光走査装置及び画像表示装置
【課題】光束を走査する期間において、駆動信号波形の直線性を向上させつつも、駆動信号波形生成のための演算負荷を小さくする。
【解決手段】両側から梁部で支持されたミラー部を有し、梁部の捻れ変位によりミラー部を揺動可能とした非共振型の光走査素子と、駆動信号によりミラー部を揺動させる制御部と、を備え、制御部は、駆動信号の波形を鋸波状波形Dとし、当該鋸波状波形Dのうち、光束を走査する期間の波形を直線波形Daとする一方、光束を走査しない期間の波形Dbの微分波形が、一つの周波数の1周期の波形、又は、2つの周波数の半周期の波形を互いに結合した波形、となり、かつ、当該光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれが、光束を走査する期間の波形の傾きと同じ傾きとなるように光束を走査しない期間の波形を形成し、光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれを光束を走査する期間の波形の両端部のそれぞれに連続させた。
【解決手段】両側から梁部で支持されたミラー部を有し、梁部の捻れ変位によりミラー部を揺動可能とした非共振型の光走査素子と、駆動信号によりミラー部を揺動させる制御部と、を備え、制御部は、駆動信号の波形を鋸波状波形Dとし、当該鋸波状波形Dのうち、光束を走査する期間の波形を直線波形Daとする一方、光束を走査しない期間の波形Dbの微分波形が、一つの周波数の1周期の波形、又は、2つの周波数の半周期の波形を互いに結合した波形、となり、かつ、当該光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれが、光束を走査する期間の波形の傾きと同じ傾きとなるように光束を走査しない期間の波形を形成し、光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれを光束を走査する期間の波形の両端部のそれぞれに連続させた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射する光束を反射面が形成されたミラー部により所定方向に走査する光走査素子を備えた光走査装置及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、入射する光束を反射面が形成されたミラー部により所定方向に走査する光走査素子と、駆動信号により光走査素子のミラー部を揺動軸回りに揺動させる制御部と、を備えた光走査装置や画像表示装置が知られている。
【0003】
光走査装置や画像表示装置に用いられる光走査素子として、梁部で支持されたミラー部を有し、梁部の捻れ変位によりミラー部を揺動軸回りに揺動させてミラー部により光束を走査する光走査素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、このような光走査素子においては、ミラー部は弾性のある梁部を介して支持部に揺動可能に支持されているため、ミラー部及び梁部で決まる固有の共振周波数が存在する。
【0005】
従って、光走査素子のミラー部を駆動する信号波形に光走査素子固有の共振周波数が含まれていると、光走査素子において共振振動が発生する。そして、この共振振動によりミラー部の揺動に固有共振の成分が重畳すると、ミラー部の揺動速度が変動してしまい、光走査を適切に行なうことができない事態が生じる(図13参照)。
【0006】
そこで、従来の光走査装置や画像表示装置では、光走査素子のミラー部を駆動する駆動信号を、ローパスフィルタなどによりフィルタリング処理を行なって生成することにより、共振振動を抑制している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−276399号公報
【特許文献2】特開2004−361920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の光走査装置や画像表示装置では、ローパスフィルタなどによりフィルタリング処理を行って光走査素子のミラー部を駆動する駆動信号を生成しているため、光束を走査する期間において、駆動信号波形の直線性が厳密に確保でない。そのため、光束を走査する期間において、一定の角速度でミラー部を高精度に駆動することが困難となる場合がある。しかも、高次のローパスフィルタを用いているために演算負荷が大きい。
【0009】
本発明は、上述したような課題に鑑みてなされたものであり、光束を走査する期間において、駆動信号波形の直線性を向上させつつも、駆動信号波形生成のための演算負荷を小さくすることができる光走査装置及び画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、両側から梁部で支持されたミラー部を有し、前記梁部の捻れ変位によりミラー部を揺動可能とした非共振型の光走査素子と、駆動信号を生成して前記ミラー部を揺動させる制御部と、を備えた光走査装置において、前記制御部は、前記駆動信号の波形を鋸波状波形とし、当該鋸波状波形のうち、光束を走査する期間の波形を直線波形とする一方、光束を走査しない期間の波形の微分波形が、一つの周波数の1周期の波形、又は、2つの周波数の半周期の波形を互いに結合した波形、となり、かつ、当該光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれが、光束を走査する期間の波形の傾きと同じ傾きとなるように前記光束を走査しない期間の波形を形成し、前記光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれを前記光束を走査する期間の波形の両端部のそれぞれに連続させたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光走査装置において、前記光束を走査しない期間の波形を、一つの周波数の1周期の波形により形成しており、ωLを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の微分値とし、Tchを前記鋸波状波形のうち光束を走査しない期間の開始時点の時間とし、αを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の区間の割合(%/100)とし、θmを前記駆動信号の最大振幅とし、fを前記鋸波状波形の1周期の逆数としたとき、前記駆動信号の信号レベルの微分値ω(t)は、
【数3】
を満たすことを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に係る発明は、請求項1に記載の光走査装置において、前記光束を走査しない期間の波形を、2つの周波数の半周期の第1波形と第2波形を結合した波形により形成しており、ωLを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の微分値とし、Tchを前記鋸波状波形のうち光束を走査しない期間の開始時点の時間とし、αを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の区間の割合(%/100)とし、βを前記第1波形及び第2波形の区間のうち前記第1波形の区間の割合(%/100)とし、θmを前記駆動信号の最大振幅とし、fを前記鋸波状波形の1周期の逆数としたとき、前記駆動信号の信号レベルの微分値ω(t)は、
【数4】
を満たすことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光走査装置において、前記ミラー部の変位を検出する検出部を備え、前記制御部は、前記駆動信号の波形を基にした変位指令と前記検出部で検出した前記ミラー部の変位との誤差分を検出し、その誤差分に基づいて駆動信号を補正するフィードバック制御を行うことを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に係る発明は、画像信号に応じた強度の光束を出射する光源と、前記光源から出射された光束を第1方向に相対的に高速に走査する第1光走査素子と、両側から梁部で支持されたミラー部を有し、前記梁部の捻れ変位によりミラー部を揺動軸回りに揺動させて前記第1走査素子により走査された光束を前記ミラー部により第1方向と略直交する第2方向に相対的に低速に走査する非共振型の第2光走査素子と、前記第1及び第2の光走査素子を制御する制御部と、を備えた画像表示装置において、前記制御部は、前記第2の光走査素子のミラー部を揺動させる駆動信号の波形を鋸波状波形とし、当該鋸波状波形のうち、光束を走査する期間の波形を直線波形とする一方、光束を走査しない期間の波形の微分波形が、一つの周波数の1周期の波形、又は、2つの周波数の半周期の波形を互いに結合した波形、となり、かつ、当該光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれが、光束を走査する期間の波形の傾きと同じ傾きとなるように前記光束を走査しない期間の波形を形成し、前記光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれを前記光束を走査する期間の波形の両端部のそれぞれに連続させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光束を走査する期間において、駆動信号の波形を直線形状としたため、一定の速度でミラー部を高精度に揺動することができる。しかも、光束を走査しない期間において、駆動信号の波形を、第1周波数の半周期の波形と、第2周波数の半周期の波形とを端部同士を結合することにより形成したので、演算負荷を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る光走査装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示す光走査素子を駆動する駆動信号の波形を示す図である。
