作業車の作業負荷制御装置
【課題】コモンレール式エンジンを搭載した作業車において、将来的に負荷の増大が予測され、エンジン負荷性能の対応制御が低下すると推定される場合の不具合の回避を課題とする。
【解決手段】コモンレール式エンジンを搭載した作業車の作業負荷制御装置において、作業時の負荷の増減変動を事前に予測する負荷予測手段1と、該負荷予測手段1による負荷の事前予測に基づいて、複数のエンジン負荷予測モードEMの中から特定の負荷予測モードを選択して設定するモード設定手段2とを設け、該モード設定手段2にて設定した負荷予測モードに基づいてエンジン制御を行なうことを特徴とする作業車の作業負荷制御装置の構成とする。
【解決手段】コモンレール式エンジンを搭載した作業車の作業負荷制御装置において、作業時の負荷の増減変動を事前に予測する負荷予測手段1と、該負荷予測手段1による負荷の事前予測に基づいて、複数のエンジン負荷予測モードEMの中から特定の負荷予測モードを選択して設定するモード設定手段2とを設け、該モード設定手段2にて設定した負荷予測モードに基づいてエンジン制御を行なうことを特徴とする作業車の作業負荷制御装置の構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、作業車の作業負荷制御装置に関し、主としてコモンレール式エンジンを搭載した作業車において、負荷変動の事前予測によりエンジン負荷制御を行うものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コモンレール式エンジンにおいて、コモンレール圧が目標圧より実圧が高い状態では、燃料の噴射期間が極端に短くなり、短時間で大きな熱発生を伴う燃焼によって音が発生し、車両性能上好ましくないため、コモンレール又は高圧燃料配管にコモンレール圧を減圧調整するための減圧弁を設けたり、或はコモンレールに蓄えられた高圧燃料を噴射するインジェクタを、開弁するに至る時間よりも短い時間幅で開弁駆動して空打ちさせてコモンレール圧を低下させる技術が知られている。しかし、減圧弁を用いる技術ではコストの上昇を招くし、インジェクタを空打ちさせる技術では減圧開始初期において高温燃焼により音が発生する難点を生じていた。
【0003】
このため、高温燃焼が発生することを予測する高温燃焼予測手段と、この高温燃焼予測手段によって高温燃焼が予測された際にインジェクタによる燃料の噴射を抑制して燃焼を緩慢にさせる燃焼緩慢化手段とを作用させる等、エンジンの運転状態に応じてインジェクタを制御する制御装置を備えているもの等が開示されている。(例えば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開2004−169633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このように、高温燃焼予測手段により高温燃焼の予測を行い、この予測に基づいて燃焼緩慢化手段によりインジェクタによる燃料の噴射を抑制して燃焼を緩慢にさせる燃料噴射の制御技術は知られているが、コモンレール式ディーゼルエンジンを搭載した作業車においては、作業時の負荷動作の変動が大きい場合、エンジン負荷性能の対応制御が低下するという不具合が発生している。
【0005】
そこで本発明は、このようなエンジンの負荷制御時における不具合の発生を回避しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、コモンレール式エンジンを搭載した作業車の作業負荷制御装置において、作業時の負荷の増減変動を事前に予測する負荷予測手段1と、該負荷予測手段1による負荷の事前予測に基づいて、複数のエンジン負荷予測モードEMの中から特定の負荷予測モードを選択して設定するモード設定手段2とを設け、該モード設定手段2にて設定した負荷予測モードに基づいてエンジン制御を行なうことを特徴とする作業車の作業負荷制御装置の構成とする。
【0007】
このような構成により、作業時において、負荷予測手段1により作業車の将来における負荷変動の増減変化を事前に予測し、この負荷変動の事前予測の内容に基づいて、複数のエンジン負荷予測モードEMの中から特定の負荷予測モードを選択して設定する。そして、選択した負荷予測モードによりエンジン制御を行なう。
【0008】
請求項2の発明は、前記複数のエンジン負荷予測モードEMは、少なくともエンジンの急激な負荷が増大することが予測される場合に使用する急負荷予測モードPと、エンジンの急激な負荷の増大が予測されない場合に使用する通常予測モードQを有することを特徴とする請求項1に記載の作業車の作業負荷制御装置の構成とする。
【0009】
このような構成により、作業時において、負荷予測手段1により作業車の将来における負荷変動の増減変化を事前に予測し、この事前予測の内容に基づいて予め負荷予測モードを、モード設定手段2により突然に過大な負荷増大が予測されるときは急負荷予測モードPに変更し、エンジンの急激な負荷の増大が予測されないときは通常予測モードQに変更する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明では、上記作用の如く、作業時において将来の負荷変動の状態変化を事前に予測し、予めこの事前予測の内容に基づいた最適の負荷予測モードを設定することにより、事後に発生する実際の負荷変動の状態変化に際し、モード変更することで備えることができ、エンジン負荷性能の対応制御を良好に維持することができるようになる。これにより、実際にエンジンに負荷が作用したときの黒煙排出や回転低下等の不具合発生を未然に総合的に抑止することができるようになる。
【0011】
請求項2の発明では、上記作用の如く、将来の負荷変動の状態変化を事前に予測し、予めこの事前予測の内容に基づいて、突然に過大な負荷が予測されるときは急負荷予測モードPに、エンジンの急激な負荷の増大が予測されないときは通常予測モードQに負荷予測を切り替え設定することにより、事後に発生する実際の負荷変動の状態変化に備えることができ、エンジン負荷性能の対応制御を良好に維持することができるようになる。そして、エンジンの負荷制御時における黒煙排出や回転低下等の不具合発生を未然に抑止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図2に示す如く、コモンレール式(蓄圧式燃料噴射)を採用している多気筒のディーゼルエンジン8の実施例について、システム図によりその概要を説明する。なお、本実施例ではディーゼルエンジンの実施例を示しているが、ガソリンエンジンでもよい。
【0013】
コモンレール式とは、各気筒へ燃料を噴射する燃料噴射装置への燃料供給を、要求された圧力とするコモンレール10(蓄圧室)を介して行うものである。
燃料タンク11内の燃料は、吸入通路により燃料フィルタ12を介して該エンジン8で駆動される燃料噴射ポンプ13に吸入され、この噴射ポンプ13によって加圧された高圧燃料は、吐出通路14によりコモンレール10に導かれて蓄えられる。
【0014】
