説明

光波干渉計測装置

【課題】一般の湿潤環境に適用可能な屈折率補正機能を有する光波干渉計測装置を提供する。
【解決手段】光波干渉によって参照光路と被検光路の幾何学的距離差を計測する計測装置であって、測長用光源からの光であって参照面で反射した光と被検面で反射された光の干渉信号の位相を検出する位相検出部と、前記測長用光源の波長とは異なる非測長用光源からの光であって前記参照面で反射した光と前記被検面で反射された光の強度を検出する強度検出部と、前記位相と前記測長用光源の波長から算出される光路長と、前記非測長用光源の光の強度情報から算出される前記被検面と前記参照面の間の水蒸気圧分布の平均値とから前記幾何学的距離を算出する解析部を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光路長または距離計測用の光波干渉計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光波干渉方式の測長機においては、参照光と被検光の干渉信号から算出される位相と光源の波長より求まる光路長を、参照面と被検面間の空気の屈折率で割ることにより参照光路と被検光路の幾何学的距離差を算出している。空気の屈折率は、温度、気圧、水蒸気圧、二酸化炭素濃度などを環境センサを用いて測定することにより、例えば非特許文献1に記載の実験式から求めることができる。空調が十分に整っておらず上記環境因子に時間的、空間的な分布が生じている場合には、環境センサの測定値と環境因子の分布の平均値は必ずしも一致しないため、前述の実験式から求まる空気屈折率の精度は悪くなり幾何学的距離の算出精度も劣化する。このような環境因子の分布に起因する屈折率の揺らぎを補正するための手段として、例えば、特許文献1では2つの異なる波長の光源を用い、異なる波長に対する光路長から被検光路−参照光路上の空気屈折率揺らぎを自動的に補正して幾何学的距離を算出している。また、特許文献2では、3つ以上の異なる波長に対する光路長を用いて被検光路−参照光路上の空気屈折率ゆらぎを自動的に補正して幾何学的距離を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−019508号公報
【特許文献2】特開平10−096601号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Bonsch,Potulski,Metrologia,35,133−9,1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1による方法は、水蒸気圧が0[Pa]である乾燥空気中でなければ測長誤差が大きくなるため、一般的な測定光路上に水蒸気圧分布のある環境に適用するのは好ましくない。また、上記特許文献2による方法は、湿潤環境において適用することができるが、特許文献1による方法と光源の波長や位相の検出精度が同程度である場合には算出される幾何学的距離の測定精度が一桁以上悪化する。同程度の幾何学的距離精度を得るためには、光源にCOレーザーなどの波長域を使用する必要があるが、大型の光源が必要になるため現実的ではない。
【0006】
そこで、一般の湿潤環境においても適用できる空気屈折率ゆらぎ補正機能を有する光波干渉計測装置を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての計測装置は、光波干渉によって参照光路と被検光路の幾何学的距離差を計測する計測装置であって、測長用光源からの光であって参照面で反射した光と被検面で反射された光の干渉信号の位相を検出する位相検出部と、前記測長用光源の波長とは異なる非測長用光源からの光であって前記参照面で反射した光と前記被検面で反射された光の強度を検出する強度検出部と、前記位相と前記測長用光源の波長から算出される光路長と、前記非測長用光源の光の強度情報から算出される前記被検面と前記参照面の間の水蒸気圧分布の平均値とから前記幾何学的距離を算出する解析部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡易な構成で一般の湿潤環境に適用可能な空気屈折率揺らぎ補正機能を有する光波干渉計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1、第2実施形態における光波干渉計測装置の構成図である。
