説明

光硬化型リン酸ガラスペースト

【課題】顔料の分散安定性がよく、低い温度で焼成でき、透明性、加熱時力学特性、耐湿性、耐衝撃性に優れた焼成物を与える光硬化型ペーストを提供すること。
【解決手段】平均粒径5μm以下、融点500℃以下、比重4.0以下の、P25・・・20重量%以上70重量%以下、B23・・・0重量%以上10重量%未満、CaO・・・0重量%以上10重量%未満、Na2O・・・0重量%以上35重量%未満、K2O・・・・0重量%以上30重量%未満、CaF2・・・0重量%以上10重量%未満、Al23・・・0重量%以上50重量%未満、他成分・・・0重量%以上30重量%未満なる組成を有するリン酸ガラスと、酸価50〜130の(メタ)アクリル酸系バインダー樹脂と、不飽和二重結合を有する光重合性モノマーと、ラジカルを発生させる光重合開始剤とを含有することを特徴とする、光硬化型リン酸ガラスペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型ガラスペーストに関し、より詳しくは、リン酸ガラスを主体とした光硬化型リン酸ガラスペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ方式のディスプレイパネルは、多数配列された微細なセル内のガス放電を利用して映像や情報の表示を行う平面ディスプレイパネルである。このタイプのディスプレイパネルでは、それらのセルの各々にガスを確実に封入し保持しておく必要があるため、各セルを気密性の高い材料からなる隔壁で密封しなければならない(特許文献1)。また微細加工が必要であるため、隔壁の作製にはフリットガラスを含んだ光硬化型ペーストが使用される。隔壁の作製は、それらのペーストをガラス基板に塗布し、これに対してフォトリソグラフィー及びそれに続く処理を施して、目的とする隔壁を構成する格子状のパターを基板上に形成し、これを焼成して有機物を除去し、熔融後固化したガラスのみを格子状のパターンの形で残す、という手順で行われる。また、個々のセルには、これに対応してガス放電により発生する紫外線を所定の可視光に変換するための蛍光体含有層が設けられるが、蛍光体を含有させたガラス膜の作製も、これと同様の手順で行われる(特許文献2)。更に、隣接するセルのカラーフィルター間を仕切って発色を鮮明にするためのブラックマトリックス(黒色顔料等を含有する)の作製も、同様の手順で行われる。
【0003】
フィールドエミッション方式のディスプレイパネルは、個々のセル内において電子銃から電子線を蛍光体に照射して発光させることを特徴としており、このためセル内は真空に保たれる必要がある。従って、各セルはやはり高度に気密性の隔壁で密封される必要がある。また蛍光体含有ガラス層やブラックマトリックスの作製についてもプラズマ方式のディスプレイパネルの場合と共通する。
【0004】
また、液晶方式のディスプレイパネルは、個々のセル内で、配向膜及びカラーフィルターの組み合わせと液晶のスイッチングにより、セルから出る光を制御することを特徴とする。従って、様々な部分で気密性の高い材料によってガラスを張り合わせる必要があり、フリットガラスを含んだ光硬化性ペーストが用いられるほか、上記カラーフィルターやブラックマトリックスも作製についても他の方式のディスプレイパネルと共通する(特許文献3)。
【0005】
また有機EL(特許文献4)及び無機EL方式のディスプレイパネルは、多数配列された各発光素子において電気を光に変換することにより、映像や情報の表示を行う平面ディスプレイである。発光素子は、酸素や水分に侵されると寿命が極端に短くなることから、様々な部分で気密性の高い材料でガラスを張り合わせる必要があり、これにフリットガラスを含んだ光硬化性ペーストが用いられる。
【特許文献1】特開平9−147738
【特許文献2】特開平5−251023
【特許文献3】特開平11−283539
【特許文献4】特開平10−74583
【0006】
上記のようなフリットガラスを含んだ光硬化性ペーストにおいて、ガラスとしては従来鉛ガラスが主流であった。鉛ガラスは比較的コストが安く、融点が低く、また透明性が高いため顔料等の他の成分の特性を損なうことがないという利点があることによる。しかしながら、欧州共同体で施行されたRoHS指令にあるように、鉛は環境に対する負荷が大きいことから、これを他で代替させることが急務であった。代替案としては、ビスマスガラス、スズガラス、リン酸ガラス等が挙げられる。