説明

光ファイバセンサ装置および温度とひずみの計測方法と光ファイバセンサ

【課題】本発明は、安価な構造で温度とひずみを同時に計測できる光ファイバセンサ装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、OFDR方式に適用される光ファイバセンサ装置であって、光ファイバのコアに形成したFBGからなるひずみ検知用のセンサ部3と、該ひずみ検知用のセンサ部に接続されてその端部に反射部を備えた温度検知用光ファイバからなる温度検知用のセンサ部7とを具備した光ファイバセンサSと、参照用反射端16と、光源12と、受光器13とが備えられ、前記温度検知用光ファイバの光路長の変化量から温度変化を計測し、前記FBGのブラッグ波長のシフト量から前記計測された温度変化に相当するブラッグ波長のシフト量を減算することによりひずみを計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを用いた温度とひずみなどの物理量を計測する光ファイバセンサ装置と温度とひずみの計測方法並びに光ファイバセンサに関し、特に温度とひずみを同時に計測できる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを用いた温度やひずみなどの物理量を計測するセンサは、長寿命であること、軽量であること、細径かつ柔軟性があるため、狭い空間で使用可能であること、光ファイバが絶縁性であるため、電磁ノイズに強いことなどから、橋梁やビルなどの巨大構造物および旅客機や人工衛星などの航空、宇宙機器の健全性の評価に用いることが期待されている。
これら構造物の健全性評価を行うための光ファイバセンサに求められる性能として、ひずみ分解能が高いこと、多点のセンサを有すること(検知範囲が広いこと)、リアルタイムで計測できること、などが挙げられる。
【0003】
これまで種々の光ファイバセンサが提案されているが、前記要求性能を十分に満たす最も有望なものとしてファイバブラッググレーティング(Fiber Bragg Grating;以下FBGと略記する)からなる光ファイバセンサが挙げられる。
FBGとは、光ファイバのコアに周期的な屈折率変化を持たせた光ファイバ型デバイスであり、コアの屈折率変化の周期と実効屈折率によって定まる特定の波長の光を反射する特性を有する。この反射光がブラッグ反射光であり、その反射波長はブラッグ波長と呼ばれる。
このFBGに温度変化やひずみなどが生じると、これに応じてコアの屈折率変化の周期や実効屈折率が変化し、ブラッグ波長がシフトする。このブラッグ波長のシフト量と温度変化量やひずみ量との関係を予め測定しておくことで、ブラッグ波長のシフト量から温度変化やひずみを計測することができる。このFBGからなる光ファイバセンサには、ブラッグ波長のシフト量を計測する手段の測定精度にもよるが、極めて高い分解能で温度変化とひずみを計測することができる特徴がある。
【0004】
また、このFBGからなる光ファイバセンサを用いて温度変化やひずみ量を計測する手段として、以下の方式が知られている。第1の方式として、1本の光ファイバに対してブラッグ波長の異なる複数のFBGを配置して、全てのFBGのブラッグ反射波長域にわたる測定光を連続的に入射して各FBGからのブラッグ波長シフト量を計測する波長多重(Wavelength Division Multiplexing ; 以下、WDMと略記する。)方式を例示することができ、第2の方式として、1本の光ファイバに対してブラッグ波長がほぼ同一の複数のFBGをある一定距離以上の間隔で配置し、全てのFBGのブラッグ波長域にわたる測定光をパルス状に入射して各FBGからのブラッグ波長光の伝搬遅延時間の差に基づいて各FBGの位置を特定するとともに、ブラッグ波長のシフト量を計測する時間多重(Time Division Multiplexing ; 以下、TDMと略記する。)方式を例示することができ、第3の方式として、1本の光ファイバに対してブラッグ波長がほぼ同一の複数のFBGを任意の間隔で配置して、各FBGからのブラッグ反射光と参照用の反射端からの反射光の干渉強度の周期的変化を利用して各FBGの位置を特定するとともに、ブラッグ波長のシフト量を計測する光周波数領域反射測定(Optical Frequency Domain Reflectometry ;以下 OFDRと略記する。)方式を例示することができる。
【0005】
これらの計測手段のうち、特許文献1には、OFDR方式の計測方法について詳細が開示されている。特許文献1によると、OFDR方式の計測方法では、1本の光ファイバに複数個配置されたひずみ検知用のFBGが検知したひずみを、リアルタイムで計測することができる利点を有する。
以上説明したとおり、FBGからなる光ファイバセンサは、FBGに生じた温度変化やひずみを高い分解能で計測できるのが最大の特徴であり、この温度変化やひずみを計測する手段も豊富にあるという利点を有している。
【0006】
このFBGからなる光ファイバセンサ以外の光ファイバセンサとしては、特許文献2に記載の如く光ファイバとその末端に設けたミラーからなる光ファイバセンサが開示されている。特許文献2によると、この光ファイバセンサは人物検知センサとして用いられる。この光ファイバセンサ上を人物が通過すると、光ファイバに曲がりが発生し、測定光の強度が変動する。この光ファイバセンサは光ファイバ端面に設けられたミラーに反射した測定光の強度を測定し、その強度から人物の通過の有無を判断するものである。
しかしながら、この特許文献2に記載されている光ファイバセンサは、ひずみ量と測定光の強度変動(光ファイバの曲がり)に定量的な相関関係が無いので、FBGをセンサとした光ファイバセンサのような正確なひずみ測定ができない問題がある。この特許文献2との比較からも、FBGからなる光ファイバセンサの有用性は明らかである。
【0007】
一方、このFBGからなる光ファイバセンサの一般的な問題点として、温度やひずみなどの物理量が複数項目変化すると、それらの変化量を個別に切り分けて測定することができないことが挙げられる。このため、例えば、ひずみ検知用のセンサとして利用する場合は、検知部の温度変化をひずみの変化として捉えることなく、ひずみを計測することができる光ファイバセンサおよびその計測方法が必要であると考えられる。