【図2】第1、第2実施形態における位相検出ユニットの構成図である。
【図3】第1、第2実施形態における計測フローである。
【図4】水蒸気の吸収パラメータと測長精度の関係を示した模式図である。
【図5】第2実施形態における波長変調方式の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施形態の一例を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、本発明の実施形態における光波干渉計測装置について説明する。図1は、本実施形態における光波干渉計測装置の構成図である。
【0012】
本実施形態の光波干渉計測装置は2つの異なる光源部1、2を有する。光源部1は測長用光源であり、異なる2つの波長のレーザー光を射出する。異なる2つの波長のレーザー光を用いて光路長を測定することで、後述する空気屈折率揺らぎ補正において高精度な補正が可能である。上記異なる2つの波長は基本波と二倍波の関係であることが望ましい。二倍波の強度および波長安定性は基本波により決まるため、基本波と二倍波で測定した光路長において、波長安定性に起因する光路長誤差が打ち消しあうため都合がよい。また、レーザー光源が一つでよくコストを抑えることができる。二倍波を発生させる代わりに、波長の異なる複数の別のレーザー光源を利用することも可能である。または、複数の狭帯域なスペクトルをもつ多波長光源を用いることもできる。または、広帯域なスペクトルをもつ多波長光をエタロンなどのフィルタを通すことにより複数の狭帯域なスペクトルをもつ光として利用することもできる。光源部2は水蒸気圧計測用の光源(非測長用光源)である。光源部1、光源部2から射出される光束はいずれも偏光の向きが紙面に対して45°傾くように調整されており、また、波長安定性に起因する測長誤差を小さくするために、例えば、エタロンやガスの吸収線などに波長を安定化されている。
【0013】
光源部1から射出された光束は分光素子であるプリズム3を透過後、偏光ビームスプリッタ4aに入射し、互いに直交する偏光状態である2つの光に分割される。偏光ビームスプリッタ4aで反射された光はλ/4板5aを通過後、基準位置に固定された参照ミラー6aで反射し、再びλ/4板5aを通過し偏光ビームスプリッタ4aに入射する。λ/4板5aを2回通過することにより偏光状態は90°回転するため偏光ビームスプリッタ4aを透過し、コーナーキューブ7により反射される。以降、同様に偏光ビームスプリッタ4a、λ/4板5a、参照ミラー6a、λ/4板5aを通過し、偏光ビームスプリッタ4aで反射される。参照面6aで反射される上記光を以降は参照光と呼ぶ。一方、偏光ビームスプリッタ4aを透過した光も同様にλ/4板5bを介して被検物体上に固定された被検ミラー6bを2往復した後、偏光ビームスプリッタ4aを再度透過する。被検面6bで反射される光を以降は被検光と呼ぶ。被検光と参照光はミラー8で反射された後、分光素子9aにより基本波と二倍波が分離され、それぞれ位相検出部10a、10bに入射する。
【0014】
位相検出部10a、10bの構成の一例を図2に示す。位相検出部10a、10bは被検光と参照光に既知の位相差を印加する手段としてλ/4板21を有する。また、グレーティングビームスプリッタ22、および偏光子アレイ23と、3つの既知位相差の干渉信号を検出するための3つの光量検出器24a、24b、24cを有する。図2の左側から入射した被検光束と参照光束は互いに直交する直線偏光を有しており、偏光方向と45度の角度に軸を配置したλ/4板21を透過することでそれぞれ右回りの円偏光と左回りの円偏光に変換される。その後、グレーティングビームスプリッタ22で0次、±1次光の3光束に均等に分割する。分割後の光束は、それぞれの光束に対して異なる透過軸の偏光子となるように構成された偏光子アレイ23を透過した後、偏光子の透過軸角度に応じた既知の位相差を伴う信号となる。そして、光量検出器24a、24b、24cでその光量を検出し解析装置(解析部)12へ送られる。解析装置12では上記信号から被検光と参照光との間の位相差を算出する。
