説明

作業車両の昇降装置

【課題】昇降可能な作業機の下降をロックすることが可能な作業車両の昇降装置において、作業機の下降ロック作業を行ない忘れることによる作業機の意図しない下降作動が防止される作業車両の昇降装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、作業機を昇降させるリフトシリンダ12と、該リフトシリンダ12を伸縮作動させる油圧制御回路14とを備え、前記油圧制御回路14の下降側回路に電磁切換バルブ21を介装し、該電磁切換バルブ21が通電されることにより作業機の下降が許容される一方で電磁切換バルブ21が消磁されることにより下降側回路が閉ざされて作業機の下降が阻止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、作業機を昇降させる作業車両の昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機を昇降させるリフトシリンダと、該リフトシリンダを伸縮作動させる油圧制御回路とを備え、前記油圧制御回路に手動で開閉可能な油圧バルブを設け、該油圧バルブを閉めることにより作業機の下降をロック(阻止)する一方で、油圧バルブを開くことにより作業機の下降ロックを解除する特許文献1に示す作業車両の昇降装置が公知になっている。
【特許文献1】特許第2789245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記文献の作業車両の昇降装置では、油圧バルブを閉め忘れることによる作業機の意図しない下降作動を防止することが困難であるという課題がある。
本発明は、上記課題を解決し、昇降可能な作業機の下降をロックすることが可能な作業車両の昇降装置において、作業機の下降ロック作業を行ない忘れることによる作業機の意図しない下降作動が防止される作業車両の昇降装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため本発明の作業車両の昇降装置は、第1に、作業機を昇降させるリフトシリンダ12と、該リフトシリンダ12を伸縮作動させる油圧制御回路14とを備え、前記油圧制御回路14の下降側回路に電磁切換バルブ21を介装し、該電磁切換バルブ21が通電されることにより作業機の下降が許容される一方で電磁切換バルブ21が消磁されることにより下降側回路が閉ざされて作業機の下降が阻止されるように構成されたことを特徴としている。
【0005】
第2に、前記油圧制御回路14の下降側回路に作業機の下降速度が調節可能な下降バルブ23を介装すると共に、前記下降バルブ23に対する下降速度の調節指令及び前記電磁切換バルブ21に対する通電・消磁指令を行なう単一の操作具34を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
以上のように構成される本発明の作業車両の昇降装置によれば、エンジンが停止された場合等に電磁切換バルブへの通電が解除されて電磁切換バルブが消磁し、作業機の下降がロックされるため、作業機の下降ロック作業を行ない忘れることによる作業機の意図しない下降作動を防止できるという効果がある。
【0007】
また、前記油圧制御回路の下降側回路に作業機の下降速度が調節可能な下降バルブを介装すると共に、前記下降バルブに対する下降速度の調節指令及び前記電磁切換バルブに対する通電・消磁指令を行なう単一の操作具を設けることにより、作業機の下降ロック及び下降ロック解除操作と、作業機の下降速度調整操作とを単一の操作具で行なうことができるため、操作性が向上するという効果があるとともに、部品点数が減少して製造コストを低く抑えることが可能になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図示する例に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1,2は、本発明の作業車両の昇降装置を適用したトラクタの側面図及び平面図である。本トラクタは、左右一対のクローラ式の走行装置1L,1R(走行部)と、左右の走行装置1L,1Rに機体フレーム2を介して支持される走行機体3と、走行機体3の後方に昇降装置4を介して昇降駆動可能に連結される図示しない作業機(ロータリ耕耘装置)とを備えている。
【0009】
