説明

光学装置

【課題】可動部に磁石を設置し、電磁石を磁石との間に作用する磁力によって可動部を揺動させることが可能な光学装置において、可動部に永久磁石を設置することによって可動部の重心が可動部の揺動中心からずれることを抑制する。
【解決手段】可動部に設置する磁石が上部磁石と下部磁石との2つの部材に分かれている。上部磁石は可動部の上面に設置され、下部磁石は可動部の下面に設置されるため、可動部の重心が可動部の揺動中心からずれることが抑制される。また、上部磁石の第1磁極と下部磁石の第2磁極が可動部を介して対向しており、磁力によって上部磁石および下部磁石が可動部に固定される。可動部に磁石を固定するために用いる接着剤量を減少させることができるため、接着剤の重量によって可動部の重心が可動部の揺動中心からずれることが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁力によってミラーを揺動させることによって光ビームの反射方向を変化させる(以下では「偏向させる」という)光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ビームを偏向させる光学装置を、MEMS技術を利用して製造する技術が開発されている。この種の光学装置は、基板と可撓梁と可動部を備えており、可動部は可撓梁によって基板に対して揺動可能に支持されている。可動部の上面にミラーが設置されている。可動部を基板に対して揺動させることによって、ミラーを所定の角度に傾けることができる。
【0003】
電磁力を利用する光学装置では、磁石と電磁石のうちの一方を可動部に設置し、他方を基板上に設置する。非特許文献1には、可動部の下面に磁石を貼り付け、可動部の下方に位置する基板上に電磁石を設置する光学装置が開示されている。磁石のS極が可動部の下面に接着剤を用いて貼り付けられており、磁石のN極が電磁石に向けて延びている。
【0004】
電磁石に駆動電流を通電すると、磁石と電磁石の間に電磁力が作用する。通電方向を切り替えることによって、可動部の一部を基板に接近させる状態と、可動部の一部を基板から遠ざける状態を切り替えることができる。磁石と電磁石の間に作用する電磁力によって可動部を揺動させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takayuki Iseki et al., OPTICAL REVIEW, Vol.13, No.4(2006), 189-194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁石の比重は可動部の比重よりも大きい。例えば、磁石の一例であるネオジム磁石(NdFe14B)の比重は、可動部として用いられる材料の一例であるシリコンの比重の約3倍である。このため、磁石を可動部の片側(非特許文献1の場合には可動部の下側)に貼り付けると、磁石を含む可動部全体の重心が磁石側にずれ、可動部の重心が可動部の揺動中心から離れる。可動部の重心が揺動中心から離れると、可動部の揺動特性が変化し、場合によっては可動部を傾けた時に可動部が振動する。
【0007】
本願は、可動部に磁石を設置したときに、可動部の重心が可動部の揺動中心からずれることを抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に係る光学装置は、基板と、可撓梁と、可撓梁によって基板に対して揺動可能に支持されている可動部と、可動部の上面に固定されているミラーと、可動部の上面に設置されている上部磁石と、可動部の下面に設置されている下部磁石と、上部磁石および下部磁石に可動部を可撓梁の周りに回転させるトルクを発生させる磁束を発生する電磁石とを備えている。上部磁石は、第1磁極(N極又はS極の一方)が可動部を向く姿勢で設置されており、下部磁石は、第2磁極(第1磁極と反対の磁極)が可動部を向く姿勢で設置されている。下部磁石は、可動部を介して上部磁石と対向する位置に設置されている。
【0009】
上記の光学装置では、磁石が上部磁石と下部磁石との2つの部材に分かれている。上部磁石は可動部の上面に設置され、下部磁石は可動部の下面に設置されるため、可動部の重心が可動部の揺動中心からずれることが抑制される。また、上部磁石の第1磁極と下部磁石の第2磁極が可動部を介して対向している。このため、上部磁石の第1磁極と下部磁石の第2磁極との間に作用する磁力によって可動部が挟み込まれ、上部磁石および下部磁石が可動部に固定される。
【0010】
上記の光学装置では、上部磁石と下部磁石が同一の部材であることが好ましい。同一部材が可動部の上下面にそれぞれ設置されるため、可動部の重心が可動部の揺動中心からずれることがなくなる。
【0011】