【0015】
続いて、空気屈折率揺らぎの補正のための水蒸気圧測定光学系について説明する。本実施形態においては、参照光路と被検光路上に存在する水蒸気の吸収を利用して計測軸上の水蒸気圧分布の平均値を測定し、その測定結果を用いて空気屈折率の揺らぎを補正する。
【0016】
レーザー光源部2は、本実施例では単一波長の光を出力する。レーザー光源部2の波長は、水蒸気の吸収線と一致する必要がある。そこで、レーザー光源部2内のレーザー制御ユニットにより波長を水蒸気の吸収線付近で走査し、解析装置12で出力されるレーザー光強度が最も小さくなるように設定される。レーザー光源部2の波長は、レーザー光源部1の基本波または二倍波の波長差が20nm以内のものを用いることにより光学素子のコーティングに要求される性能が緩和できる。レーザー光源部2として狭帯域な光源を利用することにより十分な吸収を得ることができるので高感度な測定ができる。尚、検出器のS/Nが高い場合には広帯域光源を用いることもできる。
【0017】
また、レーザー光源部2から射出される光はプリズム3で測長用光路と光軸が一致するように調整され、偏光ビームスプリッタ4aへ入射する。偏光ビームスプリッタ4aで反射された光は基準位置に固定された参照ミラー6aで2回反射された後に再び偏光ビームスプリッタ4aで反射される。一方、偏光ビームスプリッタ4aを透過した光は、被検物体上に固定された被検ミラー6bで2回反射された後に再び偏光ビームスプリッタ4aを透過する。被検光と参照光はミラー8で反射、プリズム9aを透過後、プリズム9bによって反射され偏光ビームスプリッタ4bへ入射する。偏光ビームスプリッタ4bにより被検光と参照光は分割され、それぞれ光検出器(強度検出部)11a、11bで強度が検出され、解析装置12へ送られる。解析装置12では被検光と参照光の透過光強度から計測軸上の水蒸気圧の平均値を算出する。上述のように参照面で反射された光を参照光とすることで、レーザー光源部2から偏光ビームスプリッタ4bまで被検光と参照光は同種・同数の光学素子を通るため通過する素子の違いにより生じる透過光強度誤差の影響が少なく、吸収量の計測誤差を低減できる。メモリ14は、後述する幾何学的距離L[m]と後述する数式(5)で表わされる水蒸気圧の算出精度δp[Pa]と後述する数式(4)で表わされる水蒸気の吸収パラメータσ[Pa−1−1]の間の第1の関係を格納する。第1の関係は、後述する図4に示される関係である。また、後述する数式(4)で表わされる水蒸気の吸収パラメータσ[Pa−1−1]と水蒸気の吸収線の波長[λ]の間の第2の関係を格納する。メモリ14は、その他にも後述する数式の一または複数もしくはこれらから得られる式を格納している。
【0018】
次に、解析装置12で行われる解析内容について、図3のフローに基づき説明する。本実施形態では、基本波と二倍波における光路長から空気屈折率の温度、気圧、二酸化炭素濃度に依存する項を消去して参照光路と被検光路の差の幾何学的距離Lを算出する。水蒸気圧に対する依存性は残るが、水蒸気の吸収を利用して測定される水蒸気圧の値は計測軸上の水蒸気圧分布の平均値であるため、この測定結果を利用することにより空気屈折率の空間分布を補正して距離を求めることができる。以下で詳細を説明する。
【0019】
まず、S31で基本波、二倍波における光路長OPL、OPLを算出する。図2の光量検出器24a、24b、24cで検出される干渉信号Ia、Ib、Icは、偏光子アレイ23内の偏光子の透過軸角度に応じた既知の位相差を伴う信号となり、120度間隔の位相差を伴う3信号の透過率が同じである場合には数式(1)で表される。
【0020】
【数1】

