説明

光通信システム及び光通信システムの製造方法

【課題】光クロストークが十分に抑制された高い通信品質の一芯双方向光通信が可能な、低コストかつ小型の光通信システム及び光通信システムの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、光ファイバ101を介して光送受信モジュール102及び光送受信モジュール103が接続されている。光送受信モジュール102はVCSEL104及びPD105を有し、光送受信モジュール103はVCSEL106及びPD107を有する。VCSEL104及びVCSEL106はDBR112を有する。VCSEL104のDBR112では、VCSEL104で発生する信号光は反射され、VCSEL106から入射する信号光は透過してPD105に入射する。VCSEL106のDBR112では、VCSEL106で発生する信号光は反射され、VCSEL104から入射する信号光は透過してPD107に入射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システム及び光通信システムの製造方法に関し、特に一芯双方向の光通信に適用される光通信システム及び光送受信システムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信は、伝送路である光ファイバでの損失及び信号歪が小さいので、長距離かつ高速通信が可能である。そのため、現在の情報通信システムを支える基幹通信網において、光通信は広く用いられている。また、光ファイバは電気ケーブルに比べて細径かつ軽量であり、さらに電磁波の放射が無いという特長を有する。よって、近年、携帯電話内や車載ネットワークなどのような、配線の省スペース化や他の電子機器への影響の抑制が求められる用途への適用が検討されている。こうした用途においては、省スペース化及び低コスト化のため、一芯の光ファイバを用いた双方向の光通信(以下、一芯双方向光通信と表記)を行うことが望まれている。この一芯双方向光通信を実現する方法として、幾つかの方式が提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、2波長を用いた光通信システムが提案されている。図11は、非特許文献1に開示されている光通信システム500の構成を模式的に示す平面図である。光通信システム500は、一芯双方向光通信モジュール502と一芯双方向光通信モジュール503とが光ファイバ501を介して接続されている。一芯双方向光通信モジュール502は、発振波長850nmの面発光レーザ(以下VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)504が合分波器510に光学的に接続されている。また、フォトダイオード(以下PD:Photo Diode)505が、光カットフィルタ508を介して合分波器510と光学的に接続されている。一芯双方向光通信モジュール503は、発振波長805nmのVCSEL506が合分波器511に光学的に接続されている。また、PD207が、光カットフィルタ509を介して合分波器510と光学的に接続されている。この光通信システム500では、光路520に示す経路で光が往還する。
【0004】
ところで、一芯双方向光通信においては、一般に光クロストークを低減することが重要となる。これは、例えば、VCSEL504からの信号光の一部が光ファイバ501の端面で反射され、その反射光が、例えばPD505などの受光器に入射することによって生じる。この反射光は光ファイバからの光信号に対する雑音となり、伝送品質が劣化するためである。
【0005】
光通信システム500では、波長選択性を有する光カットフィルタ508及び光カットフィルタ509が、それぞれPD505及びPD507の前に設けられている。光カットフィルタ508は波長850nmの光の透過を阻止する。また、光カットフィルタ509は波長805nmの光の透過を阻止する。すなわち、これらの光カットフィルタは、光ファイバからの入射光は通過させるが、同じモジュール内のVCSELからの光は反射する。これにより、光クロストークを防ぐことが可能である。
【0006】
この他にも、2波長を用いた光通信システムが特許文献1〜3に開示されている。
【0007】
一方、非特許文献2では、1波長のみで一芯双方向光通信を行うシステムが提案されている。本構成によれば、光フィルタや光導波路による合分波器を用いないため、小型で安価なモジュールを実現できるとしている。本構成では、光クロストークを防ぐために、VCSELから光ファイバへの入射光に角度をつけている。すなわち、光ファイバからPDに入射する光の光軸と、VCSELから光ファイバに入射する光の光軸をずらすことにより、光ファイバ端面で反射された光がPDに入る割合を減少させ、光クロストークの低減を図っている。
