説明

光制御素子

【課題】高速駆動が可能であり、駆動電圧のより一層の低減が可能な光制御素子を提供する。
【解決手段】電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板1と、薄板1に形成された光導波路52、53と、光導波路52、53を伝播する光を制御するための光制御部を複数有する光制御素子において、光制御部の少なくとも一部には、光導波路52、53に電界を印加するための制御電極が、第1電極と第2電極とから構成される。第1電極は信号電極33、34と接地電極61、62とを有すると共に、第2電極は少なくとも接地電極63を有し、第1電極の信号電極33、34と協働して光導波路52、53に電界を印加するように構成される。複数の光制御部の間は、コプレーナ型線路、コプレーナ型線路と裏面に配置された接地電極、又はマイクロストリップラインのいずれかで構成される制御信号配線で接続し、光と電気信号の到達時間がほぼ同じになるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御素子に関し、特に、厚みが10μm以下の電気光学効果を有する薄板に光導波路及び制御電極を形成すると共に、同一薄板上に複数の光制御部を設けた光制御素子に関する。
【背景技術】
【0002】
長距離光ファイバー通信や特殊光計測、光制御などの技術分野では、光スイッチ(光路切替え、遮断型)、特に、ニオブ酸リチウム(LN)など電気光学効果を用いた光スイッチが利用されている。光スイッチなどの光制御素子としては、機械式のスイッチに比べ、電子式の導波路型光スイッチが多用されているが、これは、導波路型光スイッチは可動部が無いため、切換えの高速化(切替え速度ns以下)や集積化に適しているためである。また、従来、ニオブ酸リチウム(LN)など電気光学(EO)効果等を利用した光導波路型のものが多数提案されている。なお、ニオブ酸リチウムを用いた光スイッチの歴史については、非特許文献1及び2に詳しく記載されている。
【0003】
EO結晶材料の中では、最も誘電率が低く、高速動作に適するLNを用いた超高速光スイッチの開発においては、デジタルスイッチングが可能で小型化に有利なタイプである、内部反射(Total Internal Refection:TIR)型やY分岐(Y-Branch)型、非対称X公差(Asymmetric X-branch)型の光スイッチが既に提案されている。また、原理上サイズが大きくなるバランスブリッジ(balanced bridge)型については、非特許文献3に開示されている。
【0004】
例えば、図1(a)は、内部反射型スイッチであり、基板1に形成されたクロスした光導波路21〜24を交差点25に配置された制御電極3でスイッチングしている。図1(b)は、バランスブリッジ型スイッチであり、2本の光導波路41,42に近接する部分43や44を設け、制御電極31,32に印加する電界により、光導波路を伝播する光波の位相を調整し、近接部分44での光波による光導波路の乗り換えを制御している。なお、図1では、制御電極を構成する接地電極の記載は省略している。
【0005】
さらに、図2は、Y分岐型スイッチであり、(a)は平面図、(b)は(a)のX−X’における断面図である。基板1には、リッジ型光導波路51〜53が形成され、Y分岐型の光導波路を構成している。分岐した光導波路52及び53には、バッファ層71及び72を介して信号電極33及び34が形成されている。また、光導波路を取り囲むように接地電極61及び62が形成される。信号電極33及び34に印加する電圧を調整することで、光導波路51から入射した光波は、光導波路52及び53に分岐される光波の強度が変化し、光スイッチの機能を実現している。
【0006】
全体の開発傾向として、光スイッチの技術開発は停滞傾向にあり、その原因には、従来のLNを材料とした光導波路構成や電極構成を用いた場合、十分な消光比を得るには駆動電圧が高くなり過ぎ、実用レベルの高速駆動回路の出力電圧では十分な消光比が得られないためである。なお、ここでいう「消光比が高い」とは、「クロストークが低い」と同義である。
【0007】
また、LNよりEO効果が大きく材料として、KTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)、PLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛)、BT(チタン酸バリウム)などがあるが、これらの材料は、GHz帯での誘電率が非常に大きいため、どのような電極構成をもってしても、電極容量による動作帯域制限により、GHz帯やそれ以上の速度での動作は困難である。
