光学素子および光学機器
【課題】屈折率分布を有する光学素子によって、諸収差を良好に補正する。
【解決手段】光学素子Ggi1は、媒質が屈折率分布を有する。該光学素子は、以下の条件を満足する。|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≧0.02、|ΔθgFgi(p1)|≧0.0272、|Δθgdgi(p1)|≧0.0250および|θgFgi(pmaxgi)−θgFgi(pmingi)|≦0.1。
【解決手段】光学素子Ggi1は、媒質が屈折率分布を有する。該光学素子は、以下の条件を満足する。|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≧0.02、|ΔθgFgi(p1)|≧0.0272、|Δθgdgi(p1)|≧0.0250および|θgFgi(pmaxgi)−θgFgi(pmingi)|≦0.1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒質が屈折率分布を有する光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラ等の光学機器に用いられる光学系には高性能であり、かつ小型軽量であることが求められている。一般に、光学系は小型化を図るほど諸収差、特に軸上色収差や倍率色収差に代表される色収差が多く発生し、光学性能が低下する。
【0003】
既存のガラス等の光学材料のみを用いた光学系では、高性能化と小型軽量化を同時に満足することは難しい。このため、光学系の一部に、媒質が屈折率分布を有する光学素子を用いることで諸収差を補正(低減)する方法が知られている。
【0004】
このような屈折率分布を有する光学素子は、その媒質の屈折率が均質な光学素子と比較して収差補正の自由度が大きい。色収差補正のために屈折率分布を有する光学素子を含む光学系が特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0005】
また、光軸に直交する方向に屈折率分布を有するレンズにおいて、分散を考慮して2次スペクトルを補正した光学系が特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−212644号公報
【特許文献2】特開2004−240464号公報
【特許文献3】特許第3573575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3にて開示された光学系では、材料自体の可視光中の短波長領域での特性は考慮されているが、屈折率分布による屈折作用の波長分散特性が十分に考慮されていない。屈折率分布を有する光学素子を、屈折率分布を持たない屈折光学素子と等価なものとして扱い、焦点距離、アッベ数および部分分散比の値を等価的に定義する。この場合の屈折率分布による屈折作用の波長分散は、それら等価的に定義されたアッベ数(本明細書では等価アッベ数という)および部分分散比(本明細書では等価部分分散比という)等によって表すことができる。
【0008】
特に、F線(486.1nm)、d線(587.6nm)およびC線(656.3nm)にg線(435.8nm)を含めた4波長の光線に対する屈折率分布による屈折作用の分散特性を考慮すれば、2次スペクトルを良好に補正することが可能である。
【0009】
また、特許文献1〜3には、屈折率分布を有する光学素子を作成するための材料の特性等についての記載が十分ではなく、目標とする屈折率分布を実現するための方法が明確ではない。
【0010】
本発明は、諸収差を良好に補正できる屈折率分布を有する光学素子およびこれを用いた光学機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面としての光学素子は、媒質が屈折率分布を有する。該光学素子は、以下の条件を満足することを特徴とする。
【0012】
|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≧0.02
|ΔθgFgi(p1)|≧0.0272
|Δθgdgi(p1)|≧0.0250
|θgFgi(pmaxgi)−θgFgi(pmingi)|≦0.1
但し、θgF(pmax)およびθgF(pmin)はそれぞれ、媒質中の位置pmaxおよびpminにおけるg線とF線に関する部分分散比であり、位置pmaxおよびpminはそれぞれ、媒質中においてg線とF線に関する部分分散比が最大値および最小値となる位置である。p0を媒質中において基準屈折率を有する位置とし、p1を媒質中における位置p0とは異なる位置とし、nF(p1),nd(p1),nC(p1)をそれぞれ媒質の位置p1でのF線、d線およびC線に関する屈折率とし、nF(p0),nd(p0),nC(p0)をそれぞれ媒質の位置p0でのF線、d線およびC線に関する屈折率とし、δng(p1),δnF(p1),δnd(p1),δnC(p1)をそれぞれ位置p1でのg線、d線、F線およびC線に関する屈折率差とし、θgFgi(p1)を媒質の位置p1におけるg線とF線に関する等価部分分散比とし、θgdgi(p1)を媒質の位置p1におけるg線とd線に関する等価部分分散比とする。このとき、
δng(p1)=ng(p1)−ng(p0)
δnd(p1)=nd(p1)−nd(p0)
δnF(p1)=nF(p1)−nF(p0)
δnC(p1)=nC(p1)−nC(p0)
θgFgi(p1)
={δng(p1)−δnF(p1)}/{δnF(p1)−δnC(p1)}
θgdgi(p1)
={δng(p1)−δnd(p1)}/{δnF(p1)−δnC(p1)}
である。
また、ΔθgFgi(p1)およびΔθgdgi(p1)をそれぞれ、等価部分分散比の異常分散性とし、νdgi(p1)を媒質の位置p1でのd線とg線の等価アッベ数とし、
θgFgi0
=−1.665×10−7νdgi(p1)3+5.213×10−5νdgi(p1)2
−5.656×10−3νdgi(p1)+0.7278
θgdgi0
=−1.687×10−7νdgi(p1)3+5.702×10−5νdgi(p1)2
−6.603×10−3νdgi(p1)+1.462
とするとき、
ΔθgFgi(p1)=θgFgi(p1)−θgFgi0
Δθgdgi(p1)=θgdgi(p1)−θgdgi0
である。
【0013】
θgFgi(pmaxgi)およびθgFgi(pmingi)はそれぞれ、媒質の位置pmaxgiおよびpmingiにおける等価部分分散比であり、位置pmaxgiおよびpmingiはそれぞれ、媒質中における位置p0とは異なる位置であって、g線とF線に関する等価部分分散比が最大値となる位置である。
【0014】
なお、上記光学素子を含む光学系を有する光学機器も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、屈折率分布を有する光学素子であって、光学系に用いた場合に色収差等の諸収差を十分に低減する(補正する)ことが可能な光学素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図2】実施例1の収差図。
【図3】本発明の実施例2である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図4】実施例2の収差図。
【図5】本発明の実施例3である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図6】実施例3の広角端、中間ズーム位置および望遠端における収差図。
【図7】本発明の実施例4である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図8】実施例4の収差図。
【図9】本発明の実施例5である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図10】実施例5の収差図。
【図11】本発明の実施例6である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図12】実施例6の収差図。
【図13】本発明の実施例7である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図14】実施例7の収差図。
【図15】本発明の実施例8である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図16】実施例8の収差図。
【図17】本発明の実施例9である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図18】実施例9の収差図。
【図19】本発明の実施例10である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図20】実施例10の収差図。
【図21】色収差係数の波長特性に関する説明図。
【図22】本発明の実施例11である撮像装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
まず、後述する本発明の実施例1〜10に共通する事項について説明する。実施例の光学素子は、媒質中に屈折率分布を有する。そして、該屈折率分布の波長特性について、後述する条件を満足する。
実施例の光学素子は、デジタルスチルカメラ、銀塩フィルムカメラ、ビデオカメラ、望遠鏡、双眼鏡、複写機、プロジェクタ等の光学機器の光学系の一部に用いられる。
実施例の光学素子を構成する「固体材料」とは、光学系に適用して使用する状態で固体となっている材料である。製造時等の光学系に使用する前の状態では、どのような状態であってもよい。例えば、製造時には液体材料であっても、それを硬化させて固体材料としたものも固体材料に該当する。
【0018】
実施例の光学素子は、媒質中の屈折率分布によって入射した光線に位相差を与え、屈折率分布を持たない媒質(均質媒質)による凸レンズや凹レンズのような光線収束作用又は光線発散作用を有する。
【0019】
屈折率分布の種類としては、光軸に直交する方向に屈折率分布があるラジアル屈折率分布や、光軸方向に屈折率分布があるアキシャル屈折率分布等がある。
【0020】
また、屈折率分布を有する光学素子では、界面での屈折に加えて、媒質中で光線を屈折させる。このため、均質媒質の光学素子と比較すると、収差補正の自由度が大きい。
【0021】
媒質中に屈折率分布を形成する方法は種々提案されており、イオン交換法、ゾルゲル法、3次元プリンティング技術等がある。
【0022】
イオン交換法では、イオン交換が可能なイオンを含有する材料を、溶液に浸水させて屈折率分布を得る。ゾルゲル法では、シリコンを主成分としたゾルを調合してゲルを得て、ゲルに所望の屈折率分布を付与し、乾燥・焼結等によりガラス体を得る。
3次元プリンティング技術では、屈折率の異なる媒質を複数層成形して、屈折率分布を付与する。
【0023】
これらの方法では、媒質中の複数材料に、所望の組成比率の分布を作成することで屈折率分布を得ている。
【0024】
屈折率分布の波長分散を考えると、各波長について同様の屈折率分布があるならば、媒質中の屈折成分としては色収差が発生しない。しかし、上記のように複数材料の組成比率を分布させて屈折率分布を作る場合には、各波長での屈折率分布量、すなわち屈折率分布の波長分散が存在する。
【0025】
実施例の光学素子における屈折率分布の波長分散は、以下の条件を満足する。
【0026】
|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≧0.02 …(1)
|ΔθgFgi(p1)|≧0.0272 …(2)
|Δθgdgi(p1)|≧0.0250 …(3)
|θgFgi(pmaxgi)−θgFgi(pmingi)|≦0.1 …(4)
このとき、媒質中の位置pでの波長λの光線に関する屈折率をnλ(p)とする。この定義に従うと、位置p(=p1,p0)でのフラウンフォーファ線であるg線(435.8nm)、F線(486.1nm)、d線(587.6nm)およびC線(656.3nm)に関する屈折率はそれぞれ以下のように表される。p0は媒質中で基準屈折率を有する位置であり、p1はp0とは異なる媒質中の位置である。
ng(p),nF(p),nd(p),nC(p)
実施例における位置p(=p1,pmax,pmin,pmaxgi,pmingi)でのd線に関するアッベ数νd(p)、g線とd線に関する部分分散比θgd(p)、g線とF線に関する部分分散比θgF(p)はそれぞれ次の通りである。
【0027】
νd(p)={nd(p)−1}/{nF(p)−nC(p)}
θgd(p) ={ng(p)−nd(p)}/{nF(p)−nC(p)}
θgF(p) ={ng(p)−nF(p)}/{nF(p)−nC(p)}
g線とd線に関する異常分散性Δθgdおよびg線とF線に関する異常分散性ΔθgFは次の通りである。一般的な光学材料の部分分散比は、アッベ数の変化に対してほぼ同傾向に変化する。このときの部分分散比の標準値θgd0,θgF0をd線に関するアッベ数νdの関数として以下のように表す。
θgd0=−1.687×10−7νd3+5.702×10−5νd2
−6.603×10−3νd+1.462
θgF0=−1.665×10−7νd3+5.213×10−5νd2
−5.656×10−3νd+0.7278
異常分散性とは、この標準値からの差分を示す。すなわち、異常分散性Δθgd,ΔθgFはそれぞれ、
Δθgd=θgd−θgd0
ΔθgF=θgF−θgF0
と表される。
【0028】
実施例の光学素子は、媒質中に屈折率分布を有しているため、媒質中の位置pによって屈折率が変化する。このため、アッベ数および部分分散比についても位置pによって変化する。
【0029】
位置pmaxは、媒質中においてg線とF線に関する部分分散比が最も大きな値となる位置を表す。位置pminは、媒質中においてg線とF線に関する部分分散比が最も小さな値となる位置を表す。
【0030】
また、実施例にいう媒質の屈折における等価部分分散比および等価アッベ数は次の通りである。
屈折率が媒質中で均質である光学素子(以下、均質レンズという)において、光線は媒質と雰囲気との界面で屈折するが、媒質中では屈折しない。媒質の屈折率は波長によって変化するため、均質レンズで屈折した光線には色収差が生じる。
【0031】
屈折作用とは光束の位相差から生じる現象であり、均質レンズにおいては形状を変化させることで位相差を与えている。このとき、波長分散の指標となるd線に関するアッベ数は、空気の屈折率を1としたときの空気との屈折率差の比で表される。
【0032】
一方、媒質が屈折率分布を有する光学素子(以下、屈折率分布レンズという)では、光線は、媒質と雰囲気との界面で屈折するのに加え、媒質中でも屈折する。そして、屈折率分布の波長分散によって、媒質中での屈折においても色収差が発生する。
【0033】
媒質中の屈折率分布による位相差は、媒質中の基準となる位置での屈折率と、光線が通過する位置での屈折率の差分によって生じる。このため、媒質中の屈折における波長分散は、光線通過位置での屈折率と、基準位置での屈折率の差分の比となる。
【0034】
これにより求まる波長分散は、媒質中での屈折を、色収差が等しくなる波長分散特性を有する仮想ガラスとして置き換えて考えると、仮想ガラスの波長分散として等価的に扱うことが可能となる。つまり、媒質中の屈折における波長分散は、等価アッベ数および等価部分分散比を用いることで、仮想的な屈折レンズと置き換えることが可能となる。
【0035】
媒質中に屈折率分布を有するときの、各波長での位置p0での基準屈折率をnλ(p0)とする。このとき、媒質中の位置p1での屈折率差δnλ(p1)、等価アッベ数νdgi(p1)および等価部分分散比θgFgi(p1),θgdgi(p1)は以下のように表される。
【0036】
δnλ(p1)=nλ(p1)−nλ(p0)
(すなわち、δng(p1),δnF(p1),δnd(p1),δnC(p1)をそれぞれ位置p1でのg線、d線、F線およびC線に関する屈折率差とすると、
δng(p1)=ng(p1)−ng(p0),
δnd(p1)=nd(p1)−nd(p0),
δnF(p1)=nF(p1)−nF(p0),
δnC(p1)=nC(p1)−nC(p0))
νdgi(p1)=δnd(p1)/{δnF(p1)−δnC(p1)}
θgFgi(p1)
={δng(p1)−δnF(p1)}/{δnF(p1)−δnC(p1)}
θgdgi(p1)
={δng(p1)−δnd(p1)}/{δnF(p1)−δnC(p1)}
媒質中での屈折におけるg線とF線に関する異常分散性ΔθgFgiおよびg線とd線に関する異常分散性Δθgdgiはそれぞれ、
Δθgdgi=θgdgi−θgdgi0
ΔθgFgi=θgFgi−θgFgi0
と表される。但し、θgdgi0およびθgFgi0はそれぞれ等価アッベ数νdgiの関数として、
θgdgi0=−1.687×10−7νdgi3+5.702×10−5νdgi2
−6.603×10−3νdgi+1.462
θgFgi0=−1.665×10−7νdgi3+5.213×10−5νdgi2
−5.656×10−3νdgi+0.7278
とする。
【0037】
実施例の光学素子は、前述したように媒質中に屈折率分布を有し、媒質中の位置pによって屈折率が変化する。屈折率の変化量は各波長によって異なるため、等価アッベ数および等価部分分散比についても位置pによって変化する。
【0038】
位置pmaxgiは、媒質中において、媒質の屈折におけるg線とF線に関する等価部分分散比が最も大きな値となる位置を表す。位置pmingiは、媒質中において、g線とF線に関する等価部分分散比が最も小さな値となる位置を表す。
【0039】
媒質中において、光軸に直交する方向に屈折率が変化する屈折率分布をラジアル屈折率分布という。ラジアル屈折率分布の波長λにおける屈折率は、光軸から該光軸に直交する方向での距離をrとすると、次の式で表すことができる。
【0040】
【数1】
【0041】
このとき、d線に関するアッベ数νdR(r)、g線とd線に関する部分分散比θgdR(r)およびg線とF線に関する部分分散比θgFR(r)はそれぞれ次のように表される。
【0042】
νdR(r) ={ndR(r)−1}/{nFR(r)−nCR(r)}
θgdR(r) ={ngR(r)−ndR(r)}/{nFR(r)−nCR(r)}
θgFR(r) ={ngR(r)−nFR(r)}/{nFR(r)−nCR(r)}
ラジアル屈折率分布では、光軸上の屈折率を基準屈折率として、媒質中の屈折率差δnλR(r)を以下の式で表すことができる。
【0043】
δnλR(r)=nλR(r)−nλR(0)
また、0より大きいr1でのラジアル屈折率分布における等価アッベ数νdgiR(r1)および等価部分分散比θgFgiR(r1),θgdgiR(r1)を表すと、以下のようになる。
【0044】
νdgiR(r1)=δndR(r1)/{δnFR(r1)−δnCR(r1)}
θgFgiR(r1)
={δngR(r1)−δnFR(r1)}/{δnFR(r1)−δnCR(r1)}
θgdgiR(r1)
={δngR(r1)−δndR(r1)}/{δnFR(r1)−δnCR(r1)}
媒質の屈折におけるg線とF線に関する異常分散性ΔθgFgiRおよびg線とd線に関する異常分散性ΔθgdgiRはそれぞれ、
ΔθgdgiR=θgdgiR−θgdgiR0
ΔθgFgiR=θgFgiR−θgFgiR0