上記の光学装置では、上部磁石と下部磁石が磁力のみによって可動部に固定されていてもよい。接着剤を用いないため、接着剤の重量によって可動部の重心が可動部の揺動中心からずれることがない。その一方において、上部磁石と可動部との接触面ならびに下部磁石と可動部との接触面に接着剤が塗布されていてもよい。接着剤を用いる場合であっても、上部磁石と下部磁石を可動部に固定するために必要となる接着剤が少なくなるために、接着剤の重量によって可動部の重心が可動部の揺動中心からずれることが抑制される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、可動部に磁石を設置することによって可動部の重心が可動部の揺動中心からずれることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の光学装置の斜視図である。
【図2】図1の光学装置のミラー部の上面を示す図である。
【図3】図2のミラー部の下面を示す図である。
【図4】図2および図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図2および図3のV−V線断面図である。
【図6】実施例1の光学装置の可動部と、これに設置される磁石を示す図である。
【図7】実施例1の光学装置の可動部と、これに設置される磁石を示す図である。
【図8】変形例に係る光学装置の可動部と、これに設置される磁石を示す図である。
【図9】変形例に係る光学装置の可動部と、これに設置される磁石を示す図である。
【図10】変形例に係る光学装置の可動部と、これに設置される磁石を示す図である。
【図11】変形例に係る光学装置の可動部と、これに設置される磁石を示す図である。
【図12】変形例に係る光学装置の可動部と、これに設置される磁石を示す図である。
【図13】実施例1の光学装置の製造方法を説明する図である。
【図14】実施例1の光学装置の製造方法を説明する図である。
【図15】実施例1の光学装置の製造方法を説明する図である。
【図16】実施例1の光学装置の製造方法を説明する図である。
【図17】実施例1の光学装置の製造方法を説明する図である。
【図18】実施例1の光学装置の製造方法を説明する図である。
【図19】可動部と、可動部を貫通する貫通磁石とを示す図である。
【図20】図19のXX−XX線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る好ましい実施形態は、例えば、下記に列挙する特徴を備えた実施例によって具現化される。
(特徴1)可動部を介して対向する上部磁石と下部磁石とは、同一部材であり、同一材料を用いて同一形状、同一重量に設計されている。
【実施例1】
【0015】
(光学装置)
図1は、実施例1の光学装置10の斜視図である。光学装置10は、第1電磁石20と、第2電磁石40と、ミラー部30とを備えている。
【0016】
第1電磁石20は、C字形状の鉄心201と、鉄心201に巻き付けられている第1コイル203a,203bを備えている。鉄心201は、ミラー部30を挟んでx軸方向(第2方向)に対向する磁極部201aと磁極部201bとを備えており、磁極部201aと磁極部201bとの間に、ミラー部30が設置されている。第2電磁石40は、C字形状の鉄心401と、鉄心401に巻き付けられている第2コイル403a,403bを備えている。鉄心401は、ミラー部30を挟んでy軸方向(第1方向)に対向する磁極部401aと磁極部401bとを備えており、磁極部401aと磁極部401bとの間に、ミラー部30が設置されている。
【0017】
第1電磁石20の第1コイル203a,203bに電流を流すと、磁極部201aと磁極部201bとの間にx軸方向の磁界が発生する。第2電磁石40の第2コイル403a,403bに電流を流すと、磁極部401aと磁極部401bとの間にy軸方向の磁界が発生する。
【0018】
図2は、図1に示すミラー部30の平面図であり、図3は、図2に示すミラー部30を下面側から見た図である。図2および図3に示すように、ミラー部30は、基板301と、基板301から伸びている1対の第1可撓梁303a,303bと、1対の第1可撓梁303a,303bによって支持されている第1可動部305と、第1可動部305から伸びている1対の第2可撓梁309a,309bと、1対の第2可撓梁309a,309bによって支持されている第2可動部311と、第2可動部311の上面に固定されているミラー315とを備えている。第1可動部305の上面には、第1上部磁石307a,307bが固定されており、下面には、第1下部磁石308a,308bが固定されている。第2可動部311の上面には、第2上部磁石313a,313bが固定されており、下面には、第2下部磁石314a,314bが固定されている。第1上部磁石307a,307b、第1下部磁石308a、308b、第2上部磁石313a,313b、第2下部磁石314a、314bは、ネオジム磁石(NdFe14B)等を材料とする永久磁石で構成されている。ネオジム磁石に代えて、サマリウムコバルト磁石(SmCo(1−5系)、SmCo17(2−17系)等)や、フェライト磁石を用いることもできる。
