説明

作業車両および作業車両の制御方法

【課題】急加速中の加速の低下を抑えることができる作業車両および作業車両の制御方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る作業車両は、エンジンと、タイヤと、動力伝達機構と、制御部とを備える。タイヤは、エンジンからの駆動力によって回転駆動される。動力伝達機構は、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータとトランスミッションとを有し、エンジンからの駆動力をタイヤに伝達する。制御部は、車速に応じてトランスミッションの速度段の変更を制御する。そして、制御部は、車速が所定の第1範囲R1内である場合は、加速度が所定の閾値以下であるか否かを判定し、加速度が所定の閾値以下である場合には、ロックアップクラッチを非連結状態から連結状態に切り換え、加速度が所定の閾値より大きい場合には、ロックアップクラッチを非連結状態に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両および作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダなどの作業車両は、エンジンと、エンジンからの駆動力によって回転駆動される走行輪と、エンジンからの駆動力を走行輪に伝達する動力伝達機構とを備えている。動力伝達機構は、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、トランスミッションとを有しており、ロックアップクラッチの連結・非連結、およびトランスミッションの速度段の切替が制御部によって制御される。例えば、特許文献1に示される作業車両では、第1境界速度段から第4速度段までのトランスミッションの速度段の切替が可能であると共に、ロックアップクラッチの連結・非連結状態の切替が可能である。ここで、従来の作業車両では、ロックアップクラッチの連結・非連結状態の切替は、車速が所定速度以上になっているか否かによって判断される。すなわち、車速が所定速度以上に達した場合に、ロックアップクラッチが連結され、エンジンからの駆動力がロックアップクラッチを介してトランスミッションに伝達される。
【特許文献1】特開2007−107651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のように、ロックアップクラッチの連結状態への切替が、車速によって判断されると、急加速中であっても車速が所定速度に達することによってロックアップクラッチの切替が行われる。この場合、既に大きな加速度が得られている状態であるのにも関わらずロックアップクラッチの切替が行われることにより、かえって加速が鈍くなる恐れがある。
【0004】
本発明の課題は、急加速中の加速の低下を抑えることができる作業車両および作業車両の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明に係る作業車両は、エンジンと、走行輪と、動力伝達機構と、制御部とを備える。走行輪は、エンジンからの駆動力によって回転駆動される。動力伝達機構は、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータとトランスミッションとを有し、エンジンからの駆動力を走行輪に伝達する。制御部は、車速に応じてトランスミッションの速度段の変更を制御する。そして、制御部は、車速が所定の第1範囲内である場合は、加速度が所定の閾値以下であるか否かを判定し、加速度が所定の閾値以下である場合には、ロックアップクラッチを非連結状態から連結状態に切り換える。また、制御部は、加速度が所定の閾値より大きい場合には、ロックアップクラッチを非連結状態に維持する。
【0006】
この作業車両では、車速が第1範囲内である場合には、ロックアップクラッチの非連結状態から連結状態への切替の判定において、加速度が考慮される。すなわち、加速度が閾値より大きい場合には、ロックアップクラッチの非連結状態から連結状態への切替は行われず、ロックアップクラッチは非連結状態に維持される。そして、加速度が閾値以下である場合に、ロックアップクラッチが連結状態に切り換えられる。このため、急加速中には、ロックアップクラッチが非連結状態に維持され、ロックアップクラッチの切替が行われない。これにより、急加速中に加速度が低下することを抑えることができる。