【図3】図1に示す光走査素子のミラー部の角度変化を示す図である。
【図4】図1に示す光走査素子の具体的構成を示す図である。
【図5】ピエゾ抵抗素子により構成される検出部の等価回路である。
【図6】梁部の変位によるピエゾ抵抗素子の抵抗値の変化を示す図である。
【図7】図1に示す制御部の構成を示す図である。
【図8】駆動電圧信号と目標角度との関係を示す図である。
【図9】従来の鋸波状波形の駆動信号による問題点を説明するための図である。
【図10】本実施形態に係る鋸波状波形の駆動信号を説明するための図である。
【図11】本実施形態に係る鋸波状波形の駆動信号を説明するための図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る画像表示装置の構成を示す図である。
【図13】光走査素子において共振振動が発生したときのミラー部の揺動状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[1.光走査装置]
以下に、本発明に好適な実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、まず、光走査装置について説明し、その後、画像表示装置について説明する。
【0018】
[1.1.光走査装置の概要]
まず、本実施形態に係る光走査装置について説明する。図1は光走査装置の構成を示す図、図2は駆動信号の波形を示す図、図3はミラー部の角度変化を示す図である。
【0019】
図1に示すように、光走査装置1は、当該光走査装置1全体を制御する制御部2と、この制御部2から出力される駆動信号Saに応じた強度の光束を出射する光源部3と、この光源部3から出射された光束を所定方向に走査する光走査素子4とを備えている。
【0020】
制御部2は、光走査素子4のミラー部10を非共振で強制的に駆動する駆動電流であって、その電流波形が鋸波状波形となる駆動信号Sbを生成するものであり、生成した駆動信号Sbを光走査素子4に印加する。鋸波状の駆動信号Sbは、図2に示すように、最小レベルから最大レベルまで移行する期間に比べ、最大レベルから最小レベルへ移行する期間が十分に短い信号である。光走査素子4のミラー部10は、駆動信号Sbの信号レベルに応じた角度で揺動軸Ly回りに回動するように構成されており、光走査素子4のミラー部10は、図3に示すように、駆動信号Sbの信号波形に基づいて後述する揺動軸Ly回りに鋸波状に揺動する。
【0021】
[1.2.光走査素子の具体的構成]
次に、光走査素子4の具体的構成について説明する。図4は光走査素子4の具体的構成を示す図である。
【0022】
図4(a)に示すように、光走査素子4は、反射面10aが形成されたミラー部10と、一対の梁部11a、11bと、一対の支持部12a,12bと、固定部13a,13bと、基台14とを有しており、ミラー部10を揺動軸Ly回りに揺動させて、光束を走査する。
【0023】
一対の梁部11a、11bは、揺動軸Lyに沿って延伸してミラー部10の両側のそれぞれを弾性を持って支持し、その捻れ変位(捻れ変形)によりミラー部10を揺動軸Ly回りに揺動可能としている。また、一対の支持部12a,12bは、一対の梁部11a,11bのそれぞれの他端をその中央部で弾性を持って支持すると共に両端部が基台14に固着された固定部13a,13bに固定されている。このように、ミラー部10は一対の梁部11a、11bと一対の支持部12a,12bとによりに揺動可能に支持されている。
【0024】
ミラー部10の揺動軸Lyに平行な2辺に近接して永久磁石15a,15bが配置されている。永久磁石15a,15bが形成する磁界の向きは、静止状態のミラー部10の反射面10aに平行で、揺動軸Lyに直交する方向である。また、図4(b)に示すように、ミラー部10の反射面10aと反対側の裏面にはコイル16が形成されている。コイル16の電極は2つの梁部11a,11bを介して制御部2に接続される。この構成により、コイル16に駆動電流を流すとコイル16にローレンツ力が働く。図面視で揺動軸Lyから下半分のコイル16には例えば紙面の表面側にローレンツ力が働き、図面視で揺動軸Lyから上半分のコイル16には紙面の裏面側にローレンツ力が働く。これにより、ミラー部10には揺動軸Lyを中心として回転トルクが生ずる。従って、制御部2から出力する駆動信号Sbの電流の大きさを制御することにより、ミラー部10の揺動軸Ly回りの角度を制御することができる。
【0025】
この光走査素子4には、さらに、ミラー部10の揺動軸Ly回りの角度を検出する検出部18として、ピエゾ抵抗素子R1〜R4が設けられる。一対のピエゾ抵抗素子R1,R3は、支持部12a上に揺動軸Lyに対して対称配置される。ピエゾ抵抗素子R1は固定部13a側の支持部12a上に配置されており、ピエゾ抵抗素子R3は固定部13b側の支持部12a上に配置されている。同様に、一対のピエゾ抵抗素子R2,R4は、支持部12b上に揺動軸Lyに対して対称配置される。ピエゾ抵抗素子R2は固定部13a側の支持部12b上に配置されており、ピエゾ抵抗素子R4は固定部13b側の支持部12b上に配置されている。
【0026】
そして、一方の一対のピエゾ抵抗素子R1,R3は、梁部11aに発生する捻れ変位に応じて揺動軸Ly近傍に発生する応力場によって各々その抵抗値が変化し、他方の一対のピエゾ抵抗素子R2,R4は、梁部11bに発生する捻れ変位に応じて揺動軸Ly近傍に発生する応力場によって各々その抵抗値が変化する。
【0027】
図4(c)に示すように、一対のピエゾ抵抗素子R1,R3は、電源電位Vcと接地電位GND間に直列に配置される。また、同様に、一対のピエゾ抵抗素子R4,R2は、電源電位Vcと接地電位GNDに直列に配置される。すなわち、ピエゾ抵抗素子R1,R4の一端が電源電位Vcの電源に接続され、他端がピエゾ抵抗素子R2,R3の一端に接続される。ピエゾ抵抗素子R2,R3の他端は、接地電位GNDのグランドに接続される。
【0028】
図5は、図4(c)に示すピエゾ抵抗素子R1〜R4により構成される検出部18の等価回路である。この検出部18は、同図に示すように、一対のピエゾ抵抗素子R1,R3の接続点を第1出力ノードN1とし、他の一対のピエゾ抵抗素子R4,R2の接続点を第2出力ノードN2としている。そして、制御部2は、第1出力ノードN1の電圧VPR+と第2出力ノードN2の電圧VPR−とを入力しており、第2出力ノードN2の電圧を基準とした第1出力ノードN1の電圧を検出電圧Vd(=[VPR+]−[VPR−])としている。なお、光走査素子4に駆動信号Sbが印加されていないとき、すなわち駆動信号Sbの電流値が0[A]のとき、ピエゾ抵抗素子R1〜R4の抵抗値は変化がなく、ピエゾ抵抗素子R1〜R4の初期抵抗値が同一の場合には、検出電圧Vdは0Vとなる。
【0029】
ここで、各ピエゾ抵抗素子R1〜R4は、圧縮応力によりその抵抗値が上昇し、引張応力によりその抵抗値が下降する特性を有するものとすると、ミラー部10の変位により以下のように抵抗値が変化する。なお、ここでは、各ピエゾ抵抗素子R1〜R4は、同一材料及び同一形状であり、その特性は同一であるものとする。
【0030】
例えば、図6(a)に示すように、ミラー部10に揺動軸Ly回りの角度θの傾きが生じたとき、ピエゾ抵抗素子R1,R2は圧縮応力によりその抵抗値が上昇し、ピエゾ抵抗素子R3,R4はその引張応力によりその抵抗値が下降する。そのため、第1出力ノードN1の電圧VPR+は下降し、第2出力ノードN2の電圧VPR−は上昇して、検出電圧Vdは正極性となる。そして、揺動軸Ly回りのミラー部10の角度θが大きくなるほど、検出電圧Vdが大きくなる。一方、図6に示す方向とは逆方向にミラー部10が揺動軸Ly回りに傾いたとき、検出電圧Vdは負極性となり、揺動軸Ly回りのミラー部10の角度が大きくなるほど、検出電圧Vdが大きくなる。
【0031】
このように、検出電圧Vdの極性により、図4に示す平衡状態からのミラー部10の傾き方向がわかり、検出電圧Vdの大きさによりミラー部10の傾き角がわかる。この原理を利用して、制御部2は、揺動軸Ly回りのミラー部10の実際の傾き角を検出電圧Vdにより検出している。
【0032】
[1.3.制御部の構成]
制御部2は、上述したように、駆動信号Sbを生成して、ミラー部10を揺動軸Ly回りに揺動させ、ミラー部10の反射面10aにより光束を反射して光束を走査するようにしており、図7に示すように構成されている。
【0033】
図7に示すように、制御部2は、目標指令生成部21、比較次元変換部22、減算部23、駆動信号生成部24を有している。
【0034】
目標指令生成部21は、光走査素子4により走査させようとする方向に応じたミラー部10の目標角度を、目標角度指令として出力する。光走査装置1では、鋸波状の駆動信号Sb(図2参照)により光走査素子4のミラー部10の角度が図3に示すように鋸波状に変位するように駆動しており、目標指令生成部21は、ミラー部10の角度が図3に示すように鋸波状に変位するように、目標角度指令を目標指令生成部21から順次出力する。
【0035】
比較次元変換部22は、ミラー部10の目標角度と制御電圧Vctとの関係を規定する規定値αとオフセット値βを記憶しており、目標指令生成部21から出力される目標角度指令に応じた制御電圧Vctを出力する。規定値αとオフセット値βは、検出電圧Vdによりフィードバック制御できるように制御電圧Vctを生成するために用いられる。実施形態に係る光走査素子4では、図8に示すように、制御電圧Vctとミラー部10の角度とが比例関係にあり、目標角度θに基づき、以下の式(1)に基づき制御電圧Vctを演算している。
Vct=θ×α+β ・・・(1)