該コモンレール10内の高圧燃料は、各高圧燃料供給通路16により気筒数分のインジェクタ17に供給され、エンジンコントロールユニット18(以下ECUという)からの指令に基づき、各気筒毎にインジェクタ17が開弁作動して、高圧燃料が該エンジン8の各燃焼室内に噴射供給され、各インジェクタ17での余剰燃料(リターン燃料)は、各リターン通路19により共通のリターン通路20へ導かれ、リターン通路20によって燃料タンク11へ戻される。
【0015】
また、コモンレール10内の燃料圧力(コモンレール圧)を制御するため燃料噴射ポンプ13に圧力制御弁21が設けられており、この圧力制御弁21はECU18からのデューティ信号によって、燃料噴射ポンプ13から燃料タンク11への余剰燃料のリターン通路20の流路面積を調整するものであり、これによりコモンレール10側への燃料吐出量を調整してコモンレール圧を制御することができる。
【0016】
具体的には、エンジン運転条件に応じて目標コモンレール圧を設定し、レール圧センサ22により検出されるコモンレール圧が目標コモンレール圧と一致するよう、圧力制御弁21を介してコモンレール圧をフィードバック制御する。
【0017】
従来、ディーゼルエンジンでは、メイン噴射に先立って少量の燃料をパルス的に噴射するパイロット噴射を行うことにより、着火遅れを短縮してディーゼルエンジン特有の、所謂ノック音を低減することが知られている。
【0018】
このパイロット噴射は、メイン噴射の前に1回乃至2回に固定して行われるものであったが、前記コモンレール10のシステムを用いることで、エンジンの状況に応じてパイロット噴射の状態を変化させ、騒音の低減や不完全燃焼による白煙又は黒煙の発生を抑制できる。
【0019】
図3に示す如く、農作業車等におけるコモンレール式ディーゼルエンジン8のECU18は、回転数と出力トルクの関係において走行モードM1と通常作業モードM2及び重作業モードM3の三種類の制御モードを設けている。
【0020】
走行モードM1は、回転数の変動で出力も変動するドループ制御として、農作業を行わず移動走行する場合に使用するものであり、例えば、ブレーキを掛けて走行速度を減速したり停止したりすると、この走行負荷の増大に伴ってエンジン回転数が低下するため走行速度の減速や停止を安全に行うことができる。
【0021】
通常作業モードM2は、負荷が変動しても回転数が一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御として、通常の農作業を行う場合に使用するものであり、例えば、トラクターであれば耕耘作業時に耕地が固く耕耘刃に抵抗が掛かるとき、コンバインであれば収穫作業時に収穫物が多く負荷が増大したときでも、出力が変動して回転数を維持するのでオペレータが楽に操縦できる。
【0022】
重作業モードM3は、通常作業モードM2と同様に負荷が変動しても回転数一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御に、負荷限界近くになると回転数を上昇させて出力を上げる重負荷制御を加えた制御で、特に、負荷限界近くで農作業を行う場合に使用するものであり、例えば、トラクターで耕耘作業を行っている際に、特に、固い耕地に遭遇してもエンジン出力が通常の限界を越えて増大するので作業を中断することがない。
【0023】
前述のような、走行モードM1と通常作業モードM2及び重作業モードM3の三種類の制御モードについては、実際にエンジン回転数を検出して、このエンジン回転数の変化によりECU18からの指令により制御を行なうものである。
【0024】
図4に示す如く、農作業車としてのトラクターTは、車台3上にコモンレール式ディーゼルエンジン8を搭載し、このエンジン8にトランスミッション4を連結すると共に、エンジン8を覆うボンネット5から後方側に、操縦装置6a及び操縦席6bを内装するキャビン7を接続して設け、トランスミッション4の後端部にはロータリー装置9を装架した構成とする。15aは前車輪、15bは後車輪を示す。
【0025】
このようなトラクタTにおいて、メインクラッチ23の入切状態、ロータリー装置9を昇降させる昇降レバー24の昇降位置、走行変速レバー25の変速操作位置等を各々検出する各センサ類を設けると共に、トラクタTの負荷変動を事前に予測する負荷予測手段としての負荷予測手段1と、この負荷予測手段1の事前予測に基づき、将来的な負荷の大小に対する負荷予測モードの切り換え設定を自動的に行うモード設定手段としてのモード設定手段2とを設ける構成としている。
【0026】
前述のような、走行モードM1と通常作業モードM2及び重作業モードM3の三種類の制御モードについては、実際にエンジン回転数を検出して、このエンジン回転数の変化によりECU18からの指令によりエンジン制御を行なうものであるので、エンジン制御の反応遅れが生じることがある。特に、大きな負荷が急に作用すると、エンジン回転数は一気に低下してしまい、作業に支障をきたすことになる。
【0027】
そこで、図1のフローチャートに示す如く、各センサ類(走行変速レバーの変速位置の変化、ロータリ昇降レバーの変化、メインクラッチの状態の変化等)の検出値によって、負荷予測手段1により負荷変動の事前予測を行い、この事前予測に基づいてモード設定手段2により負荷モードを設定する。即ち、複数のエンジン負荷予測モードEMをECU18に記憶しておいて、突然に過大な負荷が掛かることが予測される場合には、急負荷予測モードPに事前に切り換えてエンジン制御を行なう。そして、一定時間経過後、通常状態を維持する通常予測モードQに切り換えて制御を行なうようにする。
【0028】
また、エンジンの急激な負荷の増大が予測されない場合には、通常予測モードQによる制御を続行するようにする。
このように、該負荷予測手段1の事前予測に基づきモード設定手段2により負荷モードを事前に設定することで、スモークリミットを通常予測モードの『厳しい値』から急負荷予測モードの『緩い値』に制御することによって、瞬間最大燃料噴射量を増量し回転低下を防止することができる。そして、この増量による黒煙排出量の増加に対しては、コモンレール圧を通常予測モードの『低圧』から急負荷予測モードの『高圧』に、噴射タイミングを通常予測モードの『遅れ』から急負荷予測モードの『進(早い)』に、パイロット噴射を通常予測モードの『無い状態』から急負荷予測モードの『有り状態』に各々制御することによって、黒煙排出や失火性を向上させることができるようになる。
【0029】
また、図5,図6,図7に示す如く、前記コモンレール式ディーゼルエンジン8は、多気筒形態でシリンダブロック28の上部にシリンダヘッド29を、下部にオイルパン30を配設すると共に、前部にギヤケース31とラジエータファン32を、後部にフライホイル33を各々配設させる。34は可変ターボ過給機、35はクランク軸、46は吸気マニホールド、46aは吸気マニホールドの側壁、47はグロープラグを示す。
【0030】
