説明

光学部品の製造方法

【課題】成形型の型面に離型剤を塗布することなく、離型性を向上させ、また、感光性樹脂自体の樹脂組成を変えることなく、同じ照度・照射時間でありながら感光性樹脂の硬化性を向上させて結果として離型性を向上させ、欠陥のない光学部品を得ることができる光学部品の製造方法を提供する。
【解決手段】光透過性基板2上に供給された感光性樹脂1Aに成形型3を型押しした状態で、上記光透過性基板2を透して光照射し光学部品1を製造するに際し、上記成形型3として、型面3aでの、波長365nmの光の反射率が、46%以上に設定されているものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズ,光記録メディアの記録層等の光学部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学部品、例えば、光学レンズは、光の集束や発散等の性能を発揮するよう、半球面状等の所定の立体的形状に形成されている。また、CD(Compact Disc),DVD(Digital Versatile Disc)等の光記録メディアは、多層構造であり、そのうち記録層の表面(記録面)は凹凸等の立体的形状に形成されている。なお、光記録メディアの記録層の凹凸形状の記録面には、金属層が形成され、さらにその金属層の表面には、樹脂層が形成され、その樹脂層の表面は、平坦になっている。
【0003】
上記光学レンズ,光記録メディア等の立体的な光学部品では、高密度化,高耐熱化、あるいは安価生産のために、その製造方法として、樹脂を形成材料とし、その樹脂に成形型を型押しすることにより、上記所定形状,凹凸形状の立体的な光学部品を製造する方法が検討されている。
【0004】
このような立体的な光学部品の製造方法は、寸法安定性の観点から、大別して2種類の方法がある。一つは、基板上に加熱溶融した熱可塑性樹脂を供給した後、その熱可塑性樹脂に、型面に光学部品に対応する転写用凹凸を有する成形型を型押し、その状態で、上記熱可塑性樹脂を冷却し、その後、離型して基板上にその熱可塑性樹脂の硬化体からなる立体的な光学部品を得る方法である。もう一つは、基板上に液状ないしペースト状の感光性樹脂を供給した後、その感光性樹脂に成形型を型押しし、その状態で、下側の上記基板または上側の上記成形型を透して光照射することにより上記感光性樹脂を露光し、その後、離型して基板上にその感光性樹脂の硬化体からなる立体的な光学部品を得る方法である。
【0005】
上記2種類の製造方法は、一般に、要求される耐熱温度を基準に選択される。すなわち、耐熱性が要求されない分野においては、PMMA(ポリメタクリル酸メチル),ポリカーボネート,ポリノルボルネン等の透明性の熱可塑性樹脂が用いられる。一方、半田リフロー,オートクレーブ等の耐熱性が要求される分野では、エポキシ樹脂を主な樹脂成分とする感光性樹脂が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4262271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来技術のうち、基板(光透過性基板)上に供給された感光性樹脂に成形型を型押しした状態で、その下方より上記光透過性基板を透して光照射し光学部品を得る方法では、感光性樹脂と成形型との接着性が高いことや感光性樹脂の硬化不足が原因で、離型の際にかかる力により、光学部品の内部が破壊する(凝集破壊)という離型不良が起こり、光学部品に欠陥が生じる場合がある。
【0008】
上記離型不良の原因のうち前者(感光性樹脂と成形型との接着性が高い)に対する対策としては、成形型の型面に離型剤を塗布するという方法があげられる。しかしながら、その対策では、離型剤の塗布工程が必要となるため生産効率が低下するだけでなく、離型剤が成形品の表面に転写して光学部品の品質を低下させるおそれがある。
【0009】