【0008】
他方、本出願人は、特許文献1において、LN光変調器の駆動電圧を画期的に低減するための構成について開示を行った。この発明は、LN基板に用いた光変調器において、マイクロ波と光波との速度整合やマイクロ波のインピーダンス整合が実現でき、しかも、駆動電圧の大幅な低減が可能な技術である。駆動電圧の低減は、光導波路素子自体の小型化や、コストのより安い低駆動電圧型の駆動装置を利用できるなどの利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2007/114367号
【特許文献2】米国特許公開2009−263068号
【特許文献3】特開平6−289341号公報
【0010】
【非特許文献1】Optical Switching、Springer US、2006、ISBN978-0-387-26141-6 Chapter2
【非特許文献2】Electro-optic Switch for Photonic Network, H. Nakajima, Technical Report of IEICE, PS2002-15, 2005
【非特許文献3】信学技報, vol. 109、 No. 159、 OPE2009-63, pp. 181-184、 2009年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、高速駆動が可能であり、駆動電圧のより一層の低減が可能な光制御素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板に形成された光導波路と、該光導波路を伝播する光を制御するための光制御部を複数有する光制御素子において、該光制御部の少なくとも一部には、該光導波路に電界を印加するための制御電極が、該薄板を挟むように配置された第1電極と第2電極とから構成され、該第1電極は、信号電極と接地電極とを有すると共に、該第2電極は、少なくとも接地電極を有し、第1電極の信号電極と協働して該光導波路に電界を印加するように構成されており、複数の光制御部の間は、薄板の表面のみに配置されたコプレーナ型線路、薄板の表面に配置されたコプレーナ型線路と裏面に配置された接地電極、又はマイクロストリップラインのいずれかで構成される制御信号配線で接続されており、光と電気信号の到達時間は、ほぼ同じになるように設定されていることを特徴とする。
【0013】
本発明におけるコプレーナ型線路(CPW)とは、平面上で信号線を2つの接地電極が挟むよう構成した線路だけでなく、平面上で信号線と接地電極とが対となる線路(コプレーナストリップ。CPS)を含むものである。
また、本発明における「到達時間が、ほぼ同じ」とは、光制御素子を駆動した際に、光制御素子としての機能を十分に達成できる範囲において、各光制御部に到達する光と電気信号の到達時間のズレが、許容されていること意味している。例えば、制御信号(信号周波数が数GHz〜300GHz程度)の位相がずれない範囲で許容される。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光制御素子において、該光制御部は、光路切替え型の光スイッチ、光アッテネータ、マッハツェンダー型光変調器のいずれかであることを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の光制御素子において、該光制御部は、1ns以下の切替え速度、又は1GHz以上の周波数で動作する電気光学素子であることを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光制御素子において、該第1電極を構成する信号電極及び接地電極の厚さは、ほぼ同じであることを特徴とする。
【0017】
本発明の「信号電極及び接地電極の厚さは、ほぼ同じ」とは、信号電極と接地電極とを同時に形成し、結果として各電極の厚みが同じになることを意味し、同時に形成した際の製造ムラなどで厚みが部分的に異なる場合も、本発明の許容範囲に含むという意味である。