このような構成におけるディーゼルエンジン8の作用経路として、図8に示す如く、可変ターボ過給機34のタービン34a上流側に排気側の排気経路36を接続すると共に、該タービン34aの下流側に外方への排気管37を接続し、この排気管37の該タービン34a側寄りに排出ガス後処理装置38(DOC+DPF)を内設させ、可変ターボ過給機34のコンプレッサ34bの下流側にインタークーラ39を経て吸気側の吸気経路40を接続する。なお、DOCは酸化触媒であり、排出ガス内の不燃物室を燃焼させるものであるので、比較的高温のガスが通過するように配置場所を考慮する必要がある。また、DPFはディーゼルパティキュレートフィルターであり、排出ガス内のPM(粒子状物質)を付着させて除去するものである。
【0031】
該排気経路36の途中と吸気経路40の途中とをEGR経路41によって接続すると共に、排気経路36にEGR経路41を接続するEGRガス導入側にEGR率調整用のEGRバルブ42を配置し、このEGRバルブ42と排気管37の絞り弁43とを前記ECU18に電気制御可能に接続させる。
【0032】
このような作用経路において、図9のフローチャートに示す如く、前記各センサ類の検出値によって、負荷予測機構1により農作業時における負荷動作の事前予測を行い、この事前予測に基づいてEGR率制御機構45aにより、突然に過大な負荷が掛かる駆動開始時等においても、図10の線図に示す如く、エンジン負荷の増大を予測した時点で即座に予測出力の適正なEGR率eへ低下させる高負荷側制御を開始し、その後エンジン負荷状態の検出により、エンジン負荷によるEGR制御を行わせることができるから、事前予測により制御の応答性が上がり排出ガスを良好な状態に保持することができる。
【0033】
また、前記図8に示すように、ディーゼルエンジン8の作用経路において、図11のフローチャートに示す如く、前記各センサ類の検出値によって、負荷予測機構1により農作業時における負荷動作の事前予測を行い、この事前予測に基づいてブースト圧制御機構45bにより、突然に過大な負荷が掛かる駆動開始時等においても、図12の線図に示す如く、エンジン負荷の増大を予測した時点で可変ターボ過給機34への流入量を可変とし即座に予測出力の適正なブースト圧bへ増大させる高負荷側制御を開始し、その後エンジン負荷状態の検出により、エンジン負荷による可変ターボ制御を行わせることができるから、事前予測により制御の応答性が上がり、黒煙排出,トルク変動,回転低下等の不具合を防止することができる。
【0034】
また、前記コモンレール式ディーゼルエンジン8において、一気筒当たり一個のインジェクタ17ではパイロット噴射pとメイン噴射mの時間間隔が、インジェクタ17を作動させる電荷を溜るに必要とする一定時間より短くできないため、高速で回転するほど制限を受け自由度の高い噴射パターンが設定できない。
【0035】
このため、図13(a)の線図に示す如く、一気筒当たり一個のインジェクタ17を用いていることにより、パイロット噴射pとメイン噴射mの時間間隔が固定される従来の噴射パターンから、図13(b)の線図に示す如く、一気筒当たり二個のインジェクタ17を用いることにより、パイロット噴射pとメイン噴射mの時間間隔を制限なく自由に設定できる噴射パターンが実現可能となり燃焼の改善につながる。なお、インジェクタ17を作動させる電源については、各インジェクタ17毎に各々設ける。
【0036】
又、一気筒当たり一つのインジェクタ17用電源では、パイロット噴射pとメイン噴射mの時間間隔に時間的な制限があり、高速で回転するほど噴射パターンに制限がでてくるため、一気筒当たり二個のインジェクタ17用電源を持つことによって、図14(a)の線図に示す如き、パイロット噴射pとメイン噴射mの時間間隔が固定される従来の噴射パターンから、図14(b)の線図に示す如き、パイロット噴射pとメイン噴射mの時間間隔を制限なく自由に設定できる噴射パターンが実現可能となり燃焼の改善に効果がある。
【0037】
また、従来では、図15に示す如く、前記シリンダヘッド29の側部に接続する吸気マニホールド46の側壁46a下部側から、各気筒毎のグロープラグ47をシリンダヘッド29の吸気ポート29a下部側に嵌入配置させる際に、該側壁46aにグロープラグ47との干渉を回避する逃がしとして凹部dを設けているが、この凹部dによって空気流を乱し空気の吸入効率が低下するという難点があった。(図5参照)
このため、図16に示す如く、該吸気マニホールド46内にグロープラグ47を嵌入配置し、吸気マニホールド46の側壁46aに設けた接続端子tとグロープラグ47の電極とを導電バー48にて接続することにより、グロープラグ47を、空気の吸入効率を低下させることなく吸気ポート29a下部側に嵌入配置させることが可能となるから、燃焼の改善を行うことができると共に、吸気マニホールド46の組立が容易となる。
【0038】
また、図17に示す如き4弁式燃焼室のシリンダヘッド29における吸気ポート29aにおいて、従来では、図18(a)に示す如く、吸気ポート29aのバルブv近傍にヘリカル部hを設け、このヘリカル部hによって空気が螺旋状に旋回しながら気筒内に流入し旋回流rを形成させるようにしているが、燃焼の改善を目的として旋回流rが強くなるような形状にすると、ヘリカル部hでの抵抗が増加して吸入空気量が減少し、場合によっては逆に燃焼が悪化することがある。
【0039】
このため、図18(b)に示す如く、該吸気ポート29aの入口近傍に螺旋形状の旋回起流板sを配置させることにより、吸気ポート29a内において旋回流rの起流が可能となるから、吸入空気量を減少させることなく強い旋回流rを形成させ、燃焼の改善を図ることができる。
【0040】
また、排気ガス中に含まれるPM(粒子状物質)を補集して再生処理を行うDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)50を有するエンジンにおいて、図19に示す如く、DPF50を内装するDPFケース50aの出口側に、排気ガスの温度を検出する温度センサ51と排気ガスによる抵抗値を計測する電線52とを設けることにより、電線52の抵抗値が大きい場合はPMが電線52に付着していると判断し、温度差による抵抗値の誤認識を防ぐため各温度域における抵抗値を閾値として、閾値との差が一定以上のときはDPF50の再生が必要と判断する。
【0041】
また、排気ガス中に含まれるPMを補集して再生処理を行うDPF50とDOC(酸化触媒)53とを有するエンジンにおいて、従来では、排気ガスが高温の場合バイパス等を用いてDOC53を通さずにDPF50へ導く方法が採用されているが、バイパス等を用いた場合構造的に大きくなり農作業車の如く限られたスペースのものでは搭載が不可能となってしまう。
【0042】