走行機体3の機体フレーム2上の前部にはエンジンを収容するボンネット6が設置され、機体フレーム2上のボンネット4後方には操縦部を覆うキャビン7が設置されている。
【0010】
昇降装置4は、走行機体3の後端部に上下揺動支持に支持される左右一対の前後方向のリフトアーム8,8と、リフトアーム8の下方に上下揺動自在な状態で配置される左右一対の前後方向のロアリンク9,9と、左右一対のリフトアーム8の先端部と左右のロアリング9の中途部とをそれぞれ連結する左右のリフトロッド11,11と、左右のリフトアーム8をそれぞれ上下揺動させる左右のリフトシリンダ12(図3参照)とを備えている。作業機は、左右のロアリンク9,9及び図示しないトップリンクからなる3点リンク機構によって、走行機体に対して昇降自在に支持される。
【0011】
リフトシリンダ12は、走行機体3の後端部とリフトアーム8の中途部との間に介装される単動式の油圧シリンダであり、伸縮作動によって作業機を昇降させる。くわえて、左右のリフトロッド11,11の何れか一方が複動式の油圧シリンダであるロッドシリンダ13からなり、このロッドシリンダを伸縮作動させることにより、圃場の傾斜に関わらず、作業機の左右傾斜を一定に保持するローリング制御を行なう。
【0012】
上記リフトシリンダ12及びロッドシリンダ13は油圧装置14(図3参照)によって圧油の供給・排出が制御される(図3参照)。そして、この圧油の供給・排出制御によって、上記リフトシリンダ12及びロッドシリンダ13を伸縮作動させる。
【0013】
次に、図3に基づき、昇降装置4の油圧装置14(油圧制御回路)の構成について説明する。
図3は油圧装置の油圧回路図である。油圧装置14は、ロッドシリンダ13への圧油の供給・排出を制御する電磁弁である姿勢制御バルブ16と、リフトシリンダ12への圧油の供給・排出を制御する昇降制御バルブ17と、油圧ポンプ(図示しない)から圧送される圧油を姿勢制御バルブ16側への圧油と昇降制御バルブ17側への圧油とに分流する分流弁18と、リフトシリンダ12から油圧タンク19への圧油の排出経路の途中に設置される油圧バルブ21とを備えている。
【0014】
上記姿勢制御バルブ16は、電気的な制御信号によって、分流弁18からの圧油を油圧タンク19に戻す流路を形成する停止モードと、分流弁18からの圧油をロッドシリンダ13の伸長側圧力室13aに供給するとともに縮小側圧力室13bの圧油を油圧タンク19側に戻す流路を形成する伸長モードと、分流弁18からの圧油をロッドシリンダ13の縮小側圧力室13bに供給するとともに伸長側圧力室13aの圧油を油圧タンク19側に戻す流路を形成する縮小モードとのモード切換を行なうことが可能なように構成されている。
【0015】
姿勢制御バルブ16の停止モード時、ロッドシリンダ13への圧油の排出・供給が停止されるため、走行機体3に対する作業機の相対的な左右傾斜角が固定された状態になる一方で、姿勢制御バルブ16の伸長モード時はロッドシリンダ13が伸長作動し、姿勢制御バルブ16の縮小モード時はロッドシリンダ13が縮小作動する。
【0016】
上記昇降制御バルブ17は、パイロット圧(作動油圧)によって開度が調整される油圧バルブである上昇バルブ22及び下降バルブ23と、上昇バルブ22へのパイロット圧を調製する上昇側比例電磁弁24と、下降バルブ23へのパイロット圧を調整する下降側比例電磁弁26とを備えている。
【0017】
上昇バルブ22は、分流弁18から左右のリフトシリンダ12,12への圧油経路の途中に設けられている。上昇側比例電磁弁24は、入力されるパルス信号のデューティ比に応じた開度で開作動し、この開度に応じた大きさのパイロット圧の圧油を上昇バルブ22側に供給する。
【0018】
上記パイロット圧の大きさ応じた開度で開作動する上昇バルブ22は、分流弁18からの圧油を油路27から左右の各リフトシリンダ12の伸長側圧油室12aに供給し、上昇バルブ22の開度に応じたスペードで作業機を上昇駆動させる。すなわち、油圧装置14は、上昇側比例電磁弁24に入力するパルス信号のディーティ比を調整することによって作業機の上昇速度を制御できるように構成されている。
【0019】
下降バルブ23は、左右のリフトシリンダ12,12から油圧タンク19への圧油経路の途中に設けられている。下降側比例電磁弁26は、入力されるパルス信号のデューティ比に応じた開度で開作動し、この開度に応じた大きさのパイロット圧の圧油を下降バルブ23側に供給する。