【0008】
また、特許文献4には、電磁結合に起因する送受信間のクロストークを低減する、光通信システムに用いられる送受信フォトニックICが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−191125号公報
【特許文献2】特開平11−305078号公報
【特許文献3】特開2004−200366号公報
【特許文献4】特開平11−4046号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】田中聡、外2名、「組付けの簡易化を図った一芯双方向光通信モジュール」、電子情報通信学会総合大会、2008年、C−3−85
【非特許文献2】川合裕輝、外3名、「フィルタレス一芯双方向光通信モジュール」、電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ大会、2008年、C−3−6
【非特許文献3】Connie J. Chang-Hasnain et al., "High-Contrast Grating VCSELs", IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS, 2009, vol.15, no.3, p869-878.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1で提案された光通信システムは、コストの高い光フィルタ及び光合分波器を使用しなければならない。そのため、システム全体のコストが高く、また小型化が難しいという欠点がある。
【0012】
特許文献1及び特許文献4では、各モジュールが送信および受信する光の波長の大小関係に応じて、光ファイバ、LD(Laser Diode)及びPDの配置を変更する必要がある。そのため、光ファイバの両端でそれぞれ異なる構成の光送受信モジュールや送受信フォトニックICを用意しなくてはならないので、コスト増加に繋がる。
【0013】
特許文献2及び特許文献3でも、上記と同様に光ファイバ両端でモジュール構成を変える必要がある。光ファイバとPDとの間にLDを配置した光送受信モジュールにおいて、LDの発振波長をλ1、PDの受光波長をλ2とすると、λ1<λ2である場合には、入射した波長λ2の光は、LDを透過してPDに到達する。これに対し、λ1>λ2である場合には、入射した波長λ2の光は、LDで吸収されてしまい、PDには十分に到達しない。よって、後者の場合には光送受信モジュールとしては機能しなくなるため、構成の変更が必要となる。
【0014】
非特許文献2で提案された光通信システムは、光フィルタ及び光合分波器などの高コスト部材を使用しておらず、小型化も可能である。しかし、本構成では、光クロストーク抑制が十分ではないという欠点がある。すなわち、VCSELから光ファイバへの入射光の角度を大きくするほど光クロストークは抑制できるものの、VCSELから光ファイバへの光結合効率は低くなる。つまり、光クロストーク抑制と光結合効率向上とはトレードオフの関係である。そのため、光通信システムにおいては、一定以上の光結合効率が必要となるため、の光クロストークを十分に抑制することが出来ない。従って、本構成では、送信側のVCSELをONした場合、OFFの場合に比べて大きなパワーペナルティが生じる。
【0015】
よって、上述のいずれの構成によっても、光クロストークを十分に抑制して高い通信品質を確保しつつ、低コスト化及び小型化を実現できる光通信システムを得ることはできない。
【0016】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、光クロストークが十分に抑制された高い通信品質での一芯双方向光通信が可能な、低コストかつ小型の光通信システム及び光通信システムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様である光通信システムは、第1の信号光を送信し、前記第1の信号光とは異なる波長の第2の信号光を受信する第1の光送受信モジュールと、前記第2の信号光を送信し、前記第1の信号光を受信する第2の光送受信モジュールと、前記第1の光送受信モジュールと前記第2の光送受信モジュールとを光学的に接続する単一の光導波路と、を備え、前記第1の光送受信モジュールは、前記第2の信号光を受光する第1の受光素子と、前記光導波路と前記第1の受光素子との間に配置され、前記第1の信号光が出射される第1の発光素子と、を備え、前記第2の光送受信モジュールは、前記第1の信号光を受光する第2の受光素子と、前記光導波路と前記第2の受光素子との間に配置され、前記第2の信号光が出射される第2の発光素子と、を備え、前記第1の発光素子は、前記第1の信号光を反射し、前記第2の信号光を透過させる第1の反射鏡を備え、前記第2の発光素子は、前記第2の信号光を反射し、前記第1の信号光を透過させる第2の反射鏡を備え、前記第1の受光素子は、前記第1の反射鏡を介して前記第2の信号光を受光し、前記第2の受光素子は、前記第2の反射鏡を介して前記第1の信号光を受光するものである。