一方、上記離型不良の原因のうち後者(感光性樹脂の硬化不足)に対する対策としては、感光性樹脂自体の樹脂組成の改良または光学部品の製造方法の改良という2面から、感光性樹脂の硬化性を向上させる方法があげられる。そのうち、前者(感光性樹脂自体の樹脂組成の改良)の場合では、光に対する感受性を高めるために、光重合開始剤(硬化剤)の添加量を増加させたり増感剤を併用したりすること等が行われる。しかしながら、上記光重合開始剤および増感剤は、発色団を有する化合物であるため、それらの添加量が増えるにつれて、製造された光学部品は、透明性が低下する。光学レンズ等の光学部品は光を通す部品であるため、透明性の低下は、避けたい問題である。一方、後者(光学部品の製造方法の改良)の場合では、感光性樹脂の硬化性を向上させるべく、光照射時間を長くすることがあげられるが、その方法では、生産効率が悪くなる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、成形型の型面に離型剤を塗布することなく、離型性を向上させ、また、感光性樹脂自体の樹脂組成を変えることなく、同じ照度・照射時間でありながら感光性樹脂の硬化性を向上させて結果として離型性を向上させ、欠陥のない光学部品を得ることができる光学部品の製造方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明の光学部品の製造方法は、光透過性基板上に感光性樹脂を供給し、その感光性樹脂を、型面に光学部品に対応する転写用凹凸を有する成形型で型押しし、その状態で、型押しされている上記感光性樹脂に、その下側の上記光透過性基板を透して光照射することにより、上記感光性樹脂を露光し、上記感光性樹脂の硬化体からなる光学部品を製造する方法であって、上記成形型の型面での、波長365nmの光の反射率が、46%以上に設定されているという構成をとる。
【0012】
なお、本発明において、「光学部品」とは、例えば、光学レンズ,光導波路や光ファイバのコア,CD等の光記録メディアにおける記録層等があげられる。
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、光透過性基板上に供給された感光性樹脂に成形型を型押しした状態で、上記光透過性基板を透して光照射し光学部品を得る方法において、成形型の改良により、感光性樹脂全体の硬化性を向上させる方法ついて研究を重ねた。その研究の過程で、感光性樹脂を硬化させるための照射光を成形型で反射させ、その反射光を利用して、感光性樹脂全体の硬化性を向上させることを着想した。そして、さらに研究を重ねた結果、成形型の型面での、波長365nmの光の反射率を46%以上に設定すると、その波長365nmを含む照射光に対して、反射光のエネルギーが感光性樹脂の硬化に効果的な量になり、光照射の直接光と上記反射光とが相俟って、感光性樹脂全体の硬化性を上昇させることを突き止めた。そして、この感光性樹脂全体の硬化性上昇のため、離型の際に力がかかっても、光学部品の内部が破壊する(凝集破壊)ということがなく、結果的に、離型性が向上し、欠陥のない光学部品を得ることができることを見出した。
【0014】
ここで、上記反射率の基準となる波長「365nm」について説明する。すなわち、感光性樹脂を硬化させるための照射光(光源ランプが発光する光)の分光分布は、複数の波長域にてピークを有しているが、なかでも350nm付近にて大きなピークを有するスペクトルを示している。このため、その350nm付近の波長が感光性樹脂の硬化への影響が高いと推測される。そして、通常、光源ランプの出力調整に使用している照度計が365nm感度となっている。そこで、上記波長「365nm」を反射率の基準として用いている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光学部品の製造方法は、光透過性基板上に供給された感光性樹脂に成形型を型押しした状態で、上記光透過性基板を透して光照射し光学部品を製造するに際し、上記成形型として、型面での、波長365nmの光の反射率が、46%以上に設定されているものを用いる。このため、光照射による感光性樹脂の硬化に、光照射の直接光だけでなく、成形型からの反射光をも効果的な利用することができ、それら直接光と反射光とが相俟って、感光性樹脂全体の硬化性を向上させることができる。その結果、離型の際に力がかかっても、光学部品の内部が破壊する(凝集破壊)ということがなく、結果的に、離型性が向上し、欠陥のない光学部品を得ることができる。また、上記感光性樹脂全体の硬化性の向上により、生産効率を高めることができる。しかも、その感光性樹脂全体の硬化性の向上により、光学部品の透明性を低下させる原因となる光重合開始剤や増感剤の添加量を増やす必要がないため、光学部品の透明性も損なわない。
【0016】
特に、上記成形型の型面での、波長365nmの光の反射率を46%以上に設定することを、上記成形型を、上記反射率を有する材料で形成することにより行う場合には、成形型全体を一つの材料で形成することができるため、成形型の作製が簡単にでき、成形型の作製コストを抑えることができる。
【0017】
