(膜厚21μm)の光透過率は365nmで0.1%、400nmで23.2%、435nmで63.7%であった。またカットオフ波長は373nmであった。その他の同膜物性はガラス転移温度340℃、線熱膨張係数13.7ppm/Kであり、複屈折、誘電率等その他の物性と合わせて表1に示す。
【0114】
(実施例6)
4−アミノ−2−メチルフェニル 4’−アミノベンゾエート(12mmol)と他の共重合成分として式(8)で表されるジアミン(4mmol)、および式(5)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物粉末(16mmol)より、実施例1に記載した方法に従ってポリエステルイミド前駆体を重合した。固有粘度は0.591dL/gであった。このポリエステルイミド前駆体膜(膜厚18μm)の光透過率は365nmで22.0%、400nmで79.6%、435nmで86.2%であり、カットオフ波長は350nmであった。
【0115】
上記の重合溶液にジアゾナフトキノン系感光剤として2,3,4−トリス(1−オキソ−2−ジアゾナフトキノン−5−スルホキシ)ベンゾフェノンを、上記ポリエステルイミド前駆体の質量に対して30重量%になるように添加し、溶解させた。これをシランカップリング剤で表面処理したガラス基板上に塗布し、60℃で2時間、熱風乾燥器中で乾燥させて、膜厚8μmの感光性フィルムを得た。この膜を100℃で10分間プリベイク後、フォトマスクを介し、落射式高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製トスキュア251)のi線(365nm、照射光強度=約150mW/cm2)を5秒間照射した。これをテトラメチルアンモニウムヒドロキシド2.38重量%水溶液にて20℃で5分間現像を行い、水でリンス後、60℃で数分乾燥した。真空中250℃で1時間、更に300℃で1時間、段階的に昇温して熱イミド化を行い、線幅20μmの鮮明なレリーフパターンが得られた。感光剤を含まないポリエステルイミド膜(膜厚24μm)の光透過率は365nmで0.3%、400nmで33.5%、435nmで70.0%であった。またカットオフ波長は367nmであった。その他の同膜物性はガラス転移温度380℃、線熱膨張係数19.6ppm/Kであり、複屈折、誘電率等その他の物性と合わせて表1に示す。
【0116】
(比較例1)
4−アミノ−2−メチルフェニル 4’−アミノベンゾエートの代わりにp−フェニレンジアミンを用いた以外は実施例1に記載した方法に従って、ポリイミド前駆体を重合した。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミド前駆体の固有粘度は5.19dL/gであった。実施例1に記載した方法に従って、製膜、熱イミド化および熱処理を行い、得られた膜(膜厚=20μm)の物性を評価した。物性値を表1にまとめた。実施例1に記載のポリエステルイミド同様、極めて低い線熱膨張係数、優れた寸法安定性、高い熱安定性を示したが、吸水率は1.6%と実施例1に記載のポリエステルイミドより高い値であった。また、破断伸びも5.4%と低い値であった。これらはジアミン成分にエステル基含有ジアミンを使用しなかったことが原因である。
【0117】
(比較例2)
4−アミノ−2−メチルフェニル 4’−アミノベンゾエートの代わりに置換基のない4−アミノフェニル 4’−アミノベンゾエートを用いた以外は実施例1に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合した。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミド前駆体の固有粘度は2.81dL/gであった。実施例1に記載した方法に従って、製膜、熱イミド化および熱処理を行い、得られた膜(膜厚=20μm)の物性を評価した。物性値を表1に示す。実施例1に記載のポリエステルイミドと同様に、極めて低い線熱膨張係数、高い寸法安定性、高い熱安定性、および十分な膜靭性を示したが、誘電率は3.26、吸水率は0.8%と共に実施例1に記載のポリエステルイミドフィルムより高い値であった。これはジアミン成分として、置換基を含まない、エステル含有ジアミンを用いたためである。
【0118】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明のポリエステルイミドは低線熱膨張係数、低吸水率、高ガラス転移温度、低誘電率、十分な膜靭性およびアルカリエッチング特性を有するため、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜およびフレキシブルプリント配線基板、ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、感光材料等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】合成例1に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(式(5)の化合物)の赤外線吸収スペクトルである。
【図2】合成例1に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(式(5)の化合物)のH−NMRスペクトルである。
【図3】合成例1に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(式(5)の化合物)の示差走査熱量分析(融解曲線)である。
【図4】合成例2に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(式(6)の化合物)の赤外線吸収スペクトルである。
【図5】合成例2に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(式(6)の化合物)のH−NMRスペクトルである。
【図6】合成例2に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(式(6)の化合物)の示差走査熱量分析(融解曲線)である。
【図7】実施例1に記載のポリエステルイミド前駆体膜の赤外線吸収スペクトルである。
【図8】実施例1に記載のポリエステルイミド膜の赤外線吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】


(式中、
Xは、2価の芳香族基または脂環式基を表し、2価の基の結合位置関係は、パラ位またはそれに相当する関係にあり、
Yは、炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはアルコキシ基を表し、Zは、水素原子、シリル基または炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表す)で表される反復単位からなる、ポリエステルイミド前駆体。
【請求項2】
固有粘度が0.1〜8.0dL/gの範囲である、式(1)で表される反復単位からなる、請求項1記載のポリエステルイミド前駆体。
【請求項3】
Xが、場合により1つ以上の炭素数1〜4個のアルキルで置換されている、1,4−フェニレン基である、式(1)で表される反復単位からなる、請求項1または2記載のポリエステルイミド前駆体。
【請求項4】
式(2):
【化2】


(式中、XおよびYは、それぞれ式(1)と同じである)で表される反復単位からなる、ポリエステルイミド。
【請求項5】
Xが、場合により1つ以上の炭素数1〜4個のアルキルで置換されている、1,4−フェニレン基である、式(2)で表される反復単位からなる、請求項4記載のポリエステルイミド。
【請求項6】
請求項1に記載のポリエステルイミド前駆体を、加熱あるいは脱水試薬を用いて環化反応(イミド化)させることを特徴とする、請求項4に記載のポリエステルイミドの製造方法。
【請求項7】
ポリエステルイミド前駆体の原料である、式(3):
【化3】


(式中、Xは、式(1)と同じである)
で表されるテトラカルボン酸二無水物と、式(4):
【化4】


(式中、Yは、式(1)と同じである)
で表されるジアミンとを、溶媒中、高温下で重縮合反応することを特徴とする、請求項4に記載のポリエステルイミドの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルイミド前駆体と、ジアゾナフトキノン系感光剤を含む、感光性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルイミド前駆体が、フッ素および/またはイミド基を含むジアミンから誘導される構成単位を含む、請求項8記載の感光性樹脂組成物。
【請求項10】
ポジ型感光性樹脂を用いたパターン形成方法であって、
(a)請求項8または9に記載の感光性樹脂組成物の溶液を、基板に塗布し、乾燥させて感光性フィルムを得る工程
(b)前記(a)で得られたフィルムをフォトマスクを介して露光し、アルカリ水溶液で現像し、パターンを形成する工程、および
(c)得られたパターンを加熱あるいは脱水環化試薬を用いてイミド化する工程
を含むことを特徴とする、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−169585(P2007−169585A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129910(P2006−129910)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】