【0007】
第2発明に係る作業車両は、第1発明の作業車両であって、オペレーターがエンジンの目標回転数を指示するためのアクセル装置をさらに備える。そして、第1範囲は、アクセル装置の操作量に応じて定められる。
【0008】
この作業車両では、アクセル装置の操作量に応じて第1範囲が定められることにより、駆動力の変化に対応して第1範囲を定めることができる。これにより、より効率よくロックアップクラッチの切替を行うことができる。
【0009】
第3発明に係る作業車両は、第1発明または第2発明の作業車両であって、トランスミッションの速度段が同じである状態において、ロックアップクラッチが非連結状態である場合に駆動力伝達機構から走行輪に伝達される第1駆動力と、ロックアップクラッチが連結状態である場合に動力伝達機構から走行輪に伝達される第2駆動力とは、車速が第1境界速度である場合に一致し、且つ、車速が第1境界速度を超えた場合に第2駆動力が第1駆動力よりも大きくなる。そして、第1範囲の下限は、第1境界速度と概ね一致している。
【0010】
この作業車両では、車速が第1範囲内である場合は、トランスミッションが同じ速度段ではロックアップクラッチが非連結状態である場合よりも連結状態である場合の方が、駆動力が大きい。このため、この第1範囲においてロックアップクラッチを連結状態にすることによって、高い駆動力を発生させることができる。
【0011】
第4発明に係る作業車両は、第1発明から第3発明のいずれかの作業車両であって、ロックアップクラッチが非連結状態であり且つトランスミッションが所定の低速度段である場合に動力伝達機構から走行輪に伝達される第1駆動力と、ロックアップクラッチが非連結状態であり且つトランスミッションが低速度段よりも一段階高い高速度段である場合に動力伝達機構から走行輪に伝達される第3駆動力とは、車速が第2境界速度である場合に一致し、且つ、車速が第2境界速度より小さい場合には第3駆動力は第1駆動力よりも小さい。そして、第1範囲の上限は、第2境界速度と概ね一致している。
【0012】
この作業車両では、車速が第1範囲内である間は、トランスミッションを上記の低速度段から一段階高い高速度段にシフトアップするよりも低速度段に維持した方が大きな駆動力を発生させることができる。このため、車速が第1範囲内である場合は、トランスミッションを低速度段に維持して、加速度に基づいてロックアップクラッチの切替を行うことによって、トランスミッションの速度段が切り替えられる場合よりも高い駆動力を確保することができる。
【0013】
第5発明に係る作業車両は、第4発明の作業車両であって、制御部は、ロックアップクラッチが非連結状態である状態において、車速が第1範囲の上限を越えた場合は、ロックアップクラッチを非連結状態に維持した状態でトランスミッションの速度段を低速度段から高速度段にシフトアップする。
【0014】
この作業車両では、ロックアップクラッチが非連結状態である場合において、トランスミッションが低速度段である場合の第1駆動力と、高速度段である場合の第3駆動力とが、車速が第1境界速度であるときに一致する。このため、車速が第1範囲の上限を超えたときに、トランスミッションの速度段をシフトアップすることによって、駆動力の差が小さい状態でトランスミッションの速度段を切り替えることができる。これにより、変速時のショックを低減させることができる。
【0015】
第6発明に係る作業車両は、第4発明または第5発明の作業車両であって、上記の第3駆動力と、ロックアップクラッチが連結状態であり且つトランスミッションが低速度段である場合に動力伝達機構から走行輪に伝達される第2駆動力とは、車速が第3境界速度である場合に一致する。制御部は、ロックアップクラッチが連結状態である状態において、車速が第1範囲の上限を越えた場合は、車速が、第1範囲の高速側に連続する第2範囲内である間はロックアップクラッチを連結状態に維持する。そして、制御部は、車速が、第3境界速度に概ね一致する第2範囲の上限を超えたときに、ロックアップクラッチを非連結状態に切り換えると共にトランスミッションの速度段を低速度段から高速度段にシフトアップする。