しかしながら、このうちリン酸ガラスは、加熱時の力学特性、耐湿性、耐衝撃性等の点で他のガラスより弱く、また細かくすることが難しく、更には反応性が高いため併用する他の材料との調和をさせ難い等の問題があり、鉛ガラスをこれで代替させるのは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景において、本発明は、分散安定性が十分で、低い温度で焼成でき、焼成したとき透明性を維持でき、同時に含有される顔料の光学特性を損なわず、焼成物が加熱時に十分大きな力学特性を有し且つ耐湿性、耐衝撃性に優れた、リン酸フリットガラスに基づく光硬化型ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、特定のリン酸ガラスよりなるフリットガラスを、特定の酸価のアクリル酸系の重合体よりなるバインダー樹脂、光重合性モノマー及び光重合開始剤を用いてペーストにすることにより、上記目的に適ったガラスペーストが得られることを見出し、更に検討を重ねて本発明を完成させた。すなわち本発明は以下を提供するものである。
【0009】
1.平均粒径が5μm以下の、融点が500℃以下、比重が4.0以下の、
25・・・・20重量%以上70重量%以下
23・・・0重量%以上10重量%未満
CaO・・・・0重量%以上10重量%未満
Na2O・・・0重量%以上35重量%未満
2O・・・・0重量%以上30重量%未満
CaF2・・・0重量%以上10重量%未満
Al23・・・0重量%以上50重量%未満
他成分・・・0重量%以上30重量%未満
なる組成を有するリン酸ガラスと、
酸価が50〜130の(メタ)アクリル酸系のバインダー樹脂と、
重合性官能基としての不飽和二重結合を有する光重合性モノマーと、
ラジカルを発生させる光重合開始剤と、
を含有することを特徴とする、光硬化型リン酸ガラスペースト。
2.該バインダー樹脂が、アルキルメタアクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体、アルキルメタクリレートと(メタ)アクリル酸の共重合体にエポキシ基含有モノマーを付加させてなる樹脂、アルキルメタクリレートとグリシジルメタクリレートの共重合体に(メタ)アクリル酸及び酸無水物を付加させてなる樹脂、アルキルメタクリレートと(メタ)アクリル酸及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体よりなる群より選ばれるものである、上記1の光硬化型リン酸ガラスペースト。
3.該バインダー樹脂が、アルキルメタクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体にグリシジルメタクリレートを付加させた共重合体樹脂である、上記1又は2の光硬化型リン酸ガラスペースト。
4.該バインダー樹脂の二重結合当量が300〜3,000である、上記1ないし3の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
5.該バインダー樹脂の重量平均分子量が5,000〜50,000である、上記1ないし4の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
6.該光重合性モノマーが、分子内にアクリル基を有するものである、上記1ないし5の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
7.該光重合性モノマーが、分子内にアクリル基を3個以上有するものである、上記1ないし6の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
8.該光重合開始剤が、分子内にオキシムエステルを有するものである、上記1ないし7の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
9.希釈溶剤を更に含むことを特徴とする、上記1ないし8の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
10.顔料、セラミック粉末及び金属粉末よりなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含有することを特徴とする、上記1ないし9の何れかのリン酸ガラスペースト。