と表される。但し、θgdgiR0およびθgFgiR0はそれぞれ、等価アッベ数νdgiRの関数として、
θgdgiR0=−1.687×10−7νdgiR3
+5.702×10−5νdgiR2
−6.603×10−3νdgiR+1.462
θgFgiR0=−1.665×10−7νdgiR3
+5.213×10−5νdgiR2
−5.656×10−3νdgiR+0.7278
である。
【0045】
ラジアル屈折率分布を有する屈折率分布レンズの光線有効半径をreaとすると、光軸からの距離reaおよび光軸上(距離=0)におけるg線とF線に関する部分分散比は条件(1)から得られる、つまりは条件(1)としての以下の条件を満足する。
【0046】
|θgFR(rea)−θgFR(0)|≧0.02 …(5)
さらに好ましくは、等価アッベ数νdgiR(r)が以下の条件を満足する。
【0047】
0<νdgiR(r)≦80 …(6)
媒質中において、光軸方向に屈折率が変化する屈折率分布を、アキシャル屈折率分布という。アキシャル屈折率分布の波長λにおける屈折率は、媒質中の最も光入射側の点から光軸方向での距離tとすると、次の式で表すことができる。
【0048】
【数2】
【0049】
このとき、d線に関するアッベ数νdA、g線とd線に関する部分分散比θgdAおよびg線とF線に関する部分分散比θgFAはそれぞれ、以下の式で表される。
【0050】
νdA(t) ={ndA(t)−1}/{nFA(r)−nCA(t)}
θgdA(t) ={ngA(t)−ndA(t)}/{nFA(t)−nCA(t)}
θgFA(t) ={ngA(t)−nFA(t)}/{nFA(t)−nCA(t)}
アキシャル屈折率分布では、媒質中の屈折率差δnλA(t)は次式で表すことができる。
【0051】
δnλA(t)=nλA(t)−nλA(0)
また、0より大きいt1において、アキシャル屈折率分布における等価アッベ数νdgiA(t1)および等価部分分散比θgFgiA(t1),θgdgiA(t1)を表すと、以下のようになる。
【0052】
νdgiA(t1)=δndA(t1)/{δnFA(t1)−δnCA(t1)}
θgFgiA(t1)
={δngA(t1)−δnFA(t1)}/{δnFA(t1)−δnCA(t1)}
θgdgiA(t1)
={δngA(t1)−δndA(t1)}/{δnFA(t1)−δnCA(t1)}
媒質の屈折におけるg線とF線に関する異常分散性ΔθgFgiAおよびg線とd線に関する異常分散性ΔθgdgiAはそれぞれ、
ΔθgdgiA=θgdgiA−θgdgiA0
ΔθgFgiA=θgFgiA−θgFgiA0
と表される。但し、θgdgiA0およびθgFgiA0はそれぞれ等価アッベ数νdgiAの関数として、
θgdgiA0=−1.687×10−7νdgiA3
+5.702×10−5νdgiA2
−6.603×10−3νdgiA+1.462
θgFgiA0=−1.665×10−7νdgiA3
+5.213×10−5νdgiA2
−5.656×10−3νdgiA+0.7278
である。
【0053】
媒質中において、光軸方向における最も光入射側の点をtobjとし、最も光射出側の点をtimgとすると、それら点tobj,timgでのg線とF線に関する部分分散比は、条件(1)から得られる、つまりは条件(1)としての以下の条件を満足する。
【0054】
|θgFA(tobj)−θgFA(timg)|≧0.02 …(7)
さらに好ましくは、等価アッベ数νdgiA(t)は以下の条件式を満足する。
【0055】
0<νdgiA(t)≦200 …(8)
屈折率分布を有する光学素子を作成する方法として、光学素子を構成する媒質が、固体材料と、少なくとも1つの光学材料との混合体からなる場合を考える。屈折率分布を作るには、該固体材料と該光学材料との組成比率を媒質中で空間的に分布(変化)させればよい。実施例では、固体材料と光学材料のg線とF線に関する異常分散性をそれぞれΔθgFs,ΔθgFmとするとき、以下の条件を満足する。
【0056】
|ΔθgFs−ΔθgFm|≧0.027 …(9)
このとき、固体材料と光学材料のd線に関するアッベ数およびg線とF線に関する部分分散比をそれぞれνds、νdm、θgFs、θgFmとする。
【0057】
次に、前述した各条件の技術的意味について説明する。各条件は、実施例の光学素子における屈折率分布の波長分散特性について規定する。条件(1)から(4)に示す波長分散特性を満足するとき、光学系の諸収差、特に色収差を良好に補正(低減)することが可能となる。
【0058】
ここで、光学系において可視光における短波長領域まで良好に補正する方法について述べる。一般的な光学材料において、その波長分散は、前述したようにアッベ数に対してある傾向を有し、その特性を上記のようにθgF0およびθgd0等として表現できる。d線、F線、C線に加えg線の4波長光線の収差補正を行う場合には、ΔθgFおよびΔθgdの絶対値が大きいような異常分散性を有する光学材料を用いる方法等が考えられる。
【0059】
屈折率分布による屈折作用の波長分散についても同様に考えられ、等価部分分散比が異常分散性を有する場合には、可視光をその短波長領域も含めて良好に色収差を補正することが可能である。つまり、屈折率分布による屈折作用において、g線に関する屈折率の変化がd線、C線およびF線に関する屈折率の変化と大きく異なるときに、色収差を良好に補正することが可能である。
【0060】
条件(1)が成り立つとき、屈折率分布による屈折作用が有する異常分散性がより顕著となる。条件(1)の式の左辺は下限値よりも大きくなるほど好ましい。
【0061】
条件(4)において、上限値を超えると色の球面収差等が大きく発生するため、収差の補正が困難となる。また、条件(4)を満足しない屈折率分布を作成するには、母材に対して複数材料の組成比を変化させて混合させる等の方法があるが、その組成比の制御は困難である。
【0062】
光学素子がラジアル屈折率分布を有する場合には、条件(5)を満足するのがよい。これによれば、更に色収差を良好に補正するのが容易となる。また、条件(6)を満足すれば、C線からF線までの、可視光での短波長領域を除く波長域で、色収差を良好に補正することが可能となる。
【0063】
光学素子がアキシャル屈折率分布を有する場合には、条件(7)を満足するのがよい。これによれば、更に色収差を良好に補正するのが容易となる。また、条件(8)を満足すれば、C線からF線までの、可視光での短波長領域を除く波長域で、色収差を良好に補正することが可能となる。
【0064】
実施例の光学素子を作成するために、固体材料と少なくとも1つの光学材料とを混合するときの組成比率を媒質中で変化させる際に、条件(9)を満足する固体材料と光学材料を選択することで、条件(1)〜(4)を満足する屈折率分布を実現できる。
【0065】
例えば、固体材料に無機酸化物の微粒子を混合させ、その混合比率を媒質中で変化させたものは、条件(1)〜(4)を満足する。無機酸化物としては、例えば、TiO2(nd=2.304,νd=13.8)、Nb2O5(nd=2.367,νd=14.0)、ITO(nd=1.8571,νd=5.69)がある。また、他の無機酸化物として、CrO3(nd=2.2178,νd=13.4)、BaTiO3(nd=2.4362,νd=11.3)等もある。
【0066】
これらの無機酸化物微粒子の中で、TiO2微粒子、ITO(Indium−Tin−Oxide)微粒子を固体材料中に適切な体積比で分散させ、その組成比率を変化させる場合、上記条件を満足する光学素子が得られる。
【0067】
散乱を考慮すると、これらの微粒子の粒径は2nmから50nmが好ましく、凝集を抑えるために分散剤等を添加してもよい。
【0068】
なお、上記条件(1)〜(4)を満足すれば、製法および材料は上述したものに限定されない。
【0069】
微粒子を分散させた混合体において、波長λでの屈折率N(λ)は、よく知られたDrudeの式から導き出される次式によって、簡単に計算することができる。
【0070】
N(λ)=[1+V{Nm2(λ)−1}+(1−V){N02(λ)−1}]1/2
但し、λは任意の波長であり、Nmは分散する微粒子等の屈折率であり、N0は微粒子等を分散させるポリマー等の屈折率であり、Vはポリマー等の体積に対する微粒子等の総体積の分率である。
【0071】
表1には、上記材料の各波長での屈折率、d線に関するアッベ数νd、g線とF線に関する部分分散比θgFおよびg線とd線に関する部分分散比θgdを示す。
【0072】
実施例における屈折率分布を有する光学素子では、媒質中の位置pに応じて固体材料と光学材料の組成比率を変化させている。これによれば、媒質中の位置pに応じてg線とF線に関する部分分散比θgF(p)が変化することとなる。このとき、媒質中の位置pに関して、部分分散比θgF(p)の変化量を大きくするほど、媒質での屈折に関する等価部分分散比の異常分散性ΔθgFgi(p)の絶対値が大きくなる傾向にある。ΔθgFgi(p)の絶対値が大きいほど、以下で説明する色収差補正効果をより得やすくなる。
【0073】
実施例では、一般的な光学材の部分分散比と比較して、等価部分分散比の値が大きい又は小さい光学素子を用いることにより、良好な色収差補正を可能としている。
【0074】
光学材料の屈折率における波長分散特性において、等価アッベ数は分散特性曲線の傾きを表し、等価部分分散比は分散特性曲線の曲がり具合を表す。
【0075】
一般的に光学材料で屈折率分布素子を作成すると、短波長側の屈折率分布が長波長側の屈折率分布よりも変化が大きく、d線に関する等価アッベ数、g線とF線に関する等価部分分散比、g線とd線に関する等価部分分散比はそれぞれ正の値となる。このため、分散特性曲線(波長に対する屈折率の特性)は下に凸状の形状となる。さらに、短波長側ほど波長の変化に対する屈折率分布の変化が大きくなる。
【0076】
また、一般の光学材料において、部分分散比はアッベ数に対して低分散領域ではほぼ直線的な変化をし、高分散になるにつれて変化の度合いは大きくなる傾向にある。このような分布から外れたものが異常分散性を有する光学材料である。
【0077】
光学系のうち等価部分分散比が大きな光学材料を用いた部分(光学系部分)GNLと、等価部分分散比が小さな光学材料を用いた光学系部分GLと、部分分散比が一般的な値である光学材料を用いた屈折光学系部分Gとにより構成される光学系があるとする。この光学系の色収差の補正について、図21を用いて説明する。
【0078】
図21において、屈折光学系部分Gの色収差がある程度補正された状態での色収差係数の波長特性曲線(以下、色収差係数曲線ともいう)を破線Gで示す。曲線GNLおよびGLはそれぞれ光学系部分GNLおよびGLにおける色収差係数曲線を表す。また、色収差の補正後の曲線は屈折光学系部分Gに、光学系部分GNLおよびGLを導入して色収差を補正した場合の色収差係数曲線を示す。
【0079】
一般的に色収差が補正された光学系における色収差係数曲線は、破線Gのように短波長側に曲がりを残した状態で、色収差のバランスをとっていることが多い。一般的な光学材料のみを使用して、色収差をより良好に補正するのは困難である。
【0080】
このような屈折光学系部分Gに対して、光学系部分GNLを導入し適当なパワーを与えると、設計基準波長を中心にして色収差係数の傾きが変化する。このとき、光学系部分GNLは一般の光学材料に比べて等価部分分散比が大きいため、短波長側での色収差係数曲線の変化がより大きくなる。
【0081】
この場合に、光学系部分GNLで発生している色収差係数曲線の傾きを補正すれば、屈折光学系部分Gの短波長領域における曲がりを打ち消し、色収差を良好に補正することができる。
【0082】
光学系部分GLは一般的な光学材料と比較して等価部分分散比が小さい光学系で構成されている。このため、色収差係数曲線は比較的線形性を示す。
【0083】
この場合に、屈折光学系部分Gのパワーを緩めて、光学系部分GLに適切なるパワーを与えると、色収差係数曲線の短波長領域における曲がりを緩めることができる。これによれば、可視光における短波長領域まで含めた領域において、良好に色収差を補正することが可能である。
【0084】
実施例の光学素子は、一般の光学材料と組み合わせて、色収差をはじめとする諸収差を補正する。このため、等価部分分散比は異常分散性を持つことが収差補正上必要ではあるが、異常分散性が大き過ぎると色収差の補正が困難となる。
【0085】
一般の光学材料とかけ離れた特性を有するレンズを用いた場合、色収差係数の波長依存特性の変化は特に大きくなる。その大きな変化を補正し、色収差補正をするには、他のレンズのパワーも大きく変化させる必要がある。但し、パワーを大きく変化させると球面収差やコマ収差や非点収差等の収差に大きな影響を及ぼすため、収差補正が困難となる。
【0086】
このため、光学素子の波長分散に関する条件(1)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することができる。
【0087】
0.020≦|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≦0.800 …(1a)
また、収差補正の観点から、更に望ましくは、(1a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0088】
0.030≦|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≦0.750 …(1b)
更に望ましくは、(1b)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0089】
0.040≦|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≦0.700 …(1c)
光学素子の媒質の屈折における、g線とF線の等価部分分散比に関する条件(2)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0090】
0.0272≦|ΔθgFgi(p1)|≦1.000 …(2a)
また、収差補正の観点から、更に望ましくは、(2a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0091】
0.050≦|ΔθgFgi(p1)|≦0.900 …(2b)
更に望ましくは、(2b)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0092】
0.080≦|ΔθgFgi(p1)|≦0.800 …(2c)
光学素子の媒質の屈折におけるg線とd線の等価部分分散比に関する条件(3)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0093】
0.025≦|Δθgdgi(p1)|≦1.000 …(3a)
更に望ましくは、(3a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0094】
0.050≦|Δθgdgi(p1)|≦0.900 …(3b)
更に望ましくは、(3b)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0095】
0.080≦|Δθgdgi(p1)|≦0.800 …(3c)
光学素子の媒質の屈折におけるg線とF線の等価部分分散比に関する条件(4)の数値範囲は、以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0096】
|θgFgi(pmaxgi)−θgFgi(pmingi)|≦0.09
…(4a)
更に望ましくは、(4a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0097】
|θgFgi(pmaxgi)−θgFgi(pmingi)|≦0.08
…(4b)
ラジアル屈折率分布レンズのg線とF線の部分分散比に関する条件(5)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0098】
0.020≦|θgFR(rea)−θgFR(0)|≦0.800 …(5a)
更に望ましくは、(5a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0099】
0.030≦|θgFR(rea)−θgFR(0)|≦0.750 …(5b)
更に望ましくは、(5b)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0100】
0.040≦|θgFR(rea)−θgFR(0)|≦0.700 …(5c)
ラジアル屈折率分布レンズにおけるd線の等価アッベ数に関する条件式(6)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0101】
0<νdgiR(r)≦60 …(6a)
更に望ましくは、(6a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0102】
0<νdgiR(r)≦40 …(6b)
アキシャル屈折率分布レンズのg線とF線の部分分散比に関する条件式(7)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0103】
0.020≦|θgFA(tobj)−θgFA(timg)|≦0.800
…(7a)
更に望ましくは、(7a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0104】
0.030≦|θgFA(tobj)−θgFA(timg)|≦0.750
…(7b)
更に望ましくは、(7b)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0105】
0.050≦|θgFA(tobj)−θgFA(timg)|≦0.700
…(7c)
アキシャル屈折率分布レンズにおけるd線の等価アッベ数に関する条件式(8)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0106】
0<νdgiA(t)≦100 …(8a)
更に望ましくは、(8a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0107】
0<νdgiA(t)≦60 …(8b)
更に望ましくは、(8b)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0108】
0<νdgiA(t)≦40 …(8c)
各実施例では、条件式(1)〜(4)を満足する光学素子を光学系中に使用している。これらの光学素子で構成された屈折面は非球面形状を有していてもよい。これによれば色の球面収差等の色収差フレアを補正することが容易となる。また、これらの光学素子と空気等の雰囲気や屈折率差が大きい光学材料とで境界面を形成すれば、境界面の僅かな曲率変化で色収差を比較的大きく変化させることができ、この結果、色収差の補正が容易となる。
【0109】
以下、上述した屈折率分布を有する光学素子(屈折率分布レンズ)を用いた光学系の具体的な実施例について説明する。
【0110】