【0016】
この作業車両では、車速が、第2駆動力と第3駆動力との差が小さくなる第2範囲の上限を超えたときに、ロックアップクラッチの切替およびトランスミッションのシフトアップが行われる。このため、ロックアップクラッチの切替およびトランスミッションのシフトアップに伴うショックを低減させることができる。
【0017】
第7発明に係る作業車両の制御方法は、エンジンと、エンジンからの駆動力によって回転駆動される走行輪と、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータとトランスミッションとを有しエンジンからの駆動力を走行輪に伝達する動力伝達機構とを備える作業車両の制御方法であって、以下のステップを備える。
【0018】
車速に応じて前記トランスミッションの速度段の変更が制御されるステップ:
車速が所定の第1範囲内である場合に、加速度が所定の閾値以下であるか否かが判定されるステップ:
加速度が上記の閾値以下である場合に、ロックアップクラッチが非連結状態から連結状態に切り換えられるステップ:
加速度が上記の閾値より大きい場合に、ロックアップクラッチが非連結状態に維持されるステップ:
この作業車両の制御方法では、車速が第1範囲内である場合には、ロックアップクラッチの非連結状態から連結状態への切替の判定において、加速度が考慮される。すなわち、加速度が閾値より大きい場合には、ロックアップクラッチの非連結状態から連結状態への切替は行われず、ロックアップクラッチは非連結状態に維持される。そして、加速度が閾値以下である場合に、ロックアップクラッチが連結状態に切り換えられる。このため、急加速中には、ロックアップクラッチが非連結状態に維持され、ロックアップクラッチの切替が行われない。これにより、急加速中に加速度が低下することを抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、急加速中には、ロックアップクラッチが非連結状態に維持され、ロックアップクラッチの切替が行われないことにより、加速度の低下を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〔構成〕
本発明の一実施形態に係る作業車両1を図1および図2に示す。図1は、作業車両1の外観図であり、図2は、作業車両1の内部構成を示す模式図である。この作業車両1は、ホイールローダであり、タイヤ4a,4bが回転駆動されることにより自走可能であると共に作業機3を用いて所望の作業を行うことができる。
【0021】
〈作業車両1の外部構成〉
図1に示すように、この作業車両1は、車体フレーム2、作業機3、タイヤ4a,4b、運転室5を備えている。
【0022】
車体フレーム2の前部には、作業機3および一対のフロントタイヤ4aが取り付けられている。作業機3は、油圧ポンプ11(図2参照)からの圧油によって駆動される装置であり、車体フレーム2の前部に装着されたリフトアーム6と、リフトアーム6の先端に取り付けられたバケット7と、これらを駆動する作業機シリンダ8とを有する。
【0023】
車体フレーム2の後部には、運転室5や一対のリアタイヤ4bなどが設けられている。運転室5は、車体フレーム2の上部に載置されており、オペレーターが着座するシートや、後述する操作部12などが内装されている。
【0024】
〈作業車両1の内部構成〉
また、図2に示すように、この作業車両1は、エンジン9、動力伝達機構10、油圧ポンプ11、操作部12、制御部13などを備えている。
【0025】
エンジン9は、ディーゼルエンジンであり、その出力の制御は、シリンダ内に噴射する燃料量を調整することにより行われる。この調整は、エンジン9の燃料噴射ポンプに付設されたガバナを制御することで行われる。ガバナとしては、一般的にオールスピード制御方式のガバナが用いられ、スロットル量に応じた目標回転数となるように、負荷に応じてエンジン回転数と燃料噴射量とを調整する。すなわち、ガバナは目標回転数と実際のエンジン回転数との偏差がなくなるように燃料噴射量を増減する。
【0026】
動力伝達機構10は、ロックアップクラッチ15付きのトルクコンバータ16とトランスミッション17とを有しており、エンジン9からの駆動力を走行輪としてのタイヤ4a,4bに伝達する。