11.希釈剤以外の成分の合計を100重量%とするとき、リン酸ガラスを0.01〜60重量%、共重合体樹脂を5〜50重量%、光重合性モノマーを5〜40重量%、光重合開始剤を0.01〜30重量%含有するものである、上記1ないし10の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光硬化型リン酸ガラスペーストは、焼成することにより耐衝撃性及び耐湿性に優れ、加熱時の力学特性が高いガラス膜を与える。従って、焼成してガラス物品同士を気密に且つ強固に張り合わせることを必要とする種々の用途に好適に使用することができ、且つ、比較的低温で焼成が可能であるためエネルギーの消費を抑制できるという利点を有する。更に、焼成したとき優れた透明性が得られるため、蛍光体や顔料を添加したときそれらの色特性や明るさ損なうことのない蛍光体含有層やフィルター層を作製するのに適している。特に、本発明の光硬化型リン酸ガラスペーストは、アルカリ現像型のペーストとして得られるため、プラズマ方式、フィールドエミッション方式、液晶方式、有機EL方式又は無機EL方式のディスプレイパネルの製造において、画素を構成する各セルの隔壁をフォトリソグラフィーによる作製、蛍光体含有のガラス膜の作製やカラーフィルターとしてのガラス膜の作製、及びブラックマトリックスの作製等に好適にすることが使用できる。更には、本発明の光硬化型ガラスペーストは、従来の鉛ガラスを使用したペーストのように環境に対して負荷を与えないという利点をも有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、リン酸フリットガラスとしては、融点が500℃以下、比重が4.0以下のものが用いられる。そのようなリン酸ガラスとしては、
25 ・・・20重量%以上70重量%以下
23 ・・・0重量%以上10重量%未満
CaO・・・・0重量%以上10重量%未満
Na2O ・・・0重量%以上35重量%未満
2O ・・・・0重量%以上30重量%未満
CaF2 ・・・0重量%以上10重量%未満
Al23・・・0重量%以上50重量%未満
その他成分 ・・0重量%以上30重量%未満
なる組成を有するものが好ましい。
【0012】
ここに、「その他成分」としては、コージライト、SiO2、CaCO3、Na247、Al(OH)3,K2CO3,長石、ZnO、BaO、Li2O、Li2CO3、NaNO3、KNO3、Ba(NO32を挙げることができる。
【0013】
上記において、P25は、本発明において使用するガラスの骨格形成成分である。CaOは、ガラスに耐久性を付与し、Na2O及びK2Oは、何れもガラスの溶融を容易にする。CaF2は、ガラスの溶融を助けると共に、溶融物の粘性を低下させて流動性を向上させる。Al23は、温度低下の際にガラスの固化の進行を緩やかにするのに役立つ成分である。
【0014】
より好ましくは、本発明において用いるリン酸ガラスは、
25 ・・・35重量%以上45重量%以下
23 ・・・1重量%以上5重量%未満
CaO・・・・1重量%以上5重量%未満
Na2O ・・・1重量%以上15重量%未満
2O ・・・・1重量%以上15重量%未満
CaF2 ・・・1重量%以上10重量%未満
Al23・・・20重量%以上30重量%未満
その他成分 ・・1重量%以上15重量%未満
なる組成を有する。
【0015】
特に好ましくは、本発明において用いるリン酸ガラスは、
25 ・・・40重量%以上45重量%以下
23 ・・・2重量%以上〜4重量%未満
CaO・・・・2重量%以上〜4重量%未満
Na2O ・・・2重量%以上〜10重量%未満
2O ・・・・2重量%以上〜10重量%未満
CaF2 ・・・2重量%以上〜5重量%未満
Al23・・・25重量%以上〜50重量%未満
その他成分 ・・5重量%以上〜10重量%未満
をなる組成を有する。
【0016】
なお上記の各ガラス組成は、ガラス中の各元素の構成比率を示すものであるから、ガラス製造に使用する原料とその割合自体を意味するものでなく、使用した原料の組み合わせに由来するものであってよい。従って、上記組成中、例えばガラス組成中のCaF2は、材料としてCaF2そのものを用いた結果であってもよいが、NaFとCaO等のような、Fイオン源とCaイオン源という、2種の材料に由来するものであってもよい。
【0017】
上記ガラスは、平均粒径5μm以下の粒子として用いることにより、ペーストとして焼成したとき加熱時(例えば、350〜600℃)の力学特性に優れた透明性の高いガラス層を与える。
【0018】
本発明の光硬化型リン酸ガラスペーストは、希釈剤(含有する場合)を除いた成分の合計を100重量%とするとき、リン酸ガラスを0.01〜60重量%、共重合体樹脂を5〜50重量%、光重合性モノマーを5〜40重量%、光重合開始剤を0.01〜30重量%、各種顔料等を0.01〜60重量%の割合で含有することができ、その他の成分、例えば安定剤、増粘剤、溶剤等も、20重量%の以下であれば含有してよい。好ましくは、リン酸ガラスを1〜10重量%、共重合体樹脂を10〜20重量%、光重合性モノマーを5〜20重量%、光重合開始剤を1〜10重量%、各種顔料等を10〜30重量%の割合で含有することができ、その他の成分も20重量%以下(例えば、溶剤を15〜20重量%)であれば含有してよい。