【0018】
本発明の一態様である光通信システムの製造方法は、第1の信号光が出射される第1の発光素子と、前記第1の信号光と波長の異なる第2の信号光を受光する第1の受光素子と、を第1の光送受信モジュールに搭載する工程と、前記第2の信号光が出射される第2の発光素子と、前記第1の信号光を受光する第2の受光素子と、を第2の光送受信モジュールに搭載する工程と、前記第1の光送受信モジュールと前記第2の光送受信モジュールとを単一の光導波路で光学的に接続する工程と、を備え、前記第1の発光素子は、前記第1の信号光を反射し、前記第2の信号光を透過させる第1の反射鏡を備え、前記第2の発光素子は、前記第2の信号光を反射し、前記第1の信号光を透過させる第2の反射鏡を備え、前記第1の受光素子は、前記第1の反射鏡を介して前記第2の信号光を受光し、前記第2の受光素子は、前記第2の反射鏡を介して前記第1の信号光を受光するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光クロストークが十分に抑制された高い通信品質での一芯双方向光通信が可能な、低コストかつ小型の光通信システム及び光通信システムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1にかかる光通信システムの構成を示す平面図である。
【図2】実施の形態1にかかるVCSELの構造を示す断面図である。
【図3A】実施の形態1にかかるVCSELのDBRにおける反射率の波長依存性を示すグラフである。
【図3B】実施の形態1にかかるVCSELのDBRにおける反射率の波長依存性を示すグラフである。
【図4】実施の形態2にかかる光通信システムの構成を示す平面図である。
【図5】実施の形態2にかかるVCSELの構造を示す断面図である
【図6】実施の形態2にかかる光送受信モジュールの構造を示す断面図である。
【図7】実施の形態2にかかるPDの斜視図である。
【図8】実施の形態3にかかる光通信システムの構成を示す平面図である。
【図9】実施の形態3にかかる光通信システムの変形例の構成を示す平面図である。
【図10】実施の形態4にかかるVCSELのDBRにおける反射率の波長依存性を示すグラフである。
【図11】非特許文献1にかかる光通信システムの構成を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。以下では、同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明については省略する。
【0022】
実施の形態1
まず、実施の形態1にかかる光通信システムの構成について説明する。図1は、本実施の形態にかかる光通信システム100の構成を示す平面図である。図1に示すように、単一かつ一芯の光ファイバ101の両端を介して、光送受信モジュール102及び光送受信モジュール103が光学的に接続されている。光送受信モジュール102は、VCSEL104及びPD105を有する。光送受信モジュール103は、VCSEL106及びPD107を有する。ここで、VCSEL104で発生する信号光の発振波長は980nmであり、VCSEL106で発生する信号光の発振波長は910nmである。ここで、光ファイバ101は、マルチモード型の光ファイバを使用している。
【0023】
続いて、VCSELの構造について説明する。図2は、VCSEL104の構造を示す断面図である。なお、VCSEL104とVCSEL106とは、信号光の発振波長の違いに対応して僅かに各層の厚さなどが異なるものの、基本的な構造は同じであるので、以下のVCSEL104についての説明をもってVCSEL106の説明を兼ねる。
【0024】
VCSEL104は、半導体基板111上にDBR(Distributed Bragg Reflector)112及び活性層を含む共振部113が順に形成されている。共振部113の上部には、酸化層からなる電流狭窄層116が形成されている。その上には、DBR114が形成されている。共振部113、電流狭窄層116及びDBR114は、半径約20μmの円筒状のメサ型構造115として成形されている。メサ型構造115の上部には、電極である金属膜117が形成されている。また、露出したDBR112上の一部には、電極118が形成されている。
【0025】