【0027】
トルクコンバータ16は、付設されたロックアップクラッチ15が非連結状態である場合には、オイルを媒体としてエンジン9からの駆動力を伝達する。ロックアップクラッチ15は、連結状態と非連結状態とに切替可能であり、連結状態において、トルクコンバータ16の入力側と出力側とを連結する。このロックアップクラッチ15は、油圧作動式のクラッチであり、ロックアップクラッチ15への圧油の供給が制御部13によって制御されることにより、連結状態と非連結状態とを切り換えることができる。
【0028】
トランスミッション17は、前進走行段に対応する前進クラッチCFと、後進走行段に対応する後進クラッチCRとを有しており、各クラッチCF,CRの連結状態・非連結状態を切り換えることによって、前進・後進を切り換える。また、トランスミッション17は、複数の速度段に対応した複数の速度段クラッチC1−C4を有しており、減速比を複数段階に切り換えることができる。このトランスミッション17では、第1速度段から第4速度段までの4段階の速度段に切替可能であり、各速度段に対応して4つの速度段クラッチC1−C4が設けられている。各速度段クラッチC1−C4は、油圧作動式の油圧クラッチであり、各クラッチC1−C4への圧油の供給が制御部13によって制御されることにより、連結・非連結状態を切り換えることができる。また、トランスミッション17の出力軸には、トランスミッション17の出力軸の回転数を検出する車速センサ18が設けられている。車速センサ18からの検出信号は、制御部13に入力される。
【0029】
トランスミッション17から出力された駆動力は、プロペラシャフト19などを介してタイヤ4a,4bに伝達される。
【0030】
この作業車両1において、エンジン9の出力の一部は、トルクコンバータ16、トランスミッション17等を介してタイヤ4a,4bに伝達される。また、エンジン9の出力の残りは、PTO軸20を介して油圧ポンプ11に伝達される。これにより油圧ポンプ11が駆動され、油圧ポンプ11から吐出された圧油が図示しない操作弁を介して油圧アクチュエータに伝達される。油圧アクチュエータは、例えば、上述した作業機シリンダ8であり、これにより作業機3が作動される。
【0031】
操作部12は、オペレーターが操作するものであり、オペレーターがエンジン9の目標回転数を指示するためのアクセル装置としてのアクセルペダル21を有する。アクセルペダル21は、オペレーターによって踏み込み操作され、アクセルペダル21の踏み込み操作量に対応したスロットル信号が制御部13に入力される。なお、図2では図示されていないが、操作部12は、アクセルペダル21以外にも、ステアリング、ブレーキ、作業機3を操作するための作業機操作部材、前後進を切り替えるための前後進切替部材などを有しており、これらの操作内容は、操作信号として制御部13に送られる。
【0032】
制御部13は、操作部12や、車速センサ18などのセンサからの信号に応じて上述した各種の構成部品の動作を制御する。例えば、制御部13は、アクセルペダル21から入力されたスロットル信号に応じた指令信号をガバナに出力し、スロットル信号に応じた目標回転数が得られるように、エンジン9を制御する。また、制御部13は、車両の走行状態に応じて、トランスミッション17やトルクコンバータ16を制御して、自動的にトランスミッション17の速度段の切替およびロックアップクラッチ15の切替を行うことができる。以下、制御部13による自動変速制御について詳細に説明する。
【0033】
〔制御部13による自動変速制御〕
シフトアップ時の作業車両1の速度段の変化と、各速度段における駆動力−車速特性曲線L1TC〜L4TC,L2LU〜L4LUとを図3に示す。
【0034】
図3において、「F2TC」や「F2LU」のように表示されている白抜き矢印が速度段の変化を示している。この表示において「F」が含まれている場合は、トランスミッション17が前進状態であることを示している。「TC」が含まれている場合は、ロックアップクラッチ15が非連結状態であり、トルクコンバータ16のオイルによって駆動力が伝達されている状態を示している。「LU」が含まれている場合は、ロックアップクラッチ15が連結状態であり、トルクコンバータ16の入力側と出力側とがロックアップクラッチ15によって直結されている状態を示している。また、これらの表示に含まれている数字は、各数字に対応したトランスミッション17の速度段が選択されていることを示している。例えば、「F1TC」では、トランスミッション17の速度段が第1速度段となっている。
