説明

作業車両の駐車ブレーキ装置

【課題】駐車ブレーキを解除しないと走行できない作業車両において、駐車ブレーキを作動させた状態においても変速機により作業車両を走行状態にすることができ、駐車ブレーキの性能試験を行なうことができるようにする。
【解決手段】駐車ブレーキ装置が、圧力流体を供給することにより解除され、解放することにより作動するネガティブ式の駐車ブレーキと、駐車ブレーキに圧力流体を給排するブレーキ操作弁と、ブレーキ操作弁が圧力流体供給状態のときに走行変速が可能な変速機にブレーキ操作弁と駐車ブレーキを結ぶ管路の流体圧力を検知して入力する圧力検知器と、上記管路の圧力検知器と駐車ブレーキの間の管路を遮断可能に設けた常時開の遮断弁を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の駐車ブレーキ装置、さらに詳しくは、作業車両に装備されるネガティブ式の駐車ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
アーティキュレートダンプトラック、ホイールローダなどの作業車両は、ネガティブ式の駐車ブレーキを備えている。
【0003】
代表的なネガティブ式の駐車ブレーキは、ばねの弾性力によって機械的に作動し、作動状態の駐車ブレーキに運転席でブレーキ操作弁を操作し油圧力を供給すると、油圧力によってばねの弾性力が解放されブレーキが解除される。ブレーキ操作弁を操作し油圧力を解放すると、駐車ブレーキはばねの弾性力によって作動する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、先進技術の作業車両は、駐車ブレーキの引きずり、すなわち駐車ブレーキを作動させた状態での走行を防止するために、走行のための変速機は、駐車ブレーキが解除されたのを検知して中立から前進あるいは後進に変速できる構造になっている。したがって、駐車ブレーキが作動している状態においては、変速機を操作しても作業車両は走行しない。
【特許文献1】特開2004−217009号公報(第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したとおりの形態の従来の作業車両の駐車ブレーキには、次のとおりの解決すべき課題がある。
【0006】
駐車ブレーキの性能試験、例えば変速機を前進3速にして車両を走行状態にしても駐車ブレーキが適正に作動し車両が動かないのを確認する試験を行う場合、変速機を操作しても駐車ブレーキを解除しないと車両は走行状態にならないので、駐車ブレーキの性能試験ができない。
【0007】
したがって、駐車ブレーキの性能試験には、駐車ブレーキを作動させた状態の作業車両にけん引力をかけるための設備、あるいは駐車ブレーキを作動させた状態の作業車両を傾斜面に位置付け自重で動かないことを確認するための傾斜台設備など、大型で費用のかかる設備が必要になる。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、駐車ブレーキを解除しないと変速機を操作しても走行できない作業車両において、駐車ブレーキを作動させた状態においても変速機により作業車両を走行状態にすることができ、駐車ブレーキの性能試験を行なうことができる、作業車両の駐車ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば上記技術的課題を解決する作業車両の駐車ブレーキ装置として、圧力流体を供給することにより解除され、解放することにより作動するネガティブ式の駐車ブレーキと、駐車ブレーキに圧力流体を給排するブレーキ操作弁と、ブレーキ操作弁が圧力流体供給状態のときに走行変速が可能な変速機に、ブレーキ操作弁と駐車ブレーキを結ぶ管路の流体圧力を検知して入力する圧力検知器と、上記管路の圧力検知器と駐車ブレーキの間の管路を遮断可能に設けた常時開の遮断弁とを備えている、ことを特徴とする作業車両の駐車ブレーキ装置が提供される。
【0010】
好適には、遮断弁と駐車ブレーキとの間の管路に圧力流体源を断続可能に接続する常時閉の開閉弁を備えている。
【0011】
さらに、圧力流体が加圧気体であり、圧力流体源として作業車両に装備した加圧空気の封入されたタイヤが用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従って構成された作業車両の駐車ブレーキ装置によれば、駐車ブレーキに圧力流体を給排する管路に設けた遮断弁を、常時は開放状態にし、駐車ブレーキの性能確認を行う場合には、先ずブレーキ操作弁によって駐車ブレーキの圧力流体を解放し駐車ブレーキが効いた作動状態にし、次いで遮断弁を閉状態にし、次にブレーキ操作弁を操作して圧力流体を出力する。
【0013】
この状態においては、駐車ブレーキには閉状態の遮断弁によって圧力流体の供給がないので、駐車ブレーキは効いた作動状態のままになる。一方、ブレーキ操作弁からの圧力流体の圧力は圧力検知器によって検知され、駐車ブレーキが解除状態である信号として変速機に入力される。したがって、駐車ブレーキを作動させた状態においても、変速機により作業車両を走行状態にすることができ、駐車ブレーキの性能試験を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に従って構成された作業車両の駐車ブレーキ装置について、作業車両であるアーティキュレートダンプトラックにおける好適実施形態を図示している添付図面を参照して、さらに詳細に説明する。