図1は実施例1の光学系のレンズ断面図である。図2は実施例1の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図3は実施例2の光学系のレンズ断面図である。図4は実施例2の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図5は実施例3の光学系の広角端におけるレンズ断面図である。図6(a),(b),(c)はそれぞれ、実施例3の光学系が広角端、中間ズーム位置、望遠端において無限遠物体に合焦したときの収差図である。
【0111】
図7は実施例4の光学系のレンズ断面図である。図8は実施例4の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図9は実施例5の光学系のレンズ断面図である。図10は実施例5の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図11は実施例6の光学系のレンズ断面図である。図12は実施例6の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。
【0112】
図13は実施例7の光学系のレンズ断面図である。図14は実施例7の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図15は実施例8の光学系のレンズ断面図である。図16は実施例8の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図17は実施例9の光学系のレンズ断面図である。図18は実施例9の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図19は実施例10の光学系のレンズ断面図である。図20は実施例10の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。
【0113】
各実施例の光学系は、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、銀塩フィルムカメラ等の撮像装置に用いられる撮影レンズ系である。レンズ断面図において、左方が物体側(前方)、右方が像側(後方)である。
【0114】
なお、各実施例の光学系をプロジェクタ等の投射レンズとして用いるときは、左方が投射面(スクリーン)側、右方が投射面に投射される原画側である。
【0115】
レンズ断面図において、OLは光学系である。iは物体側からのレンズの順番を示し、Liは第iレンズである。SPは開口絞りである。IPは像面であり、撮像装置における固体撮像素子の撮像面や銀塩フィルムカメラのフィルム面に相当する感光面が配置される。
【0116】
Ggij(j=1、2、3…)は屈折率分布レンズを表す。各実施例の光学系は、屈折率分布レンズを少なくとも1つ含む。
【0117】
収差図において、d、g、C、Fはそれぞれd線、g線、C線およびF線に関する収差であることを示す。ΔMおよびΔSはそれぞれメリディオナル像面およびサジタル像面である。倍率色収差はg線によって表している。ωは半画角、FnoはFナンバーである。
【実施例1】
【0118】
図1に示す実施例1(数値例1)の光学系は、物体側から像側へ順に、フォーカスに際して不動である正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、フォーカスのために光軸方向に移動する負の屈折力を有する第2レンズユニットL2とを有する。また、該光学系は、フォーカスに際して不動である負の屈折力を有する第3レンズユニットL3を有する。この光学系は、倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0119】
実施例1の光学系は、焦点距離が294mm、望遠比(第1レンズ面から像面までの光軸方向に沿う長さを焦点距離で割った値)が0.80の望遠レンズである。
【0120】
実施例1では、第1レンズユニットL1に、UV硬化樹脂1にITO微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成された屈折率分布レンズGgi1を用いている。
この屈折率分布レンズGgi1は、光軸に直交する方向(径方向)に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、ITO微粒子を、体積比で最大で5.05%、最小で0.0%分散させた混合体である。屈折率分布レンズの光軸から径方向にITO微粒子の組成比率が増加している。
このため、屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、径方向での最外有効位置(以下、有効径位置という)で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最小値となり、有効径位置で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは有効径位置であり、位置pmingiは光軸上の位置である。
実施例1の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に平面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力は実質的に無い。また、媒質の屈折力は負である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して小さい。
【0121】
実施例1の光学系は、開口絞りSPより物体側の屈折力が正で、像側の屈折力が負となるテレフォトタイプのパワー配置を有する。実施例1では、開口絞りSPよりも物体側での近軸軸上光線の通過位置が比較的高い、開口絞りSPよりも前方に配置された第1レンズユニットL1内に屈折率分布レンズGgi1を含ませることで、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例2】
【0122】
図3に示す実施例2(数値例2)の光学系は、物体側から像側へ順に、フォーカスに際して不動である正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、フォーカスのために光軸方向に移動する負の屈折力を有する第2レンズユニットL2とを有する。また。該光学系は、フォーカスに際して不動である負の屈折力を有する第3レンズユニットL3を有する。この光学系は、倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0123】
実施例2の光学系は、焦点距離が294mm、望遠比が0.765の望遠レンズである。
【0124】
実施例2では、第1レンズユニットL1に屈折率分布レンズを2つ用いている。屈折率分布レンズGgi1は、UV硬化樹脂2にITO微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。屈折率分布レンズGgi2は、UV硬化樹脂1に、TiO2微粒子の組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。
【0125】
屈折率分布レンズGgi1および屈折率分布レンズGgi2は、径方向に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、UV硬化樹脂2に対して、ITO微粒子を、体積比で最大で5.05%、最小で0.00%分散させた混合体である。光軸から径方向にITO微粒子の組成比率が増加している。
また、屈折率分布レンズGgi2の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、TiO2微粒子を、体積比で最大で3.0%、最小で0.0%分散させた混合体である。光軸から径方向にTiO2微粒子の組成比率が減少している。
このため、屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最小値となり、有効径位置で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは有効径位置であり、位置pmingiは光軸上の位置である
屈折率分布レンズGgi2において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最小値となり、有効径位置で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは有効径位置であり、位置pmingiは光軸上の位置である
実施例2の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面が共に平面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力は実質的に無い。また、媒質の屈折力は負の屈折力を有している。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して小さい。また、ITO微粒子を分散させる媒質として、異常分散性を有する樹脂を使用している。これにより、等価部分分散比は、より異常分散性を有する。
屈折率分布レンズGgi2の光入射側の面と光射出側の面は共に曲面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の境界において屈折力を有する。媒質の屈折力は正である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して大きい。
【0126】
一般的な光学材料と比較して、等価部分分散比が小さい屈折率分布レンズと、等価部分分散比が大きい屈折率分布レンズの両者を用いることで、色収差をより良好に補正することが可能となる。
【0127】
実施例2の光学系は、開口絞りSPより物体側の屈折力が正で、像側の屈折力が負となるテレフォトタイプのパワー配置を有する。実施例2では、開口絞りSPよりも物体側での近軸軸上光線の通過位置が比較的高い、開口絞りSPよりも前方に配置された第1レンズユニットL1に屈折率分布レンズGgi1,Ggi2を含ませることで、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例3】
【0128】
図5に示す実施例3(数値例3)の光学系は、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、負の屈折力を有する第2レンズユニットL2と、正の屈折力を有する第3レンズユニットL3とを有する。また、該光学系は、正の屈折力を有する第4レンズユニットL4を有する。この光学系は、ズーム比が約12倍の4レンズユニット構成のズームレンズである。
【0129】
図5中の矢印は、広角端から望遠端へのズーミングの際の各レンズユニットの移動軌跡を示している。ズーミングに際して、各レンズユニットは、隣接するレンズユニット間の間隔が変化するように移動する。また、第4レンズユニットL4はフォーカスのために光軸方向に移動する。この光学系は、倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0130】
実施例3では、第1レンズユニットL1に、屈折率分布レンズを用いている。屈折率分布レンズGgi1は、UV硬化樹脂1にITO微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。
【0131】
屈折率分布レンズGgi1は、径方向に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、ITO微粒子を、体積比で最大で3.34%、最小で0.0%分散させた混合体である。光軸から径方向にITO微粒子の組成比率が増加している。
このため、屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。位置pmaxgiは光軸上の位置であり、位置pmingiは有効径位置である。
【0132】
実施例3の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面および光射出側の面は共に曲面形状を有する。屈折率分布レンズGgi1は、2つのレンズの間に配置され、それらレンズに密着接合されている。雰囲気と媒質の境界において屈折力を有する。媒質の屈折力は負である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して小さい。
【0133】
実施例3では、ズームレンズを構成する各レンズユニットのうち、開口絞りSPよりも物体側において、望遠端において、近軸軸上光線の光軸からの通過位置が比較的高くなる第1レンズユニットL1に、屈折率分布レンズGgi1を含ませている。これにより、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例4】
【0134】
図7に示す実施例4(数値例4)の光学系は、物体側から像側へ順に、負の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、フォーカスのために光軸方向に移動する負の屈折力を有する第2レンズユニットL2とを有する。また、該光学系は、フォーカスのために光軸方向に移動する正の屈折力を有する第3レンズユニットL3を有する。
【0135】
実施例4の光学系は、焦点距離が約24mmの広角レンズであり、フローティングを利用した倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0136】
実施例4では、第3レンズユニットL3に屈折率分布レンズを用いている。屈折率分布レンズGgi1は、UV硬化樹脂1にTiO2微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。
【0137】
屈折率分布レンズGgi1は、径方向に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、TiO2微粒子を、体積比で最大で20.0%、最小で10.8%分散させた混合体である。光軸から径方向にTiO2微粒子の組成比率が減少している。
このため、屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最小値となり、有効径位置で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは有効径位置であり、位置pmingiは光軸上の位置である。
【0138】
実施例4の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に曲面形状を有する。該屈折率分布レンズGgi1は、他のレンズに接合されている。このため、雰囲気と媒質の境界において屈折力を有する。媒質の屈折力は正である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して大きい。
【0139】
実施例4では、光学系を構成する各レンズユニットのうち、開口絞りSPよりも像側の第3レンズユニットL3に屈折率分布レンズGgi1を含ませている。これにより、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例5】
【0140】
図9に示す実施例5(数値例5)の光学系は、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、正の屈折力を有する第2レンズユニットL2とにより構成されている。この光学系は、焦点距離が51mmのガウスタイプの倒立1回結像の縮小光学系である。
【0141】
実施例5では、第1レンズユニットL1および第2レンズユニットL2のそれぞれに、屈折率分布レンズを1つずつ用いている。第1レンズユニットL1内の屈折率分布レンズGgi1および第2レンズユニットL2の屈折率分布レンズGgi2はいずれも、UV硬化樹脂1にTiO2微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。
【0142】
屈折率分布レンズGgi1および屈折率分布レンズGgi2は、径方向に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、TiO2微粒子を、体積比で最大で10.0%、最小で0.28%分散させた混合体である。屈折率分布レンズGgi2の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、TiO2微粒子を、体積比で最大で20.0%、最小で2.74%分散させた混合体である。いずれの屈折率分布レンズでも、光軸から径方向にTiO2微粒子の組成比が減少している。
このため、屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最小値となり、有効径位置で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは有効径位置であり、位置pmingiは光軸上の位置である。
また、屈折率分布レンズGgi2においても、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、位置pmaxgiは光軸上の位置であり、位置pmingiは有効径位置である。
【0143】
実施例5に適用した屈折率分布レンズGgi1および屈折率分布レンズGgi2の光入射側の面と光射出側の面は共に平面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力は実質的に無い。また、媒質の屈折力は正である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して大きい。
【0144】
一般的な光学材料と比較して、異常分散性を有する屈折率分布レンズを開口絞りSPより物体側および像側の両者に用いることにより、ガウスタイプの光学系では収差、特に色収差を良好に補正することが可能となる。
【実施例6】
【0145】
図11に示す実施例6(数値例6)の光学系は、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、正の屈折力を有する第2レンズユニットL2とにより構成されている。この光学系は、焦点距離が51mmのガウスタイプの倒立1回結像の縮小光学系である。
【0146】
実施例6では、第2レンズユニットL2に屈折率分布レンズを用いている。屈折率分布レンズGgi1は、無機ガラス1に、ITO微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。
【0147】
屈折率分布レンズGgi1は、径方向に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、無機ガラス1に対して、ITO微粒子を、体積比で最大で2.3%、最小で0.0%分散させた混合体である。光軸から径方向にITO微粒子の組成比率が増加している。
屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、位置pmaxgiは光軸上の位置であり、位置pmingiは有効径位置である。
【0148】