鏡面研磨された半導体基板111の下面には、反射防止膜119が形成されている。反射防止膜119は、VCSEL104から出射される波長980nmの信号光およびVCSEL106から出射される波長910nmの信号光のいずれに対しても反射率が低くなるように形成される。同様に、VCSEL106における反射防止膜119も、波長910nmおよび980nmのいずれの光に対しても反射率が低くなるように形成される。
【0026】
VCSEL104及びVCSEL106は、電流狭窄層116近傍の活性層でレーザ光が発生し、そのレーザ光は半導体基板111の下面側から信号光として出射される。すなわち、VCSEL104及びVCSEL106は、いわゆる裏面出射型の素子である。
【0027】
続いて、光通信システム100の製造方法について説明する。まず、光送受信モジュール102にVCSEL104及びPD105を搭載し、光送受信モジュール103にVCSEL106及びPD107を搭載する。そして、光ファイバ101により、光送受信モジュール102と光送受信モジュール103とを光学的接続して、光通信システム100が作製される。
【0028】
続いて、光通信システム100における光クロストーク抑制の原理について説明する。図3Aは、VCSEL104のDBR112における反射率の波長依存性を示すグラフである。VCSEL104のDBR112では、図3Aに示すように、VCSEL104の発振波長である980nmはストップバンド内に入っており、99%以上の高い反射率を有している。一方、VCSEL106の発振波長である910nmはストップバンドの外にあるので、その反射率は低い。このため、DBR112は光フィルタとして機能する。
【0029】
図1に示すように、光通信システム100では、光ファイバ101、VCSEL104、PD105が直列に配置されている。よって、VCSEL104から出射された信号光は、マルチモード型の光ファイバ101を通じて光送受信モジュール103に入射する。光ファイバ101はマルチモード型の光ファイバであるので、光ファイバ101から出射される信号光のビーム径は大きくなり、ビーム径範囲はメサ型構造115よりも大きくなる。よって、光ファイバ101から出射される信号光の一部は金属膜117に遮られることなく、VCSEL104のDBR112にも直接入射することができる。これは、例えばシングルモード型の光ファイバの使用を前提としている特許文献2の光送受信モジュールまたは特許文献4に記載の送受信フォトニックICでは実現できない、本発明特有の効果である。
【0030】
一方、VCSEL104から出射された信号光の一部は光ファイバ101の光送受信モジュール103側の端面で反射されて、光送受信モジュール102側への戻り光となり、VCSEL104に照射される。この戻り光の波長は980nmであるので、VCSEL104のDBR層112で反射され、PD105には到達しない。一方、光送受信モジュール103のVCSEL106から出射された信号光は、光ファイバ101を通じて光送受信モジュール102に入射する。この信号光の波長は910nmであるので、VCSEL104のDBR層112を通過して、PD105に入射する。
【0031】
つまり、VCSEL104のDBR層112は光フィルタとして機能し、VCSEL104から出射された信号光に起因する戻り光の大部分の入射を阻止し、通信相手である光送受信モジュール103のVCSEL106から出射された信号光の大部分を通過させる。これにより、光クロストークを抑制することが可能となる。
【0032】
さらに、光送受信モジュール102は金属膜117が形成されていることにより、VCSEL104の活性層で発生した波長980nmのレーザ光が、DBR114を通してPD105に入射することを防止している。このため、VCSEL104からPD105へ信号光が直接的に入射することによって生じる光クロストークも併せて抑制することができる。
【0033】
他方、VCSEL106も、VCSEL104と同様の機能を有する。図3Bは、VCSEL106のDBR112における反射率の波長依存性を示すグラフである。VCSEL106のDBR112では、図3Bに示すように、VCSEL106の発振波長である910nmはストップバンド内に入っており、99%以上の高い反射率を有している。一方、VCSEL104の発振波長である980nmはストップバンドの外にあり、その反射率は低い。
【0034】
従って、VCSEL106はVCSEL104と同様に、光クロストークを抑制することができる。
【0035】
以上より、本構成によれば、合分波器などを用いることなく、光クロストークを抑制することができる。従って、本構成によれば、光クロストークを抑制できる、小型、低コストの光通信システムを実現できる。
【0036】
実施の形態2