また、上記成形型の型面での、波長365nmの光の反射率を46%以上に設定することを、上記成形型として、凹凸表面を有し上記反射率を有さない材料で形成された成形型本体の上記凹凸表面に、その凹凸に沿って上記反射率を有する材料で形成された被覆層を設けてなる成形型を用いることにより行う場合には、上記反射率が上記被覆層のみに依存するため、成形型本体の材料の選択自由度が大きく、製造する光学部品の製造条件に最適な材料で形成した成形型本体を用いることができる。
【0018】
また、上記成形型の型面での、波長365nmの光の反射率を46%以上に設定することを、上記成形型として、凹凸表面を有し上記反射率を有さない光透過性材料で形成された成形型本体の、上記凹凸表面とは反対側の面に、上記反射率を有する材料で形成された被覆層を設けてなる成形型を用いることにより行う場合には、成形型本体が光透過性を有するため、成形工程において、内部の感光性樹脂の様子を観察することができ、感光性樹脂をより適正な状態に調整することができる。また、上記被覆層は、成形される感光性樹脂と接触しないため、耐久性,感光性樹脂への異物混入等を考慮する必要がない。そのため、上記被覆層の形成材料の選択自由度は大きく、製造する光学部品の製造条件に最適な材料で形成した被覆層を用いることができる。
【0019】
特に、上記反射率を有する材料が、アルミニウム,銀,チタン,白金および金からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属である場合には、金属であるため、耐久性があり、長期にわたって安定した上記反射率を維持することができる。
【0020】
また、上記成形型の、型面とは反対側の面を、上記反射率を有する材料で被覆する場合において、上記反射率を有する材料が、白色,金色および銀色からなる群から選ばれる少なくとも一つの色の塗料である場合には、塗料で被覆するため、簡単に被覆することができる。
【0021】
そして、上記感光性樹脂が、エポキシ樹脂を主成分とし、光重合開始剤を含有している場合には、エポキシ樹脂が耐熱性に優れ、熱収縮が小さい樹脂であることから、光学部品の寸法安定性により優れている。また、光重合開始剤を含有しているため、感光性樹脂の硬化性が高く、生産効率をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の光学部品の製造方法の一実施の形態によって得られた光学部品を模式的に示す断面図である。
【図2】(a)〜(e)は、本発明の光学部品の製造方法の一実施の形態を模式的に示す説明図である。
【図3】上記光学部品の製造方法に用いる成形型の他の形態を模式的に示す断面図である。
【図4】上記光学部品の製造方法に用いる成形型のさらに他の形態を模式的に示す断面図である。
【図5】感光性樹脂を成形型で型押しする変形例を模式的に示す説明図である。
【図6】成形型の離型性の評価試験方法を模式的に示す説明図である。
【図7】感光性樹脂の硬化性の評価試験方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。
【0024】
図1は、本発明の光学部品の製造方法の一実施の形態によって得られた光学部品を模式的に示す断面図である。この光学部品1は、感光性樹脂の硬化体からなり、光透過性基板2上に複数(図1では3個)形成されている。光学部品1の形状としては、例えば、半球体状,球体状,レンズ形状,立方体状,直方体状,角柱状,円柱状,球面状,曲面状,角錐状,円錐状等の立体的形状があげられる。
【0025】
このような立体的な光学部品1を製造する、本発明の光学部品の製造方法の一実施の形態について、工程ごとに説明する。
【0026】
〔準備工程〕
まず、図2(a)に示すように、上記光学部品1〔図2(e)参照〕の形成材料である未露光の感光性樹脂1A〔図2(b)参照〕と、この感光性樹脂1Aが供給される光透過性基板2と、この光透過性基板2上の上記感光性樹脂1Aに型押しする成形型3とを準備する。この成形型3の型面(下面)3aは、型押しして上記感光性樹脂1Aを所望の立体形状の光学部品1にする凹部3bが形成された転写用凹凸面になっている。
【0027】