このため、図20(a)に示す如く、構造的に大きさを最小限とするようDOC53を内装したDOCケース53a内の中心に、排気ガスの流量を変化可能な流路開閉バルブ53bを備えたバイパス流路53cを設け、通常の場合には、流路開閉バルブ53bを閉じて排気ガスがDOC53を通過するよう制御するが、この制御時にDOCケース53aの入口近傍に配置した適宜の温度センサにより排気ガスの昇温を検出した際には、図20(b)に示す如く、流路開閉バルブ53bを開いて排気ガスをDOC53を通さずにバイパス流路53cを通過させるよう制御することにより、過昇温を防ぐことができる。なお、DOC53を通過する排気ガスの量を流路開閉バルブ53bにより変化させて任意の温度制御を可能とすることができる。
【0043】
また、農作業車としてのコンバインにおいて、図21(a)に示す如く、籾の排出を行う籾排出スイッチ54の入力と共に、この入力による信号によって前記ECU18から指令を送り、図21(b)に示す如く、籾排出時においてパイロット噴射p,メイン噴射mとは別にポスト噴射xを行い、このポスト噴射xにより排気温度を上昇させて前記DPF50の再生を定期的に行うことができる。
【0044】
また、従来の電子制御エンジンにおいて、図22に示す如く、クランク軸55と同期して回転するクランクホイール56による角度パルスの発生を角度センサ57によって読み取ると共に、エンジン回転数の1/2の回転比となるカムホイール58とカムセンサ59及び前記ECU18により各気筒のストロークを判別し、その確定後に燃料の噴射が開始されるため、クランク軸55が2回転する間は気筒判別ができないこととなり、メカ制御エンジンに比し始動性が劣るという難点があった。
【0045】
このような難点を改良するため、エンジン始動直後のストローク判別中に、カムホイール58に設けている各気筒の上死点に対応する認識用突起k(#1,#2,#3,#4)の高さを、従来同じ高さであったものを各気筒毎に変更してカムセンサ59とのギャップを変えることにより、出力電圧に差を生じストロークの判別が可能となるため始動性を向上させることができる。
【0046】
また、従来の電子制御エンジンにおいて、図23に示す如く、クランク軸55と同期して回転するクランクホイール60を、各気筒数によって等配されたギヤ歯数と一枚の異形歯zとの組合せ配列によって構成し、このクランクホイール60の回転により異形歯zを感知してストロークの判別を行うものについて、その相互認識を可能とする回転角度が必要であり、この確認がなされるまでは燃料噴射等の制御指示を行うことができず、始動性が劣るという難点があった。
【0047】
このような難点を改良するため、#1気筒の上死点を認識するクランクホイール60の異形歯zに対し、前記カムホイール58に設けている各気筒の上死点に対応する認識用突起k(#1,#2,#3,#4)を#1気筒と#4気筒は同位相であることから、認識用突起k(#4)の形状を変えることにより、始動時のストローク判定を行うようにしていた。
【0048】
しかし、更に、図24(a)に示す如く、クランク軸55の位相で相反する#1気筒と#4気筒、及び#2気筒と#3気筒とを各々判別するため、カムホイール58の認識用突起k(#1と#4)及び(#2と#3)の形状(幅方向の大きさ)を各々変えるものや、図24(b)に示す如く、カムホイール58の認識用突起kの形状(幅方向の大きさ)を各気筒毎に変えるものや、図24(c)に示す如く、カムホイール58の認識用突起kの形状(突起の本数)を各気筒毎に変えるもの等により、各気筒に対応した認識用突起kの最初の歯を感知した時点で、気筒判別が可能となるため始動性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
トラクターやコンバイン等の農作業機を始め一般車両にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】負荷動作の予測に基づき負荷モードを切替える手順を示すフローチャート。
【図2】コモンレールによる蓄圧式燃料噴射ディーゼルエンジンを示すシステム図。
【図3】三種類の制御モードによるエンジン回転数と出力トルクの関係を示す線図。
【図4】トラクタにおける全体構成と必要な作用機構の概略設置状態を示す側面図。
【図5】コモンレール式多気筒ディーゼルエンジンにおける全体構成を示す側面図。
【図6】コモンレール式多気筒ディーゼルエンジンにおける全体構成を示す平面図。
【図7】コモンレール式多気筒ディーゼルエンジンにおける全体構成を示す背面図。
【図8】ターボ過給機を中心とする吸・排気及びEGRの作用経路を示した回路図。
【図9】負荷動作の予測に基づきEGR率の制御を行う手順を示すフローチャート。
【図10】負荷の増大を予測した時点で適正EGR率に低下させる状態を示す線図。
【図11】負荷動作の予測に基づきターボの制御を行う手順を示すフローチャート。
【図12】負荷の増大を予測した時点で適正ブースト圧に増大する状態を示す線図。
【図13】(a)一気筒当たり一個のインジェクタによる噴射パターンの状態を示す線図。 (b)一気筒当たり二個のインジェクタによる噴射パターンの状態を示す線図。
【図14】(a)一気筒当たり一個のインジェクタ用電源による噴射パターンを示す線図。 (b)一気筒当たり二個のインジェクタ用電源による噴射パターンを示す線図。
【図15】吸気マニホールドから嵌入するグロープラグの装着状態を示す背断面図。
【図16】吸気マニホールドから嵌入するグロープラグの装着状態を示す背断面図。
【図17】シリンダヘッドにおける吸気ポートと気筒との配置関係を示す斜視図。
【図18】(a)吸気ポートのバルブ近傍ヘリカル部による旋回流形成状態を示す斜視図。 (b)吸気ポートの入口近傍の旋回起流板による旋回流形成状態を示す斜視図。
【図19】抵抗値によるPM再生判断用の電線をDPFに設けた状態を示す平面図。
【図20】(a)バイパス通路の閉により排気ガスがDOCを通過する状態を示す作用図。 (b)バイパス通路を開いて排気ガスがDOCを通過しない状態を示す作用図。
【図21】(a)籾排出スイッチからECUを経て噴射信号を発信する状態を示す概略図。 (b)パイロット噴射,メイン噴射とは別にポスト噴射を行う状態を示す線図。
【図22】電子制御エンジンにおいて各気筒のストローク判別の状態を示す作用図。
【図23】電子制御エンジンにおいて各気筒のストローク判別の状態を示す作用図。
【図24】(a)電子制御エンジンにおいて各気筒判別カムホイールの形状を示す平面図。 (b)電子制御エンジンにおいて各気筒判別カムホイールの形状を示す平面図。 (c)電子制御エンジンにおいて各気筒判別カムホイールの形状を示す平面図。
【符号の説明】
【0051】
1 負荷予測手段
2 モード設定手段
P 急負荷予測モード
Q 通常予測モード
EM エンジン負荷予測モード
【技術分野】
【0001】
この発明は、作業車の作業負荷制御装置に関し、主としてコモンレール式エンジンを搭載した作業車において、負荷変動の事前予測によりエンジン負荷制御を行うものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コモンレール式エンジンにおいて、コモンレール圧が目標圧より実圧が高い状態では、燃料の噴射期間が極端に短くなり、短時間で大きな熱発生を伴う燃焼によって音が発生し、車両性能上好ましくないため、コモンレール又は高圧燃料配管にコモンレール圧を減圧調整するための減圧弁を設けたり、或はコモンレールに蓄えられた高圧燃料を噴射するインジェクタを、開弁するに至る時間よりも短い時間幅で開弁駆動して空打ちさせてコモンレール圧を低下させる技術が知られている。しかし、減圧弁を用いる技術ではコストの上昇を招くし、インジェクタを空打ちさせる技術では減圧開始初期において高温燃焼により音が発生する難点を生じていた。