次に、実施の形態2にかかる光通信システムの構成について説明する。図4は、本実施の形態にかかる光通信システム200の構成を示す図である。光通信システム200は、単一かつ一芯の光ファイバ201を介して、光送受信モジュール202及び光送受信モジュール203が光学的に接続されている。光送受信モジュール202は、VCSEL204及びPD205を有する。光送受信モジュール203は、VCSEL206及びPD207を有する。ここで、VCSEL204で発生する信号光の発振波長は980nmであり、VCSEL206で発生する信号光の発振波長は910nmである。光ファイバ201は、光ファイバ101と同様に、マルチモード型の光ファイバである。
【0037】
続いて、VCSELの構造について説明する。図5は、VCSEL204の構造を示す断面図である。なお、VCSEL204とVCSEL206とは、発振波長の違いに対応して僅かに各層の厚さなどが異なるものの、基本的な構造は同じであるので、以下のVCSEL204についての説明をもってVCSEL206の説明を兼ねる。なお、以下では、VCSEL204とVCSEL104との相違点についてのみ説明する。
【0038】
VCSEL204は、メサ型構造115の上部に、リング状の電極217が形成されている。また、メサ型構造115とは離隔して、メサ型構造215が形成されている。さらに、メサ型構造215を覆う、誘電体膜219が形成されている。誘電体膜219上には、パッド電極220が形成されている。露出したDBR112上の一部には、電極218が形成されている。電極218は、パッド電極220と接続されている。その他の構成は、図2に示すVCSEL104と同様であるので、説明を省略する。
【0039】
VCSEL204は、電流狭窄層116近傍の活性層でレーザ光が発生し、そのレーザ光は電極217の内側を通って信号光として出射される。すなわち、VCSEL204は、いわゆる表面出射型の素子として構成されている。
【0040】
続いて、光通信システム200の製造方法について説明する。まず、光送受信モジュール202にVCSEL204及びPD205を搭載し、光送受信モジュール203にVCSEL206及びPD207を搭載する。そして、光ファイバ201により、光送受信モジュール202と光送受信モジュール203とを光学的接続して、光通信システム200が作製される。
【0041】
続いて、光送受信モジュールの構成について、光送受信モジュール202を例として説明する。図6は、光送受信モジュール202の構成を示す断面図である。図6に示すように、光送受信モジュール202は、シリコンからなるPD205上にVCSEL204が実装されている。
【0042】
図7は、PD205を上面側から見た斜視図である。PD205は、n型の半導体基板231上の一部に、p型ドーパントの拡散により、ドーナツ状のp型の拡散領域232が形成されている。これにより形成されるpn接合部分がPD205の受光部として機能する。拡散領域232に囲まれた部分の半導体基板231には、VCSEL204のDBR112を通じて、信号光が入射する。この部分では、シリコンにより光が吸収されるものの、pn接合を有しないので、吸収された信号光は電気信号として取り出されることはない。このため、VCSELからPDへ信号光が直接入射することにより発生する光クロストークを回避することが可能となる。光送受信モジュール203も光送受信モジュール202と同様の構成を有し、同じくVCSELからPDへ信号光が直接入射することにより発生する光クロストークを回避することができる。
【0043】
本実施の形態では、光ファイバから出射される光の一部は、メサ構造115の内部を通ってPD205の受光部に到達するが、その際に活性層を含む共振部113を通過する。したがって、VCSELの発光波長よりもファイバから入射される光の波長が短い場合、光の吸収が生じることとなる。光送受信モジュール202では、VCSEL204の発光波長が980nm、PD205の受信波長が910nmであるため、光送受信モジュールから出射された波長910nmの信号光が、VCSEL204の活性層を含む共振部を通過する際に、活性層に吸収される。しかしながら、VCSEL104は面発光型の発光素子であるので、活性層の厚みは僅か数十nm程度でしかない。従って、数百μmの共振器長を有する端面発光型の発光素子を用いる場合と比べて、活性層における信号光の吸収は著しく小さく、その影響はほとんど無い。
【0044】
実施の形態3