【0019】
図4は、図2および図3のIV−IV線断面図であり、図5は、図2および図3のV−V線断面図である。図6は、第2可動部311、第2上部磁石313a、第2下部磁石314aの位置関係を示す図であり、図7は、第1可動部305、第1上部磁石307b、第1下部磁石308bの位置関係を示す図である。
【0020】
図2〜図7に示すように、第1上部磁石307bは、第1可動部305の表面の領域373に設置され、第1下部磁石308bは、第1可動部305の裏面の領域383に設置される。第2上部磁石313aは、第2可動部311の表面の領域333に設置され、第2下部磁石314aは、第2可動部311の裏面の領域334に設置される。領域373と領域383、領域333と領域334は、ミラー部30を平面視した場合に同じ位置である。すなわち、第1上部磁石307bと第1下部磁石308bとは第1可動部305を介して対向する位置に設置されており、第2上部磁石313aと第2下部磁石314aとは第2可動部311を介して対向する位置に設置されている。同様に、図2および図3において、第1上部磁石307aと第1下部磁石308a、第2上部磁石313bと第2下部磁石314のいずれも、第2可動部311の上面側と下面側であって、ミラー部30を平面視した場合に同じ位置に設置されている。すなわち、第1上部磁石307aと第1下部磁石308aとは第1可動部305を介して対向する位置に設置されており、第2上部磁石313bと第2下部磁石314bとは第2可動部311を介して対向する位置に設置されている。
【0021】
図6において、第2上部磁石313aは、第2可動部311側の面332がS極であり、その対面である面331がN極である。第2下部磁石314aは、第2可動部311側の面342がN極であり、その対面である面341がS極である。S極である第2上部磁石313aの面332と、N極である第2下部磁石314aの面342が、第2可動部311を介して対向しており、この間に磁力が作用する。磁力によって第2上部磁石313aと第2下部磁石314aとの間に第2可動部311が挟み込まれ、第2上部磁石313aと第2下部磁石314aが第2可動部311に固定される。図6には図示しないが、図2等に示す第2上部磁石313bの第2可動部311側の面はS極であり、第2下部磁石314bの第2可動部311側の面はN極であり、第2可動部311を介して対向している。このため、同様に、磁力によって第2上部磁石313bと第2下部磁石314bも第2可動部311に固定される。
【0022】
図7において、第1上部磁石307bは、第1可動部305側の面372がS極であり、その対面である面371がN極である。第2下部磁石308bは、第1可動部305側の面382がN極であり、その対面である面381がS極である。このため、同様に、磁力によって第1上部磁石307bと第1下部磁石308bは第1可動部305に固定される。図7には図示しないが、同様に、図2等に示す第1上部磁石307aの第1可動部305側の面はS極であって、第1下部磁石308aの第1可動部305側の面はN極であり、第1可動部305を介して対向している。このため、同様に、磁力によって第1上部磁石307aと第1下部磁石308aも第1可動部305に固定される。
【0023】
図1〜図3に示すように、ミラー部30は、基板301と第1可撓梁303aの接続点と、基板301と第1可撓梁303bの接続点を結ぶ線がy軸方向と一致し、第1可動部305と第2可撓梁309aの接続点と,第1可動部305と第2可撓梁309bの接続点を結ぶ線がx軸方向と一致するように、設置されている。xy平面に直交する方向はz軸方向と一致しており、第2可動部311のz軸が正となる上面側にミラー315が設置されている。とすると、第1可撓梁303a,303bは、基板301からy軸方向に伸びているとともに、第1可動部305に連接している。第2可撓梁309a,309bは、第1可動部305からx軸方向に伸びているとともに、第2可動部311に連接している。第1方向であるy軸と、第2方向であるx軸は、基板に平行な面内で直交している。
【0024】
第1可動部305は、第1可撓梁303a,303bによって、基板301に対してy軸を中心に揺動可能に支持されており、第2可動部311は、第2可撓梁309a,309bによって、第1可動部305に対してx軸を中心に揺動可能に支持されている。これによって、第2可動部311は、基板300に対して、y軸(第1軸)とx軸(第2軸)の周りに独立に揺動することが可能となっている。