【0019】
本発明において、(メタ)アクリル酸系のバインダー樹脂の酸価(1g中の遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数)は、好ましくは50〜130である。酸価が50未満では、現像性が低下して現像不良を生じやすく、酸価が130を超えるとリン酸ガラスの主成分であるP25との親和性が損なわれ、ガラス粒子の分散の経時的安定性が低下し、その結果ガラスコーティング層の密着性の低下や光硬化部(露光部)の溶解が生じ易く不均一となり好ましくないからである。より好ましい酸価は、55〜110であり、特に好ましくは50〜80である。特に好ましいバインダー樹脂は、上記酸価の、カルボキシル基を有する感光性樹脂であり、取り分け好ましくは、アルキルメタクリレートと(メタ)アクリル酸共重合体にグリシジルメタクリレートを付加させた共重合体樹脂である。
【0020】
また上記バインダー樹脂としては、その二重結合当量(二重結合1個当たりの分子量をいう)が300〜3,000のものが好ましい。これは二重結合当量が300未満の場合、現像時に残渣が残り易くなる一方、3,000を超えると現像時の作業における余裕度を狭め、また光硬化時に高露光量が必要となるためである。二重結合当量は、400〜2,000のものがより好ましく、800〜1,500のものが更に好ましい。
【0021】
更に、該共重合体樹脂は、重量平均分子量5,000〜50,000であることが好ましい。これは共重合体樹脂の分子量が5,000より低いと、現像時のガラスコーティング層の密着性に悪影響を与える一方、50,000より高いと現像性が低下して現像不良を生じやすくなるためである。より好ましい分子量は、6,000〜30,000である。
【0022】
上記バインダー樹脂の好ましい例としては、アルキルメタアクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体、アルキルメタクリレートと(メタ)アクリル酸の共重合体にエポキシ基含有モノマー(例:グリシジル(メタ)アクリレート等)を付加させてなる樹脂、アルキルメタクリレートとグリシジルメタクリレートの共重合体に(メタ)アクリル酸及び酸無水物を付加させてなる樹脂、アルキルメタクリレートと(メタ)アクリル酸及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体等が挙げられる。
【0023】
本発明の光硬化型リン酸ガラスペーストに配合される光重合性モノマーは、組成物の光硬化性の促進及び現像性の向上のために配合されるものである。光重合性モノマーとしては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリウレタンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリペンタエリスリトールノナンアクリレート、ノルボルニルアクリレート及び上記アクリレートに対応する各メタクリレート類、多塩基酸とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとのモノ−、ジ−、トリ−又はそれ以上のポリエステル等があり、これらの何れかを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち特に好ましいのは、分子内にアクリル基を3個以上有する化合物である。
【0024】
本発明の光硬化型リン酸ガラスペーストに配合される光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン及びベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、α−アミノアセトフェノン、α−ヒドロキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−ホルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;キサントン類;1,7−ビス(9−アクリジニル)ヘプタン、アシルフォスフィンオキシド、分子内にオキシムエステルを有する化合物(チバスペシャリティケミカルズ製、Irgacure OXE01又は02)等の慣用の光重合開始剤の何れかを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち特に好ましいのは、分子内にオキシムエステルを有する化合物である。またこれらの光重合開始剤は、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ペンチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の第三級アミン類のような慣用の光増感剤の1種又は2種以上と組み合わせて用いることもできる。