次に、実施の形態3にかかる光通信システムの構成について説明する。図8は、本実施の形態にかかる光通信システム300の構成を示す平面図である。光通信システム300は、単一かつ一芯の光ファイバ301を介して、光送受信モジュール302及び光送受信モジュール303が光学的に接続されている。光送受信モジュール302は、VCSEL304及びPD305を有する。光送受信モジュール303は、VCSEL306及びPD307を有する。ここで、VCSEL304で発生する信号光の発振波長は980nmであり、VCSEL306で発生する信号光の発振波長は910nmである。光ファイバ301は、光ファイバ101と同様に、マルチモード型の光ファイバである。
【0045】
光送受信モジュール302では、VCSEL304の光軸からPD305の受光部が外れるように配置されている。よって、PD305には、VCSEL304から直接光が入射することを防止できる。これにより、実施の形態1にかかるVCSEL104のようにメサ型構造の上部に金属膜を設ける必要が無い。また、実施の形態2にかかるPD205のように、ドーナツ状の拡散領域を形成する必要はなく、例えば円形の拡散領域を有する通常のPDを使用することができる。これは、光モジュール303でも同様である。
【0046】
続いて、光通信システム300の製造方法について説明する。まず、光送受信モジュール302にVCSEL304及びPD305を搭載し、光送受信モジュール303にVCSEL306及びPD307を搭載する。そして、光ファイバ301により、光送受信モジュール302と光送受信モジュール303とを光学的接続して、光通信システム300が作製される。
【0047】
また、本構成において、光ファイバとVCSELとの間に、さらに光結合用のレンズを配置することも可能である。図9は本実施の形態にかかる光通信システム300の変形例である、光通信システム310の構成を示す平面図である。
【0048】
図9に示すように、光通信システム310は、光送受信モジュール312及び光送受信モジュール313を有する。光送受信モジュール312は、光ファイバ301とVCSEL304との間に、光結合用のレンズ308が配置されている。光送受信モジュール313は、光ファイバ301とVCSEL306との間に、光結合用のレンズ309が配置されている。
【0049】
光送受信モジュール312では、光ファイバ301、レンズ308、VCSEL304及びPD305は、一直線上に並ばないように配置されている。光送受信モジュール313では、光ファイバ301、レンズ309、VCSEL306及びPD307は、一直線上に並ばないように配置されている。
【0050】
光通信システム310では、光通信システム301と同様に、VCSEL304の光軸からPD305の受光部が外れるように配置されている。よって、PD305には、VCSEL304から直接光が入射することを防止できる。これにより、実施の形態1にかかるVCSEL104のようにメサ型構造の上部に金属膜を設ける必要が無い。また、実施の形態2にかかるPD205のように、ドーナツ状の拡散領域を形成する必要はなく、例えば円形の拡散領域を有する通常のPDを使用することができる。これは、光モジュール313でも同様である。
【0051】
従って、本構成によれば、より簡易に光クロストークを抑制できる、小型、低コストの光通信システムを実現できる。
【0052】
実施の形態4
次に、実施の形態4にかかる光通信システムの構成について説明する。光通信システム400は、基本的な構成は実施の形態2と同様であり、VCSELの構造も実施の形態2と同様である。ただし、本実施の形態では、DBR112のストップバンドの中心波長と、DBR114のストップバンドの中心波長と、が異なる点が実施の形態2と相違する。
【0053】
図10は、本実施の形態におけるVCSEL204のDBR112の反射スペクトル401と、VCSEL204のDBR114の反射スペクトル402を示すグラフである。図10に示すように、DBR114はDBR112と比べて、ストップバンドの中心波長が短い。そのため、DBR114では、980nmのみでなく、910nmもストップバンド内に入っている。よって、光ファイバ201から光送受信モジュール202へ入射する910nmの信号光は、DBR114で大部分が反射され、VCSEL204の活性層内に結合する光量は著しく減少する。一方、DBR112では、980nmはストップバンドに入っているものの、910nmはストップバンドの外である。
【0054】
従って、光ファイバ201から光送受信モジュール202へ入射する910nmの信号光の多くはDBR112を通過して、PDに入射することとなる。これは、光送受信モジュール203においても、各DBRの反射スペクトルの設定により、同様の効果を得ることができる。
【0055】
すなわち、本実施の形態では、光ファイバから出射される光が、VCSELに光結合する割合が著しく低減される。一般にレーザ内に外部からの光が結合すると、それによって発振状態が影響を受ける。外部からの光の偏光方向、各モードへの結合効率などはレーザ側で制御できないので、前記の影響はランダムなものとなり、ノイズを発生することとなる。本実施の形態では、ファイバからVCSELに結合する光が低減されるため、このようなノイズが抑制される。