【0015】
図2を参照して説明する。アーティキュレートダンプトラック2は、運転室4、エンジン室5および前輪6を有した前車体8と、ダンプシリンダ10によるダンプ作動を自在に取り付けたベッセル12および2軸の後輪14,14を有した後車体16を備えている。前車体8と後車体16は、鉛直に延びる軸線18を中心に連結され、操向シリンダ20によって相対的に屈折され操向される。
【0016】
前車体8の運転室4の下方に電子制御式の変速機22が装備されている。アーティキュレートダンプトラック2は、変速機22の出力軸である推進軸を制動する、後車体16に装備した駐車ブレーキ24を有した駐車ブレーキ装置26を備えている。
【0017】
駐車ブレーキ装置26について、図1を参照して説明する。駐車ブレーキ装置26は、圧力流体源としての空気タンク28からの圧力流体としての加圧気体である加圧空気を供給することにより解除され、解放することにより作動するネガティブ式の前記の駐車ブレーキ24と、駐車ブレーキ24に加圧空気を給排するブレーキ操作弁30と、ブレーキ操作弁30が加圧空気供給状態のときに走行変速が可能な前記の変速機22に、ブレーキ操作弁30と駐車ブレーキ24を結ぶ管路32の空気圧力を検知して入力する圧力検知器34と、圧力検知器34と駐車ブレーキ24の間の管路32を遮断可能に設けた常時開の遮断弁36を備えている。
【0018】
駐車ブレーキ24は、周知の、ばね作動空気圧開放式の乾式ディスク形で、推進軸38と一体になったディスク24aを、空気チャンバ24b内の圧縮コイルばねであるばね24cの機械力によって制動する。空気チャンバ24bは、機械力を伝えるロッド24dが一体になったピストン24eによりスプリング室24fと空気室24gに分けられている。
【0019】
管路32は空気室24gに連結されている。空気室24gに加圧空気を供給しない解放状態においては、ピストン24e、ロッド24dを介したばね24cの力によってディスク24aは制動され駐車ブレーキ24は作動状態になる。空気室24gに加圧空気を供給した状態においては、ピストン24eによってばね24cが圧縮され、ロッド24dを介したばね24cの力は除かれ駐車ブレーキ24の制動は解除される。
【0020】
ブレーキ操作弁30は、周知の、2位置の手動操作弁である。操作ノブ30aを押し込んだ位置(図1の状態)においては、空気タンク28からの加圧空気の管路32への供給を止めるとともに、管路32を大気に解放する。したがって、この状態においては、常時開の遮断弁36を介して駐車ブレーキ24の空気チャンバ24bの空気室24gは、大気に解放され、駐車ブレーキ24は作動状態になる。
【0021】
操作ノブ30aを引き出した位置においては、管路32の大気への解放は止められるとともに、空気タンク28からの加圧空気は管路32に供給される。したがって、この状態においては、常時開の遮断弁36を介して駐車ブレーキ24の空気チャンバ24bの空気室24gに加圧空気が供給され、駐車ブレーキ24は解除状態になる。
【0022】
ブレーキ操作弁30は運転室4(図2)内の操作のし易い、例えばダッシュボードに取り付けられている。
【0023】
圧力検知器34は、周知のエアプレッシャスイッチであり、管路32のブレーキ操作弁30の近くに設置され、管路32の加圧空気の圧力を検知して電子制御式の変速機22の制御器22aに入力する。圧力検知器34によって加圧空気の圧力が検知されているときには制御器22aは「駐車ブレーキ解除状態」と判断し、変速機22の変速、すなわち車両の走行を可能にし、加圧空気の圧力が検知されないときには、制御器22aは「駐車ブレーキ作動状態」と判断し、変速機22の変速による車両の走行を不可能にする。
【0024】
遮断弁36は、手動式の開閉2位置を有した弁で、常時はばね力によって開位置(図1の状態)に位置付けられているが、閉位置にはデテントによって保持を可能に構成されている。遮断弁36は、後車体16(図2)の駐車ブレーキ24の近傍に設置されている。
【0025】
管路32の遮断弁36と駐車ブレーキ24の間には、圧力流体源としての、後輪14のタイヤ14aの封入された加圧気体、例えば加圧窒素を断続可能に接続する常時閉の手動式の開閉弁40を備えている。開閉弁40はタイヤ14aの、開閉弁手段を設けた気体注入バルブ14bにホース42により接続され、ホース42により開閉弁40に加圧気体が供給される。したがって、遮断弁36を閉じ開閉弁40を開けることにより、駐車ブレーキ24の空気チャンバ24bに加圧気体が供給され、駐車ブレーキ24は解除される。
【0026】
作業車両に装備した駐車ブレーキ24の性能確認の手順について説明する。先ずブレーキ操作弁30によって駐車ブレーキ24の圧力流体を解放し、駐車ブレーキ24を効いた作動状態にし、次いで常時開状態の遮断弁36を閉状態にする。
【0027】