上記成形型3は、この実施の形態では、波長365nmの光の反射率が46%以上の材料から形成されている。上記反射率を有する材料としては、例えば、アルミニウム,ステンレス,銀,チタン,白金,金等の金属、白色プラスチック等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、耐久性の観点から、アルミニウム,銀が好ましい。上記成形型3の作製方法としては、例えば、鋳造法,上記金属からなるブロック体を切削する方法等があげられる。上記材料からなる成形型3では、その型面3aでの、波長365nmの光の反射率も、46%以上になっている。この実施の形態における上記成形型3の型面3aでの反射率は、上記成形型3の型面3a側からその型面3aに向けて出射した波長365nmの光の光束に対する、上記型面3aの表面で反射した光の光束の割合となっている。このような反射率を有する成形型3を用いることが、本発明の大きな特徴である。なお、上記反射率の測定は、例えば、反射率測定機(Jasco社製、UV−vis,V−670)を用いて行うことができる。
【0028】
上記感光性樹脂1Aは、エポキシ樹脂等の樹脂成分と、光重合開始剤等の添加剤とからなっている。上記添加剤の添加量は、感光性樹脂中、光重合開始剤が、5〜8重量%の範囲内である。上記感光性樹脂1Aの樹脂成分としては、上記エポキシ樹脂の他、例えば、アクリル樹脂,アクリルウレタン樹脂,シリコーン樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、耐熱性および熱収縮性に優れる観点から、エポキシ樹脂が好ましい。また、上記添加剤としては、上記光重合開始剤に加えて、必要に応じて増感剤等を併用してもよい。
【0029】
上記光透過性基板2の形成材料としては、ガラス,樹脂等があげられる。上記ガラスとしては、例えば、白板ガラス,石英ガラス,パイレックス(登録商標)ガラス,BK−7,青板ガラス等があげられる。上記樹脂としては、ポリオレフィン,熱硬化性樹脂,感光性樹脂等があげられる。そのうちポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリメチルメタクリレート,ポリエチレンテレフタレート等があげられる。上記熱硬化性樹脂,感光性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂,アクリル樹脂,シリコーン樹脂等を主成分とするものがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、汎用性,透明性,耐熱性の観点から、白板ガラスが好ましい。
【0030】
〔感光性樹脂供給工程〕
上記のようにして上記感光性樹脂1A,光透過性基板2および成形型3を準備した後、図2(b)に示すように、上記光透過性基板2上に、上記感光性樹脂(液状ないしペースト状)1Aをポッティング装置等を用いてポッティングする(供給する)。上記光透過性基板2上にポッティングされた感光性樹脂1Aは、それ自身の表面張力により、ドーム状の層になる。
【0031】
〔型押し工程〕
つぎに、図2(c)に示すように、成形型3の型面3aを光透過性基板2の表面に対面させた状態で、成形型3を光透過性基板2に押圧する(型押しする)。この実施の形態では、成形型3の型面3aを光透過性基板2の表面に密着させている。これにより、成形型3の型面3aの凹部3b内に、光透過性基板2上の感光性樹脂1Aが浸入して充満し、感光性樹脂1Aのドーム状の層が成形型3の凹部3bの形状に成形される。
【0032】
〔光照射工程〕
そして、図2(d)に示すように、上記感光性樹脂1Aに、上記光透過性基板2を透して光Lを照射する。このとき、上記成形型3の型面3aの表面が前記特定の反射率に設定されていることから、上記照射した光Lは、上記感光性樹脂1Aを透過した後、上記成形型3の型面3aの表面で反射し、その反射した光Lは、上記反射率に対応したエネルギー量を有した状態で、再度、上記感光性樹脂1Aを透過する。すなわち、感光性樹脂1Aの硬化に、照射した直接光Lだけでなく、反射光Lをも利用することができる。そのため、上記光透過性基板2から離れるにつれて、上記直接光Lのエネルギーは徐々に弱まるものの、上記反射光Lがその弱まったエネルギー分ないしそれ以上を補い、感光性樹脂1A全体の硬化性を向上させる。これにより、感光性樹脂1Aが全体的に充分に硬化され、後の離型の際の離型性が向上する。このように、上記感光性樹脂1Aの露光時に、その感光性樹脂1Aに型押しする成形型3として、上記特定の反射率を有する成形型3を用い、感光性樹脂1Aの硬化性を向上させることが、本発明の大きな特徴である。
【0033】
上記照射する光Lの光源としては、波長365nmにてピークを有するものが使用され、例えば、水銀ランプ,キセノンランプ,発光波長が350〜465nm領域内の波長を有するLEDランプ等があげられる。なかでも、エネルギーの高い短波長の紫外線を発光する水銀ランプが特に好ましく、また、環境への負荷や電力の消費を低減するという観点からは、LEDランプ等が好ましい。