【0020】
上記パイロット圧の大きさ応じた開度で開作動する下降バルブ23は、左右の各リフトシリンダ12の伸長側圧油室12aから油路27及び油路28を通過して下降バルブ23に至る圧油を、油路29を介して油圧タンク19に戻すことにより、下降バルブ23の開度に応じたスピードで作業機を下降させる。
【0021】
すなわち、油圧装置14は下降側比例電磁弁26に入力するパルス信号のディーティ比を調整することによって作業機の下降速度を調整できるように構成される他、上記油路28及び油路29等によって作業機を下降させる下降側回路が形成され、この下降側回路に作業機の下降速度を調整可能な下降バルブ23が設置(介装)されている。
【0022】
上記油圧バルブ21は、上記油路29の中途部に設置された電磁切換バルブであり、下降バルブ23から油圧タンク19への圧油の流れを規制して(下降側回路を閉ざして)作業機の下降をロック(阻止)するロックモードと、下降バルブ23から油圧タンク19への圧油の流路を形成して(下降側回路を開いて)作業機の下降を許容するロック解除モードとの状態切換を行なうことが可能なように構成されている。くわえて、電磁切換バルブ21はバネ等の弾性部材によって常にロックモード側に付勢されている他、下降バルブ23から油圧タンク19への圧油流出規制は電磁切換バルブ21に内蔵したチェック弁21aによって行なう。
【0023】
すなわち、油圧装置14は、下降側回路に設置(介装)される上記電磁切換バルブ21に電力(電流)を供給して通電させることによりロック解除モードへの状態切換を行なう一方で、電磁切換バルブ21への電力(電流)供給を停止して消磁させることによりロックモードへの状態切換を行なうように構成されている。以上により、エンジン停止時における電力供給停止状態では、作業機の下降がロックされた状態になる。
【0024】
なお、下降バルブ23は、その構成上、最閉時においても油路28からの圧油が油路29側に流出する場合があるが、このような場合でも上記電磁切換バルブ21を閉作動させることにより、作業機の下降を確実に阻止せしめることが可能になる。
【0025】
上記油圧装置14の上昇側比例電磁弁24、下降側比例電磁弁26及び電磁切換バルブ21等は制御装置31(図4参照)によって作動が制御される。
【0026】
次に、図3乃至5に基づき、昇降装置4の制御装置31の構成について説明する。
図4は、制御装置のブロック図である。トラクタに搭載された制御装置31(マイコン,制御部)の入力側には、前述の操縦部に設置された作業機昇降操作具であるポジションコントロールレバーの揺動操作角を検知するポテンショメータ32(ポジションコントロールレバーポテンショ)と、作業機の走行機体3に対する相対高さを検知するポテンショメータ33(リフトアーム角センサ)と、操縦部に設置された作業機下降速度調整操作具であるダイヤル式操作具34(操作具)の回動操作角を検知するポテンショメータ36(操作具ポテンショ)とが接続されている。
【0027】
一方、制御装置31の出力側には、電磁切換21と、上昇側比例電磁弁24と、下降側比例電磁弁26とが接続されている。
【0028】
ダイヤル式操作具34の回動操作角に応じて下降側比例電磁弁26に入力されるパルス信号のデューティ比が変更される。具体的には、ダイヤル式操作具34の回動操作角を大きくするに従ってパルス信号のディーティ比が大きくなり、作業機下降操作時の下降速度が速くなる。
【0029】
また、ダイヤル式操作具34の回動操作角を所定値(0に近い値)よりも小さくすることにより、電磁切換バルブ21への電力供給が遮断されて電磁切換バルブ21が消磁され、作業機の下降がロックされる一方、ダイヤル式操作具34の回動操作角を上記所定値よりも大きくすることにより、電磁切換バルブ21側に電力が供給されて電磁切換バルブ21が通電し、作業機の下降ロックが解除される。
【0030】
すなわち、ダイヤル式操作具34は下降バルブ23に対する下降速度の調整指令及び前記電磁切換バルブ21に対する通電・消磁指令を行なう単一の操作具になるため、このダイヤル式操作具34によって、作業機の下降速度調整操作と、作業機の下降ロック及び下降ロック解除操作とを行なう。
【0031】