【0035】
また、図3の駆動力−車速特性曲線L1TC〜L4TC,L2LU〜L4LUを示すグラフにおいて縦軸は駆動力であり、横軸は車速である。なお、ここでいう駆動力は、動力伝達機構10からタイヤ4a,4bに伝達される駆動力を示している。図3において、符号「L1TC」が付された曲線は、作業車両1の速度段が「F1TC」である場合の駆動力−車速特性曲線を示している。同様に、「L2TC」、「L3TC」、「L4TC」の各曲線は、作業車両1の速度段が「F2TC」、「F3TC」、「F4TC」である場合の駆動力−車速特性曲線をそれぞれ示している。また、「L2LU」、「L3LU」、「L4LU」の各曲線は、作業車両1の速度段が「F2LU」、「F3LU」、「F4LU」である場合の駆動力−車速特性曲線をそれぞれ示している。
【0036】
この作業車両1では、制御部13は、車速に応じて速度段の変更を制御するが、車速が所定の範囲内(図3の第1範囲R1、第3範囲R3,第5範囲R5)である場合には、車速だけではなく車両の加速度も考慮してロックアップクラッチ15の切替が判断される。
【0037】
まず、作業車両1が車速ゼロの状態から発進する場合、作業車両1の速度段は「F1TC」となっている。図4に速度段「F1TC」からシフトアップする場合の制御フローを示す。ここでは、車速が第1速度V1に達したか否かが判定される(第1ステップS1)。車速が第1速度V1に達すると加速度に関わらず、速度段が「F1TC」から「F2TC」にシフトアップされる(第2ステップS2)。車速が第1速度V1に達するまでは、速度段が「F1TC」に維持される。ここで、第1速度V1は、作業車両1の速度段が「F1TC」である場合の駆動力と、速度段が「F2TC」である場合の駆動力とが一致する速度である。なお、制御部13は、入力されたトランスミッション17の出力軸の回転数から以下の(数式1)により車速を算出している。
(数式1) V(n)=N(n) ×A / 1000
ここで、V(n):車速、N(n):出力軸の回転数、A:ギヤ比によって求まる所定の定数、である。
【0038】
次に、図3に示すように、車速が第1速度V1から第2速度V2の間である場合は、作業車両1の速度段は「F2TC」に維持される。車速が、第2速度V2と第3速度V3との間の第1範囲R1内である場合は、加速度≦閾値aという判定条件が満たされるか否かが常に判断される(図4の第3ステップS3〜第5ステップS5)。上記判定条件が成立した場合、すなわち、加速度が閾値a以下となった場合は、上記判定条件が成立した時点で、ロックアップクラッチ15が連結状態に切り替えられ、速度段が「F2TC」から「F2LU」に切り替えられる(図4の第6ステップS6)。上記判定条件が成立していない場合、すなわち、加速度が閾値aより大きい場合は、ロックアップクラッチ15は連結状態に切り替えられず、速度段は「F2TC」に維持される。ここで、図3に示すように、第2速度V2(第1境界速度)は、速度段が「F2TC」である場合の駆動力(第1駆動力)と、速度段が「F2LU」である場合の駆動力(第2駆動力)とが一致する速度である。また、第3速度V3(第2境界速度)は、速度段が「F2TC」である場合の駆動力(第1駆動力)と、速度段が「F3TC」である場合の駆動力(第3駆動力)とが一致する速度である。なお、制御部13は、以下の(数式2)により加速度を算出している。
【0039】
(数式2)

【0040】
ここで、α(n):加速度、Δt:サンプリング時間、T:時定数、である。
【0041】
なお、上記のように速度段が「F2TC」から「F2LU」に切り替えられると、その後、車速が上記の第1範囲R1内である間は、加速度が再び閾値を超えても、速度段は「F2TC」に戻ることはなく「F2LU」に維持される。
【0042】