このような光ファイバセンサおよびその計測方法として、特許文献1に記載の技術では、複数個配置されたFBGのうち、1つをひずみが作用しない(無ひずみ)状態とし、このFBGのブラッグ波長のシフト量を計測することで、光源の波長掃引の不安定性を取り除くとともに、全てのFBGが同一の温度である場合に限り、ひずみ検知用のFBGの温度補正(つまり、ひずみ検知用のFBGに生じる温度変化の計測)を行えることが記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、ダイヤフラムの変位を計測する変位検知用のセンサとなるFBG(FBGにかかるひずみ量からダイヤフラムの変位を検知しているので、実際はひずみ検知用のセンサとしてFBGを用いている)と同じベース上に温度検知用のセンサとなるFBGを配置し、予め温度検出用のセンサでベースの温度を計測しておき、変位検出用のセンサのブラッグ波長のシフト量から温度変化に相当する波長シフト量を減算することによりダイヤフラムの変位を計測する技術が開示されている。更に、特許文献4では、ひずみ検知用のセンサとなるFBGと温度補償部材を組み合わせてひずみ検知用のセンサが温度変化によるブラッグ波長のシフトを生じないような構造とする技術が開示されている。
【特許文献1】特許第3740500号公報
【特許文献2】特開2005−184772号公報
【特許文献3】特開2000−221085号公報
【特許文献4】特開2005−091151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されているひずみ検知用のFBGの温度補償方法では、それぞれのひずみ検知用のFBGに生じる温度変化が異なる場合にひずみ検知用のFBGの温度補償ができない問題がある。また、特許文献2に記載されている温度検知用のセンサとなるFBGを設ける方法では、温度変化とひずみ(ダイヤフラムの変位)を検知するために2つのFBGを必要とするため、光ファイバセンサが高価となる問題がある。
更に、特許文献3に記載されているひずみ検知用のFBGでは、温度無依存性構造とするために光ファイバセンサが高価となる上に、ひずみ検知用のFBGに生じる温度変化を計測できない問題がある。
【0010】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、温度変化とひずみに対する分解能が高く、多点の計測が可能であり、計測のリアルタイム性に優れ、かつ安価な温度とひずみの計測用の光ファイバセンサと温度とひずみの計測方法、並びに、光ファイバセンサ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光ファイバセンサ装置は、光ファイバのコアに形成したFBGをセンサとし、該センサからのブラッグ反射光と参照用の反射端からの反射光の干渉強度の周期的変化から、前記センサの位置を特定するとともに、前記センサからのブラッグ反射光の波長のシフト量からセンサ部のひずみを計測する光周波数領域反射測定方式に適用される光ファイバセンサ装置であって、光ファイバのコアに形成したFBGからなるひずみ検知用のセンサ部と、該ひずみ検知用のセンサ部に接続されてその端部に反射部を備えた温度検知用光ファイバからなる温度検知用のセンサ部とを具備した光ファイバセンサと、参照用反射端と、光源と、受光器とが備えられ、前記温度検知用光ファイバの光路長の変化量から温度変化を計測し、前記FBGのブラッグ波長のシフト量から前記計測された温度変化に相当するブラッグ波長のシフト量を減算することによりひずみを計測することを特徴とする。
【0012】
本発明において、前記温度検知用のセンサ部となる光ファイバのファイバ長は40m以上であることを特徴とする。
本発明において、前記温度検知用のセンサ部となる光ファイバはチューブに遊挿されていることを特徴とする。
本発明において、前記ひずみ検知用のセンサ部となるFBGと、温度検知用のセンサ部となる光ファイバの一端あるいは両端は面状体に取り付けられてなることを特徴とする。
本発明において、前記面状体は金属薄板でも良い。
【0013】
本発明において、前記ひずみ検知用のセンサ部となる光ファイバの一端部あるいは両端部と、前記温度検知用のセンサ部となる光ファイバの一端部あるいは両端部は接着層により前記面状体に固定されてなる構造でも良い。
本発明において、前記ひずみ検知用のセンサ部となるFBGの一端部あるいは両端部と、前記温度検知用のセンサ部となる光ファイバの一端部あるいは両端部が接着層により前記面状体に固定されてなる構造でも良い。
本発明において、前記光ファイバの光路長の計測結果を基に、温度検知用のセンサとなる光ファイバの光路長の変化から温度変化量を計測するとともに、ひずみ検知用のセンサとなるFBGのブラッグ波長のシフト量から温度検知用のセンサとなる光ファイバで計測した温度変化に相当するブラッグ波長のシフト量を減算してひずみを測定する制御装置は、前記受光器と前記光源に接続した状態で設けられてなる構造でも良い。
【0014】
本発明の温度とひずみの計測方法は、先のいずれかに記載の光ファイバセンサ装置を用い、前記温度検知用のセンサ部となる光ファイバのファイバ長の変化量から温度変化を計測し、ひずみ検知用のセンサとなるFBGのブラッグ反射波長のシフト量から温度検知用センサ部で計測した温度変化によるブラッグ反射波長の変化量を減算してひずみを計測することを特徴とする。
本発明の温度とひずみの計測方法において、前記温度検知用のセンサ部となる光ファイバのファイバ長の変化量から温度変化を計測するに際し、温度検知用のセンサ部となる光ファイバ端面に設けた反射部からの反射光と参照用の反射端からの反射光の干渉強度の周期的変化を利用して温度検知用のセンサ部となる光ファイバ端面の反射部位置を特定して該光ファイバの光路長を計測し、この光路長の変化から温度変化量を計測することができる。
【0015】
本発明の光ファイバセンサは、光ファイバのコアに形成したFBGをセンサとし、該センサからのブラッグ反射光と参照用の反射端からの反射光の干渉強度の周期的変化から、前記センサの位置を特定するとともに、前記センサからのブラッグ反射光の波長のシフト量からセンサ部のひずみや温度を計測する光周波数領域反射測定方式に用いられる光ファイバセンサであって、