【0025】
本発明の光硬化型リン酸ガラスペーストは、希釈剤を適宜加えることができ、希釈剤の添加目的は、組成物をペースト化し、容易な塗布を可能とすることにある。焼成温度で揮発せずに残存するようなものでない限り希釈剤に特に限定はないが、取り扱いの便宜上、沸点40℃以上のものが好ましい。希釈剤の具体例としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、α−テルピネオール等のアルコール類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤が挙げられ、これらの何れかを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明の光硬化型リン酸ガラスペーストには、目的に応じて各種顔料を加えることができる。例えば、ブラックマトリックス等の作製に使用される黒色顔料としては、鉄、クロム、マンガン、コバルトの酸化物のうち1種又は2種以上を主成分として含有する金属酸化物を好適に用いることができる。黒色顔料の平均粒径は、解像度の点から20μm以下のものが好ましく、5μm以下のものがより好ましい。
【0027】
本発明の光硬化型リン酸ガラスペーストには、例えば、熱膨張係数を操作する等の目的で適宜セラミック粉末を加えることができる。セラミック粉末の具体例としては、アルミナ、ムライト、コージライト、ジルコン、ジルコニア、チタン酸鉛等の種々のセラミック粉末が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の光硬化型リン酸ガラスペーストには、例えば、電気特性を変化させる等の目的で適宜金属粉末を加えることができる。金属粉末の具体例としては、Ag、Cuが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0029】
以下、典型的な実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明が実施例に限定されることは意図しない。
〔標準的製造方法〕
(1)リン酸フリットガラスの製造方法
5酸化2リンを45重量%、酸化アルミニウムを30重量%、酸化ナトリウムを5重量%、酸化カリウムを5重量%、フッ化ナトリウムを5重量%、酸化ホウ素を5重量%、及び酸化カルシウムを5重量%、混練機にて混合した。得られた混合粉体を1500℃まで加熱して溶融させ、冷却しながら粒状に加工した。得られたガラス粒を乾式ジェットミルにて粉砕し、平均粒径2〜5μmのリン酸フリットガラスを得た。
【0030】
(2)フォトポリマー溶液:
メタクリル酸29g、メタクリル酸メチル71g、IPA100g、α−テルピネオール100gを加え、80℃まで加熱し、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)5gを加え、8時間重合させた。次いでこれにジグリシジルメタクリレート16g、トリフェニルホスフィン0.1gを加え、24時間反応させることにより、フォトポリマー溶液320gを得た。
【0031】
(3)ベースペーストの製造方法
酸化鉄・酸化マンガン系黒色無機顔料5kg、としてポリアクリル酸/アクリル酸エステル(バインダー樹脂)(重量平均分子量=5,000〜50,000、二重結合当量=300〜3,000)0.75kg及びブチルジグリコール4.25kgをディスパーにて分散させ、前処理液(1)10kgを調合した。前処理液(1) の2.3kgを秤取し、ディスパーにて高撹拌しながら、前記フォトポリマー溶液を0.9kg加え、1時間撹拌した。1時間後、これに前記リン酸フリットガラス0.3kgを加えて混合することにより、前処理液(2)を3.5kg得た。前処理液(2) を3本ロールロールミルにて4時間分散させ、グラインドゲージにて5μm以上の粒がないことを確認し、ベースペースト3.5kgを得た。
【0032】
(4)感光性レジストの製造方法
ベースペースト6.6kgにジペンタエリスリトールヘキサアクリレート0.7kg、前記フォトポリマー溶液2.1kg、光重合開始剤<チバスペシャリティケミカルズ製、Irgacure OXE02>0.6kgを加え、ディスパーで24時間撹拌した。次いでこれにポリビニルピロリドンを0.05kg加え更に24時間撹拌し、感光性レジスト10kgを得た。
【0033】
〔性能試験〕
得られた感光性レジストにつき、以下の項目につき性能試験を行なった。