なお、比較次元変換部22において、ミラー部10の目標角度と制御電圧Vctとの関係を規定する変換テーブルを内部に記憶しておき、この変換テーブルに基づき、ミラー部10の目標角度を制御電圧Vctに変換するようにしてもよい。
【0036】
減算部23は、制御電圧Vctの電圧値から検出電圧Vdの電圧値を減算して、制御電圧Vctと検出電圧Vdとの差分電圧Vsを演算し、差分電圧Vsを出力する。
【0037】
駆動信号生成部24は、差分電圧Vsに応じて電流値を増減させた駆動信号Sbを生成し、この駆動信号Sbを光走査素子4のコイル16に出力する。すなわち、差分電圧Vsが正極性の場合には、差分電圧Vsの電圧レベルに比例する値だけ電流値を上げた駆動信号Sbを生成し、差分電圧Vsが負極性の場合には、差分電圧Vsの電圧レベルに比例する値だけ電流値を下げた駆動信号Sbを生成する。この駆動信号生成部24は、例えば、差分電圧Vsを積分する積分器により構成することができる。このように差分電圧Vsに応じた電流値の駆動信号Sbにより光走査素子4を駆動してフィードバック制御するようにしており、これにより光走査素子4のミラー部10の角度変位が図3に示すように鋸波状になるようにミラー部10を精度良く揺動させている。
【0038】
このように、制御部2は、駆動信号の波形を基にした目標指令生成部21による目標角度指令(変位指令)と検出部18で検出したミラー部10の角度(変位)との誤差分を検出し、その誤差分に基づいて駆動信号Sbを補正するフィードバック制御を行うようにしている。これにより光走査素子4のミラー部10を精度良く揺動するようにしている。
【0039】
[1.4.駆動信号Sbの生成処理]
光走査素子4は、上述したように、ミラー部10が揺動軸Ly回りに揺動(図6(a)参照)して、ミラー部10の反射面10aに入射する光束を走査するものであるが、この光走査素子4は所定の周波数でミラー部10が共振する共振モードを有している。例えば、ミラー部10が反射面10aと直交する方向へ揺動する縦振動の共振モード(図6(b))や、ミラー部10が反射面10aと平行な方向へ揺動する横振動の共振モード(図6(c))がある。
【0040】
このように、光走査素子4には共振モードがあるため、光走査素子4を駆動する駆動信号Sbに光走査素子4固有の共振周波数成分が含まれている場合には、光走査素子4のミラー部10の揺動に共振周波数の成分が重畳してしまうことになる(図13参照)。
【0041】
そのため、従来の光走査装置や画像表示装置では、鋸波形信号にローパスフィルタによるフィルタリング処理を行っていた。しかし、高次のローパスフィルタを用いているために演算負荷が大きい。
【0042】
また、光束を走査する期間(以下、光束走査期間という)において、一定の角速度で高精度にミラー部10を変位させることができない。すなわち、鋸波状の駆動信号にローパスフィルタによるフィルタリング処理を行うと、図9に示すように信号波形が鈍ってしまい、光束走査期間において、一定角速度で高精度にミラー部を変位させることができなくなる。
【0043】
そこで、上記目標指令生成部21は、図10に示すように、駆動信号Sbの波形を鋸波状波形Dとし、当該鋸波状波形Dのうち、光束走査期間の波形を直線波形Daとする。一方、光束を走査しない期間(以下、リトレース期間という)の波形Dbが、その微分波形が第1周波数f1の半周期となる第1波形D1とその微分波形が第2周波数f2の半周期となる第2波形D2とを結合した波形となり、かつ、リトレース期間の波形Dbの両端部のそれぞれが、光束走査期間の波形Daの傾きと同じ傾きとなるように光束を走査しない期間の波形Dbを形成する。そして、リトレース期間の波形Db(以下、リトレース波形Dbという)の両端部のそれぞれを光束走査期間の波形Daの両端部のそれぞれに連続させるようにしている。
【0044】
ここで、第1周波数f1と第2周波数f2とは同一周波数(f1=f2)とすることもでき、異なる周波数(f1≠f2)とすることができる。
【0045】
[1.4.1 f1=f2の場合]
まず、第1周波数f1と第2周波数f2とが同一の周波数faである場合について説明する。この場合、その微分波形が周波数faの半周期となる第1波形とその微分波形が周波数faの半周期となる第2波形とを結合する。すなわち、目標指令生成部21は、一つの周波数faの1周期の微分波形を積分して、リトレース波形Dbを生成する。このとき、直線波形Daとリトレース波形Dbとの結合点は、互いの傾きが同じになるようにすることで、鋸波状波形Dに高周波成分が含まれることを抑制している。この周波数faは、以下のように、鋸波状波形Dの周期と直線波形Daとに基づいて決定されるものである。
【0046】
ここで、目標指令生成部21は、リトレース期間のリトレース波形Dbの生成を、鋸波状波形Dの周期と直線波形Daとに基づいた三角関数による演算を行い、この演算結果を積分することによって生成する。この三角関数では、直線波形Daの微分波形とリトレース波形Dbの微分波形との結合点において変曲値がゼロ、換言すれば、この結合点が極値をとるようにしている。
【0047】
具体的には、目標指令生成部21は、以下の演算式で、駆動信号Sbにおける信号レベルの微分値ω(t)(=Sb/dt)を演算する。
【数5】
ここで、
ωL:直線波形Daの信号レベルの微分値
Tch:リトレース期間の開始時点の時間
α:鋸波状波形Dのうち直線波形Daの区間の割合(%/100)
θm:駆動信号Sbの最大振幅
f:鋸波状波形Dの1周期Tの逆数
である。
【0048】
目標指令生成部21は、この微分値ω(t)の演算により、図10(b)に示す演算結果を得ることができ、この演算結果を積分することによって、図10(a)に示すように直線波形Daとリトレース波形Dbからなる駆動信号Sbを生成する。この駆動信号Sbの信号レベルの微分値ω(t)は、ミラー部10の角速度に比例するものであり、微分値ω(t)の積分値は、ミラー部10の角度の変化量を意味する。従って、光束走査期間において、鋸波状波形Dに重畳する高周波成分を低減することができ、光束走査期間において、駆動信号波形の直線性を向上させることができる。しかも、三角関数を用いた比較的簡単な演算により、駆動信号波形を生成することができるため、駆動信号波形時の演算負荷を小さくすることができる。
【0049】
[1.4.2 f1≠f2の場合]
次に、第1周波数f1と第2周波数f2とが異なる周波数である場合について説明する。この場合、目標指令生成部21は、その微分値が周波数f1の半周期となる第1波形D1とその微分値が周波数f2の半周期となる第2波形D2とを結合する。すなわち、波数f1の半周期の波形と周波数f2の半周期とを結合した波形を積分して、リトレース波形Dbを生成する。このとき、直線波形Daとリトレース波形Dbとの結合点、第1波形D1と第2波形D2との結合点は、それぞれ互いの傾きが同じになるようにすることで、鋸波状波形Dに高周波成分が含まれることを抑制している。この周波数f1,f2は、以下のように、鋸波状波形Dの周期と直線波形Daとに基づいて決定されるものである。
【0050】
ここで、目標指令生成部21は、リトレース波形Dbの生成を、鋸波状波形Dの周期と直線波形Daとに基づいた三角関数による演算を行い、この演算結果を積分することによって生成する。この三角関数では、直線波形Daの微分波形とリトレース波形Dbの微分波形との結合点において変曲値がゼロ、換言すれば、この結合点が極値をとるようにしている。
【0051】
具体的には、目標指令生成部21は、以下の演算式で、駆動信号Sbにおける信号レベルの微分値ω(t)(=Sb/dt:駆動信号Sbの微分値)を演算することで、直線波形Daと第1波形D1及び第2波形D2を演算する。
【数6】
ここで、
ωL:直線波形Daの信号レベルの微分値
Tch:リトレース期間の開始時点の時間
α:鋸波状波形Dのうち直線波形Daの区間の割合(%/100)
β:リトレース波形Dbの区間のうち第1波形D1の区間の割合(%/100)
θm:駆動信号Sbの最大振幅
f:鋸波状波形Dの1周期Tの逆数
である。
【0052】
目標指令生成部21は、この微分値ω(t)の演算により、図11(b)に示す演算結果を得ることができ、この演算結果を積分することによって、図11(a)に示すように直線波形Daとリトレース波形Dbからなる駆動信号Sbを生成する。この駆動信号Sbの信号レベルの微分値ω(t)は、ミラー部10の角速度に比例するものであり、微分値ω(t)の積分値は、ミラー部10の角度の変化量を意味する。従って、光束走査期間において、鋸波状波形Dに重畳する高周波成分を低減することができ、光束走査期間において、駆動信号波形の直線性を向上させることができる。しかも、三角関数を用いた比較的簡単な演算により、駆動信号波形を生成することができるため、駆動信号波形時の演算負荷を小さくすることができる。
【0053】
[2.画像表示装置]
次に、上述した光走査素子を備えた画像表示装置について説明する。
【0054】
図12に示すように、本実施形態に係る画像表示装置100は、制御部110、光源部120、走査部140、第2リレー光学系180、ハーフミラー185などを有している。
【0055】
制御部110は、駆動信号供給部111、主走査駆動信号生成部112、副走査駆動信号生成部113、主制御部114を有している。駆動信号供給部111は、外部から入力された画像信号S(例えば、NTSCコンポジット信号、コンポーネント信号)に基づいて、画像を形成するための要素となる三原色各色のRGB画素信号115r,115g,115bを画素単位で生成する。主走査駆動信号生成部112は、主走査部160の後述する光走査素子161が共振状態で所定走査範囲となるように、主走査部160で使用される主走査駆動信号116を生成して出力する。また、副走査駆動信号生成部113は、主走査駆動信号116の周波数に基づいて、副走査部170で使用される鋸波形状の副走査駆動信号117を生成して出力する。