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の光制御素子において、該薄板が、LiNbO結晶、LiTaO結晶、又は両者の固溶体結晶のいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明により、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板に形成された光導波路と、該光導波路を伝播する光を制御するための光制御部を複数有する光制御素子において、該光制御部の少なくとも一部には、該光導波路に電界を印加するための制御電極が、該薄板を挟むように配置された第1電極と第2電極とから構成され、該第1電極は、信号電極と接地電極とを有すると共に、該第2電極は、少なくとも接地電極を有し、第1電極の信号電極と協働して該光導波路に電界を印加するように構成されており、複数の光制御部の間は、薄板の表面のみに配置されたコプレーナ型線路、薄板の表面に配置されたコプレーナ型線路と裏面に配置された接地電極、又はマイクロストリップラインのいずれかで構成される制御信号配線で接続されており、光と電気信号の到達時間は、ほぼ同じになるように設定されているため、第1電極及び第2電極が協働することで、光制御部における駆動電圧を低減できると共に、制御信号配線に係る構造により、マイクロ波の屈折率やインピーダンス調整に係る設計の自由度を確保できるため、制御信号配線により複数の光制御部に対して低損失な状態で制御信号を供給することが可能となる。
【0020】
請求項2に係る発明により、光制御部は、光路切替え型の光スイッチ、光アッテネータ、マッハツェンダー型光変調器のいずれかであるため、これらの各光制御部を組み合わせて集積化した光制御素子を構成することも可能となる。
【0021】
請求項3に係る発明により、光制御部は、1ns以下の切替え速度、又は1GHz以上の周波数で動作する電気光学素子である場合には、上述した請求項の構成を採用することで、高速駆動に適した、駆動電圧の低減や光と電気信号との速度・タイミングの一致などを容易に達成することができる。
【0022】
請求項4に係る発明により、第1電極を構成する信号電極及び接地電極の厚さは、ほぼ同じであるため、同時に2つの電極を形成することが可能となる。
【0023】
請求項5に係る発明により、薄板が、LiNbO結晶、LiTaO結晶、又は両者の固溶体結晶のいずれかであるため、光と電気信号(マイクロ波)との速度整合を実現し易く、しかも、インピーダンス調整も容易となるため、高速駆動が可能な光制御素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】光スイッチの例を示す図であり、(a)は内部反射型、(b)はバランスブリッジ型である。
【図2】Y分岐型光スイッチを説明する図であり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図3】G−CPW電極構造を適用した光スイッチを説明する図であり、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図4】光スイッチを多段化した光制御素子の例を示す図である。
【図5】図4の光制御素子に制御電極配線を示した図である。
【図6】光スイッチの後段に、複数のアッテネータを配置した光制御素子の例を示す図である。
【図7】反射型光導波路を有する光制御素子を説明する図であり、(a)は全体の平面図、(b)又は(c)は反射部近傍の制御電極の形状を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の光制御素子について、詳細に説明する。
本発明は、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板に形成された光導波路と、該光導波路を伝播する光を制御するための光制御部を複数有する光制御素子において、該光制御部の少なくとも一部には、該光導波路に電界を印加するための制御電極が、該薄板を挟むように配置された第1電極と第2電極とから構成され、該第1電極は、信号電極と接地電極とを有すると共に、該第2電極は、少なくとも接地電極を有し、第1電極の信号電極と協働して該光導波路に電界を印加するように構成されており、複数の光制御部の間は、薄板の表面のみに配置されたコプレーナ型線路、薄板の表面に配置されたコプレーナ型線路と裏面に配置された接地電極、又はマイクロストリップラインのいずれかで構成される制御信号配線で接続されており、複数の光制御部の間は、制御信号配線で接続されており、光と電気信号の到達時間は、ほぼ同じになるように設定されていることを特徴とする光制御素子である。
【0026】
図3は、本発明の光制御素子に適用される光制御部の一例である、光スイッチ、特に、Y分岐型光スイッチの例を説明する図である。図3(a)は、図3(b)の矢印X−X’における断面図を示し、図3(b)は光導波路部分のみを図示した平面図である。符号1は電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板であり、該薄板にリッジ型の光導波路51〜53を形成している。薄板1の上面と下面には、バッファ層73,74が設けられ、バッファ層に接して配置される電極への光波の吸収を抑制する役割を担っている。