実施例6の光学系に使用された屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に平面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力は実質的に無い。また、媒質の屈折力は負である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して小さい。
【0149】
一般的な光学材料と比較して、異常分散性を有する屈折率分布レンズを用いることにより、ガウスタイプの光学系では、諸収差、特に色収差を良好に補正することが可能となる。
【実施例7】
【0150】
図13に示す実施例7(数値例7)の光学系は、物体側から像側へ順に、フォーカスに際して不動である正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、フォーカスのために光軸方向に移動する負の屈折力を有する第2レンズユニットL2とを有する。また、フォーカスに際して不動である負の屈折力を有する第3レンズユニットL3を有する。この光学系は倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0151】
実施例7の光学系は、焦点距離が294mm、望遠比が0.816の望遠レンズである。
【0152】
実施例7では、第1レンズユニットL1に、無機ガラス1にTiO2微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成された屈折率分布レンズGgi1を用いている。
【0153】
屈折率分布レンズGgi1は、径方向に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、無機ガラス1に対して、TiO2微粒子を、体積比で最大で15.0%、最小で0.0%分散させた混合体である。光軸から径方向にTiO2微粒子の組成比が減少している。
屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最小値となり、有効径位置で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは有効径位置であり、位置pmingiは光軸上の位置である。
【0154】
実施例7の光学系に用いた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に平面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力は実質的に無い。また、媒質の屈折力は正である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して大きい。
【0155】
実施例7の光学系は、開口絞りSPよりも物体側の屈折力が正、像側の屈折力が負であるテレフォトタイプのパワー配置を有する。本実施例では、開口絞りSPよりも物体側にて近軸軸上光線の通過位置が比較的高い、開口絞りSPよりも前方に配置された第1レンズユニットL1に屈折率分布レンズGgi1を含ませている。これにより、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例8】
【0156】
図15に示す実施例8(数値例8)の光学系は、物体側から像側へ順に、フォーカスに際して不動である正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、フォーカスのために光軸方向に移動する負の屈折力を有する第2レンズユニットL2とを有する。また、該光学系は、フォーカスに際して不動である負の屈折力を有する第3レンズユニットL3を有する。この光学系は倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0157】
実施例8の光学系は、焦点距離が294mm、望遠比が0.816の望遠レンズである。
【0158】
本実施例では、第1レンズユニットL1に、アクリル樹脂1にTiO2微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成された屈折率分布レンズGgi1を用いている。
【0159】
屈折率分布レンズGgi1は、光軸方向に屈折率が変化するアキシャル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、アクリル樹脂1に対して、TiO2微粒子を、体積比で最大で6.96%、最小で0.0%分散させた混合体である。光軸方向の物体側から像側にTiO2微粒子の組成比率が増加している。
屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、最も物体側で最小値となり、最も像側で最大値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFA(timg),θgF(pmin)=θgFA(tobj)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、最も物体側で最大値となり、最も像側で最小値となる。すなわち、位置pmaxgiは最も物体側の位置であり、位置pmingiは最も像側の位置である。
【0160】
実施例8の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に曲面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力を有する。また、媒質の屈折力は正である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して大きい。
【0161】
実施例8の光学系は、開口絞りSPより物体側の屈折力が正で、像側の屈折力が負であるテレフォトタイプのパワー配置を有する。本実施例では、開口絞りSPよりも物体側にて近軸軸上光線の通過位置が比較的高い、開口絞りSPよりも前方に配置された第1レンズユニットL1に屈折率分布レンズGgi1を含ませている。これにより、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例9】
【0162】
図17に示す実施例9(数値例9)の光学系は、物体側から像側へ順に、フォーカスに際して不動である正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、フォーカスのために光軸方向に移動する負の屈折力を有する第2レンズユニットL2とを有する。また、該光学系は、フォーカスに際して不動である負の屈折力を有する第3レンズユニットL3を有する。この光学系は倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0163】
実施例9の光学系は、焦点距離が294mm、望遠比が0.816の望遠レンズである。
【0164】
実施例9では、第1レンズユニットL1に、無機ガラス1にITO微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成された屈折率分布レンズGgi1を用いている。
【0165】
屈折率分布レンズGgi1は、光軸方向に屈折率が変化するアキシャル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、無機ガラス1に対して、ITO微粒子を、体積比で最大で10.0%、最小で2.78%分散させた混合体である。光軸方向の物体側から像側にITO微粒子の組成比率が減少している。
屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、最も物体側で最小値となり、最も像側で最大値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFA(timg),θgF(pmin)=θgFA(tobj)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、最も物体側で最小値となり、最も像側で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは最も像側の位置であり、位置pmingiは最も物体側の位置である。
【0166】
実施例9の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に曲面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力を有する。また、媒質の屈折力は負である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して小さい。
【0167】
実施例9の光学系は、開口絞りSPより物体側の屈折力が正で、像側の屈折力が負であるテレフォトタイプのパワー配置を有する。実施例9では、開口絞りSPよりも物体側にて近軸軸上光線の通過位置が比較的高い、開口絞りSPよりも前方に配置された第1レンズユニットL1に屈折率分布レンズGgi1を含ませている。これにより、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例10】
【0168】
図19に示す実施例10(数値例10)の光学系は、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、正の屈折力を有する第2レンズユニットL2とにより構成されている。この光学系は、焦点距離が51mmのガウスタイプの倒立1回結像の縮小光学系である。
【0169】
実施例10では、第2レンズユニットL2に屈折率分布レンズGgi1を用いている。屈折率分布レンズGgi1は、UV硬化樹脂1にITO微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。
【0170】
屈折率分布レンズGgi1は、光軸方向に屈折率が変化するアキシャル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、ITO微粒子を、体積比で最大で12.0%、最小で6.24%分散させた混合体である。光軸方向の物体側から像側にITO微粒子の組成比率が減少している。
屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、最も物体側で最小値となり、最も像側で最大値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFA(timg),θgF(pmin)=θgFA(tobj)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、最も物体側で最小値となり、最も像側で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは最も像側の位置であり、位置pmingiは最も物体側の位置である。
実施例10の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に曲面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力を有する。また、媒質の屈折力は負である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して小さい。
【0171】
一般的な光学材料と比較して、異常分散性を有する屈折率分布レンズGgi1を適用することにより、ガウスタイプの光学系で諸収差、特に色収差を良好に補正することが可能となる。
【0172】
なお、上記条件(1)〜(4)を満足する屈折率分布レンズは、実施例1〜10の光学系に限らず、種々の光学系に用いることができる。
【0173】
以下、各実施例(数値例)の具体的な数値データを示す。各実施例において、iは物体側から数えた面の番号を示す。Riはi番目の光学面(第i面)の曲率半径であり、Diは第i面と第(i+1)面との間の軸上間隔である。
【0174】
Ndi,νdiはそれぞれ、d線に対するi番目の光学部材の材料の屈折率、アッベ数を表す。i番目の光学部材が屈折率分布レンズの場合は、Ngi,νdgiと表記し、屈折率分布の波長分散については別途表記する。
【0175】
また、非球面形状は、Xを光軸方向の面頂点からの変位量とし、hを光軸に直交する方向の光軸からの高さとし、rを近軸曲率半径とし、kを円錐定数とし、B,C,D,E,…を各次数の非球面係数とするとき、
【0176】
【数3】
【0177】
で表す。
【0178】
なお、各数値における「E±XX」は「×10±XX」を意味する。
【0179】
屈折率分布レンズで使用した光学材料のd線、g線、C線、F線における屈折率、アッベ数および部分分散比等の数値を表11に示す。また、各実施例の屈折率分布の材料特性を表12に示す。
【0180】
各実施例においては、屈折率分布を以下の式で近似している。
ラジアル屈折率分布
【0181】
【数4】
【0182】
アキシャル屈折率分布
【0183】
【数5】
【0184】
なお、屈折率分布の近似式は上式に限定されるわけではなく、任意の近似式を用いることが可能である。
【0185】
各実施例においては、屈折率分布特性として、d線、g線、C線、F線およびe線(546.1nm)での屈折率分布の近似式の係数を記載する。
【0186】
【表1】
【0187】
【表2】
【0188】
【表3】
【0189】
【表4】
【0190】
【表5】
【0191】
【表6】
【0192】
【表7】
【0193】
【表8】
【0194】
【表9】
【0195】
【表10】
【0196】
【表11】
【0197】
【表12】
【実施例11】
【0198】
次に上記各実施例に示した光学系を撮影光学系として用いたデジタルスチルカメラ(光学機器)を図22を用いて説明する。
【0199】
図22において、20はカメラ本体である。21は各実施例で説明した光学系によって構成された撮影光学系である。22はカメラ本体20に内蔵され、撮影光学系21によって形成された被写体像を光電変換するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)である。
【0200】
23は固体撮像素子22によって光電変換された被写体像に対応する画像情報を記録するメモリである。24は液晶ディスプレイパネル等によって構成され、固体撮像素子22上に形成された被写体像(つまりは画像情報)を観察するためのファインダである。
【0201】
このように各実施例の光学系をデジタルスチルカメラに適用することにより、小型で高い光学性能を有するカメラを実現することができる。
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0202】
諸収差を良好に補正できる屈折率分布光学素子とこれを用いた光学機器を提供できる。
【符号の説明】
【0203】
Ggij 屈折率分布レンズ
IP 像面
ΔM メリディオナル像面
ΔS サジタル像面
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒質が屈折率分布を有する光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラ等の光学機器に用いられる光学系には高性能であり、かつ小型軽量であることが求められている。一般に、光学系は小型化を図るほど諸収差、特に軸上色収差や倍率色収差に代表される色収差が多く発生し、光学性能が低下する。
【0003】
既存のガラス等の光学材料のみを用いた光学系では、高性能化と小型軽量化を同時に満足することは難しい。このため、光学系の一部に、媒質が屈折率分布を有する光学素子を用いることで諸収差を補正(低減)する方法が知られている。
【0004】
このような屈折率分布を有する光学素子は、その媒質の屈折率が均質な光学素子と比較して収差補正の自由度が大きい。色収差補正のために屈折率分布を有する光学素子を含む光学系が特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0005】
また、光軸に直交する方向に屈折率分布を有するレンズにおいて、分散を考慮して2次スペクトルを補正した光学系が特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−212644号公報
【特許文献2】特開2004−240464号公報
【特許文献3】特許第3573575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3にて開示された光学系では、材料自体の可視光中の短波長領域での特性は考慮されているが、屈折率分布による屈折作用の波長分散特性が十分に考慮されていない。屈折率分布を有する光学素子を、屈折率分布を持たない屈折光学素子と等価なものとして扱い、焦点距離、アッベ数および部分分散比の値を等価的に定義する。この場合の屈折率分布による屈折作用の波長分散は、それら等価的に定義されたアッベ数(本明細書では等価アッベ数という)および部分分散比(本明細書では等価部分分散比という)等によって表すことができる。
【0008】
特に、F線(486.1nm)、d線(587.6nm)およびC線(656.3nm)にg線(435.8nm)を含めた4波長の光線に対する屈折率分布による屈折作用の分散特性を考慮すれば、2次スペクトルを良好に補正することが可能である。
【0009】
また、特許文献1〜3には、屈折率分布を有する光学素子を作成するための材料の特性等についての記載が十分ではなく、目標とする屈折率分布を実現するための方法が明確ではない。
【0010】
本発明は、諸収差を良好に補正できる屈折率分布を有する光学素子およびこれを用いた光学機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面としての光学素子は、媒質が屈折率分布を有する。該光学素子は、以下の条件を満足することを特徴とする。
【0012】
|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≧0.02
|ΔθgFgi(p1)|≧0.0272
|Δθgdgi(p1)|≧0.0250
|θgFgi(pmaxgi)−θgFgi(pmingi)|≦0.1
但し、θgF(pmax)およびθgF(pmin)はそれぞれ、媒質中の位置pmaxおよびpminにおけるg線とF線に関する部分分散比であり、位置pmaxおよびpminはそれぞれ、媒質中においてg線とF線に関する部分分散比が最大値および最小値となる位置である。p0を媒質中において基準屈折率を有する位置とし、p1を媒質中における位置p0とは異なる位置とし、nF(p1),nd(p1),nC(p1)をそれぞれ媒質の位置p1でのF線、d線およびC線に関する屈折率とし、nF(p0),nd(p0),nC(p0)をそれぞれ媒質の位置p0でのF線、d線およびC線に関する屈折率とし、δng(p1),δnF(p1),δnd(p1),δnC(p1)をそれぞれ位置p1でのg線、d線、F線およびC線に関する屈折率差とし、θgFgi(p1)を媒質の位置p1におけるg線とF線に関する等価部分分散比とし、θgdgi(p1)を媒質の位置p1におけるg線とd線に関する等価部分分散比とする。このとき、
δng(p1)=ng(p1)−ng(p0)
δnd(p1)=nd(p1)−nd(p0)
δnF(p1)=nF(p1)−nF(p0)
δnC(p1)=nC(p1)−nC(p0)