速度段が「F2TC」である状態で、車速が第1範囲R1の上限すなわち第3速度V3に達すると、速度段が「F2TC」から「F3TC」に切り替えられる(図4の第7ステップS7)。すなわち、ロックアップクラッチ15の切替は行われずにトランスミッション17の速度段のシフトアップのみが行われる。
【0043】
速度段が「F2LU」である状態で、車速が第1範囲R1の上限を越えると、車速が第4速度V4に達するまでは、速度段が「F2LU」に維持される(図4の第8ステップS8参照)。車速が第4速度V4に達すると、速度段が「F2LU」から「F3TC」にシフトアップされる(図4の第9ステップS9)。ここで、図3に示すように、第4速度V4(第3境界速度)は、速度段が「F2LU」である場合の駆動力と、速度段が「F3TC」である場合の駆動力とが一致する速度である。
【0044】
速度段が「F3TC」である場合、車速が第5速度V5に達するまでは、速度段は「F3TC」に維持される。なお、速度段が「F3TC」以上の速度段である場合のシフトアップ時の制御フローは、図4と同様であるため省略する。車速が増大して第5速度V5を越えた場合は、車速が第5速度V5と第6速度V6との間の第3範囲R3内である間は、常に上記と同様の加速度の判定が行われる。すなわち、上記判定条件が成立した場合は、上記判定条件が成立した時点で、ロックアップクラッチ15が連結状態に切り替えられ、速度段が「F3TC」から「F3LU」に切り替えられる。上記判定条件が成立していない場合は、ロックアップクラッチ15は連結状態に切り替えられず、速度段は「F3TC」に維持される。なお、第5速度V5(第1境界速度)は、速度段が「F3TC」である場合の駆動力と、速度段が「F3LU」である場合の駆動力とが一致する速度である。また、第6速度V6(第2境界速度)は、速度段が「F3TC」である場合の駆動力と、速度段が「F4TC」である場合の駆動力とが一致する速度である。
【0045】
速度段が「F3TC」である状態で、車速が第3範囲R3の上限すなわち第6速度V6を越えると、速度段が「F3TC」から「F4TC」に切り替えられる。また、速度段が「F3LU」である状態で、車速が第3範囲R3の上限を越えると、車速が第7速度V7に達するまでは、速度段が「F3LU」に維持される。そして、車速が第7速度V7に達したときに、速度段が「F3LU」から「F4TC」にシフトアップされる。なお、第7速度V7(第3境界速度)は、速度段が「F3LU」である場合の駆動力と、速度段が「F4TC」である場合の駆動力とが一致する速度である。
【0046】
速度段が「F4TC」である場合、車速が第8速度V8に達するまでは、速度段は「F4TC」に維持される。そして、車速が増大して第8速度V8を越えた場合は、車速が第8速度V8以上の第5範囲R5内である間は常に上記と同様の加速度の判定が行われる。上記判定条件が成立した場合は、上記判定条件が成立した時点で、ロックアップクラッチ15が連結状態に切り替えられ、速度段が「F4TC」から「F4LU」に切り替えられる。上記判定条件が成立していない場合は、ロックアップクラッチ15は連結状態に切り替えられず、速度段は「F4TC」に維持される。なお、第8速度V8(第1境界速度)は、速度段が「F4TC」である場合の駆動力と、速度段が「F4LU」である場合の駆動力とが一致する速度である。
【0047】
なお、図3では、第1範囲R1、第3範囲R3、第5範囲R5は、アクセル操作量が最大である場合に設定される範囲を示しており、アクセル操作量が最大ではない場合は、図3とは異なる第1範囲R1、第3範囲R3、第5範囲R5が設定される。すなわち、アクセル操作量が異なれば、駆動力−車速特性曲線が異なるため、各速度段における駆動力が一致する速度が異なる。このため、各速度段における駆動力が一致する速度の変化に応じて、すなわちアクセル操作量に応じて第1範囲R1、第3範囲R3、第5範囲R5が定められる。
【0048】
また、上述した自動変速制御はシフトアップ時の制御であり、シフトダウン時には上記とは異なる制御が行われる。
【0049】
〔特徴〕