【0027】
光スイッチの光導波路52,53に電界を印加するための制御電極が、該薄板1を挟むように配置された第1電極と第2電極とから構成され、該第1電極は、少なくとも信号電極33,34と接地電極61,62とから構成される。図3では、信号電極を接地電極では挟むようなコプレーナ型の電極構成となっているが、信号電極のみを薄板表面に配置し、裏面に接地電極を配置したマイクロストリップラインであってもよい。第2電極は、少なくとも接地電極63が配置され、第1電極の信号電極33,34と協働して、光導波路52,53に電界(図中の実線矢印)を印加するように構成されている。
【0028】
薄板1の機械的強度を補強するため、薄板1の裏面側には、接着層8を介して補強板9が配置固定されている。図3のY分岐型光スイッチを駆動するには、例えば、信号電極33及び34に駆動電圧(±V)が印加され、光導波路51から入射する光波aは、駆動電圧の印加状態に応じて、Y分岐部で分岐して出力される出力光b及びcの強度比が調整される。
【0029】
本発明の第1の特徴は、図3(a)に示すように、薄板1に形成した光導波路52,53に対して、薄板の一方の面側に配置された第1電極と、他方の面側に配置された第2電極から構成することで、光導波路に印加する電界効率を高め、光制御部の駆動電圧を低減させることである。このような電極の配置により、電気光学(EO)作用効率が改善され、EOデバイスの駆動電圧を従来の1/2から1/4程度に低減できる。また、光と電気信号が速度整合した進行波電極とする場合には、各素子は、GHz帯(切替え速度は1ns以下)での動作はもちろん、数10GHz(切替え速度は数十ps以下)での動作も可能となる。さらに、特許文献1に示すように、リッジ型導波路を利用することで、電界効率をより一層高めることが可能となる。
【0030】
そして、本発明の第2の特徴は、光スイッチなどの光制御部を多段化して、消光比などの光学的特性の改善を図ることである。当然、導波路型光スイッチの基本エレメントとしては、上述したような内部反射(TIR)型、Y分岐型、X分岐型などが利用可能であることは言うまでもない。
【0031】
例えば、図4に示すように、TIR型光スイッチを2段構成としている。第1の光スイッチ(SW1)は、光導波路の交差部204と該交差部に設けた制御電極301で構成される。第2の光スイッチ(SW2)は、光導波路の交差部207と該交差部に設けた制御電極302で構成される。符号201〜209は、光導波路であり、光導波路205が2つの光スイッチを接続している。なお、図4では、制御電極を構成する接地電極の記載は省略している。図5及び6についても同様である。
【0032】
一般に、電気光学効果を利用したデジタル型光スイッチは、閾値的なON/OFF動作ではなく、適正電圧以下の電圧でも、消光比が不十分ながら光路切替え動作がえられる。したがって、駆動回路の電圧が不十分な場合、多段化して消光比を高めることは現実的な選択である。
【0033】
光スイッチの消光比改善のための同様の機能素子を多段に用いることは、公知の手段であり、例えば、特許文献2には、光スイッチ素子の後段に、可変光アッテネータを接続して高消光比化を実現する構成が示されている。また、駆動回路の電圧不足を補う目的だけでなく、光学的に特性劣る素子を多段に使って高消光比を得るものもある。
【0034】
図4のように、光制御部の多段化を取り入れることにより発生する制約は、各光制御部における電気信号と光信号の同期である。デバイス全体の高周波動作、広帯域動作のためには、後段の光制御部の、信号光の速度に対応した適切な遅延同期駆動が必要である。この問題は、高速なほど影響が大きい。例えば、各光スイッチが高速の切り替え動作を実施していても、各光スイッチの同期がずれると、実効的にスイッチの切替え速度が遅くなり、光路切替え直前や直後の信号の欠落、減衰や歪みが発生の原因をなる。
【0035】
これは、第1の光スイッチ(SW1)を通過した光信号が後段の第2の光スイッチ(SW2)を通過する際に、SW1での方向切替え操作と受けたのと全く同じパターンとタイミング(制御信号の位相)で光路切替え操作することにより、改善される。その解決には、同じパターンの制御信号を複数系列用意し、光信号のSW1、SW2を通過する時間に併せて各光スイッチを制御する、あるいは、一つのパターンの制御信号を複数分岐し、適切な遅延時間の信号遅延線などを介して後段のSW2を制御する、といった、方法が原理的には可能である。
【0036】