【0056】
光源部120には、Rレーザドライバ121,Gレーザドライバ122,Bレーザドライバ123が設けられる。各レーザドライバ121,122,123は、それぞれ駆動信号供給部111から出力されるR,G,B駆動信号115r,115g,115bをもとに、各レーザ124,125,126へそれぞれ駆動電流を供給する。各レーザ124,125,126は、各レーザドライバ121,122,123から供給される駆動電流に応じて強度変調されたレーザ光を出射する。各レーザ124,125,126から出射したR(赤色)レーザ光Lr,G(緑色)レーザ光Lg、B(青色)レーザ光Lbは、コリメート光学系127,128,129によってそれぞれ平行光化された後に、ダイクロイックミラー130,131,132に入射される。その後、これらのダイクロイックミラー130,131,132により、3原色の各レーザ光Lr,Lg,Lbが波長選択的に反射・透過して結合光学系133に達し、合波されて光ファイバケーブル135へ出射される。このように光ファイバケーブル135へ出射されるレーザ光は、強度変調された各色のレーザ光が合波されたものである。
【0057】
走査部140は、コリメート光学系151、主走査部160、第1リレー光学系165、副走査部170などを有している。
【0058】
コリメート光学系151は、光源部120で生成され、光ファイバケーブル135を介して出射されるレーザ光を平行光化する。
【0059】
主走査部160及び副走査部170は、光ファイバケーブル135から入射されたレーザ光を画像として利用者の眼190の網膜190bに投影可能な状態にするために、主走査方向と副走査方向に走査する光学系である。主走査部160は、コリメート光学系151で平行光化されて入射するレーザ光を主走査方向に相対的に高速に往復走査する光走査素子161を有する。また、副走査部170は、主走査部160で主走査方向に走査され、第1リレー光学系165を介して入射するレーザ光を副走査方向に相対的に低速に走査する光走査素子171を有する。この副走査方向は主走査方向に略直交する方向である。例えば、主走査方向を水平方向、副走査方向を垂直方向とすることができる。
【0060】
主走査部160と副走査部170との間でレーザ光を中継する第1リレー光学系165は、光走査素子161によって主走査方向に走査されたレーザ光を光走査素子171のミラー部に収束させる。そして、このレーザ光が光走査素子171によって副走査方向に走査される。光走査素子171によって走査されたレーザ光は、正の屈折力を持つ2つのレンズ180a,180bが直列配置された第2リレー光学系180を介して、眼190の前方に位置させたハーフミラー185で反射されて利用者の瞳孔190aに入射する。これにより、網膜190b上に画像信号Sに応じた画像が投影され、利用者は瞳孔190aに入射するレーザ光を画像として認識する。また、ハーフミラー185は外光L2を透過して利用者の瞳孔190aに入射させるようにしており、これにより利用者は外光L2に基づく外景にレーザ光L1に基づく画像を重ねた画像を視認することができる。このように画像表示装置100は、画像信号Sに応じた画像と外景とを重ねて利用者の眼190の網膜に結像させる、シースルー型網膜走査型画像表示装置である。
【0061】
以上のように構成された画像表示装置100において、光走査素子171は、光走査素子4と同様の構成であり、副走査駆動信号生成部113は、上述した光走査装置1の制御部2と同様に、光走査素子171を駆動するようにしている。そのため、光束を走査する期間において、一定の角速度で高精度にミラー部10を駆動することができ、しかも、演算負荷を小さくすることができる。
【0062】
なお、ここでは、光束の一例として、効率面で有利であるレーザ光を用いているが、光束はレーザ光に限られるものではない。
【0063】
また、光走査素子のミラー部の角度を検出する検出部を、ピエゾ抵抗素子により構成しているが、圧電素子による検出方法や静電容量の変化による検出方法を用いてもよい。
【0064】
本発明を、上述してきた実施形態を通して説明したが、本実施形態によれば、両側から梁部11a,11bで支持されたミラー部10を有し、梁部11a,11bの捻れ変位によりミラー部10を揺動可能とした非共振型の光走査素子4(171)と、駆動信号Sb(117)を生成してミラー部10を揺動させる制御部2(110)と、を備え、制御部2(110)は、駆動信号Sb(117)の波形を鋸波状波形Dとし、当該鋸波状波形Dのうち、光束を走査する期間の波形を直線波形Daとする一方、光束を走査しない期間の波形Dbの微分波形が、一つの周波数の1周期の波形、又は、2つの周波数の半周期の波形を互いに結合した波形、となり、かつ、光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれが、光束を走査する期間の波形の傾きと同じ傾きとなるように光束を走査しない期間の波形を形成し、光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれを光束を走査する期間の波形の両端部のそれぞれに連続させたので、光束走査期間において、鋸波状波形Dに重畳する高周波成分を低減することができ、駆動信号波形の直線性を向上させることができる。しかも、三角関数を用いた比較的簡単な演算により駆動信号波形を生成することで、駆動信号波形時の演算負荷を小さくすることができる。
【0065】
また、ミラー部10の変位を検出する検出部18を備え、制御部2(110)は、駆動信号Sb(117)の波形を基にした変位指令と検出部18で検出したミラー部10の変位との誤差分を検出し、その誤差分に基づいて駆動信号Sb(117)を補正するフィードバック制御を行うので、光走査素子4(171)のミラー部10を精度良く揺動することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 光走査装置
2,110 制御部
4, 161,171 光走査素子
10 ミラー部
10a 反射面
100 画像表示装置
Sb 駆動信号
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射する光束を反射面が形成されたミラー部により所定方向に走査する光走査素子を備えた光走査装置及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、入射する光束を反射面が形成されたミラー部により所定方向に走査する光走査素子と、駆動信号により光走査素子のミラー部を揺動軸回りに揺動させる制御部と、を備えた光走査装置や画像表示装置が知られている。
【0003】
光走査装置や画像表示装置に用いられる光走査素子として、梁部で支持されたミラー部を有し、梁部の捻れ変位によりミラー部を揺動軸回りに揺動させてミラー部により光束を走査する光走査素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、このような光走査素子においては、ミラー部は弾性のある梁部を介して支持部に揺動可能に支持されているため、ミラー部及び梁部で決まる固有の共振周波数が存在する。
【0005】
従って、光走査素子のミラー部を駆動する信号波形に光走査素子固有の共振周波数が含まれていると、光走査素子において共振振動が発生する。そして、この共振振動によりミラー部の揺動に固有共振の成分が重畳すると、ミラー部の揺動速度が変動してしまい、光走査を適切に行なうことができない事態が生じる(図13参照)。
【0006】
そこで、従来の光走査装置や画像表示装置では、光走査素子のミラー部を駆動する駆動信号を、ローパスフィルタなどによりフィルタリング処理を行なって生成することにより、共振振動を抑制している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−276399号公報
【特許文献2】特開2004−361920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の光走査装置や画像表示装置では、ローパスフィルタなどによりフィルタリング処理を行って光走査素子のミラー部を駆動する駆動信号を生成しているため、光束を走査する期間において、駆動信号波形の直線性が厳密に確保でない。そのため、光束を走査する期間において、一定の角速度でミラー部を高精度に駆動することが困難となる場合がある。しかも、高次のローパスフィルタを用いているために演算負荷が大きい。
【0009】
本発明は、上述したような課題に鑑みてなされたものであり、光束を走査する期間において、駆動信号波形の直線性を向上させつつも、駆動信号波形生成のための演算負荷を小さくすることができる光走査装置及び画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、両側から梁部で支持されたミラー部を有し、前記梁部の捻れ変位によりミラー部を揺動可能とした非共振型の光走査素子と、駆動信号を生成して前記ミラー部を揺動させる制御部と、を備えた光走査装置において、前記制御部は、前記駆動信号の波形を鋸波状波形とし、当該鋸波状波形のうち、光束を走査する期間の波形を直線波形とする一方、光束を走査しない期間の波形の微分波形が、一つの周波数の1周期の波形、又は、2つの周波数の半周期の波形を互いに結合した波形、となり、かつ、当該光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれが、光束を走査する期間の波形の傾きと同じ傾きとなるように前記光束を走査しない期間の波形を形成し、前記光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれを前記光束を走査する期間の波形の両端部のそれぞれに連続させたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光走査装置において、前記光束を走査しない期間の波形を、一つの周波数の1周期の波形により形成しており、ωLを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の微分値とし、Tchを前記鋸波状波形のうち光束を走査しない期間の開始時点の時間とし、αを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の区間の割合(%/100)とし、θmを前記駆動信号の最大振幅とし、fを前記鋸波状波形の1周期の逆数としたとき、前記駆動信号の信号レベルの微分値ω(t)は、