θgFgi(p1)
={δng(p1)−δnF(p1)}/{δnF(p1)−δnC(p1)}
θgdgi(p1)
={δng(p1)−δnd(p1)}/{δnF(p1)−δnC(p1)}
である。
また、ΔθgFgi(p1)およびΔθgdgi(p1)をそれぞれ、等価部分分散比の異常分散性とし、νdgi(p1)を媒質の位置p1でのd線とg線の等価アッベ数とし、
θgFgi0
=−1.665×10−7νdgi(p1)3+5.213×10−5νdgi(p1)2
−5.656×10−3νdgi(p1)+0.7278
θgdgi0
=−1.687×10−7νdgi(p1)3+5.702×10−5νdgi(p1)2
−6.603×10−3νdgi(p1)+1.462
とするとき、
ΔθgFgi(p1)=θgFgi(p1)−θgFgi0
Δθgdgi(p1)=θgdgi(p1)−θgdgi0
である。
【0013】
θgFgi(pmaxgi)およびθgFgi(pmingi)はそれぞれ、媒質の位置pmaxgiおよびpmingiにおける等価部分分散比であり、位置pmaxgiおよびpmingiはそれぞれ、媒質中における位置p0とは異なる位置であって、g線とF線に関する等価部分分散比が最大値となる位置である。
【0014】
なお、上記光学素子を含む光学系を有する光学機器も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、屈折率分布を有する光学素子であって、光学系に用いた場合に色収差等の諸収差を十分に低減する(補正する)ことが可能な光学素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図2】実施例1の収差図。
【図3】本発明の実施例2である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図4】実施例2の収差図。
【図5】本発明の実施例3である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図6】実施例3の広角端、中間ズーム位置および望遠端における収差図。
【図7】本発明の実施例4である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図8】実施例4の収差図。
【図9】本発明の実施例5である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図10】実施例5の収差図。
【図11】本発明の実施例6である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図12】実施例6の収差図。
【図13】本発明の実施例7である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図14】実施例7の収差図。
【図15】本発明の実施例8である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図16】実施例8の収差図。
【図17】本発明の実施例9である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図18】実施例9の収差図。
【図19】本発明の実施例10である光学素子を用いた光学系の断面図。
【図20】実施例10の収差図。
【図21】色収差係数の波長特性に関する説明図。
【図22】本発明の実施例11である撮像装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
まず、後述する本発明の実施例1〜10に共通する事項について説明する。実施例の光学素子は、媒質中に屈折率分布を有する。そして、該屈折率分布の波長特性について、後述する条件を満足する。
実施例の光学素子は、デジタルスチルカメラ、銀塩フィルムカメラ、ビデオカメラ、望遠鏡、双眼鏡、複写機、プロジェクタ等の光学機器の光学系の一部に用いられる。
実施例の光学素子を構成する「固体材料」とは、光学系に適用して使用する状態で固体となっている材料である。製造時等の光学系に使用する前の状態では、どのような状態であってもよい。例えば、製造時には液体材料であっても、それを硬化させて固体材料としたものも固体材料に該当する。
【0018】
実施例の光学素子は、媒質中の屈折率分布によって入射した光線に位相差を与え、屈折率分布を持たない媒質(均質媒質)による凸レンズや凹レンズのような光線収束作用又は光線発散作用を有する。
【0019】
屈折率分布の種類としては、光軸に直交する方向に屈折率分布があるラジアル屈折率分布や、光軸方向に屈折率分布があるアキシャル屈折率分布等がある。
【0020】
また、屈折率分布を有する光学素子では、界面での屈折に加えて、媒質中で光線を屈折させる。このため、均質媒質の光学素子と比較すると、収差補正の自由度が大きい。
【0021】
媒質中に屈折率分布を形成する方法は種々提案されており、イオン交換法、ゾルゲル法、3次元プリンティング技術等がある。
【0022】
イオン交換法では、イオン交換が可能なイオンを含有する材料を、溶液に浸水させて屈折率分布を得る。ゾルゲル法では、シリコンを主成分としたゾルを調合してゲルを得て、ゲルに所望の屈折率分布を付与し、乾燥・焼結等によりガラス体を得る。
3次元プリンティング技術では、屈折率の異なる媒質を複数層成形して、屈折率分布を付与する。
【0023】
これらの方法では、媒質中の複数材料に、所望の組成比率の分布を作成することで屈折率分布を得ている。
【0024】
屈折率分布の波長分散を考えると、各波長について同様の屈折率分布があるならば、媒質中の屈折成分としては色収差が発生しない。しかし、上記のように複数材料の組成比率を分布させて屈折率分布を作る場合には、各波長での屈折率分布量、すなわち屈折率分布の波長分散が存在する。
【0025】
実施例の光学素子における屈折率分布の波長分散は、以下の条件を満足する。
【0026】
|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≧0.02 …(1)
|ΔθgFgi(p1)|≧0.0272 …(2)
|Δθgdgi(p1)|≧0.0250 …(3)
|θgFgi(pmaxgi)−θgFgi(pmingi)|≦0.1 …(4)
このとき、媒質中の位置pでの波長λの光線に関する屈折率をnλ(p)とする。この定義に従うと、位置p(=p1,p0)でのフラウンフォーファ線であるg線(435.8nm)、F線(486.1nm)、d線(587.6nm)およびC線(656.3nm)に関する屈折率はそれぞれ以下のように表される。p0は媒質中で基準屈折率を有する位置であり、p1はp0とは異なる媒質中の位置である。
ng(p),nF(p),nd(p),nC(p)
実施例における位置p(=p1,pmax,pmin,pmaxgi,pmingi)でのd線に関するアッベ数νd(p)、g線とd線に関する部分分散比θgd(p)、g線とF線に関する部分分散比θgF(p)はそれぞれ次の通りである。
【0027】
νd(p)={nd(p)−1}/{nF(p)−nC(p)}
θgd(p) ={ng(p)−nd(p)}/{nF(p)−nC(p)}
θgF(p) ={ng(p)−nF(p)}/{nF(p)−nC(p)}
g線とd線に関する異常分散性Δθgdおよびg線とF線に関する異常分散性ΔθgFは次の通りである。一般的な光学材料の部分分散比は、アッベ数の変化に対してほぼ同傾向に変化する。このときの部分分散比の標準値θgd0,θgF0をd線に関するアッベ数νdの関数として以下のように表す。
θgd0=−1.687×10−7νd3+5.702×10−5νd2
−6.603×10−3νd+1.462
θgF0=−1.665×10−7νd3+5.213×10−5νd2
−5.656×10−3νd+0.7278
異常分散性とは、この標準値からの差分を示す。すなわち、異常分散性Δθgd,ΔθgFはそれぞれ、
Δθgd=θgd−θgd0
ΔθgF=θgF−θgF0
と表される。
【0028】
実施例の光学素子は、媒質中に屈折率分布を有しているため、媒質中の位置pによって屈折率が変化する。このため、アッベ数および部分分散比についても位置pによって変化する。
【0029】
位置pmaxは、媒質中においてg線とF線に関する部分分散比が最も大きな値となる位置を表す。位置pminは、媒質中においてg線とF線に関する部分分散比が最も小さな値となる位置を表す。
【0030】
また、実施例にいう媒質の屈折における等価部分分散比および等価アッベ数は次の通りである。
屈折率が媒質中で均質である光学素子(以下、均質レンズという)において、光線は媒質と雰囲気との界面で屈折するが、媒質中では屈折しない。媒質の屈折率は波長によって変化するため、均質レンズで屈折した光線には色収差が生じる。
【0031】
屈折作用とは光束の位相差から生じる現象であり、均質レンズにおいては形状を変化させることで位相差を与えている。このとき、波長分散の指標となるd線に関するアッベ数は、空気の屈折率を1としたときの空気との屈折率差の比で表される。
【0032】
一方、媒質が屈折率分布を有する光学素子(以下、屈折率分布レンズという)では、光線は、媒質と雰囲気との界面で屈折するのに加え、媒質中でも屈折する。そして、屈折率分布の波長分散によって、媒質中での屈折においても色収差が発生する。
【0033】
媒質中の屈折率分布による位相差は、媒質中の基準となる位置での屈折率と、光線が通過する位置での屈折率の差分によって生じる。このため、媒質中の屈折における波長分散は、光線通過位置での屈折率と、基準位置での屈折率の差分の比となる。
【0034】
これにより求まる波長分散は、媒質中での屈折を、色収差が等しくなる波長分散特性を有する仮想ガラスとして置き換えて考えると、仮想ガラスの波長分散として等価的に扱うことが可能となる。つまり、媒質中の屈折における波長分散は、等価アッベ数および等価部分分散比を用いることで、仮想的な屈折レンズと置き換えることが可能となる。
【0035】
媒質中に屈折率分布を有するときの、各波長での位置p0での基準屈折率をnλ(p0)とする。このとき、媒質中の位置p1での屈折率差δnλ(p1)、等価アッベ数νdgi(p1)および等価部分分散比θgFgi(p1),θgdgi(p1)は以下のように表される。
【0036】
δnλ(p1)=nλ(p1)−nλ(p0)
(すなわち、δng(p1),δnF(p1),δnd(p1),δnC(p1)をそれぞれ位置p1でのg線、d線、F線およびC線に関する屈折率差とすると、
δng(p1)=ng(p1)−ng(p0),
δnd(p1)=nd(p1)−nd(p0),
δnF(p1)=nF(p1)−nF(p0),
δnC(p1)=nC(p1)−nC(p0))
νdgi(p1)=δnd(p1)/{δnF(p1)−δnC(p1)}
θgFgi(p1)
={δng(p1)−δnF(p1)}/{δnF(p1)−δnC(p1)}
θgdgi(p1)
={δng(p1)−δnd(p1)}/{δnF(p1)−δnC(p1)}
媒質中での屈折におけるg線とF線に関する異常分散性ΔθgFgiおよびg線とd線に関する異常分散性Δθgdgiはそれぞれ、
Δθgdgi=θgdgi−θgdgi0
ΔθgFgi=θgFgi−θgFgi0
と表される。但し、θgdgi0およびθgFgi0はそれぞれ等価アッベ数νdgiの関数として、
θgdgi0=−1.687×10−7νdgi3+5.702×10−5νdgi2
−6.603×10−3νdgi+1.462
θgFgi0=−1.665×10−7νdgi3+5.213×10−5νdgi2
−5.656×10−3νdgi+0.7278
とする。
【0037】
実施例の光学素子は、前述したように媒質中に屈折率分布を有し、媒質中の位置pによって屈折率が変化する。屈折率の変化量は各波長によって異なるため、等価アッベ数および等価部分分散比についても位置pによって変化する。
【0038】
位置pmaxgiは、媒質中において、媒質の屈折におけるg線とF線に関する等価部分分散比が最も大きな値となる位置を表す。位置pmingiは、媒質中において、g線とF線に関する等価部分分散比が最も小さな値となる位置を表す。
【0039】
媒質中において、光軸に直交する方向に屈折率が変化する屈折率分布をラジアル屈折率分布という。ラジアル屈折率分布の波長λにおける屈折率は、光軸から該光軸に直交する方向での距離をrとすると、次の式で表すことができる。
【0040】
【数1】
【0041】
このとき、d線に関するアッベ数νdR(r)、g線とd線に関する部分分散比θgdR(r)およびg線とF線に関する部分分散比θgFR(r)はそれぞれ次のように表される。
【0042】
νdR(r) ={ndR(r)−1}/{nFR(r)−nCR(r)}
θgdR(r) ={ngR(r)−ndR(r)}/{nFR(r)−nCR(r)}
θgFR(r) ={ngR(r)−nFR(r)}/{nFR(r)−nCR(r)}
ラジアル屈折率分布では、光軸上の屈折率を基準屈折率として、媒質中の屈折率差δnλR(r)を以下の式で表すことができる。
【0043】
δnλR(r)=nλR(r)−nλR(0)
また、0より大きいr1でのラジアル屈折率分布における等価アッベ数νdgiR(r1)および等価部分分散比θgFgiR(r1),θgdgiR(r1)を表すと、以下のようになる。
【0044】
νdgiR(r1)=δndR(r1)/{δnFR(r1)−δnCR(r1)}
θgFgiR(r1)
={δngR(r1)−δnFR(r1)}/{δnFR(r1)−δnCR(r1)}
θgdgiR(r1)
={δngR(r1)−δndR(r1)}/{δnFR(r1)−δnCR(r1)}
媒質の屈折におけるg線とF線に関する異常分散性ΔθgFgiRおよびg線とd線に関する異常分散性ΔθgdgiRはそれぞれ、
ΔθgdgiR=θgdgiR−θgdgiR0
ΔθgFgiR=θgFgiR−θgFgiR0
と表される。但し、θgdgiR0およびθgFgiR0はそれぞれ、等価アッベ数νdgiRの関数として、
θgdgiR0=−1.687×10−7νdgiR3
+5.702×10−5νdgiR2
−6.603×10−3νdgiR+1.462
θgFgiR0=−1.665×10−7νdgiR3
+5.213×10−5νdgiR2
−5.656×10−3νdgiR+0.7278
である。
【0045】
ラジアル屈折率分布を有する屈折率分布レンズの光線有効半径をreaとすると、光軸からの距離reaおよび光軸上(距離=0)におけるg線とF線に関する部分分散比は条件(1)から得られる、つまりは条件(1)としての以下の条件を満足する。
【0046】
|θgFR(rea)−θgFR(0)|≧0.02 …(5)
さらに好ましくは、等価アッベ数νdgiR(r)が以下の条件を満足する。
【0047】
0<νdgiR(r)≦80 …(6)
媒質中において、光軸方向に屈折率が変化する屈折率分布を、アキシャル屈折率分布という。アキシャル屈折率分布の波長λにおける屈折率は、媒質中の最も光入射側の点から光軸方向での距離tとすると、次の式で表すことができる。
【0048】
【数2】
【0049】
このとき、d線に関するアッベ数νdA、g線とd線に関する部分分散比θgdAおよびg線とF線に関する部分分散比θgFAはそれぞれ、以下の式で表される。
【0050】
νdA(t) ={ndA(t)−1}/{nFA(r)−nCA(t)}
θgdA(t) ={ngA(t)−ndA(t)}/{nFA(t)−nCA(t)}
θgFA(t) ={ngA(t)−nFA(t)}/{nFA(t)−nCA(t)}
アキシャル屈折率分布では、媒質中の屈折率差δnλA(t)は次式で表すことができる。
【0051】
δnλA(t)=nλA(t)−nλA(0)
また、0より大きいt1において、アキシャル屈折率分布における等価アッベ数νdgiA(t1)および等価部分分散比θgFgiA(t1),θgdgiA(t1)を表すと、以下のようになる。
【0052】
νdgiA(t1)=δndA(t1)/{δnFA(t1)−δnCA(t1)}
θgFgiA(t1)
={δngA(t1)−δnFA(t1)}/{δnFA(t1)−δnCA(t1)}
θgdgiA(t1)
={δngA(t1)−δndA(t1)}/{δnFA(t1)−δnCA(t1)}
媒質の屈折におけるg線とF線に関する異常分散性ΔθgFgiAおよびg線とd線に関する異常分散性ΔθgdgiAはそれぞれ、
ΔθgdgiA=θgdgiA−θgdgiA0
ΔθgFgiA=θgFgiA−θgFgiA0
と表される。但し、θgdgiA0およびθgFgiA0はそれぞれ等価アッベ数νdgiAの関数として、
θgdgiA0=−1.687×10−7νdgiA3
+5.702×10−5νdgiA2
−6.603×10−3νdgiA+1.462
θgFgiA0=−1.665×10−7νdgiA3
+5.213×10−5νdgiA2
−5.656×10−3νdgiA+0.7278
である。
【0053】
媒質中において、光軸方向における最も光入射側の点をtobjとし、最も光射出側の点をtimgとすると、それら点tobj,timgでのg線とF線に関する部分分散比は、条件(1)から得られる、つまりは条件(1)としての以下の条件を満足する。
【0054】
|θgFA(tobj)−θgFA(timg)|≧0.02 …(7)
さらに好ましくは、等価アッベ数νdgiA(t)は以下の条件式を満足する。
【0055】
0<νdgiA(t)≦200 …(8)
屈折率分布を有する光学素子を作成する方法として、光学素子を構成する媒質が、固体材料と、少なくとも1つの光学材料との混合体からなる場合を考える。屈折率分布を作るには、該固体材料と該光学材料との組成比率を媒質中で空間的に分布(変化)させればよい。実施例では、固体材料と光学材料のg線とF線に関する異常分散性をそれぞれΔθgFs,ΔθgFmとするとき、以下の条件を満足する。
【0056】
|ΔθgFs−ΔθgFm|≧0.027 …(9)
このとき、固体材料と光学材料のd線に関するアッベ数およびg線とF線に関する部分分散比をそれぞれνds、νdm、θgFs、θgFmとする。
【0057】
次に、前述した各条件の技術的意味について説明する。各条件は、実施例の光学素子における屈折率分布の波長分散特性について規定する。条件(1)から(4)に示す波長分散特性を満足するとき、光学系の諸収差、特に色収差を良好に補正(低減)することが可能となる。
【0058】
ここで、光学系において可視光における短波長領域まで良好に補正する方法について述べる。一般的な光学材料において、その波長分散は、前述したようにアッベ数に対してある傾向を有し、その特性を上記のようにθgF0およびθgd0等として表現できる。d線、F線、C線に加えg線の4波長光線の収差補正を行う場合には、ΔθgFおよびΔθgdの絶対値が大きいような異常分散性を有する光学材料を用いる方法等が考えられる。
【0059】
屈折率分布による屈折作用の波長分散についても同様に考えられ、等価部分分散比が異常分散性を有する場合には、可視光をその短波長領域も含めて良好に色収差を補正することが可能である。つまり、屈折率分布による屈折作用において、g線に関する屈折率の変化がd線、C線およびF線に関する屈折率の変化と大きく異なるときに、色収差を良好に補正することが可能である。
【0060】