しかしながら、これらの方法は、制御回路や配線パターンの増加や複雑化を伴い、現実的な手法ではない。本発明の構成では、前後の光スイッチなどの光制御部の制御電極を直列に接続して、制御を行う。前後の光制御部間の配線電極の構造は、G−CPW(基板の表面に信号線とそれを挟む接地電極でコプレーナ型線路を形成し、反対側の裏面には接地電極を配置する構成)、CPW(基板の表面のみにコプレーナ型線路を配置する構成)、マイクロストリップラインのいずれか、あるいはその組み合わせを用いる。配線の途中で線路インピーダンスは変化させない構成が望ましいが、本発明で取り入れた貼り合せ(リッジ)導波路基板の構成では、形成可能な電極の設計自由度がきわめて高く、上記の要件は容易に実現される。
【0037】
貼り合せ(リッジ)導波路基板に、同じ幅、高さのホット電極を用いて、G−CPW電極、CPW電極、マイクロストリップライン電極を形成した場合、電気信号(制御信号)に対する屈折率(マイクロ波屈折率)は、1.5<CPWの屈折率<G−CPWの屈折率(約2)<マイクロストリップラインの屈折率<5となる。
【0038】
つまり、大きな遅延量が必要な配線部にはマイクロストリップライン電極、先行量が必要な配線部には、CPW電極を用いることができる。ここで、ホット電極の幅や高さは、配線部全体で規定されるものでなく、適宜変更してよいが、ホット電極の高さについては、製造プロセス上、一回の工程で形成可能とするコスト上の視点から、同じ高さとするのが望ましい。本発明の構成の場合、高さを規定しても、制御信号の遅延先行量の調整、インピーダンスの調整が、G−CPW、CPW電極のホットギャップ間、埋込電極の有無、ホット電極幅の設定によって適切に行える。
【0039】
一般に、従来の配線基板上のCPW電極、G−CPWやマイクロストリップラインの配線は、マイクロ波が伝搬する位置(高さ)が大きく異なり、接続の損失が大きい。このため、これらの配線が同時に使われることは無い。つまり、別系列の信号線として、同じ基板上に混載して使用することは部分的に行われているが、同一基板上の同じ配線で互いに直接接合するようなことはない。
【0040】
これに対し、本発明のように、CPW、G−CPW、マイクロストリップラインの、同一基板上での低損失な接続は、LN基板の様な高い誘電率(比誘電率28〜48)の10μm以下のきわめて薄い配線基板において、初めて発現する特性である。
【0041】
従来の厚い基板を用いた構成の場合、2より小さい屈折率を得ることは難しく、ホット電極を基板から浮遊させる、あるいは低誘電率の厚い膜を介して形成するといった構成を取る必要がある。
【0042】
埋込電極層を有しない、薄い基板に補強基板を貼り合せただけの導波路基板の場合、厚い基板を用いた場合に比べ、制御信号の遅延量先行量の調整の自由度が改善するものの、屈折率が大きいマイクロストリップラインの構成を取れないため、インピーダンスの整合を保ちながら大きな遅延量を得ることはむずかしい。このため、必要な遅延量を得るために電極を迂回させ、また折り畳むなどの工夫がされている。
【0043】
特許文献1に記載されているように、LN基板を補強板で使用し、リッジ型導波路とG−CPW電極構造を有する光制御素子では、光の速度とマイクロ波の速度の整合が得やすい。したがって、図4のような単純な二段化した構成では、光制御部間を接続する制御信号配線を、光導波路とほぼ同じ経路を通せば、おのずと制御信号のタイミングが合うこととなる。
【0044】
さらに、今後のデバイスは、同一基板上への高度集積化が見込まれ、光導波路をU字S字状に屈曲させた構成や、光導波路の反射折り返しを取り込んだ構成や、3段以上に多重化した構成が用いられると予想され、制御信号の大幅な遅延や先行を実現する配線が必要である。本発明のように、薄板を用いると共に、光制御部間の配線をCPW、G−CPW、マイクロストリップラインを適宜組み合わせて利用することで、マイクロ波速度(マイクロ波屈折率)およびインピーダンスの設計の自由度を高めることが可能であり、本発明の技術は、特にこのような複雑な構成、高度に集積された構成において、産業上の価値が高いものである。
【0045】
図5は、図4の光制御素子に配線を明示したものである。例えば、光制御素子を構成する薄板には、補強板としてニオブ酸リチウム基板を接着剤で貼り付けられている。TIR型光スイッチは、図3のY分岐型光スイッチと同様に、薄板にリッジ型導波路を形成し、G−CPW構造の電極配置が行われている。
【0046】