【数3】
を満たすことを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に係る発明は、請求項1に記載の光走査装置において、前記光束を走査しない期間の波形を、2つの周波数の半周期の第1波形と第2波形を結合した波形により形成しており、ωLを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の微分値とし、Tchを前記鋸波状波形のうち光束を走査しない期間の開始時点の時間とし、αを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の区間の割合(%/100)とし、βを前記第1波形及び第2波形の区間のうち前記第1波形の区間の割合(%/100)とし、θmを前記駆動信号の最大振幅とし、fを前記鋸波状波形の1周期の逆数としたとき、前記駆動信号の信号レベルの微分値ω(t)は、
【数4】
を満たすことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光走査装置において、前記ミラー部の変位を検出する検出部を備え、前記制御部は、前記駆動信号の波形を基にした変位指令と前記検出部で検出した前記ミラー部の変位との誤差分を検出し、その誤差分に基づいて駆動信号を補正するフィードバック制御を行うことを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に係る発明は、画像信号に応じた強度の光束を出射する光源と、前記光源から出射された光束を第1方向に相対的に高速に走査する第1光走査素子と、両側から梁部で支持されたミラー部を有し、前記梁部の捻れ変位によりミラー部を揺動軸回りに揺動させて前記第1走査素子により走査された光束を前記ミラー部により第1方向と略直交する第2方向に相対的に低速に走査する非共振型の第2光走査素子と、前記第1及び第2の光走査素子を制御する制御部と、を備えた画像表示装置において、前記制御部は、前記第2の光走査素子のミラー部を揺動させる駆動信号の波形を鋸波状波形とし、当該鋸波状波形のうち、光束を走査する期間の波形を直線波形とする一方、光束を走査しない期間の波形の微分波形が、一つの周波数の1周期の波形、又は、2つの周波数の半周期の波形を互いに結合した波形、となり、かつ、当該光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれが、光束を走査する期間の波形の傾きと同じ傾きとなるように前記光束を走査しない期間の波形を形成し、前記光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれを前記光束を走査する期間の波形の両端部のそれぞれに連続させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光束を走査する期間において、駆動信号の波形を直線形状としたため、一定の速度でミラー部を高精度に揺動することができる。しかも、光束を走査しない期間において、駆動信号の波形を、第1周波数の半周期の波形と、第2周波数の半周期の波形とを端部同士を結合することにより形成したので、演算負荷を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る光走査装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示す光走査素子を駆動する駆動信号の波形を示す図である。
【図3】図1に示す光走査素子のミラー部の角度変化を示す図である。
【図4】図1に示す光走査素子の具体的構成を示す図である。
【図5】ピエゾ抵抗素子により構成される検出部の等価回路である。
【図6】梁部の変位によるピエゾ抵抗素子の抵抗値の変化を示す図である。
【図7】図1に示す制御部の構成を示す図である。
【図8】駆動電圧信号と目標角度との関係を示す図である。
【図9】従来の鋸波状波形の駆動信号による問題点を説明するための図である。
【図10】本実施形態に係る鋸波状波形の駆動信号を説明するための図である。
【図11】本実施形態に係る鋸波状波形の駆動信号を説明するための図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る画像表示装置の構成を示す図である。
【図13】光走査素子において共振振動が発生したときのミラー部の揺動状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[1.光走査装置]
以下に、本発明に好適な実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、まず、光走査装置について説明し、その後、画像表示装置について説明する。
【0018】
[1.1.光走査装置の概要]
まず、本実施形態に係る光走査装置について説明する。図1は光走査装置の構成を示す図、図2は駆動信号の波形を示す図、図3はミラー部の角度変化を示す図である。
【0019】
図1に示すように、光走査装置1は、当該光走査装置1全体を制御する制御部2と、この制御部2から出力される駆動信号Saに応じた強度の光束を出射する光源部3と、この光源部3から出射された光束を所定方向に走査する光走査素子4とを備えている。
【0020】
制御部2は、光走査素子4のミラー部10を非共振で強制的に駆動する駆動電流であって、その電流波形が鋸波状波形となる駆動信号Sbを生成するものであり、生成した駆動信号Sbを光走査素子4に印加する。鋸波状の駆動信号Sbは、図2に示すように、最小レベルから最大レベルまで移行する期間に比べ、最大レベルから最小レベルへ移行する期間が十分に短い信号である。光走査素子4のミラー部10は、駆動信号Sbの信号レベルに応じた角度で揺動軸Ly回りに回動するように構成されており、光走査素子4のミラー部10は、図3に示すように、駆動信号Sbの信号波形に基づいて後述する揺動軸Ly回りに鋸波状に揺動する。
【0021】
[1.2.光走査素子の具体的構成]
次に、光走査素子4の具体的構成について説明する。図4は光走査素子4の具体的構成を示す図である。
【0022】
図4(a)に示すように、光走査素子4は、反射面10aが形成されたミラー部10と、一対の梁部11a、11bと、一対の支持部12a,12bと、固定部13a,13bと、基台14とを有しており、ミラー部10を揺動軸Ly回りに揺動させて、光束を走査する。
【0023】
一対の梁部11a、11bは、揺動軸Lyに沿って延伸してミラー部10の両側のそれぞれを弾性を持って支持し、その捻れ変位(捻れ変形)によりミラー部10を揺動軸Ly回りに揺動可能としている。また、一対の支持部12a,12bは、一対の梁部11a,11bのそれぞれの他端をその中央部で弾性を持って支持すると共に両端部が基台14に固着された固定部13a,13bに固定されている。このように、ミラー部10は一対の梁部11a、11bと一対の支持部12a,12bとによりに揺動可能に支持されている。
【0024】
ミラー部10の揺動軸Lyに平行な2辺に近接して永久磁石15a,15bが配置されている。永久磁石15a,15bが形成する磁界の向きは、静止状態のミラー部10の反射面10aに平行で、揺動軸Lyに直交する方向である。また、図4(b)に示すように、ミラー部10の反射面10aと反対側の裏面にはコイル16が形成されている。コイル16の電極は2つの梁部11a,11bを介して制御部2に接続される。この構成により、コイル16に駆動電流を流すとコイル16にローレンツ力が働く。図面視で揺動軸Lyから下半分のコイル16には例えば紙面の表面側にローレンツ力が働き、図面視で揺動軸Lyから上半分のコイル16には紙面の裏面側にローレンツ力が働く。これにより、ミラー部10には揺動軸Lyを中心として回転トルクが生ずる。従って、制御部2から出力する駆動信号Sbの電流の大きさを制御することにより、ミラー部10の揺動軸Ly回りの角度を制御することができる。
【0025】
この光走査素子4には、さらに、ミラー部10の揺動軸Ly回りの角度を検出する検出部18として、ピエゾ抵抗素子R1〜R4が設けられる。一対のピエゾ抵抗素子R1,R3は、支持部12a上に揺動軸Lyに対して対称配置される。ピエゾ抵抗素子R1は固定部13a側の支持部12a上に配置されており、ピエゾ抵抗素子R3は固定部13b側の支持部12a上に配置されている。同様に、一対のピエゾ抵抗素子R2,R4は、支持部12b上に揺動軸Lyに対して対称配置される。ピエゾ抵抗素子R2は固定部13a側の支持部12b上に配置されており、ピエゾ抵抗素子R4は固定部13b側の支持部12b上に配置されている。
【0026】
そして、一方の一対のピエゾ抵抗素子R1,R3は、梁部11aに発生する捻れ変位に応じて揺動軸Ly近傍に発生する応力場によって各々その抵抗値が変化し、他方の一対のピエゾ抵抗素子R2,R4は、梁部11bに発生する捻れ変位に応じて揺動軸Ly近傍に発生する応力場によって各々その抵抗値が変化する。
【0027】