光ファイバのコアに形成したFBGからなるひずみ検知用のセンサ部と、該ひずみ検知用のセンサ部に接続されてその端部に反射部を備えた温度検知用光ファイバからなる温度検知用のセンサ部とを具備した光ファイバセンサが備えられ、
前記温度検知用光ファイバの光路長の変化量から温度変化を計測し、前記FBGのブラッグ波長のシフト量から前記計測された温度変化に相当するブラッグ波長のシフト量を減算することによりひずみを計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光ファイバセンサ装置は、温度検知用のセンサ部が光ファイバとその端末に形成した反射部で構成されているので、温度検知用のセンサ部としてFBGを用いる光ファイバセンサや、温度無依存構造を有する光ファイバセンサと比較して安価な光ファイバセンサとして提供することができる。従って、安価な光ファイバを温度検知用として用い、温度補償した状態でFBGにてひずみを計測することができ、正確なひずみ計測を行うことができる光ファイバセンサ装置を提供することができる。
【0017】
本発明の光ファイバセンサ装置において、温度検知用の光ファイバとして40m以上の長さの光ファイバを用いると、OFDR方式にて温度検知用のセンサ部を構成する光ファイバの光路長変化を基に温度変化を求める場合、正確な温度計測ができる。
本発明の光ファイバセンサ装置において、温度検知用のセンサとなる光ファイバをチューブに遊挿してなる構造にすると、温度検知用のセンサ部にひずみが生じても、チューブのみが伸縮し、その内部に収容されている温度検知用のセンサとなる光ファイバにひずみが作用し難いので、温度検知用のセンサ部となる光ファイバはひずみによる光路長変化が生じない。これにより、正確な温度検知ができる。
更に、本発明の光ファイバセンサ装置において、温度検知用のセンサ部となる光ファイバをチューブに遊挿した状態で検知部もしくは面状体に固定するので、ひずみの影響を受けることなく温度計測することができる。
【0018】
本発明の光ファイバセンサ装置において、温度検知用のセンサとなる光ファイバとひずみ検知用のFBGを金属薄板からなる面状体に固定した構造であるので、検知部への取付けが容易となる。また、温度検知用の光ファイバとひずみ検知用のFBGを固定する面状体において、これらを固定した面とは異なる面に接着層を設けることで、検知部への取付けがより容易となる。
本発明の光ファイバセンサ装置において、コネクタを用いて複数の光ファイバセンサを連設している構造であるので、多点にわたる温度とひずみのセンシングが容易に実施できる。また、コネクタの着脱によってセンシングしたい点数の調整が容易にできる。
【0019】
本発明の光ファイバセンサ装置を用いた温度とひずみの計測方法によれば、OFDR方式の計測器を用いるので温度検知用のセンサとなる光ファイバのファイバ長を短くすることができる。
【0020】
また、本発明の光ファイバセンサは、温度検知用のセンサ部を光ファイバとその端末に形成した反射部で構成しているので、OFDR方式にて温度検知用のセンサ部の光ファイバの光路長の変化から温度変化を求める際に使用することができ、更に、その温度計測結果を基にFBGにてひずみを計測する場合に温度補償した状態でひずみの計測を行う場合に使用することができる。
従って本発明の光ファイバセンサによれば、温度検知用のセンサ部としてFBGを用いる光ファイバセンサや、温度無依存構造を有する光ファイバセンサと比較して安価な光ファイバセンサとして提供することができる。即ち、安価な光ファイバを温度検知用のセンサとして用い、温度補償した状態でFBGにてひずみを計測することができる光ファイバセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る温度変化とひずみを計測する光ファイバセンサの基本構造について図面を参照して説明するが、本発明が以下に説明する形態に制限されるものではないことは勿論である。
図1は、本発明に係る温度変化とひずみを計測する光ファイバセンサ(温度ひずみ計測センサ)の基本構造を示す構成図である。図1において本実施形態の光ファイバセンサSは、FBG(ファイバブラッググレーティング)1をコアに備えた光ファイバ2からなるひずみ検知用のセンサ部3と、このセンサ部3に光接続された光ファイバ5の端部に反射部6を形成してなる温度検知用のセンサ部7を備えて構成されている。
【0022】
FBG1は、光ファイバコアの長手方向の屈折率変化分布が一定間隔で変化するように構成したものであり、例えば高屈折率部と低屈折率部とを一定間隔で繰り返す構造としたものである。このFBG1は高い分解能でひずみ計測できる(高い分解能でブラッグ波長のシフト量を計測できる)光学特性を有するものが望ましい。温度検知用のセンサ部7を構成する光ファイバ5は、その一端側を前記ひずみ検知用のセンサ部1の一端側に光接続し、その他端側の端面に適切な反射率を有する反射部6を備えてなり、かつ、前記FBG1と前記反射部6との間の光路長が温度変化に対して大きく変化するような長さを有するものが好ましい。その一例として光ファイバ5は長さ40m以上の光ファイバであることが望ましい。
【0023】
次に、図1に示す基本構造の光ファイバセンサSを備え、光周波数反射測定方式(以下、OFDR方式と略記する。)を適用した光ファイバセンサ装置(温度ひずみ計測センサ装置)の第1の実施形態を図2に示す
この実施形態の光ファイバセンサ装置10は、光カプラ(ファイバカプラ)11と、チューナブルレーザ(TLS;波長可変光源)12と、フォトダイオード(PD;光検出器)13と、参照用反射端16と、先の構造の光ファイバセンサSを備えて概略構成され、チューナブルレーザ12は光ファイバ14を介し、フォトダイオード13は光ファイバ15を介し光カプラ11に光接続され、参照用反射端16は光ファイバ17を介し、光ファイバセンサSは光ファイバ18を介して光カプラ11に光接続されている。即ち、チューナブルレーザ12とフォトダイオード13と参照用反射端16と光ファイバセンサSは光ファイバ14、15、17、18によって光カプラ11を介し連設された構造とされていて、チューナブルレーザ12から出射した測定光を光カプラ11を介して光ファイバ17と光ファイバセンサSに入射できるように構成されている。また、光ファイバ17と光ファイバセンサSに入射した測定光の一部はそれぞれ反射されるので、光カプラ11を介してフォトダイオード13で干渉光として計測することができる。