この2つのTIR型光スイッチ(制御電極301,302)を用いることで、スイッチ素子が一段の場合には、十分な消光比が得られない電圧での駆動であっても、2段用いることで必要な消光比を得ることができる。しかも、図5のように配線することで、駆動回路は一系列で済み、スイッチ素子を2個使うことによる消費電力の上昇がないため、低駆動電圧で駆動することが可能となる。
【0047】
TIR型光スイッチを構成する各光スイッチ(SW1,SW2)の電極は、G−CPW構造(図5では、薄板表面の接地電極は省略されている。また、薄板の裏面には光スイッチに該当する領域に接地電極が形成されている。)であるが、各光スイッチ間はCPW電極(薄板表面の接地電極は省略されている。また、薄板の裏面には、接地電極は配置されていない。)で配線接続されている。光制御部同士の接続間において、配線電極の信号が光導波路に印加され光信号に位相変調がかかるのを避けるため、光導波路と接続配線は、作用しない距離を離した別経路としているが、CPW電極を採用することで、マイクロ波の屈折率を下げ、光波の伝搬速度よりマイクロ波の伝搬速度を高めている。この結果、制御信号が第1の光スイッチ(SW1)から第2の光スイッチ(SW2)までに要する時間は、光信号がそれに要する時間と等しく設定されている。つまり、SW1とSW2の光制御部間の光導波路の長さより、配線電極の方が長いため、電極のマイクロ波に対する屈折率Nmを光導波路の光に対する屈折率Noより小さくする必要があり、エレメント間接続配線の大部分に、CPW電極を用いている。また、インピーダンスは、配線の各部とも一定となるように設定されている。
【0048】
薄板に補強基板を接着剤で貼り合せると共に、該薄板にはリッジ型導波路を形成した光制御素子は、光の閉じ込めが強く、小さな半径で曲げても損失が小さい。したがって、光導波路を迂回させ、電極接続配線をショートカットさせる構成も取り得る。この場合には、電極のマイクロ波に対する屈折率Nmを光導波路の光に対する屈折率Noより大きくする必要があり、光制御部間を接続する配線の大部分に、ホット電極と接地電極間隔を広げたG−CPW電極を用いる、あるいは配線の一部分に、屈折率の大きいマイクロストリップライン電極を用いて、適切な時間遅延量を得るように設定することが可能である。
【0049】
本発明の光制御素子に使用される薄板は、電気光学効果を有する結晶性基板であり、具体的には、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料及びこれらの組み合わせが利用可能である。特に、電気光学効果の高く、光と電気信号(マイクロ波)との速度整合を実現し易く、しかも、インピーダンス調整も容易であるため、高速駆動が可能な薄板として、LiNbO結晶、LiTaO結晶、又は両者の固溶体結晶が好適に利用される。
【0050】
光導波路の形成方法としては、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより形成することができる。また、特許文献3のように薄板の表面に光導波路の形状に合わせてリッジを形成し、光導波路を構成することも可能である。
信号電極や接地電極などの制御電極は、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することが可能である。また、必要に応じて透明電極を利用することも可能であり、ITOや赤外透明導電膜であるInとTiの複合酸化物膜などが使用される。透明電極については、フォトリソグラフィー法により電極パターンを形成しリフトオフ法によって形成する方法や、所定の電極パターンが残るようにマスク材を形成し、ドライエッチング、あるいはウエットエッチングにて形成する方法などが使用可能である。
【0051】
各電極は、薄板との間にSiO膜などのバッファ層を介して配置されている。バッファ層には、光導波路を伝搬する光波が、制御電極により吸収又は散乱されることを防止する効果を有している。また、バッファ層の構成としては、必要に応じ、薄板1の焦電効果を緩和するため、Si膜などを組み込むことも可能である。
なお、接地電極と薄板との間に存在するバッファ層は、省略することも可能であるが、薄板の光導波路と接地電極との間にあるバッファ層については、薄板の厚みが薄くなるに従い、光導波路を伝搬する光波のモード径は薄板の厚みとほぼ等しくなることから、薄板の裏面側に形成される第2電極(接地電極)による光波の吸収又は散乱も発生するため、この部分のバッファ層は残しておくことが好ましい。また、制御信号配線が光導波路を跨ぐ部分でも、光導波路を伝播する光波への影響を抑制するため、バッファ層を配置することも可能である。
【0052】