【0034】
<耐水性>
10cm×10cmのナトリウムガラスに感光性レジストをスクリーンにて印刷した。印刷後、80℃の温風乾燥機で10分乾燥し、更に500℃の電熱炉で焼成面を得た。
焼成面に精製水を一滴たらして、30秒静置した。静置後、水を拭き取り、侵食の度合いを観察し、次の基準により結果を評価した。
○:侵食されていない
△:やや侵食が認められる
×:顕著な侵食が認められる
【0035】
<強度>
10cm×10cmのナトリウムガラスに感光性レジストをスクリーンにて印刷した。印刷後、80℃の温風乾燥機で10分乾燥し、更に500℃の電熱炉で焼成面を得た。
焼成面の鉛筆硬度試験を行い、次の基準により結果を評価した。
○:7H以上
△:H以上7H未満
×:H未満
【0036】
<顔料の色特性>
10cm×10cmのナトリウムガラスに感光性レジストをスクリーンにて印刷した。印刷後、80℃の温風乾燥機で10分乾燥し、更に500℃の電熱炉で焼成面を得た。
焼成面の色を測色計で測定し、次の基準により結果を評価した。
○:顔料の色合いが十分出ている。
△:顔料の色合いがやや不十分
×:顔料の色が薄く、本来の色目でない。
(例えば黒顔料の場合次のとおりとした。
○:黒さY値で1.0以下
△:黒さY値で2.0〜1.1
×:黒さY値で2.1以上)
【0037】
<熱膨張係数>
ガラスペーストを円柱の形に形成して焼成したものにつき、熱膨張係数を、TMAで測定し、次の基準により結果を評価した。
○:α係数が10-7以下
△:α係数が10-6以下
×:α係数が10-5以下
【0038】
<現像性及び感度>
10cm×10cmのナトリウムガラスに感光性レジストをスクリーンにて印刷した。印刷後、80℃の温風乾燥機で10分乾燥し、続いてフォトマスクを被せ、紫外線照射機にて常法により露光を行った。続いてアルカリ現像液にて現像を行い、パターンを形成した。得られたパターンを光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、走査線電子顕微鏡で観察し、形成されたパターンの品質を観察し、次の基準により現像性及び感度を評価した。
<現像性>
○:パターンが綺麗に形成されている
△:パターンに抉れがある。または現像残渣がある。
×:パターンが抜けていない。
【0039】
<感度>
○:パターンが綺麗に形成されている
△:パターンにエグレがある。または線幅が細る。
×:パターンが残らない。
【0040】
<焼成残渣>
10cm×10cmのナトリウムガラスに感光性レジストをスクリーンにて印刷した。印刷後、80℃の温風乾燥機で10分乾燥し、更に500℃の電熱炉で焼成面を得た。焼成面を削り取り、熱分解GC−MSを用い、500℃で発生するガスを計測し、次の基準により現像性及び感度を評価した。なおガスの発生に関する
○:ガスの発生は認められない
△:ガスが発生するが1000ppm*未満である
×:ガスが1000ppm*以上発生する
(注:ppmは、ガス重量(g)/サンプル重量(g)を示す)
【0041】
〔実施例及び比較例〕
<レジスト1〜9>
下記の表1に示した組成(数値は重量部)のガラスを上記「標準的製造方法」の(1)に記載の方法に準じてフリットガラスとし、これを用いて同「標準的製造方法」の(2)〜(4)に記載の方法によりレジスト1〜9を調製し、上記試験項目中、耐水性、強度、顔料の色特性及び熱膨張係数の4項目につき、各項目記載の方法で焼成して焼成物を試験し、これら4項目について、評価「○」が3項目以上含まれ且つ評価「X」が含まれないレジストを、本発明の目的には適合するレジストと判定した。なお、レジスト7〜9においてはガラスとして市販のものを粉砕しフリットして用いた。
【0042】
【表1】


【0043】
結果:
顔料の色特性に関しては、表1に見られるように、市販のガラスを用いたレジスト7(SiO2、B2O3、PbOガラス使用)、8(B2O3、Bi2O3ガラス使用)及び9(B2O3、Bi2O3ガラス使用)により得られた焼成物は、何れも顔料の色特性の評価が「×」であり、本来の色目でない薄い色を呈するに止まり、これらは何れも本発明の目的には不適合であった。また、レジスト3(フリットガラスの平均粒径20μm)による焼成物も、顔料の色特性の評価が「×」であり、本発明の目的に適さないものであった。他のレジスト1、2、4〜6より得られた焼成物は何れも、本発明の目的に適合する色特性を示した。また、レジスト1、2、4〜6のうち、レジスト2(フリットガラスの平均粒径10μm)は、顔料の色特性及び熱膨張稀有数の2項目で評価が「△」であった。
これらの結果から、本発明の目的には不適合であった。耐水性及び強度の項目も含め、残りのレジスト1、4〜6の焼成物は、本発明の目的に適合するものであった。