【0024】
前記構造の光ファイバセンサ装置10において、チューナブルレーザ12は、チューナブルレーザ12から出射した測定光がひずみ検知用のセンサ部3となるFBG1および温度検知用のセンサ部7となる光ファイバ5の端面の反射部6で反射してフォトダイオード13に入射するまでの光路長よりも長いコヒーレント長を有するものが望ましい。また、フォトダイオード13は、チューナブルレーザ12から出射する測定光の波長を変化させた際に、参照用反射端16と反射部6の2つの反射点から得られる光干渉の強度変調を検知できるカットオフ周波数を有するものが望ましい。
【0025】
図2に示す構造の光ファイバセンサ装置10を用いて温度とひずみの計測方法を行うには、チューナブルレーザ12から出射した測定光をFBG1および光ファイバ5に入射し、反射部6において反射させてフォトダイオード13で検出し、チューナブルレーザ12から出射した測定光を参照用反射端16から反射させてフォトダイオード13にて検出するが、この際、以下のような計測を行うものとする。
本発明に係る温度とひずみの計測方法において、ひずみ検知用のFBG1からのブラッグ反射光と、参照用反射端16からの反射光の干渉強度の周期的変化を利用して、該FBG1の位置を特定するとともに、ブラッグ波長のシフト量を計測し、それらと同時に、温度検知用のセンサ部7となる光ファイバ5の端面の反射部6と参照用反射端16からの干渉光強度の周期的変化を利用して温度検知用のセンサ部7となる光ファイバ5の端面の反射部位置を特定して該光ファイバ5の光路長を計測する。
【0026】
更に、前記計測結果を基に、温度検知用のセンサ部7となる光ファイバ5の光路長の変化から温度変化量を計測するとともに、ひずみ検知用のセンサ部3となるFBG1のブラッグ波長のシフト量から、温度検知用のセンサ部7で計測した温度変化に相当するブラッグ波長のシフト量を減算してひずみを計測することができる。
本発明の概要は以上説明の通りであるが、本発明の具体例について以下の各実施例においてより詳細に説明する。
【実施例】
【0027】
「実施例1」
図3は本発明の実施例1に係る温度ひずみ計測用の光ファイバセンサの概略構成図であり、図3(a)は平面図、図3(b)は図3(a)のA−B線に沿う断面図である。
図3に示す光ファイバセンサ20は、先に説明した光ファイバセンサSと同等構造の光ファイバセンサSを面状体21に取り付け、コネクタを備えて構成されている。即ち、本実施例の光ファイバセンサ20は、ひずみ検知用のFBG22とそれに光接続された温度検知用の光ファイバ23とFBG22の入力側となる端部側に光接続された端面をPC研磨したFCコネクタ(以下、FC/PCコネクタと略す)からなるコネクタ25と、光ファイバ23の終端部に光接続されたFC/PCコネクタからなる反射部26と、前記FBG22をその中央部に固定用樹脂にて取り付けた金属薄板等からなる面状体21と、前記温度検知用の光ファイバ23を遊挿したルースチューブ27を具備して構成されている。なお、光ファイバ23はループ状に巻かれて面状体21の上面側に設置されている。また、FBG22の部分がひずみ検知用センサ部30となり、光ファイバ23の部分が温度検知用センサ部31とされてなる。
【0028】
本実施例の光ファイバセンサ20において、ひずみ検知用のセンサとなるFBG22は、フッ化クリプトン(KrF)エキシマレーザとユニフォーム位相マスクを用いた一般的な露光方法により作製されたものであり、本実施例では、グレーティング長(センサ長)を98mm、ブラッグ波長を約1549.5nm、ブラッグ波長における反射率を1%とした。
【0029】
本実施例に適用される温度検知用のセンサ部となる光ファイバ23は、一般的なシングルモードファイバ(以下、SMファイバ)であり、石英ガラスからなるクラッドとゲルマニウム(Ge)をドーピング石英ガラスからなるコアの屈折率差は、約0.3%とされている。
本実施例では、このSMファイバからなる光ファイバ23のファイバ長を約40mとした。該光ファイバ23の端面に形成された反射部26は、フレネル反射(約3.4%の反射率)するファイバ端末やコネクタ端末、全反射(99%以上の反射率)する金属コーティングを施したファイバ端末など、その端面が適当な反射率を有するものが望ましい。
なお、適当な反射率とは、本発明の温度ひずみセンサを計測する計測器の性能にもよるが、0.001%以上の反射率であることが望ましい。本実施例では、温度検知用センサとなる光ファイバ23の端面にFC/PCコネクタ26を接続した。
【0030】
前記コネクタ26が未接続の状態であるとき、その端面はフレネル反射する特性を有する。また、温度検知用のセンサ部31となる光ファイバ23は、その全長をルースチューブ27に挿入した。温度検知用のセンサ部31となる光ファイバ23をルースチューブ27に挿入することにより、温度検知用のセンサ部31にひずみが生じてもルースチューブ27が伸縮するだけで、挿入された光ファイバ23が伸縮しない。つまり、温度検知用のセンサ部31となる光ファイバ23はひずみにより光路長が変化しない。ひずみ検知用のセンサ部30となるFBG22における、温度検知用のセンサ部31となる光ファイバ23が接続された部位とは他方の部位は、本発明の温度ひずみセンサを計測する計測器に接続できる接続点を有することが望ましく、本実施例ではこのような接続点をFC/PCコネクタ25として設けた。
【0031】
この例の温度ひずみセンサは、温度とひずみを計測する対象となる被測定部(以下、検知部)への取付けが容易となるよう、一面あるいは両面が面状体21に固定されている。温度ひずみセンサを一面あるいは両面に固定するための面状体21は金属系材料やプラスチック系材料、ガラス系材料など、平板状であるものであればいかなるものでも構わないが、検知部の温度とひずみを正確に検知するために熱伝導性と弾性率が高い金属系材料が望ましく、さらに該面状体が十分な弾性特性を有するような厚みであることが望ましい。本実施例では、面状体21を厚さ約0.3mmのステンレス鋼板(JIS規定SUS303)から構成した。
【0032】