【0003】
このため、高温燃焼が発生することを予測する高温燃焼予測手段と、この高温燃焼予測手段によって高温燃焼が予測された際にインジェクタによる燃料の噴射を抑制して燃焼を緩慢にさせる燃焼緩慢化手段とを作用させる等、エンジンの運転状態に応じてインジェクタを制御する制御装置を備えているもの等が開示されている。(例えば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開2004−169633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このように、高温燃焼予測手段により高温燃焼の予測を行い、この予測に基づいて燃焼緩慢化手段によりインジェクタによる燃料の噴射を抑制して燃焼を緩慢にさせる燃料噴射の制御技術は知られているが、コモンレール式ディーゼルエンジンを搭載した作業車においては、作業時の負荷動作の変動が大きい場合、エンジン負荷性能の対応制御が低下するという不具合が発生している。
【0005】
そこで本発明は、このようなエンジンの負荷制御時における不具合の発生を回避しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、コモンレール式エンジンを搭載した作業車の作業負荷制御装置において、作業時の負荷の増減変動を事前に予測する負荷予測手段1と、該負荷予測手段1による負荷の事前予測に基づいて、複数のエンジン負荷予測モードEMの中から特定の負荷予測モードを選択して設定するモード設定手段2とを設け、該モード設定手段2にて設定した負荷予測モードに基づいてエンジン制御を行なうことを特徴とする作業車の作業負荷制御装置の構成とする。
【0007】
このような構成により、作業時において、負荷予測手段1により作業車の将来における負荷変動の増減変化を事前に予測し、この負荷変動の事前予測の内容に基づいて、複数のエンジン負荷予測モードEMの中から特定の負荷予測モードを選択して設定する。そして、選択した負荷予測モードによりエンジン制御を行なう。
【0008】
請求項2の発明は、前記複数のエンジン負荷予測モードEMは、少なくともエンジンの急激な負荷が増大することが予測される場合に使用する急負荷予測モードPと、エンジンの急激な負荷の増大が予測されない場合に使用する通常予測モードQを有することを特徴とする請求項1に記載の作業車の作業負荷制御装置の構成とする。
【0009】
このような構成により、作業時において、負荷予測手段1により作業車の将来における負荷変動の増減変化を事前に予測し、この事前予測の内容に基づいて予め負荷予測モードを、モード設定手段2により突然に過大な負荷増大が予測されるときは急負荷予測モードPに変更し、エンジンの急激な負荷の増大が予測されないときは通常予測モードQに変更する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明では、上記作用の如く、作業時において将来の負荷変動の状態変化を事前に予測し、予めこの事前予測の内容に基づいた最適の負荷予測モードを設定することにより、事後に発生する実際の負荷変動の状態変化に際し、モード変更することで備えることができ、エンジン負荷性能の対応制御を良好に維持することができるようになる。これにより、実際にエンジンに負荷が作用したときの黒煙排出や回転低下等の不具合発生を未然に総合的に抑止することができるようになる。
【0011】
請求項2の発明では、上記作用の如く、将来の負荷変動の状態変化を事前に予測し、予めこの事前予測の内容に基づいて、突然に過大な負荷が予測されるときは急負荷予測モードPに、エンジンの急激な負荷の増大が予測されないときは通常予測モードQに負荷予測を切り替え設定することにより、事後に発生する実際の負荷変動の状態変化に備えることができ、エンジン負荷性能の対応制御を良好に維持することができるようになる。そして、エンジンの負荷制御時における黒煙排出や回転低下等の不具合発生を未然に抑止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図2に示す如く、コモンレール式(蓄圧式燃料噴射)を採用している多気筒のディーゼルエンジン8の実施例について、システム図によりその概要を説明する。なお、本実施例ではディーゼルエンジンの実施例を示しているが、ガソリンエンジンでもよい。
【0013】
コモンレール式とは、各気筒へ燃料を噴射する燃料噴射装置への燃料供給を、要求された圧力とするコモンレール10(蓄圧室)を介して行うものである。
燃料タンク11内の燃料は、吸入通路により燃料フィルタ12を介して該エンジン8で駆動される燃料噴射ポンプ13に吸入され、この噴射ポンプ13によって加圧された高圧燃料は、吐出通路14によりコモンレール10に導かれて蓄えられる。
【0014】
該コモンレール10内の高圧燃料は、各高圧燃料供給通路16により気筒数分のインジェクタ17に供給され、エンジンコントロールユニット18(以下ECUという)からの指令に基づき、各気筒毎にインジェクタ17が開弁作動して、高圧燃料が該エンジン8の各燃焼室内に噴射供給され、各インジェクタ17での余剰燃料(リターン燃料)は、各リターン通路19により共通のリターン通路20へ導かれ、リターン通路20によって燃料タンク11へ戻される。
【0015】
また、コモンレール10内の燃料圧力(コモンレール圧)を制御するため燃料噴射ポンプ13に圧力制御弁21が設けられており、この圧力制御弁21はECU18からのデューティ信号によって、燃料噴射ポンプ13から燃料タンク11への余剰燃料のリターン通路20の流路面積を調整するものであり、これによりコモンレール10側への燃料吐出量を調整してコモンレール圧を制御することができる。
【0016】
具体的には、エンジン運転条件に応じて目標コモンレール圧を設定し、レール圧センサ22により検出されるコモンレール圧が目標コモンレール圧と一致するよう、圧力制御弁21を介してコモンレール圧をフィードバック制御する。
【0017】
従来、ディーゼルエンジンでは、メイン噴射に先立って少量の燃料をパルス的に噴射するパイロット噴射を行うことにより、着火遅れを短縮してディーゼルエンジン特有の、所謂ノック音を低減することが知られている。
【0018】
このパイロット噴射は、メイン噴射の前に1回乃至2回に固定して行われるものであったが、前記コモンレール10のシステムを用いることで、エンジンの状況に応じてパイロット噴射の状態を変化させ、騒音の低減や不完全燃焼による白煙又は黒煙の発生を抑制できる。
【0019】