【0034】
〔離型工程〕
つぎに、図2(e)に示すように、感光性樹脂1A〔図2(d)参照〕の硬化体から成形型3を離型する。これにより、光透過性基板2の表面に形成された光学レンズ等の立体的な光学部品1を得る。このとき、前工程の感光性樹脂1Aの露光工程において感光性樹脂1Aが全体的に充分に硬化されていることから、離型の際に力がかかっても、光学部品1の内部が破壊する(凝集破壊)ということがなく、結果的に、優れた離型性を奏する。
【0035】
上記実施の形態では、本発明の大きな特徴である成形型3として、全体が、波長365nmの光の反射率が46%以上の材料で形成されているものを用いたが、これと同様の効果(感光性樹脂1Aの硬化性向上,成形型3の離型性向上)を奏するものとして、例えば、図3および図4に示す他の形態のものを用いることもできる。
【0036】
そのうち、図3に示す成形型4は、所望の転写用型面4aに対応する凹凸面が形成された成形型本体41と、この成形型本体41の上記凹凸面の表面にその凹凸に沿って被覆形成された被覆層42とを備えている。そして、その被覆層42の表面が型面4aとなる。上記成形型本体41の形成材料は、上記反射率を有さない材料であり、透明な材料であっても不透明な材料であってもよく、例えば、ガラス,樹脂等があげられる。上記成形型本体41の作製方法としては、例えば、型成形法,上記材料からなるブロック体を切削する方法等があげられる。上記被覆層42の形成材料は、上記反射率を有する材料であり、例えば、アルミニウム,ステンレス,銀,チタン,白金,金等の金属があげられる。上記被覆層42の形成方法としては、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法等の物理気相成長法(PVD法),化学気相成長法(CVD法),めっき処理法等があげられる。
【0037】
図3に示す上記成形型4を、感光性樹脂1A〔図2(d)参照〕の露光時に用いる場合も、上記実施の形態と同様、照射した光Lの反射は、型面4a(被覆層42の表面)で行われる。したがって、図3に示す上記成形型4の型面4aでの反射率も、上記実施の形態と同様、上記型面4a側からその型面4aに向けて出射した波長365nmの光の光束に対する、上記型面4aの表面で反射した光の光束の割合となっている。
【0038】
一方、図4に示す成形型5は、型面5aが形成された成形型本体51と、この成形型本体51の上記型面5aとは反対側の面に被覆形成された被覆層52とを備えている。上記成形型本体51の形成材料は、上記反射率を有さない光透過性材料であり、例えば、石英ガラス,パイレックス(登録商標)ガラス,白板ガラス等のガラス、またはポリオレフィン等の樹脂があげられる。なかでも、透明性,耐久性の観点から、石英ガラス,ポリジメチルシロキサン(PDMS)が好ましい。特に上記PDMSは、成形する感光性樹脂1A〔図2(d)参照〕との接着性が低い特性を有していることから、離型性に優れており、より好ましい。上記成形型本体51の作製方法としては、例えば、型成形法,上記材料からなるブロック体を切削する方法等があげられる。上記被覆層52の形成材料および形成方法としては、上記反射率を有するアルミニウム等の金属をPVD法等により形成する方法(図3に示す被覆層42と同様の形成方法)、もしくは、上記反射率を有するアルミニウム等の金属からなるシート体,板体を載置する方法、または、白色,金色,銀色等の上記反射率を有する塗料を塗布する方法があげられる。
【0039】
図4に示す上記成形型5を、感光性樹脂1Aの露光時に用いる場合、照射した光Lは、型面5aから成形型本体51内に入射した後、被覆層52の、成形型本体51との接触面で反射し、再度、成形型本体51内を透過して型面5aから出射する。したがって、図4に示す上記成形型5の型面5aでの反射率は、上記型面5a側からその型面5aに向けて出射した波長365nmの光の光束に対する、上記被覆層52で反射した後に型面5aから出射した光の光束の割合となっている。
【0040】
なお、上記実施の形態では、光透過性基板2の表面に感光性樹脂1Aをポッティングするのに先立って、光透過性基板2の表面と感光性樹脂1Aとの密着性を向上させるために、カップリング剤等の各種プライマーを用いて、光透過性基板2の表面を処理してもよい。この表面処理により、光透過性基板2の表面と感光性樹脂1Aの硬化体とが密着した状態で、離型することができるため、感光性樹脂1Aの硬化体と成形型3,4,5との離型性がより一層向上する。