光制御素子を含む薄板の製造方法は、数百μmの厚さを有する基板に上述した光導波路を形成し、基板の裏面を研磨して、10μm以下の厚みを有する薄板を作成する。その後薄板の表面に制御電極を作り込む。また、光導波路や制御電極などの作り込みを行った後に、基板の裏面を研磨することも可能である。なお、光導波路形成時の熱的衝撃や各種処理時の薄膜の取り扱いによる機械的衝撃などが加わると、薄板が破損する危険性もあるため、これらの熱的又は機械的衝撃が加わり易い工程は、基板を研磨して薄板化する前に行うことが好ましい。
【0053】
薄板に貼り付ける補強基板には、種々の材料が利用可能であり、例えば、薄板と同様の材料を使用する他に、石英、ガラス、アルミナなどのように薄板より低誘電率の材料を使用したり、薄板と異なる結晶方位を有する材料を使用することも可能である。ただし、線膨張係数が薄板と同等である材料を選定することが、温度変化に対する光制御素子の変調特性を安定させる上で好ましい。仮に、同等の材料の選定が困難である場合には、薄板と補強基板とを接合する接着剤に、薄板と同等な線膨張係数を有する材料を選定する。
【0054】
薄板と補強基板との接合には、接着層として、エポキシ系接着剤、熱硬化性接着剤、紫外線硬化性接着剤、半田ガラス、熱硬化性、光硬化性あるいは光増粘性の樹脂接着剤シートなど、種々の接着材料を使用することが可能である。
【0055】
光制御部の制御電極や光制御部間の制御信号配線には、CPW、G−CPW、マイクロストリップライン型を選べ、インピーダンスや屈折率の調整は、ホット電極幅やホット電極と接地電極との間隔や埋込電極(薄板の裏面に配置した接地電極)の有無など、設計上の自由度が高く、光導波路、接続配線のいずれを長くする場合でも、どの部分の電極の高さは一定としたまま、光信号と制御信号の到達時間を一致させることができる。電極の高さを一定とする場合には、制御電極や制御信号配線を同時に形成でき、製造プロセスの工程を簡略化することが可能となる。
【0056】
本発明の光制御素子は、(リッジ型)光導波路を形成した薄板に補強基板を接着しており、CPW、G−CPW、マイクロストリップラインなど多様な電極を形成可能である。しかも、ニオブ酸リチウムのような高誘電率材料の薄板を用いた場合には、それらの電極を相互に低損失での接続ができることなど、マイクロ波の屈折率とインピーダンスの調整の設計の自由度が高いという特徴を活かしたものである。マイクロ波の設計自由度については、薄板の裏面に接地電極など電極層が配置可能であることが不可欠である。
なお、光導波路については、リッジ型である必要は無く、非リッジ型であっても、スラブ導波路であっても良く、電気光学(EO)作用部の効率、光導波路の曲げなど、光学的な特性を選定する際に、適切な導波路形状を選択することが可能である。
【0057】
図5では、二個の光制御部を一つの制御信号配線で接続した例を示したが、前段の光制御部を通過した後に、制御信号配線を分岐して、後段に複数の光制御部を並列に接続させても良い。この場合、高速安定動作させるには、分岐比に応じてそれぞれの分岐配線のインピーダンスを適切に設定することが必要である。
【0058】
また、図5に示した実施例では、前段後段の光制御部は、同じ光学素子を用いているが、デバイスの要求機能に応じて、適宜異なる機能を備えた光学素子を用いてもよい。図6は、X型に配置した光導波路210〜213に、光スイッチ(電極310)を設け、その後段に、屈折型光アッテネータ(電極311,312)と反射型光アッテネータ(電極313,314)を配置した例である。この場合も、各光制御部に光信号が到達する時間に合わせて、制御信号を到達させるように、各光制御部間の配線の経路と遅延・先行時間を設定する。
【0059】
低入射角度のTIR型光スイッチなどでは、光制御部の電極の形状やサイズによって、制御信号の光制御部内での遅延が問題となる。これは、TIR型光スイッチにおいては、全反射部における光の浸みだし深さに応じて電極の幅を太くする必要があり、G−CPW構造やマイクロストリップライン構造では太い電極のマイクロ波屈折率Nmは大きくなるためである。このような場合は、光制御部間の配線電極のマイクロ波屈折率Nmを光導波路の光波の屈折率Noより小さく設定して、デバイス全体で到達時間を合わせる。
【0060】
図7は、一つのマッハツェンダー型光変調器の光制御部を分割配置し、その間を制御信号配線で接続した例である。この場合、光導波路220〜225は、基板端面に配置された反射部材100により折り返される、マッハツェンダー型導波路を構成している。制御電極は、信号電極320と接地電極600及び601によるコプレーナ型電極と、薄板1の裏面に配置される不図示の接地電極から構成される。図7(b)は、光導波路の折り返し部で、光導波路の長さに対して制御信号配線を短く折り返した場合を説明している。このような場合には、符号321で示した部分について、制御信号配線の屈折率を、光導波路の屈折率より大きくするため、例えば、マイクロストリップラインを用いて、短い配線距離で遅延時間を確保し、到達時間差を合わせることが可能である。