条件(1)が成り立つとき、屈折率分布による屈折作用が有する異常分散性がより顕著となる。条件(1)の式の左辺は下限値よりも大きくなるほど好ましい。
【0061】
条件(4)において、上限値を超えると色の球面収差等が大きく発生するため、収差の補正が困難となる。また、条件(4)を満足しない屈折率分布を作成するには、母材に対して複数材料の組成比を変化させて混合させる等の方法があるが、その組成比の制御は困難である。
【0062】
光学素子がラジアル屈折率分布を有する場合には、条件(5)を満足するのがよい。これによれば、更に色収差を良好に補正するのが容易となる。また、条件(6)を満足すれば、C線からF線までの、可視光での短波長領域を除く波長域で、色収差を良好に補正することが可能となる。
【0063】
光学素子がアキシャル屈折率分布を有する場合には、条件(7)を満足するのがよい。これによれば、更に色収差を良好に補正するのが容易となる。また、条件(8)を満足すれば、C線からF線までの、可視光での短波長領域を除く波長域で、色収差を良好に補正することが可能となる。
【0064】
実施例の光学素子を作成するために、固体材料と少なくとも1つの光学材料とを混合するときの組成比率を媒質中で変化させる際に、条件(9)を満足する固体材料と光学材料を選択することで、条件(1)〜(4)を満足する屈折率分布を実現できる。
【0065】
例えば、固体材料に無機酸化物の微粒子を混合させ、その混合比率を媒質中で変化させたものは、条件(1)〜(4)を満足する。無機酸化物としては、例えば、TiO2(nd=2.304,νd=13.8)、Nb2O5(nd=2.367,νd=14.0)、ITO(nd=1.8571,νd=5.69)がある。また、他の無機酸化物として、CrO3(nd=2.2178,νd=13.4)、BaTiO3(nd=2.4362,νd=11.3)等もある。
【0066】
これらの無機酸化物微粒子の中で、TiO2微粒子、ITO(Indium−Tin−Oxide)微粒子を固体材料中に適切な体積比で分散させ、その組成比率を変化させる場合、上記条件を満足する光学素子が得られる。
【0067】
散乱を考慮すると、これらの微粒子の粒径は2nmから50nmが好ましく、凝集を抑えるために分散剤等を添加してもよい。
【0068】
なお、上記条件(1)〜(4)を満足すれば、製法および材料は上述したものに限定されない。
【0069】
微粒子を分散させた混合体において、波長λでの屈折率N(λ)は、よく知られたDrudeの式から導き出される次式によって、簡単に計算することができる。
【0070】
N(λ)=[1+V{Nm2(λ)−1}+(1−V){N02(λ)−1}]1/2
但し、λは任意の波長であり、Nmは分散する微粒子等の屈折率であり、N0は微粒子等を分散させるポリマー等の屈折率であり、Vはポリマー等の体積に対する微粒子等の総体積の分率である。
【0071】
表1には、上記材料の各波長での屈折率、d線に関するアッベ数νd、g線とF線に関する部分分散比θgFおよびg線とd線に関する部分分散比θgdを示す。
【0072】
実施例における屈折率分布を有する光学素子では、媒質中の位置pに応じて固体材料と光学材料の組成比率を変化させている。これによれば、媒質中の位置pに応じてg線とF線に関する部分分散比θgF(p)が変化することとなる。このとき、媒質中の位置pに関して、部分分散比θgF(p)の変化量を大きくするほど、媒質での屈折に関する等価部分分散比の異常分散性ΔθgFgi(p)の絶対値が大きくなる傾向にある。ΔθgFgi(p)の絶対値が大きいほど、以下で説明する色収差補正効果をより得やすくなる。
【0073】
実施例では、一般的な光学材の部分分散比と比較して、等価部分分散比の値が大きい又は小さい光学素子を用いることにより、良好な色収差補正を可能としている。
【0074】
光学材料の屈折率における波長分散特性において、等価アッベ数は分散特性曲線の傾きを表し、等価部分分散比は分散特性曲線の曲がり具合を表す。
【0075】
一般的に光学材料で屈折率分布素子を作成すると、短波長側の屈折率分布が長波長側の屈折率分布よりも変化が大きく、d線に関する等価アッベ数、g線とF線に関する等価部分分散比、g線とd線に関する等価部分分散比はそれぞれ正の値となる。このため、分散特性曲線(波長に対する屈折率の特性)は下に凸状の形状となる。さらに、短波長側ほど波長の変化に対する屈折率分布の変化が大きくなる。
【0076】
また、一般の光学材料において、部分分散比はアッベ数に対して低分散領域ではほぼ直線的な変化をし、高分散になるにつれて変化の度合いは大きくなる傾向にある。このような分布から外れたものが異常分散性を有する光学材料である。
【0077】
光学系のうち等価部分分散比が大きな光学材料を用いた部分(光学系部分)GNLと、等価部分分散比が小さな光学材料を用いた光学系部分GLと、部分分散比が一般的な値である光学材料を用いた屈折光学系部分Gとにより構成される光学系があるとする。この光学系の色収差の補正について、図21を用いて説明する。
【0078】
図21において、屈折光学系部分Gの色収差がある程度補正された状態での色収差係数の波長特性曲線(以下、色収差係数曲線ともいう)を破線Gで示す。曲線GNLおよびGLはそれぞれ光学系部分GNLおよびGLにおける色収差係数曲線を表す。また、色収差の補正後の曲線は屈折光学系部分Gに、光学系部分GNLおよびGLを導入して色収差を補正した場合の色収差係数曲線を示す。
【0079】
一般的に色収差が補正された光学系における色収差係数曲線は、破線Gのように短波長側に曲がりを残した状態で、色収差のバランスをとっていることが多い。一般的な光学材料のみを使用して、色収差をより良好に補正するのは困難である。
【0080】
このような屈折光学系部分Gに対して、光学系部分GNLを導入し適当なパワーを与えると、設計基準波長を中心にして色収差係数の傾きが変化する。このとき、光学系部分GNLは一般の光学材料に比べて等価部分分散比が大きいため、短波長側での色収差係数曲線の変化がより大きくなる。
【0081】
この場合に、光学系部分GNLで発生している色収差係数曲線の傾きを補正すれば、屈折光学系部分Gの短波長領域における曲がりを打ち消し、色収差を良好に補正することができる。
【0082】
光学系部分GLは一般的な光学材料と比較して等価部分分散比が小さい光学系で構成されている。このため、色収差係数曲線は比較的線形性を示す。
【0083】
この場合に、屈折光学系部分Gのパワーを緩めて、光学系部分GLに適切なるパワーを与えると、色収差係数曲線の短波長領域における曲がりを緩めることができる。これによれば、可視光における短波長領域まで含めた領域において、良好に色収差を補正することが可能である。
【0084】
実施例の光学素子は、一般の光学材料と組み合わせて、色収差をはじめとする諸収差を補正する。このため、等価部分分散比は異常分散性を持つことが収差補正上必要ではあるが、異常分散性が大き過ぎると色収差の補正が困難となる。
【0085】
一般の光学材料とかけ離れた特性を有するレンズを用いた場合、色収差係数の波長依存特性の変化は特に大きくなる。その大きな変化を補正し、色収差補正をするには、他のレンズのパワーも大きく変化させる必要がある。但し、パワーを大きく変化させると球面収差やコマ収差や非点収差等の収差に大きな影響を及ぼすため、収差補正が困難となる。
【0086】
このため、光学素子の波長分散に関する条件(1)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することができる。
【0087】
0.020≦|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≦0.800 …(1a)
また、収差補正の観点から、更に望ましくは、(1a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0088】
0.030≦|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≦0.750 …(1b)
更に望ましくは、(1b)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0089】
0.040≦|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≦0.700 …(1c)
光学素子の媒質の屈折における、g線とF線の等価部分分散比に関する条件(2)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0090】
0.0272≦|ΔθgFgi(p1)|≦1.000 …(2a)
また、収差補正の観点から、更に望ましくは、(2a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0091】
0.050≦|ΔθgFgi(p1)|≦0.900 …(2b)
更に望ましくは、(2b)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0092】
0.080≦|ΔθgFgi(p1)|≦0.800 …(2c)
光学素子の媒質の屈折におけるg線とd線の等価部分分散比に関する条件(3)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0093】
0.025≦|Δθgdgi(p1)|≦1.000 …(3a)
更に望ましくは、(3a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0094】
0.050≦|Δθgdgi(p1)|≦0.900 …(3b)
更に望ましくは、(3b)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0095】
0.080≦|Δθgdgi(p1)|≦0.800 …(3c)
光学素子の媒質の屈折におけるg線とF線の等価部分分散比に関する条件(4)の数値範囲は、以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0096】
|θgFgi(pmaxgi)−θgFgi(pmingi)|≦0.09
…(4a)
更に望ましくは、(4a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0097】
|θgFgi(pmaxgi)−θgFgi(pmingi)|≦0.08
…(4b)
ラジアル屈折率分布レンズのg線とF線の部分分散比に関する条件(5)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0098】
0.020≦|θgFR(rea)−θgFR(0)|≦0.800 …(5a)
更に望ましくは、(5a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0099】
0.030≦|θgFR(rea)−θgFR(0)|≦0.750 …(5b)
更に望ましくは、(5b)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0100】
0.040≦|θgFR(rea)−θgFR(0)|≦0.700 …(5c)
ラジアル屈折率分布レンズにおけるd線の等価アッベ数に関する条件式(6)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0101】
0<νdgiR(r)≦60 …(6a)
更に望ましくは、(6a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0102】
0<νdgiR(r)≦40 …(6b)
アキシャル屈折率分布レンズのg線とF線の部分分散比に関する条件式(7)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0103】
0.020≦|θgFA(tobj)−θgFA(timg)|≦0.800
…(7a)
更に望ましくは、(7a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0104】
0.030≦|θgFA(tobj)−θgFA(timg)|≦0.750
…(7b)
更に望ましくは、(7b)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0105】
0.050≦|θgFA(tobj)−θgFA(timg)|≦0.700
…(7c)
アキシャル屈折率分布レンズにおけるd線の等価アッベ数に関する条件式(8)の数値範囲を以下の範囲とすれば、更に良好に色収差を補正することが可能となる。
【0106】
0<νdgiA(t)≦100 …(8a)
更に望ましくは、(8a)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0107】
0<νdgiA(t)≦60 …(8b)
更に望ましくは、(8b)の数値範囲を以下に示す範囲とするのがよい。
【0108】
0<νdgiA(t)≦40 …(8c)
各実施例では、条件式(1)〜(4)を満足する光学素子を光学系中に使用している。これらの光学素子で構成された屈折面は非球面形状を有していてもよい。これによれば色の球面収差等の色収差フレアを補正することが容易となる。また、これらの光学素子と空気等の雰囲気や屈折率差が大きい光学材料とで境界面を形成すれば、境界面の僅かな曲率変化で色収差を比較的大きく変化させることができ、この結果、色収差の補正が容易となる。
【0109】
以下、上述した屈折率分布を有する光学素子(屈折率分布レンズ)を用いた光学系の具体的な実施例について説明する。
【0110】
図1は実施例1の光学系のレンズ断面図である。図2は実施例1の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図3は実施例2の光学系のレンズ断面図である。図4は実施例2の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図5は実施例3の光学系の広角端におけるレンズ断面図である。図6(a),(b),(c)はそれぞれ、実施例3の光学系が広角端、中間ズーム位置、望遠端において無限遠物体に合焦したときの収差図である。
【0111】
図7は実施例4の光学系のレンズ断面図である。図8は実施例4の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図9は実施例5の光学系のレンズ断面図である。図10は実施例5の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図11は実施例6の光学系のレンズ断面図である。図12は実施例6の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。
【0112】
図13は実施例7の光学系のレンズ断面図である。図14は実施例7の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図15は実施例8の光学系のレンズ断面図である。図16は実施例8の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図17は実施例9の光学系のレンズ断面図である。図18は実施例9の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。図19は実施例10の光学系のレンズ断面図である。図20は実施例10の光学系が無限遠物体に合焦したときの収差図である。
【0113】
各実施例の光学系は、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、銀塩フィルムカメラ等の撮像装置に用いられる撮影レンズ系である。レンズ断面図において、左方が物体側(前方)、右方が像側(後方)である。
【0114】
なお、各実施例の光学系をプロジェクタ等の投射レンズとして用いるときは、左方が投射面(スクリーン)側、右方が投射面に投射される原画側である。
【0115】
レンズ断面図において、OLは光学系である。iは物体側からのレンズの順番を示し、Liは第iレンズである。SPは開口絞りである。IPは像面であり、撮像装置における固体撮像素子の撮像面や銀塩フィルムカメラのフィルム面に相当する感光面が配置される。
【0116】
Ggij(j=1、2、3…)は屈折率分布レンズを表す。各実施例の光学系は、屈折率分布レンズを少なくとも1つ含む。
【0117】
収差図において、d、g、C、Fはそれぞれd線、g線、C線およびF線に関する収差であることを示す。ΔMおよびΔSはそれぞれメリディオナル像面およびサジタル像面である。倍率色収差はg線によって表している。ωは半画角、FnoはFナンバーである。
【実施例1】
【0118】
図1に示す実施例1(数値例1)の光学系は、物体側から像側へ順に、フォーカスに際して不動である正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、フォーカスのために光軸方向に移動する負の屈折力を有する第2レンズユニットL2とを有する。また、該光学系は、フォーカスに際して不動である負の屈折力を有する第3レンズユニットL3を有する。この光学系は、倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0119】
実施例1の光学系は、焦点距離が294mm、望遠比(第1レンズ面から像面までの光軸方向に沿う長さを焦点距離で割った値)が0.80の望遠レンズである。
【0120】
実施例1では、第1レンズユニットL1に、UV硬化樹脂1にITO微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成された屈折率分布レンズGgi1を用いている。
この屈折率分布レンズGgi1は、光軸に直交する方向(径方向)に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、ITO微粒子を、体積比で最大で5.05%、最小で0.0%分散させた混合体である。屈折率分布レンズの光軸から径方向にITO微粒子の組成比率が増加している。
このため、屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、径方向での最外有効位置(以下、有効径位置という)で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最小値となり、有効径位置で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは有効径位置であり、位置pmingiは光軸上の位置である。
実施例1の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に平面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力は実質的に無い。また、媒質の屈折力は負である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して小さい。
【0121】