図3に示す如く、農作業車等におけるコモンレール式ディーゼルエンジン8のECU18は、回転数と出力トルクの関係において走行モードM1と通常作業モードM2及び重作業モードM3の三種類の制御モードを設けている。
【0020】
走行モードM1は、回転数の変動で出力も変動するドループ制御として、農作業を行わず移動走行する場合に使用するものであり、例えば、ブレーキを掛けて走行速度を減速したり停止したりすると、この走行負荷の増大に伴ってエンジン回転数が低下するため走行速度の減速や停止を安全に行うことができる。
【0021】
通常作業モードM2は、負荷が変動しても回転数が一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御として、通常の農作業を行う場合に使用するものであり、例えば、トラクターであれば耕耘作業時に耕地が固く耕耘刃に抵抗が掛かるとき、コンバインであれば収穫作業時に収穫物が多く負荷が増大したときでも、出力が変動して回転数を維持するのでオペレータが楽に操縦できる。
【0022】
重作業モードM3は、通常作業モードM2と同様に負荷が変動しても回転数一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御に、負荷限界近くになると回転数を上昇させて出力を上げる重負荷制御を加えた制御で、特に、負荷限界近くで農作業を行う場合に使用するものであり、例えば、トラクターで耕耘作業を行っている際に、特に、固い耕地に遭遇してもエンジン出力が通常の限界を越えて増大するので作業を中断することがない。
【0023】
前述のような、走行モードM1と通常作業モードM2及び重作業モードM3の三種類の制御モードについては、実際にエンジン回転数を検出して、このエンジン回転数の変化によりECU18からの指令により制御を行なうものである。
【0024】
図4に示す如く、農作業車としてのトラクターTは、車台3上にコモンレール式ディーゼルエンジン8を搭載し、このエンジン8にトランスミッション4を連結すると共に、エンジン8を覆うボンネット5から後方側に、操縦装置6a及び操縦席6bを内装するキャビン7を接続して設け、トランスミッション4の後端部にはロータリー装置9を装架した構成とする。15aは前車輪、15bは後車輪を示す。
【0025】
このようなトラクタTにおいて、メインクラッチ23の入切状態、ロータリー装置9を昇降させる昇降レバー24の昇降位置、走行変速レバー25の変速操作位置等を各々検出する各センサ類を設けると共に、トラクタTの負荷変動を事前に予測する負荷予測手段としての負荷予測手段1と、この負荷予測手段1の事前予測に基づき、将来的な負荷の大小に対する負荷予測モードの切り換え設定を自動的に行うモード設定手段としてのモード設定手段2とを設ける構成としている。
【0026】
前述のような、走行モードM1と通常作業モードM2及び重作業モードM3の三種類の制御モードについては、実際にエンジン回転数を検出して、このエンジン回転数の変化によりECU18からの指令によりエンジン制御を行なうものであるので、エンジン制御の反応遅れが生じることがある。特に、大きな負荷が急に作用すると、エンジン回転数は一気に低下してしまい、作業に支障をきたすことになる。
【0027】
そこで、図1のフローチャートに示す如く、各センサ類(走行変速レバーの変速位置の変化、ロータリ昇降レバーの変化、メインクラッチの状態の変化等)の検出値によって、負荷予測手段1により負荷変動の事前予測を行い、この事前予測に基づいてモード設定手段2により負荷モードを設定する。即ち、複数のエンジン負荷予測モードEMをECU18に記憶しておいて、突然に過大な負荷が掛かることが予測される場合には、急負荷予測モードPに事前に切り換えてエンジン制御を行なう。そして、一定時間経過後、通常状態を維持する通常予測モードQに切り換えて制御を行なうようにする。
【0028】
また、エンジンの急激な負荷の増大が予測されない場合には、通常予測モードQによる制御を続行するようにする。
このように、該負荷予測手段1の事前予測に基づきモード設定手段2により負荷モードを事前に設定することで、スモークリミットを通常予測モードの『厳しい値』から急負荷予測モードの『緩い値』に制御することによって、瞬間最大燃料噴射量を増量し回転低下を防止することができる。そして、この増量による黒煙排出量の増加に対しては、コモンレール圧を通常予測モードの『低圧』から急負荷予測モードの『高圧』に、噴射タイミングを通常予測モードの『遅れ』から急負荷予測モードの『進(早い)』に、パイロット噴射を通常予測モードの『無い状態』から急負荷予測モードの『有り状態』に各々制御することによって、黒煙排出や失火性を向上させることができるようになる。
【0029】
また、図5,図6,図7に示す如く、前記コモンレール式ディーゼルエンジン8は、多気筒形態でシリンダブロック28の上部にシリンダヘッド29を、下部にオイルパン30を配設すると共に、前部にギヤケース31とラジエータファン32を、後部にフライホイル33を各々配設させる。34は可変ターボ過給機、35はクランク軸、46は吸気マニホールド、46aは吸気マニホールドの側壁、47はグロープラグを示す。
【0030】
このような構成におけるディーゼルエンジン8の作用経路として、図8に示す如く、可変ターボ過給機34のタービン34a上流側に排気側の排気経路36を接続すると共に、該タービン34aの下流側に外方への排気管37を接続し、この排気管37の該タービン34a側寄りに排出ガス後処理装置38(DOC+DPF)を内設させ、可変ターボ過給機34のコンプレッサ34bの下流側にインタークーラ39を経て吸気側の吸気経路40を接続する。なお、DOCは酸化触媒であり、排出ガス内の不燃物室を燃焼させるものであるので、比較的高温のガスが通過するように配置場所を考慮する必要がある。また、DPFはディーゼルパティキュレートフィルターであり、排出ガス内のPM(粒子状物質)を付着させて除去するものである。
【0031】
該排気経路36の途中と吸気経路40の途中とをEGR経路41によって接続すると共に、排気経路36にEGR経路41を接続するEGRガス導入側にEGR率調整用のEGRバルブ42を配置し、このEGRバルブ42と排気管37の絞り弁43とを前記ECU18に電気制御可能に接続させる。
【0032】
このような作用経路において、図9のフローチャートに示す如く、前記各センサ類の検出値によって、負荷予測機構1により農作業時における負荷動作の事前予測を行い、この事前予測に基づいてEGR率制御機構45aにより、突然に過大な負荷が掛かる駆動開始時等においても、図10の線図に示す如く、エンジン負荷の増大を予測した時点で即座に予測出力の適正なEGR率eへ低下させる高負荷側制御を開始し、その後エンジン負荷状態の検出により、エンジン負荷によるEGR制御を行わせることができるから、事前予測により制御の応答性が上がり排出ガスを良好な状態に保持することができる。
【0033】