図4(c)に示すように、一対のピエゾ抵抗素子R1,R3は、電源電位Vcと接地電位GND間に直列に配置される。また、同様に、一対のピエゾ抵抗素子R4,R2は、電源電位Vcと接地電位GNDに直列に配置される。すなわち、ピエゾ抵抗素子R1,R4の一端が電源電位Vcの電源に接続され、他端がピエゾ抵抗素子R2,R3の一端に接続される。ピエゾ抵抗素子R2,R3の他端は、接地電位GNDのグランドに接続される。
【0028】
図5は、図4(c)に示すピエゾ抵抗素子R1〜R4により構成される検出部18の等価回路である。この検出部18は、同図に示すように、一対のピエゾ抵抗素子R1,R3の接続点を第1出力ノードN1とし、他の一対のピエゾ抵抗素子R4,R2の接続点を第2出力ノードN2としている。そして、制御部2は、第1出力ノードN1の電圧VPR+と第2出力ノードN2の電圧VPR−とを入力しており、第2出力ノードN2の電圧を基準とした第1出力ノードN1の電圧を検出電圧Vd(=[VPR+]−[VPR−])としている。なお、光走査素子4に駆動信号Sbが印加されていないとき、すなわち駆動信号Sbの電流値が0[A]のとき、ピエゾ抵抗素子R1〜R4の抵抗値は変化がなく、ピエゾ抵抗素子R1〜R4の初期抵抗値が同一の場合には、検出電圧Vdは0Vとなる。
【0029】
ここで、各ピエゾ抵抗素子R1〜R4は、圧縮応力によりその抵抗値が上昇し、引張応力によりその抵抗値が下降する特性を有するものとすると、ミラー部10の変位により以下のように抵抗値が変化する。なお、ここでは、各ピエゾ抵抗素子R1〜R4は、同一材料及び同一形状であり、その特性は同一であるものとする。
【0030】
例えば、図6(a)に示すように、ミラー部10に揺動軸Ly回りの角度θの傾きが生じたとき、ピエゾ抵抗素子R1,R2は圧縮応力によりその抵抗値が上昇し、ピエゾ抵抗素子R3,R4はその引張応力によりその抵抗値が下降する。そのため、第1出力ノードN1の電圧VPR+は下降し、第2出力ノードN2の電圧VPR−は上昇して、検出電圧Vdは正極性となる。そして、揺動軸Ly回りのミラー部10の角度θが大きくなるほど、検出電圧Vdが大きくなる。一方、図6に示す方向とは逆方向にミラー部10が揺動軸Ly回りに傾いたとき、検出電圧Vdは負極性となり、揺動軸Ly回りのミラー部10の角度が大きくなるほど、検出電圧Vdが大きくなる。
【0031】
このように、検出電圧Vdの極性により、図4に示す平衡状態からのミラー部10の傾き方向がわかり、検出電圧Vdの大きさによりミラー部10の傾き角がわかる。この原理を利用して、制御部2は、揺動軸Ly回りのミラー部10の実際の傾き角を検出電圧Vdにより検出している。
【0032】
[1.3.制御部の構成]
制御部2は、上述したように、駆動信号Sbを生成して、ミラー部10を揺動軸Ly回りに揺動させ、ミラー部10の反射面10aにより光束を反射して光束を走査するようにしており、図7に示すように構成されている。
【0033】
図7に示すように、制御部2は、目標指令生成部21、比較次元変換部22、減算部23、駆動信号生成部24を有している。
【0034】
目標指令生成部21は、光走査素子4により走査させようとする方向に応じたミラー部10の目標角度を、目標角度指令として出力する。光走査装置1では、鋸波状の駆動信号Sb(図2参照)により光走査素子4のミラー部10の角度が図3に示すように鋸波状に変位するように駆動しており、目標指令生成部21は、ミラー部10の角度が図3に示すように鋸波状に変位するように、目標角度指令を目標指令生成部21から順次出力する。
【0035】
比較次元変換部22は、ミラー部10の目標角度と制御電圧Vctとの関係を規定する規定値αとオフセット値βを記憶しており、目標指令生成部21から出力される目標角度指令に応じた制御電圧Vctを出力する。規定値αとオフセット値βは、検出電圧Vdによりフィードバック制御できるように制御電圧Vctを生成するために用いられる。実施形態に係る光走査素子4では、図8に示すように、制御電圧Vctとミラー部10の角度とが比例関係にあり、目標角度θに基づき、以下の式(1)に基づき制御電圧Vctを演算している。
Vct=θ×α+β ・・・(1)
なお、比較次元変換部22において、ミラー部10の目標角度と制御電圧Vctとの関係を規定する変換テーブルを内部に記憶しておき、この変換テーブルに基づき、ミラー部10の目標角度を制御電圧Vctに変換するようにしてもよい。
【0036】
減算部23は、制御電圧Vctの電圧値から検出電圧Vdの電圧値を減算して、制御電圧Vctと検出電圧Vdとの差分電圧Vsを演算し、差分電圧Vsを出力する。
【0037】
駆動信号生成部24は、差分電圧Vsに応じて電流値を増減させた駆動信号Sbを生成し、この駆動信号Sbを光走査素子4のコイル16に出力する。すなわち、差分電圧Vsが正極性の場合には、差分電圧Vsの電圧レベルに比例する値だけ電流値を上げた駆動信号Sbを生成し、差分電圧Vsが負極性の場合には、差分電圧Vsの電圧レベルに比例する値だけ電流値を下げた駆動信号Sbを生成する。この駆動信号生成部24は、例えば、差分電圧Vsを積分する積分器により構成することができる。このように差分電圧Vsに応じた電流値の駆動信号Sbにより光走査素子4を駆動してフィードバック制御するようにしており、これにより光走査素子4のミラー部10の角度変位が図3に示すように鋸波状になるようにミラー部10を精度良く揺動させている。
【0038】
このように、制御部2は、駆動信号の波形を基にした目標指令生成部21による目標角度指令(変位指令)と検出部18で検出したミラー部10の角度(変位)との誤差分を検出し、その誤差分に基づいて駆動信号Sbを補正するフィードバック制御を行うようにしている。これにより光走査素子4のミラー部10を精度良く揺動するようにしている。
【0039】
[1.4.駆動信号Sbの生成処理]
光走査素子4は、上述したように、ミラー部10が揺動軸Ly回りに揺動(図6(a)参照)して、ミラー部10の反射面10aに入射する光束を走査するものであるが、この光走査素子4は所定の周波数でミラー部10が共振する共振モードを有している。例えば、ミラー部10が反射面10aと直交する方向へ揺動する縦振動の共振モード(図6(b))や、ミラー部10が反射面10aと平行な方向へ揺動する横振動の共振モード(図6(c))がある。
【0040】
このように、光走査素子4には共振モードがあるため、光走査素子4を駆動する駆動信号Sbに光走査素子4固有の共振周波数成分が含まれている場合には、光走査素子4のミラー部10の揺動に共振周波数の成分が重畳してしまうことになる(図13参照)。
【0041】
そのため、従来の光走査装置や画像表示装置では、鋸波形信号にローパスフィルタによるフィルタリング処理を行っていた。しかし、高次のローパスフィルタを用いているために演算負荷が大きい。
【0042】
また、光束を走査する期間(以下、光束走査期間という)において、一定の角速度で高精度にミラー部10を変位させることができない。すなわち、鋸波状の駆動信号にローパスフィルタによるフィルタリング処理を行うと、図9に示すように信号波形が鈍ってしまい、光束走査期間において、一定角速度で高精度にミラー部を変位させることができなくなる。
【0043】
そこで、上記目標指令生成部21は、図10に示すように、駆動信号Sbの波形を鋸波状波形Dとし、当該鋸波状波形Dのうち、光束走査期間の波形を直線波形Daとする。一方、光束を走査しない期間(以下、リトレース期間という)の波形Dbが、その微分波形が第1周波数f1の半周期となる第1波形D1とその微分波形が第2周波数f2の半周期となる第2波形D2とを結合した波形となり、かつ、リトレース期間の波形Dbの両端部のそれぞれが、光束走査期間の波形Daの傾きと同じ傾きとなるように光束を走査しない期間の波形Dbを形成する。そして、リトレース期間の波形Db(以下、リトレース波形Dbという)の両端部のそれぞれを光束走査期間の波形Daの両端部のそれぞれに連続させるようにしている。
【0044】
ここで、第1周波数f1と第2周波数f2とは同一周波数(f1=f2)とすることもでき、異なる周波数(f1≠f2)とすることができる。
【0045】
[1.4.1 f1=f2の場合]
まず、第1周波数f1と第2周波数f2とが同一の周波数faである場合について説明する。この場合、その微分波形が周波数faの半周期となる第1波形とその微分波形が周波数faの半周期となる第2波形とを結合する。すなわち、目標指令生成部21は、一つの周波数faの1周期の微分波形を積分して、リトレース波形Dbを生成する。このとき、直線波形Daとリトレース波形Dbとの結合点は、互いの傾きが同じになるようにすることで、鋸波状波形Dに高周波成分が含まれることを抑制している。この周波数faは、以下のように、鋸波状波形Dの周期と直線波形Daとに基づいて決定されるものである。
【0046】
ここで、目標指令生成部21は、リトレース期間のリトレース波形Dbの生成を、鋸波状波形Dの周期と直線波形Daとに基づいた三角関数による演算を行い、この演算結果を積分することによって生成する。この三角関数では、直線波形Daの微分波形とリトレース波形Dbの微分波形との結合点において変曲値がゼロ、換言すれば、この結合点が極値をとるようにしている。
【0047】
具体的には、目標指令生成部21は、以下の演算式で、駆動信号Sbにおける信号レベルの微分値ω(t)(=Sb/dt)を演算する。
【数5】
ここで、
ωL:直線波形Daの信号レベルの微分値
Tch:リトレース期間の開始時点の時間
α:鋸波状波形Dのうち直線波形Daの区間の割合(%/100)
θm:駆動信号Sbの最大振幅
f:鋸波状波形Dの1周期Tの逆数
である。
【0048】