【0041】
また、上記実施の形態では、図2(c)に示すように、感光性樹脂1Aを成形型3で型押しする際に、成形型3の型面3aを光透過性基板2の表面に密着させたが、図5に示すように、成形型3の型面3aを光透過性基板2の表面に密着させない程度に、成形型3を型押しし、感光性樹脂1Aの層の表面部分に、成形型3の型面3aの形状が転写された状態にして硬化させ、平板状体の表面に凸部が形成された立体的な光学部品を製造するようにしてもよい。図3および図4に示す成形型4,5を用いる場合も同様である。
【0042】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。但し、本発明は、実施例に限定されるわけではない。
【実施例】
【0043】
成形型の離型性および感光性樹脂の硬化性を評価するに際し、下記の感光性樹脂(A)〜(C)を準備した。
【0044】
〔感光性樹脂(A)〕
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、エピコート828)50g、脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業社製、CEL−2021P)50g、硬化剤(アデカ社製、アデカオプトマーSP−170)4gを、50℃で10分間攪拌混合することにより、感光性樹脂(A)を調製し、その後、25℃未満に下がるまで放置した。なお、この感光性樹脂(A)の25℃での粘度は1147mPa・sであった。
【0045】
〔感光性樹脂(B)〕
上記感光性樹脂(A)において、硬化剤の添加量を1gにしたものを感光性樹脂(B)とした。それ以外は、上記感光性樹脂(A)と同様にした。なお、この感光性樹脂(B)の25℃での粘度は1219mPa・sであった。
【0046】
〔感光性樹脂(C)〕
上記感光性樹脂(A)において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂50gをビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、エピコート806)50gに代えたものを感光性樹脂(C)とした。それ以外は、上記感光性樹脂(A)と同様にした。なお、この感光性樹脂(C)の25℃での粘度は706mPa・sであった。
【0047】
そして、上記感光性樹脂(A)〜(C)を用い、つぎのようにして、成形型の離型性および感光性樹脂の硬化性を評価した。離型性についての結果は、後記の表1〜3に示し、硬化性についての結果は、表4に示した。
【0048】
〔離型性の評価(接着力の測定)および硬化性の評価(破壊形態にて)〕
図6に示す評価試験方法で、下敷き61の反射率の違いによる、感光性樹脂1Aの硬化体の、ガラス板62からの離型性(ガラス板62との接着力)の違いを、下記のようにして評価した。なお、図6に示す評価試験方法は、図4に示す成形型5を用いて光学部品を製造する場合に相当する。
【0049】
すなわち、まず、光反射用の下敷き61(図4に示す成形型5の被覆層52に相当)として、反射率の異なる5種類を準備した。各下敷き61は、アルミニウム製,ステンレス箔製,ステンレス製,銅箔製,黒色紙製である。そして、図6に示すように、各下敷き61の上面に、光透過性のガラス板(SCHOTT社製、D−263、厚み0.55mm)62を載置した。その状態における上記ガラス板62の上面62a(図4に示す成形型5の型面5aに相当)での、波長365nmの光の反射率は、アルミニウム製の下敷き61を用いたものが70.0%(実施例1,4,7)、ステンレス箔製の下敷き61を用いたものが47.5%(実施例2,5,8)、ステンレス製の下敷き61を用いたものが46.0%(実施例3,6,9)、銅箔製の下敷き61を用いたものが35.0%(比較例1,3,5)、黒色紙の製下敷き61を用いたものが4.0%(比較例2,4,6)であった。なお、この反射率の測定には、反射率測定機(Jasco社製、UV−vis,V−670)を用いた。また、反射率は、下敷き61の表面の酸化状態で1〜2%程度の変化がある。
【0050】
ついで、シリコーン樹脂製板(縦2cm×横1cm×厚み200μm)の厚み方向に直径2mmの円柱状の貫通孔63aを6個形成したシリコーン樹脂製型63を準備した。そして、このシリコーン樹脂製型63を上記ガラス板62の上面62aに密着させた。これにより、上記貫通孔63aの下端を上記ガラス板62の上面62aで閉栓し、上記貫通孔63aとガラス板62の上面62aとからなる凹部64を形成した。その後、各凹部64に、上記感光性樹脂(A)〜(C)のいずれかの感光性樹脂1Aを充填した。