次にブレーキ操作弁30を操作して圧力流体を管路32に出力する。この状態においては駐車ブレーキ24には、閉状態の遮断弁36によって圧力流体は供給されないので、駐車ブレーキ24は効いた作動状態に保持され、圧力検知器34によって検知されたブレーキ操作弁30からの圧力流体の圧力は、駐車ブレーキ24が解除状態である信号として変速機22の制御器22aに入力される。
【0028】
そして、変速機22を例えば前進3速にして車両を走行状態にし、駐車ブレーキ24が適正に作動し車両が動かないのを確認する、駐車ブレーキ24の性能試験を行う。
【0029】
上述したとおりの作業車両の駐車ブレーキ装置26の作用効果について説明する。
【0030】
駐車ブレーキ装置26は、遮断弁36を備えることにより、駐車ブレーキ24を作動させた状態においても変速機22によって作業車両であるアーティキュレートダンプトラック2を走行状態にすることができるので、駐車ブレーキ24の性能試験を簡単に行うことができる。従来の、作業車両にけん引力をかけるための設備、あるいは作業車両を傾斜面に位置付けるための傾斜台設備などの大型で費用のかかる設備も不要である。
【0031】
駐車ブレーキ装置26は、遮断弁36を備えているので、遮断弁36と駐車ブレーキ24との間の管路32に圧力流体源を断続可能に接続する常時閉の開閉弁40を備えることにより、車両故障などで圧力流体源の空気タンク28からの加圧空気がなく駐車ブレーキ24を解除できない場合には、遮断弁36を閉じ開閉弁40を通して、別途用意した圧力流体源から圧力流体を供給することにより、駐車ブレーキ24を解除することができ、車両をけん引移動させることができる。
【0032】
駐車ブレーキ装置26は、圧力流体として加圧気体を用い、開閉弁40に圧力流体を供給する圧力流体源として作業車両に装備したタイヤ14aに封入された加圧気体、例えば加圧窒素を用いることにより、作業車両の既存の装置を利用して容易に駐車ブレーキ24を解除することができる。
【0033】
例えば、作業車両としてのアーティキュレートダンプトラック2がトンネル内の工事現場で故障し駐車ブレーキ24が作動した状態のときには、開閉弁40とタイヤ14aをホース42で連結し、遮断弁36を閉じ開閉弁40を開けることにより、駐車ブレーキ24の空気チャンバ24bにタイヤ14aの加圧気体を供給して、駐車ブレーキ24を解除し、ホース42を取り外し、アーティキュレートダンプトラック2をけん引してトンネル内から引き出すことができる。
【0034】
以上、本発明を実施例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、さまざまな変形あるいは修正ができるものである。
【0035】
例えば、本実施の形態においては、圧力流体として加圧気体が用いられているが、圧力流体として圧油を、機器類を油圧用に代えて、用いてもよい。
【0036】
また、本実施の形態においては、作業車両に装備した加圧気体の封入されたタイヤが圧力流体源として用いられているが、加圧気体の充填された可搬式容器、例えば気体ボンベを、圧力流体源として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に従って構成された作業車両の駐車ブレーキ装置の回路図。
【図2】図1に示す駐車ブレーキ装置を備えた作業車両であるアーティキュレートダンプトラックの側面図。
【符号の説明】
【0038】
2:アーティキュレートダンプトラック(作業車両)
14:後輪
14a:タイヤ
22:変速機
24:駐車ブレーキ
26:駐車ブレーキ装置
30:ブレーキ操作弁
34:圧力検知器
36:遮断弁
40:開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力流体を供給することにより解除され、解放することにより作動するネガティブ式の駐車ブレーキと、
駐車ブレーキに圧力流体を給排するブレーキ操作弁と、
ブレーキ操作弁が圧力流体供給状態のときに走行変速が可能な変速機に、ブレーキ操作弁と駐車ブレーキを結ぶ管路の流体圧力を検知して入力する圧力検知器と、
上記管路の圧力検知器と駐車ブレーキの間の管路を遮断可能に設けた常時開の遮断弁とを備えている、ことを特徴とする作業車両の駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
遮断弁と駐車ブレーキとの間の管路に圧力流体源を断続可能に接続する常時閉の開閉弁を備えている、
ことを特徴とする請求項1記載の作業車両の駐車ブレーキ装置。
【請求項3】
圧力流体が加圧気体であり、
圧力流体源として作業車両に装備した加圧気体の封入されたタイヤが用いられる、
ことを特徴とする請求項2記載の作業車両の駐車ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−320444(P2007−320444A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153314(P2006−153314)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000190297)新キャタピラー三菱株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】