この作業車両1では、車速が第1範囲R1、第3範囲R3、第5範囲R5内である場合には、ロックアップクラッチ15の非連結状態から連結状態への切替の判定において、加速度が考慮される。すなわち、加速度が閾値aより大きい場合には、ロックアップクラッチ15の非連結状態から連結状態への切替は行われず、ロックアップクラッチ15は非連結状態に維持される。そして、加速度が閾値a以下である場合に、ロックアップクラッチ15が連結状態に切り換えられる。このため、急加速中には、ロックアップクラッチ15の切替が行われず、加速度が低下することが抑えられる。また、加速度が小さい場合にロックアップクラッチ15が連結状態とされることによって、一定速度で走行している場合や、登坂時に大きな駆動力を必要としている場合のように、ロックアップクラッチ15を作動させる(連結状態にする)のに適した走行状態でロックアップクラッチ15を作動させることができる。
【0050】
また、図3に示されるように、第1範囲R1、第3範囲R3、第5範囲R5は、ロックアップクラッチ15が連結状態である場合の駆動力(駆動力−車速特性曲線L2LU,L3LU,L4LU参照)が、ロックアップクラッチ15が非連結状態である場合の駆動力(駆動力−車速特性曲線L1TC〜L4TC参照)よりも大きくなる車速の範囲である。このため、第1範囲R1、第3範囲R3、第5範囲R5において、ロックアップクラッチ15が非連結状態から連結状態に切り替えられることによって、高い駆動力を発生させることができる。
【0051】
また、ロックアップクラッチ15が非連結状態である場合には、車速が第3速度V3や第6速度V6を越えたときにトランスミッション17の速度段が高速側に切り換えられるが、ロックアップクラッチ15が連結状態である場合には、車速が第3速度V3や第6速度V6を越えても直ぐには変速は行われず、第4速度V4や第7速度V7を越えたときに、ロックアップクラッチ15の連結状態への切替とトランスミッション17の速度段の高速側への切替とが行われる。これにより、変速前と変速後との駆動力の差が小さい状態で変速を行うことができ、変速時のショックを低減させることができる。
【0052】
〔他の実施形態)
(a)
上記の実施形態では、作業車両としてホイールローダが例示されているが、他の作業車両にも本発明を適用することができる。
【0053】
(b)
車速および加速度の算出は上記の手法に限られるものではなく、他の計算方法により算出されてもよい。或いは、車速および加速度を検出する別途のセンサが備えられてもよい。
【0054】
(c)
上記の実施形態では、第1範囲R1の下限は、第2速度V2と一致しているが、完全に一致していなくてもよく、第2速度V2に対して10%の範囲で増減してもよい。ただし、第2速度V2より低速側であることが望ましい。また、第1範囲R1の上限は、第3速度V3と一致しているが、完全に一致していなくてもよく、第3速度V3に対して10%の範囲で増減してもよい。ただし、第3速度V3より高速側であることが望ましい。またこの場合、第1範囲R1の上限と第3速度V3との差は、第1範囲R1の下限と第2速度V2との差よりも小さいことが望ましい。第3範囲R3の上限および下限、第5範囲R5の上限および下限についても同様である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、急加速中に加速度が低下することを抑えることができる効果を有し、作業車両および作業車両の制御方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】作業車両の外観図。
【図2】作業車両の内部構成を示す概略図。
【図3】シフトアップ時の自動変速制御を示す図。
【図4】シフトアップ時の制御フローの一部
【符号の説明】
【0057】
9 エンジン
4a,4b タイヤ(走行輪)
15 ロックアップクラッチ
16 トルクコンバータ
17 トランスミッション
10 動力伝達機構
13 制御部
1 作業車両
21 アクセルペダル(アクセル装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンからの駆動力によって回転駆動される走行輪と、
ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータとトランスミッションとを有し、前記エンジンからの駆動力を前記走行輪に伝達する動力伝達機構と、