該面状体21への温度ひずみセンサの固定は、熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂からなる接着剤を用いて行う。本実施例では、ひずみ検知用のセンサ部30となるFBG22および温度検知用のセンサ部31となる光ファイバ23を挿入したルースチューブ27をポリイミド樹脂の接着層33により面状体21上に固定した。より詳細には、溶媒としてN−メチル−2ピロリジノンを含んだポリアミド酸樹脂を塗布した後に、面状体21および温度ひずみセンサを200℃程度に加熱し、N−メチル−2ピロリジノン溶媒を蒸発させるとともにポリアミド酸樹脂の架橋を促進してポリイミド樹脂に化学変化させて硬化し、固定した。ここで、ひずみ検知用のセンサ部30となるFBG22と温度検知用のセンサ部31となる光ファイバ23を挿入したルースチューブ27をポリイミド樹脂で固定したのは、耐熱性が高く、弾性率が高い材料であるため、検知部が高温である場合でも使用でき、かつ、検知部のひずみをひずみ検知用センサとなるFBG22に確実に伝えることができる。
【0033】
また、この光ファイバセンサ20は、検知部への取付けがより容易となるよう、一面あるいは両面を固定する面状体21の少なくとも一方の面状体21におけるセンサ固定面とは他方の面の表面に接着層33aを設けている。この接着層33aには、熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂からなる接着剤や、粘着成分を有するテープを用いることができる。本実施例では、両面に粘着成分を有するシリコーン樹脂系のテープの任意の一面を面状体に貼り付けて接着層33aを形成した。
【0034】
次に、前記基本構造の光ファイバセンサ20を用い、光周波数反射測定方式(OFDR方式)を適用して温度とひずみを計測する方法についてより具体的に説明する。
図4は、本発明の温度とひずみの計測方法を実施するための光ファイバセンサ装置の具体例を示す概略構成図である。この例の光ファイバセンサ装置40は、3つのファイバカプラ(光カプラ)41、42、43と、チューナブルレーザ(波長可変光源;Agilent製8164A)44と、2つのフォトダイオード(光検出器; New Focus 製2117FC)45、46と、3つの参照用反射端R1、R2、R3と、先の構成の光ファイバセンサ20とから概略構成され、これらは光ファイバ51、52、53、54、55、56、57、58、59、60によって連設されている。これらの光ファイバ51〜60は、測定光の波長に対してシングルモード伝搬が可能なものであれば、いかなるものでも構わなく、一般的なSMファイバもしくはPANDA(Polarization-maintaining AND Absorption-reducing)ファイバなどの偏波保持ファイバを用いることができる。本実施例では、光ファイバ23と同種のSMファイバを使用した。
【0035】
また、チューナブルレーザ44は、汎用インターフェイスバス(GPIB)を介して、システムコントローラ(制御装置:National Instruments製PXI-8106)63に接続され、これにより制御されている。更に、2つのフォトダイオード45、46からの信号は、A/Dコンバータ(National Instruments製PXI-6115)64によりサンプリングされ、そのサンプリングデータはシステムコントローラ63にてSTFT(Short-time Fourier transform;短時間フーリエ変換)解析されるようになっている。これらのチューナブルレーザ44とシステムコントローラ63とA/Dコンバータ64によりOFDR方式の計測器が構成される。
【0036】
本実施例構成のOFDR方式の計測器においては、チューナブルレーザ44は、ある一定速度、ある一定波長範囲で掃引(単調増加もしくは単調減少)された測定光を出射する。本実施例では、10nm/sの速度で1545〜1555nmの波長範囲を掃引した測定光を出射した。
チューナブルレーザ44から出射された測定光は光カプラ41に入射し、該光カプラ41にて光パワー分岐されて2つの光干渉計に入射する。
一方の光干渉計は、ファイバカプラ42、光ファイバ57とその反射端R1、光ファイバ58とその反射端R2および光ファイバ53、54とフォトダイオード45からなり、反射端R1と反射端R2のファィバ長差(光路長差)に応じたトリガを生成している。本実施例では、反射端R1と反射端R2のファイバ長差を200mとした。なお、このトリガは以下の方法で生成している。
【0037】
チューナブルレーザ44からある一定速度、ある一定波長範囲で掃引された測定光が前記の光干渉計に入射すると、この測定光は反射端R1と反射端R2によって反射され、その干渉光がフォトダイオード45で計測される。フォトダイオード45の出力した電圧信号は、A/Dコンバータ64によりサンプリングされてデジタル信号に変換され、該デジタル信号がシステムコントローラ63に取り込まれて解析される。
チューナブルレーザ44から出射された測定光は一定速度で波長が変化しているので、フォトダイオード45から出力される電圧信号は、一定の光波数間隔で変動する正弦関数となる。従って、ある一定の電圧値をしきい値とし、システムコントローラ63上で該しきい値を超えるタイミング(しきい値以下の値からしきい値を上回るタイミング、もしくは、しきい値以上の値からしきい値を下回るタイミング)でトリガを生成することで、生成されたトリガは、ある一定の光波数間隔となる。
なお、このトリガ発生方法は、チューナブルレーザ44の掃引速度が一定でない場合でも、トリガが発生する光波数間隔は常に一定となる点で非常に効果的である。また、このトリガ発生方法でもチューナブルレーザ44の波長掃引の不安定性を取り除けない場合は、先の特許文献1に記載されているような波長補正用のFBGを用いても良い。(ただし、このFBGから温度補正は行わない。)
【0038】
他方の光干渉計は、フォトダイオード43、光ファイバ59とその反射端R3、光ファイバセンサ20および光ファイバ55、56とフォトダイオード46からなる。この光干渉計では、光ファイバセンサ20からのブラッグ反射光と反射端R3からの参照光との千渉光がフォトダイオード46に入射する。