【0051】
つぎに、上記シリコーン樹脂製型63の上面に、光透過性のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム20〔図2(d)に示す光透過性基板2に相当〕(厚み50μm)を密着させた。そして、そのPETフィルム20の上方から光Lを照射し(照射エネルギー6000mJ/cm2 )、上記感光性樹脂1Aを硬化させた。なお、この光Lの光源として、UVランプ(USHIO社製、DEEP UV LAMP)を用いた。
【0052】
その後、上記PETフィルム20およびシリコーン樹脂製型63を取り除き、各ガラス板62の上面62aに、上記感光性樹脂1Aからなる6個の円柱状の硬化体が形成された評価用試験片を得た。
【0053】
そして、バンププルテスター(Dage社製、Dage4000)を用いて、25℃にて、上記評価用試験片のガラス板62に対する上記6個の硬化体の剪断接着強度(接着力)を測定した。後記の表1〜3に示す接着力は、6個の硬化体の剪断接着強度の平均値である。この接着力が小さいほど離型性に優れていることを示す。また、後記の表1〜3に示す破壊形態は、上記剪断接着強度を測定した際の硬化体の破壊形態である。この破壊形態が界面破壊である場合は、硬化体が凝集破壊することなくガラス板62との界面で綺麗に剥離したことを示し、硬化体が良好に硬化していることを意味する。また、破壊形態が凝集破壊である場合は、感光性樹脂1Aの硬化性が悪く、ガラス板62への樹脂残りが発生したこと、すなわち硬化体に欠陥が生じたことを示している。
【0054】
〔硬化性の評価(ゲルタイムにて)〕
図7に示す評価試験方法で、UVレオメータの回転プレート71の反射率の違いによる、感光性樹脂1Aの硬化性の違いを、下記のようにして評価した。なお、図7に示す評価試験方法は、図2(a)に示す成形型3を用いて光学部品を製造する場合および図3に示す成形型4を用いて光学部品を製造する場合に相当する。
【0055】
そこで、まず、光源に水銀ランプ(浜松ホトニクス社製、LC−8:波長365nmでの照度が20mW/cm2 になるよう設定)を使用したUVレオメータ〔Rheologica社製:直径20mmの回転プレート71を使用〕を準備した。また、このUVレオメータの上記回転プレート71〔図2(a)に示す成形型3の型面3aおよび図3に示す成形型4の型面4aに相当〕として、その表面での、波長365nmの光の反射率が異なる3種類を準備した。各回転プレート71は、アルミニウム製(反射率70.0%:実施例10,12),ステンレス製(反射率47.5%:実施例11,13)およびステンレス製(反射率45.0%:比較例7,8)である。
【0056】
ついで、図7に示すように、上記UVレオメータの光透過性基板72の上面に、上記感光性樹脂(A),(B)のいずれかの感光性樹脂1Aをポッティングした。その後、上記回転プレート71を下降させ、上記感光性樹脂1Aが設定した厚み(0.2mm)となるよう、その感光性樹脂1Aを、上記光透過性基板72と回転プレート71とで挟んだ。そして、その状態で、上記水銀ランプから光照射し、上記光透過性基板72の下面側から、光Lを照射し、上記感光性樹脂1Aを露光した。これにより、露光中における、上記感光性樹脂1Aの粘弾性を、25℃にて測定し、測定開始から弾性項と粘性項とが交わるまでの時間(ゲルタイム)を測定した。そして、そのゲルタイムを表4に示した。このゲルタイムが短いほど硬化性に優れていることを意味する。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
上記表1の結果から、破壊形態が、実施例1〜3では界面破壊であり、比較例1,2では凝集破壊であることから、実施例1〜3では、感光性樹脂の硬化性が向上し、硬化体の欠陥が生じていないことがわかる。また、実施例1〜3は、比較例1,2と比較して、硬化体とガラス板62との間の接着力が小さいことから、離型性が向上していることがわかる。これらのことから、本発明のように、成形型の型面での、波長365nmの光の反射率を46%以上に設定することは、離型性の向上にとって有効であることがわかる。
【0062】
上記表2の、実施例4〜6と比較例3,4との比較についても、また、上記表3の、実施例7〜9と比較例5,6との比較についても、上記と同様のことがいえる。
【0063】