車速に応じて前記トランスミッションの速度段の変更を制御し、車速が所定の第1範囲内である場合は、加速度が所定の閾値以下であるか否かを判定し、加速度が前記閾値以下である場合には、前記ロックアップクラッチを非連結状態から連結状態に切り換え、加速度が前記閾値より大きい場合には、前記ロックアップクラッチを非連結状態に維持する制御部と、
を備える作業車両。
【請求項2】
オペレーターが前記エンジンの目標回転数を指示するためのアクセル装置をさらに備え、
前記第1範囲は、前記アクセル装置の操作量に応じて定められる、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記トランスミッションの速度段が同じである状態において、前記ロックアップクラッチが非連結状態である場合に前記動力伝達機構から前記走行輪に伝達される第1駆動力と、前記ロックアップクラッチが連結状態である場合に前記動力伝達機構から前記走行輪に伝達される第2駆動力とは、車速が第1境界速度である場合に一致し、且つ、車速が前記第1境界速度を超えた場合に前記第2駆動力が前記第1駆動力よりも大きくなり、
前記第1範囲の下限は、前記第1境界速度と概ね一致している、
請求項1または2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記ロックアップクラッチが非連結状態であり且つ前記トランスミッションが所定の低速度段である場合に前記動力伝達機構から前記走行輪に伝達される第1駆動力と、前記ロックアップクラッチが非連結状態であり且つ前記トランスミッションが前記低速度段よりも一段階高い高速度段である場合に前記動力伝達機構から前記走行輪に伝達される第3駆動力とは、車速が第2境界速度である場合に一致し、且つ、車速が前記第2境界速度より小さい場合には前記第3駆動力は前記第1駆動力よりも小さく、
前記第1範囲の上限は、前記第2境界速度と概ね一致している、
請求項1から3のいずれかに記載の作業車両。
【請求項5】
前記制御部は、前記ロックアップクラッチが非連結状態である状態において、車速が前記第1範囲の上限を越えた場合は、前記ロックアップクラッチを非連結状態に維持した状態で前記トランスミッションの速度段を前記低速度段から前記高速度段にシフトアップする、
請求項4に記載の作業車両。
【請求項6】
前記第3駆動力と、前記ロックアップクラッチが連結状態であり且つ前記トランスミッションが前記低速度段である場合に前記動力伝達機構から前記走行輪に伝達される第2駆動力とは、車速が第3境界速度である場合に一致し、
前記制御部は、前記ロックアップクラッチが連結状態である状態において、車速が前記第1範囲の上限を越えた場合は、車速が前記第1範囲の高速側に連続する第2範囲内である間は前記ロックアップクラッチを連結状態に維持し、車速が、前記第3境界速度に概ね一致する前記第2範囲の上限を超えたときに、前記ロックアップクラッチを非連結状態に切り換えると共に前記トランスミッションの速度段を前記低速度段から前記高速度段にシフトアップする、
請求項4または5に記載の作業車両。
【請求項7】
エンジンと、前記エンジンからの駆動力によって回転駆動される走行輪と、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータとトランスミッションとを有し前記エンジンからの駆動力を前記走行輪に伝達する動力伝達機構とを備える作業車両の制御方法であって、
車速に応じて前記トランスミッションの速度段の変更が制御されるステップと、
車速が所定の第1範囲内である場合に、加速度が所定の閾値以下であるか否かが判定されるステップと、
加速度が前記閾値以下である場合に、前記ロックアップクラッチが非連結状態から連結状態に切り換えられるステップと、
加速度が前記閾値より大きい場合に、前記ロックアップクラッチが非連結状態に維持されるステップと、
を備える作業車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−103258(P2009−103258A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277086(P2007−277086)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】