【0061】
また、図7(c)は、光導波路の折り返し部で、光導波路の長さに対して制御信号配線を同じ又はより長く折り返した場合を説明している。このような場合には、符号322で示した部分について、制御信号配線の屈折率を、光導波路の屈折率と同じ又はより小さくするため、例えば、G−CPW構造やCPW構造を用いて、光波とマイクロ波との到達時間差を合わせることが可能である。
【0062】
本発明の光制御素子を光スイッチに適用した場合には、高速・広帯域の光スイッチの実現、光スイッチにおける駆動電圧の改善(低減)や消費電力の低下、低コストな駆動系の使用によるユーザーのコスト削減、デバイスのサイズダウンや素子内の集積度の改善、さらには、サイズダウンによるウェハからのデバイス取れ数の増加によるコストダウンなど多くの優れた効果が期待できる。
【0063】
本発明の光制御素子において、光制御部には、上述したように、光路切替え型の光スイッチ、光アッテネータ、マッハツェンダー型光変調器のいずれでも利用可能である。このため、これらの各光制御部を組み合わせて集積化した光制御素子を構成することも可能となる。
【0064】
また、本発明の光制御素子では、光制御部は、1ns以下の切替え速度、又は1GHz以上の周波数で動作する電気光学素子を配置することが可能であり、特に、薄板上に多段化した光制御部を形成し、各光制御部の電極や制御信号配線にCPW,G−CPW、マイクロストリップラインなどの構造を採用することで、高速駆動に適した、駆動電圧の低減や光と電気信号との速度・タイミングの一致などを容易に達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、高速駆動が可能であり、駆動電圧のより一層の低減が可能な光制御素子を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板に形成された光導波路と、該光導波路を伝播する光を制御するための光制御部を複数有する光制御素子において、
該光制御部の少なくとも一部には、該光導波路に電界を印加するための制御電極が、該薄板を挟むように配置された第1電極と第2電極とから構成され、
該第1電極は、信号電極と接地電極とを有すると共に、該第2電極は、少なくとも接地電極を有し、第1電極の信号電極と協働して該光導波路に電界を印加するように構成されており、
複数の光制御部の間は、薄板の表面のみに配置されたコプレーナ型線路、薄板の表面に配置されたコプレーナ型線路と裏面に配置された接地電極、又はマイクロストリップラインのいずれかで構成される制御信号配線で接続されており、光と電気信号の到達時間は、ほぼ同じになるように設定されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光制御素子において、該光制御部は、光路切替え型の光スイッチ、光アッテネータ、マッハツェンダー型光変調器のいずれかであることを特徴とする光制御素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光制御素子において、該光制御部は、1ns以下の切替え速度、又は1GHz以上の周波数で動作する電気光学素子であることを特徴とする光制御素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光制御素子において、該第1電極を構成する信号電極及び接地電極の厚さは、ほぼ同じであることを特徴とする光制御素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光制御素子において、該薄板が、LiNbO結晶、LiTaO結晶、又は両者の固溶体結晶のいずれかであることを特徴とする光制御素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−78376(P2012−78376A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220496(P2010−220496)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/近接テラヘルツセンサシステムのための超短パルス光源の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】