ここで光ファイバセンサ20からの反射光は、主にOFDR方式の計測器と接続したFC/PCコネクタ25、ひずみ検知用のセンサとなるFBG22および温度検知用のセンサとなる光ファイバ23の端末FC/PCコネクタ26の3箇所を起点としたものである。
【0039】
本実施例の光干渉計において、フォトダイオード46に入射する光干渉信号Dは、それぞれ以下の(1)式で表される。
=RFBG cos (k2nLFBG) + Rconnect cos (k2nLconnect) …(1)式
ただし、OFDR方式の計測器と接続したFC/PCコネクタ25と反射端R3とによる干渉光は、本発明で利用しないので無視する。
ここで、RFBGはFBG22と反射端R3の干渉光強度、Rconnectは温度検知用のセンサ部31となる光ファイバ23の端末FC/PCコネクタ26と反射端R3の干渉光強度、kは波数、nはSMファイバの実効屈折率、LFBGはFBG22と反射端R3のファイバ長差、Lconnectは温度検知用センサ部31となる光ファイバ23の端末FC/PCコネクタ26と反射端R3のファイバ長差を示す。本実施例では、LFBGを約2m、Lconnectを約42mとした。つまり、温度検知用のセンサ部31となる光ファイバ23のファイバ長は約40mである。
【0040】
次いで、得られた光干渉信号Dをシステムコントローラ63にてSTFT解析することにより、RFBG、RconnectとnLFBG 、nLconnect を求める。ここでnLFBG、nLconnectは、光ファイバの実効屈折率に光ファイバ長を乗じたものであるので、光路長を示している。本実施例では、得られた光干渉信号を約40ms間隔(チューナブルレーザ44を10nm/sの速度で掃引しているので、波長に換算すると約400pm間隔)に相当するウインドウ幅で抜き出されたデータを16ビット(216)に割り当てて解析した。なお、チューナブルレーザ44の掃引速度が一定でない場合は、ある一定の時間間隔ではなく、ある一定の光波数間隔(つまり、ある一定の波長間隔)に相当するウインドウ幅で解析しても良い。最後にnに既知の値を代入することにより光ファイバ長差LFBG、Lconnectを求める。本実施例では、用いたSMファイバの代表的な値であるn=1.44772を使用した。
【0041】
この実施例のOFDR方式の計測器を用いて温度ひずみセンサの状態を計測した結果を図5と図6に示す。なお、このときの検知部は20℃、0με(無ひずみ状態)であった。本実施例の計測器では、FBG22からのブラッグ反射光および光ファイバ23の端末からの反射光をスペクトログラムで表示する。
図5と図6に示すスペクトログラムは、横軸が波長、縦軸がファイバ位置(反射端R3を有する光ファイバの長さに相当する位置からのファイバ長差)、色調が反射強度を示す。図5においては、D信号を解析した結果のうちファイバ位置1.9〜2.1mの範囲を表示したものであり、図6はD信号を解析した結果のうちファイバ位置42.0〜42.2mの範囲を表示したものである。
図5に得られた全長98mmの反射がFBG22によるものであり、図6に得られた広波長帯域の反射が光ファイバ23の端末のFC/PCコネクタ26によるものである。FBG22による反射は1549.52nmで最大強度を示したので、該波長がブラッグ波長である。また、この計測結果よりFBG22とFC/PCコネクタ26とのファイバ長差は40.0050mであることがわかった(この値をFBG22末端からFC/PCコネクタ26までの距離と定義する)。
【0042】
次に本発明の光ファイバセンサ20により計測方法について更に説明する。
以下の説明において、光ファイバセンサ20で計測した上記の検知部の状態を基準温度(20℃)、基準ひずみ(0με)とする。
本実施例の光ファイバセンサ20では、最初に温度検知用のセンサ部となる光ファイバ23のOFDR方式の計測器で表される光ファイバ長から温度を計測する。例えば、基準温度では上記の通り40.0050mである。この光ファイバ長を基準光ファイバ長としたとき、本実施例のOFDR方式の計測器における検知部の温度変化にともなう光ファイバ長の変化量の関係は光ファイバ長に依存する。
図7は、OFDR方式の計測器における検知部の温度と光ファイバ長変化の関係を示すグラフである。この光ファイバ長変化は、光ファイバの実効屈折率の温度依存性および熱膨張による光ファイバ伸び、すなわち光路長変化に依存するものである。これらによる光ファイバ長の変化量は、同種の光ファイバに作製したFBGの温度変化によるブラッグ波長のシフト量から求めることができる。図8は、温度変化によるFBGのブラッグ波長のシフト量を示すグラフである。
【0043】
図8において、FBGのブラッグ波長は以下の(2)式で表される。
λ=2nΛ … (2)式
ただし、(2)式において、λはFBGのブラッグ波長、n は光ファイバの屈折率、Λは屈折率変化の周期を示す。
(2)式において、FBGが温度変化すると、光ファイバの実効屈折率の温度依存性によりnが変化し、光ファイバの熱膨張によるファイバ伸びによりΛが変化することになる。つまり、図8は、(2)式におけるnとΛの変化の総量をFBGの中心波長シフト量として求めた結果である。
一方、OFDR方式の計測器で求める光ファイバ長は、ある一定のnから光ファイバ長LFBG、Lconnectを計算するので、nの変化による光路長変化も光ファイバの熱膨張によるファイバ伸びとみなして計算していることになる。つまり、図7は、nとLFBG、Lconnectの変化の総量をLFBG、Lconnectのみの変化として計算した結果である。
【0044】
図7における検知部の温度と光ファイバ長変化の関係は(3)式で表される。
ΔL=6.4536×10−6・ΔT・L …(3)式
ここで、ΔLはOFDR方式の計測器で計算される光ファイバ長変化(mm)、ΔTは検知部温度と基準温度の差(℃)、Lは光ファイバ長(mm)を示す。係数6.4536×10−6は、使用したSMファイバの単位温度変化あたりの光路長変化量示すものであり、光ファイバ毎に違う値となる。
本実施例の光ファイバセンサでは、OFDR方式の計測器を用いて温度検知用のセンサ部となる光ファイバ23のファイバ長変化を計測し、該計測を(3)式に代入してΔTを求めることにより検知部の温度を計測する。
【0045】