【0021】
ここで、干渉信号のコントラストをV、被検光束と参照光束の光路長差に伴う干渉信号の位相差をφとした。数式(1)より位相差φは数式(2)により算出する事が出来る。
【0022】
【数2】

【0023】
解析装置12では、位相検出器10a、10b内の光量検出器24a、24b、24cからの光量信号をAD変換機によってデジタル化し、数式(2)を用いて位相計算が行われる。算出される位相と波長から、参照光路と被検光路の光路長差は数式(3)により算出される。
【0024】
【数3】

【0025】
ここで、nは空気の屈折率、Lは参照ミラーと被検ミラーの間の幾何学的距離、φは算出される位相、λは基本波、または、二倍波の真空中における波長を表す。
【0026】
次に、S32で水蒸気の吸収線波長を決定する。後で述べるように、幾何学的距離Lの算出精度は水蒸気圧p[Pa]の測定精度に依存するため、高精度に幾何学的距離Lを算出するためには水蒸気圧p[Pa]を高精度に測定する必要がある。水蒸気圧の測定精度δp[Pa]は幾何学的距離L[m]、水蒸気の吸収パラメータσ[Pa−1−1]に依存する。ここで吸収パラメータσは数式(4)により定義される。
【0027】
【数4】

【0028】
また、本実施形態において、δpは数式(5)で表される。
【0029】
【数5】

【0030】
ここで、Sは吸収線強度、ψは規格化された吸収線形状関数であり、吸収パラメータは吸収線強度Sと吸収線関数ψのピーク値との積σである。これらの値はHITRANなどのガスの吸収線データベースにより知ることができる。水蒸気圧の算出精度は測定環境の水蒸気圧が高いほど悪くなる。図4は横軸を水蒸気の吸収パラメータσ、縦軸を水蒸気圧の算出精度δpとして、測定する幾何学的距離Lを1[m]、5[m]、10[m]と変えて比較したものである。Lを固定してδpのσに対する依存性についてのみ考えた場合、図4よりδpには値が極小となるσ=σbestが存在する。そのため、吸収パラメータσ=σbestである水蒸気の吸収線に光源部2の波長を安定化することにより最も高精度に水蒸気圧を算出することができる。σbestは数式(6)で表される。
【0031】
【数6】

【0032】
図4より、幾何学的距離Lの値が代わるとσbestの値は変化し、Lが小さいほどσbestの値は大きくなることが分かる。つまり、測定する幾何学的距離Lの値が変わると最も高精度に水蒸気圧pを算出することができる吸収パラメータσbestの値が変わる。そこで、最も高精度に水蒸気圧pを算出するためには、測定する幾何学的距離Lに応じて吸収パラメータσbestに光源部2の波長を安定化する必要がある。このステップでは幾何学的距離Lの値は不明だが、S31で測定した光路長の値(光路長計測結果)を代わりに用いることができる。実際には必ずしも吸収パラメータσbestである吸収線に光源部2の波長を安定化する必要はなく、必要な水蒸気圧精度がΔpである場合にはδp<Δpを満たす吸収パラメータσの水蒸気の吸収線に波長安定化すればよい。つまり、あらかじめ決められた水蒸気圧精度Δp以下となる吸収パラメータの値域の水蒸気の吸収線に波長安定化すればよい。一般的な環境における水蒸気圧の上限値を2000[Pa]、1〜10[m]の範囲の測定距離を10−8の相対精度で測定する場合に必要な水蒸気圧精度Δpは約10[Pa]である。したがって、δp<Δpを満足する吸収パラメータはおよそ10−5[Pa−1−1]<σ<2×10−3[Pa−1−1]の範囲の値域内である。解析装置12は、メモリ14に格納される第2の関係と、このδp<Δpを満足する10−5[Pa−1−1]<σ<2×10−3[Pa−1−1]の中の範囲から、水蒸気の吸収線のピークとなる波長を取得することができる。吸収パラメータσbestに光源部2の波長を安定化させる場合、解析装置12は、S31で測定した光路長に対応するδpの値が極小となる吸収パラメータσ=σbestをメモリ14に格納される第1の関係から取得する。そして、吸収パラメータσbestに最も近い水蒸気の吸収線の波長をメモリ14に格納される第2の関係から取得する。
【0033】
また、計測対象が大きく移動していて同一の吸収線では測長精度を補償できない場合には、光源部2の波長を安定化する水蒸気の吸収線を、計測される光路長に応じてδp<Δpを満たす吸収線に随時切り替えればよい。そうすることにより常に測長精度を維持することができる。あるいは、異なる測長距離ごとに、δp<Δpを満たす異なる吸収線に波長安定化された複数台のレーザー光源(異なる波長の複数の狭帯域光源)をあらかじめ用意しておいてもよい。あるいは、光源部2として波長走査型光源を用い、光源部2の波長を走査することにより常時異なる複数の吸収線による透過スペクトルを取得してもよい。
【0034】
次に、S33で計測軸上の水蒸気圧の平均値を算出する。一般に、Lambert−Beerの法則により、参照光強度に対する被検光強度の割合T(λ)について数式(7)の関係が成り立つ。
【0035】
【数7】

【0036】
ここで、Itestは被検光強度(強度情報)、Irefは参照光強度(強度情報)、λは光源部2のレーザー波長、iは空気中のガスの種類、pはガスiの分圧、σは吸収パラメータ、Lは被検ミラーと参照ミラー間の幾何学的距離を表す。光源部2の波長として、空気中の水蒸気を除く他のガスによる吸収が十分に小さい波長を選ぶことで、数式(7)右辺Σのiとして水蒸気wのみを考えればよい。そこで、T(λ)、水蒸気の吸収パラメータσ(λ)、幾何学的距離Lが既知であれば、数式(7)より計測軸上の平均水蒸気圧pを求めることができる。水蒸気の吸収パラメータσは、HITRANなどのガス吸収線データベースを元に既知の理論式から算出することができる。あるいは、実測して求めることもできる。また、幾何学的距離Lは未知であるが、光路長OPLの値を代わりに用いることができる。幾何学的距離Lとして光路長OPLの値を用いることにより生じる水蒸気圧pの誤差はわずかであり、後述する屈折率揺らぎ補正式(9)にはほとんど影響しない。以上により計測軸上の平均水蒸気圧pを数式(8)から求めることができる。
【0037】
【数8】