【0025】
図1に示す第1電磁石20の第1コイル203a,203bに電流を流すと、磁極部201aと磁極部201bとの間にx軸方向の磁界が発生し、この間に設置されているミラー部30の第1上部磁石307a、307bおよび第1下部磁石308a、308bに対して、電磁力が作用する。これによって、第1可撓梁303a、303bが捩れ、第1可動部305と、第2可撓梁309a,309bと、第2可動部311と、ミラー315とが一体となってy軸の周りに揺動する。
【0026】
例えば、磁極部201aがN極、磁極部201bがS極となるように第1コイル203a,203bに電流を流すと、第1上部磁石307a,307bおよび第1下部磁石308a、308bのN極は、磁極部201aから斥力を受け、磁極部201bから引力を受ける。第1上部磁石307a,307bおよび第1下部磁石308a、308bのS極は、磁極部201aから引力を受け、磁極部201bから斥力を受ける。その結果、第1可撓梁303a、303bが捩れ、第1可動部305と、第2可撓梁309a,309bと、第2可動部311と、ミラー315は、磁極部201a側が基板301の上方に傾き、磁極部201b側が基板301の下方に傾く。逆に、磁極部201aがS極、磁極部201bがN極となるように第1コイル203a,203bに電流を流すと、第1可動部305と、第2可撓梁309a,309bと、第2可動部311と、ミラー315は、磁極部201a側が基板301の下方に傾き、磁極部201b側が基板301の上方に傾く。
尚、磁極部201aと磁極部201bの間に発生するx軸方向の磁界は、第2上部磁石313a,313bおよび第2下部磁石314a,314bにも、第2可動部311をy軸の周りに回転させるトルクを発生させる。第2可撓梁309a,309bはx軸の周りには容易に捩れる一方で、y軸周りに回転させるトルクに対しては変形しにくく設計されている。このため、第2可動部311に生じるトルクによって第2可撓梁309a,309bが変形して第2可動部311が第1可動部305に対して傾くことがなく、第1可撓梁303a、303bが捩れる。第1可動部305に生じるトルクと、第2可動部311に生じるトルクは同じ方向であるため、第1可動部305と第2可動部311の全体が一体となって、第1可撓梁303a、303bの周りに揺動する。
【0027】
図1に示す第2電磁石40の第2コイル403a,403bに電流を流すと、磁極部401aと磁極部401bとの間にy軸方向の磁界が発生し、この間に設置されているミラー部30の第2上部磁石313a、313bおよび第2下部磁石314a、314bに対して、電磁力が作用する。これによって、第2可撓梁309a、309bが捩れ、第2可動部311と、ミラー315とが一体となってx軸の周りに揺動する。
【0028】
例えば、第2電磁石40の磁極部401aがN極、磁極部401bがS極となるように第2コイル403a,403bに電流を流すと、第2磁石313a,313b,314a,314bのN極は、磁極部401aから斥力を受け、磁極部401bから引力を受ける。その結果、第2可撓梁309a、309bが捩れ、第2可動部311と、ミラー315は、磁極部401aの側が基板301の上方に傾き、磁極部401bの側が基板301の下方に傾く。逆に、磁極部401aがS極、磁極部401bがN極となるように第2コイル403a,403bに電流を流すと、第2可動部311と、ミラー315とは、磁極部401aの側が基板301の下方に傾き、磁極部401bの側が基板301の上方に傾く。
尚、磁極部401aと磁極部401bの間に発生するy軸方向の磁界は、第1上部磁石307a,307bおよび第2下部磁石308a,308bにも、第1可動部305をx軸の周りに回転させるトルクを発生させる。第1可撓梁303a,303bはy軸の周りには容易に捩れる一方で、x軸周りに回転させるトルクに対しては変形しにくく設計されている。このため、第1可動部305に生じるトルクによって、第1可撓梁303a,303bが変形して第1可動部305が基板301に対して傾くことがない。
【0029】
実施例1では、第1上部磁石307a、307bと第1下部磁石308a、308bとは、同一の部材であって、同一材料を用いて同一形状に設計されており、重量も同一である。同一部材である第1上部磁石307a、307bが第1可動部305の上面側に、第1下部磁石308a、308bが第1可動部305の下面側に設置されている。このため、第1上部磁石307a、307bと第1下部磁石308a、308bが設置されることによって、第1可動部305の重心が揺動中心(y軸)から上下方向にずれることがない。また、第1上部磁石307a、307bと第1下部磁石308a、308bとを同じ部材として設計すれば、製造コストを低減できる。
【0030】