また、前記図8に示すように、ディーゼルエンジン8の作用経路において、図11のフローチャートに示す如く、前記各センサ類の検出値によって、負荷予測機構1により農作業時における負荷動作の事前予測を行い、この事前予測に基づいてブースト圧制御機構45bにより、突然に過大な負荷が掛かる駆動開始時等においても、図12の線図に示す如く、エンジン負荷の増大を予測した時点で可変ターボ過給機34への流入量を可変とし即座に予測出力の適正なブースト圧bへ増大させる高負荷側制御を開始し、その後エンジン負荷状態の検出により、エンジン負荷による可変ターボ制御を行わせることができるから、事前予測により制御の応答性が上がり、黒煙排出,トルク変動,回転低下等の不具合を防止することができる。
【0034】
また、前記コモンレール式ディーゼルエンジン8において、一気筒当たり一個のインジェクタ17ではパイロット噴射pとメイン噴射mの時間間隔が、インジェクタ17を作動させる電荷を溜るに必要とする一定時間より短くできないため、高速で回転するほど制限を受け自由度の高い噴射パターンが設定できない。
【0035】
このため、図13(a)の線図に示す如く、一気筒当たり一個のインジェクタ17を用いていることにより、パイロット噴射pとメイン噴射mの時間間隔が固定される従来の噴射パターンから、図13(b)の線図に示す如く、一気筒当たり二個のインジェクタ17を用いることにより、パイロット噴射pとメイン噴射mの時間間隔を制限なく自由に設定できる噴射パターンが実現可能となり燃焼の改善につながる。なお、インジェクタ17を作動させる電源については、各インジェクタ17毎に各々設ける。
【0036】
又、一気筒当たり一つのインジェクタ17用電源では、パイロット噴射pとメイン噴射mの時間間隔に時間的な制限があり、高速で回転するほど噴射パターンに制限がでてくるため、一気筒当たり二個のインジェクタ17用電源を持つことによって、図14(a)の線図に示す如き、パイロット噴射pとメイン噴射mの時間間隔が固定される従来の噴射パターンから、図14(b)の線図に示す如き、パイロット噴射pとメイン噴射mの時間間隔を制限なく自由に設定できる噴射パターンが実現可能となり燃焼の改善に効果がある。
【0037】
また、従来では、図15に示す如く、前記シリンダヘッド29の側部に接続する吸気マニホールド46の側壁46a下部側から、各気筒毎のグロープラグ47をシリンダヘッド29の吸気ポート29a下部側に嵌入配置させる際に、該側壁46aにグロープラグ47との干渉を回避する逃がしとして凹部dを設けているが、この凹部dによって空気流を乱し空気の吸入効率が低下するという難点があった。(図5参照)
このため、図16に示す如く、該吸気マニホールド46内にグロープラグ47を嵌入配置し、吸気マニホールド46の側壁46aに設けた接続端子tとグロープラグ47の電極とを導電バー48にて接続することにより、グロープラグ47を、空気の吸入効率を低下させることなく吸気ポート29a下部側に嵌入配置させることが可能となるから、燃焼の改善を行うことができると共に、吸気マニホールド46の組立が容易となる。
【0038】
また、図17に示す如き4弁式燃焼室のシリンダヘッド29における吸気ポート29aにおいて、従来では、図18(a)に示す如く、吸気ポート29aのバルブv近傍にヘリカル部hを設け、このヘリカル部hによって空気が螺旋状に旋回しながら気筒内に流入し旋回流rを形成させるようにしているが、燃焼の改善を目的として旋回流rが強くなるような形状にすると、ヘリカル部hでの抵抗が増加して吸入空気量が減少し、場合によっては逆に燃焼が悪化することがある。
【0039】
このため、図18(b)に示す如く、該吸気ポート29aの入口近傍に螺旋形状の旋回起流板sを配置させることにより、吸気ポート29a内において旋回流rの起流が可能となるから、吸入空気量を減少させることなく強い旋回流rを形成させ、燃焼の改善を図ることができる。
【0040】
また、排気ガス中に含まれるPM(粒子状物質)を補集して再生処理を行うDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)50を有するエンジンにおいて、図19に示す如く、DPF50を内装するDPFケース50aの出口側に、排気ガスの温度を検出する温度センサ51と排気ガスによる抵抗値を計測する電線52とを設けることにより、電線52の抵抗値が大きい場合はPMが電線52に付着していると判断し、温度差による抵抗値の誤認識を防ぐため各温度域における抵抗値を閾値として、閾値との差が一定以上のときはDPF50の再生が必要と判断する。
【0041】
また、排気ガス中に含まれるPMを補集して再生処理を行うDPF50とDOC(酸化触媒)53とを有するエンジンにおいて、従来では、排気ガスが高温の場合バイパス等を用いてDOC53を通さずにDPF50へ導く方法が採用されているが、バイパス等を用いた場合構造的に大きくなり農作業車の如く限られたスペースのものでは搭載が不可能となってしまう。
【0042】
このため、図20(a)に示す如く、構造的に大きさを最小限とするようDOC53を内装したDOCケース53a内の中心に、排気ガスの流量を変化可能な流路開閉バルブ53bを備えたバイパス流路53cを設け、通常の場合には、流路開閉バルブ53bを閉じて排気ガスがDOC53を通過するよう制御するが、この制御時にDOCケース53aの入口近傍に配置した適宜の温度センサにより排気ガスの昇温を検出した際には、図20(b)に示す如く、流路開閉バルブ53bを開いて排気ガスをDOC53を通さずにバイパス流路53cを通過させるよう制御することにより、過昇温を防ぐことができる。なお、DOC53を通過する排気ガスの量を流路開閉バルブ53bにより変化させて任意の温度制御を可能とすることができる。
【0043】
また、農作業車としてのコンバインにおいて、図21(a)に示す如く、籾の排出を行う籾排出スイッチ54の入力と共に、この入力による信号によって前記ECU18から指令を送り、図21(b)に示す如く、籾排出時においてパイロット噴射p,メイン噴射mとは別にポスト噴射xを行い、このポスト噴射xにより排気温度を上昇させて前記DPF50の再生を定期的に行うことができる。
【0044】
また、従来の電子制御エンジンにおいて、図22に示す如く、クランク軸55と同期して回転するクランクホイール56による角度パルスの発生を角度センサ57によって読み取ると共に、エンジン回転数の1/2の回転比となるカムホイール58とカムセンサ59及び前記ECU18により各気筒のストロークを判別し、その確定後に燃料の噴射が開始されるため、クランク軸55が2回転する間は気筒判別ができないこととなり、メカ制御エンジンに比し始動性が劣るという難点があった。
【0045】
このような難点を改良するため、エンジン始動直後のストローク判別中に、カムホイール58に設けている各気筒の上死点に対応する認識用突起k(#1,#2,#3,#4)の高さを、従来同じ高さであったものを各気筒毎に変更してカムセンサ59とのギャップを変えることにより、出力電圧に差を生じストロークの判別が可能となるため始動性を向上させることができる。
【0046】