目標指令生成部21は、この微分値ω(t)の演算により、図10(b)に示す演算結果を得ることができ、この演算結果を積分することによって、図10(a)に示すように直線波形Daとリトレース波形Dbからなる駆動信号Sbを生成する。この駆動信号Sbの信号レベルの微分値ω(t)は、ミラー部10の角速度に比例するものであり、微分値ω(t)の積分値は、ミラー部10の角度の変化量を意味する。従って、光束走査期間において、鋸波状波形Dに重畳する高周波成分を低減することができ、光束走査期間において、駆動信号波形の直線性を向上させることができる。しかも、三角関数を用いた比較的簡単な演算により、駆動信号波形を生成することができるため、駆動信号波形時の演算負荷を小さくすることができる。
【0049】
[1.4.2 f1≠f2の場合]
次に、第1周波数f1と第2周波数f2とが異なる周波数である場合について説明する。この場合、目標指令生成部21は、その微分値が周波数f1の半周期となる第1波形D1とその微分値が周波数f2の半周期となる第2波形D2とを結合する。すなわち、波数f1の半周期の波形と周波数f2の半周期とを結合した波形を積分して、リトレース波形Dbを生成する。このとき、直線波形Daとリトレース波形Dbとの結合点、第1波形D1と第2波形D2との結合点は、それぞれ互いの傾きが同じになるようにすることで、鋸波状波形Dに高周波成分が含まれることを抑制している。この周波数f1,f2は、以下のように、鋸波状波形Dの周期と直線波形Daとに基づいて決定されるものである。
【0050】
ここで、目標指令生成部21は、リトレース波形Dbの生成を、鋸波状波形Dの周期と直線波形Daとに基づいた三角関数による演算を行い、この演算結果を積分することによって生成する。この三角関数では、直線波形Daの微分波形とリトレース波形Dbの微分波形との結合点において変曲値がゼロ、換言すれば、この結合点が極値をとるようにしている。
【0051】
具体的には、目標指令生成部21は、以下の演算式で、駆動信号Sbにおける信号レベルの微分値ω(t)(=Sb/dt:駆動信号Sbの微分値)を演算することで、直線波形Daと第1波形D1及び第2波形D2を演算する。
【数6】
ここで、
ωL:直線波形Daの信号レベルの微分値
Tch:リトレース期間の開始時点の時間
α:鋸波状波形Dのうち直線波形Daの区間の割合(%/100)
β:リトレース波形Dbの区間のうち第1波形D1の区間の割合(%/100)
θm:駆動信号Sbの最大振幅
f:鋸波状波形Dの1周期Tの逆数
である。
【0052】
目標指令生成部21は、この微分値ω(t)の演算により、図11(b)に示す演算結果を得ることができ、この演算結果を積分することによって、図11(a)に示すように直線波形Daとリトレース波形Dbからなる駆動信号Sbを生成する。この駆動信号Sbの信号レベルの微分値ω(t)は、ミラー部10の角速度に比例するものであり、微分値ω(t)の積分値は、ミラー部10の角度の変化量を意味する。従って、光束走査期間において、鋸波状波形Dに重畳する高周波成分を低減することができ、光束走査期間において、駆動信号波形の直線性を向上させることができる。しかも、三角関数を用いた比較的簡単な演算により、駆動信号波形を生成することができるため、駆動信号波形時の演算負荷を小さくすることができる。
【0053】
[2.画像表示装置]
次に、上述した光走査素子を備えた画像表示装置について説明する。
【0054】
図12に示すように、本実施形態に係る画像表示装置100は、制御部110、光源部120、走査部140、第2リレー光学系180、ハーフミラー185などを有している。
【0055】
制御部110は、駆動信号供給部111、主走査駆動信号生成部112、副走査駆動信号生成部113、主制御部114を有している。駆動信号供給部111は、外部から入力された画像信号S(例えば、NTSCコンポジット信号、コンポーネント信号)に基づいて、画像を形成するための要素となる三原色各色のRGB画素信号115r,115g,115bを画素単位で生成する。主走査駆動信号生成部112は、主走査部160の後述する光走査素子161が共振状態で所定走査範囲となるように、主走査部160で使用される主走査駆動信号116を生成して出力する。また、副走査駆動信号生成部113は、主走査駆動信号116の周波数に基づいて、副走査部170で使用される鋸波形状の副走査駆動信号117を生成して出力する。
【0056】
光源部120には、Rレーザドライバ121,Gレーザドライバ122,Bレーザドライバ123が設けられる。各レーザドライバ121,122,123は、それぞれ駆動信号供給部111から出力されるR,G,B駆動信号115r,115g,115bをもとに、各レーザ124,125,126へそれぞれ駆動電流を供給する。各レーザ124,125,126は、各レーザドライバ121,122,123から供給される駆動電流に応じて強度変調されたレーザ光を出射する。各レーザ124,125,126から出射したR(赤色)レーザ光Lr,G(緑色)レーザ光Lg、B(青色)レーザ光Lbは、コリメート光学系127,128,129によってそれぞれ平行光化された後に、ダイクロイックミラー130,131,132に入射される。その後、これらのダイクロイックミラー130,131,132により、3原色の各レーザ光Lr,Lg,Lbが波長選択的に反射・透過して結合光学系133に達し、合波されて光ファイバケーブル135へ出射される。このように光ファイバケーブル135へ出射されるレーザ光は、強度変調された各色のレーザ光が合波されたものである。
【0057】
走査部140は、コリメート光学系151、主走査部160、第1リレー光学系165、副走査部170などを有している。
【0058】
コリメート光学系151は、光源部120で生成され、光ファイバケーブル135を介して出射されるレーザ光を平行光化する。
【0059】
主走査部160及び副走査部170は、光ファイバケーブル135から入射されたレーザ光を画像として利用者の眼190の網膜190bに投影可能な状態にするために、主走査方向と副走査方向に走査する光学系である。主走査部160は、コリメート光学系151で平行光化されて入射するレーザ光を主走査方向に相対的に高速に往復走査する光走査素子161を有する。また、副走査部170は、主走査部160で主走査方向に走査され、第1リレー光学系165を介して入射するレーザ光を副走査方向に相対的に低速に走査する光走査素子171を有する。この副走査方向は主走査方向に略直交する方向である。例えば、主走査方向を水平方向、副走査方向を垂直方向とすることができる。
【0060】
主走査部160と副走査部170との間でレーザ光を中継する第1リレー光学系165は、光走査素子161によって主走査方向に走査されたレーザ光を光走査素子171のミラー部に収束させる。そして、このレーザ光が光走査素子171によって副走査方向に走査される。光走査素子171によって走査されたレーザ光は、正の屈折力を持つ2つのレンズ180a,180bが直列配置された第2リレー光学系180を介して、眼190の前方に位置させたハーフミラー185で反射されて利用者の瞳孔190aに入射する。これにより、網膜190b上に画像信号Sに応じた画像が投影され、利用者は瞳孔190aに入射するレーザ光を画像として認識する。また、ハーフミラー185は外光L2を透過して利用者の瞳孔190aに入射させるようにしており、これにより利用者は外光L2に基づく外景にレーザ光L1に基づく画像を重ねた画像を視認することができる。このように画像表示装置100は、画像信号Sに応じた画像と外景とを重ねて利用者の眼190の網膜に結像させる、シースルー型網膜走査型画像表示装置である。
【0061】
以上のように構成された画像表示装置100において、光走査素子171は、光走査素子4と同様の構成であり、副走査駆動信号生成部113は、上述した光走査装置1の制御部2と同様に、光走査素子171を駆動するようにしている。そのため、光束を走査する期間において、一定の角速度で高精度にミラー部10を駆動することができ、しかも、演算負荷を小さくすることができる。
【0062】
なお、ここでは、光束の一例として、効率面で有利であるレーザ光を用いているが、光束はレーザ光に限られるものではない。
【0063】
また、光走査素子のミラー部の角度を検出する検出部を、ピエゾ抵抗素子により構成しているが、圧電素子による検出方法や静電容量の変化による検出方法を用いてもよい。
【0064】
本発明を、上述してきた実施形態を通して説明したが、本実施形態によれば、両側から梁部11a,11bで支持されたミラー部10を有し、梁部11a,11bの捻れ変位によりミラー部10を揺動可能とした非共振型の光走査素子4(171)と、駆動信号Sb(117)を生成してミラー部10を揺動させる制御部2(110)と、を備え、制御部2(110)は、駆動信号Sb(117)の波形を鋸波状波形Dとし、当該鋸波状波形Dのうち、光束を走査する期間の波形を直線波形Daとする一方、光束を走査しない期間の波形Dbの微分波形が、一つの周波数の1周期の波形、又は、2つの周波数の半周期の波形を互いに結合した波形、となり、かつ、光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれが、光束を走査する期間の波形の傾きと同じ傾きとなるように光束を走査しない期間の波形を形成し、光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれを光束を走査する期間の波形の両端部のそれぞれに連続させたので、光束走査期間において、鋸波状波形Dに重畳する高周波成分を低減することができ、駆動信号波形の直線性を向上させることができる。しかも、三角関数を用いた比較的簡単な演算により駆動信号波形を生成することで、駆動信号波形時の演算負荷を小さくすることができる。
【0065】