同様に、第2上部磁石313a、313bと第2下部磁石314a、314bとは、同一の部材であって、同一材料を用いて同一形状に設計されており、重量も同一である。このため、第2上部磁石313a、313bと第2下部磁石314a、314bが設置されることによって、第2可動部311の重心が揺動中心(x軸)から上下方向にずれることがない。また、第2上部磁石313a、313bと第2下部磁石314a、314bとを同じ部材として設計することによって、製造コストを低減できる。
【0031】
可動部の重心が揺動中心から上下方向にずれることを抑制する方法としては、図19および図20に示すように、1つの磁石が可動部を上下方向に貫通するように設置する方法も考えられる。図19は、第2可動部711と第2可撓梁709aとの接続部の近傍に設置された磁石713aを示しており、図20は、図19のXX−XX線断面図である。図19および図20に示すように、貫通磁石713aが第2可動部711を貫通する場合には、貫通磁石713aの側面と第2可動部711との間に接着剤870が充填される。貫通磁石713aは、接着剤870の接着力のみによって第2可動部711に固定される。
【0032】
製造工程において、貫通磁石713aうち、第2可動部711の上部に突出する部分と、第2可動部711の下部に突出する部分との割合にずれが生じた場合や、接着剤870の量が第2可動部711の上下方向に分布している場合には、可動部の重心が揺動中心から上下方向にずれる要因となる。接着剤の塗布量を制御しても、例えば図19や図20に示すように、第2可動部711の上面側に接着剤が偏在したり、逆に接着剤が下面側に流れたりするため、接着剤の870のが第2可動部711の上下方向に分布し易い。
【0033】
これに対して、実施例1では、磁力のみを利用して、第1上部磁石307a、307b、第1下部磁石308a、308b、第2上部磁石313a、313b、第2下部磁石314a、314bを第1可動部305、第2可動部311にそれぞれ固定している。上部磁石と下部磁石の形状と大きさを調整すれば、磁石の重量の偏りによって可動部の重心が揺動中心から上下方向にずれることがない。また、可動部に磁石を固定するための接着剤を用いていないため、接着剤の量が変わることによって、第1可動部305、第2可動部311の重心がそれぞれの揺動中心から上下方向にずれることがない。
【0034】
上記のとおり、実施例1に係る光学装置では、磁石が上部磁石と下部磁石との2つの部材に分かれている。上部磁石は可動部の上面に設置され、下部磁石は可動部の下面に設置されるため、重心が可動部の揺動中心からずれることが抑制される。また、上部磁石の第1磁極と下部磁石の第2磁極が可動部を介して対向している。このため、上部磁石の第1磁極と下部磁石の第2磁極との間に作用する磁力によって可動部が挟み込まれ、上部磁石および下部磁石が可動部に固定される。
【0035】
上部磁石および下部磁石と可動部とは、磁力のみによって固定されており、接着剤を用いていない。このため、接着剤の重量によって可動部の重心が揺動中心から上下方向にずれることがない。また、従来技術では、量産時に付加する接着剤の重量により可動部の慣性モーメントが変化してしまうため、デバイスごとに共振周波数がばらつくなどの悪影響があった。実施例1では、接着剤を使用しないため、デバイスごとに共振周波数がばらつくことを抑制することもできる。
【0036】
(光学装置の製造方法)
次に、実施例1に係る光学装置の製造方法を説明する。図1に示す光学装置は、シリコン基板等を材料としてミラー部を製造し、製造したミラー部を第1電磁石20と第2電磁石40に対して配置することによって製造することができる。ミラー部の製造方法においては、まず、MEMS技術を用いてシリコン基板等に可動部等の構造を形成し、磁石が設置されていない状態のミラー部であるシリコン構造体を形成する。次に、このシリコン構造体に、上部磁石および下部磁石を設置する。これによって、図2等に示すようなミラー部30を製造することができる。シリコン構造体を製造する方法は、通常のMEMS技術を用いたミラーデバイスを製造する方法によって製造することができる。以下、シリコン構造体に上部磁石および下部磁石を設置する方法について、図13〜図18を用いて説明する。
【0037】
まず、図13に示すように、冶具900を準備する。実施例1では冶具900はガラスを材料としている。冶具900には、下部磁石を差し込むための孔部と、冶具900上にシリコン構造体を載置する際に用いるアライメントガイドを差し込むための孔部が形成されており、図13では、N極が上側となるように第2下部磁石314a、314bを冶具900に載置した状態を示している。尚、図示していないが、第1下部磁石308a、308bも図13に示す工程において同様に冶具900上に載置される。