図5は、制御装置の処理フロー図である。制御装置31は処理が開始されると、ステップS1に進む。ステップS1では、操作具ポテンショ36の値を読込むことにより、作業機下降ロック操作を検出し、作業機下降ロック操作が検出されなければステップS2に進む。ステップS2では、電磁切換バルブ21に電力を供給して電磁切換バルブ21を通電状態とし、作業機の下降ロックを解除してステップS3に進む。
【0032】
ステップS3では、ポジションコントロールレバーポテンショ32及びリフトアーム角センサ33の値を読込み、ポジションコントロールレバーポテンショ32の値がリフトアーム角センサ33の値によって決定される決定値よりも小さくなっていることを検知することにより、オペレータの作業機下降操作を検出する。そして、オペレータの作業機下降操作が検出されるとステップS4に進み、それ以外の場合にはステップS5に進む。
【0033】
ステップS4では、下降側比例電磁弁26にダイヤル操作具34の回動操作角に応じたデューティ比のパルス信号を入力することにより、所定下降速度で作業機を下降駆動させ、処理をステップS1に戻す。
【0034】
ステップS5では、ポジションコントロールレバーポテンショ32及びリフトアーム角センサ33の値を読込み、ポジションコントロールレバーポテンショ32の値がリフトアーム角センサ33の値によって決定される決定値よりも大きくなっていることを検知することにより、オペレータの作業機上昇操作を検出する。そして、オペレータの作業機上昇操作が検出されるとステップS6に進み、それ以外の場合にはステップS7に進む。
【0035】
ステップS6では、上昇側比例電磁弁24に所定デューティ比のパルス信号を入力することにより、所定上昇速度で作業機を上昇駆動させ、処理をステップS1に戻す。
【0036】
ステップS7では、上昇側比例電磁弁24及び下降側比例電磁弁26によってパイロット圧を低下させて上昇バルブ22及び下降バルブ23を閉作動させることにより、作業機の昇降を停止させ、ステップS1に処理を戻す。なお、ステップS5からステップS7に進む場合には、オペレータの作業機上昇操作及び作業機下降操作が検出されない状態である。
【0037】
ステップS1において、作業機下降ロック操作が検出されると、ステップS8に進む。ステップS8では、電磁切換バルブ21への電力供給を停止して電磁切換バルブ21を消磁状態とし、作業機の下降ロックを行いステップS7に進む。以上のようにして作業機の昇降制御を行なう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の作業車両の昇降装置を適用したトラクタの側面図である。
【図2】本発明の作業車両の昇降装置を適用したトラクタの平面図である。
【図3】油圧装置の油圧回路図である。
【図4】制御装置のブロック図である。
【図5】制御装置の処理フロー図である。
【符号の説明】
【0039】
12 リフトシリンダ(油圧シリンダ)
14 油圧装置(油圧制御回路)
21 電磁切換バルブ(油圧バルブ)
23 下降バルブ(油圧バルブ)
34 ダイヤル式操作具(操作具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機を昇降させるリフトシリンダ(12)と、該リフトシリンダ(12)を伸縮作動させる油圧制御回路(14)とを備え、前記油圧制御回路(14)の下降側回路に電磁切換バルブ(21)を介装し、該電磁切換バルブ(21)が通電されることにより作業機の下降が許容される一方で電磁切換バルブ(21)が消磁されることにより下降側回路が閉ざされて作業機の下降が阻止されるように構成された作業車両の昇降装置。
【請求項2】
前記油圧制御回路(14)の下降側回路に作業機の下降速度が調節可能な下降バルブ(23)を介装すると共に、前記下降バルブ(23)に対する下降速度の調節指令及び前記電磁切換バルブ(21)に対する通電・消磁指令を行なう単一の操作具(34)を設けた請求項1に記載の作業車両の昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−254269(P2009−254269A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106246(P2008−106246)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】