実施例1の光学系は、開口絞りSPより物体側の屈折力が正で、像側の屈折力が負となるテレフォトタイプのパワー配置を有する。実施例1では、開口絞りSPよりも物体側での近軸軸上光線の通過位置が比較的高い、開口絞りSPよりも前方に配置された第1レンズユニットL1内に屈折率分布レンズGgi1を含ませることで、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例2】
【0122】
図3に示す実施例2(数値例2)の光学系は、物体側から像側へ順に、フォーカスに際して不動である正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、フォーカスのために光軸方向に移動する負の屈折力を有する第2レンズユニットL2とを有する。また。該光学系は、フォーカスに際して不動である負の屈折力を有する第3レンズユニットL3を有する。この光学系は、倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0123】
実施例2の光学系は、焦点距離が294mm、望遠比が0.765の望遠レンズである。
【0124】
実施例2では、第1レンズユニットL1に屈折率分布レンズを2つ用いている。屈折率分布レンズGgi1は、UV硬化樹脂2にITO微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。屈折率分布レンズGgi2は、UV硬化樹脂1に、TiO2微粒子の組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。
【0125】
屈折率分布レンズGgi1および屈折率分布レンズGgi2は、径方向に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、UV硬化樹脂2に対して、ITO微粒子を、体積比で最大で5.05%、最小で0.00%分散させた混合体である。光軸から径方向にITO微粒子の組成比率が増加している。
また、屈折率分布レンズGgi2の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、TiO2微粒子を、体積比で最大で3.0%、最小で0.0%分散させた混合体である。光軸から径方向にTiO2微粒子の組成比率が減少している。
このため、屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最小値となり、有効径位置で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは有効径位置であり、位置pmingiは光軸上の位置である
屈折率分布レンズGgi2において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最小値となり、有効径位置で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは有効径位置であり、位置pmingiは光軸上の位置である
実施例2の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面が共に平面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力は実質的に無い。また、媒質の屈折力は負の屈折力を有している。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して小さい。また、ITO微粒子を分散させる媒質として、異常分散性を有する樹脂を使用している。これにより、等価部分分散比は、より異常分散性を有する。
屈折率分布レンズGgi2の光入射側の面と光射出側の面は共に曲面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の境界において屈折力を有する。媒質の屈折力は正である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して大きい。
【0126】
一般的な光学材料と比較して、等価部分分散比が小さい屈折率分布レンズと、等価部分分散比が大きい屈折率分布レンズの両者を用いることで、色収差をより良好に補正することが可能となる。
【0127】
実施例2の光学系は、開口絞りSPより物体側の屈折力が正で、像側の屈折力が負となるテレフォトタイプのパワー配置を有する。実施例2では、開口絞りSPよりも物体側での近軸軸上光線の通過位置が比較的高い、開口絞りSPよりも前方に配置された第1レンズユニットL1に屈折率分布レンズGgi1,Ggi2を含ませることで、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例3】
【0128】
図5に示す実施例3(数値例3)の光学系は、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、負の屈折力を有する第2レンズユニットL2と、正の屈折力を有する第3レンズユニットL3とを有する。また、該光学系は、正の屈折力を有する第4レンズユニットL4を有する。この光学系は、ズーム比が約12倍の4レンズユニット構成のズームレンズである。
【0129】
図5中の矢印は、広角端から望遠端へのズーミングの際の各レンズユニットの移動軌跡を示している。ズーミングに際して、各レンズユニットは、隣接するレンズユニット間の間隔が変化するように移動する。また、第4レンズユニットL4はフォーカスのために光軸方向に移動する。この光学系は、倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0130】
実施例3では、第1レンズユニットL1に、屈折率分布レンズを用いている。屈折率分布レンズGgi1は、UV硬化樹脂1にITO微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。
【0131】
屈折率分布レンズGgi1は、径方向に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、ITO微粒子を、体積比で最大で3.34%、最小で0.0%分散させた混合体である。光軸から径方向にITO微粒子の組成比率が増加している。
このため、屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。位置pmaxgiは光軸上の位置であり、位置pmingiは有効径位置である。
【0132】
実施例3の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面および光射出側の面は共に曲面形状を有する。屈折率分布レンズGgi1は、2つのレンズの間に配置され、それらレンズに密着接合されている。雰囲気と媒質の境界において屈折力を有する。媒質の屈折力は負である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して小さい。
【0133】
実施例3では、ズームレンズを構成する各レンズユニットのうち、開口絞りSPよりも物体側において、望遠端において、近軸軸上光線の光軸からの通過位置が比較的高くなる第1レンズユニットL1に、屈折率分布レンズGgi1を含ませている。これにより、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例4】
【0134】
図7に示す実施例4(数値例4)の光学系は、物体側から像側へ順に、負の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、フォーカスのために光軸方向に移動する負の屈折力を有する第2レンズユニットL2とを有する。また、該光学系は、フォーカスのために光軸方向に移動する正の屈折力を有する第3レンズユニットL3を有する。
【0135】
実施例4の光学系は、焦点距離が約24mmの広角レンズであり、フローティングを利用した倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0136】
実施例4では、第3レンズユニットL3に屈折率分布レンズを用いている。屈折率分布レンズGgi1は、UV硬化樹脂1にTiO2微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。
【0137】
屈折率分布レンズGgi1は、径方向に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、TiO2微粒子を、体積比で最大で20.0%、最小で10.8%分散させた混合体である。光軸から径方向にTiO2微粒子の組成比率が減少している。
このため、屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最小値となり、有効径位置で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは有効径位置であり、位置pmingiは光軸上の位置である。
【0138】
実施例4の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に曲面形状を有する。該屈折率分布レンズGgi1は、他のレンズに接合されている。このため、雰囲気と媒質の境界において屈折力を有する。媒質の屈折力は正である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して大きい。
【0139】
実施例4では、光学系を構成する各レンズユニットのうち、開口絞りSPよりも像側の第3レンズユニットL3に屈折率分布レンズGgi1を含ませている。これにより、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例5】
【0140】
図9に示す実施例5(数値例5)の光学系は、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、正の屈折力を有する第2レンズユニットL2とにより構成されている。この光学系は、焦点距離が51mmのガウスタイプの倒立1回結像の縮小光学系である。
【0141】
実施例5では、第1レンズユニットL1および第2レンズユニットL2のそれぞれに、屈折率分布レンズを1つずつ用いている。第1レンズユニットL1内の屈折率分布レンズGgi1および第2レンズユニットL2の屈折率分布レンズGgi2はいずれも、UV硬化樹脂1にTiO2微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。
【0142】
屈折率分布レンズGgi1および屈折率分布レンズGgi2は、径方向に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、TiO2微粒子を、体積比で最大で10.0%、最小で0.28%分散させた混合体である。屈折率分布レンズGgi2の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、TiO2微粒子を、体積比で最大で20.0%、最小で2.74%分散させた混合体である。いずれの屈折率分布レンズでも、光軸から径方向にTiO2微粒子の組成比が減少している。
このため、屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最小値となり、有効径位置で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは有効径位置であり、位置pmingiは光軸上の位置である。
また、屈折率分布レンズGgi2においても、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、位置pmaxgiは光軸上の位置であり、位置pmingiは有効径位置である。
【0143】
実施例5に適用した屈折率分布レンズGgi1および屈折率分布レンズGgi2の光入射側の面と光射出側の面は共に平面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力は実質的に無い。また、媒質の屈折力は正である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して大きい。
【0144】
一般的な光学材料と比較して、異常分散性を有する屈折率分布レンズを開口絞りSPより物体側および像側の両者に用いることにより、ガウスタイプの光学系では収差、特に色収差を良好に補正することが可能となる。
【実施例6】
【0145】
図11に示す実施例6(数値例6)の光学系は、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、正の屈折力を有する第2レンズユニットL2とにより構成されている。この光学系は、焦点距離が51mmのガウスタイプの倒立1回結像の縮小光学系である。
【0146】
実施例6では、第2レンズユニットL2に屈折率分布レンズを用いている。屈折率分布レンズGgi1は、無機ガラス1に、ITO微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。
【0147】
屈折率分布レンズGgi1は、径方向に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、無機ガラス1に対して、ITO微粒子を、体積比で最大で2.3%、最小で0.0%分散させた混合体である。光軸から径方向にITO微粒子の組成比率が増加している。
屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、位置pmaxgiは光軸上の位置であり、位置pmingiは有効径位置である。
【0148】
実施例6の光学系に使用された屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に平面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力は実質的に無い。また、媒質の屈折力は負である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して小さい。
【0149】
一般的な光学材料と比較して、異常分散性を有する屈折率分布レンズを用いることにより、ガウスタイプの光学系では、諸収差、特に色収差を良好に補正することが可能となる。
【実施例7】
【0150】
図13に示す実施例7(数値例7)の光学系は、物体側から像側へ順に、フォーカスに際して不動である正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、フォーカスのために光軸方向に移動する負の屈折力を有する第2レンズユニットL2とを有する。また、フォーカスに際して不動である負の屈折力を有する第3レンズユニットL3を有する。この光学系は倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0151】
実施例7の光学系は、焦点距離が294mm、望遠比が0.816の望遠レンズである。
【0152】
実施例7では、第1レンズユニットL1に、無機ガラス1にTiO2微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成された屈折率分布レンズGgi1を用いている。
【0153】
屈折率分布レンズGgi1は、径方向に屈折率が変化するラジアル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、無機ガラス1に対して、TiO2微粒子を、体積比で最大で15.0%、最小で0.0%分散させた混合体である。光軸から径方向にTiO2微粒子の組成比が減少している。
屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、光軸上で最大値となり、有効径位置で最小値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFR(0),θgF(pmin)=θgFR(rea)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、光軸上で最小値となり、有効径位置で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは有効径位置であり、位置pmingiは光軸上の位置である。
【0154】
実施例7の光学系に用いた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に平面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力は実質的に無い。また、媒質の屈折力は正である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して大きい。
【0155】
実施例7の光学系は、開口絞りSPよりも物体側の屈折力が正、像側の屈折力が負であるテレフォトタイプのパワー配置を有する。本実施例では、開口絞りSPよりも物体側にて近軸軸上光線の通過位置が比較的高い、開口絞りSPよりも前方に配置された第1レンズユニットL1に屈折率分布レンズGgi1を含ませている。これにより、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例8】
【0156】
図15に示す実施例8(数値例8)の光学系は、物体側から像側へ順に、フォーカスに際して不動である正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、フォーカスのために光軸方向に移動する負の屈折力を有する第2レンズユニットL2とを有する。また、該光学系は、フォーカスに際して不動である負の屈折力を有する第3レンズユニットL3を有する。この光学系は倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0157】
実施例8の光学系は、焦点距離が294mm、望遠比が0.816の望遠レンズである。
【0158】
本実施例では、第1レンズユニットL1に、アクリル樹脂1にTiO2微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成された屈折率分布レンズGgi1を用いている。
【0159】
屈折率分布レンズGgi1は、光軸方向に屈折率が変化するアキシャル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、アクリル樹脂1に対して、TiO2微粒子を、体積比で最大で6.96%、最小で0.0%分散させた混合体である。光軸方向の物体側から像側にTiO2微粒子の組成比率が増加している。
屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、最も物体側で最小値となり、最も像側で最大値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFA(timg),θgF(pmin)=θgFA(tobj)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、最も物体側で最大値となり、最も像側で最小値となる。すなわち、位置pmaxgiは最も物体側の位置であり、位置pmingiは最も像側の位置である。
【0160】