【0038】
次に、図14に示すように、冶具900にアライメントガイド902を差し込み、このアライメントガイド902を利用して、冶具900上にシリコン構造体を載置する。図14には左右方向に1対のアライメントガイド902が示されているが、図14の紙面に垂直な方向にも少なくとも1対のアライメントガイド902を設置する。アライメントガイド902に基板301の外縁が添うように、シリコン構造体を冶具900上に載置すると、磁石と可動部との位置調整を行うことができる。例えば、図14に示すように、冶具900に載置された第2下部磁石314a、314bの上面側に第2可動部311が位置するようにシリコン構造体を載置する位置を調整することができる。アライメントガイド902としては、例えば、シリコンウェハを用いることができる。
【0039】
図14の状態で、冶具900とシリコン構造体とをレジストを用いて仮止めした後、アライメントガイド920を取り外すと、図15に示す状態となる。図15は、レジスト920によって、冶具900上にシリコン構造体が仮止めされた状態を示している。
【0040】
図15に示す状態の冶具900を、図16に示すように磁石930の上部に載置する。磁石930は、ネオジム磁石(NdFe14B)等を材料とする永久磁石である。磁石930は、上面がN極、下面がS極となっており、磁石930のN極上に冶具900が載置される。冶具900上には、上面がN極、下面がS極となるように下部磁石(図16では例示的に第2下部磁石314a,314bを示している)が載置されているから、下部磁石は磁石930に引付けられた状態となっている。この状態で、可動部の上面に上部磁石を設置すると、図16に示す状態となる。図16では、例示的に、シリコン構造体を平面視した場合に、第2下部磁石314a,314bと同じ位置となるように第2上部磁石313a、313bを設置した状態を示している。磁石930の上部に冶具900を載置した状態で上部磁石を可動部上に設置するため、上部磁石を設置する際に、上部磁石と下部磁石との間に作用する磁力によって、シリコン構造体と冶具900との仮止めが外れることを防ぐことができる。
【0041】
次に、図17に示すように、レジスト920を除去する。その後、冶具900を磁石930上から移動させて、磁石930の磁力を受けない状態で、シリコン構造体を冶具900から取り外すと、図18に示すように、シリコン構造体に上部磁石および下部磁石が設置された、ミラー部を得ることができる。図18に例示的に示すように、第2上部磁石313aと第2下部磁石314a、第2上部磁石313bと第2下部磁石314bが、互いに作用する磁力によって、第2可動部311を挟み込んで固着された状態のミラー部を得ることができる。
【0042】
上記のとおり、実施例1に係る光学装置では、冶具等を用いて容易に可動部に上部磁石および下部磁石を設置することができる。図19および図20に示すように、1つの磁石が可動部を上下方向に貫通するように設置する方法では、シリコン構造体と、その可動部(例えば第2可動部711)に設置する貫通磁石(例えば貫通磁石713a)とを冶具に設置した状態で、貫通磁石の側面と可動部との間に接着剤を流し込む。この場合、流し込む接着剤が冶具の表面にまで到達して付着し、冶具とシリコン構造体や磁石が接着されてしまう場合があった。これに対して、実施例1に係る光学装置では、接着剤を用いないで磁石を可動部に固定するため、量産時に、接着剤が冶具等に付着して歩留まりが低下することがない。
【0043】
(変形例)
実施例1では、可動部が2軸駆動型である光学装置を例示して説明したが、可動部が1軸駆動型の光学装置であってもよい。1軸駆動型の光学装置においても、可動部に設置する磁石を実施例1と同様の上部磁石と下部磁石することによって、同様の作用効果を得ることができる。また、上部磁石と下部磁石が同一部材でなくともよい。可動部を介して上部磁石と下部磁石とが対向していることによって、可動部に設置する磁石の可動部の上面側に突出する部分と下面側に突出する部分との割合がより均衡のとれたものとなり、可動部の重心が揺動中心からずれることが抑制される。
【0044】
また、実施例1では、上部磁石と下部磁石は、接着剤を用いることなく可動部に固定されているが、上部磁石と可動部との接触面ならびに下部磁石と可動部との接触面には、接着剤が塗布されていてもよい。接着剤を用いる場合であっても、上部磁石および下部磁石を可動部に固定させるために必要となる接着剤が少なくなるため、接着剤の重量によって可動部の重心が揺動中心からずれることが抑制される。
【0045】