【0038】
尚、ここでは光源部2の波長を水蒸気の一つの吸収ピークにロックしているが、光源部2としてDFBレーザーなどの波長可変光源を使用し、水蒸気の一つの吸収スペクトルをまたぐように波長走査して吸収スペクトルを求めてもよい。測定される吸収スペクトルを数式(7)において、水蒸気圧pをフィッティングパラメータとしてフィッティングすることにより軸上水蒸気圧pが求まる。
【0039】
最後にS34により幾何学的距離Lを算出する。幾何学的距離Lは基本波λと二倍波λにより測定した光路長OPL、OPLと水蒸気圧pから数式(9)により算出される。
【0040】
【数9】

【0041】
ここで、K(λ)、g(λ)はそれぞれ空気の分散、水蒸気の分散を表す項であり、非特許文献1などに実験式が記載されている。
【0042】
また、本実施形態は空気中に水蒸気以外の他のガスが存在する場合にも拡張できる。一般に物質の屈折率N(λ)は物質固有の共鳴周波数近傍を除いて数式(10)に示すセルマイヤーの分散式で表すことができる。
【0043】
【数10】

【0044】
ここで、A,B,Cは物質固有の定数である。水蒸気以外の他のガスの分散g(λ)に数式(10)を仮定すると、空気屈折率は数式(11)のように拡張できる。
【0045】
【数11】

【0046】
ここで、iはガス種を表しており、pはガスiの分圧、N(λ)はガスiの分散を表す。数式(11)と複数波長における光路長測定結果を組み合わせることで、幾何学的距離Lは複数波長における光路長と注目するガスiの分圧pの関数として表すことができる。ガスiの分圧pは本実施形態で示した方法により求めることができるため、空気中に他のガスが存在する場合にもその影響を考慮して高精度に幾何学的距離を算出することができる。
【0047】
以上の通り、本実施形態によれば、測定光路上の水蒸気の吸収を利用することで計測軸上の平均水蒸気圧を求める。そうすることにより、測定光路上に水蒸気圧の分布がある一般の湿潤環境においても屈折率揺らぎを補正して高精度に被検面と参照面の間の幾何学的距離差を高精度に算出する光波干渉計を提供できる。
【実施例2】
【0048】
本実施例はS32、S33における水蒸気圧の測定方法が実施例1と異なる。本実施例では図1の周波数変調ユニット(波長変調手段)13によりレーザー光源部2から射出される光(非測長用光)に周波数変調を加える。そして、光検出器11a、11bで検出される信号のうち変調周波数成分を同期検出することで高精度に水蒸気圧分布の平均値を測定することができる。
【0049】
レーザー光源部2としてはDFBレーザーなどの半導体レーザーを使用することができる。DFBレーザーはレーザー発振波長を注入電流により変えることができ、注入電流に変調を加えることでレーザー発振波長が変調される。周波数変調ユニット13により、安定化したレーザー光源部2の発振波長を中心に周波数fで変調を加える。図5に示すように水蒸気の吸収線を中心に周波数fで変調を加えると、吸収スペクトルは吸収中心波長を中心に対称形なため検出される信号強度には2f変調された成分が生じる。
【0050】
光検出器11a及び11bで検出される信号から2f変調成分のみを同期検出することにより低周波ノイズを低減することが可能であるため、解析部12において高精度に水蒸気圧を測定することができる。検出される2f信号のスペクトル強度S(ν)は数式(12)で表される。ここで、ν(t)はレーザー光源部2の発振周波数、I(t)は検出される強度、νは吸収線の中心周波数、Δν、Δiはそれぞれレーザー光源部2の周波数変調振幅、強度変調振幅、ψは位相シフトである。また、τは強度透過率の時間波形、Hはτをフーリエ級数展開した際のフーリエ係数である。
【0051】
【数12】