次に、ひずみ検知用のセンサ部30となるFBGのブラッグ波長のシフト量から温度検知用のセンサで計測した温度変化に相当するブラッグ波長のシフト量を減算することによりひずみ計測を行う。なお、光ファイバ長の変化から求めた温度変化におけるFBGのブラッグ波長のシフト量は、図8から求めることができる。図9は、ひずみ変化によるFBGのブラッグ波長のシフト量を示すグラフである。
【0046】
図9において、ひずみ変化によるブラッグ波長のシフト量は以下の(4)式で表される。
Δλ=1.1206・ε …(4)式
ここで、Δλは、ひずみによるブラッグ波長のシフト量(nm)、εはひずみ量(με)を示す。係数1.1206は、使用したSMファイバの単位ひずみ量あたりのブラッグ波長シフト量を示すものであり、光ファイバ毎に異なる値となる。
【0047】
以上の演算処理を行うことで、本発明の光ファイバセンサ20を用いて検知部の温度とひずみを計測することが可能となる。なお、これらの演算は本実施例に記載のOFDR方式の計測器に備えるシステムコントローラ63を用いて簡単に行うことができる。
【0048】
なお、一般的なひずみセンシングにおいて要求されるひずみの計測精度は10με程度である。つまり、ひずみ変化によるFBGのブラッグ波長シフト量は約0.01nmの精度で計測できる必要がある。また、FBGのブラッグ波長が0.01nmシフトする温度変化量は約1℃である。つまり、1℃の精度で温度計測して温度変化に相当するブラッグ波長のシフト量を差し引いてひずみを計測することにより、要求されるひずみの計測精度を満たすことができる。
【0049】
本実施例では、OFDR方式の計測器で得られた光干渉信号を約40ms間隔に相当するウインドウ幅で抜き出されたデータを16ビットに割り当てて解析しているが、このときのスペクトログラムは、波長0.0011nm刻み、ファイバ位置0.24mm刻みで得られる。本発明の光ファイバセンサにおいて1℃の精度で温度計測するには、検知部の温度が1℃変化するとファイバ長が0.24mm以上変化する必要があり、先の(3)式からそのときに必要なファイバ長は40m以上となる。
温度検知用のセンサ部31となる光ファイバ23が40m以上のとき、温度変化によるブラッグ波長シフト量を差引いてひずみ計測すると0.01nmの精度でひずみ変化によるFBG22のブラッグ波長シフト量を計測することができる。つまり、本発明の光ファイバセンサ20において、温度検知用のセンサ部31となる光ファイバ23は40m以上とすることが望ましい。
【0050】
このように、温度検知用のセンサ部31となる光ファイバ23の長さは、計測器の光ファイバ位置計測分解能によって決まる。より具体的には、計測器の光ファイバ位置計測分解能が高いほど必要な光ファイバの長さは短くなる。OFDR方式の計測器は0.24mm刻みと非常に高いファイバ位置計測分解能有するために本発明の光ファイバセンサ20を計測する手段として非常に有効である。
【0051】
なお、本発明の第1実施例ではOFDR方式の計測器に1つの光ファイバセンサ(温度ひずみセンサ)20を接続した例を示したが、光ファイバセンサ20を連設してOFDR方式の計測器に複数の光ファイバセンサ20を接続しても構わない。
係る構成において、OFDR方式の計測器に接続される光ファイバセンサ20を第1の光ファイバセンサとし、第1の光ファイバセンサに連設される光ファイバセンサを第2の光ファイバセンサとすると、第2の光ファイバセンサは、ひずみ検知用のセンサとなるFBG22に連設された接続点を第1の光ファイバセンサ20における温度検知用の光ファイバ23の端末の反射点に接続することが望ましい。
即ち、本発明の第1実施例における光ファイバセンサ20では、第1の光ファイバセンサと第2の光ファイバセンサがFC/PCコネクタで接続されることとなる。このFC/PCコネクタ接続点の反射率は0.01%であり、OFDR方式の計測器で反射点として計測することができる。つまり、第2の光ファイバセンサを接続しても第1の光ファイバセンサ20における温度変化を計測することが可能である。このように、本発明の光ファイバセンサおよびその計測方法によると、複数の光ファイバセンサを同時に計測することも可能となる。
【0052】
本実施形態の光ファイバセンサは、コネクタを用いて複数の光ファイバセンサを連設しているので、多点にわたる温度とひずみのセンシングが容易である。また、コネクタの着脱によってセンシングしたい点数の調整が容易である。
以上説明した本発明に係る光ファイバセンサは、OFDR方式で計測する点で特許文献1に記載の技術と同等であるが、FBGのブラッグ波長のシフト量から温度変化を計測するのではなく、光ファイバの光路長の変化から温度変化を計測する点で特許文献1に記載の技術とは異なる発明であるといえる。
また、光ファイバ端面に形成した反射部を利用して物理量を計測する点が、特許文献2に記載の技術と同等であるが、特許文献2に記載の技術では、ひずみ(人物の通過)を定性的に計測する手段であり、本発明は温度変化を定量的に計測する手段であることから、これらは異なる発明である。これは、すでに説明したそれぞれの計測方式を鑑みても明白である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は本発明に係る光ファイバセンサの基本構造を示す構成図。
【図2】図2は図1に示す光ファイバセンサを備えた光ファイバセンサ装置の第1の実施形態を示す構成図。
【図3】図3は図1に示す光ファイバセンサを面状体上に取り付けた状態を示す構成図。
【図4】図4は図3に示す光ファイバセンサを備えた光ファイバセンサ装置の第1実施例を示す構成図。
【図5】図5は実施例において得られたファイバ位置1.9〜2.1mにおける解析結果のスペクトログラムを示す図。
【図6】図6は実施例において得られたファイバ位置42.0〜42.2mにおける解析結果のスペクトログラムを示す図。
【図7】図7は実施例に用いた光ファイバの温度変化に対する光路長変化を光ファイバ長変化にみなした際の関係を示す図。
【図8】図8は実施例に用いた光ファイバに形成したFBGの温度変化に対するブラッグ波長のシフト特性を示す図。
【図9】図9は実施例に用いた光ファイバに形成したFBGのひずみ変化に対するブラッグ波長のシフト特性を示す図。
【符号の説明】
【0054】