例えば、図8に示すように、接着剤を用いる場合であっても、上部磁石と下部磁石を可動部に固定するために必要な接着剤の量を少なくすることができる。必要な接着剤の量が少なくなるため、接着剤の量がばらつくことによって可動部の重心がその揺動中心からずれることを抑制できる。図8では、第2可動部311には貫通孔が設けられていないため、例えば、第2可動部311の上面に塗布した接着剤が第2可動部311の裏面に流れて、接着剤801aと接着剤801bの重量が設計値よりずれるようなことがない。
【0046】
また、可動部の上部磁石および下部磁石を設置する領域は、平坦でなくともよい。図9は、第2可動部311の表面の領域に、第2上部磁石313aを設置するための窪み334が形成されている状態を示している。このように、可動部に磁石を設置するための窪みを設ければ、可動部の平面方向に磁石がずれることを抑制することが可能となる。
【0047】
図10は、第2可動部311の表面の第2上部磁石313aを設置する領域333の一部に、孔部335が形成されている状態を示している。図10では、図6に示す第2可動部311の裏面側の領域334については図示を省略しているが、孔部335は第2可動部311を貫通しており、第2可動部311の表面および裏面上に占める孔部335の面積は、領域333および領域334の面積より小さい。このように、上部磁石と下部磁石の間には可動部が存在しない孔部があってもよい。また、接着剤を用いる場合には、この孔部を介して接着剤を塗布してもよい。第2可動部311の表面および裏面上に占める孔部335の面積は、領域333および領域334の面積より小さいため、例えば図14に示す工程において接着剤を用いた場合であっても、接着剤は第2下部磁石314aの上面側に止まり、側面側に流れ出して冶具900と第2下部磁石314aや第2可動部311とが接着されてしまうことがない。
【0048】
また、上部磁石、下部磁石の形状は、上記の実施例において説明した形状に限定されない。例えば、図11および図12に示すように、上部磁石、下部磁石の一部が突起部を有していてもよい。尚、図11では、図6に示す第2可動部311の裏面側の領域334については図示を省略している。図11および図12は、第2可動部311上の第2上部磁石313aを設置する領域333の一部に、孔部336が形成されており、突起部337を備えた第2上部磁石313aと突起部338を備えた第2下部磁石338が、孔部336に突起部337および突起部338を挿入するように第2可動部311に設置されている状態を示している。このように、上部磁石、下部磁石の一部が突起部を有しており、可動部に設けられた窪みや孔部に挿入できるようにすれば、可動部の平面方向に磁石がずれることをより抑制することが可能となる。
【0049】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0050】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0051】
10 光学装置
20 第1電磁石
30 ミラー部
40 第2電磁石
201 鉄心
201a,201b 磁極部
203a,203b 第1コイル
301 基板
303a,303b 第1可撓梁
305 第1可動部
307a,307b 第1上部磁石
308a,308b 第1下部磁石
309a,309b 第2可撓梁
311 第2可動部
313a,313b 第2上部磁石
314a,314b 第2下部磁石
315 ミラー
401 鉄心
401a,401b 磁極
403a,403b 第2コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
可撓梁と、
前記可撓梁によって前記基板に対して揺動可能に支持されている可動部と、
前記可動部の上面に固定されているミラーと、
第1磁極が前記可動部を向く姿勢で前記可動部の上面に設置されている上部磁石と、
第2磁極が前記可動部を向く姿勢で前記可動部を介して前記上部磁石と対向する位置の前記可動部の下面に設置されている下部磁石と、
前記上部磁石および前記下部磁石に前記可動部を前記可撓梁の周りに回転させるトルクを発生させる磁束を発生する電磁石とを備えている光学装置。
【請求項2】
前記上部磁石と前記下部磁石は同一の部材である、請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記上部磁石と前記可動部との接触面ならびに前記下部磁石と前記可動部との接触面に接着剤が塗布されている、請求項1又は2に記載の光学装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2011−128203(P2011−128203A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283884(P2009−283884)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】