【0056】
その他の実施の形態
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、実施の形態1〜4ではVCSELを光源として用いているが、光源はVCSELに限られず、反射率もしくは吸収率に波長選択性のある層を有するものであれば、他の光源を用いても良い。例えば、RCLED(Resonant Cavity Light Emitting Diode)などを用いてもよい。
【0057】
また、実施の形態1〜4では、DBRを反射鏡として用いる場合について説明したが、例えば、非特許文献3に示されるようなHCG(High Contrast Grating)などの、他の反射鏡を用いてもよい。
【0058】
さらに、実施の形態1〜4では、光伝送媒体にマルチモード型の光ファイバを用いる場合について説明したが、例えばマルチモード型のプレーナ光導波路などの、他の一般的なマルチモード型の光導波路を用いてもよい。
【0059】
また、光ファイバおよび光導波路は必ずしもマルチモード型に限られない。例えば、シングルモード型の光ファイバを用いても、ファイバ端面に対してやや斜めから光を入射したり、ビームウエストをファイバ端面からずらしたりすることにより、同じモジュール内のVCSELから直接PDに光が入射することを防止しつつも、ファイバからの光の少なくとも一部をPDへ入射することは可能である。ただし、このような方法ではVCSELからの信号光がファイバへ結合する割合が低下することが避けられない。また、各部材を配置するにあたっての位置トレランスも小さくなる。したがって、マルチモード型の光ファイバが好適となる。
【0060】
実施の形態2では、ドーナツ状の拡散領域を設けることでPDの中央部分が入射光に対する光応答性を有しない構成としているが、例えば、円形に形成された拡散領域の中央部分に金属膜を形成して光を遮断することにより、光応答性を有しない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0061】
100、200、300、310、400、500 光通信システム
101、201、301、501 光ファイバ
102、103、202、203、302、303 光送受信モジュール
104、106、204、206、304、306、504、506 VCSEL
105、107、205、207、305、307、505,507 PD
111 半導体基板
112、114 DBR
113 共振部
115、215 メサ型構造
116 電流狭窄層
117 金属膜
118、217、218 電極
119 反射防止膜
219 誘電体膜
220 パッド電極
231 n型半導体基板
232 拡散領域
308、309 レンズ
401、402 反射スペクトル
502、503 一芯双方向光通信モジュール
508、509 光カットフィルタ
510、511 合分波器
520 光路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の信号光を送信し、前記第1の信号光とは異なる波長の第2の信号光を受信する第1の光送受信モジュールと、
前記第2の信号光を送信し、前記第1の信号光を受信する第2の光送受信モジュールと、
前記第1の光送受信モジュールと前記第2の光送受信モジュールとを光学的に接続する単一の光導波路と、を備え、
前記第1の光送受信モジュールは、
前記第2の信号光を受光する第1の受光素子と、
前記光導波路と前記第1の受光素子との間に配置され、前記第1の信号光が出射される第1の発光素子と、を備え、
前記第2の光送受信モジュールは、
前記第1の信号光を受光する第2の受光素子と、
前記光導波路と前記第2の受光素子との間に配置され、前記第2の信号光が出射される第2の発光素子と、を備え、
前記第1の発光素子は、前記第1の信号光を反射し、前記第2の信号光を透過させる第1の反射鏡を備え、
前記第2の発光素子は、前記第2の信号光を反射し、前記第1の信号光を透過させる第2の反射鏡を備え、
前記第1の受光素子は、前記第1の反射鏡を介して前記第2の信号光を受光し、
前記第2の受光素子は、前記第2の反射鏡を介して前記第1の信号光を受光する、光通信システム。
【請求項2】
前記単一の光導波路はマルチモード型である、
請求項1に記載の光通信システム。
【請求項3】
前記第1の発光素子及び前記第2の発光素子は面型発光素子である、
請求項1または2に記載の光通信システム。
【請求項4】