【0052】
解析部12は同期検出される2f信号をフーリエ変換して強度スペクトルS(ν)を求め、これに対してpをフィッティングパラメータとして数式(12)をフィッティングすることにより水蒸気圧を求めることができる。本実施形態において、水蒸気圧の算出精度δpは数式(13)で表される。
【0053】
【数13】

【0054】
水蒸気圧を最も高精度に算出することができる吸収パラメータσbestは数式(6)で表される。本実施形態ではロックイン検出することにより検出信号のS/Nが良くなるため、実施例1に比べて透過率の測定精度δTが約2桁改善する。
【0055】
一般的な環境における水蒸気圧の上限値を2000[Pa]において、1〜10[m]の範囲の測定距離を10−8の相対精度で測定する場合に必要な水蒸気圧精度Δpは約10[Pa]である。したがって、数式(12)、(13)よりδp<Δpを満足する吸収パラメータを数値計算により求めると、該吸収パラメータはおよそ10−7[Pa−1−1]<σ<4×10−3[Pa−1−1]である。
【0056】
S32、S33の他は実施例1と同様であるため省略する。本実施例の計測装置は、レーザー光源部2の波長を変調することにより高精度に測定光路上の水蒸気圧を算出し、測定光路上に水蒸気圧分布がある場合に高精度に参照ミラー6aと被検ミラー6bの間の幾何学的距離差を算出することができる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
光波干渉式の計測装置は、光路長または距離を計測する用途に適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 レーザー光源部1
2 レーザー光源部2
3 分光素子
4a、4b 偏光ビームスプリッタ
5a、5b λ/4波長板
6a 参照ミラー
6b 被検ミラー
7 コーナーキューブ
8 ミラー
9a、9b 分光素子
10a、10b 位相検出部
11a、11b 光検出器
12 解析部
13 周波数変調ユニット
14 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光波干渉によって参照光路と被検光路の幾何学的距離差を計測する計測装置であって、
測長用光源からの光であって参照面で反射した光と被検面で反射された光の干渉信号の位相を検出する位相検出部と、
前記測長用光源の波長とは異なる非測長用光源からの光であって前記参照面で反射した光と前記被検面で反射された光の強度を検出する強度検出部と、
前記位相と前記測長用光源の波長から算出される光路長と、前記非測長用光源の光の強度情報から算出される前記被検面と前記参照面の間の水蒸気圧分布の平均値とから前記幾何学的距離を算出する解析部を有することを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記非測長用光源の波長は、前記光路長に応じて変えられることを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記計測装置は、前記幾何学的距離[m]と水蒸気圧の算出精度δp[Pa]と水蒸気の吸収線強度と吸収線関数のピーク値との積σ[Pa−1−1]の間の第1の関係と、前記積σ[Pa−1−1]と水蒸気の吸収線の波長[λ]の間の第2の関係と、を格納するメモリを更に有し、
前記解析部は、前記算出された光路長に対応する前記算出精度δp[Pa]の値があらかじめ決められた水蒸気圧精度Δpw以下となる前記積σ[Pa−1−1]の値域を前記メモリに格納された前記第1の関係から取得し、
前記取得した積σ[Pa−1−1]の値域内の前記水蒸気の吸収線の波長を前記メモリに格納された前記第2の関係から取得し、
前記非測長用光源の波長は、前記取得された波長に設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記計測装置は、前記非測長用光源の波長を変調する波長変調手段を更に有し、
前記強度検出部は、非測長用光の変調成分を同期検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の計測装置。
【請求項5】
前記非測長用光源の波長は単一波長であり、前記光路長に応じて前記非測長用光源の波長を変調するための波長変調手段を更に有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の計測装置。
【請求項6】
前記非測長用光源は異なる波長の複数の狭帯域光源からなり、
前記複数の狭帯域光源の各波長は、異なる水蒸気の吸収線のピークとなる波長に設定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の計測装置。
【請求項7】
前記非測長用光源は波長走査型光源からなり、
前記強度検出部は異なる複数の水蒸気の吸収線による非測長用光の透過スペクトルを取得することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の計測装置。
【請求項8】
前記非測長用光源の波長と前記測長用光源の波長差は、20nm以内であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−203231(P2011−203231A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183615(P2010−183615)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】