S、20…光ファイバセンサ、1、22…ファイバブラッググレーティング(FBG)、3、30…ひずみ検知用のセンサ部、5、23…光ファイバ、6、26…反射部、7、31…温度検知用のセンサ部、10、40…光ファイバセンサ装置、11、41、42、43…光カプラ、12、44…チューナブルレーザ(波長可変光源)、13、45、46…フォトダイオード(受光器)、16、R3…参照用反射端、14、15、17、18、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60…光ファイバ、21…金属薄板、25、26…FC/PCコネクタ、27…ルースチューブ、33…ポリイミド樹脂の接着層、33a…接着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバのコアに形成したファイバブラッググレーティングをセンサとし、該センサからのブラッグ反射光と参照用の反射端からの反射光の干渉強度の周期的変化から、前記センサの位置を特定するとともに、前記センサからのブラッグ反射光の波長のシフト量からセンサ部のひずみを計測する光周波数領域反射測定方式に適用される光ファイバセンサ装置であって、
光ファイバのコアに形成したファイバブラッググレーティングからなるひずみ検知用のセンサ部と、該ひずみ検知用のセンサ部に接続されてその端部に反射部を備えた温度検知用光ファイバからなる温度検知用のセンサ部とを具備した光ファイバセンサと、参照用反射端と、光源と、受光器とが備えられ、
前記温度検知用光ファイバの光路長の変化量から温度変化を計測し、前記ファイバブラッググレーティングのブラッグ波長のシフト量から前記計測された温度変化に相当するブラッグ波長のシフト量を減算することによりひずみを計測することを特徴とする光ファイバセンサ装置。
【請求項2】
前記温度検知用のセンサ部となる光ファイバのファイバ長が40m以上であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバセンサ装置。
【請求項3】
前記温度検知用のセンサ部となる光ファイバがチューブに遊挿されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバセンサ装置。
【請求項4】
前記ひずみ検知用のセンサ部となるファイバブラッググレーティングと、温度検知用のセンサ部となる光ファイバの一端あるいは両端が面状体に取り付けられてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光ファイバセンサ装置。
【請求項5】
前記面状体が金属薄板であることを特徴とする請求項4に記載の光ファイバセンサ装置。
【請求項6】
前記ひずみ検知用のセンサ部となるファイバブラッググレーティングの一端部あるいは両端部と、前記温度検知用のセンサ部となる光ファイバの一端部あるいは両端部が、接着層により前記面状体に固定されてなることを特徴とする請求項4または5に記載の光ファイバセンサ装置。
【請求項7】
前記ひずみ検知用のセンサ部と温度検知用のセンサ部を備えた光ファイバセンサが、複数、コネクタを介し連接され、これら連接された複数の光ファイバセンサが個々にひずみと温度を計測することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光ファイバセンサ装置。
【請求項8】
前記光ファイバの光路長の計測結果を基に、温度検知用のセンサとなる光ファイバの光路長の変化から温度変化量を計測するとともに、ひずみ検知用のセンサとなるファイバブラッググレーティングのブラッグ波長のシフト量から温度検知用のセンサとなる光ファイバで計測した温度変化に相当するブラッグ波長のシフト量を減算してひずみを測定する制御装置が、前記受光器と前記光源に接続した状態で設けられてなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光ファイバセンサ装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の光ファイバセンサ装置を用い、前記温度検知用のセンサ部となる光ファイバのファイバ長の変化量から温度変化を計測し、ひずみ検知用のセンサとなるファイバブラッググレーティングのブラッグ反射波長のシフト量から温度検知用センサ部で計測した温度変化によるブラッグ反射波長のシフト量を減算してひずみを計測することを特徴とする温度とひずみの計測方法。
【請求項10】
前記温度検知用のセンサ部となる光ファイバのファイバ長の変化量から温度変化を計測するに際し、温度検知用のセンサ部となる光ファイバ端面に設けた反射部からの反射光と参照用の反射端からの反射光の干渉強度の周期的変化を利用して温度検知用のセンサ部となる光ファイバ端面の反射部位置を特定して該光ファイバの光路長を計測し、この光路長の変化から温度変化量を計測することを特徴とする請求項9に記載の温度とひずみの計測方法。
【請求項11】
光ファイバのコアに形成したファイバブラッググレーティングをセンサとし、該センサからのブラッグ反射光と参照用の反射端からの反射光の干渉強度の周期的変化から、前記センサの位置を特定するとともに、前記センサからのブラッグ反射光の波長の変化量からセンサ部のひずみを計測する光周波数領域反射測定方式に適用される光ファイバセンサであって、
光ファイバのコアに形成したファイバブラッググレーティングからなるひずみ検知用のセンサ部と、該ひずみ検知用のセンサ部に接続されてその端部に反射部を備えた温度検知用光ファイバからなる温度検知用のセンサ部が備えられ、
前記温度検知用光ファイバの光路長の変化量から温度変化を計測し、前記ファイバブラッググレーティングのブラッグ波長のシフト量から前記計測された温度変化に相当するブラッグ波長のシフト量を減算することによりひずみを計測することを特徴とする光ファイバセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−91294(P2010−91294A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258816(P2008−258816)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】