前記単一の光導波路は単芯かつ一本の光ファイバである、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光通信システム。
【請求項5】
前記第1の反射鏡及び前記第2の反射鏡はストップバンドを有し、
前記第2の信号光の波長は、前記第1の反射鏡のストップバンドの外側に位置し、
前記第1の信号光の波長は、前記第2の反射鏡のストップバンドの外側に位置する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光通信システム。
【請求項6】
前記第1の発光素子は、前記光導波路と前記第1の反射鏡との間に配置され、ストップバンドを有する第3の反射膜を更に備え、
前記第2の発光素子は、前記光導波路と前記第2の反射鏡との間に配置され、ストップバンドを有する第4の反射膜を更に備え、
前記第3の反射鏡のストップバンド中心波長は、前記第1の反射鏡のストップバンド中心波長よりも、前記第2の信号光の波長に近く、
前記第4の反射鏡のストップバンド中心波長は、前記第2の反射鏡のストップバンド中心波長よりも、前記第1の信号光の波長に近い、
請求項5に記載の光通信システム。
【請求項7】
前記第1の受光素子は、当該第1の受光素子の表面上に形成され、前記第1の発光素子から出射される前記第1の信号光を反射する反射膜を備え、
前記第2の受光素子は、当該第2の受光素子の表面上に形成され、前記第2の発光素子から出射される前記第2の信号光を反射する反射膜を備える、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光通信システム。
【請求項8】
前記第1の受光素子は、当該第1の受光素子の表面上に形成され、前記第1の発光素子から出射される前記第1の信号光を吸収する吸収膜を備え、
前記第2の受光素子は、当該第2の受光素子の表面上に形成され、前記第2の発光素子から出射される前記第2の信号光を吸収する吸収膜を備える、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光通信システム。
【請求項9】
前記第1の受光素子において、前記第1の発光素子から出射される前記第1の信号光が入射する部分は光応答性を有さず、
前記第2の受光素子において、前記第2の発光素子から出射される前記第2の信号光が入射する部分は光応答性を有さない、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光通信システム。
【請求項10】
前記第1の受光素子は、前記第1の発光素子から出射される前記第1の信号光が、当該第1の受光素子の受光部の中央に入射することのないように配置され、
前記第2の受光素子は、前記第2の発光素子から出射される前記第2の信号光が、当該第2の受光素子の受光部の中央に入射することのないように配置される、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光通信システム。
【請求項11】
前記第1の受光素子および前記第2の受光素子はシリコンからなる、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光通信システム。
【請求項12】
前記第1の発光素子および前記第2の発光素子の発光波長は870nm以上1100nm以下である、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光通信システム。
【請求項13】
第1の信号光が出射される第1の発光素子と、前記第1の信号光と波長の異なる第2の信号光を受光する第1の受光素子と、を第1の光送受信モジュールに搭載する工程と、
前記第2の信号光が出射される第2の発光素子と、前記第1の信号光を受光する第2の受光素子と、を第2の光送受信モジュールに搭載する工程と、
前記第1の光送受信モジュールと前記第2の光送受信モジュールとを単一の光導波路で光学的に接続する工程と、を備え、
前記第1の発光素子は、前記第1の信号光を反射し、前記第2の信号光を透過させる第1の反射鏡を備え、
前記第2の発光素子は、前記第2の信号光を反射し、前記第1の信号光を透過させる第2の反射鏡を備え、
前記第1の受光素子は、前記第1の反射鏡を介して前記第2の信号光を受光し、
前記第2の受光素子は、前記第2の反射鏡を介して前記第1の信号光を受光する、光通信システムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−53520(P2011−53520A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203498(P2009−203498)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】