【0044】
<レジスト10〜14>
上記において、レジスト1、4〜6が、本発明の目的に適合するレジストを与えたことから、これらのうちレジスト1におけるフリットガラスを代表として用いて、ベースペーストを構成するバインダー樹脂の組成を下記の表2に示したように変更しつつ、上記「標準的製造方法」の部の記載に従ってレジストを調製10〜14し、焼成物を作成して、現像性、感度、顔料の色特性、焼成残渣の各項目について検討を行なった。
【0045】
【表2】


【0046】
表2に見られるように、レジスト10及び11(バインダー樹脂がアルキルメタクリレート/メタクリル酸のジグリシジルメタクリレート不可物よりなり、樹脂酸価は107)は、各試験項目について優れた結果を示し、本発明の目的に適合した。これに対し、レジスト12(バインダー樹脂がメタクリレート不含)は焼成残渣において「×」、レジスト13(バインダー樹脂の樹脂酸価が12)は、現像性及び顔料の色特性においてともに「×」、及び14(樹脂酸価226)は、現像性において評価「×」であり、これらの何れかの試験項目において評価「×」であり、本発明の目的に不適合であった。
【0047】
<レジスト15及び16>
レジスト1におけるフリットガラスを代表として用いて、ベースペーストを構成するバインダー樹脂の組成を下記の表3に示したように変更し、その他について上記「標準的製造方法」の(1)〜(4)の記載に従ってレジスト15及び16を調製し、焼成物を作成して、現像性、感度、顔料の色特性、焼成残渣の各項目について検討を行なった。
【0048】
【表3】


【0049】
表3に見られるように、レジスト15(バインダー樹脂が、アルキルメタクリレート/グリシジルメタクリレートのアクリル酸、酸無水物付加物)は、各試験項目について優れた結果を示し、本発明の目的に適合した。これに対し、レジスト16(バインダー樹脂が、アルキルメタクリレート不含)は、焼成残渣において評価が「×」であり、本発明の目的には不適合であった。
【0050】
<レジスト17及び18>
レジスト1におけるフリットガラスを代表として用いて、ベースペーストを構成するバインダー樹脂の組成を下記の表4に示したように変更して、上記「標準的製造方法」の部の記載に従ってレジストを調製17及び18を調製し、焼成物を作成して、現像性、感度、顔料の色特性、焼成残渣の各項目について検討を行なった。
【0051】
【表4】



【0052】
表4に見られるように、レジスト15(バインダー樹脂が、アルキルメタクリレート/メタクリル酸/ヒドロキシアルキルメタクリレートで、樹脂酸価が102)は、その焼成物が各試験項目について優れた結果を示し、本発明の目的に適合した。これに対し、レジスト18(樹脂酸価が205)の焼成物は、現像性及び感度の2項目において評価が「△」であり、本発明の目的には不適合であった。
【0053】
<レジスト19〜23>
レジスト1におけるフリットガラスを代表として用いて、上記「標準的製造方法」の(4)「感光性レジストの製造方法」に記載のジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(光重合性モノマー)に代えて、下記の表5の光重合性モノマーを用い、その他については上記「標準的製造方法」の(1)〜(4)の記載に準じてレジスト19〜23を調製し、焼成物を作成して、現像性、感度、顔料の色特性、焼成残渣の各項目について検討を行なった。
【0054】
【表5】


【0055】
表5に見られるとおり、光重合性モノマーとして、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートに代えてペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリペンタエリスリトールノナンアクリレー、イソボルニルアクリレートの何れを用いたレジストも、それらの焼成物は各試験項目について優れた結果を示し、本発明の目的に適合した。
【0056】
<レジスト24〜31>
レジスト1におけるフリットガラスを代表として用いて、上記「標準的製造方法」の(4)「感光性レジストの製造方法」に記載の光重合開始剤に代えて、下記の表6に示した各種の市販の光重合開始剤を用い、その他については上記「標準的製造方法」の(1)〜(4)の記載に準じてレジスト19〜23を調製し、焼成して、焼成物の、現像性、感度、顔料の色特性、焼成残渣の各項目について検討を行なった。
【0057】
【表6】


【0058】