また、従来の電子制御エンジンにおいて、図23に示す如く、クランク軸55と同期して回転するクランクホイール60を、各気筒数によって等配されたギヤ歯数と一枚の異形歯zとの組合せ配列によって構成し、このクランクホイール60の回転により異形歯zを感知してストロークの判別を行うものについて、その相互認識を可能とする回転角度が必要であり、この確認がなされるまでは燃料噴射等の制御指示を行うことができず、始動性が劣るという難点があった。
【0047】
このような難点を改良するため、#1気筒の上死点を認識するクランクホイール60の異形歯zに対し、前記カムホイール58に設けている各気筒の上死点に対応する認識用突起k(#1,#2,#3,#4)を#1気筒と#4気筒は同位相であることから、認識用突起k(#4)の形状を変えることにより、始動時のストローク判定を行うようにしていた。
【0048】
しかし、更に、図24(a)に示す如く、クランク軸55の位相で相反する#1気筒と#4気筒、及び#2気筒と#3気筒とを各々判別するため、カムホイール58の認識用突起k(#1と#4)及び(#2と#3)の形状(幅方向の大きさ)を各々変えるものや、図24(b)に示す如く、カムホイール58の認識用突起kの形状(幅方向の大きさ)を各気筒毎に変えるものや、図24(c)に示す如く、カムホイール58の認識用突起kの形状(突起の本数)を各気筒毎に変えるもの等により、各気筒に対応した認識用突起kの最初の歯を感知した時点で、気筒判別が可能となるため始動性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
トラクターやコンバイン等の農作業機を始め一般車両にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】負荷動作の予測に基づき負荷モードを切替える手順を示すフローチャート。
【図2】コモンレールによる蓄圧式燃料噴射ディーゼルエンジンを示すシステム図。
【図3】三種類の制御モードによるエンジン回転数と出力トルクの関係を示す線図。
【図4】トラクタにおける全体構成と必要な作用機構の概略設置状態を示す側面図。
【図5】コモンレール式多気筒ディーゼルエンジンにおける全体構成を示す側面図。
【図6】コモンレール式多気筒ディーゼルエンジンにおける全体構成を示す平面図。
【図7】コモンレール式多気筒ディーゼルエンジンにおける全体構成を示す背面図。
【図8】ターボ過給機を中心とする吸・排気及びEGRの作用経路を示した回路図。
【図9】負荷動作の予測に基づきEGR率の制御を行う手順を示すフローチャート。
【図10】負荷の増大を予測した時点で適正EGR率に低下させる状態を示す線図。
【図11】負荷動作の予測に基づきターボの制御を行う手順を示すフローチャート。
【図12】負荷の増大を予測した時点で適正ブースト圧に増大する状態を示す線図。
【図13】(a)一気筒当たり一個のインジェクタによる噴射パターンの状態を示す線図。 (b)一気筒当たり二個のインジェクタによる噴射パターンの状態を示す線図。
【図14】(a)一気筒当たり一個のインジェクタ用電源による噴射パターンを示す線図。 (b)一気筒当たり二個のインジェクタ用電源による噴射パターンを示す線図。
【図15】吸気マニホールドから嵌入するグロープラグの装着状態を示す背断面図。
【図16】吸気マニホールドから嵌入するグロープラグの装着状態を示す背断面図。
【図17】シリンダヘッドにおける吸気ポートと気筒との配置関係を示す斜視図。
【図18】(a)吸気ポートのバルブ近傍ヘリカル部による旋回流形成状態を示す斜視図。 (b)吸気ポートの入口近傍の旋回起流板による旋回流形成状態を示す斜視図。
【図19】抵抗値によるPM再生判断用の電線をDPFに設けた状態を示す平面図。
【図20】(a)バイパス通路の閉により排気ガスがDOCを通過する状態を示す作用図。 (b)バイパス通路を開いて排気ガスがDOCを通過しない状態を示す作用図。
【図21】(a)籾排出スイッチからECUを経て噴射信号を発信する状態を示す概略図。 (b)パイロット噴射,メイン噴射とは別にポスト噴射を行う状態を示す線図。
【図22】電子制御エンジンにおいて各気筒のストローク判別の状態を示す作用図。
【図23】電子制御エンジンにおいて各気筒のストローク判別の状態を示す作用図。
【図24】(a)電子制御エンジンにおいて各気筒判別カムホイールの形状を示す平面図。 (b)電子制御エンジンにおいて各気筒判別カムホイールの形状を示す平面図。 (c)電子制御エンジンにおいて各気筒判別カムホイールの形状を示す平面図。
【符号の説明】
【0051】
1 負荷予測手段
2 モード設定手段
P 急負荷予測モード
Q 通常予測モード
EM エンジン負荷予測モード
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コモンレール式エンジンを搭載した作業車の作業負荷制御装置において、作業時の負荷の増減変動を事前に予測する負荷予測手段(1)と、該負荷予測手段(1)による負荷の事前予測に基づいて、複数のエンジン負荷予測モード(EM)の中から特定の負荷予測モードを選択して設定するモード設定手段(2)とを設け、該モード設定手段(2)にて設定した負荷予測モードに基づいてエンジン制御を行なうことを特徴とする作業車の作業負荷制御装置。
【請求項2】
前記複数のエンジン負荷予測モード(EM)は、少なくともエンジンの急激な負荷が増大することが予測される場合に使用する急負荷予測モード(P)と、エンジンの急激な負荷の増大が予測されない場合に使用する通常予測モード(Q)を有することを特徴とする請求項1に記載の作業車の作業負荷制御装置。
【請求項1】
コモンレール式エンジンを搭載した作業車の作業負荷制御装置において、作業時の負荷の増減変動を事前に予測する負荷予測手段(1)と、該負荷予測手段(1)による負荷の事前予測に基づいて、複数のエンジン負荷予測モード(EM)の中から特定の負荷予測モードを選択して設定するモード設定手段(2)とを設け、該モード設定手段(2)にて設定した負荷予測モードに基づいてエンジン制御を行なうことを特徴とする作業車の作業負荷制御装置。
【請求項2】
前記複数のエンジン負荷予測モード(EM)は、少なくともエンジンの急激な負荷が増大することが予測される場合に使用する急負荷予測モード(P)と、エンジンの急激な負荷の増大が予測されない場合に使用する通常予測モード(Q)を有することを特徴とする請求項1に記載の作業車の作業負荷制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2008−255941(P2008−255941A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100778(P2007−100778)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
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