実施例8の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に曲面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力を有する。また、媒質の屈折力は正である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して大きい。
【0161】
実施例8の光学系は、開口絞りSPより物体側の屈折力が正で、像側の屈折力が負であるテレフォトタイプのパワー配置を有する。本実施例では、開口絞りSPよりも物体側にて近軸軸上光線の通過位置が比較的高い、開口絞りSPよりも前方に配置された第1レンズユニットL1に屈折率分布レンズGgi1を含ませている。これにより、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例9】
【0162】
図17に示す実施例9(数値例9)の光学系は、物体側から像側へ順に、フォーカスに際して不動である正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、フォーカスのために光軸方向に移動する負の屈折力を有する第2レンズユニットL2とを有する。また、該光学系は、フォーカスに際して不動である負の屈折力を有する第3レンズユニットL3を有する。この光学系は倒立1回結像の縮小結像光学系である。
【0163】
実施例9の光学系は、焦点距離が294mm、望遠比が0.816の望遠レンズである。
【0164】
実施例9では、第1レンズユニットL1に、無機ガラス1にITO微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成された屈折率分布レンズGgi1を用いている。
【0165】
屈折率分布レンズGgi1は、光軸方向に屈折率が変化するアキシャル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、無機ガラス1に対して、ITO微粒子を、体積比で最大で10.0%、最小で2.78%分散させた混合体である。光軸方向の物体側から像側にITO微粒子の組成比率が減少している。
屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、最も物体側で最小値となり、最も像側で最大値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFA(timg),θgF(pmin)=θgFA(tobj)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、最も物体側で最小値となり、最も像側で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは最も像側の位置であり、位置pmingiは最も物体側の位置である。
【0166】
実施例9の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に曲面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力を有する。また、媒質の屈折力は負である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して小さい。
【0167】
実施例9の光学系は、開口絞りSPより物体側の屈折力が正で、像側の屈折力が負であるテレフォトタイプのパワー配置を有する。実施例9では、開口絞りSPよりも物体側にて近軸軸上光線の通過位置が比較的高い、開口絞りSPよりも前方に配置された第1レンズユニットL1に屈折率分布レンズGgi1を含ませている。これにより、諸収差、特に色収差を良好に補正している。
【実施例10】
【0168】
図19に示す実施例10(数値例10)の光学系は、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズユニットL1と、正の屈折力を有する第2レンズユニットL2とにより構成されている。この光学系は、焦点距離が51mmのガウスタイプの倒立1回結像の縮小光学系である。
【0169】
実施例10では、第2レンズユニットL2に屈折率分布レンズGgi1を用いている。屈折率分布レンズGgi1は、UV硬化樹脂1にITO微粒子を組成比率を変化させて分散させた媒質により形成されている。
【0170】
屈折率分布レンズGgi1は、光軸方向に屈折率が変化するアキシャル屈折率分布レンズである。屈折率分布レンズGgi1の媒質は、UV硬化樹脂1に対して、ITO微粒子を、体積比で最大で12.0%、最小で6.24%分散させた混合体である。光軸方向の物体側から像側にITO微粒子の組成比率が減少している。
屈折率分布レンズGgi1において、g線とF線に関する部分分散比は、最も物体側で最小値となり、最も像側で最大値となる。すなわち、θgF(pmax)=θgFA(timg),θgF(pmin)=θgFA(tobj)である。g線とF線に関する等価部分分散比は、最も物体側で最小値となり、最も像側で最大値となる。すなわち、位置pmaxgiは最も像側の位置であり、位置pmingiは最も物体側の位置である。
実施例10の光学系に用いられた屈折率分布レンズGgi1の光入射側の面と光射出側の面は共に曲面形状を有する。このため、雰囲気と媒質の界面での屈折力を有する。また、媒質の屈折力は負である。g線とF線における等価部分分散比は、一般的な光学材料と比較して小さい。
【0171】
一般的な光学材料と比較して、異常分散性を有する屈折率分布レンズGgi1を適用することにより、ガウスタイプの光学系で諸収差、特に色収差を良好に補正することが可能となる。
【0172】
なお、上記条件(1)〜(4)を満足する屈折率分布レンズは、実施例1〜10の光学系に限らず、種々の光学系に用いることができる。
【0173】
以下、各実施例(数値例)の具体的な数値データを示す。各実施例において、iは物体側から数えた面の番号を示す。Riはi番目の光学面(第i面)の曲率半径であり、Diは第i面と第(i+1)面との間の軸上間隔である。
【0174】
Ndi,νdiはそれぞれ、d線に対するi番目の光学部材の材料の屈折率、アッベ数を表す。i番目の光学部材が屈折率分布レンズの場合は、Ngi,νdgiと表記し、屈折率分布の波長分散については別途表記する。
【0175】
また、非球面形状は、Xを光軸方向の面頂点からの変位量とし、hを光軸に直交する方向の光軸からの高さとし、rを近軸曲率半径とし、kを円錐定数とし、B,C,D,E,…を各次数の非球面係数とするとき、
【0176】
【数3】
【0177】
で表す。
【0178】
なお、各数値における「E±XX」は「×10±XX」を意味する。
【0179】
屈折率分布レンズで使用した光学材料のd線、g線、C線、F線における屈折率、アッベ数および部分分散比等の数値を表11に示す。また、各実施例の屈折率分布の材料特性を表12に示す。
【0180】
各実施例においては、屈折率分布を以下の式で近似している。
ラジアル屈折率分布
【0181】
【数4】
【0182】
アキシャル屈折率分布
【0183】
【数5】
【0184】
なお、屈折率分布の近似式は上式に限定されるわけではなく、任意の近似式を用いることが可能である。
【0185】
各実施例においては、屈折率分布特性として、d線、g線、C線、F線およびe線(546.1nm)での屈折率分布の近似式の係数を記載する。
【0186】
【表1】
【0187】
【表2】
【0188】
【表3】
【0189】
【表4】
【0190】
【表5】
【0191】
【表6】
【0192】
【表7】
【0193】
【表8】
【0194】
【表9】
【0195】
【表10】
【0196】
【表11】
【0197】
【表12】
【実施例11】
【0198】
次に上記各実施例に示した光学系を撮影光学系として用いたデジタルスチルカメラ(光学機器)を図22を用いて説明する。
【0199】
図22において、20はカメラ本体である。21は各実施例で説明した光学系によって構成された撮影光学系である。22はカメラ本体20に内蔵され、撮影光学系21によって形成された被写体像を光電変換するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)である。
【0200】
23は固体撮像素子22によって光電変換された被写体像に対応する画像情報を記録するメモリである。24は液晶ディスプレイパネル等によって構成され、固体撮像素子22上に形成された被写体像(つまりは画像情報)を観察するためのファインダである。
【0201】
このように各実施例の光学系をデジタルスチルカメラに適用することにより、小型で高い光学性能を有するカメラを実現することができる。
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0202】
諸収差を良好に補正できる屈折率分布光学素子とこれを用いた光学機器を提供できる。
【符号の説明】
【0203】
Ggij 屈折率分布レンズ
IP 像面
ΔM メリディオナル像面
ΔS サジタル像面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒質が屈折率分布を有する光学素子であって、以下の条件を満足することを特徴とする光学素子。
|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≧0.02
|ΔθgFgi(p1)|≧0.0272
|Δθgdgi(p1)|≧0.0250
|θgFgi(pmaxgi)−θgFgi(pmingi)|≦0.1
但し、
θgF(pmax)およびθgF(pmin)はそれぞれ、前記媒質中の位置pmaxおよびpminにおけるg線とF線に関する部分分散比であり、前記位置pmaxおよびpminはそれぞれ、前記媒質中においてg線とF線に関する部分分散比が最大値および最小値となる位置であり、
p0を前記媒質中において基準屈折率を有する位置とし、p1を前記媒質中における前記位置p0とは異なる位置とし、nF(p1),nd(p1),nC(p1)をそれぞれ前記媒質の前記位置p1でのF線、d線およびC線に関する屈折率とし、nF(p0),nd(p0),nC(p0)をそれぞれ前記媒質の前記位置p0でのF線、d線およびC線に関する屈折率とし、δng(p1),δnF(p1),δnd(p1),δnC(p1)をそれぞれ前記位置p1でのg線、d線、F線およびC線に関する屈折率差とし、
θgFgi(p1)を前記媒質の前記位置p1におけるg線とF線に関する等価部分分散比とし、θgdgi(p1)を前記媒質の前記位置p1におけるg線とd線に関する等価部分分散比とするとき、
δng(p1)=ng(p1)−ng(p0)
δnd(p1)=nd(p1)−nd(p0)
δnF(p1)=nF(p1)−nF(p0)
δnC(p1)=nC(p1)−nC(p0)
θgFgi(p1)
={δng(p1)−δnF(p1)}/{δnF(p1)−δnC(p1)}
θgdgi(p1)
={δng(p1)−δnd(p1)}/{δnF(p1)−δnC(p1)}
であり、
ΔθgFgi(p1)およびΔθgdgi(p1)をそれぞれ、前記等価部分分散比の異常分散性とし、νdgi(p1)を前記媒質の前記位置p1でのd線とg線の等価アッベ数とし、
θgFgi0
=−1.665×10−7νdgi(p1)3+5.213×10−5νdgi(p1)2
−5.656×10−3νdgi(p1)+0.7278
θgdgi0
=−1.687×10−7νdgi(p1)3+5.702×10−5νdgi(p1)2
−6.603×10−3νdgi(p1)+1.462
とするとき、
ΔθgFgi(p1)=θgFgi(p1)−θgFgi0
Δθgdgi(p1)=θgdgi(p1)−θgdgi0
であり、
θgFgi(pmaxgi)およびθgFgi(pmingi)はそれぞれ、前記媒質の位置pmaxgiおよびpmingiにおける前記等価部分分散比であり、
前記位置pmaxgiおよびpmingiはそれぞれ、前記媒質中における前記位置p0とは異なる位置であって、g線とF線に関する前記等価部分分散比が最大値となる位置である。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子を含む光学系を有することを特徴とする光学機器。
【請求項3】
前記条件である|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≧0.02として、以下の条件を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の光学機器。
|θgFR(rea)−θgFR(0)|≧0.02
但し、reaは前記光学系における前記光学素子の光線有効半径であり、θgFR(rea)およびθgFR(0)はそれぞれ、前記媒質における光軸から該光軸に対して直交する方向での距離reaおよび0の位置でのg線とF線に関する部分分散比である。
【請求項4】
前記条件である|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≧0.02として、以下の条件を満足することを特徴とする請求項1、2および6のいずれか一項に記載の光学機器。
|θgFA(tobj)−θgFA(timg)|≧0.02
但し、tobjおよびtimgはそれぞれ、前記光学系における光軸方向で最も光入射側の点および最も光射出側の点であり、θgFA(tobj)およびθgFA(timg)はそれぞれ前記媒質における光軸方向での点tobjおよびtimgでのg線とF線に関する部分分散比である。
【請求項5】
前記媒質は、固体材料と少なくとも1つの光学材料とを混合して得られる混合体であり、
該固体材料と該光学材料との組成比率は空間的に分布しており、かつ以下の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
|ΔθgFs−ΔθgFm|≧0.027
但し、ΔθgFs、ΔθgFmはそれぞれ、前記固体材料と前記光学材料のg線とF線に関する異常分散性である。
【請求項1】
媒質が屈折率分布を有する光学素子であって、以下の条件を満足することを特徴とする光学素子。
|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≧0.02
|ΔθgFgi(p1)|≧0.0272
|Δθgdgi(p1)|≧0.0250
|θgFgi(pmaxgi)−θgFgi(pmingi)|≦0.1
但し、
θgF(pmax)およびθgF(pmin)はそれぞれ、前記媒質中の位置pmaxおよびpminにおけるg線とF線に関する部分分散比であり、前記位置pmaxおよびpminはそれぞれ、前記媒質中においてg線とF線に関する部分分散比が最大値および最小値となる位置であり、
p0を前記媒質中において基準屈折率を有する位置とし、p1を前記媒質中における前記位置p0とは異なる位置とし、nF(p1),nd(p1),nC(p1)をそれぞれ前記媒質の前記位置p1でのF線、d線およびC線に関する屈折率とし、nF(p0),nd(p0),nC(p0)をそれぞれ前記媒質の前記位置p0でのF線、d線およびC線に関する屈折率とし、δng(p1),δnF(p1),δnd(p1),δnC(p1)をそれぞれ前記位置p1でのg線、d線、F線およびC線に関する屈折率差とし、
θgFgi(p1)を前記媒質の前記位置p1におけるg線とF線に関する等価部分分散比とし、θgdgi(p1)を前記媒質の前記位置p1におけるg線とd線に関する等価部分分散比とするとき、
δng(p1)=ng(p1)−ng(p0)
δnd(p1)=nd(p1)−nd(p0)
δnF(p1)=nF(p1)−nF(p0)
δnC(p1)=nC(p1)−nC(p0)
θgFgi(p1)
={δng(p1)−δnF(p1)}/{δnF(p1)−δnC(p1)}
θgdgi(p1)
={δng(p1)−δnd(p1)}/{δnF(p1)−δnC(p1)}
であり、
ΔθgFgi(p1)およびΔθgdgi(p1)をそれぞれ、前記等価部分分散比の異常分散性とし、νdgi(p1)を前記媒質の前記位置p1でのd線とg線の等価アッベ数とし、
θgFgi0
=−1.665×10−7νdgi(p1)3+5.213×10−5νdgi(p1)2
−5.656×10−3νdgi(p1)+0.7278
θgdgi0
=−1.687×10−7νdgi(p1)3+5.702×10−5νdgi(p1)2
−6.603×10−3νdgi(p1)+1.462
とするとき、
ΔθgFgi(p1)=θgFgi(p1)−θgFgi0
Δθgdgi(p1)=θgdgi(p1)−θgdgi0
であり、
θgFgi(pmaxgi)およびθgFgi(pmingi)はそれぞれ、前記媒質の位置pmaxgiおよびpmingiにおける前記等価部分分散比であり、
前記位置pmaxgiおよびpmingiはそれぞれ、前記媒質中における前記位置p0とは異なる位置であって、g線とF線に関する前記等価部分分散比が最大値となる位置である。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子を含む光学系を有することを特徴とする光学機器。
【請求項3】
前記条件である|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≧0.02として、以下の条件を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の光学機器。
|θgFR(rea)−θgFR(0)|≧0.02
但し、reaは前記光学系における前記光学素子の光線有効半径であり、θgFR(rea)およびθgFR(0)はそれぞれ、前記媒質における光軸から該光軸に対して直交する方向での距離reaおよび0の位置でのg線とF線に関する部分分散比である。
【請求項4】
前記条件である|θgF(pmax)−θgF(pmin)|≧0.02として、以下の条件を満足することを特徴とする請求項1、2および6のいずれか一項に記載の光学機器。
|θgFA(tobj)−θgFA(timg)|≧0.02
但し、tobjおよびtimgはそれぞれ、前記光学系における光軸方向で最も光入射側の点および最も光射出側の点であり、θgFA(tobj)およびθgFA(timg)はそれぞれ前記媒質における光軸方向での点tobjおよびtimgでのg線とF線に関する部分分散比である。
【請求項5】
前記媒質は、固体材料と少なくとも1つの光学材料とを混合して得られる混合体であり、
該固体材料と該光学材料との組成比率は空間的に分布しており、かつ以下の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
|ΔθgFs−ΔθgFm|≧0.027
但し、ΔθgFs、ΔθgFmはそれぞれ、前記固体材料と前記光学材料のg線とF線に関する異常分散性である。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2011−70032(P2011−70032A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221630(P2009−221630)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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