また、ミラー部10の変位を検出する検出部18を備え、制御部2(110)は、駆動信号Sb(117)の波形を基にした変位指令と検出部18で検出したミラー部10の変位との誤差分を検出し、その誤差分に基づいて駆動信号Sb(117)を補正するフィードバック制御を行うので、光走査素子4(171)のミラー部10を精度良く揺動することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 光走査装置
2,110 制御部
4, 161,171 光走査素子
10 ミラー部
10a 反射面
100 画像表示装置
Sb 駆動信号
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側から梁部で支持されたミラー部を有し、前記梁部の捻れ変位によりミラー部を揺動可能とした非共振型の光走査素子と、駆動信号を生成して前記ミラー部を揺動させる制御部と、を備えた光走査装置において、
前記制御部は、
前記駆動信号の波形を鋸波状波形とし、当該鋸波状波形のうち、光束を走査する期間の波形を直線波形とする一方、光束を走査しない期間の波形の微分波形が、一つの周波数の1周期の波形、又は、2つの周波数の半周期の波形を互いに結合した波形、となり、かつ、当該光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれが、光束を走査する期間の波形の傾きと同じ傾きとなるように前記光束を走査しない期間の波形を形成し、前記光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれを前記光束を走査する期間の波形の両端部のそれぞれに連続させた
ことを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
前記光束を走査しない期間の波形を、一つの周波数の1周期の波形により形成しており、
ωLを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の微分値とし、Tchを前記鋸波状波形のうち光束を走査しない期間の開始時点の時間とし、αを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の区間の割合(%/100)とし、θmを前記駆動信号の最大振幅とし、fを前記鋸波状波形の1周期の逆数としたとき、前記駆動信号の微分値ω(t)は、
【数1】
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記光束を走査しない期間の波形を、2つの周波数の半周期の第1波形と第2波形を結合した波形により形成しており、
ωLを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の微分値とし、Tchを前記鋸波状波形のうち光束を走査しない期間の開始時点の時間とし、αを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の区間の割合(%/100)とし、βを前記第1波形及び第2波形の区間のうち前記第1波形の区間の割合(%/100)とし、θmを前記駆動信号の最大振幅とし、fを前記鋸波状波形の1周期の逆数としたとき、前記駆動信号の微分値ω(t)は、
【数2】
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記ミラー部の変位を検出する検出部を備え、
前記制御部は、前記駆動信号の波形を基にした変位指令と前記検出部で検出した前記ミラー部の変位との誤差分を検出し、その誤差分に基づいて駆動信号を補正するフィードバック制御を行う
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光走査装置。
【請求項5】
画像信号に応じた強度の光束を出射する光源と、
前記光源から出射された光束を第1方向に相対的に高速に走査する第1光走査素子と、
両側から梁部で支持されたミラー部を有し、前記梁部の捻れ変位によりミラー部を揺動軸回りに揺動させて前記第1走査素子により走査された光束を前記ミラー部により第1方向と略直交する第2方向に相対的に低速に走査する非共振型の第2光走査素子と、
前記第1及び第2の光走査素子を制御する制御部と、を備えた画像表示装置において、
前記制御部は、
前記第2の光走査素子のミラー部を揺動させる駆動信号の波形を鋸波状波形とし、当該鋸波状波形のうち、光束を走査する期間の波形を直線波形とする一方、光束を走査しない期間の波形の微分波形が、一つの周波数の1周期の波形、又は、2つの周波数の半周期の波形を互いに結合した波形、となり、かつ、当該光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれが、光束を走査する期間の波形の傾きと同じ傾きとなるように前記光束を走査しない期間の波形を形成し、前記光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれを前記光束を走査する期間の波形の両端部のそれぞれに連続させた
ことを特徴とする画像表示装置。
【請求項1】
両側から梁部で支持されたミラー部を有し、前記梁部の捻れ変位によりミラー部を揺動可能とした非共振型の光走査素子と、駆動信号を生成して前記ミラー部を揺動させる制御部と、を備えた光走査装置において、
前記制御部は、
前記駆動信号の波形を鋸波状波形とし、当該鋸波状波形のうち、光束を走査する期間の波形を直線波形とする一方、光束を走査しない期間の波形の微分波形が、一つの周波数の1周期の波形、又は、2つの周波数の半周期の波形を互いに結合した波形、となり、かつ、当該光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれが、光束を走査する期間の波形の傾きと同じ傾きとなるように前記光束を走査しない期間の波形を形成し、前記光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれを前記光束を走査する期間の波形の両端部のそれぞれに連続させた
ことを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
前記光束を走査しない期間の波形を、一つの周波数の1周期の波形により形成しており、
ωLを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の微分値とし、Tchを前記鋸波状波形のうち光束を走査しない期間の開始時点の時間とし、αを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の区間の割合(%/100)とし、θmを前記駆動信号の最大振幅とし、fを前記鋸波状波形の1周期の逆数としたとき、前記駆動信号の微分値ω(t)は、
【数1】
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記光束を走査しない期間の波形を、2つの周波数の半周期の第1波形と第2波形を結合した波形により形成しており、
ωLを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の微分値とし、Tchを前記鋸波状波形のうち光束を走査しない期間の開始時点の時間とし、αを前記鋸波状波形のうち前記直線波形の区間の割合(%/100)とし、βを前記第1波形及び第2波形の区間のうち前記第1波形の区間の割合(%/100)とし、θmを前記駆動信号の最大振幅とし、fを前記鋸波状波形の1周期の逆数としたとき、前記駆動信号の微分値ω(t)は、
【数2】
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記ミラー部の変位を検出する検出部を備え、
前記制御部は、前記駆動信号の波形を基にした変位指令と前記検出部で検出した前記ミラー部の変位との誤差分を検出し、その誤差分に基づいて駆動信号を補正するフィードバック制御を行う
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光走査装置。
【請求項5】
画像信号に応じた強度の光束を出射する光源と、
前記光源から出射された光束を第1方向に相対的に高速に走査する第1光走査素子と、
両側から梁部で支持されたミラー部を有し、前記梁部の捻れ変位によりミラー部を揺動軸回りに揺動させて前記第1走査素子により走査された光束を前記ミラー部により第1方向と略直交する第2方向に相対的に低速に走査する非共振型の第2光走査素子と、
前記第1及び第2の光走査素子を制御する制御部と、を備えた画像表示装置において、
前記制御部は、
前記第2の光走査素子のミラー部を揺動させる駆動信号の波形を鋸波状波形とし、当該鋸波状波形のうち、光束を走査する期間の波形を直線波形とする一方、光束を走査しない期間の波形の微分波形が、一つの周波数の1周期の波形、又は、2つの周波数の半周期の波形を互いに結合した波形、となり、かつ、当該光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれが、光束を走査する期間の波形の傾きと同じ傾きとなるように前記光束を走査しない期間の波形を形成し、前記光束を走査しない期間の波形の両端部のそれぞれを前記光束を走査する期間の波形の両端部のそれぞれに連続させた
ことを特徴とする画像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−215324(P2011−215324A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82615(P2010−82615)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
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