また、上記表4の結果から、実施例10,11では、比較例7と比較して、ゲルタイムが短くなっていることから、感光性樹脂の硬化性が向上していることがわかる。このことから、本発明のように、上記反射率に設定された成形型を用いることは、感光性樹脂の硬化性の向上にとって有効であることがわかる。また、実施例12,13と比較例8との比較についても、上記と同様のことがいえる。
【0064】
なお、上記離型性の評価(接着力の測定)において、下敷き61として、白色塗膜,金色塗膜,銀色塗膜を用いた場合でも、良好な結果が得られた。
【0065】
また、上記離型性の評価(接着力の測定)において、下敷き61の上面に、ガラス板62を介することなく、シリコーン樹脂製型63を直接密着させた場合でも、上記と同様の結果が得られた。この場合は、図2(a)に示す成形型3を用いて光学部品を製造する場合および図3に示す成形型4を用いて光学部品を製造する場合に相当する。
【0066】
また、上記硬化性の評価において、回転プレート71の下面に、ガラス板を設け、光透過性基板72の上面の感光性樹脂1Aを、上記光透過性基板72とガラス板とで挟んだ状態で露光した場合でも、上記と同様の結果が得られた。この場合は、図4に示す成形型5を用いて光学部品を製造する場合に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の光学部品の製造方法は、光学レンズ,光導波路や光ファイバのコア,光記録メディアの記録層等の光学部品の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 光学部品
1A 感光性樹脂
2 光透過性基板
3 成形型
3a 型面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基板上に感光性樹脂を供給し、その感光性樹脂を、型面に光学部品に対応する転写用凹凸を有する成形型で型押しし、その状態で、型押しされている上記感光性樹脂に、その下側の上記光透過性基板を透して光照射することにより、上記感光性樹脂を露光し、上記感光性樹脂の硬化体からなる光学部品を製造する方法であって、上記成形型の型面での、波長365nmの光の反射率が、46%以上に設定されていることを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項2】
上記成形型の型面での、波長365nmの光の反射率を46%以上に設定することを、上記成形型を、上記反射率を有する材料で形成することにより行う請求項1記載の光学部品の製造方法。
【請求項3】
上記成形型の型面での、波長365nmの光の反射率を46%以上に設定することを、上記成形型として、凹凸表面を有し上記反射率を有さない材料で形成された成形型本体の上記凹凸表面に、その凹凸に沿って上記反射率を有する材料で形成された被覆層を設けてなる成形型を用いることにより行う請求項1記載の光学部品の製造方法。
【請求項4】
上記成形型の型面での、波長365nmの光の反射率を46%以上に設定することを、上記成形型として、凹凸表面を有し上記反射率を有さない光透過性材料で形成された成形型本体の、上記凹凸表面とは反対側の面に、上記反射率を有する材料で形成された被覆層を設けてなる成形型を用いることにより行う請求項1記載の光学部品の製造方法。
【請求項5】
上記反射率を有する材料が、アルミニウム,ステンレス,銀,チタン,白金および金からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属である請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学部品の製造方法。
【請求項6】
上記反射率を有する材料が、白色,金色および銀色からなる群から選ばれる少なくとも一つの色の塗料である請求項4記載の光学部品の製造方法。
【請求項7】
上記感光性樹脂が、エポキシ樹脂を主成分とし、光重合開始剤を含有している請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学部品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−143592(P2011−143592A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5274(P2010−5274)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】