表6に見られるとおり、光重合性モノマーとして、α−アミノアセトフェノン、α−ヒドロキシアセトフェノン、アシルフォスフィンオキサイド、オキシムエステルの各タイプの光重合開始剤の何れを用いたレジストも、それらの焼成物は各試験項目について優れた結果を示し、本発明の目的に適合した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、鉛ガラスに代わる、環境への負荷の少ないリン酸フリットガラスに基づくペーストを与えるものとして、各種のフラットパネルディスプイの製造や、その他のガラス製品におけるガラス同士の気密且つ強固な結合等、広範な用途において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が5μm以下の、融点が500℃以下、比重が4.0以下の、
25・・・・20重量%以上70重量%以下
23・・・0重量%以上10重量%未満
CaO・・・・0重量%以上10重量%未満
Na2O・・・0重量%以上35重量%未満
2O・・・・0重量%以上30重量%未満
CaF2・・・0重量%以上10重量%未満
Al23・・・0重量%以上50重量%未満
他成分・・・0重量%以上30重量%未満
なる組成を有するリン酸ガラスと、
酸価が50〜130の(メタ)アクリル酸系のバインダー樹脂と、
重合性官能基としての不飽和二重結合を有する光重合性モノマーと、
ラジカルを発生させる光重合開始剤と、
を含有することを特徴とする、光硬化型リン酸ガラスペースト。
【請求項2】
該バインダー樹脂が、アルキルメタアクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体、アルキルメタクリレートと(メタ)アクリル酸の共重合体にエポキシ基含有モノマーを付加させてなる樹脂、アルキルメタクリレートとグリシジルメタクリレートの共重合体に(メタ)アクリル酸及び酸無水物を付加させてなる樹脂、アルキルメタクリレートと(メタ)アクリル酸及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体よりなる群より選ばれるものである、請求項1の光硬化型リン酸ガラスペースト。
【請求項3】
該バインダー樹脂が、アルキルメタクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体にグリシジルメタクリレートを付加させた共重合体樹脂である、請求項1又は2の光硬化型リン酸ガラスペースト。
【請求項4】
該バインダー樹脂の二重結合当量が300〜3,000である、請求項1ないし3の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
【請求項5】
該バインダー樹脂の重量平均分子量が5,000〜50,000である、請求項1ないし4の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
【請求項6】
該光重合性モノマーが、分子内にアクリル基を有するものである、請求項1ないし5の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
【請求項7】
該光重合性モノマーが、分子内にアクリル基を3個以上有するものである、請求項1ないし6の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
【請求項8】
該光重合開始剤が、分子内にオキシムエステルを有するものである、請求項1ないし7の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
【請求項9】
希釈溶剤を更に含むことを特徴とする、上記1ないし8の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。
【請求項10】
顔料、セラミック粉末及び金属粉末よりなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含有することを特徴とする、上記1ないし9の何れかのリン酸ガラスペースト。
【請求項11】
希釈剤以外の成分の合計を100重量%とするとき、リン酸ガラスを0.01〜60重量%、共重合体樹脂を5〜50重量%、光重合性モノマーを5〜40重量%、光重合開始剤を0.01〜30重量%含有するものである、上記1ないし10の何れかの光硬化型リン酸ガラスペースト。

【公開番号】特開2008−214115(P2008−214115A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51139(P2007−51139)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】